説明

燃料電池

【課題】出力維持性能が改善された燃料電池を提供する。
【解決手段】カソード触媒層5を含むカソード7と、アノード拡散層3及び前記アノード拡散層3に積層されるアノード触媒層2を含むアノード4と、前記カソード触媒層5及び前記アノード触媒層2の間に介在される電解質膜8とを具備する燃料電池であって、前記アノード触媒層2は、前記アノード拡散層3と対向する表面に5%以上、30%以下の面積率で溝10が形成されていることを特徴とする燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小型燃料電池として好適な燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩により、電子機器の小型化、高性能化、ポータブル化が進んでおり、携帯用電子機器においては、使用される電池の高エネルギ密度化の要求が強まっている。このため、軽量で小型でありながら高出力の燃料電池が要求されている。
【0003】
特に、メタノールを燃料として用いた直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、水素ガスを使用する燃料電池に比べ、水素ガスの取り扱いの困難さや、有機燃料を改質して水素を作り出す装置等が必要なく、小型化に優れていると考えられる。
【0004】
ところで、特許文献1には、水素ガスを燃料として用いる固体高分子型燃料電池において、カソードもしくはアノードの触媒担持導電体に、多孔質の無機材料などの水吸放出体を担持させることにより、触媒層の乾燥を防ぎ、かつフラッディングの発生を防止することが記載されている。
【0005】
一方、特許文献2は、水素ガスを燃料として用いる固体高分子型燃料電池を乾燥条件で運転した際に、電解質膜が乾燥により破損するのを防止するため、電解質膜とアノード触媒層との間、または、電解質膜とカソード触媒層との間、あるいはそれらの両方に、電解質膜に接するように保水層を設けることを開示している。保水層を構成する保水性高分子には、スルホン酸含有高分子、カルボキシル基含有高分子が用いられている。
【特許文献1】特開2005−100783
【特許文献2】特開2005−19285
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、出力維持性能が改善された燃料電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池は、カソード触媒層を含むカソードと、
アノード拡散層及び前記アノード拡散層に積層されるアノード触媒層を含むアノードと、
前記カソード触媒層及び前記アノード触媒層の間に介在される電解質膜と
を具備する燃料電池であって、
前記アノード触媒層は、前記アノード拡散層と対向する表面に5%以上、30%以下の面積率で溝が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、出力維持性能が改善された燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、アノード触媒層のアノード拡散層と対向する表面に溝(例えばクラック)を形成し、この表面における溝の面積率(開口面積)を5%未満にすると燃料拡散が改善されず、一方、30%を超えるとクロスオーバが大きくなることを究明し、面積率を5%以上、30%以下にすることにより、構造的強度を保ちつつ、燃料拡散が良好になされ、かつクロスオーバが抑制されることを見出したのである。これにより、高出力を長期間に亘り維持することが可能となる。また、面積率を10%以上、20%以下にすることにより、出力維持性能がさらに向上されることもわかった。
【0010】
溝は、アノード拡散層と対向する表面から電解質膜と対向する表面まで達している貫通溝であっても、アノード拡散層と対向する表面から内部まで到達している非貫通溝であっても良い。アノード触媒層の構造的な強度を高くするためには、アノード拡散層と対向する表面の溝の面積率と電解質膜と対向する表面の溝の面積率が互いに異なることが望ましい。特に望ましいのは、アノード拡散層と対向する表面の溝の面積率を、電解質膜と対向する表面の溝の面積率よりも大きくすることである。これにより、出力性能と出力維持性能の双方を向上することが可能である。
【0011】
電解質膜と対向する表面における溝の面積率は、10%以下(0%を含む)にすることができる。これにより、出力性能と出力維持性能をさらに改善することが可能となる。
【0012】
非貫通溝の深さは、アノード拡散層と対向する表面からアノード触媒層の厚さの30%以上、70%以下に相当する大きさにすることができる。溝の深さをアノード触媒層の厚さの30%以上にすることにより、燃料拡散の改善において十分な効果を得ることができる。また、溝の深さをアノード触媒層の厚さの70%以下にすることにより、クロスオーバ抑制に十分な効果を期待できる。したがって、非貫通溝の深さをアノード触媒層の厚さの30%以上、70%以下にすることにより、出力維持性能のさらなる改善を期待することができる。
【0013】
アノード触媒層の厚さは30μm以上、250μm以下にすることができる。
【0014】
アノード触媒層は、アノード拡散層に積層される。得られた積層物をアノードと呼ぶ。アノード拡散層には、例えば、カーボンペーパなどの多孔質体を使用することが可能である。
【0015】
アノード触媒層は、アノード触媒と、バインダーとを含む。アノード触媒としては、例えば、白金族元素の単体金属(Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等)、白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。アノード触媒には、メタノールや一酸化炭素に対する耐性の強いPt−Ruを用いることが望ましいが、これに限定されるものでは無い。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒を使用しても、あるいは無担持触媒を使用しても良い。
【0016】
アノード触媒の比表面積は、100m2/g以上、800m2/g以下にすることが望ましい。比表面積のより好ましい範囲は、300m2/g以上、600m2/g以下である。
【0017】
アノード触媒の比表面積は、JIS Z 8830−2001「気体吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」で規定される方法で測定される。
【0018】
バインダーには、パーフルオロスルホン酸系アイオノマーを使用することができる。高い出力特性を得るために、アノード触媒層中のバインダー量は、35重量%以上、55重量%以下にすることが望ましい。
【0019】
上記溝を有するアノード触媒層は、例えば、以下に説明する方法で作製される。まず、アノード触媒とバインダーとを含有するペーストを調製し、これをアノード拡散層もしくは電解質膜上に塗布し、加熱乾燥させることにより、アノード触媒層を得る。得られたアノード触媒層の表面を針状冶具で引っかくことにより、アノード触媒層にクラックを生じさせ、アノード触媒層の表面に溝を形成する。なお、針状冶具の長さや太さを変化させることによって溝の面積率と深さを調節することができる。
【0020】
あるいは、上記ペーストに、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイドのうち少なくとも一方からなる高分子材料を添加し、この高分子材料の分子量もしくは添加量を調整することにより、ペーストを加熱乾燥させる際にクラックを発生させ、溝を形成することも可能である。
【0021】
ポリエチレングリコール(PEG)及びポリエチレンオキサイド(PEO)の重量平均分子量は100万以上、500万以下にすることができる。PEG及びPEOの重量平均分子量は、運転中の溶出や物性変化を抑えるため、100万〜400万にすることがより望ましい。
【0022】
アノード触媒層の高分子材料の割合は、25重量%以下にすることが望ましく、さらに好ましい範囲は3重量%以下である。
【0023】
アノード触媒層中のPEG及びPEOの検出は、以下に説明する方法で行われる。すなわち、アノード触媒層を少量掻き落として秤量(20mg)し、水で定溶した後、超音波洗浄器にかける。そこで得られた上澄みを風乾し、残渣をIR測定(フーリエ変換赤外分光光度計による測定、装置名は例えばPARKIN ELMRE製 PARAGON 1000)を行うことで、PEG及びPEOに相当するピークが得られる。
【0024】
上述したアノードは、カソードとの間に電解質膜を配置した膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)の形態で燃料電池に使用される。
【0025】
以下、カソード及び電解質膜について説明する。
【0026】
1)カソード
カソードは、カソード拡散層と、カソード拡散層に担持されるカソード触媒層とを含む。カソード触媒層は、カソード触媒と、バインダーとを含む。
【0027】
カソード触媒としては、例えば、白金族元素の単体金属(Pt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等)、白金族元素を含有する合金などを挙げることができる。カソード触媒には、白金を用いることが望ましいが、これに限定されるものでは無い。また、炭素材料のような導電性担持体を使用する担持触媒を使用しても、あるいは無担持触媒を使用しても良い。
【0028】
バインダーには、パーフルオロスルホン酸系アイオノマーを使用することができる。
【0029】
カソード拡散層には、例えば、カーボンペーパなどの多孔質体を使用することが可能である。
【0030】
2)電解質膜
電解質膜には、プロトン伝導性の電解質膜を使用することができる。電解質膜を構成するプロトン伝導性材料としては、例えば、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂(例えば、パーフルオロスルホン酸重合体)、スルホン酸基を有するハイドロカーボン系樹脂、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物等が挙げられるが、これらに限定される物ではない。
【0031】
膜電極接合体1の一例を図1に示す。膜電極接合体1は、アノード触媒層2及びアノード拡散層3からなるアノード(燃料極)4と、カソード触媒層5及びカソード拡散層6からなるカソード(空気極)7と、アノード触媒層2及びカソード触媒層5の間に配置されるプロトン伝導性の電解質膜8とを備えるものである。アノード触媒層2は、二層構造を有している。アノード拡散層3と対向している層(以下、第1の層と称す)9に、厚さ方向に貫通した溝10が形成されている。また、電解質膜8と対向している層(以下、第2の層と称す)11には、溝がない。上記第1の層9と第2の層11を有することにより、アノード触媒層2は、アノード拡散層3と対向している表面から内部までに溝10が形成された構造を持っている。
【0032】
このように構成される膜電極接合体は、燃料電池に設置され、燃料供給と空気供給により電力を発現する。燃料電池は、その形態から、液体燃料と酸化剤の供給をポンプなどの補器を用いて行うアクティブ型燃料電池、液体燃料の気化成分を燃料極に供給するパッシブ型(内部気化型)燃料電池、セミパッシブ型の燃料電池などが挙げられる。アクティブ型燃料電池では、メタノール水溶液からなる燃料について、その量が一定になるようにポンプで調整しながらMEAの燃料極へ供給する一方、酸化剤極に対しても空気をポンプで供給する方式が採られる。パッシブ型燃料電池では、MEAの燃料極に気化したメタノールを自然供給で送り、一方酸化剤極に対しても外部の空気を自然供給することで、ポンプなどの余計な機器を装備しない方式が採られる。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料収容部から膜電極接合体に供給された燃料は発電反応に使用され、その後に循環して燃料収容部に戻されることはない。セミパッシブ型の燃料電池は、燃料を循環しないことから、アクティブ方式とは異なるものであり、装置の小型化等を損なうものではない。また、セミパッシブ型の燃料電池は、燃料の供給にポンプを使用しており、内部気化型のような純パッシブ方式とも異なる。なお、このセミパッシブ型の燃料電池では、燃料収容部から膜電極接合体への燃料供給が行われる構成であればポンプに代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられる。
【0033】
液体燃料としては、メタノール水溶液、または純メタノールを使用した直接メタノール型が用いられるが、これらに限られるものではない。例えば、例えばエタノール水溶液や純エタノールなどのエタノール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、もしくはその他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料電池に応じた液体燃料が収容される。
【0034】
図2に、パッシブ型(内部気化型)燃料電池の一実施形態を示す。なお、図1に示したのと同様な部材については同符号を付して説明を省略する。
【0035】
図2に示すカソード拡散層6はカソード触媒層5に酸化剤ガスを均一に供給する役割を担うものであるが、カソード触媒層5の集電体も兼ねている。一方、アノード拡散層3はアノード触媒層2に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層2の集電体も兼ねている。カソード導電層12及びアノード導電層13は、それぞれ、カソード拡散層6及びアノード拡散層3と接している。カソード導電層12及びアノード導電層13には、例えば、金などの金属材料からなる多孔質層(例えばメッシュ)をそれぞれ使用することが出来る。
【0036】
矩形枠状のカソードシール材14は、カソード導電層12とプロトン伝導性電解質膜8との間に位置すると共に、カソード触媒層5及びカソード拡散層6の周囲を囲んでいる。一方、矩形枠状のアノードシール材15は、アノード導電層13とプロトン伝導性電解質膜8との間に位置すると共に、アノード触媒層2及びアノード拡散層3の周囲を囲んでいる。カソードシール材14及びアノードシール材15は、膜電極接合体からの燃料漏れ及び酸化剤漏れを防止するためのオーリングである。
【0037】
膜電極接合体の下方には、燃料貯蔵部としての液体燃料タンク16が配置されている。液体燃料タンク16内には、液体燃料17が収容されている。液体燃料には、例えば、液体のメタノール、メタノール水溶液が使用される。メタノール水溶液の濃度は50モル%を超える高濃度にすることが望ましい。また、純メタノールの純度は、95重量%以上100重量%以下にすることが望ましい。なお、液体燃料は必ずしもメタノール燃料に限られるものではなく、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、もしくはその他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料電池に応じた液体燃料が収容される。
【0038】
液体燃料タンク16とアノード4との間には、気液分離層18が配置されている。気液分離層18は、アノード触媒層2に、液体燃料を気化させた気化燃料を供給するためのものである。気液分離層18には、例えば、液体燃料の気化成分のみを透過させて、液体燃料は透過できない気液分離膜を使用することができる。気液分離膜には、例えば、メタノール透過性を有する撥水性膜を使用することができる。メタノール透過性を有する撥水性膜としては、例えば、シリコーンシート、ポリエチレン多孔膜、ポリプロピレン多孔膜、ポリエチレン−ポリプロピレン多孔膜、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜等を挙げることができる。
【0039】
気液分離層18とアノード導電層13の間には、フレーム19が配置されている。フレーム19で囲まれた空間は、アノードへの気化燃料の供給量を調整するための気化燃料収容室20として機能する。
【0040】
一方、膜電極接合体のカソード導電層12には、フレーム21が積層されている。フレーム21上には、カソード触媒層5において生成した水の蒸散を抑止する保湿板22が積層されている。保湿板22は、カソードで生成した水をアノードに供給するための水供給手段として機能する。保湿板22は、カソードからの水分の蒸発を抑制する。このため、発電反応の進行に伴ってカソード触媒層5中の水分保持量が増加し、カソード触媒層5の水分保持量がアノード触媒層2の水分保持量よりも多い状態が作り出される。その結果、浸透圧現象が促進されるため、カソード触媒層5に生成した水が電解質膜8を通過してアノード触媒層2に供給される。
【0041】
酸化剤である空気を取り入れるための空気導入口23が複数個形成されたカバー24は、保湿板22の上に積層されている。カバー24は、膜電極接合体1を含むスタックを加圧してその密着性を高める役割も果たしているため、例えば、SUS304、炭素鋼、ステンレス鋼、合金鋼、チタン合金、ニッケル合金のような金属から形成される。
【0042】
保湿板22は、メタノールに対して不活性で、耐溶解性、酸素透過性及び透湿性を有する絶縁材料から形成されていることが望ましい。このような絶縁材料としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンを挙げることができる。
【0043】
保湿板22は、JIS P−8117−1998で規定される透気度が50秒/100cm3以下であることが望ましい。これは、透気度が50秒/100cm3を超えると、空気導入口23からカソードへの空気拡散が阻害されて高出力を得られない恐れがあるからである。透気度のさらに好ましい範囲は、10秒/100cm3以下である。
【0044】
保湿板22は、JIS L−1099−1993 A−1法で規定される透湿度が6000g/m224h以下であることが望ましい。なお、上記透湿度の値は、JIS L−1099−1993 A−1法の測定方法で示されている通り、40±2℃の温度の値である。透湿度が6000g/m224hを超えると、カソードからの水分蒸発量が多くなり、カソードからアノードへの水拡散を促進する効果を十分に得られない恐れがあるからである。また、透湿度を500g/m224h未満にすると、過剰量の水がアノードへ供給されて高出力を得られない恐れがあることから、透湿度は、500〜6000g/m224hの範囲にすることが望ましい。透湿度のさらに好ましい範囲は、1000〜4000g/m224hである。
【0045】
[実施例]
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0046】
(実施例1)
<アノードの作製>
PtRu合金(Pt:Ru=1:1)粒子が担持されたカーボンブラックからなるアノード触媒(比表面積が350m2/g)に、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液、水、メトキシプロパノール及び分子量が200万のポリエチレングリコール(PEG)を3重量%添加し、これらを混合することによりペーストを調製した。得られたペーストをアノード拡散層としての多孔質カーボンペーパに塗布することにより厚さが100μmの溝なしアノード触媒層を得た。得られたアノード触媒層の電解質膜と対向する表面を金属製の針(長さ20mm、太さ0.5mm)で引っかき、クラック(溝)を網目状に形成した。
【0047】
<カソードの作製>
Pt粒子が担持されたカーボンブラックからなるカソード触媒に、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液、水及びメトキシプロパノールを加え、これらを混合することによりペーストを調製した。得られたペーストをカソード拡散層としての多孔質カーボンペーパに塗布することによりカソード触媒層を得た。
【0048】
アノード触媒層のクラックが形成されている表面とカソード触媒層の間に、プロトン伝導性電解質膜として含水率が10〜20重量%のパーフルオロカーボンスルホン酸膜(nafion(登録商標)膜、デュポン社製)を配置し、これらにホットプレスを施すことにより、膜電極接合体(MEA)を得た。
【0049】
気液分離膜として、シリコーンゴムシートを用意した。また、燃料タンクに純度が99.9重量%のメタノールを収容した。
【0050】
得られた膜電極接合体及び気液分離膜を用いて内部気化型の直接メタノール型燃料電池を組み立てた。
【0051】
(実施例2〜4)
実施例1で説明したのと同様にして調製したペーストを、実施例1で説明したのと同様な電解質膜に塗布することにより厚さが100μmの溝なしアノード触媒層を得た。得られたアノード触媒層のアノード拡散層と対向する表面を金属製の針で引っかき、クラック(溝)を網目状に形成した。
【0052】
このクラックが形成された表面にアノード拡散層としての多孔質カーボンペーパを積層し、また、電解質膜にカソードを積層し、これらにホットプレスを施すことにより、膜電極接合体(MEA)を得た。得られた膜電極接合体を用いること以外は、実施例1と同様な構成を有する内部気化型の直接メタノール型燃料電池を組み立てた。
【0053】
実施例3で用いるアノード触媒層は、電解質膜と対向する表面の溝の面積率が0%で、非貫通溝が形成されている。この非貫通溝の深さは、アノード触媒層の厚さの50%に相当した。
【0054】
(実施例5)
<アノードの作製>
PtRu合金(Pt:Ru=1:1)粒子が担持されたカーボンブラックからなるアノード触媒(比表面積が350m2/g)に、パーフルオロカーボンスルホン酸溶液、水、メトキシプロパノール及び分子量が100万のポリエチレングリコール(PEG)を3重量%添加し、これらを混合することによりペーストを調製した。得られたペーストをアノードガス拡散層としての多孔質カーボンペーパに乾燥後の厚さが100μmとなるように塗布し、乾燥させたところ、網目状にクラックが発生したアノード触媒層が得られた。
【0055】
得られたアノードを用いること以外は、実施例1と同様な構成を有する内部気化型の直接メタノール型燃料電池を組み立てた。
【0056】
(比較例1)
アノード触媒層にクラックを形成しないこと以外は、実施例1と同様な構成を有する内部気化型の直接メタノール型燃料電池を組み立てた。
【0057】
(比較例2)
実施例1で説明したのと同様にして調製したペーストを、実施例1で説明したのと同様な電解質膜に塗布することにより厚さが100μmの溝なしアノード触媒層を得た。得られたアノード触媒層のアノード拡散層と対向する表面を金属製の針で引っかき、クラック(溝)を網目状に形成した。
【0058】
このクラックが形成された表面にアノード拡散層としての多孔質カーボンペーパを積層し、また、電解質膜にカソードを積層し、これらにホットプレスを施すことにより、膜電極接合体(MEA)を得た。得られた膜電極接合体を用いること以外は、実施例1と同様な構成を有する内部気化型の直接メタノール型燃料電池を組み立てた。
【0059】
得られた燃料電池の0.3Vでの出力を測定し、その結果を比較例1の出力値を1.0として下記表1に示す。また、0.3Vでの出力を、初期出力を100%として表し、2000時間後の結果を出力維持率(%)として下記表1に示す。
【表1】

【0060】
表1から明らかなように、アノード触媒層のアノード拡散層と対向する表面に溝が5%以上、30%以下の面積率で形成されている実施例1〜5の燃料電池は、0.3Vでの出力維持率が高く、出力維持性能に優れている。実施例1〜5の比較により、電解質膜と対向する表面における溝の面積率が10%以下(0%を含む)の実施例1〜4が、実施例5に比して出力と出力維持率の双方に優れていることがわかる。さらに、実施例1〜4の比較によって、アノード拡散層と対向する表面における溝の面積率が高い実施例2〜4が、実施例1に比して出力と出力維持率の双方に優れていることがわかる。この実施例2〜4のうち、アノード拡散層と対向する表面の溝の面積率が10%以上、20%以下である実施例4において、最も高い出力維持率を得られた。
【0061】
これに対し、アノード触媒層にクラックを形成しなかった比較例1では、出力と出力維持率の双方が実施例に比して劣ったものとなった。一方、アノード拡散層と対向する表面の溝の面積率が30%を超えている比較例2によると、実施例に比して出力維持率が低くなった。
【0062】
実施例及び比較例の燃料利用効率Eを次式から計算したところ、比較例1,2では50%と低いのに対し、実施例1〜5では比較例1,2よりも大きく、例えば実施例1では60%であった。
【0063】
E=V1/(V2−V3
但し、V1は発電量から計算されるメタノール消費量で、V2は全メタノール投入量で、V3は液体燃料タンクに残っているメタノール量である。
【0064】
以上の結果から、実施例1〜5の燃料電池によると、アノード触媒層の燃料拡散が効率的に行われ、その結果メタノールクロスオーバが抑制されたため、出力維持性能が向上されたことを確認することができた。
【0065】
上記実施例で使用した燃料電池のアノード触媒層に形成されたクラックの面積率の測定方法を以下に説明する。燃料電池から膜電極接合体を取り出し、アノード触媒層からアノード拡散層及び電解質膜を剥離させる。その後、アノード触媒層の表面の顕微鏡写真を撮影する。例えば、キーエンス社製マイクロスコープVHX−2000を使用することができる。得られた顕微鏡写真の一例を図3に示す。図3から明らかなように、アノード触媒層2のアノード拡散層3と対向する表面には、網目状にクラック10が形成されていた。得られた顕微鏡写真に触媒層表面部分と溝部分のコントラストで分ける画像処理を行った。画像処理後の画像データを図4に示す。図4における黒色の領域の面積を溝部分の面積とし、白色の領域の面積を溝が形成されていない部分の面積とし、アノード触媒層2の表面における溝の面積率を算出した。アノード触媒層2の電解質膜8と対向する面における溝の面積率も同様な方法により算出した。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。また、アクティブ型燃料電池及びセミパッシブ型の燃料電池においても、上記した説明と同様の作用効果が得られる。MEAへ供給される液体燃料の蒸気においても、全て液体燃料の蒸気を供給してもよいが、一部が液体状態で供給される場合であっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池に用いる膜電極接合体を示す断面図。
【図2】図1の膜電極接合体が用いられる燃料電池を示す断面図。
【図3】実施例の燃料電池に用いるアノード触媒層の表面の電子顕微鏡写真。
【図4】画像処理後の電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0068】
1…膜電極接合体(MEA)、2…アノード触媒層、3…アノード拡散層、4…アノード(燃料極)、5…カソード触媒層、6…カソード拡散層、7…カソード(空気極)、8…電解質膜、9…第1の層、10…溝、11…第2の層、12…カソード導電層、13…アノード導電層、14,15…シール材、16…液体燃料タンク、17…液体燃料、18…気液分離層、19,21…フレーム、22…保湿層、23…酸化剤導入口、24…カバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード触媒層を含むカソードと、
アノード拡散層及び前記アノード拡散層に積層されるアノード触媒層を含むアノードと、
前記カソード触媒層及び前記アノード触媒層の間に介在される電解質膜と
を具備する燃料電池であって、
前記アノード触媒層は、前記アノード拡散層と対向する表面に5%以上、30%以下の面積率で溝が形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記アノード触媒層は、前記電解質膜と対向する表面における溝の面積率が10%以下(0%を含む)であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記アノード拡散層と対向する表面における溝の面積率は、前記電解質膜と対向する表面における溝の面積率と異なる値であることを特徴とする請求項2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記溝の深さは、前記アノード拡散層と対向する表面から前記アノード触媒層の厚さの30%以上、70%以下に相当する大きさであることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−276985(P2008−276985A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116140(P2007−116140)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】