説明

熱間等方圧加圧装置に用いられる焼成体の製造方法

【課題】熱間等方圧加圧装置の加熱装置を保持する支持体と断熱構造体を製造する際に、機械加工が容易であって、且つ1200℃以上で使用しても破損や断熱効果の低下が起きない焼成体を得ることのできる焼成体の製造方法を提供する。
【解決手段】熱間等方圧加圧装置に用いられる焼成体の製造方法では、セラミックス繊維から成る織布又は不織布に、金属酸化物のバインダを含浸させて、成形型26を形成する成型工程S1と、前記成形型26を1200℃未満で焼成して密度1.5〜2.5g/cm3の1次焼成品27を焼成する第1焼成工程S2と、前記1次焼成品に対して機械加工を行う機械加工工程S3と、前記機械加工後の1次焼成品を1200℃以上で焼成して2次焼成品28を前記焼成体として得る第2焼成工程S4とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間等方圧加圧装置に用いられる焼成体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間等方圧加圧法(熱間静水圧プレス法、HIP法)は、高圧ガス雰囲気下で金属やセラミックス材料を高密度に焼成したり拡散接合したりする方法であって、粉末材料の高密度焼結又は拡散接合、あるいは鋳造品のガス気孔や巣等の欠陥除去に広く使用されている。このHIP法の実施に用いられる熱間等方圧加圧装置(以下、HIP装置)は、高圧ガスの封入が可能な高圧容器を備えている。そして、この高圧容器は、被処理体を取り囲むように配置され且つ当該被処理体を加熱する加熱装置と、当該加熱装置を保持する支持体と、前記加熱装置及び支持体を取り囲むように配置された断熱構造体とを内部に備えている。
【0003】
ところで、従来のHIP装置には、加熱装置を支持する支持体や断熱構造体の内壁材に耐熱性に優れるモリブデン合金などが用いられてきた。しかし、モリブデン合金は、材料価格が高価であり、また高圧ガスに窒素を用いた場合には窒化する可能性がある。そこで、特許文献1のように支持体や内壁材を無機質材の焼成体で形成したHIP装置が開発されている。
特許文献1では、支持体や断熱構造体の焼成体を次のような方法で製造している。まず、支持体の焼成体については、アルミナを主成分とするセラミックス繊維により形成された織布を円筒形に巻き上げて成型した後、これに酸化物系のゾル又は酸化物微粉末スラリー(アルミナまたはシリカ系のゾル)を含浸して成形型を形成する。そして、この成形型を焼成し、焼成品に対して孔あけや窓部の形成などの機械加工を行って焼成体を製造している。
【0004】
また断熱構造体の焼成品については、支持体の焼成体同様な方法で焼成を行い、焼成品に対して焼成体を断熱構造体下部の固定部材に取り付けるための孔あけなどの機械加工を行って、焼成体を製造している。このようにして得られた支持体や断熱構造体の焼成体に対しては加熱装置や高圧容器が取り付けられ、これらをHIP装置として組み立てている。
【特許文献1】特開2007−78293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1で用いられる焼成体は、アルミナを主成分とするセラミックス繊維と金属酸化物の微粒子との複合無機質材より成る。この複合無機質材は、1200℃以上の焼成温度で焼成を行うと、焼成が進んで硬度が増加し、機械加工性が著しく低下する。それゆえ、特許文献1のHIP装置では、焼成後に機械加工を行うのが非常に困難であり、加工時間が長くなるなどの問題が生じていた。
一方、複合無機質材は、焼成温度を1200℃未満に下げると、焼成後の機械加工は容易となる。しかし、HIP装置では1200℃以上で実使用されることは少なくない。
【0006】
それゆえ、例えば支持体については、1200℃未満で焼成されたものをHIP装置に組み込むと、1200℃以上の実使用で焼成が進み、支持体とヒータエレメントとの寸法差が大きくなってHIP装置の破損を招く原因となる。
また、内壁材については、例えば1200℃未満で焼成されたものを断熱構造体に用いると、1200℃以上の実使用で内壁材が焼成により収縮し、内壁材と断熱材との間に隙間ができて断熱性能が低下し、HIP装置の断熱効果の低下を招く原因となる。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、機械加工が容易に行えるものでありながら、1200℃以上で実使用しても支持体の破損や断熱効果の低下が起きることがない熱間等方圧加圧装置に用いられる焼成体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の熱間等方圧加圧装置に用いられる焼成体の製造方法は次の技術的手段を講じている。
即ち、被処理体を取り囲むように配置され且つ当該被処理体を加熱する加熱装置と、当該加熱装置を支持する支持体と、前記加熱装置及び支持体に対して外套状に配置される断熱構造体とを高圧容器内に備える熱間等方圧加圧装置に関し、前記支持体と断熱構造体の内壁材とを焼成体で形成する際に用いられる焼成体の製造方法であって、前記焼成体を、以下の(1)〜(4)の工程に従って製造することを特徴とする。
【0008】
(1)セラミックス繊維から成る織布又は不織布に、金属酸化物のバインダを含浸させて、成形型を形成する工程
(2)前記成形型を1200℃未満で焼成して密度1.5〜2.5g/cm3の1次焼成品を焼成する工程
(3)前記1次焼成品に対して機械加工を行う工程
(4)前記機械加工後の1次焼成品を1200℃以上で焼成して2次焼成品とし、この2次焼成品を前記焼成体として得る工程
このようにすれば、1200℃未満で1次焼成が行われているので、1次焼成で焼成が進んで材料の硬度が大きく増加することはない。それゆえ、1次焼成後に機械加工を行う際には高速度鋼製や超硬合金製の一般的な工具を用いて容易に機械加工することができる。
【0009】
そして、機械加工後の焼成体を1200℃以上で2次焼成してから熱間等方圧加圧装置として組み立てているため、1200℃を超える温度で実使用しても組立後に焼成が進むことがない。それゆえ、実使用しても支持体とヒータエレメントとの寸法差が大きくなることはなく、支持体の変形・破損が発生する可能性もない。また、内壁材に対しても実使用で収縮が起きることがなく、内壁材と断熱材との間に隙間もできないため、断熱性能が低下する可能性がない。
つまり、本発明の製造方法によれば、機械加工が容易に行えるものでありながら、1200℃以上で実使用しても支持体の破損や断熱効果の低下が起きることがない焼成体を得ることができる。
【0010】
また、前記成形型の寸法が前記(2)及び/又は(4)の工程においてδ%縮む場合には、前記成形型を前記2次焼成品に対してδ%の収縮分だけ大きい寸法に形成すると良い。
このようにすれば、1次焼成及び2次焼成における収縮を考慮した寸法で成形型が形成されているため、支持体や内壁材を2次焼成後に所定の寸法通りに仕上げることができ、2次焼成後の支持体や内壁材をそのまま利用して熱間等方圧加圧装置を容易に組み立てることができる。
【0011】
さらに、前記1次焼成品の寸法が前記(4)の工程においてρ%縮む場合には、前記機械加工を前記2次焼成品に対してρ%の収縮分だけ大きい寸法で行うと良い。
このようにすれば、2次焼成における収縮を考慮した寸法で機械加工が行われるため、支持体や内壁材を2次焼成後に所定の寸法通りに仕上げることができ、2次焼成後の支持体や内壁材をそのまま利用して熱間等方圧加圧装置を容易に組み立てることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱間等方圧加圧装置に用いられる焼成体の製造方法によれば、機械加工が容易に行えるものでありながら、1200℃以上で実使用しても支持体の破損や断熱効果の低下が起きることがない焼成体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明に係る熱間等方圧加圧装置の正面断面図である。熱間等方圧加圧装置1(以下、HIP装置1という)は、内部に高圧ガスを収容可能な処理室9を備える円筒状の高圧容器2を有している。そして、処理室9には、被処理体Wを取り囲むように配置され且つ被処理体Wを加熱する加熱装置3と、加熱装置3を支持する支持体4と、加熱装置3及び支持体4に対して外套状に配置される断熱構造体5とが備えられている。HIP装置1は、加熱装置3により処理室9の高圧ガスを加熱することで、被処理体Wの熱間等方圧加圧処理(HIP処理)を可能としている。
【0014】
なお、以降の説明において、図1の紙面の上下をHIP装置1を説明する際の上下とする。
図1に示されるように、高圧容器2は、円筒状の容器本体6と、容器本体6の上面を覆う上蓋部7と、容器本体6の下面を覆う下蓋部8とを有している。容器本体6の内部側には円柱状の処理室9が形成されている。
上蓋部7には容器本体6の内外を連通する注入排出口10が設けられており、この注入排出口10を介して容器本体6内(処理室9内)に高圧ガスを供給したり容器本体6内(処理室9内)の高圧ガスを外部に排出可能となっている。下蓋部8には処理室9側(容器本体6の内部)に向って上方にステージ11が突出状に形成されており、このステージ11には被処理体Wが載置可能となっている。上蓋部7及び下蓋部8は、処理室9に高圧ガスを密閉しても高圧ガスの内圧を支えることができるように、窓枠状のプレスフレーム(図示略)によって支持されている。
【0015】
図2及び図3は高圧容器2の処理室9に収容される加熱装置3及び支持体4を示したものである。
加熱装置3は、被処理体Wの周りを取り囲むように配置されたヒータエレメント12を備えている。ヒータエレメント12は上下方向に複数の電熱抵抗線13(本実施形態では3線)で構成されている。各電熱抵抗線13は、線の中途側が上下に交互に折り曲がりながら蛇行しており、この蛇行部分が支持体4の外周面を取り巻くように配置されている。各電熱抵抗線13の線の両端には支持体4の下端側に引き出されたリード部14が設けられており、リード部14を介して各電熱抵抗線13に通電が可能となっている。
【0016】
各電熱抵抗線13には、白金合金やモリブデン合金などの金属材料で形成されており、高圧ガスを1600℃程度まで加熱可能となっている。また、各電熱抵抗線13近傍には、温度測定用の熱電対(図示略)が設けられており、高圧ガスの温度を精度良く調整可能となっている。
支持体4は、上下に長い筒状(本実施形態では円筒状)に形成されており、側面には筒内外を連通する窓部15が周方向に複数形成されている。これらの窓部15は上下方向に複数(本実施形態では3箇所)並んで設けられており、これらの窓部15に対応するように加熱装置3のヒータエレメント12が取り付けられている。これらの窓部15は、支持体4の内外を連通する開口として形成されており、ヒータエレメント12で加熱された高圧ガスに対して、その流通を確保して対流を促進できるように形成されている。支持体4に窓部15を設けることにより、HIP装置1の昇温効率が向上し、各ヒータエレメント12の温度を制御する場合の制御精度や応答性を高めることができるようになっている。
【0017】
図1に示すように、断熱構造体5は、内周側に配備される内壁材16と、この内壁材16の外周側に設けられる内外2層の断熱体17a、17bと、これら内外2層の断熱体17a、17bの間に設けられる外壁材18aと、外側の断熱体17bを被覆する外壁材18bと、を有している。これらの内壁材16、断熱体17a、17b及び外壁材18a、18bはいずれも有底円筒を上下逆さまにしたような形状(逆コップ状)に形成されており、互いに入れ子状に重ね合わされている。
内外2層の断熱体17a、17bは、例えばセラミックファイバ、ジルコニアフェルトなどの断熱材料で厚み2〜20mm程度に形成されている。断熱体17a、17bをセラミックファイバ、ジルコニアフェルトで厚み2〜20mmに形成することにより、処理室9の保温性を良好にすることが可能となる。
【0018】
外壁材18a、18bは、例えばステンレスなどの金属材料を用いて形成されている。 内壁材16は、上下に長い筒体19とこの筒体19の上方の開口を塞ぐように形成される蓋板20とが一体で形成されており、後述する機械加工において内壁材16を断熱構造体下部の固定部材21に取り付けるための穴が設けられている。
上述したHIP装置1の支持体4及び断熱構造体5の内壁材16は焼成体で形成されている。この焼成体は、本実施形態では以下に示す製造方法に従って製造される。
図4に示すように、焼成体は、成型工程S1、1次焼成工程S2、機械加工工程S3、2次焼成工程S4、組立工程S5の順に製造される。
【0019】
成型工程S1は、セラミックス繊維から成る基体と金属酸化物のバインダとで成る無機質材を支持体4の形状に成型して成形型26を形成するものである。本実施形態の成型工程S1は、基体を支持体4の形状に合わせて円筒状に巻き回し、次に金属酸化物のバインダを含浸して行われる。成型工程S1において形成された成形型26は1次焼成工程S2に送られる。
基体は、アルミナを主成分とするセラミック繊維の織布又は不織布であり、直径2〜5μm程度のセラミック繊維を網目状にまたはランダムに組み合わせて形成されている。金属酸化物のバインダは、アルミナ又はシリカの微粒子を懸濁したゾル又はスラリーであり、セラミック繊維の網目間を充填して基体を緻密化できるように200メッシュ以下の粒径の微粒子を使用している。
【0020】
1次焼成工程S2は、成形型26に対して1200℃未満の焼成温度で焼成し、密度1.5〜2.5g/cm3の1次焼成品27を形成するものである。1次焼成工程S2の条件(温度と時間)は、焼成される成形型26の形状や組成、焼成温度により都度変化するが、当業者であれば操業条件や過去の実績に基づいて定めることが可能である。例えば、アルミナのセラミック繊維の基体とアルミナのバインダとで成る成形型26を1000℃で1次焼成工程S2する場合では、焼成時間は2〜12hrである。1次焼成品27は機械加工工程S3の工程に送られる。
【0021】
1次焼成工程S2の焼成温度を1200℃未満とするのは、機械加工性が良好な密度1.5〜2.5g/cm3の1次焼成品27を得るためである。1次焼成品27の密度を1.5g/cm3以上とするのは、密度0.9〜1.0g/cm3の基体にアルミナ等のバインダを含浸すると、焼成後の密度が必然的に1.5g/cm3以上となるからである。また、1次焼成品27の密度を2.5g/cm3以下とするのは、金鋸やドリルによる1次焼成品27の機械加工性を確保するためである。
機械加工工程S3は、1次焼成品27に対して穴あけ加工や切断加工を行うものである。支持体4の機械加工工程S3では、1次焼成品27に対して高速度鋼製や超硬合金製の金鋸等を用いて窓部15を形成したり、ビット工具を用いてヒータエレメント12を取り付ける取り付け孔等が形成される。機械加工工程S3が完了した1次焼成品27は2次焼成工程S4に送られる。
【0022】
2次焼成工程S4は、機械加工工程S3後の1次焼成品27を1200℃以上の焼成温度で2次焼成して、密度2.2〜3.0g/cm3の2次焼成品28を形成するものである。2次焼成工程S4の焼成温度は1200〜1600℃とするのが好ましく、この範囲の焼成温度で2次焼成工程S4を行うことで支持体4やヒータエレメント12の変形・破損を抑制乃至防止できるようになる。つまり、1200〜1600℃の範囲から実使用温度(HIP処理の温度)に応じて選択される温度で2次焼成しておけば、1200℃以上の実使用温度でHIP処理を繰り返し行っても支持体4とヒータエレメント12との寸法差が大きくなることがなくなり、支持体4がヒータエレメント12より収縮し変形・破損が生じることが抑制乃至防止される。2次焼成品28は、最終の焼成体すなわち支持体4として組立工程S5に送られる。
【0023】
組立工程S5は、支持体4に加熱装置3を取り付け、次にこれらの周りに断熱構造体5を配置し、さらにこれらを高圧容器2内に配置して、HIP装置1を組み立てるものである。
上述した製造方法は、支持体4に用いられる焼成体の製造方法であったが、内壁材16に用いられる焼成体の製造方法も同様に行われる。
すなわち、内壁材16の焼成体も、成型工程S1、1次焼成工程S2、機械加工工程S3、2次焼成工程S4、組立工程S5の順に製造される。しかし、内壁材16の場合は、成型工程S1において筒体19と蓋板20を一体のコップ状として形成するため、両者の接合部では無機質材を折り曲げたシートを重ね合わせて成形する。筒体19と蓋板20との接合部の無機質材構成の一例を図5に示す。内壁材19は、図5に示すように、筒体19と蓋板20とが複数枚(本実施形態では3枚)重ね合わされて構成されている。蓋板20は縁部がほぼ直角に折り曲げられており、この折り曲げられた縁部を筒体19の側面と重ね合わすようにして接合される。図5に示すような構成で両者を一体のコップ状とすることにより、HIP装置に必要なコップ状の内壁材の気密性が確保できる。そして、1次焼成工程S2後の機械加工工程S3で、内壁材16を断熱構造体下部の固定部材21に取り付けるための穴を加工した後、機械加工が完了した1次焼成品27が2次焼成工程S4に送られる。そして、2次焼成された焼成体は内壁材16として組立工程S5に送られる。
【0024】
次に、上述した1次焼成工程S2及び2次焼成工程S4で生じる寸法変化(体積変化)について説明する。
1次焼成工程S2は、成型工程S1で使用するゾルまたはスラリーに含まれている水分等を気化して除去するとともに、後の機械加工工程S3での機械加工に耐えられる強度を得るための焼成工程である。1次焼成工程S2の焼成温度は1200℃未満としているため、この工程S2での寸法変化はわずかな値となる。従って、厳密な寸法管理のためにはこの工程での寸法変化を考慮することも好適ではあるが、一般的な焼結体の寸法管理においては、1次焼成工程S2での寸法変化は考慮する必要のない場合が多い。
【0025】
次に、2次焼成工程S4で生ずる寸法変化(体積変化)について説明する。図6は、1次焼成工程S2を経た1次焼成品を、2次焼成工程S4で焼成する際の焼成温度と寸法変化との関係を示す図である。
図6に示すように、焼成温度が1200℃未満(例えば、図6のP点)では熱膨張による寸法の伸びが観察される。しかし、焼成温度が1200℃を超えると(例えば、図6のQ点)、焼結が進行して1次焼成品は焼成により寸法が小さくなる(収縮する)傾向がある。この2次焼成後には冷却工程に移るが、冷却工程では熱膨張により伸びていた寸法分だけ逆に寸法が小さくなる。このとき、冷却が終わっても焼結が進行して寸法が縮んでいるため2次焼成前に比べて2次焼成後の寸法は小さくなっている(例えば、図6のR点)。
【0026】
上述の2次焼成による寸法変化を本実施形態に当てはめると、本実施形態では2次焼成工程を焼成温度1400℃で行っている。この1400℃の焼成温度で寸法収縮がρ%生じる場合には、2次焼成前に100%の寸法の1次焼成品が2次焼成後には(100−ρ)%の寸法となる。
ここで、2次焼成品28を設計通りの大きさに形成するための成形型26の寸法を考える。1次焼成による成形型26の寸法変化をX%とすれば、2次焼成品28は成形型26に対してX+ρ%(=δ%)寸法変化することになる。それゆえ、成形型26の寸法を2次焼成品28の設計寸法に対してδ%だけ大きく形成するのが好ましい。このようにすれば、1次焼成工程S2および2次焼成工程S4での収縮により無機材質の寸法が変化しても、支持体4や内壁材16を2次焼成後に所定の寸法通りに仕上げることができ、2次焼成品28をそのままHIP装置に組み込むことができる。ただし、上述のように1次焼成による寸法変化X%は小さいため、成形型26の寸法は2次焼成工程S4での収縮であるρ%分だけ大きく形成しても実用上は問題ない。
【0027】
また、1次焼成品27の寸法と2次焼成品28の寸法とを比較すると、図6で示した通り2次焼成品28は1次焼成品27に比べてρ%だけ寸法が小さくなる(収縮する)。それゆえ、機械加工工程S3の寸法(加工寸法)は、2次焼成品28よりρ%だけ大きく加工するのが好ましい。このようにすれば、機械加工工程S3により形成される窓部15や挿通孔を2次焼成工程S4後に所定の寸法通りに仕上げることができ、2次焼成品28をそのままHIP装置1に組み込むことができる。
支持体4や内壁材16にセラミックス繊維の基体と金属酸化物のバインダとで成る焼成体を用いることにより、脆性が改善され、機械的な衝撃、温度分布により発生する熱応力にも割れ難くなる。つまり、基体を構成するセラミックス繊維が熱応力が加わった時などに生成するクラックの急激な成長を抑制し、通常のセラミックスのように瞬時にクラックが走って破壊に至ることがないため、熱応力にも割れ難くなる。
【0028】
無機質材は、耐熱性(高温強度)を良好にすべく、アルミナを98%以上含むのが好ましい。特に、白金合金やモリブデン合金製のヒータエレメント12と組み合わせる場合には、HIP装置1の使用温度が1400℃を超える可能性がある。しかし、支持体4をアルミナを主成分とする焼成体で形成することで支持体4の耐熱温度は1600℃以上となり、ヒータエレメント12に白金合金やモリブデン合金製のものを用いてもヒータエレメント12の加熱に耐えることができるようになる。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
【0029】
上記実施形態では、成型工程S1は、基体を支持体4の形状に合わせて円筒状に巻き回し、次に金属酸化物のバインダを含浸させて行われていた。しかし、基体に金属酸化物のバインダを含浸させてから、支持体4の形状に合わせて円筒状に巻き回すこともできる。
上記実施形態では、支持体4の1次焼成品27に対する機械加工工程S3として窓部15の形成を挙げると共に、断熱構造体5の内壁材16の1次焼成品27に対する機械加工工程S3として挿通孔の穿孔を例示した。しかし、機械加工工程S3として、切断加工、曲げ加工、バリ取りなどを行うこともできる。
【0030】
なお、上記実施形態では焼成体は支持体4及び断熱構造体5に用いられていた。しかし、焼成体はHIP装置1におけるこれら以外の部材、例えばヒータエレメント12を係止するガイシ、被処理体設置台などにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る熱間等方圧加圧装置の正面断面図である。
【図2】熱間等方圧加圧装置の加熱装置の正面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】本発明の焼成体の製造方法を示す工程図である。
【図5】内壁材における筒体と蓋板との接合部を示す図である。
【図6】無機質材の焼成温度と寸法の熱変化量との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 熱間等方圧加圧装置
2 高圧容器
3 加熱装置
4 支持体
5 断熱構造体
6 容器本体
7 上蓋部
8 下蓋部
9 処理室
10 注入排出口
11 ステージ
12 ヒータエレメント
13 電熱抵抗線
14 リード部
15 窓部
16 内壁材
17 断熱体
18 外壁材
19 筒体
20 蓋板
21 固定部材
26 成形型
27 1次焼成品
28 2次焼成品
S1 成型工程
S2 1次焼成工程
S3 機械加工工程
S4 2次焼成工程
S5 組立工程
W 被処理体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体を取り囲むように配置され且つ当該被処理体を加熱する加熱装置と、当該加熱装置を支持する支持体と、前記加熱装置及び支持体に対して外套状に配置される断熱構造体とを高圧容器内に備える熱間等方圧加圧装置に関し、前記支持体と断熱構造体の内壁材とを焼成体で形成する際に用いられる焼成体の製造方法であって、
前記焼成体を、以下の(1)〜(4)の工程に従って製造することを特徴とする熱間等方圧加圧装置に用いられる焼成体の製造方法。
(1)セラミックス繊維から成る織布又は不織布に、金属酸化物のバインダを含浸させて、成形型を形成する工程
(2)前記成形型を1200℃未満で焼成して密度1.5〜2.5g/cm3の1次焼成品を焼成する工程
(3)前記1次焼成品に対して機械加工を行う工程
(4)前記機械加工後の1次焼成品を1200℃以上で焼成して2次焼成品とし、この2次焼成品を前記焼成体として得る工程
【請求項2】
前記成形型の寸法が前記(2)及び/又は(4)の工程においてδ%縮む場合に、前記成形型を前記2次焼成品に対してδ%の収縮分だけ大きい寸法に形成することを特徴とする請求項1に記載の熱間等方圧加圧装置に用いられる焼成体の製造方法。
【請求項3】
前記1次焼成品の寸法が前記(4)の工程においてρ%縮む場合に、前記機械加工を前記2次焼成品に対してρ%の収縮分だけ大きい寸法で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱間等方圧加圧装置に用いられる焼成体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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