説明

熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛み検出方法およびクロップ2枚噛みによる通板トラブル防止方法

【課題】熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛みを確実に検出し、クロップ2枚噛みによる通板トラブルを確実に防止する。
【解決手段】熱間圧延ライン100における仕上圧延機とクロップシャーの間に設けたピンチロール5の負荷あるいは高さがある一定の値以上となったときに、クロップシャーによる被圧延材8の切除が完全でなかったものと判断して被圧延材8の仕上圧延機への噛み込みを中断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛み検出方法およびクロップ2枚噛みによる通板トラブル防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延とは、一般的に、連続鋳造または造塊、分塊によって製造されたスラブ状の金属材料を加熱炉にて数百〜千数百℃に加熱した後、熱間圧延ライン上に抽出し、一対または複数対のロールで挟圧しつつそのロールを回転させることで、薄く延ばし、コイル状に巻き取る一連のプロセスである。
【0003】
図2は、従来から一般的に用いられている熱間圧延ライン100の一例を示す。加熱炉10により数百〜千数百℃に加熱された厚み120〜270mmの金属材料(以下、被圧延材)8は、粗圧延機12、仕上圧延機18により厚み0.8〜25mmまで圧延されて金属帯状に薄く延ばされる。7はテーブルロールであり、被圧延材8を搬送する。
【0004】
粗圧延機12は、図2に示す熱間圧延ライン100の場合、R1〜R3の3基であるが、1基〜6基までさまざまなものがある。
【0005】
仕上圧延機18を構成する各圧延機(スタンド)の数は、図2に示す熱間圧延ライン100の場合、F1〜F7の7基であるが、6基のものもある。
【0006】
これら各種基数の違いはあるが、粗圧延機12は、往復圧延または一方向圧延あるいは両者により、一般的に、合計で6回あるいは7回の圧延を行なって、粗圧延後の被圧延材8を、それにつづく仕上圧延機18に向け供給する。6回あるいは7回の圧延を行なうことを、6パスあるいは7パスの圧延を行うともいう。
【0007】
仕上圧延機18は、多くの場合、複数の圧延機で同時に圧延するタンデム圧延機の形式をとる。仕上タンデム圧延機という呼び方もあるが、略して単に「仕上圧延機」と称されることが多い。19はワークロール、19Aはバックアップロール、20はルーパである。各ロール19、19Aは、高温の被圧延材と接触するので、冷却水にて冷却されている。
【0008】
ところで、先述のように数百〜千数百℃に加熱された高温の被圧延材8には、加熱炉10から抽出されたとき、その表裏面に酸化物の層(以下、スケール)が生成している。この他、圧延され薄く延ばされるとともに放熱により降温していく過程でも、被圧延材8は高温の状態で大気に曝されるため、新たなスケールが被圧延材8の表裏面に生成する。このため、粗圧延機12の中の各圧延機の入側には、ポンプからの供給圧にして10〜30MPa内外の高圧水を被圧延材8の表裏面に吹き付けてスケールを除去するデスケーリング装置16が設置され、スケールを除去している。
【0009】
14はクロップシャーであり、仕上圧延前に被圧延材8の先尾端のクロップ(被圧延材8の先尾端の、いびつな形状の部分)を切断除去し、仕上圧延機18にスムーズに噛み込みやすい略矩形の平面形状に整形する。
【0010】
50は制御装置、70はプロセスコンピュータ、90はビジネスコンピュータである。
【0011】
ところで、クロップシャー14で被圧延材8の先端を切断しようとしても、切除が完全でなく、切除すべきであった被圧延材片が付着したまま仕上圧延機18に噛み込まれてしまう場合がある。
【0012】
そのような場合、図3に示すごとく、被圧延材8と同じ厚さの切除すべきであった被圧延材片が、被圧延材8の先端において、その被圧延材8の上または下に折れ重なるようにして、仕上圧延機18の第1圧延機F1に噛み込まれてしまうことになる。
【0013】
そうなると、予定していたのの2倍もの厚さの被圧延材8を予期せず圧延することになるF1には、設備仕様上の圧延荷重上限を上回る圧延荷重が作用して、最悪の場合、設備が破損する。
【0014】
特許文献1では、熱間圧延ラインにおいて、クロップシャー14でのクロップの落下による衝撃を感知することにより、切除すべきであった被圧延材片が付着したまま仕上圧延機18に噛み込まれてしまうのを防止することを提案している
なお、後述の発明を実施するための最良の形態に登場する関係で、特許文献2につき、ここで言及しておく。
【0015】
すなわち、特許文献2では、図4に示すように、仕上圧延機18の入側にあるデスケーリング装置16とクロップシャー14の中間にピンチロール5を設け、被圧延材8の先端がピンチロール5の直下を所定距離通過した時点で、ピンチロール5の上下ロールのギャップを狭めて、デスケーリング装置16から噴射される大量の水の水切りを開始し、被圧延材8の尾端ががピンチロール5の直下よりも入側所定距離の位置に到達した時点で、ピンチロール5の上下ロールのギャップを拡げて同水切りを終了させることを提案している。
【特許文献1】特開昭48−057868号公報
【特許文献2】特開昭59−104212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1の技術では、クロップの落下による衝撃が微弱だと、これを感知し得ない場合があり、効果に限界があった。
【0017】
本発明は、従来技術のかかる問題を解決するためになされたものであり、熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛みを確実に検出し、クロップ2枚噛みによる通板トラブルを確実に防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記のような目的を達成するための本発明は、以下の通りである。
(1)熱間圧延ラインにおける仕上圧延機とクロップシャーの間に設けたピンチロールの負荷がある一定の値以上になったときに、クロップシャーによる被圧延材の切除が完全でなかったものと判断することを特徴とする熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛み検出方法。
(2)熱間圧延ラインにおける仕上圧延機とクロップシャーの間に設けたピンチロールの高さがある一定の値以上になったときに、クロップシャーによる被圧延材の切除が完全でなかったものと判断することを特徴とする熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛み検出方法。
(3)(1)または(2)の方法によりクロップシャーによる被圧延材の切除が完全でなかったものと判断した場合に、被圧延材の仕上圧延機への噛み込みを中断することを特徴とする熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛みによる通板トラブル防止方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛みを確実に検出し、クロップ2枚噛みによる通板トラブルを確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態の一例を、図を参照して説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態の一例である。5が熱間圧延ライン100における仕上圧延機とクロップシャーの間に設けたピンチロールである。M1がピンチロール5を回転駆動するモータである。M2が上下ピンチロール5の開度を調節するためのギャップアジャストモータである。Sは空気圧あるいは油圧などの流体圧シリンダである。ギャップアジャストモータM2により上下ピンチロール5の間隙を被圧延材8と同じにしておき、そこへ被圧延材8の先端が進入してくる。シリンダSのロッドの位置制御は、図示しない電空ポジショナあるいはシルナックセンサなどを用いて制御装置50から行う。
【0021】
ピンチロール5は、本来、先述の特許文献2の説明にもある通り、デスケーリング装置16から噴射される大量の水の水切りをするためのものであるが、本発明では、これを流用し、ピンチロール5の負荷がある一定の値以上となったときに、クロップシャーによる被圧延材8の切除が完全でなかったものと判断する。
【0022】
その判断は、制御装置50に送られるモータM1の負荷電流の大きさにもとづいて、制御装置50内で行うようにするのが好ましいが、それに限るものではない。例えば、負荷としては、シリンダS内の作動流体に作用する圧力をセンサで感知し、その信号を制御装置50に送って判断するようにしてもよいし、被圧延材8をピンチロール5が噛み込む際にシリンダSに作用する反力を図示しない荷重計で感知し、その信号を制御装置50に送って判断するようにしてもよいし、あるいは、モータM1の駆動軸にストレインゲージを貼り付けておいて、同駆動軸に作用するトルクを感知し、その信号を制御装置50に送って判断するようにするなどしてもよい。
【0023】
さらにまた別の実施の形態としては、図1(b)に示したごとく、ピンチロール5の高さがある一定の値以上となったときに、クロップシャーによる被圧延材8の切除が完全でなかったものと判断する。図1(b)の例では上側のピンチロール5だけが昇降可能であるため、上側のピンチロール5の高さを図示しない位置センサなどにより感知し、その信号を制御装置50に送って判断すればよいが、下側のピンチロール5だけが昇降可能であったり、上下両方のピンチロール5が昇降可能であったりする場合は、下側あるいは上下両側のピンチロール5の高さを図示しない位置センサなどにより感知し、その信号を制御装置50に送って判断するようにしてもよい。
【0024】
しかし、いずれにしても、クロップシャーによる被圧延材8の切除が完全でなかったものと判断した場合には、被圧延材8の仕上圧延機18への噛み込みを中断するようにするのが好ましい。ここでいう中断は中止も含む。
【0025】
仕上圧延機への噛み込みを中断した被圧延材8は、搬送方向Aとは逆方向に若干引き戻し、被圧延材8の先端において、その被圧延材8の上または下に折れ重なっている部分を切除完了した上で、仕上圧延機に噛み込ませるようにするのが好ましい。
【0026】
被圧延材8の仕上圧延機への噛み込みを中止するようにしても、クロップ2枚噛みによる通板トラブルそのものは防止できるが、人力による残材の処理が必要になり、労力がかかるとともに、処理する間、熱間圧延ライン100の操業を停止しなければならない。
【0027】
このため、折れ重なっている部分を切除完了した上で、仕上圧延機に噛み込ませるようにした方が、人力による残材の処理なども一切不要で、好都合といえる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す線図
【図2】本発明を適用すべき熱間圧延ラインの一例を示す線図
【図3】従来技術の問題について説明するための線図
【図4】従来技術について説明するための線図
【符号の説明】
【0029】
5 ピンチロール
7 テーブルロール
8 被圧延材
9 幅プレス
10 加熱炉
12 粗圧延機
13 エッジャーロール
14 クロップシャー
15 仕上入側温度計
16 デスケーリング装置
16a ノズル
18 仕上圧延機
19 ワークロール
19A バックアップロール
20 ルーパ
21 仕上出側温度計
22 仕上出側板厚計
23 ランナウトテーブル
24 コイラー
25 コイラー入側幅計
50 制御装置
70 プロセスコンピュータ
90 ビジネスコンピュータ
100 熱間圧延ライン
A 搬送方向
M1 モータ
M2 ギャップアジャストモータ
S 流体圧シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延ラインにおける仕上圧延機とクロップシャーの間に設けたピンチロールの負荷がある一定の値以上になったときに、クロップシャーによる被圧延材の切除が完全でなかったものと判断することを特徴とする熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛み検出方法。
【請求項2】
熱間圧延ラインにおける仕上圧延機とクロップシャーの間に設けたピンチロールの高さがある一定の値以上になったときに、クロップシャーによる被圧延材の切除が完全でなかったものと判断することを特徴とする熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛み検出方法。
【請求項3】
請求項1または2の方法によりクロップシャーによる被圧延材の切除が完全でなかったものと判断した場合に、被圧延材の仕上圧延機への噛み込みを中断することを特徴とする熱間圧延ラインにおける仕上圧延機でのクロップ2枚噛みによる通板トラブル防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−221315(P2008−221315A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66234(P2007−66234)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)