説明

燃料電池セル

【課題】積層して燃料電池スタックを構成した際に、全てのセルの性能を適正化することが可能であり、かつ、カソード側とアノード側との差圧による樹脂フレームと膜電極構造体との接合部の耐久性の低下を防止する燃料電池セルを提供する。
【解決手段】フレーム1を有する膜電極構造体2と、これらを挟持するセパレータ3を備え、フレーム1と各セパレータ3との間にディフューザ部Dを有する燃料電池セルCであって、カソード側及びアノード側のいずれか一方側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1及びセパレータ3の一方の面に、相手側に接する突部10を設けると共に、相手側と突部10の先端とを接着し、他方側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1とセパレータ3とを離間して配置したことにより、燃料電池スタックを構成した際の各セルCの性能の適正化と、フレーム1と膜電極構造体2との接合部の耐久性の向上を両立させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の発電要素として用いられる燃料電池セル(単セル)に関し、とくに、複数枚積層して燃料電池スタックを構成する燃料電池セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料電池セルとしては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。特許文献1に記載の燃料電池セルは、電解質膜を燃料極と空気極とで挟持した膜電極構造体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と、膜電極構造体の周囲を保持する樹脂フレームと、膜電極構造体及び樹脂フレームを挟む二枚のセパレータを備えている。
【0003】
上記燃料電池セルは、樹脂フレームと両セパレータとの間に、反応用ガスのマニホールド部及び整流部を夫々有すると共に、樹脂フレームの両面に、各セパレータに接触する突起が一体成形してあり、その突起により整流部の流路高さを維持している。そして、上記燃料電池セルは、複数枚を積層すると共に、その積層方向に一定の荷重を付与した状態にして燃料電池スタックを構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−077499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の燃料電池セルは、各構成部品に寸法公差や製造上のばらつきがあり、膜電極構造体の厚さの経年変位などにも僅かな差がある。このため、従来の燃料電池セル、すなわち樹脂フレームの突起とセパレータとを接触させて樹脂フレームを拘束した構造を有する燃料電池セルでは、これを複数枚積層して燃料電池スタックを構成した際に、膜電極構造体に対する接触面圧やガス流量などの性能にもばらつきが生じ、全てのセルの性能を適正化することが困難になっている。
【0006】
さらに、上記したような燃料電池セルでは、燃料電池の運転状況に応じてカソード側とアノード側とでガスの差圧が発生し、その差圧により樹脂フレームと膜電極構造体との接合部に曲げ応力が集中して、接合部の耐久性が低下するおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、周囲にフレームを有する膜電極構造体と、フレーム及び膜電極構造体を挟持する二枚のセパレータを備えた燃料電池セルにおいて、燃料電池スタックを構成した際の各セルの性能の適正化と、フレームと膜電極構造体との接合部の耐久性の向上を両立させることができる燃料電池セルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池セルは、周囲にフレームを有する膜電極構造体と、フレーム及び膜電極構造体を挟持する二枚のセパレータを備えると共に、フレームと各セパレータの縁部同士の間にガスシールを設け、フレームと各セパレータとの間に反応用ガスを流通させる夫々のディフューザ部を有している。
【0009】
そして、燃料電池セルは、カソード側及びアノード側のいずれか一方側のディフューザ部において、フレーム及びセパレータの相対向面の少なくとも一方の面に、相手側に接する突部を設けると共に、相手側と突部の先端とを接着し、他方側のディフューザ部において、フレームとセパレータとを離間して配置した構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
また、本発明の燃料電池セルは、一方側のディフューザ部において、フレーム及びセパレータの相対向面の少なくとも一方の面に、相手側に接する突部を設けると共に、他方側のディフューザ部において、フレームとセパレータの間に、双方に接する弾性体を介装したことを特徴とし、若しくは、両方のディフューザ部において、フレームとセパレータの間に、双方に接する弾性体を介装したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料電池セルによれば、フレームとセパレータとの間に設けた隙間あるいは弾性体により厚さ方向の変位吸収が可能であると同時に、フレーム及びセパレータのいずれかに設けた突部あるいは弾性体によりフレームを保持することから、燃料電池スタックを構成した際の各セルの性能の適正化と、フレームと膜電極構造体との接合部の耐久性の向上を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の燃料電池セルの一実施形態を説明する分解状態の平面図である。
【図2】図1に示す燃料電池セルの組立後の平面図である。
【図3】図1に示す燃料電池セルを積層して成る燃料電池スタックを説明する分解斜視図(A)及び組立後の斜視図(B)である。
【図4】図2中のA−A線に基づく要部の断面図である。
【図5】燃料電池セルの他の実施形態を示す要部の断面図である。
【図6】燃料電池セルのさらに他の実施形態を示す要部の断面図(A)及び突部の形成を説明する要部の断面図(B)である。
【図7】燃料電池セルのさらに他の実施形態を示す要部の断面図(A)、セパレータに弾性体を設けた例を示す要部の断面図(B)、及びフレームに弾性体を設けた例を示す要部の断面図(C)である。
【図8】燃料電池セルのさらに他の実施形態を示す要部の断面図である。
【図9】燃料電池セルのさらに他の実施形態を示す要部の断面図である。
【図10】燃料電池セルのさらに他の実施形態を示す要部の断面図である。
【図11】燃料電池セルのさらに他の実施形態を示す要部の断面図である。
【図12】燃料電池セルのさらに他の実施形態を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1及び図2は、本発明の燃料電池セルの一実施形態を説明する図である。
図1に示す燃料電池セル(単セル)Cは、周囲にフレーム1を有する膜電極構造体2と、フレーム1及び膜電極構造体2を挟持する二枚のセパレータ3,3を備えている。フレーム1は、ほぼ一定の厚さの薄板状を成しており、その縁部を除く大部分が膜電極構造体2の厚さよりも薄いものである。そして、フレーム1と両セパレータ3,3との間に反応用ガスを流通させる流通領域(後記するディフューザ部)を有している。なお、フレーム1は樹脂であり、セパレータ3は金属であることが、製造しやすいために望ましい。
【0014】
膜電極構造体2は、一般に、MEA(Membrane Electrode Assembly)と呼ばれるものであって、例えば固体高分子から成る電解質層を空気極層(カソード)と燃料極層(アノード)とで挟持した構造を有している。この膜電極構造体2は、空気極層に他方の反応用ガスである酸化剤ガス(空気)が供給されると共に、燃料極層に一方の反応用ガスである燃料ガス(水素)が供給されて、電気化学反応により発電をする。なお、膜電極構造体2としては、空気極層と燃料極層の表面に、カーボンペーパや多孔質体等から成るガス拡散層を備えたものも含まれる。
【0015】
フレーム1は、樹脂成形(例えば射出成形)により膜電極構造体2と一体化してあり、この実施形態では、膜電極構造体2を中央にして長方形状を成している。また、フレーム1は、両端部に、各々三個ずつのマニホールド穴H1〜H6が配列してあり、各マニホールド穴群から膜電極構造体2に至る領域が反応用ガスの流通領域となる。このフレーム1及び両セパレータ3,3は、いずれもほぼ同等の縦横寸法を有する長方形状である。
【0016】
各セパレータ3は、夫々ステンレス等の金属板をプレス成形したものである。各セパレータ3は、膜電極構造体2に対応する中央部分が、短辺方向の断面において波形状に形成してある。この波形状は図示の如く長辺方向に連続している。これにより、各セパレータ3は、波形状における膜電極構造体2に対応する中央部分では、各凸部分が膜電極構造体2に接触すると共に、波形状における各凹部分が反応用ガスの流路となる。
【0017】
また、各セパレータ3は、両端部に、フレーム1の各マニホールド穴H1〜H6同等のマニホールド穴H1〜H6を有し、各マニホールド穴群から断面波形状の部分に至る領域が反応用ガスの流通領域となる。
【0018】
上記のフレーム1及び膜電極構造体2と両セパレータ3,3は、重ね合わせて燃料電池セルCを構成する。このとき、燃料電池セルCは、とくに図2に示すように、中央に、膜電極構造体2の領域である発電部Gを備えている。そして、発電部Gの両側に、反応用ガスの供給及び排出を行うマニホールド部M,Mと、各マニホールド部Mから発電部Gに至る反応用ガスの流通領域であるディフューザ部D,Dを備えたものとなっている。
【0019】
ここで、反応用ガスの流通領域であるディフューザ部Dは、図2中のセル両端側だけでなく、フレーム1と両側のセパレータ3,3との間、つまりアノード側及びカソード側に夫々形成されている。
【0020】
図2の左側に示す一方のマニホールド部Mにおいて、各マニホールド穴H1〜H3は、酸化剤ガス供給用(H1)、冷却流体供給用(H2)及び燃料ガス供給用(H3)であり、積層方向に互いに連通して夫々の流路を形成する。また、図2の右側に示す他方のマニホールド部Mにおいて、各マニホールド穴H4〜H6は、燃料ガス排出用(H4)、冷却流体排出用(H5)及び酸化剤ガス排出用(H6)であり、積層方向に互いに連通して夫々の流路を形成する。なお、供給用と排出用は、一部または全部が逆の位置関係でも良い。
【0021】
さらに、燃料電池セルCは、図1に示すように、フレーム1と各セパレータ3の縁部同士の間や、マニホールド穴H1〜H6の周囲に、ガスシールSLが設けてある。また、燃料電池セルCを複数枚を積層した状態では、セル同士すなわち隣接するセパレータ3同士の間にもガスシールSLを設ける。この実施形態では、隣接するセパレータ3,3間に冷却流体を流通させる構造である。
【0022】
上記のガスシールSLは、個々の層間において、酸化剤ガス、燃料ガス及び冷却流体の夫々の流通域を気密的に分離すると共に、その層間に所定の流体が流れるように、マニホールド穴H1〜H6の周縁部の適当な箇所に開口を設ける。
【0023】
上記構成を備えた燃料電池セルCは、複数枚を積層して、図3に示すような燃料電池スタックFSを構成する。
【0024】
燃料電池スタックFSは、図3(A)に示すように、燃料電池セルCの積層体Aに対し、セル積層方向の一端部(図3中で右側端部)に、集電板4A及びスペーサ5を介してエンドプレート6Aが設けてあると共に、他端部に、集電板4Bを介してエンドプレート6Bが設けてある。また、燃料電池スタックFSは、積層体Aに対し、燃料電池セルCの長辺側となる両面(図3中で上下面)に、締結板7A,7Bが設けてあると共に、短辺側となる両面に、補強板8A,8Bが設けてある。
【0025】
そして、燃料電池スタックFSは、各締結板7A,7B及び補強板8A,8BをボルトBにより両エンドプレート6A,6Bに連結する。このようにして、燃料電池スタックFSは、図3(B)に示すようなケース一体型構造となり、積層体Aをセル積層方向に拘束・加圧して個々の燃料電池セルCに所定の接触面圧を加え、ガスシール性や導電性等を良好に維持する。
【0026】
ここで、上記したような燃料電池セルCでは、各構成部品に寸法公差や製造上のばらつきがあると共に、膜電極構造体2の厚さの経年変位などにも僅かな差がある。また、燃料電池の運転状況に応じてカソード側とアノード側とでガスの差圧が発生し、その差圧によりフレーム1と膜電極構造体2との接合部に曲げ応力が集中しやすい。
【0027】
そこで、燃料電池セルCは、図4に示すように、カソード側及びアノード側のいずれか一方側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1及びセパレータ3の相対向面の少なくとも一方の面に、相手側と接する突部10を設けると共に、相手側と突部10の先端とを接着している。そして、他方側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1とセパレータ3とを離間して配置したものとなっている。
【0028】
図示例の燃料電池セルCでは、カソード側(図中上側)のディフューザ部Dにおいて、フレーム1に、セパレータ3に接する突部10を設けると共に、セパレータ3と突部10の先端とを接着(符号Q)し、アノード側(図中下側)のディフューザ部Dにおいて、フレーム1とセパレータ3とを離間して配置している。なお、カソード及びアノードの位置は上下逆でも構わない。
【0029】
セパレータ3と突部10との接着には、双方の材料(金属と樹脂)を考慮したうえで、これらの接着に有効な周知の接着剤を用いることができ、このほか、超音波溶着などの適宜の接着手段を採用することもできる。
【0030】
この実施形態の突部10は、円錐台形状であって、樹脂製のフレーム1に一体成形してあり、図1に示すように所定間隔で配置してある。この突部10は、形状等がとくに限定されるものではなく、反応用ガスの流通を妨げないものであれば良い。
【0031】
また、この実施形態では、フレーム1のアノード側の面(図4で下側の面)に、突部10と類似形状の突部11が設けてある。この突部11は、カソード側の突部10よりも低くて、セパレータ3との間に隙間を形成しており、フレーム1とセパレータ3が接近する方向に変位した際に、セパレータ3に当接して過大な変位を阻止する。
【0032】
上記構成を備えた燃料電池セルCは、アノード側のディフューザ部Dにおいてフレーム1とセパレータ3とが離間しているので、燃料電池スタックFSを構成した際に、積層方向の加圧力が主に膜電極構造体2とセパレータ3との間に作用し、膜電極構造体2とセパレータ3との接触面圧を充分に確保することができる。
【0033】
また、燃料電池セルCは、アノード側のディフューザ部Dにおけるフレーム1とセパレータ3との隙間により、厚さ方向の変位吸収が可能である。すなわち、燃料電池セルCは、各構成部品の寸法公差や製造上のばらつき、膜電極構造体2の厚さ方向の経年変位があっても、上記隙間によりそれらを吸収することができる。これにより、燃料電池セルCは、燃料電池スタックFSを構成した際に、個々のセルにおける接触面圧やガス流量等の性能のばらつきを抑制し得るものとなる。
【0034】
さらに、燃料電池セルCは、カソード側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1の突部10の先端とセパレータ3とを接着したことにより、フレーム1を有する膜電極構造体2の耐久性が向上する。すなわち、燃料電池セルCは、カソード側とアノード側とでガスの差圧が生じても、セパレータ3に接着した上記突部10によりフレーム1が同セパレータ3に保持されているので、カソード側及びアノード側のいずれの圧力が高くなった場合でも、フレーム1の変位を抑制することができる。これにより、燃料電池セルCは、フレーム1と膜電極構造体2との接合部に曲げ応力が集中するのを阻止し得るものとなる。
【0035】
このようにして、燃料電池セルCは、フレーム1とセパレータ3との間に設けた隙間により厚さ方向の変位吸収が可能であると同時に、セパレータ3に接着した突部10によりフレーム1を保持することから、燃料電池スタックFSを構成した際の各セルの性能の適正化と、フレーム1と膜電極構造体2との接合部の耐久性の向上を両立させることができる。
【0036】
図5は、本発明の燃料電池セルの他の実施形態を説明する図である。なお、以下の実施形態において、図1〜図4に示す先の実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。また、以下の実施形態では、図中上側をカソード側として説明するが、カソード及びアノードの位置は上下逆でもよい。
【0037】
図示の燃料電池セルCは、カソード側(上側)のディフューザ部Dにおいて、セパレータ3に、相手側であるフレーム1に接する突部12を設けると共に、フレーム1と突部12の先端とを接着(Q)している。突部12は、先の実施形態の突部と同様に、反応用ガスの流通を妨げないように所定間隔で配置してある。そして、アノード側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1とセパレータ3とを離間して配置している。
【0038】
上記の燃料電池セルCにあっても、先の実施形態と同様に、フレーム1とセパレータ3との間に設けた隙間により厚さ方向の変位吸収が可能であると同時に、セパレータ3に設けた突部12によりフレーム1を保持することから、燃料電池スタックFSを構成した際の各セルの性能の適正化と、フレーム1と膜電極構造体2との接合部の耐久性の向上を両立させることができる。
【0039】
図6は、本発明の燃料電池セルのさらに他の実施形態を説明する図である。図6(A)に示す燃料電池セルCは、カソード側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1及びセパレータ3の相対向面の少なくとも一方の面に、相手側に接する突部13を設けたものであるが、その突部13が、フレーム1とセパレータ3との間に介装した接着材で形成してある。この突部13にあっても、反応用ガスの流通を妨げないように所定間隔で配置してある。また、アノード側のディフューザ部Dにおいては、フレーム1とセパレータ3とを離間して配置している。
【0040】
突部13を形成する接着材は、接着力に特化した材料から選択することができ、例えばエポキシ系の材料を使用することができる。突部(接着材)13は、予め所定形状に成形しておくことも可能であるが、より望ましくは、図6(B)に示すように、図示しない接着材供給装置のノズルNから吐出させてフレーム1に塗布する。そして、突部(接着材)13は、フレーム1とセパレータ3を接合することで双方に接着されるので、相手側であるセパレータ3と先端とを接着するのと同等である。なお、図示例とは逆に、セパレータ3に突部13を設ける(塗布する)ことも当然可能である。
【0041】
上記の燃料電池セルCにあっても、先の実施形態と同様の効果を得ることができるうえに、突部13を接着材で形成したことから、フレーム1やセパレータ3の突部を廃止して形状を簡素化することができ、また、ガスシールSL(図1参照)を設ける工程とともに突部13を形成することが可能なので、生産効率の向上や製造コストの低減などにも貢献することができる。なお、ガスシールSLと突部13とを同工程で形成する場合には、両方の用途に適した材料、例えばシリコーンゴム、フッ素ゴム、及びポリオレフィンゴムなどの接着剤を用いることが望ましい。
【0042】
図7は、本発明の燃料電池セルのさらに他の実施形態を説明する図である。図7(A)に示す燃料電池セルCは、カソード側及びアノード側のいずれか一方側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1及びセパレータ3の相対向面の少なくとも一方の面に、相手側に接する突部10を設けると共に、他方側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1とセパレータ3の間に、双方に接する弾性体14を介装している。この弾性体14は、先の実施形態の突部と同様に、反応用ガスの流通を妨げないように所定間隔で配置してある。
【0043】
具体的には、燃料電池セルCは、カソード側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1に、セパレータ3に接する突部10を設けると共に、アノード側のディフューザ部Dにおいて、フレーム1とセパレータ3の間に、双方に接する弾性体14を介装している。弾性体14は、図7(B)に示す如くセパレータ3に設けたり、図7(C)に示す如くフレーム1に設けることができる。
【0044】
また、弾性体14は、予め所定形状に成形しておくことも可能であるが、より望ましくは、溶融状態で塗布されて硬化後に弾力性を有する接着材で形成する。弾性体14を形成する接着材は、例えばシリコーンゴム、フッ素ゴム、あるいはポリオレフィンゴムなどの材料を使用することができる。この弾性体(接着材)14にあっても、先の接着材で形成した突部(図6の符号13)と同様に、フレーム1又はセパレータ3に塗布され、硬化後、フレーム1とセパレータ3を接合することで相手側に接することとなる。
【0045】
上記の燃料電池セルCは、図4〜図6に示す実施形態では、アノード側のセパレータ3とフレーム1との隙間により厚さ方向の変位吸収を行うのに対して、アノード側の弾性体14により厚さ方向の変位吸収を行う。そして、燃料電池セルCは、フレーム1の突部10及び弾性体14によりフレーム1を保持する。これにより、先の実施形態と同様に、燃料電池スタックFSを構成した際の各セルの性能の適正化と、フレーム1と膜電極構造体2との接合部の耐久性の向上を両立させることができる。
【0046】
また、上記の燃料電池セルCは、硬化後に弾力性を有する接着材で弾性体14を形成したことから、ガスシールSL(図1参照)を設ける工程とともに弾性体14を形成することが可能であり、生産効率の向上や製造コストの低減などにも貢献することができる。さらに、上記の燃料電池セルCは、突部10や弾性体14を相手側に接触させるだけで、変位吸収機能やフレーム1の保持機能を得ることができるので、接着材は接着強度の低いものでもよい。そのため、接着面の表面処理を簡素にし又は廃止し得ると共に、安価な接着材を採用することができ、製造コストのさらなる低減を図ることができる。
【0047】
図8は、本発明の燃料電池セルのさらに他の実施形態を説明する図である。図示の燃料電池セルCは、カソード側及びアノード側の両方のディフューザ部Dにおいて、フレーム1とセパレータ3の間に、双方に接する弾性体14を介装している。弾性体14は、先の実施形態と同様に、反応用ガスの流通を妨げないように所定間隔で配置してある。この弾性体14にあっても、予め所定形状に成形しておくことも可能であるが、より望ましくは、溶融状態で塗布されて硬化後に弾力性を有する接着材で形成する。
【0048】
上記の燃料電池セルCは、カソード側及びアノード側の両弾性体14により厚さ方向の変位吸収を行うと共に、両弾性体14によりフレーム1を保持する。これにより、先の実施形態と同様に、燃料電池スタックFSを構成した際の各セルの性能の適正化と、フレーム1と膜電極構造体2との接合部の耐久性の向上を両立させることができる。
【0049】
図9及び10は、本発明の燃料電池セルのさらに他の実施形態を説明する図である。図示の燃料電池セルCは、先の実施形態と同様に、両ディフューザ部Dに弾性体14が設けてあり、フレーム1及びセパレータ3の相対向面の少なくとも一方の面に凹部15(又は16)を設けると共に、その凹部15(又は16)に弾性体14を配置している。このとき、弾性体14は、反応用ガスの流通を妨げないように所定間隔で配置するので、凹部15(又は16)にあっても、同様に所定間隔で形成してある。
【0050】
図9に示す燃料電池セルCは、セパレータ3に凹部15が形成してあり、その凹部15に弾性体14を配置している。この場合、凹部15は、セパレータ3にプレス成形した凸部17の裏側部分を応用することができる。他方、図10に示す燃料電池セルCは、フレーム1に凹部16が形成してあり、その凹部16に弾性体14を配置している。この場合、凹部16は、サンドブラスト等の表面研削加工により形成することができる。なお、セパレータ3に同様の表面研削加工を行って、図9に示すような凹部15を形成することも勿論可能である。
【0051】
上記の各燃料電池セルCは、先の実施形態と同様に、両弾性体14により厚さ方向の変位吸収を行うと共に、両弾性体14によりフレーム1を保持し、燃料電池スタックFSを構成した際の各セルの性能の適正化と、フレーム1と膜電極構造体2との接合部の耐久性の向上を両立させることができる。
【0052】
また、凹部15,16により、弾性体14の位置決めが容易になり、製造効率の向上に貢献し得ると共に、弾性体14とフレーム1又はセパレータ3との接触面積が大きくなるので、弾性体14の接着強度や安定性が増すこととなる。さらに、弾性体14の安定化に伴って耐久性も向上するほか、凹部15,16の深さ分だけ弾性体14の伸縮長さが増すので、燃料電池セルCの厚さ方向の変位吸収範囲を大きくすることができる。
【0053】
さらに、図9に示す燃料電池セルCのように、セパレータ3にプレス成形した凸部17の裏側部分を凹部15とした構成では、凸部17は冷却流体の流路形成部位となる。すなわち、燃料電池セルCは、先述したように、積層状態において隣接するもの同士の間に冷却流体を流通させる構造であるから、隣接するセパレータ3同士の間に、流路を形成するための部位や部材が必要である。そこで、この実施形態のように、セパレータ3にプレス成形した凸部17の裏側部分を凹部15とすれば、流路を形成するための凸部17と弾性体14を配置するための凹部15を一工程で形成することができ、製造効率や製造コストの面で非常に有効である。
【0054】
さらに、図10に示す燃料電池セルCのように、フレーム1の凹部16を表面研削加工により形成し、とくに、サンドブラストにより表面性状を微細な凹凸に形成すれば、弾性体14の接着面積を増大させて接着強度を一層高めることができ、これにより、弾性体14の剥離を防止して耐久性をより高めることができる。
【0055】
図7〜図10に示す弾性体14は、図11に示すように、ガスシールSL(図1参照)と同一工程で形成することができる。すなわち、弾性体14は、射出成形や焼付けなどによっても形成することができるが、硬化後に弾力性を発揮する接着材を素材とすれば、図6に示す突部13と同様にガスシールSLと同一構成で形成することができ、製造効率や製造コストの面で非常に有効である。
【0056】
図12は、本発明の燃料電池セルのさらに他の実施形態を説明する図である。図示の燃料電池セルCは、カソード側(図中上側)のディフューザ部Dにおいてフレーム1に凹部16を設けると共に、アノード側(図中下側)のディフューザ部Dにおいてセパレータ3に凹部15を設けている。あるいは、図示例とは逆に、カソード側のディフューザ部Dにおいてセパレータ3に凹部15を設けると共に、アノード側のディフューザ部Dにおいてフレーム1に凹部16を設けても良い。すなわち、前記凹部15,16は、同じ向きになる面に設ければ良く、望ましくは、組立て製造の際に上側となる面に設ける。
【0057】
上記の燃料電池セルCでは、硬化後に弾力性を有する接着材を使用し、図示しない接着材供給装置のノズルNから溶融状態の接着材を吐出させて凹部15,16に塗布し、これを硬化させて弾性体14を形成する。したがって、図示例のように、両ディフューザ部Dにおけるフレーム1及びセパレータ3に対して、上側となる面に凹部15,16を設ければ、同一方向から溶融状態の接着材の塗布を行うことができると共に、接着材の流れ出しを防止することもでき、製造効率の面で有効であるうえに、弾性系14を良好に形成することができる。
【0058】
上記の各実施形態で説明したように、本発明の燃料電池セルCは、燃料電池スタックFSを構成した際の各セルの性能の適正化と、フレーム1と膜電極構造体2との接合部の耐久性の向上を両立させることができる。したがって、上記の燃料電池セルCを複数枚積層して成る燃料電池スタックFSにあっては、個々の燃料電池セルCの発電性能や耐久性能が均一化され、長期にわたって安定した発電を行うことができる。
【0059】
本発明の燃料電池セルは、その構成が上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の細部を適宜変更することが可能である。例えば、上記各実施形態では、カソード側及びアノード側において、突部と弾性体との位置や、弾性体と弾性体との位置が互いに一致している例を図示したが、これらは平面方向にずれていても良い。また、上記各実施形態の構成同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0060】
C 燃料電池セル
D ディフューザ部
FS 燃料電池スタック
SL ガスシール
1 フレーム
2 膜電極構造体
3 セパレータ
10 12 突部
13 接着材から成る突部
14 弾性体
15 16 凹部
17 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲にフレームを有する膜電極構造体と、フレーム及び膜電極構造体を挟持する二枚のセパレータを備えると共に、フレームと各セパレータの縁部同士の間にガスシールを設け、フレームと各セパレータとの間に反応用ガスを流通させる夫々のディフューザ部を有する燃料電池セルであって、
カソード側及びアノード側のいずれか一方側のディフューザ部において、フレーム及びセパレータの相対向面の少なくとも一方の面に、相手側に接する突部を設けると共に、相手側と突部の先端とを接着し、
他方側のディフューザ部において、フレームとセパレータとを離間して配置したことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
突部が、フレームとセパレータとの間に介装した接着材で形成してあることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
周囲にフレームを有する膜電極構造体と、フレーム及び膜電極構造体を挟持する二枚のセパレータを備えると共に、フレームと各セパレータの縁部同士の間にガスシールを設け、フレームと各セパレータとの間に反応用ガスを流通させる夫々のディフューザ部を有する燃料電池セルであって、
カソード側及びアノード側のいずれか一方側のディフューザ部において、フレーム及びセパレータの相対向面の少なくとも一方の面に、相手側に接する突部を設けると共に、
他方側のディフューザ部において、フレームとセパレータの間に、双方に接する弾性体を介装したことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項4】
弾性体が、硬化後に弾力性を有する接着材で形成してあることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池セル。
【請求項5】
周囲にフレームを有する膜電極構造体と、フレーム及び膜電極構造体を挟持する二枚のセパレータを備えると共に、フレームと各セパレータの縁部同士の間にガスシールを設け、フレームと各セパレータとの間に反応用ガスを流通させる夫々のディフューザ部を有する燃料電池セルであって、
カソード側及びアノード側の両方のディフューザ部において、フレームとセパレータの間に、双方に接する弾性体を介装したことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項6】
弾性体が、硬化後に弾力性を有する接着材で形成してあることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池セル。
【請求項7】
両ディフューザ部において、フレーム及びセパレータの相対向面の少なくとも一方の面に凹部を設けると共に、その凹部に弾性体を配置したことを特徴とする請求項5又は6に記載の燃料電池セル。
【請求項8】
セパレータに設けた凹部が、同セパレータにプレス成形した凸部の裏側部分であることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池セル。
【請求項9】
前記凹部が、表面研削加工により形成してあることを特徴とする請求項7又は8に記載の燃料電池セル。
【請求項10】
カソード側のディフューザ部においてフレームに凹部を設けると共に、アノード側のディフューザ部においてセパレータに凹部を設け、あるいは、カソード側のディフューザ部においてセパレータに凹部を設けると共に、アノード側のディフューザ部においてフレームに凹部を設けることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の燃料電池セルを複数枚積層して成ることを特徴とする燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−212560(P2012−212560A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77660(P2011−77660)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】