説明

燃料供給装置

【課題】簡単な構造で、燃料が燃料タンク内で傾斜(偏在)した場合でも燃料フィルタに接触する可能性を高くできる燃料供給装置を得る。
【解決手段】燃料タンク本体14の底壁14Sに燃料フィルタ16が備えられる。側壁14Sを、燃料フィルタ16が備えられた部分よりも下方に膨出させて燃料貯留部28が設けられる。燃料傾斜時には燃料が燃料貯留部28から流れ出て、燃料フィルタ16に接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料供給装置に関し、さらに詳しくは、燃料タンク内の燃料を機関等に供給するための燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンク内の燃料を機関等の外部装置に供給する燃料供給装置には、燃料タンク内に燃料フィルタを備えたものがある。このように燃料フィルタを備えた燃料タンクにおいて、燃料が傾斜した場合でも、燃料が燃料フィルタに接触した状態を長時間にわたって維持することが望ましい。
【0003】
たとえば、特許文献1には、燃料タンクの傾斜時に転動部材が自動的に吸入口(吸い込みフィルタを構成している)を燃料油中に案内するように構成した構造が記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1の構造では、燃料タンク内に転動部材や、この転動部材をガイドするガイド部を設ける必要があり、構造の複雑化を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−82275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、簡単な構造で、燃料が燃料タンク内で傾斜(偏在)した場合でも燃料フィルタに接触する可能性を高くできる燃料供給装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明では、燃料を収容する燃料タンク本体と、袋状に形成され前記燃料タンク本体の底壁に備えられ、内部への燃料透過時に燃料中の異物の通過を制限すると共に表面の油膜により内部への気体進入を阻止する燃料フィルタと、前記燃料フィルタから前記燃料タンクの外部へ燃料を送出するための送出手段と、前記燃料タンク本体において前記底壁を前記燃料フィルタが備えられた部分よりも下方に膨出させて設けられ燃料を貯留可能な燃料貯留部と、を有する。
【0008】
この燃料供給装置では、燃料フィルタによって燃料を濾過することができる。燃料フィルタ内の濾過された燃料は、送出手段により、燃料タンクの外部、たとえば機関等へ送出される。
【0009】
燃料タンク本体には、燃料フィルタが備えられた底壁よりもさらに下方に膨出する燃料貯留部が設けられている。燃料貯留部には、燃料が貯留されている。したがって、燃料タンク内の燃料が傾斜(偏在)したとき、燃料貯留部を有さない構成と比較して、燃料貯留部に貯留された燃料が傾斜方向に移動し、燃料フィルタに接触する可能性が高くなる。燃料タンク本体の底壁を下方に膨出させて燃料貯留部を設けるだけであり、簡単な構造となる。
【0010】
燃料フィルタに燃料が接触している状態では、燃料フィルタの表面の油膜を維持することで、燃料フィルタの内部への気体浸入を抑制できる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記燃料貯留部が、前記燃料フィルタと、前記燃料タンク本体の対向する側壁のうち該燃料フィルタに近い位置にある側壁との間に設けられている。
【0012】
したがって、燃料タンク本体の対向する側壁のうち燃料フィルタから遠い側では、燃料フィルタと側壁との間隔が広い。このため、燃料フィルタから遠い側の側壁に向かって燃料が傾斜した場合に、この燃料は燃料フィルタから離れる可能性が高い。しかし、燃料フィルタから遠い側の側壁に向かって燃料が傾斜すると、燃料フィルタから近い側の側壁との間にある燃料貯留部の燃料が燃料フィルタに向かって移動する。このため、燃料フィルタに燃料が接触する可能性が高くなる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記燃料フィルタが前記燃料タンク本体内に複数備えられ、複数の前記燃料フィルタの間で燃料の移送を可能とする移送配管を有する。
【0014】
燃料フィルタを燃料タンク本体内に複数備えることで、燃料タンク本体内で燃料が傾斜(偏在)した場合でも、燃料フィルタのいずれかに燃料が接触している状態を実現しやすくなる。
【0015】
燃料タンク本体内で燃料が傾斜した場合でも、燃料が複数の燃料フィルタと接触することで、燃料フィルタの油膜を維持できる。また、移送配管によって燃料フィルタの間で燃料を移送可能とされているので、少なくとも1つの燃料フィルタを通じて燃料を外部に送出できる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記燃料タンク本体が、燃料を収容する複数の収容部を備え、前記燃料フィルタ及び前記燃料貯留部が前記収容部ごとに設けられている。
【0017】
収容部ごとに燃料フィルタが備えられ、さらに燃料貯留部も備えられているので、それぞれの収容部で燃料が傾斜した場合に、燃料フィルタに燃料が接触する可能性が高くなる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の発明において、前記燃料タンク内に設けられ複数の前記収容部を構成する隔壁、を備え、前記収容部内において、前記燃料フィルタが前記燃料貯留部よりも前記隔壁に近い位置に配置されている。
【0019】
したがって、燃料タンク本体の傾斜時に燃料貯留部から流れ出た燃料を隔壁で堰き止めることで、燃料フィルタに接触した状態をより効果的に維持できる。
【0020】
特に、燃料タンク本体の傾斜時に相対的に上方に位置した燃料フィルタにおいて、燃料が燃料フィルタに接触した状態を良好に維持すれば、複数の燃料フィルタ間でヘッド圧が生じても、複数の燃料フィルタで表面の油膜を維持可能となる。
【0021】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記燃料貯留部の底面が、前記燃料タンク本体の底壁の前記燃料フィルタが備えられた側から連続すると共に底壁に対する傾斜角が鋭角となる傾斜壁を有する。
【0022】
燃料貯留部の底面は、燃料タンク本体の底壁に対する傾斜角が直角あるいは鈍角になっている構成と比較して、燃料タンク本体の傾斜時に燃料貯留部から底壁への燃料の流出を促進できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上記構成としたので、簡単な構造で、燃料が燃料タンク内で傾斜した場合でも燃料フィルタに接触する可能性を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を収容部間で燃料量に差がない状態で示す概略全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を部分的に拡大して示す概略断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を収容部間で燃料量に差がある状態で示す概略全体構成図である。
【図4】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を収容部間で燃料量に差があり、且つ傾斜した状態で示す概略全体構成図である。
【図5】本発明の第1実施形態の燃料供給装置を収容部間で燃料量に差があり、且つ傾斜が解消された状態で示す概略全体構成図である。
【図6】比較例の燃料供給装置を収容部間で燃料量に差があり、且つ傾斜した状態で示す概略全体構成図である。
【図7】本発明の第2実施形態の燃料供給装置を収容部間で燃料量に差がない状態で示す概略全体構成図である。
【図8】(A)は本発明の第3実施形態の燃料供給装置を傾斜していない状態で示す概略全体構成図であり、(B)は本発明の第3実施形態の変形例の燃料供給装置を傾斜してていない状態で示す概略全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1には、本発明の第1実施形態の燃料供給装置12の概略構成が示されている。この燃料供給装置12は、燃料が収容される燃料タンク本体14を有している。本実施形態の燃料タンク本体14は中空の箱状に形成されているが、底壁14Sの中央部分からは上方に向けて膨出する山部14Mが形成されている。山部14Mの両側部分は隔壁14Dとなっており、燃料タンク本体14の内部が、本発明の収容部である主室14A及び副室14Bに区画された構造(いわゆる鞍型タンク)となっている。
【0026】
燃料タンク本体14における主室14A側の上壁14Uの角部近傍には、インレット配管26が接続されている。インレット配管26を通じて、燃料を燃料タンク本体14内(主に主室14A)に給油できる。
【0027】
燃料タンク本体14の内部には、主室14A及び副室14Bのそれぞれに対応して、燃料タンク本体14の底壁14Sに沿って配置された複数のサブタンク15が備えられている。本実施形態では、サブタンク15の数を、主室14A及び副室14Bのそれぞれに1つずつ、合計で2つとしている。以下において、2つのサブタンク15を区別する場合は、主室14A側のサブタンク15を第1サブタンク15A、副室14B側のサブタンク15を第2サブタンク15Bとする。
【0028】
第1サブタンク15Aには、燃料ポンプモジュール32が備えられており、この点で、燃料ポンプモジュール32が備えられていない第2サブタンク15Bと異なっているが、サブタンクとしての基本的構成は、燃料ポンプモジュール32の有無以外は同一とされているため、図2を用いて、サブタンク15の構成を説明する。
【0029】
サブタンク15のそれぞれは、燃料フィルタ16と、この燃料フィルタ16の上方に配置された貯留部材18とを有している。図1及び図2から分かるように、燃料フィルタ16は、燃料タンク本体14における底壁14Sに備えられている。
【0030】
燃料フィルタ16は、上下に配置された2枚の濾布(上側濾布16Uと下側濾布16L)を有している、本実施形態では、上側濾布16Uと下側濾布16Lとは、2枚の略同形状(たとえば四角形状等の多角形状であっても良いし、円形や楕円形などでも良い)に形成されている。上側濾布16Uと下側濾布16Lにおいて、それぞれの外周部分を、溶着や接着等により接合することで、全体として偏平な直方体形状の燃料フィルタ16を構成している。
【0031】
そして、上側濾布16Uと下側濾布16Lとの間に間隔維持部材52が配置されることで、上側濾布16Uと下側濾布16Lとの間に、燃料を収容するための空間が構成された、偏平な袋状(閉曲面状)の燃料フィルタ16となっている。
【0032】
上側濾布16Uと下側濾布16Lとは、袋状とされた燃料フィルタ16の外側から内側へと燃料を通過させるが、その際に燃料中の異物を除去し、燃料フィルタ16の内部には異物が流入しないようにする作用を有する材料(たとえば織布、不織布、多孔質性樹脂、メッシュ状の部材等など)で構成されている。
【0033】
燃料フィルタ16は、このように上側濾布16Uあるいは下側濾布16Lを通過した燃料GSを、その内部に貯留させることができる。さらに、燃料フィルタ16の少なくとも一部が燃料タンク本体14内の燃料GSに浸漬されている状態では、燃料フィルタ16の表面に燃料による油膜LMが形成されて維持されるようになっている。
【0034】
燃料フィルタ16(特に下側濾布16L)は、燃料タンク本体14の底壁14Sに沿って略平行になるように配置されており、底壁14Sとの隙間を通じて燃料を燃料フィルタ16内に流入させることができる。
【0035】
図2から分かるように、上側濾布16Uと下側濾布16Lとは異なる材質とされており、特に、上側濾布16Uの圧力損失が下側濾布16Lの圧力損失よりも大きくなるように、これら濾布の材質が選択されている。ここでいう「圧力損失」は、上側濾布16Uあるいは下側濾布16Lを燃料が通過するとき(たとえば後述する燃料ポンプ本体42の駆動時)の、通過前後の圧力差である。したがって、下側濾布16Lは上側濾布16Uよりも相対的に燃料を通過させ易くなっている。本実施形態では、このように圧力損失に差を設けるために、上側濾布16Uは、下側濾布16Lよりも不織布の空隙の総面積が小さい構造とされている。
【0036】
間隔維持部材52は、上側濾布16Uと下側濾布16Lとの間において、水平方向に配置された互いに平行な複数の横骨片56Aと、これら横骨片56Aと直交するように水平方向に配置された互いに平行な複数の縦骨片56Bとを有する形状とされている。そして、これらの骨片が上側濾布16Uと下側濾布16Lとの間の間に位置することで、上側濾布16Uと下側濾布16Lとが、骨片が存在する部分では上下方向に非接触となり、燃料を収容するための上記した空間が構成されるようになっている。
【0037】
サブタンク15は、燃料フィルタ16の上側に位置するサブタンク上側部材15Uと、燃料フィルタ16の下側に位置するサブタンク下側部材15Lとを有している。サブタンク上側部材15Uと、サブタンク下側部材15Lは、それぞれの外周部分で、上側濾布16U及び下側濾布16Lの外周部分を上下方向に挟み込んでおり、燃料フィルタ16の形状を維持すると共に、強度を確保している。また、燃料タンク本体14内において、所定位置(底壁14Sに沿った位置)に安定的に配置できるようになる。
【0038】
サブタンク上側部材15Uは、平面視(図2矢印A方向視)にて、燃料フィルタ16の周囲に位置する縦壁部20を有している。縦壁部20は、たとえば扁平な筒状に形成されている。縦壁部20の上端からは、平面視にて中心に向かう方向に、蓋板部22が延出されている。
【0039】
本実施形態では、縦壁部20、蓋板部22、及び燃料フィルタ16の上側濾布16Uによって、貯留部材18が構成されている。換言すれば、貯留部材18の底部の少なくとも一部(本実施形態では全部)が、上側濾布16Uによって構成されていることになる。貯留部材18内には、燃料フィルタ16の上方において燃料を貯留することが可能とされる。
【0040】
蓋板部22の略中央には、蓋板部22を厚み方向に貫通する流入孔24が形成されている。流入孔24を通じて、貯留部材18内に燃料を流入させることができる。
【0041】
サブタンク下側部材15Lは、下側濾布16Lよりも下方に位置する底板部46を有している。底板部46は略格子状に形成されており、厚み方向に貫通する複数の挿通孔48が形成されている。この挿通孔48を通じて、燃料タンク本体14内の燃料GSを、燃料フィルタ16の内部に流入させることができる。
【0042】
図1に示すように、第1サブタンク15Aの燃料フィルタ16内と、第2サブタンク15Bの燃料フィルタ16内とは、移送配管34で連通されている。移送配管34の両端部はそれぞれ燃料吸引口34A、34Bとされている。これら燃料吸引口34A、34Bの近傍部分は、流入孔24に挿通されている。
【0043】
流入孔24の内寸は、移送配管34の外径よりも大きくされている。このため、流入孔24の孔縁と移送配管34とは非接触で隙間が構成されており、流入孔24を通じて燃料タンク本体14内の燃料が貯留部材18の内部に流入可能となっている。流入孔24は、移送配管34を挿通するための挿通孔を兼ねているので、このような挿通孔をあらためて形成する必要がなく、構造の簡素化が図られている。
【0044】
移送配管34の燃料吸引口34A、34Bは、間隔維持部材52の横骨片56Aに設けられた連通筒部56Cを介して、燃料フィルタ16内に開口している。燃料吸引口34A、34Bから吸引した燃料を、移送配管34を通じて移送することができる。
【0045】
図1及び図2に示すように、第1サブタンク15Aにおける貯留部材18の上方には燃料ポンプモジュール32が備えられている。燃料ポンプモジュール32は、燃料ポンプ本体42を有している。本実施形態では、燃料ポンプ本体42は、ブラケット42Bにより、第1サブタンク15Aの上方に支持されている。
【0046】
燃料ポンプ本体42の一方の側面からは燃料吸引配管44Aが延出されている。燃料ポンプ本体42の他方の側面からは、上方に向かう燃料吐出配管44Bが、燃料タンク本体14の外部に延出されている。
【0047】
燃料吸引配管44Aは、接続部44Cにおいて移送配管34に接続されている。したがって、燃料ポンプ本体42の駆動により、第1サブタンク15Aの燃料フィルタ16内及び第2サブタンク15Bの燃料フィルタ16内から燃料を吸引し、燃料吐出配管44Bから、図示しないエンジンに供給できる。
【0048】
それぞれの収容部(主室14A及び副室14B)において、燃料フィルタ16と側壁14Gの間では、底壁14Sに燃料貯留部28が形成されている。具体的には、燃料貯留部28のそれぞれは、燃料タンク本体14の対向する2つの側壁14Gのうち、燃料フィルタ16から相対的に近い側の側壁14Gとの間に設けられている。たとえば、主室14Aにおいて、燃料フィルタ16Mからは、左側の側壁14Gの方が、右側の側壁14Gよりも近い。主室14Aの燃料貯留部28は、燃料フィルタ16Mと、左側の側壁14Gとの間に設けられている。
【0049】
図1から分かるように、本実施形態では、サブタンク15(燃料フィルタ16)のそれぞれは、山部14Mの隔壁14Dに近い位置(図1において中央寄り)に配置されており、側壁14Gからは離間している。これに対し、燃料貯留部28は、燃料フィルタ16よりも、隔壁14Dから離れた位置(側壁14Gに近い位置)に設けられている。
【0050】
燃料貯留部28は、燃料フィルタ16が備えられた側から所定の傾斜角θで側壁14G側へと次第に下がるように傾斜されている。また、底壁14Sと燃料貯留部28の底面28Sとは、傾斜角θが鋭角になるように連続している。この傾斜角θは、底壁14Sを燃料貯留部28上に延長した延長線ELを想定し、この延長線ELと燃料貯留部28の底面28Sとの成す角をいう。したがって、底壁14Sと燃料貯留部28の底面28Sとの間に現れる各αは鈍角になっている。
【0051】
燃料貯留部28は、底壁14Sを下方に膨出させることで形成されているため、燃料タンク本体14に設定されている最低液面よりも下方に位置している。この最低液面とは、燃料タンク本体14内において燃料液位が低下したことを車室内の上位に報知して給油を促す液位であり、通常は、この最低液面よりも下方に燃料液位が位置することはない。したがって、燃料タンク本体14内で燃料が傾斜(偏在)していない状態では、燃料貯留部28に燃料GSが存在している状態を維持できる。換言すれば、燃料フィルタ16よりも下方に、燃料GSが貯留されている状態を維持できる。
【0052】
次に、本実施形態の燃料供給装置12の作用を説明する。
【0053】
燃料タンク本体14への給油時には、インレット配管26を通じて燃料が流下し、主室14Aに燃料GSが収容される。燃料GSが山部14Mを越えると、副室14Bにも燃料が収容される。
【0054】
燃料タンク本体14内において、第1サブタンク15A及び第2サブタンク15Bのいずれであっても、図2に示すように、貯留部材18の流入孔24よりも高い液位で燃料GSが存在している状態では、流入孔24を通じて流入した燃料GSが貯留部材18内に貯留されている。また、この状態で、燃料フィルタ16内にも燃料が存在している。
【0055】
ここで、燃料ポンプモジュール32が駆動されると、図1に矢印LFで示すように、第1サブタンク15Aの燃料フィルタ16内の燃料GSが移送配管34の一部(燃料吸引口34Aから接続部44C(図1参照)までの部分)と燃料吸引配管44Aを通じて吸引され、燃料吐出配管44Bを通じて外部(機関等)に送出される。また、第2サブタンク15Bの燃料フィルタ内の燃料GSも移送配管34の一部(燃料吸引口34Bから接続部44Cまでの部分)と燃料吸引配管44Aを通じて吸引され、燃料吐出配管44Bを通じて外部(機関等)に送出される。
【0056】
このように、主室14A及び副室14Bの双方(第1サブタンク15Aと第2サブタンク15Bの双方)において燃料吸引口34A、34Bの近傍に燃料GSが存在しているため、一方の燃料吸引口にのみ燃料が存在している場合よりも、確実に燃料GSを移送配管34に導入することが可能である。
【0057】
第1サブタンク15A及び第2サブタンク15Bにおいて、燃料フィルタ16内には、上側濾布16U及び下側濾布16Lを通過して燃料GSが流入可能である。また、貯留部材18内には、流入孔24を通じて燃料タンク本体14内の燃料GSが流入する。
【0058】
そして、燃料タンク本体14内の燃料量が少なくなった状態においても、第1サブタンク15Aと第2サブタンク15Bの少なくとも一方の燃料フィルタ16の一部が燃料GSに浸漬されていれば、燃料フィルタ16の表面に、燃料GSによる油膜LMが形成され維持されている。本実施形態では、燃料フィルタ16を燃料タンク本体14の底壁14Sに沿って配置しているので、燃料タンク本体14内の燃料が燃料フィルタ16(下側濾布16L)に接触した状態を、より確実に維持可能となっている。
【0059】
ここで、図3に示すように、主室14Aと副室14Bのいずれか一方(図3では副室14B)の燃料が、少なくなった状態を想定する。
【0060】
図6には、比較例の燃料供給装置112が、燃料GSが傾斜した状態で示されている。比較例の燃料供給装置112では、鞍型とされた燃料タンク本体114内に、本実施形態と同様のサブタンク15が配置され、これらサブタンク15が、移送配管34で接続されている。ただし、比較例の燃料供給装置112では、燃料貯留部28(図1等参照)は設けられていない。また、サブタンク15のそれぞれは、上記実施形態の燃料供給装置12と比較して、山部14Mからは離間した位置(側壁14Gに接近した位置)に配置されている。
【0061】
比較例の燃料供給装置112では、燃料GSが左側に傾斜した場合に、主室14Aと副室14Bとで燃料液面の高さに差が生じる(副室14Bでは燃料GSが燃料フィルタ16Sから離れてしまう)と共に、副室14B側には、ヘッド高さH1に応じた負圧が作用する。この負圧が、副室14Bにおける燃料フィルタ16Sの液膜圧を超えると、燃料フィルタ16Sの油膜が切れるため、燃料フィルタ16S内に気体が浸入するおそれがある。
【0062】
なお、比較例の燃料供給装置112において、右側に燃料GSが傾斜した場合には、上記とは逆に、主室14Aの燃料フィルタ16Mの油膜が切れ、燃料フィルタ16M内に気体が浸入するおそれがある。
【0063】
これに対し、本実施形態の燃料供給装置12では、燃料貯留部28にあらかじめ燃料GSが貯留されている。図4に示すように、副室14B内の燃料GSが少ない状態で、燃料タンク本体14内の燃料が左側に傾斜した場合に、副室14B内では、燃料GSが矢印F8で示すように、燃料貯留部28から燃料フィルタ16Sの近傍に移動する。すなわち、燃料フィルタ16Sが燃料GSで浸漬された状態を維持できる可能性が高い。このため、燃料フィルタ16Sの油膜も維持され、燃料フィルタ16S内への気体の浸入を抑制できる。
【0064】
特に、本実施形態の燃料供給装置12では、上記したように燃料貯留部28から燃料フィルタ16Sの近傍に移動した燃料GSを隔壁14Dで堰き止めることで、燃料フィルタ16に燃料GSが接触した状態を効果的に維持することが可能である。
【0065】
図5に示すように、燃料タンク本体14内で燃料GSの傾斜が解消されると、矢印F9で示すように、燃料フィルタ16Sの近傍に存在していた燃料は、燃料貯留部28に戻る。燃料フィルタ16Sでは、引き続き油膜LMが維持されるため、燃料フィルタ16S内への気体の浸入を抑制できる。
【0066】
なお、上記では、副室14B内の燃料GSが少ない状態で、燃料タンク本体14内の燃料が左側に傾斜した場合を例に挙げているが、逆に、主室14A内の燃料GSが少ない状態で、燃料タンク本体14内の燃料が右側に傾斜した場合には、主室14Aの燃料貯留部28の燃料GSが燃料フィルタ16Mの近傍に移動する。燃料フィルタ16Mが燃料GSで浸漬された状態を維持できる可能性が高くなり、燃料フィルタ16Mの油膜を維持することで、燃料フィルタ16M内への気体の浸入を抑制できる。
【0067】
特に、第1実施形態の燃料供給装置12では、燃料フィルタ16のそれぞれは、山部14Mの隔壁14Dに近い位置に配置され、燃料貯留部28は、燃料フィルタ16よりも、隔壁14Dから離れた位置(側壁14Gに近い位置)に設けられている。したがって、燃料タンク本体14の傾斜時に相対的に上方に位置した燃料フィルタ16(図4の例では燃料フィルタ16S)において、燃料GSが燃料フィルタ16に接触した状態を良好に維持できる。また、複数の燃料フィルタ16は移送配管34で接続されており燃料GSの移送が可能である。このため、複数の燃料フィルタ16の間でヘッド圧が生じても、いずれの燃料フィルタ16においても表面の油膜LMを維持可能となる。
【0068】
そして、燃料タンク本体14としては、燃料貯留部28を設けるだけなので、簡単な構造となる。
【0069】
図7には、本発明の第2実施形態の燃料供給装置72が示されている。第2実施形態において、第1実施形態と同一の構成要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0070】
第2実施形態の燃料供給装置72の燃料タンク本体74は、山部14Mを有する鞍型とされているが、主室14A及び副室14Bのそれぞれにおいて、燃料貯留部28が山部14Mに近い位置に形成されている。また、主室14A及び副室14Bのそれぞれにおいて、サブタンク15(燃料フィルタ16)は、山部14Mから離れた位置(側壁14Gに近い位置)に配置されている。
【0071】
このような構成とされた第2実施形態の燃料供給装置72において、たとえば、主室14A内の燃料GSが少ない状態で、燃料タンク本体14内の燃料が左側に傾斜した場合には、主室14Aの燃料貯留部28の燃料GSが燃料フィルタ16Mの近傍に移動する。燃料フィルタ16Mが燃料GSで浸漬された状態を維持できる可能性が高くなり、燃料フィルタ16Mの油膜を維持することで、燃料フィルタ16M内への気体の浸入を抑制できる。
【0072】
逆に、副室14B内の燃料GSが少ない状態で、燃料タンク本体14内の燃料が右側に傾斜した場合には、副室14Bの燃料貯留部28の燃料GSが燃料フィルタ16Sの近傍に移動する。燃料フィルタ16Sが燃料で浸漬された状態を維持できる可能性が高くなり、燃料フィルタ16Sの油膜を維持することで、燃料フィルタ16M内への気体の浸入を抑制できる。
【0073】
第1実施形態及び第2実施形態において、上記では燃料タンク本体が鞍型タンクとされることで、複数の収容部を有する構造を挙げているが、たとえば、燃料タンク本体において、底壁から板状の部材(隔壁)が単に立設されて、複数の収容部を有する構成となっていてもよい。
【0074】
図8(A)には、本発明の第3実施形態の燃料供給装置82が示されている。第3実施形態においても、第1実施形態と同一の構成要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0075】
第3実施形態の燃料供給装置82の燃料タンク本体84は、山部14Mを有さない(鞍型タンクではない)構造とされている。そして、図8(A)における底壁14Sの略中央に、1つのサブタンク15(燃料フィルタ16)が配置されている。
【0076】
図8(A)における燃料フィルタ16の両側、すなわち、燃料フィルタ16と側壁14Gの間に燃料貯留部28が形成されている。なお、燃料貯留部28は、たとえば燃料タンク本体84を平面視した(矢印A方向に見た)ときに、燃料フィルタ16を取り囲むように形成されていてもよい。
【0077】
このような構成とされた第3実施形態の燃料供給装置82において、たとえば、燃料タンク本体84内の燃料GSが少ない状態で、燃料GSが左側に傾斜した場合には、右側の燃料貯留部28の燃料が左側に移動するので、燃料フィルタ16が燃料GSで浸漬された状態を維持できる可能性が高くなる。逆に、燃料GSが右側に傾斜した場合であっても、左側の燃料貯留部28の燃料が右側に移動するので、燃料フィルタ16が燃料GSで浸漬された状態を維持できる可能性が高くなる。
【0078】
なお、第3実施形態では、燃料貯留部28から燃料フィルタ16に向かって移動した燃料GSの一部は、燃料フィルタ16の近傍を通過して、反対側の側壁14Gの近傍に移動してしまうことが想定される。しかし、その場合でも、燃料フィルタ16の近傍を通過している間は、燃料フィルタ16が燃料GSに浸漬される。
【0079】
また、図8(B)に示す変形例の構成の燃料供給装置92としてもよい。この構成では、燃料フィルタ16の両側(燃料フィルタ16と燃料貯留部28の間)の底壁14Sから移動制限壁86を立設している。燃料貯留部28から燃料フィルタ16に向かって移動した燃料GSの一部は、この移動制限壁86によって移動が制限されることで、燃料フィルタ16の近傍に留まる時間が長くなる。なお、移動制限壁86の下部には導通孔86Hが形成されており、通常状態では、移動制限壁86で囲まれた部分の内部と外部とで燃料GSの流動を可能にしている。
【0080】
なお、図8(A)及び(B)に示した構造の燃料タンク本体84(鞍型でない燃料タンク本体)であっても、内部に燃料フィルタ16を複数備えるようにすれば、1つのみ備える構成と比較して、燃料GSがいずれかの燃料フィルタ16に接触する可能性が高くなる。
【0081】
いずれの実施形態に係る燃料貯留部28においても、その燃料貯留量は、燃料タンク内で燃料が傾斜した場合(車両の旋回時や傾斜時)において、燃料フィルタ16の油膜が切れることが想定される頻度に応じて決定される。
【0082】
また、燃料貯留部28の傾斜角θは、燃料タンク本体14内における燃料GSの傾斜時に燃料GSをスムーズに燃料フィルタ16の近傍の底壁14S上に移動させることができる程度に設定される。少なくとも、この傾斜角θを鋭角とすれば、直角あるいは鈍角とした場合と比較して、スムーズに燃料GSを燃料フィルタ16の近傍の底壁14S上に移動させることができる。
【符号の説明】
【0083】
12 燃料供給装置
14 燃料タンク本体
14A 主室(収容部)
14B 副室(収容部)
14S 底壁
14G 側壁
14D 隔壁
16 燃料フィルタ
28 燃料貯留部
28S 底面
32 燃料ポンプモジュール(送出手段)
34 移送配管
72 燃料供給装置
74 燃料タンク本体
82 燃料供給装置
84 燃料タンク本体
GS 燃料
LM 油膜
θ 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を収容する燃料タンク本体と、
袋状に形成され前記燃料タンク本体の底壁に備えられ、内部への燃料透過時に燃料中の異物の通過を制限すると共に表面の油膜により内部への気体進入を阻止する燃料フィルタと、
前記燃料フィルタから前記燃料タンクの外部へ燃料を送出するための送出手段と、
前記燃料タンク本体において前記底壁を前記燃料フィルタが備えられた部分よりも下方に膨出させて設けられ燃料を貯留可能な燃料貯留部と、
を有する燃料供給装置。
【請求項2】
前記燃料貯留部が、前記燃料フィルタと、前記燃料タンク本体の対向する側壁のうち該燃料フィルタに近い位置にある側壁との間に設けられている請求項1に記載の燃料供給装置。
【請求項3】
前記燃料フィルタが前記燃料タンク本体内に複数備えられ、
複数の前記燃料フィルタの間で燃料の移送を可能とする移送配管を有する請求項1又は請求項2に記載の燃料供給装置。
【請求項4】
前記燃料タンク本体が、燃料を収容する複数の収容部を備え、
前記燃料フィルタ及び前記燃料貯留部が前記収容部ごとに設けられている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の燃料供給装置。
【請求項5】
前記燃料タンク内に設けられ複数の前記収容部を構成する隔壁、を備え、
前記収容部内において、前記燃料フィルタが前記燃料貯留部よりも前記隔壁に近い位置に配置されている請求項4に記載の燃料供給装置。
【請求項6】
前記燃料貯留部の底面が、前記燃料タンク本体の底壁の前記燃料フィルタが備えられた側から連続すると共に底壁に対する傾斜角が鋭角となる傾斜壁を有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の燃料供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−96252(P2013−96252A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237350(P2011−237350)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)