説明

燃料電池システムおよび電子機器

【課題】気化燃料の過剰供給あるいは供給不足を避けることができ、高出力で安定した発電を行うことができる燃料電池システムおよびこれを用いた電子機器を提供する。
【解決手段】気化室30A内に、気化室30Aに供給された液体燃料に発電部10で発生した熱を伝える伝熱部として、突起41を設ける。突起41の先端と、内側部材31の内壁面との間には隙間Gを設け、この隙間Gにおいて、燃料供給経路24の先端から供給される液体燃料に効率的に熱を伝えて気化させる。突起41を内側部材31の内壁面に、燃料供給経路24の先端部の近傍に接触させることにより、突起41を介して内側部材31に発電部10の熱を伝え、内側部材31を介して液体燃料に熱を伝えて気化させるようにしてもよい。こうすれば、突起41の位置によって加熱したい領域を限定したり、突起41の大きさによって、液体燃料に伝えられる熱の量を制御することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムおよびこれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、アノード電極(燃料電極)とカソード電極(酸素電極)との間に電解質が配置された構成を有し、アノード電極には燃料、カソード電極には酸化剤がそれぞれ供給される。このとき、燃料が酸化剤によって酸化される酸化還元反応が起こり、燃料がもっていた化学エネルギーが電気エネルギーに変換される。
【0003】
このような燃料電池は、燃料および酸化剤を供給し続けることで継続的に発電可能であり、従来の一次電池または二次電池とは異なる新たな携帯型電子機器用電源として期待されている。すなわち、燃料電池は、燃料と酸化剤との化学反応を利用して発電を行うものでありから、酸化剤として空気中の酸素を用い、燃料を外部から補給し続けることによって、故障しない限り電源として使い続けることが可能である。よって、小型化された燃料電池は、携帯型電子機器に適した充電不要の高エネルギー密度電源となりうる。
【0004】
既に、さまざまな種類の燃料電池が提案または試作され、一部は実用化されている。これらの燃料電池は、用いられる電解質によって大きく特性が変化するので、電解質の種類に基づいて種々に分類されている。これらのうち、プロトン伝導性高分子膜を用いた固体高分子型燃料電池(PEFC;Polymer Electrolyte Fuel Cell )は、電解液が不要であり、30℃〜130℃程度の比較的低い温度で動作するので、小型化が可能で、携帯型電子機器用電源として最適であると考えられている。
【0005】
燃料電池の燃料としては、水素やメタノールなど、種々の材料を用いることができる。その中で、メタノールなどの液体燃料は、気体に比べて密度が高く、貯蔵しやすいので、携帯型電子機器用の燃料電池の燃料として有望視されている。特に、PEFCのアノード電極にメタノールを直接供給して反応させるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC;Direct Methanol Fuel Cell )は、燃料から水素を取り出すための改質器を必要とせず、構成が簡素になり、小型化が容易である。
【0006】
DMFCでは、燃料のメタノールは、アノード電極の触媒層で化1のように二酸化炭素に酸化される。
【0007】
(化1)
アノード電極:CH3 OH+H2 O→CO2 +6H+ +6e-
【0008】
このとき生じた水素イオンは、アノード電極とカソード電極との間に設けられた電解質膜を通ってカソード電極へ移動し、カソード電極の触媒層で化2のように酸素と反応して水を生成する。
【0009】
(化2)
カソード電極:6H+ +(3/2)O2 +6e- +→3H2
【0010】
DMFC全体で起こる反応は、化1および化2を合わせた化3で表される。
【0011】
(化3)
DMFC全体:CH3 OH+(3/2)O2 →CO2 +2H2
【0012】
DMFCのアノード電極へメタノールを供給する方法としては、液体供給型および気体供給型が提案されている。液体供給型は、液体燃料をそのままポンプなどを用いてアノード電極に供給する方法である。その際、DMFCでは、アノード電極での電極反応(化1)によって水が消費されるので、アノード電極にメタノール水溶液を供給し、失われる水を補給する場合が多い。
【0013】
しかしながら、この方式は、メタノールがアノード電極側からカソード電極側へ電解質膜を通り抜けてしまうメタノールクロスオーバーが起こりやすく、メタノールの利用効率が低下してしまい、燃料濃度を下げないと効率よく反応が進まない。燃料濃度を下げるとエネルギー密度が低下するばかりでなく、過剰な水がカソード電極に到達し、フラッディング現象を起こしてしまう。
【0014】
また、この方式では、アノード電極での電極反応(化1)で発生した二酸化炭素がアノード電極に付着し、メタノールのアノード電極への供給を妨げるので、出力の低下または不安定性の原因となっていた。
【0015】
一方、気化供給型は、液相部−気相部間に気液分離膜を設置し、メタノールを気体の状態でアノード電極に供給するものである。この方式では、カソード電極で生成する水(化2)をアノード電極側へ逆拡散させ、カソード電極上での水の滞留を防止し、アノード電極での電極反応(化1)で消費される水を補給することが可能である。よって、高濃度のメタノールを使用可能であると共に、自己加湿によって電解質膜の水分を維持し、電解質膜に高いプロトン伝導性を発揮させることができる。また、アノード電極で発生する二酸化炭素も、気泡にはならず、排出しやすい。
【0016】
気化供給型のDMFCにおいては、性能を最大限発揮させるためには、燃料電池よりなる発電部に対して、発電に十分な量の気化した燃料を連続的かつ均一に供給することが望ましい。液体燃料を気化させるためには、発電部で発生する反応熱を用いることができ、また、気液分離膜を多孔質体とすることにより液体燃料への伝熱を促進することもできる(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2001−15130号公報
【特許文献2】特開2006−221948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1に記載された従来技術では、環境温度の影響、または発電部の発電状態の影響などにより伝熱が過剰となる可能性があった。その場合には、過剰な伝熱により気体燃料が過剰に発電部に供給されてしまい、クロスオーバーが増大したり、発電部の温度が過上昇したりして、発電効率が低下してしまうという問題が生じていた。
【0018】
ちなみに、燃料電池における反応必要量分の燃料を供給することにより、燃料電池の発電効率を上げることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。ただし、この従来技術では、燃料気化部への入熱は、装置からの輻射と気化室内自然対流に依存していたので、燃料気化部または液体燃料への伝熱が不足するおそれがあり、改善の余地があった。
【0019】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、気化燃料の過剰供給あるいは供給不足を避けることができ、高出力で安定した発電を行うことができる燃料電池システムおよびこれを用いた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明による燃料電池システムは、以下の(A)〜(D)の構成要件を備えることにより適切な量の気化燃料を発電部に供給し、高出力化および発電安定化を実現するようにしたものである。
(A) アノード電極およびカソード電極の間に電解質を備えた発電部
(B) 発電部の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料を供給する燃料供給制御部
(C) アノード電極に隣接して配置され、燃料供給制御部からの液体燃料が供給される気化室を有する燃料気化部
(D) 気化室内に形成され、気化室に供給された液体燃料に発電部で発生した熱を伝える伝熱部
【0021】
ここに「化学量論的燃料消費量に基づく量」とは、化学量論的燃料消費量に基づいて算出された量をいい、必ずしも化学量論的燃料消費量と等しくなければならないわけではない。例えば(化学量論的燃料消費量)×1.5程度とすることも可能である。
【0022】
本発明の燃料電池システムでは、燃料供給制御部から、発電部の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料が、アノード電極に隣接して配置された燃料気化部の気化室に供給される。気化室内には伝熱部が形成されているので、この伝熱部により、発電部で発生した熱が液体燃料に伝えられる。よって、過剰な伝熱により気化燃料が過剰に供給されたり、逆に伝熱不足により気化燃料の供給が不足したりすることがなく、適切な量の液体燃料が確実に気化して発電部に供給される。
【0023】
本発明による電子機器は、燃料電池システムを備えたものであって、燃料電池システムが、上記本発明の燃料電池システムにより構成されているものである。
【0024】
本発明の電子機器では、上記本発明による高出力で安定発電可能な燃料電池システムを備えているので、消費電力の増大を伴う多機能化・高性能化にも対応可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の燃料電池システムによれば、燃料供給制御部により、発電部の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料を気化室に供給すると共に、この気化室内に、気化室に供給された液体燃料に発電部で発生した熱を伝える伝熱部を設けるようにしたので、燃料の過剰供給や供給不足などを避けることができる。よって、高い出力を得ると共に発電の安定性を向上させることができ、消費電力の大きな多機能・高性能の電子機器にも好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池システムを有する電子機器の概略構成を表すものである。この電子機器は、例えば、携帯電話,ノート型PC(Personal Computer )等の携帯型電子機器であり、燃料電池システム1と、この燃料電池システム1で発電される電気エネルギーにより駆動される外部回路(負荷)2とを備えている。燃料電池システム1は、例えば、発電部10と、燃料供給制御部20と、燃料気化部30とを有している。
【0028】
図2は、発電部10および燃料気化部30の一例を表したものである。発電部10は、例えば、アノード電極11およびカソード電極12の間に電解質膜13を備えたDMFCである。アノード電極11およびカソード電極12は、カーボンクロス等の表面に、白金(Pt)またはルテニウム(Ru)等を含む触媒層を形成し、裏面にチタン(Ti)メッシュ等の集電体を設けたものである。電解質膜13は、例えば、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸系樹脂(デュポン社製「Nafion(登録商標)」)またはその他のプロトン伝導性を有する樹脂膜により構成されている。アノード電極11,カソード電極12および電解質膜13はガスケット(図示せず)により固定されている。
【0029】
発電部10のカソード電極12の外側には、外装部材14が設けられている。外装部材14は、例えば、厚みが2.0mmであり、チタン(Ti)板または耐酸性金属板などの一般的に購入可能な材料により構成されているが、材料は特に限定されない。なお、外装部材14には、空気すなわち酸素を通過させる貫通孔が設けられており、この貫通孔を介してカソード電極12に空気すなわち酸素が供給されるようになっている。
【0030】
図1に示した燃料供給制御部20は、発電部10の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料を供給するものであり、例えば、燃料タンク21と、燃料ポンプ22と、制御部23と、燃料供給経路24とを備えている。制御部23は、発電部10の発電状態を制御し、同時に燃料ポンプ22の燃料供給量を制御するものである。
【0031】
図2に示した燃料気化部30は、発電部10のアノード電極11に隣接して配置され、燃料供給制御部20からの液体燃料が供給される気化室30Aを有している。詳細には、燃料気化部30は、アノード電極11に接して配置された内側部材31と、内側部材31に対向配置された外側部材32とを有しており、これら内側部材31と外側部材32とで囲まれた内部空間が、気化室30Aとなっている。気化室30Aの高さDは、例えば1mm以内、具体的には0.5mm程度である。
【0032】
内側部材31および外側部材32は、例えば、ステンレス鋼,アルミニウム(Al)あるいはチタン(Ti)など、熱伝導性が高く、耐腐食性に優れた材料により構成されている。内側部材31には、気化した燃料を通過させる貫通孔が設けられている。気化室30Aは、フッ素系ゴムまたはシリコーンゴム等のシール剤33により外部とはシールされている。シール剤33は予め外側部材32と一体構造とされていてもよいし、外側部材32とは別の部材であってもよい。
【0033】
なお、図2では、内側部材31が平板状であり、外側部材32が気化室30Aの五面(図2の断面図ではそのうち三面を示している。)を囲む凹構造とされている場合を表しているが、外側部材32は、必ずしも一体の凹構造である必要はなく、平板状の部材に枠を組み付けることにより凹構造を形成したものであってもよい。
【0034】
気化室30A内には、気化室30Aに供給された液体燃料に発電部10で発生した熱を伝える伝熱部として、突起41が設けられている。これにより、この燃料電池システム1では、気化燃料の過剰供給あるいは供給不足を回避し、高出力で安定した発電を行うことができるようになっている。
【0035】
突起41は、外側部材32の内壁面から内側部材31の内壁面に向けて形成されており、突起41内に燃料供給経路24の先端部が形成されている。突起41の先端と、内側部材31の内壁面との間には隙間Gが設けられており、この隙間Gにおいて、燃料供給経路24の先端から供給される液体燃料に効率的に熱を伝えて気化させることができるようになっている。隙間Gは、例えば、1mm以内、具体的には0.5mm程度とすることが望ましい。より高い効果が得られるからである。
【0036】
このように気化室30A内の一部に突起41を設けることには、気化室30Aの高さDそのものを小さくするのに比べて、気化による燃料の体積増加を吸収することができるという利点もある。
【0037】
なお、突起41は、図3に示したように、内側部材31の内壁面から外側部材32の内壁面に向けて形成されていてもよい。この場合、突起41の先端は、燃料供給経路24の先端の開口に正対するように配置されていることが望ましい。また、突起41の先端と、内側部材31の内壁面との間には、図2と同様に、隙間Gが設けられていることが望ましい。これにより、隙間Gにおいて、燃料供給経路24の先端から供給される液体燃料に効率的に熱を伝えて気化させることができるからである。隙間Gは、図2と同様に、例えば、1mm以内、具体的には0.5mm程度とすることが望ましい。
【0038】
この燃料電池システム1は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0039】
まず、上述した材料よりなる電解質膜13を、上述した材料よりなるアノード電極11およびカソード電極12の間に挟んで熱圧着することにより、電解質膜13にアノード電極11およびカソード電極12を接合し、発電部10を形成する。カソード電極12の外側には、上述した材料よりなる外装部材14を配置する。
【0040】
次いで、上述した材料よりなる内側部材31および外側部材32を用意し、内側部材31または外側部材32のいずれかに、図2または図3に示したような突起41を形成する。この内側部材31および外側部材32を組み合わせてシール剤33で封止することにより、気化室30Aを有する燃料気化部30を形成すると共に、気化室30A内に突起41を形成する。この燃料気化部30を、アノード電極11に隣接して配置する。
【0041】
次いで、発電部10および燃料気化部30を、上述した燃料タンク21,燃料ポンプ22,制御部23および燃料供給経路24よりなる燃料供給制御部20と、外部回路2とを有するシステムに組み込み、燃料供給経路24の先端部を気化室30Aに接続する。以上により、図1に示した電池システム1が完成する。
【0042】
この燃料電池システム1では、アノード電極11に燃料であるメタノールが供給され、反応によりプロトンと電子とを生成する。プロトンは電解質膜13を通ってカソード電極12に移動し、電子および酸素と反応して水を生成する。アノード電極11、カソード電極12および発電部10全体で起こる反応は、化4で表される。これにより、燃料であるメタノールの化学エネルギーが電気エネルギーに変換されて、発電部10から電流が取り出され、外部回路2が駆動される。
【0043】
(化4)
アノード電極10:CH3 OH+H2 O→CO2 +6H+ +6e-
カソード電極20:6H+ +(3/2)O2 +6e- →3H2
発電部10全体:CH3 OH+(3/2)O2 →CO2 +2H2
【0044】
発電部10の運転中には、制御部23により発電部10の動作電圧および動作電流が測定され、その測定結果に基づいて、発電部10の発電量と、それに応じた化学量論的燃料消費量に基づく燃料供給量が算出される。制御部23は燃料ポンプ22を制御し、燃料タンク21から、発電部10の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料を、燃料供給経路24を介して、気化室30Aに供給する。よって、環境温度の影響または発電部10の発電状態の影響などにより伝熱が過剰になっても、気化燃料が過剰に供給されてしまうおそれはなくなる。従って、燃料過剰によるクロスオーバーが抑制され、発電部10の温度が過上昇することなく、発電効率の低下が抑えられる。
【0045】
また、気化室30A内には伝熱部として突起41が形成されているので、この突起41により、発電部10で発生した熱が液体燃料に伝えられ、気化する。よって、伝熱不足により気化燃料の供給が不足するおそれがなくなり、適切な量の液体燃料が確実に気化して発電部10に供給される。
【0046】
更に、気化室30Aの温度が上がるので、燃料と水蒸気との分圧が上がり、電極反応に有利な状態が作られ、同時に発電部10から効率的に熱が除去されて、電解質膜13の乾燥による発電出力低下が抑えられる。
【0047】
このように本実施の形態では、燃料供給制御部20により、発電部10の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料を気化室30Aに供給すると共に、この気化室30A内に、気化室30Aに供給された液体燃料に発電部10で発生した熱を伝える伝熱部として突起41を設けるようにしたので、燃料の過剰供給や供給不足などを避けることができる。よって、高い出力を得ると共に発電の安定性を向上させることができ、消費電力の大きな多機能・高性能の電子機器にも好適である。
【0048】
更に、気化室30Aの温度を上げることができるので、燃料と水蒸気との分圧が上がり、電極反応に有利な状態を作ることができ、同時に発電部10から効率的に熱を除去することが可能となるので、電解質膜13の乾燥による発電出力低下を抑えることができる。
【0049】
(第2の実施の形態)
図4および図5は、本発明の第2の実施の形態に係る発電部10および燃料気化部30の構成を表したものである。本実施の形態は、突起41の先端が、図4では外側部材32の内壁面、図5では内側部材31の内壁面に接触していることを除いては、上記実施の形態と同様の構成を有し、同様にして製造することができる。
【0050】
突起41は、外側部材32の内壁面または内側部材31の内壁面に、燃料供給経路24の先端部の近傍に接触している。これにより、本実施の形態では、突起41を介して外側部材32または内側部材31に発電部10の熱を伝え、外側部材32または内側部材31を介して、燃料供給経路24から供給された液体燃料に熱を伝えて気化させることができる。また、突起41の位置によって、外側部材32または内側部材31の加熱したい領域を限定することや、突起41の大きさによって、液体燃料に伝えられる熱の量を制御することも可能である。更に、本実施の形態では、隙間Gの公差の制御が不要となるので、製造工程を容易にすることもできる。
【0051】
(第3の実施の形態)
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る発電部10および燃料気化部30の構成を表したものである。本実施の形態では、外側部材32の内壁面に、気化室30Aに供給された液体燃料を拡散させる拡散シート50が設けられている。これにより、本実施の形態では、燃料供給経路24から供給された液体燃料を、拡散シート50により平面方向に拡散させ、より効率的に、また均一に燃料を気化させることができる。
【0052】
拡散シート50は、例えば、燃料供給経路24の出口または出口の近傍に設置されている。突起41の先端は、拡散シート50に接していてもよいし、拡散シート50との間に隙間Gが設けられていてもよい。
【0053】
(第4の実施の形態)
図7は、本発明の第4の実施の形態に係る発電部10および燃料気化部30の構成を表したものである。本実施の形態では、燃料気化部30は外側部材32のみを有している。すなわち、外側部材32は、気化室30Aを間にしてアノード電極11に対向配置され、突起41の先端はアノード電極11に接触している。これにより、本実施の形態では、内側部材31を省略し、燃料気化部30をより薄型化、小型化することが可能となっている。
【0054】
なお、図8に示したように、突起41の先端とアノード電極11との間に、図2または図3に示したような隙間Gをあけるようにしてもよい。
【0055】
また、図示しないが、本実施の形態においても、第3の実施の形態と同様に、外側部材32の内壁面に拡散シート50を設けるようにしてもよい。
【0056】
(第5の実施の形態)
図9は、本発明の第5の実施の形態に係る発電部10および燃料気化部30の構成を表したものである。本実施の形態では、内側部材31および外側部材32が一体化されており、燃料気化部30をより薄型化、小型化することが可能となっている。
【0057】
なお、図示しないが、本実施の形態においても、第3の実施の形態と同様に、外側部材32の内壁面に拡散シート50を設けるようにしてもよい。
【0058】
(第6の実施の形態)
図10は、本発明の第6の実施の形態に係る発電部10および燃料気化部30の構成を表したものである。本実施の形態では、気化室30A内の一部に、伝熱部として、多孔質体または不織布により構成された拡散伝熱部材42が設けられている。これにより、本実施の形態では、液体燃料と拡散伝熱部材42との接触面積を増やし、液体燃料に熱を伝えやすくして、効率よく気化させることができる。また、拡散伝熱部材42を気化室30A内の一部に設けることにより、気化した燃料の体積増加を吸収するスペースも確保することができる。
【0059】
多孔質体としては、例えばニッケル,ステンレス鋼またはチタンなどの伝熱性の良い金属の発泡体または焼結体が好ましい。あるいは、気化室30Aの高さDを1mm以内、例えば0.5mm程度とした場合には、樹脂などの比較的伝熱性の低い材料の多孔質体でもよい。
【0060】
本実施の形態では、燃料供給経路24から供給された液体燃料は、拡散伝熱部材42内を拡散しながら熱を伝えられて、効率よく気化する。
【0061】
なお、拡散伝熱部材42は、図11に示したように、気化室30A内全体に設けるようにしてもよい。このようにした場合にも、図1に示した燃料供給制御部20により燃料供給量が適切に制御されているので、気化燃料の供給過剰のおそれはないからである。
【0062】
また、図12に示したように、外側部材32の内壁面に拡散シート50を設けるようにしてもよい。拡散シート50により液体燃料の平面方向の拡散を促進することにより、更に効率的に、また均一に燃料を気化させることができる。
【実施例】
【0063】
更に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0064】
図1および図12に示した発電部10、燃料供給制御部20および燃料気化部30を有する燃料電池システム1を作製した。その際、外側部材32の内壁面に拡散シート50を設け、気化室30A内のほぼ全体に、ニッケル発泡体よりなる多孔質体の拡散伝熱部材42を設けた。得られた燃料電池システム1について、時間経過に伴う出力および発電部10の温度の変化を調べた。その結果を図13に示す。このときの平均出力は380mWであった。
【0065】
本実施例に対する比較例1として、燃料供給制御部による燃料供給制御を実施しなかったこと、および、拡散シートおよび拡散伝熱部材を省いたことを除き、本実施例と同様にして燃料電池システムを作製した。この比較例1についても、時間経過に伴う出力および発電部の温度の変化を調べた。その結果を図14に示す。このときの平均出力は230mWであった。
【0066】
(長時間発電特性)
また、上記実施例の燃料電池システム1について、長時間発電特性を調べた。その結果を図15に示す。このときの平均出力は410mWであった。
【0067】
比較例2として、燃料供給制御部による燃料供給制御を実施したが、拡散シートおよび拡散伝熱部材を省いたことを除いては、比較例1と同様にして燃料電池システムを作製した。この比較例2についても、長時間発電特性を調べた。その結果を図16に示す。このときの平均出力は350mWであった。
【0068】
図13および図14から分かるように、実施例と比較例1とを比べると、燃料供給制御部による燃料供給制御を行わず、拡散シートおよび拡散伝熱部材も設けなかった比較例1では、燃料供給が過剰となり、クロスオーバーが増大し、発電部の温度上昇が激しく、発電出力が急激に低下した。これに対して、燃料供給制御部20による燃料供給制御を行いつつ、拡散シート50および拡散伝熱部材42により液体燃料への伝熱性を向上させた実施例では、時間が経過しても発電部10の温度および発電特性のいずれも安定していた。また、本実施例によれば、比較例1に比べて約1.7倍の高い平均出力を得ることができた。
【0069】
すなわち、燃料供給制御部20により、発電部10の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料を気化室30Aに供給すると共に、気化室30A内に多孔質体の拡散伝熱部材42および拡散シート50を設けて、気化室30Aに供給された液体燃料に発電部10で発生した熱を伝えるようにすれば、気化燃料の過剰供給を防ぎ、出力を高めると共に安定した発電を行うことができることが分かった。
【0070】
また、図15および図16に示した長時間発電データから分かるように、実施例と比較例2とを比べると、燃料供給制御部による燃料供給制御は実施したが、拡散シートおよび拡散伝熱部材を設けなかった比較例2では、14000秒あたりから急激に出力が低下し、平均出力も低くなった。これは、比較例2では、拡散シートおよび拡散伝熱部材を設けなかったので、液体燃料に熱が十分に伝わらず、気化燃料の供給が不足したからであると考えられる。これに対して、燃料供給制御部20による燃料供給制御を行いつつ、拡散シート50および拡散伝熱部材42により伝熱性を向上させた実施例では、継続的に安定した発電が行われ、平均出力も比較例2に比べて約1.2倍と高かった。
【0071】
すなわち、発電部10の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料を気化室30Aに供給するようにした場合に、気化室30A内に多孔質体の拡散伝熱部材42および拡散シート50を設けて、気化室30Aに供給された液体燃料に発電部10で発生した熱を伝えるようにすれば、気化燃料の供給不足を防ぎ、出力を高めると共に長時間にわたって継続的に安定した発電を行うことができることが分かった。
【0072】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は、上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形することができる。例えば、上記実施の形態および実施例では、発電部10,燃料供給制御部20,燃料気化部30,突起41および拡散伝熱部材42の構成について具体的に説明したが、他の構造あるいは他の材料により構成するようにしてもよい。
【0073】
また、例えば、上記実施の形態および実施例では、一つの発電部10を有する場合について説明したが、本発明は、複数の発電部10を縦方向(積層方向)または横方向(積層面内方向)に積層して燃料電池スタックを構成する場合にも適用することができる。特に、複数の発電部10を横方向に積層した場合には、燃料気化部30の面内温度分布または発電部10からの伝熱の分布により燃料気化量に偏りが生じるおそれがある。しかし、本発明によれば、このような平板発電体の場合であっても、燃料気化部30の気化室30A内に突起41または拡散伝熱部材42を設けることにより、適切な量の燃料を確実に気化させて発電部10に供給することが可能となり、消費電力増大の原因となるヒータまたは霧化器などを不要とすることができる。
【0074】
加えて、例えば、上記実施の形態および実施例において説明した各構成要素の材料および厚み、または発電部10の発電条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の発電条件としてもよい。
【0075】
加えてまた、例えば、液体燃料は、メタノールのほか、エタノールやジメチルエーテルなどの他の液体燃料でもよい。
【0076】
更にまた、上記実施の形態および実施例では、カソード電極20への空気の供給を自然換気とするようにしたが、ポンプなどを利用して強制的に供給するようにしてもよい。その場合、空気に代えて酸素または酸素を含むガスを供給するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池システムを備えた電子機器の概略構成を表す図である。
【図2】図1に示した発電部および燃料気化部の構成を表す図である。
【図3】図2に示した燃料気化部の他の例を表す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る発電部および燃料気化部の構成を表す図である。
【図5】図4の変形例を表す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る発電部および燃料気化部の構成を表す図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態に係る発電部および燃料気化部の構成を表す図である。
【図8】図7の変形例を表す図である。
【図9】本発明の第5の実施の形態に係る発電部および燃料気化部の構成を表す図である。
【図10】本発明の第6の実施の形態に係る発電部および燃料気化部の構成を表す図である。
【図11】図9の変形例を表す図である。
【図12】図9の他の変形例を表す図である。
【図13】実施例の結果を表す図である。
【図14】比較例1の結果を表す図である。
【図15】実施例の長時間発電特性を表す図である。
【図16】比較例2の長時間発電特性を表す図である。
【符号の説明】
【0078】
1…燃料電池システム、2…外部回路(負荷)、10…発電部、11…アノード電極、12…カソード電極、13…電解質膜、14…外装部材、20…燃料供給制御部、30…燃料気化部、30A…気化室、41…突起、42…拡散伝熱部材、50…拡散シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極およびカソード電極の間に電解質を備えた発電部と、
前記発電部の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料を供給する燃料供給制御部と、
前記アノード電極に隣接して配置され、前記燃料供給制御部からの液体燃料が供給される気化室を有する燃料気化部と、
前記気化室内に形成され、前記気化室に供給された液体燃料に前記発電部で発生した熱を伝える伝熱部と
を備えたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料気化部は、前記アノード電極に接して配置された内側部材と、前記気化室を間にして前記内側部材に対向配置された外側部材とを有し、
前記伝熱部は、前記内側部材の内壁面から前記外側部材の内壁面に向けて、または前記外側部材の内壁面から前記内側部材の内壁面に向けて形成された突起である
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記突起の先端と前記外側部材の内壁面または前記内側部材の内壁面との間に、隙間が設けられている
ことを特徴とする請求項2記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記突起の先端が、前記外側部材の内壁面または前記内側部材の内壁面に接触している
ことを特徴とする請求項2記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記内側部材および前記外側部材は一体化されている
ことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料気化部は、前記気化室を間にして前記アノード電極に対向配置された外側部材を有し、
前記伝熱部は、前記外側部材の内壁面から前記アノード電極に向けて形成された突起である
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記突起の先端と前記アノード電極との間に、隙間が設けられている
ことを特徴とする請求項6記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記突起の先端が前記アノード電極に接触している
ことを特徴とする請求項6記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記外側部材の内壁面に、前記気化室に供給された液体燃料を拡散させる拡散シートが設けられている
ことを特徴とする請求項2ないし8のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記伝熱部は、前記気化室内の少なくとも一部に設けられると共に、多孔質体または不織布よりなる拡散伝熱部材である
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記外側部材の内壁面に、前記気化室に供給された液体燃料を拡散させる拡散シートが設けられている
ことを特徴とする請求項10記載の燃料電池システム。
【請求項12】
燃料電池システムを備えた電子機器であって、
前記燃料電池システムは、
アノード電極およびカソード電極の間に電解質を備えた発電部と、
前記発電部の発電量に応じた化学量論的燃料消費量に基づく量の液体燃料を供給する燃料供給制御部と、
前記アノード電極に隣接して配置され、前記燃料供給制御部からの液体燃料が供給される気化室を有する燃料気化部と、
前記気化室内に形成され、前記気化室に供給された液体燃料に前記発電部で発生した熱を伝える伝熱部と
を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−87713(P2009−87713A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255697(P2007−255697)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】