説明

燃料電池用電極触媒及びその製造方法

【課題】従来の白金炭素触媒よりも白金の使用量を低減しつつ、燃料電池に適用した場合に良好な発電特性を発揮できる電極触媒とその製造方法を提供すること。
【解決手段】金属炭化物及び金属酸化物のうち少なくとも一種の金属化合物4と炭素3とで構成した担体に、白金2又は白金合金2を担持した複合体を含み、前記複合体をサイクリックボルタンメトリー法により測定して算出される白金2又は白金合金2の比表面積が350cm2/mg−Pt以上である燃料電池用電極触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化剤とを電気化学的に反応させて生じるエネルギーを直接電気エネルギーに変換する発電システムであり、使用する電解質の種類によって、固体高分子形(PEFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)、リン酸形(PAFC)、固体酸化物形(SOFC)等に分類される。
これらの燃料電池の中で特にPEFC形燃料電池は、小型、軽量、簡便性、低温作動性などの利点から、自動車、ノートパソコン、携帯電話、定置型家庭用電源等の幅広い分野での実用化に向けて研究が積極的に進められている。
このような固体高分子形燃料電池では、通常、そのアノード及びカソードを構成する電極触媒として、白金(Pt)、白金合金等の触媒を炭素(C)に高密度に担持した白金炭素触媒(Pt/C)が使用される。白金は高価で、燃料電池としてのコストが嵩むため、白金の使用量を減らすことが固体高分子形燃料電池の実用化のための大きな課題となっている。
【0003】
上記課題に取り組んできた結果、これまでに例えば、炭化タングステン(WC)等の金属炭化物と、バナジウム(V)等の金属とを使用することによって白金の使用量を減らした電極触媒(例えば、特許文献1参照)、あるいは白金を使用せずにイリジウム(Ir)とWCを使用した電極触媒(例えば、特許文献2参照)等、種々の新たな電極触媒が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−519755号公報
【特許文献2】特開2009−123391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1及び2等に記載されたような、これまで開発されてきた種々の電極触媒は、白金の使用量は低減されるものの、従来の白金炭素触媒を用いた電極触媒に比べて比表面積が小さくなってしまう等の理由から十分な活性を発現せず、実用に供するのは困難であった。
【0006】
従って、本発明の目的は、従来の白金炭素触媒よりも白金の使用量を低減しつつ、燃料電池に適用した場合に良好な発電特性を発揮できる電極触媒とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の燃料電池用電極触媒の第1特徴構成は、
金属炭化物及び金属酸化物のうち少なくとも一種の金属化合物と炭素とで構成した担体に、白金又は白金合金を担持した複合体を含み、前記複合体をサイクリックボルタンメトリー法により測定して算出される前記白金又は白金合金の比表面積が350cm2/mg−Pt以上である点にある。
【0008】
〔作用及び効果〕
本構成の電極触媒は、金属炭化物及び金属酸化物のうち少なくとも一種の金属化合物と炭素とで構成した担体に白金又は白金合金を担持した複合体を含むので、電極触媒を白金炭素触媒のみで構成した場合に比べて、燃料電池に使用する白金量を低減することができる。
また、前記白金又は白金合金の比表面積が350cm2/mg−Pt以上となるように構成してあるため、前記複合体を含む電極触媒を用いた燃料電池では、良好な発電特性を発揮することができる。
したがって、本構成の電極触媒を用いることにより、製造コストを抑えた燃料電池を実現することができる。
【0009】
本発明の燃料電池用電極触媒の第2特徴構成は、
前記金属炭化物が、炭化タングステン(WC)及び炭化ケイ素(SiC)のうちの少なくとも一つである点にある
【0010】
〔作用及び効果〕
WCやSiCは、白金に比べて安価である。このため、本構成のように、金属炭化物として、WCやSiCを用いれば、電極触媒をより安価に提供することができる。
【0011】
本発明の燃料電池用電極触媒の第3特徴構成は、
前記金属酸化物が、二酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化バナジウム(V25)、三酸化タングステン(WO3)、二酸化スズ(SnO2)、及び二酸化珪素(SiO2)のうちの少なくとも一つである点にある
【0012】
〔作用及び効果〕
TiO2、Al23、ZrO2、V25、WO3、SnO2、及びSiO2は、白金に比べて安価である。このため、本構成のように、金属酸化物として、上記の酸化物を用いれば、電極触媒をより安価に提供することができる。
【0013】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法の第1特徴構成は、
白金又は白金合金を炭素に担持した白金炭素触媒と、金属炭化物及び金属酸化物のうち少なくとも一種の金属化合物とを、圧縮力及びせん断力を含む機械的作用を付与しながら粉砕混合する点にある。
【0014】
〔作用及び効果〕
本構成のように、白金炭素触媒と金属化合物とを、圧縮力及びせん断力を含む機械的作用を付与しながら粉砕混合することにより、炭素と金属化合物とが結合し、かつ、白金炭素触媒中の白金等を微細な状態で金属化合物にも担持させることができるため、白金又は白金合金の比表面積の大きな電極触媒を製造することができる。
このため、本構成により製造した電極触媒を燃料電池に用いれば、白金の使用量を抑えつつ、良好な発電特性を発揮することができ、製造コストを抑えた燃料電池を実現することができる。
【0015】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法の第2特徴構成は、
前記金属化合物に対する前記白金炭素触媒の配合比率を、5重量%〜30重量%の範囲とした点にある。
【0016】
〔作用及び効果〕
本構成のように、金属酸化物に対する白金炭素触媒の配合比率を上記の範囲とすることにより、電極触媒における白金の使用量を確実に低減できる。
したがって、燃料電池の製造コストをより低減することができる。
【0017】
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法の第3特徴構成は、
前記金属化合物に対し、前記白金炭素触媒を複数回に分けて供給して粉砕混合する点にある。
【0018】
〔作用及び効果〕
本構成のように、金属化合物に比べて配合量の少ない白金炭素触媒を複数回に分けて供給すれば、一度に全量を供給して粉砕混合する場合よりも、白金炭素触媒と金属化合物とをより均一に粉砕混合できるため、白金炭素触媒中の白金をより微細な状態で金属化合物にも担持させることができ、電極触媒における白金又は白金合金の比表面積をさらに大きくさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例で使用した炭化タングステンのSEM写真である((a):倍率10,000倍、(b):倍率30,000倍)。
【図2】実施例で使用した白金炭素触媒(Pt/C)のSEM写真である(a:倍率30,000倍、b:倍率500,000倍)。
【図3】粉体処理装置の概略立面図である。
【図4】粉体処理装置の概略平面図である。
【図5】本発明の燃料電池用電極触媒(WC-Pt/C)のTEM写真である(a:倍率30,000倍、b:倍率100,000倍)。
【図6】図5の模式図である。
【図7】本発明の燃料電池用電極触媒(WC-Pt/C触媒)及び市販品の白金炭素触媒(Pt/C触媒)の比表面積を比較した図である。
【図8】本発明の燃料電池用電極触媒(WC-Pt/C触媒)を用いた膜・電極接合体(MEA)のSEM写真である((a)MEA全体、(b)カソード触媒層、(c)アノード触媒層)。
【図9】本発明の燃料電池用電極触媒(WC-Pt/C触媒)及び白金炭素触媒(Pt/C触媒)の発電特性(パワー密度及び電流電圧曲線)を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の燃料電池用電極触媒(以下、単に「電極触媒」と称する)とその製造方法の実施形態について具体的に説明する。
【0021】
〔燃料電池用電極触媒〕
本発明の電極触媒は、金属炭化物及び金属酸化物のうち少なくとも一種の金属化合物と炭素とで構成した担体に、白金又は白金合金を担持した複合体を含み、前記複合体をサイクリックボルタンメトリー法により測定して算出される前記白金又は白金合金の比表面積を350cm2/mg−Pt以上とするものである。
【0022】
(金属化合物)
本発明の電極触媒に用いる金属化合物としては、金属炭化物及び金属酸化物のうちの一種、または二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
金属炭化物としては、例えば、炭化タングステン(WC)、炭化ケイ素(SiC)等が挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、二酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化バナジウム(V25)、三酸化タングステン(WO3)、二酸化スズ(SnO2)、二酸化珪素(SiO2)等が挙げられる。
白金に比べて安価な、これらの金属炭化物及び金属酸化物を利用することで白金の使用量を減らして、電極触媒をより安価に提供することができる。
本発明の電極触媒を燃料電池のアノード触媒として使用する場合には、金属化合物として金属炭化物を使用することが望ましく、カソード触媒として使用する場合には、金属化合物として金属酸化物を使用することが望ましい。
【0023】
(炭素)
本発明の電極触媒に用いる炭素としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭素、ケッチェンブラック、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0024】
(担体)
本発明の担体は、金属化合物と炭素とで構成したものであれば、その構造等は特に限定されないが、例えば、金属化合物間を炭素で結合した構造等が挙げられる。
【0025】
(白金又は白金合金)
担体に担持する白金又は白金合金としては、特に限定されないが、例えば、白金を単体として用いる他、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、クロム(Cr)等との白金合金が挙げられる。さらに、これらの白金合金に他の遷移元素を加えて用いることもできる。
【0026】
(サイクリックボルタンメトリー法(電位掃引法))
本発明に適用されるサイクリックボルタンメトリー法とは、対極に白金メッシュ電極、参照極に可逆水素電極(RHE)を用い、窒素ガスのバブリングにより溶存酸素が除去された電解液中で、電極触媒を規定量塗布したカーボン電極の電気化学応答を測定するものである。測定条件は、温度30℃、電位掃引速度10mV/sとする。電解液は、0.5mol/dm3の硫酸水溶液を用いる。得られた電気化学応答から、白金又は白金合金上での水素の吸脱着に起因するピークを積分して面積を求めることで電気容量を求める。次いで、電気容量を白金又は白金合金の単位表面積あたりの電荷量(単位面積当たりの標準クーロン数:白金であれば210μC/cm2)で除算することで白金又は白金合金の表面積を求め、さらに、その値を白金又は白金合金の全体重量で除算することで、電気触媒(複合体)に含まれる白金又は白金合金の比表面積(単位:cm2/mg−Pt)を算出する。
【0027】
(複合体)
本発明の電極触媒に含まれる複合体は、担体がネットワーク構造を形成し、金属化合物と炭素とを含む担体全体にわたって白金又は白金合金を分散担持でき、その結果上記サイクリックボルタンメトリー法によって測定した際の白金又は白金合金の比表面積が350cm2/mg−Pt以上となる。また、本発明の電極触媒に含まれる白金又は白金合金は、その比表面積が大きいほど電極触媒としての機能が高くなるため望ましい。したがって、450cm2/mg−Pt以上の比表面積を有するものがより望ましいが、白金又は白金合金を極小化すると触媒活性が低下してしまうおそれがあるため、その比表面積の上限は1400cm2/mg−Ptとすることが望ましい。
また、電極触媒の内部は、酸素や燃料ガスが十分に拡散するための空隙を有することが必要であり、少なくとも20%以上の空隙率を有することが望ましい。
【0028】
(その他の添加物等)
本発明の電極触媒においては、白金、白金合金、炭素、金属化合物の他に、燃料電池としての発電特性等が許容できる範囲で、各種添加剤等を付加することもできる。また、不可避的不純物が混入しても何ら構わない。
【0029】
〔電極触媒の製造方法〕
本発明の電極触媒の製造方法は、白金又は白金合金を炭素に担持した白金炭素触媒と、金属炭化物及び金属酸化物のうち少なくとも一種の金属化合物とを、圧縮力及びせん断力を含む機械的作用を付与しながら粉砕混合するものである。
【0030】
(白金炭素触媒)
本発明の電極触媒に使用する白金炭素触媒は、白金または白金合金を炭素に担持させたものであれば、特に限定されず、市販品等の従来公知ものが適用できる。炭素における白金等の担持量としては、特に制限はないが、例えば、40重量%〜60重量%の範囲が望ましい。また、白金炭素触媒における白金の比表面積としては、例えば、90m2/g〜140m2/g(BET法により計算)の範囲が望ましい。
【0031】
白金炭素触媒の具体例は、以下の通りである。
一元型触媒としては、Pt/Cが挙げられる。
二元型触媒としては、Pt-Ru/C、Pt-Pd/C、及びPt-Co/C等が挙げられる。
三元型触媒としては、Pt-Ru-WO3/C、Pt-Ru-Sn/C、Pt-Ru-Mo/C、Pt-Ru-W/C、Pt-Ru-Nb/C、Pt-Ru-Ag/C、Pt-Ru-Au/C、Pt-Ru-Rh/C、Pt-Ru-W2C/C、Pt-Ru-Ir/C、及びPt-Ru-Ni/C等が挙げられる。
【0032】
これらのうち、本発明の電極触媒をアノード触媒として用いる場合には、Pt/C、Pt-Ru/C、Pt-Ru-W2C/C等が望ましい。本発明の電極触媒をカソード触媒として用いる場合には、Pt-Ru-WO3/C等が望ましい。
【0033】
(金属化合物に対する白金炭素触媒の配合比率)
本発明の電極触媒における金属化合物に対する白金炭素触媒の配合比率は、特に制限はないが、電極触媒における白金の使用量を確実に低減して燃料電池の製造コストをより低減するために、5重量%〜30重量%の範囲に抑えることが望ましく、5重量%〜20重量%の範囲に抑えることがより望ましい。白金使用量は、少なければ少ないほど望ましいことは言うまでもないが、白金炭素触媒が5重量%未満になると、触媒層の抵抗が高まるおそれがある。
【0034】
(白金炭素触媒と金属化合物との粉砕混合)
次に、白金炭素触媒と金属化合物とを、圧縮力及びせん断力を含む機械的作用を付与しながら粉砕混合する方法について説明する。
先ず、上記白金炭素触媒と金属化合物とを所定の配合比率となるようにそれぞれ所定量ずつ秤量して、例えば図3及び図4に示すような粉体処理装置の容器部材12に供給する。
【0035】
図3及び図4に示す粉体処理装置には、主に、基台6に設置された略円筒形状のケーシング11と、このケーシング11の内部に配置され筒軸心を中心に回転自在な有底略円筒状の容器部材12と、容器部材12の内部に配置されケーシング11に固定されたプレスヘッド5とが設けられている。また、プレスヘッド5は、容器部材12の円筒軸心側から、容器部材12の内面である堆積面12a側に突出し、そして、プレスヘッド5の先端部には、堆積面12aに対向して凸状に湾曲した処理面5aが形成されている。
また、白金炭素触媒1と金属化合物4とを含む粉体50は、容器部材12内に供給される。
【0036】
容器部材12は、ケーシング11に軸受けされた軸体15に固定され、その軸体15の軸心周りに回転自在に構成されている。更に、軸体15を回転駆動するモータ、プーリ、及び、ベルト等からなる回転駆動手段16が設けられている。
【0037】
回転駆動手段16は、軸体15を回転駆動することで、容器部材12を、ケーシング11に固定されたプレスヘッド5に対して相対回転させて、容器部材12の内面である堆積面12aと、プレスヘッド5の処理面5aとを、堆積面12aに沿って相対移動させる。
【0038】
堆積面12aと処理面5aとを堆積面12aに沿って相対移動させることで、堆積面12aと処理面5aとの間隙7にある白金炭素触媒1及び金属化合物4に対して、強力な圧縮力とせん断力を含む機械的作用を付与する粉砕混合を行うことができる。
【0039】
そして、白金炭素触媒1と金属化合物4とを含む粉体50を原料として容器部材12内に供給し、回転駆動手段16を働かせて、粉体50を処理面5aにより堆積面12a側に押し付けながら擦りつけて強力な圧縮力とせん断力を含む機械的作用を付与することで、粉体50の表面又はその近傍に歪を発生させ、あるいは新生面を形成して、粉体50を活性化させることができ、このように活性化した粉体50が更に粉砕混合されることで、白金炭素触媒1がその炭素3を介して金属化合物4と結合すると共に、白金炭素触媒1の白金2の一部が移行して金属化合物4の表面に担持された状態となる。
【0040】
尚、堆積面12aと処理面5aとの間隙7の幅や相対移動速度は、原料となる粉体50から所望の合成粉体を得るための実験により適宜決定することができる。
【0041】
プレスヘッド5によって圧縮力及びせん断力を含む機械的作用を付与された粉体50の一部は、容器部材12の周壁8に設けた孔部9を介して外方に排出され、周壁8の外周部に形成した羽根部材10によって再び容器部材12の内部に循環される。本構成により、処理面5aと堆積面12aとの間隙7に挟まれた粉体50を積極的に流動・循環させることができる。
【0042】
この粉体処理装置のごとく、孔部9を介して粉体50を循環させる構成の装置を用いることとすれば、粉体50に作用させる圧縮力等を適宜加減することができる。
例えば、孔部9の開口面積を広く設定しておけば、粉体50は容器部材12の外部に排出され易くなるため、粉体50に対する処理面5aでの作用時間が短くなり、粉体50に作用する圧縮力等が結果的に弱まることとなる。逆に、孔部9の開口面積を狭く設定しておけば、粉体50に対する処理面5aでの作用時間が長くなり、粉体50に作用する圧縮力等は強まることとなる。
【0043】
上記粉体処理装置を使用して、白金炭素触媒1と金属化合物4とを、圧縮力及びせん断力を含む機械的作用を付与しながら粉砕混合することにより、白金2の比表面積が大きい電極触媒を製造することができる。
このため、上記粉体処理装置により製造した電極触媒を燃料電池に用いれば、白金の使用量を抑えつつ、良好な発電特性を発揮することができ、製造コストを抑えた燃料電池を実現することができる。
【0044】
尚、金属化合物4に比べて配合量の少ない白金炭素触媒1を複数回に分けて容器部材12内に供給して粉砕混合すれば、一度に全量を供給して粉砕混合する場合よりも、白金炭素触媒1と金属化合物4とをより均一に粉砕混合できるため、白金炭素触媒1中の白金2がより微細な状態で金属化合物4に担持される。このため、白金炭素触媒1と金属化合物4との複合体における白金2の比表面積をより大きくさせることができる。
【0045】
製造する際に使用する白金炭素触媒1における白金2は、複合体における白金2の比表面積を大きくするため、平均粒子径が小さければ小さいものほど望ましいが、2nm未満になると触媒活性が低下するおそれがある。また、金属化合物4としては、後述する触媒インクの安定性やスプレー塗布の容易性を考慮すれば1μm以下の平均粒子径を有するものが望ましく、500nm以下の平均粒子径を有するものがさらに望ましい。
【0046】
上記粉体処理装置の運転条件としては、例えば、Pt/CとWCとを使用する場合、5m/s〜40m/sの回転速度で、1分間〜120分間の粉砕混合を行うことが望ましい。
【0047】
〔電極及び膜・電極接合体(MEA)の製造方法〕
本発明の電極触媒を用いて電極を作製するには、本発明の電極触媒を、適当な溶媒(例えば、バインダーであるナフィオン分散液等)中に分散させて触媒インクを調整し、炭素電極等の表面に触媒層として塗布すれば良い。また、本発明の電極触媒を用いて固体高分子型燃料電池(PEFC)の構成部材である膜・電極接合体(MEA)を作製するには、適当な電解質膜の表面に上記触媒インクを塗布してアノード触媒層及びカソード触媒層を形成し、ホットプレス法(圧力100kg/cm2〜2000kg/cm2、温度80℃〜150℃)等で一体化すれば良い。
【実施例】
【0048】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(電極触媒の製造)
金属炭化物として、市販品の炭化タングステン粒子(WC粒子)(日本新金属製、比表面積1.60m2/g)を使用した(図1参照)。
【0050】
白金を炭素に担持した白金炭素触媒として、市販品の白金炭素触媒粒子(Pt/C粒子)(田中貴金属工業製TEC10E50E、白金担持量:50重量%、白金炭素触媒BET比表面積:300m2/g)を使用した(図2参照)。
【0051】
上記WC粒子に対する上記Pt/C粒子の配合比率が21.9重量%となるように、それぞれを所定量ずつ秤量して上記粉体処理装置の容器部材12に供給し、圧縮力及びせん断力を含む機械的作用を付与しながら粉砕混合した(回転速度:12m/s、処理時間:10分間)。尚、WC粒子とPt/C粒子とを粉砕混合する際、Pt/C粒子を2回に分けて上記粉体処理装置の容器部材12に供給した。粉砕混合の結果、図5に示すような本発明の電極触媒(WC-Pt/C触媒)が得られた。
【0052】
図6は、図5に示した本発明のWC-Pt/C触媒の構造を模式的に示したものであり、1はPt/C粒子を示し、2はPt粒子を示し、3は炭素を示し、4はWC粒子を示す。
【0053】
図6に示すように、WC-Pt/C触媒は、表面に多数のPt粒子2を保持するWC粒子4と、Pt/C粒子1によって形成されるネットワーク構造を有する。WC-Pt/C触媒は、このネットワーク構造によって適度な空隙を有し、さらにPt粒子2の大きな比表面積によって高いイオン伝導性と電子伝導性とを有するものと考えられる。
【0054】
(触媒インクの調製)
上記で得られたWC-Pt/C触媒100mgを、Nafionの5重量%溶液(Aldrich製)1000mg、2−プロパノール(和光純薬工業製)3000mg、及び超純水500mgからなる溶媒に添加し、超音波振動(1時間)で均一に分散させて触媒インクを調製した。尚、WC-Pt/C触媒の替わりに市販品の白金炭素触媒(Pt/C触媒)(田中貴金属工業製TEC10E50E)100mgを添加した以外は上記触媒インクと同じ組成を有する市販品による触媒インクを調製した。
【0055】
(電極の作製と触媒性能の評価)
上記触媒インクをグラッシーカーボン電極(直径4mm)上に塗布し乾燥させて電極(実施例1)を作製した。上記市販品による触媒インクを実施例1と同様にグラッシーカーボン電極(直径4mm)上に塗布し乾燥させて電極(比較例1)を作製した。
次いで、本発明のWC-Pt/C触媒及び市販品のPt/C触媒のそれぞれの触媒性能を評価するために、実施例1及び比較例1のそれぞれの電極を用いてサイクリックボルタンメトリー法によって、本発明のWC-Pt/C触媒及び市販品のPt/C触媒における白金の比表面積をそれぞれ測定した(図7参照)。その結果、市販品のPt/C触媒における白金の比表面積が121.6cm2/mg−Ptであったのに対して、本発明のWC-Pt/C触媒における白金の比表面積は569.1cm2/mg−Ptであり、本発明のWC-Pt/C触媒は、市販品のPt/C触媒よりも約4.5倍大きい比表面積を示した。
【0056】
尚、Hara et al.,Applied Catalysis A General,323(2007)86〜93頁(以下、論文という)の記載によれば、10重量%の白金と90重量%のWCからなる電極触媒における白金の比表面積は、59.0cm2/mg−Pt〜114cm2/mg−Ptであることが示されている。
一方、本実施例における本発明のWC-Pt/C触媒は、9重量%の白金(18重量%のPt/C粒子)と、82重量%のWCからなり、白金の比表面積は569.1cm2/mg−Ptである。
即ち、本発明のWC-Pt/C触媒は、その白金含量が上記論文の電極触媒とほぼ同じであるにも関わらず、上記論文の電極触媒よりも約5〜9.6倍大きな比表面積を有する。
【0057】
(膜・電極接合体(MEA)の作製と発電特性の評価)
電解質膜(Aldrich製Nafion117膜、厚さ183μm)のおもて面に対して、その約15cm上から上記触媒インクをスプレーで均一に塗布する作業と乾燥させる作業とを交互に30回ずつ繰り返してアノード触媒層(WC−Pt/C)を形成した。さらに、前記電解質膜のうら面に対して、その約15cm上から上記従来型触媒インクをスプレーで均一に塗布する作業と乾燥させる作業とを交互に30回ずつ繰り返してカソード触媒層(Pt/C)を形成した。
おもて面及びうら面のそれぞれにアノード触媒層(WC−Pt/C)及びカソード触媒層(Pt/C)を形成した上記電解質膜について、圧力160kg/cm2、温度130℃においてホットプレスを90秒間実施して、MEA(実施例2)を作製した(図8参照)。
【0058】
実施例2のMEAにおいて、アノード触媒層(WC−Pt/C)の密度は約200mg/cm3、厚みは約5μmであり、カソード触媒層(Pt/C)の密度は約50mg/cm3、厚みは約10μmであった。また、アノード触媒層(WC−Pt/C)における炭化タングステン量は1.72mg/cm2、白金量は0.06mg/cm2であり、カソード触媒層(Pt/C)における白金量は0.39mg/cm2であった。
【0059】
また、電解質膜(Aldrich製、Nafion117膜、厚さ183μm)のおもて面及びうら面のそれぞれに対して、その約15cm上から上記市販品による触媒インクをスプレーで均一に塗布する作業と乾燥させる作業とを交互に30回ずつ繰り返してアノード触媒層(Pt/C)及びカソード触媒層(Pt/C)を形成した後、上記実施例2と同様にホットプレスを実施してMEA(比較例2)を作製した。
【0060】
比較例2のMEAにおいて、アノード触媒層(Pt/C)における白金量は0.22mg/cm2であり、カソード触媒層(Pt/C)における白金量は0.50mg/cm2であった。
【0061】
次いで、本発明のWC-Pt/C触媒及び市販品のPt/C触媒のそれぞれの発電特性を評価するために、実施例2及び比較例2のそれぞれのMEAを、一辺23mmの正方形に切り出した二枚のカーボンペーパー(東レ製)で挟み、グラファイト製セパレータと集電板とを備えた燃料電池評価用セル(エレクトロケム製FC−05−02)に組み込み、レスカ製燃料電池評価装置を用いて、アノード触媒層側へ水素を135mL/min、カソード触媒層側へ酸素を135mL/minの流量で供給し、80℃におけるMEAのパワー密度及び電流電圧曲線を測定した(図9参照)。尚、図9において、2つの曲線(a)実施例2及び(b)比較例2はパワー密度に関するものであり、2つの曲線(c)実施例2及び(d)比較例2は電流電圧曲線に関するものである。
【0062】
その結果、本発明のWC-Pt/C触媒の白金含有量は、市販品のPt/C触媒の白金含有量の約1/4であるにもかかわらず、本発明のWC-Pt/C触媒は、市販品のPt/C触媒と同等の発電特性を示した。
【0063】
以上より、本発明の電極触媒は、金属炭化物及び金属酸化物のうち少なくとも一種の金属化合物と炭素とで構成した担体に白金又は白金合金を担持した複合体を含むので、電極触媒を白金炭素触媒のみで構成した場合に比べて、燃料電池に使用する白金量を低減することができる。
また、前記複合体における白金又は白金合金の比表面積が350cm2/mg−Pt以上となるように構成してあるため、当該複合体を含む電極触媒を用いた燃料電池では、良好な発電特性を発揮することができる。
したがって、本構成の電極触媒を用いることにより、製造コストを抑えた燃料電池を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の燃料電池用電極触媒とその製造方法は、使用する白金の量を低減させることによって低コスト化が可能となり、燃料電池の分野で非常に有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 Pt/C粒子(白金炭素触媒)
2 白金
3 炭素
4 WC粒子(金属化合物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属炭化物及び金属酸化物のうち少なくとも一種の金属化合物と炭素とで構成した担体に、白金又は白金合金を担持した複合体を含み、
前記複合体をサイクリックボルタンメトリー法により測定して算出される白金又は白金合金の比表面積が350cm2/mg−Pt以上である燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
前記金属炭化物が、炭化タングステン(WC)及び炭化ケイ素(SiC)のうちの少なくとも一つである請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
前記金属酸化物が、二酸化チタン(TiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化バナジウム(V25)、三酸化タングステン(WO3)、二酸化スズ(SnO2)、及び二酸化珪素(SiO2)のうちの少なくとも一つである請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
白金又は白金合金を炭素に担持した白金炭素触媒と、金属炭化物及び金属酸化物のうち少なくとも一種の金属化合物とを、圧縮力及びせん断力を含む機械的作用を付与しながら粉砕混合する燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項5】
前記金属化合物に対する前記白金炭素触媒の配合比率が、5重量%〜30重量%である請求項4に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項6】
前記金属化合物に対し、前記白金炭素触媒を複数回に分けて供給して粉砕混合する請求項5に記載の燃料電池用電極触媒の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−23300(P2011−23300A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169244(P2009−169244)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000113355)ホソカワミクロン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】