説明

燃料集合体

【課題】中性子の減速効率が上側において低下することを抑制し、核燃料の経済性を向上させる燃料集合体を提供する。
【解決手段】燃料集合体10は、水平断面視において正方格子状に配列されるとともに核燃料ペレットが装填されている燃料棒12と、下側の水平断面よりも上側の水平断面において占有率が大きく形成されるとともに冷却水よりも水素原子密度の高い素材からなる固体減速体13と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料が核分裂して放出した中性子の速度を減速する固体減速体が装荷された燃料集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原子力発電の経済性を向上させるために、核燃料の高燃焼度化や原子炉の単位体積当たりの出力増加が図られている。また、核燃料の経済性を向上させるために、燃料集合体当たりの核分裂性物質(ウラン235)の装荷量を増加する方法が検討されている。このウラン235の装荷量を増加させる方法として、他の同位体も含むウラン全体の装荷量を多くする方法の他、ウラン全体に占めるウラン235の濃縮度を高める方法がある。なお、このウラン235を高濃縮化してウラン燃料を高燃焼度化する取り組みは、商業炉において段階的に進められている。
【0003】
一方で、沸騰水型原子炉における核燃料の経済性を向上させる方法の一つとして、燃料集合体内に1本または複数本のウォータロッドもしくはウォータチャンネルを配置して非沸騰水領域を形成する方法がある。ここで、沸騰水型原子炉のような軽水炉では、炉心を冷却する軽水が、核分裂により放出された中性子を減速する減速材としての役割も果たしている。この減速した中性子を吸収した核燃料は、核分裂して新たな中性子を放出し、核反応の連鎖を継続させる。
【0004】
炉心における単位体積当たりの減速材を増量することにより、中性子の減速効率が向上することが知られている。このため、減速材と核燃料の体積比を大きくすることにより、燃料集合体の反応度を大きくし、核燃料の経済性を向上させることができる。
さらに、減速材と核燃料の体積比が高まることにより、中性子スペクトルが軟化して、ボイド係数の絶対値が低減し、原子炉の安全性および運転操作性も向上する。
【0005】
そこで、従来の原子炉においては、燃料集合体の一体当りに装荷するウラン235を増量するとともに、減速材と核燃料の体積比が高くなるように減速材(軽水)の流動領域を適正化する設計により、燃料の経済性を高めていた。なお、5wt%以上の濃縮ウランを用いるとともに、固体減速体を用いる公知例が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−151573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
沸騰水型原子炉の炉心では、軽水が加熱され一部が気化してボイドを形成する。そして、発生したボイドは、浮力及び炉水循環によって燃料集合体の内部を上方向に移動する。このため燃料集合体では上側に行く程、下側で生成したボイドが累積するために、軽水(減速材)の存在比率が低下して中性子の減速効率が低下する。
しかし、従来の固体減速体を採用した燃料集合体においては、軸方向に形成されるボイド分布を検討した上で、固体減速体の設計がなされているとは言えなかった。
【0008】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、中性子の減速効率が上側において低下することを抑制し、核燃料の経済性を向上させる燃料集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る燃料集合体は、水平断面視において正方格子状に配列されるとともに核燃料ペレットが装填されている燃料棒と、下側の水平断面よりも上側の水平断面において占有率が大きく形成されるとともに冷却水よりも水素原子密度の高い素材からなる固体減速体と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中性子の減速効率が上側において低下することを抑制し、核燃料の経済性を向上させる燃料集合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料集合体の縦断面図。
【図2】(A)第1実施形態に係る燃料集合体の上側の水平断面図、(B)その下側の水平断面図。
【図3】固体減速体を用いない沸騰水型原子炉の炉心において軸方向位置に対するボイド率を示すグラフ。
【図4】(A)第2実施形態に係る燃料集合体の上側の水平断面図、(B)その下側の水平断面図。
【図5】(A)第3実施形態に係る燃料集合体の上側の水平断面図、(B)その下側の水平断面図。
【図6】(A)第4実施形態に係る燃料集合体の上側の水平断面図、(B)その下側の水平断面図。
【図7】(A)第5実施形態に係る燃料集合体の上側の水平断面図、(B)その下側の水平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1の縦断面図は各実施形態の燃料集合体10を示し、図2(A)は第1実施形態の燃料集合体10の上側の水平断面図(図1のA−A断面)を示し、図2(B)はその下側の水平断面図(図1のB−B断面)を示している。
【0013】
燃料集合体10は、図2に示される水平断面視において、正方格子状に配列されるとともに核燃料ペレットが装填されている燃料棒12と、下側の水平断面(図2(B))よりも上側の水平断面(図2(A))において占有率が大きく形成されるとともに冷却水よりも水素原子密度の高い素材からなる固体減速体13と、を備えている。
【0014】
図2に示すように、第1実施形態の燃料集合体10では、チャンネルボックス19の内部に、燃料棒12が10×10の正方格子状に92本が配列している。
固体減速体13aは、上側(図2(A))が角柱で、下側(図2(B))が円柱に形成されているが、固体減速体13の形状はこれに限定されることなく、円柱、角柱、多角柱及び平板のいずれかもしくはそれらの組み合わせとすることができる。
そして、固体減速体13aは、10×10の正方格子の中央付近に2本配置され、それぞれが4つの格子位置を占めている。また、チャンネルボックス19内の燃料棒12および固体減速体13の間は、冷却水の流路となっている。
【0015】
固体減速体13は、水素原子密度の高い素材から構成されている。具体例として、Zr、Ti、Mg、Li及びCeから選択される1以上の元素を含む水素化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
固体減速体13は、沸騰水型原子炉に収容されている冷却水(70気圧、286℃の飽和水)よりも水素原子密度が高い水素化物であるために、この冷却水よりも中性子を効果的に減速させることができる。
【0016】
図1に示すように、燃料棒12および固体減速体13の下端は、下部タイプレート14で支持されており、その上端は、上部タイプレート15に支持されている。また、燃料集合体10は、下部タイプレート14および上部タイプレート15の間に、互いに離間して配置された例えば7個(図1は、部分省略につき2個のみ記載されている)のスペーサ16を有している。これら下部タイプレート14、上部タイプレート15及びスペーサ16によって、燃料棒12及び固体減速体13は、相互に水平方向の間隔を保っている。
沸騰水型原子炉の炉心は、数百体の燃料集合体からなり、このうち全ての燃料集合体が本発明の構成をとる必要はなく、少なくとも1体が装荷されていればよい。
【0017】
図3のグラフは、固体減速体を用いない沸騰水型原子炉の炉心において軸方向位置に対するボイド率を示している。
炉心では、冷却水が加熱されることによりボイドが発生し、上方に向かう冷却水−蒸気の二相流状態となる。そして、図3では、炉心の下端から上端に向かうに従い、ボイド率が高くなり、炉心下端から炉心高さの14/24の近辺でボイド率は0.7となり、その後は炉心上端までボイド率はほぼ一定で推移する。
これは、ボイド率が0.7を超えたところで、中性子の減速効果が低下して、核分裂の連鎖反応が抑制されてしまうためと考えられる。
【0018】
そこで、本実施形態においては、ボイド率が0.7に近づく固体減速体13の高さ1/3〜2/3の範囲、好ましくは2/5〜3/5の範囲において、固体減速体13の断面(炉心の水平断面における占有率)が変化することが望ましい。
また、固体減速体13の断面積の急激な変化は、隣接する燃料棒12の軸方向出力分布を歪ませることが懸念される。このために、テーパー加工を施すなどして、固体減速体13において断面積の大きな上側から断面積の小さな下側にかけて断面積が連続的に変化する部位を設けることが望ましい。
【0019】
核燃料の高燃焼度化を図るためには、一般的に、減速材でもある冷却水(軽水)の領域を増やし、中性子を高効率で減速させることが求められる。しかし、冷却水の領域を増加させると、燃料集合体10における核燃料(ウラン)の装荷量が減少して経済性の悪化をもたらす。
そこで、各実施形態においては、冷却水よりも水素原子密度が高い固体減速体を用いるとともに、上下方向において断面積を変化させることにより、核燃料(ウラン)の装荷量を減少させることなく、中性子を高効率で減速させることができる。
【0020】
(第2実施形態)
図4(A)は第2実施形態に係る燃料集合体10の上側の水平断面図(図1のA−A断面)を示し、図4(B)はその下側の水平断面図(図1のB−B断面)を示している。なお、図4において図2と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0021】
図4に示すように、第2実施形態の燃料集合体10では、チャンネルボックス19の内部に、燃料棒12が9×9の正方格子状に74本配列している。
固体減速体13bは、上側(図4(A))も下側(図4(B))も円柱に形成されており、断面積の大きな上側から断面積の小さな下側にかけて断面積が連続的に変化する部位を有している。この部位は、側面視において、デーパー形状をとる。
そして、固体減速体13bは、9×9の正方格子の中央付近に2本配置され、それぞれが4つの格子位置を占めている。また、チャンネルボックス19内の燃料棒12および固体減速体13の間は、冷却水の流路となっている。
【0022】
(第3実施形態)
図5(A)は第3実施形態に係る燃料集合体10の上側の水平断面図(図1のA−A断面)、図5(B)はその下側の水平断面図(図1のB−B断面)を示している。なお、図5において図2と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0023】
図5に示すように、第3実施形態の燃料集合体10では、チャンネルボックス19の内部に、燃料棒12が10×10の正方格子状に上部で91本、下部で99本が配列している。
固体減速体13cは、上側(図5(A))が角柱で、下側(図5(B))が円柱に形成されており、断面積の大きな上側から断面積の小さな下側にかけて断面積が連続的に変化する部位を有している。この部位は、側面視において、デーパー形状をとる。
【0024】
そして、固体減速体13cは、上側(図5(A))が10×10の正方格子の中央付近に9つの格子位置を占めて、下側(図5(B))が1つの格子位置を占めている。
さらに、第3実施形態の燃料集合体10は、固体減速体13cの断面が大きな上側(図5(A))よりもその断面の小さな下側(図5(B))において、燃料棒12が多く配置されている。これにより、核燃料の装荷量を増加させることができる。
【0025】
(第4実施形態)
図6(A)は第4実施形態に係る燃料集合体10の上側の水平断面図(図1のA−A断面)、図6(B)はその下側の水平断面図(図1のB−B断面)を示している。なお、図6において図2と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
そして、第4実施形態では、燃料集合体10の下側(図6(B))よりもその上側(図6(A))において固体減速体13が多く配置されている。
【0026】
燃料集合体10の中央に位置する固体減速体13dは、角柱であり、上側から下側に至るまで断面形状は一定である。この中央の固体減速体13dの周囲には、燃料集合体10の上側にのみ設けられる平板の固体減速体13eが配置している。
【0027】
第4実施形態の燃料集合体10において、チャンネルボックス19の内部は、固体減速体13及び仕切板17によって、4つの領域に仕切られている。この4つの領域のそれぞれには、燃料棒12が5×5の正方格子状に配列し、中心の固体減速体13dの位置に対応する1箇所が除かれている。
燃料集合体10の上側にのみ配置される固体減速体13eは、燃料棒12と同じ方向に延びた板状であり、チャンネルボックス19内の4つの領域に挟まれるように配置されている。
【0028】
(第5実施形態)
図7(A)は第5実施形態に係る燃料集合体10の上側の水平断面図(図1のA−A断面)を示し、図7(B)その下側の水平断面図(図1のB−B断面)を示している。なお、図7において図2と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0029】
図7に示すように、第5実施形態の燃料集合体10では、チャンネルボックス19の内部に、燃料棒12が12×12の正方格子状に上部で132本、下部で140本が配列している。
固体減速体13fは、上側(図7(A))も下側(図7(B))も角柱に形成されており、断面積の大きな上側から断面積の小さな下側にかけて断面積が連続的に変化する部位を有している。この部位は、側面視において、デーパー形状をとる。
そして、固体減速体13fは、12×12の正方格子の中央付近に1本配置され、上側で12、下側で4の格子位置を占めている。
【0030】
本発明は前記した実施形態に限定されるものでなく、共通する技術思想の範囲内において、適宜変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0031】
10…燃料集合体、12…燃料棒、13(13a,13b,13c,13d,13e,13f)…固体減速体、14…下部タイプレート、15…上部タイプレート、16…スペーサ、17…仕切板、19…チャンネルボックス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平断面視において正方格子状に配列されるとともに核燃料ペレットが装填されている燃料棒と、
下側の水平断面よりも上側の水平断面において占有率が大きく形成されるとともに冷却水よりも水素原子密度の高い素材からなる固体減速体と、を備えることを特徴とする燃料集合体。
【請求項2】
前記水素原子密度の高い素材とは、Zr、Ti、Mg、Li及びCeから選択される1以上の元素を含む水素化物であることを特徴とする請求項1に記載の燃料集合体。
【請求項3】
前記固体減速体は、円柱、角柱、多角柱及び平板のいずれかもしくはそれらの組み合わせで形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料集合体。
【請求項4】
前記固体減速体において断面積の大きな上側から断面積の小さな下側にかけて断面積が連続的に変化する部位を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料集合体。
【請求項5】
前記上側よりも前記下側において前記燃料棒が多く配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の燃料集合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−255665(P2012−255665A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127579(P2011−127579)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)