説明

燃料電池セパレータ用組成物、燃料電池セパレータ、及び燃料電池の製造方法

【課題】高温雰囲気下などの過酷な条件下における耐性が高い燃料電池セパレータを製造するための燃料電池セパレータ用組成物を提供する。
【解決手段】燃料電池セパレータ用組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、及び黒鉛粒子を含有し、且つ、前記硬化促進剤の少なくとも一部として下記構造式(1)で示される化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セパレータ用組成物、燃料電池セパレータ、及び燃料電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に燃料電池は複数の単位セルを数十〜数百個直列に重ねて構成されるセルスタックから成り、これにより所定の電圧を得ている。
【0003】
単位セルの最も基本的な構造は、「セパレータ/燃料電極(アノード)/電解質/酸化剤電極(カソード)/セパレータ」という構成を有している。この単位セルにおいては、電解質を介して対向する一対の電極のうち燃料電極に燃料が、酸化剤電極に酸化剤が供給され、電気化学反応により燃料が酸化されることで、反応の化学エネルギーが直接電気化学エネルギーに変換される。
【0004】
このような燃料電池は、電解質の種類によりいくつかのタイプに分類される。近年、高出力が得られる燃料電池として、電解質に固体高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池が注目されている。
【0005】
図1に固体高分子型燃料電池の一例を示す。厚み方向に面する両面に複数個の凸部(リブ)1aが形成されている2枚の燃料電池セパレータA,Aと、その間に介在する、電解質4(固体高分子電解質膜)とガス拡散電極(燃料電極3aと酸化剤電極3b)とから構成される膜−電極複合体(MEA)5とで、単電池(単位セル)が構成されている。この単位セルが数十個〜数百個並設されることで、電池本体(セルスタック)が構成されている。燃料電池セパレータAには、隣り合う凸部1a同士の間に、燃料である水素ガスと、酸化剤である酸素ガスの流路であるガス供給排出用溝2が形成される。
【0006】
このようなセルスタックは、家庭用定置型の場合は例えば50〜100個の単位セルで構成され、自動車積載用の場合は例えば400〜500個の単位セルで構成され、ノートパソコン搭載用の場合は例えば10〜20個の単位セルで構成される。
【0007】
固体高分子型燃料電池では、燃料電極に流体である水素ガスが、酸化剤電極に流体である酸素ガスが、それぞれ供給されることにより駆動する。この際、各電極においては下記式に示したような反応が生じている。
【0008】
燃料電極反応 : H→2H+2e…(1)
酸化剤電極反応 : 2H++2e+1/2O→HO…(2)
全体反応 : H+1/2O→H
即ち、燃料電極上で水素(H)はプロトン(H)となり、このプロトンが固体高分子電解質膜4中を酸化剤電極上まで移動し、酸化剤電極上で酸素(O)と反応して水(HO)を生ずる。従って、固体高分子型燃料電池の運転には、反応ガスの供給と排出、電流の取り出しが必要となる。
【0009】
また、固体高分子型燃料電池は、通常、室温〜120℃以下の範囲での湿潤雰囲気下での運転が想定されており、そのため水が液体状態で扱われることが多くなるので、燃料電極への液体状態の水の補給管理と酸化剤電極からの液体状態の水の排出が必要となる。
【0010】
また、固体高分子型燃料電池の一種であるメタノール直接型燃料電池(DMFC)では、燃料として水素の代わりにメタノール水溶液が供給される。この場合、各電極においては下記式に示したような反応が生じている。空気極では酸素還元反応(水素を燃料とする場合と同じ反応)が起こっている。
【0011】
燃料極反応 : CHOH+HO→CO+6H+6e…(1’)
空気極反応 : 3/2O+6H+6e→3HO…(2’)
全体反応 : CHOH+3/2O→CO+2H
メタノール直接型燃料電池(DMFC)と通常の固体高分子型燃料電池との全体反応同士を比較すると、メタノール直接型燃料電池では6倍の水が発生しているので、酸化剤電極からの液体状態の水の排出が更に重要となる。
【0012】
このような燃料電池を構成する部品のうち、燃料電池セパレータAは、図1(a),(b)に示すように、薄肉の板状体の片面又は両面に複数個のガス供給排出用溝2を有する特異な形状を有しており、燃料電池内を流れる燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水が混合しないように分離する働きを有すると共に、燃料電池で発電した電気エネルギーを外部へ伝達したり、燃料電池で生じた熱を外部へ放熱するなどの、重要な役割を担っている。
【0013】
燃料電池セパレータは、ガラス転移温度が高く熱時剛性に優れていることや、成形時の連続成形性が良好なことが要求されている。特に、燃料電池セパレータの表面上でガスケットなどが直接形成される場合には、ガスケットの形成時などに燃料電池セパレータが高温に曝されるため、燃料電池セパレータが高ガラス転移温度を有すること、及び熱時剛性に優れていることが、益々重要になる。
【0014】
このような要求を満たすため、燃料電池セパレータは主としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂から作製されていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−16307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が使用される場合、燃料電池セパレータは上記の特性に優れるとしても、吸湿しやすいという問題がある。燃料電池セパレータの吸湿は、燃料電池セパレータの長期耐久性を妨げる原因となる。
【0017】
また、燃料電池セパレータの表面上でガスケットが形成されるなどしてガラス転移点以上の高温に加熱されると、耐熱性の低い、もしくは熱時の靭性の低い燃料電池セパレータでは、クラックが発生するおそれもある。また、燃料電池セパレータの表面上でガスケットが形成された後、燃料電池セパレータが吸湿量が多いと寸法変化が大きくなり、燃料電池セパレータとガスケットの間に応力が作用して、燃料電池セパレータにクラックが発生するおそれもある。
【0018】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂に代えて、吸湿性の低いエポキシ樹脂を使用することも考えられるが、燃料電池セパレータに要求される高いガラス転移温度、良好な連続成形性などを維持しつつ、高い耐湿性をも発揮させることは、未だ達成されていない。
【0019】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、燃料電池セパレータのガラス転移温度の低下、及び連続成形性の悪化を抑制しながら、耐湿性が向上された燃料電池セパレータを得ることができる燃料電池セパレータ用組成物、この組成物から製造される燃料電池セパレータ、及びこの燃料電池セパレータを使用した燃料電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第一の発明に係る燃料電池セパレータ用組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、及び黒鉛粒子を含有し、前記硬化促進剤の少なくとも一部として下記構造式(1)で示される化合物を含有する。
【0021】
【化1】

【0022】
第一の発明において、前記構造式(1)で示される化合物の、前記硬化促進剤全量に対する割合が、20〜100質量%の範囲であることが好ましい。
【0023】
第一の発明において、前記エポキシ樹脂の少なくとも一部として、下記構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を含有することも好ましい。
【0024】
【化2】

【0025】
第一の発明に係る燃料電池セパレータ用組成物は、前記エポキシ樹脂の少なくとも一部として、下記構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂を含有することも好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
第一の発明に係る燃料電池セパレータ用組成物は、前記エポキシ樹脂の少なくとも一部として、下記構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂を含有することも好ましい。
【0028】
【化4】

【0029】
第一の発明に係る燃料電池セパレータ用組成物は、前記構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と、前記構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂、及び前記構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂のうち少なくとも一種を含有し、前記構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と、前記構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂と、前記構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂との合計量の、前記エポキシ樹脂全量に対する割合が、15〜100質量%の範囲であることも、好ましい。
【0030】
第二の発明に係る燃料電池セパレータは、第一の発明に係る燃料電池セパレータ用組成物から形成される。
【0031】
第二の発明に係る燃料電池セパレータは、ガスケットを備えてもよい。
【0032】
第三の発明に係る燃料電池の製造方法では、第二の発明に係る燃料電池セパレータと膜−電極複合体とを積層する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、燃料電池セパレータに要求される諸特性の低下が抑制され、且つ耐湿性が向上された燃料電池セパレータを作製可能な燃料電池セパレータ用組成物が得られる。また、本発明によれば、燃料電池セパレータに要求される諸特性の低下が抑制され、且つ耐湿性が向上された燃料電池セパレータ、並びにこの燃料電池セパレータを備える燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(a)は燃料電池の単位セルを、(b)は前記単位セルにおける燃料電池セパレータをそれぞれ示す概略の斜視図である。
【図2】ガスケットを使用して構成される燃料電池の単位セルの一例を示す分解斜視図である。
【図3】ガスケットを備える燃料電池セパレータの一例を示す斜視図である。
【図4】燃料電池の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
燃料電池セパレータ用組成物(以下、組成物という)は、エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を含有する。
【0036】
組成物は、硬化促進剤として、構造式(1)で示される化合物を含有する。これにより、組成物から形成される燃料電池セパレータA(以下、セパレータAという)の耐湿性が向上する。しかも、この構造式(1)で示される化合物は、セパレータAのガラス転移温度の低下や、熱時剛性の低下や、連続成形性の悪化などを引き起こすことがない。むしろこの構造式(1)で示される化合物が使用されることにより、セパレータAのガラス転移温度が上昇し、熱時剛性が向上し、また組成物の成形時の離型性が向上して連続成形性が向上し得る。
【0037】
更に、この構造式(1)で示される化合物からは、イオン性不純物の溶出が生じにくい。このため、構造式(1)で示される化合物が使用されることで、セパレータAからのイオン性不純物の溶出が抑制され、不純物の溶出による燃料電池の起動電圧低下等の特性低下が抑制される。構造式(1)で示される化合物からイオン性不純物の溶出が生じにくいのは、この化合物の酸解離定数(pKa)が小さいためであると推察される。
【0038】
組成物は、構造式(1)で示される化合物以外の硬化促進剤を更に含有してもよい。構造式(1)で示される化合物以外の硬化促進剤の具体例としては、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の三級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。
【0039】
組成物中の構造式(1)で示される化合物の、硬化促進剤全量に対する割合は、20〜100質量%の範囲であることが好ましい。この割合が20質量%未満であると、セパレータAのガラス転移温度(Tg)の上昇が充分ではないおそれがある。また、組成物中の硬化促進剤の量は、エポキシ樹脂に対して0.5〜3質量%の範囲であることが好ましい。
【0040】
組成物はエポキシ樹脂として、構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を含有することが好ましい。また組成物がエポキシ樹脂として、構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂を含有することも好ましい。また、組成物が構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂を含有することも好ましい。
【0041】
構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と、構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂と、組成物が構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂とは樹脂の溶融粘度が低く黒鉛とのなじみが良いことから、組成物中にボイドが生じにくくなり、またこれらの樹脂は樹脂骨格の構造上吸湿しにくいという特性を有している。このため、これらの樹脂が使用されることで、セパレータAの耐湿性が更に向上する。構造式(1)で示される化合物が使用されずに構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂又は構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂又は組成物が構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂が使用されると、セパレータAの耐湿性は向上するものの、ガラス転移点の低下、熱時剛性の悪化、連続成形性の悪化などが引き起こされてしまう。しかし、構造式(1)で示される化合物が使用され、更に構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂、及び構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂のうち少なくとも一種が使用されると、セパレータAのガラス転移温度の低下、熱時剛性の悪化、及び連続成形性の悪化が抑制されながら、セパレータAの耐湿性が大きく向上する。
【0042】
組成物中のエポキシ樹脂全量に対する、構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂、及び構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂の合計量の割合は、15〜100質量%の範囲であることが好ましい。この割合が15質量%以上であることで、セパレータAの耐湿性が大きく向上する。
【0043】
組成物は、エポキシ樹脂として、前記のようなジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂及びビフェニル型エポキシ樹脂以外の樹脂を含有してもよい。例えば組成物は、オルソクレゾール型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ブロム含有型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等を含有してもよい。特にオルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂及びビスフェノール型エポキシ樹脂は、良好な溶融粘度を有すると共に不純物が少なく、特にイオン性不純物が少ない点で優れている。
【0044】
組成物中の硬化剤は、組成物が含有するエポキシ樹脂を硬化させる能力を有するのであれば特に限定されないが、フェノール系化合物を必須成分とすることが好ましい。このフェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等の各種多価フェノール樹脂が挙げられる。組成物中のフェノール系化合物の含有量は、組成物中のフェノール系化合物に対するエポキシ樹脂の当量比が0.7〜1.3となる量であることが好ましい。この当量比が0.8〜1.2の範囲となる量であれば更に好ましく、0.8〜0.9となる量であれば特に好ましい。
【0045】
フェノール系化合物以外の他の硬化剤が併用される場合、他の硬化剤は非アミン系の化合物であることが好ましい。この場合、セパレータAの電気伝導度が高く維持されると共に、燃料電池の触媒の被毒が抑制される。また硬化剤として酸無水物系の化合物が用いられないことも好ましい。酸無水物系の化合物が使用される場合は硫酸酸性環境下等の酸性環境下で加水分解して、セパレータAの電気伝導度の低下が引き起こされたり、セパレータAからの不純物の溶出が増大してしまうおそれがある。
【0046】
組成物中の固形分中での、エポキシ樹脂と硬化剤の合計量の割合は、14〜24.1質量%の範囲であることが好ましい。
【0047】
組成物中の黒鉛粒子は、セパレータAの電気比抵抗の低減によるセパレータAの導電性向上のために使用される。組成物中の黒鉛粒子の含有量は、組成物中の固形分全量に対して75〜90質量%の範囲であることが好ましい。黒鉛粒子の割合が75質量%以上であるとセパレータAに充分に優れた導電性が付与されるようになり、この割合が90質量%以下であると組成物に充分に優れた成形性が付与されると共にセパレータAに充分に優れたガス透過性が付与されるようになる。
【0048】
高い導電性を示すのであれば、各種の黒鉛粒子が制限なく用いられる。例えば、メソカーボンマイクロビーズなどの炭素質を黒鉛化して得られる黒鉛粒子、石炭系コークスや石油系コークスを黒鉛化して得られる黒鉛粒子、黒鉛電極や特殊炭素材料の加工粉、天然黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛等の、適宜の黒鉛粒子が用いられる。このような各種の黒鉛粒子は、一種単独で用いられ、或いは複数種が併用される。
【0049】
黒鉛粒子は、人造黒鉛粉、天然黒鉛粉のいずれであってもよい。天然黒鉛粉には導電性が高いという利点があり、人造黒鉛粉には天然黒鉛粉に比べて導電性は多少劣るものの、異方性が少ないという利点がある。
【0050】
黒鉛粒子は、天然黒鉛粉、人造黒鉛粉のいずれの場合であっても、精製されていることが好ましい。この場合は、黒鉛粒子中の灰分やイオン性不純物の含有量が低くなるため、セパレータAからの不純物の溶出が抑制される。黒鉛粒子中の灰分の含有量は特に0.05質量%以下であることが好ましい。この灰分が0.05質量%を超えると、セパレータAを備える燃料電池の特性低下が引き起こされるおそれがある。
【0051】
黒鉛粒子の平均粒径は15〜100μmの範囲であることが好ましい。この平均粒径が10μm以上であることで組成物の成形性が優れたものとなり、この平均粒径が100μm以下となることでセパレータAの表面平滑性が更に向上する。組成物の成形性が特に向上するためには前記平均粒径が30μm以上であることが好ましい。また、セパレータAの表面平滑性が特に向上して後述するようにセパレータAの表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)が0.4〜1.6μmの範囲、特に1.0μm未満となるためには、前記平均粒径が70μm以下であることが好ましい。
【0052】
特に薄型のセパレータAが得られる場合には、黒鉛粒子は100メッシュ篩(目開き150μm)を通過する粒径を有することが好ましい。この黒鉛粒子中に100メッシュ篩を通過しない粒子が含まれていると、組成物中に粒径の大きい黒鉛粒子が混入してしまい、特に組成物が薄型のシート状に成形される際の成形性が低下してしまう。
【0053】
黒鉛粒子のアスペクト比は10以下であることが好ましい。この場合、セパレータAに異方性が生じることが抑制されると共に、セパレータAの反りなどの変形も抑制される。
【0054】
尚、セパレータAの異方性の低減に関しては、セパレータAにおける、成形時の組成物の流動方向と、この流動方向と直交する方向との間での接触抵抗の比が、2以下となることが好ましい。
【0055】
黒鉛粒子は、特に2種以上の粒度分布を有することが好ましい。すなわち、黒鉛粒子が、平均粒径の異なる2種以上の粒子群を含んでいることが好ましい。この場合、特に黒鉛粒子平均粒径1〜50μmの範囲の粒子群と、平均粒径30〜100μmの粒子群とを含んでいることが好ましい。このような粒度分布を有する黒鉛粒子が用いられると、平均粒径の大きい粒子群は表面積が小さいため、この粒子群により、樹脂量が少量であっても組成物の混練が可能となる。更に平均粒径の小さい粒子群によって、黒鉛粒子同士の接触性が高まると共に、成形品の強度が向上する。これにより、セパレータAの嵩密度の向上、導電性の向上、ガス不透過性の向上、強度の向上等といった、性能の向上が図られる。平均粒径1〜50μmの粒子群と平均粒径30〜100μmとの粒子群の混合比は、適宜調整されるが、特に前者対後者の混合質量比が40:60〜90:10、特に65:35〜85:15であることが好ましい。
【0056】
尚、黒鉛粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000IIシリーズなど)でレーザー回折散乱法により測定される体積平均粒径である。
【0057】
組成物は、必要に応じてワックス(内部離型剤)、カップリング剤等の添加剤を含有してもよい。
【0058】
カップリング剤としては、適宜のものが用いられるが、アミノシランは用いられないことが好ましい。アミノシランが用いられる場合には、燃料電池の触媒が被毒されるおそれがある。カップリング剤としてメルカプトシランも用いられないことが好ましい。メルカプトシランが用いられる場合も、燃料電池の触媒が被毒されるおそれがある。
【0059】
カップリング剤の例としては、シリコン系のシラン化合物、チタネート系、アルミニウム系のカップリング剤が挙げられる。例えばシリコン系のカップリング剤としては、エポキシシランが適している。
【0060】
組成物の固形分に対するカップリング剤の割合は、0.5〜1.5質量%の範囲であることが好ましい。この範囲において、カップリング剤がセパレータAの表面にブリードすることが充分に抑制される。
【0061】
カップリング剤は黒鉛粒子の表面に予め噴霧等により付着されていてもよい。その場合のカップリング剤の添加量は、黒鉛粒子の比表面積と、カップリング剤の単位質量当たりの被覆面積とを考慮して、適宜設定される。特に、カップリング剤による被覆面積の総量が、黒鉛粒子の表面積の総量に対して、0.5〜2倍の範囲となることが好ましい。この範囲において、カップリング剤がセパレータAの表面にブリードすることが充分に抑制され、金型表面の汚染が抑制される。
【0062】
ワックス(内部離型剤)としては適宜のものが用いられるが、特に120〜190℃において、組成物中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と相溶せずに相分離する内部離型剤が好ましい。このような内部離型剤として、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、および長鎖脂肪酸系のワックスから選ばれる少なくとも一種が用いられることが好ましい。このような内部離型剤が組成物の成形過程で熱硬化性樹脂及び硬化剤と相分離することで、離型性向上作用が良好に発揮される。
【0063】
内部離型剤の使用量は、セパレータAの形状の複雑さ、溝深さ、抜き勾配など金型面との離形性の容易さなどが考慮されて、適宜設定される。特に組成物全量に対する内部離型剤の割合が0.1〜2.5質量%の範囲であることが好ましい。この割合が0.1質量%以上であると金型成形時に十分な離型性が発現する。この内部離型剤の割合は0.1〜1質量%の範囲であれば更に好ましい。この割合が1質量%以下であると内部離型剤によるセパレータAの親水性の阻害が更に抑制される。この内部離型剤の割合が0.1〜0.5質量%の範囲であれば特に好ましい。
【0064】
組成物は溶媒を含有してもよい。特に薄型のセパレータAが作製される場合には、組成物が溶媒を含有することで、この組成物が液状(ワニス状及びスラリー状を含む)に調製されてもよい。溶媒としては、たとえばメチルエチルケトン、メトキシプロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が好ましい。溶媒は一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。溶媒の使用量は、組成物からシート状のセパレータAが作製される際の成形性を考慮して適宜設定される。特に、組成物の粘度が1000〜5000cpsの範囲となるように、溶媒の使用量が設定されることが好ましい。尚、溶媒は必要に応じて使用されればよく、熱硬化性樹脂として液状樹脂が使用されるなどにより組成物が液状に調製されるならば、溶媒が使用されなくてもよい。
【0065】
セパレータA中のイオン性不純物の含有量は、セパレータA全量に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下であることが好ましい。そのためには、組成物中のイオン性不純物の含有量は、組成物の固形分全量に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下であることが好ましい。この場合、セパレータAからのイオン性不純物の溶出が抑制され、不純物の溶出による燃料電池の起動電圧低下等の特性低下が抑制される。
【0066】
セパレータA及び組成物のイオン性不純物の含有量の低減のためには、組成物を構成するエポキシ樹脂樹脂、硬化剤、硬化促進剤、黒鉛粒子、その他添加剤等の各成分の、イオン性不純物の含有量が、各成分に対して質量比率でナトリウム含量5ppm以下、塩素含量5ppm以下であることが好ましい。
【0067】
尚、イオン性不純物の含有量は、対象物の抽出水中のイオン性不純物の量に基づいて導出される。前記抽出水は、対象物10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中に対象物を投入し、90℃で50時間処理することで得られる。抽出水中のイオン性不純物は、イオンクロマトグラフィにて評価される。この抽出水中のイオン性不純物量に基づいて、対象物中のイオン性不純物の量が、対象物に対する質量比に換算して導出される。
【0068】
組成物は、この組成物から形成されるセパレータAのTOC(total organic carbon)が100ppm以下となるように調製されることが好ましい。
【0069】
TOCは、セパレータAの質量10gに対してイオン交換水100mlの割合で、イオン交換水中にセパレータAが投入され、90℃で50時間処理された後の水溶液を用いて測定される数値である。TOCは、例えばJIS K0102に準拠して、島津製全有機炭素分析装置「TOC−50」などで測定される。測定にあたっては、サンプルの燃焼により発生するCO濃度が非分散型赤外線ガス分析法で測定され、サンプル中の炭素濃度が定量される。この炭素濃度の測定によって、有機物質濃度が間接的に測定され、サンプル中の無機炭素(IC)、全炭素(TC)が測定され、全炭素と無機炭素の差(TC−IC)から全有機炭素(TOC)が計測される。
【0070】
組成物から形成されるセパレータAのTOCが100ppm以下となると、燃料電池の特性低下が更に抑制される。
【0071】
TOCの値は、組成物を構成する各成分として高純度の成分が選択されたり、更に樹脂の当量比が調整されたり、成形時に後硬化処理がおこなわれたりすることで、低減される。
【0072】
組成物は、上記のような各成分が適宜の手法で混合され、必要に応じて混練・造粒等されることで調製される。
【0073】
この組成物が成形されることで、セパレータAが得られる。成形法としては、射出成形や圧縮成形など、適宜の手法が採用される。セパレータAには例えば図1に示すように、左右両側面に複数個の凸部(リブ)1aが形成されることで、隣り合う凸部1a同士の間に、燃料である水素ガスと、酸化剤である酸素ガスの流路であるガス供給排出用溝2が形成される。
【0074】
ワニス状に調製された組成物から薄型のセパレータAが得られる場合には、まず組成物がシート状に成形されることで、燃料電池セパレータ成形用シート(成形用シート)が得られる。組成物は、例えばキャスティング(展進)成形によりシート状に成形される。この際には、複数種の膜厚調節手段が適用され得る。このような複数種の膜厚調節手段が適用されるキャスティング法は、例えばすでに実用化されているマルチコータによって実現される。キャスティングのための膜厚調節手段としては、スリットダイとともに、ドクターナイフおよびワイヤーバーの少なくともいずれか、すなわちいずれか一方もしくは両方が用いられることが好ましい。
【0075】
成形用シートの厚みは、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であれば更に好ましい。また、この厚みは0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であれば更に好ましい。成形用シートの厚みが0.5mm以下であればセパレータAの薄型化や軽量化、並びにそれによる低コスト化が充分に達成され、特に厚みが0.3mm以下であれば溶媒が使用される場合の成形用シート内部の溶媒の残存が効果的に抑制される。またこの厚みが0.05mm未満の場合にはセパレータAの製造にあたっての有利さが充分に発揮されなくなり、特に成形性を考慮するとこの厚みは0.1mm以上であることが好ましい。
【0076】
この成形用シートが、キャスティングにともなう乾燥によって半硬化(Bステージ)状態とされ、これが圧縮・熱硬化成形されるなどして、両面に複数個の凸部(リブ)1aが形成されると共にこの凸部(リブ)1a間にガス供給排出用溝2が形成される。これにより、セパレータAが得られる。このセパレータAが波板状に形成され、且つその一方の面の凸部1aの裏側に、他方の面のガス供給排出用溝2が形成されると、薄型でありながら両面に複数個の凸部(リブ)1aを有すると共にこの凸部(リブ)1a間にガス供給排出用溝2を有するセパレータAが得られる。
【0077】
この成形用シートの圧縮・熱硬化成形時には、例えばまず成形用シートが必要に応じて所定の平面寸法にカット(切断)もしくは打ち抜かれた後、金型内で圧縮成形機により熱硬化される。この圧縮・熱硬化成形の条件は、組成物の組成、導電性基材の種類、成形厚みなどにもよるが、加熱温度120〜190℃の範囲、圧縮圧力1〜40MPaの範囲で設定されることが好ましい。
【0078】
セパレータAの作製にあたっては、一枚の成形用シートからセパレータAが作製されてもよく、複数枚の成形用シートからセパレータAが作製されてもよい。
【0079】
このように成形用シートが使用されることで、薄型のセパレータA、特に厚み0.2〜1.0mmの範囲のセパレータAの製造が可能となる。また、セパレータAの製造時に成形用シートが使用されることで、薄型のセパレータAが製造される場合でも成形材料を薄く且つ均一に配置して成形することが容易となり、成形性や厚み精度が高くなる。
【0080】
尚、セパレータAの作製時には、成形用シートと適宜の導電性基材とが積層されてもよい。導電性基材が用いられると、セパレータAの機械的強度が向上する。導電性基材が用いられる場合には、例えば導電性基材の両側にそれぞれ成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)が積層された積層物が圧縮・熱硬化成形され、或いは成形用シート(複数枚の成形用シートの積層物を含む)の両側にそれぞれ導電性基材を積層された積層物がが圧縮・熱硬化成形される。
【0081】
導電性基材としては、たとえば、カーボンペーパー、カーボンプリプレグ、カーボンフェルト等が挙げられる。れらの導電性基材は、導電性を損なわない範囲で、ガラス、樹脂等の基材成分を含有してもよい。導電性基材の厚みは、0.03〜0.5mmの範囲が好ましく、0.05〜0.2mmの範囲がより好ましい。
【0082】
以上のようにして製造されるセパレータAを用い、燃料電池が製造される。図1は固体高分子型燃料電池の一例を示す。2枚のセパレータA,Aの間に、固体高分子電解質膜などの電解質4とガス拡散電極(燃料電極3aと酸化剤電極3b)などからなる膜−電極複合体(MEA)5が介在することで、単電池(単位セル)が構成されている。この単位セルが数十個〜数百個並設されることで、電池本体(セルスタック)が構成される。
【0083】
図2は、ガスケット12を備える太陽電池の単セルの構造の一例を示す。この単セルは、セパレータA,A、ガスケット12,12、膜−電極複合体5が重ねられることで構成されている。セパレータAには、凸部1a及びガス供給排出用溝2が形成されている領域を取り囲む外周部分に、燃料用貫通孔13a,13aと酸化剤用貫通孔13b,13bとが形成されている。燃料用貫通孔13a,13aは二つ形成されており、各燃料用貫通孔13a,13aはセパレータAの燃料電極3aと重なる面におけるガス供給排出用溝2の両端にそれぞれ連通する。酸化剤用貫通孔13b,13bも二つ形成されており、各酸化剤用貫通孔13b,13bはセパレータAの酸化剤電極3bと重なる面におけるガス供給排出用溝2の両端にそれぞれ連通する。この外周部分には、冷却用貫通孔13cも形成されている。
【0084】
尚、本実施形態では、図2に示されるように、セパレータAにはストレートタイプのガス供給排出用溝2が形成されている。一般に、セパレータにおけるガス供給排出用溝2としては、屈曲を有するサーペンタインタイプの溝と屈曲を有さないストレートタイプの溝とがある。勿論、図2に示されるセパレータAにおいて、このセパレータAにサーペンタインタイプのガス供給排出用溝2が形成されてもよい。
【0085】
本実施形態では、セパレータAの外周部分に、シーリングのためのガスケット12が積層されている。このガスケット12は、その略中央部に、膜−電極複合体5における燃料電極3aや酸化剤電極3bが収容される開口15を有し、この開口15においてセパレータAのガス供給排出用溝2が露出する。この開口15の外周側には、前記セパレータAの燃料用貫通孔13a、酸化剤用貫通孔13b及び冷却用貫通孔13cと合致する位置に、燃料用貫通孔14a、酸化剤用貫通孔14b及び冷却用貫通孔14cがそれぞれ形成されている。
【0086】
膜−電極複合体5における電解質4の外周部分にも、前記セパレータAの燃料用貫通孔13a、酸化剤用貫通孔13b及び冷却用貫通孔13cと合致する位置に、燃料用貫通孔16a、酸化剤用貫通孔16b及び冷却用貫通孔16cがそれぞれ形成されている。
【0087】
この単セル構造では、セパレータA、ガスケット12、及び電解質4の各燃料用貫通孔13a.14a,16aが連通することで、燃料電極への燃料の供給及び排出のための燃料用流路が構成される。また、各酸化剤用貫通孔13b,14b,16bが連通することで、酸化剤電極への酸化剤の供給及び排出のための酸化剤用流路が構成される。また、各冷却用貫通孔13c,14c,16cが連通することで、冷却水等が流通する冷却用流路が構成される。
【0088】
このような燃料電池の単セル構造において、燃料電極3aと酸化剤電極3b、並びに電解質4は、燃料電池のタイプに応じた公知の材料で形成される。固体高分子型燃料電池の場合、燃料電極3a及び酸化剤電極3bは例えばカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の基材に、触媒を担持させて構成される。燃料電極3aにおける触媒としては例えば白金触媒、白金・ルテニウム触媒、コバルト触媒等が挙げられ、酸化剤電極3bにおける触媒としては白金触媒、銀触媒等が挙げられる。また、固体高分子型燃料電池の場合、電解質4は例えばプロトン伝導性の高分子膜から形成され、特にメタノール直接型燃料電池の場合は例えばプロトン伝導性が高く、電子導電性やメタノール透過性を殆ど示さないフッ素系樹脂等から形成される。
【0089】
ガスケット12は、例えば天然ゴム、シリコーンゴム、SIS共重合体、SBS共重合体、SEBS、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素系ゴム等などから選択されるゴム材料から形成される。このゴム材料には粘着付与剤が配合されてもよい。
【0090】
燃料電池に組み込まれる前のセパレータAに、予めガスケット12が積層されていてもよい。図3に、ガスケット12を備えるセパレータAの一例を示す。このガスケット12を備えるセパレータAが、膜−電極複合体5と積層されることで、単セル構造が構成される。
【0091】
セパレータAにガスケット12が積層される際は、例えば予めシート状又は板状に形成されたガスケット12がセパレータAに接着や融着などにより接合される。
【0092】
セパレータAの表面上でガスケット12の材料が成形されることで、セパレータAにガスケット12が積層されてもよい。例えば未加硫のゴム材料がスクリーン印刷等によりセパレータAの表面上の所定位置に塗布され、このゴム材料の塗膜が加硫されることで、セパレータAの表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12が形成される。前記加硫にあたっては、加熱、電子線などの放射線の照射、或いはその他適宜の加硫方法が採用される。この場合、薄型のセパレータAに対してもガスケット12が容易に積層される。また、セパレータAが金型内にセットされ、このセパレータAの表面上の所定位置に未加硫のゴム材料が射出されると共にこのゴム材料が加熱されるなどして加硫されることで、セパレータAの表面上の所定位置に所望の形状のガスケット12が形成されてもよい。このように金型成形によりガスケット12が形成される場合は、トランスファー成形のほか、コンプレッション成形、インジェクション成形等が採用され得る。
【0093】
このようにセパレータAの表面上でガスケット12が形成されると、セパレータAの製造効率が向上し、セパレータAの製造コスト低減に寄与する。地球環境問題への意識の高まり等により、近年、燃料電池の普及が求められており、そのためには燃料電池の低コスト化が求められている。このため、セパレータAの製造コスト低減は重要である。セパレータA上でガスケット12が形成されると、セパレータAが高温に加熱されるなど過酷な状態に曝されるが、本実施形態ではセパレータAの吸湿性が低いため、セパレータAに加熱等によりクラックが生じることが抑制される。
【0094】
図4は複数の単セルからなる燃料電池C(セルスタック)の一例を示す。この燃料電池Cは、燃料用流路に連通する燃料の供給口17a及び排出口17bと、酸化剤用流路に連通する酸化剤の供給口18a及び排出口18bと、冷却用流路に連通する冷却水の供給口19a及び排出口19bとを有する。
【実施例】
【0095】
[実施例1〜15、比較例1,2]
各実施例及び比較例につき、表1に示す原料成分を攪拌混合機(ダルトン製「5XDMV−rr型」)に表1に示す組成となるように入れて攪拌混合し、得られた混合物を整粒機で粒径500μm以下に粉砕した。
【0096】
得られた粉砕物を、金型温度185℃、成形圧力35.3MPa、成形時間2分の条件で圧縮成形した。次に金型を閉じたまま除圧し、30秒間保持した後に金型を開き、セパレータAを取り出した。
【0097】
得られたセパレータAの形状は、200mm×250mm、厚み1.5mmであった。セパレータAの片側の面には長さ250mm、幅1mm、深さ0.5mmのガス供給排出用溝2を25本、反対側の面には長さ250mm、幅0.5mm、深さ0.5mmのガス供給排出用溝2を25本形成した。
【0098】
このセパレータAの表面に、マコー株式会社製のウエットブラスト処理装置(形式PFE−300T/N)を用い、砥粒としてアルミナ粒子を含むスラリー用いてブラスト処理を施すことで、セパレータAの表面の算術平均高さRa(JIS B0601:2001)を0.9μmに調整した。このセパレータAをイオン交換水で洗浄し、更に温風乾燥した。
【0099】
[曲げ強度評価]
各実施例及び比較例において、セパレータAを作製する場合と同じ方法で80mm×10mm×4mmの寸法の曲げ強度測定用の成形品を作製し、JIS K6911に準拠し、支点間距離64mm、クロスヘッドスピード2mm/分の条件で曲げ強度を測定した。
【0100】
[接触抵抗評価]
各実施例及び比較例において、セパレータAの厚みを3mmに形成し、このセパレータAの上下にカーボンペーパーを配置し、更にその上下に銅板を配置し、上下方向に面圧1MPaの圧力をかけた。そして、2枚のカーボンペーパー間の電圧を電圧計で測定すると共に2枚の銅板間の電流を電流計で測定し、その結果から抵抗(平均値)を計算した。なお、使用したカーボンペーパーは、東レ社製のTGP−H−Mシリーズ(090M:厚さ0.28mm、120M:厚さ0.38mm)である。
【0101】
[TOC評価]
JIS K0551−4.3に準拠し、まず各実施例及び比較例におけるセパレータAをメタノールで1分間洗浄した後、イオン交換水にて1分間洗浄した。次いで、ガラス製容器中にセパレータAとイオン交換水とを、セパレータAの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水中に燐酸を添加してpH2以下に調整した後、湿式酸化−赤外線式TOC測定法(東レエンジニアリング社製「東レアストロTOC自動分析計MODEL1800」を使用)にて、有機炭酸量を測定した。
【0102】
[水溶性イオン分析]
各実施例及び比較例におけるセパレータAをメタノールにて1分間洗浄した後、イオン交換水で1分間洗浄した。次いで、ポリエチレン製容器中にセパレータAとイオン交換水とを、セパレータAの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水(抽出水)をイオンクロマトグラフィ(島津製作所社製「CDD−6A」)で測定した。
【0103】
[電気伝導度評価]
各実施例及び比較例におけるセパレータAをメタノールにて1分間洗浄した後、イオン交換水で1分間洗浄した。次いで、ポリエチレン製容器中にセパレータAとイオン交換水とを、セパレータAの質量10gに対してイオン交換水が100mlとなるように入れ、90℃で50時間処理した。処理後のイオン交換水(抽出水)を導電率計で測定した。
【0104】
[ガスケット成形性]
各実施例及び比較例で得られたセパレータA上の外周部分にエチレン−プロピレン−ジエンゴムをスクリーン印刷により塗布した後、加熱加硫することでガスケット12を形成した。このガスケット12が設けられたセパレータAを観察して、クラックの発生の有無を確認した。各実施例及び比較例それぞれにつき、30個のセパレータAに対してガスケット12を形成し、クラックの発生したセパレータAの数により、評価をおこなった。
【0105】
[吸湿量]
各実施例及び比較例におけるセパレータAの重量を測定した後、このセパレータAを90℃のイオン交換水に1000時間浸漬する処理を施した。処理後のセパレータAの重量を測定し、処理後のセパレータAの重量増加率により吸湿量を評価した。
【0106】
【表1】

【0107】
表中の各成分の詳細は次の通りである
・エポキシ樹脂A:構造式(2)で示されるエポキシ樹脂、大日本インキ化学工業社製、品番EXA7200。
・エポキシ樹脂B:構造式(3)で示されるエポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン社製、品番YH−4000H。
・エポキシ樹脂C:構造式(4)で示されるエポキシ樹脂、日本化薬株式会社製、品番NC−3000H。
・エポキシ樹脂D:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、住友化学工業社製、品番EOCN195X。
・硬化剤A:フェノールノボラック樹脂、群栄化学社製、品番PSM6200。
・硬化剤B:ハイパラノボラック型フェノール樹脂、明和化成株式会社製、品番HF−1M。
・硬化剤C:オルソノボラック型フェノール樹脂、明和化成株式会社製、品番H−1。
・硬化促進剤A:構造式(1)で示される化合物。
・硬化促進剤B:トリフェニルホスフィン(北興化学社製「TPP」)
・天然黒鉛(中越黒鉛工業所社製「WR50A」、平均粒径50μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン4ppm、塩化物イオン2ppm)
・人造黒鉛(エスイーシー社製「SGP100」、平均粒径100μm、灰分0.05%、ナトリウムイオン3ppm、塩化物イオン1ppm)
・カップリング剤:エポキシシラン(日本ユニカー社製「A187」)
・ワックスA:天然カルナバワックス(大日化学社製「H1−100」、融点83℃)
・ワックスB:モンタン酸ビスアマイド(大日化学社製「J−900」、融点123℃)
【符号の説明】
【0108】
A 燃料電池セパレータ
C 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、及び黒鉛粒子を含有し、前記硬化促進剤の少なくとも一部として下記構造式(1)で示される化合物を含有する燃料電池セパレータ用組成物。
【化1】

【請求項2】
前記構造式(1)で示される化合物の、前記硬化促進剤全量に対する割合が、20〜100質量%の範囲である請求項1に記載の燃料電池セパレータ用組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂の少なくとも一部として、下記構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を含有する請求項1又は2に記載の燃料電池セパレータ用組成物。
【化2】

【請求項4】
前記エポキシ樹脂の少なくとも一部として、下記構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂を含有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の燃料電池セパレータ用組成物。
【化3】

【請求項5】
前記エポキシ樹脂の少なくとも一部として、下記構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂を含有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の燃料電池セパレータ用組成物。
【化4】

【請求項6】
前記構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と、前記構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂、及び前記構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂のうち少なくとも一種を含有し、
前記構造式(2)で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と、前記構造式(3)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂と、前記構造式(4)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂との合計量の、前記エポキシ樹脂全量に対する割合が、15〜100質量%の範囲である請求項3乃至5のいずれか一項に記載の燃料電池セパレータ用組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の燃料電池セパレータ用組成物から形成される燃料電池セパレータ。
【請求項8】
ガスケットを備える請求項7に記載の燃料電池セパレータ。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の燃料電池セパレータと膜−電極複合体とを積層する燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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