説明

燃料電池及び燃料電池装置

【課題】 不純物質がアノード空間内へ進入しても発電領域のばらつきが少なく、高い発電性能を維持することの出来る薄型の発電セルを備えた燃料電池を提供する。
【解決手段】 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一面に備えられたアノード側触媒体と、前記アノード側触媒体に対して燃料を供給する供給部材と、前記供給部材と前記アノード側触媒体との間に設けられ、前記燃料を拡散する拡散部とを備える燃料電池において、前記供給部材は、前記アノード側触媒体の面方向に広がるように備えられたアノード流路と、前記燃料の供給により前記拡散部から押し退けられた気体を収容する収容部とを有し、前記アノード流路は、前記アノード側触媒体に対して燃料を供給するためのアノード連通孔を有し、前記アノード流路と前記収容部とは、前記拡散部の面方向に沿って備えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池及び燃料貯蔵源を備えた燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在燃料電池には多数の方式が存在するが、電子機器に用いられる燃料電池は、そのシステムの小型化・簡素化が容易である事から固体高分子形燃料電池の適用が有望である。固体高分子形燃料電池は、アノード極とカソード極と両極に挟持された固体高分子電解質膜とから成る単電池によって構成され、アノード極側にメタノールや水素等の燃料を供給し、カソード極側に酸化剤気体、例えば酸素や空気を供給し、これらの電気化学反応により電力を発生する。
【0003】
ここで発電領域に対して面方向のどの場所に対してもばらつき無く均等に燃料を供給する必要がある。燃料が十分に供給されていない箇所では拡散過電圧により抵抗が高くなり、十分な発電力を取り出せない可能性がある。また燃料が十分供給されていない箇所は拡散過電圧により、その箇所のみ発熱が多くなってしまい、燃料電池全体の発電性能を劣化させるといった可能性もある。
【0004】
この課題に対し、発電領域全体に燃料を供給できるように燃料流路が枝状に分割している流路を持つ層を新たに設ける事で、発電領域全体に供給される燃料の濃度ばらつきを低減する技術がある(例えば特許文献1参照)。特許文献1に係る発電セルは、膜電極接合体や導電層を含む発電セル部材を挟み込む板部とバックカバーから構成され、バックカバーには燃料供給板を有している。燃料供給板は燃料供給源から燃料注入口を通して供給された燃料が、燃料供給板の全体に行き渡るように配置された管部を通り、管部と繋がる燃料排出口へと移動する。燃料排出口は発電領域の全体にそれぞれが均等に離間して配置されており、排出口から供給された燃料がアノード極の発電領域全体にばらつき無く広がる。
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に係る発電セルは発電領域内の燃料濃度のばらつきは低減されているが、燃料供給板が新たな構成要素として別に備えられている為に、発電セルの厚みが増大してしまう。
【0006】
またアノード極に対する燃料の供給方式は、大別してフロー方式とデッドエンド方式に分類される。デッドエンド方式は発電中に燃料気体を燃料電池外部へと排出せず、発電で消費した燃料気体の量だけアノード極に燃料を供給する方式である。
【0007】
このような固体高分子形燃料電池システムの発電において、アノード極内の流路にカソード極側から電解質膜を介し、空気などの燃料気体以外の気体(不純気体)が侵入してくる。また燃料電池の発電反応ではカソード極側で水が生成されるが、生成水は電解質膜を通してアノード極内部へと浸透する。ここでデッドエンド方式においてはこれらの不純物質は燃料電池外部へと排出されず、アノード極内に蓄積する。
【0008】
このようにデッドエンド方式の発電セルにおいて長時間の発電を持続する為には、触媒層付近からの不純物質の除去をする必要がある。ここでアノード極にスペースを設け、不純物質をスペースに移動させることが容易に考えられるが、この方法だとスペースの容積だけアノード極の厚みが増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−218048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、不純物質がアノード空間内へ進入しても発電領域のばらつきが少なく、高い発電性能を維持することの出来る薄型の発電セルを備えた燃料電池を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の燃料電池の第1の特徴は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一面に備えられたアノード側触媒体と、前記アノード側触媒体に対して燃料を供給する供給部材と、前記供給部材と前記アノード側触媒体との間に設けられ、前記燃料を拡散する拡散部とを備える燃料電池において、前記供給部材は、前記アノード側触媒体の面方向に広がるように備えられたアノード流路と、前記燃料の供給により前記拡散部から押し退けられた気体を収容する収容部とを有し、前記アノード流路は、前記アノード側触媒体に対して燃料を供給するためのアノード連通孔を有し、前記アノード流路と前記収容部とは、前記拡散部の面方向に沿って備えられることを要旨とする。
【0012】
かかる特徴によれば、カソード側から不純物質が固体高分子電解質膜を通してアノード側へと侵入した場合、拡散部に存在する不純物質は収容部へと移動する事が出来、また燃料はアノード側触媒体の面方向に広がるように備えられたアノード流路中を移動する事によって発電領域全体に広がるので、発電領域内の燃料濃度のばらつきを低減出来る。
【0013】
さらに収容部とアノード流路は拡散部の面方向に沿って備えられるので、発電セルの薄型化が可能となる。この結果、薄型の発電セルでアノード流路は純物質のアノード空間内へ進入が生じても発電領域内のばらつきが少なく、高い発電性能を維持することが可能となる。
【0014】
また本発明の燃料電池の第2の特徴は、第1の特徴の燃料電池において、前記アノード連通孔は、前記拡散部に面して設けられていることを要旨とする。
かかる特徴によれば、アノード連通孔が拡散部に面して配置されている為に、燃料が拡散部へと供給され易くなり、アノード触媒層付近に存在する不純物質を除去する能力を高める事ができる。
【0015】
また本発明の燃料電池の第3の特徴は、第1または第2の特徴の燃料電池において、前記アノード流路と前記収容部とは、基板上にあり、前記基板は、前記拡散部に対して突出した複数の凸部分と、隣り合う前記凸部分により構成される凹部分とを有し、前記凸部分は、前記アノード流路であり、前記凹部分は、前記収容部であることを要旨とする。
かかる特徴によれば、複数のアノード流路を配置しても収容部の容積を大きく確保できるので、燃料電池の発電領域の大きさに係らず、収容部とアノード流路を同一層に有する燃料電池構造が実現可能となる。
【0016】
また本発明の燃料電池の第4の特徴は、第1から第3のいずれかの燃料電池において、前記アノード流路と前記収容部とは、同一基板から形成されることを要旨とする。
かかる特徴によれば、アノード流路と収容部は同一基板から形成される為、より少ない部材数で本発明の燃料電池構造を実現する事が可能となる。
【0017】
また本発明の燃料電池の第5の要旨は、第1または第2の燃料電池において、前記供給部材は、前記拡散部の面に対して平行に設けられている筒であることを要旨とする。
かかる特徴によれば、筒状の供給部材を備える事により簡便にアノード流路と収容部を同一の層に形成する事が可能である為、本発明の燃料電池の組立を簡易化することが可能である。
【0018】
また本発明の燃料電池の第6の要旨は、第1から第5のいずれかの燃料電池において、前記拡散部は、燃料を流通する燃料流通孔を複数有することを要旨とする。
かかる特徴によれば、燃料が発電セルの厚み方向に移動する事が出来る燃料流通孔を拡散部が設ける事により、触媒層近傍への燃料の供給能力と、不純物質の収容部への移動性を向上することが出来る。
【0019】
また本発明の燃料電池の第7の要旨は、第6の燃料電池において、前記アノード連通孔は、複数の前記燃料流通孔の少なくとも一部と重なるように配置されていることを要旨とする。
かかる特徴によれば、燃料流通孔がアノード連通孔と一部重なりあう為、触媒層近傍への燃料の供給能力をより確実に向上させる事が可能となる。
【0020】
また本発明の燃料電池の第8の要旨は、第1から第7いずれかの燃料電池において、前記アノード連通孔の面積は、前記アノード流路の流通方向に垂直な断面積よりも小さいことを要旨とする。
かかる特徴によれば、アノード流路の断面積がアノード連通孔の断面積よりも小さい為に、燃料はアノード連通孔から触媒層近傍へ供給されるよりもアノード流路中を移動しやすい。そのため、発電領域全体への燃料供給のばらつきをより軽減する事が可能である。
【0021】
また本発明の燃料電池の第9の要旨は、第1から第8いずれかの燃料電池において、複数の前記アノード流路のそれぞれを連通する支流路を備え、前記支流路の流通方向に垂直な断面積は、前記アノード流路の流通方向に垂直な断面積以上であることを要旨とする。
かかる特徴によれば、複数のアノード流路の断面積が支流路の断面積よりも小さい為に、燃料はそれぞれのアノード流路に行き渡るよりも、支流路中を移動しやすい。そのため支流路の燃料濃度が均一になるため、発電領域全体への燃料供給のばらつきをより軽減する事が可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、不純物質がアノード空間内へ進入しても発電領域のばらつきが少なく、高い発電性能を維持することの出来る薄型の発電セルを備えた燃料電池を提供する事が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る燃料電池装置の全体の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1における燃料電池の分解斜視図である。
【図3】実施の形態1における燃料電池の断面図である。
【図4】実施の形態2における燃料電池の断面図である。
【図5】供給部材の具体例の斜視図である。
【図6】その他の供給部材の具体例の斜視図である。
【図7】その他の供給部材を搭載した燃料電池の分解斜視図である。
【図8】実施の形態3における、支流路を有する供給部材の斜視図である。
【図9】複数の支流路を有する供給部材の斜視図である。
【図10】実施の形態4における燃料電池の断面図である。
【図11】本発明を用いない通常の閉鎖系の燃料電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
図1から図3に基づいて本発明の実施の形態1における燃料電池装置を説明する。
【0025】
図1には本発明の一実施例に係る燃料電池装置全体の概略構成図を示してある。図1に示すように、燃料電池装置1は発電セルから構成される燃料電池2と、燃料電池2の発電反応に必要とされる燃料を貯蔵する燃料部3と、燃料部3に内蔵された燃料を燃料電池へと供給する為の燃料供給手段4と、発電した電力を制御する制御回路5から構成される。
【0026】
燃料電池2に使用される燃料は水素・メタノール・エタノール・ボロハイドライド水溶液等であり、即ち燃料部3はこれらの燃料を貯蔵している。また燃料そのものを貯蔵していなくても、燃料の前駆体となる物質を貯蔵していても良い。この場合、燃料部3では発電反応時に燃料部3の内部で前駆体を化学的に反応させる事により燃料を生成する。燃料供給手段4は前述のように燃料を燃料電池2へ移動させる流路である。またこの他に燃料の供給をより円滑かつ確実に行う為に、燃料供給手段4にはポンプやバルブ等の補機が備えられていても良い。ここで燃料部3は内蔵する燃料を全て消耗した後に新しい燃料部3と交換する事で連続した発電が可能になるよう、カートリッジ方式になっている事が好ましい。
【0027】
制御回路5は燃料電池2の発電で得られた電力を昇高圧や電流量の制御等の他、二次電池を備える事による蓄電機能を備えるものがある。制御回路にて制御された電力は、燃料電池装置1と接続された使用機器6に使用される。
【0028】
図2には本発明の燃料電池の分解図を示す。図2に示すように、燃料電池2は固体高分子電解質膜11と、固体高分子膜11の両側に備えられた拡散部13と、拡散部13を有しアノード極をチャンバー構造にするアノード体14と、カソード側拡散部13を固定し空間を有するカソード体15と、アノード体に収容されアノード体14内に備えられアノード側拡散部に沿って配置される供給部材20と、それら全ての部材を両側から挟みこむ支持体16から構成される。
【0029】
支持体16は締結手段17を備えており、締結手段は2つの支持体を圧縮する方向へと荷重をかけており、挟み込まれる部材は支持体16によって圧縮力を与えられる。締結手段17の具体例はボルト、金属バンド、リベット等が挙げられるが、支持体16に対して圧縮応力を保持できる手段であれば上記例には限らない。
【0030】
アノード体14には燃料供給手段4から供給された燃料をアノード極内へと取り入れる燃料供給口141が備えられている。燃料供給口141からアノード極内部へ流入した燃料は供給部材20に備えられたアノード流路入口21を通して後述するアノード流路22に供給される。
【0031】
またカソード体15は後述するカソード側の触媒層12に空気中の酸素を与えるべく外部空間とつながっている。図2では側面のうち2面に開口を設ける事で酸素の流通を行っているが、開口はどの面に備えられていても良い。また酸素の供給をより確実に行う為に、酸素供給手段として送風ファンやポンプなどを用いても良い。
【0032】
図3は図2の燃料電池2を組みたて、点線と破線で示す平面で断面をとった断面図である。以降図3を用いて本発明の発電セルの構造について詳細に説明する。固体高分子電解質膜11の両側表面には触媒層12が備えられている。触媒層12は白金、ルテニウム、コバルトに代表される触媒が担持されたカーボン粒子が全面に塗布された層である。アノード極側の触媒層12へと到達した燃料は触媒上でプロトンと電子へと変わる。プロトンは固体高分子電解質膜11中を通してカソード極側の触媒層12へと運搬され、カソード極側の触媒層12に供給された酸素と外部回路を移動してきた電子と結合し水を生成する。なお触媒の例を上に挙げたが、燃料電池2の発電反応においてプロトンを生成できるものであれば触媒の種類はこれには限らない。
【0033】
触媒層12の固体高分子電解質膜11と対面する側には拡散部13が設けられている。拡散部13は導電性を有し電極として機能する事、流体を透過し触媒層12への燃料の供給が可能である事、の2つの機能を有する。そのため主として用いられるのはカーボンの焼結体や繊維状のGDLであり、GDLが触媒層12と全面で接触する事により電極として作用する。またGDLは金属材料等の導電性材料と比較すると面方向の抵抗が高い。その為、触媒層12で発生した電子を有効に取り出す為に、GDLの触媒層12と対面する側に金属やカーボン等の剛性を有する多孔体の導電材料で形成された集電板を備えて、支持体16の圧縮力をGDLに伝えても良い。上述のような拡散部13から発電部2の外部へと導線をひき、制御回路5へと電力を伝える。
【0034】
アノード側の触媒層12に高濃度の燃料を供給をする為、燃料を燃料電池2の外部へ漏洩させない為に、アノード体14は内部の空間と燃料電池2の外部空間とは隔絶されている必要がある。その為にアノード体は上述した燃料を透過しない固体材料のアクリル等に代表される樹脂材、SUSやアルミ等に代表される金属、グラファイト等のカーボン樹脂によって形成される。拡散部13と導電性材料で形成されたアノード体14を接触させてアノード体14をアノード極とする事により、導線の配置を簡便にする事が出来る事から、アノード体14は導電性材料により形成される事が望ましい。
【0035】
またアノード体14と固体高分子電解質膜11の界面には、アノード体内からの燃料の漏洩を防止する為に密閉手段18が備えられている。本実施例密閉手段18は図3のようにアノード体に形成された溝にシリコーンゴム・ブチルゴム・ニトリルゴム等に代表されるパッキンを備える事により密閉を実現している。ここで密閉手段18のその他の例として接着剤や熱融着による密閉等が考えられるが、アノード極内部と外部の空間的遮断が実現できるのであればその手段は問わない。
【0036】
アノード体14の内部には供給部材20が拡散部13と接するように備えられている。供給部材20はアノード極内を燃料部3から燃料が供給されるアノード流路22と収容部23の2つの空間に隔てている。2つの空間はアノード流路22を形成する供給部材20に備えられたアノード連通孔24によって繋がっており、アノード流路22に供給された燃料はアノード連通孔24を通る事により触媒層12の存在する収容部へと移動する。供給部材20の形成方法の例は、層状の部材を積層させて拡散接合や接着剤により重複している箇所を密着させる方法や、切削加工により供給部材20の壁面を形成した後に蓋を重ねて流路を形成する事が考えられるが、アノード流路22と収容部23の隔絶が形成できるのであれば工法は問わない。
【0037】
ここで本発明の燃料電池の発電時の作用について説明する。
燃料電池2の発電反応に伴いカソード側の触媒層12で生成された水の多くは空気中へと蒸発するが、一部は固体高分子電解質膜11を通してアノード体14の内部へと浸透する。またアノード体14内部が燃料で満たされている状態では固体高分子電解質膜11を隔てた外部気体との間で気体の分圧差が生じている事から、空気や窒素等の気体が固体高分子電解質膜11を通してアノード体14の内部に侵入してくる。これら水や空気や窒素等の燃料電池の発電反応に直接利用されない不純物質がアノード体14の内部に蓄積する事により、アノード体14の内部の燃料分圧は低下してくる。しかし不純物質は収容部23に移動する事によりアノード側の触媒層12の不純物質による窒息を防止する事ができる。
【0038】
図11は本発明を実施していない燃料電池の構成図である。本構造では燃料供給口141の近傍では純度の高い燃料が供給されるが、図中右側の燃料供給口141から遠い領域では不純物質が蓄積しやすくなり、いずれ不純物質による触媒層12の窒息が生じてしまう。
【0039】
一方本発明における燃料電池構造では、発電中には収容部23側で水素が常に消費されている事から収容部23側へはアノード連通孔24を通してアノード流路22から燃料が供給されており、不純物質はアノード流路22へは移動しない。その為、アノード連通孔24から収容部23側へは常に高純度の燃料が供給される。またアノード流路は発電領域の面方向に広がるように備えられており、アノード連通孔24も面方向に離間して備えられている。その為、複数のアノード連通孔24から高純度の燃料が供給されるので、一部に不純物質が蓄積するという現象が生じにくく、発電領域全体の発電性能を高く維持する事が出来る。また供給部材20によって収容部23とアノード流路22は同一の層に形成する事が出来る為、燃料電池の薄型化も達成する事が出来る。
【0040】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2における燃料電池2の断面図を図5に、供給部材20の部品図を図6に、供給部材20のその他の例1を図7、供給部材20のその他の例2を搭載した燃料電池2の分解図を図8に示す。なお、本実施の形態1と同一の部分については同一の符号を付し、同様な構成、動作については説明を省略する。以下図5、図6を用いて本実施の形態2について説明する。
【0041】
図5は本発明の実施の形態2における燃料電池2の断面図である。実施の形態2では供給部材20が実施の形態1と異なる構造をしており、触媒層12側に突起した蓋状の供給部材20がアノード体14の内部に複数配置されている。また供給部材20は図6(a)に示すように矩形状の構造でも、図(b)に示すように半円形の構造でも良く、同一基板から作製されるのであればその形状は問わない。また供給部材20の材質はアクリル等の樹脂や、SUSやアルミ等に代表される金属や、グラファイト等のカーボン材料等、アノード流路22と収容部23を隔絶でき剛性を有する物であれば良い。ただし供給部材20はアノード体14と拡散部13の両方と接触している事から、アノード体14を導電性材料で形成している場合には拡散部13とアノード体14の導通をより確実なものにする為に供給部材20を導電性材料にする事が望ましい。このように基板状の供給部材20によってアノード流路22と収容部23を形成する事で、燃料電池2の組立性が大きく向上する。
【0042】
また供給部材20においてアノード流路22の断面積はアノード連通孔24の断面積よりも大きい事が望ましい。燃料供給口141からアノード流路入口21に入ってきた燃料はアノード流路22中を通り、アノード流路入口21に近い箇所にあるアノード連通孔24aへと到達する。ここでアノード連通孔24aの断面積は小さく、燃料は触媒層12の存在する収容部23側へと移動しにくい。その為燃料はアノード流路22を通り、次のアノード連通孔24b方向へと移動しやすい状況になっている。アノード連通孔24bにおいても同様の現象が生じ、燃料は次のアノード連通孔24cへと容易に移動する事が出来る。アノード連通孔24cはアノード流路22の末端側に配置されており、燃料は末端まで到達すると行き場がなくなり、アノード連通孔24a、24b、24cを通して収容部23へと移動する。一方、アノード連通孔24の断面積がアノード流路24の断面積が大きい場合、アノード連通孔24aに到達した燃料はすぐに収容部側へと移動してしまう。その為アノード連通孔24aの近傍しか燃料は高濃度にならず、アノード連通孔24aから遠い位置にある末端側は燃料の濃度が低くなり、発電領域の中で発電性能のばらつきが生じてしまう。このようにアノード流路22の断面積がアノード連通孔24の断面積よりも大きい事で、発電領域内の発電性能のばらつきを抑制する事が出来る。なお、図5にはアノード連通孔24が3つ配置された例を示しているが、もちろん2つ乃至4つ以上備えられていても上述した作用は生じる。
【0043】
供給部材20とアノード体14の底面とに囲まれた空間がアノード流路22となり図中手前側のアノード流路入口21が燃料供給口141と接続される事によりアノード流路22に燃料が供給される。実施の形態1では収容部23は発電領域の外周部分にしか存在していなかった為に、アノード極の発電領域の中央部に侵入してきた不純物質が収容部23へと確実に移動できない可能性があった。しかし実施の形態2では収容部23は複数の供給部材20の間に備えられており、発電領域の全面に渡ってバランスよく配置されているので、不純物質の収容部23への移動をより確実に行う事が可能である。
【0044】
またアノード連通孔24は望ましくはその断面が拡散部13に対して平行になるように配置されている。こうすることでアノード連通孔24から拡散部13へと厚み方向への移動距離が最短であり燃料が触媒層12へ供給されやすい為、触媒層12近傍の燃料濃度をより高く維持する事が出来る。更にアノード連通孔24は供給部材20の最高部に配置されている事が望ましい。供給部材20は拡散部13に沿って配置されているので、供給部材20の頂点は拡散部13に接している。その接触箇所にアノード連通孔24が配置されているので、アノード流路22から供給された燃料は確実に拡散部13へと到達し、触媒層12への燃料の拡散もより確実なものに出来る。
【0045】
アノード体14に供給部材20が複数配置されており、隣り合うそれぞれの供給部材20の間の空間が収容部23となる。また供給部材20はアノード体14の側壁から離間して供えられる事により収容部23aを形成していてもよい。
【0046】
また図6に供給部材20のその他の例を示す。供給部材20は3つのアノード流路22を有し、3つのアノード流路22は1枚の基板から形成されている。供給部材20は板金加工によって形成された金属材料、曲げ加工や射出成形等によって形成される樹脂材等によって構成される。このようにはアノード流路22が複数存在する場合においても供給部材20は1つの部材によって構成されるので、燃料電池2の簡便な組立が可能である。
【0047】
なお図6において供給部材20は3つのアノード流路22を有しているが、もちろんそれ以外の数のアノード流路が備えられていても本実施例は適用可能である。
【0048】
図7は供給部材20のその他の例を搭載した燃料電池2の分解図である。本例では供給部材20は筒状となっており、複数の供給部材20はアノード体14の内部にそれぞれが離間して備えられる。また図7では供給部材20は四角筒であるが、形状はこれには限らず円筒状であっても良い。本例においても図4に示した燃料電池2の構造と同等の効果が得られ、更に加工性の良い筒により供給部材20を形成しているので低コストでの本発明の構造を有する燃料電池2の実現が可能となる。
【0049】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3における燃料電池2に係る供給部材20の斜視図を図8に、その他の供給部材20の斜視図を図9に示す。なお、本実施の形態1及び2と同一の部分については同一の符号を付し、同様な構成、動作については説明を省略する。以下図8を用いて本実施の形態2について説明する。
【0050】
図8は複数のアノード流路22を同一の基板で作製した供給部材20である。実施の形態2で説明した燃料電池では、燃料供給口141はそれぞれのアノード流路22に配されたアノード流路入口21から供給される。一方実施の形態3の供給部材20においては、1つの燃料供給口141から供給された燃料はアノード流路入口21から複数のアノード流路22と接続される支流路25を通して各アノード流路22へと供給される。ここで支流路25の任意の断面Bの断面積はアノード流路22a、22b、22c、22dのそれぞれの任意の断面Aにおける断面積よりも大きい。支流路25へと供給された燃料はアノード流路入口21から近い箇所にあるアノード流路22b及びアノード流路22cへと到達する。ここで支流路25と比較してアノード流路22b及びアノード流路22cの断面積は小さく、燃料はアノード流路22b及び22cに充満するよりも、支流路25中を通り次のアノード流路22a及び22dへと移動しやすい。一方、アノード流路22a、22b、22c、22dの任意の断面Aにおける断面積が支流路25の任意の断面Bの断面積よりも大きい場合、アノード流路22a及び22bに到達した燃料はアノード流路22a及び22b中に充満し収容部23へと移動してしまい、それぞれのアノード連通孔24から収容部23へと移動する。その為アノード流路22a及び22bの近傍しか燃料は高濃度にならず、アノード流路入口21から遠い位置にある末端側は燃料の濃度低くなり、発電領域の中で発電性能のばらつきが生じてしまう。このように支流路25の断面積がアノード流路22の断面積が大きい事で、発電領域内の発電性能のばらつきを抑制する事が出来る。なお、図8にはアノード流路22が4つ配置された例を示しているが、もちろんそれ以外の個数のアノード流路22が備えられていても上述した作用は生じる。
【0051】
また図9に示すように支流路25は複数備えられていても良い。本例では図8に示すようにアノード流路入口21付近に備えられた支流路25に加え、支流路25と離間した箇所に支流路25’が備えられている。支流路が複数備えられた燃料電池では、仮に支流路25若しくはアノード流路22の一部が水等の物質により遮断されて燃料の供給が阻害された場合に、アノード流路22へと供給された燃料は支流路25’を通してアノード流路22の遮断箇所まで回りこむ。これによりアノード流路22及び支流路25の一部が遮断された場合にも、より確実に発電領域全体へと燃料を供給する事ができる。
【0052】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4における燃料電池2の断面図を図10に示す。なお、本実施の形態1から3と同一の部分については同一の符号を付し、同様な構成、動作については説明を省略する。以下図10を用いて本実施の形態2について説明する。
【0053】
図10は図4に記載の燃料電池2において拡散部がガス拡散層131と、厚み方向に燃料を流通させる事のできる複数の燃料流通孔133を有する集電板132から構成されている。燃料流通孔133は貫通孔であり、燃料電池2を組み立てた時にアノード連通孔24と重なっている。また組立時に誤差が生じて燃料流通孔133とアノード連通孔24は同一軸にはならないが、一部でも重なっていれば良い。その為に燃料流通孔133の径をアノード連通孔24の径よりも大きくして確実に重なるようにしても良い。また逆に年アノード連通孔24の径を燃料流通孔133の径よりも大きくしても同様の効果が見込まれる。このような構造の燃料電池2においては複数のアノード連通孔24はそれぞれ燃料流通孔133と一部重なっている為、アノード連通孔24から供給された燃料は確実に触媒層12へと供給される。
【0054】
また不純物の収容部23への移動性を高める為に、燃料流通孔133はアノード連通孔24と重ならない箇所、特に収容部23の領域にさらに備えられていても良い。不純物は発電領域全体で生じる事から、収容部23と重なる燃料流通孔133は発電領域に複数散らばるように備えられていると良い。燃料流通孔133を収容部23と重なるように備える事で不純物の収容部23への移動性を向上する事ができ、燃料電池2はより安定した発電を行う事が出来る。
【0055】
以上、本発明の一例を説明したが、具体例を説明したに過ぎない。特に本発明を限定するものではなく、各部の具体的構成等は適宜変更可能である。また、各実施の形態及び変更例の作用効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、各実施の形態及び変更例に記載されたものに限定されるものではない。また明細書においては説明の便宜上、燃料電池は単一のセルによって構成されているが、本発明は支持体に挟持された発電セルを複数有する構造の燃料電池においても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、燃料電池及び燃料電池装置の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 燃料電池装置
2 燃料電池
3 燃料部
4 燃料供給系
5 制御回路
6 使用機器
11 固体高分子電解質膜
12 触媒層
13 拡散部
14 アノード体
15 カソード体
16 支持体
17 締結手段
20 供給部材
21 アノード流路入口
22 アノード流路
23 収容部
24 アノード連通孔
25 支流路
131 ガス拡散層
132 集電板
133 燃料流通孔
141 燃料供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、
前記固体高分子電解質膜の一面に備えられたアノード側触媒体と、
前記アノード側触媒体に対して燃料を供給する供給部材と、
前記供給部材と前記アノード側触媒体との間に設けられ、前記燃料を拡散する拡散部とを備える燃料電池において、
前記供給部材は、
前記アノード側触媒体の面方向に広がるように備えられたアノード流路と、
前記燃料の供給により前記拡散部から押し退けられた気体を収容する収容部とを有し、
前記アノード流路は、前記アノード側触媒体に対して燃料を供給するためのアノード連通孔を有し、
前記アノード流路と前記収容部とは、前記拡散部の面方向に沿って備えられることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記アノード連通孔は、前記拡散部に面して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記アノード流路と前記収容部とは、基板上にあり、
前記基板は、前記拡散部に対して突出した複数の凸部分と、隣り合う前記凸部分により構成される凹部分とを有し、
前記凸部分は、前記アノード流路であり、
前記凹部分は、前記収容部であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記アノード流路と前記収容部とは、同一基板から形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記供給部材は、前記拡散部の面に対して平行に設けられている筒であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記拡散部は、燃料を流通する燃料流通孔を複数有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記アノード連通孔は、複数の前記燃料流通孔の少なくとも一部と重なるように配置されていることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記アノード連通孔の面積は、前記アノード流路の流通方向に垂直な断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項9】
複数の前記アノード流路のそれぞれを連通する支流路を備え、前記支流路の流通方向に垂直な断面積は、前記アノード流路の流通方向に垂直な断面積以上であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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