説明

熱電材料の製造方法および熱電材料

【課題】高い性能指数と高い機械強度または機械特性とを併せ持つBiTe系の熱電材料から、少ない工程数の加工によって熱電素子を製造することが可能であるとともに、廃棄される材料の量を抑制することが可能な技術を提供すること。
【解決手段】一方向に延びる溝を備えた第1金型の前記溝にBi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素とからなる材料を配置し、前記溝に嵌められた状態で前記溝内において前記溝が延びる方向に移動可能な溝適合部を備えた第2金型の前記溝適合部が前記溝に嵌められた状態で、前記第1金型と前記第2金型とを前記溝が延びる方向に沿って相対的に逆向きに移動させつつ前記第1金型と前記第2金型との距離を相対的に小さくして前記材料に圧力を作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材料に圧力を作用させた加工法によって熱電材料を製造するための各種の製造方法が知られている。例えば、押出加工、鍛造、ECAP(Equal Channel Angular Pressing)やHPT(High Pressure Torsion)等によって熱電材料を製造する技術が知られている。また、特許文献1においては、HPS(High Pressure Sliding)によって一方向に長い熱電材料を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−61499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては、高い性能指数(Z=α/(ρ×κ):αはゼーベック係数、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率)と高い機械強度または機械特性とを併せ持つBiTe系の熱電材料を少ない工程数の加工によって熱電素子を製造することができなかった。また、熱電素子を製造する際に廃棄される材料の量を抑制することができなかった。すなわち、押出加工、鍛造、ECAPやHPTによって製造される熱電材料はバルクであり、例えば数ミリ角の熱電素子とするためにはバルクの熱電材料をスライス(ウエハー化)し、メッキを施した後にダイシングしてチップ化する必要があった。従って、スライスおよびダイシングの2工程によって熱電材料を切断する必要があり、切断によって多量の材料が廃棄されてしまう。
【0005】
また、特許文献1に、特定の組成の熱電材料に適した製造条件は開示されておらず、HPSによって特定の組成において高い性能指数と高い機械強度または機械特性とが実現される熱電材料を製造する技術は実質的に開発されていなかった。従って、特許文献1を参照しても、高い性能指数と高い機械強度または機械特性とを併せ持つBiTe系の熱電材料を製造することはできない。さらに、特許文献1においては、被処理物が長手状の平板体であるため、当該平板体を製造する工程が必要になってしまう。
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、高い性能指数と高い機械強度または機械特性とを併せ持つBiTe系の熱電材料から、少ない工程数の加工によって熱電素子を製造することが可能であるとともに、廃棄される材料の量を抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的の少なくとも一つを解決するため、一方向に延びる溝を備えた第1金型の当該溝にBi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素とからなる材料を配置し、溝に嵌められた状態で溝内において溝が延びる方向に移動可能な溝適合部を備えた第2金型の当該溝適合部が溝に嵌められた状態で、第1金型と第2金型とを溝が延びる方向に沿って相対的に逆向きに移動させつつ第1金型と第2金型との距離を相対的に小さくして材料に圧力を作用させることによって熱電材料を製造する。すなわち、第1金型の溝内でBiTe系の熱電材料を製造することにより、一方向に長い熱電材料を製造することができる。このため、当該長い方向に対して垂直な方向に一回切断すれば直方体の熱電素子のチップを得ることができ、熱電素子のチップを製造する際の工程数と廃棄材を抑制することができる。
【0007】
さらに、第1金型と第2金型とで圧力を掛けながら両金型を相対的に逆向きに移動させつつ第1金型と第2金型との距離を相対的に小さくするため、熱電材料の結晶軸を特定の方向に揃えつつ、結晶粒を微細化した熱電材料を製造することができ、高い性能指数と高い機械強度または機械特性とを同時に実現することが可能である。なお、第1金型の溝が延びる方向に沿って第1金型と第2金型とを相対的に逆向きに移動させつつ第1金型と第2金型との距離を相対的に小さくして材料に圧力を作用させる加工を、以下、HPS加工と呼ぶ。
【0008】
さらに、HPS加工を行う際の温度と、溝が延びる方向に沿って第1金型と第2金型とを相対的に逆向きに移動させる際の移動量とを調整することによって、所望の性能指数の熱電材料を製造することが可能になる。例えば、HPS加工を行う際の温度毎に第1金型と第2金型との相対的な移動量の可変範囲を規定する構成において、製造される熱電材料の性能指数が所定の閾値以上となる移動量の最小値を当該移動量の可変範囲の下限値に設定し、第1金型と第2金型とを溝が延びる方向に沿って相対的に逆向きに移動させる際に材料が割れない移動量の最大値を当該移動量の可変範囲の上限値とする構成としても良い。すなわち、HPS加工を行う際の金型の相対的な移動量が大きい場合には実用的に充分高い性能指数の熱電材料を製造できるため、移動量の可変範囲の上限値は材料が割れない範囲で最大の移動量とすればよい。
【0009】
また、実用的に充分な範囲の性能指数の最低値を所定の閾値とすれば、当該所定の閾値以上の性能指数を製造可能な移動量の最小値を移動量の可変範囲の下限値として設定することができる。そして、このように規定された、HPS加工を行う際の温度毎の移動量の可変範囲内で熱電材料を製造すれば、所望の性能指数の熱電材料を製造することが可能になる。なお、HPS加工を行う際の温度は融点より所定温度(例えば10℃)低い温度以下である必要がある。また、温度が高くなれば加工過程で材料が割れにくくなり、加工過程で材料が割れないようにするためには過度に低い温度で加工することはできない。従って、温度にも選択可能な範囲があると言える。
【0010】
さらに、HPS加工を行う際の温度が高くなるほど温度毎に設定された移動量の可変範囲が大きくなるように温度と可変範囲との関係を規定しても良い。すなわち、温度が高くなれば加工過程で材料が割れにくくなるため、移動量の可変範囲を大きくすることができる。
【0011】
さらに、HPS加工を行う際の温度が高くなるほど温度毎に設定された移動量の可変範囲の重心の値が大きくなるように温度と可変範囲との関係を規定しても良い。すなわち、温度が高くなれば加工過程で材料が割れにくくなることを考慮し、温度が高くなるほど可変範囲が徐々に大きな移動量側にシフトするように可変範囲を設定しても良い。
【0012】
さらに、HPS加工を行う際の温度が350℃である場合に材料に対して圧力が作用する方向の厚さで移動量を除した規格化移動量が0.5〜2、HPS加工を行う際の温度が400℃である場合に規格化移動量が0.5〜3、HPS加工を行う際の温度が500℃である場合に規格化移動量が0.8〜4であるように温度と可変範囲とを規定しても良い。この構成によれば、実用的で高い性能指数のBiTe系熱電材料を製造することができる。なお、上述の数値と異なる温度および可変範囲については上述の数値から補間すればよい。また、HPS加工を行う際の温度が550℃である場合に規格化移動量が0.8〜4であるように温度と可変範囲とを規定し、HPS加工を行う際の温度が560℃である場合に規格化移動量が1〜4であるように温度と可変範囲とを規定しても良い。
【0013】
さらに、HPS加工を行う際の温度が350℃である場合に規格化移動量が1〜2、HPS加工を行う際の温度が400℃である場合に規格化移動量が1〜3、HPS加工を行う際の温度が500℃である場合に規格化移動量が1〜4であるように温度と可変範囲とを規定しても良い。この構成によれば、さらに、高い性能指数のBiTe系熱電材料を製造することができる。さらに、HPS加工を行う際の温度が500℃である場合に規格化移動量が2〜4であるように温度と可変範囲とを規定すれば、さらに、高い性能指数のBiTe系熱電材料を製造することができる。
【0014】
さらに、特許文献1のように平板体の材料を出発材とするとHPS加工を行う装置と異なる装置にて平板体を製造するための工程が必要になるが、HPS加工の出発材をHPS加工を行う装置にて用意することができれば工程が簡素になり好ましい。そこで、第1金型の溝にBi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素とからなる粉末を配置し、溝適合部が溝に嵌められた状態で、第1金型と第2金型との距離を相対的に小さくして粉末にHPS加工を行う際の圧力よりも小さい粉末成形圧力を作用させることによってバルクの成形材料とする構成を採用しても良い。すなわち、当該成形材料をHPS加工の出発材とする構成とする。この構成によれば、粉末の材料を溝にセットすることによって粉末体をバルクの出発材にする工程とHPS加工とを第1金型および第2金型で実現することができる。従って、特許文献1のように第1金型および第2金型と別の装置において出発材を製造する必要はなく、加工工程を簡素化することが可能になる。
【0015】
さらに、上述のようにして製造した熱電材料においては、特定の方向に関する性能指数が高いので、当該特定の方向(結晶粒の長手方向が揃っている特定の方向)を通電方向とするように熱電材料を切断して熱電素子を製造する。そして、得られた熱電素子を組み合わせて熱電変換モジュールとすれば、高性能の熱電変換モジュールを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】熱電材料の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】金型の一例を示す模式図である。
【図3】製造プロセスにおける温度と規格化移動量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)熱電材料の製造方法:
(2)実施例および比較例:
【0018】
(1)熱電材料の製造方法:
図1は、熱電材料の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。本実施形態においては、まず、BiTe系熱電材料の原料となる元素を秤量して溶融し、インゴットを作成する(ステップS100)。すなわち、Bi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素とのインゴットを秤量し、(Bi,Sb)(Te,Se)の組成とする。
【0019】
秤量後には、各種手段によってこれらの元素を一旦溶融して冷却することにより、所望組成の合金のインゴットを作成する。次に、当該合金のインゴットをロール型液体急冷法によって急冷し、薄膜状の粉末を作成する(ステップS105)。すなわち、合金のインゴットを溶融させ、回転するロールに吹き付けることによって薄膜状の粉末とする。むろん、液体急冷の手法としては単ロール法でもよいし、双ロール法でもよい。また、ガスアトマイズや回転ディスクを用いて合金を粉末化した材料を利用しても良いし、合金のインゴットを粉砕して利用しても良い。さらに、秤量した各元素を溶融した後、冷却してインゴットにする工程を省略し、溶融状態の合金を液体急冷してもよい。むろん、材料を水素等で還元しても良い。
【0020】
合金の粉末材料が準備されると、図示しないチャンバー内で当該粉末を金型にセットする(ステップS110)。図2は、HPSによって熱電材料を製造するための第1金型11および第2金型12の一例を示す模式図である。第1金型11の外形は略直方体であり、一面に溝11aが形成されている。溝11aは第1金型11の長手方向に沿って延びるように形成されている。また、溝11aの内壁は当該長手方向と同一の方向に長い3個の直方体の面で構成されており、当該長手方向と垂直な方向における第1金型11の断面は凹状である。なお、図2においては、第1金型11および第2金型12の形状を模式的に示しており、第1金型11の溝11aは、図2に示す溝11aよりも長手方向に長い構成であって良い。
【0021】
第2金型12は、直方体の溝適合部12aと当該溝適合部12aに接続された円柱部12bとを備えている。溝適合部12aは一方に長い直方体であるとともに、溝11aに対して嵌めることが可能である。すなわち、円柱部12bに対して力を作用させることによって溝適合部12aを溝11aに対して嵌めることや溝適合部12aを溝11aに対して嵌めた状態で溝11aが延びる方向に溝適合部12aを移動させることが可能である。従って、溝11aに対して材料をセットした状態で、溝適合部12aを溝11aに嵌め、第1金型11と第2金型12との距離を相対的に小さくすることによって第1金型と第2金型とで材料に圧力を掛けながら溝11aが延びる方向に沿って両金型を相対的に逆向きに移動させることで、材料をHPS法によって加工することができる。
【0022】
ステップS110にて粉末を第1金型11の溝11a内にセットすると、前記チャンバー内を真空引きし、真空引きが完了した後にチャンバー内にアルゴンガスを導入する(ステップS115)。すなわち、第1金型11および第2金型12の雰囲気をアルゴンガスに置換する。この後、粉末材料に対して粉末成形処理を行って粉末をバルク状に成形した後(ステップS120)、バルク状の材料に対してHPS加工を行って(ステップS125)熱電材料を製造する。
【0023】
すなわち、ステップS120においては、図示しないヒータによって第1金型11および第2金型12を加熱し、第1金型11および第2金型12を予め決められた粉末成形温度に設定する。本実施形態において、この粉末成形温度は350℃〜500℃である。第1金型11および第2金型12が粉末成形温度に達したら、第2金型12の円柱部12bに圧力を作用させて溝適合部12aを溝11aに対して嵌め、さらに、第1金型11と第2金型12との距離を相対的に小さくすることによって粉末に対して予め決められた粉末成形圧力を作用させる。この結果、粉末の材料はバルク材となる。なお、本実施形態において、粉末成形圧力は例えば50〜80MPaである。
【0024】
さらに、ステップS125においては、図示しないヒータによって第1金型11および第2金型12を加熱し、第1金型11および第2金型12を予め決められたHPS加工時の温度に設定する。本実施形態において、この温度は350℃〜560℃である。第1金型11および第2金型12がHPS加工時の温度に達したら、溝適合部12aが溝11aに嵌められた状態で第2金型12の円柱部12bに圧力を作用させ、第1金型11と第2金型12とを溝11aが延びる方向に沿って相対的に逆向きに移動させる。また、このとき、第1金型11と第2金型12との距離を相対的に小さくすることによってバルクとなった材料に上述の粉末成形圧力よりも大きい圧力を作用させる。
【0025】
なお、本実施形態において、粉末成形圧力よりも大きい圧力は例えば1GPである。また、本実施形態において、溝適合部12aが溝11aに嵌められた状態で、第1金型11と第2金型12とを溝11aが延びる方向に沿って相対的に逆向きに移動させる際の移動量は、規格化移動量によって定義される。すなわち、規格化移動量は、第1金型11と第2金型12とを溝11aが延びる方向に沿って相対的に逆向きに移動させる際の移動量を、圧力が作用する方向の材料の厚さ(すなわち、第1金型11と第2金型12との距離)で除すことによって規格化した値である。例えば、第1金型11を固定し、第2金型12を図2に示す方向D1に移動させつつ、第2金型12を方向D2に移動させて材料に圧力を作用させる場合、規格化移動量は、(方向D1に沿った第2金型12の移動量)/(方向D2に沿った材料の厚さ)である。また、本実施形態において規格化移動量は0.5〜4である。このように、本実施形態においては、第1金型11と第2金型12とによって2工程で圧力を作用させている。
【0026】
ステップS125にて、HPS加工を行うと、図示しない冷却機構によって第1金型11および第2金型12を冷却し(ステップS130)、材料を取り出し可能な温度まで第1金型11および第2金型12が冷却されると、第1金型11および第2金型12から熱電材料を取り出す(ステップS135)。取り出された熱電材料は、溝11aと溝適合部12aとに挟まれた状態で製造されるため、一方向に長い線状の熱電材料を製造することができる。また、熱電材料の菱面体結晶のc面は、HPS加工の際の溝11aと溝適合部12aとの相対的な移動方向に応じた方向に配向する。すなわち、図2に示す第1金型11および第2金型12によるHPS加工では、菱面体結晶のc面が圧力の作用方向である方向Dと垂直な方向に配向する。
【0027】
そこで、熱電材料の長手方向に対して垂直な方向に熱電材料を切断して直方体の熱電素子を製造する(ステップS140)。例えば、図2に示す第1金型11および第2金型12によるHPS加工では、溝11aが延びる方向D1と平行な方向が長手方向となった熱電材料が製造されるため、方向D1に対して垂直な方向D2に平行な面を持つように熱電材料を切断し、直方体の形状とする。そして、切断された熱電材料を一つの熱電素子とすれば、c面が素子の外面に垂直および平行に配向している熱電素子を製造することができる。
【0028】
以上のように、本実施形態においては、溝11a内でBiTe系の熱電材料を製造することにより、一方向に長い熱電材料を製造し、熱電素子の長手方向に対して垂直な方向に一回切断することによって直方体の熱電素子のチップを製造する。従って、バルクの熱電素子をスライスし、ダイシングする従来の工程と比較して、工程数と廃棄材とを抑制することができる。
【0029】
また、第1金型11と第2金型12との距離を相対的に小さくすることによって第1金型11と第2金型12とで材料に圧力を作用させつつ、第1金型11の溝11aが延びる方向に沿って第1金型11と第2金型12とを相対的に逆向きに移動させるため、熱電材料の結晶軸を特定の方向に揃えつつ、結晶粒を微細化した熱電材料を製造することができる。従って、高い性能指数と高い機械強度または機械特性とを併せ持つ熱電材料を製造することが可能である。
【0030】
さらに、本実施形態においては、第1金型11の溝11aに粉末材料を配置し、第1金型11および第2金型12によってHPS加工時の圧力よりも小さい粉末成形圧力を作用させ、粉末材料を一旦バルクの成形材料としている。すなわち、粉末材料に1GPaもの高圧力を作用させようとしても圧力が有効に作用しないため、粉末材料を一旦バルク材とする。このため、特許文献1のように高圧力を作用させる材料を予め平板体にする必要はなく、第1金型11および第2金型12を収容するチャンバー内から各金型を取り出すことなく粉末材をバルクの成形材料とし、当該バルクの成形材料に対して高圧力を作用させることができ、加工工程を簡素化することが可能である。
【0031】
(2)実施例および比較例:
表1は、Bi1.9Sb0.1Te2.7Se0.3の組成を有する粉末についてHPS加工を行った場合と他の加工法で加工を行った場合の温度や規格化移動量、熱電材料の熱電特性、圧縮強度、割れの有無を示している。なお、表1に示すP.F.はパワーファクタ(×10-3W/(m・K2))(α/ρ:αはゼーベック係数、ρは電気抵抗率)であり、κは熱伝導率(W/(m・K))、Zは性能指数(×10-3/K)である。また、表1に示す圧縮強度は、素子の通電方向(図2に示す第1金型11および第2金型12で製造した熱電素子における方向D1)の圧縮強度(kgf/mm)である。さらに、HPS加工後に熱電材料が割れていたものには右端の欄に「割れ」と示している。
【表1】

【0032】
表1において、HPS法1は予め作成したバルクの成形体に対して第1金型11および第2金型12にて1GPaの圧力を作用させるHPS加工を行った場合の実施例であり、HPS法2は上述の図1に示すフローチャートに従って、粉末の原料を第1金型11および第2金型12にセットして粉末成形圧力を作用させて30MPaの圧力を作用させるホットプレスによってバルクを生成した後、取り出さずに第1金型11および第2金型12にて1GPaの圧力を作用させるHPS加工を行った場合の実施例である。ホットプレス法は50MPaにて成形、押出法は押し出比5:1にて成形したものである。
【0033】
各加工方法において表1に示す温度で熱電材料を製造すると、性能指数Zが2.53以上の熱電材料を製造することができる。さらに、規格化移動量0.5〜4の範囲であればHPS加工中に割れを発生させることなく熱電材料を製造することができ、HPS法1,HPS法2に示すように圧縮強度が15.4以上の熱電材料を製造することができる。
【0034】
さらに、HPS加工を行う際の温度と、溝が延びる方向に沿って第1金型11と第2金型12とを相対的に逆向きに移動させる際の移動量とを調整することによって、所望の性能指数の熱電材料を製造することが可能になる。表1に示す例においては、温度350〜560℃の複数の温度に対して規格化移動量の可変範囲を定義することができ、これらの温度と可変範囲との組み合わせを選択することによって所望の性能指数および圧縮強度の熱電材料を製造することができる。
【0035】
図3は、HPS法2における温度を縦軸、規格化移動量を横軸としたグラフであり、性能指数Z≧3.4の熱電材料を製造可能な温度および規格化移動量の組み合わせを黒丸、2.9≦性能指数Z<3.4の熱電材料を製造可能な温度および規格化移動量の組み合わせを白丸、性能指数Z<2.9の熱電材料を製造可能な温度および規格化移動量の組み合わせを黒い三角形、HPS加工の過程で熱電素子が割れた場合の温度および規格化移動量の組み合わせをバツによって示している。
【0036】
当該図3に示すように、性能指数Zに複数の閾値を設定し、各閾値に規定される範囲の性能指数Zとなるような温度および規格化移動量の組み合わせをグラフ上にプロットすると、温度および規格化移動量をパラメータとした範囲と性能指数Zの範囲とを対応させることができる。すなわち、3.4を性能指数Zの閾値とし、当該3.4以上の性能指数の熱電材料を製造可能な規格化移動量の最小値を下限値とし、割れることなく熱電材料を製造可能な規格化移動量の最大値を上限値として規格化移動量の可変範囲を定義すると、3.4以上の性能指数の熱電材料を製造可能な規格化移動量の可変範囲を温度毎に定義することができる。
【0037】
具体的には、表1からは、温度が350℃である場合に規格化移動量が1〜2、温度が400℃である場合に規格化移動量が1〜3、温度が500℃である場合に規格化移動量が2〜4であるように3.4以上の性能指数の熱電材料を製造可能な温度と可変範囲とを規定することができる。そこで、図3に黒丸で示された3.4以上の性能指数の熱電材料を製造可能な温度および規格化移動量のうち、最も外側に存在するデータから補間することによって実線で示す範囲Z1を規定すれば、当該範囲Z1に含まれる温度および規格化移動量の組み合わせでHPS加工を行うことにより、性能指数Zが3.4以上の熱電材料を製造することが可能になる。
【0038】
また、同様に2.9を性能指数Zの閾値とし、当該2.9以上の性能指数の熱電材料を製造可能な規格化移動量の最小値を下限値とし、割れることなく熱電材料を製造可能な規格化移動量の最大値を上限値として規格化移動量の可変範囲を定義すると、2.9以上の性能指数の熱電材料を製造可能な規格化移動量の可変範囲を温度毎に定義することができる。具体的には、表1からは、温度が350℃である場合に規格化移動量が1〜2、温度が400℃である場合に規格化移動量が1〜3、温度が500℃である場合に規格化移動量が1〜4、温度が550℃である場合に規格化移動量が1〜4であるように2.9以上の性能指数の熱電材料を製造可能な温度と可変範囲とを規定することができる。そこで、図3に白丸(および黒丸)で示された2.9以上の性能指数の熱電材料を製造可能な温度および規格化移動量のうち、最も外側に存在するデータから補間することによって破線で示す範囲Z2を規定すれば、当該範囲Z2に含まれる温度および規格化移動量の組み合わせでHPS加工を行うことにより、性能指数Zが2.9以上の熱電材料を製造することが可能になる。
【0039】
さらに、2.53を性能指数Zの閾値とし、当該2.53以上の性能指数の熱電材料を製造可能な規格化移動量の最小値を下限値とし、割れることなく熱電材料を製造可能な規格化移動量の最大値を上限値として規格化移動量の可変範囲を定義すると、2.53以上の性能指数の熱電材料を製造可能な規格化移動量の可変範囲を温度毎に定義することができる。具体的には、表1からは、温度が350℃である場合に規格化移動量が0.5〜2、温度が400℃である場合に規格化移動量が0.5〜3、温度が500℃である場合に規格化移動量が0.8〜4、温度が550℃である場合に規格化移動量が0.8〜4、温度が560℃である場合に規格化移動量が1〜4であるように2.53以上の性能指数の熱電材料を製造可能な温度と可変範囲とを規定することができる。そこで、図3に黒い三角形で示された2.53以上の性能指数の熱電材料を製造可能な温度および規格化移動量のうち、最も外側に存在するデータから補間することによって範囲Z3を規定すれば、当該範囲Z3に含まれる温度および規格化移動量の組み合わせでHPS加工を行うことにより、性能指数Zが2.53以上の熱電材料を製造することが可能になる。
【0040】
以上のように、性能指数Zに閾値を設定すれば、当該閾値以上の性能指数の熱電材料を製造可能な温度および規格化移動量の範囲を特定することができ、所望の性能指数に対応した範囲内の温度および規格化移動量の組み合わせでHPS加工を行うことにより、所望の性能指数の熱電材料を製造することが可能になる。
【0041】
なお、図3に示すように、範囲Z1〜Z3は、温度が高くなるほど規格化移動量の可変範囲が大きくなる。すなわち、温度が高くなれば加工過程で材料が割れにくくなるため、移動量の可変範囲を大きくすることができる。さらに、範囲Z1〜Z3においては温度が高くなるほど可変範囲の重心の値が大きくなる。例えば、範囲Z1において、温度350℃に対応した規格化移動量の可変範囲は1〜2であるため、重心は1.5であるが、温度400℃に対応した規格化移動量の可変範囲は1〜3であるため、重心は2であり、重心の値は温度が高くなるほど大きくなる。すなわち、温度が高くなれば加工過程で材料が割れにくくなるため、温度が高くなるほど徐々に大きな規格化移動量の値になるようにシフトするように可変範囲を設定することが好ましい。
【0042】
なお、HPS法1においては、予め第1金型11の溝11aに入るような角柱のバルクの材料を製造しておく必要がある。当該バルクの材料は粉末の材料にHPS加工時の圧力よりも小さな所定の圧力を作用させ、必要に応じて切断することによって製造することができ、圧力は具体的には50〜80MPaである。表2は、予め第1金型11の溝11aに入るような角柱のバルクの材料を製造する際にBi1.9Sb0.1Te2.7Se0.3の組成を有する粉末材料に対して作用させた圧力と温度と製造後のバルクの材料の相対密度を示している。なお、ここで、相対密度は、製造後のバルクの材料の実際の密度と理論密度との比であり、理論密度を7.78g/cm3(金、片山、応用物理 39(1970)1028−1033)として計算した。
【表2】

【0043】
以上のように、温度を350〜500℃、圧力を50〜80MPaとすれば、相対密度が98%以上となり、熱電材料が割れることなく粉末材料をバルクの材料にすることができる。なお、HPS法2においては、第1金型11および第2金型12を溝11aに沿って相対的に逆向きに移動させつつ1GPaの圧力を作用させる前に、第1金型11および第2金型12によって粉末の材料に対して粉末成形圧力を作用させる必要がある。当該粉末成形圧力を作用させる際の条件は上述の表2に示した条件と同様であって良い。すなわち、第1金型11の溝11a内にBi1.9Sb0.1Te2.7Se0.3の組成を有する粉末材料をセットし、第1金型11および第2金型12を350〜500℃に加熱した後に第1金型11および第2金型12の距離を相対的に小さくすることによって50〜80MPaの圧力を粉末材料に作用させることによってバルクの材料を形成しても良い。
【符号の説明】
【0044】
11…第1金型
11a…溝
12…第2金型
12a…溝適合部
12b…円柱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延びる溝を備えた第1金型の前記溝にBi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素とからなる材料を配置し、前記溝に嵌められた状態で前記溝内において前記溝が延びる方向に移動可能な溝適合部を備えた第2金型の前記溝適合部が前記溝に嵌められた状態で、前記第1金型と前記第2金型とを前記溝が延びる方向に沿って相対的に逆向きに移動させつつ前記第1金型と前記第2金型との距離を相対的に小さくして前記材料に圧力を作用させる、
熱電材料の製造方法。
【請求項2】
前記第1金型と前記第2金型とを前記溝が延びる方向に沿って相対的に逆向きに移動させる際の移動量の可変範囲は、前記第1金型と前記第2金型とによって前記移動を行いつつ、前記圧力を作用させる際の温度毎に設定され、
前記可変範囲の下限値は製造される熱電材料の性能指数が所定の閾値以上となる前記移動量の最小値であり、前記可変範囲の上限値は前記第1金型と前記第2金型とを前記溝が延びる方向に沿って相対的に逆向きに移動させる際に前記材料が割れない前記移動量の最大値である、
請求項1に記載の熱電材料の製造方法。
【請求項3】
前記温度毎に設定された前記可変範囲は、前記温度が高くなるほど大きくなる、
請求項2に記載の熱電材料の製造方法。
【請求項4】
前記温度毎に設定された前記可変範囲の重心の値は、前記温度が高くなるほど大きくなる、
請求項3に記載の熱電材料の製造方法。
【請求項5】
前記可変範囲は、
前記温度が350℃である場合に前記材料に対して前記圧力が作用する方向の厚さで前記移動量を除した規格化移動量が0.5〜2、
前記温度が400℃である場合に前記規格化移動量が0.5〜3、
前記温度が500℃である場合に前記規格化移動量が0.8〜4、
前記温度が550℃である場合に前記規格化移動量が0.8〜4、
前記温度が560℃である場合に前記規格化移動量が1〜4である、
請求項2に記載の熱電材料の製造方法。
【請求項6】
前記材料は、前記溝にBi,Sbからなる群から選択される少なくとも1種の元素と、Te,Seからなる群から選択される少なくとも1種の元素とからなる粉末を配置し、前記溝適合部が前記溝に嵌められた状態で、前記第1金型と前記第2金型との距離を相対的に小さくして前記粉末に前記圧力よりも小さい粉末成形圧力を作用させることによって成形された成形材料である、
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の熱電材料の製造方法。
【請求項7】
前記請求項1〜請求項6のいずれかに記載の製造方法によって製造された熱電材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−109337(P2012−109337A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255634(P2010−255634)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)