説明

熱転写記録媒体

【課題】耐久性のあるプラスチックフィルムなどの被転写媒体にも比較的低い印加エネルギーで良好な熱転写が行え、さらに印字されたものが十分な機械的耐擦性、耐溶剤性などを有する印字物を得ること。
【解決手段】支持体上に少なくとも着色剤と熱可塑性樹脂を含む熱転写インク層を設けてなる熱転写記録媒体であって、該熱可塑性樹脂が特定の軟化温度、特定の塩素含有率を有する高塩素化ポリオレフィンを含有することを特徴とする熱転写記録媒体とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーマルヘッドプリンタなどの熱源で、支持体上の熱転写インク層を被転写媒体に転写し、画像を形成するための熱転写記録媒体に関するものであり、特にプラスチックフィルムなどの被転写媒体上に比較的低い印加エネルギーで良好に転写することができ、かつ、転写された画像が機械的な摩擦に対する耐擦性および耐溶剤性などに優れた熱転写記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーマルヘッドを用いた熱転写記録方式は、ラベルプリンタ、発券機、ワードプロッセッサー等さまざまな用途に使用されるようになってきている。これらの用途拡大にともない印字物を使用する環境が、従来使用されていた環境よりも過酷な環境で使用されるようになってきている。
【0003】
また、印字物がより過酷な環境下で使用されることにともない、被転写媒体も従来の紙などから、より環境依存性の少ないプラスチックフィルムなどへの使用が拡大されている。例えば、被転写媒体がプラスチックフィルムなどのように熱転写インクが浸み込まないような特殊なものになると、従来のワックスを中心とする熱転写インク組成のリボンでは、熱転写インクが転写時に浸透しないため、良好な転写ができなかったり、転写はするものの印字物が簡単な擦過でとれてしまい、必要なだけの機械的な耐擦性を満足していないなどの問題点が生じていた。
【0004】
プリンタに使用されるサーマルヘッドなども多種多様なものが使用され、また、印字速度の高速化、ドット密度の高密度化なども図られ、使用される熱転写記録媒体にとっては負担が大きくなっており、より低い印加エネルギーで優れた転写性を持ち、必要なだけの耐擦性を持つ熱転写記録媒体が望まれている。
【0005】
そこで、従来、ワックス主体の熱転写記録媒体に対して耐久性の高い印像を得られるものとして熱転写インク層に特別な樹脂や、成分を使用し、上記問題点の解決を試みた例が知られている。
【0006】
特許文献1(特開昭62−13384号公報)や特許文献2(特開昭63−230392号公報)などには、着色剤と特定種類の樹脂の諸条件を限定した熱転写記録材料などが提案されている。しかしながら、これらの熱転写記録媒体を用いて鮮明な印字を得るためには高い印加エネルギーが必要であり、低い印加エネルギーにて構成されるプリンタや印字ヘッドでは良好な転写ができなかった。
【0007】
また、特許文献3(特公昭60−59159号公報)や特許文献4(特開平5−92667号公報)などには、比較的低い印加エネルギーでも鮮明な転写象を得られる樹脂系の熱転写記録媒体も提案されているが、印字物が比較的簡単な擦過でとれてしまい、本発明に要求されるような機械的な摩擦に対する耐擦性を満足しているものではなく、耐溶剤性についても満足するものではなかった。
【0008】
一方、特許文献5(特開昭54−62009号公報)には、接着層に塩素含有ポリプロピレンを使用したポリオレフィン用転写シートが提案されているが、熱転写インク層に該樹脂を含有させるものではなく、ポリプロピレンに含有する塩素の比率も低いものであった。また、特許文献6(特開平7−96682号公報)には、本願発明の樹脂と類似する樹脂成分を剥離層に配合する熱転写シートが提案されている。しかしながらこの提案も熱転写インキ層への配合でないものであった。
【0009】
【特許文献1】特開昭62−13384号公報
【特許文献2】特開昭63−230392号公報
【特許文献3】特公昭60−59159号公報
【特許文献4】特開平5−92667号公報
【特許文献5】特開昭54−62009号公報
【特許文献6】特開平7−96682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
サーマルヘッドを用いた熱転写印字による印字物を使用する環境が、上述のように、従来使用されていた環境よりも過酷な環境で使用されるようになってきており、耐久性のあるプラスチックフィルムなどの被転写媒体にも比較的低い印加エネルギーで良好な熱転写が行え、さらに印字されたものが十分な機械的耐擦性、耐溶剤性などを有する印字物を得ることに大きな課題が生じており、従来の熱転写記録媒体では本発明に要求される水準に達するような提案は未だなされていない。本発明の目的は、まさにこの解決手段を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、熱転写インク層に軟化温度110〜160℃、塩素含有率60%以上の高塩素化ポリオレフィンを含有したことなどによって本発明の熱転写記録媒体を完成した。
すなわち、本発明は、
「1.支持体上に少なくとも着色剤と熱可塑性樹脂を含む熱転写インク層を設けてなる熱転写記録媒体であって、該熱可塑性樹脂が軟化温度110〜160℃、塩素含有率60%以上の高塩素化ポリオレフィンを含有することを特徴とする熱転写記録媒体。
2.前記高塩素化ポリオレフィンが、高塩素化ポリエチレンであることを特徴とする、第1項に記載の熱転写記録媒体。
3.前記熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂及び/またはポリウレタン樹脂を含むことを特徴とする、第1項または第2項のいずれか1項に記載の熱転写記録媒体。」に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱転写記録媒体は、少なくとも支持体上に着色剤と軟化温度110〜160℃、塩素含有率60%以上の高塩素化ポリオレフィンを含む熱転写インク層を設けてなるため、熱転写しにくい表面状態を持つ耐久性のある被転写媒体などにも、比較的低エネルギーで良好な印字ができ、かつ、印字後の画像も強い機械的擦過などによっても脱落、損傷することが無く、耐溶剤性なども有し、良好な印字状態を保つことができる優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、熱転写インク層に軟化温度110〜160℃、塩素含有率60%以上の高塩素化ポリオレフィンを含有したことなどを特徴とする熱転写記録媒体である。
【0014】
上記構成によれば、熱転写しにくい表面状態を持つ被転写媒体などにも、比較的低エネルギーで良好な印字ができ、かつ、印字後の画像も強い機械的擦過などによっても脱落、損傷することが無く、耐溶剤性を有する良好な印字状態を保つことができるものである。
【0015】
本発明の熱転写インク層に含有する熱可塑性樹脂は、軟化温度110〜160℃、塩素含有率60%以上の高塩素化ポリオレフィンである。ここで塩素含有率とは塩素化ポリオレフィンの中に含まれる塩素の質量比率のことである。塩素化ポリマー中の塩素含有率が上がると高温時の流動性や接着性が低くなるものもあるが、軟化温度110〜160℃のものであれば、熱転写に必要な流動性や接着性を有し、比較的低エネルギーで良好な印字ができ、かつ、印字後の画像も強い機械的擦過などによっても脱落、損傷することが無く、耐溶剤性を有する良好な印字状態を保つことができる。
【0016】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンの他、それらの誘導体などが適宜挙げられる。高塩素化ポリエチレンであれば、本発明の軟化温度範囲に制御しやすい上、比較的低エネルギーで良好な印字ができ、かつ、転写された画像が機械的な摩擦に対する耐擦性および耐溶剤性などに優れているので、より好ましい。
【0017】
本発明に使用する高塩素化ポリオレフィンの配合量は、本発明の熱転写インク層中に使用する熱可塑性樹脂全体に対し、15〜100質量%が好ましい。
【0018】
また、バインダ樹脂として各種性能を向上するために他の樹脂を添加することもできる。その際は、生産性の点から単一または混合系の溶媒の中で本発明に使用する高塩素化ポリオレフィンと相分離することがなく均一な混合状態を保つ樹脂でなければならない。また、添加量としては、本発明に使用する高塩素化ポリオレフィンの持つ性質に大きな影響を与えるほど添加してはならない。熱可塑性樹脂として高塩素化ポリオレフィンのみを使用した単層構成の場合、熱転写インク層の粉落ちが発生する恐れがあるが、他の熱可塑性樹脂をバインダとして用いるとよく、耐溶剤性等を考慮して、ポリエステル樹脂及び/またはポリウレタン樹脂を含有させると好ましい態様となる。
【0019】
その他、本発明の熱転写記録媒体の性能に大きな影響を与えない範囲で、各種添加剤を熱転写インキ層に添加したり、各種機能層を追加したりしてもよい。
【0020】
以下に、本発明の実施の形態の一例の熱転写記録媒体を説明する。
【0021】
熱転写記録媒体の支持体としては、各種プラスチックフィルムなどが使用可能であるが、本発明の熱転写記録媒体には、裏面に耐熱滑性層を設けた2.5〜6.0μm程度のポリエステルフィルムが良好に使用できる。
【0022】
本発明の熱転写インク層には、上述のような熱可塑性樹脂のほか、着色剤として、カーボンブラック、パーマネントレッド、ウォッチングレッド、モノライトファストレッド、アリザリンレーキ、キナクリドン、レーキレッド、フタロシアアニンブルー、セルリアンブルー、コバルトブルー、群青、紺青、インダンスレンブルー、ベンジジンエロー、モリブデンオレンジ、ジスアゾエロー、フタロシアニングリーン、ジンクグリーン、ジオキサジンバイオレット、コバルトバイオレット、ミネラルバイオレット、ベンジジンオレンジ、ピラゾロンオレンジ、パーマネントオレンジ、インダンスレンブリリアントオレンジ、アルミニウム粉、酸化チタンなどの有機・無機の顔料や、フタロシアニン、オーラミン、ローダミンなどの染料の1種または2種以上が利用できる。顔料は、屋外暴露などの紫外線が照射される環境下での印字物の使用の際に耐光性がよく、熱転写インク層自体の機械的強度も良好になるため好ましい。
【0023】
その他ワックスなども少量ならば添加可能であるが、針入度が1以下である天然ワックス類のキャンデリラワックス、カルナウバワックス、モンタンワックスや合成ワックス類のモンタン系変性ワックス、ポリエチレンワックス、サゾールワックスなどが耐擦過性に悪影響を与えにくいので、好ましく、その配合量は、熱転写インク層全体に対し、20質量%以下がよい。
【0024】
また、性能の良い熱転写インク層を構成するためには、その他の成分も考慮する必要があり、熱転写インク層全体として、各種バランスをとるような配合を整える必要がある。
【0025】
熱転写インク層の塗工厚は1.0〜3.0μm程度が好ましい。支持体上と熱転写インク層の間に剥離層などの機能層を設けるなど、その他の層を設けても良い。
【0026】
本発明の熱転写記録媒体は、上述のように、支持体上に、上記熱転写インク層を設けることにより構成されるが、インク層の製造手段としては、特に規定はなく、水系または油系などの溶媒中に分散、溶解させ、塗布液を調製し、グラビアコーター、ワイヤーバーコーター、エアーナイフコーターなどの塗工方法で所要の塗工厚に塗工し熱転写記録媒体を得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下実施例及び比較例中の「部」は、特にことわらない限り全て質量による。
【0028】
実施例1
厚さ5μmのポリエステルフィルムの片面に耐熱滑性層を形成して支持体とし、支持体の耐熱滑性層の逆面に、以下の構成の熱転写インク層成分を調製し、乾燥質量が1.5g/m2になるようにスクレーパーで塗工、乾燥させ、熱転写インク層を作製した。
【0029】
(熱転写インク層成分1)
高塩素化ポリエチレン樹脂(注1) 6部
ポリエステル樹脂 6部
ポリエチレンワックス 4部
カーボンブラック 4部
トルエン 40部
メチルエチルケトン 40部
(注1)塩素含有率65〜69%、軟化温度約130℃
【0030】
実施例2および4,5、比較例1〜3についても実施例1と同様に、実施例3については剥離層を介したほかは実施例1と同様に、それぞれ以下に記載の構成の熱転写インク層成分を支持体上に形成して熱転写インク層を作製し、熱転写記録媒体を得た。
【0031】
実施例2
(熱転写インク層成分2)
高塩素化ポリエチレン樹脂(注1) 6部
ポリウレタン樹脂 6部
ポリエチレンワックス 4部
カーボンブラック 4部
トルエン 40部
メチルエチルケトン 40部
【0032】
実施例3
厚さ5μmのポリエステルフィルムの片面に耐熱滑性層を形成して支持体とし、支持体の耐熱滑性層の逆面に、剥離層としてカルナバワックス95部、ポリエステル樹脂5部からなる成分を1.0g/m2塗工したものの上に、下記(熱転写インク層成分3)の構成の熱転写インク層成分を調製し、乾燥質量が1.5g/m2になるようにスクレーパーで塗工、乾燥させ、熱転写インク層を作製した。
(熱転写インク層成分3)
高塩素化ポリエチレン樹脂(注1) 12部
ポリエチレンワックス 4部
カーボンブラック 4部
トルエン 40部
メチルエチルケトン 40部
【0033】
実施例4
厚さ5μmのポリエステルフィルムの片面に耐熱滑性層を形成して支持体とし、支持体の耐熱滑性層の逆面に、剥離層を介さずに上記(熱転写インク層成分3)の構成の熱転写インク層成分を調製し、乾燥質量が1.5g/m2になるようにスクレーパーで塗工、乾燥させ、熱転写インク層を作製した。
【0034】
実施例5
(熱転写インク層成分4)
高塩素化ポリエチレン樹脂(注1) 6部
ポリエステル樹脂 3部
ポリウレタン樹脂 3部
ポリエチレンワックス 4部
カーボンブラック 4部
トルエン 40部
メチルエチルケトン 40部
【0035】
比較例1
(熱転写インク層成分5)
高塩素化ポリエチレン樹脂(注2) 6部
ポリエステル樹脂 6部
ポリエチレンワックス 4部
カーボンブラック 4部
トルエン 40部
メチルエチルケトン 40部
(注2)塩素含有率66〜70%、軟化温度約180℃
【0036】
比較例2
(熱転写インク層成分6)
低塩素化ポリエチレン樹脂(注3) 6部
ポリウレタン樹脂 6部
ポリエチレンワックス 4部
カーボンブラック 4部
トルエン 40部
メチルエチルケトン 40部
(注3)塩素含有率29.5%、軟化温度約80〜90℃
【0037】
比較例3
(熱転写インク層成分7)
ポリエステル樹脂 6部
ポリウレタン樹脂 6部
ポリエチレンワックス 4部
カーボンブラック 4部
トルエン 40部
メチルエチルケトン 40部
【0038】
以上のように調製した8種の熱転写記録媒体を熱転写プリンタ(オートニクス社製BC−8MkII)に装着し、白色ポリエステルラベル(リンテック社製PETWH50(A))を被転写媒体に用い、下記転写性試験、耐溶剤性試験を行った。
【0039】
転写性試験:印加エネルギー0.35mj/dotの印字条件にて印字を行い、印字物の鮮明性を目視にて評価した。
耐溶剤性試験:エタノールを染み込ませた綿布で印字表面を強く擦すったあと、初期の印字状態を保っているか目視で評価。荷重約1Kg、往復50回。
【0040】
転写性試験の結果、実施例1〜3,5、比較例2,3は良好な転写性を得ることができたが、実施例4については、わずかながら粉落ちによる過転写が発生してしまった。また、比較例1については、高塩素化ポリオレフィンの軟化温度が高すぎ、印字かすれが生じてしまった。
【0041】
耐溶剤性試験の結果、実施例1〜5、比較例1は良好な耐溶剤性を得ることができたが、比較例2,3については、印字欠けが発生してしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に少なくとも着色剤と熱可塑性樹脂を含む熱転写インク層を設けてなる熱転写記録媒体であって、該熱可塑性樹脂が軟化温度110〜160℃、塩素含有率60%以上の高塩素化ポリオレフィンを含有することを特徴とする熱転写記録媒体。
【請求項2】
前記高塩素化ポリオレフィンが、高塩素化ポリエチレンであることを特徴とする、請求項1に記載の熱転写記録媒体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂及び/またはポリウレタン樹脂を含むことを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載の熱転写記録媒体。

【公開番号】特開2009−107222(P2009−107222A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281892(P2007−281892)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】