説明

燃料電池用電極触媒の製造方法

【課題】金属質量当りのメタノール酸化活性が高く、電位サイクル後において活性表面積及びメタノール酸化活性の低下が小さい燃料電池用電極触媒を提供する。
【解決手段】導電性カーボン担体に粒子間隔を制御した平均粒径0.1〜1.5nmの金属微粒子を生成する第一担持工程と、該金属微粒子を核に他の金属を成長させる第二担持工程とを含む燃料電池用電極触媒の製造方法において、該導電性カーボン担体は第一担持工程前に酸で処理する電極触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特にダイレクトメタノール型燃料電池用の電極触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話では、電池の高容量化が望まれているが、二次電池の高容量化は困難である。そのためメタノール燃料を用いたダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)が注目されている。
【0003】
DMFCは液体燃料を水素等に改質することなくそのまま利用できるため、コンパクト化が可能等の長所があり、現在実用化に向けて鋭意研究されている。しかし、電解質膜のメタノール透過性が大きいこと、及びアノード触媒のメタノール酸化活性が小さいことが実用化に向けて課題となっている。更に長時間安定に使用することを考慮した場合には、耐久性も必要とされる。
【0004】
アノード触媒には主にPtRu系触媒が使用されているが、メタノール酸化活性が低いことから、使用されるPtRu触媒の量は多く、一般に3〜10mg/cm2程度用いられている。PtRu触媒の量が多くなると、触媒の層の厚さがかなり厚くなり、燃料であるメタノールの拡散性をよくするため、一般にはジョンソン・マッセイ製HiSPEC6000等のPtRu black触媒が用いられている。しかし、PtRu black触媒は、粒子サイズが5nm以上あるため、触媒質量あたりのメタノール酸化活性は小さく、触媒反応に寄与しないPtRuの割合が高い。そのため、小さいPtRu粒子を分散性よく導電性カーボン担体に担持した触媒を用いることが好ましい。更に、触媒の層厚をできるだけ薄くするために、カーボン上に担持するPtRu粒子の量をできるだけ多くすることが望まれる。
【0005】
上記目的を達成するため本発明者らは鋭意検討を行った結果、例えば高担持・高分散のPtRu担持触媒を得る手段として、担体カーボン上にPt等の金属核を形成後、該金属核上にPtRuを成長させる方法(以下、2段担持法とよぶ)により、平均粒径4nm以下のPtRu粒子をカーボン上に50質量%以上の担持率でも分散性よく担持した触媒を得ることができることを見出した(特許文献1:特開2007−134295号公報)。
【0006】
耐久性に関しては、例えばPiotr Piela et al., Journal of Electrochemical Society 151(12), A2053−A2059, 2004(非特許文献1)に示されるように、DMFC運転中PtRu触媒のRuが溶出しカソード側にRuがクロスオーバーして、カソード側のPt触媒を被毒し、酸素還元特性が劣化する問題がある。電位変動によりRuの溶出が生じるが、その原因としてPtRuの合金化度、結晶性、Ru酸化物種の存在が安定性に影響を及ぼすことがいわれているが、はっきりとしたことはわかっていない(例えば、稲葉他、燃料電池 6,17−21,2007(非特許文献2))。電位変動に対する安定性評価は、「NEDOシンポジウム固体高分子形燃料電池の高耐久化への展望」,30−36,2007(非特許文献3)記載のアノード触媒に対する電位サイクル試験方法に示されるが、上記2段担持法によって作製した触媒の耐久性を評価したところ、電位サイクルによって活性表面積、メタノール酸化活性共に低下し、電位変動に対する安定性に欠けるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−134295号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Piotr Piela et al., Journal of Electrochemical Society 151(12), A2053−A2059, 2004
【非特許文献2】稲葉他、燃料電池 6,17−21,2007
【非特許文献3】「NEDOシンポジウム固体高分子形燃料電池の高耐久化への展望」,30−36,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、金属質量当りのメタノール酸化活性(質量活性)が高く、電位変動に対し安定であり、特にDMFC用として有効な燃料電池用電極触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため更に鋭意検討を行った結果、活性表面積が高くメタノール酸化活性の高いPtRu担持触媒を得る手段として、担体カーボン上にPt等の金属核を形成後、該金属核上にPtRuを成長させる方法(2段担持法)において、酸で処理した担体カーボンを用いることによって、酸処理のないカーボンを用いた場合に比べ、電位サイクル後の活性表面積及びメタノール酸化活性の変動が小さくなることを見出した。また酸処理した担体カーボンを用いることで、電位サイクル前のメタノール酸化活性も高くなることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
従って、本発明は、下記の燃料電池用電極触媒の製造方法を提供する。
[1]導電性カーボン担体に粒子間隔を制御した平均粒径0.1〜1.5nmの金属微粒子を生成する第一担持工程と、該金属微粒子を核に他の金属を成長させる第二担持工程とを含む燃料電池用電極触媒の製造方法において、該導電性カーボン担体は第一担持工程前に酸で処理することを特徴とする燃料電池用電極触媒の製造方法。
[2]導電性カーボン担体上に担持させる金属微粒子がPt微粒子であり、このPt微粒子を核として成長させる他の金属がPtRuである[1]記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
[3]第二担持工程終了後のカーボン担体に対する金属担持率が50質量%以上であることを特徴とする[1]又は[2]記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
[4]導電性カーボン担体の酸による処理が90質量%以下の希硫酸によってなされることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
[5]導電性カーボン担体の比表面積が200m2/g以上であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属質量当りのメタノール酸化活性が高く、電位サイクル後において活性表面積及びメタノール酸化活性の低下が小さい燃料電池用電極触媒を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、
i.導電性カーボン担体を酸処理する工程、
ii.導電性カーボン担体に粒子間隔を制御した平均粒径0.1〜1.5nmの金属微粒子を生成する第一担持工程、
iii.該金属微粒子を核に他の金属微粒子を成長させる第二担持工程
を備えたものである。
【0014】
ここで、第一担持工程で用いられる導電性カーボン担体としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャネルブラック、活性炭、HOPG等が使用できる。これらの導電性カーボン担体上にできるだけ微小な金属微粒子を担持することから、その比表面積(BET法)としてはできるだけ大きいことが望まれ、具体的には200〜5000m2/g、より好ましくは500〜3000m2/gであることが好ましい。また、導電性カーボン担体の平均粒径は10〜200nm、特に10〜50nmが好ましい。平均粒径が10nmより小さいと、カーボンを均一に分散させて平均粒径1.5nm以下の金属微粒子を担持することが困難な場合が生じ、平均粒径が200nmより大きいと、単位体積当りの金属量が減少するため、燃料電池作製時、所定の触媒量を載せるためには、触媒層が厚くなり、燃料が供給されにくくなるおそれがある。なお、この平均粒径は動的光散乱法の測定法による値である。
【0015】
カーボン担体の酸処理には、硫酸、亜硫酸、硝酸、塩酸、過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、リン酸等の無機酸を使用することが可能であるが、硫酸を用いることが電位サイクル安定性の効果の点において好ましい。特に硫酸の濃度が90質量%以下の希硫酸であることが望ましい。90質量%より大きい濃硫酸であると、担体自身が損傷し電位サイクル時に炭素の酸化により劣化するおそれがある。より好ましくは80質量%以下、特に70質量%以下である。また、濃度の下限としては1質量%以上、特に5質量%以上である。なお、他の酸を用いる場合も、同様の濃度とすることができる。
【0016】
酸処理の方法としては、希硫酸等の酸水溶液の中にカーボン担体を分散させ、これを10〜100℃、好ましくは20〜60℃の温度で10分〜8時間、好ましくは1〜6時間攪拌すればよい。攪拌後、カーボン担体をろ過により分離し、水で好ましくはろ液のpHが中性になるまで洗浄し、60〜300℃、好ましくは100〜200℃で乾燥することによって、酸処理したカーボン担体を得ることができる。
【0017】
次に、第一担持工程において、上記酸処理したカーボン担体上に金属微粒子を担持させる。担持させる金属としては、Pt、Au,Ag,Ir,Os,Pd,Rh,Ru,Cu,Ni,Co,Fe,Mn,Cr,V,Ti,Mo,W,Ta,Bi,Sn等が挙げられるが、容易に還元でき、微小な粒子の形成が容易である点からPtが好ましい。この場合、これら金属を上記カーボン担体上に粒子間隔を制御した平均粒径0.1〜1.5nmの微粒子として生成、担持させる。ここで、「粒子間隔を制御する」とは、微粒子を凝集することなくカーボン表面上に(均一に)分散させるということを意味し、またこのように粒子間隔を制御する方法としては、低い担持率でカーボン存在下で金属原料を還元する、又は金属原料をカーボンに含浸させて気相中で還元する際、金属原料の担持率を低くする、又は金属コロイドの担持率を低くしてカーボン上に担持する等の方法が採用し得る。
【0018】
また、上述したように、第一担持工程における金属微粒子による核形成は、粒径1.5nm以下とする。1.5nmより大きくなると、最終的に得られる触媒粒子の粒径が大きくかつ凝集し易くなり、高分散な触媒は得られない。1.5nm以下に形成すると、担体との結合が強く、カーボン上均一に分散し易い。
【0019】
この第一担持工程における金属微粒子の生成、担持方法としては、特に白金微粒子を生成、担持させる場合は、カーボン担体を0.01〜2質量%、特に0.1〜1質量%の割合で水に分散させた水分散液に、塩化白金酸塩、塩化白金(II)、塩化白金(IV)、ジニトロジアミン白金(II)、ビスアセチルアセトナト白金、ジクロロテトラミン白金、テトラミン硫酸白金、塩化白金(II)アンモニウム、塩化白金(IV)アンモニウム、ジクロロジアミン白金等の白金化合物とエチレングリコール、エタノール、メタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、ブタノール等の還元剤を添加する。この場合、白金化合物量は、白金金属としてカーボン担体に対して0.1〜30質量%、特に1〜15質量%であることが好ましい。白金化合物量が少なすぎると、カーボン表面上の成長核が少なくなり、白金化合物量が多すぎると、粗大粒子が発生し、高担持率で分散性のよい触媒が得られないおそれが生じる。また、エチレングリコール等の還元剤の使用量は、1〜80質量%、特に5〜50質量%が好ましい。また、上記水分散液のpHは4〜12、特に5〜10であることが好ましく、このためpH調整剤として水酸化ナトリウム、アンモニア水、テトラヒドロキシメチルアンモニウム等を使用し、上記pH範囲内に調整することが好ましい。
【0020】
次いで、このようにして得られた混合液を50〜120℃、特に70〜100℃で1〜10時間、特に3〜6時間撹拌処理した後、濾過、洗浄後、40〜50℃、特に60〜120℃で3〜24時間、特に8〜16時間乾燥することが好ましい。また、上記金属粒子の導電性カーボン担体に対する担持率は1〜30質量%、特に5〜15質量%であることが好ましい。担持率が小さすぎると、カーボン表面上の成長核が小さくなり、担持率が大きすぎると、粒子サイズが大きくなり、高担持率で分散性のよい触媒が得られない。なお、ここで担持率は、下記の式から求めた値である。
担持率(質量%)=[A/(A+C)]×100
A:金属微粒子質量
C:カーボン担体質量
【0021】
次に、上記のようにして金属微粒子をカーボン担体に担持させた後、この金属微粒子を核として他の金属(触媒金属)を成長させる。この場合、触媒金属としては、PtRu(白金・ルテニウム)、PtSn,PtMo,PtW,PtRh,PtPd,PtRuSn,PtRuRh,PtRuPd,PtRuIr,PtRuMo,PtRuW等が挙げられるが、メタノール酸化活性の高さの点でPtRuが好ましい。
【0022】
ここで、本発明の燃料電池用電極触媒は、特にアノード触媒(メタノール酸化触媒)として有効に用いられるが、このアノード触媒(メタノール酸化触媒)は、メタノール酸化反応により電流を取り出すもので、従来から主にPtRuが用いられ、PtRu粒子表面で反応が起こる。そのため、PtRu粒径が小さいほうが、PtRu質量当りの表面積が大きくなり、活性が高くなる。カーボンに担持した触媒では、カーボンの体積が大きいため、触媒層形成時の厚さは使用するカーボン量に依存する。燃料・反応生成物の拡散をし易くするには、触媒層の厚さが薄いことが好ましい。そのためカーボン粒子にできるだけ多くのPtRuを担持(高担持)することが望ましい。その際、PtRu粒子が凝集して担持していると、凝集体内部が反応に利用できないため、PtRu粒子が凝集せず、高分散に担持することが望ましい。
【0023】
本発明によれば、カーボン上に平均粒径0.1〜1.5nm程度の金属粒子(例えばPt)を形成し、その後Pt核上にPtRu等の触媒金属を担持又は成長させることで、担持率が高く、高分散な触媒を得ることができる。
【0024】
このように、1段目で生成したPt等の金属微粒子核上に、PtRu等の触媒金属を担持又は成長させることで高担持で高分散の触媒を得ることが可能であるが、最終的に形成されるPtRu等の触媒金属の平均粒径は4nm以下、好ましくは3nm以下、より好ましくは2nm以下である。なお、下限は限定されないが、通常1.0nm以上である。4nmより大きいと、活性表面積が小さくなり、メタノール酸化活性向上の効果が見られない場合が生じる。
【0025】
担持率は50質量%以上、好ましくは60質量%以上が望ましい。担持率が50質量%より小さいと、微小なPtRu粒子の分散は容易であるが、MEA作製時の触媒層が担持率の高い触媒を用いたときより厚くなる。そのためメタノール燃料の供給が律速となり、担持率の高い触媒を使用したときに比べて出力は小さくなる場合が生じる。なお、担持率は高い程よく、このため上限は特に限定されないが、通常は100質量%以下、特に90質量%以下である。
【0026】
なお、ここでの担持率は、下記式から求められる。
担持率(質量%)=[B/(A+B+C)]×100
A:金属微粒子質量
B:触媒金属(例えばPtRu)質量
C:カーボン担体質量
【0027】
ここで、上記金属微粒子核に金属触媒を成長させる方法としては、例えばPtRuを成長させる場合であれば、ジニトロジアミン白金(II)、塩化白金酸、塩化白金(II)、塩化白金(IV)、ビスアセチルアセトナト白金、ジクロロテトラミン白金、テトラミン硫酸白金、塩化白金(II)アンモニウム、塩化白金(IV)アンモニウム、ジクロロジアミン白金等の白金化合物、塩化ルテニウム、硝酸ニトロシルルテニウム、硝酸ルテニウム、塩化ルテニウムカリウム、塩化ルテニウムナトリウム、トリス−アセチルアセトナトルテニウム、トリルテニウムドデカカルボニル、ニトロソ塩化ルテニウムカリウム等のルテニウム化合物をエタノール、メタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、ブタノール、エチレングリコール等の溶剤に溶解した溶液中に上記金属微粒子核を担持したカーボン担体を投入し、50〜120℃、特に70〜100℃、とりわけ上記溶剤の還流温度で、1〜10時間、特に3〜6時間反応を行い、上記金属微粒子核上にPtRu微粒子を生成、成長させる方法が採用される。
【0028】
この場合、上記白金化合物及びルテニウム化合物の使用量は、白金金属:ルテニウム金属としてそのモル比が2:8〜9:1、特に5:5〜8:2であることが好ましい。白金化合物量が少なすぎると、メタノールのC−H解離反応が進まないため、メタノール酸化電流値が小さくなり、多すぎると、メタノールの反応中間生成物であるCOの酸化反応が起こり難く、低電位(0.4V(vs RHE)以下の電位)におけるメタノール酸化活性は小さくなる。ルテニウム化合物量が少なすぎると、白金が多い場合と同様、低電位におけるメタノール酸化活性が低く、多すぎると、白金が少ない場合と同様、メタノール酸化電流値が小さくなる。
【0029】
また、上記金属微粒子核を担持したカーボン担体の量は、溶液中に0.01〜2質量%、特に0.1〜1質量%で分散させて用いることが好ましい。その量が少なすぎると、得られる触媒の量が少なくなり、多すぎると、カーボンの分散性が悪くなり、金属粒子の凝集や粗大粒子の生成等が生じる。
【0030】
なお、PtRu等の触媒金属の平均粒径を4nm以下にする方法としては、4nm以下のコロイドを作製し、それをカーボン担持する方法もあるが、50質量%以上の担持率ではコロイド粒子の凝集が生じ易く、均一に分散させることが困難である。金属核を低い担持率でカーボン上に設けると、金属核はカーボン表面上に均一に分散し、その上にPtRu等を成長させることにより担持率が50質量%以上でも、4nm以下の金属粒子を均一に分散させることが可能である。金属核がなければ、担持率を50質量%以上としたとき、凝集が生じる。
また、担持量を上記範囲とするには、溶液中に投入する金属原料の量で調整すればよい。
【0031】
以上のように金属を成長させることで触媒は得られるが、触媒層形成時Nafion(DuPont社製、商標登録)等のアイオノマーとの混合をよくするため、少なくとも水素を含む雰囲気で熱処理してもよい。熱処理すると金属微粒子の凝集及び成長が生じやすく、活性面積が小さくなるおそれがあるため、処理する温度としては300℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下であることが望ましい。処理雰囲気としては、水素量と窒素、He,Ar等の不活性ガス量の割合が100:0〜1:99(体積比)で、処理時間は1分〜5時間、特に30分〜2時間であることが好ましい。1分より短いと水素処理の効果が不十分であり、5時間より長い時間では、効果に変化が認められない。
【0032】
このようにして得られた燃料電池用電極触媒は、特にダイレクトメタノール型燃料電池のアノード電極触媒として好適に用いられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0034】
[実施例1] 硫酸濃度9.8質量%
比表面積800m2/gのカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J:ライオン社製)5gを硫酸濃度9.8質量%の水溶液に分散させ、25℃で6時間マグネティックスターラーで攪拌した。攪拌後カーボン担体をろ過し、ろ液のpHが中性になるまで水で洗浄した後、減圧下100℃で2時間乾燥して酸処理したカーボン担体を得た。
処理したカーボン担体5gを500mLの水に分散させ、0.6gの白金を含む塩化白金酸を添加し、更にエチレングリコールを500g及びNaOHを50mmol添加した。この混合液を60℃で24時間加熱攪拌処理した。濾過、洗浄後、80℃で24時間乾燥し、Pt核を担持したカーボン5.6gを得た。
得られたPt核を担持したカーボンをTEM観察した結果、平均粒径約0.5nmの微粒子が担体上に均一に分散している様子を確認できた。
【0035】
上記Pt核を担持したカーボン0.5gを、更にジニトロジアミン白金(II)1.1g、塩化ルテニウム0.5g、エタノール100gを含有する溶液600g中に投入し、80℃で8時間還流し、PtRuの担持率68質量%の触媒1.4gを得た。TEM観察した結果、平均粒径は2.4nmであり、カーボン上に均一に分散していた。
【0036】
活性表面積の評価は、COストリッピング法により行った。触媒を水に超音波分散した後、グラッシーカーボン電極上に滴下し、乾燥後、5%Nafion溶液(DuPont社製、商標登録)を滴下して評価用の電極を作製した。電極をポテンショスタット(北斗電工製HZ5000)に取り付け、0.5M H2SO4の入った電解セルに浸漬した。電解セルの雰囲気をArで置換後、触媒を−0.18V(vs RHE)に保持し、COガスを20minバブリングさせることでCO吸着を行った。同電位に保持した状態で、Arガスで20minバブリングさせ、余剰のCOガスを排出した。その後、スイープレンジ−0.18〜0.5V(vs RHE)、スイープ速度10mV/sで電位操作し、COストリッピングボルタムグラムを測定し、COが脱離した後に再度電位走査し、その面積差をCO酸化電流とし、CO酸化のクーロン電荷を4.2C/m2と仮定して、PtRuの活性表面積を算出した。
【0037】
メタノール酸化活性の評価は、電解液を0.5M H2SO4+1M CH3OHとし、スイープレンジ−0.18〜0.5V(vs RHE)、スイープ速度1mV/sで酸化電流を評価した。活性面積評価及びメタノール酸化活性はすべて25℃で行った。
【0038】
電位変動に対する安定性評価は、「NEDOシンポジウム固体高分子形燃料電池の高耐久化への展望」,30−36,2007(非特許文献3)記載のアノード触媒に対する電極触媒耐久性評価方法に準拠して行った。活性表面積、及びメタノール酸化活性評価後、電解液を0.5M H2SO4に変更し、0.05〜0.4V(vs RHE)、スイープ速度100mV/sで2400サイクルの負荷変動模擬試験を行った。負荷変動サイクル前後における活性表面積及びメタノール酸化活性の変化から安定性を確認した。
【0039】
[実施例2]硫酸濃度50質量%
比表面積800m2/gのカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J:ライオン社製)5gを硫酸濃度50質量%の水溶液に分散させ、25℃で6時間マグネティックスターラーで攪拌した。攪拌後カーボン担体をろ過し、ろ液のpHが中性になるまで水で洗浄した後、減圧下100℃で2時間乾燥して酸処理したカーボン担体を得た。
処理したカーボン担体上に、実施例1と同様の手順でPt核の形成、PtRuの成長を行い、PtRuの担持率68質量%の触媒を得た。TEM観察した結果、平均粒径は2.3nmであり、カーボン上に均一に分散していた。
【0040】
[比較例1]酸処理なし
比表面積800m2/gのカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J:ライオン社製)5gを酸処理することなく500mLの水に分散させ、実施例1と同様の手順でPt核の形成、PtRuの成長を行った。PtRuの担持率68質量%の触媒を得ることができ、TEM観察した結果、平均粒径2.5nmのPtRu粒子がカーボン上に均一に分散していた。
【0041】
[比較例2]硫酸濃度97質量%
比表面積800m2/gのカーボン担体(ケッチェンブラックEC300J:ライオン社製)5gを硫酸濃度97質量%の濃硫酸に分散させ、25℃で6時間マグネティックスターラーで攪拌した。攪拌後カーボン担体の分散した濃硫酸を冷却しながら水中に分散させ、カーボン担体をろ過後、ろ液のpHが中性になるまで水で洗浄し、減圧下100℃で2時間乾燥して酸処理したカーボン担体を得た。
処理したカーボン担体上に、実施例1と同様の手順でPt核の形成、PtRuの成長を行い、PtRuの担持率68質量%の触媒を得た。TEM観察した結果、平均粒径は2.2nmであり、カーボン上に均一に分散していた。
【0042】
実施例1,2及び比較例1,2の触媒について、負荷変動サイクル前後における活性表面積及び0.4V,0.5V(vs RHE)メタノール酸化活性の評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1,2及び比較例1について、負荷変動サイクル前後の活性面積変化を比較すると、硫酸処理担体を用いた実施例1,2において、活性面積の変化が小さくなっており、電位変動に対する安定性向上の効果が認められた。またメタノール酸化活性について、負荷変動サイクル前の活性は高くなっており、かつサイクル後においてもほとんど変化が見られなかったことから、高いメタノール酸化活性を保持し安定性の高い触媒の得られることがわかった。
比較例2は、濃硫酸で担体を処理した場合であるが、サイクル前の活性面積やメタノール酸化活性は高いものの、サイクル後には活性面積及びメタノール酸化活性は低下しており、安定性向上に寄与する硫酸濃度に上限があることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性カーボン担体に粒子間隔を制御した平均粒径0.1〜1.5nmの金属微粒子を生成する第一担持工程と、該金属微粒子を核に他の金属を成長させる第二担持工程とを含む燃料電池用電極触媒の製造方法において、該導電性カーボン担体は第一担持工程前に酸で処理することを特徴とする燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項2】
導電性カーボン担体上に担持させる金属微粒子がPt微粒子であり、このPt微粒子を核として成長させる他の金属がPtRuである請求項1記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項3】
第二担持工程終了後のカーボン担体に対する金属担持率が50質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項4】
導電性カーボン担体の酸による処理が90質量%以下の希硫酸によってなされることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項5】
導電性カーボン担体の比表面積が200m2/g以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。

【公開番号】特開2010−282855(P2010−282855A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135722(P2009−135722)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】