説明

燃料電池に用いられるガス拡散層の製造方法、および、製造装置

【課題】燃料電池に用いられるガス拡散層を製造するに際し、比較的短時間で、ガス拡散層基材の表層にカーボン粒子と樹脂とを含む多孔質層を形成する。
【解決手段】ガス拡散層製造装置100において、ペースト塗工装置10は、ガス拡散層基材200の上面に、カーボン粒子と熱可塑性の樹脂粒子と界面活性剤とを含むペーストを塗工する。第1加熱炉20は、ペーストの塗工面を鉛直上方に向けた状態で、ガス拡散層基材200を加熱する。反転機構30は、第1加熱炉20において加熱処理が施されて、第1加熱炉20から搬出されたガス拡散層基材200を、ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させて、第2加熱炉40に搬送する。第2加熱炉40は、ペーストの塗工面を鉛直下方に向けた状態で、ガス拡散層基材200を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるガス拡散層、詳しくは、燃料電池に用いられる膜電極接合体に接合されるガス拡散層の製造方法、および、製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガス(例えば、水素)と酸化剤ガス(例えば、酸素)との電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池には、電解質膜として固体高分子膜を用いた固体高分子型燃料電池がある。そして、この固体高分子型燃料電池では、電解質膜の両面にガス拡散電極(触媒層)を接合してなる膜電極接合体の表面に、カーボンペーパやカーボンクロス等、カーボン繊維からなるガス拡散層が接合されることが多い。
【0003】
ところで、上述した固体高分子型燃料電池では、ガス拡散層と触媒層との接触面積を増大させ、接触抵抗を低下させるために、ガス拡散層における、触媒層と接合される側の表層のカーボン繊維に、カーボン粒子を定着(接着)させる処理が施される場合がある。この処理では、一般に、カーボン繊維からなるガス拡散層基材の表面に、カーボン粒子と、熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子と、を含むペーストを塗工して、加熱処理を施す。こうすることによって、ガス拡散層基材の表層に含浸したカーボン粒子が樹脂によってカーボン繊維に定着(接着)して、触媒層との接触抵抗を低下させる機能を有する多孔質層が形成される。さらに、上述した処理において、上記ペーストに含まれる樹脂粒子として、撥水性が比較的高い樹脂、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素系樹脂を用いれば、上述した多孔質層は、撥水層としても機能し、上記電気化学反応によって生成された生成水の排水性を向上させ、フラッディングを抑制することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−76347号公報
【特許文献2】特開2007−109444号公報
【特許文献3】特開2003−234106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一般に、上述したペーストには、カーボン粒子や樹脂粒子の他に、界面活性剤が含まれるため、上述した加熱処理において、界面活性剤を分解・除去するために、比較的長時間の加熱が必要だった。そして、この長時間の加熱処理は、ガス拡散層の製造コストの上昇、ひいては、燃料電池の製造コストの上昇を招く。一方、上述した加熱処理において、比較的短時間で界面活性剤を分解・除去するためには、より高温の加熱温度で加熱処理を行うことが考えられる。しかし、ペーストに含まれる樹脂粒子の融点以上の比較的高い加熱温度で加熱処理を行うと、樹脂が溶融して重力によって移動し、ガス拡散層における樹脂の分布が不均一になったり、カーボン粒子の定着力が低下したりする場合がある。この現象は、上記ペーストに界面活性剤が含まれない場合であっても同様である。そして、このようなガス拡散層を燃料電池に用いると、燃料電池の発電性能の低下を招く。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池に用いられるガス拡散層を製造するに際し、比較的短時間で、ガス拡散層基材の表層にカーボン粒子と樹脂とを含む多孔質層を形成する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池に用いられるガス拡散層の製造方法であって、
カーボン繊維からなるガス拡散層基材の一方の面に、カーボン粒子と、熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子と、を含むペーストを塗工するペースト塗工工程と、
前記ペーストが塗工された前記ガス拡散層基材に対して、前記ペーストの塗工面を鉛直上方に向けた状態で、第1の加熱処理条件で第1の加熱処理を施す第1の加熱処理工程と、
前記第1の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させる第1の反転工程と、
前記第1の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直下方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第2の加熱処理条件で第2の加熱処理を施す第2の加熱処理工程と、
を備える製造方法。
【0009】
適用例1のガス拡散層の製造方法では、上記ペースト塗工工程の後、上記第1の加熱処理工程において、上記ペーストに含まれる樹脂粒子が溶融して重力によって、ガス拡散層基材の表層よりも内部に移動したとしても、上記第1の反転工程、および、上記第2の加熱処理工程において、ガス拡散層基材の内部に移動した樹脂を、再度、重力によってガス拡散層基材の表層に移動させることができる。したがって、上記ペーストが塗工されたガス拡散層基材に対して、上記樹脂粒子の融点以上の比較的高い加熱温度で加熱処理を行っても、ガス拡散層基材の表層に含浸したカーボン粒子を樹脂によってカーボン繊維に定着させ、多孔質層を形成することができる。つまり、適用例1のガス拡散層の製造方法によって、比較的短時間で、ガス拡散層基材の表層に多孔質層を形成することができる。
【0010】
また、上記ペーストには、界面活性剤が含まれることが多いが、適用例1の製造方法によれば、比較的高い温度で加熱処理を行うことが可能であるので、上記ペーストに界面活性剤が含まれる場合であっても、比較的短時間で、界面活性剤を分解・除去することができる。
【0011】
なお、「加熱処理条件」には、加熱温度や、加熱時間や、加熱処理を行う雰囲気等、種々のパラメータが含まれる。また、上記カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラックや、黒鉛粉等が挙げられる。また、上記樹脂粒子に用いられる樹脂は、ガス拡散層基材のカーボン繊維にカーボン粒子を定着(接着)可能な樹脂であればよい。上記樹脂粒子に用いられる樹脂として、撥水性が比較的高い樹脂、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素系樹脂を用いれば、上述した多孔質層を、撥水層として機能させることができる。また、上記樹脂粒子に用いられる樹脂として、導電性樹脂を用いれば、非導電性樹脂を用いる場合よりも、膜電極接合体における触媒層とガス拡散層との接触抵抗を低下させることができる。
【0012】
[適用例2]
適用例1記載の製造方法であって、
前記第1の加熱処理条件、および、前記第2の加熱処理条件は、互いに異なる、
製造方法。
【0013】
適用例2の製造方法によって、ガス拡散層基材におけるカーボン繊維へのカーボン粒子および樹脂の定着や、多孔質層における厚さ方向についての樹脂の分布を柔軟に制御するようにすることができる。
【0014】
[適用例3]
適用例2記載の製造方法であって、
前記第1の加熱処理条件における加熱時間と、前記第2の加熱処理条件における加熱時間とは、ほぼ同じであり、
前記第2の加熱処理条件における加熱温度は、前記第1の加熱処理条件における加熱温度よりも高い、
製造方法。
【0015】
[適用例4]
適用例2記載の製造方法であって、
前記第1の加熱処理条件における加熱温度と、前記第2の加熱処理条件における加熱温度とは、ほぼ同じであり、
前記第2の加熱処理条件における加熱時間は、前記第1の加熱処理条件における加熱時間よりも長い、
製造方法。
【0016】
適用例3,4の製造方法によって、ガス拡散層基材の表層における表面近傍に樹脂を偏在させるようにすることができる。そして、この偏在した樹脂によって、膜電極接合体における触媒層との接着力を向上させることができる。
【0017】
[適用例5]
適用例1記載の製造方法であって、さらに、
前記第2の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直上方を向くように反転させる第2の反転工程と、
前記第2の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直上方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第3の加熱処理条件で第3の加熱処理を施す第3の加熱処理工程と、
前記第3の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させる第3の反転工程と、
前記第3の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直下方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第4の加熱処理条件で第4の加熱処理を施す第4の加熱処理工程と、
を備える製造方法。
【0018】
適用例5の製造方法では、例えば、加熱処理によって溶融した樹脂の粘度が、適用例1の製造方法において用いられる上記ペーストに含まれる樹脂が加熱処理によって溶融したときの粘度よりも低い場合に、加熱処理、および、ガス拡散層基材の反転を、適用例1の製造方法よりも短時間で繰り返すことによって、加熱処理によって溶融した樹脂の重力による移動を抑制することができる。なお、加熱処理工程、および、反転工程を、さらに多段に繰り返すようにしてもよい。
【0019】
[適用例6]
適用例5記載の製造方法であって、
前記第1の加熱処理条件と、前記第2の加熱処理条件と、前記第3の加熱処理条件と、前記第4の加熱処理条件とのうちの少なくとも1つは、該少なくとも1つ以外の他の加熱処理条件のうちの少なくとも1つと異なる、
製造方法。
【0020】
適用例5の製造方法によって、ガス拡散層基材におけるカーボン繊維へのカーボン粒子および樹脂の定着や、多孔質層における厚さ方向についての樹脂の分布を、適用例2の製造方法よりも、さらに柔軟に制御するようにすることができる。
【0021】
[適用例7]
燃料電池に用いられるガス拡散層を製造する製造装置であって、
カーボン繊維からなるガス拡散層基材であって、一方の面に、カーボン粒子と、熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子とを含むペーストが塗工された前記ガス拡散層基材に対して、前記ペーストの塗工面を鉛直上方に向けた状態で、第1の加熱処理条件で第1の加熱処理を施す第1の加熱処理部と、
前記第1の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させる第1の反転部と、
前記第1の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直下方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第2の加熱処理条件で第2の加熱処理を施す第2の加熱処理部と、
前記各部を制御する制御部と、
を備える製造装置。
【0022】
適用例7の製造装置によって、適用例1の製造方法を実現することができる。
【0023】
[適用例8]
適用例7記載の製造装置であって、
前記第1の加熱処理部と、前記第2の加熱処理部とは、鉛直方向に積み重ねるように配置されており、
前記第1の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、第1の方向に搬送する第1の搬送機構を備えており、
前記第2の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、前記第1の方向に対向する第2の方向に搬送する第2の搬送機構を備えており、
前記第1の反転部は、前記第1の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、前記第2の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とを接続するように配置されている、
製造装置。
【0024】
適用例8の製造装置では、上記第1の加熱処理部と上記第2の加熱処理部とが鉛直方向に積み重ねるように配置されているので、これらが平面上に配置される場合よりも、上記第1の加熱処理部、および、上記第2の加熱処理部からの放熱を抑制し、加熱処理に消費されるエネルギ量を抑制することができる。また、適用例8の製造装置では、上記第1の搬送機構におけるガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、上記第2の搬送機構におけるガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とが、上記第1の反転部を介して接続されているので、帯状のガス拡散層基材を搬送しつつ、ガス拡散層基材に上述した多孔質層を連続的に形成することができる。また、製造装置の小型化を図ることもできる。
【0025】
[適用例9]
適用例7または8記載の製造装置であって、
前記制御部は、前記第1の加熱処理条件、および、前記第2の加熱処理条件が、互いに異なるように、前記第1の加熱処理部、および、前記第2の加熱処理部を制御する、
製造装置。
【0026】
適用例9の製造装置によって、適用例2の製造方法を実現することができる。
【0027】
[適用例10]
適用例9記載の製造装置であって、
前記第1の加熱処理条件における加熱時間と、前記第2の加熱処理条件における加熱時間とは、ほぼ同じであり、
前記第2の加熱処理条件における加熱温度は、前記第1の加熱処理条件における加熱温度よりも高い、
製造装置。
【0028】
適用例10の製造装置によって、適用例3の製造方法を実現することができる。
【0029】
[適用例11]
適用例9記載の製造装置であって、
前記第1の加熱処理条件における加熱温度と、前記第2の加熱処理条件における加熱温度とは、ほぼ同じであり、
前記第2の加熱処理条件における加熱時間は、前記第1の加熱処理条件における加熱時間よりも長い、
製造装置。
【0030】
適用例10の製造装置によって、適用例4の製造方法を実現することができる。
【0031】
[適用例12]
適用例7または8記載の製造装置であって、さらに、
前記第2の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直上方を向くように反転させる第2の反転部と、
前記第2の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直上方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第3の加熱処理条件で第3の加熱処理を施す第3の加熱処理部と、
前記第3の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させる第3の反転部と、
前記第3の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直下方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第4の加熱処理条件で第3の加熱処理を施す第4の加熱処理部と、
を備え、
前記制御部は、さらに、前記第2の反転部と、前記第3の加熱処理部と、前記第3の反転部と、前記第4の加熱処理部とを制御する、
製造装置。
【0032】
適用例12の製造装置によって、適用例5の製造方法を実現することができる。
【0033】
[適用例13]
適用例12記載の製造装置であって、
前記第1の加熱処理部と、前記第2の加熱処理部と、前記第3の加熱処理部と、前記第4の加熱処理部とは、この順に、鉛直方向に積み重ねるように配置されており、
前記第1の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、第1の方向に搬送する第1の搬送機構を備えており、
前記第2の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、前記第1の方向に対向する第2の方向に搬送する第2の搬送機構を備えており、
前記第3の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、前記第1の方向に搬送する第3の搬送機構を備えており、
前記第4の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、前記第2の方向に搬送する第4の搬送機構を備えており、
前記第1の反転部は、前記第1の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、前記第2の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とを接続するように配置されており、
前記第2の反転部は、前記第2の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、前記第3の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とを接続するように配置されており、
前記第3の反転部は、前記第3の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、前記第3の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とを接続するように配置されている、
製造装置。
【0034】
適用例13の製造装置では、上記第1の加熱処理部と、上記第2の加熱処理部と、上記第3の加熱処理部と、上記第4の加熱処理部とが、鉛直方向に積み重ねるように配置されているので、これらが平面上に配置される場合よりも、上記第1の加熱処理部、上記第2の加熱処理部、上記第3の加熱処理部、上記第4の加熱処理部からの放熱を抑制し、加熱処理に消費されるエネルギ量を抑制することができる。また、適用例13の製造装置では、上記第1の搬送機構におけるガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、上記第2の搬送機構におけるガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とが、上記第1の反転部を介して接続されている。さらに、上記第2の搬送機構におけるガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、上記第3の搬送機構におけるガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とが、上記第2の反転部を介して接続されている。さらに、上記第3の搬送機構におけるガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、前記第4の搬送機構におけるガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とが、上記第3の反転部を介して接続されている。したがって、帯状のガス拡散層基材を搬送しつつ、ガス拡散層基材に上述した多孔質層を連続的に形成することができる。また、製造装置の小型化を図ることもできる。
【0035】
[適用例14]
適用例12または13記載の製造装置であって、
前記制御部は、前記第1の加熱処理条件と、前記第2の加熱処理条件と、前記第3の加熱処理条件と、前記第4の加熱処理条件とのうちの少なくとも1つが、該少なくとも1つの以外の他の加熱処理条件のうちの少なくとも1つと異なるように、前記第1の加熱処理部と、前記第2の加熱処理部と、前記第3の加熱処理部と、前記第4の加熱処理部とを制御する、
製造装置。
【0036】
適用例14の製造装置によって、適用例6の製造法を実現することができる。
【0037】
本発明は、上述の製造方法、製造装置としての構成の他、これらによって製造されたガス拡散層を膜電極接合体に接合することによって製造される燃料電池、あるいは、燃料電池の製造方法の発明として構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施例としてのガス拡散層製造装置100の概略構成を示す説明図である。
【図2】ガス拡散層GDLの製造中における多孔質層の形成過程を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明の第2実施例としてのガス拡散層製造装置100Aの概略構成を示す説明図である。
【図4】第1実施例のガス拡散層製造装置100において、第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmpと、第2加熱炉40によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmp2とを変更した場合のガス拡散層GDLの断面図を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としてのガス拡散層製造装置100の概略構成を示す説明図である。このガス拡散層製造装置100は、固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体に接合されるガス拡散層GDLを製造するための装置である。なお、本実施例のガス拡散層製造装置100によって製造されるガス拡散層GDLは、カーボン繊維からなるガス拡散層基材200の一方の表層に、導電性および撥水性を有する多孔質層が形成されたものである。
【0040】
図示するように、ガス拡散層製造装置100は、ペースト塗工装置10と、第1加熱炉20と、反転機構30と、第2加熱炉40と、制御ユニット90と、を備えている。
【0041】
ペースト塗工装置10は、ガス拡散層製造装置100の外部から搬送されてきたガス拡散層基材200の一方の面(上面)に、カーボン粒子と、熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子と、界面活性剤と、を含むペーストを、連続的あるはい断続的に塗工する(ペースト塗工工程)。本実施例では、カーボン粒子として、カーボンブラックを用いるものとした。カーボン粒子として、例えば、黒鉛粉を用いるようにしてもよい。また、本実施例では、樹脂粒子として、撥水性が比較的高いフッ素系樹脂であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いるものとした。
【0042】
第1加熱炉20は、ペーストが塗布されたガス拡散層基材200(以下、単にガス拡散層基材200と呼ぶ)を、図の左から右に搬送するための図示しない搬送機構(第1の搬送機構)と、ガス拡散層基材200を上面側および下面側から加熱するための複数のヒータHT1とを備えている。第1加熱炉20内において、ガス拡散層基材200は、ペーストの塗工面を鉛直上方に向けた状態で、搬送されつつ加熱される。第1加熱炉20は、[課題を解決するための手段]における第1の加熱処理部に相当し、ガス拡散層基材200に対して、第1の加熱処理条件で、第1の加熱処理を施す(第1の加熱処理工程)。
【0043】
反転機構30は、ローラ32,34を備えている。そして、反転機構30は、図示するように、第1加熱炉20において加熱処理が施されて、第1加熱炉20が備える搬送機構の終端部から搬出されたガス拡散層基材200を、ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させて、第2加熱炉40が備える搬送機構の始端部に搬送する。反転機構30は、[課題を解決するための手段]における第1の反転部に相当する(第1の反転工程)。
【0044】
第2加熱炉40は、ガス拡散層基材200を、図の右から左に搬送するための図示しない搬送機構(第2の搬送機構)と、ガス拡散層基材200を上面側および下面側から加熱するための複数のヒータHT2とを備えている。第2加熱炉40内において、ガス拡散層基材200は、ペーストの塗工面を鉛直下方に向けた状態で、搬送されつつ加熱される。この工程で、ガス拡散層基材200の表層に多孔質層が形成され、ガス拡散層GDLが完成する。第2加熱炉40が備える搬送機構の終端部から搬出されたガス拡散層基材200(ガス拡散層GDL)は、ガス拡散層製造装置100の外部に搬出され、例えば、図示しない巻き取りローラによって巻き取られる。第2加熱炉40は、[課題を解決するための手段]における第2の加熱処理部に相当し、ガス拡散層基材200に対して、第2の加熱処理条件で、第2の加熱処理を施す(第2の加熱処理工程)。
【0045】
なお、ガス拡散層製造装置100において、第1加熱炉20と第2加熱炉40とは、鉛直方向に積み重ねるように配置されている。また、本実施例では、ガス拡散層基材200の搬送方向についての第1加熱炉20の長さと第2加熱炉40の長さとは、等しいものとした(L=L1)。したがって、第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱時間と、第2加熱炉40による加熱時間とは、等しい。ガス拡散層基材200の搬送方向についての第1加熱炉20の長さと第2加熱炉40の長さとが互いに異なるようにすれば、第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱時間と、第2加熱炉40による加熱時間とを互いに異なるようにすることができる。
【0046】
制御ユニット90は、内部にCPUや、メモリ等を備えるマイクロコンピュータとして構成されており、ペースト塗工装置10や、第1加熱炉20が備える搬送機構および複数のヒータHT1や、第2加熱炉40が備える搬送機構および複数のヒータHT2や、その他の搬送機構等を制御する。制御ユニット90は、これらを制御することによって、第1加熱炉20における加熱処理条件(第1の加熱処理条件)、および、第2加熱炉40における加熱処理条件(第2の加熱処理条件)を変化させることができる。加熱処理条件には、加熱温度や、加熱時間や、加熱処理を行う雰囲気等、種々のパラメータが含まれる。本実施例では、第1の加熱処理条件(加熱温度Tmp1)と、第2の加熱処理条件(加熱温度Tmp2)とは、等しいものとした(Tmp1=Tmp2=Tmpn)。ただし、加熱温度Tmp1、および、加熱温度Tmp2は、上記ペーストに含まれる樹脂粒子が溶融する温度から分解する温度の間で設定される。
【0047】
図2は、ガス拡散層GDLの製造中における多孔質層の形成過程を模式的に示す説明図である。ガス拡散層基材200の断面図を示した。図2(a)に、ペースト塗工装置10によるペースト塗工後のガス拡散層基材200の様子を示した。また、図2(b)に、第1加熱炉20による第1の加熱処理時のガス拡散層基材200の様子を示した。また、図2(c)に、第2加熱炉40による第2の加熱処理後のガス拡散層基材200の様子を示した。
【0048】
図2(a)に示したように、ガス拡散層基材200の上面にペーストを塗工した後は、ペーストに含まれるカーボン粒子Pc、および、樹脂粒子Prの一部は、ガス拡散層基材200の表層に含浸し、他の一部は、ガス拡散層基材200の表面に残っている。
【0049】
その後、ガス拡散層基材200に対して、ペーストの塗工面を鉛直上方に向けた状態で、加熱温度Tmp1で加熱処理を施すと、図2(b)に示したように、ペーストに含まれるカーボン粒子Pcは、ほとんど移動しないまま、樹脂粒子Prは、溶融して、重力によって、ガス拡散層基材200の内部に移動する。このとき、ペーストに含まれる界面活性剤の分解・除去も行われている。
【0050】
その後、ガス拡散層基材200を表裏反転させ、ペーストの塗工面を鉛直下方に向けた状態で、ガス拡散層基材200に対して、加熱温度Tmp2で加熱処理を施すと、図2(c)に示したように、重力によってガス拡散層基材200の内部に移動した樹脂粒子Prは、再度、重力によって、ガス拡散層基材200の表層に移動する。このとき、ペーストに含まれる界面活性剤の分解・除去も行われている。そして、カーボン粒子Pcは、樹脂粒子Prによって、カーボン繊維に定着する。以上の工程によって、ガス拡散層基材200の表層に、多孔質層が形成される。
【0051】
以上説明したように、第1実施例のガス拡散層製造装置100では、ペースト塗工工程の後、第1の加熱処理工程において、ペーストに含まれる樹脂粒子が溶融して重力によって、ガス拡散層基材200の表層よりも内部に移動したとしても、第1の反転工程、および、第2の加熱処理工程において、ガス拡散層基材200の内部に移動した樹脂を、再度、重力によってガス拡散層基材200の表層に移動させることができる。したがって、ペーストが塗工されたガス拡散層基材200に対して、樹脂粒子Prの融点以上の比較的高い加熱温度で加熱処理を行っても、ガス拡散層基材200の表層に含浸したカーボン粒子Pcを樹脂粒子Prによってカーボン繊維に定着させ、多孔質層を形成することができる。つまり、ガス拡散層製造装置100によって、比較的短時間で、ガス拡散層基材200の表層に多孔質層を形成することができる。
【0052】
また、上記ペーストには、界面活性剤が含まれるが、ガス拡散層製造装置100によれば、比較的高い温度で加熱処理を行うことが可能であるので、上記ペーストに含まれる界面活性剤を、比較的短時間で、界面活性剤を分解・除去することができる。
【0053】
また、ガス拡散層製造装置100では、第1加熱炉20と第2加熱炉40とが鉛直方向に積み重ねるように配置されているので、これらが平面上に配置される場合よりも、第1加熱炉20、および、第2加熱炉40からの放熱を抑制し、加熱処理に消費されるエネルギ量を抑制することができる。また、ガス拡散層製造装置100では、第1の搬送機構におけるガス拡散層基材200の搬送方向についての終端部と、第2の搬送機構におけるガス拡散層基材200の搬送方向についての始端部とが、反転機構30を介して接続されているので、帯状のガス拡散層基材200を搬送しつつ、ガス拡散層基材200に上述した多孔質層を連続的に形成することができる。また、ガス拡散層製造装置100の小型化を図ることもできる。
【0054】
B.第2実施例:
図3は、本発明の第2実施例としてのガス拡散層製造装置100Aの概略構成を示す説明図である。ガス拡散層製造装置100Aは、図示するように、ガス拡散層製造装置100Aは、ペースト塗工装置10Aと、第1加熱炉20Aと、反転機構30と、第2加熱炉40Aと、反転機構50と、第3加熱炉60と、反転機構70と、第4加熱炉80と、制御ユニット90Aと、を備えている。
【0055】
ペースト塗工装置10Aは、ガス拡散層製造装置100におけるペースト塗工装置10と同様に、ガス拡散層製造装置100Aの外部から搬送されてきたガス拡散層基材200の一方の面(上面)に、カーボン粒子と、熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子と、界面活性剤と、を含むペーストを、連続的あるはい断続的に塗工する。なお、本実施例では、ペーストに含まれる樹脂粒子として、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)よりも溶融粘度が低い、すなわち、溶融流動性が高いETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)を用いるものとした。
【0056】
第1加熱炉20Aは、ガス拡散層製造装置100における第1加熱炉20と同様に、ペーストが塗布されたガス拡散層基材200を、図の左から右に搬送するための図示しない搬送機構(第1の搬送機構)と、ガス拡散層基材200を上面側および下面側から加熱するための複数のヒータHT1とを備えている。第1加熱炉20A内において、ガス拡散層基材200は、ペーストの塗工面を鉛直上方に向けた状態で、搬送されつつ加熱される。第1加熱炉20は、[課題を解決するための手段]における第1の加熱処理部に相当し、ガス拡散層基材200に対して、第1の加熱処理条件で、第1の加熱処理を施す(第1の加熱処理工程)。
【0057】
反転機構30は、ローラ32,34を備えている。そして、反転機構30は、図示するように、第1加熱炉20Aにおいて加熱処理が施されて、第1加熱炉20Aが備える搬送機構の終端部から搬出されたガス拡散層基材200を、ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させて、第2加熱炉40Aが備える搬送機構の始端部に搬送する。
【0058】
第2加熱炉40Aは、ガス拡散層製造装置100における第2加熱炉40と同様に、ガス拡散層基材200を、図の右から左に搬送するための図示しない搬送機構(第2の搬送機構)と、ガス拡散層基材200を上面側および下面側から加熱するための複数のヒータHT2とを備えている。第2加熱炉40A内において、ガス拡散層基材200は、ペーストの塗工面を鉛直下方に向けた状態で、搬送されつつ加熱される。第2加熱炉40Aは、[課題を解決するための手段]における第2の加熱処理部に相当し、ガス拡散層基材200に対して、第2の加熱処理条件で、第2の加熱処理を施す(第2の加熱処理工程)。
【0059】
反転機構50は、ローラ52,54を備えている。そして、反転機構50は、図示するように、第2加熱炉40Aにおいて加熱処理が施されて、第2加熱炉40Aが備える搬送機構の終端部から搬出されたガス拡散層基材200を、ペーストの塗工面が鉛直上方を向くように反転させて、第3加熱炉60が備える搬送機構の始端部に搬送する。反転機構50は、[課題を解決するための手段]における第2の反転部に相当する(第2の反転工程)。
【0060】
第3加熱炉60は、ペーストが塗布されたガス拡散層基材200を、図の左から右に搬送するための図示しない搬送機構(第3の搬送機構)と、ガス拡散層基材200を上面側および下面側から加熱するための複数のヒータHT3とを備えている。第3加熱炉60内において、ガス拡散層基材200は、ペーストの塗工面を鉛直上方に向けた状態で、搬送されつつ加熱される。第3加熱炉60は、[課題を解決するための手段]における第3の加熱処理部に相当し、ガス拡散層基材200に対して、第3の加熱処理条件で、第3の加熱処理を施す(第3の加熱処理工程)。
【0061】
反転機構70は、ローラ72,74を備えている。そして、反転機構70は、図示するように、第3加熱炉60において加熱処理が施されて、第3加熱炉60が備える搬送機構の終端部から搬出されたガス拡散層基材200を、ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させて、第4加熱炉80が備える搬送機構の始端部に搬送する。反転機構70は、[課題を解決するための手段]における第3の反転部に相当する(第3の反転工程)。
【0062】
第4加熱炉80は、ガス拡散層基材200を、図の右から左に搬送するための図示しない搬送機構(第4の搬送機構)と、ガス拡散層基材200を上面側および下面側から加熱するための複数のヒータHT4とを備えている。第4加熱炉80内において、ガス拡散層基材200は、ペーストの塗工面を鉛直下方に向けた状態で、搬送されつつ加熱される。第4加熱炉80は、[課題を解決するための手段]における第4の加熱処理部に相当し、ガス拡散層基材200に対して、第4の加熱処理条件で、第4の加熱処理を施す(第4の加熱処理工程)。
【0063】
なお、ガス拡散層製造装置100Aにおいて、第1加熱炉20Aと第2加熱炉40Aと第3加熱炉60と第4加熱炉80とは、鉛直方向に積み重ねるように配置されている。また、本実施例では、ガス拡散層基材200の搬送方向についての第1加熱炉20Aの長さと、第2加熱炉40Aの長さと、第3加熱炉60の長さと、第4加熱炉80の長さとは、等しいものとした(L=L2)。ただし、これらの長さL2は、第1実施例のガス拡散層製造装置100における長さL1よりも短い。また、ガス拡散層製造装置100Aにおけるガス拡散層基材200の搬送速度は、ガス拡散層製造装置100におけるガス拡散層基材200の搬送速度と同じであるものとした。したがって、各加熱処理工程におけるガス拡散層基材200の加熱時間は、第1実施例よりも短い。ガス拡散層基材200の搬送方向についての第1加熱炉20Aの長さと、第2加熱炉40Aの長さと、第3加熱炉60の長さと、第4加熱炉80の長さとが異なるようにすれば、各加熱処理工程におけるガス拡散層基材200の加熱時間を異なるようにすることができる。
【0064】
制御ユニット90Aは、第1実施例における制御ユニット90と同様に、内部にCPUや、メモリ等を備えるマイクロコンピュータとして構成されており、ペースト塗工装置10や、第1加熱炉20Aが備える搬送機構および複数のヒータHT1や、第2加熱炉40Aが備える搬送機構および複数のヒータHT2や、第3加熱炉60が備える搬送機構および複数のヒータHT3や、第4加熱炉80が備える搬送機構および複数のヒータHT4や、その他の搬送機構等を制御する。制御ユニット90Aは、これらを制御することによって、第1加熱炉20Aにおける加熱処理条件(第1の加熱処理条件)、第2加熱炉40Aにおける加熱処理条件(第2の加熱処理条件)、第3加熱炉60における加熱処理条件(第3の加熱処理条件)、第4加熱炉80における加熱処理条件(第4の加熱処理条件)を変化させることができる。なお、本実施例では、第1の加熱処理条件(加熱温度Tmp1)と、第2の加熱処理条件(加熱温度Tmp2)と、第3の加熱処理条件(加熱温度Tmp3)と、第4の加熱処理条件(加熱温度Tmp4)とは、等しいものとした(Tmp1=Tmp2=Tmp3=Tmp4=Tmpn)。
【0065】
以上説明した第2実施例のガス拡散層製造装置100Aによれば、第1実施例のガス拡散層製造装置100と同様に、比較的短時間で、ガス拡散層基材200の表層に多孔質層を形成することができる。
【0066】
また、ガス拡散層製造装置100Aでは、ガス拡散層基材200に塗工されるペーストに含まれる樹脂粒子として、第1実施例において用いられるペーストに含まれる樹脂粒子の溶融粘度よりも低い材料を利用しているが、加熱処理、および、ガス拡散層基材200の反転を、第1実施例のガス拡散層製造装置100よりも短時間で繰り返すことによって、加熱処理によって溶融した樹脂の重力による移動を抑制することができる。
【0067】
また、ガス拡散層製造装置100Aでは、第1加熱炉20Aと第2加熱炉40Aと第3加熱炉60と第4加熱炉80とが鉛直方向に積み重ねるように配置されているので、これらが平面上に配置される場合よりも、第1加熱炉20A、第2加熱炉40A、第3加熱炉60、第4加熱炉80からの放熱を抑制し、加熱処理に消費されるエネルギ量を抑制することができる。また、ガス拡散層製造装置100Aでは、第1の搬送機構におけるガス拡散層基材200の搬送方向についての終端部と、第2の搬送機構におけるガス拡散層基材200の搬送方向についての始端部とが、反転機構30を介して接続されている。さらに、第2の搬送機構におけるガス拡散層基材200の搬送方向についての終端部と、第3の搬送機構におけるガス拡散層基材200の搬送方向についての始端部とが、反転機構50を介して接続されている。さらに、第3の搬送機構におけるガス拡散層基材200の搬送方向についての終端部と、第4の搬送機構におけるガス拡散層基材200の搬送方向についての始端部とが、反転機構70を介して接続されている。したがって、帯状のガス拡散層基材200を搬送しつつ、ガス拡散層基材200に上述した多孔質層を連続的に形成することができる。また、ガス拡散層製造装置100Aの小型化を図ることもできる。
【0068】
C.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0069】
C1.変形例1:
上記第1実施例では、第1加熱炉20、および、第2加熱炉40によるガス拡散層基材200の加熱処理条件、すなわち、第1の加熱処理条件と、第2の加熱処理条件とが等しいものとしたが、本発明は、これに限られない。これらが互いに異なるようにしてもよい。また、上記第2実施例では、第1の加熱処理条件と、第2の加熱処理条件と、第3の加熱処理条件と、第4の加熱処理条件とは、等しいものとしたが、本発明は、これに限られない。これらのうちの少なくとも1つが、該少なくとも1つ以外の他の加熱処理条件のうちの少なくとも1つと異なるようにしてもよい。こうすることによって、ガス拡散層基材200におけるカーボン繊維へのカーボン粒子Pcおよび樹脂粒子Prの定着や、多孔質層における厚さ方向についての樹脂の分布を柔軟に制御するようにすることができる。
【0070】
図4は、第1実施例のガス拡散層製造装置100において、第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmpと、第2加熱炉40によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmp2とを変更した場合のガス拡散層GDLの断面図を模式的に示す説明図である。
【0071】
図4(a)に、第2加熱炉40によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmp2を第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmp1(=Tmpn)よりも高くした場合のガス拡散層GDLの断面図を示した。なお、第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱時間と、第2加熱炉40によるガス拡散層基材200の加熱時間とは、同じである。この場合、ガス拡散層基材200の表層における表面近傍に樹脂粒子Prを偏在させるようにすることができる。そして、この偏在した樹脂粒子Prによって、膜電極接合体における触媒層との接着力を向上させることができる。なお、このような効果は、第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmp1と、第2加熱炉40によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmp2とを同じにして、第2加熱炉40によるガス拡散層基材200の加熱時間を、第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱時間を長くした場合にも同様である。
【0072】
また、図4(b)に、第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmp1、および、第2加熱炉40によるガス拡散層基材200の加熱温度Tmp2を、第1実施例における加熱温度Tmpnよりも高くした場合のガス拡散層GDLの断面図を示した。なお、第1加熱炉20によるガス拡散層基材200の加熱時間と、第2加熱炉40によるガス拡散層基材200の加熱時間とは、同じである。この場合、ガス拡散層基材200の表層において、樹脂粒子Prがカーボン粒子Pc間に広がり、カーボン繊維へのカーボン粒子Pcの定着力を向上させることができる。
【0073】
C2.変形例2:
上記実施例では、ガス拡散層基材200に塗布されるペーストに含まれる樹脂粒子Prとして、撥水性が比較的高いフッ素系樹脂を用いるものとしたが、本発明は、これに限られない。上記樹脂粒子Prに用いられる樹脂は、ガス拡散層基材200のカーボン繊維にカーボン粒子Pcを定着(接着)可能な樹脂であればよい。例えば、上記樹脂粒子Prに用いられる樹脂として、導電性樹脂を用いれば、非導電性樹脂を用いる場合よりも、膜電極接合体における触媒層とガス拡散層GDLとの接触抵抗を低下させることができる。
【0074】
また、上記実施例では、ガス拡散層基材200に塗布されるペーストには、界面活性剤が含まれるものとたが、界面活性剤を含まないものとしてもよい。ただし、上記ペーストが界面活性剤を含むことによって、上記ペーストが界面活性剤を含まない場合よりも、ガス拡散層GDLの多孔質層におけるカーボン粒子、および、樹脂の分布を均一化することができる。
【0075】
C3.変形例3:
上記第1実施例では、ガス拡散層製造装置100において、第1加熱炉20と第2加熱炉40とは、鉛直方向に積み重ねるように配置されるものとしたが、本発明は、これに限られない。第1加熱炉20と第2加熱炉40とを平面的に配置するようにしてもよい。また、上記第2実施例では、ガス拡散層製造装置100Aにおいて、第1加熱炉20Aと、第2加熱炉40Aと、第3加熱炉60と、第4加熱炉80とは、鉛直方向に積み重ねるように配置されるものとしたが、本発明は、これに限られない。これらのうちの少なくとも1つを、平面的に配置するようにしてもよい。
【0076】
C4.変形例4:
上記第2実施例では、ガス拡散層製造装置100Aは、第1加熱炉20Aと、反転機構30と、第2加熱炉40Aと、反転機構50と、第3加熱炉60と、反転機構70と、第4加熱炉80と、を備えるものとしたが、加熱炉(加熱処理工程)、および、反転機構(反転肯定)を、さらに多段に繰り返すようにしてもよい。
【符号の説明】
【0077】
100,100A…ガス拡散層製造装置
10,10A…ペースト塗工装置
20,20A…第1加熱炉
30…反転機構
32,34…ローラ
40,40A…第2加熱炉
50…反転機構
52,54…ローラ
60…第3加熱炉
70…反転機構
72,74…ローラ
80…第4加熱炉
90,90A…制御ユニット
200…ガス拡散層基材
GDL…ガス拡散層
Pc…カーボン粒子
Pr…樹脂粒子
HT1,HT2,HT3,HT4…ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられるガス拡散層の製造方法であって、
カーボン繊維からなるガス拡散層基材の一方の面に、カーボン粒子と、熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子と、を含むペーストを塗工するペースト塗工工程と、
前記ペーストが塗工された前記ガス拡散層基材に対して、前記ペーストの塗工面を鉛直上方に向けた状態で、第1の加熱処理条件で第1の加熱処理を施す第1の加熱処理工程と、
前記第1の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させる第1の反転工程と、
前記第1の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直下方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第2の加熱処理条件で第2の加熱処理を施す第2の加熱処理工程と、
を備える製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法であって、
前記第1の加熱処理条件、および、前記第2の加熱処理条件は、互いに異なる、
製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法であって、
前記第1の加熱処理条件における加熱時間と、前記第2の加熱処理条件における加熱時間とは、ほぼ同じであり、
前記第2の加熱処理条件における加熱温度は、前記第1の加熱処理条件における加熱温度よりも高い、
製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の製造方法であって、
前記第1の加熱処理条件における加熱温度と、前記第2の加熱処理条件における加熱温度とは、ほぼ同じであり、
前記第2の加熱処理条件における加熱時間は、前記第1の加熱処理条件における加熱時間よりも長い、
製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の製造方法であって、さらに、
前記第2の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直上方を向くように反転させる第2の反転工程と、
前記第2の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直上方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第3の加熱処理条件で第3の加熱処理を施す第3の加熱処理工程と、
前記第3の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させる第3の反転工程と、
前記第3の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直下方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第4の加熱処理条件で第4の加熱処理を施す第4の加熱処理工程と、
を備える製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法であって、
前記第1の加熱処理条件と、前記第2の加熱処理条件と、前記第3の加熱処理条件と、前記第4の加熱処理条件とのうちの少なくとも1つは、該少なくとも1つの以外の他の加熱処理条件のうちの少なくとも1つと異なる、
製造方法。
【請求項7】
燃料電池に用いられるガス拡散層を製造する製造装置であって、
カーボン繊維からなるガス拡散層基材であって、一方の面に、カーボン粒子と、熱可塑性樹脂からなる樹脂粒子とを含むペーストが塗工された前記ガス拡散層基材に対して、前記ペーストの塗工面を鉛直上方に向けた状態で、第1の加熱処理条件で第1の加熱処理を施す第1の加熱処理部と、
前記第1の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させる第1の反転部と、
前記第1の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直下方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第2の加熱処理条件で第2の加熱処理を施す第2の加熱処理部と、
前記各部を制御する制御部と、
を備える製造装置。
【請求項8】
請求項7記載の製造装置であって、
前記第1の加熱処理部と、前記第2の加熱処理部とは、鉛直方向に積み重ねるように配置されており、
前記第1の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、第1の方向に搬送する第1の搬送機構を備えており、
前記第2の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、前記第1の方向に対向する第2の方向に搬送する第2の搬送機構を備えており、
前記第1の反転部は、前記第1の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、前記第2の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とを接続するように配置されている、
製造装置。
【請求項9】
請求項7または8記載の製造装置であって、
前記制御部は、前記第1の加熱処理条件、および、前記第2の加熱処理条件が、互いに異なるように、前記第1の加熱処理部、および、前記第2の加熱処理部を制御する、
製造装置。
【請求項10】
請求項9記載の製造装置であって、
前記第1の加熱処理条件における加熱時間と、前記第2の加熱処理条件における加熱時間とは、ほぼ同じであり、
前記第2の加熱処理条件における加熱温度は、前記第1の加熱処理条件における加熱温度よりも高い、
製造装置。
【請求項11】
請求項9記載の製造装置であって、
前記第1の加熱処理条件における加熱温度と、前記第2の加熱処理条件における加熱温度とは、ほぼ同じであり、
前記第2の加熱処理条件における加熱時間は、前記第1の加熱処理条件における加熱時間よりも長い、
製造装置。
【請求項12】
請求項7または8記載の製造装置であって、さらに、
前記第2の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直上方を向くように反転させる第2の反転部と、
前記第2の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直上方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第3の加熱処理条件で第3の加熱処理を施す第3の加熱処理部と、
前記第3の加熱処理が施された前記ガス拡散層基材を、前記ペーストの塗工面が鉛直下方を向くように反転させる第3の反転部と、
前記第3の加熱処理が施され、前記ペーストの塗工面が鉛直下方に向けられた前記ガス拡散層基材に対して、第4の加熱処理条件で第4の加熱処理を施す第4の加熱処理部と、
を備え、
前記制御部は、さらに、前記第2の反転部と、前記第3の加熱処理部と、前記第3の反転部と、前記第4の加熱処理部とを制御する、
製造装置。
【請求項13】
請求項12記載の製造装置であって、
前記第1の加熱処理部と、前記第2の加熱処理部と、前記第3の加熱処理部と、前記第4の加熱処理部とは、この順に、鉛直方向に積み重ねるように配置されており、
前記第1の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、第1の方向に搬送する第1の搬送機構を備えており、
前記第2の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、前記第1の方向に対向する第2の方向に搬送する第2の搬送機構を備えており、
前記第3の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、前記第1の方向に搬送する第3の搬送機構を備えており、
前記第4の加熱処理部は、前記ガス拡散層基材を、前記第2の方向に搬送する第4の搬送機構を備えており、
前記第1の反転部は、前記第1の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、前記第2の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とを接続するように配置されており、
前記第2の反転部は、前記第2の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、前記第3の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とを接続するように配置されており、
前記第3の反転部は、前記第3の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての終端部と、前記第3の搬送機構における前記ガス拡散層基材の搬送方向についての始端部とを接続するように配置されている、
製造装置。
【請求項14】
請求項12または13記載の製造装置であって、
前記制御部は、前記第1の加熱処理条件と、前記第2の加熱処理条件と、前記第3の加熱処理条件と、前記第4の加熱処理条件とのうちの少なくとも1つが、該少なくとも1つの以外の他の加熱処理条件のうちの少なくとも1つと異なるように、前記第1の加熱処理部と、前記第2の加熱処理部と、前記第3の加熱処理部と、前記第4の加熱処理部とを制御する、
製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−258395(P2011−258395A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131578(P2010−131578)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】