燃料電池用セパレータおよびそれを用いた燃料電池
【課題】シール部材に含まれる不純物が電極を被毒することを抑制し、電圧低下や、燃料電池の耐久性低下を防止することができるセパレータおよびそれを用いた燃料電池を提供すること。
【解決手段】セパレータ1の厚み方向から見て、膜電極接合体との間に配置されるシール部材13、14が配置される部分より周縁部側に、溝部9を有する構成により、シール部材13、14から発生した不純物がシール部材13、14から溝部9に向かって流れる推進力が発生するため、不純物が溝部9内へ多く排出されて、電極側へ流れる不純物の量が削減される。したがって、電極が不純物により被毒されることを抑制することができ、不純物が原因による電圧低下を抑制することができ、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【解決手段】セパレータ1の厚み方向から見て、膜電極接合体との間に配置されるシール部材13、14が配置される部分より周縁部側に、溝部9を有する構成により、シール部材13、14から発生した不純物がシール部材13、14から溝部9に向かって流れる推進力が発生するため、不純物が溝部9内へ多く排出されて、電極側へ流れる不純物の量が削減される。したがって、電極が不純物により被毒されることを抑制することができ、不純物が原因による電圧低下を抑制することができ、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスと酸化剤ガスを用いて発電する燃料電池において、アノードに燃料ガス、カソードに酸化剤ガスを供給および排出する燃料電池用セパレータおよびそれを用いた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、少なくとも水素を含む燃料ガスと、少なくとも酸素を含む酸化剤ガスとを反応させて、電気と熱を作り出し、燃料の持つ化学エネルギーを直接あるいは間接的に電気エネルギーに変換するので、高い発電効率を得ることができる。
【0003】
図16に、従来の一般的な燃料電池のシール構造の断面図を示す。燃料電池の膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を構成する電解質膜101の両面には、それぞれアノード102およびカソード103が形成されており、アノード102、カソード103の両側には、それぞれ燃料電池用セパレータ104、105が配置されている。燃料ガスおよび酸化剤ガスは、それぞれセパレータ104、105に形成されたガス流路を通って、アノード102、カソード103に供給される。また、燃料ガスおよび酸化剤ガスによる互いのガス流路への混入および外部へのリークを防止するために、MEAとセパレータ104、105の間に、シール部材106が配置されている。
【0004】
このMEAとセパレータ104、105の間に配置されるシール部材106に含まれる配合剤あるいは不純物の中には、MEAに対して悪影響を与える物質が存在する場合がある。これらの悪影響を与える物質が、MEAのアノード102やカソード103(電極)を被毒すると、発電反応が阻害され、電池電圧の低下や燃料電池の耐久性の低下を招くおそれがある。そこで、従来は、シール部材に、元々不純物が溶出しない(あるいは溶出しにくい)材料を選定したり、シール部材から溶出する不純物が電極を被毒しない(あるいは被毒しにくい)構成を適用していた。その一例として、一般的に不純物が溶出しにくいフッ素系樹脂などの材料からなるシール部材が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、樹脂フレームの一部に突起部を設け、突起部をガス拡散層に突き刺して、樹脂フレームの面内、面直方向の空間を埋めることにより、従来、ガス拡散層に接するように充填されていたシール部材を除去できることが開示されている。
【0006】
また、燃料電池内の水蒸気やその水蒸気を凝縮させて得た凝縮水に、溶出した不純物を溶かし込んで除去する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−170273号公報
【特許文献2】特開2003−217613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の、不純物が溶出しにくい材料からなるシール部材を用いる方法では、シール性が不十分であるという課題や、材料が高価なため十分なコストダウンを実施することができないという課題があった。
【0009】
また、従来の、樹脂フレームの一部に突起部を設け、突起部をガス拡散層に突き刺して、樹脂フレームの移動を抑制することによりシール部材を除去する方法では、セパレータと樹脂フレームの間の密着性が不十分なため、リークが発生するという課題や、セパレータと樹脂フレームの間に配置した充填材から不純物が溶出するという課題があった。
【0010】
また、従来の、燃料電池内の水蒸気あるいはその水蒸気を凝縮させて得た凝縮水に、溶出した不純物を溶かし込んで除去する方法では、不純物が水に不溶性の物質の場合に、不純物を除去しづらいという課題や、水蒸気を凝縮させるために、燃料電池を冷却しなければならないという課題があった。
【0011】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、シール部材に含まれる不純物が電極を被毒することを抑制し、電圧低下や、燃料電池の耐久性低下を防止することができる燃料電池およびそれに用いるセパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池セパレータは、電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、膜電極接合体を挟むように配置される一対のセパレータと、電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルに用いられる燃料電池用セパレータであって、セパレータの厚み方向から見て、シール部材が配置される部分より周縁部側に溝部を有するものである。
【0013】
また、本発明の燃料電池は、上記本発明の燃料電池用セパレータと、電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルを1以上含む燃料電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池およびそれに用いるセパレータによれば、セパレータにおいてシール部材が配置される部分より周縁部側に1以上の溝部が存在することにより、シール部材に含まれる不純物が電極を被毒することを抑制し、その不純物を原因とする電圧低下を抑制することができ、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1におけるセパレータの上面図
【図2】図1のセパレータを用いた燃料電池の単電池セルの線A−Aに沿った断面図
【図3】本発明の実施の形態2におけるセパレータの上面図
【図4】図2のセパレータを用いた燃料電池の単電池セルの線B−Bに沿った断面図
【図5】本発明の実施の形態3におけるセパレータの上面図
【図6】本発明の実施の形態3における溝部が別の形状のセパレータの上面図
【図7】本発明の実施の形態4におけるセパレータの上面図
【図8】本発明の実施の形態4における溝部が別の形状のセパレータの上面図
【図9】本発明の実施の形態5におけるセパレータの上面図
【図10】本発明の実施の形態6におけるセパレータの上面図
【図11】本発明の実施の形態7におけるセパレータの上面図
【図12】本発明の実施の形態7における排出部を備えたセパレータの上面図
【図13】本発明の実施の形態8におけるセパレータの上面図
【図14】本発明の実施の形態8における排出部を備えたセパレータの上面図
【図15】本発明の実施の形態9におけるセパレータの上面図
【図16】従来のセパレータの縦方向断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、膜電極接合体を挟むように配置される一対のセパレータと、電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルに用いられる燃料電池用セパレータであって、セパレータの厚み方向から見て、シール部材が配置される部分より周縁部側に溝部を有することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、シール部材から発生した不純物が、セパレータに形成された溝部内へ排出されるため、シール部材から発生した不純物が、発電を行う電極側に流れる量が削減される。これにより、電極が不純物により被毒されることを抑制することができ、不純物が原因による電圧低下を抑制することができ、燃料電池の耐久性を向上することができる。
【0018】
第2の発明は、第1の発明において、セパレータの厚み方向に直交する方向において、シール部材から溝部までの距離が、シール部材から電極までの距離よりも短いことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、セパレータと電解質膜との隙間において、不純物がシール部材から溝部に向かって流れる推進力が発生するため、不純物は電極側よりも溝部側へより多く流れ、電極側に流れる量は削減される。よって、不純物による電極の被毒や電圧低下を抑制して、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0020】
第3の発明は、第1の発明において、セパレータの厚み方向に直交する方向において、シール部材から溝部までの距離が0であることを特徴とする。この構成によれば、不純物がシール部材から溝部に向かって流れる推進力を発生させることができ、不純物を溝部から排出することができる。
【0021】
第4の発明は、第1乃至3のいずれかの発明において、溝部の底面と電解質膜の表面との間隔が、シール部材から電極の端部までの領域におけるセパレータ表面と電解質膜の表面との間隔よりも大きいことを特徴とする。この構成によれば、不純物がシール部材から溝部へ流れる推進力をさらに増加させて、より多くの不純物を溝部から排出することができる。
【0022】
第5の発明は、第1乃至4のいずれかの発明において、セパレータは、シール部材がその内側に配置されるシール溝を有し、溝部の一端がシール溝に接続されていることを特徴とする。この構成によれば、シール部材から発生する不純物が、効率よく溝部に移動することができ、不純物による電極の被毒を抑制することができる。
【0023】
第6の発明は、第5の発明の発明において、溝部の他端が、シール溝に接続される一端より重力方向の下側に配置されていることを特徴とする。この構成によれば、重力を利用することにより、不純物が自然に上から下へ向かって、溝部や連通溝へ効率よく移動できるだけでなく、電極への逆流をさらに防止することができる。
【0024】
第7の発明は、第1乃至6のいずれかの発明において、溝部の一端が、セパレータの周縁部の端面より外側に連通していることを特徴とする。この構成によれば、シール部材から発生した不純物を外部に排出することができ、燃料電池の系外へ不純物を隔離するので、不純物が燃料電池に逆流することを防止することができる。
【0025】
第8の発明は、第1乃至7のいずれかの発明において、溝部が、シール部材に沿って延在し、セパレータの周縁部の端面より外側に連通した一続きの形状であることを特徴とする。この構成によれば、溝部の形状を簡素化できるとともに、不純物を排出できる面積が増加するため、さらに効率よく不純物を除去することができ、不純物による電極の被毒を防止することができる。
【0026】
第9の発明は、第1乃至6のいずれかの発明において、溝部のいずれの端部も、セパレータの周縁部の端面より内側に配置されていることを特徴とする。この構成によれば、不純物が電極とは隔離された状態となって、電極に逆流することなく溝部に閉じ込められるので、燃料電池の外表面が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0027】
第10の発明は、第1乃至6および9のいずれかの発明において、溝部が、シール部材に沿って延在し、セパレータの周縁部の端面より内側に配置された一続きの形状であることを特徴とする。この構成によれば、溝部の形状を簡素化できるだけでなく、不純物を排出できる面積が増加するため、さらに効率よく不純物を除去することができ、不純物による電極の被毒を防止することができる。
【0028】
第11の発明は、第1乃至6および9、10のいずれかの発明において、セパレータは、複数の溝部を連通するとともに個々の溝部よりも大きな容積を有する連通溝をセパレータの周縁部の端面より内側にて有することを特徴とする。この構成によれば、不純物を、溝部を介して連通溝に閉じ込めることができるため、量が多い場合でも、不純物を電極とは隔離された状態で保持することができる。
【0029】
第12の発明は、第1乃至11のいずれかの発明において、溝部に配置されるとともに、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を吸着する不純物吸着部材を有することを特徴とする。この構成によれば、不純物は、不純物吸着部材の吸着力により溝部に効率よく移動できるだけでなく不純物吸着部材によって保持されるので、不純物が電極に逆流することをさらに防止することができる。
【0030】
第13の発明は、第11あるいは第12のいずれかの発明において、連通溝に配置されるとともに、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を吸着する不純物吸着部材を有することを特徴とする。この構成によれば、不純物は、不純物吸着部材の吸着力により連通溝に効率よく移動できるだけでなく不純物吸着部材によって保持されるので、不純物が電極に逆流することをさらに防止することができる。
【0031】
第14の発明は、第1乃至13のいずれかの発明において、シール部材は、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を含むことを特徴とする。この構成によれば、不純物による電極への被毒や電圧低下を抑制し、燃料電池の耐久性を向上することができる。
【0032】
第15の発明は、第1乃至14のいずれかの発明の燃料電池用セパレータと、電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルを1以上含む燃料電池であることを特徴とする。この構成によれば、不純物が溝部内へ排出されるため、発電を行う電極側に流れる量が削減される。これにより、不純物による電極の被毒や電圧低下を抑制することができ、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明するが、先に説明した実施の形態と同一構成については同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0034】
(実施の形態1)
燃料電池は、複数のセルが積層されてできた燃料電池スタックにより構成される。図1は、本発明の実施の形態1におけるセパレータ1aの構成を示しており、図2は、セパレータ1aを用いた燃料電池の1つのセル(単電池セル)の線A−A(図1参照)に沿った断面を示す。図2に示すように、単電池セルは、MEA(膜電極接合体)と、MEAを挟むように配置されるセパレータ1a、1bと、MEAとセパレータ1a、1bとの間に配置されるシール部材13、14とで構成されている。
【0035】
まず、MEAの詳細な構成について説明する。図2に示すように、MEAは、電解質膜10と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜10の一方の表面に配置されるアノード11と、同じく電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜10の他方の表面に配置されるカソード12とで構成される。
【0036】
電解質膜10は、例えば水素イオン伝導性を有するパーフルオロカーボンスルフォン酸ポリマーからなる固体高分子電解質で構成される。
【0037】
アノード11およびカソード12は、耐酸化性の高い多孔質カーボンに白金などの貴金属を担持した触媒およびプロトン伝導性を有する高分子電解質との混合物からなる触媒層と、触媒層の上に積層した、通気性および電子伝導性を有するガス拡散層とで構成される。アノード11の一般的な触媒としては、燃料ガス中に含まれる不純物(特に一酸化炭素)による被毒を抑制する白金−ルテニウムの合金触媒が用いられる。また、ガス拡散層としては、撥水処理を施したカーボンペーパーやカーボンクロス、あるいはカーボン不織布などが用いられる。
【0038】
次に、セパレータ1の詳細な構成について説明する。セパレータ1には、アノード11に燃料ガスを供給・排出するアノード側セパレータ1aと、カソード12に酸化剤ガスを供給・排出するカソード側セパレータ1bがある。図2に示すように、単電池セルにおいては、アノード側セパレータ1aがアノード11側に、カソード側セパレータ1bがカソード12側に、それぞれ互いに対向するように配置される。
【0039】
図1には、アノード側セパレータ1aを示す。アノード側セパレータ1aは、アノードマニホールド2a、2bと、カソードマニホールド3a、3bと、冷却流体マニホールド4a、4bと、ガス流路5と、アノードシール溝6と、カソードマニホールドシール溝7と、冷却流体マニホールドシール溝8とを有する。なお、セパレータ1は、カーボンや金属などの導電性材料により形成される。
【0040】
アノードマニホールド2a、2bは、燃料ガスをアノード11に供給・排出し、カソードマニホールド3a、3bは、酸化剤ガスをカソード12に供給・排出し、冷却流体マニホールド4a、4bは、発電と同時に発生する熱と熱交換して燃料電池を冷却する冷却流体を供給・排出する。
【0041】
ガス流路5には、燃料ガス流路5aと、酸化剤ガス流路5bとがある。燃料ガス流路5aは、アノード側セパレータ1aに形成されて、燃料ガスをアノード11およびアノードマニホールド2a、2bに供給・排出する。酸化剤ガス流路5bは、カソード側セパレータ1bに形成されて、酸化剤ガスをカソード12およびカソードマニホールド3a、3bに供給・排出する。さらに、アノード側セパレータ1aあるいはカソード側セパレータ1bには、冷却流体流路が形成され、冷却流体流路は燃料電池を冷却する冷却流体を供給・排出する。
【0042】
図1に示すように、アノードシール溝6は、アノードマニホールド2a、2bと、アノード側セパレータ1aにおいてアノード11に対向する部分(発電部分)とを囲むようにして形成され、アノードシール溝6内にはシール部材13、14が配置される。同様にして、カソードマニホールド3a、3bの周囲と冷却流体マニホールド4a、4bの周囲にも、それぞれ、カソードマニホールドシール溝7と冷却流体マニホールドシール溝8が形成されて、シール部材13、14が配置される。
【0043】
次に、シール部材13、14について説明する。シール部材13、14は、電解質膜10の周縁部とセパレータ1a、1bとの間にあるシール溝に配置される。図2に示すように、電解質膜10の両面において、アノードシール部材13は、アノード側セパレータ1aに形成されたアノードシール溝6aの内部に、カソードシール部材14は、カソード側セパレータ1bに形成されたカソードシール溝6bの内部に、それぞれ配置される。アノードシール部材13は、アノード側セパレータ1aと電解質膜10の隙間を封止することにより燃料ガスをシールし、同様に、カソードシール部材14は、カソード側セパレータ1bと電解質膜10の隙間を封止することにより酸化剤ガスをシールする。このような構成により、燃料ガスおよび酸化剤ガスの混合や外部へのリークが防止される。これらシール部材13、14としては、ゴム状の弾性体を採用できるが、特に素材は限定されない。また、シール部材13、14には、シールとしての機能を保持するために必要な添加剤、軟化剤などが含まれ、さらに、射出成型などによりシールの形状を形成するために必要な可塑剤、添加剤、酸化防止剤および成型後に残ったこれらの反応物や分解物なども含まれる。
【0044】
これらの含有物の中には、燃料電池の発電反応を阻害する被毒物質となる不純物が含まれる場合があり、この不純物が電極を被毒して発電性能を低下させる可能性がある。特に、シール部材に軟化剤として添加されるオイル状の物質は、アノード11やカソード12を被毒して、燃料電池の電圧低下の原因となる場合がある。ここでいう不純物とは、燃料電池の発電反応を阻害する物質を意味し、シール部材13、14に含まれる配合剤や、シール部材13、14を形成する際に発生・混入する不純物のことを指す。
【0045】
次に、溝部9について説明する。溝部9は、セパレータ1a、1bにおいて、セパレータ1a、1bの厚み方向から見て、シール部材13、14が配置される部分より周縁部側に形成される。溝部9は、シール溝6a、6bに配置されたシール部材13、14から排出される不純物を溝部9の内部へ浸入させて、溝部9を通してセパレータ1a、1bの外部に排出する。これらシール部材13、14に含まれる不純物は、シール部材13、14から染み出た後、セパレータ1a、1bに形成された溝部9に排出される。その排出原理については以降で説明する。
【0046】
ここで、溝部9による不純物の排出原理を説明する。図2に示すように、本実施の形態1のセパレータ1a、1bは、シール部材13、14から溝部9a、9bまでの距離d2が、シール部材13、14からアノード11、カソード12までの距離d1よりも短くなるように構成されている。このような構成によれば、シール部材13、14と、アノード11、カソード12および溝部9a、9bとの隙間において、それぞれの隙間に発生する毛管現象、重力、分子間力に差異が生じ、不純物がシール部材13、14から溝部9a、9bに向かって流れる推進力が発生する。したがって、不純物は、アノード11、カソード12側よりも溝部9a、9b側へより多く流れる。さらに、溝部9a、9bの底面と電解質膜10の表面との間隔t1は、シール部材13、14からアノード11、カソード12の端部までの領域におけるセパレータ1a、1bの表面と電解質膜10の表面との間隔t2よりも大きく、このことも、不純物がシール部材13、14から溝部9a、9bへ流れる推進力を発生させる要因となっている。
【0047】
また、溝部9a、9bを外部に連通させることにより、シール部材13、14から発生した不純物を外部に排出することができ、燃料電池の系外へ不純物を隔離するので、不純物が燃料電池に逆流することを防止することができる。
【0048】
次に、燃料電池スタックおよびそこで発生する反応について説明する。燃料電池スタックは、上記構成のMEAおよびセパレータ1a、1bからなる単電池セルを複数積層し、両端に電流を取り出すために集電体を配置して、絶縁体を介して端板を配置し、締結することにより作成される。スタックの周囲には、外部への放熱を防止して排熱回収効率を高めるために、断熱材が配置される。
【0049】
そして、アノード11側に水素を含む燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、カソード12側に大気中の酸素を含む空気(酸化剤ガス)を供給する酸化剤ガス供給手段と、スタックを冷却し、スタックで発生する熱と熱交換する冷却流体を供給する冷却流体供給手段とが接続される。これにより、複数の単電池セルが積層された燃料電池発電システムが完成する。
【0050】
ここで、燃料ガス供給手段の構成について説明する。燃料ガス供給手段は、都市ガスなどの原料ガスから付臭剤として含まれている触媒毒となる硫黄化合物を除去する脱硫部と、脱硫した原料ガスの流量を制御する原料ガス供給部と、脱硫した原料ガスを水蒸気改質して水素を含有する燃料ガスを生成する改質部と、改質部で発生した一酸化炭素を変成して一酸化炭素の濃度を低減するCO変成部と、さらに燃料ガス中に含まれる一酸化炭素を選択的に酸化して除去するCO除去部とで構成される。CO除去部には、大気中の空気が供給されている。
【0051】
ここで、例えば原料ガスにメタンを用いた場合、改質部では、水蒸気を伴って化学式1、化学式2に示した反応が起こり、水素が発生する。
【化1】
【化2】
【0052】
なお、改質部で起こる全反応をまとめると化学式3に示す反応が行われる。
【化3】
【0053】
しかし、改質部で生成した改質ガス中には水素以外に10%程度の一酸化炭素が含まれる。そして、一酸化炭素は、燃料電池の運転温度域においてアノード11に含まれる触媒を被毒し、その触媒活性を低下させる。そこで、化学式2の反応式に示すように、改質部で発生した一酸化炭素をCO変成部で二酸化炭素に変成する。これにより、一酸化炭素の濃度が約5000ppmまで減少する。
【0054】
さらに、濃度が低減した一酸化炭素を、CO除去部で、化学式4で示す反応により、大気中から取り込んだ酸素を用いて選択的に酸化する。これにより、一酸化炭素の濃度を、アノード11の触媒の触媒活性の低下を抑制できる約10ppm以下まで減少させることができる。
【化4】
【0055】
また、発電中、大気から取り込んだ空気をアノード11に供給し、燃料ガス供給手段で生成した水素ガスに1〜2%程度の空気を混合(エアブリード)することにより、わずかに残る一酸化炭素の影響をさらに軽減させることができる。
【0056】
次に、酸化剤ガス供給手段について説明する。酸化剤ガス供給手段は、酸化剤ガスの流量を制御する酸化剤ガス流量制御手段と、酸化剤ガス中の不純物を除去する不純物除去手段と、酸化剤ガスを加湿する加湿器とで構成される。
【0057】
ここで、酸化剤ガスとは、少なくとも酸素を含む(あるいは酸素を供給することのできる)ガスの総称であり、例えば大気(空気)が利用される。
【0058】
次に、冷却手段について説明する。冷却手段は、スタックを冷却する冷却流体を貯える冷却流体タンクと、冷却流体を供給する冷却流体ポンプと、冷却流体流路を有し、燃料電池で発生した熱と熱交換した冷却流体とさらに熱交換して熱水を生成する熱交換器とで構成される。
【0059】
次に、以上説明した上記構成のセパレータを用いた燃料電池発電システムの発電時の動作について説明する。まず、アノード11に燃料ガス、カソード12に酸化剤ガスを供給して、燃料電池に負荷を接続する。これによって、燃料ガス中の水素は、化学式5で示すようにアノード11の触媒層と電解質膜10の界面で電子を放出して水素イオンとなる。
【化5】
【0060】
そして、放出された水素イオンは、電解質膜10を通ってカソード12へと移動し、カソード12の触媒層と電解質膜10の界面で電子を受け取る。このとき、カソード12に供給された酸化剤ガス中の酸素と反応して、化学式6で示すように水を生成する。
【化6】
【0061】
上記反応をまとめると化学式7に示す反応が行われる。
【化7】
【0062】
そして、負荷を流れる電子の流れを直流の電気エネルギーとして利用できる。また、上記一連の反応は発熱反応であるため、燃料電池で発生した熱を、冷却流体流路から供給される冷却流体により熱交換して回収することにより、熱水などの熱エネルギーとして利用することができる。
【0063】
(実施例)
次に、シール部材13、14中に不純物が含まれる燃料電池の発電時の挙動について確認試験を行った。具体的には、燃料電池の電池電圧を検出するための電圧検出手段を接続し、以下で示す実施例と比較例1、2を比較した。実施例として、実際に上記本発明の実施の形態1の溝部9を形成したセパレータ1を用いた燃料電池発電システムを発電させ、電圧検出手段により電池電圧を測定した結果を記載する。また、シール部材13、14中に含まれる不純物による発電性能への影響を調べるため、比較例1として、溝部9の形成されていないセパレータ1を用いて作成したスタックを搭載した燃料電池発電システムの測定結果を記載する。同様に、比較例2として、不純物の溶出の少ないフッ素樹脂からなるシール部材13、14を用いて作成したスタックを搭載した燃料電池発電システムの測定結果を記載する。
【0064】
このとき、アノード11側に供給する燃料ガスの利用率は70%、露点は約55℃、カソード12側に供給する酸化剤ガスの利用率は50%、露点は約0℃とした。そして、流れる電流を一定にするため、アノード11およびカソード12の電極面積に対し電流密度が0.2A/cm2となるように負荷を制御した。また、燃料電池を冷却する冷却流体は、燃料電池冷却流体流路入口マニホールドの近傍で約60℃、燃料電池冷却流体流路出口マニホールドの近傍で約70℃となるように流量を制御した。
【0065】
まず、実施例の燃料電池発電システムの発電性能は、比較例2の燃料電池発電システムとほぼ同等であり、顕著な電圧低下は見られなかった。
【0066】
次に、比較例1の燃料電池発電システムの発電性能は、実施例の燃料電池発電システムに比べて、電池電圧が低く、発電効率が低下していた。
【0067】
ここで、この発電効率が低下した燃料電池発電システムに搭載したスタックを解体し、溝部9を有さないセパレータ1、MEA、シール部材13、14を観察した。そうすると、シール部材13、14中に含まれるオイル状の鉱物油がMEAを構成するアノード11およびカソード12のガス拡散層の周縁部に染み込んでいることが分かった。オイル状の鉱物油がガス拡散層を被覆すれば、燃料ガスや酸化剤ガスが拡散しにくくなり、その下層にある触媒層も被毒を受けている可能性がある。このことから、不純物であるオイル状の鉱物油が原因でアノード11、カソード12の有効な発電面積が減少していること、およびこれにより電圧低下が発生したことを推測することができる。
【0068】
このように、本発明の実施の形態1のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、シール部材13、14が配置される部分より周縁部側に、複数の溝部9を有することにより、シール部材13、14から発生した不純物がシール部材13、14から溝部9a、9bに向かって流れる推進力が発生するため、不純物が溝部9a、9bから多く排出されて、発電を行う電極側に不純物が流れる量が削減される。また、溝部9a、9bの底面と電解質膜10の表面との間隔が、シール部材13、14からアノード11、カソード12の端部までの領域におけるセパレータ1a、1bの表面と電解質膜10の表面との間隔よりも大きいため、推進力がさらに増加している。これらのことにより、電極が不純物により被毒されることを抑制し、不純物が原因による電圧低下を抑制し、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0069】
また、本発明の実施の形態1のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、シール部材にある程度の不純物が含まれていたとしても、不純物による影響を軽減することができ、シール部材のシール性を保持したまま、流体の圧損を上昇させたり、燃料電池の温度を冷却することなく、シール溝に溝部を設けたごく簡単な構成で、シール部材に含まれる不純物が電極を被毒することを抑制することができ、燃料電池発電システムのコストダウンを図ることができる。
【0070】
(実施の形態2)
図3に、本発明の実施の形態2のセパレータ1aを示す。図4は、本実施の形態2のセパレータ1aを用いた燃料電池の単電池セルの線B−B(図3参照)に沿った断面図である。実施の形態1では、溝部9a、9bとシール溝6a、6bとの間にセパレータ1a、1bが存在するのに対し、本実施の形態2では、図3に示すように、溝部9a、9bとシール溝6a、6bとの間に中間物が存在せず、溝部9a、9bの一端がシール溝6a、6bに接続されている。それ以外の構成要素は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0071】
ここで、溝部9a、9bによる不純物の排出原理について述べる。実施の形態1では、シール部材13、14から溝部9a、9bまでの距離がd2であるのに対し、本実施の形態2では、溝部9a、9bの一端がシール溝6a、6bに接続されているため、d2は0である。このような構成によれば、不純物がシール部材13、14から溝部9a、9bに向かって流れる推進力を発生させることができ、不純物が溝部9a、9bへ流れやすくなる。
【0072】
本実施の形態2のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9の一端がシール溝6に接続されていることにより、シール部材13、14から発生する不純物が、効率よく溝部9に移動することができ、不純物による電極の被毒を抑制することができる。
【0073】
(実施の形態3)
図5に、本発明の実施の形態3のセパレータ1aを示す。本実施の形態3のセパレータ1aは、溝部9がシール部材に沿って延在し、セパレータ1aの周縁部の端面より外側に連通した一続きとなるようにした点で、実施の形態2とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。また、セパレータ1aを用いた燃料電池の断面図についても、実施の形態1と同様であるため省略する。
【0074】
本実施の形態3のセパレータ1aでは、溝部9がシール部材に沿って一続きであるため、実施の形態2よりも不純物を排出できる面積が増加する。したがって、溝部9から排出される不純物の量が増加する。
【0075】
本実施の形態3のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9の形状を実施の形態1、2よりさらに簡素化できるとともに、不純物を排出できる面積が増加するため、さらに効率よく不純物を除去することができ、不純物による電極の被毒を防止することができる。
【0076】
また、図6に示すように、溝部9が、シール溝6の全周にわたって配置されている構成であっても良い。この場合も図5のセパレータ1aと同様の作用効果を奏する。
【0077】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4のセパレータ1aは、図7に示すように、不純物を外部に排出するための溝部9が、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に形成されるとともにシール溝6には接続されない、すなわち、溝部9のいずれの端部も、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置されているようにした点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0078】
ここで、本実施の形態4の溝部9は、図8に示すように、端面に沿って一体的に連続な形状としてもよい。
【0079】
本実施の形態4のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9のいずれの端部も、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置されているので、不純物がアノード11やカソード12とは隔離された状態となって、アノード11やカソード12に逆流することなく溝部に閉じ込められるので、燃料電池の外表面が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0080】
また、溝部9全体の容積を不純物を滞留させるのに十分な容積とすることにより、不純物を外部に漏らすことなく溝部9の内側に滞留させて保持できるので、燃料電池の外部が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0081】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5のセパレータ1aは、図9に示すように、溝部9の一端がシール溝6に接続しており、もう一方の一端がセパレータ1aの周縁部の端面より内側に形成されるようにした点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0082】
本実施の形態5のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9のいずれの端部も、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置されているので、不純物がアノード11やカソード12とは隔離された状態となり、アノード11やカソード12に逆流することなく溝部9に閉じ込められるので、燃料電池の外表面がシール部材から発生した不純物により汚染されることを防止することができる。
【0083】
また、溝部9の一端が、シール溝6に接続しているので、シール部材から発生する不純物が効率よく、溝部9に移動することができるので、不純物による電極の被毒をさらに抑制することができる。
【0084】
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6のセパレータ1aは、図10に示すように、溝部9が、シール部材に沿って延在し、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置された一続きの形状であるようにした点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
本実施の形態6のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9の形状を簡素化できるだけでなく、不純物を排出できる面積が増加するため、さらに効率よく不純物を除去することができ、不純物による電極の被毒を防止することができる。
【0086】
また、溝部9全体の容積を、不純物を滞留させるのに十分な容積とすることにより、不純物を外部に漏らすことなく溝部9の内側に滞留させて保持できるので、燃料電池の外部が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0087】
(実施の形態7)
本実施の形態では、セパレータ1aは、不純物を蓄積する連通溝を有するが、以降、連通溝の一例であるバッファ部15について説明する。本発明の実施の形態7のセパレータ1aは、図11に示すように、複数の溝部9を連通するとともに個々の溝部9よりも大きな容積を有するバッファ部15を有し、溝部9の一端が、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置されたバッファ部15に連通している点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0088】
本実施の形態7のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、不純物を、溝部9を介してバッファ部15に閉じ込めることができるため、量が多い場合でも、不純物をアノード11やカソード12とは隔離された状態で保持することができる。
【0089】
ここで、バッファ部15の容量は、不純物を滞留させるのに十分な容量とした。このように、バッファ部15全体の容積を不純物を滞留させるのに十分な容積とすることにより、不純物を外部に漏らすことなくバッファ部15の内側に滞留させて保持するので、燃料電池の外部が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0090】
また、図12に示すように、バッファ部15に溜まった不純物を外部へ排出するために、バッファ部15の末端に、外部と連通した排出部16を設けてもよい。排出部16を設けることにより、不純物を燃料電池の系外へ隔離し、燃料電池へ逆流することを防止することができる。
【0091】
(実施の形態8)
図13は、重力方向の上から見た図である。本発明の実施の形態8のセパレータ1aは、図13に示すように、溝部9の他端が、シール溝6に接続される一端より重力方向の下側に配置した点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0092】
本実施の形態8のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、重力を利用することにより、不純物が自然に上から下へ向かって、溝部9やバッファ部15へ効率よく移動できるだけでなく、アノード11やカソード12への逆流をさらに防止することができる。
【0093】
また、図14に示すように、バッファ部15に溜まった不純物を外部へ排出するために、バッファ部15の末端に排出部16を設けてもよい。排出部16を設けることにより、不純物を燃料電池の系外へ隔離して、燃料電池へ逆流するのをさらに防止することができる。
【0094】
(実施の形態9)
本発明の実施の形態9のセパレータ1aは、図15に示すように、溝部9およびバッファ部15に不純物吸着部材17を配置した点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0095】
ここで、不純物吸着部材17は、特に材質を限定するものではなく、除去したい不純物に応じて最適化することが好ましく、例えば、除去したい不純物がオイル状の物質の場合は、吸油剤を含む部材を使用することが好ましい。
【0096】
不純物吸着部材17は、溝部9あるいはバッファ部15の一部に配置するだけでもよく、厚み方向についても溝部9あるいはバッファ部15の一部でもよい。また、不純物吸着部材17は、予め推定した不純物の排出量に応じて厚みを設定しておくことが好ましく、形状についてはシート状のものが好ましい。
【0097】
本発明の実施の形態9のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、不純物は、不純物吸着部材17の吸着力により溝部9あるいはバッファ部15に効率よく移動できるだけでなく不純物吸着部材17によって保持されるので、不純物がアノード11やカソード12に逆流することをさらに防止することができる。
【0098】
なお、本発明は上述の構成に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、溝部9の深さは、シール溝6の深さより浅くても深くても良く、この場合でも同様の作用効果を発揮することができる。
【0099】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のように、本発明にかかるセパレータおよびこれを用いた燃料電池は、不純物を含有するシール部材を用いた燃料電池、燃料電池デバイス、燃料電池発電システム等の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0101】
1 セパレータ
2a、2b アノードマニホールド
3a、3b カソードマニホールド
4a、4b 冷却流体マニホールド
5 ガス流路
6、7、8 シール溝
9 溝部
10 電解質膜
11 アノード
12 カソード
13、14 シール部材
15 バッファ部
16 排出部
17 不純物吸着部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスと酸化剤ガスを用いて発電する燃料電池において、アノードに燃料ガス、カソードに酸化剤ガスを供給および排出する燃料電池用セパレータおよびそれを用いた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、少なくとも水素を含む燃料ガスと、少なくとも酸素を含む酸化剤ガスとを反応させて、電気と熱を作り出し、燃料の持つ化学エネルギーを直接あるいは間接的に電気エネルギーに変換するので、高い発電効率を得ることができる。
【0003】
図16に、従来の一般的な燃料電池のシール構造の断面図を示す。燃料電池の膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を構成する電解質膜101の両面には、それぞれアノード102およびカソード103が形成されており、アノード102、カソード103の両側には、それぞれ燃料電池用セパレータ104、105が配置されている。燃料ガスおよび酸化剤ガスは、それぞれセパレータ104、105に形成されたガス流路を通って、アノード102、カソード103に供給される。また、燃料ガスおよび酸化剤ガスによる互いのガス流路への混入および外部へのリークを防止するために、MEAとセパレータ104、105の間に、シール部材106が配置されている。
【0004】
このMEAとセパレータ104、105の間に配置されるシール部材106に含まれる配合剤あるいは不純物の中には、MEAに対して悪影響を与える物質が存在する場合がある。これらの悪影響を与える物質が、MEAのアノード102やカソード103(電極)を被毒すると、発電反応が阻害され、電池電圧の低下や燃料電池の耐久性の低下を招くおそれがある。そこで、従来は、シール部材に、元々不純物が溶出しない(あるいは溶出しにくい)材料を選定したり、シール部材から溶出する不純物が電極を被毒しない(あるいは被毒しにくい)構成を適用していた。その一例として、一般的に不純物が溶出しにくいフッ素系樹脂などの材料からなるシール部材が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、樹脂フレームの一部に突起部を設け、突起部をガス拡散層に突き刺して、樹脂フレームの面内、面直方向の空間を埋めることにより、従来、ガス拡散層に接するように充填されていたシール部材を除去できることが開示されている。
【0006】
また、燃料電池内の水蒸気やその水蒸気を凝縮させて得た凝縮水に、溶出した不純物を溶かし込んで除去する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−170273号公報
【特許文献2】特開2003−217613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の、不純物が溶出しにくい材料からなるシール部材を用いる方法では、シール性が不十分であるという課題や、材料が高価なため十分なコストダウンを実施することができないという課題があった。
【0009】
また、従来の、樹脂フレームの一部に突起部を設け、突起部をガス拡散層に突き刺して、樹脂フレームの移動を抑制することによりシール部材を除去する方法では、セパレータと樹脂フレームの間の密着性が不十分なため、リークが発生するという課題や、セパレータと樹脂フレームの間に配置した充填材から不純物が溶出するという課題があった。
【0010】
また、従来の、燃料電池内の水蒸気あるいはその水蒸気を凝縮させて得た凝縮水に、溶出した不純物を溶かし込んで除去する方法では、不純物が水に不溶性の物質の場合に、不純物を除去しづらいという課題や、水蒸気を凝縮させるために、燃料電池を冷却しなければならないという課題があった。
【0011】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、シール部材に含まれる不純物が電極を被毒することを抑制し、電圧低下や、燃料電池の耐久性低下を防止することができる燃料電池およびそれに用いるセパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池セパレータは、電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、膜電極接合体を挟むように配置される一対のセパレータと、電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルに用いられる燃料電池用セパレータであって、セパレータの厚み方向から見て、シール部材が配置される部分より周縁部側に溝部を有するものである。
【0013】
また、本発明の燃料電池は、上記本発明の燃料電池用セパレータと、電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルを1以上含む燃料電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池およびそれに用いるセパレータによれば、セパレータにおいてシール部材が配置される部分より周縁部側に1以上の溝部が存在することにより、シール部材に含まれる不純物が電極を被毒することを抑制し、その不純物を原因とする電圧低下を抑制することができ、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1におけるセパレータの上面図
【図2】図1のセパレータを用いた燃料電池の単電池セルの線A−Aに沿った断面図
【図3】本発明の実施の形態2におけるセパレータの上面図
【図4】図2のセパレータを用いた燃料電池の単電池セルの線B−Bに沿った断面図
【図5】本発明の実施の形態3におけるセパレータの上面図
【図6】本発明の実施の形態3における溝部が別の形状のセパレータの上面図
【図7】本発明の実施の形態4におけるセパレータの上面図
【図8】本発明の実施の形態4における溝部が別の形状のセパレータの上面図
【図9】本発明の実施の形態5におけるセパレータの上面図
【図10】本発明の実施の形態6におけるセパレータの上面図
【図11】本発明の実施の形態7におけるセパレータの上面図
【図12】本発明の実施の形態7における排出部を備えたセパレータの上面図
【図13】本発明の実施の形態8におけるセパレータの上面図
【図14】本発明の実施の形態8における排出部を備えたセパレータの上面図
【図15】本発明の実施の形態9におけるセパレータの上面図
【図16】従来のセパレータの縦方向断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、膜電極接合体を挟むように配置される一対のセパレータと、電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルに用いられる燃料電池用セパレータであって、セパレータの厚み方向から見て、シール部材が配置される部分より周縁部側に溝部を有することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、シール部材から発生した不純物が、セパレータに形成された溝部内へ排出されるため、シール部材から発生した不純物が、発電を行う電極側に流れる量が削減される。これにより、電極が不純物により被毒されることを抑制することができ、不純物が原因による電圧低下を抑制することができ、燃料電池の耐久性を向上することができる。
【0018】
第2の発明は、第1の発明において、セパレータの厚み方向に直交する方向において、シール部材から溝部までの距離が、シール部材から電極までの距離よりも短いことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、セパレータと電解質膜との隙間において、不純物がシール部材から溝部に向かって流れる推進力が発生するため、不純物は電極側よりも溝部側へより多く流れ、電極側に流れる量は削減される。よって、不純物による電極の被毒や電圧低下を抑制して、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0020】
第3の発明は、第1の発明において、セパレータの厚み方向に直交する方向において、シール部材から溝部までの距離が0であることを特徴とする。この構成によれば、不純物がシール部材から溝部に向かって流れる推進力を発生させることができ、不純物を溝部から排出することができる。
【0021】
第4の発明は、第1乃至3のいずれかの発明において、溝部の底面と電解質膜の表面との間隔が、シール部材から電極の端部までの領域におけるセパレータ表面と電解質膜の表面との間隔よりも大きいことを特徴とする。この構成によれば、不純物がシール部材から溝部へ流れる推進力をさらに増加させて、より多くの不純物を溝部から排出することができる。
【0022】
第5の発明は、第1乃至4のいずれかの発明において、セパレータは、シール部材がその内側に配置されるシール溝を有し、溝部の一端がシール溝に接続されていることを特徴とする。この構成によれば、シール部材から発生する不純物が、効率よく溝部に移動することができ、不純物による電極の被毒を抑制することができる。
【0023】
第6の発明は、第5の発明の発明において、溝部の他端が、シール溝に接続される一端より重力方向の下側に配置されていることを特徴とする。この構成によれば、重力を利用することにより、不純物が自然に上から下へ向かって、溝部や連通溝へ効率よく移動できるだけでなく、電極への逆流をさらに防止することができる。
【0024】
第7の発明は、第1乃至6のいずれかの発明において、溝部の一端が、セパレータの周縁部の端面より外側に連通していることを特徴とする。この構成によれば、シール部材から発生した不純物を外部に排出することができ、燃料電池の系外へ不純物を隔離するので、不純物が燃料電池に逆流することを防止することができる。
【0025】
第8の発明は、第1乃至7のいずれかの発明において、溝部が、シール部材に沿って延在し、セパレータの周縁部の端面より外側に連通した一続きの形状であることを特徴とする。この構成によれば、溝部の形状を簡素化できるとともに、不純物を排出できる面積が増加するため、さらに効率よく不純物を除去することができ、不純物による電極の被毒を防止することができる。
【0026】
第9の発明は、第1乃至6のいずれかの発明において、溝部のいずれの端部も、セパレータの周縁部の端面より内側に配置されていることを特徴とする。この構成によれば、不純物が電極とは隔離された状態となって、電極に逆流することなく溝部に閉じ込められるので、燃料電池の外表面が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0027】
第10の発明は、第1乃至6および9のいずれかの発明において、溝部が、シール部材に沿って延在し、セパレータの周縁部の端面より内側に配置された一続きの形状であることを特徴とする。この構成によれば、溝部の形状を簡素化できるだけでなく、不純物を排出できる面積が増加するため、さらに効率よく不純物を除去することができ、不純物による電極の被毒を防止することができる。
【0028】
第11の発明は、第1乃至6および9、10のいずれかの発明において、セパレータは、複数の溝部を連通するとともに個々の溝部よりも大きな容積を有する連通溝をセパレータの周縁部の端面より内側にて有することを特徴とする。この構成によれば、不純物を、溝部を介して連通溝に閉じ込めることができるため、量が多い場合でも、不純物を電極とは隔離された状態で保持することができる。
【0029】
第12の発明は、第1乃至11のいずれかの発明において、溝部に配置されるとともに、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を吸着する不純物吸着部材を有することを特徴とする。この構成によれば、不純物は、不純物吸着部材の吸着力により溝部に効率よく移動できるだけでなく不純物吸着部材によって保持されるので、不純物が電極に逆流することをさらに防止することができる。
【0030】
第13の発明は、第11あるいは第12のいずれかの発明において、連通溝に配置されるとともに、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を吸着する不純物吸着部材を有することを特徴とする。この構成によれば、不純物は、不純物吸着部材の吸着力により連通溝に効率よく移動できるだけでなく不純物吸着部材によって保持されるので、不純物が電極に逆流することをさらに防止することができる。
【0031】
第14の発明は、第1乃至13のいずれかの発明において、シール部材は、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を含むことを特徴とする。この構成によれば、不純物による電極への被毒や電圧低下を抑制し、燃料電池の耐久性を向上することができる。
【0032】
第15の発明は、第1乃至14のいずれかの発明の燃料電池用セパレータと、電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルを1以上含む燃料電池であることを特徴とする。この構成によれば、不純物が溝部内へ排出されるため、発電を行う電極側に流れる量が削減される。これにより、不純物による電極の被毒や電圧低下を抑制することができ、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明するが、先に説明した実施の形態と同一構成については同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0034】
(実施の形態1)
燃料電池は、複数のセルが積層されてできた燃料電池スタックにより構成される。図1は、本発明の実施の形態1におけるセパレータ1aの構成を示しており、図2は、セパレータ1aを用いた燃料電池の1つのセル(単電池セル)の線A−A(図1参照)に沿った断面を示す。図2に示すように、単電池セルは、MEA(膜電極接合体)と、MEAを挟むように配置されるセパレータ1a、1bと、MEAとセパレータ1a、1bとの間に配置されるシール部材13、14とで構成されている。
【0035】
まず、MEAの詳細な構成について説明する。図2に示すように、MEAは、電解質膜10と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜10の一方の表面に配置されるアノード11と、同じく電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜10の他方の表面に配置されるカソード12とで構成される。
【0036】
電解質膜10は、例えば水素イオン伝導性を有するパーフルオロカーボンスルフォン酸ポリマーからなる固体高分子電解質で構成される。
【0037】
アノード11およびカソード12は、耐酸化性の高い多孔質カーボンに白金などの貴金属を担持した触媒およびプロトン伝導性を有する高分子電解質との混合物からなる触媒層と、触媒層の上に積層した、通気性および電子伝導性を有するガス拡散層とで構成される。アノード11の一般的な触媒としては、燃料ガス中に含まれる不純物(特に一酸化炭素)による被毒を抑制する白金−ルテニウムの合金触媒が用いられる。また、ガス拡散層としては、撥水処理を施したカーボンペーパーやカーボンクロス、あるいはカーボン不織布などが用いられる。
【0038】
次に、セパレータ1の詳細な構成について説明する。セパレータ1には、アノード11に燃料ガスを供給・排出するアノード側セパレータ1aと、カソード12に酸化剤ガスを供給・排出するカソード側セパレータ1bがある。図2に示すように、単電池セルにおいては、アノード側セパレータ1aがアノード11側に、カソード側セパレータ1bがカソード12側に、それぞれ互いに対向するように配置される。
【0039】
図1には、アノード側セパレータ1aを示す。アノード側セパレータ1aは、アノードマニホールド2a、2bと、カソードマニホールド3a、3bと、冷却流体マニホールド4a、4bと、ガス流路5と、アノードシール溝6と、カソードマニホールドシール溝7と、冷却流体マニホールドシール溝8とを有する。なお、セパレータ1は、カーボンや金属などの導電性材料により形成される。
【0040】
アノードマニホールド2a、2bは、燃料ガスをアノード11に供給・排出し、カソードマニホールド3a、3bは、酸化剤ガスをカソード12に供給・排出し、冷却流体マニホールド4a、4bは、発電と同時に発生する熱と熱交換して燃料電池を冷却する冷却流体を供給・排出する。
【0041】
ガス流路5には、燃料ガス流路5aと、酸化剤ガス流路5bとがある。燃料ガス流路5aは、アノード側セパレータ1aに形成されて、燃料ガスをアノード11およびアノードマニホールド2a、2bに供給・排出する。酸化剤ガス流路5bは、カソード側セパレータ1bに形成されて、酸化剤ガスをカソード12およびカソードマニホールド3a、3bに供給・排出する。さらに、アノード側セパレータ1aあるいはカソード側セパレータ1bには、冷却流体流路が形成され、冷却流体流路は燃料電池を冷却する冷却流体を供給・排出する。
【0042】
図1に示すように、アノードシール溝6は、アノードマニホールド2a、2bと、アノード側セパレータ1aにおいてアノード11に対向する部分(発電部分)とを囲むようにして形成され、アノードシール溝6内にはシール部材13、14が配置される。同様にして、カソードマニホールド3a、3bの周囲と冷却流体マニホールド4a、4bの周囲にも、それぞれ、カソードマニホールドシール溝7と冷却流体マニホールドシール溝8が形成されて、シール部材13、14が配置される。
【0043】
次に、シール部材13、14について説明する。シール部材13、14は、電解質膜10の周縁部とセパレータ1a、1bとの間にあるシール溝に配置される。図2に示すように、電解質膜10の両面において、アノードシール部材13は、アノード側セパレータ1aに形成されたアノードシール溝6aの内部に、カソードシール部材14は、カソード側セパレータ1bに形成されたカソードシール溝6bの内部に、それぞれ配置される。アノードシール部材13は、アノード側セパレータ1aと電解質膜10の隙間を封止することにより燃料ガスをシールし、同様に、カソードシール部材14は、カソード側セパレータ1bと電解質膜10の隙間を封止することにより酸化剤ガスをシールする。このような構成により、燃料ガスおよび酸化剤ガスの混合や外部へのリークが防止される。これらシール部材13、14としては、ゴム状の弾性体を採用できるが、特に素材は限定されない。また、シール部材13、14には、シールとしての機能を保持するために必要な添加剤、軟化剤などが含まれ、さらに、射出成型などによりシールの形状を形成するために必要な可塑剤、添加剤、酸化防止剤および成型後に残ったこれらの反応物や分解物なども含まれる。
【0044】
これらの含有物の中には、燃料電池の発電反応を阻害する被毒物質となる不純物が含まれる場合があり、この不純物が電極を被毒して発電性能を低下させる可能性がある。特に、シール部材に軟化剤として添加されるオイル状の物質は、アノード11やカソード12を被毒して、燃料電池の電圧低下の原因となる場合がある。ここでいう不純物とは、燃料電池の発電反応を阻害する物質を意味し、シール部材13、14に含まれる配合剤や、シール部材13、14を形成する際に発生・混入する不純物のことを指す。
【0045】
次に、溝部9について説明する。溝部9は、セパレータ1a、1bにおいて、セパレータ1a、1bの厚み方向から見て、シール部材13、14が配置される部分より周縁部側に形成される。溝部9は、シール溝6a、6bに配置されたシール部材13、14から排出される不純物を溝部9の内部へ浸入させて、溝部9を通してセパレータ1a、1bの外部に排出する。これらシール部材13、14に含まれる不純物は、シール部材13、14から染み出た後、セパレータ1a、1bに形成された溝部9に排出される。その排出原理については以降で説明する。
【0046】
ここで、溝部9による不純物の排出原理を説明する。図2に示すように、本実施の形態1のセパレータ1a、1bは、シール部材13、14から溝部9a、9bまでの距離d2が、シール部材13、14からアノード11、カソード12までの距離d1よりも短くなるように構成されている。このような構成によれば、シール部材13、14と、アノード11、カソード12および溝部9a、9bとの隙間において、それぞれの隙間に発生する毛管現象、重力、分子間力に差異が生じ、不純物がシール部材13、14から溝部9a、9bに向かって流れる推進力が発生する。したがって、不純物は、アノード11、カソード12側よりも溝部9a、9b側へより多く流れる。さらに、溝部9a、9bの底面と電解質膜10の表面との間隔t1は、シール部材13、14からアノード11、カソード12の端部までの領域におけるセパレータ1a、1bの表面と電解質膜10の表面との間隔t2よりも大きく、このことも、不純物がシール部材13、14から溝部9a、9bへ流れる推進力を発生させる要因となっている。
【0047】
また、溝部9a、9bを外部に連通させることにより、シール部材13、14から発生した不純物を外部に排出することができ、燃料電池の系外へ不純物を隔離するので、不純物が燃料電池に逆流することを防止することができる。
【0048】
次に、燃料電池スタックおよびそこで発生する反応について説明する。燃料電池スタックは、上記構成のMEAおよびセパレータ1a、1bからなる単電池セルを複数積層し、両端に電流を取り出すために集電体を配置して、絶縁体を介して端板を配置し、締結することにより作成される。スタックの周囲には、外部への放熱を防止して排熱回収効率を高めるために、断熱材が配置される。
【0049】
そして、アノード11側に水素を含む燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、カソード12側に大気中の酸素を含む空気(酸化剤ガス)を供給する酸化剤ガス供給手段と、スタックを冷却し、スタックで発生する熱と熱交換する冷却流体を供給する冷却流体供給手段とが接続される。これにより、複数の単電池セルが積層された燃料電池発電システムが完成する。
【0050】
ここで、燃料ガス供給手段の構成について説明する。燃料ガス供給手段は、都市ガスなどの原料ガスから付臭剤として含まれている触媒毒となる硫黄化合物を除去する脱硫部と、脱硫した原料ガスの流量を制御する原料ガス供給部と、脱硫した原料ガスを水蒸気改質して水素を含有する燃料ガスを生成する改質部と、改質部で発生した一酸化炭素を変成して一酸化炭素の濃度を低減するCO変成部と、さらに燃料ガス中に含まれる一酸化炭素を選択的に酸化して除去するCO除去部とで構成される。CO除去部には、大気中の空気が供給されている。
【0051】
ここで、例えば原料ガスにメタンを用いた場合、改質部では、水蒸気を伴って化学式1、化学式2に示した反応が起こり、水素が発生する。
【化1】
【化2】
【0052】
なお、改質部で起こる全反応をまとめると化学式3に示す反応が行われる。
【化3】
【0053】
しかし、改質部で生成した改質ガス中には水素以外に10%程度の一酸化炭素が含まれる。そして、一酸化炭素は、燃料電池の運転温度域においてアノード11に含まれる触媒を被毒し、その触媒活性を低下させる。そこで、化学式2の反応式に示すように、改質部で発生した一酸化炭素をCO変成部で二酸化炭素に変成する。これにより、一酸化炭素の濃度が約5000ppmまで減少する。
【0054】
さらに、濃度が低減した一酸化炭素を、CO除去部で、化学式4で示す反応により、大気中から取り込んだ酸素を用いて選択的に酸化する。これにより、一酸化炭素の濃度を、アノード11の触媒の触媒活性の低下を抑制できる約10ppm以下まで減少させることができる。
【化4】
【0055】
また、発電中、大気から取り込んだ空気をアノード11に供給し、燃料ガス供給手段で生成した水素ガスに1〜2%程度の空気を混合(エアブリード)することにより、わずかに残る一酸化炭素の影響をさらに軽減させることができる。
【0056】
次に、酸化剤ガス供給手段について説明する。酸化剤ガス供給手段は、酸化剤ガスの流量を制御する酸化剤ガス流量制御手段と、酸化剤ガス中の不純物を除去する不純物除去手段と、酸化剤ガスを加湿する加湿器とで構成される。
【0057】
ここで、酸化剤ガスとは、少なくとも酸素を含む(あるいは酸素を供給することのできる)ガスの総称であり、例えば大気(空気)が利用される。
【0058】
次に、冷却手段について説明する。冷却手段は、スタックを冷却する冷却流体を貯える冷却流体タンクと、冷却流体を供給する冷却流体ポンプと、冷却流体流路を有し、燃料電池で発生した熱と熱交換した冷却流体とさらに熱交換して熱水を生成する熱交換器とで構成される。
【0059】
次に、以上説明した上記構成のセパレータを用いた燃料電池発電システムの発電時の動作について説明する。まず、アノード11に燃料ガス、カソード12に酸化剤ガスを供給して、燃料電池に負荷を接続する。これによって、燃料ガス中の水素は、化学式5で示すようにアノード11の触媒層と電解質膜10の界面で電子を放出して水素イオンとなる。
【化5】
【0060】
そして、放出された水素イオンは、電解質膜10を通ってカソード12へと移動し、カソード12の触媒層と電解質膜10の界面で電子を受け取る。このとき、カソード12に供給された酸化剤ガス中の酸素と反応して、化学式6で示すように水を生成する。
【化6】
【0061】
上記反応をまとめると化学式7に示す反応が行われる。
【化7】
【0062】
そして、負荷を流れる電子の流れを直流の電気エネルギーとして利用できる。また、上記一連の反応は発熱反応であるため、燃料電池で発生した熱を、冷却流体流路から供給される冷却流体により熱交換して回収することにより、熱水などの熱エネルギーとして利用することができる。
【0063】
(実施例)
次に、シール部材13、14中に不純物が含まれる燃料電池の発電時の挙動について確認試験を行った。具体的には、燃料電池の電池電圧を検出するための電圧検出手段を接続し、以下で示す実施例と比較例1、2を比較した。実施例として、実際に上記本発明の実施の形態1の溝部9を形成したセパレータ1を用いた燃料電池発電システムを発電させ、電圧検出手段により電池電圧を測定した結果を記載する。また、シール部材13、14中に含まれる不純物による発電性能への影響を調べるため、比較例1として、溝部9の形成されていないセパレータ1を用いて作成したスタックを搭載した燃料電池発電システムの測定結果を記載する。同様に、比較例2として、不純物の溶出の少ないフッ素樹脂からなるシール部材13、14を用いて作成したスタックを搭載した燃料電池発電システムの測定結果を記載する。
【0064】
このとき、アノード11側に供給する燃料ガスの利用率は70%、露点は約55℃、カソード12側に供給する酸化剤ガスの利用率は50%、露点は約0℃とした。そして、流れる電流を一定にするため、アノード11およびカソード12の電極面積に対し電流密度が0.2A/cm2となるように負荷を制御した。また、燃料電池を冷却する冷却流体は、燃料電池冷却流体流路入口マニホールドの近傍で約60℃、燃料電池冷却流体流路出口マニホールドの近傍で約70℃となるように流量を制御した。
【0065】
まず、実施例の燃料電池発電システムの発電性能は、比較例2の燃料電池発電システムとほぼ同等であり、顕著な電圧低下は見られなかった。
【0066】
次に、比較例1の燃料電池発電システムの発電性能は、実施例の燃料電池発電システムに比べて、電池電圧が低く、発電効率が低下していた。
【0067】
ここで、この発電効率が低下した燃料電池発電システムに搭載したスタックを解体し、溝部9を有さないセパレータ1、MEA、シール部材13、14を観察した。そうすると、シール部材13、14中に含まれるオイル状の鉱物油がMEAを構成するアノード11およびカソード12のガス拡散層の周縁部に染み込んでいることが分かった。オイル状の鉱物油がガス拡散層を被覆すれば、燃料ガスや酸化剤ガスが拡散しにくくなり、その下層にある触媒層も被毒を受けている可能性がある。このことから、不純物であるオイル状の鉱物油が原因でアノード11、カソード12の有効な発電面積が減少していること、およびこれにより電圧低下が発生したことを推測することができる。
【0068】
このように、本発明の実施の形態1のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、シール部材13、14が配置される部分より周縁部側に、複数の溝部9を有することにより、シール部材13、14から発生した不純物がシール部材13、14から溝部9a、9bに向かって流れる推進力が発生するため、不純物が溝部9a、9bから多く排出されて、発電を行う電極側に不純物が流れる量が削減される。また、溝部9a、9bの底面と電解質膜10の表面との間隔が、シール部材13、14からアノード11、カソード12の端部までの領域におけるセパレータ1a、1bの表面と電解質膜10の表面との間隔よりも大きいため、推進力がさらに増加している。これらのことにより、電極が不純物により被毒されることを抑制し、不純物が原因による電圧低下を抑制し、燃料電池の耐久性を向上させることができる。
【0069】
また、本発明の実施の形態1のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、シール部材にある程度の不純物が含まれていたとしても、不純物による影響を軽減することができ、シール部材のシール性を保持したまま、流体の圧損を上昇させたり、燃料電池の温度を冷却することなく、シール溝に溝部を設けたごく簡単な構成で、シール部材に含まれる不純物が電極を被毒することを抑制することができ、燃料電池発電システムのコストダウンを図ることができる。
【0070】
(実施の形態2)
図3に、本発明の実施の形態2のセパレータ1aを示す。図4は、本実施の形態2のセパレータ1aを用いた燃料電池の単電池セルの線B−B(図3参照)に沿った断面図である。実施の形態1では、溝部9a、9bとシール溝6a、6bとの間にセパレータ1a、1bが存在するのに対し、本実施の形態2では、図3に示すように、溝部9a、9bとシール溝6a、6bとの間に中間物が存在せず、溝部9a、9bの一端がシール溝6a、6bに接続されている。それ以外の構成要素は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0071】
ここで、溝部9a、9bによる不純物の排出原理について述べる。実施の形態1では、シール部材13、14から溝部9a、9bまでの距離がd2であるのに対し、本実施の形態2では、溝部9a、9bの一端がシール溝6a、6bに接続されているため、d2は0である。このような構成によれば、不純物がシール部材13、14から溝部9a、9bに向かって流れる推進力を発生させることができ、不純物が溝部9a、9bへ流れやすくなる。
【0072】
本実施の形態2のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9の一端がシール溝6に接続されていることにより、シール部材13、14から発生する不純物が、効率よく溝部9に移動することができ、不純物による電極の被毒を抑制することができる。
【0073】
(実施の形態3)
図5に、本発明の実施の形態3のセパレータ1aを示す。本実施の形態3のセパレータ1aは、溝部9がシール部材に沿って延在し、セパレータ1aの周縁部の端面より外側に連通した一続きとなるようにした点で、実施の形態2とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。また、セパレータ1aを用いた燃料電池の断面図についても、実施の形態1と同様であるため省略する。
【0074】
本実施の形態3のセパレータ1aでは、溝部9がシール部材に沿って一続きであるため、実施の形態2よりも不純物を排出できる面積が増加する。したがって、溝部9から排出される不純物の量が増加する。
【0075】
本実施の形態3のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9の形状を実施の形態1、2よりさらに簡素化できるとともに、不純物を排出できる面積が増加するため、さらに効率よく不純物を除去することができ、不純物による電極の被毒を防止することができる。
【0076】
また、図6に示すように、溝部9が、シール溝6の全周にわたって配置されている構成であっても良い。この場合も図5のセパレータ1aと同様の作用効果を奏する。
【0077】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4のセパレータ1aは、図7に示すように、不純物を外部に排出するための溝部9が、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に形成されるとともにシール溝6には接続されない、すなわち、溝部9のいずれの端部も、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置されているようにした点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0078】
ここで、本実施の形態4の溝部9は、図8に示すように、端面に沿って一体的に連続な形状としてもよい。
【0079】
本実施の形態4のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9のいずれの端部も、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置されているので、不純物がアノード11やカソード12とは隔離された状態となって、アノード11やカソード12に逆流することなく溝部に閉じ込められるので、燃料電池の外表面が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0080】
また、溝部9全体の容積を不純物を滞留させるのに十分な容積とすることにより、不純物を外部に漏らすことなく溝部9の内側に滞留させて保持できるので、燃料電池の外部が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0081】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5のセパレータ1aは、図9に示すように、溝部9の一端がシール溝6に接続しており、もう一方の一端がセパレータ1aの周縁部の端面より内側に形成されるようにした点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0082】
本実施の形態5のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9のいずれの端部も、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置されているので、不純物がアノード11やカソード12とは隔離された状態となり、アノード11やカソード12に逆流することなく溝部9に閉じ込められるので、燃料電池の外表面がシール部材から発生した不純物により汚染されることを防止することができる。
【0083】
また、溝部9の一端が、シール溝6に接続しているので、シール部材から発生する不純物が効率よく、溝部9に移動することができるので、不純物による電極の被毒をさらに抑制することができる。
【0084】
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6のセパレータ1aは、図10に示すように、溝部9が、シール部材に沿って延在し、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置された一続きの形状であるようにした点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
本実施の形態6のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、溝部9の形状を簡素化できるだけでなく、不純物を排出できる面積が増加するため、さらに効率よく不純物を除去することができ、不純物による電極の被毒を防止することができる。
【0086】
また、溝部9全体の容積を、不純物を滞留させるのに十分な容積とすることにより、不純物を外部に漏らすことなく溝部9の内側に滞留させて保持できるので、燃料電池の外部が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0087】
(実施の形態7)
本実施の形態では、セパレータ1aは、不純物を蓄積する連通溝を有するが、以降、連通溝の一例であるバッファ部15について説明する。本発明の実施の形態7のセパレータ1aは、図11に示すように、複数の溝部9を連通するとともに個々の溝部9よりも大きな容積を有するバッファ部15を有し、溝部9の一端が、セパレータ1aの周縁部の端面より内側に配置されたバッファ部15に連通している点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0088】
本実施の形態7のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、不純物を、溝部9を介してバッファ部15に閉じ込めることができるため、量が多い場合でも、不純物をアノード11やカソード12とは隔離された状態で保持することができる。
【0089】
ここで、バッファ部15の容量は、不純物を滞留させるのに十分な容量とした。このように、バッファ部15全体の容積を不純物を滞留させるのに十分な容積とすることにより、不純物を外部に漏らすことなくバッファ部15の内側に滞留させて保持するので、燃料電池の外部が不純物により汚染されることを防止することができる。
【0090】
また、図12に示すように、バッファ部15に溜まった不純物を外部へ排出するために、バッファ部15の末端に、外部と連通した排出部16を設けてもよい。排出部16を設けることにより、不純物を燃料電池の系外へ隔離し、燃料電池へ逆流することを防止することができる。
【0091】
(実施の形態8)
図13は、重力方向の上から見た図である。本発明の実施の形態8のセパレータ1aは、図13に示すように、溝部9の他端が、シール溝6に接続される一端より重力方向の下側に配置した点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0092】
本実施の形態8のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、重力を利用することにより、不純物が自然に上から下へ向かって、溝部9やバッファ部15へ効率よく移動できるだけでなく、アノード11やカソード12への逆流をさらに防止することができる。
【0093】
また、図14に示すように、バッファ部15に溜まった不純物を外部へ排出するために、バッファ部15の末端に排出部16を設けてもよい。排出部16を設けることにより、不純物を燃料電池の系外へ隔離して、燃料電池へ逆流するのをさらに防止することができる。
【0094】
(実施の形態9)
本発明の実施の形態9のセパレータ1aは、図15に示すように、溝部9およびバッファ部15に不純物吸着部材17を配置した点で、実施の形態1とは異なる。それ以外の構成要素は、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0095】
ここで、不純物吸着部材17は、特に材質を限定するものではなく、除去したい不純物に応じて最適化することが好ましく、例えば、除去したい不純物がオイル状の物質の場合は、吸油剤を含む部材を使用することが好ましい。
【0096】
不純物吸着部材17は、溝部9あるいはバッファ部15の一部に配置するだけでもよく、厚み方向についても溝部9あるいはバッファ部15の一部でもよい。また、不純物吸着部材17は、予め推定した不純物の排出量に応じて厚みを設定しておくことが好ましく、形状についてはシート状のものが好ましい。
【0097】
本発明の実施の形態9のセパレータおよびこれを用いた燃料電池によれば、不純物は、不純物吸着部材17の吸着力により溝部9あるいはバッファ部15に効率よく移動できるだけでなく不純物吸着部材17によって保持されるので、不純物がアノード11やカソード12に逆流することをさらに防止することができる。
【0098】
なお、本発明は上述の構成に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、溝部9の深さは、シール溝6の深さより浅くても深くても良く、この場合でも同様の作用効果を発揮することができる。
【0099】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のように、本発明にかかるセパレータおよびこれを用いた燃料電池は、不純物を含有するシール部材を用いた燃料電池、燃料電池デバイス、燃料電池発電システム等の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0101】
1 セパレータ
2a、2b アノードマニホールド
3a、3b カソードマニホールド
4a、4b 冷却流体マニホールド
5 ガス流路
6、7、8 シール溝
9 溝部
10 電解質膜
11 アノード
12 カソード
13、14 シール部材
15 バッファ部
16 排出部
17 不純物吸着部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、
膜電極接合体を挟むように配置される一対のセパレータと、
電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルに用いられる燃料電池用セパレータであって、
セパレータの厚み方向から見て、シール部材が配置される部分より周縁部側に溝部を有する、燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
セパレータの厚み方向に直交する方向において、シール部材から溝部までの距離が、シール部材から電極までの距離よりも短い、請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
セパレータの厚み方向に直交する方向において、シール部材から溝部までの距離が0である、請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
溝部の底面と電解質膜の表面との間隔が、シール部材から電極の端部までの領域におけるセパレータ表面と電解質膜の表面との間隔よりも大きい、請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
セパレータは、シール部材がその内側に配置されるシール溝を有し、溝部の一端がシール溝に接続されている、請求項1〜4のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
溝部の他端が、シール溝に接続される一端より重力方向の下側に配置されている、請求項5に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
溝部の一端が、セパレータの周縁部の端面より外側に連通している、請求項1〜6のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項8】
溝部が、シール部材に沿って延在し、セパレータの周縁部の端面より外側に連通した一続きの形状である、請求項1〜7のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項9】
溝部のいずれの端部も、セパレータの周縁部の端面より内側に配置されている、請求項1〜6のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項10】
溝部が、シール部材に沿って延在し、セパレータの周縁部の端面より内側に配置された一続きの形状である、請求項1〜6および9のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項11】
セパレータは、複数の溝部を連通するとともに個々の溝部よりも大きな容積を有する連通溝をセパレータの周縁部の端面より内側にて有する、請求項1〜6、9、10のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項12】
溝部に配置されるとともに、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を吸着する不純物吸着部材を有する、請求項1〜11のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項13】
連通溝に配置されるとともに、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を吸着する不純物吸着部材を有する、請求項11あるいは12に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項14】
シール部材は、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を含む、請求項1〜13のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータと、
電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、
電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルを1以上含む燃料電池。
【請求項1】
電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、
膜電極接合体を挟むように配置される一対のセパレータと、
電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルに用いられる燃料電池用セパレータであって、
セパレータの厚み方向から見て、シール部材が配置される部分より周縁部側に溝部を有する、燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
セパレータの厚み方向に直交する方向において、シール部材から溝部までの距離が、シール部材から電極までの距離よりも短い、請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
セパレータの厚み方向に直交する方向において、シール部材から溝部までの距離が0である、請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
溝部の底面と電解質膜の表面との間隔が、シール部材から電極の端部までの領域におけるセパレータ表面と電解質膜の表面との間隔よりも大きい、請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
セパレータは、シール部材がその内側に配置されるシール溝を有し、溝部の一端がシール溝に接続されている、請求項1〜4のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
溝部の他端が、シール溝に接続される一端より重力方向の下側に配置されている、請求項5に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
溝部の一端が、セパレータの周縁部の端面より外側に連通している、請求項1〜6のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項8】
溝部が、シール部材に沿って延在し、セパレータの周縁部の端面より外側に連通した一続きの形状である、請求項1〜7のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項9】
溝部のいずれの端部も、セパレータの周縁部の端面より内側に配置されている、請求項1〜6のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項10】
溝部が、シール部材に沿って延在し、セパレータの周縁部の端面より内側に配置された一続きの形状である、請求項1〜6および9のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項11】
セパレータは、複数の溝部を連通するとともに個々の溝部よりも大きな容積を有する連通溝をセパレータの周縁部の端面より内側にて有する、請求項1〜6、9、10のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項12】
溝部に配置されるとともに、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を吸着する不純物吸着部材を有する、請求項1〜11のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項13】
連通溝に配置されるとともに、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を吸着する不純物吸着部材を有する、請求項11あるいは12に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項14】
シール部材は、溝部内に浸入するシール部材より発生する不純物を含む、請求項1〜13のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータと、
電解質膜と、電解質膜の周縁部を露出させるように電解質膜の両面に配置された一対の電極とを有する膜電極接合体と、
電解質膜の周縁部とセパレータとの間に配置され、電極とセパレータとが対向する領域を封止するシール部材と、を有する単電池セルを1以上含む燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−182064(P2012−182064A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45243(P2011−45243)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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