説明

燃料電池

【課題】燃料電池において、水による膨潤性を有する電解質膜の膨潤収縮時における電解質膜と接着剤との剥離を抑制する。
【解決手段】水による膨潤性を有する炭化水素系高分子電解質膜430の両面に、それぞれ電極を形成したMEGAにおける電極が形成されていない非電極形成部に、接着剤によって樹脂フレーム44を接着したMEGAユニットを、セパレータ41を介在させて、複数積層させたスタック構造を有する燃料電池において、MEGAは、樹脂フレーム44と接着される非電極形成部の表面に、水による膨潤性を有するとともに、膨潤収縮時の接着剤45との密着性、および、炭化水素系高分子電解質膜430との密着性が、炭化水素系高分子電解質膜430と接着剤45との密着性よりも高いパーフルオロ系高分子電解質層(ナフィオン層438)を備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池には、プロトン伝導性を有する電解質膜の両面に、それぞれアノード(水素極)とカソード(酸素極)とを配置した膜電極接合体とセパレータとを交互に積層させたスタック構造を有するものがある(以下、このようなスタック構造を有する燃料電池を、燃料電池スタックとも呼ぶ)。この燃料電池スタックでは、膜電極接合体とセパレータとの間に、水素等のガスの漏洩を防止するためのガスケットが挟み込まれる(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
図5は、燃料電池の一例を示す説明図である。この燃料電池スタックでは、電解質膜1の発電領域となる中央部の両面に、それぞれアノード2a、および、カソード2cを形成し、アノード2a、および、カソード2cが形成されていない周縁部に、接着剤によって、樹脂製のフレーム部材3を接着する。そして、接着剤によって、樹脂製のフレーム部材3とセパレータ4とを接着する。この場合、樹脂製のフレーム部材3と、接着剤とが、ガスケットとして機能する。
【0004】
【特許文献1】特開2001−155745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に示した燃料電池において、電解質膜1として、水による膨潤性を有する電解質膜が用いられる場合がある。この場合、特に、電解質膜1の膨潤性が高い場合には、例えば、電解質膜1が、水素と酸素のとの電気化学反応によって生成された生成水を吸収して膨潤したり、乾燥して収縮したりする時に、応力によって、電解質膜1と接着剤との密着性が弱くなり、剥離するおそれがあった。そして、この剥離が生じると、ガスケットとしての機能が低下し、水素等のガスが漏洩するおそれがあった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池において、水による膨潤性を有する電解質膜の膨潤収縮時における電解質膜と接着剤との剥離を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題の少なくとも一部を解決するため、本発明では、以下の構成を採用した。
本発明の燃料電池は、
水による膨潤性を有する所定の電解質膜の両面に、それぞれ電極を形成した膜電極接合体と、該膜電極接合体における前記電極が形成されていない非電極形成部に、所定の接着剤によって接着された樹脂製のフレーム部材と、を備える膜電極接合体ユニットの両面にセパレータを有する燃料電池であって、
前記膜電極接合体は、前記フレーム部材と接着される前記非電極形成部の表面に、水による膨潤性を有するとともに、膨潤収縮時の前記接着剤との密着性、および、前記電解質膜との密着性が、前記電解質膜と前記接着剤との密着性よりも高い中間層を備えることを要旨とする。
【0008】
こうすることによって、電解質膜に接着剤を直接的に塗布して接着するよりも、密着性を向上させることができる。したがって、水による膨潤性を有する電解質膜の膨潤収縮時における電解質膜と接着剤との剥離を抑制することができる。なお、密着性は、例えば、熱水浸漬等の試験によって評価可能である。
【0009】
上記燃料電池において、
前記中間層の膨潤性は、前記電解質膜の膨潤性よりも低いことが好ましい。
【0010】
こうすることによって、電解質膜の膨潤収縮によって発生する応力を、中間層によって吸収、緩和することができる。したがって、上述した電解質膜と接着剤との剥離を、さらに抑制することができる。
【0011】
上記いずれかの燃料電池において、
前記電解質膜は、炭化水素系高分子電解質膜であり、
前記中間層は、スルホン酸基を有するものとしてもよい。
【0012】
炭化水素系高分子電解質膜は、フッ素系高分子電解質膜と比較して、ガス透過性が低い、耐熱性が高い、低温でのプロトン伝導性が高い等の優れた性質を有している。また、炭化水素系高分子電解質膜は、スルホン酸基を有しており、他のスルホン酸基を有する膜との密着性が良好である。本発明によって、高効率の燃料電池を構成することができる。
【0013】
上記燃料電池において、
前記中間層は、パーフルオロ系高分子電解質からなる層であるものとすることが好ましい。
【0014】
炭化水素系高分子電解質膜とパーフルオロ系高分子電解質との密着性は、炭化水素系高分子電解質膜と他の膜との密着性よりも良好であるからである。なお、パーフルオロ系高分子電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標)が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき以下の順序で説明する。
A.燃料電池スタックの構成:
B.燃料電池モジュールの構成:
C.燃料電池スタックの製造工程:
D.変形例:
【0016】
A.燃料電池スタックの構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池スタック100の概略構成を示す側面図である。この燃料電池スタック100は、水素と酸素との電気化学反応によって発電する単セルを複数積層させたスタック構造を有する。各単セルは、概ね、プロトン伝導性を有する電解質膜を挟んで、アノードと、カソードとを配置した構成となっている(図示省略)。単セルの積層数は、燃料電池スタック100に要求される出力に応じて任意に設定可能である。本実施例の燃料電池スタック100は、固体高分子型燃料電池であり、電解質膜として、炭化水素系高分子電解質膜を用いるものとした。炭化水素系高分子電解質膜は、フッ素系高分子電解質膜と比較して、ガス透過性が低い、耐熱性が高い、低温でのプロトン伝導性が高い等の優れた性質を有している。
【0017】
燃料電池スタック100は、一端から、エンドプレート10、絶縁板20、集電板30、複数の燃料電池モジュール40、集電板50、絶縁板60、エンドプレート70の順に積層することによって構成されている。これらには、燃料電池スタック100内に、水素や、空気や、冷却水を流すための図示しない供給口や、排出口が設けられている。水素は、図示しない水素タンクから供給される。また、空気や、冷却水は、図示しないポンプによって加圧されて供給される。燃料電池モジュール40は、後述するように、セパレータ41と、電解質膜等を備えるMEGAユニット42とによって構成されている。この燃料電池モジュール40については、後述する。
【0018】
なお、図示は省略しているが、燃料電池スタック100には、スタック構造のいずれかの箇所における接触抵抗の増加等による電池性能の低下を抑制するために、スタック構造の積層方向に、押圧力が加えられている。
【0019】
エンドプレート10、70は、剛性を確保するため、鋼等の金属によって形成されている。絶縁板20、60は、ゴムや、樹脂等の絶縁性部材によって形成されている。集電板30、50は、緻密質カーボンや、銅板などのガス不透過な導電性部材によって形成されている。集電板30、50には、それぞれ図示しない出力端子が設けられており、燃料電池スタック100で発電した電力を出力可能となっている。
【0020】
B.燃料電池モジュールの構成:
図2は、燃料電池モジュール40の分解斜視図である。燃料電池モジュール40は、セパレータ41と、MEGAユニット42とを積層させることによって構成されている。図示は省略したが、セパレータ41には、燃料ガスや、酸化剤ガスや、冷却水を流すための流路が形成されている。MEGAユニット42は、電解質膜の両面に電極を形成したMEGA43の両面に樹脂製のフレーム部材44(以下、樹脂フレーム44と呼ぶ)を接着剤によって接着したものである。MEGAユニット42は、本発明における膜電極接合体ユニットに相当する。MEGA43については、後から詳述する。
【0021】
図3は、燃料電池モジュール40の端部の断面図である。本実施例のMEGA43は、炭化水素系高分子電解質膜430の両面に、それぞれ電極を形成したものである。MEGA43の一方の面には、アノードとして、アノード側触媒層432aと、アノード側ガス拡散層434aと、アノード側金属多孔体層436aとが、この順序で積層されている。MEGA43の他方の面には、カソードとして、カソード側触媒層432cと、カソード側ガス拡散層434cと、カソード側金属多孔体層436cとが、この順序で積層されている。
【0022】
このMEGA43において、電極が形成されていない周縁部(非電極形成部)の炭化水素系高分子電解質膜430の表面には、パーフルオロ系高分子電解質層としてのナフィオン層438が形成されている。炭化水素系高分子電解質膜430と、ナフィオン層438とは、ともにスルホン酸基を有しており、互いに結合しやすい性質を有している。
【0023】
燃料電池モジュール40において、ナフィオン層438と、樹脂フレーム44とは、接着剤45によって接着されている。また、樹脂フレーム44と、セパレータ41とが、接着剤46によって接着されている。本実施例では、接着剤45,46として、エポキシ変成シリコンを主剤とする接着剤を用いるものとした。
【0024】
なお、接着剤45とナフィオン層438との密着性は、接着剤45と炭化水素系高分子電解質膜430との密着性よりも高い。また、炭化水素系高分子電解質膜430と、ナフィオン層438とは、ともに水による膨潤性を有している。そして、ナフィオン層438の膨潤性は、炭化水素系高分子電解質膜430の膨潤性よりも低い。
【0025】
C.燃料電池スタックの製造工程:
図4は、燃料電池スタック100の製造工程を示す説明図である。まず、炭化水素系高分子電解質膜430の両面の所定の領域に、アノード、および、カソードを形成し(ステップS100)、MEGA43を作成する。
【0026】
次に、MEGA43の非電極形成領域に、ナフィオン層438を形成する(ステップS110)。本実施例では、ナフィオン層438は、炭化水素系高分子電解質膜430が可塑する溶剤を含むナフィオン溶液をスプレー塗工することによって形成するものとした。ナフィオン溶液をローラや刷毛で塗布することによって、ナフィオン層438を形成するものとしてもよい。
【0027】
次に、ナフィオン層438を形成した領域に、接着剤45によって、樹脂フレーム44を接着し、MEGAユニット42を作製する(ステップS120)。
【0028】
次に、MEGAユニット42と、セパレータ41とを、接着剤46によって、交互に接着しつつ積層する(ステップS130)。
【0029】
そして、これらの積層方向の両端に、集電板30,50と、絶縁板20,60と、エンドプレート10,60とをそれぞれ配置する(ステップS140)。
【0030】
以上の工程によって、燃料電池スタック100が製造される。
【0031】
以上説明した本実施例の燃料電池スタック100では、MEGAユニット42において、炭化水素系高分子電解質膜430と、接着剤との間に、ナフィオン層438を備えている。このナフィオン層438は、水による膨潤性を有するとともに、膨潤収縮時の接着剤との密着性、および、炭化水素系高分子電解質膜430との密着性が、炭化水素系高分子電解質膜430と接着剤との密着性よりも高いので、炭化水素系高分子電解質膜430に接着剤を直接的に塗布して接着するよりも、密着性を向上させることができる。したがって、水による膨潤性を有する電解質膜の膨潤収縮時における電解質膜と接着剤との剥離を抑制することができる。
【0032】
また、ナフィオン層438の膨潤性は、炭化水素系高分子電解質膜430の膨潤性よりも低いので、炭化水素系高分子電解質膜430の膨潤収縮によって発生する応力を、ナフィオン層438によって吸収、緩和することができる。
D.変形例:
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形例が可能である。
【0033】
D1.変形例1:
上記実施例では、電解質膜として、炭化水素系高分子電解質膜を用いるものとしたが、これに限られない。水による膨潤性を有する他の電解質膜を用いるものよしてもよい。
【0034】
D2.変形例2:
上記実施例では、電解質膜と接着剤と間に配置される中間層として、ナフィオン層を用いるものとしたが、これに限られない。中間層として、他のパーフルオロ系高分子電解質層を用いるようにしてもよい。一般に、水による膨潤性を有するとともに、膨潤収縮時の接着剤との密着性、および、電解質膜との密着性が、電解質膜と接着剤との密着性よりも高い中間層を用いればよい。
【0035】
D3.変形例3:
上記実施例では、本発明を適用した燃料電池の一例として、複数のMEGAユニット42とセパレータ41とを交互に積層させた燃料電池スタック100について説明したが、1つのMEGAユニット42を2枚のセパレータ41によって挟持した燃料電池(単電池)としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池スタック100の概略構成を示す側面図である。
【図2】燃料電池モジュール40の分解斜視図である。
【図3】燃料電池モジュール40の端部の断面図である。
【図4】燃料電池スタック100の製造工程を示す説明図である。
【図5】燃料電池の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
100…燃料電池スタック
10,70…エンドプレート
20,60…絶縁板
30,50…集電板
40…燃料電池モジュール
41…セパレータ
42…MEGAユニット
43…MEGA
44…フレーム部材(樹脂フレーム)
45,46…接着剤
430…炭化水素系高分子電解質膜
432a…アノード側触媒層
432c…カソード側触媒層
434a…アノード側ガス拡散層
434c…カソード側ガス拡散層
436a…アノード側金属多孔体層
436c…カソード側金属多孔体層
438…ナフィオン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水による膨潤性を有する所定の電解質膜の両面に、それぞれ電極を形成した膜電極接合体と、該膜電極接合体における前記電極が形成されていない非電極形成部に、所定の接着剤によって接着された樹脂製のフレーム部材と、を備える膜電極接合体ユニットの両面にセパレータを有する燃料電池であって、
前記膜電極接合体は、前記フレーム部材と接着される前記非電極形成部の表面に、水による膨潤性を有するとともに、膨潤収縮時の前記接着剤との密着性、および、前記電解質膜との密着性が、前記電解質膜と前記接着剤との密着性よりも高い中間層を備える、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記中間層の膨潤性は、前記電解質膜の膨潤性よりも低い、
燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2記載の燃料電池であって、
前記電解質膜は、炭化水素系高分子電解質膜であり、
前記中間層は、スルホン酸基を有する、
燃料電池。
【請求項4】
請求項3記載の燃料電池であって、
前記中間層は、パーフルオロ系高分子電解質からなる層である、
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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