説明

燃料電池ガス拡散層

【課題】燃料電池の製造に有用であるガス拡散層を提供する。
【解決手段】1ミクロン以下の厚さを有する親水性表面層、および、その下に、少なくとも5ミクロンの厚さを有するフルオロポリマーを含んでなる疎水性の第2の層を含んでなる燃料電池ガス拡散層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の製造に有用であるガス拡散層に関する。本発明によるガス拡散層は、より厚い疎水性の第2の層に覆い被さる薄い(サブミクロン)親水性表面層を含んでなる。プラズマ処理を使用するガス拡散層の製造方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
国際公開第99/05358号パンフレットは、その称するところによれば、プラズマ処理をかけた合成繊糸または繊維を含んでなる工業用ファブリックを開示している。この引用文献では、酸素、空気、またはアンモニアを含むプラズマを使用することによって親水性が強化されることが主張されている。この引用文献は、シラン、シロキサン、またはペルフルオロカーボンを含むプラズマを使用することによって疎水性が強化される旨の開示を主張する。
【0003】
欧州特許第0 479 592 B1号明細書は、その称するところによれば、大気圧グロープラズマを用いた処理を含めて、接着性の改善のために、フッ素プラスチック樹脂シートを含むフルオロケミカル構成要素の表面処理方法を開示している。
【0004】
米国特許第5,041,304号明細書は、その称するところによれば、大気圧下でフッ素化物を含むガスを用いて、物品の表面をグロー放電プラズマ処理にかけて、それによって物品の表面エネルギーを低下させ、それにより物品表面に撥水性を付与できる、物品の表面処理方法を開示している。
【0005】
特開昭59−217951号公報は、その称するところによれば、アルゴンプラズマを用いて、または、窒素もしくは他の不活性ガスプラズマを使用して処理した電極基板を含む電極を有する燃料電池を開示している。
【0006】
欧州特許出願公開第1 117 142 A1号明細書は、その称するところによれば、撥水特性を有するガス拡散層を含み得る燃料電池を開示している。この引用文献では、ある種のフッ素化シラン化合物を用いて処理することによって撥水性を与え得ることが主張されている。この引用文献では、プラズマ処理によってヒドロキシル基をガス拡散層に加えて、フッ素化シラン化合物の結合部位としての機能を果たし得ることが主張されている。
【0007】
欧州特許第0 492 649 B1号明細書は、その称するところによれば、織物材料基板の特性を改質する方法を開示しており、それは縫糸とすることができ、その方法は、不活性ガス、あるいは、O2、N2O、O3、CO2、NH3、SO2、SiCl4、CCl4、CF3Cl、CF4、CO、ヘキサメチルジシロキサン、および/またはH2から選択される反応性ガスを用いた低温プラズマ処理を含むことができる。
【0008】
米国特許第5,041,304号明細書は、その称するところによれば、低圧ガスプラズマプロセスを開示しており、この場合、少量の水蒸気が、プラズマを構成する一次ガスに加えられる。
【0009】
米国特許第5,948,166号明細書は、移動する基板上に炭素リッチ被覆を堆積させる方法および装置を開示しており、それには、炭素リッチプラズマが使用される。
【0010】
米国特許出願第09/997,082号明細書は、燃料電池ガス拡散層などの疎水性炭素繊維構造体を製造する方法を開示しており、この方法は、a)高度フッ素化ポリマー、通常過フッ素化ポリマーの水性分散液中に、炭素繊維構造体を浸漬するステップ、b)分散液を対向電極に接触させるステップ、および、c)炭素繊維構造体と対向電極の間に電流を印加することによって、炭素繊維構造体上に高度フッ素化ポリマーを電気泳動で堆積させるステップを含んでなる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
簡潔に述べると、本発明は、1ミクロン以下の厚さを有する親水性表面層、および、その下に、少なくとも5ミクロンの厚さを有するフルオロポリマーを含んでなる疎水性の第2の層を含んでなる燃料電池ガス拡散層を提供する。疎水性の第2の層は、分散した炭素粒子およびフルオロポリマーを含んでなることができる。この燃料電池ガス拡散層は、第2の層の下にある第3の支持層、通常はフルオロポリマーで被覆された炭素繊維構造体をさらに含んでなることができる。あるいは、疎水性の第2の層は、フルオロポリマーで被覆された炭素繊維構造体を含んでなることができる。親水性表面層は、Siまたは金属を含む官能基を含んでなることができる。親水性表面層は、O、N、またはSをさらに含む官能基を含んでなることができる。本発明はまた、上記したような燃料電池ガス拡散層を含んでなるロール織物を提供する。本発明はまた、上記したような燃料電池ガス拡散層を提供し、この場合、親水性表面層が、マスクワークパターンによって、疎水性の第2の層の全てより小さくされてその上に存在する。
【0012】
別の態様では、本発明は、燃料電池ガス拡散層の製造方法を提供し、この方法は、a)炭素繊維構造体を提供するステップ、b)炭素繊維構造体の少なくとも上部表面を、フルオロポリマーを含んでなる組成物で被覆するステップ、および、c)1ミクロン以下の厚さを有する親水性表面層を生成するように、上部表面を少なくとも1種のプラズマに暴露するステップ、を含んでなる。プラズマは、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、二酸化硫黄、シラン、シロキサン、および有機金属化合物を含む化学種からなることができる。少なくとも1種のプラズマへの上部表面の曝露は、1ステップ、2ステップ、またはそれ以上のステップで行うことができる。少なくとも1種のプラズマへの上部表面の曝露は、前記上部表面を、シラン(SiH4)、酸素、および他の化学種が実質的に皆無のプラズマに暴露することを含んでなることができる。あるいは、少なくとも1種のプラズマへの上部表面の曝露は、第1のプラズマへの上部表面の暴露、および、第2のプラズマへの上部表面の暴露を含んでなることができる。通常、第1のプラズマは、シラン、シロキサン、および有機金属化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種からなり、第2のプラズマは、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、および二酸化硫黄よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種からなる。加えて、第1のプラズマは、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、および二酸化硫黄よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種をさらに含むことができる。第1のプラズマは、より典型的にはシラン、最も典型的にはテトラメチルシラン、および酸素を含む化学種からなり、第2のプラズマは、酸素を含む化学種からなる。通常、上部表面を少なくとも1種のプラズマに暴露するステップは、大気圧より低い圧力で行われる。本発明はまた、親水性表面層がパターンに従って塗布されるように、上部表面を、パターンに従う窓を有するマスクで部分的に覆うステップを追加的に含んでなる方法を提供する。本発明はまた、炭素繊維構造体がロール織物として提供され、前記上部表面を少なくとも1種のプラズマに暴露するステップが、連続式ロールツーロール法で行われる方法を提供する。
【0013】
当技術分野において説明されたことがなく、本発明によって提供されるものは、主として、燃料電池触媒の強力で均一な結合のための親水性表面層を含んでなる疎水性燃料電池ガス拡散層である。
【0014】
本願では、「高度フッ素化」は、40wt%以上、しかし典型的には50wt%以上、より典型的には60wt%以上の量でフッ素を含んでいることを意味し、過フッ素化も含む。
【0015】
疎水性を有し、それでもなおその上部表面に触媒を強力にかつ均一に結合できる燃料電池ガス拡散層を提供することが本発明の利点である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による燃料電池ガス拡散層は、燃料電池に用いる膜電極組立体(MEA)の製造に使用できる。MEAは、水素燃料電池などのプロトン交換膜燃料電池の中心的な構成要素である。燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化体との触媒反応に預かる化合によって有用な電気を発生する電気化学電池である。代表的MEAは、高分子電解質膜(PEM)(イオン伝導性膜(ICM)としても知られる)を含んでなり、それは、固体電解質として機能する。PEMの一面はアノード電極層と接触しており、反対側の面はカソード電極層と接触している。各電極層は、電気化学触媒を含み、典型的には白金金属を含む。ガス拡散層(GDL)は、アノードおよびカソード電極材料への、並びにそこからのガス輸送および電流の通電を助ける。アノードおよびカソード電極層は、触媒インクの形でGDLに塗布でき、得られた被覆GDLは、PEMでサンドイッチ状にされ、5層MEAが形成される。5層MEAの5つの層は、順番に、アノードGDL、アノード電極層、PEM、カソード電極層、およびカソードGDLである。典型的なPEM燃料電池では、アノードでの水素酸化を介してプロトンが形成され、PEM両端間をカソードまで輸送され、酸素と反応し、電極に接続している外部回路に電流が流れるのを引き起こす。GDLは、流体輸送層(FTL)またはディフューザ/集電極(DCC)と呼ばれることもある。
【0017】
各電極の触媒部位において、電気伝導の経路、並びに、水素、酸素、および水などの反応物および生成物流体用の流路の両方を提供するのが、GDLである。一般に、電極の触媒部位から離れる生成水の輸送を改善し、「フラッディング」を防止するために、疎水性GDL材料が好ましい。本出願人は、GDLの上部表面に非常に薄い親水性層を追加すると、触媒結合の改善された均一性および強度を提供できて、改善された燃料電池性能が得られることを見出した。
【0018】
本発明の実施において、任意の適切なGDL材料を使用できる。一般に、GDLは、炭素繊維を含んでなるシートまたはロール織物材料を含んでなる。一般に、GDLは、織および不織の炭素繊維構造体から選択される炭素繊維構造体である。本発明の実施において有用な可能性がある炭素繊維構造体としては、東レ(Toray)(登録商標)炭素ペーパー、スペクトラカーブ(SpectraCarb)(登録商標)炭素ペーパー、ゾルテック(Zoltek)(登録商標)炭素布、アブカーブ(AvCarb)(登録商標)P50炭素繊維ペーパー等を挙げることができる。一般に、GDLは、フルオロポリマー、典型的にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の分散液などの疎水化処理液で、被覆または含浸される。加えて、上部表面は、炭素粒子およびフルオロポリマーの分散液を用いて、典型的には5ミクロンを超える厚さまで、最も典型的には10〜30ミクロンの厚さまで被覆することによって仕上げることができる。
【0019】
本発明によるGDLは、1ミクロン以下、典型的には0.5ミクロン以下の厚さを有する親水性表面層を含んでなる。親水性表面層は、フルオロポリマーを含んでなり、少なくとも5ミクロン、より典型的には少なくとも25ミクロンの厚さを有する疎水性の第2の層の上に重ね合わさる。一般に、疎水性の第2の層は、少なくとも0.5wt%、より典型的には少なくとも1wt%、より典型的には少なくとも10wt%のフルオロポリマーを含んでなる。疎水性の第2の層は、フルオロポリマーで処理された炭素繊維構造体それ自体を含んでなることができ、それは、最高150ミクロン以上までの厚さとすることができる。あるいは、疎水性の第2の層は、分散された炭素粒子およびフルオロポリマーの仕上げ層を含んでなることができ、一般に第3の支持層の上に重ね合わさり、第3の支持層は、一般にフルオロポリマーで処理された炭素繊維構造体である。上記したフルオロポリマーは高度フッ素化ポリマーであり、一般には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、ペルフルオロアルキルアクリレート、ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン三元重合体等などの過フッ素化ポリマーである。最も典型的にはフルオロポリマーはPTFEである。
【0020】
親水性表面層は、Siまたは金属を含む官能基を含んでなることができる。より典型的には、親水性表面層は、Siを含む官能基を含んでなる。親水性表面層は、O、N、またはSを追加的に含む官能基を含んでなることができる。一般に、官能基は、シラン(SiH4)、テトラメチルシラン、およびアルキル基が種々雑多であるかもしくは同じであるテトラアルキルシランを含めたシラン類、シロキサン、並びに、アルミニウム三塩化物などのアルミニウム化合物、ジルコニウムt−ブトキシドなどのジルコニウム化合物、四塩化チタンなどのチタン化合物、銅ヘキサフルオロアセチルアセトネート(CuHFAC)などの銅化合物、およびテトラメチルスズなどのスズ化合物を含めた有機金属化合物のイオン化生成物から誘導される。官能基は、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、および二酸化硫黄のイオン化生成物から追加的に誘導することができる。
【0021】
本発明によるGDLは、シート状で、ロール織物として、または任意の適切な形態で提供され得る。本発明によるGDLは、親水性表面層が、マスクワークパターンによって、疎水性の第2の層の全てより小さくされてその上に存在するように、パターン化し得る。任意の適切なパターンを使用できる。
【0022】
本発明によるGDLは、任意の適切な手段によって製造できる。一般に、本発明によるGDLは、プラズマ処理を使用する方法、例えば以下に記載する方法によって製造される。
【0023】
本発明は、燃料電池ガス拡散層の製造方法を提供し、この方法は、a)炭素繊維構造体を提供するステップ、b)炭素繊維構造体の少なくとも上部表面を、フルオロポリマーを含んでなる組成物で被覆するステップ、および、c)1ミクロン以下の厚さを有する親水性表面層を生成するように、上部表面を少なくとも1種のプラズマに暴露するステップ、を含んでなる。本発明の実施において、任意の適切な炭素繊維構造体を使用できる。例示的な炭素繊維構造体は上記した。一般に、炭素繊維構造体は、30〜300ミクロン、より典型的には100〜250ミクロン、最も典型的には150〜200ミクロンの平均厚さを有する。
【0024】
炭素繊維構造体は、手動および機械的方法を含む任意の適切な手段によって被覆でき、これには、浸漬、吹付け塗り、ブラッシング、ノッチバー被覆、流体保持ダイ被覆、巻線ロッド被覆、流体保持被覆、スロットフェッド(slot−fed)ナイフ被覆、または3−ロール被覆が含まれる。あるいは、米国特許出願第09/997,082号明細書に記載されているような電気泳動塗布も使用できる。被覆は、1回の塗布または多数回の塗布で達成することができる。
【0025】
フルオロポリマーを含んでなる任意の適切な組成物を使用できる。この組成物は、一般に、キャリアを含んでなり、それは任意の適切なキャリアでよく、それは有機質または無機質溶剤を含んでもよく、それは一般に水溶性のものである。フルオロポリマーは高度フッ素化ポリマーであり、一般に過フッ素化ポリマーであり、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、ペルフルオロアルキルアクリレート、ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン三元重合体等である。最も典型的には、フルオロポリマーはPTFEである。適切な組成物としては、テフロン(登録商標)(Teflon)(登録商標)PTFE 30Bコロイド懸濁液(デュポン(DuPont)フルオロプロダクツ(Fluoroproducts)、ウィルミントン(Wilmington)、デラウェア州)が挙げられ、それは、脱イオン水を用いて1%まで希釈できる。
【0026】
最も典型的には、炭素繊維構造体は、水中PTFEの分散液への浸漬によって全体にわたり被覆され、次いで、上塗りが、ノッチバー被覆によって上部表面に塗布され、上塗りは、炭素粒子、すなわち水中のPTFEおよび炭素粒子の分散液を含んでなる。
【0027】
任意の適切なプラズマ処理装置を使用できる。一般に、装置は、処理するために炭素繊維構造体を含むことができて、かつ大気圧より低い圧力を維持できるハウジング、ハウジングの真空排気用および適切な圧力でのプラズマガス供給用の装置、並びに、適切な電力源を有するプラズマ発生用電極を含む。ロール織物のプラズマ処理用に適切な装置は、米国特許第5,948,166号明細書に開示されている。一般に、上部表面を少なくとも1種のプラズマに暴露するステップは、大気圧より低い圧力、一般に10〜1,000ミリトール、より典型的には50〜500ミリトール、最も典型的には約150ミリトールで行われる。一般に、上部表面を少なくとも1種のプラズマに暴露するステップは、室温で行われる。一般に、上部表面を少なくとも1種のプラズマに暴露するステップは、100〜500ワット、より典型的には200〜400ワット、最も典型的には約300ワットの電力を印加することによって行われる。
【0028】
プラズマは、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、二酸化硫黄、シラン(SiH4)、テトラメチルシラン、およびアルキル基が種々雑多であるかもしくは同じであるテトラアルキルシランを含めたシラン類、シロキサン、並びに、アルミニウム三塩化物などのアルミニウム化合物、ジルコニウムt−ブトキシドなどのジルコニウム化合物、四塩化チタンなどのチタン化合物、銅ヘキサフルオロアセチルアセトネート(CuHFAC)などの銅化合物、およびテトラメチルスズなどのスズ化合物を含めた有機金属化合物を含む化学種からなることができる。プラズマ処理の際、不活性ガスが追加的に存在できる。少なくとも1種のプラズマへの上部表面の曝露は、1ステップ、2ステップ、またはそれ以上のステップで行うことができる。
【0029】
一実施形態では、単一のプラズマ処理ステップを含み、上部表面は、シラン(SiH4)、酸素、および他の化学種が実質的に皆無のプラズマに暴露される。曝露の電力および所要時間は、1ミクロン以下の厚さを有する親水性表面層が提供されるように調節される。
【0030】
別の実施形態では、上部表面は第1のプラズマ、次に第2のプラズマに暴露される。一般に、第1のプラズマは、シラン、シロキサン、および有機金属化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種からなり、第2のプラズマは、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、および二酸化硫黄よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種からなる。加えて、第1のプラズマは、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、および二酸化硫黄よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種を追加的に含むことができる。より典型的には、第1のプラズマは、シラン、最も典型的にはテトラメチルシランと酸素を含む化学種からなり、第2のプラズマは、酸素を含む化学種からなる。曝露の電力および所要時間は、1ミクロン以下の厚さを有する親水性表面層が提供されるように調節される。
【0031】
本発明はまた、親水性表面層がパターンに従って塗布されるように、上部表面を、パターンに従う窓を有するマスクで部分的に覆うステップを追加的に含んでなる方法を提供する。マスクは、アルミニウムなどの金属およびポリエステルなどのポリマー等を含めて、任意の適切な材料から製造できる。プラズマ処理したGDLは、その後、触媒含有組成物またはインクで被覆される。その後、結合していない触媒は、例えば洗浄によって除去でき、回収される。本方法では、GDLの非活性領域に触媒を不必要に使用することをなくすことによって、高価な触媒がより効率よく使用されることになる。
【0032】
あるいは、炭素繊維構造体を、ロール織物として提供でき、前記上部表面を少なくとも1種のプラズマに暴露するステップは、連続式ロールツーロール法で行われる。ロール織物のプラズマ処理に適切な装置は、米国特許第5,948,166号明細書に開示されている。そこに記載されている装置は、GDL製造に適するより幅広いドラム(17cm)を備えることによって適合させることができる。
【0033】
あるいは、ロール織物のマスキング方法が一緒に使用できる。一実施形態では、ロール長さのマスクが提供され、本発明は、燃料電池の製造に有用である。
【0034】
本発明の目的および利点は、以下の実施例によってさらに例示されるが、しかし、この実施例で詳述される特定の材料およびその量、並びに、他の条件および詳細は、本発明を不当に限定するように解釈すべきではない。
【実施例】
【0035】
特に明記しない限り、全ての試薬は、アルドリッチケミカル社(Aldrich Chemical Co.)(ミルウォーキー(Milwaukee)、ウィスコンシン州)から入手し、または市販されており、あるいは、周知の方法によって合成することができる。
【0036】
プラズマ反応器
市販の平行平板型容量結合反応のイオンエッチャー(フロリダ州セントピーターズバーグ(St.Petersburg)のプラズマサーム(PlasmaTherm)からモデル2480として商業的に入手可能である)を、GDL試料のプラズマ処理に使用した。試料が電極のすぐ近くにあるイオンシース(sheath)の中にある間に、処理が行なわれた。反応器は、電力を供給される電極を含む接地されたチャンバ電極を含んでいた。チャンバは、形状が円筒状で、762mm(30インチ)の内径、150mm(6インチ)の高さを有していた。686mm(27インチ)の直径を有する円形電極をチャンバ内に載置し、マッチングネットワーク、および、13.56MHzの周波数で動作する3kWのRF電力供給装置に取付けた。機械式ポンプによってバックアップされたルーツ式ブロワを用いて、チャンバを真空排気した。特に明記しない限り、チャンバのベース圧力は、0.67Pa(5ミリトール)であった。プロセスガスは、質量流量制御装置またはニードルバルブのいずれかによってチャンバの中に計量した。全てのプラズマ処理は、試料を、プラズマ反応器の電力を供給される電極上に配置して行った。チャンバの圧力は、ポンプの前の絞り弁および制御装置を用いて独立して制御した。
【0037】
実施例1:3ステッププロセス
この実施例では、3つの独立したステップでGDLのプラズマ処理を行った。第1のステップにおいて、酸素プラズマで膜を下塗りして、第2のステップにおいてテトラメチルシランと酸素の混合物から堆積されるシリコン含有層の良好な接着を可能にした。最後の第3のステップを使用して、テトラメチルシランを堆積した後に残る疎水性メチル基を、表面を親水性にするオキサイドまたはヒドロキシル基に転化した。
【0038】
GDL材料(東レ(登録商標)炭素ペーパー)を、アルミニウム反応器のチャンバ内に固定し、装置を密封した。150ミリトールの圧力までチャンバを排気し、500sccm(毎分標準立方センチメートル)の流速で酸素を導入し、300ワットの電力でプラズマを発生させた。運転は室温で行った。第1のステップにおけるプラズマ発生の持続時間は10秒であった。第2のステップでは、酸素とテトラメチルシランをそれぞれ500sccm、50sccmの流速で導入した。第2のステップにおけるプラズマ発生の持続時間は20秒であった。第3のステップでは、酸素ガスを、この場合も500sccmの流速で導入した。第3のステップにおけるプラズマ発生の持続時間は30秒であった。
【0039】
実施例2:1ステッププロセス
前駆体としてメチル基を含まないシラン(SiH4)を選択することによって、親水化処理を単一ステップで達成した。
【0040】
実施例1に上記したのと同じ装置を使用した。
【0041】
GDL材料(ゾルテック(登録商標)炭素布)をアルミニウム反応器のチャンバ内に固定し、装置を密封した。150ミリトールの圧力までチャンバを排気した。アルゴン中に2%のシランを含む予め混合したガスを、やはり500sccmの流速の酸素と共に、500sccmの流速で導入した。300ワットの電力でプラズマを発生させた。運転は室温で行った。第1のステップにおけるプラズマ発生の持続時間は30秒であった。
【0042】
実施例3:パターン化した表面処理
GDL材料(アブカーブ(登録商標)P50炭素繊維ペーパー)をアルミニウム反応器のチャンバ内に固定し、正方形の切抜きを含む厚さ1/4インチのアルミニウムプレートで覆った。装置を密封した。150ミリトールの圧力までチャンバを排気した。アルゴン中に2%のシランを含む予め混合したガスを、やはり500sccmの流速の酸素と共に、500sccmの流速で導入した。300ワットの電力でプラズマを発生させた。運転は室温で行った。第1のステップにおけるプラズマ発生の持続時間は30秒であった。
【0043】
得られたGDLは、正方形の切抜きに対応する領域だけ親水性の被覆を有していた。
【0044】
実施例4:パターン化した表面処理を有する連続式表面処理
米国特許第5,948,166号明細書に記載されている連続式表面処理用の装置に、幅16.5cm(6.5インチ)を有するより大きい処理ドラムを取り付け、本実施例において使用した。
【0045】
GDL材料(アブカーブ(登録商標)P50炭素繊維ペーパー)のロールを、装置内に載置した。その中に切抜きされた窓を有するポリエステルのマスクを、ドラム電極の回りに巻きつけた。装置を密封した。150ミリトールの圧力までチャンバを排気した。酸素中に2%のシランを含む予め混合したガスを、やはり500sccmの流速の酸素と共に、500sccmの流速で導入した。500ワットの電力でプラズマを発生させた。運転は室温で行った。ウェブ速度は、約30秒の処理時間に対応する10フィート/分に維持した。
【0046】
処理したGDLの親水性は、処理した表面に沿って点滴器から水を加えることによって確認した。水はうまくウェットアウトし、処理した表面に沿って痕跡を形成し、非処理の表面上に濡れることなく、玉になった。
【0047】
実施例5
実施例4に記載したように処理したGDLから、MEAを製造した。このMEAは、比較用GDLから製造したMEAに比べて改善された性能を示した。
【0048】
本発明の様々な修正形態および変更形態は、本発明の範囲および諸原理から逸脱することなく、当業者には明白になるだろう。本発明が上述した例示的な実施形態に不当に限定されないことが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1ミクロン以下の厚さを有する親水性表面層、および、その下に、少なくとも5ミクロンの厚さを有するフルオロポリマーを含んでなる疎水性の第2の層を含んでなる燃料電池ガス拡散層。
【請求項2】
前記親水性表面層が、Siを含む官能基を含んでなる、請求項1に記載の燃料電池ガス拡散層。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池ガス拡散層を含んでなるロール織物。
【請求項4】
a)上部表面を有する炭素繊維構造体を提供するステップ、
b)前記炭素繊維構造体の少なくとも前記上部表面を、フルオロポリマーを含んでなる組成物で被覆するステップ、
c)1ミクロン以下の厚さを有する親水性表面層を生成するように、前記上部表面を少なくとも1種のプラズマに暴露するステップ、
を含んでなる燃料電池ガス拡散層の製造方法。
【請求項5】
前記ステップc)が、
d)前記上部表面を第1のプラズマに暴露するステップ、および、
e)前記上部表面を第2のプラズマに暴露するステップ、
を含んでなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマが、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、および二酸化硫黄よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種からなる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記プラズマが、追加的に、シラン、シロキサン、および有機金属化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種からなる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のプラズマが、シラン、シロキサン、および有機金属化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種からなり、前記第2のプラズマが、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、および二酸化硫黄よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のプラズマが、追加的に、酸素、窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、アンモニア、および二酸化硫黄よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化学種からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のプラズマが、シランおよび酸素を含む化学種からなり、前記第2のプラズマが、酸素を含む化学種からなる、請求項5に記載の方法。

【公開番号】特開2012−212686(P2012−212686A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−151186(P2012−151186)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2006−526924(P2006−526924)の分割
【原出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】