説明

燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法

【課題】簡単な工程で、固体高分子電解質膜に湿度変化に伴う寸法変化を惹起することがなく、前記固体高分子電解質膜の耐久性を良好に向上させることを可能にする。
【解決手段】固体高分子電解質膜34の両側に電極触媒層36a、38aが設けられるとともに、前記電極触媒層36a、38aには、ガス拡散層36c、38cが積層される電解質膜・電極構造体10の製造方法である。この製造方法では、固体高分子電解質膜34にガス拡散層36c、38cが接合される前に、前記固体高分子電解質膜34に湿潤処理と乾燥処理とを繰り返し行う工程と、前記固体高分子電解質膜34の両側に、前記ガス拡散層36c、38cを一体化する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられるとともに、前記電極触媒層の両側には、多孔質拡散層が積層される燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ触媒層(電極触媒層)とガス拡散層(多孔質カーボン)とからなるアノード側電極及びカソード側電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持している。通常、この燃料電池を所定数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
この種の電解質膜・電極構造体の電解質膜は、燃料ガスと酸化剤ガスとのガス隔離機能を有するものであり、前記電解質膜の損傷は、燃料電池の耐久性に影響を及ぼす。このため、予め製造時において、電解質膜が通常発電時に損傷を受け難くなるように注意する必要があり、例えば、特許文献1に開示されている固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法が知られている。
【0004】
この特許文献1は、第1の触媒層及び第1のガス拡散層を有する第1の電極と、第2の触媒層及び第2のガス拡散層を有する第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に介在する電解質膜とを具備する固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の製造方法に関するものである。
【0005】
この製造方法では、基材上にイオン交換樹脂を含む塗工液を塗工した後、100〜250℃にてアニールすることにより電解質膜を形成し、得られた電解質膜の表面に電極触媒及びイオン交換樹脂を含む塗工液を塗工することによって、前記第1の触媒層を形成することにより、電解質膜と第1の触媒層とから構成される第1の中間体を作製している。一方、第2のガス拡散層の表面に電極触媒及びイオン交換樹脂を含む塗工液を塗工することによって、第2の触媒層を形成することにより、前記第2のガス拡散層と前記第2の触媒層とからなる第2の中間体を作製している。
【0006】
そして、第1のガス拡散層と電解質膜との間に第1の触媒層が位置し、且つ第2のガス拡散層と前記電解質膜との間に第2の触媒層が位置するように、前記第1のガス拡散層と第1の中間体と第2の中間体とを接合している。
【0007】
また、特許文献2に開示されている燃料電池の電極体の製造方法が知られている。この製造方法では、電解質膜の表面に少なくともアノード側もしくはカソード側いずれか一方の触媒層が形成された膜電極接合体(MEA)と、ガス拡散層を用意する第1の工程と、少なくとも前記触媒層の表面粗度よりも寸法が大きく、且つ、前記電解質膜よりも軟化点の低いドライな接着粉体を、ガス拡散層に対する触媒層の接着面もしくは触媒層に対するガス拡散層の接着面のいずれか一方に散布し、次いで、双方の接着面を当接させ、熱圧着して接着粉体を軟化させて電極体(MEGA)を製造する第2の工程と、からなることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−016431号公報
【特許文献2】特開2010−049933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、固体高分子電解質膜としては、フッ素系電解質の他、例えば、炭化水素(HC)系電解質が使用されている。この種の炭化水素系電解質からなる固体高分子電解質膜では、一般に剛性が高いために湿度変化に伴う寸法変化が生じる際、その伸縮力が大きくなる傾向にある。この伸縮力が大き過ぎると、固体高分子電解質膜自体が損傷を受けてしまい、前記固体高分子電解質膜の耐久性が低下するという問題がある。
【0010】
しかしながら、上記の特許文献1及び特許文献2では、この種の伸縮力の発生について考慮しておらず、固体高分子電解質膜の耐久性の低下を解決することができない。
【0011】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単な工程で、固体高分子電解質膜に湿度変化に伴う寸法変化を惹起することがなく、前記固体高分子電解質膜の耐久性を良好に向上させることが可能な燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、炭化水素系固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられるとともに、前記電極触媒層の両側には、多孔質拡散層が積層される燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法に関するものである。
【0013】
この製造方法では、炭化水素系固体高分子電解質膜に多孔質拡散層が接合される前に、前記炭化水素系固体高分子電解質膜に湿潤処理と乾燥処理とを繰り返し行う工程と、前記炭化水素系固体高分子電解質膜の両側に、前記多孔質拡散層を一体化する工程とを有している。
【0014】
また、この製造方法では、炭化水素系固体高分子電解質膜の収縮量が規定範囲内に収束するまで、湿潤処理と乾燥処理とを繰り返すことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多孔質拡散層が接合される前の炭化水素系固体高分子電解質膜に対し、湿潤処理と乾燥処理とが繰り返し行われている。このため、炭化水素系固体高分子電解質膜は、予め湿度変化に曝されており、実際に燃料電池に組み込まれて発電及び停止が繰り返されても、湿度変化に伴う寸法変化が良好に抑制される。
【0016】
従って、炭化水素系固体高分子電解質膜に寸法変化に伴う伸縮力の発生が抑制され、前記炭化水素系固体高分子電解質膜の破損等による耐久性の低下を阻止することができる。これにより、簡単な工程で、炭化水素系固体高分子電解質膜の耐久性を良好に向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る製造方法が適用される電解質膜・電極構造体が組み込まれる固体高分子型燃料電池の要部分解斜視説明図である。
【図2】前記燃料電池の断面説明図である。
【図3】前記製造方法の説明図である。
【図4】乾湿サイクルの説明図である。
【図5】本実施形態に係る処理の有無等による固体高分子電解質膜の寸法変化率と寿命との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係る製造方法が適用される電解質膜・電極構造体10は、固体高分子型燃料電池12に組み込まれる。燃料電池12は、電解質膜・電極構造体10を第1セパレータ14及び第2セパレータ16により挟持して構成され、例えば、燃料電池電気自動車(図示せず)に搭載される。
【0019】
第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した縦長形状の金属板により構成される。
【0020】
第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、平面が矩形状を有するとともに、金属製薄板を波形状にプレス加工することにより、断面凹凸形状に成形される。なお、第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、カーボンセパレータにより構成してもよい。
【0021】
図1に示すように、燃料電池12の矢印C方向(鉛直方向)の上端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔18a、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔20a、及び燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔22aが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0022】
燃料電池12の矢印C方向の下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔22b、冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔20b、及び酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔18bが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0023】
第1セパレータ14の電解質膜・電極構造体10に向かう面14aには、酸化剤ガス入口連通孔18aと酸化剤ガス出口連通孔18bとに連通する酸化剤ガス流路24が、鉛直方向に沿って設けられる。
【0024】
第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体10に向かう面16aには、燃料ガス入口連通孔22aと燃料ガス出口連通孔22bとに連通する燃料ガス流路26が、鉛直方向に沿って設けられる。
【0025】
互いに隣接する燃料電池12を構成する第1セパレータ14の面14bと、第2セパレータ16の面16bとの間には、冷却媒体入口連通孔20aと冷却媒体出口連通孔20bとを連通する冷却媒体流路28が、鉛直方向に沿って設けられる。
【0026】
第1セパレータ14の面14a、14bには、第1シール部材30が、一体的又は個別に設けられるとともに、第2セパレータ16の面16a、16bには、第2シール部材32が、一体的に又は個別に設けられる。第1シール部材30及び第2シール部材32は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン、又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材を使用する。
【0027】
図2に示すように、電解質膜・電極構造体10は、例えば、炭化水素系の固体高分子電解質膜34と、前記固体高分子電解質膜34を挟持するカソード側電極36及びアノード側電極38とを備える。ここで、固体高分子電解質膜34としては、スルホン化ポリアリーレン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリベンゾオキサゾール、スルホン化ポリベンゾチアゾール、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリフェニレンスルホン、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリフェニレンスルホキシド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリフェニレンサルファイド、スルホン化ポリフェニレンスルフィドスルホン、スルホン化ポリエーテルケトンケトン、スルホン化ポリイミド等の炭化水素(HC)系電解質が使用される。
【0028】
カソード側電極36及びアノード側電極38は、同一の表面積(外形寸法)を有するとともに、固体高分子電解質膜34は、前記カソード側電極36及び前記アノード側電極38よりも大きな表面積(外形寸法)を有する。固体高分子電解質膜34の外周端部は、カソード側電極36及びアノード側電極38の端部から外方に延在する。なお、固体高分子電解質膜34は、カソード側電極36又はアノード側電極38と同じ大きさの表面積を有していてもよい。
【0029】
カソード側電極36及びアノード側電極38は、固体高分子電解質膜34の両方の面34a、34bに接合される電極触媒層36a、38aと、前記電極触媒層36a、38aに下地層36b、38bを介して積層されるガス拡散層(多孔質拡散層)36c、38cとを設ける。下地層36b、38bは、カーボン粒子と撥水性樹脂を主成分として含み、ガス拡散層36c、38cへの触媒ペーストの浸透を防止する機能を有する。
【0030】
このように構成される燃料電池12において、電解質膜・電極構造体10を製造する方法について、以下に説明する。
【0031】
先ず、図3中、(a)に示すように、スルホン化ポリアリーレンの固体高分子電解質膜34が用意される。固体高分子電解質膜34は、具体的には、主鎖がポリフェニレン構造であり、主鎖又は側鎖にスルホン酸基を有する構造を含む。そして、図3中、(b)に示すように、処理装置50を介して固体高分子電解質膜34に湿潤処理と乾燥処理とが繰り返し行われる。
【0032】
処理装置50は、固体高分子電解質膜34を、所定の温度に加熱しながら、湿潤処理と乾燥処理とに周期的に湿度が変動する雰囲気に晒す処理を行う。すなわち、図4に示すように、固体高分子電解質膜34は、規定雰囲気である常温(T℃)で且つ所定湿度n(MID)%、例えば、50%の雰囲気に晒されている。
【0033】
そこで、固体高分子電解質膜34は、加熱温度T℃に加熱された雰囲気に晒される。この加熱温度T℃は、例えば、70℃程度の温度に設定される。湿潤側湿度n(MAX)%は、相対湿度95%程度である一方、乾燥側湿度n(MIN)%は、相対湿度5%程度である。
【0034】
固体高分子電解質膜34は、加熱温度T℃に加熱されながら、湿潤側湿度n(MAX)%と乾燥側湿度n(MIN)%とが周期的に、例えば、5回サイクルで繰り返される。そして、固体高分子電解質膜34は、最後に乾燥側湿度n(MIN)%から湿潤方向に湿度が変動されて温度T℃で且つ所定湿度n(MID)%に維持される。
【0035】
これにより、固体高分子電解質膜34は、処理前に比べて3%程度の寸法の収縮が発生した。その後、同様の処理を繰り返して、固体高分子電解質膜34の収縮量は、規定範囲内、例えば、0.3%以下に収束した。
【0036】
次いで、図3中、(c)に示すように、固体高分子電解質膜34の両方の面34a、34bには、電極触媒層36a、38aが設けられるとともに、前記固体高分子電解質膜34の外周端部が前記電極触媒層36a、38aの端部から外方に延在して構成される触媒被覆膜40が得られる。
【0037】
具体的には、電極触媒層36a、38aは、カーボンブラックに白金粒子を担持した触媒粒子を形成し、イオン導伝性バインダーとして高分子電解質を含む溶液を使用し、この高分子電解質の溶液中に前記触媒粒子を均一に混合して作製された触媒ペーストを有する。高分子電解質としては、炭化水素系のイオン交換膜が用いられる。
【0038】
固体高分子電解質膜34の両方の面34a、34bには、電極部形状がくり抜かれたマスクシートが貼り合わされる。そして、加熱されたSUS製多孔質板に固体高分子電解質膜34が載置吸引された状態で、前記固体高分子電解質膜34の一方の面34aに触媒ペーストが塗工される。同様に、固体高分子電解質膜34が反転されてSUS製多孔質板に吸着された状態で、前記固体高分子電解質膜34の他方の面34bに触媒ペーストが塗工される。
【0039】
次いで、図3中、(d)に示すように、処理装置50を介して触媒被覆膜40に湿潤処理と乾燥処理とが繰り返し行われる。この処理装置50による処理は、図3中、(b)における固体高分子電解質膜34の処理と同様であり、その詳細な説明は省略する。
【0040】
処理装置50による処理は、固体高分子電解質膜34のみ、又は、触媒被覆膜40のみに行うことも可能である。但し、固体高分子電解質膜34及び触媒被覆膜40の両方に処理を行うことが好ましい。なお、処理装置50により触媒被覆膜40のみに処理を行ったところ、前記触媒被覆膜40は、処理前に比べて6%程度の寸法の収縮が発生した。
【0041】
さらに、図3中、(e)に移行して、触媒被覆膜40に多孔質のカーボンからなるガス拡散層36c、38cがホットプレスにより一体化される。ここで、下地層36b、38bは、カーボンブラック及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子とを混合した混合物を、エチレングリコールに均一に分散させたスラリーを有し、このスラリーが、カーボンペーパ(カーボンクロスでもよい)等からなるガス拡散層36c、38cに塗布される。なお、使用する拡散層によっては、下地層を省略してもよい。多孔質のカーボンからなるガス拡散層36c、38cは、触媒被覆膜40にホットプレスされることにより、電解質膜・電極構造体10が製造される。
【0042】
さらに、図3中、(f)では、電解質膜・電極構造体10の両側に、第1セパレータ14及び第2セパレータ16が配置されるとともに、締め付け荷重が付与されて燃料電池12が組み付けられる。
【0043】
この場合、本実施形態では、触媒被覆膜40に多孔質のカーボンからなるガス拡散層36c、38cが接合される前に、固体高分子電解質膜34に対し、湿潤処理と乾燥処理とが繰り返し行われている(図4参照)。このため、固体高分子電解質膜34は、予め湿度変化に曝されており、実際に燃料電池12に組み込まれて発電及び停止が繰り返されても、湿度変化に伴う寸法変化が良好に抑制される。
【0044】
従って、固体高分子電解質膜34に寸法変化に伴う伸縮力の発生が抑制され、前記固体高分子電解質膜34の損傷等による耐久性の低下を阻止することができる。これにより、簡単な工程で、固体高分子電解質膜34の耐久性を良好に向上させることが可能になるという効果が得られる。
【0045】
ここで、本実施形態に係る処理の有無等による固体高分子電解質膜34の寸法変化率と寿命(耐久性)との関係が、図5に示されている。比較例1は、湿潤処理及び乾燥処理が行われていない固体高分子電解質膜34である。この固体高分子電解質膜34を用いた電解質膜・電極構造体10に対して、起動、発電及び乾燥・湿潤を繰り返した結果が示されている。なお、乾燥・湿潤としては、設定温度(例えば、70℃)状態で、湿度を加湿側(例えば、95%)、乾燥側(例えば、マイナス露点)及び加湿側に所定の時間だけ曝す処理が行われる。
【0046】
具体的には、燃料電池の温度を70℃にして、起動・発電・乾燥を繰り返し、膜破損に到るまで回数をカウントした。起動時にはアノードに相対湿度90%Rhの水素、カソードに相対湿度50%Rhの空気を流した。発電はOCV状態(負荷電流を引かない状態)を10分保った後、0.1、0.5、1.0A/cmと段階的に電流を増加させ、各々10分間発電した。この際、供給ガスの相対湿度は各々90%Rhのままで、1.0A/cm時の利用率が70%となるガス流量で発電した。その後、乾燥はマイナス露点の窒素ガスを20分間流した。その後、両極に95%Rhの空気を1分間流し湿潤させた。
【0047】
一方、実施例1は、固体高分子電解質膜34を設定温度(例えば、70℃)の水に浸漬した後、この設定温度で、湿度100%に所定の時間だけ保持する。さらに、温度を徐々に下げるとともに、湿度も徐々に下げて段階的に乾燥処理を行う。この操作を2回繰り返すことにより、実施例1が得られる。
【0048】
また、実施例2は、触媒被覆膜40を、例えば、100℃に加熱された多孔質吸着板上に装着し、一方の電極面に霧状水を添加する。その後、所定時間が経過して他方の電極面に同様に霧状水を添加する。この処理を3回繰り返し、これを用いてガス拡散層と一体化することにより、実施例2が得られる。
【0049】
さらにまた、実施例3は、触媒被覆膜40に対し、実施例2の処理に代えて実施例1の処理が施されている。また、実施例4は、固体高分子電解質膜34に対して実施例1の処理を行うとともに、触媒被覆膜40に対して実施例3の処理を行う。
【0050】
このため、図5から了解されるように、比較例1では、固体高分子電解質膜34の寸法変化率が大きくなり、寿命が著しく低下している。
【0051】
一方、実施例1〜4では、固体高分子電解質膜34及び/又は触媒被覆膜40に対して湿潤処理と乾燥処理とが繰り返し行われることにより、寸法変化が有効に抑制されている。従って、寸法変化が抑制される程、固体高分子電解質膜34の寿命が良好に向上するという効果が得られる。
【0052】
このように構成される燃料電池12の動作について、以下に説明する。
【0053】
先ず、図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔18aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔22aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔20aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0054】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔18aから第1セパレータ14の酸化剤ガス流路24に導入される。酸化剤ガスは、矢印C方向下方に移動しながら、電解質膜・電極構造体10を構成するカソード側電極36に供給される。
【0055】
一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔22aから第2セパレータ16の燃料ガス流路26に導入される。この燃料ガスは、矢印C方向下方に移動しながら、電解質膜・電極構造体10を構成するアノード側電極38に供給される。
【0056】
従って、電解質膜・電極構造体10では、カソード側電極36に供給される酸化剤ガスと、アノード側電極38に供給される燃料ガスとが、電極触媒層36a、38a内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。
【0057】
次いで、カソード側電極36に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔18bに沿って矢印A方向に排出される。一方、アノード側電極38に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス出口連通孔22bに沿って矢印A方向に排出される。
【0058】
また、冷却媒体入口連通孔20aに供給された冷却媒体は、第1及び第2セパレータ14、16間の冷却媒体流路28に導入され、矢印C方向下方に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体10を冷却した後、冷却媒体出口連通孔20bに排出される。
【符号の説明】
【0059】
10…電解質膜・電極構造体 12…燃料電池
14、16…セパレータ 18a…酸化剤ガス入口連通孔
18b…酸化剤ガス出口連通孔 20a…冷却媒体入口連通孔
20b…冷却媒体出口連通孔 22a…燃料ガス入口連通孔
22b…燃料ガス出口連通孔 24…酸化剤ガス流路
26…燃料ガス流路 28…冷却媒体流路
34…固体高分子電解質膜 36…カソード側電極
36a、38a…電極触媒層 36b、38b…下地層
36c、38c…ガス拡散層 38…アノード側電極
40…触媒被覆膜 50…処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系固体高分子電解質膜の両側に電極触媒層が設けられるとともに、前記電極触媒層の両側には、多孔質拡散層が積層される燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法であって、
前記炭化水素系固体高分子電解質膜に前記多孔質拡散層が接合される前に、前記炭化水素系固体高分子電解質膜に湿潤処理と乾燥処理とを繰り返し行う工程と、
前記炭化水素系固体高分子電解質膜の両側に、前記多孔質拡散層を一体化する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、前記炭化水素系固体高分子電解質膜の収縮量が規定範囲内に収束するまで、前記湿潤処理と前記乾燥処理とを繰り返すことを特徴とする燃料電池用電解質膜・電極構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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