説明

燃料電池用電極材料接合体の製造装置および製造方法、燃料電池用電極材料接合体、燃料電池

【課題】組み付け精度の高い燃料電池用電極材料接合体を効率よく作製する。
【解決手段】連続して搬送される電解質膜10の両面に電極材料を接合させる燃料電池用電極材料接合体の製造装置100は、電解質膜10を所定の方向66に搬送させる駆動機構と、電解質膜10の搬送方向に対する張力を緩和する張力緩和機構と、を備える。駆動機構は、複数の駆動系ローラを含み、張力緩和機構は、各駆動系ローラ間にそれぞれ設けられた張力緩和装置62,72,82,92を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極材料接合体の製造装置および製造方法に関し、詳細には、連続して搬送される電解質膜の両面に電極材料を接合させる燃料電池用電極材料接合体の製造装置および製造方法、該燃料電池用電極材料接合体、該燃料電池用電極材料接合体を含む燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の最小単位に相当する、一般的な単セル(燃料電池単セルとも称する)の構成について、特に電極部分を含む要部の構成の概略について説明する。図7に例示するように、カソード触媒層12(酸化極またはカソード極とも称する)とアノード触媒層14(燃料極またはアノード極とも称する)を、電解質膜10を挟んで互いに対向するように設け、いわゆる膜電極接合体(MEA)30が構成されている。また、カソード触媒層12の外側にカソード拡散層16を、またアノード触媒層14の外側にアノード拡散層18を、それぞれ設けることにより、いわゆる膜電極拡散層接合体(MEGA)40が構成されている。さらに、カソード拡散層16の外側に、酸化ガス流路20およびセル冷媒流路22が形成されたカソード側セパレータ26が、アノード拡散層18の外側に、燃料ガス流路24およびセル冷媒流路22が形成されたアノード側セパレータ28が、例えば、接着や熱圧着などにより一体化されて、単セル50が形成される。
【0003】
このようにして得られた単セル50を、所望の起電力が得られるように複数枚積層させた燃料電池スタック(単に燃料電池とも称する)がさまざまな分野において適用されている。燃料電池スタックは一般に、カソード触媒層12に酸素や空気等の酸化ガスを、アノード触媒層14に水素等の燃料ガスを、それぞれ供給して発電する。このような燃料電池は通常、発電時には例えば60℃から100℃程度の所定の温度範囲となるように制御されているが、発電時には化学反応に伴う熱を発生するため、燃料電池の過熱を防止するために水やエチレングリコールなどの冷媒を図7に示すセル冷媒流路22に流通させる。
【0004】
製造コスト低減のため、燃料電池の量産化に向けた検討がなされている。例えば、連続して搬送される帯状の電解質膜の両面の所定の位置に触媒層材料や拡散層材料などの電極材料を順に接合させることにより、膜電極接合体(MEA)および/または膜電極拡散層接合体(MEGA)を作製し、さらに場合によってはガスケットやセパレータを含む単セルを、一連の工程にて連続的に製造する方法をはじめ、ライン処理にて一連の積層処理を行なうさまざまな方法が検討されている。
【0005】
特許文献1には、帯状シート素材を成形し、セパレータを形成したセパレータ帯にMEAを組み付けた後で切断し、個々の単セルを形成する技術について記載されている。
【0006】
特許文献2には、接合時の位置決め精度を向上させるために、電解質膜の搬送時の撓みを改善するフィルム緊張部を設け、また電解質膜の縁部に規則的に設けられた位置決めマークや搬送穴を基準として接合する技術について記載されている。
【0007】
特許文献3、4には、電解質膜等に対するしわの発生を防止するために所定の張力を維持した状態で搬送させる技術について記載されている。
【0008】
特許文献5には、連続的に送られるウエブ状の電解質膜に触媒層を積層した接合体が連続して形成される部材において、拡散層の積層や接合体の切断を精度よく行なうために位置決め用のセンサを適用する旨が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−190946号公報
【特許文献2】特開2005−183182号公報
【特許文献3】特開2004−356075号公報
【特許文献4】特開2006−116816号公報
【特許文献5】特開2005−129292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、電解質膜は、特に加熱状態においては、わずかな張力でも容易に伸長する性質を有している。電解質膜のこのような特性は、連続生産、高速生産のための大きな妨げの要因ともなっており、また高い変形性を有する電解質膜の安定した搬送制御は、燃料電池の機能特性や組み付け精度に基づく耐久性にも影響する重要な課題の一つとなっている。
【0011】
燃料電池を一連の工程にて連続的に作製する場合には、各加工工程において電解質膜の水分量や加工温度が異なることにより、種々の不具合に繋がるおそれがある。加熱加工時に、電解質膜表面に対して張力がかかりすぎてしまうと、例えば電解質膜の搬送方向における伸長、およびこれに伴う部分的な膜厚の低下による反応ガスのクロスリークなどに繋がる場合が懸念される。また、電解質膜に対しさらに張力がかかりすぎてしまうと、場合によっては電解質膜の破断や損傷の要因ともなり得る。
【0012】
一方、電解質膜表面の所定箇所に触媒層や拡散層などの電極材料を順に接合させるには、搬送される電解質膜の搬送速度に応じて、所定のタイミングで精度よく積層させる必要がある。しかし、電解質膜の収縮/伸長により各接合体の間隔が不均一となり得る条件下においては、次に積層させる電極材料等を供給させるタイミングについても調整が必要となるため、一般に複雑なシステム構成とせざるを得ない。また、場合によっては製造スピードを低下させ、また環境中の温度や湿度を調整しながら搬送することにより、このような不具合の発生を抑制させることも想定されるが、かかる場合には、連続生産システムによる製造コスト低減効果があまり期待できない。
【0013】
本発明は、組み付け精度の高い燃料電池を連続して作製することが可能な燃料電池用材料接合体の製造装置および製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の構成は以下のとおりである。
【0015】
(1)連続して搬送される電解質膜の両面に電極材料を接合させる燃料電池用電極材料接合体の製造装置であって、前記電解質膜を所定の方向に搬送させる駆動機構と、前記電解質膜の搬送方向に対する張力を緩和する張力緩和機構と、搬送される前記電解質膜に対し異なる加工を施す、複数の加工箇所と、を備え、前記張力緩和機構が、前記加工箇所のそれぞれに対し独立して設けられている張力緩和手段を含む、製造装置。
【0016】
(2)上記(1)に記載の製造装置において、前記複数の加工箇所はそれぞれ、前記電解質膜を挿通させる加工ローラを有し、各加工箇所における加工時間の相違に基づいて各加工ローラの周径を設定する、製造装置。
【0017】
(3)上記(1)に記載の製造装置において、前記複数の加工箇所はそれぞれ、前記電解質膜を挿通させる加工ローラを複数有し、各加工箇所における加工時間の相違に基づいて前記各加工箇所における加工ローラの数を設定する、製造装置。
【0018】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の製造装置において、前記張力緩和手段が、それぞれ複数の張力緩和装置を含む、製造装置。
【0019】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の製造装置により作製された燃料電池用電極材料接合体。
【0020】
(6)電解質膜の両面に電極材料を接合させてなる燃料電池用電極材料接合体の製造方法であって、前記電解質膜を連続して搬送させる工程と、搬送される前記電解質膜に対し異なる加工を施す、複数の加工工程と、前記電解質膜の搬送方向に対する張力を緩和する張力緩和工程と、を含み、前記張力緩和工程が、少なくとも前記加工工程のそれぞれに対応して行われる、製造方法。
【0021】
(7)上記(6)に記載の製造方法により作製された燃料電池用電極材料接合体。
【0022】
(8)上記(5)または(7)に記載の燃料電池用電極材料接合体を含む、燃料電池。
【発明の効果】
【0023】
組み付け精度の高い燃料電池用電極材料接合体を効率よく作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態について、以下、図面に基づいて説明する。なお、各図面において同じ構成については、同じ符号を付し、その説明を省略する。また、図面全体としての寸法の比率は実際のものとは相違している。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態における燃料電池用電極材料接合体の製造装置について説明する概略図である。図1に示す燃料電池用電極材料接合体の製造装置100は、第1の加工装置110、第2の加工装置120、第3の加工装置130および張力緩和機構(第1の張力緩和装置62、第2の張力緩和装置72、第3の張力緩和装置82および第4の張力緩和装置92)をそれぞれ備え、巻出しローラ84から矢印66の方向に連続して搬送される電解質膜10の両面に各電極材料を順に接合させることにより、燃料電池用電極材料接合体を製造する装置である。
【0026】
図2〜4は、図1の燃料電池用電極材料接合体の製造装置100についてさらに詳細に説明するために、第1の加工装置110、第2の加工装置120および第3の加工装置130の前後についてそれぞれ拡大した概略図である。
【0027】
まず、図1に示す第1の加工装置110の近傍について拡大した図2を参照する。図2において、第1の加工装置110は、巻出しローラ84から連続して搬送される電解質膜10両面の所定の位置に電極触媒層材料12,14をそれぞれ接合させ、MEA30を作製する電極触媒層接合装置である。
【0028】
図2に示す電極触媒層接合装置(第1の加工装置)110は、カソード触媒層材料供給部54aと、アノード触媒層材料供給部54bと、第1の接合部58とを備える。カソード触媒層材料供給部54aは、カソード触媒層材料12を第1の接合部58に対し、例えばコンベア等の供給ベルトなどで供給可能に構成されている。一方、アノード触媒層材料供給部54bは、アノード触媒層材料14を第1の接合部58に対し、例えばコンベア状の搬送ベルトなどで供給可能に構成されている。
【0029】
第1の接合部58に供給されたカソード触媒層材料12およびアノード触媒層材料14は、第1の接合部58内の加工ローラ60,61にそれぞれ転写された後、電解質膜10の両面に所定のタイミングで供給され、接合される。このとき、加工ローラ60,61間の空隙は、電解質膜10の両面に積層されるカソード触媒層材料12およびアノード触媒層材料14に対し所定の圧力を印加可能となるように予め調整されている。加工ローラ60,61の矢印方向への回転により、電解質膜10と各触媒層材料12,14とが押圧挟持により接合され、MEA30が形成される。なお、他の実施の形態として、電解質膜10と各触媒層材料12,14との押圧挟持に際し、必要に応じて加工ローラ60,61を所定の温度に加熱して、MEA30の作製を熱圧着により促進させる構成とすることも好適である。
【0030】
図2において、各触媒層材料供給部54a,54bによりそれぞれ供給されるカソード触媒層材料12およびアノード触媒層材料14としては、白金などを含む金属または合金などを含有する触媒を、カーボンブラック等の炭素材料などの触媒担持体に担持させた各触媒層原料を、例えば、水やエタノールなどの分散媒に分散させて液状またはペースト状としたいわゆる触媒インクを適用することができる。具体的には、例えば、予め準備したシート状基材の表面に、上述の触媒インクを、例えば噴霧または塗布などにより所望する触媒層の形状に形成し、乾燥させたものを適用し、電解質膜10上に接合させる構成を採用することができるが、これに限定されるものではなく、例えば、他の実施の形態として、上述した触媒インクに相当する材料を、連続して搬送されている電解質膜10の表面に直接塗布または噴霧する構成とすることも可能である。また、カソード触媒層材料12およびアノード触媒層材料14は、その組成が同じであっても、異なるものであっても良い。
【0031】
一方、図2において、第1の加工装置110の上流側(巻出しローラ84側)には、移動する電解質膜10の情報を検知して取得する第1の情報取得部94が設けられている。触媒層材料供給制御部55は、第1の情報取得部94で得られた情報に基づき、各触媒層材料供給部54a,54bによる各触媒層材料12,14の供給のタイミングを制御することができる。
【0032】
第1の情報取得部94は、電解質膜10の特定部分に記録(印刷)された情報、例えば光電管マークや、それに相当する可視または不可視のインクなどにより記録(印刷)された情報を非接触にて検知し、電解質膜10に関する情報を取得する。他の実施の形態として、第1の情報取得部94は、電解質膜10の特定部分に備えられた識別子(例えば、光学的特性(例えば、色)を有するマークや、電解質膜10に記載された記号および/または数字(例えば、製造ナンバーなど)など)を識別して電解質膜10の移動情報を取得する構成とすることも可能である。
【0033】
一方、触媒層材料供給制御部55は、第1の情報取得部94で得られた情報に基づいて各触媒層材料供給部54a,54bによる各触媒層材料12,14の供給を制御し、電解質膜10の両面に、カソード触媒層材料12およびアノード触媒層材料14をそれぞれ所定のタイミングで供給させる。
【0034】
なお、第1の情報取得部94により取得される、搬送される電解質膜10に関する情報としては、例えば、電解質膜10の位置に関する情報であっても良く、また、電解質膜10の速度に関する情報であっても良い。触媒層材料供給制御部55は、第1の情報取得部94により取得された電解質膜10の位置および/または速度に関する情報のほか、後述する張力緩和機構に関する情報を組み合わせて、各触媒層材料の供給を制御する構成とすることもできる。
【0035】
ここで、第1の情報取得部94により取得される、電解質膜10の位置に関する情報とは、例えば、前もって電解質膜10に塗布された塗布端面の情報であって良く、この電解質膜10の特定部分の位置情報に基づいて、電解質膜10上に各触媒層材料12,14を供給するタイミングを制御する方式が含まれて良いが、これに限定されるものではない。具体的には、電解質膜10の搬送速度と電解質膜10に予め形成された加工位置の画像等位置センサによる検知に基づく構成とすることが可能であるが、これに限らない。
【0036】
一方、第1の情報取得部94により取得される、電解質膜10の速度に関する情報とは、例えば、ドップラー効果を利用した膜の速度情報、または電解質膜10の特定部分(記録部分)が、所定の間隔で備えられた少なくとも2つの情報取得部を通過する時刻の差(つまり、通過時間)をその間隔で割る事により得られる電解質膜10の搬送速度の情報であって良く、この速度情報に基づいて、電解質膜10上に各触媒層材料12,14を供給するタイミングを制御する方式が含まれて良いが、これに限定されない。
【0037】
なお、図2に示す加工ローラ60,61は、MEA30が形成された電解質膜10の、矢印66方向への搬送を補助する駆動ローラとしても機能し得る。すなわち、各触媒層材料12,14および/または電解質膜10を押圧挟持させた状態における、加工ローラ60,61の図2に示した方向への回転が、電解質膜10の搬送駆動力の少なくとも一部となり得るとともに、電解質膜10に対する張力の発生要因ともなり得る。そこで、本実施の形態では、電解質膜10に対する張力緩和のために、電解質膜10の搬送速度に応じて、加工ローラ60,61の周速を制御可能となる構成とするとともに、電解質膜10に対し、第1の接合部58に搬送される電解質膜10の搬送速度と、各触媒層材料12,14を電解質膜10上に供給する加工ローラ60,61の周速度との差を膜へのダメージを与えないレベル、より具体的には、電解質膜10の有する弾性域の範囲内に収まる程度に極力小さくし、各触媒層材料12,14の押圧挟持の際にはこの各触媒層材料12,14(MEA30)と、加工ローラ60,61との間に摩擦や滑りを生じさせないことが好適である。この場合、駆動ローラをスリップさせなければ、図1に示す搬送ローラ86は必要なくなる。
【0038】
次に、図1に示す第2の加工装置120の近傍について拡大した図3を参照する。図3において、第2の加工装置120は、連続して搬送される電解質膜10両面の所定の位置に電極触媒層材料12,14をそれぞれ接合させて形成されたMEA30の両面に電極拡散層材料16,18をそれぞれ接合させ、MEGA40を作製する電極拡散層接合装置である。
【0039】
図3に示す電極拡散層接合装置(第2の加工装置)120は、カソード拡散層材料供給部64aと、アノード拡散層材料供給部64bと、第2の接合部68とを備える。カソード拡散層材料供給部64aは、カソード拡散層材料16を、アノード拡散層材料供給部64bは、アノード拡散層材料18を、それぞれ、MEA30の両面に対し、例えばコンベア状の搬送ベルトなどで所定のタイミングで供給可能に構成されている。
【0040】
一方、第2の接合部68は、所定の空隙を有し、矢印方向に回転可能な加工ローラ70,71を備える。加工ローラ70,71間の空隙は、MEA30の両面に積層されるカソード拡散層材料16およびアノード拡散層材料18に対し所定の圧力を印加可能となるように予め調整されている。加工ローラ70,71の矢印方向への回転により、MEA30と各拡散層材料16,18とが押圧挟持により接合され、MEGA40が形成される。なお、MEA30と各拡散層材料16,18との押圧挟持に際し、必要に応じて加工ローラ70,71を所定の温度に加熱して、MEGA40を熱圧着により促進させることも好適である。
【0041】
図3において、各拡散層材料供給部64a,64bによりそれぞれ供給されるカソード拡散層材料16およびアノード拡散層材料18としては、一般にカーボンペーパーやカーボンクロス等、所定の幅および長さを有するシート状に形成されたカーボン繊維を基材とし、所望の通気性や電子伝導性を確保するとともに、触媒層や拡散層内での水分の滞留によるフラッディングを防止するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のバインダまたはその他の水和処理材料を用いて処理し、所望の疎水性または親水性を付与したものを使用しても良い。また、必要に応じてカーボン粒子等の導電性粒子を併用し、導電性を向上させることも好適である。
【0042】
また、図3において示したカソード拡散層材料16およびアノード拡散層材料18として、予めMEGA40の形状に応じた所定の形状(つまり、厚みを除き、カソード触媒層材料12およびアノード触媒層材料14とほぼ同様の形状。図7参照のこと)に加工したものを使用した実施の形態を示しているが、他の実施の形態において、各拡散層供給部64a,64bの一部にロータリーカッタなどの図示しない切断部材を設け、搬送される一連のカソード拡散層材料16およびアノード拡散層材料18を、所定の形状に切断しながら供給し、接合させることも好適である。
【0043】
一方、図3において、第2の加工装置120の上流側には、移動する電解質膜10および/またはMEA30の情報を検知して取得する第2の情報取得部96が設けられている。拡散層材料供給制御部65は、第2の情報取得部96で得られた情報に基づき、各拡散層材料供給部64a,64bによる各拡散層材料16,18の供給のタイミングを制御することができる。具体的には、電解質膜10の搬送速度と電解質膜10に予め形成された加工位置(例えば、前工程の転写・加工端面等)の画像等位置センサによる検知に基づく構成とすることが可能であるが、これに限らない。
【0044】
第2の情報取得部96は、電解質膜10の特定部分に記録(印刷)された情報、例えば光電管マークや、それに相当する可視または不可視のインクなどにより記録(印刷)された情報を非接触にて検知し、電解質膜10に関する情報を取得する。他の実施の形態として、第2の情報取得部96は、電解質膜10の特定部分に備えられた識別子(例えば、光学的特性(例えば、色)を有するマークや、電解質膜10に記載された記号および/または数字(例えば、製造ナンバーなど)など)を識別して電解質膜10の移動情報を取得する構成とすることも可能である。
【0045】
一方、拡散層材料供給制御部65は、第2の情報取得部96で得られた情報に基づいて各拡散層材料供給部64a,64bによる各拡散層材料16,18の供給を制御し、MEA30の両面に、カソード拡散層材料16およびアノード拡散層材料18をそれぞれ所定のタイミングで供給させる。
【0046】
なお、第2の情報取得部96により取得される、搬送される電解質膜10に関する情報としては、例えば、電解質膜10の特定部分の位置に関する情報であっても良く、また、電解質膜10の特定部分の速度に関する情報であっても良い。拡散層材料供給制御部65は、第2の情報取得部96により取得された電解質膜10の位置および/または速度に関する情報のほか、図2に示す第1の情報取得部94により検知される電解質膜10の特定部分の位置および/または速度に関する情報や、後述する張力緩和機構に関する情報を組み合わせて、各拡散層材料の供給を制御する構成とすることもできる。
【0047】
ここで、第2の情報取得部96により取得される、電解質膜10の特定部分の位置に関する情報とは、例えば、前もって電解質膜10に塗布された触媒等の端面の情報であって良く、この位置情報に基づいて、MEA30上に各拡散層材料16,18を供給するタイミングを制御するする方式が含まれて良いが、これに限定されるものではない。
【0048】
一方、第2の情報取得部96により取得される、電解質膜10の特定部分の速度に関する情報とは、例えば、電解質膜10が熱外力等による伸縮の影響を考慮する必要がなければ、その特定部分(記録部分)が、所定の間隔で備えられた少なくとも2つの情報取得部を通過する時刻の差(つまり、通過時間)をその間隔で割る事により得られる電解質膜10の搬送速度の情報であって良く、この速度情報に基づいて、MEA30上に各拡散層材料16,18を供給するタイミングを制御する方式が含まれて良いが、これに限定されない。
【0049】
また、第2の情報取得部96の他の実施の形態として、膜厚測定器を用いる構成とすることも好適である。例えば、電解質膜10上の所定の箇所に触媒層材料12,14が供給され、形成されたMEA30と電解質膜10が露出している部分との外寸(膜厚)の差を利用してMEA30が形成されている位置を把握する。膜厚測定器を含む第2の情報取得部96と各拡散層材料供給部64a,64bとの配置、さらには電解質膜10の搬送速度に基づいてMEA30上にカソード拡散層材料16およびアノード拡散層材料18がそれぞれ供給されるように同期をとる。本実施の形態によれば、何らかの不具合により電解質膜10の表面に所定の触媒層材料が供給されず、所望のMEA30が形成されていない箇所に各拡散層材料16,18を供給するという無駄を省くことができ、カソード拡散層材料16およびアノード拡散層材料18の歩留まり向上に寄与することが可能となる。
【0050】
なお、図3に示す加工ローラ70,71は、図2に示す加工ローラ60,61と同様に、電解質膜10の、矢印66方向への搬送を補助する駆動ローラとしても機能し得る。すなわち、各拡散層材料16,18および/または電解質膜10を押圧挟持させた状態における、加工ローラ70,71の図3に示した方向への回転が、電解質膜10の搬送駆動力の少なくとも一部となり得るとともに、電解質膜10に対する張力の発生要因ともなり得る。そこで、本実施の形態では、電解質膜10に対する張力緩和のために、電解質膜10の搬送速度に応じて、加工ローラ70,71の周速を制御可能となる構成とするとともに、電解質膜10に対し、第2の接合部68に搬送される電解質膜10の搬送速度と、MEA30上に供給した各拡散層材料16,18を押圧挟持により接合する加工ローラ70,71の周速度の差を、電解質膜10への引張ダメージを与えない程度の応力にするために極力小さくし、各拡散層材料16,18の押圧挟持の際にはこの各拡散層材料16,18(MEGA40)と加工ローラ70,71との間に摩擦や滑りを生じさせないことが好適である。
【0051】
別の実施の形態として、例えば加工ローラ70,71による加工時間が非常に短く、電解質膜10に対する駆動力が期待できないような場合(このとき、加工ローラと電解質膜との間には一般に、電解質膜の品質が容易に低下しないレベルのスリップが生じている)には、搬送(補助)ローラ86により積極的に電解質膜10の搬送を行なうことも好適である。
【0052】
次に、図1に示す第3の加工装置130の前後について拡大した図4を参照する。図4において、第3の加工装置130は、連続して搬送される電解質膜10両面の所定の位置に電極触媒層材料および電極拡散層材料をそれぞれ接合させたMEGA40両面に、シール部材材料52,56をそれぞれ接合させ、MEGA−シール部材接合体90を作製するシール部材接合装置である。
【0053】
図4に示すシール部材接合装置(第3の加工装置)130は、カソード側シール部材材料供給部74aと、アノード側シール部材材料供給部74bと、第3の接合部78とを備える。カソード側シール部材材料供給部74aは、カソード側シール部材材料52を第3の接合部78に対し、例えばコンベア状の搬送ベルトなどで所定のタイミングで供給可能に構成されている。一方、アノード側シール部材供給部74bは、アノード側シール部材材料56を第3の接合部78に対し、例えばコンベア状の搬送ベルトなどで所定のタイミングで供給可能に構成されている。
【0054】
第3の接合部78に供給されたカソード側シール部材材料52およびアノード側シール部材材料56は、第3の接合部78内の加工ローラ80,81にそれぞれ転写された後、MEGA40の両面に所定のタイミングで供給され、接合される。加工ローラ80,81間の空隙は、MEGA40の両面に積層されるカソード側シール部材材料52およびアノード側シール部材材料56に対し所定の圧力を印加可能となるように予め調整されている。加工ロール80,81の、矢印方向への回転により、順に搬送されるMEGA40と各シール部材材料52,56とが押圧挟持により接合され、MEGA−シール部材接合体90が形成される。なお、他の実施の形態として、MEGA40と各シール部材材料52,56との押圧挟持に際し、必要に応じて加工ローラ80,81を所定の温度に加熱して、MEGA−シール部材接合体90の作製を熱圧着により促進させる構成とすることも好適である。
【0055】
図4において、カソード側シール部材材料52およびアノード側シール部材材料56は、例えば燃料電池スタックにおいて、反応ガスや冷媒などの流体を流通させるマニホールドの外周部分に配設され、このマニホールドを流通する各流体の外部漏出および/または異種流体を含む異物のマニホールド内への混入を防止するガスケットやラインシールなどが含まれて良い。このような、カソード側シール部材材料52および/またはアノード側シール部材材料56として、例えば、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどの弾性部材を単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。なお、図4に示したカソード側シール部材材料52およびアノード側シール部材材料56の断面形状は、例示であって、図1および4に示した形状でなくて良く、作製する燃料電池の構成に応じて適宜設計することができる。
【0056】
一方、図4において、第3の加工装置130の上流側には、移動する電解質膜10および/またはMEGA40の情報を検知して取得する第3の情報取得部98が設けられている。シール部材材料供給制御部75は、第3の情報取得部98で得られた情報に基づき、各シール部材材料供給部74a,74bによる各シール部材材料52,56の供給のタイミングを制御することができる。具体的には、電解質膜10の搬送速度と電解質膜10に予め形成された加工位置(例えば、前工程の転写・加工端面等)の画像等位置センサによる検知に基づく構成とすることが可能であるが、これに限らない。
【0057】
第3の情報取得部98は、電解質膜10の特定部分に記録(印刷)された情報、例えば光電管マークや、それに相当する可視または不可視のインクなどにより記録(印刷)された情報を非接触にて検知し、電解質膜10に関する情報を取得する。他の実施の形態として、第3の情報取得部98は、電解質膜10の特定部分に備えられた識別子(例えば、光学的特性(例えば、色)を有するマークや、電解質膜10に記載された記号および/または数字(例えば、製造ナンバーなど)など)を識別して電解質膜10の移動情報を取得する構成とすることも可能である。
【0058】
一方、シール部材材料供給制御部75は、第3の情報取得部98で得られた情報に基づいて各シール部材材料供給部74a,74bによる各シール部材材料52,56の供給を制御し、MEGA40の両面に、カソード側シール部材材料52およびアノード側シール部材材料56をそれぞれ所定のタイミングで供給させる。
【0059】
なお、第3の情報取得部98により取得される、搬送される電解質膜10に関する情報としては、例えば、電解質膜10の特定部分の位置に関する情報であっても良く、また、電解質膜10の特定部分の速度に関する情報であっても良い。シール部材材料供給制御部75は、第3の情報取得部98により取得された電解質膜10の位置および/または速度に関する情報のほか、図2に示す第1の情報取得部94により検知される電解質膜10の特定部分の位置および/または速度に関する情報や、図3に示す第2の情報取得部96により検知される電解質膜10の特定部分の位置および/または速度に関する情報、さらに後述する張力緩和機構に関する情報を組み合わせて、各シール部材材料52,56の供給を制御する構成とすることもできる。
【0060】
ここで、第3の情報取得部98により取得される、電解質膜10の特定部分の位置に関する情報とは、例えば、前工程でのMEGA40が形成された積層端面または、同時加工されたマーク等に関する情報であって良く、この位置情報に基づいて、MEGA40上に各シール部材材料52,56を供給するタイミングを制御するする方式が含まれて良いが、これに限定されるものではない。
【0061】
一方、第3の情報取得部98により取得される、電解質膜10の特定部分の速度に関する情報とは、例えば、電解質膜10の特定部分(記録部分)が、所定の間隔で備えられた少なくとも2つの情報取得部を通過する時刻の差(つまり、通過時間)をその間隔で割る事により得られる電解質膜10の搬送速度の情報であって良く、この速度情報に基づいて、MEGA40上に各シール部材材料52,56を供給するタイミングを制御する方式が含まれて良いが、これに限定されない。
【0062】
また、第3の情報取得部98の他の実施の形態として、膜厚測定器を用いる構成とすることも好適である。例えば、MEA30上の所定の箇所に拡散層材料16,18が供給され、形成されたMEGA40と電解質膜10が露出している部分との外寸(膜厚)の差を利用してMEGA40が形成されている位置を把握し、膜厚測定器を含む第3の情報取得部98と各シール部材材料供給部74a,74bとの距離と電解質膜10の搬送速度とに基づいてMEGA40上にカソード側シール部材材料52およびアノード側シール部材材料56がそれぞれ供給されるように同期をとる。本実施の形態によれば、何らかの不具合により所望のMEA30および/またはMEGA40が形成されていない箇所に各シール部材材料52,56を供給するという無駄を省くことができ、歩留まり向上に寄与することが可能となる。
【0063】
第3の接合部78内で接合されたMEGA−シール部材接合体90はその後、さらに矢印66方向に搬送され、巻取りローラ88により巻き取られる。そして、図示しない別の装置においてMEGA−シール部材接合体90が単位ごとに切断され、さらに図4では図示しないセパレータ(図7参照のこと)などの部材を用いて単セル50が作製される。所定の数の単セル50を用いて積層化が行なわれ、燃料電池スタックが形成される。
【0064】
なお、図4に示す加工ローラ80,81は、図2に示す加工ローラ60,61と同様に、電解質膜10の、矢印66方向への搬送を補助する駆動ローラとしても機能し得る。すなわち、各シール部材材料52,56および/または電解質膜10を押圧挟持させた状態における、加工ローラ80,81の図4に示した方向への回転が、電解質膜10の搬送駆動力の少なくとも一部となり得るとともに、電解質膜10に対する張力の発生要因ともなり得る。そこで、本実施の形態では、電解質膜10に対する張力緩和のために、電解質膜10の搬送速度に応じて、加工ローラ80,81の周速を制御可能となる構成とするとともに、電解質膜10に対し、第3の接合部78に搬送される電解質膜10の搬送速度と、MEGA40上に供給した各シール部材材料52,56を押圧挟持により接合する加工ローラ80,81の回転速度の差を極力小さくし、各シール部材材料52,56の押圧挟持の際にはこの各シール部材材料52,56(膜電極拡散層−シール部材接合体90)と加工ローラ80,81との間に摩擦や滑りを生じさせないことが好適である。
【0065】
上述した実施の形態において、図2〜4に示す各接合部58,68,78は、一対の加工ローラ(60,61)、(70,71)、(80,81)をそれぞれ含み、構成されている。これらの各加工ローラにおける加工可能な時間はそれぞれ、電解質膜10の搬送速度と、ローラの周径および周速度と、に基づく、加工ローラによる加圧接触時間に依存するため、これらを調節することにより、所望の加工時間を確保することが可能となる。つまり、一定速度で搬送される電解質膜10に対し、各加工部位において所定の加工を行なうためには、各加工ローラにおける加工時間の相違に基づいて予め各加工ローラの周径(比)を設定することが好適である。本実施の形態によれば、電解質膜10の搬送速度を一定とした状態のままで各加工ローラ(接合部)における所定の加工を行なうことが可能となる。
【0066】
これに対し、例えば図5に示すような、複数のロールを含む、キャタピラ方式を適用した一連の加工部材など、複数の加工ローラによる加工処理を行なうことも好適である。図5に示す加工部材102は、複数のロール106がそれぞれ矢印の方向(反時計回り)に回転することにより、加工ベルト104が矢印109の方向に回転する。各加工部分においてこのような加工部材102を適用する場合には、予め各加工部分における加工時間の相違に基づいて加工ローラの数を適宜設定することにより、矢印66方向に搬送される基材108(電解質膜10、MEA30またはMEGA40)の搬送速度を一定にした状態においても、各加工部分において所望の加工条件を維持することが可能となるため、好適である。なお、図5に示す加工部材102においては、基材108の上方のみの構成の概略を示し、基材108の下方の構成については省略したが、例えば所定の周径を有する加工ローラを用いる構成としてもよいし、例えば基材108の上方に設けられた加工部材102と同様の構成を有する、複数のロールを含み構成された加工部材(加工ベルト)を採用することも好適である。
【0067】
本実施の形態において、例えば、矢印66方向に搬送される基材108の搬送速度の変化等に応じて、これと接触するロール106の数を変動させることにより加工ベルト104と基材108との接触長Lを変化させたり、ロール106および加工ベルト104による、基材108に対する押圧力(ロール106が加熱ロールの場合は、加熱時間を含む)を変動させたりすることにより、加工条件を適宜調整し、最適化させることが可能となる構成とすることも好適である。
【0068】
以上説明したように、例えば塗布・乾燥工程など、加工時間が長く、また途中で装置を停止させた場合には不良品発生の要因ともなりやすい工程は極力排除し、比較的短時間でかつ安定した加工を行なうことが可能となる加工ローラまたは加工ベルトを適用した接合体の形成を行なうことにより、製造装置の能力に応じた連続加工が可能となり、電極材料接合体の製造効率は高まる。
【0069】
さらに、電解質膜10の搬送速度に応じて、各接合部58,68,78に設けられた各加工ロールとの相対速度(周速)がほぼ0となるように制御することにより、製造時における電解質膜10に対する張力の発生はある程度抑えられるが、なお不十分な場合がある。
【0070】
図1に示す、本発明の実施の形態における電極材料接合体製造装置100は、複数の駆動ローラ(搬送ローラ)、加工ローラなどの各駆動機構を、それぞれ所定の速度(周速)で(回転)駆動させることにより、連続して搬送される電解質膜10に対し、一連の接合加工を行なう装置である。しかし、各回転駆動部分(加工ローラおよび/または駆動ローラ)において、モータ特性の相違や減速機等のバックラッシュなどが生じ、実際には、各所定の回転速度に対しわずかな遅れや進みが発生する場合がある。このような、不可避的に生じ得るわずかな回転周期(速度)のずれに起因して、電解質膜10を含む基材の搬送速度や加工時間が微妙に変化する場合がある。このため、電解質膜10に対し、局所的に過度な張力が加わり、電解質膜10の伸長や破断の要因となるばかりでなく、加工(接合)不良の要因ともなり得る。このような、機械的特性に由来する不可避的な不具合に対し、図1に示すような張力緩和機構(第1の張力緩和装置62、第2の張力緩和装置72、第3の張力緩和装置82および第4の張力緩和装置92)が有効である。
【0071】
図1および2に示す第1の張力緩和装置62は、巻出しローラ84と電極触媒層接合装置110との間において、電解質膜10に対する巻出しローラ84の駆動制御、加工ロール60,61の回転などに伴って生じる張力を緩和させ、連続して搬送される電解質膜10の伸長を抑制する装置である。図示しない張力感知部が電解質膜10に対して張力の上昇を感知すると、第1の張力緩和制御部63が張力緩和の指令を行ない、第1の張力緩和装置62において所定の張力緩和処理を行なう。
【0072】
このような第1の張力緩和装置62として、種々の公知の張力緩和手段を適用することができる。例えば、局所的な電解質膜長さの変動を吸収・調整するために、例えば、電解質膜10の搬送駆動を制御し、一時的に搬送速度を変動させることにより、張力を緩和させる機構(例えば、ダンサーローラなど)や、電解質膜10を所定の長さだけ滞留させておいて、その下流部における搬送の遅れに対し、速やかに供給を行なう一方、上流からの過剰な搬送に対しては一時的に滞留させる動作を繰り返し行なう搬送緩衝装置(アキュームレータなど)など、必要に応じて一つ以上設けることが好適である。
【0073】
また、第1の張力緩和装置62内の図示しない張力感知部として、巻出しローラ84からの搬送速度を感知して、パウダーブレーキによる巻出しローラの制御に反映させるロータリーエンコーダや、ローラ内に内蔵されたロードセルにより感知したテンションをダンサーローラ制御などに反映させるテンションピックアップなどを用いることが可能であるが、これに限定されない。また、他の実施の形態として、テンションピックアップにより得られた張力に関する情報に基づいて、このテンションピックアップ自身で張力を緩和させる構成とすることも可能である。
【0074】
また、他の実施の形態として、一般に巻出しローラ84に予め組み込まれ、巻出しローラ84の駆動制御に用いられるパウダーブレーキ制御やトルク制御などの制御方式を、第1の張力緩和装置62とともに、第1の張力緩和制御部63により制御する構成とすることも好適である。
【0075】
図1および3に示す第2の張力緩和装置72は、電極触媒層接合装置110と搬送ローラ86またはこれに近接する電極拡散層接合装置120との間において、加工ローラ60,61の回転による触媒層材料の接合、搬送ローラ86の搬送制御、加工および/または搬送ローラ70,71の回転による拡散層材料の接合、などに伴って電解質膜10に対して生じる張力を緩和させる装置である。図示しない張力感知部が電解質膜10に対する張力の上昇を感知すると、第2の張力緩和制御部73が張力緩和の指令を行ない、第2の張力緩和装置72において所定の張力緩和処理を行なう。
【0076】
このような第2の張力緩和装置72として、第1の張力緩和装置62と同様、種々の公知の張力緩和手段を適用することができる。第2の張力緩和装置72は、前述の第1の張力緩和装置62と同様のもの、または同様の組み合わせで用いてもよいし、また異なる組み合わせによるものであっても良い。電極触媒層接合装置110、搬送ローラ86および電極拡散層接合装置120の特性に応じて、適宜選択することが可能である。
【0077】
図1および4に示す第3の張力緩和装置82は、電極拡散層接合装置120とシール部材接合装置130との間において、加工ローラ70,71の回転による拡散層部材材料の接合、加工ローラ80,81の回転によるシール部材材料の接合、などに伴って電解質膜10に対して生じる張力を緩和させる装置である。図示しない張力感知部が電解質膜10に対する張力の上昇を感知すると、第3の張力緩和制御部83が張力緩和の指令を行ない、第3の張力緩和装置82において所定の張力緩和処理を行なう。
【0078】
このような第3の張力緩和装置82として、第1の張力緩和装置62、第2の張力緩和装置72と同様、種々の公知の張力緩和手段を適用することができる。第3の張力緩和装置82は、前述の第1の張力緩和装置62および/または第2の張力緩和装置72と同様のものまたは同様の組み合わせで用いてもよいし、また異なる組み合わせによるものであっても良い。電極拡散層接合装置120およびシール部材接合装置130の特性に応じて、適宜選択することが可能である。
【0079】
図1および4に示す第4の張力緩和装置92は、シール部材接合装置130と巻取りローラ88との間において、加工ロール80,81の回転によるシール部材材料の接合、巻取りローラ88の回転による膜電極拡散層−シール部材接合体90の巻き取り、などに伴って電解質膜10に対して生じる張力を緩和させる装置である。図示しない張力感知部が電解質膜10に対する張力の上昇を感知すると、第4の張力緩和制御部93が張力緩和の指令を行ない、第4の張力緩和装置92において所定の張力緩和処理を行なう。
【0080】
このような第4の張力緩和装置92として、第1の張力緩和装置62、第2の張力緩和装置72、第3の張力緩和装置82と同様、種々の公知の張力緩和手段を適用することができる。第4の張力緩和装置92は、前述の第1の張力緩和装置62、第2の張力緩和装置72および/または第3の張力緩和装置82と同様のもの、または同様の組み合わせで用いてもよいし、また異なる組み合わせによるものであっても良い。シール部材接合装置130および巻取りローラ88の特性に応じて、適宜選択することが可能である。
【0081】
また、他の実施の形態として、第4の張力緩和装置92において、一般に巻取りローラ88と対をなすものとして予め組み込まれ、巻取りローラ88の駆動制御に用いられる図示しないテーパーテンション制御機構などを、第4の張力緩和装置92とともに、第4の張力緩和制御部93により制御する構成とすることも好適である。
【0082】
図1に示すように、第1の張力緩和装置62、第2の張力緩和装置72、第3の張力緩和装置82および第4の張力緩和装置92からなる張力緩和機構は、それぞれ独立して設けられることが好ましい。各加工箇所間にそれぞれ独立して設けられることにより、電解質膜10の局所的な張力の発生に対しても、速やかな張力緩和制御が実現可能となる。
【0083】
なお、図1に示す電極材料接合体製造装置100においては、上述したような、特に電解質膜10が所望の搬送速度において安定した速度で運転している場合に限らず、従来の電極材料接合体製造装置では一般に制御が困難であった、搬送開始(運転開始)直後や搬送終了(運転停止)直前など、搬送速度変化が大きな状態においても、所望の加工品質を確保することが可能である。
【0084】
上述のように、電極材料接合体製造装置100において、各加工箇所における加工時間は、電解質膜10の搬送速度に依存する。前述のように、電解質膜10に対する張力の発生を回避するためには、電解質膜10の搬送速度と、加工ローラの周速との間の差を極力無くすことが好適である。このため、例えば、搬送開始直後など、電解質膜10の搬送速度が次第に加速されている状態では、後工程に進むにつれて加工時間が定速搬送の場合と比較して短くなる。一方、搬送終了直前など、電解質膜10の搬送速度が次第に減速されている状態では、後工程に進むにつれて加工時間が定速搬送の場合と比較して長くなる。
【0085】
このような、電解質膜10の搬送速度の変化にかかわらず良好な加工性能を維持するためには、各加工箇所において、ある所定の加工時間における好適な加工(接合)条件を予め規定しておくことが好適である。そして、電解質膜10の搬送速度の変化に応じて好適な加工条件(例えば、加工圧力および/または加工温度など)に制御することにより、搬送速度が不安定な条件下においても高品質の接合体を作製することが可能となる。
【0086】
これに対し、電解質膜10の搬送速度が一定の場合には、前述のように、駆動ローラ、加工ローラの周速をすべてほぼ一定とすることにより、各加工箇所において良好な加工を行なうことが可能である。なお、搬送される電解質膜10と、各ローラ間に滑りが生じた場合には、電解質膜10の搬送速度を低下させる(例えば、ダンサーローラを利用することができる)か、所定箇所における電解質膜−ローラ間の面圧を、電解質膜10に対する張力が上昇しない程度に上昇させることにより、解消することが可能である。
【0087】
なお、本発明の他の実施の形態として、加工ローラなどの駆動系ローラを増減させることも可能である。図1において、例えば、電解質膜10の両面に予め触媒材料が塗布されたものを電極材料として用いる場合には、第1の加工装置110は不要であり、これに伴って張力緩和装置72(または張力緩和装置62)を省くことも可能となる。同様に、加工ローラなどの駆動系ローラを増加させる場合には、これに対応する張力緩和装置を設けることにより、良好な加工制御が可能となる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げ、より具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
図6は、本発明の実施の形態における燃料電池用電極材料接合体の製造装置の構成の概略を示す斜視図である。なお、電解質膜10の所定の位置に触媒層や拡散層などの各被接合材料の位置決めを好適に行なうことが可能になる材料供給制御部や情報取得部(図2〜4参照)の構成については、省略した。
【0090】
図6において、ロール状に巻き取られている電解質膜10が、巻出しローラ84から所定の搬送速度で巻き出される。第1の加工装置110の直前に設けられた搬送ローラ86aにより、電解質膜10の搬送速度が調整された後、第1の加工装置110において、電極触媒層材料が供給され、接合される。
【0091】
第1の加工装置110には、カソード触媒層材料供給部54a、アノード触媒層材料供給部54bおよび加熱加圧ローラ(加工ローラ)60,61がそれぞれ設けられている。本実施の形態において、カソード触媒層材料供給部54aには、ロール状に巻き取られたカソード触媒層材料ロールが、アノード触媒層材料供給部54bには、アノード触媒層材料ロールが、それぞれセットされる。カソード触媒層材料供給部54a、アノード触媒層材料供給部54bは、巻出しローラ84からの電解質膜10の搬送に応じて、カソード触媒層材料12,アノード触媒層材料14を、電解質膜10の両面に対し所定の間隔でそれぞれ供給する。搬送される電解質膜10の両面に供給されたカソード触媒層材料12およびアノード触媒層材料14は、所定の温度、所定の挟持圧力に設定された加熱加圧ローラ60,61の回転により、所定の時間にわたり熱圧着され接合され、MEA30が所定の間隔で形成される。
【0092】
一方、巻出しローラ84と第1の加工装置110(搬送ローラ86a)との間には、第1のアキュームレータ62aと、第1のテンションピックアップ62bと、第1のダンサーロール62cとを含む張力緩和装置62が設けられている。張力緩和装置62は、電解質膜10に対し、巻出しローラ84−搬送ローラ86a間において生じる張力を緩和するとともに、場合によっては巻出しローラ84と搬送ローラ86aとの間に生じ得る、搬送速度のわずかな差をも緩和することができる。
【0093】
第1の加工装置110においてMEA30が形成された電解質膜10(MEA30)は、第2の加工装置120の直前に設けられた搬送ローラ86bにより、搬送速度が調整された後、第2の加工装置120において、電極拡散層材料が供給され、接合される。第2の加工装置120には、カソード拡散層材料供給部64a、アノード拡散層材料供給部64b、加熱加圧ローラ(加工ローラ)70,71がそれぞれ設けられている。電極触媒層材料12,14が、MEA30の両側に、所定の搬送間隔でそれぞれ供給され、加熱加圧ローラ70,71により接合される。
【0094】
一方、第1の加工装置110(加工ローラ60,61)と第2の加工装置120(搬送ローラ86b)との間には、第1のテンションピックアップ72bと、第2のダンサーロール72cとを含む張力緩和装置72が設けられている。張力緩和装置72は、電解質膜10に対し、加工ローラ60,61−搬送ローラ86b間において生じる張力を緩和するとともに、場合によっては搬送ローラ86aと搬送ローラ86bとの間に生じ得る、搬送速度のわずかな差をも緩和することができる。
【0095】
第2の加工装置120においてMEGA40が形成された後、第3の加工装置130において、シール部材材料が供給され、接合される。第3の加工装置130には、カソード側シール部材材料供給部74a、アノード側シール部材材料供給部74b、加熱加圧ローラ(加工ローラ)80,81がそれぞれ設けられている。MEGA40の両側に、電極触媒層材料12,14が所定の搬送間隔でそれぞれ供給され、加熱加圧ローラ80,81により接合される。
【0096】
一方、第2の加工装置120(加工ローラ70,71)と第3の加工装置130(加工ローラ80,81)との間には、第2のアキュームレータ82aと、第3のテンションピックアップ82bと、第3のダンサーロール82cとを含む張力緩和装置82が設けられている。張力緩和装置82は、電解質膜10に対し、加工ローラ70,71−加工ローラ80,81間において生じる張力を緩和するとともに、場合によっては搬送ローラ86bと加工ローラ80,81との間に生じ得る、搬送速度のわずかな差をも緩和することができる。
【0097】
第3の加工装置130においてMEGA−シール部材接合体90が形成された電解質膜10はその後、巻取りローラ88により、巻き取られる。巻取りローラ88による電解質膜10(MEGA−シール部材接合体90)の巻き取りに応じて、巻取りローラ88によるトルクを制御し、電解質膜10にかかる張力を緩和する構成とすることが好ましい。このとき、巻取りローラ88によるトルク制御とともに、第3の加工装置130(加工ローラ80,81)と巻取りローラ88との間に設けられた、第3のアキュームレータ92aと、第4のテンションピックアップ92bと、第4のダンサーロール92cとを含む張力緩和装置92により、電解質膜10に対し、加工ローラ80,81−巻取りローラ88間において生じる張力を緩和することができる。
【0098】
本発明の実施の形態として、電解質膜10としては、従来燃料電池用として用いられているものであればいかなるものを用いても良い。例えば、パーフルオロ硫酸系電解質膜であるナフィオン(登録商標)112、115(デュポン社製)などが好適であるが、これに限定されない。また、電解質膜10の厚みは、水素イオンの移動を速やかに行なうことが可能であって、かつ一連の搬送および接合により損傷が発生しない程度の強度を有するものであれば特に制限はないが、例えば、10〜100μm程度のものが好適である。
【0099】
なお、図6に示す電極材料接合体製造装置において、電解質膜10の搬送は複数の駆動系ローラ(巻出しローラ84、搬送ローラ86a,86b、加工ローラ60,61、70,71、80,81、巻取りローラ88)により行なわれている。このため、何らかの理由により搬送する電解質膜10に不具合が生じた場合であっても、それよりも下流の、良品が成形されている箇所においては、最終製品まで好適に製造を行なうことが可能となり、接合体材料、特に電解質膜10の歩留まり向上に寄与するため、好適である。
【0100】
一方、図6に示す電極材料接合体製造装置に好適に用いられる張力緩和装置のうち、特にアキュームレータなどの搬送緩衝装置においては、特に電極材料接合体製造装置のスタート開始(電解質膜10の搬送開始)直後など、電解質膜10の搬送速度の変化が大きいことにより、電解質膜10に対し比較的大きな張力を受けやすく、また数十秒から場合によっては数分程度の、比較的長期間の張力緩和を連続して行なう場合において好適に用いられる。つまり、微細な張力緩和には不向きであるが比較的大幅な張力の緩和を行なう必要がある場合に特に有利である。このため、例えばアキュームレータ62aのように、巻出しローラ84の下流側、また、例えばアキュームレータ92aのように、巻取りローラ88の上流側に好適に用いられる。さらに、張力緩和装置としてアキュームレータを用いることにより、例えばロール交換の際に装置の停止をする必要がなく、またロール交換をする場合であってもある程度加工を続けておくことが可能であるため、生産効率の向上や歩留まり向上にも寄与し得る。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、燃料電池用電極接合体およびこれを使用する燃料電池の作製に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施の形態における電極材料接合体製造装置の構成の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における電極材料接合体製造装置の構成の概略を示す拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態における電極材料接合体製造装置の構成の概略を示す拡大図である。
【図4】本発明の実施の形態における電極材料接合体製造装置の構成の概略を示す拡大図である。
【図5】本発明の他の実施の形態における加工部材の構成の概略を説明する図である。
【図6】本発明の実施の形態における電極材料接合体製造装置の構成の概略を示す斜視図である。
【図7】単セルの構成の概略を例示する図である。
【符号の説明】
【0103】
10 電解質膜、12 カソード触媒層(材料)、14 アノード触媒層(材料)、16 カソード拡散層(材料)、18 アノード拡散層(材料)、20 酸化ガス流路、22 セル冷媒流路、24 燃料ガス流路、26 カソード側セパレータ、28 アノード側セパレータ、30 膜電極接合体(MEA)、40 膜電極拡散層接合体(MEGA)、50 単セル、52 カソード側シール部材材料、54a,54b 触媒層材料供給部、56 アノード側シール部材材料、55 触媒層材料供給制御部、58,68,78 接合部、60,61,70,71,80,81 加工ローラ、62,72,82,92 張力緩和装置(機構)、63,73,83,93 張力緩和制御部、64a,64b 拡散層材料供給部、65 拡散層材料供給制御部、66 搬送方向、74a,74b シール部材材料供給部、75 シール部材材料供給制御部、84 巻出しローラ、86,86a,86b 搬送ローラ、88 巻取りローラ、90 膜電極拡散層−シール部材接合体、94,96,98 情報取得部、100 電極材料接合体製造装置、102 加工部材、104 加工ベルト、106 ロール、108 基材、110 電極触媒層接合装置(第1の加工装置)、120 電極拡散層接合装置(第2の加工装置)、130 シール部材接合装置(第3の加工装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して搬送される電解質膜の両面に電極材料を接合させる燃料電池用電極材料接合体の製造装置であって、
前記電解質膜を所定の方向に搬送させる駆動機構と、
前記電解質膜の搬送方向に対する張力を緩和する張力緩和機構と、
搬送される前記電解質膜に対し異なる加工を施す、複数の加工箇所と、
を備え、
前記張力緩和機構が、前記加工箇所のそれぞれに対し独立して設けられている張力緩和手段を含むことを特徴とする製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の製造装置において、
前記複数の加工箇所はそれぞれ、前記電解質膜を挿通させる加工ローラを有し、
各加工箇所における加工時間の相違に基づいて各加工ローラの周径を設定することを特徴とする製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の製造装置において、
前記複数の加工箇所はそれぞれ、前記電解質膜を挿通させる加工ローラを複数有し、
各加工箇所における加工時間の相違に基づいて前記各加工箇所における加工ローラの数を設定することを特徴とする製造装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造装置において、
前記張力緩和手段が、それぞれ複数の張力緩和装置を含むことを特徴とする製造装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造装置により作製された燃料電池用電極材料接合体。
【請求項6】
電解質膜の両面に電極材料を接合させてなる燃料電池用電極材料接合体の製造方法であって、
前記電解質膜を連続して搬送させる工程と、
搬送される前記電解質膜に対し異なる加工を施す、複数の加工工程と、
前記電解質膜の搬送方向に対する張力を緩和する張力緩和工程と、
を含み、
前記張力緩和工程が、少なくとも前記加工工程のそれぞれに対応して行われることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により作製された燃料電池用電極材料接合体。
【請求項8】
請求項5または7に記載の燃料電池用電極材料接合体を含む、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−26772(P2009−26772A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269514(P2008−269514)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【分割の表示】特願2007−156053(P2007−156053)の分割
【原出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】