説明

燃料電池スタック

【課題】積層体の荷重を確実に保持して変形を良好に抑制するとともに、単位セルの機能低下を可及的に阻止することを可能にする。
【解決手段】燃料電池スタック10は、複数の単位セル12を積層した積層体13をボックス状のケーシング14内に収容する。ケーシング14内には、積層体13の下面に配置され、前記積層体13の荷重を受けるとともに、少なくとも前記積層体13の積層方向に移動可能な可動支持部62が設けられる。この可動支持部62は、ボール付きリニアガイドを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極が電解質の両側に設けられた電解質・電極構造体をセパレータにより挟持した単位セルを、水平方向に複数積層した積層体を備え、前記積層体がエンドプレート間に配設される燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜(電解質)を採用している。この電解質膜の両側にアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータによって挟持することにより単位セルが構成されている。通常、燃料電池は、所望の発電力を得るために、所定数(例えば、数十〜数百)の単位セルを積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この場合、燃料電池スタックは、多数の単位セルが積層された積層体を備えているため、重量物になるとともに、積層方向に相当に長尺化されている。従って、燃料電池スタック全体に積層方向に締め付け力を付与した状態でも、振動や揺動等に起因して積層体の積層形状が変形し易い。このように、積層体の積層形状が変形すると、単位セルと外部部品との干渉が惹起され易くなり、前記単位セルのシール機能や絶縁機能が低下するおそれがある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池は、図6に示すように、下部ケース1を備えており、この下部ケース1は、底部2と側部3とから構成されている。底部2には、上に凸となる湾曲部4が形成されるとともに、側部3の近傍にそれぞれ湾曲部5が形成されている。
【0005】
底部2には、下に凸となるように、湾曲部6が形成されている。湾曲部4、5は、図示しない積層体を積層する際の位置決めとして用いられている。さらに、湾曲部4、5及び6により、下部ケース1の剛性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−171926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の特許文献1では、特に、重量物の積層体が下部ケース1内に配置されると、前記積層体の底面が湾曲部4、5に直接接触している。このため、単位セルと湾曲部4、5との固有振動数の相違による擦れ音が発生するとともに、前記単位セルの表面摩耗によるシール機能及び絶縁機能の低下が惹起されるという問題がある。
【0008】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、積層体の荷重を確実に保持することができ、変形を良好に抑制して、単位セルの機能低下を可及的に阻止することが可能な燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一対の電極が電解質膜の両側に設けられた電解質膜・電極構造体をセパレータにより挟持した単位セルを、水平方向に複数積層した積層体を備え、前記積層体がエンドプレート間に配設される燃料電池スタックに関するものである。
【0010】
この燃料電池スタックでは、積層体の下面に配置され、前記積層体の荷重を受けるとともに、少なくとも前記積層体の積層方向に移動可能な可動支持部を備えている。
【0011】
また、この燃料電池スタックでは、可動支持部は、ボール付きリニアガイドを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、可動支持部が積層体の自重を支持することにより、前記積層体に撓み(積層方向の変形)が発生することを抑制することができる。しかも、可動支持部は、積層体の積層方向に移動可能である。このため、例えば、電解質膜の含水量が変動して積層体が積層方向に伸縮する際に、可動支持部は、前記積層体が伸縮する方向に滑らかに移動することができる。これにより、単位セルと可動支持部との間に擦れが発生することがなく、前記単位セルのシール機能の低下や絶縁機能の低下を可及的に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料電池スタックの概略斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池スタックの一部断面側面図である。
【図3】前記燃料電池スタックを構成する単位セルの分解斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る燃料電池スタックを構成する可動支持部の要部断面説明図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る燃料電池スタックの概略説明図である。
【図6】特許文献1に開示されている燃料電池の一部断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池スタック10は、複数の単位セル12が矢印A方向に積層された積層体13をボックス状のケーシング14内に収容している。
【0015】
ケーシング14は、積層体13の積層方向両端に配置されるエンドプレート16a、16bと、前記積層体13の側部に配置される4枚の側部パネル18a〜18dと、前記エンドプレート16a、16b及び前記側部パネル18a〜18dを互いに連結するヒンジ機構20とを備える。側部パネル18a〜18dは、ステンレス鋼(SUS304等)、その他の金属材又はカーボンファイバーで構成される。
【0016】
図2及び図3に示すように、単位セル12は、アノード側電極24とカソード側電極26との間に、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜28が介装された電解質膜・電極構造体(MEA)30を備える。
【0017】
アノード側電極24及びカソード側電極26は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜28の両面に形成される。
【0018】
電解質膜・電極構造体30は、ガスケット32a、32bを介装してセパレータ34a、34bに挟持される。セパレータ34a、34bは、金属プレート又はカーボンプレートで構成される。
【0019】
単位セル12の長辺方向(図3中、矢印B方向)の一端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス供給連通孔36a、冷却媒体を供給するための冷却媒体供給連通孔38a、及び燃料ガス、例えば、水素含有ガスを排出するための燃料ガス排出連通孔40bが矢印C方向に、順次、設けられる。
【0020】
単位セル12の長辺方向の他端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを供給するための燃料ガス供給連通孔40a、冷却媒体を排出するための冷却媒体排出連通孔38b、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出連通孔36bが矢印C方向に、順次、設けられる。
【0021】
セパレータ34aの電解質膜・電極構造体30に対向する面には、燃料ガス供給連通孔40aと燃料ガス排出連通孔40bとを連通する燃料ガス流路42が形成される。この燃料ガス流路42は、例えば、矢印B方向に延在する複数本の溝部により構成される。セパレータ34aの反対の面には、冷却媒体供給連通孔38aと冷却媒体排出連通孔38bとを連通する冷却媒体流路44が形成される。この冷却媒体流路44は、矢印B方向に延在する複数本の溝部により構成される。
【0022】
セパレータ34bの電解質膜・電極構造体30に向かう面には、例えば、矢印B方向に延在する複数本の溝部からなる酸化剤ガス流路46が設けられるとともに、この酸化剤ガス流路46は、酸化剤ガス供給連通孔36aと酸化剤ガス排出連通孔36bとに連通する。セパレータ34bの反対の面には、セパレータ34aと重なり合って冷却媒体流路44が一体的に形成される。
【0023】
図2に示すように、積層体13の積層方向一端側には、ターミナルプレート48a及び絶縁プレート50aが配設されるとともに、前記積層体13の積層方向他端側には、ターミナルプレート48b及び絶縁プレート50bが配設される。ターミナルプレート48a、48bの端部には、面方向に突出する板状の端子部52a、52bが形成される。端子部52a、52bには、例えば、図示しない走行用モータ等の負荷が接続される。
【0024】
絶縁プレート50bとエンドプレート16bとの間には、支持プレート54及び可動加圧プレート56が配設される。可動加圧プレート56のエンドプレート16bに対向する面には、複数の支軸58が設けられるとともに、各支軸58には、所定数の弾性部材、例えば、複数の皿ばね(又はコイルスプリング、ゴム部材、樹脂部材等)60が配置される。
【0025】
ケーシング14内には、積層体13の下面に配置され、前記積層体13の荷重を受けるとともに、少なくとも前記積層体13の積層方向に移動可能な可動支持部62が設けられる。
【0026】
可動支持部62は、ボール付きリニアガイドを構成しており、側部パネル18d上にボルトや溶接等により固定される固定板64を備える。固定板64には、複数のボール66及びボールリテーナ68を介して可動板70が配設される。可動板70は、水平面内を360°移動可能であり、燃料電池スタックを構成する積層体13の一部の単位セル12である複数の単位セル12、例えば、3つの前記単位セル12を載置する。可動支持部62は、積層体13の積層方向略中央に配置される他、前記積層体13の積層方向の中間部分に配置されてもよい。可動支持部62の配置数及び配置場所は、積層体13の重量や寸法等に応じて種々設定可能である。
【0027】
このように構成される燃料電池スタック10の動作について、以下に説明する。
【0028】
先ず、図1に示すように、燃料電池スタック10では、エンドプレート16aの酸化剤ガス供給連通孔36aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス供給連通孔40aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体供給連通孔38aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。このため、積層体13では、矢印A方向に重ね合わされた複数組の単位セル12に対し、酸化剤ガス、燃料ガス及び冷却媒体が矢印A方向に供給される。
【0029】
図3に示すように、酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給連通孔36aからセパレータ34bの酸化剤ガス流路46に導入され、電解質膜・電極構造体30のカソード側電極26に沿って移動する。一方、燃料ガスは、燃料ガス供給連通孔40aからセパレータ34aの燃料ガス流路42に導入され、電解質膜・電極構造体30のアノード側電極24に沿って移動する。
【0030】
従って、各電解質膜・電極構造体30では、カソード側電極26に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極24に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。
【0031】
次いで、カソード側電極26に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス排出連通孔36bに沿って流動した後、エンドプレート16aから外部に排出される。同様に、アノード側電極24に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス排出連通孔40bに排出されて流動し、エンドプレート16aから外部に排出される。
【0032】
また、冷却媒体は、冷却媒体供給連通孔38aからセパレータ34a、34b間の冷却媒体流路44に導入された後、矢印B方向に沿って流動する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体30を冷却した後、冷却媒体排出連通孔38bを移動してエンドプレート16aから排出される。
【0033】
この場合、第1の実施形態では、図2に示すように、ケーシング14内に可動支持部62が設けられており、積層体13は、所定数の単位セル12が前記可動支持部62上に載置されている。このため、可動支持部62は、積層体13の自重を支持することにより、前記積層体13に撓み(積層方向の変形)が発生することを抑制することができる。
【0034】
しかも、可動支持部62では、単位セル12が直接載置される可動板70は、複数のボール66及びボールリテーナ68を介して固定板64に対し水平面内に種々の方向、特に積層体13の積層方向に移動可能である。従って、例えば、固体高分子電解質膜28の含水量が変動して積層体13が積層方向に伸縮する際に、可動支持部62は、前記積層体13が伸縮する方向に移動することができる。
【0035】
これにより、単位セル12と可動支持部62との間に擦れが発生することがなく、前記単位セル12のシール機能の低下や絶縁機能の低下を可及的に抑制することが可能になるという効果が得られる。しかも、可動支持部62は、構成が簡素化されており、製造コストが有効に削減されて経済的である。
【0036】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池スタックを構成する可動支持部80の要部断面説明図である。
【0037】
なお、第1の実施形態に係る燃料電池スタック10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0038】
可動支持部80は、ボールトランスファ(ボール付きリニアガイド)を構成しており、側部パネル18d上に配置(又は固着)される基台82を備える。基台82は、半球面状のボールガイド84を有し、このボールガイド84に複数のボール86が収容されるとともに、前記ボール86により球状体88が回転自在に支持される。
【0039】
球状体88には、板状のステージ90が載置され、このステージ90は、水平面内に360°にわたって移動可能である。ステージ90上には、所定数の単位セル12が載置される。
【0040】
このように構成される第2の実施形態では、可動支持部62に代えて可動支持部80が設けられている。従って、積層体13に撓みが発生することを有効に抑制するとともに、単位セル12と前記可動支持部80との間に擦れが惹起されることを阻止できる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0041】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池スタック100の側面説明図である。
【0042】
燃料電池スタック100は、マウント部材102a、102bを介して取り付け板104に固定される。マウント部材102a、102bは、エンドプレート16a、16bをねじ止め等により固定保持するとともに、前記エンドプレート16a、16b間は、図示しないが、例えば、タイロッドにより積層方向に締め付けられる。積層体13の下面には、可動支持部62が設けられる。なお、可動支持部62に代えて、可動支持部80を採用してもよい。
【0043】
このように構成される第3の実施形態では、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0044】
10、100…燃料電池スタック 12…単位セル
13…積層体 14…ケーシング
16a、16b…エンドプレート 18a〜18d…側部パネル
24…アノード側電極 26…カソード側電極
28…固体高分子電解質膜 30…電解質膜・電極構造体
34a、34b…セパレータ 36a…酸化剤ガス供給連通孔
36b…酸化剤ガス排出連通孔 38a…冷却媒体供給連通孔
38b…冷却媒体排出連通孔 40a…燃料ガス供給連通孔
40b…燃料ガス排出連通孔 42…燃料ガス流路
44…冷却媒体流路 46…酸化剤ガス流路
60…皿ばね 62、80…可動支持部
64…固定板 66、86…ボール
68…ボールリテーナ 70…可動板
82…基台 84…ボールガイド
88…球状体 90…ステージ
102a、102b…マウント部材 104…取り付け板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極が電解質膜の両側に設けられた電解質膜・電極構造体をセパレータにより挟持した単位セルを、水平方向に複数積層した積層体を備え、前記積層体がエンドプレート間に配設される燃料電池スタックであって、
前記積層体の下面に配置され、該積層体の荷重を受けるとともに、
少なくとも前記積層体の積層方向に移動可能な可動支持部を備えることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池スタックにおいて、前記可動支持部は、ボール付きリニアガイドを備えることを特徴とする燃料電池スタック。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate