説明

熱転写記録媒体

【目的】 透明シート上に溶融熱転写記録方法によりネガ画像を直接印刷し、高画質の画像形成ネガ型マスク版を作成する方法に用いることができる熱転写記録媒体の提供。
【構成】 透明シート上に溶融熱転写記録方法によりネガ画像を直接印刷し、画像形成ネガ型マスク版を作成する方法に用いられる熱転写記録媒体であって、基材上に、少なくとも熱転写記録により転写される熱転写インク層が設けられており、該熱転写インク層はカーボンブラックを、30〜70wt%含有していることを特徴とする熱転写記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、透明シート上に溶融熱転写記録方法によりネガ画像を直接印刷し、画像形成ネガ型マスク版を作成する方法に用いられる熱転写記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】周知のように、写真に文字や画像を焼き付けたり、露光により印刷版を作成する際には、感光剤を塗布した感材に、いわゆるマスク版を介して均一露光を行い、露光の必要のない部分を上記マスク版により遮光する方法が用いられている。
【0003】従来、このようなマスク版は、写植法や写真撮影によりネガ画像を作成していたが、写植や撮影後の後工程である現像などの操作が煩雑であったり、大型の装置が必要であるという問題があった。そこで、本発明者らは、溶融熱転写記録方法を利用して透明シートにネガ画像を直接印刷する方法を開発した。この方法によれば、後処理の必要もなく、熱転写記録方法を採用したワープロやプリンター等の汎用のOA機器を用いることができるという利点がある。
【0004】この溶融型熱転写記録方法は、シート状の基材上に少なくとも一層の熱転写インク層が設けられた熱転写記録媒体を、その熱転写インク層を被転写体に接して重ね合わせ、基材の裏面側から加熱ヘッドにより上記熱転写インク層を加熱溶融し、上記被転写体上に転写像を得る記録方法である。
【0005】しかしながら、従来の熱転写記録媒体を用いて透明シートにネガ画像を直接印刷してマスク版を作成した場合には、マスク版として用いるのに必要な1.5以上の透過印刷濃度を有するネガ画像を得ることが出来なかった。
【0006】斯る問題の解決策として、同一画像を複数回重ね印刷したり、熱転写インク層のインク転写量を増やすこと等が考えられるが、得られるネガ画像の解像度が低下し、満足な画質のマスク版を得ることが出来なかった。
【0007】従って、本発明の目的は、透明シート上に溶融熱転写記録方法によりネガ画像を直接印刷して画像形成ネガ型マスク版を作成する方法に用いられ得る熱転写記録媒体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討した結果、熱転写インク層に含まれるカーボンブラックの量を一定範囲とすることで、解像度の低下を招かない範囲の膜厚を有しかつ必要な印刷濃度を有する画像形成ネガ型マスク版の作成が可能であり、また上記熱転写インク層膜厚を特定範囲にすることで、さらに高画質の画像形成ネガ型マスク版の作成が可能な熱転写記録媒体、即ち、上記目的を達成し得る熱転写記録媒体が得られることを知見した。
【0009】本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、透明シート上に溶融熱転写記録方法によりネガ画像を直接印刷し、画像形成ネガ型マスク版を作成する方法に用いられる熱転写記録媒体であって、基材上に、少なくとも熱転写記録により転写される熱転写インク層が設けられており、該熱転写インク層は、カーボンブラックを30〜70wt%含有していることを特徴とする熱転写記録媒体を提供するものである。
【0010】また、本発明は、上記熱転写インク層の膜厚が、1.5〜7.0μmであることを特徴とする熱転写記録媒体を提供するものである。
【0011】さらに、本発明は、上記基材と上記熱転写インク層との間に、少なくとも熱可塑性剥離層が設けられていることを特徴とする熱転写記録媒体を提供するものである。以下、本発明に係る熱転写記録媒体について詳述する。
【0012】上記熱転写インク層は、カーボンブラックを30〜70wt%、好ましくは35〜55wt%含有しているものである。上記カーボンブラックの量が30wt%に満たないと、得られる画像形成ネガ型マスク版の透過印刷濃度が1.5に及ばず、画像形成ネガ型マスク版としての使用に耐えられなくなるからであり、上記カーボンブラックの量が70wt%を超えると、得られる熱転写インク層の結着力が低下し、透明シート上での定着性が不足し、同様に画像形成ネガ型マスク版としての使用に耐えられなくなるからである。
【0013】上記熱転写インク層の膜厚は、1.5〜7.0μm、好ましくは1.5〜5.0μmである。上記膜厚が1.5μmに満たないと、透過印刷濃度1.5を実現するには70wt%を超えるカーボンブラックの添加が必要となるからであり、7.0μmを超えると剥離不良や解像度低下を招くからである。
【0014】上記熱転写インク層は、バインダー樹脂とカーボンブラックとを必須成分とするものである。この熱転写インク層には、印刷特性調整のために、ワックスや粘着性付与剤等の印刷特性調整剤を適宜添加することができる。
【0015】上記バインダー樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、ウレタン変性ラノリン樹脂等を使用することができる。上記バインダー樹脂は、単独で或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0016】上記熱転写インク層の好ましい組成としては、上記バインダー樹脂30〜70重量部と上記カーボンブラック70〜30重量部とからなるものが挙げられる。
【0017】上記印刷特性調整剤としては、ワックスとして、ライスワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、キャンデリラワックス、低分子量ポリエチレンワックス、α−オレフィンオリゴマー、モンタンロウ、マイクロクリスタリンワックス、蜜ロウ、木ロウ等を使用することができ、また、上記粘着性付与剤として、ロジン、ロジン誘導体、テルペン樹脂、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂等を使用することができ、この印刷特性調整剤は、上記バインダー樹脂と上記カーボンブラックとからなる組成物100重量部に対し5〜30重量部の範囲で適宜選択添加される。
【0018】上記熱転写インク層は、上記バインダー樹脂及び上記カーボンブラック、更に必要に応じこれに上記印刷特性調整剤を加えたものをトルエン、メチルエチルケトン等の溶剤に溶かしてインク塗料を調製し、これを塗工して設けることができる。ここで、上記インク塗料の好ましい固型分は10〜50wt%である。
【0019】一方、上記熱可塑性剥離層は、上記熱転写インク層の転写剥離特性の向上及び解像度の向上が図れるものであれば特に制限はないが、例えば、上記基材上に剥離層用ワックスを薄膜塗工して設けることができる。この剥離層用ワックスとしては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、ライスワックス、カルナバワックス酸化ポリエチレンワックス等を使用することができる。さらに、これにエチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、石油樹脂、エチレンアクリレートル共重合体等の塗膜強度調整樹脂を加えることにより、塗膜強度の向上を図ることも可能である。
【0020】上記基材としては、コンデンサ紙、グラシン紙等の紙類、ポリエチレンテルフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等を使用することができる。また、基材の厚さは1〜20μmが好ましい。
【0021】なお、上記熱転写インク層の上に接着層を設けることにより、被転写体への定着性の向上を図ることが可能であり、また、上記基材の裏面に、バックコート層を設けることにより、耐熱性の向上を図ることも可能である。
【0022】上記接着層としては、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリレート共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプリピレン樹脂等を使用することができ、また、耐熱性の向上を図る上記バックコート層としては、シリコーン系、フッ素系の化合物、樹脂層や、架橋ポリマー層等を使用することができる。
【0023】本発明に係る熱転写記録媒体の応用例としては、透明シートとして、例えばOHPシート、透明フィルム等を使用し、これに本発明に係る熱転写記録媒体を使用して溶融熱転写記録を行った、文字焼き込み写真用文字マスク版の作成、或いは印刷原版作成用マスク版の作成等を挙げることができる。
【0024】
【実施例】次に、本発明に係る熱転写記録媒体を、以下に示す実施例により更に具体的に説明する。なお、本発明は本実施例に限られるものではない。
【0025】実施例1先ず、ライスワックス(剥離層用ワックス)95wt%と、エチレン酢酸ビニル共重合体(塗膜強度調整樹脂)5wt%とをボールミルを用いてトルエン溶剤中に分散して剥離層用塗料を調製した。そして、この剥離層用塗料を、ワイヤーバーコーターを用いて、シリコーン系バックコートを塗布した厚さ3.5μmのPETフィルム上に塗布し、厚さ1μmの熱可塑性剥離層を設けた。次に、下記の配合物をトルエン溶剤中に固形分20wt%にて仕込み、ボールミルにて20時間分散してインク塗料を調製し、そして、得られたインク塗料を上記熱可塑性剥離層の上にワイヤーバーコーターを用いて塗布し、厚さ5μmの熱転写インク層を設け、目的の熱転写記録媒体を得た。
カーボンブラック 30wt% エチレン酢酸ビニル共重合体(バインダー樹脂) 35wt% ウレタン変性ラノリン樹脂(バインダー樹脂) 35wt%そして、得られた熱転写記録媒体を市販のワードプロセッサーに装填し、厚さ100μmのPETシート(透明シート)上に溶融熱転写記録方法によりネガ画像を印刷し、画像形成ネガ型マスク版を作成した。そして、得られた画像形成ネガ型マスク版について、透過印刷濃度測定装置(マクベス社製 TD−904)を用いてその透過印刷濃度の測定を行い、次いでこれを用いて市販の印画紙に焼き付けて、さらにこれを現像し、その印刷品質の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0026】実施例2先ず、下記の配合物をトルエン溶剤中に固形分20wt%にて仕込み、ボールミルにて20時間分散しインク塗料を調製した。そして、得られたインク塗料を、実施例1の上記熱転写インク層に代えて、上記熱可塑性剥離層上にワイヤーバーコーターを用いて塗工し、厚さ2.5μmの熱転写インク層を設け、目的の熱転写記録媒体を得た。
カーボンブラック 40wt% エチレン酢酸ビニル共重合体(バインダー樹脂) 30wt% ウレタン変性ラノリン樹脂(バインダー樹脂) 30wt%次いで、実施例1と同様に画像形成ネガ型マスク版を作成し、その評価を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0027】実施例3先ず、下記の配合物をメチルエチルケトン溶剤中に固形分20wt%にて仕込み、ボールミルにて20時間分散しインク塗料を調製した。そして、得られたインク塗料を、実施例1の上記熱転写インク層に代えて、上記熱可塑性剥離層上にワイヤーバーコーターを用いて塗工し、厚さ4.0μmの熱転写インク層を設け、目的の熱転写記録媒体を得た。
カーボンブラック 35wt% エチレン酢酸ビニル共重合体(バインダー樹脂) 40wt% ポリエーテル樹脂(バインダー樹脂) 25wt% カルナバワックス(ワックス) 10wt%次いで、実施例1と同様に画像形成ネガ型マスク版を作成し、その評価を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0028】実施例4先ず、下記の配合物をトルエン溶剤中に固形分20wt%にて仕込み、ボールミルにて20時間分散してインク塗料を調製した。そして、得られたインク塗料を、実施例1の上記熱転写インク層に代えて、上記熱可塑性剥離層上にワイヤーバーコーターを用いて塗工し、厚さ1.5μmの熱転写インク層を設け、目的の熱転写記録媒体を得た。
カーボンブラック 55wt% エチレン酢酸ビニル共重合体(バインダー樹脂) 20wt% カルナバワックス(ワックス) 25wt%次いで、実施例1と同様に画像形成ネガ型マスク版を作成し、その評価を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0029】比較例1先ず、下記の配合物をトルエン溶剤中に固形分20wt%にて仕込み、ボールミルにて20時間分散してインク塗料を調製した。そして、得られたインク塗料を実施例1の上記熱転写インク層に代えて、上記熱可塑性剥離層上にワイヤーバーコーターを用いて塗工し、厚さ5.0μmの熱転写インク層を設け、目的の熱転写記録媒体を得た。
カーボンブラック 25wt% エチレン酢酸ビニル共重合体(バインダー樹脂) 30wt% カルナバワックス(ワックス) 45wt%次いで、実施例1と同様に画像形成ネガ型マスク版を作成し、その評価を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0030】比較例2先ず、下記の配合物をトルエン溶剤中に固形分20wt%にて仕込み、ボールミルにて20時間分散してインク塗料を調製した。そして、得られたインク塗料を実施例1の上記熱転写インク層に代えて、上記熱可塑性剥離層上にワイヤーバーコーターを用いて塗工し、厚さ7.5μmの熱転写インク層を設け、目的の熱転写記録媒体を得た カーボンブラック 75wt% エチレン酢酸ビニル共重合体(バインダー樹脂) 15wt% カルナバワックス(ワックス) 10wt%次いで、実施例1と同様に画像形成ネガ型マスク版を作成し、その評価を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0031】比較例3先ず、下記の配合物をトルエン溶剤中に固形分20wt%にて仕込み、ボールミルにて20時間分散してインク塗料を調製した。そして、得られたインク塗料を実施例1の上記熱転写インク層に代えて、上記熱可塑性剥離層上にワイヤーバーコーターを用いて塗工し、厚さ1.5μmの熱転写インク層を設け、目的の熱転写記録媒体を得た。
カーボンブラック 75wt% エチレン酢酸ビニル共重合体(バインダー樹脂) 15wt% カルナバワックス(ワックス) 10wt%次いで、実施例1と同様に画像形成ネガ型マスク版を作成し、その評価を実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0032】なお、上記各実施例及び比較例において得られた各熱転写記録媒体は、上記トルエン溶剤又はメチルエチルケトン溶剤が揮発し、上記熱転写インク層が固形分である上記各配合物のみにて構成されるものである。
【0033】
【表1】


【0034】表1に示したように、上記各実施例に係る熱転写記録媒体によれば、透過印刷濃度が1.5以上の画像形成ネガ型マスク版を作成することができ、これにより焼き付けた印刷画像は、文字つぶれや、文字欠けあるいは、印刷部剥離などが生じることなく、かつ露光かぶりのない高画質のものであることが確認された。一方、上記比較例1に係る熱転写記録媒体により得られる画像形成ネガ型マスク版は、透過印刷濃度が1.5に満たないものであり、また、比較例2及び3に係る熱転写記録媒体により得られる画像形成ネガ型マスク版は、透過印刷濃度は1.5を超えるものの、得られる印刷画像に、文字つぶれ、文字欠け或いは印刷部剥離が生じることが確認された。
【0035】このように、本実施例に係る熱転写記録媒体によれば、PETシートに、溶融熱転写記録方法によりネガ画像を直接印刷するだけで、簡便に高画質の画像形成ネガ型マスク版を作成することができる。
【0036】
【発明の効果】本発明に係る熱転写記録媒体によれば、以下の効果を奏することができる。請求項1に記載の熱転写記録媒体によれば、透明シートに溶融熱転写記録方法によりネガ画像を直接印刷し、高画質の画像形成ネガ型マスク版を作成することができる。
【0037】請求項2に記載の熱転写記録媒体によれば、上記熱転写インク層の膜厚を、1.5〜7.0μmとしたので、上記の効果に加え、走行性、解像度、印刷強度に優れた画像形成ネガ型マスク版を得ることができる。
【0038】請求項3に記載の熱転写記録媒体によれば、上記の効果に加え、転写剥離特性向上と解像度向上を図ることができる。従って、さらに高画質の画像形成ネガ型マスク版を作成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明シート上に溶融熱転写記録方法によりネガ画像を直接印刷し、画像形成ネガ型マスク版を作成する方法に用いられる熱転写記録媒体であって、基材上に、少なくとも熱転写記録により転写される熱転写インク層が設けられており、該熱転写インク層は、カーボンブラックを30〜70wt%含有していることを特徴とする熱転写記録媒体。
【請求項2】 上記熱転写インク層の膜厚が、1.5〜7.0μmであることを特徴とする請求項1に記載の熱転写記録媒体。
【請求項3】 上記基材と、上記熱転写インク層との間に、熱可塑性剥離層が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱転写記録媒体。