説明

熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法

【課題】加熱された金属板材に対し、プレス成形、切除加工具の負担を十分に軽減した状態での切除加工及び焼入れを一連の工程として施すことが可能な熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法を提供する。
【解決手段】熱間プレス加工装置は、相対接近離間可能な下型10及び上型20、並びに、上型20の側に設けられた切除加工具としてのトリム刃5を備える。下型10及び上型20は、トリム刃5による金属板材Mの切除対象部位又はその近傍を協働して挟圧可能な切除対象押圧部12,23をそれぞれに有している。下型の切除対象押圧部12及び上型の切除対象押圧部23には、ペルチェモジュール3がそれぞれ組み込まれている。各ペルチェモジュール3は、そのペルチェモジュール3を流れる直流電流の向きを制御する電流制御回路6を介して直流電源7に電気的に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱された金属板材に対してプレス成形、切除加工及び焼入れを一連の工程として施すための熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工の分野では、出発材となる鋼板をその焼入温度まで加熱し、高温状態にある鋼板を相対的に低温の金型でプレスすることにより、プレス成形と焼入れとを同時に行うホットプレス加工法(熱間プレス加工法)が知られている。但し多くの場合、単純な熱間プレス加工だけで所望形状の金属製品が得られるわけではないので、熱間プレス加工で得られた一次成形品に対しトリミングや孔あけ等の機械的な切除加工を施して最終製品を得るのが一般的である。しかしながら、プレス成形後の切除加工は、プレス成形と同時の焼入れによって硬度を増した一次成形品に対するものであったため、トリム刃等の切除加工具が非常に傷み易く、切除加工具の寿命が短縮傾向にあるという問題があった。
【0003】
かかる工具短命化の問題を解決するための対策として、特許文献1は鋼材のホットプレス加工方法及び装置を開示する。特許文献1の加工装置では、上型(可動型)に対向する下型をダイクッションで浮動支持することにより、型合わせ後も上下両型を幾分の相対移動可能に構成すると共に、下型の側に切除加工手段としての加工刃(22)及びトリム刃(26)を設けている。そして、ホットプレス加工に際しては、焼入温度まで加熱された鋼材を上下型でプレスする過程において、加工刃及びトリム刃による穿孔及びトリミングを同時進行的に施すと共に、その穿孔等の後で、上型がダイクッションの反発力に抗して下型を押圧し、ダイクッションが縮みきった位置で上型が下型を押圧し続けて鋼材を急冷することにより、切除加工直後の鋼材に対して焼入れを施している。特許文献1の加工方法によれば、上下型間に挟まれた高温の鋼材が、本格的な焼入れを受ける前の実質的に未硬化な状態で穿孔及びトリミングを施されるため、加工刃及びトリム刃の負担を軽減してこれら切除加工具の寿命の大幅短縮を防止できる、とのことである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−248253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のホットプレス加工装置及び方法によっても、加工刃やトリム刃等の切除加工具を十分に延命させることは現実には難しいと思われる。なぜなら、ダイクッションが縮みきった位置で上下型による本格的な焼入れが行われる前のプレス成形の過程で既に、加熱状態にある鋼材の全体が低温の下型及び上型に接触する。つまり、型への接触時点から、鋼材全体が冷やされることによる鋼材全体の硬化が始まっているのである。それ故、そのような鋼材に作用する切除加工具の負担(機械的な負荷)が十分に軽減されるとは言い難い。
【0006】
本発明の目的は、加熱された金属板材に対し、プレス成形、切除加工具の負担を十分に軽減した状態での切除加工及び焼入れを一連の工程として施すことが可能な熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法を提供することにある。そして、切除加工具の延命を図ると共に、プレス成形及び切除加工が施された金属板材に対し焼入れを施すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱間プレス加工装置は、相対接近離間可能な第1及び第2の型、並びに、前記第1及び第2の型のうちの一方の側に設けられた切除加工具を備え、加熱された金属板材に対してプレス成形、切除加工及び焼入れを施すための熱間プレス加工装置であって、前記第1及び第2の型は、前記切除加工具による前記金属板材の切除対象部位又はその近傍を協働して挟圧可能な切除対象押圧部をそれぞれに有しており、前記第1の型の切除対象押圧部及び前記第2の型の切除対象押圧部のうちの少なくとも一方には、ペルチェモジュールが組み込まれていることを特徴とするものである。より好ましくは、前記ペルチェモジュールは、そのペルチェモジュールを流れる直流電流の向きを制御する電流制御回路を介して直流電源に電気的に接続されている熱間プレス加工装置である。
【0008】
本発明の熱間プレス加工方法は、相対接近離間可能な第1及び第2の型、並びに、前記第1及び第2の型のうちの一方の側に設けられた切除加工具を備え、前記第1及び第2の型は、前記切除加工具による金属板材の切除対象部位又はその近傍を協働して挟圧可能な切除対象押圧部をそれぞれに有しており、前記第1の型の切除対象押圧部及び前記第2の型の切除対象押圧部のうちの少なくとも一方には、ペルチェモジュールが組み込まれている熱間プレス加工装置を用いた、金属板材の熱間プレス加工方法である。そして、前記ペルチェモジュールに直流電流を流して当該ペルチェモジュールが組み込まれている切除対象押圧部の表面を予め加熱する予熱工程と、加熱された金属板材を前記第1及び第2の型の間に配置し、これら第1及び第2の型でプレス成形するプレス成形工程と、前記プレス成形時に前記第1の型の切除対象押圧部と前記第2の型の切除対象押圧部とによって挟圧される前記金属板材の前記切除対象部位に対し、前記プレス成形とほぼ同期して前記切除加工具による切除加工を施す切除加工工程と、前記切除加工と同時又はその直後に、前記ペルチェモジュールを流れる直流電流の向きを逆転させ、当該ペルチェモジュールが組み込まれている切除対象押圧部の表面を加熱から一転して冷却することにより、当該切除対象押圧部に接触する前記金属板材の切除対象部位又はその近傍に対し焼入れを施す局部焼入れ工程とを順次実行することを特徴とする熱間プレス加工方法である。
【0009】
[作用]
本発明のポイントは、熱間プレス加工装置にペルチェモジュールが組み込まれている点にある。ペルチェモジュールでは、それを流れる直流電流の向きに応じて、当該モジュールの表裏両面のうちの一方が加熱され、他方が冷却される。かかるペルチェモジュールの特性を利用することで、ペルチェモジュールが組み込まれている第1の型の切除対象押圧部及び/又は第2の型の切除対象押圧部の各表面の温度を加熱状態又は冷却状態のいずれかに適宜コントロールすることができ、ひいては、当該切除対象押圧部の表面に接する金属板材の切除対象部位又はその近傍における金属組織の状態を制御可能となる。
【0010】
本発明の熱間プレス加工方法は、本発明の熱間プレス加工装置を用いて実施される。先ず、熱間プレス加工装置のペルチェモジュールに直流電流を流すことで、ペルチェモジュールが組み込まれている切除対象押圧部の表面を予め加熱する(予熱工程)。すると、第1の型及び/又は第2の型において、ペルチェモジュールが組み込まれている切除対象押圧部の表面は加熱状態となり、その切除対象押圧部以外の表面は非加熱状態(つまり相対的に低温の状態)におかれる。次に、加熱された金属板材を第1及び第2の型の間に配置し、これら第1及び第2の型でプレス成形する(プレス成形工程)。すると、第1及び第2の型の付形作用により金属板材は両型の形状に応じた形状にプレス成形される。但し、ペルチェモジュールで予熱された切除対象押圧部によって押圧される金属板材の切除対象部位又はその近傍では、顕著な温度低下がなく直ちに焼きが入らないのに対し、非加熱状態にある切除対象押圧部以外の型部位によって押圧される金属板材の残部には、金属板材と型との間の大きな温度差に基づいて焼きが入る。
【0011】
上記プレス成形時に第1の型の切除対象押圧部と第2の型の切除対象押圧部とによって挟圧される金属板材の切除対象部位に対し、上記プレス成形とほぼ同期して切除加工具による切除加工を施す(切除加工工程)。この段階では、上述のように金属板材の切除対象部位又はその近傍は焼入れが施されておらず未硬化であるので、切除加工具による切除加工が非常に円滑に施される。よって、切除加工具の負担も軽く刃こぼれ等も生じにくい。更には、切除加工と同時又はその直後に、前記ペルチェモジュールを流れる直流電流の向きを逆転させ、当該ペルチェモジュールが組み込まれている切除対象押圧部の表面を加熱から一転して冷却する(局部焼入れ工程)。すると、その切除対象押圧部に接触している金属板材の切除対象部位又はその近傍に対しても焼入れが施される。
【0012】
このように本発明の熱間プレス加工方法によれば、ペルチェモジュールが組み込まれていない切除対象押圧部以外の型部位によって押圧される金属板材の部分には、プレス成形と同時に焼入れが施されるのに対し、ペルチェモジュールが組み込まれている切除対象押圧部によって押圧される金属板材の切除対象部位又はその近傍には、プレス成形段階では焼入れが施されず、切除加工具による切除加工と同時又はその直後にペルチェモジュールを流れる直流電流の向きを逆転させることを契機として焼入れが施される。従って、プレス成形及び切除加工が施された金属板材の全体に対して満遍なく焼入れが施される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱間プレス加工装置及び熱間プレス加工方法によれば、加熱された金属板材に対し、プレス成形、切除加工具の負担を十分に軽減した状態での切除加工及び焼入れを一連の工程として施すことができる。そして、切除加工具の延命を図ると共に、プレス成形及び切除加工が施された金属板材の全体に対して満遍なく焼入れを施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態の熱間プレス加工装置は、固定土台である下型ベース1と、その下型ベース1の上方に配設された上型ベース2とを備えている。上型ベース2は図示しない支持駆動機構によって垂直方向(上下方向)に移動可能に支持されており、その結果、下型ベース1に対して接近及び離間可能となっている。
【0015】
下型ベース1の上には、第1の型又は固定型としての下型10が固定設置されている。この下型10は、上方に向けて盛り上がった中央凸部11と、その中央凸部11を間に挟んで左右に配置された二つのダイ部12とを備えており、全体として上に凸の横断面形状を有している。左右のダイ部12は下型10の一部をなすものであり、各ダイ部12には水平な上面12a及び垂直な側面12bがそれぞれ形成されている。
【0016】
各ダイ部の水平な上面12aは、プレス成形時に前記中央凸部11と共にワーク(加工対象物)としての金属板材Mを押圧して金属板材Mのプレス成形に関与する付形用の押圧表面である。他方、各ダイ部の垂直な側面12bは、後述する上型側のトリム刃5と協働して金属板材Mの左右端部のトリム加工にかかわる固定側刃面として機能するものである。そして、左右のダイ部12の各々の内部には、ペルチェモジュール3が組み込まれている。各ダイ部12に組み込まれたペルチェモジュール3は、外部からの給電制御に基づき、各ダイ部12の上面12a(押圧表面)を加熱又は冷却する。
【0017】
上型ベース2の下側には、第2の型又は可動型としての上型20が、スプリング4を介して上型ベース2に対し垂直方向に若干相対移動可能に連結支持されている。図2及び図3に示すように、上型20は、上型本体21と、その上型本体21の下面左右両側に一体装着される左右の入れ子部23とからなっている。より具体的には、上型20は、下面側に開口した中央凹部22を有する上型本体21と、その中央凹部22を間に挟んで左右に配置された二つの入れ子部23とを備えており、全体として下に凹の横断面形状を有している。左右の入れ子部23は上型20の一部をなすものであり、各入れ子部23には水平な下面23a及び垂直な側面23bがそれぞれ形成されている。
【0018】
各入れ子部の水平な下面23aは、プレス成形時に前記上型本体21と共にワークとしての金属板材Mを押圧して金属板材Mのプレス成形に関与する付形用の押圧表面である。他方、各入れ子部の垂直な側面23bは、上型本体21の左右の垂直な側面21aと連続することで、後述するトリム刃5用の摺動ガイド面を提供するものである。そして、左右の入れ子部23の各々の内部には、ペルチェモジュール3が組み込まれている。各入れ子部23に組み込まれたペルチェモジュール3は、外部からの給電制御に基づき、各入れ子部23の下面23a(押圧表面)を加熱又は冷却する。
【0019】
図1に示すように、上型ベース2の下側には更に、切除加工具としての左右一対のトリム刃5が設けられている。両トリム刃5は上型ベース2に固定されているため、上型ベース2及び上型20と共に、下型ベース1及び下型10に対し接近及び離間可能である。但し、前記スプリング4の伸縮に応じて上型本体21が上型ベース2に対し相対変位する際には、両トリム刃5は、上型本体の左右の側面21a及び左右の入れ子部の各側面23bに沿って垂直方向に相対移動する。
【0020】
この熱間プレス加工装置によれば、下型10と上型20との接合時又は最接近時には、下型の中央凸部11に対して上型の中央凹部22が嵌合すると共に、下型10の左右のダイ部の上面12aに対して上型20の左右の入れ子部の下面23aがそれぞれ当接可能である。また、上型側の両トリム刃5は、下型のダイ部上面12aと上型の入れ子部下面23aとに挟圧されて両部12,23間に保持された金属板材Mの左右端部(切除対象部位)に対し、ダイ部の側面12bに沿ったトリム加工(具体的には垂直切断)を施すための切除加工具である。従って、本実施形態における下型のダイ部12及び上型の入れ子部23は、「切除加工具による金属板材Mの切除対象部位又はその近傍を協働して挟圧可能な切除対象押圧部」と位置付けられる。
【0021】
図1に示すように、下型10及び上型20に組み込まれた合計4つのペルチェモジュール3は、各ペルチェモジュール3を流れる直流電流の向きを制御する電流制御回路6を介して直流電源7に電気的に接続されている。ここで、ペルチェモジュールについて簡単に説明する。ペルチェモジュール3とは、図5に示すようなP型半導体及びN型半導体の接合対からなる熱電冷却素子30を一構成単位として、図4に示すように、複数個の熱電冷却素子30を電気的に直列接続してユニット化したものをいう。ペルチェモジュール3を構成する熱電冷却素子30にあっては、特定の一方向に直流電流を流すことによって、素子の上面31及び下面32のうち一方が加熱されると共に他方が冷却され、又、直流電流の向きを逆転させることによって素子の上下面31,32における加熱・冷却の関係が切り替わる。ちなみに、直流電流の流れの向きが図4及び図5に示す向きの場合には、熱電冷却素子の上面31が冷却面(吸熱面)となり、下面32が加熱面(放熱面)となる。図5の回路図において二つのスイッチ33,34を同時に切り替えると、直流電流の流れの向きが逆転し、熱電冷却素子の上面31が加熱面(放熱面)となり、下面32が冷却面(吸熱面)となる。なお、図5において、熱電冷却素子30と電池35(直流電源)との間に介在する回路(前記二つのスイッチ33,34を含む回路)は、ペルチェモジュール3を流れる直流電流の向きを制御する電流制御回路6の一例を示すものである。
【0022】
次に、本実施形態の熱間プレス加工装置を用いた金属板材Mの熱間プレス加工方法について、図1、図6及び図7を参照しながら説明する。
【0023】
熱間プレス加工の開始に先立ち、図1に示すように、下型10から上型20を離間させた状態で上型ベース2、トリム刃5及び上型10を上方に待機させておく。この待機時に直流電源7から電流制御回路6を介して、下型10及び上型20のそれぞれのペルチェモジュール3に直流電流を供給する。各ペルチェモジュール3に直流電流を流すことで、下型の左右ダイ部の上面12a及び上型の左右入れ子部の下面23aを加熱し、これら上面12a及び下面23aの表面温度を約600〜700℃に昇温させる。なお、ペルチェモジュール3が組み込まれた下型の左右ダイ部12及び上型の左右入れ子部23を除く、下型10及び上型20の中央部は非加熱状態にあり、それらの中央部の表面温度はほぼ常温(例えば30℃前後)に保たれる。
【0024】
次に、ワークとしての金属板材Mを図示しない加熱装置で焼入温度にまで加熱する。例えば、金属板材Mが鉄製の高張力鋼板である場合には850〜1050℃の温度に加熱する。そして、この高温状態にある金属板材Mを加熱装置から熱間プレス加工装置に高速搬送し、図1に示すように、下型10の中央凸部11上に載置することで下型10及び上型20間に配置する。金属板材Mの配置完了後間髪を入れず上型ベース2を下動させ、図6に示すように、下型10及び上型20で金属板材Mを挟圧することにより、金属板材Mをプレス成形する。
【0025】
このプレス成形工程での上下型の付形作用により、金属板材Mは下型10及び上型20の接合時形状に応じた所定形状にプレス成形される。そして、下型10及び上型20において非加熱状態にある下型の中央凸部11及び上型の中央凹部22(つまり切除対象押圧部以外の型部位)によって押圧される金属板材Mの中央部には、プレス成形と同時に焼入れが施される。これに対し、ペルチェモジュール3で予熱された下型ダイ部12及び上型入れ子部23によって挟圧される金属板材Mの左右端部(即ち切除対象部位)付近では、金属板材Mと下型ダイ部12及び上型入れ子部23との間に大きな温度差が無く顕著な温度低下が無いために焼きが入らない。それ故この段階では、金属板材Mの中央部は左右端部に先行して焼入れによる硬化が始まるが、金属板材Mの左右端部は600℃以上の温度を保っており硬化は始まらない。
【0026】
図6の状態から引き続き上型ベース2をスプリング4の反発力に抗して下動させ、図7に示すように、下型10上に停止する上型20に対して上型ベース2及びトリム刃5を更に下動させることにより、下型ダイ部12及び上型入れ子部23によって挟圧保持された金属板材Mの左右端部に対しトリム加工を施す。このトリム加工によれば、上型本体の側面21a及び上型入れ子部の側面23bに沿って上から下に摺動するトリム刃5と、下型ダイ部の側面12b(即ち固定側刃面)とが交差する過程で、金属板材Mの左右端部が切り落とされる。なお、このトリム加工段階では、金属板材Mの左右端部に連なる部位が焼入れ硬化されていないこと、及び、当該部位がペルチェモジュール3からの熱によってある程度の軟化状態に保たれていることのために、トリム刃5による金属板材Mの切断が非常に円滑に行われる。従って、トリム刃5の負担も軽くなり、刃こぼれ等もほとんど生じない。
【0027】
更に本実施形態では、トリム刃5によるトリム加工の開始とほぼ同時に、電流制御回路6が各ペルチェモジュール3を流れる直流電流の向きを逆転させる。例えば、下型10への接合により停止した上型20に対するトリム刃5の相対変位の発生をセンサーで感知した場合に、電流制御回路6によって直流電流の向きを逆転させる。各ペルチェモジュール3を流れる直流電流の向きの逆転により、下型の左右ダイ部の上面12a及び上型の左右入れ子部の下面23aがそれまでの加熱から一転して冷却され、これら上面12a及び下面23aの表面温度が常温又はそれ以下の温度にまで低下する。すると、下型のダイ部12及び上型の入れ子部23に挟圧された金属板材Mの部位にも焼入れが施される。
【0028】
このように本実施形態の熱間プレス加工方法によれば、非加熱状態にある下型の中央凸部11及び上型の中央凹部22によって押圧される金属板材Mの中央部には、プレス成形と同時に焼入れが施されるのに対し、ペルチェモジュール3が組み込まれた下型のダイ部12及び上型の入れ子部23に挟圧される金属板材Mの左右端部付近には、プレス成形段階では焼入れが施されず、トリム刃5によるトリム加工とほぼ同時にペルチェモジュール3を流れる直流電流の向きを逆転させることを契機としてトリム加工後に焼入れが施される。こうして、プレス成形及びトリム加工後の金属板材Mの全体に対して満遍なく焼入れが施される結果となる。
【0029】
以上説明したように本実施形態によれば、加熱された金属板材Mに対し、プレス成形、トリム刃5の負担を十分に軽減した状態でのトリム加工及び焼入れを一連の工程として施すことができる。それ故、トリム刃5の延命を図ることができると共に、プレス成形及びトリム加工が施された金属板材Mの全体に対し満遍なく焼入れを施すことができる。
【0030】
[変更例]上記実施形態では、切除加工具としてトリム刃5を使用する熱間プレス加工装置及び方法を説明したが、切除加工具として孔あけ加工用パンチ8を使用する熱間プレス加工装置及び方法に本発明を適用することもできる。例えば図8(A)に示すように、上型20の一部に孔あけ加工用パンチ8を当該上型20に対して相対移動可能に設けると共に、下型10には前記孔あけ加工用パンチ8に対応するパンチ受容孔(貫通孔)9を設ける。更に、孔あけ加工用パンチ8を取り囲んでいる上型20の切除対象押圧部25に対してペルチェモジュール3を組み込むと共に、パンチ受容孔9を取り囲んでいる下型10の切除対象押圧部15に対してもペルチェモジュール3を組み込んで、熱間プレス加工装置を構築する。そして、加熱された金属板材Mを下型の切除対象押圧部15及び上型の切除対象押圧部25によって挟圧するプレス成形にほぼ同期して、図8(B)に示すように、金属板材Mに孔あけ加工用パンチ8を貫通させて孔あけ加工を施す。孔あけ加工の前後で各ペルチェモジュール3を流れる直流電流の向きを逆転させることにより、上下型の切除対象押圧部15,25の表面を加熱状態から冷却状態に切り替える。この方法によれば、金属板材Mに対する孔あけ加工と、それに続く金属板材Mの孔の周辺部位への焼入れとを連続的且つ円滑に施すことができる。
【0031】
[変更例]上記実施形態では、上型20の側にトリム刃5を設けたが、下型10の側に同様のトリム刃を設けてもよい。
【0032】
[変更例]上記実施形態では、下型10及び上型20の双方にペルチェモジュール3を組み込んだが、下型10又は上型20のいずれか一方のみにペルチェモジュール3を組み込んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】一実施形態に従う熱間プレス加工装置の概略を示す正面図。
【図2】図1の二点鎖線で囲んだ部分を拡大して示す部分断面図。
【図3】上型を分解して示す分解斜視図。
【図4】ペルチェモジュールの概略を示す斜視図。
【図5】ペルチェモジュールの熱電冷却素子の電気的構成を示す概略回路図。
【図6】熱間プレス加工装置によるプレス成形工程を示す正面図。
【図7】熱間プレス加工装置による切除加工工程及び局部焼入れ工程を示す正面図。
【図8】(A)及び(B)は、切除加工の別例を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0034】
3…ペルチェモジュール、5…トリム刃(切除加工具)、6…電流制御回路、7…直流電源、8…孔あけ加工用パンチ(切除加工具)、10…下型(第1の型又は固定型)、12…ダイ部(切除対象押圧部)、15…切除対象押圧部、20…上型(第2の型又は可動型)、23…入れ子部(切除対象押圧部)、25…切除対象押圧部、M…ワークとしての金属板材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対接近離間可能な第1及び第2の型、並びに、前記第1及び第2の型のうちの一方の側に設けられた切除加工具を備え、加熱された金属板材に対してプレス成形、切除加工及び焼入れを施すための熱間プレス加工装置であって、
前記第1及び第2の型は、前記切除加工具による前記金属板材の切除対象部位又はその近傍を協働して挟圧可能な切除対象押圧部をそれぞれに有しており、前記第1の型の切除対象押圧部及び前記第2の型の切除対象押圧部のうちの少なくとも一方には、ペルチェモジュールが組み込まれていることを特徴とする熱間プレス加工装置。
【請求項2】
前記ペルチェモジュールは、そのペルチェモジュールを流れる直流電流の向きを制御する電流制御回路を介して直流電源に電気的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス加工装置。
【請求項3】
相対接近離間可能な第1及び第2の型、並びに、前記第1及び第2の型のうちの一方の側に設けられた切除加工具を備え、前記第1及び第2の型は、前記切除加工具による金属板材の切除対象部位又はその近傍を協働して挟圧可能な切除対象押圧部をそれぞれに有しており、前記第1の型の切除対象押圧部及び前記第2の型の切除対象押圧部のうちの少なくとも一方には、ペルチェモジュールが組み込まれている熱間プレス加工装置を用いた、金属板材の熱間プレス加工方法であって、
前記ペルチェモジュールに直流電流を流して当該ペルチェモジュールが組み込まれている切除対象押圧部の表面を予め加熱する予熱工程と、
加熱された金属板材を前記第1及び第2の型の間に配置し、これら第1及び第2の型でプレス成形するプレス成形工程と、
前記プレス成形時に前記第1の型の切除対象押圧部と前記第2の型の切除対象押圧部とによって挟圧される前記金属板材の前記切除対象部位に対し、前記プレス成形とほぼ同期して前記切除加工具による切除加工を施す切除加工工程と、
前記切除加工と同時又はその直後に、前記ペルチェモジュールを流れる直流電流の向きを逆転させ、当該ペルチェモジュールが組み込まれている切除対象押圧部の表面を加熱から一転して冷却することにより、当該切除対象押圧部に接触する前記金属板材の切除対象部位又はその近傍に対し焼入れを施す局部焼入れ工程と
を順次実行することを特徴とする熱間プレス加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−68282(P2008−68282A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248831(P2006−248831)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)