説明

熱転写記録方法、及び、画像形成体

【課題】被転写物を問わずに画像の転写が可能であり、蛍光強度が低下することのない蛍光染料による潜像画像を形成できる熱転写記録方法、及び、該熱転写記録方法により形成された画像形成体を提供する。
【解決手段】剥離性染料受容層3と接着性染料受容層4が積層された構造の中間転写記録媒体1の一方の面に、可視染料による可視画像、又は、蛍光染料による潜像画像である画像Aを熱転写により形成し、もう一方の面に可視染料による可視画像、又は、蛍光塗料による潜像画像である画像Bを熱転写により形成する。上記画像A及び画像Bは、いずれか一方が上記可視画像であり、他方が上記潜像画像である。この構造は、可視染料と蛍光染料を完全に分離するため潜像画像の蛍光強度の低下を充分に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間転写記録媒体による熱転写記録方法、及び、画像形成体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、簡便な印刷方法として熱転写方法が広く使用されるようになってきている。熱転写方法は、基材シートの一方の面に色材層が設けられた熱転写シートと、必要に応じて画像受容層が設けられた熱転写受像シートを重ね合わせ、サーマルヘッド等の加熱手段により熱転写シートの背面を画像状に加熱して、色材層に含まれる色材を選択的に移行させて、熱転写受像シート上に画像を形成する方法である。
【0003】
熱転写方法は、溶融転写方式と昇華転写方式に分けられる。溶融転写方式は、顔料等の色材を熱溶融性のワックスや樹脂等のバインダーに分散させた熱溶融インキ層をPETフィルム等の基材シートに担持させた熱転写シートを用い、サーマルヘッド等の加熱手段に画像情報に応じたエネルギーを印加し、紙やプラスチックシート等の熱転写受像シート上に、色材をバインダーと共に転写する画像形成方法である。溶融転写方式による画像は、高濃度で鮮鋭性に優れ、文字等の2値画像の記録に適している。
【0004】
一方、昇華転写方式は、主に昇華により熱移行する染料を樹脂バインダー中に溶解或いは分散させた染料層を、PETフィルム等の基材シートに担持させた熱転写シートを用い、サーマルヘッド等の加熱手段に画像情報に応じたエネルギーを印加し、紙やプラスチック等の基材シートに必要に応じて染料受容層を設けてなる熱転写受像シート上に、染料のみを転写移行させる画像形成方法である。昇華転写方式は、印加されるエネルギー量に応じて染料の移行量を制御できるため、サーマルヘッドのドット毎に画像濃度を制御した階調画像の形成を行うことができる。また、使用する色材が染料であるため、形成される画像には透明性があり、異なる色の染料を重ねた場合の中間色の再現性が優れている。したがって、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等の異なる色の熱転写シートを用い、熱転写受像シート上に各色染料を重ねて転写する際にも、中間色の再現性に優れた高画質な写真調フルカラー画像の形成が可能である。
【0005】
可視染料と蛍光染料の双方を用いた画像は、複製防止等のセキュリティー性を有する画像として用いられている。例えば、イエロー染料、マゼンタ染料、シアン染料といった可視染料を熱拡散転写して可視画像を形成し、その後、紫外線照射により可視光を発する蛍光染料を熱溶融転写又は熱拡散転写して蛍光染料の潜像画像を形成する方法が知られている。
【0006】
しかしながら、熱溶融転写により潜像画像を設けた場合には、無色であるものの潜像画像に凹凸があるため、紫外線を照射しなくとも凹凸が視認できる場合があった。また、この潜像画像の表面を覆い隠すように保護層を設けた場合でも、潜像画像の凹凸が視認できる場合があった。
【0007】
一方、熱拡散転写により潜像画像を設けた場合には、潜像画像の凹凸はないものの、可視画像の可視染料が、蛍光染料の熱転写時の熱により蛍光染料のインクシートに移行し(この現象をバックトラップともいう)、潜像画像が設けられた部分の可視画像の色が部分的に薄くなり、その結果、潜像画像が視認できる場合があった。更に、可視染料と蛍光染料とが共存すると、各染料間でエネルギー移動といった現象が生じ、蛍光染料の蛍光が弱まったり、場合によっては蛍光染料による蛍光画像が失われることもあった。
【0008】
このような問題に対して、例えば、最初に蛍光染料を熱拡散転写して潜像画像を形成し、その後、可視染料を熱拡散させて可視画像を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この方法は、可視染料と蛍光染料の熱拡散による染料受容層内での分布状態を制御したものであるが、可視染料と蛍光染料とを完全に分離させたものでないため、潜像画像の蛍光強度の低下を充分に抑制することができないという問題があった。
【0009】
また、可視染料による可視画像形成を行った後に、該記録画像上に染料受容層を転写してから蛍光染料の潜像画像を形成する方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
この方法によると、可視染料と蛍光染料との転写領域を完全に分離できる。しかしながら、受像紙以外の受像体、例えば、ICカードのようなプラスチックカード等に印画する場合、可視染料の印画による画質がカード基材の材質に依存してしまい、場合によっては可視染料が印画できないといった不具合が起こることがあった。
【特許文献1】特開2004−299274号公報
【特許文献2】特開2004−299278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、被転写物を問わずに画像の転写が可能であり、蛍光強度が低下することのない蛍光染料による潜像画像を形成できる熱転写記録方法、及び、該熱転写記録方法により形成された画像形成体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基材フィルム上に、少なくとも剥離性染料受容層と接着性染料受容層とがこの順で積層された構造の中間転写記録媒体の上記接着性染料受容層に、可視染料による可視画像、又は、蛍光染料による潜像画像である画像Aを、熱転写により形成する工程(1)、上記画像Aを形成した接着性染料受容層を被転写体に圧接し、上記中間転写記録媒体を前記被転写体に転写する工程(2)、上記中間転写記録媒体の上記基材フィルムを剥離して上記剥離性染料受容層を露出させる工程(3)、及び、露出させた上記剥離性染料受容層に、可視染料による可視画像、又は、蛍光塗料による潜像画像である画像Bを、熱転写により形成する工程(4)を有し、上記画像A及び画像Bは、いずれか一方が上記可視画像であり、他方が上記潜像画像であることを特徴とする熱転写記録方法である。
【0012】
上記可視染料は、イエロー染料、マゼンタ染料及びシアン染料からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
上記蛍光染料は、可視光以外の光を照射することによって蛍光色で視認することができる染料であることが好ましい。
また、上記画像Bが形成された剥離性染料受容層上に、更に保護層を形成する工程(5)を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明は、本発明の熱転写記録方法により形成されることを特徴とする画像形成体である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、中間転写記録媒体を用いた熱転写記録方法である。
図1は、本発明で用いる中間転写記録媒体の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明で用いる中間転写記録媒体1は、基材フィルム2上に、少なくとも剥離性染料受容層3と接着性染料受容層4とがこの順で積層された構造を有する。
【0015】
基材フィルム2としては特に限定されず、従来の中間転写記録媒体に使用されているものと同じ基材フィルムをそのまま用いることができる。
好ましい基材フィルム2の具体例としては、例えば、グラシン紙、コンデンサー紙又はパラフィン紙等の薄紙;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン若しくはポリエーテルサルホン等の耐熱性の高いポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、酢酸セルロース、ポリエチレン誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテンまたはアイオノマー等のプラスチックの延伸又は未延伸フィルム等が挙げられる。
また、これらの材料を2種以上積層した複合フィルムも使用することができる。
【0016】
基材フィルム2の厚さとしては、その強度及び耐熱性等が適切になるように材料に応じて適宜選択することができるが、通常、1〜100μm程度のものが好ましく用いられる。
【0017】
また、基材フィルム2の剥離性染料受容層3及び接着性染料受容層4(以下、これらをまとめ転写部ともいう)側とは反対の面に、必要に応じて従来の方法で設けられた背面層を有していてもよい。
上記背面層は、中間転写記録媒体1を用いて被転写体に上記転写部を転写する際、基材フィルム2とサーマルヘッド等の加熱デバイスとの融着を防止し、摺動性を向上させるために、例えば、硬化型シリコーンオイル、硬化型シリコーンワックス、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の従来用いられている樹脂と同様の樹脂によって設けることができる。
【0018】
また、中間転写記録媒体1は、通常、巻き取られた状態で保管される。すなわち、基材フィルム2の上記転写部と反対の面と、接着性染料受容層4とが接した状態で保管される。従って、中間転写記録媒体1は、少なくとも保管時において、基材フィルム2と接着性染料受容層4とが接着することがないように、基材フィルム2の上記転写部と反対の面や、接着性染料受容層4の表面に離型処理や離型フィルムの貼着等により離型性が付与されていることが好ましい。
【0019】
剥離性染料受容層3は、基材フィルム2上に形成されており、後述するように、熱転写により、可視染料又は蛍光染料による画像Bが形成される層である。この剥離性染料受容層3は、後述するように本発明の熱転写記録方法により上記転写部を被転写体に転写した後、基材フィルム2を剥離させることができる離型性を有する。
【0020】
剥離性染料受容層3の材料としては、例えば、アクリル骨格樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、酢酸セルロースと熱硬化型アクリル樹脂、メラミン樹脂、ニトロセルロース樹脂、及び、ポリエチレンワックスとの混合物等が挙げられる。なかでも、アクリル骨格樹脂を主成分とすることが好ましい。
また、剥離性染料受容層3と基材フィルム2との密着力を調整するために、ポリエステル樹脂等も好ましく用いられる。
また、剥離性染料受容層3は、バインダー樹脂と離型性材料とから形成されていてもよい。
上記バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂であるポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、エチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、或いは熱硬化型樹脂である不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノアルキッド樹脂等が使用できる。
また、上記離型性材料としては、例えば、ワックス類、シリコーンワックス、シリコーン系樹脂、メラミン樹脂、フッ素系樹脂、タルクやシリカの微粉末、界面活性剤や金属セッケン等の潤滑材等が使用できる。
【0021】
剥離性染料受容層3は、例えば、アクリル骨格樹脂とポリエステル樹脂を適当な溶剤により、溶解又は分散させて剥離性染料受容層用塗工液を調製し、これを基材フィルム2上にグラビア印刷法、スクリーン印刷法又はグラビア版を用いたリバースコーティング法等の手段により塗布、乾燥して形成することができる。その厚さとしては、例えば、乾燥状態で0.1〜10μm程度であることが好ましい。
【0022】
剥離性染料受容層3の特に好ましい組成としては、例えば、シリコーン変性アクリル樹脂とポリエステル樹脂の混合物等が挙げられる。このような組成であることで、基材フィルム2に対する離型性と後述する可視染料又は蛍光染料の受容性能とに特に優れたものとなる。
【0023】
接着性染料受容層4は、上述した剥離性染料受容層3上に形成されており、後述するように、熱転写により、可視染料による可視画像、又は、蛍光染料による潜像画像である画像Aが形成される層である。この接着性染料受容層4は、被転写体に対する接着性を有する。
【0024】
接着性染料受容層4の材料としては、例えば、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル若しくはポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体若しくはポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン若しくはプロピレン等のオレフィンと他のビニルポリマーとの共重合体系樹脂、アイオノマー若しくはセルロースジアスターゼ等のセルロース系樹脂、ポリカーボネイト等が挙げられる。これらの材料は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂又はポリエステル樹脂が好ましい。
【0025】
接着性染料受容層4は、例えば、上述の材料の中から選択された単独又は複数の材料及び必要に応じて各種添加剤等を加え、水又は有機溶剤等の適当な溶剤に、溶解若しくは分散させて受容層用塗工液を調製し、これをグラビア印刷法、スクリーン印刷法又はグラビア版を用いたリバースコーティング法等の手段により、塗布、乾燥して形成することができる。その厚さとしては、乾燥状態で1〜10μm程度であることが好ましい。
【0026】
接着性染料受容層4の特に好ましい組成としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体樹脂および/又はポリエステル系樹脂、これらと離型性材料との混合物等が挙げられる。このような組成であることで、後述する被転写体に対する接着性と可視染料又は蛍光染料の受容性能とに特に優れたものとなる。
【0027】
また、中間転写記録媒体1において、剥離性染料受容層3と接着性染料受容層4とは、剥離できない状態に一体化されていることが好ましい。例えば、剥離性染料受容層3と接着性染料受容層4との間に、目止め層やプライマー層といった公知の中間層が形成されていることが好ましい。
【0028】
次に、本発明の熱転写記録方法を、図面を参照しながら具体的に説明する。
図2(a)〜(d)は、本発明の熱転写記録方法を説明する説明図である。
【0029】
本発明の熱転写記録方法は、図2(a)に示すように、中間転写記録媒体1の接着性染料受容層4に、可視染料による可視画像、又は、蛍光染料による潜像画像である画像Aを、熱転写により形成する工程(1)を有する。
【0030】
接着性染料受容層4に形成される画像Aは、可視染料による可視画像、又は、蛍光染料による潜像画像である。
上記可視染料とは、後述する蛍光染料と対比される染料であり、蛍光作用が実質上認められない通常の染料を意味する。
上記可視染料としては特に限定されず、印刷において用いられている各種の通常の色素、染料材料を用いることができる。色調としても特に限定されないが、イエロー染料、マゼンタ染料及びシアン染料からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、上記イエロー染料、マゼンタ染料及びシアン染料は、昇華型染料であることが好ましい。
【0031】
上記昇華型染料としては、従来公知のものであれば特に限定されず、例えば、ジアリールメタン系色素;トリアリールメタン系色素;チアゾール系色素;メロシアニン系色素;ピラゾロンメチン等のメチン系色素;インドアニリン系色素;アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチン等のアゾメチン系色素;キサンテン系色素;オキサジン系色素;ジシアノスチレン、トリシアノスチレン等のシアノメチレン系色素;チアジン系色素;アジン系色素;アクリジン系色素;ベンゼンアゾ系色素;ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジズアゾ等のアゾ系色素;スピロピラン系色素;インドリノスピロピラン系色素;フルオラン系色素;ローダミンラクタム系色素;ナフトキノン系色素;アントラキノン系色素;キノフタロン系色素等が挙げられる。
【0032】
具体的には、イエロー昇華性染料としては、例えば、フォロンブリリアントイエロー−S−6GL(サンド社製ディスパースイエロー231の商品名)、マクロレックスイエロー6G(バイエル社製ディスパースイエロー201の商品名)等が挙げられる。
【0033】
マゼンタ昇華性染料としては、例えば、MS−REDG(バイエル社製ディスパースバイオレット26の商品名)等が挙げられる。
【0034】
シアン昇華性染料としては、例えば、カヤセットブルー714(日本化薬社製ソルベントブルー63の商品名)、フォロンブリリアントブルーS−R(サンド社製ディスパースブルー354の商品名)、ワクソリンAP−FW(ICI社製ソルベントブルー36の商品名)等が挙げられる。
【0035】
また、上記可視染料は、ブラック色の昇華型染料を含有していてもよい。
上記ブラック色の昇華性染料としては、例えば、上記イエロー、マゼンタ、シアン染料の混合物等が挙げられる。
【0036】
また、上記蛍光染料による蛍光画像とは、可視光では視認できないが、紫外光等特殊な光を照射することにより視認することができる画像を意味する。このような潜像画像は、複製防止等のセキュリティー性を有する画像として用いられる。
【0037】
上記蛍光染料としては特に限定されないが、例えば、公知の有機及び無機の蛍光染料を用いることができる。このうち、常態では無色である有機蛍光染料が好ましい。
上記有機蛍光染料としては、三井化学(株)社製のEB−501、EG−502、ER−120、日本化薬(株)社製のEuN−0001、チバ・ジャパン社製のユビテックス OB、シンロイヒ(株)社製の無色蛍光色材、各種蛍光増白剤等が挙げられる。これらの蛍光染料は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0038】
上記可視染料による可視画像、又は、蛍光染料による潜像画像である画像Aは、熱転写により形成される。
上記熱転写は、なかでも熱拡散転写であることが好ましい。画像Aに凹凸が生じず、特に蛍光染料の不可視性に優れ、蛍光染料を用いて印画されていることを発見され難くすることができる。また、他の転写方法と異なり、染料の盛り上がった積層構造は形成されないので、耐擦過性の低下を抑えることができる。
上記熱拡散転写とは、拡散転写や昇華転写とも呼ばれる転写方法であり、典型的には、熱拡散転写シートの染料層を被印画面である接着性染料受容4の画像A形成領域と向き合うようにして重ね合わせ、当該染料層を印画すべき画像情報に従って加熱して染料を接着性染料受容4の画像形成領域へ熱拡散させる方法によって行われる。
【0039】
上記可視染料又は蛍光染料の移行量は、加熱エネルギーを変化させることによって任意に調節することができ、異なる色の染料を組み合わせて使用すると、白色を含む多様な無段階の色調を任意に作り出すことができる。また、転写においてはドットマトリックス方式、重ね印画のいずれも行うことができる。
【0040】
上記熱転写により画像Aを形成する方法としては、色材層に上記可視染料又は蛍光染料を含有する熱転写シートとサーマルヘッド等の加熱デバイスとを用いた従来公知の熱転写方法により形成することができる。
【0041】
本工程で接着性染料受容層4に形成する画像Aとしては、例えば、写真、イラスト、ロゴマーク等のイメージ画像の他、文字情報等が挙げられ、特に限定されない。
【0042】
本発明の熱転写記録方法は、図2(b)に示すように、画像Aを形成した接着性染料受容層4を被転写体5に圧接し、中間転写記録媒体1を被転写体5に転写する工程(2)を有する。
【0043】
上述の通り、接着性染料受容層4は、被転写体5に対する接着性を有する層であるので、接着性染料受容層4と被転写体5とを接するように圧接することで、中間転写記録媒体1を被転写体5に転写することができる。
【0044】
本発明の熱転写記録方法では、被転写体5の種類を問わない。被転写体5としては特に限定されず、例えば、天燃繊維紙、コート紙、トレーシングペーパー、転写時の熱で変形しないプラスチックフィルム、ガラス、金属、セラミックス、木材、布等いずれのものでもよい。
【0045】
また、上記被転写体の形状・用途についても、株券、証券、証書、通帳類、乗車券、車馬券、印紙、切手、鑑賞券、入場券、チケット等の金券類、キャッシュカード、クレジットカード、プリペイドカード、メンバーズカード、グリーティングカード、ハガキ、名刺、運転免許証、ICカード、光カード等のカード類、カートン、容器等のケース類、バッグ類、帳票類、封筒、タグ、OHPシート、スライドフィルム、しおり、カレンダー、ポスター、パンフレット、メニュー、パスポート、POP用品、コースター、ディスプレイ、ネームプレート、キーボード、化粧品、腕時計、ライター等の装身具、文房具、レポート用紙など文具類、建材、パネル、エンブレム、キー、布、衣類、履物、ラジオ、テレビ、電卓、OA機器等の装置類、各種見本帳、アルバム、また、コンピュータグラフィックスの出力、医療画像出力等、種類を問うものではない。
【0046】
本発明の熱転写記録方法は、また、図2(b)に示すように、中間転写記録媒体1の基材フィルム2を剥離して剥離性染料受容層3を露出させる工程(3)を有する。
上述した通り、剥離性染料受容層4は、基材フィルム2に対する離型性を有する層であるので、本工程を行うことで、基材フィルム2を剥離性染料受容層4から容易に引き剥がすことができる。
【0047】
本発明の熱転写記録方法は、図2(c)に示すように、露出させた剥離性染料受容層3に、可視染料による可視画像、又は、蛍光塗料による潜像画像である画像Bを、熱転写により形成する工程(4)を有する。
【0048】
接着性染料受容層3に形成される画像Bは、可視染料による可視画像か、蛍光染料による潜像画像である。
上記可視染料及び蛍光染料としては、上記画像Aにおいて説明したものと同様のものが挙げられる。また、接着性染料受容層3に画像Bを形成する方法としては特に限定されず、上述した接着性染料受容層4に画像Aを形成する方法と同様の方法が挙げられる。
【0049】
本発明の熱転写記録方法では、上述した画像A及び画像Bは、いずれか一方が上記可視画像であると、他方は上記潜像画像である。すなわち、剥離性染料受容層3に形成する画像Bが可視染料による可視画像である場合、上述した接着性染料受容層4に形成する画像Aは、蛍光染料による潜像画像となる。一方、剥離性染料受容層3に形成する画像Bが蛍光染料による潜像画像である場合、接着性染料受容層4に形成する画像Aは、可視染料による可視画像となる。
このようにして画像Aと画像Bとを形成することで、可視染料と蛍光染料との転写領域を完全に分離でき、潜像画像の蛍光強度の低下を充分に抑制することができる。
【0050】
本発明の熱転写記録方法は、図2(d)に示すように、画像Bが形成された剥離性染料受容層3上に、更に保護層6を形成する工程(5)を有することが好ましい。
【0051】
本発明に用いることのできる保護層6としては、通常の印刷物に用いられるものであれば特に限定されず用いることができる。
上述した画像A又は画像Bのいずれか一方である潜像画像の上に更に保護層6を形成すれば、特殊な反射光を用いる等意識的に特別の確認方法を用いても可視光下ではほぼ視認不可能な、より不可視性の高い潜像画像を得ることができる。
【0052】
保護層6は、保護層形成用樹脂を含む塗工組成物を公知の塗工手段で剥離性染料受容層3上に塗布する方法、フィルム状の保護層6をラミネートする方法等で形成することができる。
保護層6は、無色透明、或いは、着色透明等の、転写後にその下層の画像が見える程度の透明で形成される。また、保護層6は、剥離性染料受容層3に対して剥離しない性質であることが必要である。
上記保護層形成用樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル、ポリウレタン、アクリルウレタン等の樹脂の単体又は混合物、これらの樹脂をシリコーン変性させた樹脂、これらの変性樹脂の混合物、電離放射線硬化性樹脂、紫外線遮断性樹脂等が挙げられる。保護層6の厚さとしては、例えば、0.5〜10μm程度に形成される。
【0053】
上記電離放射線硬化性樹脂を含有する保護層6は、耐可塑剤性や耐擦過性が特に優れている。
上記電離放射線硬化性樹脂としては公知のものを使用することができ、例えば、ラジカル重合性のポリマー又はオリゴマー(必要に応じて光重合開始剤を添加)を電離放射線(電子線、紫外線等)によって架橋、硬化させたものを使用できる。
【0054】
上記紫外線遮断性樹脂は、蛍光染料の励起光の大部分を通過させるもの(例えば366nm付近の光を通過させ、短波長の光をカットするもの)であれば、保護層6に含有でき、印画物に耐光性を付与することができる。
【0055】
上記紫外線遮断性樹脂としては、例えば、反応性紫外線吸収剤を熱可塑性樹脂又は上記の電離放射線硬化性樹脂に反応、結合させて得た樹脂を使用することができる。
上記反応性紫外線吸収剤は、サリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、置換アクリロニトリル系、ニッケル−キレート系、ヒンダードアミン系のような非反応性の有機系紫外線吸収剤に、付加重合性二重結合(例えばビニル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基など)、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基のような反応性基を導入したものが挙げられる。
【0056】
本発明の熱転写記録方法によると、上述した構成の中間転写記録媒体を用いるため、被転写物を問わずに転写が可能である。また、接着性染料受容層に形成する画像Aと剥離性染料受容層に形成する画像Bとは、いずれか一方が可視染料による可視画像であると、他方は蛍光染料による潜像画像であるため、形成する画像形成体は、可視染料と蛍光染料との転写領域を完全に分離された状態となり、潜像画像の蛍光強度の低下を充分に抑制することができる。このような本発明の熱転写記録方法により形成される画像形成体もまた、本発明の一つである。
【発明の効果】
【0057】
本発明の熱転写記録方法は、被転写物を問わずに画像の転写が可能であり、蛍光強度が低下することのない蛍光染料による潜像画像を形成することができる。
また、本発明の画像形成体は、本発明の熱転写記録方法により形成されたものであるため、可視染料による可視画像と蛍光染料による潜像画像とが形成されており、該蛍光染料による潜像画像は、蛍光強度が低下することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳述する。なお、文中、部又は%とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0059】
製造例1 中間転写記録媒体の作製
まず、厚さ12μmで透明なポリエチレンテレフタレートを基材フィルムとして用い、その表面に、以下に示す組成の剥離性染料受容層用塗工液を塗布・乾燥して、基材フィルム上に厚さ1.5μmの剥離性染料受容層を形成した。
<剥離性染料受容層用塗工液>
シリコーン変性アクリル樹脂 40部
ポリエステル樹脂 2部
メチルエチルケトン 50部
トルエン 50部
【0060】
次に、以下に示す組成の接着性染料受容層用塗工液を、上記剥離性染料受容層上に塗布・乾燥して、厚さ2.0μmの接着性染料受容層を形成し、中間転写記録媒体を作製した。
<接着性染料受容層用塗工液>
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 40部
アクリル変性シリコーン 1.5部
メチルエチルケトン 50部
トルエン 50部
【0061】
製造例2 熱拡散転写性蛍光発色層を有する熱転写シートの作製
耐熱滑性層を片面に付与した基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート、厚さ5μm)のもう一方の片面に、以下に示す材料を用い、グラビアコートにより、熱拡散転写性蛍光発色層を形成し、熱拡散転写性蛍光発色層を有する熱転写シートを得た。上記熱拡散転写性蛍光発色層の乾燥後の膜厚は0.4μmであった。
<熱拡散転写性蛍光発色層用塗工液>
オキサゾール系蛍光染料 1.5部
ポリビニルアセトアセタール樹脂 3.5部
トルエン 47.5部
メチルエチルケトン 47.5部
ポリエチレンワックス 0.1部
【0062】
製造例3 保護層形成用シートの作製
耐熱滑性層を片面に付与した基材フィルム(ポリエチレンテレフタレート、厚さ5μm)のもう一方の片面に、以下に示す材料を用い、グラビアコートにより、離型層、保護層の順に積層し、保護層形成用シートを形成した。上記離型層、上記保護層の乾燥後の膜厚はそれぞれ、0.5μm、1.0μmであった。
<離型層用塗工液>
・ポリビニルアルコール樹脂 2.0部
・ウレタンエマルジョン樹脂 2.6部
・イソプロピルアルコール 63.6部
・イオン交換水 31.8部
<保護層用塗工液>
・塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂 30部
・トルエン 35部
・メチルエチルケトン 35部
【0063】
(実施例1)
製造例1で作製した中間転写記録媒体の接着性染料受容層に、イエロー、マゼンタ、シアンの各色材層が面順次に設けられた熱転写シートを用い、熱拡散転写法によって画像Aとして可視画像を形成した。その後に、白色塩化ビニルカード(被転写体)に、上記の可視画像が形成された接着性染料受容層を圧接し、中間転写記録媒体を被転写体に転写した。
【0064】
次に、圧接した上記中間転写記録媒体から基材フィルムを剥離させて剥離性染料受容層を露出させた後、製造例2で得られた熱転写シートを用い、熱拡散転写法によって画像Bとして潜像画像を形成し、可視画像と潜像画像とが形成された画像形成体を作製した。
【0065】
(実施例2)
上記実施例1で作製した画像形成体の剥離性受容層上に、さらに製造例3で得られた保護層形成用シートを使用して熱拡散転写法によって保護層を形成した以外は、上記実施例1と同様の方法で画像形成体を作製した。
【0066】
(実施例3)
製造例1で作製した中間転写媒体の接着性染料受容層に、画像Aとして製造例2で得られた熱転写シートを用いて潜像画像を形成し、中間転写媒体から基材フィルムを剥離させて露出させた剥離性染料受容層に、画像Bとしてイエロー、マゼンタ、シアンによる可視画像を形成させた(すなわち、実施例1と画像形成順序を反対にしている)以外は、上記実施例1と同様の方法で画像形成体を作製した。
【0067】
(実施例4)
上記実施例3で作製した画像形成体の剥離性受容層上に、さらに製造例3で得られた保護形成用シートを使用して熱拡散転写法によって保護層を形成した以外は、上記実施例1と同様の方法で画像形成体を作製した。
【0068】
(比較例1)
製造例1で作製した中間転写媒体の接着性染料受容層に、イエロー、マゼンタ、シアンによる可視画像を形成させ、さらに蛍光染料による潜像画像を重ねて形成してから、白色塩化ビニルカードに、上記の可視画像が形成された接着性染料受容層を圧接し、中間転写記録媒体を被転写体に転写して画像形成体を作製した。
【0069】
(比較例2)
製造例1で作製した中間転写媒体の接着性染料受容層に、蛍光染料による潜像画像を形成させ、さらにイエロー、マゼンタ、シアンによる可視画像を重ねて形成してから、白色塩化ビニルカードに、上記の可視画像が形成された接着性染料受容層を圧接し、中間転写記録媒体を被転写体に転写して画像形成体を作製した。
【0070】
(参考例1)
製造例1で作製した中間転写媒体の接着性染料受容層に、画像Aとして熱拡散転写性蛍光発色層を設けた熱転写リボンによって潜像画像を形成させ、中間転写媒体から基材フィルムを剥離させて露出させた剥離性染料受容層には何も画像を形成しないことで、蛍光強度測定のリファレンス用の画像形成体を作製した。
【0071】
下記手順にて、各実施例及び比較例で作製した画像形成体の評価を行った。各結果を表1に示す。
【0072】
<潜像画像の視認性>
実施例及び比較例で作製した画像形成体の潜像画像について、紫外線(365nm)照射環境下における目視観察を行い、目視確認の可否(視認性)を以下の基準により評価した。
(潜像画像の視認性評価基準)
○:視認しやすい
△:視認しにくい
×:ほとんど視認できない
【0073】
<潜像画像の不可視性>
実施例及び比較例で作製した画像形成体の潜像画像を通常光源下(白色光・太陽光)で目視観察し、目視確認の可否(不可視性)を以下の基準により評価した。
(不可視性評価基準)
○:通常状態では目視不可能
△:通常状態で反射光でなら確認可能
×:通常でも潜像画像が見えてしまう
【0074】
<潜像画像の蛍光強度>
実施例及び比較例で作製した画像形成体の潜像画像の蛍光強度を日本分光製、分光蛍光光度計FP−6600にて、蛍光強度を測定した。このとき、熱拡散転写性蛍光染料のみを転写した場合(参考例1)の蛍光強度を1として、実施例および比較例における相対蛍光強度を算出した。
【0075】
【表1】

【0076】
各実施例の画像形成体は、被転写体を問わず可視染料による可視画像と蛍光染料による蛍光画像との転写が可能であった。また、熱拡散転写性蛍光染料層を設けた熱転写シートを用いて得られた画像は、不可視性に優れる(特に保護層を設けると、より好ましい実施形態となる)とともに、蛍光強度が充分なものであった。
一方、各比較例の画像形成体は、同一層に可視画像と蛍光画像が転写された場合には、バックトラップ等の影響によって蛍光強度が低下し、充分な視認性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の熱転写記録方法は、被転写物を問わずに画像の転写が可能であり、蛍光強度が低下することのない蛍光染料による潜像画像を形成できる。また、本発明の画像形成体は、潜像画像の蛍光強度に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明で用いる中間転写記録媒体の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】(a)〜(d)は、本発明の熱転写記録方法を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1:中間転写記録媒体
2:基材フィルム
3:剥離性染料受容層
4:接着性染料受容層
5:被転写体
6:保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上に、少なくとも剥離性染料受容層と接着性染料受容層とがこの順で積層された構造の中間転写記録媒体の前記接着性染料受容層に、可視染料による可視画像、又は、蛍光染料による潜像画像である画像Aを、熱転写により形成する工程(1)、
前記画像Aを形成した接着性染料受容層を被転写体に圧接し、前記中間転写記録媒体を前記被転写体に転写する工程(2)、
前記中間転写記録媒体の前記基材フィルムを剥離して前記剥離性染料受容層を露出させる工程(3)、及び、
露出させた前記剥離性染料受容層に、可視染料による可視画像、又は、蛍光塗料による潜像画像である画像Bを、熱転写により形成する工程(4)を有し、
前記画像A及び画像Bは、いずれか一方が前記可視画像であり、他方が前記潜像画像である
ことを特徴とする熱転写記録方法。
【請求項2】
可視染料は、イエロー染料、マゼンタ染料及びシアン染料からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の熱転写記録方法。
【請求項3】
蛍光染料は、可視光以外の光を照射することによって蛍光色で視認することができる染料である請求項1又は2記載の熱転写記録方法。
【請求項4】
画像Bが形成された剥離性染料受容層上に、更に保護層を形成する工程(5)を有する請求項1、2又は3記載の熱転写記録方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の熱転写記録方法により形成されることを特徴とする画像形成体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−83376(P2009−83376A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257979(P2007−257979)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】