説明

燃料電池

【課題】積層した単セル間の反応分布が均一であるとともに、低電流密度での低出力運転でも流路溝から水滴が速やかに排出され、安定した電池出力の燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池は、膜電極接合体1が両側から燃料流路溝22が設けられた燃料セパレータ板3と酸化剤流路溝23が設けられた酸化剤セパレータ板2とで挟持された単電池が複数個積層されて構成される燃料電池スタックを備え、膜電極接合体1、燃料セパレータ板3および酸化剤セパレータ板2には、積層方向に貫通する燃料連通マニホールドが設けられ、燃料流路溝は、途中で燃料連通マニホールドにより連通されており、燃料連通マニホールドは、燃料電池スタック内で複数に独立した空間に分割される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気化学的な反応を利用して発電する燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜が両側から負極電極と正極電極とで挟持される膜電極接合体が、両側から燃料と酸化剤とをそれぞれ負極電極と正極電極とに供給する燃料セパレータ板と酸化剤セパレータ板とで挟持される複数の単電池を有する。燃料セパレータ板および酸化剤セパレータ板それぞれの膜電極接合体に接する面の中央部に多数の燃料流路溝と酸化剤流路溝が蛇腹状や直線状に形成されている。さらに、燃料セパレータ板および酸化剤セパレータ板それぞれの外縁部に積層方向に貫通した各種マニホールドが設けられている。そして、燃料流路溝、酸化剤流路溝、各種マニホールドを囲繞するようなガスケットが膜電極接合体を中心にした面対称な燃料セパレータ板および酸化剤セパレータ板の位置に加圧されながら挟持されて単電池を構成している。そしてこの単電池を数十〜数百枚順次積層して燃料電池スタックを構成している。
【0003】
そして、燃料電池の出力を安定化するために、単電池面内の燃料流路溝と酸化剤流路溝とにそれぞれ燃料と酸化剤とを均一に配流し、且つ、単電池の積層方向への燃料と酸化剤とを均一に配流する。
また、燃料流路溝と酸化剤流路溝との中に電池反応により生成した水滴はそれぞれ燃料と酸化剤の燃料極と酸化剤極への拡散の阻害要因になるため、速やかに排出しなければならない。特に、燃料および酸化剤の量が相対的に少なくなり水滴の排出がより困難になる低電流密度での低出力運転でも速やかに排出しなければならない。そこで、流路の途中に、流路溝を複数連通させた集合孔を設けている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−100458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流路溝中の水滴を排出する駆動力は、水滴が閉塞した流路溝の入口と出口との間の圧力差であり、圧力差が小さければ水滴は排出され難く、圧力差が大きければ水滴は排出され易い。そして、流路の途中に複数の流路溝を連通する集合孔を設けたときには、流路溝を閉塞した水滴にかかる圧力差は、閉塞された流路溝の場所に因るが、ガス供給孔と集合孔間の差圧、集合孔と集合孔間の差圧、集合孔とガス排出孔間の差圧のいずれかである。
【0006】
一方、集合孔を設けないときには、流路溝を閉塞した水滴に加わる圧力差は、ガス供給孔と排出孔間の差圧である。このように、集合孔を設けたときに水滴に加わる圧力差は、集合孔を設けないときに比べて小さいので、集合孔を設けることにより水滴の排出が困難になるという問題がある。特に、燃料および酸化剤の量が相対的に少なく、圧力差が小さくなる低電流密度である低出力運転では水滴の排出がより困難になり、電池出力が不安定になるという問題がある。
【0007】
この発明の目的は、積層した単電池間の反応分布が均一であるとともに、低電流密度である低出力運転でも流路溝から水滴が速やかに排出され、安定した電池出力の燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係わる燃料電池は、電解質膜が両側から負極電極と正極電極とで挟持される膜電極接合体が両側から上記膜電極接合体が接する面の中央部に上記負極電極に燃料を供給する燃料流路溝が設けられた燃料セパレータ板と上記膜電極接合体が接する面の中央部に上記正極電極に酸化剤を供給する酸化剤流路溝が設けられた酸化剤セパレータ板とで挟持された単電池が複数個積層されて構成される燃料電池スタックを備える燃料電池において、上記膜電極接合体、上記燃料セパレータ板および上記酸化剤セパレータ板には、積層方向に貫通する燃料連通マニホールドが設けられ、上記燃料流路溝は、途中で上記燃料連通マニホールドにより連通されており、上記燃料連通マニホールドは、上記燃料電池スタック内で複数に独立した空間に分割される。
【0009】
この発明に係わる別の燃料電池は、電解質膜が両側から負極電極と正極電極とで挟持された膜電極接合体が両側から上記膜電極接合体が接する面の中央部に上記負極電極に燃料を供給する燃料流路溝が設けられた燃料セパレータ板と上記膜電極接合体が接する面の中央部に上記正極電極に酸化剤を供給する酸化剤流路溝が設けられた酸化剤セパレータ板とで挟持された単電池が複数個積層されて構成される燃料電池スタックを備える燃料電池において、上記膜電極接合体、上記燃料セパレータ板および上記酸化剤セパレータ板には、積層方向に貫通する酸化剤連通マニホールドが設けられ、上記酸化剤流路溝は、途中で上記酸化剤連通マニホールドにより連通されており、上記酸化剤連通マニホールドは、上記燃料電池スタック内で複数に独立した空間に分割される。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係わる燃料電池の効果は、燃料連通マニホールドまたは酸化剤連通マニホールドを2つ以上に分割したので、燃料流路溝または酸化剤流路溝を閉塞する水滴に加わる圧が大きくなり、低出力発電でも燃料流路溝または酸化剤流路溝からの水滴の排出を可能にし、電池出力を安定化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係わる燃料電池の単電池の断面図である。図2は、実施の形態1に係わる膜電極接合体の平面図である。図3は、実施の形態1に係わる燃料セパレータ板の平面図である。図4は、実施の形態1に係わる酸化剤セパレータ板の平面図である。図5は、実施の形態1に係わる燃料電池スタックの透視斜視図である。図6は、実施の形態1に係わる燃料電池の外観図である。
この発明の実施の形態1に係わる燃料電池は、電解質膜として固体高分子電解質、燃料として水素、酸化剤として酸素を用いた固体高分子型燃料電地である。なお、この発明はリン酸型燃料電池やダイレクトメタノール形燃料電池など他の燃料電池にも適用できる。
【0012】
この発明の実施の形態1に係わる固体高分子型燃料電池(以下、「燃料電池」と称す)を構成する単電池は、図1に示すように、膜電極接合体1、その膜電極接合体1を両側から挟持する導電性を有する酸化剤セパレータ板2および燃料セパレータ板3、膜電極接合体1と酸化剤セパレータ板2および燃料セパレータ板3との間にそれぞれ配置されているガスケット4を有する。通常、燃料電池は、数十から数百個の単電池が直列に積層されて燃料電池スタックを構成している。そして、燃料電池スタックの両端面から加重を加えて、電気的な接続と燃料および酸化剤のシールを行っている。
【0013】
この膜電極接合体1は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜(以下、「電解質膜」と称す)5、電解質膜5の片面の中央部に接する正極触媒層6、電解質膜5の他の片面の中央部に接する負極触媒層7、正極触媒層6を覆う酸化剤電極基材8、負極触媒層7を覆う燃料電極基材9、正極触媒層6と負極触媒層7のそれぞれの外周に接し、電解質膜5の外縁部に面した枠フィルム10を有する。この負極触媒層7と燃料電極基材9とで負極電極が、正極触媒層6と酸化剤電極基材8とで正極電極が構成されている。また、電解質膜5は、パーフルオロスルフォン酸膜であるナフィオン(登録商標)膜である。
【0014】
また、正極触媒層6は、白金が担持されたカーボンブラック粒子とパーフルオロ系高分子電解質との混合物であり、電解質膜5の片面の中央部に積層されている。また、負極触媒層7は、白金―ルテニウム系合金が担持されたカーボンブラック粒子とパーフルオロ系高分子電解質との混合物であり、電解質膜5の中央部の正極触媒層6が形成された面の反対面に積層されている。
また、酸化剤電極基材8と燃料電極基材9は、カーボンペーパーである。
また、枠フィルム10は、正極触媒層6と負極触媒層7を外周から支持している。
【0015】
膜電極接合体1は、図2に示すように、外縁部12に、積層方向に貫通する燃料供給マニホールド14、燃料排出マニホールド15、燃料連通マニホールド51、酸化剤供給マニホールド16、酸化剤排出マニホールド17、冷却水供給マニホールド18および冷却水排出マニホールド19が設けられている。そして、枠フィルム10は、積層方向に貫通する燃料供給マニホールド14、燃料排出マニホールド15、燃料連通マニホールド51、酸化剤供給マニホールド16、酸化剤排出マニホールド17、冷却水供給マニホールド18および冷却水排出マニホールド19が設けられている。また、電解質膜5は、枠フィルム10と重ね合わされたとき枠フィルム10の燃料供給マニホールド14、燃料排出マニホールド15、燃料連通マニホールド51、酸化剤供給マニホールド16、酸化剤排出マニホールド17、冷却水供給マニホールド18および冷却水排出マニホールド19と重畳する位置に孔が開けられている。
なお、膜電極接合体1に設けた各種マニホールドの位置や形状は上述の内容に限るものではない。
【0016】
酸化剤セパレータ板2と燃料セパレータ板3は、カーボンフィラーをポリフェニレンサルファイド樹脂によって結合した黒鉛板である。
燃料セパレータ板3は、図3に示すように、外縁部13に、積層方向に貫通する燃料供給マニホールド14、燃料排出マニホールド15、燃料連通マニホールド51、酸化剤供給マニホールド16、酸化剤排出マニホールド17、冷却水供給マニホールド18および冷却水排出マニホールド19が設けられている。
【0017】
また、燃料セパレータ板3は、膜電極接合体1の燃料電極基材9が接する反応領域20に、燃料流路溝21が設けられている。燃料流路溝21は、途中で2つに分けられており、燃料流路溝21a、燃料流路溝21bからなり、反応領域20内の燃料流路22(図1)を形成している。燃料流路22は、燃料流路溝21を燃料電極基材9が蓋をすることにより形成される流路である。燃料連通マニホールド51は、燃料流路溝21aと燃料流路溝21bとを連通している。
燃料流路溝21aと燃料流路溝21bは、それぞれ6本である。なお、燃料流路溝21a、21bの数は以下の説明にために設定した値であり、これに限るものではない。
燃料電池に供給された燃料は、燃料供給マニホールド14、燃料流路溝21a、燃料連通マニホールド51、燃料流路溝21b、燃料排出マニホールド15の順に流れる。
【0018】
酸化剤セパレータ板2は、図4に示すように、外縁部13に、積層方向に貫通する燃料供給マニホールド14、燃料排出マニホールド15、燃料連通マニホールド51、酸化剤供給マニホールド16、酸化剤排出マニホールド17、冷却水供給マニホールド18および冷却水排出マニホールド19が設けられている。
また、酸化剤セパレータ板2は、酸化剤電極基材8に接する反応領域20に、酸化剤流路溝27が設けられている。酸化剤流路23(図1)は、酸化剤流路溝27を酸化剤電極基材8が蓋をすることにより形成される流路である。
燃料電池に供給された酸化剤は、酸化剤供給マニホールド16、酸化剤流路溝27、酸化剤排出マニホールド17の順に流れる。
【0019】
単電池を組み立てるとき、燃料セパレータ板3の燃料供給マニホールド14、膜電極接合体1の燃料供給マニホールド14および酸化剤セパレータ板2の燃料供給マニホールド14を連なるようにし、燃料セパレータ板3の燃料排出マニホールド15、膜電極接合体1の燃料排出マニホールド15および酸化剤セパレータ板2の燃料排出マニホールド15を連なるようにし、燃料セパレータ板3の酸化剤供給マニホールド16、膜電極接合体1の酸化剤供給マニホールド16および酸化剤セパレータ板2の酸化剤供給マニホールド16を連なるようにし、燃料セパレータ板3の酸化剤排出マニホールド17、膜電極接合体1の酸化剤排出マニホールド17および酸化剤セパレータ板2の酸化剤排出マニホールド17を連なるようにし、燃料セパレータ板3の冷却水供給マニホールド18、膜電極接合体1の冷却水供給マニホールド18および酸化剤セパレータ板2の冷却水供給マニホールド18を連なるようにし、燃料セパレータ板3の冷却水排出マニホールド19、膜電極接合体1の冷却水排出マニホールド19および酸化剤セパレータ板2の冷却水排出マニホールド19を連なるようにして燃料セパレータ板3、膜電極接合体1および酸化剤セパレータ板2を積層する。
【0020】
この実施の形態1に係わる燃料電池は、単電池が80個積層された燃料電池スタックを有する。
単電池を80個積層するとき、各単電池の燃料供給マニホールド14は連なっている。そして、一方の端に積層された単電池の酸化剤セパレータ板2に設けられた燃料供給マニホールド14を燃料供給口としてそこに燃料が供給される。
単電池を80個積層するとき、各単電池の燃料排出マニホールド15は連なっている。そして、他方の端に積層された単電池の燃料セパレータ板3に設けられた燃料排出マニホールド15を燃料排出口としてそこから燃料の残分が排出される。
【0021】
単電池を80個積層するとき、各単電池の酸化剤供給マニホールド16は連なっている。そして、他方の端に積層された単電池の燃料セパレータ板3に設けられた酸化剤供給マニホールド16を酸化剤供給口としてそこに酸化剤が供給される。
単電池を80個積層するとき、各単電池の酸化剤排出マニホールド17は連なっている。そして、一方の端に積層された単電池の酸化剤セパレータ板2に設けられた酸化剤排出マニホールド17を酸化剤排出口としてそこから酸化剤の残分が排出される。
【0022】
単電池を80個積層するとき、各単電池の冷却水供給マニホールド18は連なっている。そして、一方の端に積層された単電池の酸化剤セパレータ板2に設けられた冷却水供給マニホールド18を冷却水供給口としてそこに冷却水が供給される。
単電池を80個積層するとき、各単電池の冷却水排出マニホールド19は連なっている。そして、他方の端に積層された単電池の燃料セパレータ板3に設けられた冷却水排出マニホールド19を冷却水排出口としてそこから冷却水が排出される。
【0023】
図5は、この実施の形態1の単電池を80個積層して燃料電池スタックを構成したときの燃料連通マニホールドの透過斜視図である。
単電池を80個積層するとき、20個の単電池を1つのグループとして、4つのグループに区分けする。そして、グループ毎に各単電池の燃料連通マニホールド51が連なるように積層する。それから、4つの積層されたグループを積層するとき、燃料連通マニホールド51が仕切られるように、図5に示すように、3つの積層されたグループの一方の端に積層された単電池の燃料連通マニホールド51を仕切52で閉鎖する。
燃料供給マニホールド14と1つの仕切られた燃料連通マニホールド51とを連通する燃料流路溝21aは、120本であり、1つの仕切られた燃料連通マニホールド51と燃料排出マニホールド15とを連通する燃料流路溝21bは、120本である。
【0024】
図6は、この実施の形態1に係わる燃料電池の外観図である。
燃料電池は、図6に示すように、80個の単電池を積層した燃料電池スタック41、燃料電池スタック41の両端に電池出力を取り出す出力端子46、燃料電池スタック41を締付ける端板43を備える。燃料電池スタック41の一方の端の出力端子46と端板43に図示しない燃料供給口、酸化剤排出口、冷却水供給口が形成されている。また、燃料電池スタック41の他方の端の出力端子46と端板43に図示しない燃料排出口、酸化剤供給口、冷却水排出口が形成されている。そして、図示しないシャフトまたは皿バネなどの弾性体により締結されている。
【0025】
次に、実施の形態1に係わる燃料電池の動作について説明する。
図示しない酸化剤供給口より供給された酸化剤としての酸素ガスは、酸化剤流路23を流れ、酸化剤電極基材8内を拡散して正極触媒層6に供給される。一方、図示しない燃料供給口より供給された燃料としての水素ガスは、燃料流路22を流れ、燃料電極基材9内を拡散して負極触媒層7に供給される。このとき、正極触媒層6と負極触媒層7とは電気的に外部で接続すれば、正極触媒層6では式(1)の反応が生じ、酸化剤流路23を通って未反応酸素と水とが図示しない酸化剤排出口から排出される。また、負極触媒層7では式(2)の反応が生じ未反応水素ガスは燃料流路22を流れて図示しない燃料排出口より排出される。
【0026】
正極反応:2H+2e+1/2O→HO (1)
負極反応:H→2H+2e (2)
【0027】
このとき負極触媒層7上で水素はイオン化されてプロトンとなり、水分子を伴って電解質膜5中を正極触媒層6上まで移動し、酸素と反応して生成水を生ずる。生成水は飽和蒸気圧以上になると結露して酸化剤流路23で水滴となる。一方、負極触媒層7上では水素が消費されるため、相対的に水蒸気分圧が上昇し、飽和蒸気圧以上になると結露して燃料流路22で水滴となる。
【0028】
次に、80個の単電池を20個ずつの4グループに区分けし、グループ毎に燃料連通マニホールド51が連なるようにし、グループ間の燃料連通マニホールド51を3個の仕切52で仕切った実施の形態1に係わる燃料電池と、80個の単電池の燃料連通マニホールドが連なっている従来の燃料電池との電池出力の特性を評価した。電流密度0.05A/cm、燃料利用率80%、酸化剤利用率50%での低出力運転の発電を行い、各単電池の出力電圧の経時的変化の最大値ΔVを計測した。
【0029】
図7は、従来の燃料電池を低出力運転したときの各単電池の出力電圧の推移を示すグラフである。
従来の燃料電池では、図7から分かるように、出力電圧が大きく低下するときがあり、出力電圧が大きく変動する。単電池の瞬間的な出力電圧の変化の最大値ΔVは約0.1Vであった。出力電圧の低下は燃料流路溝21を閉塞する水滴が排出されず、水滴により閉塞された燃料流路溝21の部分または水滴により閉塞された燃料流路溝21の地点の下流の領域で発電が行われなくなったためである。燃料流路溝21が水滴により閉塞された単電池では電流密度が大きくなり、発熱量が大きくなるので、温度が上昇して燃料流路溝21を閉塞する水滴がなくなり、再び面内全域で発電できるようになるが、その間、電池出力が不安定になったと推察される。
【0030】
従来の燃料電池では、例えば、1個の単電池の6本の燃料流路溝21bが水滴により閉塞されたとき、燃料は残りの474本の燃料流路溝21bを流れることになるので、各燃料流路溝21bの燃料流量は約1.3%増加するのみで、水滴により閉塞された燃料流路溝21bの前後の差圧の増加は僅かである。
【0031】
図8は、この発明の実施の形態1に係わる燃料電池を低出力運転したときの各単電池の出力電圧の推移を示すグラフである。
一方、実施の形態1に係わる燃料電池では、仕切52を用いて燃料連通マニホールド51が4分割されており、各単電池の出力電圧の変化は僅かである。各単電池の出力電圧の変化の最大値ΔVは約0.01Vであった。
【0032】
実施の形態1に係わる燃料電池では、例えば、1個の単電池の6本の燃料流路溝21bが水滴に閉塞されたとき、燃料は残りの114本の燃料流路溝21bを流れることになるので、各燃料流路溝21bの燃料流量は約5.2%増加し、水滴により閉塞された燃料流路溝21bの前後の差圧の増加は大きい。
【0033】
このような燃料電池は、複数個の単電池が複数のグループに区分けされ、グループに属する単電池間では燃料連通マニホールドが連なり、他のグループに属する単電池間では燃料連通マニホールドが連なっていないので、あるグループの単電池の燃料流路溝が水滴で閉塞されたとき、あるグループの燃料連通マニホールドと燃料排出マニホールドとの圧力差が、グループ化されていないときの燃料連通マニホールドと燃料排出マニホールドとの圧力差より大きくなり、閉塞する水滴をより容易に燃料排出マニホールドに排出することができ、電池出力が不安定になりやすい低電流密度での低出力運転でも電池出力を安定化することができる。
【0034】
なお、この実施の形態1に係わる燃料電池では、燃料流路の途中に燃料連通マニホールド51を設け、80個の単電池を複数のグループに区分けし、グループ毎の燃料連通マニホールド51が連なるように仕切52を配置しているが、酸化剤流路の途中に酸化剤連通マニホールドを設け、80個の単電池を複数のグループに区分けし、グループ毎に酸化剤連通マニホールドが連なるように仕切52を配置しても同様の効果が得られる。
【0035】
実施の形態2.
図9は、この発明の実施の形態2に係わる燃料電池の第2の燃料セパレータ板の平面図である。図10は、図9のA−A断面での第2の燃料セパレータ板の断面図である。
この発明の実施の形態2に係わる燃料電池は、実施の形態1に係わる燃料電池と仕切52が一体化された第2の燃料セパレータ板31が追加され、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
この実施の形態2に係わる第2の燃料セパレータ板31は、図9に示すように、実施の形態1に係わる燃料セパレータ板3の燃料連通マニホールド51の替わりに仕切52を底として一体化したキャビティ32が設けられており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。このキャビティ32は、膜電極接合体1と重ね合わせたとき、膜電極接合体1の燃料連通マニホールドと連なる位置に設けられ、燃料流路溝21aと燃料流路溝21bを連通する。
【0036】
この実施の形態2に係わる第2の単電池は、膜電極接合体1が両面から第2の燃料セパレータ板31と酸化剤セパレータ板2とで挟持されている。この第2の単電池では、燃料連通マニホールドは、第2の燃料セパレータ板31により閉鎖されている。
この実施の形態2に係わる燃料電池は、77個の単電池と3個の第2の単電池を有し、19個の単電池と1個の第2の単電池とをグループとして、このグループを3つ用意し、20個の単電池をグループとする。
【0037】
このような燃料電池は、燃料連通マニホールドを仕切る有底のキャビティ32が設けられた第2の燃料セパレータ板31が金型を用いた鋳型により作製できるので、量産に適している。
なお、この実施の形態2においては仕切の働きをするキャビティが設けられた第2の燃料セパレータ板31により燃料連通マニホールド51を分割することについて説明したが、酸化剤連通マニホールドを分割するときには仕切の働きをするキャビティが設けられた第2の酸化剤セパレータ板を有することで同様の効果が得られる。
【0038】
実施の形態3.
図11は、この発明の実施の形態3に係わる燃料電池の膜電極接合体の平面図である。 この発明の実施の形態3に係わる燃料電池は、実施の形態1に係わる燃料電池と仕切52が一体化された第2の膜電極接合体35が追加され、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
この実施の形態3に係わる第2の膜電極接合体35は、図11に示すように、実施の形態1に係わる膜電極接合体1から燃料連通マニホールド51を省略したことが異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。この第2の膜電極接合体35は、実施の形態1に係わる枠フィルム10から燃料連通マニホールド51を省略した第2の枠フィルム36を有している。
【0039】
この実施の形態3に係わる第2の単電池は、第2の膜電極接合体35が両面から燃料セパレータ板3と酸化剤セパレータ板2とで挟持されている。この第2の単電池では、燃料連通マニホールドは、第2の膜電極接合体35により閉鎖されている。
この実施の形態3に係わる燃料電池は、77個の単電池と3個の第2の単電池を有し、19個の単電池と1個の第2の単電池とをグループとして、このグループを3つ用意し、20個の単電池をグループとする。
【0040】
このような燃料電池は、燃料連通マニホールド51を設けない第2の枠フィルム36を枠フィルム10と同様にして作製し、この第2の枠フィルムを用いて第2の膜電極接合体35を作製しておけば、その後は単電池と第2の単電池を積層するだけで燃料連通マニホールド51を分割することができ、量産性に優れる。
【0041】
なお、この実施の形態3において燃料連通マニホールド51を設けない第2の膜電極接合体35を追加して燃料連通マニホールド51を分割しているが、酸化剤連通マニホールドが設けられた燃料電池の場合、酸化剤連通マニホールドを設けない第2の膜電極接合体を追加して酸化剤連通マニホールドを分割しても、実施の形態3と同様な効果が得られる。
【0042】
実施の形態4.
図12は、この発明の実施の形態4に係わる燃料電池を低出力運転したときの出力電圧の安定性と均一性を示した特性図である。
この発明の実施の形態4に係わる燃料電池は、実施の形態1に係わる燃料電池と単電池を区切るグループ数が異なっており、それ以外は同様であるので、同様な部分に同じ符号を付記して説明は省略する。
この実施の形態4に係わる燃料電池は、80個の単電池を40個ずつ2グループに区分けされた実施例1の燃料電池、80個の単電池を4個ずつ20グループに区分けされた実施例2の燃料電池である。また、これらの燃料電池と比較するために80個の単電池が区分けされていない比較例1の燃料電池、80個の単電池が1個ずつ80グループに区分けされた比較例2の燃料電池も用意して低出力運転での発電を行い、出力電圧の経時的変化の最大値ΔVと、燃料電池を構成する単電池の出力電圧の分散σVを求めた。図11には、実施の形態1に係わる燃料電池に関する最大値ΔV、分散σVも合わせて表示してある。低出力運転の条件は、電流密度0.05A/cm、燃料利用率80%、酸化剤利用率50%である。
【0043】
実施例1、実施例2、実施の形態1、比較例1および比較例2の燃料電池に関する出力電圧の経時的変化の最大値ΔVは、図12に示すように、それぞれ0.04V、0.003V、0.01V、0.1V、0.001Vであった。
このように、分割された1つの燃料連通マニホールドに連なる単電池の数が、40個以下のとき、出力電圧の経時的変化が小さく、出力電圧が安定な燃料電池を提供することができる。
【0044】
実施例1、実施例2、実施の形態1、比較例1および比較例2の燃料電池に関する燃料電池を構成する単電池の出力電圧の分散σVは、図11に示すように、それぞれ±0.008V、±0.018V、±0.012V、±0.005V、±0.025Vであった。
このように、分割された1つの燃料連通マニホールドに連なる単電池の数が、4個以上のとき、燃料電池を構成する単電池の出力電圧の分散が小さく、出力電圧が均一な燃料電池を提供することができる。
【0045】
そして、分割された1つの燃料連通マニホールドに連なる単電池の数が4個以上、40個以下のときの燃料電池は、出力電圧の経時的変化が小さく、且つ、出力電圧が揃っている。
なお、実施の形態4において燃料連通マニホールドに関して説明したが、分割された1つの酸化剤連通マニホールドに連なる単電池の数が4個以上、40個以下のときの燃料電池は、出力電圧の経時的変化が小さく、且つ、出力電圧が揃っている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる燃料電池の単電池の断面図である。
【図2】実施の形態1に係わる膜電極接合体の平面図である。
【図3】実施の形態1に係わる燃料セパレータ板の平面図である。
【図4】実施の形態1に係わる酸化剤セパレータ板の平面図である。
【図5】実施の形態1に係わる燃料電池スタックの透視斜視図である。
【図6】実施の形態1に係わる燃料電池の外観図である。本発明の実施の形態1による燃料電池の単電池の断面図である。
【図7】従来の燃料電池を低出力運転したときの各単電池の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図8】この発明の実施の形態1に係わる燃料電池を低出力運転したときの各単電池の出力電圧の変化を示すグラフである。
【図9】この発明の実施の形態2に係わる第2の燃料セパレータ板の平面図である。
【図10】図9のA−A断面での第2の燃料セパレータ板の断面図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係わる第2の膜電極接合体の平面図である。
【図12】この発明の実施の形態4に係わる燃料電池を低出力運転したときの出力電圧の安定性と均一性を示した特性図である。
【符号の説明】
【0047】
1 膜電極接合体、2 酸化剤セパレータ板、3 燃料セパレータ板、4 ガスケット、5 電解質膜、6 正極触媒層、7 負極触媒層、8 酸化剤電極基材、9 燃料電極基材、10 枠フィルム、12、13 外縁部、14 燃料供給マニホールド、15 燃料排出マニホールド、16 酸化剤供給マニホールド、17 酸化剤排出マニホールド、18 冷却水供給マニホールド、19 冷却水排出マニホールド、20 反応領域、21、21a、21b 燃料流路溝、22 燃料流路、23 酸化剤流路、27 酸化剤流路溝、31 第2の燃料セパレータ板、32 キャビティ、 35 第2の膜電極接合体、36 第2の枠フィルム、41 燃料電池スタック、43 端板、46 出力端子、51 燃料連通マニホールド、52 仕切。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜が両側から負極電極と正極電極とで挟持される膜電極接合体が両側から上記膜電極接合体が接する面の中央部に上記負極電極に燃料を供給する燃料流路溝が設けられた燃料セパレータ板と上記膜電極接合体が接する面の中央部に上記正極電極に酸化剤を供給する酸化剤流路溝が設けられた酸化剤セパレータ板とで挟持された単電池が複数個積層されて構成される燃料電池スタックを備える燃料電池において、
上記膜電極接合体、上記燃料セパレータ板および上記酸化剤セパレータ板には、積層方向に貫通する燃料連通マニホールドが設けられ、
上記燃料流路溝は、途中で上記燃料連通マニホールドにより連通されており、
上記燃料連通マニホールドは、上記燃料電池スタック内で複数に独立した空間に分割されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
上記膜電極接合体を挟持するとき上記膜電極接合体の燃料連通マニホールドと連なる位置に、上記燃料流路溝を途中で連通するキャビティが設けられる第2の燃料セパレータ板を有し、
上記膜電極接合体が両側から上記第2の燃料セパレータ板と上記酸化剤セパレータ板とで挟持される第2の単電池を備え、
上記燃料電池スタック内で上記燃料連通マニホールドが複数に独立した空間毎に1個の上記第2の単電池が上記複数に独立した空間の一端に位置するように積層されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
上記燃料連通マニホールドは、上記膜電極接合体によって上記燃料電池スタック内で複数に独立した空間に分割されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
電解質膜が両側から負極電極と正極電極とで挟持された膜電極接合体が両側から上記膜電極接合体が接する面の中央部に上記負極電極に燃料を供給する燃料流路溝が設けられた燃料セパレータ板と上記膜電極接合体が接する面の中央部に上記正極電極に酸化剤を供給する酸化剤流路溝が設けられた酸化剤セパレータ板とで挟持された単電池が複数個積層されて構成される燃料電池スタックを備える燃料電池において、
上記膜電極接合体、上記燃料セパレータ板および上記酸化剤セパレータ板には、積層方向に貫通する酸化剤連通マニホールドが設けられ、
上記酸化剤流路溝は、途中で上記酸化剤連通マニホールドにより連通されており、
上記酸化剤連通マニホールドは、上記燃料電池スタック内で複数に独立した空間に分割されることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
上記膜電極接合体を挟持するとき上記膜電極接合体の酸化剤連通マニホールドと連なる位置に、上記酸化剤流路溝を途中で連通するキャビティが設けられる第2の酸化剤セパレータ板を有し、
上記膜電極接合体が両側から上記燃料セパレータ板と上記第2の酸化剤セパレータ板とで挟持された第2の単電池を備え、
上記燃料電池スタック内で上記酸化剤連通マニホールドが複数に独立した空間毎に1個の上記第2の単電池が上記複数に独立した空間の一端に位置するように積層されることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池。
【請求項6】
上記酸化剤連通マニホールドは、上記膜電極接合体によって上記燃料電池スタック内で複数に独立した空間に分割されることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池。
【請求項7】
上記燃料電池スタック内で複数に独立した空間に含まれる単電池の数が4個以上、40個以下であることを特徴とする請求項1または4に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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