説明

燃料供給装置

【課題】燃料タンク本体内の燃料が傾斜した場合でも、燃料フィルタからの気体の吸い込みを抑制することの可能な燃料供給装置を得る。
【解決手段】燃料フィルタ16内には、移送配管34の端部を開閉するダイヤフラム弁226が設けられる。ダイヤフラム弁26の閉弁圧は、燃料フィルタ16において液膜を維持する液膜圧よりも低く設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料供給装置に関し、さらに詳しくは、燃料タンク内の燃料を機関等に供給するための燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンク内の燃料を機関等の外部装置に供給する燃料供給装置には、燃料タンク本体内に燃料フィルタを備えるようにし、燃料フィルタで異物が除去された燃料を燃料タンク本体から外部に送出するようにしたものがある。たとえば特許文献1には、燃料吸上管の先端部を分岐させ、先端部のそれぞれにチェックバルブを備えると共に、チェックバルブの吸入口にサクションフィルタを設置した燃料供給装置が記載されている。チェックバルブは、その上流側に燃料タンク内の圧力ヘッドが作用すると開弁するようになっている。
【0003】
しかし、特許文献1の構造では、燃料タンク内の燃料が傾斜した場合に、燃料液面よりも上方に位置する燃料フィルタのチェックバルブには、燃料液面から燃料フィルタまでの高さに応じて負圧が作用する。この負圧が、燃料フィルタの表面の油膜を維持可能な範囲を超えると油膜が維持できなくなるため、気体を吸い込んでしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−236435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、燃料タンク本体内の燃料が傾斜した場合でも、燃料フィルタからの気体の吸い込みを抑制することの可能な燃料供給装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、燃料を収容する燃料タンク本体と、前記燃料タンク本体の底面に沿って備えられ、袋状に形成され内部への燃料透過時に燃料中の異物の通過を制限する複数の燃料フィルタと、前記燃料フィルタの内部から前記燃料タンクの外部へ燃料を送出するための送出配管と、複数の前記燃料フィルタを、燃料の移送を可能に連結する連結手段と、前記燃料フィルタと前記連結手段との連通状態と非連通状態とを切り替え可能で、燃料フィルタ内のフィルタ内圧と燃料フィルタ外のフィルタ外圧との差圧が燃料フィルタ表面の油膜を維持可能な所定値以下の範囲では前記連通状態とし該所定値を超えると前記非連通状態とする開閉弁部材と、を有する。
【0007】
この燃料供給装置では、燃料フィルタによって燃料をろ過することができる。燃料フィルタ内の濾過された燃料は、送出手段により、燃料タンクの外部、たとえば機関等へ送出される。しかも、複数の燃料フィルタを有しているので、1つのみ燃料フィルタを有している構成と比較して、燃料フィルタのいずれかが燃料に浸漬された状態を実現しやすくなる。複数の燃料フィルタは連結手段により連結されており、燃料フィルタ間での燃料の移送が可能になっている。
【0008】
燃料フィルタと連結手段の連通状態と非連通状態とは、開閉弁部材により切り替え可能とされる。開閉弁部材は、フィルタ内圧とフィルタ外圧との差圧が燃料フィルタ表面の油膜を維持可能な所定値以下の範囲では連通状態とするので、連結手段を通じて燃料フィルタ間で燃料を移送させることが可能である。これに対し、差圧が所定値を超えると非連通状態とする。所定値は、燃料フィルタ表面の油膜を維持可能な値であるので、油膜が切れる前に燃料フィルタと連結手段とは非連通状態となる。これにより、燃料フィルタの油膜を維持できるので、燃料フィルタからの気体の吸い込みも抑制できる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記開閉弁部材が、前記燃料フィルタ内圧を受けるフィルタ内受圧面と燃料フィルタ外圧を受けるフィルタ外受圧面とを有し、フィルタ内受圧面で受けたフィルタ内圧とフィルタ外受圧面で受けたフィルタ外圧の差圧によって前記連通状態となる開弁位置と前記非連通状態となる閉弁位置とを移動し前記連結手段を開閉するダイヤフラム弁を有している。
【0010】
開閉弁部材は、フィルタ内受圧面でフィルタ内圧を受けると共に、フィルタ外受圧面でフィルタ外圧を受ける。そして、これらの差圧によって、開弁位置と閉弁位置との間を起動することで連結手段を開閉し、連通状態と非連通状態とを切り替える。ダイヤフラム弁はフィルタ内圧とフィルタ外圧とを受けて開弁位置と閉弁位置とを移動するので、連通状態と非連通状態とを切り替える機構を簡単な構造で実現できる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記開閉弁部材が、前記フィルタ内圧を検知するフィルタ内圧センサと、前記フィルタ外圧を検知するフィルタ外圧センサと、前記フィルタ内圧センサで検知された前記フィルタ内圧と前記フィルタ外圧センサで検知された前記フィルタ外圧との差圧に基づいて前記連結手段を開閉する電磁弁と、を有する。
【0012】
フィルタ内圧センサで検知されたフィルタ内圧と、フィルタ外圧センサで検知されたフィルタ外圧との差圧に基づき、電磁弁が移送手段を連結手段を開閉することで、連通状態と非連通状態とを切り替える。電磁弁を用いているので、連結手段の確実な開閉が可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記構成としたので、燃料タンク本体内の燃料が傾斜した場合でも、燃料フィルタからの気体の吸い込みを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を部分的に拡大して示す概略断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の燃料供給装置において燃料が傾斜した状態を示す概略構成図である。
【図4】本発明の第1実施形態の燃料供給装置に用いられるダイヤフラム弁及びその近傍を拡大して示す断面図であり、(A)は開弁状態、(B)は閉弁状態である。
【図5】本発明の燃料供給装置において燃料フィルタに作用する差圧と燃料フィルタの液膜圧及びダイヤフラム弁の閉弁圧との関係を定性的に示すグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態の燃料供給装置を部分的に拡大して示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には、本発明の第1実施形態の燃料供給装置12の概略構成が示されている。この燃料供給装置12は、燃料が収容される燃料タンク本体14を有している。本実施形態の燃料タンク本体14は中空の箱状に形成されているが、底壁14Sの中央部分からは上方に向けて膨出する山部14Mが形成されており、内部が主室14A及び副室14Bに区画された構造(いわゆる鞍型タンク)となっている。
【0016】
燃料タンク本体14の上面14Uの角部近傍には、図示しないインレット配管が接続されている。このインレット配管を通じて、燃料を燃料タンク本体14内(主に主室14A)に給油できる。
【0017】
燃料タンク本体14の内部には、主室14A及び副室14Bのそれぞれに対応して、燃料タンク本体14の底壁14Sに沿って配置された複数のサブタンク15が備えられている。本実施形態では、サブタンク15の数を、主室14A及び副室14Bのそれぞれに1つずつ、合計で2つとしている。以下において、2つのサブタンク15を区別する場合は、主室14A側のサブタンク15を第1サブタンク15A、副室14B側のサブタンク15を第2サブタンク15Bとする。
【0018】
第1サブタンク15Aには、燃料ポンプモジュール32が備えられており、この点で、燃料ポンプモジュール32が備えられていない第2サブタンク15Bと異なっているが、サブタンクとしての基本的構成は、燃料ポンプモジュール32の有無以外は同一とされているため、図2を用いて、サブタンク15の構成を説明する。
【0019】
サブタンク15のそれぞれは、燃料フィルタ16と、この燃料フィルタ16の上方に配置された貯留部材18とを有している。
【0020】
燃料フィルタ16は、上下に配置された2枚の濾布(上側濾布16Uと下側濾布16L)を有している、本実施形態では、上側濾布16Uと下側濾布16Lとは、2枚の略同形状(たとえば四角形状等の多角形状であっても良いし、円形や楕円形などでも良い)に形成されている。上側濾布16Uと下側濾布16Lにおいて、それぞれの外周部分を、溶着や接着等により接合することで、全体として偏平な直方体形状の燃料フィルタ16を構成している。
【0021】
そして、上側濾布16Uと下側濾布16Lとの間に間隔維持部材52が配置されることで、上側濾布16Uと下側濾布16Lとの間に、燃料を収容するための空間が構成された、偏平な袋状(閉曲面状)の燃料フィルタ16となっている。
【0022】
上側濾布16Uと下側濾布16Lとは、袋状とされた燃料フィルタ16の外側から内側へと燃料を通過させるが、その際に燃料中の異物を除去し、燃料フィルタ16の内部には異物が流入しないようにする作用を有する材料(たとえば織布、不織布、多孔質性樹脂、メッシュ状の部材等など)で構成されている。
【0023】
燃料フィルタ16は、このように上側濾布16Uあるいは下側濾布16Lを通過した燃料GSを、その内部に貯留させることができる。さらに、図2にも示しているように、燃料フィルタ16の少なくとも一部が燃料タンク本体14内の燃料GSに浸漬されている状態では、燃料フィルタ16の表面に燃料GSによる液膜LMが形成されて維持されるようになっている。
【0024】
燃料フィルタ16(特に下側濾布16L)は、燃料タンク本体14の底壁14Sに沿って略平行になるように配置されており、底壁14Sとの隙間を通じて燃料を燃料フィルタ16内に流入させることができる。
【0025】
図2から分かるように、上側濾布16Uと下側濾布16Lとは異なる材質とされており、特に、上側濾布16Uの圧力損失が下側濾布16Lの圧力損失よりも大きくなるように、これら濾布の材質が選択されている。ここでいう「圧力損失」は、上側濾布16Uあるいは下側濾布16Lを燃料が通過するとき(たとえば後述する燃料ポンプ本体42の駆動時)の、通過前後の圧力差である。したがって、下側濾布16Lは上側濾布16Uよりも相対的に燃料を通過させ易くなっている。本実施形態では、このように圧力損失に差を設けるために、上側濾布16Uは、下側濾布16Lよりも不織布の空隙の総面積が小さい構造とされている。
【0026】
間隔維持部材52は、上側濾布16Uと下側濾布16Lとの間において、水平方向に配置された互いに平行な複数の横骨片56Aと、これら横骨片56Aと直交するように水平方向に配置された互いに平行な複数の縦骨片56Bとを有する形状とされている。そして、これらの骨片が上側濾布16Uと下側濾布16Lとの間の間に位置することで、上側濾布16Uと下側濾布16Lとが、骨片が存在する部分では上下方向に非接触となり、燃料を収容するための上記した空間が構成されるようになっている。
【0027】
間隔維持部材52の横骨片56Aには、移送配管34の端部が接続される連通筒部56Cが形成されている。
【0028】
サブタンク15は、燃料フィルタ16の上側に位置するサブタンク上側部材15Uと、燃料フィルタ16の下側に位置するサブタンク下側部材15Lとを有している。サブタンク上側部材15Uと、サブタンク下側部材15Lは、それぞれの外周部分で、上側濾布16U及び下側濾布16Lの外周部分を上下方向に挟み込んでおり、燃料フィルタ16の形状を維持すると共に、強度を確保している。また、燃料タンク本体14内において、所定位置(底壁14Sに沿った位置)に安定的に配置できるようになる。
【0029】
サブタンク上側部材15Uは、平面視(図2矢印A方向視)にて、燃料フィルタ16の周囲に位置する縦壁部20を有している。縦壁部20は、たとえば扁平な筒状に形成されている。縦壁部20の上端からは、平面視にて中心に向かう方向に、蓋板部22が延出されている。
【0030】
本実施形態では、縦壁部20、蓋板部22、及び燃料フィルタ16の上側濾布16Uによって、貯留部材18が構成されている。換言すれば、貯留部材18の底部の少なくとも一部(本実施形態では全部)が、上側濾布16Uによって構成されていることになる。貯留部材18内には、燃料フィルタ16の上方において燃料を貯留することが可能とされる。
【0031】
蓋板部22の略中央には、蓋板部22を厚み方向に貫通する流入孔24が形成されている。流入孔24を通じて、貯留部材18内に燃料を流入させることができる。
【0032】
図2から分かるように、流入孔24の内寸は、移送配管34の外径よりも大きくされている。このため、流入孔24の孔縁と移送配管34とは非接触で隙間が構成されており、流入孔24を通じて燃料タンク本体14内の燃料が貯留部材18の内部に流入可能となっている。流入孔24は、移送配管34を挿通するための挿通孔を兼ねているので、このような挿通孔をあらためて形成する必要がなく、構造の簡素化が図られている。
【0033】
図1に示すように、第1サブタンク15Aの燃料フィルタ16内と、第2サブタンク15Bの燃料フィルタ16内とは、移送配管34で連通されている。第1サブタンク15Aにおける貯留部材18の上方には燃料ポンプモジュール32が備えられている。燃料ポンプモジュール32は、燃料ポンプ本体42を有している。本実施形態では、燃料ポンプ本体42は、ブラケット42Bにより、第1サブタンク15Aの上方に支持されている。
【0034】
燃料ポンプ本体42の一方の側面からは燃料吸引配管44Aが延出されている。燃料ポンプ本体42の他方の側面からは、上方に向かう燃料吐出配管44B(図1参照)が、燃料タンク本体14の外部に延出されている。
【0035】
燃料吸引配管44Aは、接続部44Cにおいて移送配管34に接続されている。したがって、燃料ポンプ本体42の駆動により、第1サブタンク15Aの燃料フィルタ16内及び第2サブタンク15Bの燃料フィルタ16内から燃料を吸引し、燃料ポンプ本体42を経て、燃料吐出配管44Bから図示しないエンジンに供給できる。
【0036】
図2に示すように、サブタンク下側部材15Lは、下側濾布16Lよりも下方に位置する底板部46を有している。底板部46は略格子状に形成されており、厚み方向に貫通する複数の挿通孔48が形成されている。この挿通孔48を通じて、燃料タンク本体14内の燃料GSを、燃料フィルタ16の内部に流入させることができる。
【0037】
燃料フィルタ16A、16Bのそれぞれには、ダイヤフラム弁26A、26Bが設けられている。ダイヤフラム弁26A、26Bはいずれも略同一の構成とされているため、図2を用いて、燃料フィルタ16Bに設けられたダイヤフラム弁26Bを例に説明する。なお、以下においてもダイヤフラム弁を特に区別する必要がないときには、ダイヤフラム弁26として説明する。
【0038】
図4(A)及び(B)にも示すように、燃料フィルタ16の下側濾布16Lには、移送配管34の他端(連通筒部56C)と対向する位置に孔部16Hが形成されている。孔部16Hには、環状のブラケット28が取り付けられている。さらに、ブラケット28の内側にダイヤフラム弁26を構成するダイヤフラム36が取り付けられている。ダイヤフラム36は、対燃料性及び可撓性(あるいは弾性)を有する材料(ゴムや樹脂等)によって、孔部16Hを閉塞する膜状に形成されている。なお、ブラケット28は、間隔維持部材52と一体的に形成されていてもよい。
【0039】
ダイヤフラム36の中央には、弁本体38が取り付けられている。弁本体38は、移送配管34の内径(厳密には、移送配管34と連通する連通筒部56Cの内径)よりも大きな外径を有している。そして、ダイヤフラム36が変形することで、図4(A)に示すように、連通筒部56Cの下端から離間した開弁位置HPと、図4(B)に示すように、連通筒部56Cの下端に接触する閉弁位置TPとの間を移動する。弁本体38が開弁位置HPにあるときは、燃料フィルタ16と移送配管34とが連通する「連通状態」となる。これに対し、弁本体38が閉弁位置TPにあるときは、燃料フィルタ16と移送配管34とが連通しない「非連通状態」となる。
【0040】
ダイヤフラム弁26において、燃料フィルタ16の内側に位置する面は、燃料フィルタ内圧を受けるフィルタ内受圧面26Nとなっており、燃料フィルタ16の外側に位置する面は、燃料フィルタ外圧を受けるフィルタ外受圧面26Gとなっている。また、弁本体38と横骨片56Aの間には、弁本体38を開弁位置に向かって付勢するバネ40が設けられている。弁本体38は、フィルタ内受圧面26Nで受けたフィルタ内圧と、フィルタ外受圧面26Gで受けたフィルタ外圧との差圧によって、開弁位置HPと閉弁位置TPとの間を移動するように、所定の閉弁圧に設定されている。
【0041】
図5には、ダイヤフラム弁26の閉弁圧CPが、燃料フィルタ16における液膜圧MPとの関係で定性的に示されている。燃料フィルタ16には、フィルタ内圧とフィルタ外圧との差圧ΔPが作用する。本実施形態では、フィルタ内圧がフィルタ外圧よりも低くなることを想定している。
【0042】
この差圧ΔPは、燃料タンク本体14内の温度や燃料量等に応じて変化する。ここで、液膜圧MPは、燃料フィルタ16の表面の液膜LMを維持することが可能な差圧の上限値である。したがって、差圧ΔPが液膜圧MPを超えると、燃料フィルタ16の液膜LMが切れる。なお、燃料ポンプモジュール32の駆動によって燃料フィルタ16内に負圧が生じる。図5では、この負圧をPPとして表示している。
【0043】
図5から分かるように、ダイヤフラム弁26の閉弁圧CPは、燃料フィルタ16の液膜圧MPよりも低く、且つ、燃料ポンプモジュール32の駆動時によって燃料フィルタ16内に生じる負圧PPよりも大きく設定されている。したがって、矢印P1で示すように、燃料ポンプモジュール32の駆動によって燃料フィルタ16内に負圧PPが生じても、ダイヤフラム弁26は開弁位置HPに維持される。
【0044】
また、矢印P2で示すように、差圧ΔPが閉弁圧CPよりも小さい(液膜圧MPよりも小さい)ときには、ダイヤフラム弁26は開弁位置にあり、燃料フィルタ16と移送配管とは連通状態となる。これに対し、矢印P3で示すように、差圧ΔPが大きくなると、液膜圧MPを超える前段階で閉弁圧CPに達するので、ダイヤフラム弁26が閉弁位置TPとなり、燃料フィルタ16と移送配管34とは非連通状態となる。すなわち、差圧ΔPが液膜圧MPよりも大きくなったときには、燃料フィルタ16と移送配管34との非連通状態が確実に実現されている。
【0045】
次に、本実施形態の燃料供給装置12の作用を説明する。
【0046】
燃料タンク本体14内において、第1サブタンク15A及び第2サブタンク15Bのいずれであっても、貯留部材18の流入孔24よりも高い液位で燃料GSが存在している状態では、流入孔24を通じて流入した燃料が貯留部材18内に貯留されている。また、この状態で、燃料フィルタ16内にも燃料が存在している。燃料フィルタ16A、16Bでは、差圧ΔPが液膜圧MPを超えていない状態となっており、ダイヤフラム弁26A、26Bはいずれも開弁位置HPにある(図4(A)参照)。
【0047】
ここで、燃料ポンプモジュール32が駆動されると、第1サブタンク15Aの燃料フィルタ16内の燃料GSが、移送配管34の他端から接続部44Cまでの部分及び燃料吸引配管44Aを通じて吸引され、燃料吐出配管44Bを通じて外部(機関等)に送出される。また、第2サブタンク15Bの燃料フィルタ内の燃料GSも、移送配管34の他端から接続部44Cまでの部分と燃料吸引配管44Aを通じて吸引され、燃料吐出配管44Bを通じて外部(機関等)に送出される。
【0048】
燃料ポンプモジュール32の駆動により、燃料フィルタ16内には負圧が作用する。このため、燃料フィルタ16のフィルタ内圧とフィルタ外圧との間に差圧ΔPが生じる。本実施形態の燃料供給装置12では、移送配管34の端部にダイヤフラム弁26を設けているが、ダイヤフラム弁26の閉弁圧CPは、図5に示すように、燃料ポンプモジュール32の駆動に起因する上記差圧ΔP(矢印P1)よりも大きい値に設定されている。したがって、燃料ポンプモジュール32の駆動時にダイヤフラム弁26が不用意に閉弁位置(TP)に移動することはない。燃料フィルタ16と移送配管34とは連通状態に維持されるので、燃料フィルタ16内の燃料GSを外部に送出することが可能である。
【0049】
そして、主室14A及び副室14Bの双方(第1サブタンク15Aと第2サブタンク15Bの双方)において燃料吸引口34A、34Bの近傍に燃料GSが存在しているため、一方の燃料吸引口にのみ燃料GSが存在している場合よりも、確実に燃料GSを移送配管34に導入することが可能である。
【0050】
さらに、第1サブタンク15Aの燃料フィルタ16と、第2サブタンク15Bの燃料フィルタ16の間において、移送配管34により、燃料を移送することも可能である。
【0051】
第1サブタンク15A及び第2サブタンク15Bにおいて、燃料フィルタ16内には、上側濾布16U及び下側濾布16Lを通過して燃料GSが流入可能である。また、貯留部材18内には、流入孔24を通じて燃料タンク本体14内の燃料GSが流入する。
【0052】
そして、燃料タンク本体14内の燃料量が少なくなった状態においても、第1サブタンク15Aと第2サブタンク15Bの少なくとも一方の燃料フィルタ16の一部が燃料GSに浸漬されていれば、燃料フィルタ16の表面に、燃料GSによる液膜LMが形成され維持されている。本実施形態では、燃料フィルタ16を燃料タンク本体14の底壁14Sに沿って配置しているので、燃料タンク本体14内の燃料が燃料フィルタ16(下側濾布16L)に接触した状態を、より確実に維持可能となっている。
【0053】
ここで、本実施形態において、燃料タンク本体14の燃料が傾斜(偏在)した場合を考える。たとえば図3には、この図面において燃料タンク本体14の左側に傾斜(偏在)した状態が示されている。なお、このように燃料タンク本体14内で燃料GSが偏在する要因としては、車両の傾斜に伴う燃料タンク本体14の傾斜や、車両走行中の旋回等に起因する加速度等が挙げられる。
【0054】
このとき、燃料GSが移動した側(主室14A側)と、その反対側(副室14B側)とでは、燃料液面の位置が異なるため、高い方(この例では副室14B)の燃料フィルタ16内の燃料に、ヘッド高さH1に対応する負圧が作用する。すなわち、フィルタ内圧とフィルタ外圧との差圧ΔPが作用する。この場合の差圧ΔPは、燃料タンク本体14の傾斜角度や、車両旋回時の加速度等に応じて、差圧ΔPは異なった値となる。
【0055】
図5に矢印P2で示すように、差圧ΔPが閉弁圧CPよりも小さい状態では、ダイヤフラム弁26は開弁位置HPを維持する。したがって、燃料フィルタ16と移送配管34とは連通状態に維持されるので、燃料フィルタ16内の燃料GSを外部に送出することが可能である。
【0056】
これに対し、図5に矢印P3で示すように、差圧ΔPが液膜圧MPを超えた場合には、主室14A側では、燃料フィルタ16が燃料GSに浸漬された状態が維持されているが、その反対側(副室14B側)では、上記した負圧により、燃料GSが燃料フィルタ16から離れてしまい、燃料フィルタ16の表面の液膜LMが切れてしまうおそれがある
【0057】
しかし、本実施形態の燃料供給装置では、ダイヤフラム弁26の閉弁圧CPが、液膜圧MPよりも低く設定されている。したがって、上記した差圧ΔPが液膜圧MPに達する前に、ダイヤフラム弁26が閉弁位置TPに移動する。換言すれば、差圧ΔPが液膜圧MPを超えた状態でダイヤフラム弁26は閉弁位置TPに移動していることになる。
【0058】
これにより、燃料フィルタ16Bと移送配管34とは非連通状態になるので、燃料フィルタ16Bを通じての気体の吸引を抑制できる。この状態においても、燃料フィルタ16Aは燃料GSに浸漬されており、表面の液膜LMも維持されているので、燃料ポンプモジュール32の駆動により、燃料フィルタ16A内の燃料を外部に送出することが可能である。
【0059】
特に、この状態で燃料ポンプモジュール32が駆動されると、燃料ポンプモジュール32からの負圧も燃料フィルタ16内に作用する。したがって、図5に矢印P4で示すように、燃料フィルタ16の差圧ΔPは、ヘッド差ΔHに起因する差圧(矢印P3)と、燃料ポンプモジュール32の駆動による差圧(矢印P1)の和となるため、差圧ΔPの増大過程で燃料フィルタ16の液膜LMが切れやすくなる。
【0060】
しかし、本実施形態の燃料供給装置12では、この状態であっても、差圧ΔPが液膜圧MPに達する前に、ダイヤフラム弁26が閉弁位置TPに移動する。燃料フィルタ16Bと移送配管34とは非連通状態になるので、燃料フィルタ16Bを通じての気体の吸引を抑制できる。この状態においても、燃料フィルタ16Aは燃料GSに浸漬されており、表面の液膜LMも維持されているので、燃料ポンプモジュール32の駆動により、燃料フィルタ16A内の燃料を外部に送出することが可能である。
【0061】
なお、本実施形態において、燃料タンク本体14内に燃料GSが全くない状態を想定する。たとえば、自動車を製造工場において製造した直後に、このように燃料タンク本体14内に燃料GSが無い状態になる。この状態における燃料タンク本体14への給油を、以下では「初期給油」という。
【0062】
この初期給油時には、燃料フィルタ16のフィルタ内圧とフィルタ外圧とは略等しいため、ダイヤフラム弁26は開弁位置にある。このため、初期給油時には、燃料タンク本体14内(主室14A及び副室14B)で燃料液面が上昇すると、燃料GSは燃料フィルタ16内から移送配管34に流入するので、移送配管34に存在していた気体を排出すること(いわゆる「エア抜き})が可能である。
【0063】
上記では、燃料タンク本体14内の燃料が図3における左側に傾斜した場合を例に挙げたが、右側に傾斜した場合であっても、左右の燃料タンク16におけるダイヤフラム弁26の挙動が入れ替わり、上記と同様の作用を奏する。
【0064】
図6には、本発明の第2実施形態の燃料供給装置72が部分的に拡大して示されている。第2実施形態では、燃料供給装置72の全体的構成は第1実施形態と同一であるので図示を省略する。また、第2実施形態において、第1実施形態と同一の構成要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0065】
第2実施形態の燃料供給装置72では、第1実施形態のダイヤフラム弁26に代えて、電磁弁76が用いられている。電磁弁76は、連通筒部56Cの端部に接触する閉弁位置TP(二点鎖線で示す)と、端部から離間した開弁位置HP(実線で示す)との間を移動する弁本体78と、この弁本体78を駆動するアクチュエータ80とを有している。アクチュエータ80は、制御装置86で駆動される。
【0066】
さらに、燃料フィルタ16内には、フィルタ内圧センサ82が設けられている。このフィルタ内圧センサ82で検知されたフィルタ内圧のデータは、制御装置86に送られる。また、燃料タンク本体14にはフィルタ外圧センサ84が設けられており、検知されたフィルタ外圧(タンク内圧)も、制御装置86に送られる。なお、フィルタ外圧センサ84としては、燃料タンク本体14(図1参照)に設けられてタンク内圧を検知するタンク内圧センサを用いることが可能である。
【0067】
このような構成とされた第2実施形態の燃料供給装置においても、第1実施形態の燃料供給装置12と同様の作用効果を奏する。
【0068】
特に第2実施形態では、制御装置86が、通常状態では弁本体78を開弁位置HPに維持しているが、フィルタ内圧とフィルタ外圧との差圧ΔPが上昇すると、燃料フィルタ16の液膜LMの液膜圧MPに達する前に弁本体78を閉弁位置TPに移動させる。これにより燃料フィルタ16と移送配管34とは非連通状態になるので、燃料フィルタ16を通じての気体の吸引を抑制できる。
【0069】
なお、第2実施形態では、図6から分かるように、連通筒部56Cの下部を略直角に湾曲させており、弁本体78を水平方向(燃料タンク本体14の底壁14Sに沿った方向)に移動させることで、開弁位置HPと閉弁位置TPとの間を切り替える構成としている。これにより、弁本体78が鉛直方向(燃料タンク本体14の底壁14Sに沿った方向)に移動する構成と比較して、燃料フィルタ16の厚みを抑制している。
【0070】
上記では,本発明の開閉弁部材として、ダイヤフラム弁26及び電磁弁76を例示しているが、要するに、燃料フィルタ16と移送配管34との連通状態と非連通状態とを切り替え可能であれば、開閉弁部材はこれらに限定されない。
【0071】
また、開閉弁部材は、移送配管34の端部(上記の例では、連通筒部56Cの端部)に設けられている例を挙げているが、たとえば、移送配管34の内部に設けられていてもよい。ただし、移送配管34の内部に開閉弁部材を設けると、開弁時であっても、開閉弁部材によって移送配管34の断面積が局所的に小さくなり、圧力損失が大きくなる。これに対し、上記例のように移送配管34の端部(移送配管34の外側)に開閉弁部材を設けると、移送配管34の圧力損失が増大しない。
【0072】
本発明の開閉弁部材(上記の例ではダイヤフラム弁26及び電磁弁76)において、開弁位置HPから閉弁位置TPへ移動する臨界値となる差圧ΔP(ダイヤフラム弁26であれば閉弁圧CP)は、液膜圧MPよりは小さいという条件を満たせば、極力大きくすることが好ましい。すなわち、この臨界値(閉弁圧CP)を低く設定すると、差圧ΔPの上昇時に、液膜LMが切れるまでには余裕があるにも関わらず、早期に開閉弁部材を閉弁してしまうことになる。液膜LMが切れない範囲では開閉弁部材を開弁位置に維持し、外部への燃料供給を可能にする観点から、上記した臨界値は、液膜圧MPより小さい範囲で、大きくすることが好ましい。
【0073】
上記では、燃料吸引配管44Aは、接続部44Cにおいて移送配管34に接続されており、実質的に燃料吸引配管44Aが、本発明における送出手段の一部と連結手段の一部とを兼ねた構成としている。本発明としてはこれに限られず、送出配管(燃料吸引配管44A)と連結手段(移送配管34)とが独立した構成であってもよい。
【符号の説明】
【0074】
12 燃料供給装置
14 燃料タンク本体
16 燃料フィルタ
26 ダイヤフラム弁(開閉弁部材)
26N フィルタ内受圧面
26G フィルタ外受圧面
34 移送配管(連結手段)
44A 燃料吸引配管(送出配管)
72 燃料供給装置
76 電磁弁(開閉弁部材)
GS 燃料
LM 液膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を収容する燃料タンク本体と、
前記燃料タンク本体の底面に沿って備えられ、袋状に形成され内部への燃料透過時に燃料中の異物の通過を制限する複数の燃料フィルタと、
前記燃料フィルタの内部から前記燃料タンクの外部へ燃料を送出するための送出配管と、
複数の前記燃料フィルタを、燃料の移送を可能に連結する連結手段と、
前記燃料フィルタと前記連結手段との連通状態と非連通状態とを切り替え可能で、燃料フィルタ内のフィルタ内圧と燃料フィルタ外のフィルタ外圧との差圧が燃料フィルタ表面の油膜を維持可能な所定値以下の範囲では前記連通状態とし該所定値を超えると前記非連通状態とする開閉弁部材と、
を有する燃料供給装置。
【請求項2】
前記開閉弁部材が、
前記燃料フィルタ内圧を受けるフィルタ内受圧面と燃料フィルタ外圧を受けるフィルタ外受圧面とを有し、フィルタ内受圧面で受けたフィルタ内圧とフィルタ外受圧面で受けたフィルタ外圧の差圧によって前記連通状態となる開弁位置と前記非連通状態となる閉弁位置とを移動し前記連結手段を開閉するダイヤフラム弁を有している請求項1又は請求項2に記載の燃料供給装置。
【請求項3】
前記開閉弁部材が、
前記フィルタ内圧を検知するフィルタ内圧センサと、
前記フィルタ外圧を検知するフィルタ外圧センサと、
前記フィルタ内圧センサで検知された前記フィルタ内圧と前記フィルタ外圧センサで検知された前記フィルタ外圧との差圧に基づいて前記連結手段を開閉する電磁弁と、
を有する請求項1に記載の燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−104339(P2013−104339A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247845(P2011−247845)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)