説明

熱間プレス成形方法及び装置

【課題】多様な形状の成形品に対して高強度化が必要な部位にのみ焼き入れを行うことができる熱間プレス成形方法及び装置を提供すること。
【解決手段】成形品各部の要求強度に応じてワークWを加熱制御した後、プレス成形しつつ冷却することにより焼き入れを行う熱間プレス成形装置10において、ワークWを焼き入れ可能温度以上に加熱する電極31と、電極31により加熱中のワークWの任意の箇所にエアを噴射するエアブローノズル32と、エアブローノズル32からワークWに対して噴射されるエアの噴射領域を制限する仕切り板33とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形素材を加熱した後にプレス成形しつつ焼き入れを行う熱間プレス成形方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では、燃費の向上を通じて二酸化炭素の排出量を削減するため、及び安全性能の向上を図るためなどの理由から、自動車構造部材の高強度化(ハイテン化)が進められており、その代表的な素材である鋼板も高強度鋼板の使用比率が高まってきている。ところが、部材(素材)の高強度化を図るにつれて、素材の伸びなどの成形性が劣化してしまうため、成形時に割れやシワが発生したり、寸法精度不良が発生したり、あるいは後抜き加工が困難になってしまう等の問題があった。また、高強度化に伴い部材接合時の溶接品質(例えば、板合わせ精度の低下、電極のあたり不良、電極の寿命低下など)や生産性も悪化してしまう。さらに、高強度な材料ほど材料特性のバラツキが大きくなるため、プレス性や溶接性の安定化を図ることが困難となるという問題もあった。
【0003】
このような問題を解決する方法として、ダイクエンチ法と呼ばれるプロセスを挙げることができる。このダイクエンチ法は、素材を所定の温度(例えば、オーステナイト相となる温度)に加熱して強度を下げた(すなわち、成形を容易にした)後、素材に比べて低温(例えば室温)の金型で成形することによって、形状の付与と同時に両者の温度差を利用した急冷熱処理(焼き入れ)を行って成形後の強度を確保するというものである。この方法により、成形時の割れやシワの問題及び寸法精度不良の問題は解消される。しかしながら、この方法では素材全体の強度が上がってしまうため、後抜き加工性及び溶接性の問題を解消することができない。
【0004】
このため、プレス成形時に素材に対して部分的に焼き入れを行う技術が種々提案されている。これらの技術では、熱間プレスを行う際に成形品各部の強度を任意に設定できるように、加熱手段及び冷却手段によって、素材に所定の温度分布を形成しておき、プレス成形しつつ焼き入れを行うようにしている。例えば、特許文献1に記載の技術では、素材へのマスキングや搬送装置との接触抜熱によって素材に所定の温度分布を形成している。また、特許文献2に記載の技術では、焼き入れ必要部位に加熱電極を配置することによって素材に所定の温度分布を形成している。このようにして、素材に所定の温度分布を形成した後にプレス成形することにより、部分的に焼き入れが行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−212690号公報
【特許文献2】特開2008−87001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に記載された技術のようにマスキングや搬送装置との接触抜熱では、成形品ごとあるいは冷却部位ごとに専用品を作成する必要があり、多様な形状の成形品に対応することが困難であるという問題があった。また、段差を有する等複雑な形状では、マスキングや搬送装置を接触させることできず、素材に所定の温度分布を成形することができないという問題もあった。
【0007】
また、上記した特許文献2に記載された技術では、電極間で挟まれた領域外へ加熱領域が拡がってしまうため、素材に所定の温度分布を成形することが困難であり、高強度化が必要な部位にのみ焼き入れを行うことが実際上、非常に困難である。そして、複雑な形状では、この問題が顕著になる。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、多様な形状の成形品に対して高強度化が必要な部位にのみ焼き入れを行うことができる熱間プレス成形方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、成形品各部の要求強度に応じて成形素材を加熱制御した後、プレス成形しつつ冷却することにより焼き入れを行う熱間プレス成形方法において、成形素材を焼き入れ可能温度以上に加熱する加熱工程と、前記加熱工程により加熱中の成形素材の任意箇所に冷媒を噴射して局部的に加熱温度を焼き入れ可能温度よりも低くするように成形素材の加熱制御を行う加熱制御工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
この熱間プレス成形方法では、加熱工程にて、成形素材が焼き入れ可能温度以上に加熱される。そして、加熱制御工程にて、加熱工程により加熱中の成形素材の任意箇所に冷媒が噴射される。これにより、冷媒が噴射された部分の温度は、焼き入れ可能温度よりも低い状態が維持される。その結果、成形素材のうち強度が要求される部分のみを焼き入れ可能温度以上に加熱することができる。つまり、成形素材に所定の温度分布を適切に形成することができる。このようにして加熱制御された成形素材が、低温(室温)の金型でプレス成形される。このとき、成形素材のうち焼き入れ可能温度以上に加熱された部分が急冷され、この部分にのみ焼き入れがなされた成形品が完成する。
【0011】
そして、この熱間プレス成形方法では、冷媒の噴射位置を調整するだけで非焼き入れ領域を簡単かつ正確に形成することができる。また、この方法ではマスキングや搬送装置を接触させて抜熱するのではなく非接触方式であるため、段差を有する等複雑な形状であっても、成形素材に所定の温度分布を成形することができる。これらのことにより、この熱間プレス成形方法によれば、多様な形状の成形品にも対応することができる。
【0012】
このように、この熱間プレス成形方法によれば、成形品の形状に応じてフレキシブルに成形素材において所望の温度分布を形成することができるため、多様な形状の成形品に対して高強度化が必要な部位にのみ焼き入れを行うことができる。
【0013】
本発明に係る熱間プレス成形方法において、前記加熱制御工程では、冷媒の噴射領域を制限することにより、成形素材の加熱温度を局部的に焼き入れ可能温度よりも低くすればよい。
あるいは、前記加熱制御工程では、冷媒の噴射角度を成形素材に対して焼き入れ部分の外側方向に傾斜させることにより、成形素材の加熱温度を局部的に焼き入れ可能温度よりも低くしてもよい。
【0014】
このように、冷媒の噴射領域を制限したり、冷媒の噴射角度を傾斜させることにより、冷媒噴射によって冷却領域(非焼き入れ領域)を精度良く形成することができる。つまり、成形品の要求強度に応じて、成形素材に所望の温度分布を精度良く形成することができる。
【0015】
上記課題を解決するためになされた発明は、成形品各部の要求強度に応じて成形素材を加熱制御した後、プレス成形しつつ冷却することにより焼き入れを行う熱間プレス成形装置において、成形素材を焼き入れ可能温度以上に加熱する加熱手段と、前記加熱手段により加熱中の成形素材の任意の箇所に冷媒を噴射する冷媒噴射手段と、前記冷媒噴射手段から成形素材に対して噴射される冷媒の噴射領域を制限する制限手段と、を有することを特徴とする。
【0016】
この熱間プレス成形装置では、加熱手段により、成形素材が焼き入れ可能温度以上に加熱される。この成形素材加熱中に、冷媒噴射手段により、成形素材に冷媒が噴射される。このとき、制限手段により、冷媒噴射手段から噴射される冷媒の噴射領域が制限される。これにより、成形素材の任意箇所に対して精度良く冷媒を噴射することができる。そして、冷媒が噴射された部分の温度は、焼き入れ可能温度よりも低い状態が維持される。その結果、成形素材のうち強度が要求される部分のみを焼き入れ可能温度以上に加熱することができる。つまり、成形素材に所定の温度分布を適切に形成することができる。その後、このようにして加熱された成形素材が、素材に比べて低温の金型でプレス成形されて成形品が完成する。
【0017】
また、この熱間プレス成形装置では、マスキングや搬送装置を接触させて抜熱するのではなく、冷媒を噴射して成形素材の温度を制御する非接触方式であるため、段差を有する等複雑な形状であっても、成形素材に所定の温度分布を成形することができる。従って、この熱間プレス成形装置によれば、多様な形状の成形品に対して高強度化が必要な部位にのみ焼き入れを行いつつプレス成形することができる。
【0018】
本発明に係る熱間プレス成形装置において、前記制限手段としては、成形素材における冷媒噴射領域と冷媒非噴射領域とを仕切る仕切り板、あるいは成形素材における冷媒非噴射領域に流れる冷媒を吸引する冷媒吸引手段を用いればよい。
【0019】
このような構成にすることにより、冷媒噴射手段から噴射される冷媒の噴射領域を制限する制限手段を、簡単な構成で実現することができる。つまり、非常に簡単な構成によって、冷媒の噴射領域を正確に設定することができるため、成形素材のうち強度が要求される部分のみを焼き入れ可能温度以上に加熱することができる。
【0020】
そして、本発明に係る熱間プレス成形装置において、前記制限手段は、前記冷媒噴射手段に一体的に設けられていることが望ましい。
【0021】
このように、制限手段が冷媒噴射手段に一体化されていることにより、冷媒噴射手段と制限手段とを別々に配置する必要がなくなるため、成形素材に所定の温度分布を形成するための時間を短縮することができる。その結果、生産性を向上させることができる。
【0022】
また、本発明に係る熱間プレス成形装置において、前記制限手段は、成形素材に対する冷媒の噴射角度を成形素材の焼き入れ部分の外側方向に傾斜させるように、前記冷媒噴射手段の噴射方向を制御する制御手段であってもよい。
【0023】
このように、冷媒噴射手段の噴射方向を、成形素材に対する冷媒の噴射角度が成形素材の焼き入れ部分の外側方向に傾斜するように制御手段によって制御することによっても、成形素材の任意箇所(非焼き入れ領域)に対してのみ冷媒を噴射することができる。従って、成形素材のうち強度が要求される部分(焼き入れ領域)のみを焼き入れ可能温度以上に加熱することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る熱間プレス成形方法及び成形装置によれば、上記した通り、複雑な形状を含む多様な形状の成形品に対してプレス成形時に高強度化が必要な部位にのみ焼き入れを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態に係る成形装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】ワーク加熱機構部付近の拡大図である。
【図3】ワーク加熱部の概略構成を示す平面図である。
【図4】ワーク加熱部に備わるエアブローノズルの概略構成を示す図である。
【図5】吸引ノズルを備えるエアブローノズルの概略構成を示す図である。
【図6】ノズル噴射角可変ユニットを備えるエアブローノズルの概略構成を示す図である。
【図7】ワークに所定の温度分布を形成(加熱制御)している様子を示す図である。
【図8】プレス成形した成形品を示す斜視図である。
【図9】プレス成形した成形品を示す断面図である。
【図10】プレス成形した成形品の各部における硬度を示す図である。
【図11】長手方向に湾曲した断面ハット状の成形品を示す斜視図である。
【図12】図11に示す成形品を成形する際における各エアブローノズルの配置位置を示す図である。
【図13】長手方向に湾曲した断面ハット状の成形品を示す斜視図である。
【図14】図12に示す成形品を成形する際における各エアブローノズルの配置位置を示す図である。
【図15】成形装置の変形例の概略構成を示す図である。
【図16】後抜き加工を行う場合におけるエアブローノズルの配置位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した最も好適な実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。そこで、本実施の形態に係る成形装置について、図1〜図4を参照しながら説明する。図1は、実施の形態に係る成形装置の概略構成を示す正面図である。図2は、ワーク加熱機構部付近の拡大図である。図3は、ワーク加熱部の概略構成を示す平面図である。図4は、ワーク加熱部に備わるエアブローノズルの概略構成を示す図である。
【0027】
図1に示すように、本実施の形態に係る成形装置10には、ワークWをプレス成形するプレス加工部11と、プレス加工部11によるプレス成形前にワークWに所望の温度分布を形成するためのワーク加熱部30とが備わっている。なお、ワークWは、平板状の鋼板である。
【0028】
プレス加工部11には、上下動可能に設けられた上型12と、この上型12に対向するように固定配置された下型13とが備わっている。上型12には、下方側に突出する突出部12aが設けられ、下型13には、突出部12aに対応して凹状に形成された凹部13aが形成されている。そして、上型12の突出部12aと下型13の凹部13aとを組み合わせることで、ワークWを断面ハット状(コ字形断面の両端に外側へ張り出すフランジが一体成形された形状)に成形するように構成されている。
【0029】
このプレス加工部11では、上型12がスプリング14及びスプリングガイド15を介して上型プレート16に取り付けられ、この上型プレート16が上型ホルダ17に取り付けられている。一方、下型13が、下型ホルダ18に取り付けられている。そして、下型ホルダ18に固定されたアウタガイド19が、上型ホルダ17に備わるアウタガイド用ブッシュ20に組み込まれている。また、上型プレート16に固定されたインナガイド21が、上型12に設けられたインナガイド用ブッシュ22と、下型13に設けられたインナガイド用ブッシュ23とに組み込まれている。これらにより、プレス加工部11において、上型12と下型13との位置決め精度が確保されている。
【0030】
そして、不図示の駆動機構が上型ホルダ17に連結されており、上型ホルダ17を上下方向に移動させるようになっている。これにより、上型12がスプリングガイド15及び上型プレート16を介して上型ホルダ17に取り付けられているため、上型12は、駆動機構によって上型ホルダ17が上下方向に移動されることにより上下方向に移動されるようになっている。この上型12の上下移動により、上型12と下型13とが当接・離間してワークWがプレス加工される。
【0031】
ワーク加熱部30には、ワークWの長手方向両端に配置されワークWを電気的に加熱する電極31と、ワークWを局部的に冷却するエアブローノズル32とが備わっている。
電極31は、図2、図3に示すように、互いに離間するようにワークWの両端に配置され、不図示の電源に接続されている。そして、この電極31をそれぞれワーク1に接触させて通電することにより、電極31間に発生するジュール熱でワークWを焼き入れ可能温度以上に加熱することができるようになっている。また、電極31にはそれぞれ、電極31を移動させる電極移動機構(不図示)が連結されており、この電極移動機構により、ワークWを加熱する際には電極31を所定の位置に配置することができるとともに、ワークWをプレス加工する際には上型12と下型13との間から退避させることができるようになっている。
【0032】
また、エアブローノズル32は、図3に示すように、ワークWの短手方向両側(プレス成形後にフランジ部となる部分に相当)にそれぞれ、ほぼ等間隔(20〜40mm間隔程度)に複数配置されている。本実施の形態では、エアブローノズル32は、直線状に配置されている。なお、エアブローノズル32の数や配置形状は、プレス成形品の形状及び焼き入れを行う箇所などによって決まる。このエアブローノズル32には、図4に示すように、冷媒であるエアの噴射領域を制限する仕切り板33が一体的に設けられている。これにより、非常に簡単な構成によって、冷媒の噴射領域を正確に設定することができるとともに、ノズル32と仕切り板33とを別々に配置する必要がなくなるため、ワークWに所定の温度分布を形成するために必要な時間を短縮することができる。
【0033】
ここで、エアブローノズル32のエア噴射領域を制限するために、仕切り板33の代わりに図5に示すように、吸引ノズル34を設けてもよい。このような吸引ノズル34を設けることにより、吸引ノズル34外に流れ出ようとする気流を吸引ノズル34で吸引することで、エアの噴射領域を一定範囲に制限することができ、ワークWに精度良く焼き入れ領域R1と非焼き入れ領域R2とを形成することができる。
【0034】
あるいは、図6に示すように、エアブローノズル32のエア噴射角を可変させるノズル噴射角可変ユニット35を設けることもできる。このようなノズル噴射角可変ユニット35を設け、エアブローノズル32から噴射されるエアの噴射角度をワークWの焼き入れ領域R1の外側方向に傾斜させることにより、エアの噴射領域を一定範囲に制限することができ、ワークWに精度良く焼き入れ領域R1と非焼き入れ領域R2とを形成することができる。なお、エアの噴射角度は、ワークWに対して直交する方向でなく、ワークWに対して傾斜する方向に傾斜している。
【0035】
そして、エアブローノズル32にはそれぞれ、エアブローノズル32を移動させるノズル移動機構(不図示)が連結されており、このノズル移動機構により、ワークWを冷却(加熱制御)する際にはエアブローノズル32を任意の位置に配置することができるとともに、ワークWをプレス加工する際には上型12と下型13との間から退避させることができるようになっている。これにより、エアブローノズル32からの噴射エアによって冷却領域(非焼き入れ領域)を任意に設定することができる。
【0036】
なお、上記した各種機構の作動は、成形装置10を統括的に制御する制御ユニット(不図示)によって制御されるようになっている。また、この制御ユニットは、電極31への通電時間やエアブローノズル32の噴射時間なども制御するようになっている。
【0037】
続いて、上記した成形装置10による熱間プレス成形方法について、図1及び図7〜図9を参照しながら説明する。図7は、ワークに所定の温度分布を形成(加熱制御)している様子を示す図である。図8は、プレス成形した成形品を示す斜視図である。図9は、プレス成形した成形品を示す断面図である。
【0038】
まず、略平板状のワークWが成形装置10の所定位置にセットされ、ワークWの長手方向両側に電極31が配置される。この電極31の配置とともに、各エアブローノズル32も所定位置に配置される。これら電極31及びエアブローノズル32の配置は、成形装置10の制御ユニットによる各機構の動作制御により行われる。なお、電極31及びエアブローノズル32の配置位置に関するデータは、ワークWの大きさや形状、及び成形品の形状などに基づき、予め成形装置10の制御ユニットに記憶されており、成形するワークに応じて自動的に電極31及びエアブローノズル32が所定の位置に配置される。
【0039】
ここで、本実施の形態では、略平板状のワークWを図8に示す断面ハット状(コ字形断面の両端に外側へ張り出すフランジが一体成形された形状)にするとともに、両側のフランジが焼き入れされないように熱間プレス成形を行う。このため、プレス成形後にフランジとなる部分(ワークWの短手方向両端部)を冷却する(加熱されないようにする)必要があるので、図7に示すように、ワークWの短手方向両端部に沿ってエアブローノズル32が直線状にほぼ等間隔で配置される。
【0040】
そして、成形装置10の制御ユニットの制御により、電極31に通電されて、電極31間に発生するジュール熱によりワークWが焼き入れ可能温度以上に加熱される。このとき、各エアブローノズル32からエアが噴射されてワークWの短手方向両端部が冷却される。ここで、各エアブローノズル32には、エアの噴射領域を制限する仕切り板33が一体的に設けられているので、ワークWにおいて、エア噴射領域とエア非噴射領域とを正確に区画することができる。なお、隣接するエアブローノズル32の間には、20〜40mm程度の隙間があるが、この部分は除変エリアとなるため焼き入れ可能温度以上になることはない。その結果、ワークWに所望の温度分布を形成することできるので、ワークWには、図7に示すように電極31間において、焼き入れ可能温度(AC1点)以上に加熱される焼き入れ領域R1(ハッチング部分)と、AC1点未満の温度に維持(冷却)される非焼き入れ領域R2(非ハッチング部分)とが精度良く形成される。
【0041】
このようにして、ワークWに焼き入れ領域R1と非焼き入れ領域R2とが形成されると、成形装置10の制御ユニットの制御により、電極31及び各エアブローノズル32が上型12と下型13との間から退避させられる。そして、上型12が下降してきて、上型12の突出部12aと下型13の凹部13aとが組み合わされる。これにより、ワークWが断面ハット状にプレス成形される。このとき、ワークWのうち焼き入れ領域R1では、上型12及び下型13によって急激に熱が奪われて急冷される。これにより、ワークWの焼き入れ領域R1に対して焼き入れがなされる。その後、成形されたワークWが成形装置10から取り出される。かくして製作された成形品40は、図8、図9に示すように、フランジ部41を備え、断面ハット状に形成されている。そして、成形品40において、図8に示すように、頭部42と側部43とに焼き入れがなされ(ハッチング部分)、フランジ部41には焼き入れがなされていない。
【0042】
ここで、上記のようにして作成された断面ハット状の成形品40の各部における硬度を計測したので、その計測結果を図10に示す。図10は、プレス成形した成形品の各部における硬度を示す図である。なお、図10に示す測定位置(1)〜(19)は、図9に示す番号(1)〜(19)に対応している。
【0043】
図10から明らかなように、成形品40の頭部42に該当する測定位置(8)〜(12)、及び側部43に該当する測定位置(4)〜(7)と(13)〜(16)においては、焼き入れが行われた結果として硬度が高くなっておりハイテン化されている。一方、成形品40のフランジ部41に該当する測定位置(1)〜(3)と(17)〜(19)においては、焼き入れが行われていない結果として硬度が低くハイテン化されていない。このように、成形装置10によれば、成形品40の必要な部位(頭部42と側部43)だけに焼き入れを行ってハイテン化することができる。
【0044】
その後、2つの成形品40が、フランジ部41同士が重ね合わせられてフランジ部41にて、例えばスポット溶接等によって溶接される。また、必要に応じて接合されたフランジ部41に対して後抜き加工が施される。これにより、中空状の閉断面と、その閉断面から外方へ延びるフランジ部を備えた自動車構造部品が完成する。そして、フランジ部41は焼き入れがなされていないので、良好な溶接品質が確保されており、また、後抜き加工性にも優れている。
【0045】
そして、本実施の形態に係る成形装置10では、各エアブローノズル32を任意の位置に配置することができるため、ワークにおいて焼き入れ可能温度まで加熱されない非焼き入れ領域を精度良く任意に形成することができる。これにより、例えば、図11や図13に示すような長手方向に湾曲した断面ハット状の成形品45,46であっても、ハイテン化が必要な部分(ハッチング部分:焼き入れ領域R1)にのみ焼き入れを行うことができる。この場合には、図12や図14に示すように、各エアブローノズル32が所定の曲率を描くように配置すればよい。なお、成形品45は、図12に示すように略長方形状のワークWから成形され、成形品46は、図13に示すように略弓状のワークWaから成形されたものである。
【0046】
また、成形装置10では、マスキングや搬送装置などを接触させて抜熱するのではなく、エアを噴射してワークの温度を制御(冷却)する非接触方式であるため、ワークが段差を有するような形状であっても、エアブローノズル32の配置高さを調節することにより、ワークに所望の温度分布を簡単かつ精度良く成形することができる。従って、このような場合でも、ハイテン化が必要な部分のみに正確に焼き入れを行うことができる。
【0047】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係る成形装置10によれば、プレス成形前に、電極31によりワークWが焼き入れ可能温度以上に加熱されるとともに、エアブローノズル32から噴射されるエアによってワークWの短手方向両端部(フランジ部41に相当する部分)の温度が焼き入れ可能温度よりも低い状態に維持される。これにより、ワークWのうち強度が要求される部分(頭部42及び側部43に相当する部分)のみを焼き入れ可能温度以上に加熱することができる。つまり、ワークWに所定の温度分布を適切に形成することができる。そして、このようにして加熱制御されたワークWが、室温の上型12及び下型13によってプレス成形されるとともに、ワークWのうち焼き入れ可能温度以上に加熱された部分(頭部42及び側部43)に焼き入れがなされる。これにより、強度が要求される頭部42及び側部43のみに焼き入れをなした断面ハット状の成形品40を形成することができる。
【0048】
そして、本実施の形態に係る成形装置10では、マスキングや搬送装置を接触させて抜熱するのではなく、エアを噴射してワークの温度を制御(冷却)する非接触方式であるため、段差を有する等複雑な形状のワークであっても、ワークに所定の温度分布を精度良く成形することができる。また、エアブローノズル32の配置位置を変更するだけで、エア噴射領域(非焼き入れ領域R2)を任意に設定することができる。従って、多様な形状の成形品を高強度化が必要な部位にのみ焼き入れを行いつつ成形することができる。
【0049】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、断面ハット状にプレス加工する場合を例示したが、これ以外の形状のプレス加工や絞り加工などに対しても本発明を適用することができる。また、上記した実施の形態では、自動車構造部品の成形に本発明を適用した場合を例示したが、本発明は、自動車構造部品に限られず強度の造り分けを必要とする鋼板製品などに幅広く適用することができる。
【0050】
さらに、上記した実施の形態では、エア噴射のみによってワークの加熱制御を行っているが、これに冷却パッドなどによる抜熱などを併用してワークの加熱制御を行うこともできる。
【0051】
また、上記した実施の形態では、ワークWを上型12と下型13との間で加熱しているが、これに限らず、図15に示すように、上型12及び下型13から離間した位置でワークWを加熱し、加熱したワークWを上型12と下型13との間に搬送してプレス成形することもできる。
さらに、上記した実施の形態では、ワークWの加熱制御としてワークWの長手方向両端を冷却する場合を例示したが、これに限らず、例えば図16に示すように、ワークWに後抜き加工を行う箇所にエアブローノズル32を配置し、この部分を冷却することもできる。これにより、後抜き加工を精度よく行うことができる。なお、図16に示すようなエアブローノズル32の配置と上記した実施の形態におけるエアブローノズル32の配置とを任意に組み合わせることもできる。
【符号の説明】
【0052】
10 成形装置
11 プレス加工部
12 上型
12a 突出部
13 下型
13a 凹部
30 ワーク加熱部
31 電極
32 エアブローノズル
33 仕切り板
34 吸引ノズル
35 ノズル噴射角可変ユニット
40 成形品
41 フランジ部
42 頭部
43 側部
R1 焼き入れ領域
R2 非焼き入れ領域
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品各部の要求強度に応じて成形素材を加熱制御した後、プレス成形しつつ冷却することにより焼き入れを行う熱間プレス成形方法において、
成形素材を焼き入れ可能温度以上に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程により加熱中の成形素材の任意箇所に冷媒を噴射して局部的に加熱温度を焼き入れ可能温度よりも低くするように成形素材の加熱制御を行う加熱制御工程と、
を含むことを特徴とする熱間プレス成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載する熱間プレス成形方法において、
前記加熱制御工程では、冷媒の噴射領域を制限することにより、成形素材の加熱温度を局部的に焼き入れ可能温度よりも低くする
ことを特徴とする熱間プレス成形方法。
【請求項3】
請求項1に記載する熱間プレス成形方法において、
前記加熱制御工程では、冷媒の噴射角度を成形素材に対して焼き入れ部分の外側方向に傾斜させることにより、成形素材の加熱温度を局部的に焼き入れ可能温度よりも低くする
ことを特徴とする熱間プレス成形方法。
【請求項4】
成形品各部の要求強度に応じて成形素材を加熱制御した後、プレス成形しつつ冷却することにより焼き入れを行う熱間プレス成形装置において、
成形素材を焼き入れ可能温度以上に加熱する加熱手段と、
前記加熱手段により加熱中の成形素材の任意の箇所に冷媒を噴射する冷媒噴射手段と、
前記冷媒噴射手段から成形素材に対して噴射される冷媒の噴射領域を制限する制限手段と、
を有することを特徴とする熱間プレス成形装置。
【請求項5】
請求項4に記載する熱間プレス成形装置において、
前記制限手段は、成形素材における冷媒噴射領域と冷媒非噴射領域とを仕切る仕切り板である
ことを特徴とする熱間プレス成形装置。
【請求項6】
請求項4に記載する熱間プレス成形装置において、
前記制限手段は、成形素材における冷媒非噴射領域に流れる冷媒を吸引する冷媒吸引手段である
ことを特徴とする熱間プレス成形装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載する熱間プレス成形装置において、
前記制限手段は、前記冷媒噴射手段に一体的に設けられている
ことを特徴とする熱間プレス成形装置。
【請求項8】
請求項4に記載する熱間プレス成形装置において、
前記制限手段は、成形素材に対する冷媒の噴射角度を成形素材の焼き入れ部分の外側方向に傾斜させるように、前記冷媒噴射手段の噴射方向を制御する制御手段である
ことを特徴とする熱間プレス成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−179317(P2010−179317A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22530(P2009−22530)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)