説明

燃料電池用水収支計測装置、燃料電池評価試験装置、並びに、燃料電池システム

【課題】燃料電池における水収支の算出結果の精度が、燃料電池から排出されるガス中に含まれている水分の液化を原因として低下するのを防止可能な燃料電池用水収支計測装置や、当該装置を備えた燃料電池評価試験装置、燃料電池システムの提供を目的とした。
【解決手段】試験装置1は、燃料電池30から排出される気体が流れるガス排出系統20に、水を気化させることが可能な気化手段71を有する。そのため、気化手段71を作動させることにより、燃料電池30から排出されるガス中に含まれている水分が液化するのを防止でき、制御部80により排出水分量Woを正確に導出することができる。従って、試験装置1は、燃料電池から排出されるガス中に含まれている水分の液化を原因として燃料電池における水収支の算出結果の精度が低下するのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用水収支計測装置や、当該水収支計測装置を備えた燃料電池評価試験装置、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、下記特許文献1に開示されている燃料電池の評価装置のように燃料電池における水収支を計測手段によって計測された種々のデータに基づいて算出できる装置が提供されている。
【特許文献1】特開2007−134287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述した従来技術の評価装置では、燃料電池から排出されたガス中に含まれている水分が、背圧調整用に設けられた背圧調整器や、弁、継手などの部材において冷却されて液化してしまい、排出ガス中に含まれている水分量を正確に算出できないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、燃料電池における水収支の算出結果の精度が、燃料電池から排出されるガス中に含まれている水分の液化を原因として低下するのを防止可能な燃料電池用水収支計測装置や、当該装置を備えた燃料電池評価試験装置、燃料電池システムの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決すべく提供される本発明の燃料電池用水収支計測装置は、燃料電池に供給される気体に含まれている流入水分量、並びに、燃料電池から排出される気体に含まれている排出水分量に基づき、前記燃料電池における水収支を計測可能な水収支計測装置であって、前記燃料電池から排出される気体が流れる排気系統と、前記燃料電池から排出された水を気化させることが可能な気化手段と、を有し、前記気化手段に対して気体の流れ方向下流側に、気体の露点を計測可能な露点検出手段が設けられており、当該露点検出手段によって検出された値に基づいて前記排出水分量が導出されることを特徴とする燃料電池用水収支計測装置である。
【0006】
本発明の燃料電池用水収支計測装置は、燃料電池から排出された気体が露点検出手段に至る前に、気中に含まれている水分を気化手段で加熱して気化させることができる。そのため、本発明の燃料電池用水収支計測装置では、燃料電池から排出された気体中に含まれている水分量(排出水分量)を露点検出手段の検出値に基づいて精度良く導出することができる。従って、本発明の燃料電池用水収支計測装置は、燃料電池における水収支の計測精度が高い。
【0007】
また同様の知見に基づいて提供される本発明の燃料電池評価試験装置は、燃料電池に供給される気体に含まれている流入水分量Wi、並びに、燃料電池から排出される気体に含まれている排出水分量Woに基づき、前記燃料電池における水収支を計測可能な水収支計測装置であって、前記燃料電池から排出される気体が流れる排気系統と、前記燃料電池から排出された水を気化させることが可能な気化手段と、を有する。本発明の燃料電池用水収支計測装置では、前記流入水分量Wiが、前記燃料電池に供給される気体の露点に対応する飽和水蒸気圧Pwiと、前記燃料電池に対して供給される気体の供給圧Poiと、前記燃料電池に供給される気体の流量Qiと、前記燃料電池に対して供給される気体の分子量Mと、を下記(数式1)に代入することにより導出される。また、本発明の燃料電池用水収支計測装置では、前記排出水分量Woが、前記気化手段により気化された水分を含み前記排気系統を流れる気体の露点に対応する飽和水蒸気圧Pwoと、前記排気系統を流れる気体の排気圧Pooと、前記排気系統を流れる気体の流量Qoと、を下記(数式2)に代入することにより導出される(請求項2)。
【数1】

【数2】

【0008】
本発明の燃料電池用水収支計測装置は、気化手段を有し、これにより排気系統に排出された水分を気化させることができる。そのため、本発明の燃料電池用水収支計測装置では、気化手段により気化された水分を含み前記排気系統を流れる気体の露点に対応する飽和水蒸気圧Pwoや、前記排気系統を流れる気体の排気圧Poo、前記排気系統を流れる気体の流量Qoを上記(数式2)に代入することにより燃料電池から排出された水分量(排出水分量Wo)を正確かつ容易に導出することができる。また、本発明の燃料電池用水収支計測装置では、上記(数式1)により、燃料電池に流入する水分量(流入水分量Wi)も正確かつ容易に導出することができる。従って、本発明の燃料電池用水収支計測装置によれば、燃料電池における水収支を容易かつ正確に計測することができる。
【0009】
上述した本発明の燃料電池用水収支計測装置は、燃料電池に供給される気体の流量Qiと、当該気体のストイキ比Sと、に基づいて排気系統を流れる気体の流量Qoが導出され、当該流量Qoが(数式2)に代入されるものであることが望ましい(請求項3)。
【0010】
かかる構成によれば、気体の流量Qoを導出するための手段として流量計などを設ける必要がなく、その分水分が液化してしまい、水収支の計測精度が低下する可能性を低減することができる。また、上述したような構成とすれば、燃料電池用水収支計測装置の装置構成を簡略化することができる。
【0011】
具体的には、燃料電池に所定の気体Aを導入する場合は、その気体Aの流量Qiと、その気体中に含まれている活物質(酸素あるいは水素)についてのストイキ比Sと、気体A中に含まれている活物質(酸素あるいは水素)の割合R[%]に基づき、下記(数式7)に基づいて排気系統を流れる気体Aの流量Qoを導出することができる。
【数3】

【0012】
さらに具体的には、燃料電池の正極側に空気を導入する場合は、空気の流量Qiと、酸素についてのストイキ比SO2と、空気中に含まれている酸素の割合R[%](R=20.8%)に基づき、下記(数式3)に基づいて排気系統を流れる空気の流量Qoを導出することができる。
【数4】

【0013】
また、燃料電池に負極側ガスとして水素そのものを導入する場合は、水素の流量Qiと、水素のストイキ比SH2と、に基づき、下記(数式4)に基づいて負極側の排気系統を流れる水素の流量Qoを導出することができる。
【数5】

【0014】
なお、燃料電池に負極側ガスとして、水素を主成分とし、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを所定の混合比で混合した気体を供給する場合は、上述した酸素を正極側ガスとして供給する場合と同様に、上記(数式7)に対し、水素の流量Qiと、水素のストイキ比SH2に加え、供給するガス中に含まれる水素の割合R[%]を代入することにより、負極側の排気系統を流れる水素の流量Qoを導出することができる。
【0015】
同様に、燃料電池に正極側ガスとして空気でなく酸素自体を導入する場合は、酸素の流量Qiと、酸素のストイキ比SO2と、に基づき、下記(数式8)に基づいて正極側の排気系統を流れる水素の流量Qoを導出することができる。
【数6】

【0016】
また、本発明の燃料電池評価試験装置は、燃料電池の評価試験を行うためのものであって、上述した本発明の燃料電池用水収支計測装置を有している。本発明の燃料電池評価試験装置は、前記燃料電池用水収支計測装置により、評価試験対象である燃料電池の正極および負極のうち、少なくとも一方における水収支を計測可能であることを特徴としている(請求項4)。
【0017】
かかる構成によれば、供試体たる燃料電池の正極や負極における水収支を正確に計測可能な燃料電池評価試験装置を提供できる。
【0018】
また、本発明の燃料電池システムは、燃料電池と、当該燃料電池の正極から排出される気体が流れる正極側排気系統と、前記燃料電池の負極から排出される気体が流れる負極側排気系統と、を有している。本発明の燃料電池システムは、前記正極ガス供給系統および負極ガス供給系統のうち、少なくとも一方に上述したの燃料電池用水収支計測装置が設けられていることを特徴としている(請求項5)。
【0019】
かかる構成によれば、燃料電池の正極や負極における水収支を正確に計測し、この計測結果を燃料電池の運転等に活用可能な燃料電池システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、燃料電池における水収支を正確に計測可能な燃料電池用水収支計測装置、燃料電池評価試験装置、並びに、燃料電池システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
続いて、本発明の一実施形態に係る燃料電池用評価試験装置1(以下、試験装置1とも称す)について、特徴的構成である燃料電池用水収支計測装置100(以下、計測装置100とも称す)を中心として説明する。図1に示すように、試験装置1は、燃料電池30に対して接続されたガス供給系統10と、ガス排出系統20(排気系統)と、制御部80と、に大別される。ガス供給系統10は、さらに燃料電池30の正極(カソード極)側に接続された正極側ガス供給系統11と、負極(アノード極)側に接続された負極側ガス供給系統15と、に大別される。同様に、ガス排出系統20は、燃料電池30の正極(カソード極)側に接続された正極側ガス排出系統21と、負極(アノード極)側に接続された負極側ガス排出系統25と、に大別される。
【0022】
正極側ガス供給系統11、負極側ガス供給系統15、正極側ガス排出系統21、並びに、負極側ガス排出系統25は、それぞれ独立的に設けられている。正極側ガス供給系統11は、燃料電池30に対して正極活物質として使用される酸素を主成分とする正極側ガス(カソードガス)を供給する正極側供給路12を有する。本実施形態では、正極側ガスとして空気が採用されている。また、負極側ガス供給系統15は、燃料電池30に対して負極活物質として使用される水素を主成分とするガスなどの負極側ガス(アノードガス)を供給する負極側供給路16を有する。正極側ガス排出系統21は、燃料電池30の正極側からガス等を排出するための正極側排出路13を有する。負極側ガス排出系統25は、燃料電池30の負極側からガス等を排出するための負極側排出路17を有する。
【0023】
正極側ガス供給系統11および負極側ガス供給系統15は、それぞれ同様の構成とされている。正極側供給路12および負極側供給路16は、ガスの流れ方向上流側にマスフローコントローラなどの流量調整手段37を有し、その下流側において一旦低湿度流路33と高湿度流路35の2系統に分岐した後、再度合流する流路構成とされている。具体的には、正極側供給路12および負極側供給路16は、ガスの流れ方向上流側の分岐点に、それぞれ三方弁38を有し、これよりも下流側において、低湿度流路33と高湿度流路35の2系統に分岐している。また、低湿度流路33および高湿度流路35は、前記した分岐点よりもガスの流れ方向下流側において三方弁40に接続され、合流している。正極側供給路12および負極側供給路16は、それぞれ合流点に設けられた三方弁40に混合ガス流路36が接続されており、これを介して下流側に設けられた燃料電池30に向けて正極側ガスや負極側ガスを供給することができる。
【0024】
低湿度流路33は、図示しない供給源から供給された正極側ガスや負極側ガスが加湿されることなくそのまま流れる流路である。また、高湿度流路35は、上述した分岐点において分岐した流路であり、図示しない供給源から供給された正極側ガスや負極側ガスを加湿して供給する流路である。高湿度流路35の中途には、加湿手段43が設けられている。低湿度流路33に流入するガスと、高湿度流路35に流入するガスと、の比(分流比)は、両流路33,35の分岐点に設けられた三方弁38を開度調整することにより調整できる。また、上述した合流部に設けられた三方弁40において合流する低湿度ガスと、高湿度ガスと、の比(混合比)は、三方弁40を開度調整することにより調整できる。そのため、正極側ガス供給系統11や負極側ガス供給系統15では、三方弁38,40を通過する低湿度ガスおよび高湿度ガスの流量を調整することにより、合流点において所定の割合で低湿度ガスおよび高湿度ガスを混合させ、混合ガスを調製することができる。
【0025】
加湿手段43は、高湿度流路35の中途であって、三方弁38よりもガスの流れ方向下流側の位置に配されている。加湿手段43は、貯留水を貯留する密閉型の貯留槽50と、この貯留槽50内の貯留水を加熱するためのヒーター51(水温調整手段)とを具備している。通常、貯留槽50に貯留される貯留水には純水が使用されるが、試験条件等に合わせて適宜変更することも可能である。貯留槽50の底部側には、ガス導入部53が設けられており、これを介して、高湿度流路35により供給された正極側ガスや負極側ガスを貯留槽50内の貯留水中に吐出可能とされている。
【0026】
また、貯留槽50の頂部側には、ガス排出部55が設けられており、これを介して貯留水中に吐出されたガスを加湿手段43の下流側に送り出すことができる。貯留槽50内には、水温検知センサ57が設けられており、これにより貯留槽50内に貯留されている貯留水の水温を検知することができる。高湿度流路35において、三方弁38を通過してきたガスは、ヒーター51によって所定温度に加熱された貯留水中に吐出され、いわゆるバブリング処理が施される。これにより、貯留槽50に導入されたガスは、所定の湿度に加湿された状態でガス排出部55から排出される。
【0027】
高湿度流路35は、上記した貯留槽50の下流側の合流点に設けられた三方弁40に接続されている。そのため、ガス排出部55を介して貯留槽50から導出された高湿度ガスは、合流点に設けられた三方弁40において低湿度流路33を介して供給される低湿度ガスと合流して混合され、所定の露点に調整された混合ガスとなる。このようにして調製された混合ガスは、混合ガス流路36を介して燃料電池30に供給される。混合ガス流路36の中途には、従来公知の圧力センサ等からなる供給側圧力計60や、供給側露点計61が設けられており、これにより燃料電池30に供給される混合ガスの供給圧力や露点を検知することができる。
【0028】
ガス排出系統20を構成する正極側ガス排出系統21および負極側ガス排出系統25は、それぞれ同様の構成とされている。正極側ガス排出系統21および負極側ガス排出系統25は、それぞれ、燃料電池30の正極側に接続された正極側排出路13と、負極側に接続された負極側排出路17を有する。正極側排出路13および負極側排出路17には、それぞれ、気化手段71や、排出側圧力計72、排出側露点計73、背圧調整器75、熱交換器76が設けられている。気化手段71は、従来公知のヒーターなどによって構成されており、燃料電池30に対して正極側ガスや負極側ガスの流れ方向下流側に位置する正極側排出路13や、負極側排出路17に設けられている。気化手段71は、燃料電池30の正極および負極から正極側排出路13や負極側排出路17に向けて排出された水分を加熱し、気化させることができる。
【0029】
排出側圧力計72は、正極側排出路13や負極側排出路17の中途であって、上記した気化手段71に対して正極側ガスや負極側ガスの流れ方向上流側に設けられている。具体的には、排出側圧力計72は、燃料電池30における正極側ガスや負極側ガスの排出口近傍に設けられており、燃料電池30と気化手段71との間に位置している。また、排出側露点計73は、上述した気化手段71に対して正極側ガスや負極側ガスの流れ方向下流側であって、背圧調整器75よりも上流側の位置に設けられている。そのため、排出側露点計73は、正極側排出路13や負極側排出路17において、気化手段71により水分が気化した状態で含まれているガス(正極側ガス、負極側ガス)の露点を計測可能とされている。
【0030】
背圧調整器75は、燃料電池30の背圧調整用に設けられたものであり、正極側排出路13や負極側排出路17の中途に取り付けられた弁77と、この弁77に対して並列に設けられた弁78とを有する。また、熱交換器76は、背圧調整器75に対して正極側ガスや負極側ガスの流れ方向下流側に隣接する位置に設けられている。熱交換器76は、ガス排出系統20において背圧調整器75を通過してきたガスを冷却し、排気することができる。
【0031】
試験装置1は、上述した構成に加えて従来公知のCPUや論理回路などで構成された制御部80を備えている。試験装置1は、制御部80から発信される制御信号に基づき、三方弁38,40の開度や、貯留槽50に設けられたヒーター51の出力を調整できる。そのため、試験装置1は、制御部80により、低湿度流路33および高湿度流路35を流れるガスの比(分流比)や、これらのガスが三方弁40で合流する比率(混合比)、混合ガス流路36を介して燃料電池30に供給されるガスの露点を調整することができる。制御部80には、ガス供給系統10側から、水温検知センサ57により検知される貯留槽50における水温Twについてのデータや、供給側圧力計60により検知される燃料電池30に対する混合ガスの供給圧力(給気圧力Poi)のデータ、供給側露点計61によって検知される混合ガスの露点(給気露点Toi)のデータが入力される。
【0032】
制御部80には、ガス排出系統20側から、排出側圧力計72によって検知される燃料電池30の排出ガスの排気圧Pooや、排出側露点計73によって検知される排出ガスの露点(排気露点Too)のデータが入力される。また、制御部80は、排出ガス中に含まれている水分を十分気化可能な温度にガス排出系統20側に設けられた気化手段71の出力を調整したり、背圧調整器75を構成する弁77,78の開度調整により燃料電池30の背圧調整を行うことができる。
【0033】
制御部80は、給気露点Toiに基づき、これに対応する飽和水蒸気圧Pwiを導出することができる。具体的には、制御部80は、下記(数式6)に示すGoff−Gratchの式などを用いて飽和水蒸気圧Pwiを導出することができる。本実施形態では、下記(数式6)のToに給気露点Toiを代入することにより、飽和水蒸気圧Pwiが導出される。
【数7】

【0034】
また、制御部80は、下記(数式1)により燃料電池30に対して正極側ガス供給系統11や負極側ガス供給系統15を介して供給される混合ガス中に含まれている流入水分量Wi[g/min]を導出することができる。下記(数式1)において、飽和水蒸気圧Pwi[Pa]には、正極側ガス供給系統11や負極側ガス供給系統15のうち、流入水分量Wiを導出する系統に設けられた排出側露点計73によって導出された給気露点Toiに基づいて導出された値が代入される。また、給気圧力Poi[Pa]や、供給ガス流量Qi[NL/min]には、正極側ガス供給系統11や負極側ガス供給系統15のうち、流入水分量Wiを導出する系統に設けられた供給側圧力計60の検出値や、流量調整手段37により設定されたガスの流量が代入される。下記(数式1)の分子量Mには、正極側ガス供給系統11や負極側ガス供給系統15を介して燃料電池30に供給される混合ガス中に含まれている活物質、すなわち正極活物質として使用される酸素の分子量(M=18)、あるいは、負極活物質として使用される水素の分子量(M=2)が代入される。
【数8】

【0035】
制御部80は、下記(数式7)に基づいて、燃料電池30から正極側ガス排出系統21に排出される正極側ガスの流量Qo[NL/min]や負極側ガス排出系統25に排出される負極側ガスの流量Qo[NL/min]を導出することができる。下記(数式7)において、Sは、燃料電池において活物質として作用する酸素や水素についてのストイキ比である。具体的には、酸素についてのストイキ比S(以下、ストイキ比SO2とも称す)は、燃料電池30に供給された酸素量(QO2・in)と、燃料電池30で消費された酸素量(QO2・ex)と、の比(QO2・in/QO2・ex)に相当する。同様に、水素についてのストイキ比S(以下、ストイキ比SH2とも称す)は、燃料電池30に供給された水素量(QH2・in)と、燃料電池30で消費された水素量(QH2・ex)と、の比(QH2・in/QH2・ex)に相当する。また、下記(数式7)において、R[%]は、燃料電池30に対して正極側ガス供給系統11や負極側ガス供給系統15を介して供給される気体中に含まれている酸素や水素の割合である。
【数9】

【0036】
本実施形態では、上述したように、燃料電池30に対して正極側ガスとして空気が供給されている。また、空気中には、酸素が約20.8[%]含まれている。そのため、制御部80は、下記(数式3)に基づき、燃料電池30から正極側ガス排出系統21に排出される正極側ガスの流量Qo[NL/min](以下、排出ガス流量QoAとも称す)を導出することができる。
【数10】

【0037】
また、本実施形態では、燃料電池30に対し、負極側ガスとして水素が供給されており、上記(数式7)において水素の割合Rは100[%]とみなすことができる。そのため、制御部80は、下記(数式4)に基づき、燃料電池30から負極側ガス排出系統25に排出される負極側ガスの流量Qo[NL/min](以下、排出ガス流量QoCとも称す)を導出することができる。
【数11】

【0038】
制御部80は、上述した(数式3)や(数式4)により導出されたガスの流量Qo(排出ガス流量QoA、あるいは、排出ガス流量QoC)を下記(数式2)に代入することにより、燃料電池30から正極側ガス排出系統21、あるいは、負極側ガス排出系統25に混合ガスと共に排出された水分量(排出水分量Wo[g/min])を導出することができる。下記(数式2)における飽和水蒸気圧Pwo[Pa]は、排出側露点計73によって導出された排気露点Tooを上述したGoff−Gratchの式などの近似式に代入する等して導出した値が代入される。また、排気圧Poo[Pa]には、正極側ガス排出系統21や負極側ガス排出系統25のうち、流入水分量Wiを導出しようとしている系統に設けられた排出側圧力計72の検出値が代入される。下記(数式2)の分子量M[g/mol]には、上述したのと同様に、燃料電池30に正極活物質として供給される酸素の分子量(M=18)や、負極活物質として供給される水素の分子量(M=2)が代入される。
【数12】

【0039】
制御部80は、上述した(数式1)や(数式2)により導出された流入水分量Wiや排出水分量Woを下記(数式5)に代入することにより、下記燃料電池30における電気化学反応によって生成した水分量Wfcを導出することができる。
【数13】

【0040】
上記したように本実施形態の試験装置1では、気化手段71が設けられており、燃料電池30から排出された混合ガス中に含まれている水分を気化させることができる。そのため、試験装置1では、正極側ガス排出系統21や負極側ガス排出系統25を流れる混合ガスの排気露点Tooに対応する飽和水蒸気圧Pwoや、排気圧Poo、流量Qoを上記(数式2)に代入することにより、燃料電池30から排出された排出水分量Woを正確かつ容易に導出することができる。また、試験装置1では、上記(数式1)により、燃料電池30に供給される混合ガスに含まれている流入水分量Wiも正確かつ容易に導出することができる。従って、試験装置1では、上記(数式1)や(数式2)により導出された流入水分量Wiや排出水分量Woを(数式5)に代入することにより燃料電池30における水収支を容易かつ正確に計測することができる。
【0041】
上記実施形態では、気化手段71を、排出側圧力計72に対して気体の流れ方向下流側に配した構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、気化手段71における水分の蒸発により排出側露点計73の部分において圧力上昇することが想定される場合や、このような圧力上昇が、制御部80による水分量の導出において許容しうる範囲を超えて誤差を発生する要因となりうるような場合は、排出側圧力計72を気化手段71に対して気体の流れ方向下流側に配した構成とすることも可能である。
【0042】
また、試験装置1では、上記(数式3)や(数式4)に基づき、燃料電池30に供給される気体の供給ガス流量Qiや、ストイキ比S(SO2,SH2)から燃料電池30から排気される混合ガスの流量Qoを導出することができる。そのため、試験装置1は、混合ガスの排気流量Qoを導出するために流量計などを設ける必要がなく、当該流量計などにおいて水分が液化し、上述した(数式2)により導出される排出水分量Woの精度が低下してしまうのを防止できる。従って、(数式3)や(数式4)に基づいて混合ガスの流量Qoを導出することとすれば、装置構成の簡略化に加え、水収支の計測精度の低下を最小限に抑制することができる。
【0043】
上記実施形態では、排気流量Qoを(数式3)や(数式4)に基づいて導出する構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、流量計などを別途設けて排気流量Qoを導出することとしてもよい。なお、かかる構成とする場合は、燃料電池30から排出された混合ガス中に含まれている水分の液化に伴い排出水分量Woの検出精度が低下するのを防止すべく、流量計などが低温にならないように温度調整する等の方策を講じることが望ましい。
【0044】
上記実施形態の試験装置1では、正極側ガスや負極側ガスの供給源からガス供給系統10に正極側ガスや負極側ガスを供給する構成であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば水素や酸素といったような燃料電池30の活物質として機能するガスに窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを所定の混合比で混合するための混合手段をガス供給系統10に別途設けた構成としたり、ガス供給系統10の外部において予め混合比が調整されたガスを供給する構成としてもよい。
【0045】
本実施形態では、試験装置1について、固体高分子型燃料電池(PEFC)の試験用のものであることを前提として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、アルカリ水溶液電解質型燃料電池(AFC)、リン酸水溶液電解質型燃料電池(PAFC) のようないわゆる低温型の燃料電池の評価試験にも好適に使用できる。
【0046】
上記実施形態では、計測装置100を採用した燃料電池30用の試験装置1について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、計測装置100が単体で使用されるものであってもよい。また、計測装置100は、試験装置1に限らず、燃料電池30を備えて構成される燃料電池システム110に採用されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る試験装置の作動原理図である。
【符号の説明】
【0048】
1 燃料電池評価試験装置(試験装置)
10 ガス供給系統
20 ガス排出系統(排気系統)
30 燃料電池
71 気化手段
100 燃料電池用水収支計測装置(計測装置)
110 燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に供給される気体に含まれている流入水分量、並びに、燃料電池から排出される気体に含まれている排出水分量に基づき、前記燃料電池における水収支を計測可能な水収支計測装置であって、
前記燃料電池から排出される気体が流れる排気系統と、前記燃料電池から排出された水を気化させることが可能な気化手段と、を有し、
前記気化手段に対して気体の流れ方向下流側に、気体の露点を計測可能な露点検出手段が設けられており、
当該露点検出手段によって検出された値に基づいて前記排出水分量が導出されることを特徴とする燃料電池用水収支計測装置。
【請求項2】
燃料電池に供給される気体に含まれている流入水分量Wi、並びに、燃料電池から排出される気体に含まれている排出水分量Woに基づき、前記燃料電池における水収支を計測可能な水収支計測装置であって、
前記燃料電池から排出される気体が流れる排気系統と、前記燃料電池から排出された水を気化させることが可能な気化手段と、を有し、
前記流入水分量Wiが、前記燃料電池に供給される気体の露点に対応する飽和水蒸気圧Pwiと、前記燃料電池に対して供給される気体の供給圧Poiと、前記燃料電池に供給される気体の流量Qiと、前記燃料電池に対して供給される気体の分子量Mと、を下記(数式1)に代入することにより導出され、
前記排出水分量Woが、前記気化手段により気化された水分を含み前記排気系統を流れる気体の露点に対応する飽和水蒸気圧Pwoと、前記排気系統を流れる気体の排気圧Pooと、前記排気系統を流れる気体の流量Qoと、を下記(数式2)に代入することにより導出されることを特徴とする燃料電池用水収支計測装置。
【数1】

【数2】

【請求項3】
燃料電池に供給される気体の流量Qiと、当該気体のストイキ比Sと、に基づいて排気系統を流れる気体の流量Qoが導出され、当該流量Qoが(数式2)に代入されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用水収支計測装置。
【請求項4】
燃料電池の評価試験を行うための燃料電池評価試験装置であって、
請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用水収支計測装置を有し、
当該燃料電池用水収支計測装置により、評価試験対象である燃料電池の正極および負極のうち、少なくとも一方における水収支を計測可能であることを特徴とする燃料電池評価試験装置。
【請求項5】
燃料電池と、
請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用水収支計測装置と、を有し、
当該燃料電池用水収支計測装置により、前記燃料電池の正極および負極のうち、少なくとも一方における水収支を計測可能であることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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