説明

燃料電池

【課題】燃料電池の電解質膜が乾燥することによって裂けることを抑制する。
【解決手段】電解質膜を有する燃料電池であって、前記電解質膜の温度を取得する温度取得部と、前記電解質膜の湿度を取得する湿度取得部と、前記電解質膜の温度と湿度とのうちの少なくとも一方を用いて前記電解質膜のクリープ変形量を算出するクリープ変形量算出部と、前記クリープ変形量の累積値を算出する累積値算出部と、前記累積値が予め定められた値を超えた場合に警告を発する警告報知部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の電解質膜が乾燥することによって裂けることを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電解質膜の面内方向への変位量に基づいて乾燥状態を検出する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開番号WO2007/052500A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、燃料電池を長期間使用すると、電解質膜に引っ張り方向の応力が加わり、クリープ変形して電解質膜が裂ける場合がある。電解質膜が裂けると反応ガスが電解質膜を透過する。しかし、この電解質膜の裂けを事前に検知し、あるいは抑制することは困難であった。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、燃料電池の電解質膜が乾燥することによって裂けることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
電解質膜を有する燃料電池であって、前記電解質膜の温度を取得する温度取得部と、前記電解質膜の湿度を取得する湿度取得部と、前記電解質膜の温度と湿度とのうちの少なくとも一方を用いて前記電解質膜のクリープ変形量を算出するクリープ変形量算出部と、前記クリープ変形量の累積値を算出する累積値算出部と、前記累積値が予め定められた値を超えた場合に警告を発する警告報知部と、を備える燃料電池。
この適用例によれば、燃料電池の電解質膜が乾燥することによって裂ける前に警報を発することができるので、電解質膜が裂けることを抑制することが可能となる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池において、前記クリープ変形量算出部は、前記温度と前記湿度とから単位時間当たりのクリープ変形量を算出するための算出手段を備える、燃料電池。
この適用例によれば、前記温度と前記湿度とから単位時間当たりのクリープ変形量を算出するための算出手段を備えるので、クリープ変形量の算出の精度を向上させることが出来る。
【0009】
[適用例3]
適用例2に記載の燃料電池において、前記クリープ変形量算出部は前記算出手段として、前記温度と前記湿度とから前記電解質膜に掛かる引張応力を算出するための第1の算出手段と、前記引張応力と前記温度とから単位時間当たりのクリープ変形量を算出するための第2の算出手段と、を有しており、前記クリープ変形量算出部は、前記第1の算出手段を用いて前記温度と前記湿度とから前記電解質膜に掛かる引張応力を算出し、前記第2の算出手段を用いて前記引張応力と前記温度とから単位時間当たりのクリープ変形量を算出し、前記単位時間当たりのクリープ変形量を時間積分することにより前記クリープ変形量を算出する、燃料電池。
この適用例によれば、第1の算出手段により引張応力を算出し、第2の算出手段により単位時間当たりのクリープ変形量を算出し、単位時間当たりのクリープ変形量を時間積分するので、クリープ変形量の算出の精度を向上させることが出来る。
【0010】
[適用例4]
適用例1から適用例3までのうちのいずれか一項に記載の燃料電池において、クリープ変形速度が予め定められた速度以上となる判定温度を予め求めておき、前記累積値算出部は、前記電解質膜の温度が前記判定温度以上の場合に前記クリープ変形量を累積する、燃料電池。
この適用例によれば、温度が低いときは、クリープ変形の応力に与える影響が少ないので、温度が高く、クリープ変形量が大きいときのみクリープ変形量を累積すればよい。
【0011】
[適用例5]
適用例1から適用例4のうちのいずれか一つの適用例に記載の燃料電池において、前記電解質膜の外縁部に、前記クリープ変形を緩和するための変形層を有する、燃料電池。
この適用例によれば、電解質膜の応力を変形層で和らげることが可能となる。
【0012】
[適用例6]
適用例5に記載の燃料電池において、前記電解質膜は表面に触媒層を有しており、前記変形層の厚さは、前記触媒層の厚さよりも厚く形成されている、燃料電池。
この適用例によれば、変形層の厚さが触媒層の厚さよりも厚く形成されているので、変形層が裂けにくい。
【0013】
[適用例7]
適用例6に記載の燃料電池において、前記変形層は、前記電解質膜と同じ電解質成分を有する、燃料電池。
この適用例によれば、変形層の方が厚くかつ変形層と電解質膜とが同じ電解質成分でできているので、電解質膜よりも変形層の方が変形しやすく、電解質膜に応力が掛かりにくくすることができる。
【0014】
[適用例8]
適用例5に記載の燃料電池において、前記変形層は、保護フィルムを備える、燃料電池。
この適用例によれば、変形層は保護フィルムを備えているため、変形層が伸びた場合であっても、変形層は破れ難く、反応ガスを透過させ難くできる。
【0015】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池の他、燃料電池の制御方法、燃料電池用膜電極接合体等、様々な形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施例にかかる燃料電池システムの構成を示す説明図である。
【図2】燃料電池セルの構成を模式的に示す説明図である。
【図3】電解質膜の温度と電解質膜に加える応力と電解質膜のクリープ変形速度との関係を示すグラフの一例である。
【図4】電解質膜の湿度(含水率)と引張応力の関係を示す説明図である。
【図5】電解質膜の電気伝導度と湿度の関係を示す説明図である。
【図6】電解質膜の比抵抗と湿度の関係を示す説明図である。
【図7】燃料電池の運転時の動作フローチャートである。
【図8】電解質膜の温度とクリープ変形速度の関係を示す説明図である。
【図9】本実施例の変形例の動作フローチャートである。
【図10】別の変形例の動作フローチャートである。
【図11】第3の実施例の膜電極接合体を示す説明図である。
【図12】図10の膜電極接合体にガス拡散層が配置された状態を示す説明図である。
【図13】燃料電池セルの高温時に変形層が電解質膜の平面方向に伸びた状態を示す説明図である。
【図14】第4の実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施例]
図1は、第1の実施例にかかる燃料電池システムの構成を示す説明図である。燃料電池システム10は、燃料電池100と、燃料タンク200と、エアポンプ300と、制御部400と、警報報知器420と、を備える。燃料電池100は、燃料ガスと酸化ガスとを反応させて電力を発生させる装置である。燃料電池100は、複数の燃料電池セル110(「発電ユニット110」とも呼ぶ。)と、エンドプレート190と、を備える。複数の燃料電池セル110は、積層して配置されており、エンドプレート190は、積層された燃料電池セル110の積層方向の両端に配置されている。各燃料電池セル110は、燃料電池セル110内の電解質膜(図示せず)の温度を測定するための温度計510と、電解質膜の湿度を測定するための湿度計520と、を備える。
【0018】
燃料タンク200は、燃料電池100に供給される燃料ガスを貯蔵している。本実施例では、燃料ガスとして水素を用いている。燃料タンク200と燃料電池100とは、燃料ガス供給管210により接続されている。燃料ガス供給管210には、燃料ガスの湿度を測定するための湿度計530が配置されている。燃料電池100の下流側には、燃料排ガスを大気に放出するための燃料ガス排気管220が配置されている。燃料ガス供給管210には、燃料電池100に供給する燃料ガスの圧力を調整するための調圧弁や、燃料電池100の発電停止中に燃料電池100への燃料ガスの供給を停止するための主止弁が配置されていてもよい。また、燃料ガス排気管220には、燃料ガス排気弁が設けられていてもよい。
【0019】
エアポンプ300は、燃料電池100の供給するための空気を圧縮する。すなわち、本実施例では、酸化ガスとして、空気(空気中の酸素)を用いている。エアポンプ300と、燃料電池100とは、酸化ガス供給管310により接続されている。酸化ガス供給管310には、酸化ガスの湿度を測定するための湿度計540が配置されている。燃料電池100の下流側には、酸化排ガスを大気に放出するための酸化ガス排気管320が配置されている。なお、酸化ガス供給管310には、燃料電池100の発電停止中に、燃料電池100とエアポンプ300との間の空気の移動を制限するための酸化ガス主止弁や、エアポンプ300による圧縮により高温となった酸化ガスを冷却するためのインタークーラーが設けられていてもよい。酸化ガス排気管320には、酸化ガス排気弁が設けられていてもよい。
【0020】
制御部400は、クリープ変形量算出部401と、クリープ変形量累積部402と、記憶部410を備えている。記憶部410は、電解質膜の温度と湿度との少なくとも一方から電解質膜のクリープ変形量を算出するための算出手段を格納する。制御部400は、燃料電池100の発電動作を制御するとともに、電解質膜の温度と湿度を取得する。また、制御部400は、電解質膜のクリープ変形量の累積値から電解質膜の裂けを、電解質膜が裂ける前に予測する。クリープ変形量算出部401は、温度計510、湿度計520から燃料電池セル110内の電解質膜(図示せず)の温度と湿度とを取得し、記憶部410の算術手段を用いて、電解質膜の温度と湿度との少なくとも一方から電解質膜のクリープ変形量を算出する。クリープ変形量累積部402は、クリープ変形量を累積する。なお、制御部400は、燃料ガス供給管210に配置された湿度計530及び酸化ガス供給管310に配置された湿度計540から得られた反応ガスの湿度から、電解質膜の湿度を算出してもよい。
【0021】
警報報知器420は、制御部400に接続されている。制御部400が、電解質膜の裂けを事前に検知した場合には、制御部400からの指示を受けて、利用者に警報を発する。
【0022】
図2は、燃料電池セルの構成を模式的に示す説明図である。燃料電池セル110は、膜電極接合体120と、カソードガス拡散層132と、アノードガス拡散層133と、カソードセパレータプレート142と、アノードセパレータプレート143と、ガスケット160と、を備える。膜電極接合体120は、電解質膜121と、カソード触媒層122と、アノード触媒層123と、を備える。
【0023】
電解質膜121は、固体高分子材料、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマなどのフッ素系樹脂から成るプロトン伝導性のイオン交換膜である。カソード触媒層122とアノード触媒層123は、電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金触媒、あるいは白金と他の金属から成る白金合金触媒を含んでいる。カソード触媒層122は電解質膜121の一方の面に形成され、アノード触媒層123は、電解質膜121の他方の面に形成されている。
【0024】
カソードガス拡散層132は、カソード触媒層122に接するように配置されている。アノードガス拡散層133は、アノード触媒層123に接するように配置されている。カソードガス拡散層132、アノードガス拡散層133は、燃料ガスや酸化ガスを通過させるとともに、これらのガスを拡散させてそれぞれカソード触媒層122とアノード触媒層123に供給するための部材であり、例えば、チタン製などの金属あるいは導電性樹脂で形成された多孔体を用いることができる。また、カソードガス拡散層132、アノードガス拡散層133として、カーボン不織布を用いたカーボンクロスやカーボンペーパーを用いてもよい。
【0025】
カソードセパレータプレート142は、金属製の平板形状の部材であり、カソードガス拡散層132と接するように配置されている。カソードセパレータプレート142は、カソードガス拡散層132と接する面に、溝144を有しており、溝144は、酸化ガス流路152を形成している。アノードセパレータプレート143は、金属製の平板形状の部材であり、アノードガス拡散層133と接するように配置されている。アノードセパレータプレート143は、アノードガス拡散層133と接する面に、溝145を有しており、溝145は、燃料ガス流路153を形成している。
【0026】
温度計510は、電解質膜121の内部に配置され、電解質膜121の温度を測定する。温度計510として、熱電対温度計を用いることが出来る。熱電対温度計では、電圧や電流が測定されるので、制御部400は、これらの電圧や電流から温度を算出する。なお、熱電対温度計の他、や、白金抵抗温度計を用いてもよい。湿度計520は、電解質膜121の内部に配置され、電解質膜121の湿度を測定する。湿度計520は、電解質膜121の電導度あるいは抵抗を測定し、制御部400は、電導度あるいは抵抗値と、電解質膜121の温度と、を用いて電解質膜121の湿度を算出する。なお、制御部400は、電圧、電流から電解質膜の温度を求める際に、あるいは、電導度と、電解質膜121の温度や電解質膜121の湿度を求める際に、演算による算出手段の他、マップを用いてもよい。これらのマップは、記憶部410(図1)に格納される。したがって、請求項2、3に記載の算出手段には、演算による算出手段の他、マップも含まれる。
【0027】
図3は、電解質膜の温度と、電解質膜に加える応力と、電解質膜のクリープ変形速度との関係を示すグラフの一例である。横軸は引張応力[MPa]であり、縦軸はクリープ変形速度[1/min]である。ここで、分子の[1]は、100%(=1)を意味する。例えば、電解質膜を100℃で引張応力5[Mpa]で引っ張ったとき、電解質膜は、3[1/min](=300[%/min])の速度でクリープ変形する。ここで、クリープ変形について説明する。部材に応力を加えると部材は変形する。大きな応力を加えると、それだけ大きく変形し、ある程度の応力(いわゆる弾性限)を超えると、あとから応力を除いてもそのまま変形が残る塑性変形が生じる。逆に、応力が小さければ、変形が起こりにくい。しかしながら、ある温度では、塑性変形が生じないような小さな応力しかかかっていなくても、温度が上昇すると、時間をかけてゆっくりと着実に変形が進行するようになる。この時間の経過と共に徐々に進行する塑性変形を、クリープ変形と呼ぶ。
【0028】
図3に示すグラフは、以下のようにして作成することができる。燃料電池100あるいは燃料電池セル110に取り付けられていない電解質膜121を準備する。所定の湿度(図3の例では、15%)所定の温度(例えば30℃)において電解質膜121に引張応力を印加し、電解質膜121のクリープ変形速度を測定する。次に、電解質膜121の湿度あるいは、温度を変えて(例えば、60℃、80℃、100℃)同様に、クリープ変形速度を測定する。そして、応力とクリープ変形速度の関係を、湿度毎、温度毎にマップ化する。一般に、温度が高いほどクリープ変形速度は大きくなる。
【0029】
図4は、電解質膜の湿度(含水率)と引張応力の関係を示す説明図である。一般に、電解質膜121は、乾燥すると縮むため、電解質膜121に引張応力がかかる。電解質膜121の温度を60℃として、湿度100%(含水率100%)の時の応力を0[Mpa]とし、電解質膜121の水分を蒸発させて徐々に乾燥し、電解質膜121に掛かる応力を測定する。次に湿度と応力との関係をマップ化する。なお、図4では、電解質膜121の温度が60℃のときのデータのみ示しているが、図3のときと同様に他の温度(例えば、30℃、80℃、100℃)についても同様のマップを作成してもよい。図3、図4に示すマップは、制御部400の記憶部410(図1)に格納され、制御部400は、燃料電池の温度、湿度から図3、図4に示すマップを用いて、電解質膜121のクリープ変形速度を算出する。
【0030】
図5は、電解質膜の電気伝導度と湿度の関係を示す説明図である。一般に、電解質膜121の湿度と電気伝導度の間には、一定の関係があり、電解質膜121の湿度が大きいと電解質膜121の電気伝導度が大きく、電解質膜121の湿度が小さいと電気伝導度も小さい。したがって、電解質膜121の電気伝導度を測定することにより、電解質膜121の湿度を算出することができる。
【0031】
図6は、電解質膜の比抵抗と湿度の関係を示す説明図である。電気伝導度の逆数が比抵抗であるため、電気伝導度の代わりに比抵抗を測定してもよい。電解質膜121の湿度が大きいと電解質膜121の比抵抗が小さく、電解質膜121の湿度が小さいと比抵抗が大きい。
【0032】
図7は、燃料電池の運転時の動作フローチャートである。ステップS700では燃料電池100(燃料電池セル110)を始動する。制御部400(図1)は、燃料タンク200から燃料電池100に対して燃料ガスを供給させるとともに、エアポンプ300から燃料電池100に対して酸化ガス(空気)を供給させることにより、燃料電池100に対し発電を実行させる。
【0033】
ステップS710では、制御部400は、温度計510を用いて、電解質膜121の温度を取得する。燃料電池100が発電を実行すると、電気化学反応による反応熱で燃料電池セル110(電解質膜121)の温度が上昇する。ステップS720では、制御部は、湿度計520を用いて、電解質膜121の湿度を取得する。電解質膜121の温度が上昇すると、電解質膜121から水分が蒸発する。一方、電気化学反応により、水が生成する。
【0034】
ステップS730では、制御部400のクリープ変形量算出部401は、電解質膜121に働く引張応力を算出する。具体的には、クリープ変形量算出部401は、ステップS710で取得した電解質膜121の温度と、ステップS720で取得した電解質膜121の湿度と、記憶部410に格納された図4に示すマップと、を用いて、電解質膜121に掛かる引張応力を算出する。
【0035】
ステップS740では、クリープ変形量算出部401は、電解質膜121のクリープ変形量を算出する。具体的には、クリープ変形量算出部401は、ステップS710で取得した電解質膜121の温度と、ステップS730で算出した引張応力と、記憶部410に格納された図3に示すマップと、を用いて、電解質膜121のクリープ変形速度を算出し、次いで、クリープ変形速度を積分することによりクリープ変形量を算出する。ここで、一般に電解質膜121は、定常状態で使用されている場合には、クリープ変形速度が小さく、クリープ変形量が大きくなる前に応力(乾燥を起因とする引張応力)が緩和し、これ以上クリープ変形し難くなる。
【0036】
ステップS750では、制御部400のクリープ変形量累積部402は、電解質膜121の算出したクリープ変形量の累積値を記憶部410に格納する。具体的には、クリープ変形量累積部402は、今回の燃料電池100の始動(ステップS700)前に記憶部410に格納されていたクリープ変形量の累積値に、ステップS740で算出したクリープ変形量を加え、新たなクリープ変形量の累積値として、記憶部410に格納する。
【0037】
ステップS760では、制御部400は、クリープ変形量の累積値が予め定められた判定値を超えているか、否か、を判断する。クリープ変形量の累積値が予め定められた判定値を超えている場合には、制御部400は、処理をステップS770に移行し、警報報知器420を用いて、ユーザー(例えば運転手)にアラームで知らせる。クリープ変形量の累積値が予め定められた判定値を超えていない場合には、制御部400は、警報を報知しない。ステップS780では、制御部400は、ユーザーの指示により、燃料電池100の運転を停止する。
【0038】
なお、クリープ変形量算出部401は、ステップS740において、電解質膜121のクリープ変形量を算出しているが、電解質膜121が高温の場合、1回のクリープ変形量だけで判定値を越える場合がありえる。しかし、かかる場合であっても、クリープ変形量累積部402、制御部400は、それぞれステップS750、S760の処理を実行すればよい。
【0039】
以上本実施例によれば、クリープ変形量算出部401は、電解質膜121の温度、湿度を用いて、電解質膜121のクリープ変形速度を算出し、クリープ変形速度を積分することによりクリープ変形量を算出する。クリープ変形量累積部402は、クリープ変形量の累積値を算出する。制御部400は、この累積値が予め定められた判定値を越えたか否かによりユーザーにアラーム(警報)を発するか否かを判断する。そのため、制御部400は、電解質膜121が裂ける前に、ユーザーに警報を発することができるので、電解質膜121が裂けることを抑制することが可能となる。
【0040】
なお、上記説明では、電解質膜121の温度と湿度の両方を用いてクリープ変形量を算出しているが、いずれか一方のみを用いてクリープ変形量を算出してもよい。かかる場合、例えば、平均湿度や平均温度を用いたマップを作成してもよい。なお、電解質膜121の温度と湿度の両方を用いた方がより正確に警報を発することが可能である。
【0041】
上記説明では、クリープ変形量を算出する算出手段としてマップを用いているが、演算による算出手段を用いてもよい。
【0042】
[第2の実施例]
図8は、電解質膜の温度とクリープ変形速度の関係を示す説明図である。第1の実施例で説明したように、クリープ変形速度は、電解質膜121の温度が高いほど大きい。ところで、電解質膜121では、応力が加わった場合、数分間で応力緩和が発生する。応力によりクリープ変形が生じても、応力緩和が起こると、電解質膜121には、ほとんど応力が掛からなくなる。このため、破断変形量が300%程度の電解質膜の場合、例えば、クリープ変形速度が1%/min以下の場合、電解質膜121に対するクリープ変形の影響が小さいと判断できる。したがって、クリープ変形速度が予め定められた閾値以下の場合には、クリープ変形量を累積しなくてもよい。
【0043】
図8において、電解質膜Aのクリープ変形速度が1%/minとなる温度は82℃である。したがって、電解質膜121として電解質膜Aを用いた場合、クリープ変形量算出部401は、電解質膜121の温度が82℃未満の場合には、クリープ変形量を算出せず、クリープ変形量累積部402は、クリープ変形量の累積を行わなくてもよい。一方、電解質膜Bのクリープ変形速度は、どの温度領域でも1%/min以上である。したがって、電解質膜121として電解質膜Bを用いた場合、電解質膜121の温度が低温である場合以外は、クリープ変形量算出部401は、クリープ変形量を算出し、クリープ変形量累積部402は、クリープ変形量の累積を行う。なお、クリープ変形速度の判定値、温度は、使用する電解質膜により異なるので、予め実験により求めておくことが好ましい。
【0044】
[変形例]
図9は、本実施例の変形例の動作フローチャートである。上記実施例では、制御部400は、湿度計520を用いて電解質膜121の湿度を取得している。ここで、燃料電池では、燃料電池セル110の運転状態から、電解質膜121の湿度を算出することが可能である。例えば、制御部400は、燃料電池セル110の発電量から、電気化学反応により電解質膜121に生じる生成水量を算出することができる。また、制御部400は、電解質膜121の温度及び反応ガスの流量を用いて、電解質膜121から持ち去られる生成水の量を算出することができる。したがって、制御部400は、電解質膜121に生じる生成水量と、電解質膜121から持ち去られる生成水量と、を用いて、電解質膜121の湿度を算出することができる。
【0045】
図9に示すフローチャートは、ステップS920を除き、図7に示すフローチャートの動作と同じであるので、ステップS920についてのみ説明する。ステップS920では、制御部400は、燃料電池セル110の運転状態から、電解質膜121の湿度を算出する。
【0046】
アノード触媒層123では、式(1)に示すアノード反応が起こり、カソード触媒層122では、式(2)に示すカソード反応が起こる。そして、この反応により、1モルの水素が反応すると、2F(19300C)の電荷が流れ、1モルの水が生成する。したがって、燃料電池100の発電により流れた電流量から、生成した水の量を算出することが出来る。
アノード反応: H → 2H + 2e (1)
カソード反応: (1/2)O + 2H + 2e → H0 (2)
【0047】
また、電解質膜121の表面から蒸発する水の量は、電解質膜121の温度と、電解質膜表面の反応ガスの流量に依存する。したがって、電解質膜121の温度及び電解質膜表面の反応ガスの流量と、電解質膜121の表面から蒸発する水の量との関係を予め実験により求めておき、マップとして記憶部410に格納しておく。制御部400は、このマップを用い、電解質膜121の温度と電解質膜表面の反応ガスの流量とから、電解質膜121の表面から蒸発する水の量を算出する。制御部400は、電気化学反応により生成した水の量と、電解質膜121から蒸発する水の量と、の差分から、電解質膜121の湿度を算出する。
【0048】
以上、本変形例によれば、燃料電池セル110の運転状態から、電解質膜121の湿度を算出する。そして、電解質膜121の温度と湿度とから、電解質膜121のクリープ変形速度、クリープ変形量及びクリープ変形量の累積値を求めて、ユーザーに対し警告を発することができる。
【0049】
図10は、別の変形例の動作フローチャートである。この変形例では、制御部400は、誤動作により反応ガスの流量が大きくなってしまったときに、アノード極とカソード極のガスの圧力差から電解質膜121に発生する応力を算出する。燃料電池100に流れる反応ガスの流速Vと差圧ΔPとの間には、差圧ΔPは流速の2乗に比例するという関係がある。ここで、流速Vは、燃料電池セル110に供給される反応ガスの流量と、カソードガス拡散層132、アノードガス拡散層133のガス流路の大きさにより定まる。
【0050】
図10に示すフローチャートは、ステップS1020、ステップS1030を除き、図7に示すフローチャートの動作と同じであるので、ステップS1020、S1030についてのみ説明する。ステップS1020では、制御部400は、燃料電池セル110への反応ガス(燃料ガス及び酸化ガス)の流量を取得する。例えば、制御部400は、燃料ガス供給管210及び酸化ガス供給管310に配置された流量計より反応ガスの流量を取得することができる。ステップS1030では、制御部400は、カソード、アノードそれぞれについて、燃料ガス、酸化ガスのそれぞれの流量とそれぞれのガス流路の大きさとを用いて、燃料ガス及び酸化ガスの流速を算出する。そして、燃料ガス及び酸化ガスの流速からそれぞれの差圧を算出し、電解質膜121のカソード側の圧力と、電解質膜121のアノード側の圧力を算出する。そして、制御部400は、電解質膜121のカソード側の圧力と、電解質膜121のアノード側の圧力とから電解質膜121に掛かる応力を算出する。
【0051】
以上、本変形例によれば、誤動作により反応ガスの流量が大きくなってしまったときであっても、アノード極とカソード極のガスの圧力差から電解質膜121に発生する応力を算出し、電解質膜121の温度と応力とから、電解質膜121のクリープ変形速度、クリープ変形量及びクリープ変形量の累積値を求めて、ユーザーに対し警告を発することができる。
【0052】
[第3の実施例]
図11は、第3の実施例の膜電極接合体を示す説明図である。第1、第2の実施例では、電解質膜121がクリープ変形し、クリープ変形量の累積値が予め定められた判定値以上となった場合に警告を発する構成であるが、第3の実施例では、電解質膜121のクリープ変形が生じても電解質膜に掛かる応力を抑える構成を採用する。
【0053】
第3の実施例の膜電極接合体120は、電解質膜121の外縁部両面にそれぞれ額縁状の変形層124、125を備える。変形層124、125は、電解質膜121と同じ電解質成分を有している。変形層124は、カソード触媒層122よりも厚く形成され、変形層125は、アノード触媒層123よりも厚く形成されている。
【0054】
図12は、図10の膜電極接合体にガス拡散層が配置された状態を示す説明図である。カソードガス拡散層132は、カソード触媒層122及び変形層124の外側(図面上側)に配置され、アノードガス拡散層133は、アノード触媒層123及び変形層125の外側(図面下側)に配置されている。燃料電池セル110には、電解質膜121の法線方向に燃料電池セルを締結する締結力が掛かっている。ここで、変形層124はカソード触媒層122よりも厚く形成され、変形層125はアノード触媒層123よりも厚く形成されているので、変形層124、125には、カソード触媒層122、アノード触媒層123に対するよりも高い面圧が掛かる。
【0055】
図13は、燃料電池セルの高温時に、変形層が電解質膜の平面方向に伸びた状態を示す説明図である。燃料電池100の発電時に、燃料電池セル110に高温履歴(例えば90℃)が加わった場合、高い面圧が掛かっている変形層124、125が電解質膜121の平面方向に伸びる。ここで、高温環境により電解質膜121が乾燥し、収縮してクリープ変形しようとしても、変形層124、125が伸びるため、電解質膜121の引張応力を和らげる。その結果、電解質膜121に応力を発生させにくくすることができる。なお、電解質膜121の応力は、面内の外縁部に発生しやすいので、変形層124、125は、電解質膜121の外縁部に配置されることが好ましい。なお、変形層124、125は、カソード触媒層122やアノード触媒層123よりも厚く形成されているので、変形層124、125が伸びても、裂け難い。
【0056】
以上、本実施例によれば、変形層124、125を備えることにより、高温履歴及び面圧が掛かったときに変形層124、125を平面方向に伸びるように変形させ、電解質膜121にかかる応力を和らげることができる。
【0057】
[第4の実施例]
図14は、第4の実施例を示す説明図である。第4の実施例の膜電極接合体120は、第3の実施例と比較すると、変形層124、125は薄く形成されており、変形層124、125の外側(図面の上下方向)にそれぞれ保護フィルム126、127を備えている点が異なる。保護フィルムとして、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン製の保護フィルムを採用することができる。なお、耐熱性を考慮した場合、ポリプロピレンを用いる方が好ましい。この実施例では、変形層124、125は薄くても、保護フィルム126、127を備えているため、変形層124、125が伸びた場合であっても、変形層124、125は破れ難く、反応ガスを透過させ難くできる。
【0058】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0059】
10…燃料電池システム
100…燃料電池
110…燃料電池セル(発電ユニット)
120…膜電極接合体
121…電解質膜
122…カソード触媒層
123…アノード触媒層
124…変形層
125…変形層
126…保護フィルム
132…カソードガス拡散層
133…アノードガス拡散層
142…カソードセパレータプレート
143…アノードセパレータプレート
144…溝
145…溝
152…酸化ガス流路
153…燃料ガス流路
160…ガスケット
190…エンドプレート
200…燃料タンク
210…燃料ガス供給管
220…燃料ガス排気管
300…エアポンプ
310…酸化ガス供給管
320…酸化ガス排気管
400…制御部
401…クリープ変形量算出部
402…クリープ変形量累積部
410…記憶部
420…警報報知器
510…温度計
520…湿度計
530…湿度計
540…湿度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜を有する燃料電池であって、
前記電解質膜の温度を取得する温度取得部と、
前記電解質膜の湿度を取得する湿度取得部と、
前記電解質膜の温度と湿度とのうちの少なくとも一方を用いて前記電解質膜のクリープ変形量を算出するクリープ変形量算出部と、
前記クリープ変形量の累積値を算出する累積値算出部と、
前記累積値が予め定められた値を超えた場合に警告を発する警告報知部と、
を備える燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記クリープ変形量算出部は、前記温度と前記湿度とから単位時間当たりのクリープ変形量を算出するための算出手段を備える、燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池において、
前記クリープ変形量算出部は前記算出手段として、
前記温度と前記湿度とから前記電解質膜に掛かる引張応力を算出するための第1の算出手段と、
前記引張応力と前記温度とから単位時間当たりのクリープ変形量を算出するための第2の算出手段と、を有しており、
前記クリープ変形量算出部は、
前記第1の算出手段を用いて前記温度と前記湿度とから前記電解質膜に掛かる引張応力を算出し、
前記第2の算出手段を用いて前記引張応力と前記温度とから単位時間当たりのクリープ変形量を算出し、
前記単位時間当たりのクリープ変形量を時間積分することにより前記クリープ変形量を算出する、燃料電池。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのうちのいずれか一項に記載の燃料電池において、
クリープ変形速度が予め定められた速度以上となる判定温度を予め求めておき、
前記累積値算出部は、前記電解質膜の温度が前記判定温度以上の場合に前記クリープ変形量を累積する、燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate