説明

燃料電池用セパレーター

【課題】燃料電池用のセパレーターに関するものであり、サーペンタイン流路形状において、流体の圧力損失の低減と高い電池出力を両立することのできる方法を提供する。
【解決手段】燃料電池正極用のサーペンタイン形状流路を有するセパレーターであって、サーペンタイン形状流路領域が正方形状あるいは長方形状であり、流路を形成するリブ部に流路溝と垂直方向に流路溝よりも溝断面積の小さい溝を、下記式(1)を満たす本数分、最上部の流路から最下部の流路まで貫通させて設けることを特徴とする燃料電池正極用セパレーター。7≦L/(n+1)≦20・・・(1)、n:溝の本数、L:サーペンタイン形状流路領域が正方形状の場合には領域の一辺の長さ(mm)、サーペンタイン形状流路領域が長方形状の場合には領域の長辺と短辺の長さの平均(mm)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレーターに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池はイオンの通路を形成する電解質の両端にそれぞれ負極、正極と称される1対の電極を備えたものを基本構造とし、燃料あるいは酸化ガスを流通させるための流路が形成されたセパレーターで挟持することで1つのセルが形成される。さらに複数のセルを積層することによりスタックが形成される。
【0003】
燃料電池を組み込んだ発電システムを構築する際、スタックに供給する酸化ガスとしては一般的に空気が用いられている。空気の供給手段としては空気ポンプ、空気ブロア、空気コンプレッサーなどが用いられているが、これらはいずれも燃料電池が起こした電力で稼動させる必要があり、燃料電池発電システム全体の効率向上のためには、これら空気供給装置の消費電力低減が重要である。
【0004】
空気供給装置の消費電力低減のために空気供給装置を小型化した場合、スタックに供給される空気量が少なくなり、スタックの出力が低下し、発電システム全体の出力が低下してしまう。また、セパレーター内のサーペンタイン流路において、流路断面積を拡大し空気流路内の圧力損失を低減させることにより空気供給装置の消費電力低減を図る方法もあるが、この場合、流路断面積の拡大に伴ってスタック出力が低下してしまい、それぞれの効果がトレードオフとなってしまう。
【0005】
以上のことから、スタック出力を低下させることなく、圧力損失を低減させることが出来る流路の発明が求められている。
例えば特許文献1では、サーペンタイン流路構造においてスリット状の流路を追加することにより、平行流路間での流量分布を低減する方法が開示されている。しかしながら、本方法ではスリット状流路の長さが、サーペンタイン流路の1並列単位分のみであるため、個々の流路間でのばらつきが抑制されるものの、流路全体での圧力損失低減に対する効果は少ない。
酸化ガス流通用セパレーターの流路形状のみの効果により、圧力損失の低減と電池出力の維持を両立する課題を解決する手段はこれまで開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−351222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化ガス流通用セパレーターの流路形状を工夫することにより、電池出力を低下させずに流路内での圧力損失を低減させることを目的とする。これにより、空気ポンプなどの酸化ガス供給装置の消費電力が低下し、燃料電池発電システム全体の効率が向上する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究することにより、固体高分子型燃料電池およびメタノール直接型燃料電池において、電池出力を低下させずに流路内での圧力損失を低減させることができる流路形状を見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、燃料電池正極用のサーペンタイン形状流路(以下、蛇行流路またはサーペンダイン流路ともいう)を有するセパレーターであって、サーペンタイン形状流路領域が正方形状あるいは長方形状であり、流路を形成するリブ部に流路溝と垂直方向に流路溝よりも溝断面積の小さい溝を、下記式(1)を満たす本数分、最上部の流路から最下部の流路まで貫通させて設けることを特徴とする燃料電池正極用セパレーターに関するものである。
7≦L/(n+1)≦20 (1)
n:溝の本数
L:サーペンタイン形状流路領域が正方形状の場合には領域の一辺の長さ(mm)、サーペンタイン形状流路領域が長方形状の場合には領域の長辺と短辺の長さの平均(mm)。
【発明の効果】
【0009】
本発明による流路形状を用い、リブ部溝の本数を最適化することにより、燃料電池の出力低下を起こさずに差圧の低減が図れる。これにより、燃料電池発電システムの効率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】サーペンタイン流路部および縦溝部の断面図
【図2】サーペンタイン形状流路を有するセパレーターの模式図(縦溝7本)
【図3】サーペンタイン形状流路を有するセパレーターの模式図(縦溝0本)
【図4】サーペンタイン形状流路を有するセパレーターの模式図(縦溝3本)
【図5】サーペンタイン形状流路を有するセパレーターの模式図(縦溝15本)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のセパレーターは燃料電池正極用のセパレーターであり、固体高分子型燃料電池に好適に用いられる。固体高分子型燃料電池としては、水素を燃料に用いる燃料電池およびメタノールを直接負極に供給して発電するメタノール直接型燃料電池が挙げられるが、特にメタノール直接型燃料電池に好適に用いることができる。
【0012】
固体高分子型燃料電池は固体高分子系イオン交換膜の両側に負極と正極が配されたセルを備え、燃料を負極に供給し、酸化ガスを正極に供給して発電を行う。燃料および空気をそれぞれの極に供給するため、該セルは流路を備えたセパレーターで挟持されている。
【0013】
酸化ガスは負極で生成したHを酸化するための酸素を供給できるものであれば特に制限はないが、分子状酸素を含むものが好ましく、空気を用いることが経済的に有利である。
【0014】
本発明のセパレーターのサーペンタイン流路領域は、おおむね正方形状あるいは長方形状である。セパレーター流路の形状はサーペンタイン構造を基本とし、特に圧力損失低減が重要となる正極には、サーペンタイン流路を形成しているリブ部にサーペンタイン流路溝と垂直方向にサーペンタイン流路溝よりも溝断面積の小さい溝(以下、縦溝ともいう)を、最上部の流路から最下部の流路まで貫通させて設ける。ここで、サーペンタイン流路溝が並列サーペンタイン流路である場合のサーペンタイン流路溝の溝断面積とは、一本当たりの溝断面積を指す。リブ部の溝断面積をこのようにすることで、ガスの供給性および燃料電池出力が良好なものとなる。
【0015】
リブ部の溝幅および溝深さは、サーペンタイン流路溝よりも小さいことが好ましい。サーペンタイン流路溝と同等以上とした場合、サーペンタイン流路の利点であるガスの供給性が損なわれ、燃料電池出力が低下してしまう。
【0016】
リブ部の溝は、サーペンタイン流路溝間のリブの最上部から最下部まで貫通することが好ましい。貫通させずに一部のサーペンタイン形状溝のみを跨ぐ長さとした場合、圧力損失の低減効果が乏しくなる。
【0017】
リブ部の溝の本数は下記式(1)を満たす本数であり、下記式(2)を満たす本数であることが好ましく、特に下記式(3)を満たす本数であることが好ましい。
7≦L/(n+1)≦20 (1)
9≦L/(n+1)≦15 (2)
10≦L/(n+1)≦14 (3)
n:溝の本数
L:サーペンタイン形状流路領域が正方形状の場合には領域の一辺の長さ(mm)、サーペンタイン形状流路領域が長方形状の場合には領域の長辺と短辺の長さの平均(mm)。
【0018】
リブ部の溝同士の間隔は、好ましくは5〜20mm、より好ましくは9〜14mm、特に好ましくは10〜13mmである。間隔が大きすぎると溝本数が少なくなり圧力損失低減効果に乏しく、逆に間隔が小さすぎると溝本数が多くなりすぎ出力の低下が見られる。
【0019】
サーペンタイン流路の並列数は1〜4から選ぶことができるが、2〜3が好ましく、特に2が好ましい。サーペンタイン流路の1本あたりの溝断面積とリブ部の溝の1本あたりの断面積の比率は、好ましくは3〜20:1、より好ましくは5〜15:1である。
【0020】
サーペンタイン流路の最端部とリブ部溝の間隔、およびリブ部溝間の間隔は、それぞれ同じ程度になるよう、リブ部溝を配置することが好ましい。リブ部溝がある部分に偏ると、その部分に断面積の大きなリブ部溝を配置した場合と同様の影響、すなわちガスの供給性が損なわれてしまう。
【実施例】
【0021】
以下に、メタノール直接型燃料電池を用いた実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に制限されない。
【0022】
・燃料電池セル作製手順
電解質となる高分子膜にはパーフルオロカーボンスルホン酸膜NafionTM-117(DuPont社製)を選択し、過酸化水素水および希硫酸中で煮沸洗浄して使用した。電極はカーボンペーパーをテトラフルオロエチレン分散液で撥水処理した後、カーボン、アルコール、水、Nafion分散液を混合したスラリーをドクターブレードで塗布し乾燥させることによりガス拡散層を形成し、その上に触媒とNafion(パーフルオロカーボンスルホン酸)分散液を混合した触媒インクをドクターブレード法で塗布し乾燥して作成した。触媒は両極とも白金系触媒を使用した。このようにして作製した正極、負極電極(94mm角)を電解質膜のそれぞれの面に用いて熱圧着することにより膜電極接合体を作製した。
【0023】
・セパレーター
以下の実施例、比較例において、正極用、負極用セパレーターともにセパレータ流路領域は一辺が94mmの正方形状である。負極用セパレーターには図3に示したようなサーペンタイン流路にリブ部の溝がないセパレーターを用いた。負極用セパレーターのサーペンタイン流路の溝は幅2.5mm、深さ0.5mmである。また、正極用セパレーターのサーペンタイン流路の溝は幅2.5mm、深さ0.8mmであり、リブ部の縦溝は幅0.5mm、深さ0.5mmである。

【0024】
・発電条件
以下の実施例、比較例においては上記操作にて得られた膜電極接合体を用いて燃料電池を作製し、正極には酸化ガスとして空気を、負極にはメタノール水溶液を供給して発電し、電圧0.3Vで放電時の電流密度を調べた。
【0025】
試験条件を以下に示す。
電池温度:80℃
正極空気:乾燥空気、10ml・min-1・cm-2
負極燃料:1Mメタノール水溶液、0.07 ml・min-1・cm-2
発電制御法:0.3V定電圧
【0026】
(実施例1)
正極側セパレーターには、図2に示したように、蛇行流路のリブ部に溝7本を設けたセパレーターを用いた。その結果、セル出力は7.2W、正極側圧力損失は9.6kPaであった。
【0027】
(比較例1)
正極側セパレーターには、図3に示したように、蛇行流路のリブ部に溝がないセパレーターを用いた。その結果、セル出力は最大7.2Wと実施例1と同等であるものの、正極側圧力損失は11.6kPaと大きかった。
【0028】
(比較例2)
正極側セパレーターには、図4に示したように、蛇行流路のリブ部に溝3本を設けたセパレーターを用いた。その結果、セル出力は7.2Wと実施例1と同等であるものの、正極側圧力損失は10.5kPaと大きかった。
【0029】
(比較例3)
正極側セパレーターには、図5に示したように、蛇行流路のリブ部に溝15本を設けたセパレーターを用いた。その結果、正極側圧力損失は8.4kPaと低い値を示したものの、セル出力は6.5Wと実施例1よりも大幅に低下した。
【0030】
実施例1および比較例1〜3の結果を表1に纏めた
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池正極用のサーペンタイン形状流路を有するセパレーターであって、サーペンタイン形状流路領域が正方形状あるいは長方形状であり、流路を形成するリブ部に流路溝と垂直方向に流路溝よりも溝断面積の小さい溝を、下記式(1)を満たす本数分、最上部の流路から最下部の流路まで貫通させて設けることを特徴とする燃料電池正極用セパレーター。
7≦L/(n+1)≦20 (1)
n:溝の本数
L:サーペンタイン形状流路領域が正方形状の場合には領域の一辺の長さ(mm)、サーペンタイン形状流路領域が長方形状の場合には領域の長辺と短辺の長さの平均(mm)。
【請求項2】
燃料電池が水素を燃料とする固体高分子型燃料電池である請求項1に記載の燃料電池正極用セパレーター。
【請求項3】
燃料電池がメタノールを燃料とする固体高分子型燃料電池である請求項1に記載の燃料電池正極用セパレーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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