説明

燃料電池

【課題】生成水の排水性能を高めて、フラッディングの発生を抑制する。
【解決手段】燃料電池において、ガス流路形成部材40は、ガス流路形成部材40の表裏の間を連通する連通孔Hが複数、所定の向きに配列された連通孔列110と、前記電極の面との間に所定の間隙を有することで前記反応ガスの流路を形成する平坦部Sを、前記所定の向きと同じ向きに連ねた平坦部列120とを備え、連通孔列110と平坦部列120とを、交互に複数組、配列するとともに、平坦部列120に、段差Dを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス流路形成部材を備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池として、膜電極接合体と、膜電極接合体の両側に配置されるセパレータとを備え、膜電極接合体とセパレータとの間に、導電性多孔体であるガス流路形成部材が設けられたものが知られている。ガス流路形成部材としては、金属製の薄板に網目状の連通孔を形成し、一方側の面から他方側の面にガスが潜り込むようにしたものが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−287955号公報
【0004】
前記ガス流路形成部材は、連通孔を形成する凸部と凸部との間が平坦部となっているが、この平坦部に膜電極接合体で発生した生成水が滞留しやすく、フラッディングが発生する虞があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生成水の排水性能を高めて、フラッディングの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1] 電解質層と、前記電解質層上に形成された、触媒を備える電極と、前記電極の側に配設され、該電極の面に反応ガスを供給するための流路を形成するガス流路形成部材とを備えた燃料電池において、前記ガス流路形成部材は、当該ガス流路形成部材の表裏の間を連通する連通孔が複数、所定の向きに配列された連通孔列と、前記電極の面との間に所定の間隙を有することで前記反応ガスの流路を形成する平坦部を、前記所定の向きと同じ向きに連ねた平坦部列とを備え、前記連通孔列と前記平坦部列とは、交互に複数組、配列され、前記平坦部は、隣り合う平坦部との間に段差を設けて接続されている、燃料電池。
【0008】
適用例1に記載の燃料電池によれば、ガス流路形成部材における平坦部列に段差が設けられていることから、電極と平坦部列との間隙を流れる反応ガスの一部は、前記段差に衝突し連通孔列側に向かい、連通孔を介して電極と反対の面側に潜り込む。このガスの流れにより、電極側で発生した生成水は、ガス流路形成部材における電極と反対の面側に移行する。このため、電極とガス流路形成部材との間に生成水が滞留することがない。したがって、適用例1に記載の燃料電池によれば、フラッディングの発生を抑制することができる。
【0009】
[適用例2] 適用例1に記載の燃料電池であって、前記連通孔列は、前記ガス流路形成部材の基材の一部分により構成され、前記電極の面に対し所定の勾配を有する傾斜部により、前記連通孔の一部を構成するものである、燃料電池。
【0010】
適用例2に記載の燃料電池によれば、基材をプレス処理する作業により、傾斜部を備えた連通孔列を製造することができることから、ガス流路形成部材の製造が容易である。
【0011】
[適用例3] 適用例2に記載の燃料電池であって、前記ガス流路形成部材は、前記各傾斜部の一方端の集合と他方端の集合とが、それぞれ、前記電極の面に対して平行となるような向きに配設された構成である、燃料電池。
【0012】
適用例3に記載の燃料電池によれば、ガス流路形成部材の全体を電極の面に対して平行とすることができることから、ガス流路形成部材の電極の側への配置が容易となる。また、ガス流路形成部材の電極と反対側に配置されるセパレータ等の部品に対しても、ガス流路形成部材の全体を平行とすることができることから、ガス流路形成部材の前記部品の側への配置も容易となる。
【0013】
[適用例4] 適用例1ないし3のいずれかに記載の燃料電池であって、セパレータを備え、前記ガス流路形成部材は、前記電極とセパレータとの間に、前記連通孔の下流側に位置する側の面が前記セパレータに当接するように配設された構成である、燃料電池。
【0014】
適用例4に記載の燃料電池によれば、電極側で発生した生成水を、ガス流路形成部材の有する連通孔を介して積極的にセパレータ側に排出することが可能となる。
【0015】
[適用例5] 適用例1ないし4のいずれかに記載の燃料電池であって、前記段差は、前記ガス流路形成部材の厚さ方向の高低差である、燃料電池。
【0016】
適用例5に記載の燃料電池によれば、ガス流路形成部材の厚さ方向の高低差である段差により、反応ガスの流れの一部を連通孔列側に向けることが可能となる。
【0017】
さらに、本発明は、上記適用例1ないし7以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本発明の燃料電池用ガス流路形成部材の製造方法を用いて製造した燃料電池などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施例としての燃料電池100の概略構成を示す説明図である。
【図2】燃料電池100の有する流路形成部材40の構造を示す斜視図である。
【図3】流路形成部材40の平面と矢視を示す説明図である。
【図4】連通孔列110の基本パーツ112を示す説明図である。
【図5】プレス装置200を示す説明図である。
【図6】参考例の流路形成部材240の断面図である。
【図7】第2実施例における流路形成部材300を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら、実施例に基づき説明する。
【0020】
A.第1実施例:
A−1.燃料電池の概略構成:
本発明の第1実施例としての燃料電池100の概略構成を図1に示す。燃料電池100は、固体高分子形の燃料電池であり、複数積層された発電体20を両端のエンドプレート95,96で挟持して構成される。発電体20は、発電がなされる基本構造であり、燃料電池100は、発電体を複数積層させたスタック構造を有している。この燃料電池100では、燃料ガスとしての水素および酸化剤ガスとしての空気が水素供給マニホールド95a、空気供給マニホールド95bから発電体20に供給され、その排ガスが水素排出マニホールド95cおよび空気排出マニホールド95dから排出される。また、冷却水が冷却水供給マニホールド95eから発電体20に供給され、その排水が冷却水排出マニホールド95fから排出される。
【0021】
発電体20は、膜電極接合体としてのMEA34(Membrane Electrode Assembly)の両面にガス拡散層33a、33bが接合したMEGA35の両面に、流路形成部材40,60、セパレータ70,80が積層されて構成される。これら各部分は、図中のz方向に積層される。なお、本実施例における発電体20の積層面の寸法は100mm×300mmである。流路形成部材40,60は、本発明で言う「ガス流路形成部材」である。
【0022】
MEA34は、電解質膜31の表面上に、カソード電極32aとアノード電極32bとを備える。電解質膜(電解質層)31は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子材料の薄膜であり、セパレータ70,80の外形よりも小さく流路形成部材40、60の外形よりも大きい長方形に形成されている。本実施例では、電解質膜31には、ナフィオン(登録商標)を用いた。カソード電極32aおよびアノード電極32bは、導電性を有する担体上に触媒を担持させた電極であり、本実施例においては、白金触媒を担持したカーボン粒子と、電解質膜31を構成する高分子電解質と同質の電解質とを備えている。
【0023】
ガス拡散層33a,33bは、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロス、あるいは金属メッシュや発泡金属によって形成することができる。本実施例においては、ガス拡散層33a,33bは、カーボンペーパを用いた。ガス拡散層33a,33bは、酸化剤ガスまたは燃料ガスを拡散して、カソード電極32aまたはアノード電極32bの全面に供給する。ガス拡散層33a,33bは、ガス拡散機能の他に、集電機能や、MEA34の保護機能も担っている。なお、このガス拡散層33aおよび33bには、MEA34の水分量を調節する機能などを持たせてもよい。
【0024】
かかるMEGA35は、その外周に配されたシールガスケット36と一体形成される。シールガスケット36には、水素供給マニホールド30a、空気供給マニホールド30b、水素排出マニホールド30c、空気排出マニホールド30d、冷却水供給マニホールド30e、冷却水排出マニホールド30fを備えている。また、シールガスケット36には、厚み方向に、各マニホールドを囲む凸状の部位が形成されており、当該部位は、シールガスケット36の両側に積層されるセパレータ70,80と当接し、マニホールド内からの流体(燃料ガス、酸化剤ガス、冷却水)の漏れを抑制するシールとして機能する。
【0025】
流路形成部材40,60は、電極32b,32aの面に反応ガス(水素、空気)を供給するための流路を形成する部材である。一方側の流路形成部材40は、MEGA35のアノード側とセパレータ70との間に配設され、セパレータ70を介して供給された水素を、MEA34の電極面の側方の一方の側から他方の側に向けた流れ(図中x方向)で流しつつ、水素をMEGA35のアノード側に供給する。同様に、他方側の流路形成部材60は、空気を図中y方向に流しつつMEGA35のカソード側に供給する。かかる流路形成部材40、60は、耐食性と導電性とを有する金属、例えば、ステンレス鋼やチタン、チタン合金などによって形成されるが、本実施例では、チタンを用いた。流路形成部材40,60の詳細な構造については後述する。なお、本実施例では、MEGA35の両面に流路形成部材40,60を備える構成としたが、MEGA35の片面のみに備える構成としてもよい。なお、図中、x方向、y方向、z方向は互いに直角な方向である。
【0026】
セパレータ70は、カソード電極32a側に設けられる平坦なカソード側セパレータ71と、アノード電極32b側に設けられる平坦なアノード側セパレータ73と、それらの間に配置される中間セパレータ72とが一体となって構成される。カソード側セパレータ71には、水素供給マニホールド71a、空気供給マニホールド71b、水素排出マニホールド71c、空気排出マニホールド71d、冷却水供給マニホールド71e、冷却水排出マニホールド71f、空気連通孔75,76を備えている。空気供給マニホールド71bに供給された空気は、中間セパレータ72の空気連通孔72bおよび空気連通孔75を介して、流路形成部材60に導かれる。また、その排ガスは、空気連通孔76および中間セパレータ72の連通孔(図示せず)を介して、空気排出マニホールド71dに排出される。
【0027】
同様に、水素供給マニホールド71aに供給された水素は、中間セパレータ72の水素連通孔72aおよびアノード側セパレータ73の連通孔(図示せず)を介して、流路形成部材40に導かれ、流路形成部材40を流れた後、アノード側セパレータ73および中間セパレータ72の連通孔(図示せず)を介して、水素排出マニホールド71cに排出される。また、中間セパレータ72には、略長方形外形の長辺方向に沿って複数の切欠が形成され、その切欠の両端はそれぞれ、冷却水排出マニホールド71fおよび冷却水供給マニホールド71eと連通している。
【0028】
かかるセパレータ70は、ガス不透過な導電性部材、例えば圧縮カーボンやステンレス鋼やチタンから成る部材によって形成されるが、本実施例では、チタンを用いた。なお、セパレータ80は、セパレータ70と同様の構成である。
【0029】
A−2.流路形成部材の構造:
流路形成部材40,60の詳細な構造について次に説明する。図2は流路形成部材40の構造を示す斜視図であり、図3(a)は流路形成部材40の平面図であり、図3(b)は図3(a)におけるA−A線矢視図である。流路形成部材40は、平板をプレス成形したプレス成形品である。これら図に示すように、流路形成部材40は、複数の連通孔Hが配列された連通孔列110と、複数の平坦部Sを連ねた平坦部列120とが、交互に複数組、配列された構成である。
【0030】
図4は、連通孔列110の基本パーツを示す説明図である。図4(a)が基本パーツの平面図であり、図4(b)は図4(a)におけるB−B線矢視図である。基本パーツ112は、角度θの勾配を有する傾斜部114を備え、この傾斜部114を天井部分あるいは底部分とすることにより、図中の上半分の部分112aを凸形状(図4(a)において紙面の表側に向かって突出する形状)に、下半分の部分112bを凹形状(図4(a)において紙面の裏側に向かって凹む形状)に構成したものである。なお、前記勾配の角度θは、流路形成部材40の積層方向に垂直な面に対するもので、90度未満の値である。凸形状の部分112aにおいて、図中の上側ほど、傾斜部114の幅(図4(a)における左右方向の距離)Wは小さくなり、傾斜部114の高さ(図4(b)における左右方向の距離)Hは大きくなっている。一方、凸形状の部分112bにおいて、図中の下側ほど、傾斜部114の幅Wは小さくなり、傾斜部114の高さ(図4(b)Hは大きくなっている。
【0031】
図2および図3に示すように、流路形成部材40における連通孔列110は、前述した基本パーツ112を、図中x方向に複数、配列した構成である。なお、図2および図3におけるx方向、y方向、z方向は図1におけるx方向、y方向、z方向と一致する。基本パーツ112を複数配列することにより、隣接する2つの基本パーツ112の間に、1つの連通孔Hが形成される。すなわち、一方側の基本パーツ112の傾斜部114と、他方側の基本パーツ112の傾斜部114とを主要部とする連通孔Hが形成される。この連通孔Hは、流路形成部材40の一方側の面と他方側の面との間(表裏の間)を連通する。連通孔列110は、基本パーツ112がn(2以上の整数)個、配列されることで、n−1個の連通孔Hを備えることになる。
【0032】
連通孔列110は、複数、y方向に、所定の間隔を置いて配列されている。連通孔列110と連通孔列110との間隙の部分で、平坦部列120を構成する。平坦部列120は、複数の平坦部Sが、図中x方向に向かって連なった構成となっている。本実施例では、平坦部Sの縦方向(x方向)のサイズは、基本パーツ112の縦方向(図4の上下方向)のサイズとほぼ同一であり、1つの平坦部列120の備える平坦部Sの数は、1つの連通孔列110の備える基本パーツ112の数と同一である。
【0033】
隣接する平坦部Sと平坦部Sとは、段差Dを設けて接続されている。段差Dは、隣接する平坦部Sと平坦部Sとの間の高低差、すなわち、流路形成部材40の厚さ方向(z方向)の高低差であり、水素の流れRに対向する向きとなっている。なお、段差Dの面方向は、z方向に対して平行であってもよいし、z方向に対して傾いた方向であってもよい。
【0034】
また、本実施例では、段差Dは、図中のx方向において基本パーツ112と基本パーツ112との連結部分に対応した位置に配される。なお、平坦部Sは、傾斜部114の勾配の角度θよりも小さい所定の角度だけ傾斜しており、この勾配により段差Dを形成することで、各平坦部Sの任意の部位が、z軸方向において同じ位置となるようになっている。
【0035】
上述した流路形成部材40について、発電体20を構成する部材として積層した際の態様について説明する。流路形成部材40における連通孔列110は、角度θの勾配の傾斜部114を有するため、各傾斜部114の両端が、セパレータ70およびガス拡散層33bと当接するように、流路形成部材40は積層される。詳しくは、図3(b)に示すように、各傾斜部114の一方端114aの集合と他方端114bの集合とは、それぞれ、一平面(以下、この平面を「当接面」と呼ぶ)F1,F2を形成することから、連通孔Hの向きが左上から右下に向かう方向となるように流路形成部材40を積層するときに、図中左側に位置する当接面F1がガス拡散層33bの表面と当接し、図中右側に位置する当接面F2がセパレータ70の表面と当接するように積層される。
【0036】
流路形成部材40を積層したとき、流路形成部材40の平坦部列120とガス拡散層33bとの間には、隙間ができる。本実施例は、この隙間に主に水素が流れる構成となっている。
この水素の流れRは、図3(a)に示すように、直線状となっており、ガス拡散層33bの面に接しながら出口側に向かう。この水素の流れRの一部Rpは、前述した段差Dに衝突し、連通孔列110に向かう方向に方向を変えて、連通孔列110側に移動する。その後、水素の一部Rpは、連通孔Hを介してガス拡散層33bと反対の面側、すなわちセパレータ70側に潜り込む。
【0037】
燃料電池100のMEA34においては発電に伴って生成水が発生するが、その発生した生成水は、ガス拡散層33bと流路形成部材40との間に滞留しようとする。本実施例では、平坦部列120におけるガス拡散層33bとの隙間に生成水は滞留しようとするが、特に、図3に示すように、生成水Wは、前述した水素の流れRにより平坦部列120の段差Dの付近に集められ、その後、生成水Wは、前述した水素の一部Rpの流れと共に、連通孔列110の連通孔Hを潜ってセパレータ70側に排出される。
【0038】
なお、カソード電極32a側に配置される流路形成部材60の構造は、前述した流路形成部材40の構造と同一である。このため、カソード電極32a側に排出された生成水についても、同様に、流路形成部材60の連通孔を潜ってセパレータ80側に排出される。
【0039】
A−3.流路形成部材の製造方法:
流路形成部材40、60の製造方法について、次に説明する。流路形成部材40,60の製造は、基材を用意し、基材をプレス処理することにより行う。ここでは、基材は、チタン製の薄板とした。
【0040】
図5は、プレス処理に用いるプレス装置200を示す説明図である。プレス装置200は、上型210と下型220とを備える。図示は、上型210と下型220の断面を示す。上型210と下型220の図示する形状は、図3(b)の断面、すなわち連通孔列110の断面を形成するに必要な形となっている。上型210と下型220は、図示はしないが、実際は、
平坦部列120に対応した形状の部分も有する。上型210と下型220の間に基材を配置し、上型210を図中下側に、下型220を図中上側にそれぞれ圧力を掛けて移動することで、基材Kをプレス処理する。この結果、1度のプレス処理により、例えば、図2および図3(a)に示す合計12個の基本パーツ112を形成することができる。
【0041】
流路形成部材40,60に形成される基本パーツ112の数は、実際は、もっと大きな数で、例えば、縦方向に数百個、横方向に数百個である。本実施例では、上記プレス装置200を用いて、横方向に順に基材Kを移動しつつプレス処理を多数回行い(横操作)、その後、基材Kを縦方向に1基本パーツ分の距離だけ移動し、上記横操作を行う。以上の操作を繰り返すことで、流路形成部材40,60を製造する。このように、流路形成部材40,60は金属プレスにより、容易に製造することができる。なお、基材Kの全面を一部ずつプレスする構成に換えて、基材Kの全面を一度にプレスする構成としてもよい。
【0042】
A−4.実施例効果:
ここで、参考列として、流路形成部材40,60の平坦部列120が、段差Dがない一平面である構成を考えてみる。図6は、参考例の流路形成部材240の断面図である。図中、第1実施例と同一の構成要素には、同一の符号を付している。流路形成部材240の有する平坦部列250は、段差のない一平面である。その他の連通孔列110等の構成要素は、第1実施例と同一である。
【0043】
前記参考例では、平坦部列250とガス拡散電極との間のセル内ガス流路は、段差なくスムーズに水素が流れることから、図3に示した水素の一部Rpの流れは発生しない。このため、平坦部列250に生成水Wは留まったままとなる。これに対して、第1実施例の燃料電池100によれば、前述したように、水素の一部Rpの流れと共に生成水Wは、連通孔列110の連通孔Hを介してセパレータ70側に排出される。したがって、参考例の構成によれば、フラッディングの発生を抑制することができないのに対して、第1実施例の燃料電池100によれば、フラッディングの発生を抑制することができる。
【0044】
B:第2実施例:
図7は、本発明の第2実施例としての燃料電池で用いられる流路形成部材300を示す説明図である。図示は、流路形成部材300の平面である。第1実施例における流路形成部材40では、連通孔列110および平坦部列120は、x方向(図3参照)に真っ直ぐ延びる構成であったが、これに換えて、第2実施例における流路形成部材300では、連通孔列310および平坦部列320は、「へ」の字状に屈曲した構成となっている。すなわち、連通孔列310および平坦部列320は、第1の直線状の部分と第2の直線状の部分とが所定の角度θだけ屈曲した形状となっている。連通孔列310および平坦部列320は、屈曲した点を除いて第1実施例の連通孔列110および平坦部列120と同一の構成である。その他の構成要素についても、第2実施例の燃料電池は第1実施例の燃料電池100と同一である。
【0045】
以上のように構成された第2実施例の燃料電池によれば、第1実施例と同様に、平坦部列320の有する段差Dにより、平坦部列320を沿って流れる水素の流れの一部Rpは連通孔列310側に移動し、連通孔Hを介してセパレータ側に潜り込む。このため、第2実施例の燃料電池では、第1実施例の燃料電池と同様に、水素の一部Rpの流れと共に生成水Wは、セパレータ70側に排出される。したがって、第2実施例の燃料電池は、第1実施例の燃料電池と同様に、フラッディングの発生を抑制することができる。特に、第2実施例の燃料電池によれば、平坦部列320の屈曲した部分でも水素が拡散されることから、水素の一部を連通孔列310側により移動し易い。このため、生成水Wの排水性をより高めることができ、より確実にフラッディングの発生を抑制することができる。
【0046】
C:変形例:
なお、この発明は前記の第1および第2実施例やその変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0047】
・変形例1:
前記第1および第2実施例では、90度未満の角度θの勾配を備える傾斜部114を用いて連通孔Hを構成していたが、これに換えて、傾斜部を備えることなく、鉛直方向の孔により連通孔を構成してもよい。要は、ガス流路形成部材の表裏の間を連通することができる孔であればどのような形状の連通孔とすることもできる。
【0048】
・変形例2:
前記第1および第2実施例では、平坦部列120の有する段差Dは、連通孔列110における基本パーツ112と基本パーツ112との連結部分に対応するように配置されているが、必ずしも段差Dと基本パーツ112の連結部分とは1:1で対応する必要はない。例えば、2つの平坦部Sごとに1つの段差Dを設けた構成とすることもできる。また、平坦部Sを3つ置き、4つおきに段差Dを設けるようにしてもよいし、x方向においてランダムに複数の段差を設ける構成としてもよい。さらに、平坦部列120において1つだけ段差を設ける構成としてもよい。さらにまた、段差Dは、基本パーツ112の連結部分と必ずしもx方向において同じ位置に配置する必要はなく、例えば、基本パーツ112の真ん中部分とx方向において同じ位置等、任意の位置とすることができる。
【0049】
・変形例3:
前記第1および第2実施例では、セパレータ70,80は、三層積層型のものとして表面のフラット化が容易であるものとしたが、これに換えて、表面が平坦な他の板状部材としてもよい。また、必ずしも表面が平坦なセパレータに限る必要もない。もちろん三層積層型に限る必要もない。
【0050】
・変形例4:
前記第1および第2実施例では、流路形成部材40,60は双方、同一の構成としたが、これに換えて、図2,3,4あるいは図7に示した構成は一方側だけとしてもよい。すなわち、一方側の流路形成部材だけを図2,3,4あるいは図7の構成とし、他方側の流路形成部材は従来からの構成としてもよい。
【0051】
・変形例5:
また、前記実施例および変形例とは異なる種類の燃料電池に本発明を適用することとしてもよい。例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池に適用することができる。あるいは、固体高分子以外の電解質層を有する燃料電池であってもよく、本発明を適用することで同様の効果が得られる。
【0052】
なお、前述した実施例および各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明はこれらの実施例および各変形例になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の態様での実施が可能である。
【符号の説明】
【0053】
20…発電体
30a…水素供給マニホールド
30b…空気供給マニホールド
30c…水素排出マニホールド
30d…空気排出マニホールド
30e…冷却水供給マニホールド
30f…冷却水排出マニホールド
31…電解質膜
32a…カソード電極
32b…アノード電極
33a…ガス拡散層
33b…ガス拡散層
36…シールガスケット
40,60…流路形成部材
70…セパレータ
71…カソード側セパレータ
71a…水素供給マニホールド
71b…空気供給マニホールド
71c…水素排出マニホールド
71d…空気排出マニホールド
71e…冷却水供給マニホールド
71f…冷却水排出マニホールド
72…中間セパレータ
72a…水素連通孔
72b…空気連通孔
73…アノード側セパレータ
75…空気連通孔
76…空気連通孔
80…セパレータ
95…エンドプレート
95a…水素供給マニホールド
95b…空気供給マニホールド
95c…水素排出マニホールド
95d…空気排出マニホールド
95e…冷却水供給マニホールド
95f…冷却水排出マニホールド
100…燃料電池
110…連通孔列
112…基本パーツ
114…傾斜部
120…平坦部列
200…プレス装置
210…上型
220…下型
300…流路形成部材
310…連通孔列
320…平坦部列
300…流路形成部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、
前記電解質層上に形成された、触媒を備える電極と、
前記電極の側に配設され、該電極の面に反応ガスを供給するための流路を形成するガス流路形成部材と
を備えた燃料電池において、
前記ガス流路形成部材は、
当該ガス流路形成部材の表裏の間を連通する連通孔が複数、所定の向きに配列された連通孔列と、
前記電極の面との間に所定の間隙を有することで前記反応ガスの流路を形成する平坦部を、前記所定の向きと同じ向きに連ねた平坦部列と
を備え、
前記連通孔列と前記平坦部列とは、交互に複数組、配列され、
前記平坦部は、隣り合う平坦部との間に段差を設けて接続されている、燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記連通孔列は、
前記ガス流路形成部材の基材の一部分により構成され、前記電極の面に対し所定の勾配を有する傾斜部により、前記連通孔の一部を構成するものである、燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記ガス流路形成部材は、
前記各傾斜部の一方端の集合と他方端の集合とが、それぞれ、前記電極の面に対して平行となるような向きに配設された構成である、燃料電池。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料電池であって、
セパレータを備え、
前記ガス流路形成部材は、
前記電極とセパレータとの間に、前記連通孔の下流側に位置する側の面が前記セパレータに当接するように配設された構成である、燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の燃料電池であって、
前記段差は、
前記ガス流路形成部材の厚さ方向の高低差である、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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