説明

燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法

【課題】
炭素担持体上にナノサイズの白金−遷移金属合金粒子を担持させた合金触媒を製造することができ、白金の使用量を減らし製造原価を下げることができる燃料電池電極素材用白金系合金触媒を製造する。
【解決手段】
合金触媒の製造方法は、(a)カーボン素材と白金前駆体、遷移金属前駆体をエタノールに添加して分散させる段階と、(b)酢酸ナトリウム粉末またはエタノールを溶媒としたアンモニア溶液を前記(a)段階で作られた分散溶液に添加して攪拌する段階と、(c)水素化ホウ素ナトリウムを前記(b)段階で作られた合成溶液に添加して金属を還元する段階と、(d)その後、洗浄と乾燥過程を通して粉末状態の素材を得る段階からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法に関し、より詳しくは、高分子電解質膜燃料電池の電極素材として使用される高活性白金系ナノ合金触媒を製造することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は燃料が持っている化学エネルギーを燃焼により熱に変えるのではなく、燃料電池スタック内で電気化学的に反応させて電気エネルギーに変換させる一種の発電装置であり、産業用、家庭用及び車両駆動用電力を供給するだけでなく、小型の電気/電子製品、特に携帯用装置の電力供給にも適用される。
【0003】
現在、車両駆動のための電力供給源としては燃料電池のうち最も高い電力密度を有する高分子電解質膜燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell,Proton Exchange Membrane Fuel Cell)の形態が最も多く研究されており、これは低い作動温度による早い始動時間と早い電力変換反応時間を有する。
【0004】
このような高分子電解質膜燃料電池は、水素イオンが移動する高分子電解質膜を中心として膜の両側に電気化学反応が起きる触媒電極層が付着された膜・電極接合体(MEA)、反応気体を均一に分布させ、発生された電気を伝達する役割を行う気体拡散層(GDL)、反応気体及び冷却水の機密性と適正締結圧を維持させるためのガスケット及び締結器具、そして反応気体及び冷却水を移動させる分離板を含めて構成される。
【0005】
前記構成の燃料電池において、燃料である水素と酸化剤である酸素(空気)が分離板の流路を通してMEAのアノードとカソードに各々供給されるが、水素はアノード(‘燃料極’もしくは‘酸化極’と言う)に供給され、酸素(空気)はカソード(‘空気極’もしくは‘酸素極’、‘還元極’と言う)に供給される。
【0006】
アノードに供給された水素は電解質膜の両側に構成された電極層の触媒により水素イオン(H)と電子(e)に分解され、このうち水素イオンのみが選択的に陽イオン交換膜である電解質膜を通過してカソードに伝達され、同時に電子は導体である気体拡散層と分離板を通してカソードに伝達される。
【0007】
前記カソードでは電解質膜を通して供給された水素イオンと分離板を通して伝達された電子が空気供給装置によりカソードに供給された空気のうち酸素と出会い水を生成する反応を引き起こす。
【0008】
この時起きる水素イオンの移動に起因して外部導線を通した電子の流れが発生し、このような電子の流れにより電流が生成される。
【0009】
このような高分子電解質膜燃料電池の電極反応を反応式により表すと下記の通りである。
【0010】
アノードでの反応:2H → 4H + 4e
カソードでの反応:O + 4H + 4e → 2H
全体反応:2H + O → 2HO + 電気エネルギー + 熱エネルギー
【0011】
前記反応式に表されるように、アノードでは水素分子が分解されて4個の水素イオンと4個の電子が生成される。発生された電子は外部回路を通して移動することで電流を生成し、発生された水素イオンは電解質を通してカソードに移動して還元極反応を行う。
【0012】
従って、燃料電池の効率は電極反応の速度により大きく左右され、これに電極素材としてナノサイズの触媒が使用される。
燃料電池スタックのMEAは高分子電解質膜を間に置き、アノードとカソードが付着された構造を有し、アノードとカソードはナノサイズの白金系触媒粒子を含む触媒層がカーボンペーパーまたは炭素布(carbon cloth)などの電極基材上に付着されて形成される。
【0013】
MEAに反応物を均等に供給するためにカーボンペーパーまたは炭素布などの電極基材上にカーボンブラック粒子を塗布し、微細気孔を有する気体拡散層を形成したものを通常気体拡散電極と言い、この時気体拡散電極はカソードの触媒層で電気化学的に発生された反応副産物HOの排出のためにフッ素系樹脂で水素化処理が行われる。気体拡散層上に触媒層を適切な技法を使用してコーティングした後、電解質膜に熱圧着してMEAを構成することもでき、電解質膜に触媒層をコーティングした後、気体拡散層を接合してMEAを構成することもある。前記全ての構造で気体拡散電極は集電体の役割を同時に行う。
【0014】
しかしながら、燃料電池に使用される電極触媒は、現在まで白金(Pt)系の貴金属が主流を成しているため、製造原価が高いという短所があり、それ故、経済的な負担が大である。高分子電解質膜燃料電池でカソードの酸素還元反応はアノードの水素酸化反応に比べて過電圧が10倍以上大きい。更に、使用量が制限され、非常に高価である白金を使用することによって商用化段階が遅れている。
【0015】
燃料電池車両が商用化されるためには、kw当りの白金使用量が0.2g以下に減少されなければならないと報告されている。そのためには、多くの技術的困難が発生し、従って、非白金素材の開発を通して電極素材の経済的な困難を克服するための研究が活発に行われている。
【0016】
しかしながら、今日まで開発された非白金触媒の活性では、実際に燃料電池用電極に適用するのに困難があることが事実である。従って、非白金触媒素材の開発とは別途に白金の使用量を減らした合金触媒素材の研究及び開発が活発に行われている。
【0017】
合金触媒素材は純粋白金素材に比べて少量の白金を使用しながらでも触媒の活性が向上された高性能触媒電極を製造することができるようにし、これを通した商用化段階への移行を可能にする。
【0018】
合金触媒素材は2種類以上の相が合金化されている形態であり、一般的に2種類の元素が混ざり合っている混合触媒素材とは区別される。
【0019】
合金触媒として、カーボン粉末に高分散されている結晶化されたPt−M合金を挙げることができ、ここで、白金と3d電子帯遷移金属との合金は伝統的にポリオール工程により多く進められてきた。例えば特許文献1参照。
しかしながら、この方法は製造過程の複雑性、熱処理、そして洗浄工程で発生する様々な短所により大量生産には適合しないことが知られている。
【0020】
ポリオール工程による方法以外にも、カルボニル錯体によるPt−M/C触媒の合成が多く行われて、この方法はCOガスを利用して合成溶液内のクラスター(cluster)を形成し、これを乾燥させた後、加熱炉で水素雰囲気の熱処理を通して還元する方法である。しかしながら、有毒なCOガスを利用しており、合成時間が長時間所要するだけでなく、均一な粒子分布を保障することができない。
【0021】
【特許文献1】特開2007−090157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、炭素担持体上にナノサイズの白金−遷移金属合金粒子を担持させた合金触媒を製造することができ、燃料電池の高性能触媒電極を製造するのに使用することができ、白金の使用量を減らしながらも製造原価を下げることができる高活性合金触媒の製造方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記目的を達成するために、本発明は燃料電池電極素材用触媒の製造方法において、(a)カーボン素材と白金前駆体、遷移金属前駆体をエタノールに添加して分散させる段階と、(b)酢酸ナトリウム粉末またはエタノールを溶媒としたアンモニア溶液を前記(a)段階で作られた分散溶液に添加して攪拌する段階と、(c)水素化ホウ素ナトリウムを前記(b)段階で作られた合成溶液に添加して金属を還元する段階と、(d)その後、洗浄と乾燥過程を通して粉末状態の素材を得る段階を含めてからなることを特徴とする。
【0024】
ここで、前記(a)段階及び(b)段階において、エタノールは水分含量1%以下の無水エタノールを使用することを特徴とする。
【0025】
更に、前記(a)段階で、エタノールは全体金属対比800〜6400重量%を使用し、前記(b)段階で、酢酸ナトリウム粉末を全体金属対比5〜40重量%を添加するか、アンモニア溶液を純粋アンモニアの量が全体金属対比0.3〜4重量%となるように添加することを特徴とする。
【0026】
また、前記白金前駆体はPtCl、KPtCl、HPtCl・xHO、PtCl、PtBr及びPtOの中から選択された少なくとも1種の前駆体を使用することを特徴とする。
【0027】
更に、前記白金前駆体は純粋白金の量がカーボン素材対比5〜90重量%となるように使用することを特徴とする。
【0028】
また、前記遷移金属前駆体はNi、Co、Fe、Cr、Cu、Ru、Pd、Sn、V、Mo、W及びIrの中から一つの金属を含む化合物を使用することを特徴とする。
【0029】
更に、前記遷移金属前駆体はNiCl・6HO、CoCl・6HO、NiBr、NiCl、RuCl、CoCl、FeCl、FeCl、FeCl・4HO、FeCl・6HO、CrCl、CrCl、CrCl・6HO、CuBr、CuCl、CuCl・2HO、PdCl、PdCl、SnCl、SnBr、SnCl、SnCl・2HO、MoCl、MoCl、WCl、WCl、IrCl及びIrCl・xHOの中から選択された少なくとも1種の前駆体を使用することを特徴とする。
【0030】
また、前記遷移金属前駆体は純粋遷移金属の量が純粋白金対比5〜60重量%となるように使用することを特徴とする。
【0031】
更に、前記カーボン素材としてはカーボン粉末、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(ketjen black)、活性炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン、カーボンエアロゲル、カーボンキセロゲル、カーボンナノリングの中から選択された一つを使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法によると、炭素担持体上にナノサイズの白金−遷移金属合金粒子を担持させた合金触媒を製造することができ、このような合金触媒は燃料電池のアノード及びカソードに適用することができる高性能触媒電極を製造するのに有用に使用することできる。
【0033】
特に、本発明による合金触媒を使用すれば、白金の使用量を減少させることができるため、製造原価を下げながらも高い性能を表す燃料電池用触媒電極及び膜・電極接合体(MEA)を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法について説明する。
【0035】
本発明は燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法に関し、高分子電解質膜燃料電池の電極素材として使用される高活性白金系ナノ合金触媒を製造する方法に関する。特に、カソード電極に有用に適用することができる酸素還元反応のためのナノ合金触媒を製造する方法に関する。
【0036】
このような本発明の方法により製造される合金触媒は、高分散化された白金と遷移金属(ニッケル、コバルト、鉄、クロム、ルテニウム、銅など)の合金構造を基本とする素材であり、高分子電解質膜燃料電池の酸素還元極(カソード)と水素酸化極(アノード)の電極素材として全て適用され、これを使用する場合、既存の白金触媒素材に比べて白金の使用量を減少させることができるため、製造原価を下げることができるという長所がある。
【0037】
このような本発明の製造方法について白金−ニッケルの組合せを例とし、更に詳しく説明する。
【0038】
本発明で燃料電池電極素材用合金触媒の製造過程は、カーボン素材、金属前駆体、そして酢酸ナトリウムまたはアンモニアを注入する過程と、水素化ホウ素ナトリウムで金属を還元させる過程により行われる。ここで、酢酸ナトリウムとアンモニアは単独で注入したり、両方注入することができる。
【0039】
より好ましくは、カーボン素材と白金前駆体、遷移金属前駆体をエタノールに分散させ、これに酢酸ナトリウム粉末やエタノールを溶媒とするアンモニア溶液を添加した後、酢酸ナトリウム粉末とアンモニア溶液は単独で添加したり、両方添加することが可能である。本発明で合金ナノ粒子の形成を助ける役割を行う。
【0040】
先ず、カーボン素材、金属前駆体、そして合金ナノ粒子の形成を助ける酢酸ナトリウム及びアンモニアを注入する段階を説明すると、溶媒としてエタノールを使用し、水が少量含有された無水エタノールであるほど合金水準が高い触媒素材を得ることができる。好ましくは、水分含量1%以下の無水エタノールを使用する。
【0041】
即ち、適正量のカーボン素材をエタノール(例、水分含量1%以下の無水エタノール)に入れ、適正時間攪拌、超音波分散、攪拌の過程を通してよく分散させる。例えば、カーボン素材をエタノールに投入した後、約30分の攪拌と約20分の超音波分散、そして約30分の攪拌を実施して分散させる。
【0042】
この時、カーボン素材としてはカーボン粉末、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、活性炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン、カーボンエアロゲル、カーボンキセロゲル、カーボンナノリングなどの素材が使用される。
【0043】
その後、金属前駆体溶液は同一溶媒であるエタノール、例えば水分含量1%の無水エタノールに溶かして作り、この時、白金前駆体と遷移金属前駆体(例、ニッケル前駆体)をエタノールに溶かした後、カーボン素材が分散されたエタノール溶液に特別な制約なしに注入する。
【0044】
ここで使用された純粋白金の量がカーボン素材対比(カーボン素材100重量%に対し)5〜90重量%となるように白金前駆体の使用量を調整する。更に、使用された純粋遷移金属の量がカーボン素材対比5〜60重量%となるように遷移金属前駆体の使用量を調整する。
【0045】
前記白金前駆体としては、水分子がないPtClまたはKPtCl、PtCl、PtBr、PtOを使用したり、水分子があるHPtCl・xHOなどを使用することができ、これらの中から選択された少なくとも1種の前駆体が使用される。更に、前記遷移金属前駆体としてはNi、Co、Fe、Cr、Cu、Ru、Pd、Sn、V、Mo、W及びIrの中から一つの金属を含む化合物を使用することを特徴とする。例えば、遷移金属前駆体は、水分子がある化合物、即ちNi、Co、Fe、Cr、Cu、Sn、Irなどを含むNiCl・6HO、CoCl・6HO、FeCl・4HO、FeCl・6HO、CrCl・6HO、CuCl・2HO、SnCl・2HO、IrCl・xHOなどが使用され、または水分子がない化合物、即ちNi、Co、Cu、Fe、Ru、Cr、Pd、Sn、Mo、W、Irなどを含むNiBr、NiCl、RuCl、CoCl、FeCl、FeCl、CrCl、CrCl、CuBr、CuCl、PdCl、PdCl、SnCl、SnBr、SnCl、MoCl、MoCl、WCl、WCl、IrClなどが使用される。この時、遷移金属前駆体は1種、または場合によって2種以上の前駆体を使用することが可能である。
【0046】
本発明で溶媒であるエタノールは全体金属0.1g当り100〜800mL(全体金属対比800〜6400重量%:エタノール密度0.8g/mL)を使用することが好ましい。この時、エタノールの量が800重量%(エタノール100mL)未満である場合は金属を還元する際、合金ナノ粒子同士の凝集現象が発生して合金ナノ粒子の分散が悪くなり得る。更に、エタノールの量が6400重量%(エタノール800mL)より多い場合は、遷移金属の未還元が発生し得る。
【0047】
その後の連続工程で、適正量の酢酸ナトリウム粉末またはアンモニア溶液またはこれらの組合せを更に添加する。この時、添加する量は白金モル数の約10倍以上とする。溶媒(エタノール)の量が変わるにつれて、または同一溶媒(エタノール)の量である場合、金属の量が異なるにつれて適正量の酢酸ナトリウムとアンモニアを使用しなければならない。
【0048】
酢酸ナトリウムとアンモニアの使用量は溶媒(エタノール)と遷移金属の使用量によって適切に調節されなければならないが、この時、酢酸ナトリウムは全体金属対比(全体金属100重量%に対し)5〜40重量%を使用することが好ましい。
【0049】
この時、酢酸ナトリウムの量が5重量%未満の場合、還元前は白金前駆体化合物と遷移金属前駆体化合物の集合体形成の役割が弱くなるだけでなく、還元後には濃度が低いという理由により安定剤としての機能が落ち、ナノ粒子の狭いサイズ分布を得ることができなくなる。更に、酢酸ナトリウムの量が40重量%を超過する場合は、酢酸ナトリウムの濃度増加により白金前駆体化合物と遷移金属前駆体化合物との個別的な結合が更に強く生成され、還元後に個別的な白金と個別的な遷移金属ナノ粒子の生成が発生する。本発明では原子水準の合金が行われるように燃料電池での活性が高いため、適切な酢酸ナトリウムの濃度範囲が存在する。例えば、エタノールの使用量が全体金属対比3200重量%である時、酢酸ナトリウムは全体金属対比10〜25重量%を使用することができる。
【0050】
そして、酢酸ナトリウムの代りにアンモニア溶液を添加する時は、純粋アンモニアが全体金属対比(全体金属100重量%に対し)0.3〜4重量%使用されるようにアンモニア溶液の使用量を調整することが好ましい。ここで、アンモニア溶液はエタノール(例、水分含量1%以下の無水エタノール)にアンモニアが溶けている2モルのアンモニアエタノール溶液を使用する。
【0051】
アンモニアの量が0.3重量%未満である場合は、濃度が低く全体金属前駆体化合物との完全な相互作用が不可能である。これにより還元後、遷移金属が注入された量ほど還元されず、消失されるという問題が発生する。一方、アンモニアの量が4重量%を超過する場合は、全体金属前駆体化合物と完全な相互作用をするが、白金前駆体化合物との結合力が強いため、微量の白金が未還元されるという問題が発生する。例えば、エタノールの使用量が全体金属対比3200重量%である時、アンモニアを全体金属対比0.5〜2.2重量%を使用することができる。
【0052】
次いで、4〜12時間攪拌をするが、この時金属前駆体と酢酸ナトリウムまたはアンモニアの混合が完全に行われるように最低4時間以上攪拌をする。
【0053】
その後、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム粉末を溶媒の量に応じて適正量のエタノールに溶かした後、注入する。
【0054】
例えば、水素化ホウ素ナトリムを全体溶液体積の約1/6体積のエタノールに溶かす。この時、水素化ホウ素ナトリウムは全体金属の酸化状態を考慮して+4価である白金基準で2〜5当量が好ましい。1当量とは、+4価である白金1モルを還元させることができる水素化ホウ素ナトリウム1モルを意味する。還元剤注入時に溶液の攪拌速度を最大限高め、早い時間内に注入された水素化ホウ素ナトリウムが金属前駆体と出会い還元されるようにする。この時、再度強調する点は、水素化ホウ素ナトリウムを水に溶かすのではなく、エタノールに溶かして合成溶液に入れることで本発明が目的とするところを達成することができる。
【0055】
本発明において、白金前駆体及び遷移金属前駆体の混合溶液を投入する前から窒素またはアルゴンの注入を開始し、還元剤投入後に金属還元が完了されるまで継続して注入することで酸化物の生成を防止する。
【0056】
その後、洗浄過程を経た後、30〜100℃の空気条件で乾燥すれば、粉末状態の合金触媒製造される。この時、乾燥温度が30℃未満の場合、乾燥に時間が非常にかかるため非経済的であり、完全乾燥が困難である。更に、乾燥温度を100℃より高くすると、触媒が酸化してしまうという憂慮がある。洗浄過程はDI純水を利用する。
【0057】
以下、本発明を実施例に依拠して更に詳しく説明するが、本発明が下記の実施例により限定されるわけではない。
【0058】
実施例及び比較例
実施例1として、本発明の製造方法に依拠し、金属含量が40重量%であるPtNi/C合金電極素材を製造し、その過程を図1に図示したが、製造過程を詳しく説明すると下記の通りである。
【0059】
先ず、300mL無水エタノール(水分含量1%以下)に0.15gの炭素担持体(Cabot,Vulcan XC−72R)を入れた後、30分の攪拌、20分の超音波分散、そして再び30分の攪拌を行う。
【0060】
そして、白金前駆体(PtCl)0.1328gとニッケル前駆体(NiCl・6HO)0.0937gを各々の20mLバイアルに入れ、無水エタノールを各々20mLずつ満たして溶かした後、カーボンが分散された溶液に入れる。
【0061】
次いで、酢酸ナトリウム粉末を1.455gを分散溶液に更に入れ、攪拌を行う。攪拌持続時間は最低4時間以上行う。最低4時間の攪拌は酢酸ナトリウムがエタノールに溶けながら金属前駆体と結合されるようにするためである。
【0062】
そして、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)0.122gを20mLバイアルに入れた後、無水エタノール20mLを満たして1分間の外部振動を通して溶かし、水素化ホウ素ナトリウムが溶けている総60mLの無水エタノールを作り、約1分間攪拌を行う。一方、合成溶液は還元剤である水素化ホウ素ナトリウムを入れる前に、約15秒間超音波分散を行い、攪拌速度を最大限高める。この状態で総60mLの水素化ホウ素ナトリウムが溶けているエタノール溶液を金属前駆体が溶けている合成溶液に注入する。そして、約30分間急激な攪拌を行った後、適切に攪拌速度を下げた状態で最低1時間30分、維持する。水が含まれていない金属還元条件では最短2時間程度であれば全ての金属前駆体化合物が還元を行うと報告されている。
【0063】
その後、DI純水を利用した洗浄過程と70℃での乾燥過程を通してカーボンに担持された合金ナノ粒子触媒素材を得ることができる。
【0064】
図2は実施例1により製造された素材のサイズ及び形状が分かる透過電子顕微鏡(TEM)イメージである。これを参照すると、約3〜5nmサイズのPtNi合金ナノ粒子が形成されていることが分かる。更に、全体金属の重量が全体触媒の重量のうち40重量%を占めるため、非常に稠密に分散されていることが分かる。相当量の粒子は互いに付着している状態である。これは白金より約1/3以下の重量を有するニッケルが原子比%(atomic%)で50%で存在し、全体金属のモル数が増加したため、担持に必要な面積が不足であるほど多くの数の粒子が形成されることが分かる。
【0065】
実施例2は第2遷移金属をNiの代りにCoを用いて合金触媒を製造したことを除外し、実施例1と同様である。
【0066】
更に、比較例1は安定剤として酢酸ナトリウムを添加しなかったことを除外し、実施例1と同様である。
【0067】
比較例2は安定剤として酢酸ナトリウムの代りにアンモニウムを使用したことを除外し、実施例1と同様である。
【0068】
比較例3は安定剤として酢酸ナトリウムとアンモニウムを混合して使用したことを除外し、実施例1と同様である。
【0069】
図3は実施例1、比較例1〜3により製造された電極素材の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【0070】
実施例1は添加剤として酢酸ナトリウムを使用した。最下部の商用触媒(40重量%Pt/C(Johnson&Matthey))は比較のために、同一の測定条件で実施された。最も大きな差は、Pt(111)とPt(220)のピークが高い2θ値に移動されることがわかる。これはPtに比べてNiの原子サイズが約11%余り更に小さいためである。これにより置換型固溶体が生成される時、サイズが小さいNiにより格子定数が小さくなるため、XRD測定結果により更に高い2θ値に移動する。これを通して合金の水準を推測することができる。即ち、2θ値の変化量が大きいほど更に高い合金を意味する。結果的に、実施例1の製造過程を通して準備された電極素材は比較のための商用触媒(40重量%Pt/C(Johnson&Matthey))素材に比べて非常に高いピーク移動を見せるため、合金の水準が非常に高い。
【0071】
図4は実施例2の白金−コバルト合金触媒のX線回折(XRD)のグラフパターンである。下部分の商用触媒(40重量%Pt/C(Johnson&Matthey))は比較のために同一の測定条件で実施された。図3で説明した通り、最も大きい差はPt(111)とPt(220)のピークが高い2θ値に移動されることが分かる。これに対する説明は図3と同一である。
【0072】
図5は半電池で測定した40重量%のPtNi/C(実施例1)と商用触媒(Pt/C(Johnson&Matthey))の循環電位グラフである。ここで、電流密度は単位電極面積当りの電極に適用された白金1mg当りの値である。Pt/Cと比較して、水素の吸/脱着領域の面積がほぼ同じか、若干大きい。
【0073】
これに対する妥当な説明は下記の通りである。第1に、表面に白金がニッケルに比べて名目上の比率より更に高い表面濃度で存在するためである。第2に、測定された電極素材は熱処理を経ずに100℃以下の温度で乾燥過程のみ経たため、ニッケルとの合金により白金−ニッケル構造が非常に不均一となり得る。これにより白金のd電子帯の中心(d−band center)が純粋白金ナノ粒子の表面より上向きに移動される可能性がある。第4に、商用触媒であるPt/C(Johnson&Matthey)に比べて合金ナノ粒子の平均直径が少し小さいため、その分ほど表面積の増加が原因となり得る。このような結果は酢酸ナトリウムとアンモニアの効果と関連し得るが、例えば、広い水素の吸/脱着面積と純粋白金ナノ粒子と類似した酸化領域面積を通して見る時、表面に酸素還元反応の活性点となり得る白金原子が非常に露出されることを予想することができる。
【0074】
図6は実施例1により製造されたPtNi/Cの半電池での酸素還元反応を回転ディスク電極(Rotating−disk−electrode)を用いて測定した活性である。電解液は0.5Mの硫酸水溶液を使用した。図6のように、商用触媒である40重量%Pt/C(Johnson&Matthey)に比べて同一な電圧で電流密度が更に高い。硫酸水溶液を使用すれば、HSOイオンの吸着が支配的な環境となるため、OHイオンの被毒は影響をほぼ及ぼさない。従って、このような酸素還元反応の活性増加は表面白金の電子構造の変化、即ちd電子帯中心の下向き移動によるものと判断される。このような半電池での活性増加は、全体セルでの電流密度の測定にも性能向上と表れるものと見られ、図6から分かるように、商用触媒と比較して同等以上の性能を示すことが分かる。
【0075】
一方、本発明の合金触媒を使用して高分子電解質膜燃料電池用MEAを製造することができる。この時、合金触媒と水素イオン導電性高分子が含まれた触媒層をアノードとカソードに使用するか、アノードまたはカソードに使用し、アノードとカソードを高分子電解質膜の両端に位置させて製造する。この時、水素イオン導電性高分子は合金触媒対比20〜60重量%の含量ほど含ませて製造することができる。
【0076】
図7は燃料電池評価システムを利用して実施例1で製造した合金触媒の電流−電圧性能を測定した結果である。このためにMEAを製造し、単位電池を締結して燃料電池評価システムに適用、評価を行った。
【0077】
先ず、触媒スラリーを製造するために、実施例1の合金触媒を溶媒と混合し、超音波と攪拌を並行して完全に分散させた後、イオノマー(水素イオン導電性高分子)を添加し、再び超音波と攪拌を並行して完全に分散させる。この時、適切な固体含有量と粘度を合せるために、減圧して溶媒を蒸発させる。触媒スラリーの固体含有量は5〜30重量%が適切である。製造したスラリーは触媒の粒度を小さく均一にするために、回転粉砕機を利用して粉砕するが、使用するビーズは1〜10mmのサイズを利用し、触媒スラリー対比50〜500重量%の量を使用する。回転速度は20〜200rpmが適当であり、回転時間は0.1〜5時間が適切である。製造した最終触媒スラリーは、固体含有量(触媒、イオノマー)が8〜30重量%が適切である。これを剥離紙上にコーティングし、30〜130℃で乾燥させた後、熱圧着を通してMEAを製造した。熱圧着温度は100〜180℃が適切であり、熱圧着時間は0.5〜30分が適切であり、熱圧着圧力は50〜300kgfが適切である。熱圧着後、剥離紙を除去して最終MEAの製造を終える。製造したMEAは気体拡散層を両端にあて、単位電池を締結して評価する。
【0078】
図7に表されるように、本発明の合成法により製造されたPtNi/Cの単位電池の特性は、商用触媒であるPt/C触媒より更に優れた性能を示す。白金とニッケルを原子比率で1:1で製造したにも関わらず、商用純粋白金素材より優れた性能を示し、これは重量基準として白金の使用量が純粋白金対比約23.1%減少したにも拘わらず、商用純粋白金素材より優れた活性を示すことを意味する。
【0079】
図8は実施例1と比較例1〜3で製造した合金触媒のニッケルと白金の原子比を誘導結合プラズマ分光光度計を利用して測定した結果である。安定剤の種類と量によって合金比率を調節することが可能であることを表す。
【0080】
従って、本発明では白金のような高い電子密度のd電子帯を有する元素と遷移金属元素の合金ナノ粒子を合成することができ、白金と遷移金属の合金粒子をナノサイズでカーボンに担持させた触媒を製造することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は燃料電池電極素材用触媒の製造方法に関し、特に高分子電解質膜燃料電池の電極素材として使用される触媒の製造分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明による合金触媒(Pt−M/C)の製造過程を示した工程図である。
【図2】金属の原子比が1:1であり、金属含量が40重量%である実施例1のPtNi/C合金触媒の透過電子顕微鏡(TEM)イメージである。
【図3】実施例1及び比較例1〜3で製造された白金−ニッケル合金触媒のX線回折(XRD)グラフパターンである。
【図4】金属の原子比が1:1であり、金属含量が40重量%である実施例2の白金−コバルト合金触媒のX線回折(XRD)グラフパターンである。
【図5】実施例1で製造されたPtNi/C合金触媒の循環電圧電流の測定図面(循環電位グラフ)である。
【図6】実施例1で製造されたPtNi/C合金触媒の酸素還元反応に対する活性を測定した回転ディスク電極の実験結果を表した図面である。
【図7】実施例1で製造されたPtNi/C合金触媒の単位電池の評価結果を表した図面である。
【図8】実施例1で製造されたPtNi/C合金触媒のPt:Ni比率を誘導結合プラズマ分光光度計を通して測定した結果表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池電極素材用触媒の製造方法において、
(a)カーボン素材と白金前駆体、遷移金属前駆体をエタノールに添加して分散させる段階と、
(b)酢酸ナトリウム粉末またはエタノールを溶媒としたアンモニア溶液を前記(a)段階で作られた分散溶液に添加して攪拌する段階と、
(c)水素化ホウ素ナトリウムを前記(b)段階で作られた合成溶液に添加して金属を還元する段階と、
(d)その後、洗浄と乾燥過程を通して粉末状態の素材を得る段階、
を含めてからなることを特徴とする燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法。
【請求項2】
前記(a)段階及び(b)段階において、エタノールは水分含量1%以下の無水エタノールを使用することを特徴とする、請求項1記載の燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法。
【請求項3】
前記(a)段階で、エタノールは全体金属対比800〜6400重量%を使用し、前記(b)段階で、酢酸ナトリウム粉末を全体金属対比5〜40重量%を添加するか、アンモニア溶液を純粋アンモニアの量が全体金属対比0.3〜4重量%となるように添加することを特徴とする、請求項1記載の燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法。
【請求項4】
前記白金前駆体はPtCl、KPtCl、HPtCl・xHO、PtCl、PtBr及びPtOの中から選択された少なくとも1種の前駆体を使用することを特徴とする、請求項1記載の燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法。
【請求項5】
前記白金前駆体は純粋白金の量がカーボン素材対比5〜90重量%となるように使用することを特徴とする、請求項1または4記載の燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属前駆体はNi、Co、Fe、Cr、Cu、Ru、Pd、Sn、V、Mo、W及びIrの中から一つの金属を含む化合物を使用することを特徴とする、請求項1記載の燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法。
【請求項7】
前記遷移金属前駆体はNiCl・6HO、CoCl・6HO、NiBr、NiCl、RuCl、CoCl、FeCl、FeCl、FeCl・4HO、FeCl・6HO、CrCl、CrCl、CrCl・6HO、CuBr、CuCl、CuCl・2HO、PdCl、PdCl、SnCl、SnBr、SnCl、SnCl・2HO、MoCl、MoCl、WCl、WCl、IrCl及びIrCl・xHOの中から選択された少なくとも1種の前駆体を使用することを特徴とする、請求項6記載の燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法。
【請求項8】
前記遷移金属前駆体は純粋遷移金属の量が純粋白金対比5〜60重量%となるように使用することを特徴とする、請求項1、6または7のうちいずれか一項に記載の燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法。
【請求項9】
前記カーボン素材としてはカーボン粉末、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(ketjen black)、活性炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン、カーボンエアロゲル、カーボンキセロゲル、カーボンナノリングの中から選択された一つを使用することを特徴とする、請求項1記載の燃料電池電極素材用白金系合金触媒の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−218196(P2009−218196A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152703(P2008−152703)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(503434302)財団法人ソウル大学校産学協力財団 (32)
【氏名又は名称原語表記】Seoul National University Industry Foundation
【住所又は居所原語表記】San 4−2, Bongchun−dong, Kwanak−gu, Seoul, Korea
【Fターム(参考)】