説明

燃料電池用触媒層の製造装置及び燃料電池用触媒層の製造方法

【課題】軽加湿又は無加湿の下でより高い出力を安定的に発揮可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の燃料電池用触媒層の製造装置は、触媒修飾手段10と、超音波ホモジナイザ20と、自転/公転式遠心攪拌機30と、スクリーン印刷機40とを備えている。触媒修飾手段10は、親水性を有する修飾基である硝酸基により、触媒金属微粒子としての白金を修飾することにより、処理済み触媒を作製する。自転/公転式遠心攪拌機30は、プレペーストを高分子電解質2の溶液とともに混合して触媒ペーストを調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用触媒層の製造装置及び燃料電池用触媒層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池のセルは、電解質層と、電解質層の一面に接合されて空気が供給されるカソード極と、電解質層の他面に接合されて燃料が供給されるアノード極とからなる。カソード極やアノード極は触媒層を有している。触媒層は、カーボンブラック等の導電性のある担体に白金等の触媒金属微粒子が担持されてなる無数の触媒と、高分子電解質とを含有している。
【0003】
従来の触媒層の製造方法としては、例えば特許文献1に本発明の発明者等による製造方法の発明が開示されている。この製造方法では、まず粉砕後の無数の触媒を水とともに混合してプレペーストとする。この間、水を多く用いた遠心攪拌法を採用することにより、各触媒間に存在し得る気泡が好適に除去される。次いで、プレペーストを高分子電解質の溶液とともに混合して触媒ペーストとする。そして、触媒ペーストにより触媒層を得る。例えば、カーボンクロス等のガス透過性を有する基材に触媒ペーストを印刷し、基材とともに触媒ペーストを乾燥する。これにより、基材上に触媒層が形成されたカソード極やアノード極となる電極が得られる。
【0004】
こうして得られる触媒層では、高分子電解質の親水性官能基が各触媒側に配向し、各触媒と高分子電解質との間に互いに連続する親水層が形成されている。この触媒層はPFF(Proton Film Flow)構造を有していると称される。このPFF構造の触媒層をもつ電極をカソード極及びアノード極とし、電解質層の両面にこれらを設ければ、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)が得られる。発明者の試験結果によれば、この膜電極接合体をセルとした燃料電池では、プロトンが好適に移動し、軽加湿又は無加湿でありながら高出力が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−140062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、軽加湿又は無加湿の下で、より高い出力を安定的に発揮可能な燃料電池が求められている。これに対しては、触媒層の担体を親水化することが有効であることが本発明の発明者による研究によって明らかとなった。
【0007】
担体を親水化する方法としては、「Carbon」(Kim Kinoshita; John Wiley & Sons 1988)の199頁や特開平7−134995号公報には、担体や触媒を硝酸水溶液等の酸の水溶液で煮沸して処理済み触媒を得ることが開示されている。この処理済み触媒は、表面に水酸基を有するものとなり、親水性が向上すると考えられる。このため、この処理済み触媒により触媒層を製造すれば、得られた触媒層は、プロトンが移動し易く、高出力が得られると考えられる。
【0008】
しかしながら、本発明の発明者の試験によれば、担体や触媒を酸の水溶液で煮沸すれば、触媒や担体が酸化され、劣化を生じてしまう。このため、この処理済み触媒では高い活性を安定的に望めない。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、軽加湿又は無加湿の下でより高い出力を安定的に発揮可能な燃料電池を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の燃料電池用触媒層の製造装置は、触媒ペーストから触媒層を形成する燃料電池用触媒層の製造装置において、
親水性を有する修飾基で触媒金属微粒子を修飾して処理済み触媒を作製する触媒修飾手段と、
該処理済み触媒を水とともに混合してプレペーストを調製するプレペースト調製手段と、
該プレペーストを高分子電解質の溶液とともに混合して触媒ペーストを調製する触媒ペースト調製手段とを備えていることを特徴とする(請求項1)。
【0011】
本発明の製造装置では、まず触媒修飾手段が、触媒金属微粒子と同一若しくは同種の金属錯体であって、修飾基を含むものを触媒金属微粒子へ結合させる。この際、錯体の利用により、触媒の構造に何らストレスを与えることなく、触媒金属微粒子を親水性の修飾基で修飾した処理済み触媒を得ることができる。
【0012】
この処理済み触媒は、担体や触媒を酸の水溶液で煮沸したものではないので、触媒や担体は酸化されておらず、劣化を生じていない。発明者の試験によれば、処理済み触媒は、触媒の重量当りで2400〜7800μg/g、担体の重量当りで5200〜14000μg/gの修飾基を含み得る。
【0013】
錯体溶液としては、塩化白金(IV)酸水和物水溶液(H2PtCl6・nH2O/H2O sol.)、塩化白金(IV)酸塩酸溶液(H2PtCl6/HCl sol.)、塩化白金(IV)酸アンモニウム水溶液((NH42PtCl6/H2O sol.)、ジニトロジアミン白金(II)水溶液(cis−[Pt(NH32(NO22]/H2O sol.)、ジニトロジアミン白金(II)硝酸溶液(cis−[Pt(NH32(NO22]/HNO3 sol.)、ジニトロジアミン白金(II)硫酸溶液(cis−[Pt(NH32(NO22]/H2SO4 sol.)、テトラクルル白金(II)酸カリウム水溶液(K2PtCl4)/H2O sol.)、塩化第1白金(II)水溶液(PtCl2/H2O sol.)、塩化第2白金(IV)水溶液(PtCl4/H2O sol.)、テトラアミン白金(II)ジクロライド水和物水溶液([Pt(NH34]Cl2・H2O/H2O sol.)、テトラアミン白金(II)水酸化物水溶液([Pt(NH34](OH)2/H2O sol.)、ヘキサアミン白金(IV)ジクロライド水溶液([Pt(NH36]Cl2/H2O sol.)、ヘキサアミン白金(IV)水酸化物水溶液([Pt(NH36](OH)2/H2O sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸水溶液(H2[Pt(OH)6]/H2O sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液(H2[Pt(OH)6]/HNO3 sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硫酸溶液(H2[Pt(OH)6]/H2SO4 sol.)、エタノールアミン白金溶液(H2[Pt(OH)6]/H2NCH2CH2OH sol.)等を採用することができると考える。これらのうち、塩素を含む錯体溶液は塩素が白金を劣化させると考えられるため、あまり好ましくない。なお、ここでは錯体中の金属種が白金であるもののみを挙げているが、必ずしもこれらの限定されるものではない。
【0014】
発明者の知見によれば、錯体溶液としては、NO3-を配位子とするジニトロジアミン白金(II)硝酸溶液(cis−[Pt(NH32(NO22]/HNO3 sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液((H2Pt(OH)6)/HNO3 sol.)、SO42-を配位子とするヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硫酸溶液((H2Pt(OH)6)/H2SO4 sol.)、NH4+を配位子とするテトラアミン白金(II)水酸化物水溶液([Pt(NH34(OH)2]/H2O sln.)等を採用することができる。
【0015】
次いで、プレペースト調製手段が処理済み触媒を水とともに混合してプレペーストとする。この時、処理済み触媒に親水性の修飾基が吸着していることから、各処理済み触媒の表面はより確実に水で覆われた状態になっている。また、水を多く用いた遠心攪拌法を採用することにより、各触媒間に存在し得る気泡が好適に除去される。
【0016】
そして、触媒ペースト調製手段がプレペーストを高分子電解質の溶液とともに混合して触媒ペーストとする。この時、各処理済み触媒は水に対する濡れ性を有していることから、高分子電解質は各処理済み触媒側に高分子電解質が有する側鎖の親水性官能基を配向させる。そして、互いに接触する各処理済み触媒と高分子電解質との間に水によって互いに連続する親水層が形成された触媒ペーストが得られる。
【0017】
この後、触媒ペーストにより触媒層を得る。このため、この触媒ペーストを用いて触媒層を製造すれば、その触媒層はより確実にPFF構造を有するものとなる。
【0018】
このため、この触媒層を有する燃料電池では、親水層が触媒層中に連続的に形成されているので、これを伝ってプロトンが移動しやすい。また、高分子電解質がその親水層側に高分子電解質が有する側鎖の親水性官能基を配向させているため、プロトンの移動に親水層が有効に活用される。このため、プロトンの移動に必要な量の水が水路内に保水されて水路内を良好に移動する。
【0019】
したがって、本発明の製造装置によれば、軽加湿又は無加湿の下でより高い出力を安定的に発揮可能な燃料電池が得られる。
【0020】
プレペースト作製手段及び触媒ペースト調製手段としては、例えば、ボールミル、スターラ、ビーズミル及びロールミルの他、チャンバーを有する自転/公転式遠心攪拌機等を採用することができる。プレペースト作製手段と触媒ペースト調製手段とで同じものを採用することができる。
【0021】
プレペースト作製手段は湿式ジェットミルであり得る(請求項2)。この場合には、より好適なプレペーストを得ることができると考えられる。
【0022】
また、触媒ペースト調製手段は湿式ジェットミルであり得る(請求項3)。この場合には、より好適な触媒ペーストを得ることができると考えられる。
【0023】
本発明の燃料電池用触媒層の製造方法は、触媒ペーストから触媒層を形成する燃料電池用触媒層の製造装置において、
親水性を有する修飾基で触媒金属微粒子を修飾して処理済み触媒を作製する触媒修飾工程と、
該処理済み触媒を水とともに混合してプレペーストを調製するプレペースト調製工程と、
該プレペーストを前記高分子電解質の溶液とともに混合して触媒ペーストを調製する触媒ペースト調製工程とを備えていることを特徴とする(請求項4)。
【0024】
本発明の製造方法によれば、上記の特徴を有する燃料電池用触媒層を得ることが可能となる。
【0025】
したがって、本発明の製造方法によれば、軽加湿又は無加湿の下でより高い出力を安定的に発揮可能な燃料電池が得られる。
【0026】
修飾基は、硝酸基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基及びハロゲン基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(請求項5)。発明者は修飾基が硝酸基である場合に本発明の効果を確認している。
【0027】
本発明の製造方法では、プレペースト調製工程において、水中の処理済み触媒に対して粉砕処理を行うことが好ましい(請求項6)。そして、この粉砕処理は超音波ホモジナイザで行われることが好ましい(請求項7)。超音波ホモジナイザによって粉砕処理を行えば、触媒の粒子の次数若しくは大きさが低減し、0.1μm以上の大きな細孔を減らすことができる。このため、触媒層中に無駄な空間(細孔)ができず、触媒層の抵抗値が小さくなり、燃料電池が高出力を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例の燃料電池用触媒層の製造装置を示すブロック図である。
【図2】実施例の燃料電池用触媒層の製造装置に係り、製造工程を示す流れ図である。
【図3】試験1に係り、試料1及び比較例1、2の燃料電池におけるセル温度と、電圧と、抵抗との関係を示すグラフである。
【図4】試料1における燃料電池用触媒層の一部を示す模式断面図である。
【図5】試験2に係り、試料2及び比較例1、2の燃料電池におけるセル温度と、電圧と、抵抗との関係を示すグラフである。
【図6】試験3に係り、試料3及び比較例1、2の燃料電池におけるセル温度と、電圧と、抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】試験4に係り、試料2、試料3−1、試料3−2及び試料4における処理済み触媒におけるXPS分析結果をN1sの重ね合わせの下で示すグラフである。
【図8】試験4に係り、試料2、試料3−1、試料3−2及び試料4における処理済み触媒におけるXPS分析結果をS2pの重ね合わせの下で示すグラフである。
【図9】試験5に係り、試料4の電極の断面を示す5000倍の顕微鏡写真である。
【図10】試験5に係り、比較例3の電極の断面を示す5000倍の顕微鏡写真である。
【図11】試験5に係り、試料4と触媒層と比較例3の触媒層との細孔分布を示すグラフである。
【図12】試験6に係り、試料5及び比較例4の燃料電池における電流密度と電圧との関係を示すグラフである。
【図13】試験6に係り、試料6−1、6−2及び比較例5の燃料電池における電流密度と電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施例)
実施例の燃料電池用触媒層の製造装置は、図1に示すように、触媒修飾手段10と、湿式粉砕処理を行う超音波ホモジナイザ20と、プレペースト調製手段及び触媒ペースト調製手段としての自転/公転式遠心攪拌機30と、公知のスクリーン印刷機40とを備えている。なお、超音波ホモジナイザ20は、公用品が採用されている。また、自転/公転式遠心攪拌機30として、キーエンス社製、商品名「ハイブリッドミキサーHM−500」を採用している。自転/公転式遠心攪拌機30は図示しないチャンバーを有している。
【0030】
この製造装置では、図2に示す製造工程を経ることにより燃料電池用触媒層を得ることができる。
【0031】
まず、無数の触媒からなる集合体を購入した。触媒の担体種はケッチェンブラックEC600JDであり、触媒種はPt/Coである。各触媒はカーボンからなる担体に白金及びコバルトが60質量%の担持量で担持されている。そして、図2に示すステップS1において、この集合体をブレードミルを用いて粉砕した。
【0032】
次いで、触媒修飾手段10よって処理済み触媒を得る。この処理済み触媒は硝酸基を吸着した触媒である。具体的には、触媒修飾手段10が有するスターラ及び加熱装置(共に図示しない)によって、ステップS2に示すように、触媒修飾工程を行うことによって、処理済み触媒が得られる。すなわち、錯体溶液を用意し、錯体溶液に粉砕後の触媒を添加した。
【0033】
錯体溶液としては、ジニトロジアミン白金(II)硝酸溶液(cis−[Pt(NH32(NO22]/HNO3 sol.)(Pt0.05g/150mL、硝酸濃度0.07%(0.01M))を用意した。
【0034】
この錯体溶液中に触媒を添加し、スターラで5時間攪拌した。これにより、ジニトロジアミン白金の回りに存在する硝酸基が触媒の白金に吸着すると考えられる。処理後の錯体溶液をろ過し、残留物を60°Cで2時間乾燥し、窒素ガス中において、150°Cで2時間熱処理を行った。処理済み触媒を熱処理するのは、各処理済み触媒の表面の不純物を可及的に除去するためである。こうして、1gの触媒から1.012g(Pt収率84.3%)の処理済み触媒を得た。
【0035】
この後、ステップS3において、処理済み触媒をプレペースト調製工程に供した。まず、ステップS31において、処理済み触媒1gに対して水を100mL加え、水浸漬を行った。
【0036】
次いで、ステップS32において、処理済み触媒を浸漬させた水中に超音波ホモジナイザ20を差し込んで振動数が20kHzの超音波を10分間加え、粉砕処理としての湿式粉砕処理を行った。
【0037】
さらに、ステップS33において、自転/公転式遠心攪拌機30により、遠心攪拌法を実行した。この際、攪拌機のチャンバーに処理済み触媒と、処理済み触媒の8倍当量まで減じた水とを収容した。この後、チャンバーを公転させることによって混合物に遠心力を付与しつつ、チャンバーを自転させることによって混合物を自身の自重で攪拌することによりプレペーストを得た。この間、処理済み触媒に硝酸基が吸着していることから、各処理済み触媒の表面はより確実に水で覆われた状態になっている。なお、プレペースト作製手段については、自転/公転式遠心攪拌機30に替えて、湿式ジェットミルを採用することもできる。
【0038】
次いで、ステップS4において、触媒ペースト調製工程を行なう。触媒ペースト調製工程では、自転/公転式遠心攪拌機30内に、プレペースト、高分子電解質の溶液を収容し、遠心攪拌法を実行することで触媒ペーストを得る。この間、各処理済み触媒は水に対する濡れ性を有していることから、高分子電解質は各処理済み触媒側に高分子電解質が有する側鎖の親水性官能基を配向させる。そして、互いに接触する各処理済み触媒と高分子電解質との間に水によって互いに連続する親水層が形成される。なお、触媒ペースト作製手段については、自転/公転式遠心攪拌機30に替えて、湿式ジェットミルを採用することもできる。
【0039】
この後、ステップS5の最終工程として、この製造装置によって得られた触媒ペーストにより触媒層を得る。まず、ガス透過性を有する基材として、カーボンクロスを用意した。カーボンクロスを基材とし、両面にカーボンブラックとPTFEとの混合物からなる撥水層を付与した拡散層を作製した。この後、ステップS51において、上記の触媒ペーストを用いてカソード触媒層及びアノード触媒層について、スクリーン印刷機40によるスクリーン印刷を行なった。こうして、実施例の製造装置により、燃料電池用触媒層が得られることとなる。
【0040】
{検証}
〈試験1〉
さらに、ステップS52において、印刷後の基材を急速乾燥させ、カソード極及びアノード極を得た。電解質層の両面にこれらを設け、膜電極接合体を得た。この膜電極接合体をセルとし、試料1の燃料電池を組付けた。試料1の燃料電池の触媒層はPtが0.1mg/cm2である。
【0041】
比較例1として、触媒修飾工程S2及びホモジナイズ処理S32を行わない従来の製造方法で触媒ペーストを得、この触媒ペーストで同様の燃料電池を組付けた。比較例1の燃料電池の触媒層はPtが0.1mg/cm2である。
【0042】
また、比較例1と同様、比較例2の燃料電池を組付けた。比較例2の燃料電池の触媒層はPtが0.4mg/cm2である。
【0043】
これらの燃料電池において、加湿温度を60°C、H2の供給量を0.8L/分(0.1MPa−G)、空気の供給量を3.0L/分(0.1MPa−G)、電極面積が45mm×45mm(20.25cm2)の条件下、定電流の発電を行い、セル温度(°C)と、電圧(V)と、抵抗(Ω・cm2)との関係を求めた。結果を図3に示す。
【0044】
図3より、試料1の燃料電池は、比較例1の燃料電池よりも、軽加湿の下でより高い出力を安定的に発揮できることがわかる。また、試料1の燃料電池の性能は白金量が4倍の比較例2と同様である。このため、試料1の燃料電池では、白金量を減らしても、軽加湿の下で高い出力を安定的に発揮できることがわかる。試料1の燃料電池の触媒層は、図4に示すように、担体1aに触媒金属微粒子1bが担持されてなる無数の触媒1と、高分子電解質2とを含有し、この触媒層では、触媒1上に親水層3が形成されるように、高分子電解質2の側鎖101の親水性官能基を触媒1に配向させている(PFF構造)。これにより、試料1の燃料電池の触媒層では、各触媒1と高分子電解質2との間に互いに連続する親水層3が確実に形成されているからである。
【0045】
〈試験2〉
錯体溶液をヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液((H2Pt(OH)6)/HNO3 sol.)とし、試料2の燃料電池を組付けた。他の条件は試料1と同様である。試料2の燃料電池の触媒層はPtが0.1mg/cm2である。
【0046】
試料2及び比較例1、2の燃料電池において、試験1と同一の条件下、セル温度(°C)と、電圧(V)と、抵抗(Ω・cm2)との関係を求めた。結果を図5に示す。
【0047】
図5より、試料2の燃料電池も、試料1と同様、軽加湿の下で高い出力を安定的に発揮できることがわかる。
【0048】
〈試験3〉
錯体溶液をテトラアミン白金(II)水酸化物水溶液([Pt(NH34(OH)2]/H2O sln.)とし、試料3の燃料電池を組付けた。他の条件は試料1と同様である。試料3の燃料電池の触媒層はPtが0.1mg/cm2である。
【0049】
試料3及び比較例1、2の燃料電池において、試験1と同一の条件下、セル温度(°C)と、電圧(V)と、抵抗(mΩ)との関係を求めた。結果を図6に示す。
【0050】
図6より、試料3の燃料電池も、試料1、2と同様、軽加湿の下で高い出力を安定的に発揮できることがわかる。
【0051】
〈試験4〉
錯体溶液をヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硫酸溶液((H2Pt(OH)6)/H2SO4 sol.)とし、試料4における処理澄み触媒を得た。
【0052】
試料2〜4における処理済み触媒のXPS分析を行った。試料3の処理澄み触媒は2種類で結果を求めた(試料3−1、試料3−2)。N1sの重ね合わせを行った結果を図7に示し、S2pの重ね合わせを行った結果を図8に示す。
【0053】
図7より、各試料の処理澄み触媒は触媒がアミンやアミドの有機系窒素やアンモニウム塩やNO成分を有する。このため、これらは触媒がNO3-又はNH4+を吸着していることがわかる。
【0054】
〈試験5〉
試料1と同様に製造した試料4の電極の断面を図9に示し、比較例1と同様に製造した比較例3の電極の断面を図10に示す。試料4及び比較例3の電極の触媒層は同一の条件でスクリーン印刷されたものである。試料4及び比較例3の触媒層はPtが0.11mg/cm2である。図9及び図10は各電極を5000倍に拡大した顕微鏡写真である。
【0055】
また、試料4の触媒層と比較例3の触媒層との細孔分布を求めた。結果を図11に示す。図11に示すように、0.04〜0.1μm程度の細孔は、試料4の触媒層と比較例3の触媒層とでさほどの相違がない。一方、0.1μm以上の細孔は、湿式粉砕処理により減少していることが分かる。
【0056】
さらに、図9及び図10に示すように、試料4の電極は触媒層の厚さが約2μmであり、触媒層が緻密であり、触媒層中に細孔が存在しないのに対し、比較例3の電極は触媒層の厚さが約5μmであり、触媒層中に細孔が目立つ。この差は、プレペースト調製工程において、水中の処理済み触媒に対して湿式粉砕処理を行うか否かによって生じる。
【0057】
試料4の電極のように、触媒層が薄ければ、高温低加湿条件下において、電解質層に近い位置で生成水が生じても、その生成水を好適に排除し易いことから好ましい。また、試料4の電極のように、触媒層中に細孔が存在しないことは、抵抗値が低いことを示し、やはり好ましい。
【0058】
したがって、本発明の製造装置においては、プレペースト調製工程において、水中の処理済み触媒に対して超音波ホモジナイザ20による湿式粉砕処理を行うことが好ましい。
【0059】
(試験6)
試料1と同様に製造し、硝酸基を2μg/gしか含まない処理済み触媒を用いた試料5の燃料電池と、比較例1と同様に製造し、硝酸基を2μg/gしか含まない触媒を用いた比較例4の燃料電池とについて、50°C、常圧、フル加湿の条件下における電流密度(A/cm2)と電圧(V)との関係を求めた。結果を図12に示す。
【0060】
一方、試料1と同様に製造し、硝酸基を4700μg/g含む処理済み触媒を用いた試料6の燃料電池と、比較例1と同様に製造し、硝酸基を4700μg/g含む触媒を用いた比較例5の燃料電池とについて、同一の条件下における電流密度(A/cm2)と電圧(V)との関係を求めた。試料6の処理澄み触媒は2種類で結果を求めた(試料6−1、試料6−2)。結果を図13に示す。
【0061】
図12に示すように、硝酸基が少ない処理済み触媒では、粉砕処理(湿式粉砕処理)の効果が現れない。しかし、図13に示すように、硝酸基が多い処理済み触媒では、湿式粉砕処理の効果が顕著に現れている。
【0062】
以上において、本発明を実施例及び試験1〜6に即して説明したが、本発明は上記実施例及び試験1〜6に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は電気自動車等の移動用電源、あるいは据え置き用電源に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1b…触媒金属微粒子
10…触媒修飾手段
1…触媒
30…自転/公転式遠心攪拌機(プレペースト調製手段、触媒ペースト調製手段)
2…高分子電解質
S2…触媒修飾工程
S3…プレペースト調製工程
S4…触媒ペースト調製工程
S32…湿式粉砕処理(粉砕処理)
20…超音波ホモジナイザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒ペーストから触媒層を形成する燃料電池用触媒層の製造装置において、
親水性を有する修飾基で触媒金属微粒子を修飾して処理済み触媒を作製する触媒修飾手段と、
該処理済み触媒を水とともに混合してプレペーストを調製するプレペースト調製手段と、
該プレペーストを高分子電解質の溶液とともに混合して触媒ペーストを調製する触媒ペースト調製手段とを備えていることを特徴とする燃料電池用触媒層の製造装置。
【請求項2】
前記プレペースト作製手段は湿式ジェットミルである請求項1記載の燃料電池用触媒層の製造装置。
【請求項3】
前記触媒ペースト調製手段は湿式ジェットミルである請求項1又は2記載の燃料電池用触媒層の製造装置。
【請求項4】
触媒ペーストから触媒層を形成する燃料電池用触媒層の製造装置において、
親水性を有する修飾基で触媒金属微粒子を修飾して処理済み触媒を作製する触媒修飾工程と、
該処理済み触媒を水とともに混合してプレペーストを調製するプレペースト調製工程と、
該プレペーストを前記高分子電解質の溶液とともに混合して触媒ペーストを調製する触媒ペースト調製工程とを備えていることを特徴とする燃料電池用触媒層の製造方法。
【請求項5】
前記修飾基は、硝酸基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基及びハロゲン基から選ばれる少なくとも1種である請求項4記載の燃料電池用触媒層の製造方法。
【請求項6】
前記プレペースト調製工程において、水中の前記処理済み触媒に対して粉砕処理を行う請求項4又は5記載の燃料電池用触媒層の製造方法。
【請求項7】
前記粉砕処理は超音波ホモジナイザで行われる請求項6記載の燃料電池用触媒層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−15090(P2012−15090A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293141(P2010−293141)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】