説明

燃料電池製造装置及び燃料電池

【課題】燃料電池の組み付け作業の時間を短縮できる燃料電池製造装置及び燃料電池を提供する。
【解決手段】積層状態の複数のセル2を備えるセル部品31と、セル部品31を積層方向に加圧する加圧部品32とを有する燃料電池を製造する際に用いられる燃料電池製造装置30であって、セル部品31に規定荷重をかけた際の変位を測定する第1の変位測定部35と、加圧部品32に規定荷重をかけた際の変位を測定する第2の変位測定部45とを有する。組み付け作業時に、両変位に応じた厚さの長さ調整用シムを選択し、これをセル部品31と加圧部品32との間に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池とその製造の際に用いられる燃料電池製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、例えば積層状態の複数の発電最小単位であるセルを備えるセル部品と、このセル部品を積層方向に加圧する加圧部品とを有する構造となっているが、加圧部品がセル部品に付与する荷重を調整するために、加圧部材とセル部品との間に荷重調整ネジを備えたものがある。
【特許文献1】特開2006−108058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記構造の燃料電池では、セル部品と加圧部品とを組み付けた後に荷重調整ネジでセル部品に付与する荷重を調整することによって、燃料電池の組み付け作業が終了することになるが、この荷重調整には時間がかかり、その結果、燃料電池の組み付け作業全体の時間も長大化してしまう。
【0004】
そこで、本発明は、燃料電池の組み付け作業の時間を短縮できる燃料電池製造装置及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、積層状態の複数のセルを備えるセル部品と、該セル部品を積層方向に加圧する加圧部品とを有する燃料電池を製造する際に用いられる燃料電池製造装置であって、前記セル部品に規定荷重をかけた際の変位を測定する第1の変位測定部と、前記加圧部品に規定荷重をかけた際の変位を測定する第2の変位測定部とを有するものである。
【0006】
かかる構成によれば、第1の変位測定部でセル部品に規定荷重をかけた際の変位を測定し、第2の変位測定部で加圧部品に規定荷重をかけた際の変位を測定することができるため、組み付け作業時には、これらの変位に応じた厚さの長さ調整用シムを選択し、これをセル部品と加圧部品との間に配置して燃料電池を組み付ければ、それだけで所望の荷重をセル部品に付与することができ、荷重調整ネジによる荷重調整作業が不要となる。
【0007】
この場合、前記第1の変位測定部の測定結果と前記第2の変位測定部の測定結果とに基づいて、前記セル部品と前記加圧部品との間に挿入する長さ調整用シムを選択する選択部を有していても良い。この第2の変位測定部の測定結果は、例えば、前記加圧部品によって前記セル部品に所定の規定荷重をかけた際に当該加圧部品が受ける反力相当の規定荷重を当該加圧部品にかけた際の変位測定結果である。
【0008】
かかる構成によれば、第1の変位測定部の測定結果と第2の変位測定部の測定結果とから、選択部がセル部品と加圧部品との間に挿入する長さ調整用シムを自動的に選択するため、長さ調整用シムの選択作業が容易となる。
【0009】
また、本発明は、積層状態の複数のセルを備えるセル部品と、該セル部品を積層方向に加圧する加圧部品とを有する燃料電池において、前記セル部品と前記加圧部品との間に前記積層方向の長さ調整用シムが設けられている燃料電池としても提供できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、組み付け作業時には、選択した長さ調整用シムをセル部品と加圧部品との間に配置して燃料電池を組み付ければ、それだけで所望の荷重をセル部品に付与することができる。したがって、燃料電池の組み付け作業の時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る燃料電池製造装置及び燃料電池の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
まず、図1を参照して燃料電池1を説明する。燃料電池1は、発電の基本単位であるセル2が複数積層されたセル積層体3と、セル積層体3を支持するフレーム5とを備えている。セル2の積層方向におけるセル積層体3の一端には、ターミナルプレート7aが配置され、その外側に絶縁プレート8aが配置されている。さらにその外側には、フレーム5を構成するエンドプレート9aが配置されている。
【0013】
また、セル積層体3の他端には、ターミナルプレート7bが配置され、その外側に絶縁プレート8bが配置され、さらにその外側にはスプリングボックス13が配置されている。各ターミナルプレート7a,7bには、出力端子6a,6bが設けられている。スプリングボックス13の外側には、フレーム5を構成するエンドプレート9bが配置されており、これらスプリングボックス13とエンドプレート9bとの間には、セル積層方向の長さ調整用シム14及び当接板15が介装されている。
【0014】
セル積層体3の両側に配置された2枚のエンドプレート9a,9bの間には、セル2の積層方向に沿って複数のテンションプレート11が架設されている。各テンションプレート11は、両方の端部を各エンドプレート9a,9bにボルト12によってそれぞれ固定されており、2枚のエンドプレート9a,9bとともにフレーム5を構成している。
【0015】
スプリングボックス13には、図示略の複数のコイルスプリングが設けられており、2枚のエンドプレート9a,9bが複数のテンションプレート11を介して連結される際に、これらのコイルスプリングには圧縮力が導入される。これにより、スプリングボックス13は、絶縁プレート8bつまりセル積層体3を積層方向に付勢するようになっており、複数のセル2は、この付勢力によって締結される。スプリングボックス13の付勢力に対する反力はテンションプレート11が負担しており、これによってテンションプレート11には張力が作用している。
【0016】
ここで、スプリングボックス13には、その中央位置に、球面状をなしてエンドプレート9b側に突出する突起部20が形成されており、エンドプレート9bには、この突起部20と対向するように所定深さの穴部21が形成されている。そして、この穴部21内に、その底面側に円板状の長さ調整用シム14が、その開口側に当接板15が配置されている。当接板15には、一側の面に略球面状の凹部22が形成されており、この凹部22に突起部20を嵌合させて当接板15がスプリングボックス13に当接する。この燃料電池1には、荷重調整用ネジは設けられていない。
【0017】
なお、長さ調整用シム14は、後述するように複数種類の厚さのものが用意され、その中から適宜の厚さのものが選択されて挿入されるものである。このため、すべての長さ調整用シム14に凹部22を形成すると製造コストが増加することから、上記のように凹部22を有する当接板15と長さ調整用シム14とを別体としたが、長さ調整用シム14そのものに凹部22を形成して当接板15を廃止しても良い。
【0018】
次に、図2を参照して燃料電池製造装置30を説明する。
【0019】
上記した燃料電池1は、まず、一方で、エンドプレート9a上に、絶縁プレート8a、ターミナルプレート7a、セル積層体3、ターミナルプレート7b、絶縁プレート8b及びスプリングボックス13を搭載した状態まで組み付けられる。この組付体が積層状態の複数のセル2を備えるセル部品(被加圧部品)31となる。他方で、エンドプレート9bにボルト12で複数のテンションプレート11を固定する。この組付体が、セル部品31を組み付け後に積層方向に加圧する加圧部品32となる。
【0020】
そして、燃料電池製造装置30は、セル部品31を測定する第1の測定装置(第1の変位測定部)35を有している。
【0021】
この第1の測定装置35は、セル部品31が載置される台部36と、台部36上のセル部品31を上側から下方に押圧するシリンダ37とを有している。シリンダ37は、台部36の上方に位置固定で設けられるシリンダ本体38と、シリンダ本体38に対し下方に突出してセル部品31を押圧するピストン39とを備えている。
【0022】
また、この第1の測定装置35は、ピストン39に設けられてセル部品31にかけた荷重を検出するロードセル40と、シリンダ本体38に設けられて、ピストン39の変位量を検出する変位計41と、これらの検出値からセル部品31に規定荷重をかけた際の変位を測定する測定部42とを有している。ピストン39の下面には、セル部品31を加圧する際にスプリングボックス13の突起部20を嵌合させる、当接板15の凹部22と同形状の凹部43が形成されている。
【0023】
加えて、燃料電池製造装置30は、加圧部品32を測定する第2の測定装置(第2の変位測定部)45を有している。
【0024】
この第2の測定装置45は、加圧部品32のテンションプレート11をボルト12を取り付けるための取付穴46を利用してクランプするクランプ装置47を備えた台部48と、クランプ装置47にクランプされた加圧部品32のエンドプレート9bを下側から上方に押圧するシリンダ49とを有している。シリンダ49は、台部48の上方に位置固定で設けられたシリンダ本体50と、シリンダ本体50に対し上方に突出して加圧部品32を押圧するピストン51とを備えている。
【0025】
このピストン51は、エンドプレート9bの穴部21内に進入して穴部21の底面を押圧する。クランプ装置47は、台部48に固定されたシリンダ本体52と、シリンダ本体52から突出して取付穴46に軸部53を挿入するピストン54とを有するシリンダ55と、ピストン54の軸部53が挿入される挿入穴56を有しピストン54とでテンションプレート11を挟持する受部57とを有している。
【0026】
また、この第2の測定装置45は、ピストン51に設けられて加圧部品32にかけた荷重を検出するロードセル58と、シリンダ本体50に設けられて、ピストン51の変位量を検出する変位計59と、これらの検出値から加圧部品32に規定荷重をかけた際の変位を測定する測定部60とを有している。
【0027】
さらに、燃料電池製造装置30は、第1の測定装置35の測定部42の測定結果であるセル部品31に規定荷重をかけた際の変位と、第2の測定装置45の測定部60の測定結果である加圧部品32に規定荷重をかけた際の変位とに基づいて、セル部品31と加圧部品32との間に挿入する図1に示す長さ調整用シム14を自動選択して表示部62に表示する選択装置(選択部)61とを有している。
【0028】
つまり、第1の測定装置35において台部36からシリンダ37までの距離は規定であり、この第1の測定装置35においてセル部品31に規定荷重をかけた際のピストン39の変位からこの規定荷重をかけた際のセル部品31の突起部20の高さ位置を割り出すことができる。同様に、第2の測定装置45において台部48からシリンダ49までの距離は規定であり、この第2の測定装置45において加圧部品32に規定荷重をかけた際のピストン51の変位からこの規定荷重をかけた際の加圧部品32の穴部21の底面の高さ位置を割り出すことができる。
【0029】
これらから、セル部品31と加圧部品32とを組み付けてこれらに規定荷重を発生させる際に必要な長さ調整用シム14の厚さを割り出すことができる。そして、第1の測定装置35の測定部42で測定された測定結果と、第2の測定装置45の測定部60で測定された測定結果とから、長さ調整用シム14の最適厚さを自動選択するマトリクス表が予め実験的に求められており、選択装置61には、このマトリクス表が記憶されている。
【0030】
そして、同じ一つの燃料電池1を構成するセル部品31及び加圧部品32に対して、作業者が第1の測定装置35で上記のようにセル部品31に規定荷重をかけた際の変位を測定し、第2の測定装置45で上記のように加圧部品32に規定荷重をかけた際の変位を測定すると、測定部42および測定部60からこれらの測定結果が選択装置61に出力され、選択装置61では、これらの測定結果から、内蔵したマトリクス表に基づいて長さ調整用シム14の厚さを自動選択して表示部62に表示する。
【0031】
すると、組み付け作業時に、作業者はこの表示された厚さの長さ調整用シム14を、予め用意された複数種類の厚さの異なる長さ調整用シム14の中から取り出して、この長さ調整用シム14及び当接板15を間に配置してセル部品31に加圧部品32を組み付けることになる。すると、このように燃料電池1を組み付けただけで所望の荷重をセル部品31に付与することができ、荷重調整ネジによる荷重調整作業が不要となる。したがって、燃料電池1の組み付け作業の時間を短縮できる。
【0032】
なお、第1の測定装置35及び第2の測定装置45を分けずに、セル部品31及び加圧部品32の組み付けを行うとともに、このときに長さ調整用シム14の配置スペースに入り込んで配置スペースの側長を行う一つの測定装置を用いても良い。この場合、側長後にセル部品31と加圧部品32とを分解し、測定装置の測定結果に基づいて選択された長さ調整用シム14を間に入れて再度組み付けを行うことになる。
【0033】
また、上記した変位計41,59は、近接式、電位式、レーザー式等種々の側長方式のものを適用可能である。
【0034】
さらに、シリンダ37,49は、油圧式、空圧式、機械式等種々の加圧方式のものを適用可能である。
【0035】
加えて、燃料電池1をセル部品31と加圧部品32とに分割する場合に、上記したエンドプレート9aとテンションプレート11との連結位置で分割する以外にも、テンションプレート11をその中間位置で分割したり等、燃料電池1の形状等に合わせて最適な位置で分割することができる。
【0036】
また、第1の測定装置35及び第2の測定装置45の各部の形状や構造、クランプ方式、長さ調整用シム選択後の燃料電池1の組み付け方法等も燃料電池1の形状等に合わせて最適なものを選択すれば良い。
【0037】
加えて、エンドプレート9a,9b同士をテンションプレート11で連結するものではなくボルトで連結するタイプの燃料電池1にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の燃料電池の一実施形態を示す一部を断面とした側面図である。
【図2】本発明の燃料電池用製造装置の一実施形態を示す構成図である。
【符号の説明】
【0039】
1…燃料電池、2…セル、30…燃料電池製造装置、31…セル部品、32…加圧部品、35…第1の測定装置(第1の変位測定手段)、45…第2の測定装置(第2の変位測定手段)、61…選択装置(選択部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層状態の複数のセルを備えるセル部品と、該セル部品を積層方向に加圧する加圧部品とを有する燃料電池を製造する際に用いられる燃料電池製造装置であって、
前記セル部品に規定荷重をかけた際の変位を測定する第1の変位測定部と、
前記加圧部品に規定荷重をかけた際の変位を測定する第2の変位測定部とを有する燃料電池製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池製造装置において、
前記第1の変位測定部の測定結果と前記第2の変位測定部の測定結果とに基づいて、前記セル部品と前記加圧部品との間に挿入する長さ調整用シムを選択する選択部を有する燃料電池製造装置。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池製造装置において、
前記第2の変位測定部の測定結果は、前記加圧部品によって前記セル部品に所定の規定荷重をかけた際に当該加圧部品が受ける反力相当の規定荷重を当該加圧部品にかけた際の変位測定結果である燃料電池製造装置。
【請求項4】
積層状態の複数のセルを備えるセル部品と、該セル部品を積層方向に加圧する加圧部品とを有する燃料電池において、
前記セル部品と前記加圧部品との間に前記積層方向の長さ調整用シムが設けられている燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−181812(P2008−181812A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15492(P2007−15492)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】