説明

燃料電池用冷却層およびその製造方法ならびにそれを用いた燃料電池

【課題】 本発明は、構成がより簡易化された燃料電池用冷却層を提供することを課題とする。
【解決手段】 導電性担体のセパレータシートが、導電性担体のスペーサによって離隔されており、かつ、前記セパレータシートと前記スペーサとが接合されていることによって、前記セパレータシートの間に形成された冷却媒体を流すための流路を有している、燃料電池用冷却層を提供することを解決手段とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用冷却層およびその製造方法ならびにそれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般的には、発電機能を発揮する複数の単セルが積層された構造を有する。当該単セルはそれぞれ、(1)〜(4)を有する。(1)電解質膜(例えば、Nafion(登録商標)膜)。(2)これを挟持する一対(アノード、カソード)の触媒層(「触媒層」とも称される)。(3)さらにこれらを挟持する、供給ガスを分散させるための一対(アノード、カソード)のガス拡散層(GDL)、を含む膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)。そして、個々の単セルが有するMEAは、セパレータシートを介して隣接する単セルのMEAと電気的に接続される。このようにして単セルが積層・接続されることにより、燃料電池スタックが構成される。そして、この燃料電池スタックは、種々の用途に使用可能な発電手段として機能しうる。かような燃料電池スタックにおいて、セパレータシートは、上述したように、隣接する単セルどうしを電気的に接続する機能を発揮する。これに加えて、セパレータシートのMEAと対向する表面にはガス流路が設けられるのが通常である。当該ガス流路は、アノードおよびカソードに燃料ガス(水素ガス)および酸化剤ガス(例えば大気、酸素)をそれぞれ供給するためのガス供給手段として機能する。燃料電池を安定して発電させるために、セル温度を調整する冷却層が設けられることが多い。そして、冷却層は、セパレータシートの2つのガス流路の中間に閉じられた層で設けられるのが通常である。かような冷却層の構成として、例えばセパレータシートの中心部に冷却媒体流路用中空孔道群を設けた燃料電池用電極基板が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平4−10185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される燃料電池用冷却層は、冷却媒体流路用中空孔道群の形成に高分子材料を用いる構成であるため、中空孔形成のため揮発または溶融流動する材料が必要となり、構造や製法が複雑となっていた。
【0005】
よって、本発明は、構成がより簡易化された燃料電池用冷却層を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、下記の燃料電池用冷却層を提供することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の燃料電池用冷却層は、導電性担体のセパレータシートが、導電性担体のスペーサによって離隔されている。そして、本発明の燃料電池用冷却層は、セパレータシートとスペーサとが接合されている。そのことによって、本発明の燃料電池用冷却層は、セパレータシートの間に形成された冷却媒体を流すための流路を有している。
【発明の効果】
【0008】
本発明の燃料電池用冷却層において、セパレータシートが、スペーサによって離隔されている。かかるセパレータシートおよびスペーサは、一般的な燃料電池の構成要素に存在する導電性担体の材料が用いられているため、構成がより簡易になる。そして、かかるセパレータシートとスペーサとは、接合されている。そのことによって、セパレータシートにスペーサが固定され、かつ、電気伝導性が高い状態で連結されている。そして、導電性担体のセパレータシートの間に存在するスペーサが、流路の隔壁としての機能を有して、冷却媒体を流すための流路を形成する。このように、本発明における燃料電池用冷却層は、一般的な燃料電池の構成要素に存在する材料によって冷却媒体を流すための流路が形成されているため、構成がより簡易化する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)のスタックを示す概略斜視図である。
【図2】図1におけるスタックを構成する単セルを示す概略斜視図である。
【図3】実施形態の一に係る単セルが2層積層された燃料電池スタックを示す概略断面図である。
【図4】図3におけるアノードセパレータシートと、カソードセパレータシートと、スペーサと、を含む、燃料電池用冷却層に着目した概略断面図である。
【図5】燃料電池の積層方向の面を6角形とした燃料電池を示す概略平面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略斜視図である。
【図7】実施形態の一に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略平面図である。
【図8】実施形態の一に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略平面図である。
【図9】実施形態の一に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略平面図である。
【図10】実施形態の一に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略平面図である。
【図11】たわみ式とまげ応力式の関係を表す図である。
【図12】燃料電池用冷却層用シートを形成する際を示す概略断面図である。
【図13】実施形態の一に係る燃料電池スタックを構成するガス拡散層用シート材の1つに隔壁を形成する際を示す概略斜視図である。
【図14】他のガス拡散層用シート材に隔壁を形成する際を示す概略斜視図である。
【図15】マザースタックを製造する際を示す概略側面図である。
【図16】マザースタックを分割して燃料電池を製造する際を示す概略斜視図である。
【図17】本実施形態に係る燃料電池スタックを搭載した車両を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明するが、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)のスタック(以下、燃料電池スタックとも称する)を示す概略斜視図であり、図2は、同スタックを構成する単セルを示す概略斜視図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池スタック1は、単セル4(燃料電池の一単位)が複数積層されて構成される。そして、1の単セル4における膜電極接合体3と、それに隣接する他の単セル4における膜電極接合体3との間には、本発明の燃料電池用冷却層17が設けられている。単セル4は、一対のセパレータシート2と、それに挟持された膜電極接合体3とが積層されて構成される(図2等参照)。その際の積層数は、特に限定されないが、好ましくは2〜500個である。また、単セル4の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.35〜1.5mmである。
【0013】
単セル4を詳しく説明する。図2に示すように、単セル4は、高分子電解質膜7と、高分子電解質膜7のカソード側の面に接触して設けられる触媒層6a(単に、「カソード触媒層6a」とも称する)と、カソード側に設けられているセパレータシート2a(単に、「カソードセパレータシート2a」とも称する)と、セパレータシート2aとカソード触媒層6aとの間に配置されているガス拡散層5a(単に、「カソードガス拡散層5a」とも称する)と、を有している。なお、カソード触媒層6aと、カソードガス拡散層5aとを総称して、カソード電極部材と称する場合もある。カソード電極部材は、酸化剤ガスをカソード触媒層6aに供給するガス供給機能と、集電する集電機能とを備えている。カソード電極部材においてカソードガス拡散層5aは、カソード触媒層6aに接触する第1の接触部と、カソードセパレータシート2aに接触する第2の接触部とを備えている。カソード電極部材は、酸化剤ガスが流れるのに十分な等価直径を有する構成にしてある。カソードセパレータシート2aは、織物形状や線材を並べた形状、プレート状、シート状など特に制限される形態はない。
【0014】
また、単セル4は、高分子電解質膜7と、高分子電解質膜7のアノード側の面に接触して設けられる触媒層6b(単に「アノード触媒層6b」とも称する)と、アノード側に設けられているセパレータシート2b(単に、「アノードセパレータシート2b」とも称する)と、アノード触媒層6bとアノードセパレータシート2bとの間に配置されているガス拡散層5b(単に、「アノードガス拡散層5b」とも称する)と、を有している。アノード触媒層6bと、アノードガス拡散層5bとを総称して、アノード電極部材と称する場合もある。アノード電極部材においてアノードガス拡散層5bは、燃料ガスを触媒層に供給するガス供給機能と、集電する集電機能とを備えている。アノード電極部材は、アノード触媒層6bに接触する第1の接触部と、アノードセパレータシート2bに接触する第2の接触部とを備えている。アノード電極部材も、ガスが流れるのに十分な等価直径を有する構成にしてある。アノードセパレータシート2bも、織物形状や線材を並べた形状、プレート状、シート状など特に制限される形態はない。
【0015】
カソードセパレータシート2aと、アノードセパレータシート2bとを総称して、単に、セパレータシート2またはセパレータシート(2a,2b)と称する場合もある。また、カソード触媒層6aと、アノード触媒層6bとを総称して、触媒層6または触媒層(6a,6b)と称する場合もある。また、カソードガス拡散層5aと、アノードガス拡散層5bとを総称して、拡散層5または拡散層(5a,5b)と称する場合もある。
【0016】
膜電極接合体3(MEA)は、高分子電解質膜7と、一対の触媒層(6a,6b)と、一対の拡散層(5a,5b)と、を含む。なお、一対の触媒層(6a,6b)によって高分子電解質膜7が挟持された構成を、CCM(Catalyst Coated Membrane)とも称することがある。また、(カソード触媒層6aまたはアノード触媒層6b)−(カソードガス拡散層5aまたはカソードガス拡散層5b)の2層を、ガス拡散電極もしくはGDE(gas diffusion electrode)と称することがある。また、かかるガス拡散電極を単に電極と称することがある。
【0017】
上記のように、単セル4は、膜電極接合体(MEA)3が一対のセパレータシート2によって挟持されて構成される。
【0018】
図3は、実施形態の一に係る単セル4が2層積層された燃料電池スタック1を示す概略断面図である。一方の単セル4における膜電極接合体3と、他方の単セル4における膜電極接合体3との間には、本発明の燃料電池用冷却層17が設けられている。換言すると、一方の単セル4におけるアノードセパレータシート2bと、他方の単セル4におけるカソードセパレータシート2aとの間には、それらを離隔するためにスペーサ19が配置されている。この際、アノードセパレータシート2bと、カソードセパレータシート2aと、スペーサ19とは、接合されており、これらの間隙が、冷却媒体を流すための流路としての役割を果たし、燃料電池用冷却層17として機能する。ここで、「接合」とは、アノードセパレータシート2bと、カソードセパレータシート2aと、スペーサ19とが、電気伝導性が高い状態で、連結(固定)されていることを意味する。換言すると、アノードセパレータシート2bと、カソードセパレータシート2aと、スペーサ19とが、一体化されている。この接合は、セパレータシート(2a,2b)とスペーサ19とが接着層で接着されることによってなされていることが好ましく、接着層は、層状になった連続的なものであってもよいし、層状になっていない断続的なものであってもよい。かかる接着層は、セパレータシート(2a,2b)と、スペーサ19とを接着する機能を有しながら、導電性を有している。かかる接着層としては、熱硬化性樹脂に由来する物(以下、「熱硬化性樹脂由来物」とも称する)が好ましい。熱硬化性樹脂由来物は、熱硬化性樹脂に由来するものであれば特に制限はないが、常温において粘着性、あるいは流動性を示すものが好ましく、炭化、グラファイト化をさせて導電性を有しているものが好ましい。かような熱硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂の種類は、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などがある。本発明における好ましい実施形態においては、かかる接着層は、熱硬化性樹脂を焼成させて炭化あるいはグラファイト化させることによって導電性を付与しているが、電気伝導性が高い状態で、連結(固定)できる接着剤(つまり、導電性接着剤)を用いれば、炭化等の処理は必ずしも必要ない。接着層の存在によって、より接合が向上する。
【0019】
上記を纏めると、本発明の燃料電池用冷却層17は、換言すると、一方の単セル4と、他方の単セル4とを離隔するセパレータとしての機能を有し、また、冷却媒体が流れる通路としての機能を有する。
【0020】
図4は、図3におけるアノードセパレータシート2bと、カソードセパレータシート2aと、スペーサ19とを含む、燃料電池用冷却層17に着目した概略断面図であり、本発明の燃料電池用冷却層17の実施形態の一を示す概略断面図である。図4から明らかなように、本発明の燃料電池用冷却層17は、セパレータシート(一組のセパレータシート)(2a,2b)が、スペーサ19によって離隔されており、かつ、セパレータシート(2a,2b)とスペーサ19とが接合されていることによって、セパレータシート(2a,2b)の間に形成された冷却媒体を流すための流路を有している。
【0021】
このように、燃料電池用冷却層17が、本発明の構成であると、スペーサ19の外径(大きさ)を選定することで冷却媒体を流すための流路の高さを決めることができる。そうであるため、より薄い流路の高さを実現することができ、流路の高さの設定の自由度を高めることができる。また、本発明の燃料電池用冷却層17において、セパレータシート2とスペーサ19とが接合されているので、スタッキングする部品点数を低減することができ、より構成が簡易化する。
【0022】
なお、単セル4が複数積層されている形態において、一方の単セル4におけるアノードセパレータシート2bと、他方の単セル4におけるカソードセパレータシート2aと、の組み合わせを「一組のセパレータシート」とも称する場合がある。また、本発明における、アノードセパレータシート2bと、カソードセパレータシート2aと、スペーサ19と、を含む、燃料電池用冷却層17は、一体的な部材として譲渡等に供されることができる。なお、単セル4においては、図2に示すように、セパレータシート(2a,2b)と高分子電解質膜7との間などにガスシール部(隔壁)(10,11)を配置している。
【0023】
上記のように、単セル4が、本発明の燃料電池用冷却層17も介しながら複数積層されることによって、本発明の燃料電池スタック1が構成される。
【0024】
以下、各構成要件を、詳細に説明する。
【0025】
<膜電極接合体(MEA)>
膜電極接合体3(MEA)は、上記のように、カソードガス拡散層5a−カソード触媒層6a−電解質膜7−アノード触媒層6b−アノードガス拡散層5bの5層からなる接合体である(通常、MEAは、下記のMPL層は含まない概念である)。
【0026】
本実施形態の膜電極接合体3は、0.2〜1mmの平滑なシート状またはプレート状の材料から構成されることが好ましい。また、本実施形態の膜電極接合体3は、切断可能な材料から構成されることが好ましい。なお、平滑なシート状またはプレート状の材料とは、平均厚み以上の突起やうねりを持たないことを意味する。したがって、表面に酸素や水素のための流路溝等を構成するような立体的形状が形成されておらず、同様に平滑なセパレータシート2と密接可能であることを表している。また、切断可能な材料とは、膜電極接合体3に切断を補助するような予備加工(切り欠き加工や溝彫り加工など)を施すことなく、かつ、切断後の膜電極接合体3の機能を損なうことなく、膜電極接合体3の任意の部位で切断可能な材料であることを意味する。切断方法としては、本発明の目的を損なわない範囲で、機械的切断(せん断、刃物による切断、砥粒による切断、裁断機による切断、ワイヤーソーによる切断等)、光・電磁波エネルギーによる切断(レーザー切断、電子ビーム切断等)、高圧流体エネルギーによる切断(ウォータージェット切断、爆破等)、熱エネルギーによる切断(プラズマ切断、ガス切断、加熱工具による切断、アーク切断、抵抗熱による切断、高周波電流による切断等)、電気エネルギーによる切断(放電加工による切断、電解加工による切断等)、超音波エネルギーによる切断(超音波カッターによる切断等)を含む、各種切断方法を用いることができる。
【0027】
<電解質膜>
電解質膜7は、電解質膜から構成されてなる。電解質膜は、固体高分子電解質膜から構成されると好ましい。この高分子電解質膜は、PEFCの運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。高分子電解質膜の具体的な構成は特に制限されず、燃料電池の技術分野において従来公知の高分子電解質からなる膜が適宜採用できる。高分子電解質膜として、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質膜を用いることができる。
【0028】
<触媒層>
触媒層6は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層6bでは水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層6aでは酸素の還元反応が進行する。触媒層6は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体、および高分子電解質(アイオノマ)を含む。アノード触媒層6bに用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層6aに用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。触媒担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。触媒担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。
【0029】
<ガス拡散層>
ガス拡散層5は、燃料電池に供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスを触媒層6へ供給する機能、および触媒層6とセパレータシート2との間で電子を授受する機能を有する。
【0030】
ガス拡散層5は、本発明の目的を損なわない範囲で、表層もしくは内部もしくはその両方に他の部材(層)をさらに含んでもよい。例えば、ガス拡散層5は、撥水性をより向上させるために、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層30;MPL)を基材の触媒層6側に有するものであってもよい。カーボン粒子層(例えば、図3中のマイクロポーラス層30;MPL)は、集電性向上のため、触媒層上(触媒層6とガス拡散層5との間)に圧着によって設けるとよい。MPLは、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔体に、アセチレンブラックと、PTFE微粒子と、増粘剤とからなる水分散液を含侵し、焼成処理を行って作製する。
【0031】
また、ガス拡散層5は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、PTFEなどを挙げることができる。
【0032】
カソードガス拡散層5aには、カソードガス拡散層5aの端部の切断面(端面)に、流体が流入出可能な少なくとも2つの開口部(8a,8b)が形成される。この開口部(8a,8b)が、酸化剤ガスが導入される酸化剤ガス導入口8aおよび酸化剤ガス排出口8bを構成する。カソードガス拡散層5aは、面内方向(積層方向)および面内方向に垂直な方向に対して流体透過性を有している。一方の面がカソード触媒層6a、他方の面がカソードセパレータシート2aと接する。したがって、カソードガス拡散層5aの端面の方向への流体の流れを制限するように、カソードガス拡散層5aの層内に少なくとも2つの隔壁(10a,10b)を設けることで、酸化剤ガス導入口8aと酸化剤ガス排出口8bの間で、酸化剤ガスを流通可能な少なくとも1本の流路が備えられる。
【0033】
また、アノードガス拡散層5bには、アノードガス拡散層5bの端部の切断面(端面)に、少なくとも2つの開口部(9a,9b)が形成され、この開口部(9a,9b)が、燃料ガスが導入される燃料ガス導入口9aおよび燃料ガス排出口9bを構成する。アノードガス拡散層5bは、面内方向(積層方向)および面内方向に垂直な方向に対して流体透過性を有しており、一方の面が平板状のアノード触媒層6b、他方の面がアノードセパレータシート2bと接する。したがって、アノードガス拡散層5bの端面の方向への流体の流れを制限するように、アノードガス拡散層5bの層内に少なくとも2つの隔壁11a,11bを設けることで、燃料ガス導入口9aと燃料ガス排出口9bの間で、燃料ガスを流通可能な少なくとも1本の流路が備えられる。
【0034】
隔壁10a,10b,11a,11bは、例えば、ガス拡散層(5a,5b)中で隔壁を設けたい任意の位置に、流体を透過させないシール材料を含浸させることで形成することができる。シール材料としては、例えば、市販のシール剤や接着剤等を使用することができる。本実施形態では、ガス拡散層5の切断面(端面)の開口部(8,9)を除く部位を、シール材料で封止して隔壁(10,11)としている。
【0035】
電解質膜7の両側に位置する酸化剤ガス用(カソード側)の開口部(8a,8b)および燃料ガス用(アノード側)の開口部(9a,9b)は、図2に示すように、電解質膜7を挟んで互いに重ならずに異なる位置に配置されてもよい。本実施形態では、燃料電池スタック1の積層方向の面が矩形であり、対向する長辺に酸化剤ガス用(カソード側)の開口部(8a,8b)が設けられ、他の対向する短辺に燃料ガス用(アノード側)の開口部(9a,9b)が設けられている。
【0036】
なお、矩形形状の短辺に対する長辺の比は、例えば10以上であるとよい。したがって、酸化剤ガス用の流路の流路長L1は、燃料ガス用の流路の流路長L2よりも短くなる。このように、水素より拡散性の低い酸素のための開口部(8a,8b)を広くかつ流路長L1を短くすることで、流路通過に伴う流体の圧力損失を低減できる。酸化剤ガス用の流路の流路長L1は、例えば100mm以下である。
【0037】
上記のような構成とすることで、薄く平滑で、容易に切断可能なセパレータシートを実現できる。
【0038】
また、ガス拡散層5も、平滑なシート状またはプレート状の材料から構成されることが好ましい。ここで、平滑なシート状またはプレート状の材料とは、平均厚み以上の突起やうねりを持たないことを意味する。1枚のガス拡散層5の、面に沿う方向の単位長さ当たりの、面方向へのせん断強度は、20N/mm以下が好ましく、10N/mm以下がより好ましく、5N/mm以下が更に好ましく、2N/mm以下がより更に好ましく、1N/mm以下が特に好ましい。
【0039】
本発明のガス拡散層5を構成する材料(基材)は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、カーボンを主成分として含むと好ましく、導電性を有する材料から構成された多孔質体であることも好ましく、紙、紙状抄紙体、フェルト、不織布、炭素製の織布、編布もしくは網を含む、繊維材料であることも好ましい。導電性を有する材料としては炭素材料や金属材料が挙げられる。本発明のガス拡散層5は、シート状またはプレート状のであることが好ましい。
【0040】
本発明のガス拡散層5を構成する材料(基材)の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがこのような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御され得る。
【0041】
ガス拡散層5が繊維材料で構成される場合、表面における平均繊維間距離の半値rは、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましく、15μm以下がより更に好ましく、10μm以下が特に好ましく、5μm以下が最も好ましい。
【0042】
触媒層6の抵抗率をρ(Ωcm)、平均繊維間距離の半値をr(cm)、触媒層6の厚さをt(cm)としたとき、下記する式(1)で表されるXが10以下であることが好ましく、5以下がより好ましく、2以下が更に好ましく、1以下がより更に好ましく、0.5以下が特に好ましい。このように、繊維材料の平均繊維間距離rに応じて触媒層6の抵抗率ρと厚さtを好ましい範囲に制限することによって、内部抵抗の低い燃料電池スタック1を構成することができる。
【0043】
【数1】

【0044】
<燃料電池用冷却層(セパレータシートおよびスペーサ)>
本発明の燃料電池用冷却層17は、冷却媒体を流すための流路を有している。そして、かかる冷却媒体を流すための流路は、導電性担体のセパレータシート(2a,2b)が、導電性担体のスペーサ19によって離隔されており、かつ、前記セパレータシート(2a,2b)と前記スペーサ19とが接合されていることによって形成される。
【0045】
本発明の燃料電池用冷却層17は、セパレータシート(2a,2b)としての機能と、冷却層としての機能と、を兼用する構造を有している。かかる構造によって、燃料電池としての構成をより簡略化することができる。
【0046】
図2で示すように、燃料電池用冷却層17の端部の切断面(端面)にも、少なくとも2つの開口部20(20a,20b)が形成され、この開口部(20a,20b)は、冷却媒体(例えば、冷却水、冷却ガス)が流れるための流路の導入口20aおよび排出口20bを構成する。また、燃料電池用冷却層17の開口部(20a,20b)を除く部位を、シール材料で封止して隔壁31としている(図2では図示していない)。なお、本実施形態によると、この燃料電池用冷却層17の開口部(20a,20b)は、対向する長辺に設けられている。そのことによって燃料電池用冷却層17の厚みおよび強度を低減することができる。また、冷却媒体が空気であれば、その空気を燃料電池用冷却層17とカソードガス拡散層5bに共用化することができる(開口部が同じ長辺側に設けられているため)。そして、燃料電池用冷却層17の厚みおよび強度を低減できれば、燃料電池スタックのせん断強度も低減でき、燃料電池スタックを積層後所定の寸法に裁断することができる。
【0047】
本発明の燃料電池スタック1においては、冷却媒体およびガス流体(燃料ガス、酸化剤ガス)を供給する外部マニホールドを有する。また、上記述べたように、燃料電池用冷却層17は、燃料電池用冷却層17の端部の切断面(端面)にも、少なくとも2つの開口部20(20a,20b)が形成され、つまり、ガス拡散層5と接しない側面が出入口になることができる。このような形態であると、内部マニホールドがない燃料電池なので、セル積層後に所定のスタックサイズに裁断することができる。
【0048】
また、燃料電池スタック1の積層方向の面は矩形に限定されず、多角形であってもよい。例えば、図5に示すように、単セル4の積層方向の面を6角形とした場合には、対向する2辺に燃料ガス用(アノード側)の開口部(14a,14b)を設け、他の対向する2辺に酸化剤ガス用(カソード側)の開口部(15a,15b)を設け、他の対向する2辺に、冷却媒体(例えば、冷却水、冷却ガス)が流れるための流路の開口部(20a,20b)を設けることもできる。このような構成とすることで、容易に流体を燃料電池の内部へと供給することができ、より構成が簡素化する。
【0049】
(セパレータシート)
本発明の燃料電池用冷却層17は、セパレータシート2から構成される。本発明に用いられるセパレータシート2は、導電性担体である。導電性担体の材料にも特に制限はされないが、カーボンを主成分として含むと好ましい。
【0050】
セパレータシート2は、アノード触媒層6bからアノードガス拡散層5bへ取り出された電子を集電して外部負荷回路へ送り出す機能、もしくは、外部負荷回路から戻ってきた電子をカソードガス拡散層5aへ配電してカソード触媒層6aへ伝える機能を有する。すなわち、セパレータシート2は、単セル4を複数個直列に接続して燃料電池スタック1を構成する際に、各セル4を電気的に直列接続する機能を有する。また、セパレータシート2は、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却媒体を互いに遮断する隔壁としての機能も有する。
【0051】
セパレータシート2の厚みとしても特に制限はないが、強度、冷却媒体の流れ抵抗(圧力損失)のバランス、電気抵抗および単セルの容積効率を考慮すると、厚さが50〜500μmが好ましい。また、セパレータシート2の形状にも特に制限されないが、平滑なシート状またはプレート状であることが好ましい。ここにおいても、平滑なシート状またはプレート状の材料とは、平均厚み以上の突起やうねりを持たないことを意味する。
【0052】
従来、燃料電池用冷却層として導電性担体のセパレータを用いる場合、上記の特許文献1のような構成にするか、または、例えば、平滑なセパレータに溝を形成したものを2枚用意し、かかる2枚のセパレータに形成された溝同士を対抗させて冷却媒体の通路となるように張り合わせた構成であった。
【0053】
本発明の燃料電池用冷却層においては、一般的な燃料電池の構成要素に存在しない材料が必要とはならず、また、かような溝を形成する必要がなく、平滑なセパレータを燃料電池用冷却層に適用できるため、全体として薄い燃料電池用冷却層を形成できる。また、かような溝を形成する必要がないため、セパレータシートの材料の選定自由度を高めることができる。また、特許文献1においては、冷却媒体流路用中空孔の相当直径が2〜10mmであるという構成になっていたため、燃料電池の出力体積密度の向上が実現できないが、本発明によれば、より薄いセパレータシートを用いて、燃料電池用冷却層を構成することができるため、燃料電池の出力体積密度も向上させることができる。
【0054】
また、従来、燃料電池用冷却層として金属セパレータを用いる場合、冷却媒体の通路を形成するために波状にプレス成形するという構成が一般的であった。しかしながら、プレス成形機械の寸法的制約もあり、部品仕様変更がある場合はプレス金型の変更が必要になるという問題点があった。そして、このように波状に成形されていると、ガス拡散層とは点(線)状の接触しかできず、接触抵抗を低減させることは困難であった。
【0055】
これに対して、本発明におけるこの実施形態のように、セパレータシートが、平滑なシート状またはプレート状であると、燃料電池として構成する際に、ガス拡散層と面接触することができる。つまり、燃料電池用冷却層を構成するセパレータとガス拡散層とが平面で接触する構成となり、電気接触抵抗が低下し、接触面圧も低下させることができる。そして、ガス拡散層も、カーボンを主成分として含むと、炭化またはグラファイト化等によって、前記燃料電池用冷却層と接合することができる。その場合、スタッキングする部品点数を低減し燃料電池組み立てを簡素化、および電気抵抗を低減させることができる。
【0056】
また、上記でも述べたが、燃料電池用冷却層を構成するセパレータシートとして、平滑なシート状またはプレート状のものを使用することができるため、全体として燃料電池用冷却層の薄型化に繋がり、ひいては、燃料電池の小型化に繋がる。また、セパレータシートとして平滑なシート状またはプレート状のものを使用すると、冷却層を設けることができなかった(従来は、セパレータが波状、うねり状のものが一般的であり、その形状を利用して、燃料ガスや酸化剤ガスや冷却ガスを流していた)。しかしながら、本発明においては、かような平滑なシート状またはプレート状のものをセパレータとして用いても、セパレータによって冷却媒体が流れる流路を確保することができるため、燃料電池の温度を適格に制御することができるため非常に好ましい。
【0057】
1枚のセパレータシート2の、面に沿う方向の単位長さ当たりの、面方向のせん断強度は、20N/mm以下が好ましく、10N/mm以下がより好ましく、5N/mm以下が更に好ましく、2N/mm以下がより更に好ましく、1N/mm以下が特に好ましい。
【0058】
また、セパレータシート2は、導電性担体であるが、その具体的な材料としては、カーボンを主成分として含むことが好ましく、より好ましくは炭素(炭素繊維)、カーボングラファイト(緻密黒鉛)、カーボンブラック、活性炭、コークス、膨張黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛および熱硬化性樹脂由来物からなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含むとよい。中でも、機械強度、電気比抵抗、ガス不透過性等に優れる膨脹黒鉛を用いることが好ましい。かような材料であれば、より導電性が向上する。
【0059】
(スペーサ)
本発明の燃料電池用冷却層17は、スペーサ19を含む。スペーサ19は、セパレータシート(2a,2b)を離隔する機能を有し、一方の単セル4と、他方の単セル4とを離隔する機能を有し、かつ、冷却媒体が流れる流路の隔壁としての機能を有する。
【0060】
スペーサ19の形状としても特に制限されず、セパレータシートを離隔できるようなものであれば、特に制限されないが、粒子状または棒状であるとよい。ここで、粒子状とは、球状のもののみならず、立方体や、不定形な破砕状のものも含む。また、棒状とは、円柱、四角柱などの角柱、半角柱などを含む。また、1つの燃料電池用冷却層17においては、粒子状および棒状が混在するものであってもよい。無論、これらの形状に限定されない。粒子状であれば、配置の自由度が向上し、棒状であれば、より導電性が向上する。
【0061】
スペーサ19は、導電性担体であるが、その材料としては、カーボンを主成分として含むことが好ましく、具体的には、炭素(カーボン)、カーボングラファイト(緻密黒鉛)、カーボンブラック、活性炭、コークス、膨張黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛および熱硬化性樹脂由来物からなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含むとよい。本発明の燃料電池用冷却層17として構成される際に、用いられるスペーサ19の材料は、セパレータと同じ材料であってもよいし、異なるものであってもよい。つまり、セパレータとスペーサが同一組成でなくても良い。好ましくは、強度や材料電気抵抗の設計予測が容易になるという観点から、同じ材料であることも好ましい。また、炭化またはグラファイト化することが好ましいという観点で、熱硬化性樹脂由来物も好ましい。なお、熱硬化性樹脂由来物は、熱硬化性樹脂に由来するものであれば特に制限はないが、常温において粘着性、あるいは流動性を示すものが好ましく、炭化、グラファイト化をさせて導電性を有しているものが好ましい。かような熱硬化性樹脂としては、上記述べたように、熱硬化性樹脂の種類は、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などがある。このように、スペーサの前駆体として熱硬化性樹脂を使用すれば、スペーサ前駆体を熱処理する工程を効率化できる。つまり、一般的には、スペーサ前駆体に炭化用の熱処理を施してスペーサとし、次いで、接着層前駆体(熱硬化性樹脂)を炭化するために熱処理を行う。これに対し、スペーサの前駆体として熱硬化性樹脂を使用すれば、この単体の“炭化用の熱処理”を省略できる(後に接着層前駆体(熱硬化性樹脂)を炭化するのであるから、熱硬化性樹脂の炭化と、スペーサ前駆体の炭化を同時にできる)。
【0062】
スペーサ19の外径としても特に制限されないが、冷却媒体の流れ抵抗、電気抵抗およびセルの容積効率を考慮すると、50〜500μmであると好ましい。なお、燃料電池用冷却層17として構成する際に、スペーサ19の外径と、セパレータシート2の厚みとは、バランス、強度や材料電気抵抗の設計予測容易性を考慮すると、同じであることが好ましい。
【0063】
ここで、本明細書中「スペーサ」との用語は、粒子状のものであれば1粒であっても「スペーサ」と称する場合もあるし、2粒以上を総称して「スペーサ」と称する場合もある。また、棒状のものであれば、1本でも「スペーサ」と称する場合もあるし、2本以上を総称して「スペーサ」と称する場合もある。1粒ずつまたは1本ずつの外径は、燃料電池をスタックすることを考慮すると、概ね同一の寸法を有していると好ましい。
【0064】
本発明の燃料電池用冷却層は、導電性担体のセパレータシートが、導電性担体のスペーサによって離隔されており、かつ、前記セパレータシートと前記スペーサとが接合されていることによって、前記セパレータシートの間に形成された冷却媒体を流すための流路を有している。以下、本発明の燃料電池用冷却層17の実施形態について説明を行う。
【0065】
図6は、本発明の実施形態に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略斜視図である。
燃料電池用冷却層は、一組のセパレータシートが、スペーサによって離隔されており、かつ、一組のセパレータシートとスペーサとが接合されていることによって形成される。しかし、ここでは、燃料電池用冷却層の内部の構造の理解のために、一枚のセパレータシート上に配置されたスペーサ19のみを図示する(図7〜10も同様である)。図6Aにおいては、平滑なシート状(プレート状)のセパレータシート2上に、球状のスペーサ19が一定間隔で配置されている。また、図6Bにおいては、平滑なシート状(プレート状)のセパレータシート2上に、棒状のスペーサ19が一定間隔で配置されている。なお、先も述べたが、粒子状(球状)のスペーサと、棒状のスペーサと、が混在していてもよい。
【0066】
図7は、実施形態の一に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略平面図である。図7においては、平滑なシート状(プレート状)のセパレータシート上に、球状のスペーサが配置されている。図7中の矢印は、冷却媒体が流れる方向を示す。セパレータシートは、厚み300μmの膨脹黒鉛シートである。スペーサ19は外径φ120μmの炭素球である。また、セパレータシートの冷却媒体が流れる方向に直交する長さは、50mmである。セパレータシートの冷却媒体が流れる方向の長さは、特に制限はないが、例えば、50mmである。無論、これ以上であってもよい。なお、以下、図8〜図10で示されるセパレータシートの大きさも同様である。かかる実施形態においては、冷却媒体が流れる方向と直交する、前記流路を形成するための、対をなすスペーサの間隔(以下、単に「スペーサ間隔」とも称する)は等間隔である。なお、「直交」とは、冷却媒体が流れる方向と完全に90°である場合に限られない。このように、球状のスペーサが等間隔で配置されていることによって、棒状で対応ができない、帯状(長い材料状)で連続生産したときにパターン化された場所で切断することができ、燃料電池スタックを量産するための構造の簡易化に資する。また、燃料電池冷却層を薄厚化でき、ガス拡散層5との電気接触抵抗が低下する。また、スペーサ19の外径がすべて実質的に同じ大きさであれば、ガス拡散層5に加わる面圧が均一化する。本実施形態においては、セパレータシート2と、スペーサ19とは、層状になっていない断続的な接着層(図示せず)によって接合されており、かかる接着層は、熱硬化性樹脂由来物からなる。
【0067】
図8は、実施形態の一に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略平面図である。図8においては、平滑なシート状(プレート状)のセパレータシート上に、球状のスペーサが配置されている。図8中の矢印は、冷却媒体が流れる方向を示す。本実施形態においては、セパレータシート2は、厚み300μmの膨脹黒鉛シートである。スペーサ19は外径φ120μmの炭素球である。図7で示す実施形態と異なるのは、スペーサ19である炭素球を帯状に配置した点である。このように帯状に配置することで、燃料電池用冷却層の導電性が向上する。本実施形態におけるスペーサ間隔は、3mmである。本実施形態においては、セパレータシート2と、スペーサ19とは、層状になっていない断続的な接着層(図示せず)によって接合されており、かかる接着層は、熱硬化性樹脂由来物からなる。
【0068】
図9は、実施形態の一に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略平面図である。図9においては、平滑なシート状(プレート状)のセパレータシート2上に、球状のスペーサ19が配置されている。図9中の矢印は、冷却媒体が流れる方向を示す。本実施形態においては、セパレータシート2は、厚み300μmの膨脹黒鉛シートである。スペーサは外径φ120μmの炭素球である。図8で示す実施形態と異なるのは、スペーサ19である炭素球を配置するセパレータシート2に、帯状の溝部を設けた点である。このようにセパレータシートに帯状の溝部を設けることによって、セパレータシート2と、スペーサ19との一体性がより向上し、燃料電池用冷却層17の導電性が向上する。本実施形態においては、セパレータシート2と、スペーサ19とは、層状になっていない断続的な接着層(図示せず)によって接合されている。かかる接着層は、熱硬化性樹脂由来物からなり、セパレータシートの帯状の溝部に設けられ、スペーサとの接着性、導電性をより向上させている。
【0069】
図10は、実施形態の一に係る燃料電池用冷却層の一部を表す概略平面図である。図10においては、平滑なシート状(プレート状)のセパレータシート2上に、球状のスペーサ19が配置されている。図10中の矢印は、冷却媒体が流れる方向を示す。セパレータシート2は、厚み300μmの膨脹黒鉛シートである。スペーサ19は外径φ120μmの炭素球である。冷却媒体の流れの上流側は、スペーサ間隔が狭く、冷却媒体の流れの下流側は、スペーサ間隔が広い。具体的には、上流側のスペーサ間隔は1.5mmとし、下流側のスペーサ間隔は5mmとする。かかる実施形態によると、上流側のような発電反応熱温度と冷却媒体温度の温度差が大きい部位においては冷却媒体の流速を速めて熱交換量を減らすことができる。一方で、下流側のような発電反応熱温度と冷却媒体温度の温度差が小さい部位においては冷却媒体の流速を遅くして、熱交換量を増やすことができる。このようにして、上流側と下流側における熱交換較差を低減させることもできる。また、スペーサ間隔は冷却層の上流および下流で可変にしたが、導電性能を向上させるために冷却層の上流および下流のスペーサ間隔は同等にした。無論、スペーサ間隔をスペーサの数によって変化させて、上流側と、下流側における冷却媒体の流速を変化させることもできる。また、冷却媒体が流れる方向に直交する方向においてスペーサ同士を密着させて、冷却媒体の流速を制御してもよい。このように当業者であれば、スペーサ19の形状として粒子状のものを使用することによって、冷却媒体の流速を制御するように工夫をすることもできる。
【0070】
スペーサの間隔は、スペーサの外径と、セパレータの厚みが同じである場合、スペーサの外径(またはセパレータの厚み)の1〜20倍であると好ましく、2〜5倍であるとより好ましい。「1倍」としたのは、セパレータシートの薄肉化(強度UP)や、電気抵抗値の低減に考慮したものであって、「20倍」としたのは、冷却媒体の流れ抵抗(圧力損失)低減に考慮したものである。具体的には、以下のように算出した(図11も参照)。
【0071】
セパレータシート(板)の剛性は、はりの剛性の式(2):
【0072】
【数2】

【0073】
倍であること、セパレータシートはスペーサによる連続支持体であることを考慮すると、はりの固定支持の基礎式から板のたわみ近似式が導かれる。
【0074】
【数3】

【0075】
さらに、板のまげ応力は、式(3):
【0076】
【数4】

【0077】
のbが単位長さ(=1)の断面2次モーメントと等しいことからまげ応力の式が導かれる。なお、板のまげ応力は、はりの断面2次モーメント「I=1×h^3/12」と等しい。また、はり基礎式に置き換えるとまげ応力は下記(連続支持体のため、固定支持の式)である。
【0078】
【数5】

【0079】
上記のたわみ式とまげ応力式により、「20倍」との数値を導き出すことができる。このように、冷却媒体(例えば、冷却水)の流路幅をスペーサ間隔で設定することができ、より薄いセパレータシートが適用でき、セパレータシート強度の設定自由度を高めることができる。つまり、スペーサの大きさや素材およびセパレータシートの厚みや素材を考慮しながら、好ましいスペーサ間隔を設定することができる。分かり易く換言すれば、セパレータが非常に薄いものであって、素材としての強度が低い場合は、その分スペーサを多く配置すればよい。
【0080】
<燃料電池用冷却層の製造方法>
次に、本発明に係る燃料電池用冷却層の製造方法について説明する。
【0081】
本発明に係る燃料電池用冷却層の製造方法は、一方の面に熱硬化性樹脂が塗工された、導電性担体の第1のセパレータシートを準備する工程(第1工程)と、導電性担体のスペーサを、前記第1のセパレータシートにおける熱硬化性樹脂が塗工された面に配置する工程(第2工程)と、一方の面に熱硬化性樹脂が塗工された、導電性担体の第2のセパレータシートを、前記スペーサによって前記第1のセパレータシートと離隔するように、かつ、前記一方の面同士が対向するように設置して、前記第1および第2のセパレータシートの間に形成された冷却媒体を流すための流路を有する予備冷却層を作製する工程(第3工程)と、前記予備冷却層を、前記熱硬化性樹脂が炭化またはグラファイト化する温度で焼成する工程(第4工程)と、を含む。
【0082】
以下、工程毎に詳説する。
【0083】
(第1工程)
第1工程は、一方の面に熱硬化性樹脂が塗工された、導電性担体の第1のセパレータシートを準備する工程である。
【0084】
導電性担体の第1のセパレータシートの一方の面に熱硬化性樹脂を塗工する方法にも特に制限はないが、スクリーン印刷機で塗工するのが好ましい。前記塗工を行う前に、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して30〜70質量部の希釈剤を添加することによって、前記熱硬化性樹脂を希釈する工程を予め含むとよい。濃度70質量部を超えると印刷機が目詰まりする場合があり、30質量部未満であるとスペーサが流動する場合がありスペーサを配置することが困難になることがあるからである。また、かような範囲であると、熱硬化性樹脂の塗工最適範囲なので、液状樹脂がたれることなくセパレータシートとスペーサを接着させることができる。また、前記熱硬化性樹脂の塗工厚みも、特に制限はないが、10〜50μmにしておくとよい。かかる範囲は、熱硬化性樹脂の塗工最適範囲であるため、熱硬化で収縮しても強度および電気抵抗を成立させることができるからである。希釈剤としては、特に制限はないが、例えば、プロピレングリコール、エチルアルコール、エチレングリコールなどが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上で用いてもよい。
【0085】
(第2工程)
第2工程は、導電性担体のスペーサを、前記第1のセパレータシートにおける熱硬化性樹脂が塗工された面に配置する工程である。導電性担体のスペーサを前記第1のセパレータシートにおける熱硬化性樹脂が塗工された面に配置する方法にも特に制限はないが、スクリーン印刷機で配置するのが好ましい。第1のセパレータシート上においてスペーサを配置したい場所のみに熱硬化性樹脂を塗工することによって、第1のセパレータシート上の所望の場所にスペーサを配置することができる。なお、スペーサを配置したい場所のみに熱硬化性樹脂を塗工する方法は、例えば、マスキング法などが挙げられる。また、この場合、第1のセパレータシートを覆うために使用される第2のセパレータシート上には熱硬化性樹脂が全面に塗工しておいてもよい。また、分散剤でスペーサを等分布配置することもできる。また、セパレータシート上においてスペーサを配置したい場所にリンプル加工を施しておくこともよい。その場合、そのリンプル加工が施された部分に、熱硬化性樹脂を塗工する方法も好適である。
【0086】
このようにスペーサを配置した後、次工程の作業性を向上させるために、熱硬化性樹脂に熱処理を施して、この配置されたスペーサを、かかる第1のセパレータシートに予め固定しておくこともよい。なお、かかる熱処理は、次工程における焼成前熱処理と同程度であることが好ましい。
【0087】
なお、燃料電池用冷却層の開口部となる部位を除く端面に、熱硬化性あるいは耐熱性シール材料を配置し、隔壁としてもよい。
【0088】
(第3工程)
第3工程は、一方の面に熱硬化性樹脂が塗工された、導電性担体の含む第2のセパレータシートを、前記スペーサによって前記第1のセパレータシートと離隔するように、かつ、前記一方の面同士が対向するように設置して、前記第1および第2のセパレータシートの間に形成された冷却媒体を流すための流路を有する予備冷却層を作製する工程である。
【0089】
第3工程において、この予備冷却層は、好ましくは150〜200℃、より好ましくは170〜200℃で、時間としては、20〜60分が好ましく、より好ましくは20〜30分焼成前熱処理が施されることが好ましい。かかる焼成前熱処理は、加圧下で行われることが好ましく、加圧条件にも特に制限はないが、予備冷却層の面方向の単位面積あたりの荷重、好ましくは0〜1MPa(M N/m)、より好ましくは0.5〜1MPa(M N/m)である。
【0090】
(第4工程)
第4工程は、前記予備冷却層を、前記熱硬化性樹脂が炭化またはグラファイト化する温度で焼成する工程である。
【0091】
焼成条件としても特に制限はないが、好ましくは1000〜3000℃、より好ましくは2200〜3000℃で、好ましくは100〜500秒、より好ましくは150〜300秒である。
【0092】
なお、上記の通り、スペーサの前駆体として熱硬化性樹脂を使用すれば、スペーサ前駆体の炭化熱処理を効率化できる。つまり、一般的には、スペーサ前駆体に炭化用の熱処理を施してスペーサとし、次いで、接着層前駆体(熱硬化性樹脂)を炭化するために熱処理を行う。これに対し、スペーサの前駆体として熱硬化性樹脂を使用すれば、この単体の“炭化用の熱処理”を省略できる。
【0093】
上記、第1〜第4工程を経ることで、本発明の燃料電池用冷却層を製造することができる。なお、燃料電池用冷却層の完成は、導電性確認、通気性確認を行うことによって、確かめることができる。
【0094】
本発明の燃料電池用冷却層の製造方法によれば、連続製作(帯状)が可能な製造方法であるため、シート状の燃料電池用冷却層を連続生産することができる。図12は、燃料電池用冷却層用シート材を形成する際を示す概略断面図である。かかる燃料電池用冷却層用シート材は、燃料電池スタックを製造する際に用いられる。
【0095】
<燃料電池スタックの製造方法>
図13は、ガス拡散層用シート材の1つに隔壁を形成する際を示す概略斜視図、図14は、他のガス拡散層用シート材に隔壁を形成する際を示す概略斜視図である。図15は、マザースタックを製造する際を示す概略側面図、図16は、マザースタックを分割して燃料電池を製造する際を示す概略斜視図である。
【0096】
まず、電解質膜の両面に触媒が塗工された1つのCCM用シート材21、2つのガス拡散層用シート材(22a,22b)、1つの燃料電池用冷却層用シート材23を準備する。CCM用シート材21、ガス拡散層用シート材22a,22bおよび燃料電池用冷却層用シート材23は、各々がCCM、ガス拡散層(5a,5b)および燃料電池用冷却層用シート材23の素材であり、ロール状に巻回された状態で設けられ、回転することで連続した供給が可能となっている。
【0097】
一方のガス拡散層用シート材22aは、図13に示すように、回転可能に配置し、巻回されたシートを引き出してシール材料を塗工し、再び巻回される。シール材料は、引き出されるシートの両端の縁部に設けられるノズル24により、連続的に塗工される。したがって、ガス拡散層用シート材22aには、両縁部に隔壁25が設けられることとなる。
【0098】
他方のガス拡散層用シート材22bは、図14に示すように、回転可能に配置し、巻回されたシートを引き出してシール材料を塗工し、再び巻回される。シール材料は、引き出されるシートの面と交差するように設けられるノズル26により、間欠的に塗工される。したがって、ガス拡散層用シート材22bには、所定の間隔で隔壁27が設けられることとなる。
【0099】
次に、CCM用シート材21、上述のように隔壁25,27が形成されたガス拡散層用シート材22a,22bおよび燃料電池用冷却層用シート材23を、図15に示すように、回転可能に配置する。すなわち、CCM用シート材21を2つのガス拡散層用シート材22a,22bの間に配置し、この外側に燃料電池用冷却層用シート材23を配置する。この後、各々のシート材を引き出して、まずCCM用シート材21を2つのガス拡散層用シート材22a,22bで挟んで膜電極接合体用のシート材を構成し、さらに燃料電池用冷却層用シート材23を重ねる(詳細には、当該燃料電池用冷却層用シート材23は、セパレータシート2が、スペーサ19によって離隔されており、かつ、セパレータシート2とスペーサ19とが接合されている構造を有しているが、図示はしない)。このようにして層構造をなすシート材を、所定の長さ毎に例えば切断刃28で切断して積層し、マザースタック29を構成する。切断位置は、ガス拡散層用シート材22bの間欠的に設けられる隔壁27の3つ毎に、隔壁27を両断するように設定される。これにより、ガス拡散層用シート材22bの切断位置の前後の各々に、両断された隔壁27,27が配置される。なお、切断位置は、隔壁27の3つ毎でなくてもよく、複数毎であればよい。また、全ての隔壁27で切断すれば、マザースタック29ではなく、単一のスタック型燃料電池1を製造することができる。
【0100】
この後、図16に示すように、製造されたマザースタック29を、間欠的に設けた各々の隔壁27を両断するように切断することで、積層方向に対して垂直方向に分割し、3つのスタック型燃料電池1が形成される。
【0101】
<燃料電池のメカニズム>
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータシートを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0102】
燃料として水素が用いられた際の燃料電池のメカニズムは以下のとおりである。すなわち、アノード触媒層6bに供給された水素からプロトンと電子が生成される。アノードで生成されたプロトンは、電解質膜7内部を移動してカソード触媒層6aに達する。一方、アノードで生成された電子は、導線(導体)を伝って燃料電池から取り出され、外部負荷回路で電気エネルギーを消費した後、導線(導体)を伝ってカソードに戻り、カソード触媒層6aに供給された酸素と反応して水を生成する。
【0103】
<燃料電池の作動>
燃料電池の作動は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素又は空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は高温であるほど触媒活性が上がるために好ましいが、通常は水分管理が容易な50℃〜100℃で作動させることが多い。
【0104】
<車両>
また、本発明に係る燃料電池スタック1を搭載した車両18(図17参照)も、本発明の技術的範囲に包含される。例えば、本発明を適用した固体高分子形燃料電池(PEFC)やスタック型燃料電池は、出力性能に非常に優れているため、高出力を要求される車両用途に適している。また、本発明に係る燃料電池1を搭載した車両18は、スタック状態で裁断できる燃料電池を搭載する車両 なので、燃料電池ユニットの生産タクトを短縮し燃料電池車両の生産性を向上させることができる。
【0105】
また、上述のように、構造が簡素であり、生産性の優れた燃料電池1を車両18に搭載することで、車両18の生産性を向上させることができる。また、単セル4を薄型化できるため、より出力密度の高い燃料電池1を実現でき、車両18の性能を向上させることが可能である。
【0106】
本発明の実施形態の効果を纏めると以下の通りである。
【0107】
本実施形態によれば、本発明の燃料電池用冷却層において、セパレータシートが、スペーサによって離隔されている。かかるセパレータシートおよびスペーサは、一般的な燃料電池の構成要素に存在する導電性担体の材料が用いられているため、構成がより簡易になる。そして、かかるセパレータシートとスペーサとは、接合されている。そのことによって、セパレータシートにスペーサが固定され、かつ、電気伝導性が高い状態で連結されている。そして、セパレータシートの間に存在するスペーサが、流路の隔壁としての機能を有して、冷却媒体を流すための流路を形成する。このように、本発明における燃料電池用冷却層17は、一般的な燃料電池の構成要素に存在する材料によって冷却媒体を流すための流路が形成されているため、構成がより簡易化する。また、燃料電池用冷却層17を構成するセパレータシート2の形状が平滑なシート状またはプレート状であるため、流路形状をセパレータシート2に形成する必要がなく薄型化が可能であり、切断が容易となる。したがって、セパレータシート2と膜電極接合体3を大面積で積層した後、必要に応じて切り分けることによって、積層を繰り返すことなく複数の燃料電池スタック1を容易に製造することができる。
【0108】
また、ガス拡散層5は側端の面に少なくとも2箇所の開口部(8,9)を備えた隔壁(10,11)を備え、セパレータシート2は平滑なシート状またはプレート状とすることで、ガス拡散層5内に流路が形成されるため、構造が簡素となる。
【0109】
また、電解質膜7の両側に位置する酸化剤ガス用(カソード側)の開口部(8a,8b)および燃料ガス用(アノード側)の開口部(9a,9b)は、電解質膜7を挟んで互いに重ならずに異なる位置に配置されてもよい。そして、この燃料電池用冷却層17の開口部(20a,20b)は、対向する長辺に設けられ、冷却媒体が空気であれば、その空気を燃料電池用冷却層17とカソードガス拡散層5bに共用化することができる。これにより、燃料電池1の構造を簡素化することができる。
【0110】
また、本実施形態によれば、積層体の積層方向の面が、多角形(例えば。六角形)で形成されることができる。すると、酸化ガス用の開口部(8a,8b)と燃料ガス用の開口部(9a,9b)と、燃料電池用冷却層17の開口部(20a,20b)が、電解質膜7を挟んで互いに重ならずに異なる位置に形成される。よって、開口部(8a,8b)へ酸化ガスを供給する経路と、開口部(9a,9b)へ燃料ガスを供給する経路と、開口部(20a,20b)へ冷却媒体を供給する経路とを、容易に分けることができる。これにより、燃料電池1の構造を簡素化することができる。
【0111】
また、ガス拡散層5として多孔質体を使用し、ガス拡散層5の切断面の開口部8,9を除く部位が隔壁10,11となっているため、ガス拡散層5の内部に、水素もしくは酸素の流路を水平方向に設けることができる。これにより、燃料電池1の内部に、流路をガス拡散層5の内部以外に設ける必要がなくなり、構造を簡素化できる。
【0112】
また、本実施形態によれば、膜電極接合体3および燃料電池用冷却層17の各々1枚の、面に沿う方向の単位長さ当たりの、面方向のせん断強度が低いため、せん断による機械的切断手段を用いることができ、生産性に優れている。
【0113】
また、本実施形態によれば、マザースタック29の分割によって1回の積層工程から多数のスタック型燃料電池1を製造することができる。したがって、1回の積層工程から1個のスタック型燃料電池しか製造できない製造方法と比べて、生産性を改善することができる。
【0114】
また、構造が簡素であり、生産性の優れた燃料電池1を車両18に搭載することで、車両18の生産性を向上させることができる。また、単セル4を薄型化できるため、燃料電池スタック1も薄型化し、より出力密度の高い燃料電池1を実現でき、車両18の性能を向上させることが可能である。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を用いて、より具体的に本発明を説明する。ただし、本発明の技術的範囲が下記実施例に限定されることはない。
【0116】
以下、本発明による実施例を説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されない。
【0117】
固体高分子電解質膜として、ナフィオンCS(登録商標、デュポン社製))を用いた。この電解質膜に、白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製 TEC10E50E、白金含量50質量%)を塗工したテフロン(登録商標)シートをホットプレス法にて転写し、触媒層を形成した。白金触媒使用量は、アノード、カソードともに、0.4mg/cm2とした。触媒層の保護および集電性向上のため、カーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL)を触媒層上に圧着し、固体高分子電解質膜、触媒層、およびMPLの接合体を作製した。MPLは、PTFE多孔体ポアフロン(住友電工製)に、アセチレンブラック(電気化学工業製)と、PTFE微粒子Polyflon(ダイキン工業製)と、適量の増粘剤とからなる水分散液を含侵し、350℃、30分焼成処理を行ったものである。ガス拡散層は、日本グラファイトカーボン製ピッチ系炭素繊維チョップドファイバーを用いてカーボンペーパを製作した。
【0118】
燃料電池用冷却層は、以下のように作製した。
【0119】
第1のセパレータシートとしてのSGL製黒鉛シート(厚み300μm 50mm×50mm)の一方の面に、熱硬化性樹脂としてのフェノール樹脂(群栄化学製レジトップ)を、全体に塗工した(第1工程)。なお、熱硬化性樹脂は、希釈剤としてプロピレングリコールによって、濃度37%に予め希釈しておいた。
【0120】
続いて、スペーサとして、東海カーボン製グラッシーカーボン微小球(外径φ120μm)を、前記第1のセパレータシートにおける熱硬化性樹脂が塗工された面に、図7のように配置した(第2工程)。この際、スペーサ間隔は1.5mmであった。
【0121】
続いて、一方の面に、全体的に熱硬化性樹脂が塗工された、第2のセパレータシートとしてのSGL製黒鉛シート(厚み300μm 50mm×50mm)を、スペーサによって第1のセパレータシートと離隔するように、かつ、一方の面同士が対向するように設置した。このようにして、第1および第2のセパレータシートの間に形成された冷却媒体を流すための流路を有する予備冷却層を作製した(第3工程)。この予備冷却層を、温度170度で30分のフェノール樹脂硬化処理、窒素ガス雰囲気下200度で30分の焼成前熱処理を行った。
【0122】
最後に、窒素ガス雰囲気下熱硬化性樹脂が炭化またはグラファイト化する温度(2000度)で6分焼成した。
【0123】
このようにして作製した燃料電池用冷却層の導電性および通気性を確認し、燃料電池用冷却層が作製できたことを確認した。なお、隔壁は、冷却層完成後に、接着剤によって作製した。
【符号の説明】
【0124】
1 燃料電池スタック、
2 セパレータシート、
2a カソードセパレータシート、
2b アノードセパレータシート、
3 膜電極接合体(MEA)、
4 単セル(燃料電池の一単位)、
5 ガス拡散層
5a カソードガス拡散層、
5b アノードガス拡散層、
6 触媒層、
6a カソード触媒層、
6b アノード触媒層、
7 高分子電解質膜、
8 酸化剤ガス用の開口部
8a 酸化剤ガス用の導入口、
8b 酸化剤ガス用の排出口、
9 燃料ガス用の開口部
9a 燃料ガス用の導入口、
9b 燃料ガス用の排出口、
10 カソードガス拡散層の隔壁、
11 アノードガス拡散層の隔壁、
14(a,b) 燃料ガス用の開口部、
15(a,b) 燃料ガス用の開口部、
17 燃料電池用冷却層、
18 車両、
19 スペーサ、
20 燃料電池用冷却層の冷却媒体の導入口、
20(a,b) 燃料電池用冷却層の冷却媒体の排出口
21 CCM用シート材、
22(a,b) ガス拡散層用シート材、
23 燃料電池用冷却層用シート材、
24,26 ノズル、
25,27 ガス拡散層用シート材の隔壁、
28 切断刃、
29 マザースタック、
30 マイクロポーラス層、
31、 燃料電池用冷却層の隔壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体のセパレータシートが、導電性担体のスペーサによって離隔されており、かつ、前記セパレータシートと前記スペーサとが接合されていることによって、前記セパレータシートの間に形成された冷却媒体を流すための流路を有している、燃料電池用冷却層。
【請求項2】
前記セパレータシートと前記スペーサとが接着層で接合されることによってなされている、請求項1に記載の燃料電池用冷却層。
【請求項3】
前記セパレータシートおよび前記スペーサが、炭素、カーボングラファイト、カーボンブラック、活性炭、コークス、膨張黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛および熱硬化性樹脂由来物からなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含む、請求項1または2に記載の燃料電池用冷却層。
【請求項4】
前記スペーサが、粒子状または棒状である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用冷却層。
【請求項5】
前記スペーサの外径が、50〜500μmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用冷却層。
【請求項6】
前記セパレータシートの厚みが、50〜500μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用冷却層。
【請求項7】
セパレータシートが、燃料電池として構成する際に、ガス拡散層と面接触している、請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用冷却層。
【請求項8】
一方の面に熱硬化性樹脂が塗工された、導電性担体の第1のセパレータシートを準備する工程と、
導電性担体のスペーサを、前記第1のセパレータシートにおける熱硬化性樹脂が塗工された面に配置する工程と、
一方の面に熱硬化性樹脂が塗工された、導電性担体の第2のセパレータシートを、前記スペーサによって前記第1のセパレータシートと離隔するように、かつ、前記一方の面同士が対向するように設置して、前記第1および第2のセパレータシートの間に形成された冷却媒体を流すための流路を有する予備冷却層を作製する工程と、
前記予備冷却層を、前記熱硬化性樹脂が炭化またはグラファイト化する温度で焼成する工程と、
を含む、燃料電池用冷却層の製造方法。
【請求項9】
前記塗工を行う前に、前記熱硬化性樹脂100質量部に対して30〜70質量部の希釈剤を添加することによって、前記熱硬化性樹脂を希釈する工程を予め含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂の塗工厚みが、10〜50μmである、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記スペーサが、前記熱硬化性樹脂と同じ材料に由来する、請求項9または10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用冷却層または請求項8〜11のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された燃料電池用冷却層を含む単セルが複数積層されてなる、燃料電池スタック。
【請求項13】
カーボンを主成分として含むガス拡散層を有し、該ガス拡散層が、前記燃料電池用冷却層と接合されている、請求項12に記載の燃料電池スタック。
【請求項14】
冷却媒体およびガス流体を供給する外部マニホールドを有し、
前記燃料電池用冷却層は、ガス拡散層と接しない側面が出入口になる、請求項12または13に記載の燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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