説明

燃料電池スタック、燃料電池スタック複合体および燃料電池システム

【課題】厚み方向に積層された複数の燃料電池セルを含み、各燃料電池セルに対して均一に液体燃料の供給を行なうことができる燃料電池スタックを提供する。
【解決手段】第1膜電極複合体と、第1セル内燃料流路23を有する第1燃料供給部22とを備える第1燃料電池セル20;該セルの主面上に配置され、第2膜電極複合体と、第2セル内燃料流路23’を有する第2燃料供給部22’とを備える第2燃料電池セル20’;液体燃料導入口11、および、これと第1、第2セル内燃料流路23,23’とを接続するセル外燃料流路15を有する燃料分配部10を含み、第1および第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15とからなる燃料流路が、第1、第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15との接続部分またはその近傍を境に、液体燃料の圧力損失が大きくなるように構成されている燃料電池スタック、その複合体およびこれらを用いた燃料電池システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料電池セルをその厚み方向に積層した燃料電池スタック、複数の燃料電池スタックをその厚み方向に積層した燃料電池スタック複合体、および、燃料電池スタックまたは燃料電池スタック複合体を用いた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、情報化社会を支える携帯用電子機器の新規電源として実用化の期待が高まっている。燃料電池は、使用する電解質材料や燃料の分類から、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型、ダイレクトアルコール型等に分類される。特に、電解質材料に固体高分子であるイオン交換膜を用いる固体高分子型燃料電池およびダイレクトアルコール型燃料電池は、常温で高い発電効率が得られることから、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての実用化が検討されている。
【0003】
燃料としてアルコールまたはアルコール水溶液を使用するダイレクトアルコール型燃料電池(たとえば特許文献1参照)は、燃料がガスである場合と比較して、燃料タンクを比較的簡易に設計できるなどの理由から、燃料電池構造の簡略化、省スペース化が可能であり、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての期待が特に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−235243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池においては、1つの燃料電池セルでは不十分である電力を、たとえば携帯用電子機器の新規電源として十分な程度にまで高めるために、複数の燃料電池セルを電気的に接続して組み合わせることが従来行なわれている。この場合、各燃料電池セルに対して均一に燃料供給できることが重要である。各燃料電池セルへの燃料供給が不均一になると、燃料不足に陥り、十分な出力を発揮できない燃料電池セルが生じて、燃料電池全体としての出力が低下するためである。
【0006】
このような燃料供給の不均一性の問題は、各燃料電池セルに対して流路を介して液体燃料を供給する場合において、該流路を介した液体燃料の供給が重力の影響を受け易い、燃料電池セルの主面上に他の燃料電池セルを積層した、すなわち、複数の燃料電池セルをその厚み方向に積層した燃料電池(本明細書においては、このような燃料電池を「燃料電池スタック」と称する。)において特に顕著である。
【0007】
上記特許文献1には、燃料電池セルに対して燃料を均一に供給することを技術課題とする発明が記載されているが、当該文献における燃料供給の均一化とは、1つの燃料電池セルにおけるアノード極面内での均一化を意味するものであり、複数の燃料電池セルへの燃料供給の均一化、ひいては厚み方向に積層された複数の燃料電池セルへの燃料供給の均一化については何らの教示も与えない。
【0008】
そこで本発明の目的は、厚み方向に積層された複数の燃料電池セルを含む燃料電池スタックであって、各燃料電池セルに対して均一に液体燃料の供給を行なうことができる燃料電池スタックおよび厚み方向に積層された複数の燃料電池スタックを含む燃料電池スタック複合体、ならびに該燃料電池スタックまたは燃料電池スタック複合体を用いた燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく本発明は、第1アノード極、第1電解質膜および第1カソード極をこの順で有する第1膜電極複合体、ならびに、液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路を有し、第1アノード極側に配置される第1燃料供給部を備える第1燃料電池セルと、第1燃料電池セルの主面上に配置される燃料電池セルであって、第2アノード極、第2電解質膜および第2カソード極をこの順で有する第2膜電極複合体、ならびに、液体燃料を流通させるための第2セル内燃料流路を有し、第2アノード極側に配置される第2燃料供給部を備える第2燃料電池セルと、第1および第2燃料電池セルに結合され、第1および第2燃料電池セルへの液体燃料の分配を行なうための燃料分配部とを含む燃料電池スタックを提供するものである。
【0010】
ここで、本発明の燃料電池スタックにおいて燃料分配部は、液体燃料を導入するための導入口、ならびに、該導入口と第1および第2セル内燃料流路とを接続するセル外燃料流路を有するものである。そして、本発明の燃料電池スタックにおいて、第1および第2セル内燃料流路とセル外燃料流路とからなる燃料流路は、第1および第2セル内燃料流路とセル外燃料流路との接続部分またはその近傍を境に、導入口からセル外燃料流路を介して第1および第2セル内燃料流路に流れる液体燃料の圧力損失が大きくなるように構成されている。
【0011】
本発明に係る燃料電池スタックの1つの好ましい実施形態においては、少なくとも第1および第2セル内燃料流路とセル外燃料流路との接続部分またはその近傍において、該接続部分またはその近傍を基準に導入口側の燃料流路部分の断面積が、それ以外の燃料流路部分の断面積よりも大きい。たとえば、少なくとも第1および第2セル内燃料流路とセル外燃料流路との接続部分において、セル外燃料流路の断面積は、第1および第2セル内燃料流路の断面積よりも大きい。当該実施形態においては、上記断面積の関係、ひいては、上記圧力損失の関係を充足させるために、第1および第2セル内燃料流路とセル外燃料流路との接続部分またはその近傍における燃料流路内に多孔質体を充填せることができる。
【0012】
燃料分配部のセル外燃料流路は、導入口に接続される主流路、該主流路における導入口とは反対側の端部と第1セル内燃料流路とを接続する第1分岐流路、および、該端部と第2セル内燃料流路とを接続する第2分岐流路からなることができる。この場合において、第1および第2分岐流路は、第1または第2燃料電池セルの主面に対して略垂直方向に延びる流路部分を含むことができる。
【0013】
また、第1分岐流路と第1セル内燃料流路とは、その接続部分において、第1燃料電池セルの主面に対して略垂直方向に延びる流路を形成し、第2分岐流路と第2セル内燃料流路とは、その接続部分において、第2燃料電池セルの主面に対して略垂直方向に延びる流路を形成していてもよい。あるいは、第1分岐流路と第1セル内燃料流路とは、その接続部分において、第1燃料電池セルの主面に対して略平行に延びる流路を形成し、第2分岐流路と第2セル内燃料流路とは、その接続部分において、第2燃料電池セルの主面に対して略平行に延びる流路を形成していてもよい。
【0014】
第1燃料電池セルと第2燃料電池セルとは、第1カソード極側と第2カソード極側とが対向するように離間して配置されてもよいし、いずれか一方の燃料電池セルのカソード極側と他方の燃料電池セルの燃料供給部側とが対向するように(すなわち、第1カソード極側と第2燃料供給部側とが対向するように、または、第2カソード極側と第1燃料供給部側とが対向するように)離間して配置されてもよい。
【0015】
本発明の燃料電池スタックは、同一平面上に配置される2以上の第1燃料電池セルと、同一平面上に配置される2以上の第2燃料電池セルとを含むことができる。たとえば本発明の燃料電池スタックは、1つの好ましい実施形態において、同一平面上に配置される2以上の第1燃料電池セルからなる第1燃料電池セル集合体と、該第1燃料電池セル集合体の主面上に配置される燃料電池セル集合体であって、同一平面上に配置され、かつ第1燃料電池セルのそれぞれに対向配置される2以上の第2燃料電池セルからなる第2燃料電池セル集合体と、すべての第1および第2燃料電池セルに結合される上記燃料分配部とを含むものである。
【0016】
好ましくは、第1燃料電池セル集合体はライン状に配列した2以上の第1燃料電池セルからなり、第2燃料電池セル集合体はライン状に配列した2以上の第2燃料電池セルからなる。
【0017】
第1燃料電池セル集合体において2以上の第1燃料電池セルは、隣り合う2つの第1燃料電池セルの間に隙間が形成されるように配置され、第2燃料電池セル集合体において2以上の第2燃料電池セルは、隣り合う2つの第2燃料電池セルの間に隙間が形成されるように配置されてもよい。あるいは、第1燃料電池セル集合体は、2以上の第1燃料電池セルを隙間なくライン状に配列したものであり、第2燃料電池セル集合体は、2以上の第2燃料電池セルを隙間なくライン状に配列したものであってもよい。
【0018】
本発明の燃料電池スタックは、アルコールまたはアルコール水溶液を液体燃料とするダイレクトアルコール型燃料電池であることができる。
【0019】
また本発明は、上記本発明に係る燃料電池スタックである第1燃料電池スタックと、該第1燃料電池スタックの主面上に配置される、上記本発明に係る燃料電池スタックである第2燃料電池スタックとを含む燃料電池スタック複合体を提供する。この燃料電池スタック複合体において、第1燃料電池スタックのセル外燃料流路と、第2燃料電池スタックのセル外燃料流路とは互いに連通しており、好ましくは、少なくともこれらのセル外燃料流路の接続部分において、第2燃料電池スタックのセル外燃料流路の断面積は、第1燃料電池スタックのセル外燃料流路の断面積より大きい。
【0020】
さらに本発明は、上記本発明に係る燃料電池スタックまたは燃料電池スタック複合体と、該燃料電池スタックまたは燃料電池スタック複合体に接続される、液体燃料を収容するための燃料タンクとを含む燃料電池システムを提供する。該燃料電池システムは、燃料タンクから燃料電池スタックまたは燃料電池スタック複合体への液体燃料の流動を促進させる送液手段をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、厚み方向に積層された複数の燃料電池セルを含む燃料電池スタックにおいて、各燃料電池セルに対する液体燃料の供給の均一化が図られ、もって高い出力を発揮する燃料電池スタック、ならびにこれを用いた燃料電池スタック複合体および燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る燃料電池スタックの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示されるII−II線における概略断面図である。
【図3】本発明に係る燃料電池スタックの他の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る燃料電池スタックの他の一例を示す概略断面図である。
【図5】セル外燃料流路の形状例を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る燃料電池スタックの他の一例を示す概略断面図である。
【図7】第1燃料電池セルの層構成の一例を示す概略断面図である。
【図8】(a)は、第1流路板の一例を示す概略上面図であり、(b)は、(a)に示されるVIII−VIII線における燃料分配部の概略断面図である。
【図9】(a)は、第1流路板の他の一例を示す概略上面図であり、(b)は、(a)に示されるIX−IX線における燃料分配部の概略断面図である。
【図10】第1流路板の他の一例を示す概略上面図である。
【図11】第1気化燃料板の一例を示す概略上面図および概略断面図である。
【図12】第1気化燃料板の他の例を示す概略上面図および概略断面図である。
【図13】本発明に係る燃料電池スタックの他の一例を示す概略斜視図である。
【図14】本発明に係る燃料電池スタック複合体の一例を示す概略斜視図である。
【図15】本発明に係る燃料電池スタック複合体の他の一例を示す概略斜視図である。
【図16】本発明に係る燃料電池システムの一例を示す概略斜視図である。
【図17】本発明に係る燃料電池システムの一例を示す概略断面図である。
【図18】実施例1の燃料電池スタックについてI−V特性を測定した結果を示す図である。
【図19】比較例1の燃料電池スタックについてI−V特性を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、実施の形態を示して詳細に説明する。
<燃料電池スタック>
図1は本発明に係る燃料電池スタックの一例を示す概略斜視図であり、図2は図1に示されるII−II線における概略断面図である。これらの図面に示される燃料電池スタック1は、合計20個の燃料電池セル(10個の第1燃料電池セル20および10個の第2燃料電池セル20’)、ならびに、これらの燃料電池セルのすべてに結合され、各燃料電池セルに液体燃料を分配供給するための燃料分配部10から構成されている。
【0024】
〔1〕全体構造
燃料電池スタック1は、同一平面上に互いに離間して、かつライン状に配列された5個の第1燃料電池セル20からなる第1燃料電池セル集合体40;同一平面上に互いに離間して、かつライン状に配列された5個の第2燃料電池セル20’からなり、第1燃料電池セル集合体40の主面上(第1燃料電池セル集合体40の厚み方向における上側)であって、第1燃料電池セル集合体40と離間して配置された第2燃料電池セル集合体50;および、すべての第1および第2燃料電池セル20,20’(すべての第1および第2燃料電池セル集合体40,50)に結合された燃料分配部10を含む。燃料分配部10は、燃料電池セル集合体を構成する燃料電池セルの配列方向(燃料電池セル集合体の長手方向)に対して平行に、かつ対向配置された第1および第2燃料電池セル集合体40,50の側方に配置され、その側面で、対向配置された第1および第2燃料電池セル集合体40,50を構成するそれぞれの第1および第2燃料電池セル20,20’と結合されている。
【0025】
この例において燃料電池スタック1は、燃料分配部10における対向する両側面に結合される合計2個の第1燃料電池セル集合体40と合計2個の第2燃料電池セル集合体50を有している。燃料電池スタック1を構成する燃料電池セルは、互いに電気的に直列接続および/または並列接続される。
【0026】
また、第1燃料電池セル集合体40と第2燃料電池セル集合体50とが、離間して対向配置されることにより、これらの第1および第2燃料電池セル集合体40,50の間に空間30が形成されている。この空間30は、酸化剤(空気等)の供給経路を構成する。
【0027】
第2燃料電池セル集合体50を構成する第2燃料電池セル20’はすべて、その下方に配置された(対向配置された)第1燃料電池セル集合体40を構成する第1燃料電池セル20のそれぞれに対向配置される(第2燃料電池セル20’の直下に第1燃料電池セル20が配置される)。第1燃料電池セル20の主面と第2燃料電池セル20’とは略平行である。第1燃料電池セル20と第2燃料電池セル20’とは、それらのカソード極側が対向するように(第1カソード極側と第2カソード極側とが対向するように)離間して配置されている。
【0028】
第1燃料電池セル20は、第1アノード極、第1電解質膜および第1カソード極をこの順で有する第1膜電極複合体を含む第1発電部21と、第1発電部21の第1アノード極側に配置された第1燃料供給部22とを少なくとも備えるものである〔図1参照〕。第1燃料供給部22は、液体燃料を流通させる(あるいは、燃料電池セル面内で拡散流通させる)ための第1セル内燃料流路23を有する〔図2参照〕。同様に、第2燃料電池セル20’は、第2アノード極、第2電解質膜および第2カソード極をこの順で有する第2膜電極複合体を含む第2発電部21’と、第2発電部21’の第2アノード極側に配置された第2燃料供給部22’とを少なくとも備えるものである〔図1参照〕。第2燃料供給部22’は、液体燃料を流通させる(あるいは、燃料電池セル面内で拡散流通させる)ための第2セル内燃料流路23’を有する〔図2参照〕。
【0029】
燃料分配部10は、それぞれの第1および第2燃料電池セル20,20’に液体燃料を分配供給するための部位であり、液体燃料を導入するための導入口11をいずれかの表面に有するとともに、導入口11と、第1および第2燃料電池セル20,20’の第1および第2セル内燃料流路23,23’とを接続するセル外燃料流路15を内部に備えている〔図2参照〕。燃料電池スタック1において導入口11は、上側表面(第2燃料電池セル集合体50における第1燃料電池セル集合体40とは反対側の主面と同一面を形成する表面)であって、燃料分配部10の長手方向中央部(燃料電池セル集合体を構成する中央の燃料電池セルの、燃料電池セル集合体長手方向の中心部に相当する位置)に設けられている。
【0030】
〔2〕燃料流路構造
燃料電池スタック1は、これを構成する各燃料電池セルに液体燃料を供給するための燃料流路を有しており、上述のように、該燃料流路は、各燃料電池セルが有するセル内燃料流路(第1および第2セル内燃料流路23,23’)、および、燃料分配部10に設けられた、第1および第2セル内燃料流路23,23’に接続されるセル外燃料流路15からなる。
【0031】
セル外燃料流路15は、図2を参照して、導入口11から第1燃料電池セル20(および第2燃料電池セル20’)の主面に対して略垂直方向の下方(第1燃料電池セル20に近づく方向)に延びる第1主流路16;第1主流路16における導入口11とは反対側の端部16Aに接続され、第1燃料電池セル20(および第2燃料電池セル20’)の主面に対して略平行(燃料電池セル集合体に近づく方向)に延びる第2主流路17(以下、第1主流路16と第2主流路17とを含めて「主流路18」と称する。);主流路18における導入口11とは反対側の端部(第2主流路17における端部16Aとは反対側の端部)17Aと第1セル内燃料流路23とを接続する第1分岐流路19a;および、端部17Aと第2セル内燃料流路23’とを接続する第2分岐流路19bを含む。
【0032】
図2に示される断面において、第2主流路17は、燃料分配部10の両側面に配された燃料電池セル集合体群への燃料供給を可能とするために、端部16Aから該両側面に向けて計2本延びている。第1および第2分岐流路19a,19bは、第1燃料電池セル20(および第2燃料電池セル20’)の主面に対して略垂直方向に延びている。
【0033】
なお図示されていないが、セル外燃料流路15は、第1および第2燃料電池セル集合体40,50を構成する中央の燃料電池セル以外の燃料電池セルに液体燃料を供給するための、端部16Aから燃料分配部10の長手方向(第1および第2燃料電池セル集合体40,50を構成する燃料電池セルの配列方向)に延びる第3主流路を主流路18の一部として有している。この第3主流路には、中央の燃料電池セル以外の各燃料電池セルが有するセル内燃料流路に連結される、図2と同様の構造の第2主流路17および第1および第2分岐流路19a,19bが設けられている。すなわち、燃料電池スタック1は、1本の第1主流路16、合計10本の第2主流路17、1本の第3主流路、合計10本の第1分岐流路19aおよび合計10本の第2分岐流路19bを有する。
【0034】
本明細書において、燃料流路の一部である「主流路」とは、対向配置された第1燃料電池セル20と第2燃料電池セル20’とに分配供給されることとなる液体燃料が共通して流れる流路であり、より具体的には、セル内燃料流路および第1、第2分岐流路以外の燃料流路を意味する。
【0035】
ここで、燃料電池スタック1において燃料流路は、セル外燃料流路15の断面積を第1および第2セル内燃料流路23,23’の断面積よりも大きくし、これにより第1および第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15との接続部分におけるセル外燃料流路の断面積15を第1および第2セル内燃料流路23,23’の断面積よりも大きくすることによって、上記接続部分を境に、導入口11からセル外燃料流路15を介して第1および第2セル内燃料流路23,23’に流れる液体燃料の圧力損失が大きくなるように構成されている。なお、図2の例において、セル外燃料流路15、第1および第2セル内燃料流路23,23’の断面積の断面積はそれぞれ、全体にわたって一定であるが、これに限定されない。
【0036】
上記のような断面積の関係、ひいては圧力損失の関係を充足する燃料電池スタック1によれば、セル内燃料流路15がすべて液体燃料によって満たされた後に、各セル内燃料流路23,23’への液体燃料の供給がなされるため、燃料流路が、第1燃料電池セル20(および第2燃料電池セル20’)の主面に対して略垂直方向に延びる第1および第2分岐流路19a,19bを含むにもかかわらず、厚み方向に積層された第1燃料電池セル20と第2燃料電池セル20’とに均一に液体燃料を供給することが可能となる。
【0037】
セル外燃料流路15の断面積は、たとえば100μm2〜1mm2の範囲内であることができ、第1および第2セル内燃料流路23,23’の断面積は、たとえば、それぞれ2500μm2〜10000μm2の範囲内であることができる。第1セル内燃料流路23の断面積と第2セル内燃料流路23’の断面積とは同じであっても異なっていてもよいが、第1燃料電池セル20および第2燃料電池セル20’への燃料供給の均一性をより高めるために、同じであることが好ましい。
【0038】
上述の例のように、本発明の燃料電池スタックは、導入口11からセル外燃料流路15を介して第1および第2セル内燃料流路23,23’に流れる液体燃料の圧力損失が、ある地点を境に大きくなるように構成された燃料流路を備えるものであるが、このような圧力損失の関係を充足させる手段は、図2で例示されたものに限定されない。
【0039】
たとえば、上記の「ある地点」は、第1および第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15との接続部分に限定されず、図3の例のように、その近傍(たとえば、セル外燃料流路15における該接続部分近傍)であってもよい。該接続部分から離れた位置に圧力損失変化点を設けると、該圧力損失変化点から第1および第2セル内燃料流路23,23’に到達するまでの間に燃料供給の不均化が生じるおそれがある。
【0040】
図3の例においては、第2主流路17の断面積を第1および第2分岐流路19a,19bの断面積よりも大きくし、これにより第2主流路17と第1および第2分岐流路19a,19bとの接続部分(該接続部分は、第1および第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15との接続部分の近傍である)における、該接続部分を基準に導入口11側の燃料流路部分(すなわち、主流路18)の断面積を、それ以外の燃料流路部分(すなわち、第1および第2分岐流路19a,19b、ならびにセル内燃料流路23,23’)の断面積よりも大きくすることによって、上記圧力損失の関係を充足させている。図3の例において、第1および第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15との接続部分における第1および第2セル内燃料流路23,23’の断面積とセル外燃料流路15の断面積とは同じである。
【0041】
このように、上記圧力損失の関係を充足させるためには、少なくとも第1および第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15との接続部分またはその近傍において、該接続部分またはその近傍を基準に導入口11側の燃料流路部分の断面積が、それ以外の燃料流路部分の断面積よりも大きくなるようにすればよい。このような構成においては、断面積が変化する地点が圧力損失変化点となり、該圧力損失変化点までのすべての燃料流路が液体燃料によって満たされた後に、各セル内燃料流路23,23’への液体燃料の供給がなされるため、厚み方向に積層された第1燃料電池セル20と第2燃料電池セル20’とに均一に液体燃料を供給することが可能となる。
【0042】
なお、図3の例のように、第2主流路17の断面積に比べて、第1主流路16の断面積をさらに大きくすると、送液ポンプ等の送液手段を用いて液体燃料を導入口11に導入する場合において、吐出圧の小さな、したがって小型の送液手段を用いることができ、燃料電池システムの小型化の面で有利である。
【0043】
また、上記圧力損失の関係を充足させるために、図4に示されるように、第1および第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15との接続部分またはその近傍における燃料流路内に、多孔質体60を充填してもよい。燃料流路の幅や深さを調整するのではなく、このような多孔質体60を充填することによっても、燃料流路の断面積を調整することができる。すなわち、多孔質体60の充填により、多孔質体60の充填位置を基準に導入口11側の燃料流路部分の断面積を、それ以外の燃料流路部分(多孔質体60を含む)の断面積よりも大きくすることができる。
【0044】
多孔質体60は、液体燃料に対して不溶性である材料から構成される。具体的には、セルロース;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;アクリル系樹脂;ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ塩化ビニル等の塩素系樹脂;ポリエーテル系樹脂;ポリフェニレン系樹脂等の材料を挙げることができ、これらから選択された材料を延伸多孔質体、発泡体、繊維束、織繊維、不織繊維等の形態としたものを多孔質体60として用いることができる。
【0045】
さらに、上記圧力損失の関係を充足させる他の手段として、少なくとも第1および第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15との接続部分またはその近傍において、該接続部分またはその近傍を基準に導入口11側の燃料流路部分の内壁面の親水性(濡れ性)を、それ以外の燃料流路部分の内壁面の親水性(濡れ性)よりも大きくすることが挙げられる。このような燃料流路内壁面の親水性の調整によっても、親水性が変化する地点が圧力損失変化点となり、該圧力損失変化点までのすべての燃料流路が液体燃料によって満たされた後に、各セル内燃料流路23,23’への液体燃料の供給がなされるため、厚み方向に積層された第1燃料電池セル20と第2燃料電池セル20’とに均一に液体燃料を供給することが可能となる。
【0046】
セル外燃料流路15の形状は図2に示されるものに限定されず、種々の形状を採り得るが、通常、第1燃料電池セル20と第2燃料電池セル20’とに分配供給されることとなる液体燃料が共通して流れる主流路18と、主流路18から分岐する第1および第2分岐流路19a,19bとを備える。主流路18の形状についても、第1燃料電池セル20の主面に対して略垂直方向に延びる第1主流路16と第1燃料電池セル20の主面に対して略平行に延びる第2主流路17とからなる図2に示されるものに限定されず、種々の形状を採り得る。
【0047】
また、図2などの例において第1および第2分岐流路19a,19bは、第1燃料電池セル20(および第2燃料電池セル20’)の主面に対して略垂直方向に延びる流路部分を含むが、これに限定されず、端部16Aから第1、第2セル内燃料流路23,23’の入口端部に直接延びる、斜め方向の流路であってもよい。この場合、セル外燃料流路15は、第2主流路17を有しない。
【0048】
図5に示すように、セル外燃料流路15における流路の分岐部(たとえば端部16A,17A)にはRをつける(角部を曲面から構成する)ことも好ましい。これにより、分岐部における液体燃料の圧力損失のバラツキが小さくすることができるため、厚み方向に積層された第1燃料電池セル20および第2燃料電池セル20’へのより均一な燃料供給が可能となる。図5(a)は図2に示されるセル外燃料流路15にRをつけた例であり、図5(b)は図3に示されるセル外燃料流路15にRをつけた例である。
【0049】
図2〜図4の例においては、第1分岐流路19aと第1セル内燃料流路23、および、第2分岐流路19bと第2セル内燃料流路23’とは、それらの接続部分において、第1燃料電池セル20、第2燃料電池セル20’の主面に対して略垂直方向に延びる流路を形成するように接続されているが、これに限定されるものではない。たとえば図6に示されるように、第1分岐流路19aと第1セル内燃料流路23、および、第2分岐流路19bと第2セル内燃料流路23’とは、それらの接続部分において、第1燃料電池セル20、第2燃料電池セル20’の主面に対して略平行に延びる流路を形成するように接続されてもよい。この場合、第1および第2分岐流路19a,19bは、たとえば、燃料電池セル主面に対して略垂直方向に延びる流路部分と略平行に延びる流路部分とからなる略L字型の流路であることができ、第1および第2セル内燃料流路23,23’は、燃料電池セル主面に対して略平行に延びる流路からなることができる。
【0050】
なお、図6に示される燃料流路構造は、図3と同様、第1および第2セル内燃料流路23,23’とセル外燃料流路15との接続部分の近傍において、該接続部分を基準に導入口11側の燃料流路部分の断面積を、それ以外の燃料流路部分の断面積よりも大きくした例である。
【0051】
図6の例のような燃料流路構造は、燃料分配部10の一部分〔図6においてYで示される領域〕を省略あるいはその領域の幅を小さくすることができ、その分、燃料電池セルの幅、ひいては燃料電池スタックの幅を小さくできるという利点がある。
【0052】
〔3〕第1燃料電池セル
図7は、第1燃料電池セル20の層構成の一例を示す概略断面図であり、図2に示される断面に対して垂直な方向の断面を示したものである。図7に示される例において第1燃料電池セル20は、第1アノード極102、第1電解質膜101および第1カソード極103をこの順で有する第1膜電極複合体104;第1アノード極102上に積層され、これに電気的に接続された第1アノード集電層105;第1カソード極103上に積層され、これに電気的に接続された第1カソード集電層106;第1アノード集電層105に接するように第1アノード集電層105上に積層される第1アノード保湿層107;第1カソード集電層106に接するように第1カソード集電層106上に積層される第1カソード保湿層108;第1アノード極102側に配置され、液体燃料を流通させる(燃料電池セル面内で拡散流通させる)ための第1セル内燃料流路23を有する第1流路板22a;第1膜電極複合体104と第1流路板22aとの間であって、第1セル内燃料流路23を覆うように第1流路板22a表面上に配置される、液体燃料の気化成分を透過可能な第1気液分離層112;および、第1気液分離層112と第1アノード保湿層107との間に配置され、気化燃料収容部113aを具備する第1気化燃料板113から構成されている。
【0053】
図7に示される例において第1発電部21は、第1カソード保湿層108、第1カソード集電層106、第1膜電極複合体104、第1アノード集電層105および第1アノード保湿層107からなり、第1燃料供給部22は、第1気化燃料板113、第1気液分離層112および第1流路板22aからなる。
【0054】
(第1電解質膜)
第1膜電極複合体104を構成する第1電解質膜101は、第1アノード極102から第1カソード極103へプロトンを伝達する機能と、第1アノード極102と第1カソード極103との電気的絶縁性を保ち、短絡を防止する機能を有する。第1電解質膜101の材質は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜またはコンポジット膜を用いることができる。高分子膜としては、たとえば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜である、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子社製)などが挙げられる。また、スチレン系グラフト重合体、トリフルオロスチレン誘導体共重合体、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフォスファゼンなどの炭化水素系電解質膜などを用いることもできる。
【0055】
無機膜としては、たとえばリン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウムなどからなる膜が挙げられる。コンポジット膜としては、タングステン酸、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸等の無機物とポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、パーフルオロスルホン酸等の有機物とのコンポジット膜などが挙げられる。第1電解質膜101の厚みはたとえば1〜200μmである。
【0056】
(第1アノード極および第1カソード極)
第1電解質膜101の一方の表面に積層される第1アノード極102および他方の表面に積層される第1カソード極103にはそれぞれ、少なくとも触媒と電解質とを含有する多孔質層からなる触媒層が設けられる。第1アノード極102において触媒(アノード触媒)は、燃料からプロトンと電子とを生成する反応を触媒し、電解質は、生成したプロトンを第1電解質膜101へ伝導する機能を有する。第1カソード極103において触媒は、電解質を伝導してきたプロトンと酸化剤(空気など)から水を生成する反応を触媒する。
【0057】
第1アノード極102および第1カソード極103の触媒は、カーボンやチタン等の導電体の表面に担持されたものでもよく、なかでも、水酸基やカルボキシル基等の親水性官能基を有するカーボンやチタン等の導電体の表面に担持されていることが好ましい。これにより、第1アノード極102および第1カソード極103の保水性を向上させることができる。保水性の向上により、プロトン移動に伴う第1電解質膜101の抵抗や、第1アノード極102および第1カソード極103における電位分布を改善することができる。
【0058】
第1アノード極102および第1カソード極103はそれぞれ、触媒層上に積層されるアノード導電性多孔質層(アノードガス拡散層)、カソード導電性多孔質層(カソードガス拡散層)を備えていてもよい。これらの導電性多孔質層は、第1アノード極102、第1カソード極103に供給されるガス(気化燃料または酸化剤)を面内において拡散させる機能を有するとともに、触媒層と電子の授受を行なう機能を有する。アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層としては、比抵抗が小さく、電圧の低下が抑制されることから、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;これらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などからなる多孔質材料を用いることが好ましい。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。より具体的には、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層として、たとえば、上記貴金属、遷移金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;ならびにカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜などを好適に用いることができる。
【0059】
(第1アノード集電層および第1カソード集電層)
第1アノード集電層105、第1カソード集電層106はそれぞれ、第1アノード極102上、第1カソード極103上に積層される。第1アノード集電層105および第1カソード集電層106はそれぞれ、第1アノード極102、第1カソード極103における電子を集電する機能と、電気的配線を行なう機能とを有する。集電層の材質は、比抵抗が小さく、面方向に電流を取り出しても電圧の低下が抑制されることから、金属であることが好ましく、なかでも、電子伝導性を有し、酸性雰囲気下で耐腐食性を有する金属であることがより好ましい。このような金属としては、Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Mo、Co、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;およびこれらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などが挙げられる。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。なお、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層が、たとえば金属等からなり、導電性が比較的高い場合には、第1アノード集電層および第1カソード集電層は省略されてもよい。
【0060】
より具体的には、第1アノード集電層105は、気化燃料を第1アノード極102へ誘導するための厚み方向に貫通する貫通孔(開口)を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。この貫通孔は、第1アノード極102の触媒層で生成する副生ガス(CO2ガス等)を気化燃料収容部113a側へ誘導するための経路としても機能する。同様に、第1カソード集電層106は、酸化剤(たとえば燃料電池外部の空気)を第1カソード極103の触媒層に供給するための厚み方向に貫通する貫通孔(開口)を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。
【0061】
(第1流路板)
第1流路板22aは、液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路23が第1アノード極102側表面に形成された板状体であることができる。第1セル内燃料流路23は、たとえば上記板状体の一方の表面に形成された溝(凹部)からなることができる。第1セル内燃料流路23の形状(パターン)は特に制限されず、第1アノード極102全面にできるだけ均一に気化燃料を供給できるよう、流路板表面のできるだけ広い範囲にわたって、均一に配置することが好ましい。
【0062】
図8〜図10に第1セル内燃料流路23の流路パターンの例を示す。図8〜図10に示される第1セル内燃料流路23(斜線部)はいずれも溝(凹部)からなる。図8および図9の(a)は、第1流路板22aにおける第1セル内燃料流路23の形成面を概略上面図で示すとともに、たとえば図2に示す如く、第1セル内燃料流路23と燃料分配部10のセル外燃料流路15とが接続されるように、第1流路板22a上に燃料分配部10の一部が積層された状態を概略上面図で示したものである。図8および図8の(b)はそれぞれ、図8、図9の(a)に示されるVIII−VIII線、IX−IX線における燃料分配部10の概略断面図である。
【0063】
図8の例において、第1流路板22aの第1セル内燃料流路23と燃料分配部10のセル外燃料流路15(より具体的には第1分岐流路19a)との接続点は1点のみである(すなわち、第1セル内燃料流路23の入口は1つのみである)が、第1セル内燃料流路23は、互いに略平行にかつ等間隔を空けて延びる合計5本の分岐流路を有するように、櫛歯状に分岐した構造を有している。このような分岐構造により、第1アノード極102全面により均一に気化燃料を供給することができる。
【0064】
図9の例では、セル外燃料流路15の第1分岐流路19aを枝分かれ状にし〔図9(b)参照〕、これに伴い、第1セル内燃料流路23の入口を複数設けるとともに、第1セル内燃料流路23を図8の例と同様に複数の分岐流路から構成している。
【0065】
図10は、第1流路板の他の一例を示す概略上面図であり、第1セル内燃料流路23の流路パターンの他の例を示したものである。図10の流路形状は図9と類似しているが、第1セル内燃料流路23が第1流路板22aの1つの端面(側面)まで延びており、4つの入口が該端面に設けられている点で図9と相違する。このような構造の流路板は、図6に示される燃料電池スタックのように、流路板の側面においてセル内燃料流路とセル外燃料流路とを接続する形態に用いることができる。
【0066】
なお、所定の深さの第1セル内燃料流路23に対して、第1流路板22aの厚みを調節したり、第1流路板22a上に積層される第1気化燃料板113および/または第1気液分離層112の厚みを調整(場合によっては、第1気化燃料板113および/または第1気液分離層112を省略)したりすることで、第1燃料供給部22における第1セル内燃料流路23の厚み方向位置を調整することができる。
【0067】
第1流路板22aは、プラスチック材料または金属材料などから作製することができる。プラスチック材料としては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属材料としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金材料を用いることができる。
【0068】
(第1気化燃料板)
図11(a)は図7に示す第1燃料電池セル20で用いられている第1気化燃料板113を示す概略上面図であり、図11(b)は図11(a)に示されるXI−XI線における概略断面図である。第1気化燃料板113は、第1膜電極複合体104と第1気液分離層112との間に気化燃料を収容するための空間(すなわち、気化燃料収容部113a)を形成するための部材である。図7の例において第1気化燃料板113は、第1アノード保湿層107に接するように第1アノード保湿層107と第1気液分離層112との間に配置されている。第1気化燃料板113は、厚み方向に貫通する貫通口である気化燃料収容部113a、および、気化燃料収容部113aと第1気化燃料板113外部とを連通する連通経路113bを有する。連通経路113bは、第1アノード極102で生成した副生ガス(CO2ガス等)を燃料電池セル外部に排出させるための経路である。
【0069】
連通経路113bは、第1気化燃料板113の周縁部に設けられ、気化燃料収容部113aから該周縁部の端面まで延びる溝(凹部)からなる。連通経路113bの出口は、たとえば燃料分配部10が結合される燃料電池セル側面に対向する側面に設けられる。
【0070】
第1セル内燃料流路23上に第1気液分離層112を介して気化燃料収容部113aを設けることにより、第1アノード極102に供給される気化燃料濃度の第1アノード極102面内における均一化および気化燃料量の最適化が促進される。
【0071】
気化燃料収容部113aを設けることは以下の点でも有利である。
(i)気化燃料収容部113a内に存在する空気層により、第1膜電極複合体104と第1セル内燃料流路23との間の断熱を図ることができる。これにより、第1セル内燃料流路23内の液体燃料の温度が過度に上昇することによるクロスオーバーを抑制できる。このことは、燃料電池セルの内部温度の暴走および内圧上昇の抑制に寄与する。
【0072】
(ii)第1アノード極102で生成したCO2ガス等の副生ガスは、発電により生じた熱を伴って気化燃料収容部113a内に到達し、続いて連通経路113bを通って、燃料電池セル外部に排出される。これにより、燃料電池セル内部に蓄積される熱量を大幅に低減することができるため、第1セル内燃料流路23を含めて燃料電池セル全体としての過度の温度上昇を抑制することができる。このこともまた、燃料電池セルの内部温度の暴走および内圧上昇の抑制に寄与する。特に、第1気化燃料板113に連通経路113b(副生ガスの排出口)を設けていることにより、第1セル内燃料流路23への熱の伝達が起こりにくく、したがって第1セル内燃料流路23内に存在する液体燃料の過度の温度上昇ならびに、これに伴うクロスオーバーおよび温度暴走がより生じにくい。
【0073】
(iii)連通経路113bより副生ガスを良好に排出することができるため、副生ガスの排出不良による燃料供給阻害を抑制することができ、第1アノード極102への燃料供給を良好に行なうことができる。これにより、安定した発電特性を得ることができる。また、連通経路113bより副生ガスを良好に排出することができるため、副生ガスの第1セル内燃料流路23内への侵入を抑制することができる。これにより、第1アノード極102に対して、十分な量の気化燃料を安定して供給することができるようになるため、燃料電池セルの出力安定性を向上させることができる。
【0074】
第1気化燃料板113の厚みは、たとえば、100〜1000μm程度とすることができ、100〜300μm程度まで薄くした場合であっても、上記のような効果を十分に得ることができる。
【0075】
第1気化燃料板113が有する貫通口(気化燃料収容部113a)は、第1膜電極複合体104と第1セル内燃料流路23との間の断熱性の観点から、図11に示されるように、第1気化燃料板113の面積に対する開口率をできるだけ大きくすることが好ましく、したがって第1気化燃料板113はできるだけ大きな貫通口を有する枠形状(ロの字状)を有することが好ましい。
【0076】
貫通口の開口率、すなわち、第1気化燃料板113の面積に対する貫通口の開口面積(後述するように、第1気化燃料板113は2以上の貫通口を有していてもよく、その場合にはそれらの開口面積の合計)の割合は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。貫通口の開口率を大きくすることは、気化燃料収容部113aの、第1アノード極102に供給される燃料濃度を均一化する機能を高める上でも有利であり、第1アノード極102への十分な燃料供給を確保する上でも有利である。なお、貫通口の開口率は、通常90%以下である。
【0077】
連通経路113bは、第1気化燃料板113の周縁部に設けられる溝(凹部)に限定されるものではなく、厚み方向に貫通する貫通穴であってもよいが、強度の観点から、溝(凹部)からなることが好ましい。第1気化燃料板113の強度の観点から、連通経路113bの深さは第1気化燃料板113の厚みの75%程度までとすることが好ましい。
【0078】
図12(a)は第1気化燃料板の他の例を示す概略上面図であり、図12(b)は図12(a)に示されるXII−XII線における概略断面図である。図12に示されるように、第1気化燃料板は2以上の貫通口を有していてもよい。図12に示される第1気化燃料板114は、縦横2列に配列された合計4つの貫通口114aを有する。これは、大きな貫通口の縦方向および横方向に梁を設け、4つに分割したものということもできる。このような複数の貫通口を有する(梁を設けた)第1気化燃料板は、面内方向の剛性が向上するため、衝撃等に対する強度に優れる燃料電池セルが得られる点において有利である。また、図11に示されるような梁を設けない構造と比較して、第1気化燃料板の上下に配置される部材の熱などに起因する膨張等による貫通口の閉塞がより生じにくい点においても有利である。
【0079】
第1気化燃料板が2以上の貫通口を有する場合、その周縁部に設けられる連通経路は、貫通口ごとに、貫通口の数と同じ数だけ設けてもよいし、貫通口の数より少ない、もしくは多い数の連通経路を設けることもできる。図12の例においては、4つの貫通口114aに対して2つの連通経路114bが設けられている。このように、貫通口ごとに連通経路を設けなくてもよいが、その場合には、図12に示されるように、連通経路114bが設けられていない貫通口〔図12(a)における下2つの貫通口114a〕は、接続経路114cによって、連通経路114bが設けられた貫通口〔図12(a)における上2つの貫通口114a〕に空間的に接続される。接続経路114cは、連通経路114bと同様、貫通口間の梁に設けられた溝(凹部)であることができる〔図12(b)〕。接続経路114cを設けることにより、連通経路114bが設けられていない貫通口内に入った副生ガスを、連通経路114bを通して外部に排出することができる。
【0080】
第1気化燃料板の貫通口(気化燃料収容部)に到達した副生ガスの外部への排出効率を向上させるために、あるいは、第1気化燃料板の、第1アノード極102に供給される燃料の濃度を均一化する機能を高めるために、連通経路114bが設けられた貫通口同士および/または連通経路114bが設けられていない貫通口同士を空間的に接続する接続経路114dを設けることも好ましい〔図12(a)〕。
【0081】
連通経路の断面積(2以上の連通経路を有する場合にはこれらの断面積の合計)S1と、第1気化燃料板の側面の合計面積S0との比S1/S0は、副生ガスおよびこれに伴う熱の排出を行なうために0より大きくすることが必要であり、好ましくは0.002以上である。また、好ましくは0.3未満、より好ましくは0.1未満、さらに好ましくは0.05未満である。当該比が0.3以上になると、液体燃料の漏洩や空気の混入が起こりやすくなり、発電の安定性が低下するおそれがある。
【0082】
連通経路のすべてを燃料分配部10が結合される燃料電池セル側面に対向する側面に設ける場合など、第1気化燃料板が有する4つの周縁部のうち、いずれか1つの周縁部にのみ1または2以上の連通経路を設ける場合において、連通経路の断面積(2以上の連通経路を有する場合にはこれらの断面積の合計)S1と、連通経路が設けられる周縁部における側面の断面積S2との比S1/S2は、上記と同様の理由から、好ましくは0.008以上である。
【0083】
第1気化燃料板の材質は、プラスチック、金属または非多孔質性のカーボン材料などであることができる。プラスチックとしては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金を用いることができる。
【0084】
上記のなかでも、第1気化燃料板は、金属、ポリフェニレンサルファイド(PPS)またはポリイミド(PI)などの剛性が大きい材質からなることが好ましい。剛性が大きい第1気化燃料板を用いると、ホットプレス(熱圧着)により第1気化燃料板とこれに隣接する部材との接合が可能になるため、燃料電池セルの厚みや発電特性のばらつきを低減することができる。また、ホットプレス時において、連通経路の閉塞を有効に防止することができる。
【0085】
なお、第1気化燃料板は省略されてもよいが、上述の効果を得るために第1気化燃料板を設置することが好ましい。
【0086】
(第1気液分離層)
第1膜電極複合体104と第1流路板22aとの間であって、第1セル内燃料流路23を覆うように第1流路板22aの第1アノード極102側表面上に直接積層される第1気液分離層112は、気化燃料透過性(液体燃料の気化成分を透過できる性質)かつ液体燃料不透過性の疎水性を有する多孔質層であり、第1アノード極102への燃料の気化供給を可能とする気液分離能を有する層である。第1気液分離層112を設置し、第1セル内燃料流路23の内壁の1面を第1気液分離層112から形成すると、第1セル内燃料流路23内における液体燃料の圧力損失が高められるため、上述した圧力損失の関係を充足しやすくすることができる。
【0087】
また、第1気液分離層112は、第1アノード極102へ供給される気化燃料の量または濃度を適切量に制御(制限)するとともに、均一化する機能をも有する。第1気液分離層112を設けることにより、燃料のクロスオーバーを効果的に抑制でき、第1膜電極複合体104に温度ムラが生じにくく、安定した発電状態を維持することができる。
【0088】
第1気液分離層112としては、使用する燃料に関して気液分離能を有するものであれば特に制限されないが、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔質膜または多孔質シートを挙げることができ、具体的には、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルムである日東電工(株)製テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕の「NTF2026A−N06」や「NTF2122A−S06」が例示できる。
【0089】
気化燃料透過性および液体燃料不透過性を付与する観点から、第1気液分離層112が有する細孔の最大細孔径は、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましい。最大細孔径は、メタノール等を用いてバブルポイント(JIS K 3832)を測定することにより求めることができる。第1気液分離層112は、後述する水に対する接触角が、通常80度以上であり、より典型的には90度以上である。
【0090】
第1気液分離層112の厚みは特に制限されないが、上記機能を十分に発現させるために、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、燃料電池セルの薄型化の観点からは、第1気液分離層112の厚みは500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0091】
(第1カソード保湿層および第1アノード保湿層)
第1カソード保湿層108は、第1カソード極103上、好ましくは第1カソード集電層106上に配置される、第1カソード極103で発生した水が、第1カソード極103側から燃料電池セル外に蒸散することを防止するための任意で設けられる層である。第1カソード保湿層108を設けることにより、第1カソード極103で生じた水を燃料電池セル外部に蒸散させることなく、効率的に第1電解質膜101を介して第1アノード極102に戻し、第1アノード極102での反応に有効利用させることができる。
【0092】
第1アノード保湿層107は、第1アノード極102または第1アノード集電層105と気化燃料収容部113aとの間に配置される、第1アノード極102内の水分が、第1アノード極102側から第1膜電極複合体外に(たとえば気化燃料収容部113aへ)蒸散することを防止し、第1アノード極102内に保持させるための任意で設けられる層である。第1アノード保湿層107を設けることにより、第1カソード極103で発生し、第1電解質膜101を介して第1アノード極102に到達した水を第1膜電極複合体外に蒸散させることなく第1アノード極102内に良好に保持することができる。これにより当該水が第1アノード極102での反応に有効に利用されるため、第1アノード極102での反応効率が向上し、高い発電特性を安定して発揮することができる。とりわけ、第1カソード保湿層108との併用により、当該効果をより効果的に得ることができる。
【0093】
また、第1カソード保湿層108および第1アノード保湿層107の設置は、第1電解質膜101の乾燥、ならびにこれに伴うセル抵抗の増大および発電特性の低下を防止するうえでも有効である。
【0094】
第1カソード保湿層108および第1アノード保湿層107は、気化燃料または燃料電池セル外部からの酸化剤(空気など)等を透過できるよう気体透過性であり、水に対して不溶性であって、かつ保湿性(水を蒸散させない性質)を有する材料から構成される。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;アクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ塩化ビニル等の塩素系樹脂;ポリエーテル系樹脂;ポリフェニレン系樹脂;撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔性膜(多孔質層)であることができる。これらの保湿層は、上記高分子からなる発泡体、繊維束、織繊維、不織繊維、あるいはこれらの組み合わせなどであることができる。
【0095】
第1カソード保湿層108は、燃料電池セル外部からの酸化剤(空気など)を透過できるよう気体透過性であり、かつ保湿性(水を蒸散させない性質)を有していることが望まれることから、その気孔率は、30%以上90%以下であることが好ましく、50%以上80%以下であることがより好ましい。気孔率が90%を超える場合、第1カソード極103で発生した水を燃料電池セル内に保持することが困難となり得る。一方、気孔率が30%未満である場合、燃料電池セル外部からの酸化剤(空気など)の拡散が阻害され、第1カソード極103における発電特性が低下しやすい。
【0096】
第1アノード保湿層107は、気化燃料および触媒層で生成する副生ガス(CO2ガス等)などを透過できるような気体透過性であり、かつ保湿性(水を蒸散させない性質)を有していることが望まれることから、その気孔率は、50%以上90%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましい。気孔率が90%を超える場合、第1カソード極103で発生し、第1電解質膜101を介して第1アノード極102に到達した水を第1膜電極複合体104内に保持することが困難となり得る。一方、気孔率が50%未満である場合、気化燃料および触媒層で生成する副生ガス(CO2ガス等)などの拡散が阻害され、第1アノード極102における発電特性が低下しやすい。
【0097】
第1カソード保湿層108および第1アノード保湿層107の気孔率は、当該保湿層の容積と重量を測定し、当該保湿層の比重を求め、これと素材の比重より、下記式:
気孔率(%)=〔1−(保湿層の比重/素材比重)〕×100
により算出することができる。
【0098】
第1カソード保湿層108および第1アノード保湿層107の厚みは特に制限されないが、上記機能を十分に発現させるために、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、燃料電池セルの薄型化の観点からは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0099】
第1カソード保湿層108および第1アノード保湿層107は、それ自身が高い吸水性を有して、一旦吸収した液状の水を取り込んで外部に放出しないような性質を有しないことが望まれることから、撥水性を有することが好ましい。このような観点から、これらの保湿層は、上記の中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔性膜(多孔質層)であることが好ましい。具体的には、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルムである日東電工(株)製テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕の「NTF2026A−N06」や「NTF2122A−S06」が例示できる。
【0100】
第1アノード保湿層107は、第1アノード極102上に第1アノード集電層105を配置し、この第1アノード集電層105に接するように第1アノード集電層105上に積層されることが好ましい。これにより、第1アノード極102内の水分が第1膜電極複合体104外に蒸散されることをより効果的に防止することができる。
【0101】
なお、第1カソード保湿層108および第1アノード保湿層107は必要に応じて設けられるものであり、これらの少なくともいずれか一方を省略してもよい。
【0102】
(燃料電池セルのタイプ)
第1燃料電池セル20(および、第2燃料電池セル20’、ひいては本発明の燃料電池スタック、燃料電池スタック複合体)は、固体高分子型燃料電池またダイレクトアルコール型燃料電池などであることができ、特にダイレクトアルコール型燃料電池(とりわけ、ダイレクトメタノール型燃料電池)として好適である。液体燃料としては、たとえば、メタノール、エタノールなどのアルコール類;ジメトキシメタンなどのアセタール類;ギ酸などのカルボン酸類;ギ酸メチルなどのエステル類;ならびにこれらの水溶液を挙げることができる。液体燃料は1種に限定されず、2種以上の混合物であってもよい。コストの低さや体積あたりのエネルギー密度の高さ、発電効率の高さなどの点から、メタノール水溶液または純メタノールが好ましく用いられる。また、第1カソード極に供給される酸化剤ガスとしては、空気または酸素ガスが好適であり、特に空気が好ましい。
【0103】
〔4〕第2燃料電池セル
第2燃料電池セル20’は、たとえば、第1燃料電池セル20と同様に、第2アノード極、第2電解質膜および第2カソード極をこの順で有する第2膜電極複合体;第2アノード極上に積層され、これに電気的に接続された第2アノード集電層;第2カソード極上に積層され、これに電気的に接続された第2カソード集電層;第2アノード集電層に接するように第2アノード集電層上に積層される第2アノード保湿層;第2カソード集電層に接するように第2カソード集電層上に積層される第2カソード保湿層;第2アノード極側に配置され、液体燃料を流通させる(燃料電池セル面内で拡散流通させる)ための第2セル内燃料流路23’を有する第2流路板;第2膜電極複合体と第2流路板との間であって、第2セル内燃料流路23’を覆うように第2流路板表面上に配置される、液体燃料の気化成分を透過可能な第2気液分離層;および、第2気液分離層と第2アノード保湿層との間に配置され、気化燃料収容部を具備する第2気化燃料板から構成することができる。
【0104】
この例において第2発電部21’は、第2カソード保湿層、第2カソード集電層、第2膜電極複合体、第2アノード集電層および第2アノード保湿層からなり、第2燃料供給部22’は、第2気化燃料板、第2気液分離層および第2流路板からなる。
【0105】
第2燃料電池セル20’を構成する部材の詳細については、上述の第1燃料電池セル20を構成する、対応する部材についての記述が引用される。第2燃料電池セル20’の層構成は、第1燃料電池セル20と同一であってもよいし、異なっていてもよい。燃料電池セルのタイプなどについても、第1燃料電池セル20についての記述が引用される。
【0106】
〔5〕燃料分配部
上述のように燃料分配部10は、液体燃料を導入するための導入口11、および、導入口11と各燃料電池セル20,20’のセル内燃料流路23,23’とを接続するセル外燃料流路15を内部に備える、各燃料電池セル20,20’に液体燃料を分配供給するための燃料電池セルとは独立した部材である。図1の例において導入口11の数は1個であるが、これに限定されず、燃料分配部10は、複数の導入口11を有していてもよい(たとえば、図2に示される4つの燃料電池セルを1組としたとき、1組につき1個の導入口を設けるなど)。
【0107】
燃料分配部10の外形形状は特に制限されず、適用する電子機器が有する燃料電池収容スペースの形状や面積、燃料電池スタックに組み込まれる燃料電池セルの数や配列形態などを考慮して適宜の形状とされる。燃料分配部10は、各種プラスチック材料、金属材料、合金材料などから構成することができる。
【0108】
各燃料電池セル20,20’と燃料分配部10とは、必要に応じてこれらの接触部分にパッキンなど(両面テープ等でもよい)を挟み、ネジやボルト・ナット等の締結部材を利用して結合させることができる。
【0109】
〔6〕変形例
本発明の燃料電池スタックは、以上に示した実施形態および変形例のほか、たとえば次のような変形例をも含むものである。
【0110】
(i)燃料電池スタック含まれる燃料電池セルの数は特に限定されず、少なくとも、1つの第1燃料電池セル20と、この第1燃料電池セル20の主面上に配置される1つの第2燃料電池セル20’(すなわち、少なくとも、厚み方向に積層される2つの燃料電池セル)を含んでいればよい。
【0111】
(ii)燃料電池スタックが、同一平面上に配置された2以上の燃料電池セルからなる燃料電池セル集合体を含む場合において、当該2以上の燃料電池セルは必ずしもライン状に配列されている必要はない。ただし、燃料電池セルの集積率向上、燃料電池スタックの占有面積の低減、燃料分配部の構造簡略化、ストレートな酸化剤(空気等)の供給経路の確保などの観点から、ライン状に配列することが好ましい。
【0112】
(iii)第1燃料電池セル20の主面上に配置される第2燃料電池セル20’は、必ずしも、第1燃料電池セル20の直上に配置される(対向配置される)必要はないが、燃料電池スタックの占有面積の低減などの観点から、対向配置させることが好ましい。
【0113】
(iv)第1燃料電池セル20と、その主面上に配置される(対向配置される)第2燃料電池セル20’とは、図2〜4などに示されるように、それらのカソード極側が対向するように配置してもよいし、いずれか一方の燃料電池セルのカソード極側と他方の燃料電池セルの燃料供給部側とが対向するように、すなわち、第1カソード極側と第2燃料供給部側とが対向するように、または、第2カソード極側と第1燃料供給部側とが対向するように離間して配置してもよい。
【0114】
カソード極側が対向するように配置する場合、燃料電池スタックの最厚部の厚みをより小さくできる、第1燃料電池セル20のための酸化剤供給経路と第2燃料電池セル20’のための酸化剤供給経路とを共通化できる(すなわち、図2などにおける空間30が共通化された酸化剤供給経路である)、などの利点がある。
【0115】
(v)第1燃料電池セル20と、この第1燃料電池セル20の主面上に配置される第2燃料電池セル20’との距離(空間30の幅)は特に制限されないが、各燃料電池セルのカソード極への酸化剤供給効率を考慮すると、好ましくは0.5〜5.0mmである。
【0116】
(vi)燃料電池スタックが、同一平面上にライン状に配列された2以上の燃料電池セルを含む場合において、これらの燃料電池セルは、図1のように、隣り合う燃料電池セル間に隙間が形成されるように配置してもよいし、図13のように、隙間なく配置してもよい。前者の構成(図1の構成)は、酸化剤として、たとえば空気を用い、送風用のファンやブロアなどの補機を用いることなく、燃料電池スタック周囲の空気を自然対流によって取り込む場合に、上記隙間から空気を取り込むことができるため有利である。また、後者の構成(図13の構成)は、上記補機を用いて、燃料電池スタック側面から空気などの酸化剤を送り込む場合、空間30に確実に酸化剤を流すことができるために有利である。
【0117】
<燃料電池スタック複合体>
本発明において「燃料電池スタック複合体」とは、第1燃料電池スタックと、その主面上に配置される第2燃料電池スタックとを含むものであり、換言すれば、複数の燃料電池スタックをその厚み方向に積層したものである。燃料電池スタック複合体は、3以上の燃料電池スタックを含んでいてもよい。
【0118】
第1および第2燃料電池スタックとしては、上述の本発明に係る燃料電池スタックが用いられる。第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックとは互いに接して積層されていてもよいし、空間を設けて(離間して)配置してもよい。
【0119】
図14は、本発明に係る燃料電池スタック複合体の一例を示す概略斜視図である。図14に示される燃料電池スタック複合体6は、第1燃料電池スタック1aと、その主面上に接して積層される第2燃料電池スタック1bとを含む。第1および第2燃料電池スタック1a,1bはいずれも、図3と同様の燃料流路構造を有している(参照符号10’、11’、16’〜18’、19a’および19b’は、それぞれ10、11、16〜18、19aおよび19bと同じ意味である)が、第2燃料電池スタック1bの燃料分配部10’においては、第1主流路16’が、第1燃料電池スタック1aの導入口11まで延びており、第1燃料電池スタック1aのセル外燃料流路15と第2燃料電池スタック1bのセル外燃料流路15’とが互いに連通している。これにより、導入口11’からの液体燃料の供給により、燃料電池スタック複合体が有するすべての燃料電池セルへの燃料供給が可能となっている。
【0120】
このように、複数の燃料電池スタックをその厚み方向に積層する場合においては、それらのセル外燃料流路の接続部分において、上側の燃料電池スタック(第2燃料電池スタック1b)のセル外燃料流路(セル外燃料流路15’)の断面積を、下側の燃料電池スタック(第1燃料電池スタック1a)のセル外燃料流路(セル外燃料流路15)の断面積より大きくすることが好ましい。これにより、上述の圧力損失の関係を充足することによって得られる各燃料電池スタック内における対向配置された第1燃料電池セル20および第2燃料電池セル20’への燃料供給の均一化だけでなく、第1燃料電池スタック1aおよび第2燃料電池スタック1bへの均一な燃料供給が可能になるため、燃料電池スタック複合体が有するすべての燃料電池セルへの均一な燃料供給が可能となる。
【0121】
なお、図14に示される燃料流路構造は一例であり、上述のように、所定の圧力損失の関係を満たす限りにおいて種々の形状を採り得る(たとえば図2、図4または図6に示す形状など)。
【0122】
また、第1燃料電池スタック1aと第2燃料電池スタック1bとが接して積層される場合において、隣接する第1燃料供給部22と第2燃料供給部22’とを一体化し、1つの部材で構成することもできる。この際、この一体化された燃料供給部は、第1セル内燃料流路23と第2セル内燃料流路23’の双方を有していてもよいし、あるいは図15に示される第3燃料電池セル20’’のように、第1セル内燃料流路23と第2セル内燃料流路23’とを一体化し、1つのセル外燃料流路のみを有するようにしてもよい。特に後者の場合には、燃料電池スタック複合体の薄型化に有利である。
【0123】
<燃料電池システム>
上記本発明に係る燃料電池スタックおよび燃料電池スタック複合体は、液体燃料を収容する燃料タンクなどを付設して燃料電池システムとすることができる。図16および図17はそれぞれ、燃料電池システムの一例を示す概略斜視図、概略断面図である。
【0124】
図16および図17に示される燃料電池システム5は、上述の本発明に係る燃料電池スタック1と、これに液体燃料を送液する送液ユニット(送液部)2とを備える。送液ユニット2は、少なくとも、燃料電池スタック1が有する燃料分配部10の導入口11に接続され、液体燃料を収容する燃料タンク2aを備えており、必要に応じて、燃料タンク2aから導入口11への液体燃料の流動を促進させる送液ポンプなどの送液手段2bを含む。送液手段2bを含む場合、たとえば、送液ユニット2は、燃料タンク2aと送液手段2bとを第1送液路3で接続し、送液手段2bと燃料分配部10の導入口11とを第2送液路4で接続した構成とすることができる。
【0125】
燃料電池スタック1の代わりに燃料電池スタック複合体、たとえば図14の燃料電池スタック複合体6を用いる場合には、第2燃料電池スタック1bの導入口11’に燃料タンク2a(あるいは第2送液路4)が接続される。
【0126】
本発明の燃料電池スタック、燃料電池スタック複合体および燃料電池システムは、電子機器、特には、携帯電話、電子手帳、ノート型パソコンに代表される携帯機器などの小型電子機器用の電源として好適に用いることができる。
【実施例】
【0127】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0128】
<実施例1>
以下の手順で、図1に示される構成の燃料電池スタックおよびこれを用いた燃料電池システムを作製した。燃料電池スタックが有する燃料流路の構造は図2に示されるとおりであり、第1および第2燃料電池セル20,20’の層構成は図7に示されるとおりである。
【0129】
(1)膜電極複合体の作製
Pt担持量32.5重量%、Ru担持量16.9重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC66E50、田中貴金属社製)と、電解質である20重量%のナフィオン(登録商標)のアルコール溶液(アルドリッチ社製)と、n−プロパノールと、イソプロパノールと、ジルコニアボールとを、所定の割合でフッ素系樹脂製の容器に入れ、攪拌機を用いて500rpmで50分間の混合を行なうことにより、アノード極用の触媒ペーストを作製した。また、Pt担持量46.8重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC10E50E、田中貴金属社製)を用いること以外はアノード極用の触媒ペーストと同様にして、カソード極用の触媒ペーストを作製した。
【0130】
ついで、片面に撥水性を有する多孔質層が形成されたカーボンペーパー(25BC、SGL社製)を縦35mm、横40mmに切断した後、その多孔質層上に、上記のアノード極用の触媒ペーストを触媒担持量が約3mg/cm2となるように、縦30mm、横35mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、アノード導電性多孔質層であるカーボンペーパー上の中央にアノード触媒層が形成された、厚み約300μmのアノード極を作製した。また、同じサイズのカーボンペーパーの多孔質層上に、上記のカソード極用の触媒ペーストを触媒担持量が約1mg/cm2となるように、縦30mm、横35mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、カソード導電性多孔質層であるカーボンペーパー上の中央にカソード触媒層が形成された、厚み約270μmのカソード極を作製した。
【0131】
次に、厚み約175μmのパーフルオロスルホン酸系イオン交換膜(ナフィオン(登録商標)117、デュポン社製)を縦35mm、横40mmに切断して電解質膜とし、上記アノード極と電解質膜と上記カソード極をこの順で、それぞれの触媒層が電解質膜に対向するように重ね合わせた後、130℃、2分間の熱圧着を行ない、アノード極およびカソード極を電解質膜に接合した。上記重ね合わせは、アノード極とカソード極の電解質膜の面内における位置が一致するように、かつアノード極と電解質膜とカソード極の中心が一致するように行なった。ついで、得られた積層体の外周部を切断することにより、縦22mm、横26mmの膜電極複合体(MEA)を作製した。
【0132】
(2)集電層の積層
縦26.5mm、横27mm、厚み0.1mmのステンレス板(NSS445M2、日新製鋼社製)を用意し、この中央領域に、開孔径φ0.6mmである複数の開孔(開孔パターン:千鳥60°ピッチ0.8mm)を、フォトレジストマスクを用いたウェットエッチングにて両面から加工することにより、厚み方向に貫通する貫通孔を複数備えるステンレス板を2枚作製し、これらをアノード集電層およびカソード集電層とした。
【0133】
次に、上記アノード集電層をアノード極上に、カーボン粒子とエポキシ樹脂とからなる導電性接着剤層を介して積層するとともに、カソード集電層をカソード極上に、同じ導電性接着剤層を介して積層し、これらを熱圧着により接合して、MEA−集電層積層体を作製した。
【0134】
(3)保湿層の接合
アノード保湿層およびカソード保湿層として、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルム(日東電工(株)製の「テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕NTF2122A−S06」、縦22mm、横26mm、厚み0.2mm、気孔率75%)を2枚用意した。これらの保湿層をMEA−集電層積層体のアノード集電層およびカソード集電層上に、ポリオレフィンからなる接着剤層を介して積層し、これらを熱圧着により接合した。これらの保湿層は、MEAの直上または直下に配置されるように接合した。
【0135】
(4)気化燃料板と気液分離層との接合
エッチング加工により、図12に示される形状を有する縦26.5mm、横27mm、厚み0.2mmのSUS製の気化燃料板を作製した(連通経路および接続経路はすべて溝(凹部)からなる)。貫通口の開口率は、4個の合計で63%であり、連通経路の断面積の2個の合計と気化燃料板側面の合計面積との比は0.04である。気化燃料板の溝形成面とは反対側の面に気液分離層を積層し、熱圧着によりこれらを接合した。気液分離層としては、縦26.5mm、横27mm、厚み0.2mmのポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルム(日東電工(株)製の「テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕NTF2122A−S06」)を用いた。この多孔質フィルムの水に対する接触角は120度程度であった。この多孔質フィルムのJIS K 3832に準拠したバブルポイントは、測定媒体をメタノールとしたとき、18kPaであった。
【0136】
(5)流路板の接合
図9に示したような流路パターンを有するセル内燃料流路(流路幅0.5mm、深さ0.4mm)を備えた縦26.5mm、横27mm、厚み0.6mmのSUS製の流路板を用意した。気化燃料板/気液分離層の接合体の気液分離層上にポリオレフィン系接着剤を介して流路板を積層した後、熱圧着を行なうことにより、該接合体と流路板とを接合した。
【0137】
(6)燃料電池セルの作製
気化燃料板上に、上で作製した保湿層を有するMEA−集電層積層体を積層し、熱圧着によりこれらを接合した。最後に、端面にエポキシ樹脂を塗布し硬化させることにより封止層を形成して燃料電池セルを得た。合計20個の燃料電池セルを作製した。
【0138】
(7)燃料分配部の作製
ポリフェニレンサルファイド(PPS)からなる、図1および図2に示すような外形形状を有し(外形縦10mm、横138mm、高さ6.0mm)、図2に示されるようなセル外燃料流路(1本の第1主流路、合計10本の第2主流路17、1本の第3主流路、合計10本の第1分岐流路19aおよび合計10本の第2分岐流路19b)が形成され、上面の長手方向中央部に1つの導入口を有する燃料分配部を作製した。セル外燃料流路の流路幅は1.0mm、深さは1.0mmである。
【0139】
(8)燃料電池スタックの作製
20個の燃料電池セルと燃料分配部とを図1および図2に示すような配置関係で結合させた。結合は、セル内燃料流路とセル外燃料流路との接続部での液漏れを防止するため、燃料電池セル−燃料分配部間に両面テープを配置し、さらにネジにて締結することにより行なった。
【0140】
(9)燃料電池システムの作製
燃料タンクと送液ポンプ(マイクロポンプ)とをポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製配管で接続し、送液ポンプと上記で得られた燃料電池スタックが有する燃料分配部の導入口とをポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製配管で接続して燃料電池システムを作製した。
【0141】
<比較例1>
セル外燃料流路の流路幅および深さ(流路幅1.0mm、深さ1.0mm)が、セル内燃料流路と同じであること以外は実施例1と同様にして燃料電池スタックおよび燃料電池システムを作製した。
【0142】
(発電特性評価)
実施例1、比較例1の燃料電池スタックについて、10mol/Lのメタノール水溶液を燃料タンクに充填し、送液ポンプを用いて導入口に供給し、燃料電池スタックによる発電を開始した後に、各燃料電池セルそれぞれに、毎分10mA/cm2の負荷電流を段階的に増加させた際における燃料電池セルごとの電圧変化(I−V特性)を測定した。結果を図18(実施例1)、図19(比較例1)に示す。なお、第1燃料電池セルの10個(燃料電池システムにおける重力方向下側に配置)をセル1−A,1−B,1−C,1−D,1−E,1−F,1−G,1−H,1−I,1−Jとし、第2燃料電池セルの10個(燃料電池システムにおける重力方向上側に配置)をセル2−A,2−B,2−C,2−D,2−E,2−F,2−G,2−H,2−I,2−Jとした。
【0143】
実施例1では、第1燃料電池セルと第2燃料電池セルはほぼ同一のI−V特性を示した。これは、比較例1に対して実施例1では、セル内燃料流路の流路幅および深さが小さく圧力損失を生じさせているため、セル外燃料流路がすべて液体燃料によって満たされた後に、各セル内燃料流路に均一な流量で液体燃料の供給がなされることによるものである。
【0144】
これに対して比較例1では、第2燃料電池セルのI−V特性は、第1燃料電池セルよりも低い電流密度で電圧が低下する現象(燃料供給不足に伴う物質供給律速)が認められた。また、第1燃料電池セル、第2燃料電池セルともにセル間のI−V特性が大きくばらついていることが認められた。このため、比較例1では、本来の燃料電池セルの特性を引き出すことができておらず、燃料電池システム全体の出力を低下させてしまっている。
【0145】
比較例1のように各燃料電池セルでI−V特性が大きく異なる現象は、特に、第1燃料電池セルと第2燃料電池セルを電気的に直列接続する場合に大きな問題となる。直列回路内において、第1燃料電池セルと第2燃料電池セルには、同じ電流量が流れるため、もっとも性能が低い第2燃料電池セルに流せる電流量によって、回路内の電流量が決定される。このため、本来良好な潜在能力を有する第1燃料電池セルまでもが、十分に高い出力で発電させることができなくなる。
【符号の説明】
【0146】
1 燃料電池スタック、1a 第1燃料電池スタック、1b 第2燃料電池スタック、2 送液ユニット、2a 燃料タンク、2b 送液手段、3 第1送液路、4 第2送液路、5 燃料電池システム、6 燃料電池スタック複合体、10,10’ 燃料分配部、11,11’ 導入口、15,15’ セル外燃料流路、16,16’ 第1主流路、16A 端部、17,17’ 第2主流路、17A 端部、18,18’ 主流路、19a,19a’ 第1分岐流路、19b,19b’ 第2分岐流路、20 第1燃料電池セル、20’ 第2燃料電池セル、20’’ 第3燃料電池セル、21 第1発電部、21’ 第2発電部、22 第1燃料供給部、22a 第1流路板、22’ 第2燃料供給部、23 第1セル内燃料流路、23’ 第2セル内燃料流路、30 空間(酸化剤経路)、40 第1燃料電池セル集合体、50 第2燃料電池セル集合体、60 多孔質体、101 第1電解質膜、102 第1アノード極、103 第1カソード極、104 第1膜電極複合体、105 第1アノード集電層、106 第1カソード集電層、107 第1アノード保湿層、108 第1カソード保湿層、112 第1気液分離層、113,114 第1気化燃料板、113a,114a 気化燃料収容部(貫通口)、113b,114b 連通経路、114c,114d 接続経路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アノード極、第1電解質膜および第1カソード極をこの順で有する第1膜電極複合体、ならびに、液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路を有し、前記第1アノード極側に配置される第1燃料供給部を備える第1燃料電池セルと、
前記第1燃料電池セルの主面上に配置される燃料電池セルであって、第2アノード極、第2電解質膜および第2カソード極をこの順で有する第2膜電極複合体、ならびに、液体燃料を流通させるための第2セル内燃料流路を有し、前記第2アノード極側に配置される第2燃料供給部を備える第2燃料電池セルと、
前記第1および第2燃料電池セルに結合され、前記第1および第2燃料電池セルへの前記液体燃料の分配を行なうための燃料分配部と、を含み、
前記燃料分配部は、前記液体燃料を導入するための導入口、ならびに、前記導入口と前記第1および第2セル内燃料流路とを接続するセル外燃料流路を有し、
前記第1および第2セル内燃料流路と前記セル外燃料流路とからなる燃料流路は、前記第1および第2セル内燃料流路と前記セル外燃料流路との接続部分またはその近傍を境に、前記導入口から前記セル外燃料流路を介して前記第1および第2セル内燃料流路に流れる液体燃料の圧力損失が大きくなるように構成されている燃料電池スタック。
【請求項2】
少なくとも前記第1および第2セル内燃料流路と前記セル外燃料流路との接続部分またはその近傍において、該接続部分またはその近傍を基準に前記導入口側の燃料流路部分の断面積が、それ以外の燃料流路部分の断面積よりも大きい請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
少なくとも前記第1および第2セル内燃料流路と前記セル外燃料流路との接続部分において、前記セル外燃料流路の断面積が、前記第1および第2セル内燃料流路の断面積よりも大きい請求項2に記載の燃料電池スタック。
【請求項4】
前記第1および第2セル内燃料流路と前記セル外燃料流路との接続部分またはその近傍における前記燃料流路内に多孔質体が充填されている請求項2または3に記載の燃料電池スタック。
【請求項5】
前記セル外燃料流路は、前記導入口に接続される主流路、前記主流路における前記導入口とは反対側の端部と前記第1セル内燃料流路とを接続する第1分岐流路、および、前記端部と前記第2セル内燃料流路とを接続する第2分岐流路からなり、
前記第1および第2分岐流路は、前記第1または第2燃料電池セルの主面に対して略垂直方向に延びる流路部分を含む請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項6】
前記第1分岐流路と前記第1セル内燃料流路とは、その接続部分において、前記第1燃料電池セルの主面に対して略垂直方向に延びる流路を形成しており、前記第2分岐流路と前記第2セル内燃料流路とは、その接続部分において、前記第2燃料電池セルの主面に対して略垂直方向に延びる流路を形成している請求項5に記載の燃料電池スタック。
【請求項7】
前記第1分岐流路と前記第1セル内燃料流路とは、その接続部分において、前記第1燃料電池セルの主面に対して略平行に延びる流路を形成しており、前記第2分岐流路と前記第2セル内燃料流路とは、その接続部分において、前記第2燃料電池セルの主面に対して略平行に延びる流路を形成している請求項5に記載の燃料電池スタック。
【請求項8】
前記第1燃料電池セルと前記第2燃料電池セルとは、前記第1カソード極側と前記第2カソード極側とが対向するように離間して配置されている請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項9】
前記第1燃料電池セルと前記第2燃料電池セルとは、前記第1カソード極側と前記第2燃料供給部側とが対向するように、または、前記第2カソード極側と前記第1燃料供給部側とが対向するように離間して配置されている請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項10】
同一平面上に配置される2以上の前記第1燃料電池セルからなる第1燃料電池セル集合体と、
前記第1燃料電池セル集合体の主面上に配置される燃料電池セル集合体であって、同一平面上に配置され、かつ前記第1燃料電池セルのそれぞれに対向配置される2以上の前記第2燃料電池セルからなる第2燃料電池セル集合体と、
すべての前記第1および第2燃料電池セルに結合される前記燃料分配部と、
を含む請求項1〜9のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項11】
前記第1燃料電池セル集合体は、ライン状に配列した2以上の第1燃料電池セルからなり、前記第2燃料電池セル集合体は、ライン状に配列した2以上の第2燃料電池セルからなる請求項10に記載の燃料電池スタック。
【請求項12】
前記第1燃料電池セル集合体において、2以上の第1燃料電池セルは、隣り合う2つの第1燃料電池セルの間に隙間が形成されるように配置されており、前記第2燃料電池セル集合体において、2以上の第2燃料電池セルは、隣り合う2つの第2燃料電池セルの間に隙間が形成されるように配置されている請求項11に記載の燃料電池スタック。
【請求項13】
前記第1燃料電池セル集合体は、2以上の第1燃料電池セルを隙間なくライン状に配列したものであり、前記第2燃料電池セル集合体は、2以上の第2燃料電池セルを隙間なくライン状に配列したものである請求項11に記載の燃料電池スタック。
【請求項14】
ダイレクトアルコール型燃料電池である請求項1〜13のいずれかに記載の燃料電池スタック。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の燃料電池スタックである第1燃料電池スタックと、
前記第1燃料電池スタックの主面上に配置される、請求項1〜14のいずれかに記載の燃料電池スタックである第2燃料電池スタックと、
を含む燃料電池スタック複合体であって、
前記第1燃料電池スタックのセル外燃料流路と、前記第2燃料電池スタックのセル外燃料流路とは互いに連通しており、
少なくともこれらのセル外燃料流路の接続部分において、前記第2燃料電池スタックのセル外燃料流路の断面積が、前記第1燃料電池スタックのセル外燃料流路の断面積より大きい燃料電池スタック複合体。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれかに記載の燃料電池スタックまたは請求項15に記載の燃料電池スタック複合体と、
前記燃料電池スタックまたは燃料電池スタック複合体に接続される、前記液体燃料を収容するための燃料タンクと、
を含む燃料電池システム。
【請求項17】
前記燃料タンクから前記燃料電池スタックまたは燃料電池スタック複合体への前記液体燃料の流動を促進させる送液手段をさらに含む請求項16に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−58370(P2013−58370A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195653(P2011−195653)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】