説明

燃料電池

【課題】直接型燃料電池の発電において生じる有害排出物を触媒燃焼により効果的に浄化するとともに、空気流路の水詰りを防止することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明による燃料電池は、膜電極接合体と、導電性材料からなるアノード流路板及びカソード流路板とを含む単セルを複数個積層した燃料電池スタックを備えている。ここで、アノード流路板の端部にはアノード触媒層よりも外側に延びたアノード延出部が形成され、そのアノード延出部の少なくとも一部に空気中の酸素との燃焼反応によりメタノールまたはホルムアルデヒドを分解する燃焼触媒が配置されている。一方、カソード流路板の端部には、アノード外延部に対向するカソード延出部が形成され、カソード延出部のアノード延出部と対向する面に親水性領域が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報化社会を支える携帯用電子機器の電源として、直接型メタノール燃料電池(以下、DMFCということがある)に代表される燃料電池が開発されている。一般的な燃料電池の構造を以下に説明する。
【0003】
燃料電池は、電解質膜の両面に、触媒と導電性多孔質とを含む電極を接合した膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下、MEAという)を起電部とするものが一般的である。このMEAを、燃料あるいは酸化剤(一般には空気)を供給するための溝を備えた一対の導電性流路板で挟んだものが1組の燃料電池(単セル)となる。一般的には、燃料電池は複数の単セルが積層された構造を有する。
【0004】
燃料電池は、空気および燃料を供給すると内部で化学反応が起り、発電する。空気は空気ポンプやファンで、燃料は循環燃料ポンプで供給するのが一般的である。燃料は、目的に応じて、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコールと水との混合溶液が用いられる。例えば燃料がメタノール水溶液の場合、燃料電池の燃料極(アノード)で生じる反応は、反応式(1)で表される。
CHOH+HO →CO+6H+6e ・・・(1)
【0005】
一方、空気極(カソード)で生じる反応は、反応式(2)で表される。
6H+6e+3/2O →3HO ・・・(2)
【0006】
燃料電池に使用される電解質膜はプロトン(H)を選択的に通す膜なので、アノード極における反応式(1)で生じたプロトンは電解質膜を通過してカソードに到達する。一方、アノード極における反応式(1)で生じた電子は、燃料電池の外部回路を通ってカソード極に到達し、反応式(2)の反応が成立する。結局、燃料電池全体における反応は、メタノールと水および酸素が反応し、二酸化炭素と水が出来る反応である。
【0007】
このように燃料電池は燃料と空気とを消費し、生成した物質と熱を外部に排出しながら発電するものであるが、上記アノード電極側に供給された燃料中のメタノールの一部は、未反応のまま、拡散などによりプロトン導電性電解質膜や触媒層中を通過してカソード極側へ移動し(クロスオーバー現象)、排出される場合がある。
【0008】
メタノールは一般的に有害物であり危険物であり、多くの国々の職業的健康暴露限度として、1日平均8時間および週40時間、200vol−ppmの時間加重平均値を超えない暴露であれば、作業者に有害な影響を与えないと考えられている。しかし、燃料電池が一般生活で日常的に使われるようになる場合、慢性的な中毒を防止するために更に規制が厳しくなることが予想される。人によっては30ppmでも臭気を感じる場合もあり、都市部での大気中でも数十ppb程度と報告されている点から考慮すると、将来的な規制は数ppm以下になる可能性が高い。このために、発電運転において未反応のまま排出されるメタノールを低減させるための処理は今後必須となると考えられる。
【0009】
また、発電反応においては、未反応メタノール以外にも、カソード極側から種々の有害物質が排出される可能性がある。上記カソード側に移動したメタノールは、カソード電極に供給されている酸化剤により酸化されるが、完全酸化されるまでの反応中間体と考えられているホルムアルデヒド、蟻酸あるいは蟻酸メチルなどが、反応副生成物として生成される可能性がある。これ等の反応副生成物の生成量は、未反応のまま排出されるメタノールに比較して微量である。しかし、シックハウス症候群の誘因物質として注目されているホルムアルデヒドは、特に厳しい規制値が設定されているなどの理由から、DMFC発電装置の実用化にあっては、それらの反応副生成物を低減させる対策が必要不可欠といえる。
【0010】
そこで、現在、DMFCシステムにおいては、有害排出物であるメタノール排出ガス及び上述した反応副生成物を浄化する方法が種々に検討されている。
【0011】
例えば特許文献1には、アノード極およびカソード極の電気化学反応によって生成した反応生成物から気体と液体を分離する気液分離槽を設け、分離された気体成分を回収して大気に排出する気体成分回収手段に副生成物を吸収または分解するフィルター(吸着剤、貴金属系触媒、銀系触媒、光化学触媒をハニカム層に担持させたもの等)を備える構成が開示されている。
【0012】
しかしながら、このような構成では、気液を分離するための手段が必要であるが、本発明者らの知る限りそのような有効な方法は現在のところ見当たらない。このため、排出ガス中に気化した状態もしくは微小な液滴の状態で混入する有害物質をフィルターで完全に捕捉し、さらに有害物質の大気中への散逸を抑制するためにはさらなる検討が必要である。
また、この文献に記載された燃料電池の構成においては、排出ガスの分解フィルター通過時の圧力損失が大きくなるため、吐出圧の高いポンプ等が必要となり、システム全体の大型化や電力ロスの増大を招いてしまい好ましくない。
【0013】
そこで、燃焼触媒を備えた触媒燃焼器を設け、有害排出物であるメタノール排出ガス及び上述した反応副生成物を触媒燃焼により効果的に浄化する方法も開示されている。
【0014】
特許文献2では、触媒燃焼器が、触媒付基材からなる邪魔板を複数箇所設置させている燃焼室からなり、排出された燃料を空気と共に燃焼室に導入することで燃焼浄化する構成が開示されている。
【0015】
また、特許文献3には、触媒燃焼器が、触媒層付多孔質シートで分割された二つの燃焼室からなり、一方の燃焼室には、排出された燃料が導入される導入口のみが設けられており、他方の燃焼室には、空気が導入される導入口と、触媒燃焼後の水及び二酸化炭素を含んだ空気が排出される排出口とが設けられている構造が開示されている。
しかしながら、これらの構成によれば、排出燃料及び空気が触媒燃焼器を通過する際の圧力損失の増加を回避することができるものの、触媒燃焼部が大型化するため、システム全体の小型・軽量化が困難であり、改良の余地があった。
【0016】
さらに、DMFCではカソード極側で生成した水の他にアノード極側からカソード極側へ通り抜けてしまう水を含め、多量の水がカソード極に出てくるために、カソード極側の排出ガス中の水蒸気濃度が高くなる傾向にある。そのため、その水蒸気が飽和し、さらには触媒燃焼部で結露することがある。この結露はガスの流れを阻害するために発電効率が低下するという問題を起こすことがある。そして、この触媒燃焼部における結露は上記した排出ガスの浄化処理をも妨げ、排出される有害排出物を充分に抑制できないという問題を引き起こすこともある。
【0017】
ところで、前述したように燃料電池は供給された燃料と空気とを反応させ、生成した物質と熱を外部に排出しながら電力を供給するものである。したがって、燃料電池内で物質の滞りなく流れさせることが高い出力を維持するために非常に重要である。特に、DMFCではカソード極で反応により生成した水に加えて、アノード極側から電解質膜を通過してカソード極側へ移動する水がカソード極から排出される。カソード極には、一般に複数の比較的狭い溝を備えた流路板により空気が供給されるが、カソード側から排出される水が完全に外部に排出されずにカソード流路中に滞留すると、ガス流路が水詰まりを起こし、空気の供給が阻害され、電池性能が低下してしまうという問題がある。
燃料電池のガス流路の水詰まり解消を目的とした技術は、例えば特許文献4〜6に開示されている。
【0018】
特許文献4は燃料に水素ガスを用いるタイプの固体高分子型燃料電池に関するものであり、ガス流路壁面に親水性の領域と撥水性の領域を設けて、撥水性の領域で水滴を弾かせてアノード側のガス流路を確保するというものである。
【0019】
特許文献5は多孔質部および緻密質部を有する燃料電池セパレータを開示するものであり、ガス流路の一部または全部を多孔質部で形成するものである。この技術は、ガス流路に親水処理を施すことにより吸水性を向上させ、カソード側のガス流路を確保するというものである。
【0020】
特許文献6は燃料に水素ガスを用いるタイプの固体高分子型燃料電池に関するものであり、セパレータに形成されたガス流路およびこれと対面する拡散層表面の双方に親水化処理を施し、アノード側またはカソード側のガス流路を確保するというものである。
【0021】
しかしながら、これらの燃料電池では、燃料ガス流路で発生する水滴による流路の閉塞は低減できるとしても、前述した触媒燃焼部の結露による有害排出物の浄化不良を十分に改善できるものではないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2003−223920号公報
【特許文献2】特開2005−259568号公報
【特許文献3】特開2005−259640号公報
【特許文献4】特開平11−97041号公報
【特許文献5】特開2004−79196号公報
【特許文献6】特開2008−186623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明は、運転時に生じる有害排出物が少なく、発電効率の低下が少ない直接型燃料電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本願発明の態様によれば、
電解質膜と、前記電解質膜の両側にそれぞれ配置されたアノード触媒層及びカソード触媒層と、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層の前記電解質膜側とは反対側にそれぞれ配置されたアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層とを含む膜電極接合体と、
前記アノードガス拡散層の前記アノード触媒層側とは反対側に配置され、凹部を有し、前記アノードガス拡散層表面と前記凹部により、液体燃料を供給するための燃料流路を形成させる導電性材料からなるアノード流路板と、
前記カソードガス拡散層の前記カソード触媒層側とは反対側に配置され、凹部を有し、前記カソードガス拡散層表面と前記凹部により、酸化剤を供給するための酸化剤流路を形成させる導電性材料からなるカソード流路板と、
を含む単セルを複数個積層した燃料電池スタックを備え、
前記アノード流路板の端部に、前記アノード触媒層よりも外側に前記積層方向と交差する方向に延びたアノード延出部が形成され、前記アノード延出部の少なくとも一部に空気中の酸素との燃焼反応によりメタノールまたはホルムアルデヒドを分解することができる燃焼触媒が配置され、
前記カソード流路板の端部に、前記アノード触媒層よりも外側に前記積層方向と交差する方向に延びたカソード延出部が形成され、前記カソード延出部の、前記アノード延出部に対抗する面の少なくとも一部に親水性領域が形成されている
ことを特徴とする燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、直接型燃料電池の発電において生じる有害排出物が触媒燃焼により効果的に浄化されるために、外部に排出される有害物が少なく、かつ、空気流路の水詰りが防止されているために、連続運転時の発電効率低下が少ない燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る燃料電池の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る燃料電池の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る燃料電池のアノード流路板の一例を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る燃料電池のカソード流路板の一例を示す平面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る燃料電池のカソード流路板の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる場合があることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0028】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0029】
〔第1の実施の形態〕
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、燃料にメタノール水溶液を用いた直接メタノール型燃料電池を一例として説明する。
【0030】
図1及び図2は、本発明による第1の実施の形態に係る燃料電池の発電スタックの単セル100aに相当する部分の断面模式図である。
【0031】
本発明の実施の形態に係る燃料電池は、起電部として、電解質膜1と、この電解質膜1の両側にそれぞれ配置されたアノード触媒層2及びカソード触媒層3と、アノード触媒層2及びカソード触媒層3の電解質膜側とは反対側にそれぞれ配置されたアノードガス拡散層4及びカソードガス拡散層5とを含む膜電極接合体6を有する。そして、アノードガス拡散層4のアノード触媒層側とは反対側には、凹凸を有する、導電性材料からなるアノード流路板8aが配置されている。そして、アノードガス拡散層4の表面と、それに対向する、アノード流路板8aの凹部とにより、液体燃料を供給するための燃料流路7が形成される。一方、カソードガス拡散層5のカソード触媒層側とは反対側には、凹凸を有する、導電性材料からなるカソード流路板10aが配置されている。そして、カソードガス拡散層5の表面と、それに対向する凹部とにより酸化剤を供給するための酸化剤流路(空気101が流れる流路であり、図1の断面に平行な方向に配置されている)が形成される。ここで、アノード流路板8aおよびカソード流路板10aは、それぞれ薄板状の塑性を有するものであることが好ましい。
【0032】
なお、本発明では、膜電極接合体の両面にアノード流路板及びカソード流路板を積層した際に、膜電極接合体と接する側の表面に突出している場合を「凸」とし、窪んでいる場合を「凹」として説明している。そして、凹部は一般的には溝状の構造を有している。
【0033】
本発明の一実施態様である燃料電池は、膜電極複合体6とアノード流路板8aとカソード流路板10aとで構成された単セル100aを含んでいる。一般に、燃料電池は単セル100aを複数個積層した燃料電池スタックを備えている。一般的に、燃料電池は上記したような部材を必須としたものであるが、本発明の一実施態様による燃料電池は、さらなる特徴的な構造を有する。
【0034】
本発明の一実施態様による燃料電池においては、アノード流路板8aは、その両端にスタックの積層方向と交差する方向に延びた一対のアノード延出部11を有し、アノード延出部11の少なくとも一部に空気中の酸素との燃焼反応によりメタノールまたはホルムアルデヒドを分解する燃焼触媒12が配置されている。一方、カソード流路板10aは、その両端にスタックの積層方向と交差する方向に延びた一対のカソード延出部13を有し、酸化剤流路及びアノード延出部11と対向する面のカソード延出部13に親水性領域14が形成されている。本発明の一実施態様による燃料電池は、このようにアノード延出部に配置された燃焼触媒と、カソード延出部に形成された親水性領域とが、比較的近傍に、かつ離間して配置されていることを特徴の一つとしている。このような構造により、起電部の反応によって生じた水は親水性領域に局在し、燃焼触媒が水にぬれにくくなる。この結果、燃焼触媒が失活することを防ぐことができる。
【0035】
これらに加え、燃料および空気101のリークを抑制するためにアノードガスケット15、およびカソードガスケット16を有するのが一般的である。
【0036】
〔アノード触媒層、カソード触媒層〕
この電解質膜1の両側にはアノード触媒層2及びカソード触媒層3が配置される。メタノール水溶液を燃料とする場合、アノード触媒層2には、例えばPt−Ru触媒を用いることができる。また、カソード触媒層3には例えばPt触媒を用いることができる。
【0037】
アノード触媒層は、例えば前記Pt−Ru触媒をパーフルオルスルホン酸樹脂溶液(ナフィオン溶液(商標名、デュポン社製))、水、及びエチレングリコールと混合して分散させた後、電解質膜上にスプレー法によって塗布することで作製することができる。
【0038】
また、カソード触媒は、例えば前記Pt触媒をパーフルオルスルホン酸樹脂溶液(ナフィオン溶液(商標、デュポン社製))、水、及びエチレングリコールと混合して分散させた後、電解質膜上にスプレー法によって塗布することで作製することができる。
【0039】
〔アノードガス拡散層、カソードガス拡散層〕
アノード触媒層2及びカソード触媒層3の電解質膜側とは反対側にそれぞれアノードガス拡散層4及びカソードガス拡散層5が配置される。アノードガス拡散層4およびカソードガス拡散層5にはカーボンペーパー、カーボンクロスもしくはカーボン不織布等を用いることができる。ガス拡散層に主としてカーボン粉末とPTFEから成るカーボン緻密撥水層(マイクロポーラスレイヤーとも呼ばれる)を設けても良い。
【0040】
アノードガス拡散層4はアノード触媒層2への燃料供給、生成物排出、および集電を円滑に行う機能を提供するものである。カソードガス拡散層5はカソード触媒層3への空気供給、生成物排出、集電を円滑に行う機能を提供するものである。
【0041】
〔膜電極接合体のスタック方法〕
膜電極接合体6は、例えば、アノード触媒層2及びカソード触媒層3が両面に塗布された電解質膜1と、アノードガス拡散層4及びカソードガス拡散層5とを接合して作製される。あるいは、電解質膜1と、アノード触媒層2が塗布されたアノードガス拡散層4及びカソード触媒層3が塗布されたカソードガス拡散層5とを接合してもよい。それぞれ高い圧力で接合することにより、アノード触媒層2及びカソード触媒層3と接する界面の接触抵抗を低減することができる。
【0042】
〔アノード流路板〕
アノード流路板8aは、薄板状の塑性を有する導電性材料から構成される。図1に示すように、アノード流路板8aは、アノードガス拡散層4と対向する表面側に、プレス加工によって形成された凹部17a、17b、および17c及び凸部18a、および18bを有している。凹部17a、17b、および17cは、メタノール等の液体燃料を供給するための燃料流路7として利用される。図3に示すように、凹部17a、17b、および17cは、それぞれ一体化した1本のサーペンタイン流路をなしていてもよい。凹部17a、17b、および17cは、それぞれ独立した並行流路であってもよい。液体燃料は、燃料供給口(マニホールド)19から供給され、燃料流路7としての凹部17a、17b、および17cを通って燃料排出口20(マニホールド)に排出される。
【0043】
アノード流路板8aの凸部18a、および18bには、アノード触媒層2で生成された気体を回収するための回収孔21が設けられている。
【0044】
更に、アノード流路板8aの凹部17a、17b、および17cの背部と第1の単セルと隣接する第2の単セルのカソード流路板10bとの接触部分、及び第1の単セルのアノード流路板8aの凸部18a、および18bの背部と第2の単セルのカソード流路板10bとの間に設けられた空間領域に、アノード触媒層2で生成された気体が流通する気体流路22が設けられている。
【0045】
凸部18a、および18bに回収孔21が設けられることにより、アノード反応により発生する気体を、回収孔21を介して効率よくアノード流路板8aの背面側へ排出でき、さらにはその気体を、気体流路22および気体排出用マニホールド23を経由して外部に排出することにより、単セル100aの内部(アノード流路板8aの表面上)で気泡を回収する場合よりも圧力損失を小さくすることができるので好ましい。また、このような構造によって、これまで有効活用されていなかったスペースを有効活用でき、燃料電池全体の小型化も容易になる。
【0046】
図3においては、回収孔21は、凸部18a、および18bに所定の間隔を有してマトリクス状に複数個設けられているが、回収孔21の形状は、図3に示す形状に限定されることなく、他にも様々な形状が採用できることは勿論である。
【0047】
アノード流路板8aの厚さは、一般に0.05〜1.0mm程度とすることができる。特に、実施の形態に係る燃料電池をモバイル電子機器用の電源として利用する場合は、軽量化・小型化の観点から、厚さを0.05〜0.2mm、更には厚さ0.05〜0.1mmの範囲にすることが好ましい。
【0048】
アノード流路板8aの両端には、スタックの積層方向と交差する方向に延びた一対のアノード延出部11が設けられている。なお、ここではアノード延出部がアノード流路板の両端に設けられた例を示したが、かならずしも両端に設ける必要はなく、一方の端部だけに設けることもできる。アノード延出部11は、発電により発生する熱を逃がすための放熱フィンを兼ねることもできる。その場合、放熱効率を高めるため、アノード流路板の材質としては、熱伝導率の高いものが好ましい。
【0049】
アノード流路板8aの材料としては、公知のステンレス鋼板、ステンレス鋼を基材上に耐食性、導通性の向上を目的とした表面処理、例えばめっき処理、金等の金属薄膜の蒸着、または金薄板とのクラッド化などが施された材料、アルミニウム基材の表面をカーボンで被覆したカーボンアルミニウム複合材料等が好ましいが、一定の導電性及び熱伝導性を有するものであれば、特に限定されない。
【0050】
〔燃焼触媒〕
本発明による一実施態様による燃料電池において、アノード延出部11のカソード流路板10aと対向する面の少なくとも一部に、空気中の酸素との燃焼反応によりメタノールまたはホルムアルデヒドを分解する燃焼触媒12が配置されている。燃焼触媒12によりアノード電極側に供給された燃料中のメタノールの一部がクロスオーバーによって電解質膜1を通過してカソード極側へ移動した未反応メタノール、およびカソード電極において起こる燃料の酸化反応の反応副生成物であるホルムアルデヒドなどを効果的に燃焼浄化することができる。
【0051】
燃焼触媒12の材料としては、メタノール、ホルムアルデヒドに対し燃焼活性を有する触媒であれば任意のものを用いることができるが、特に白金、パラジウム、白金−パラジウム合金等が好ましい。
【0052】
燃焼触媒12の担持量としては、例えば触媒として白金を用いた場合、0.1〜5mg/cmの範囲とするのが効果的である。
【0053】
燃焼触媒12をアノード延出部11上に固定化する方法としては、バインダーを用いて固定化する方法、公知のウォッシュコート法、スパッタ法、あるいはカーボンペーパー、アルミナ等の多孔質シートにあらかじめ燃焼触媒12を担持させた後に接着剤、バインダー、粘着テープ等を用いて固定化する方法等が考えられるが、特に限定されない。
【0054】
燃焼触媒12をアノード延出部11上に固定化する際、撥水材を含む材料に担持させていてもよい。このような構成にすると、燃焼触媒12を失活させる水が燃焼触媒12の表面に結露することを抑制することができる。このため、燃焼触媒12をアノード延出部11上に固定化するためのバインダーとして、撥水性を有するものを用いることが好ましい。前記バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂を挙げることができる。
【0055】
また、この燃焼触媒を利用した燃焼反応を促進し、また未反応物や副生成物を除去するために、燃焼触媒が配置されている部分、具体的にはカソード延出部13および前記アノード延出部11の間に空気を供給するための空気供給手段をさらに有することが好ましい。ここでこの空気供給手段は、燃焼触媒を利用した反応で消費される空気を供給するものであるが、起電部における発電反応において消費される空気を供給する手段を兼ねることもできる。
【0056】
〔カソード流路板〕
カソード流路板10aは、図4に示すように、凸部24と、凸部24と凸部24との間に形成された凹部25を有する薄板状の導電性塑性材料で構成されている。このような凹凸構造は、例えば表面をプレス加工することによって得ることができる。凹部25は、空気又は酸素等の酸化剤を供給するための酸化剤流路として利用される。酸化剤流路の形状は特に限定されない。例えば、図4に示すような「魚の骨型」の流路であってもよいし、そのほかの、例えばストレート流路やサーペンタイン流路であってもよい。
【0057】
カソード流路板10aの厚さは、前記したアノード流路板と同様に選択することができる。
【0058】
カソード流路板10aの両端には、図1に示すように、スタックの積層方向と交差する方向に延びた一対のカソード延出部13が設けられている。図1においては、カソード延出部13はアノード延出部11と平行に設けられている。このように平行にすることで、未反応のまま排出される燃料や反応副生成物が燃焼触媒に接触しやすくなる。ただし、燃焼触媒が十分に作用するのであれば、これらは必ずしも平行である必要はない。また、ここではカソード延出部がカソード流路板の両端に設けられた例を示したが、かならずしも両端に設ける必要はなく、一方の端部だけに設けることもできる。カソード延出部13は、発電により発生する熱を逃がすための放熱フィンを兼ねることもできる。
【0059】
〔親水性領域〕
本発明の一実施態様による燃料電池の、アノード延出部11と対向する面のカソード延出部13には、親水性領域14が設けられている。このように親水性領域14を設けることで、膜電極接合体6から排出される水は親水性領域14を通じてカソード延出部13に移送される。カソード延出部13から水は発電スタックの系外へ除去される。このとき酸化剤流路表面も親水性とされていることが好ましい。そのような構造とすることで、比較的狭い酸化剤流路において結露が起こっても、水は速やかにカソード延出部に移動し、そこから系外へ除去される。このとき、空気供給手段102から供給される空気101が、その表面に水を備えたカソード延出部13に接触し、カソード延出部13ら水を気化して排出する構造となっている。このことにより、「カソード延出部13からの水の除去」と「カソード流路板10の冷却」の両方の機能及び効果を持たせることができる。水の気化熱を利用して、カソード流路板10aを冷却することができるからである。一方でカソード延出部が冷却フィンの機能を兼ねている場合には、その熱によって水の気化が迅速に行われるので好ましい。その場合、カソード流路板の材質としては、水の気化により奪われる熱を補うために、熱伝導率の高いものが好ましい。
【0060】
カソード流路板10aの材料としては、前述したアノード流路板8aと同様なものを使用することができる。すなわち、公知のステンレス鋼板、ステンレス鋼を基材上に耐食性、導通性の向上を目的とした表面処理、例えばめっき処理、金等の金属薄膜の蒸着または金薄板とのクラッド化などが施された材料、アルミニウム基材の表面をカーボンで被覆したカーボンアルミニウム複合材料等が好ましいが、一定の導電性及び熱伝導性を有するものであれば、特に限定されない。
【0061】
本発明によれば、親水性領域14により結露した水が速やかに気化されるために、酸化剤流路の水詰りを防止することが可能となる。その上、膜電極接合体6から排出される水は親水性領域14に選択的に移動しカソード延出部13に移送されるため、カソード延出部13と対向するアノード延出部上に配置された燃焼触媒12が水によって失活するのを回避できる。そのため、直接型燃料電池の発電において生じる有害排出物を触媒燃焼により効果的に浄化することができる。
【0062】
カソード延出部13とカソード延出部13に対向するアノード延出部11との間隔は、燃料電池スタック全体の大きさを小さくするという観点からは狭くすることが好ましい。このような観点から、本発明においては、カソード延出部13とアノード延出部11との間隔が2.5mm以下であることが好ましい。一方、その間隔を過度に狭くすると、結露水による流路の閉塞や、燃焼電極の濡れが発生する可能性が高くなるが、本発明においては親水領域14を設けることによりアノード延出部11上に配置された燃焼触媒12が膜電極接合体6から排出される水によって失活するのをより効果的に回避することができ、かつ結露した水が流路を閉塞することが防止されるので、前記間隔を2.5mm以下としても結露水による発電効率の低下が起こりにくい。したがって、燃料電池スタックのサイズを小さくしながら発電効率を高く維持することができるのである。一方、カソード延出部13とアノード延出部11との間隔が2.5mm以下としても、親水領域14を設けないと、結露により生じた水が外部に排出されずに滞留し、流路を閉塞したり、燃焼触媒を濡らしてしまう恐れがある。なお、カソード延出部とアノード延出部との間隔とは、カソード延出部に設けられた親水性領域と、前記カソード延出部に対向する前記アノード延出部上に配置された燃焼触媒の間の最も近接している箇所の距離をいう。
【0063】
親水性領域14は、例えばカソード延出部13をシリカ被膜で被覆することにより形成させることができる。シリカ被膜を形成する方法としては、公知の任意の方法を用いることができる。例えば、ポリシラザンの有機溶媒溶液を塗布液として塗布し、大気中の水分との反応によりシリカ被膜を形成する方法(ポリシラザン法)、ゾルゲル法、水ガラス法、スパッタ法、またはナノサイズに制御したシリカをバインダーと共に水・アルコール溶媒に分散させたシリカ組成物を塗布する方法等が挙げられる。
【0064】
親水性領域14にシリカ組成物などを塗布する方法としては、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、インクジェットなどの方法を採用することが可能である。
【0065】
シリカ組成物等を塗布して親水性領域を形成させる際、スタックを構成する各セル間の電気的コンタクトを確保するために、凸部24上にシリカ被膜が形成されないよう、凸部24にマスキングをして塗布することが好ましい。シリカが絶縁性のため、凸部24にシリカ被膜が形成されてしまうと、カソード流路板10aの電気抵抗が増大してしまうためである。
【0066】
親水性領域14の材料は、シリカに限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、酸化スズ、および酸化イリジウムスズからなる群か選ばれる少なくとも1つの無機酸化物膜、あるいは不織布等を用いて形成させることができる。
【0067】
親水性領域14は、カソード延出部13の表面よりも親水性が高ければよい。それによって、結露が生じた場合であっても親水性領域の表面に水が広がり、結露した水が流路を塞いだり、燃焼触媒を濡らすことを防ぐことができる。より具体的には、親水性領域14の表面は、水滴接触角が40°以下であることが好ましい。
【0068】
また、本発明の一実施態様では、親水性領域はカソード延出部に配置されていればよいが、酸化剤流路が親水性とされていてもよい。酸化剤流路が親水性とされていると、仮に流路において結露が起きても、水は親水性とされた表面に広がり、気化されやすく、また浸透により水がカソード延出部近傍まで浸透することが可能となる。
【0069】
(第2の実施の形態)
さらに、本発明の他の実施の形態に係る燃料電池について説明する。本実施の形態に係る燃料電池は、図5に示すように、カソード流路板10aの酸化剤流路に親水性領域14aとしてシリカ被膜を形成し、カソード延出部13には親水性領域14bとして不織布を配置したものである。
【0070】
前記不織布の材質としては、セルロース、レーヨン、ビニロン、ポリエステル、アラミド、ナイロンなどを挙げることができる。中でも、レーヨン、セルロース、ポリエステルは、親水性に優れるため好ましい。また、不織布として、和紙のように植物性の繊維による不織布あるいは紙、またはガラス繊維の不織布を用いることができる。これらの不織布は、所定のサイズに合わせレーザー等で切断して用いることができる。
【0071】
不織布を親水性領域に用いる場合、その厚さとしては、一般に90μm以下、好ましくは60μm以下である。さらに好ましくは10μm以下である。
【0072】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が可能である。
本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によって表されるものであり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲で変形して具体化できる。
【0073】
〔実施例1〜4および比較例1〜3〕
表1に示す構造を有する各燃料電池を組み立てた。セルの積層数は25セルであり、定格出力は20Wである。
【0074】
実施例1〜4および比較例1〜3の各スタックについて各セルの電圧をモニターしながら定格運転を行った。
【0075】
水詰まりの評価は、50時間運転の後、カソード流路の水詰まりに起因する電圧低下が50mV以上になったセルが1個以上認められたものを×、電圧低下が認められなかった場合は○とした。また、排ガス中のメタノール濃度は、定格運転時における排ガス中のメタノール濃度を赤外分光法(IR)により定量した。得られた結果は表1に示す通りであった。
【0076】
表1に示すように、燃焼触媒と親水性領域のいずれも設けなかった比較例1では排ガス中のメタノール濃度が55ppmとなり、カソード流路の水詰まりによるセルの電圧低下も認められた。
【0077】
また、親水性領域は形成したものの、燃焼触媒を設けなかった比較例2では、カソード流路の水詰まりによるセルの電圧低下は認められなかったが、排ガス中のメタノール濃度は50ppmであり、比較例1とほぼ同等であった。
【0078】
さらに、燃焼触媒は設けたものの、親水性領域を形成せず、カソード延出部とアノード延出部の間隔を2.75mmとした比較例3においては、カソード延出部とアノード延出部の間隔が実施例1などに比べて広いにもかかわらず、水詰まりによるセルの電圧低下が認められ、排ガス中のメタノール濃度も47ppmとなった。
【0079】
これに対し、本発明に係る実施例1〜4の燃料電池では、カソード水詰まりを起こしたものは皆無であり、排ガス中のメタノール濃度も検出限界以下(10ppm以下)となり、本発明の効果が認められた。
【0080】
【表1】

【符号の説明】
【0081】
1 電解質膜
2 アノード触媒層
3 カソード触媒層
4 アノードガス拡散層
5 カソードガス拡散層
6 膜電極接合体
7 燃料流路
8a アノード流路板
10a、10b カソード流路板
11 アノード延出部
12 燃焼触媒
13 カソード延出部
14 親水性領域
100a 単セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、前記電解質膜の両側にそれぞれ配置されたアノード触媒層及びカソード触媒層と、前記アノード触媒層及び前記カソード触媒層の前記電解質膜側とは反対側にそれぞれ配置されたアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層とを含む膜電極接合体と、
前記アノードガス拡散層の前記アノード触媒層側とは反対側に配置され、凹部を有し、前記アノードガス拡散層表面と前記凹部により、液体燃料を供給するための燃料流路を形成させる、導電性材料からなるアノード流路板と、
前記カソードガス拡散層の前記カソード触媒層側とは反対側に配置され、凹部を有し、前記カソードガス拡散層表面と前記凹部により、酸化剤を供給するための酸化剤流路を形成させる、導電性材料からなるカソード流路板と、
を含む単セルを複数個積層した燃料電池スタックを備え、
前記アノード流路板の端部に、前記アノード触媒層よりも外側に前記積層方向と交差する方向に延びたアノード延出部が形成され、前記アノード延出部の少なくとも一部に酸素との燃焼反応によりメタノールまたはホルムアルデヒドを分解することができる燃焼触媒が配置され、
前記カソード流路板の端部に、前記カソード触媒層よりも外側に前記積層方向と交差する方向に延びたカソード延出部が形成され、前記カソード延出部の、前記アノード延出部と対向する面の少なくとも一部に親水性領域が形成されている
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記カソード延出部および前記アノード延出部の間に空気を供給するための空気供給手段をさらに有する、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記カソード延出部と、前記カソード延出部に対向する前記アノード延出部との間隔が、2.5mm以下である、請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記カソード延出部または前記アノード延出部の少なくとも一方が、燃料電池の発電により発生する熱を逃がすための放熱フィンである、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記親水性領域が、アルミナ、シリカ、酸化スズ、および酸化イリジウムスズからなる群から選ばれる少なくとも1つの無機酸化物膜、または不織布からなるものである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記親水性領域の水滴接触角が40°以下である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記燃焼触媒が、白金、パラジウム、または白金−パラジウム合金から選ばれる少なくとも1つの材料から構成される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記燃焼触媒が、撥水材を含む、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項9】
酸化剤流路の少なくとも一部に親水性領域が形成されている、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−205593(P2010−205593A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50570(P2009−50570)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】