説明

熱電対

【課題】高温域において温度を正確にかつ連続して測定可能な熱電対を提供する。
【解決手段】熱電対は、第1の金属線1と、第1の金属線1とは異なる材質からなる第2の金属線2と、第1の金属線1と第2の金属線2とを電気的に接続し、温接点部として機能する導電性セラミックス3とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電対に関し、第1の金属線および第2の金属線に電気的に接続された温接点部を備えた熱電対に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温域での温度測定には最も信頼される方法として熱電対が広範に用いられている。熱電対については規格も整備されている。熱電対とは温度差を測定するセンサーである。異なる二種の金属が接合されると、それぞれの熱電能の違いから2つの接合点の異なる温度に応じた電圧が発生し、一定の方向に電流が流れる。熱電対は、この異種金属の2接点間の温度差によって熱起電力が生じる現象(ゼーベック効果)を利用した温度センサーである。
【0003】
発生する熱起電力は接合する各種金属ごとにさまざまである。接合する各種金属ごとに、それぞれ安定性、起電力の大きさ、起電力のリニア特性などが異なる。このため熱電対の種類、素線径などは各種規格(IEC;International Electrotechnical Commission、JIS;Japanese Industrial Standard、ANSI;American National Standards Instituteなど)によって定められている。使用する金属は、接合する各種金属ごとに測定範囲、測定精度などが異なるため、材料の費用も考慮に入れて適切に選択される。
【0004】
金属の融解温度のような高温測定には貴金属熱電対が使用される。貴金属熱電対では素材自体の安定性は良いが、熱起電力が低いため貴金属熱電対は低温から中高温付近の測定には向かない。また全ての配線に貴金属の素材が用いられると極めて高価となるため、感温部(温接点)のみに貴金属類が用いられる。そして、250℃程度以下の配線用の部分には、貴金属と似た熱電能を持った比較的廉価な金属を成分とする合金線が用いられる。この合金線は「補償導線」と呼ばれる。感温部と補償導線との接続点に温度差があると、その温度差が誤差要因になる。
【0005】
熱電対の測温部分(温接点)は温度の計測要求に応じて接地型(アース型)または非接地型(ノンアース型)が用いられる。接地型は測定対象に接触して温度を計測するように用いられ、非接地型は測定対象に非接触で温度を計測するように用いられる。
【0006】
また、高温の温度測定の場合には、細い熱電対を保護するため「保護管」が用いられる。この保護管には一般的に金属(銅、ステンレス、カンタル、インコネル、チタン、ハステロイ、特殊な場合には白金)、非金属(硬質ガラス、高純度アルミナ、石英、ジルコニア、窒化ケイ素、テフロン(登録商標))などが用いられる。溶融金属の温度測定の場合、たとえば、測定時間が10秒程度の1回測定には石英の保護管が用いられ、測定時間が数時間以上の連続測定には耐火物(アルミナグラファイトなど)の保護管が用いられる。
【0007】
金属保護管は、また、温度測定時に外部環境からの電気的ノイズをシールドすることでノイズの少ない安定した測温を行うことによって測温誤差を小さくする役割も有している。従って熱電対内部の熱電対素線と、金属保護管とは電気的に絶縁されることが好ましい。この目的で金属保護管の内部が酸化マグネシウム、シリカ粉末などで充填された構造のものが「シース熱電対」と呼ばれている。シース熱電対は流通量が多く、太さ、形状、保護管材質などが規格化され、広く普及している。
【0008】
上述の熱電対による溶融金属(およびスラグ)温度の長時間の測定時には、温接点の耐久性について下記の諸問題がある。
【0009】
まず、温接点が保護管から剥き出され、かつ二種の金属の先端が開放された状態で構成された温接点開放型熱電対の場合には次の諸問題がある。たとえば特開平10−281886号公報(特許文献1)に示されるように、導電性を有する溶融金属の温度が熱電対を用いて測定される際には、温接点を開放型とした場合においても測定対象となる溶融金属を介して熱電対が形成されるため理論的には測温が可能である。
【0010】
ただし、この方法はスラグのような非導電性の溶融物の温度測定には適用できない。さらに、転炉のように溶融金属と溶融スラグとが共存する精錬炉の環境下では、溶融金属中に懸濁しているスラグが熱電対の金属体の露出部に容易に凝固付着して金属体が被覆されることで熱電対が形成されなくなるおそれもある。
【0011】
また転炉のような精錬炉内部では精錬中の溶融金属は激しく流動しているため熱電対の金属体の融点が溶融金属よりも高い場合であっても金属体が周囲の耐火物よりも先行して溶損され、すり鉢状の空間が形成されることが多い。そして、この空間に侵入した溶融金属が凝固収縮することで熱電対の機能が損なわれる状況に至ることも多い。
【0012】
さらに特開平10−281886号公報では金属体として高融点のタングステンを用いる場合が示されているが、転炉のように酸化性雰囲気を有する炉内ではタングステンは急速に酸化損耗するため使用できない。
【0013】
また熱電対の金属体周囲の耐火物温度は一般に溶融金属の温度よりも数十度低いため、この方法における測温値は溶融金属の温度よりも低い値を示す恐れがある。そのため溶融金属の正確な測温は困難である。
【0014】
これらの諸問題を解決する一つの方法として、2本の金属体を適当な速度で溶融金属中に送り込み、溶融金属と金属体との接触面を常時更新すると同時に測温位置を耐火物表面から一定の距離に保つという方法が考えられる。
【0015】
しかし、この場合、金属体を送り込む装置のサイズが大きくなり既存の溶融金属容器に近接した設置スペースの確保が困難である。また金属体(多くは貴金属)の損耗コストが高くなる。また継続して挿入される金属体と周囲の固定耐火物との間のシールが完全ではないため溶融金属の容器からの漏出が避けられない。このような問題があるため、この方法も現実的には用いられない。
【0016】
次に、温接点が接合されている温接点接合型熱電対の場合には次の諸問題がある。温接点接合型熱電対が溶融金属に浸漬されて溶融金属の温度が直接測定される場合、温接点部が露出されていると、ただちに溶融金属によって温接点部が融解されるため測定ができない。したがって温接点は保護管によって保護される必要がある。
【0017】
一回測定の場合の保護管としては石英管が多く用いられる。連続測定の場合にはシース型熱電対のように金属保護管が多く用いられる。金属保護管によって熱電対が保護されていても、溶融金属への浸漬とほぼ同時に金属保護管が溶融消失するため熱電対としての機能は瞬時に消滅してしまう。この問題の解決方法として、連続測温時に温接点を溶融金属から保護する方法には大きく次の2つの方法がある。
【0018】
第1に耐火物保護管によって温接点を保護する方法がある。この方法では、シース型熱電対の周囲をさらに耐火物製の保護管で囲むことにより、溶融金属(およびスラグ)に対する耐久性は大きく増加するため、連続測温が可能となる。
【0019】
しかし、この場合には溶融金属(およびスラグ)の温度を熱容量の大きい耐火物製の保護管を介して測定することになる。そのため、熱電対を直接溶融金属に浸漬して温度を測定する場合に比べ測温値が低くなり、かつ測定温度が溶融金属(およびスラグ)の温度の経時変化に十分追随しないという問題を生じる。こうした問題を可能な限り小さくするために、保護管の材質としては比較的熱伝導度が高くかつ溶融金属(およびスラグ)への耐用性の高い耐火物が選択される。そして、耐火物の厚みを寿命とのバランスを考えながら可能な限り薄くすることが必要となる。アルミナグラファイト耐火物はその代表的な例である。
【0020】
このような耐火物製の保護管を溶融金属中に浸漬する方法には次の2つの方法がある。1つの方法は、耐火物の保護管を吊り下げ、溶融金属上部から保護管を挿入する方法である。しかし、溶融金属精錬時には溶融金属表面にはスラグ層が存在する。特に鉄鋼精錬の場合にはスラグは活性な酸化性スラグであるため、耐火物製保護管がスラグと接触する部分の損耗が早い。これにより連続測温時間の上限が定められるという欠点がある。
【0021】
もう1つの方法は、溶融金属保持炉の内壁(炉壁)を貫通するように耐火物製保護管を設置する方法である。この場合、耐火物製保護管は、炉壁を構成する耐火物により保持されているため、常に炉壁により抜熱されている。このため耐火物製保護管で保護された熱電対で溶融金属の温度を正確に計測するには、経験によれば炉体耐火物壁面から少なくとも150〜200mm程度溶融金属内部に突き出した部位の温度を計測する必要がある。
【0022】
このように測定位置、応答性、耐溶損性といった条件を考慮し耐火物保護管を設計すると、耐火物保護管の外径は100mm以上となり、炉内突出長さは200mm以上となる。その結果、全体の熱容量(体積と比熱との積)は一般に直径1〜10mmというシース熱電対の熱容量に比べ100倍以上の大きなものとなる。
【0023】
この耐火物保護管は測温中、溶融金属やスラグにより次第に溶損し、その寿命は長くとも数時間から数十時間である。通常、精錬炉の寿命は数ヶ月以上であるから、結果として耐火物保護管で保護された熱電対としてのプローブは頻繁に交換することが必要となる。このためプローブは炉体に外部からの挿入交換が可能な設計とする必要があり、作業性、プローブ周囲の耐火物とのシール性(溶融金属の漏洩防止)を十分に考慮した設計にしなくてはならない。
【0024】
しかし、このような高温精錬炉にプローブ挿入のために直径100mmもの開孔部を設けることは溶融金属漏洩事故発生の恐れから好ましくないと考えられるため、このような方法が実炉に採用されることは少ない。
【0025】
第2に炉壁耐火物の内部温度を測定することで温接点を保護する方法がある。つまり、次善の策として、溶融金属温度の正確な測定はあきらめ、温接点接合型シース熱電対を炉壁内部の一定の位置に設置して炉壁内部の温度を連続測定しようとする方法がある。たとえば、特開2009−41842号公報(特許文献2)には、こうした方法の一例が開示されている。この方法を用いれば、溶融金属(およびスラグ)によるシース熱電対の損耗は防止可能である。また、熱電対の寿命は炉壁耐火物の寿命と同等程度となり満足される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開平10−281886号公報
【特許文献2】特開2009−41842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
しかし、上記の特開2009−41842号公報に記載された方法では、熱電対による測温値は炉壁内部の温度を示すため溶融金属の実温度よりもはるかに低い温度となる。そのため、この測定温度から溶融金属の温度を精度よく推定することはほぼ不可能となる。たとえば、上記の特開2009−41842号公報では実測温度は最高1200℃程度であり、この値から正確な溶融金属温度(溶鋼の場合は一般に1500℃以上)を推定して計算することは不可能であると言ってもよい。したがって、この方法によっては溶融金属の温度を正確に測定することは到底なしえない。よって、従来の方法では、溶融金属の温度などの高温域において温度を正確にかつ連続して測定することはできない。
【0028】
また、温接点接合型熱電対には熱起電力の劣化の問題がある。すなわち長時間、高温下にさらされている間に2種の金属体の接合部を通じて相互に成分が拡散し、熱起電力が本来有する熱起電力(事前にキャリブレーションして得られていた熱起電力)から徐々に外れていくという問題がある。これは温接点接合型熱電対を高温下で長時間用いる場合の本質的な問題である。この結果、温度測定の誤差が生じるという問題がある。
【0029】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、高温域において温度を正確にかつ連続して測定可能な熱電対を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明の熱電対は、第1の金属線と、第1の金属線とは異なる材質からなる第2の金属線と、第1の金属線と第2の金属線とを電気的に接続し、温接点部として機能する導電性セラミックスとを備えている。
【0031】
本発明の熱電対によれば、導電性セラミックスが第1の金属線と第2の金属線とを電気的に接続し、温接点部として機能するため、測定対象に温接点部として機能する導電性セラミックスを接することで測定対象の温度を正確に測定することができる。また、温接点部として機能する導電性セラミックは溶融しにくいため、高温域において連続して測定することができる。したがって、高温域において温度を正確にかつ連続して測定することができる。
【0032】
上記の熱電対において好ましくは、第1の金属線と第2の金属線とは、互いに非接触の状態で導電性セラミックスに保持されている。これにより、第1の金属線と第2の金属線とが接触することで相互に成分が拡散することを防止することができる。このため、熱起電力の劣化を防止することができる。そのため、温度測定の誤差の発生を防止することができる。
【0033】
上記の熱電対において好ましくは、導電性セラミックスの材質は、ZrB2を含む。これにより、溶融金属に対して耐食性を高くすることができる。
【0034】
上記の熱電対において好ましくは、導電性セラミックスの材質は、SiCを含む。これにより、酸化性スラグに対して耐食性を高くすることができる。
【0035】
上記の熱電対において好ましくは、導電性セラミックスの材質は、ZrB2を60質量%以上95質量%以下有し、SiCを5質量%以上40質量%以下有する。これにより、酸化性スラグに対して耐食性を効果的に高くすることができる。
【0036】
上記の熱電対において好ましくは、導電性セラミックスの材質は、酸化防止剤を含む。これにより、酸化性スラグに対してさらに耐食性を改善することができる。
【0037】
上記の熱電対において好ましくは、酸化防止剤は、B4Cを含む。これにより、酸化性スラグに対して耐食性を効果的に改善することができる。
【0038】
上記の熱電対において好ましくは、導電性セラミックスは、表面に設けられた穴を有している。第1の金属線および第2の金属線は、穴に挿入された状態で導電性セラミックスに保持されている。これにより、第1の金属線および第2の金属線を導電性セラミックスに強固に保持することができる。このため、第1の金属線および第2の金属線が導電性セラミックスと分離されることを抑制することができる。そのため、安定的に連続して測定することができる。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように、本発明の熱電対によれば、高温域において温度を正確にかつ連続して測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1における熱電対の概略斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1における導電性セラミックスの概略斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1における導電性セラミックスの体積固有抵抗値とSiC配合率との関係を示す図である。
【図4】比較例1および本発明例1の浸食率を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1における導電性セラミックスの浸食率とSiC配合率との関係を示す図である。
【図6】本発明例1および本発明例2の浸食率とSiC配合率との関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1における導電性セラミックスの熱伝導率とSiC配合率との関係を示す図である。
【図8】本発明例3による測温値と比較例2による測温値との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2における取鍋の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
最初に本発明の実施の形態1の熱電対の構成について説明する。
【0042】
図1および図2を参照して、本実施の形態の熱電対10は、シース線100と、温接点部として機能する導電性セラミックス3とを主に有している。シース線100は、第1の金属線1と、第1の金属線1とは異なる材質からなる第2の金属線2とを有している。導電性セラミックス3は、第1の金属線1と第2の金属線2とを電気的に接続し、温接点部として機能するよう構成されている。
【0043】
本実施の形態の導電性セラミックス3としては、体積固有抵抗値が1×10-2Ω・cm以下、熱伝導率が50W/m・K以上、相対密度(かさ密度/理論密度)が95%以上のセラミックスが適用される。
【0044】
シース線100の第1の金属線1と第2の金属線2とは、互いに非接触の状態で導電性セラミックス3に保持されている。導電性セラミックス3の材質は、ZrB2(二ホウ化ジルコニウム)を含んでいる。ZrB2の体積固有抵抗値は、たとえば1.74×10-5Ω・cm(室温)である。また、ZrB2の熱伝導率は、たとえば58.8W/m・K(室温)であり、64.4W/m・K(1027℃)であり、134W/m・K(2027℃)である。
【0045】
さらに導電性セラミックス3の材質は、SiC(炭化ケイ素)を含んでいてもよい。第1の金属線1としては、たとえばPt(白金)線が用いられており、第2の金属線2としては、たとえばPt−Rh(ロジウム)線が用いられている。
【0046】
熱電対10は、たとえば溶融金属(およびスラグ)などの測定対象に導電性セラミックス3の一方端部3a側で接触するように構成されている。導電性セラミックス3は全体として温接点部を構成している。第1の金属線1および第2の金属線2を有するシース線100は、導電性セラミックス3の他方端部3b側に接続されている。第1の金属線1および第2の金属線2は溶融金属(およびスラグ)へ直接には接触しないように構成されている。そのため、第1の金属線1および第2の金属線2は溶融金属(およびスラグ)によって損耗することはない。
【0047】
導電性セラミックス3の温度が測定対象の溶融金属(およびスラグ)の温度とほぼ同一となるように、かつ、溶融金属(またはスラグ)の温度変化に導電性セラミックス3の温度が遅れなく追随して変化するように(応答性)、導電性セラミックス3の熱容量は可能な限り小さく設計することが好ましい。たとえば、250T(容量250t)取鍋用の場合、導電性セラミックス3は、径8mm×長さ10〜50mmで、体積0.5〜2.5cm3であり、質量3〜15gに設計されることが好ましい。
【0048】
さらに導電性セラミックス3の周囲は溶融金属(およびスラグ)との接触面を除いて断熱性の高い耐火物(たとえばMgO;酸化マグネシウム)で被覆されていることが好ましい。これにより周囲の耐火物への伝熱ロスを防止することができる。上述により、わずか十数グラムの小さい導電性セラミックスの温度が溶融金属(およびスラグ)の温度と常にほぼ同一温度となり、かつ溶融金属(およびスラグ)の温度変化に十分追随するような構造とすることができる。
【0049】
また、導電性セラミックス3と第1の金属線1および第2の金属線2の接続方法は接続部の電気抵抗値が最小となるように接続することが好ましい。そのため、導電性セラミックス3と第1の金属線1および第2の金属線2とはたとえば一例として白金ペーストで接続されていることが好ましい。
【0050】
また、導電性セラミックス3中の成分が第1の金属線1および第2の金属線2に拡散し、第1の金属線1および第1の金属線2の起電力に変化が起きないことを確認するために、導電性セラミックス3を用いて熱電対10を作製しこれを1600℃の高温下で24時間保持し、第1の金属線1および第2の金属線2の材質であるPt中へのB(ホウ素)の拡散量を分析した。その結果、Pt中にBは検出されなかった。したがって、本実施の形態の熱電対10では、温接点接合型の熱電対に一般的に見られるような熱起電力の経時劣化は起こらないことが確認された。
【0051】
続いて、本実施の形態の熱電対の構造の一例について、さらに具体的に説明する。
導電性セラミックス3はたとえば直径8mm、長さ30mmの円柱状に形成されている。導電性セラミックス3は、表面に設けられた穴30を有している。穴30は、第1の小穴31と、第2の小穴32と、大穴33とを有している。大穴33は他方端部3bから一方端部3aに向かって延びるように形成されている。大穴33は、たとえば内径3mm、長さ10mmに形成されている。第1の小穴31および第2の小穴32はそれぞれ大穴33の先端から一方端部3aに向かって延びるように形成されている。第1の小穴31および第2の小穴32は、それぞれたとえば内径1mm、長さ10mmに形成されている。
【0052】
シース線100の先端部が穴30に挿入されている。シース線100は、たとえば外径2mmのJIS規格TypeR熱電対用のものが用いられている。素線としては、第1の金属線1にPt線、第2の金属線2に13%Rh−Pt線が用いられている。
【0053】
第1の金属線1および第2の金属線2は、穴30に挿入された状態で導電性セラミックス3に保持されている。シース線100の先端部の第1の金属線1および第2の金属線2が剥き出された状態で、第1の金属線1が第1の小穴31に挿入されており、第2の金属線2が第2の小穴32に挿入されている。シース線100の先端部の第1の金属線1および第2の金属線2はそれぞれ5mm剥き出されている。第1の金属線1および第2の金属線2はそれぞれ第1の小穴31および第2の小穴32に充填された白金ペースト4および5で固定されている。シース線100の先端部の第1の金属線1および第2の金属線2が剥き出されていない部分が大穴33に保持されている。シース線100と大穴33との隙間が断熱性の耐火物粉6で埋められている。導電性セラミックス3の他方端部3bでシース線100が接着剤7で固定されている。
【0054】
次に、本実施の形態の導電性セラミックス3の材質についてさらに詳しく説明する。
本発明者等は、温接点部として機能する接続材料として導電性セラミックスに着目した。表1を参照して、各種のセラミックスの特性を比較した結果を示す。
【0055】
【表1】

【0056】
この中で各評価項目はそれぞれ接続材料に必要とされる以下の特性を評価したものである。FeO(酸化鉄)耐性は、酸化性スラグによる浸食への耐性を示している。熱伝導率は、溶融金属または溶融スラグとの温度差を極小化可能であることを示している。導電性は、第1の金属線1と第2の金属線2との接続材料としての可否を示している。Pt反応性は、熱電対素線の材料として普及しているPtと共存してPtを還元しないことを示している。総合は、総合評価を示している。また、各評価項目の記号について、◎は非常に良いことを示し、○は良いことを示し、△は普通であることを示し、×は悪いことを示す。
【0057】
この表1に示すように、酸化性スラグの存在下では他のセラミックスに比べZrB2が熱電対温接点の接続材料として優位にあることを本発明者等は見出した。ZrB2は、セラミックスならではの耐熱性、溶融金属およびスラグに対する耐食性、純鉄と同等の導電性(誘導加熱が可能)を有している。
【0058】
表2を参照して、本実施の形態のZrB2の組成を示す。表2に示す以外の残部はZr(ジルコニウム)である。
【0059】
【表2】

【0060】
また、表1に示すように、ZrB2セラミックスについては、酸化性スラグへの耐食性において改善の余地があることを本発明者等は見出した。すなわちZrB2セラミックスは、還元性スラグによる損耗に対しては十分な耐性があるが、酸化性スラグに対しては耐性が十分でないということを本発明者等は見出した。つまり、酸化性スラグが高温下ではZrB2の構成元素であるBを徐々に酸化することでZrB2の損耗が進行するため、十分に長い寿命が得られないということを本発明者等は見出した。
【0061】
そこで原料のZrB2にSiCを配合して導電性セラミックス3を焼成したところ酸化性スラグに対して耐食性が向上することを本発明者等は知得した。本発明者等が種々検討した結果、SiCの配合率を変化させ、その性能を比較検証したところ、SiCを5質量%以上40質量%以下添加すれば、酸化性スラグに対して実用的には十分な耐性を持つことを確認した。
【0062】
すなわち、本発明者等は、SiCの配合率が5質量%以上の場合、酸化性スラグに対して十分な耐性を持つことを確認した。また、図3を参照して、SiCの配合率が60質量%では体積固有抵抗値が1×10-2Ω・cmを超えないが、SiCの配合率が70質量%では体積固有抵抗値が1×10-2Ω・cmを超えるため導電性セラミックス3の要件を満たさないことを確認した。
【0063】
表3を参照して、本実施の形態の導電性セラミックス3のZrB2とSiCとの配合率の一例を示す。
【0064】
【表3】

【0065】
上述のように、導電性セラミックス3がZrB2を60質量%以上95質量%以下有し、SiCを5質量%以上40質量%以下有すると、酸化性スラグに対して実用的には十分な耐性を持ち、かつ導電性セラミックス3の体積固有抵抗値の要件を満たすことを本発明者等は知得した。
【0066】
続いて、本実施の形態のZrB2にSiCを配合した導電性セラミックス3の耐食性についてさらに詳しく説明する。
【0067】
本発明例1として、ZrB2−20質量%SiC焼結品を準備した。そして、旧JIS規格R2214「耐火れんがのるつぼ法によるスラグ浸食試験方法」に準じて、スラグによる浸食試験を行った。試験温度は1550℃、試験時間は10時間とした。供試スラグはCaO/SiO2比が1.5の合成スラグに20質量%のFeOを添加した酸化性スラグを使用した。式(1)に示すように、試験後の試料厚みの減少量の比を浸食率として耐久性評価の指標とした。ここでS0(mm)は試験前の試料厚みであり、S1(mm)は試験後の試料厚みである。
【0068】
浸食率(%)=100×(S0−S1)/S0 ・・・(1)
耐火物との比較のために製鋼において一般的に使用されているMgO−20%C煉瓦を比較例1として準備した。比較例1も本発明例1と同様の条件で浸食試験を行った。その結果、図4を参照して、比較例1と本発明例1との浸食率はほぼ同じとなった。その結果、本発明例1は、比較例1と遜色のない耐食性を示した。これにより、本実施の形態のZrB2にSiCを配合した導電性セラミックス3は、製鋼精錬容器に広範に用いられているMgO−C耐火物と比較してもこれと同等の耐食性を示すことが確認された。
【0069】
また、導電性セラミックス3のSiC配合率を変化させて浸食率の変化を検討した。
図5を参照して、SiCの配合率が1〜40質量%の範囲において、耐食性の改善が見られた。特にSiCの配合率が5〜40質量%の範囲において、耐食性の改善が見られた。
【0070】
さらに、本発明者等は、SiC含有ZrB2導電性セラミックスの酸化性スラグ(FeO含有スラグ)に対する耐食性を改善する目的で少量の酸化防止剤を添加した。製鋼用耐火物では0.1〜5質量%程度の微小(粒径が0.3〜5μm程度)な酸化防止剤を耐火物内に分散配合することによって酸化性スラグに対する耐食性が改善できる。酸化防止剤としては、金属粉末やボロン化合物、窒化物、カーボン、炭化物などが用いられる。酸化防止剤としては、具体的にはAl(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Si34(窒化ケイ素)B4C(炭化ホウ素)、BN(窒化ホウ素)、MoC(炭化モリブデン)などが用いられる。酸化防止剤は対SiC比5%程度添加されていることが好ましい。酸化防止剤の配合率は0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましい。
【0071】
耐食性が改善できる理由としては、たとえばAl(アルミニウム)を酸化防止剤として添加した場合にはSiCが酸化されて生成したSiO2に酸化防止剤が酸化されて生成した酸化物が化合して強固なB23−SiO2−Al23系ガラス膜が生成して耐酸化性が向上することが考えられる。
【0072】
図6を参照して、本発明例2としてZrB2−SiC導電性セラミックスに対SiC比5%のB4Cを配合した場合の耐食性について本発明者等は確認した。この本発明例2では、SiCの配合率の広い範囲において、耐食性の改善が見られた。B4Cの配合率は全体の0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましい。
【0073】
また、本実施の形態の導電性セラミックス3について、室温(23℃)において体積固有抵抗値を測定した結果、表4および図3に示すとおり、体積固有抵抗値は2.51×10-5〜8.09×10-5Ω・cmとなった。これにより、本実施の形態の導電性セラミックス3では、金属と同等の体積固有抵抗値を得られることが確認された。
【0074】
【表4】

【0075】
さらに、本実施の形態の導電性セラミックス3では、室温において熱伝導率を測定した結果、表5および図7に示すとおり、熱伝導率は、65.3〜107.6W/m・Kとなった。熱伝導率が80W/m・Kの値である鉄と同等またはそれ以上の熱伝導率を得られることが確認された。したがって、本実施の形態の導電性セラミックス3は、金属と同等の導電度および熱伝導率を有するため、熱電対の温接点部として十分に機能することが確認された。
【0076】
【表5】

【0077】
また、本実施の形態の導電性セラミックス3について測温値の正確性を検討した。
比較例2として、一般のTypeB熱電対(素線は6%Rh−Pt線および30%Rh−Pt線)を準備した。本発明例3としてセラミックス熱電対(ZrB2−20%SiCの導電性セラミックス3)を準備した。
【0078】
モリブデンヒーター雰囲気炉において5℃/分で窒素雰囲気中で加熱昇温し、比較例2および本発明例3を同時に炉内に設置して500℃〜1650℃の間で昇温時および降温時で連続的に測温し、比較例2および本発明例3の測温値を比較した。
【0079】
図8を参照して、比較例2および本発明例3の測温値の差は全温度域にわたり±2℃以内でよく一致することが確認された。これにより、本発明例3は、一般のTypeB熱電対と同様の測温値の正確性を有するため、熱電対として十分に機能することが確認された。
【0080】
次に、本実施の形態の熱電対の製造方法について説明する。
まず、導電性セラミックス3が準備される。たとえば、直径8mm、長さ30mmの円柱状の導電性セラミックス3の他方端部3bに内径3mm、長さ10mmの大穴33が形成される。さらに大穴33の先端にたとえば、内径1mm、長さ10mmの第1の小穴31および第2の小穴32がそれぞれ形成される。一方、たとえば、外径2mmのTypeR熱電対シース線100(素線はPt線および13%Rh−Pt線)が用意され、先端部の素線(第1の金属線1および第2の金属線2)それぞれ5mm剥き出しにされる。また、接着剤としての白金ペーストと高温接着剤とが準備される。
【0081】
導電性セラミックス3の他方端部3bを上にして立て、第1の小穴31および第2の小穴32に白金ペーストを溢れぬ程度流し込まれ、先に準備したシース線100の第1の金属線1および第2の金属線2がそれぞれ第1の小穴31および第2の小穴32に入るように差し込まれる。第1の金属線1および第2の金属線2が白金ペースト4および5で固定された後、大穴33とシース線100との隙間が断熱性の耐火物粉で埋められる。最後に導電性セラミックス3の他方端部3bにおいて、シース線100が接着剤7で固定される。
【0082】
続いて、導電性セラミックス3の製造方法の具体例について説明する。
まず、導電性セラミックス3の製造方法1について説明する。
【0083】
平均粒径すなわちレーザー回折・散乱法で測定した粒度分布のメジアン値(d=50)が、2.1μmのZrB2粉90.0質量%と、平均粒径0.7μmのSiC粉10.0質量%とがメカニカル混合された後、有機バインダーが20部加えられ、加圧式ニーダーで加熱混練されて、均一分散したコンパウンドが作製された。その後、コンパウンドがペレット化されて成形材料とされた。この材料が射出成形機に投入され、所望の金型内に、可塑化させた材料が50〜100MPaの圧力で射出された。その後、金型内で冷却固化後に材料が取り出されて成形体が得られた。この成形体が大気脱脂炉に入れられ、有機バインダーが加熱分解された。その後、グラファイト炉でAr(アルゴン)雰囲気中2300℃で焼成され、冷却されて導電性セラミックス3の焼結体が得られた。その焼結体の諸物性を測定した値は次の通りであった。かさ密度は5.37g/cm3であった。焼結密度比は96.6%であった。また、熱伝導率は71.5W/m・Kであった。体積固有抵抗値は2.71×10-5Ω・cmであった。
【0084】
また、製造方法2として、酸化防止剤としてB4C粉を添加する場合について説明する。
【0085】
平均粒径2.1μmのZrB2粉89.5質量%と、平均粒径0.7μmのSiC粉10.0質量%と、平均粒径0.3μmのB4C粉0.5質量%とがメカニカル混合された後、有機バインダーが20部加えられ、加圧式ニーダーで加熱混練されて、均一分散したコンパウンドが作製された。その後、コンパウンドがペレット化されて成形材料とされた。この材料が射出成形機に投入され、所望の金型内に、可塑化させた材料が50〜100MPaの圧力で射出された。その後、金型内で冷却固化後に材料が取り出されて成形体が得られた。この成形体が大気脱脂炉に入れられ、有機バインダーが加熱分解された。その後、グラファイト炉でAr雰囲気中2300℃で焼成され、冷却されて導電性セラミックス3の焼結体が得られた。その焼結体の諸物性を測定した値は次の通りであった。かさ密度は5.42g/cm3であった。焼結密度比は98.1%であった。また、熱伝導率は72.1W/m・Kであった。体積固有抵抗値は2.84×10-5Ω・cmであった。
【0086】
続いて、導電性セラミックス3の製造方法3について説明する。
平均粒径2.1μmのZrB2粉79.0質量%と、平均粒径0.7μmのSiC粉20.0質量%と、平均粒径0.3μmのB4C粉1.0質量%とがメカニカル混合された後、有機バインダーが20部加えられ、加圧式ニーダーで加熱混練されて、均一分散したコンパウンドが作製された。その後、コンパウンドがペレット化されて成形材料とされた。この材料が射出成形機に投入され、所望の金型内に、可塑化させた材料が50〜100MPaの圧力で射出された。その後、金型内で冷却固化後に材料が取り出されて成形体が得られた。この成形体が大気脱脂炉に入れられ、有機バインダーが加熱分解された。その後、グラファイト炉でAr雰囲気中2300℃で焼成され、冷却されて導電性セラミックス3の焼結体が得られた。その焼結体の諸物性を測定した値は次の通りであった。かさ密度は4.975.42g/cm3であった。焼結密度比は98.3%であった。また、熱伝導率は88.0W/m・Kであった。体積固有抵抗値は3.95×10-5Ω・cmであった。
【0087】
また、製造方法4として、配合比を変化させた場合について説明する。
平均粒径2.1μmのZrB2粉57.0質量%と、平均粒径0.7μmのSiC粉40.0質量%と、平均粒径0.3μmのB4C粉3.0質量%とがメカニカル混合された後、有機バインダーが20部加えられ、加圧式ニーダーで加熱混練されて、均一分散したコンパウンドが作製された。その後、コンパウンドがペレット化されて成形材料とされた。この材料が射出成形機に投入され、所望の金型内に、可塑化させた材料が50〜100MPaの圧力で射出された。その後、金型内で冷却固化後に材料が取り出されて成形体が得られた。この成形体が大気脱脂炉に入れられ、有機バインダーが加熱分解された。その後、グラファイト炉でAr雰囲気中2300℃で焼成され、冷却されて導電性セラミックス3の焼結体が得られた。その焼結体の諸物性を測定した値は次の通りであった。かさ密度は4.22g/cm3であった。焼結密度比は98.7%であった。また、熱伝導率は、107.6W/m・Kであった。体積固有抵抗値は8.09×10-5Ω・cmであった。
【0088】
続いて、導電性セラミックス3の製造方法5について説明する。
平均粒径2.1μmのZrB2粉94.0質量%と、平均粒径0.7μmのSiC粉5.0質量%と平均粒径0.3μmのB4C粉1.0質量%とがメカニカル混合された後、有機バインダーが20部加えられ、加圧式ニーダーで加熱混練されて、均一分散したコンパウンドが作製された。その後、コンパウンドがペレット化されて成形材料とされた。この材料が射出成形機に投入され、所望の金型内に、可塑化させた材料が50〜100MPaの圧力で射出された。その後、金型内で冷却固化後に取り出されて成形体が得られた。この成形体が大気脱脂炉に入れられ、有機バインダーが加熱分解された。その後、グラファイト炉でAr雰囲気中2300℃で焼成され、冷却されて導電性セラミックス3の焼結体が得られた。その焼結体の諸物性を測定した値は次の通りであった。かさ密度は5.61g/cm3であった。焼結密度比は97.8%であった。また、熱伝導率は65.3W/m・Kであった。体積固有抵抗値は2.51×10-5Ω・cmであった。
【0089】
続いて、導電性セラミックス3の製造方法6について説明する。
平均粒径2.1μmのZrB2粉を100質量%に、有機バインダーが20部加えられ、加圧式ニーダーで加熱混練されて、均一分散したコンパウンドを作製された。その後、コンパウンドがペレット化されて成形材料とされた。この材料が射出成形機に投入され、所望の金型内に、可塑化させた材料が50〜100MPaの圧力で射出された。その後、金型内で冷却固化後に材料が取り出されて成形体が得られた。この成形体が大気脱脂炉に入れられ、有機バインダーが加熱分解された。その後、グラファイト炉でAr雰囲気中2300℃で焼成され、冷却されて所望の導電性セラミックス3の焼結体が得られた。その焼結体のかさ密度は5.83g/cm3であった。焼結密度比は95.7%であった。また、熱伝導率は58.8W/m・Kであった。体積固有抵抗は1.74×10-5Ω・cmであった。
【0090】
上記の製造方法と同様に、ZrB2とSiCの成分を変化させて、焼結品を作製した。
その焼結品の焼結密度比が95%以上のサンプルの室温での熱伝導率と体積固有抵抗値とを測定し、焼成品のSiCの配合率(質量%)順にまとめた。
【0091】
表4はSiCの配合率(質量%)と室温での体積固有抵抗値(Ω・cm)との関係を表したもので、それをグラフ化したものが図3である。
【0092】
表5はSiCの配合率(質量%)と室温での熱伝導率(W/m・K)との関係を表したもので、それをグラフ化したものが図7である。
【0093】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の熱電対によれば、導電性セラミックス3が第1の金属線1と第2の金属線2とを電気的に接続し、温接点部として機能するため、測定対象に温接点部として機能する導電性セラミックスを接することで測定対象の温度を正確に測定することができる。また、温接点部として機能する導電性セラミックス3は溶融しにくいため、高温域において連続して測定することができる。したがって、高温域において温度を正確にかつ連続して測定することができる。
【0094】
また、本実施の形態の熱電対によれば、第1の金属線1と第2の金属線2とは、互いに非接触の状態で導電性セラミックス3に保持されている。これにより、第1の金属線1と第2の金属線2とが接触することで相互に成分が拡散することを防止することができる。このため、熱起電力の劣化を防止することができる。そのため、温度測定の誤差の発生を防止することができる。
【0095】
また、本実施の形態の熱電対によれば、導電性セラミックス3の材質は、ZrB2を含むことが好ましい。これにより、溶融金属に対して耐食性を高くすることができる。
【0096】
また、本実施の形態の熱電対によれば、導電性セラミックス3の材質は、SiCを含むことが好ましい。これにより、酸化性スラグに対して耐食性を高くすることができる。
【0097】
また、本実施の形態の熱電対によれば、導電性セラミックス3の材質は、ZrB2を60質量%以上95質量%以下有し、SiCを5質量%以上40質量%以下有することが好ましい。これにより、酸化性スラグに対して耐食性を効果的に高くすることができる。
【0098】
また、本実施の形態の熱電対によれば、導電性セラミックス3の材質は、酸化防止剤を含むことが好ましい。これにより、酸化性スラグに対してさらに耐食性を改善することができる。
【0099】
また、本実施の形態の熱電対によれば、酸化防止剤は、B4Cを含むことが好ましい。これにより、酸化性スラグに対して耐食性を効果的に改善することができる。
【0100】
また、本実施の形態の熱電対によれば、導電性セラミックス3は、表面に設けられた穴30を有している。第1の金属線1および第2の金属線2は、穴30に挿入された状態で導電性セラミックス3に保持されている。これにより、第1の金属線1および第2の金属線2を導電性セラミックス3に強固に保持することができる。このため、第1の金属線1および第2の金属線2が導電性セラミックス3と分離されることを抑制することができる。そのため、安定的に連続して測定することができる。
【0101】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2では、実施の形態1の熱電対を実炉へ適用した場合について説明する。
【0102】
実施の形態1の熱電対10を溶融金属の容器内壁(炉壁)内面に埋め込み、この熱電対10にたとえば細径(外径1〜3mm)の導線を接続して起電力を炉外の計器に導き、測定すれば溶融金属(およびスラグ)の正確かつ連続した測温が可能となる。
【0103】
この熱電対10の温接点はいわゆる「接地型」であり、金属保護管によって外部からの電気的ノイズから保護(シールド)されていない。そのため、起電力測定時には、測定起電力に様々な周波数のノイズも同時に測定される。しかし、これらのノイズは、測温計器にあらかじめ内蔵されたローパスフィルターを適用したり、高速フーリエ変換(FFT)機能による周波数解析によるノイズフィルター処理を行うことにより、また測温計器を十分にシールドすることにより、リアルタイムで容易に除去することができ、実際の起電力測定時には障害とはならない。
【0104】
この熱電対10を実炉へ施工するには、導電性セラミックス3で構成された温接点部を炉壁耐火物の内表面(溶融金属との接触面)に埋め込み、これに接続された第1の金属線1および第2の金属線2により起電力を炉外に導く構造となる。この熱電対10は耐火物製保護管が不要であるため、炉壁から溶融金属内に大きく突出する必要もなく、損傷も極めて少ない。また、第1の金属線1および第2の金属線2の配線に必要な炉体の開孔径は数mmと小さいため、この熱電対10の設置による炉体外部への溶融金属漏洩の危険性はないと考えて差し支えない。
【0105】
また、導電性セラミックス3には 溶融金属(およびスラグ)に対する耐食性は十分あり、時間の経過とともにセラミックス自体が損耗することはないが、セラミックス温接点を埋め込んだ周囲の耐火物は精錬回数を重ねるとともに徐々に溶損し、ついには導電性セラミックス3全体が炉壁から露出して落下し、測温機能を喪失してしまうことが考えられる。このような場合を想定して炉体の溶損の大きいことが予想される場合にはあらかじめ炉壁内に異なる深さで導電性セラミックス3を配置しておき耐火物の溶損の進行に伴い 熱電対10を順次切り替えてゆけば、測温の連続性が保持される。
【0106】
さらにこの熱電対10を使用中、溶融金属を炉体を傾動して排出した後などに導電性セラミックス3の表面が炉内残渣である溶融金属およびスラグの凝固付着により被覆断熱されることで以降の測定時に導電性セラミックスの温度が溶融金属の温度よりも低い状態となってしまうことが考えられる。こうなると熱電対10により溶融金属の真の温度を計測することができなくなる。こうした場合に備えて導電性セラミックス3の背面にあらかじめコイルを埋め込んでおき、そのコイルに通電することにより導電性セラミックス3に誘導電流を発生させ発熱させることにより導電性セラミックス3への付着金属(およびスラグ)を再溶解して除去することも可能である(クリーニング機能)。
【0107】
このように本実施の形態の熱電対10では、溶融金属(およびスラグ)による溶損が抑制される。また、表面に凝固付着した金属(およびスラグ)も容易に除去することができるため、長時間連続使用することができ、かつ正確に溶融金属(およびスラグ)を測温することができる。
【0108】
続いて、熱電対を実炉へ適用した場合の一例として、熱電対を備えた取鍋について説明する。
【0109】
図9を参照して、本実施の形態の取鍋20は、熱電対10と、鉄皮21と、パーマネント煉瓦22と、内張煉瓦23と、スラグライン耐火物24と、トラニオン25と、ノズル26と、スライドゲート27と、信号ケーブルコネクタ28とを主に有している。図9では、溶鋼51とスラグ52とが取鍋20に貯留された状態が示されている。
【0110】
熱電対10は、第1の熱電対11と、第2の熱電対12とを有している。第1の熱電対11および第2の熱電対12はそれぞれ取鍋20の壁部の内周面に設けられている。第1の熱電対11および第2の熱電対12はそれぞれ一方端部3a(図1参照)が内周面から露出するように壁部に保持されている。第1の熱電対11および第2の熱電対12はそれぞれ溶鋼51が貯留された状態で溶鋼51に一方端部3aが接触するように配置されている。第1の熱電対11は壁部の上部に保持されており、第2の熱電対12は壁部の下部に保持されている。
【0111】
取鍋20は溶鋼を貯留可能に構成されている。鉄皮21の内側にパーマネント煉瓦22が配置されている。パーマネント煉瓦22の内側に内張煉瓦23およびスラグライン耐火物24が配置されている。スラグライン耐火物24は、スラグ52の上下面に接するように配置されている。つまり、スラグライン耐火物24はスラグラインに接するように配置されている。
【0112】
トラニオン25は取鍋20を回動可能に設けられている。ノズル26は溶鋼51を排出可能に設けられている。スライドゲート27は、スライドすることで溶鋼51をノズル26に送出可能に設けられている。信号ケーブルコネクタ28は、熱電対の起電力を炉外の計器に導出するために計器と接続可能に設けられている。
【0113】
取鍋内スラグライン直下、取鍋底の鋳込みノズルの側等が測温の最適点である。この2点で同時に測温することにより、取鍋精錬時の均一混合状況判定(溶鋼内温度偏析の有無)、鋳込み時の溶鋼温度降下測定、空鍋時、鍋昇熱時の耐火物蓄積熱の測定等が可能となる。
【0114】
本発明の熱電対は、たとえば下記の適用例に適用され得る。
鉄鋼および非鉄金属としては、コークス炉、熱風炉、高炉炉体、高炉羽口、出銑樋、トーピードカー、溶銑鍋、混銑炉、脱燐炉、転炉、電炉、取鍋、二次精錬炉(LF、RH、DH)、連続鋳造用タンディッシュ、加熱炉、焼鈍炉などに本発明の熱電対は適用され得る。
【0115】
本発明の熱電対により溶融金属の温度が容易に測定可能となった結果、溶融金属容器内において複数部位での同時連続測温を実施することにより、精錬中および搬送中の溶融金属容器内の温度偏析(不均一性)のリアルタイムの判定が可能となる。さらに間接的には成分偏析(不均一性)のリアルタイムの推定も可能となる。これにより、オペレーターによる精錬の進行判定、終点判定、攪拌および加熱の要不要の判断等が確実となる結果、精錬工程における効率の向上、省エネルギー、鋼品質の向上に大きな効果がある。
【0116】
また、廃棄物溶融炉およびガス化炉としては、一般廃棄物溶融炉、原子力廃棄物溶融炉などに本発明の熱電対は適用され得る。
【0117】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、第1の金属線および第2の金属線に電気的に接続された温接点部を備えた熱電対に特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0119】
1 第1の金属線、2 第2の金属線、3 導電性セラミックス、4,5 白金ペースト、6 耐火物粉、7 接着剤、10 熱電対、11 第1の熱電対、12 第2の熱電対、20 取鍋、21 鉄皮、22 パーマネント煉瓦、23 内張煉瓦、24 スラグライン耐火物、25 トラニオン、26 ノズル、27 スライドゲート、28 信号ケーブルコネクタ、30 穴、31 第1の小穴、32 第2の小穴、33 大穴、51 溶鋼、52 スラグ、100 シース線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属線と、
前記第1の金属線とは異なる材質からなる第2の金属線と、
前記第1の金属線と前記第2の金属線とを電気的に接続し、温接点部として機能する導電性セラミックスとを備えた、熱電対。
【請求項2】
前記第1の金属線と前記第2の金属線とは、互いに非接触の状態で前記導電性セラミックスに保持されている、請求項1に記載の熱電対。
【請求項3】
前記導電性セラミックスの材質は、ZrB2を含む、請求項1または2に記載の熱電対。
【請求項4】
前記導電性セラミックスの材質は、SiCを含む、請求項3に記載の熱電対。
【請求項5】
前記導電性セラミックスの材質は、
前記ZrB2を60質量%以上95質量%以下有し、
前記SiCを5質量%以上40質量%以下有する、請求項4に記載の熱電対。
【請求項6】
前記導電性セラミックスの材質は、酸化防止剤を含む、請求項5に記載の熱電対。
【請求項7】
前記酸化防止剤は、B4Cを含む、請求項6に記載の熱電対。
【請求項8】
前記導電性セラミックスは、表面に設けられた穴を有し、
前記第1の金属線および前記第2の金属線は、前記穴に挿入された状態で前記導電性セラミックスに保持されている、請求項1〜7のいずれかに記載の熱電対。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−15488(P2013−15488A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150044(P2011−150044)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000161312)宮川化成工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】