説明

燃料電池セパレータ

【課題】冷却効率が高く、安定な発電ができる多孔質ガス流路を用いた潜熱冷却方式の燃料電池用セパレータおよび燃料電池を提供。
【解決手段】金属板3の一方の面に酸化剤側多孔質ガス流路5、他方の面に燃料側多孔質ガス流路4が配置された燃料電池セパレータであり、金属板3は、酸化剤側多孔質ガス流路5に酸化剤ガスを供給するための酸化剤供給マニホールド13と、酸化剤側多孔質ガス流路5に冷却水を供給するための冷却水供給マニホールド15とを備え、冷却水供給マニホールド15が酸化剤供給マニホールド13と酸化剤側多孔質ガス流路5の間に設けられており、酸化剤供給マニホールド13と冷却水供給マニホールド15の境界部に酸化剤ガスと冷却水の混合を防止するためのシール部材7を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料と酸化剤との化学反応により電気エネルギーを発生させる燃料電池に用いられるセパレータに係わる。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の種類により様々な種類が実用化されている。例えば、固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜とその両側を燃料極触媒層(以降アノードと呼ぶ)と酸化剤極触媒層(以降カソードと呼ぶ)とで被覆した膜電極接合体の両側を多孔質のカーボン材からなるガス拡散層で挟む。さらにその両側に燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給するためのセパレータを配置して構成された単位発電セルを複数積層して積層体(以降スタックと呼ぶ)を形成し、このスタックの両端を締付板等により締め付けて燃料電池スタックが構成される。
【0003】
セパレータは、その片面に燃料ガス又は酸化剤ガスの流路を、もう片方の面に冷却媒体流路を備えているのが一般的であり、例えば、金属薄板をプレス加工により凹凸を成形することにより製作される。このセパレータを用いた燃料電池の場合、アノード側では燃料ガス流路の凸面(以降リブと呼ぶ)が、カソード側では酸化剤ガス流路のリブがガス拡散層に接する。この接触部分において、反応で生じた電子の授受を行い、電気化学反応により生じた熱を冷却流路に流れる冷却媒体へ伝える。また、燃料ガス及び酸化剤ガスは凹部を流れ、ガス拡散層を介して電極触媒へ供給される。
【0004】
燃料電池は他の動力源に比べ効率が高いこと、環境負荷が低いことなどから、定置用分散電源や車載用電源への実用化が進んでいる。例えば、車載用電源の場合には小型軽量といった高出力密度化が求められている。このためには、発電面全体にわたり一様な発電をすること、発電に直接寄与しない部品の削減が必要となる。この発電に直接寄与しない部品としては冷却流路が挙げられる。これに対して、冷却流路を省略し、ガス流路に反応ガスとともに水を供給し、水が蒸発する際の潜熱を用いて単位発電セルを冷却する潜熱冷却方式の燃料電池が検討されている。潜熱冷却方式の燃料電池において、発電面全体にわたり一様な発電をするためには、ガス流路に反応ガスと水を均一に供給することが重要となる。例えば、特許文献1には燃料ガスと水の混合流体を均等に配流するために、セパレータの燃料ガス供給面の裏面に形成されたバッファ部の多孔質体に水供給マニホールドから水を導き、多孔質体と燃料ガス供給溝を連通する連通孔を通して燃料ガス供給溝に水を供給する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−283879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のセパレータは金属薄板のプレス加工やカーボン材料のモールド成型により反応ガス流路を形成していたが、ガス拡散層と接するリブでは通電のみを、流路部ではガス拡散を担うというように役割が分割されており、リブや流路幅のサイズで通電部とガス拡散部の分布が生じてしまう。発電の一様化にはリブと流路の幅を細分化することが有効であるが、加工の観点から細分化には限界がある。このようなプレス加工のセパレータに代わり、細孔が連通した導電性多孔質体を反応ガス流路に用いる方法が考えられる。すなわち、多孔質体を用いると、通電部分である多孔質体の骨格部とガス拡散部分の連通細孔が混合一様化することが可能となる。これにより発電反応の一様化が図られ、出力の向上が期待できる。
【0007】
また、潜熱冷却の観点からも多孔質ガス流路を用いることが好ましい。すなわち、多孔質ガス流路は溝流路と比較して流路の比表面積が大幅に増えるため、その結果、水とガス流路の接触面積が増えることにより、水の蒸発による冷却効果を高めることができる。
【0008】
その一方で多孔質ガス流路を用いた潜熱冷却を実現するためには、多孔質体の細孔内にガスと水を一様に供給するための多孔質ガス流路への水の供給方法が重要となる。
【0009】
特許文献1に示された潜熱冷却方式の燃料電池では、セパレータにはカーボン材料をモールド成形した溝流路を用いており、多孔質ガス流路については検討がなされていなかった。
【0010】
本発明は、冷却効率が高く、安定な発電ができる多孔質ガス流路を用いた潜熱冷却方式の燃料電池用セパレータおよび燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の燃料電池セパレータは、金属板の一方の面に酸化剤側多孔質ガス流路、他方の面に燃料側多孔質ガス流路が配置された構成であり、前記金属板が、酸化剤側多孔質ガス流路に酸化剤ガスを供給するための酸化剤供給マニホールドと、酸化剤側多孔質ガス流路に冷却水を供給するための冷却水マニホールドとを備え、前記冷却水マニホールドが前記酸化剤供給マニホールドと前記酸化剤側多孔質ガス流路の間に設けられており、前記酸化剤供給マニホールドと前記冷却水マニホールドの境界部に酸化剤ガスと冷却水の混合を防止するためのシール部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷却効率が高く、安定な発電ができる多孔質ガス流路を用いた潜熱冷却方式の燃料電池用セパレータおよび燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる燃料電池スタック断面の模式図。
【図2】本発明に係わる燃料電池セパレータの平面図および断面図。
【図3】本発明に係わる燃料電池スタックの分解斜視図。
【図4】本発明に係わる燃料電池スタックの酸化剤マニホールドおよび冷却媒体供給マニホールド近傍のセル断面の模式図。
【図5】本発明の燃料電池システムの酸化剤ガスおよび冷却水供給系を示す模式図。
【図6】本発明に係わる燃料電池セパレータの変形例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の燃料電池について、図面を用いて実施例を説明する。
【0015】
(実施例1)
図1に本実施例の燃料電池スタック100の断面模式図を示す。燃料電池スタック100は、燃料ガスをスタックに供給する燃料ガス供給口111、燃料排ガスをスタックから排出する燃料ガス排出口112、酸化剤ガスをスタックに供給する酸化剤ガス供給口113、スタックから酸化剤排ガスを排出する酸化剤ガス排出口114、冷却水をスタックに供給する冷却水供給口117、電力を外部に取り出すための集電板115、集電板115の外側に配置される絶縁板116、反応ガスの漏洩を防止するためのシール部材6、反応ガスの供給または排出口を備えた端板118と、発電部105で構成されている。図示していないが、電解質膜・電極触媒接合体1に1MPa程度の面圧が付与されるようにスタック構成部材の積層方向に荷重を付与する機構を備える。
【0016】
発電部105は、電解質膜の一方の面にアノード触媒が形成され、他方の面にカソード触媒が形成された膜電極接合体1と、金属板3の一方の面に燃料側多孔質ガス流路4が配置され、他方の面に酸化剤側多孔質ガス流路5が配置されたセパレータとが交互に積層されて構成される。図1に示した燃料電池スタック100では、膜電極接合体1と多孔質ガス流路の間にはカーボンペーパーやカーボンフェルトからなるガス拡散層2が配置される。ここで、金属板3、燃料側多孔質ガス流路4、ガス拡散層2、膜電極接合体1、ガス拡散層2、酸化剤側多孔質ガス流路5、および、金属板3の順に積層された構造が単位発電セルとなり、複数の単位発電セルが直列に積層された構成となっている。また、図示していないが、発電部105には各供給口、排出口と連結したマニホールドが形成されており、各マニホールドからそれぞれの単位発電セルに対して反応ガス、冷却水の供給、排出が行われる。なお、ガス拡散層2の機能を多孔質ガス流路に持たせる場合にはガス拡散層2を省略してもよい。
【0017】
膜電極接合体1は、フッ素系あるいは炭化水素系の固体高分子材料からなる固体高分子電解質膜、白金などの触媒が坦持されたカーボンペーストからなるアノードおよびカソードから構成される。
【0018】
セパレータを構成する金属板3には、厚さ0.2mm以下の純金属や合金、あるいはこれら複数の金属プレートを積層し圧延したクラッド材からなる平板を用いる。材質としては、例えば、チタン、SUS、アルミニウム、マグネシウムなどとする。
【0019】
燃料側多孔質ガス流路4および酸化剤側多孔質ガス流路5を構成する多孔質体は金属材料からなる連通細孔の多孔質体である。材料としては、チタン、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、クロム、モリブデンおよびこれらを一部に含む例えばSUSなどの合金などから選定する。発泡や焼結、微細金属繊維の結着などにより製造され、気孔率はどちらも75%以上であることが望ましい。多孔質体の気孔径は10μm〜1500μmの範囲を含むことが望ましく、特に細孔径分布によるモード径は150μm以上が望ましい。
多孔質体は0.2mm〜1.5mmの厚さとし、ガスの拡散流路として多孔質体の細孔のみとしてもよいが、一方の面に細孔径よりも大きな幅や深さの溝を備えたり、多孔質体内部に細孔のモード径よりも大きな径を持つ流路を備えることで、圧力損失を低減することができる。
【0020】
端板119にはSUSなどの金属材料の他に、PPS(Poly Phenylene Sulfide)といった絶縁性樹脂を用いることもできる。端板119に絶縁性樹脂を用いる場合には、絶縁板116と端板を兼ねる構造とすることもできる。集電板115は、燃料電池が発電した電気エネルギーを外部に取り出すための導電性の端子である。例えば、集電板115として銅に金メッキしたものを使用することで耐食性と導電性を両立できる。
【0021】
本実施例の燃料電池スタック100では、冷却水供給口117はスタック内の冷却水マニホールドを介して各単位発電セルの酸化剤側多孔質ガス流路5と接続されている。冷却水は冷却水供給口117から冷却水マニホールドを流れて、各単位発電セルの酸化剤側多孔質ガス流路5に供給される。酸化剤側多孔質ガス流路5では、酸化剤ガス供給口113から供給される酸化剤ガスとともに冷却水が供給され、酸化剤側多孔質ガス流路5内の冷却水が蒸発することで単位発電セルを冷却する構成となっている。酸化剤側多孔質ガス流路5への冷却水の供給手法の詳細は後述する。
【0022】
従来の燃料電池スタックでは、燃料電池スタックの運転温度上限を制限するために冷却セルを備えていたが、本実施例の燃料電池スタック100では酸化剤側多孔質ガス流路に冷却機能を付加することで、冷却セルを省略している。これにより、燃料電池スタックのコンパクト化とともに単位体積当りの発電効率を向上することができる。
【0023】
次に、本実施例の酸化剤側多孔質ガス流路5への冷却水の供給手法について説明する。
【0024】
酸化剤側多孔質ガス流路5に対して、酸化剤ガスと冷却水を各単位発電セルの発電面に均一に供給するために以下の点が重要となる。まず、多孔質ガス流路では多孔質体の細孔が流路となるため、従来のプレス加工等で形成した流路溝と比較して非常に狭い空間に酸化剤ガスと水を流すことになる。そのため、酸化剤ガスと冷却水の供給を多孔質ガス流路の同じ場所から行うと、酸化剤ガスと冷却水の両者を安定して供給することが難しく、例えば、冷却水だけが供給されて酸化剤ガスが供給されない、逆に酸化剤ガスだけが供給されるといったことが生じやすくなる。このような現象は多孔質ガス流路の位置によって異なり、また時間の経過とともに状態が変化するため、多孔質ガス流路への酸化剤ガスと水の供給をコントロールすることは困難である。その結果、単位発電セルの発電面内で供給量のばらつきが生じるだけでなく、各単位発電セルでも供給量のばらつきが発生する。そのため、酸化剤ガスと冷却水の供給は、多孔質ガス流路への酸化剤ガスの供給と冷却水の供給が互いに干渉しないように多孔質ガス流路の異なる場所から供給することが重要である。
【0025】
図2に本実施例の燃料電池スタックで用いたセパレータの構成を示す。図2(a)にセパレータをカソード側からみた平面図、図2(b)に図2(a)で示したA−A′断面における断面図、図2(c)にセパレータをアノード側からみた平面図を示す。セパレータは、金属板3の一方の面に燃料側多孔質ガス流路4、他方の面に酸化剤側多孔質ガス流路5が配置された構成である。セパレータには、内部マニホールドとして燃料供給マニホールド11、燃料排出マニホールド12、酸化剤供給マニホールド13、酸化剤排出マニホールド14、および、冷却水供給マニホールド15を備えている。冷却水供給マニホールド15は、酸化剤供給マニホールド13と発電面との間に形成されている。図2(b)に示したように、酸化剤供給マニホールド13と冷却水供給マニホールド15との境界部16には、空気と冷却水が混入することを防止するために境界シール7が設けられている。
これにより、酸化剤側多孔質ガス流路5に対して、酸化剤供給マニホールド13と冷却水供給マニホールド15から供給される酸化剤ガスと冷却水が互いに干渉しないように構成している。
【0026】
また、セパレータにはシール部材6が設けられており、カソード側、アノード側の反応ガスの漏洩を防止している。カソード側では、酸化剤供給マニホールド13および冷却水供給マニホールド15から酸化剤および冷却水が酸化剤側多孔質ガス流路5に供給され、発電に使用されなかった排ガスと蒸発しなかった冷却水の一部が酸化剤排出マニホールド14からスタックの外部に排出される。一方、アノード側では、燃料供給マニホールド11から燃料が燃料側多孔質ガス流路4に供給され、発電に使用されなかった燃料が燃料排出マニホールド12からスタックの外部に排出される。
【0027】
本実施例の燃料電池スタックの酸化剤ガス、冷却水の流れを図3、図4を用いて説明する。図3は、図2に示したセパレータを用いてスタック化した際の発電セルの分解斜視図である。また、図4は図2のA−A′断面における発電セルの酸化剤供給マニホールド13および冷却水マニホールド近傍の断面図である。
【0028】
図3に示すように、各マニホールドが形成された金属板3の所定の位置に酸化剤側多孔質ガス流路5と燃料側多孔質ガス流路4を配置してセパレータを構成する。本実施例のセパレータでは、酸化剤側多孔質ガス流路5は金属板3の冷却水供給マニホールド15を覆うように配置され、金属板3の冷却水供給マニホールド15に対応する箇所に開口部を有している。また、ガス拡散層2を備える膜電極接合体1にもセパレータと対応する位置にマニホールドが形成されており、セパレータの両面にシール部材6を介して膜電極接合体1が積層される。
【0029】
図4に示したように、酸化剤側多孔質ガス流路5は冷却水供給マニホールド15の開口部の一部を覆うように金属板3に配置されている。この際、冷却水供給マニホールド15がスタック100内で連通できる開口部が存在するように酸化剤側多孔質ガス流路5が配置されている。この構成により、冷却水マニホールド内に酸化剤側多孔質ガス流路5を構成する多孔質体が突き出した構造となる。多孔質体を突き出すことで、冷却水マニホールドに狭窄部を形成している。
【0030】
また、酸化剤供給マニホールド13と冷却水供給マニホールド15との境界部16には、空気と冷却水が混入することを防止するために境界シール7が設けられている。冷却水供給マニホールド15を覆った部分の境界部16に位置する酸化剤側多孔質ガス流路5の細孔内にシリコン系のゴムやフッ素系のゴムを含浸することで、境界シール7とすることができる。また、吸水性ポリマーを含浸させてもよく、この場合、冷却水供給マニホールド15を流動する水により吸水性ポリマーが膨張し、水が流動している間は境界シール7として機能する。さらに、吸水性ポリマーで吸水した水は、酸化剤供給マニホールド13側に蒸発することで酸化剤ガスの加湿としても機能し、自己加湿機能を備えることが可能である。また、境界シール7は金属板3の燃料ガス流路側にも形成する必要がある。燃料ガス流路側に位置する境界シール7は、金属板3上にシールを形成してもよいし、シール材や吸水性ポリマーを含浸させた、酸化剤側多孔質ガス流路5を境界部16で折り曲げて境界シール7としてもよい。また、本実施例では酸化剤側多孔質ガス流路5に開口部を設けて、境界部16まで覆うように形成した例を示したが、境界部16には酸化剤側多孔質ガス流路5を配置せず、境界部16の酸化剤側と燃料側の両方にシール部材を設けることで境界シール7とすることも可能である。
【0031】
このように本実施例では、酸化剤供給マニホールド13と冷却水供給マニホールド15との境界部16に境界シール7を設けているため、酸化剤側多孔質ガス流路5に対して酸化剤ガスと冷却水が互いに干渉することなく供給される。具体的には、図3、図4の矢印で示した酸化剤ガス供給経路、冷却水供給経路のように供給される。冷却水供給マニホールド15を流通する冷却水は、狭窄部を構成する多孔質体の毛管力および冷却媒体の供給圧力により、各単位発電セルの酸化剤側多孔質ガス流路5に流入することができる。このように酸化剤側多孔質ガス流路5に冷却水が流入することで、冷却水が酸化剤側多孔質ガス流路5の中央領域に供給される。一方、酸化剤供給マニホールド13は冷却水供給マニホールド15の周囲を覆うように配置され、冷却水供給マニホールド15の周囲で酸化剤側多孔質ガス流路5と接するように構成されている。酸化剤ガスは、酸化剤供給マニホールド13を通り、冷却水供給マニホールド15の外周部の両側から酸化剤側多孔質ガス流路5に供給される。酸化剤側多孔質ガス流路5に供給された冷却水は、その外周部から供給された酸化剤ガスの流動によって発電面に拡散される。発電面内に拡散された冷却水が発電反応に伴い発生した熱により蒸発することでセル内温度を一定に保つことができる。
蒸発したガスは酸化剤排出マニホールド14から排出系配管を介してスタック外部へ排出される。
【0032】
図5に本実施例の燃料電池システムの酸化剤および冷却水供給・排出系を示す模式図を示す。一例として、燃料ガスは水素、酸化剤ガスは空気として説明するが、燃料ガスは水素リッチなガスであれば対応可能であり、酸化剤ガスは酸素であれば最も良い。
【0033】
燃料電池スタック100へのガス供給系は、酸化剤空気を供給する酸化剤ガスブロワ52と、酸化剤ガス供給口113を結ぶ配管系、酸化剤ガス排出口114から未反応のガスや水蒸気、凝縮した生成水や蒸発されなかった冷却水を排出する配管系からなる。冷却水の供給系は、冷却水供給ポンプ51からスタック100の冷却水供給口117を結ぶ配管により供給され、スタック100内部の冷却水供給マニホールド15から各単位発電セルの酸化剤ガス流路に供給される。燃料系統については図示していないが、供給はブロワまたは水素ボンベの圧力で行うものとする。
【0034】
冷却水は外部から供給することも可能であるが、酸化剤排出ガス中の水分を熱交換器53で凝縮させ、水回収タンク54に溜めたものを再利用することで、発電反応で生成された水を有効に利用することができ、システムをコンパクト化することが可能である。
【0035】
(実施例2)
本実施例では、実施例1の燃料電池スタックで用いたセパレータの変形例を説明する。
セパレータ以外の構成は実施例1と同様である。
【0036】
図5に本実施例のカソード側からみた金属板の平面図を示す。本実施例では、酸化剤供給マニホールド13と酸化剤側多孔質ガス流路との間に複数の冷却水供給マニホールド15を設けている。この金属板3に酸化剤側多孔質ガス流路5、燃料側多孔質ガス流路4を配置してセパレータとする。この際、実施例1と同様に酸化剤供給マニホールド13と冷却水供給マニホールド15の境界部には酸化剤ガスと冷却水が混入しないようにシールすることが好ましい。
【0037】
本実施例の構成によれば、複数に分割された冷却水供給マニホールド15の間を酸化剤ガスが流動することができるため、より冷却媒体を発電面内に拡散し易いという利点がある。また、多孔質ガス流路に対して酸化剤ガスを供給する箇所が分散するため、酸化剤ガスを発電面全体に供給し易くなるという利点を有する。
【0038】
(実施例3)
本実施例では、アルカリ形燃料電池に適用した例を説明する。アルカリ形燃料電池は、アミン基に代表されるアニオン交換型電解質膜を用いた燃料電池であり、実施例1の燃料電池の電解質膜としてアニオン交換型電解質膜を用いたことが特徴である。
【0039】
アルカリ形燃料電池は触媒に貴金属を用いなくても良い点が挙げられ、燃料には水素を始め、メタノールやエタノールといったアルコールを含む液体燃料も利用可能である。酸化剤には空気など酸素を含む気体が利用可能である。例えば、燃料にメタノールを用いた場合のアルカリ形燃料電池の電池反応は以下となる。
【0040】
(化1)
アノード: CH3OH+6OH- ⇒ CO2+5H2O+6e-
カソード: 3/2O2+3H2O+6e- ⇒ 6OH-
全 体: CH3OH+3/2O2 ⇒ CO2+2H2
【0041】
カソード側に供給された空気は電極において水との反応によりOH-イオンとなる。OH-イオンは電解質を移動し、アノード側で水素と結合し、水ができる反応である。このように、アルカリ形燃料電池では、カソード側で発電に水が必要となる。
【0042】
アルカリ形燃料電池の酸化剤側多孔質ガス流路に酸化剤ガスと冷却水を供給する方式を採用することによって、燃料電池の冷却とともにカソード側で発電で必要となる水を継続的に供給することが可能となり、安定した発電ができるアルカリ形燃料電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 膜電極接合体
2 ガス拡散層
3 金属板
4 燃料側多孔質ガス流路
5 酸化剤側多孔質ガス流路
6 シール部材
7 マニホールド境界シール部
11 燃料供給マニホールド
12 燃料排出マニホールド
13 酸化剤供給マニホールド
14 酸化剤排出マニホールド
15 冷却水供給マニホールド
16 マニホールド境界部
51 冷却水供給ポンプ
52 酸化剤ガスブロワ
53 熱交換器
54 水回収タンク
55 冷却水経路
56 酸化剤ガス経路
100 燃料電池スタック
105 発電部
111 燃料ガス供給口
112 燃料ガス排出口
113 酸化剤ガス供給口
114 酸化剤ガス排出口
115 集電板
116 絶縁板
117 冷却水供給口
118 端板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の一方の面に酸化剤側多孔質ガス流路、他方の面に燃料側多孔質ガス流路が配置された燃料電池セパレータにおいて、
前記金属板は、酸化剤側多孔質ガス流路に酸化剤ガスを供給するための酸化剤供給マニホールドと、酸化剤側多孔質ガス流路に冷却水を供給するための冷却水マニホールドとを備え、
前記冷却水マニホールドが前記酸化剤供給マニホールドと前記酸化剤側多孔質ガス流路の間に設けられており、
前記酸化剤供給マニホールドと前記冷却水マニホールドの境界部に酸化剤ガスと冷却水の混合を防止するためのシール部材を備えることを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項2】
請求項1において、前記酸化剤側多孔質ガス流路を構成する多孔質体が前記冷却水マニホールドの内側に突出していることを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項3】
請求項1において、前記シール部材が多孔質体に吸水ポリマーを含浸した構成であることを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項4】
請求項1において、前記冷却水マニホールドが複数に分割されていることを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項5】
金属板の一方の面に酸化剤側多孔質ガス流路、他方の面に燃料側多孔質ガス流路が配置された燃料電池セパレータと、膜電極接合体とを交互に積層したスタックを備える燃料電池において、
前記金属板は、酸化剤側多孔質ガス流路に酸化剤ガスを供給するための酸化剤供給マニホールドと、酸化剤側多孔質ガス流路に冷却水を供給するための冷却水マニホールドとを備え、
前記冷却水マニホールドが前記酸化剤供給マニホールドと前記酸化剤側多孔質ガス流路の間に設けられており、
前記酸化剤供給マニホールドと前記冷却水マニホールドの境界部に酸化剤ガスと冷却水の混合を防止するためのシール部材を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項5において、前記酸化剤側多孔質ガス流路を構成する多孔質体が前記冷却水マニホールドの内側に突出していることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項5において、前記シール部材が多孔質体に吸水ポリマーを含浸した構成であることを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項5において、前記冷却水マニホールドが複数に分割されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項5において、前記膜電極接合体の電解質膜がアニオン交換型電解質膜であることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−97872(P2013−97872A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236607(P2011−236607)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】