説明

燃料電池

【課題】従来よりも水素ガスの有効利用効率に優れる燃料電池を提供しようとするもの。
【解決手段】水素ガスを陰極表面で水素イオンに変化させる触媒を有し、前記陰極表面で水素イオンに変化せずに素通りした水素ガスをリターンし、前記水素ガスを閉鎖系の水素循環路で循環させながら前記触媒に及ぼすようにした。燃料電池複合システムを、排水を電気分解によって浄化する排水浄化機構を有し、前記排水を浄化する際に発生する水素ガスを前記燃料電池で利用するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素ガスの有効利用効率に優れる燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水素ガスと空気(中の酸素)を燃料とする燃料電池が製造・販売されている(非特許文献1)。
この燃料電池は、PEM(Polymer Electrolyte Membrane 固体高分子膜)方式であり、セル数72、定格出力1000W、発電能力43V/23.5A、最大出力時の水素消費14000cc/分というものである。
しかし、前記規格値からすると、変換された発電量(電流23.5A)に対する消費した水素ガス(14000cc/分)の有効利用効率は1.17%(理論値)に過ぎないという問題があった。

【非特許文献1】SPACE-DEVICE株式会社HP H-1000(1000W) PEM FC燃料電池システム <http://www.space-device.com/h-1000.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこでこの発明は、従来よりも水素ガスの有効利用効率に優れる燃料電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
(1)この発明の燃料電池は、水素ガスを陰極表面で水素イオンに変化させる触媒を有し、前記陰極表面で水素イオンに変化せずに素通りした水素ガスをリターンし、前記水素ガスを閉鎖系の水素循環路で循環させながら前記触媒に及ぼすようにしたことを特徴とする。
【0005】
前記触媒として、例えば白金やルテニウムを使用することができる。
この発明では、水素ガスを水素イオンに変化させる触媒を有する陰極表面で水素イオンに変化せずに素通りした水素ガスをリターンし、前記水素ガスを閉鎖系の水素循環路で循環させながら前記触媒に及ぼすようにしたので、一旦素通りした水素ガスを陰極表面の触媒に及ぼして繰り返しリユースすることができる。
【0006】
燃料電池において水素ガスにより発電する機構は、水素ガスの電離反応と、隔膜を介した水素イオンの移動と、水素イオンから水の生成反応とを有する。
(1)先ず水素ガスの電離反応であるが、水素ガスが陰極表面の触媒により電離して水素イオンが生成し、電離した電子は外部回路により陽極へと移動する。化学式は次の通りである。
陰極表面:H2→2H++2e
すなわち、水素ガスが電離することにより電子(=電気)を外部に取り出すことができるから発電することが出来る。
【0007】
(2)次に隔膜を介した水素イオンの移動であるが、前記水素イオンは、陽イオン交換膜のスルホン酸基上を伝わって陰極側から陽極側に移動する。水素イオンは水素イオンの状態のままで、単に移動するだけであり、陽イオン交換膜では反応はしない。つまり、陰極側の水素イオン→隔膜を通過→陽極側へ移動 となる。
【0008】
(3)そして水素イオンから水が生成する反応であるが、陽極側に移動した水素イオンと酸素とが反応して、水(水蒸気)が生成する。すなわち、移動してきた水素イオンは、陽極で酸素と結合して水に変化することにより消費される。化学式は次の通りである。
陽極表面:1/2O2+2H++2e→H2O
【0009】
以上のように、水素の状態の変化の態様は次の通りである。水素ガス(H2)が水素イオン(H+)に変化し、陰極から陽極へ移動し、酸素と反応して水(H2O)が発生する。
ここで、水素ガスが水に変化することにより、水素ガス1モル当たり58kcal(242kJ)の熱量が発生する。この熱量を伝熱して温水として利用することができる。
【0010】
(2) 燃料電池複合システムを、排水を電気分解によって浄化する排水浄化機構を有し、前記排水を浄化する際に発生する水素ガスを前記燃料電池で利用するようにしてもよい。
【0011】
このように構成すると、排水の電気分解により発生する水素ガスを、燃料電池複合システムに利用することができる。すなわち、排水を電気分解すると、その陰極側で水(H2O)が還元されて水素ガス(H2)が発生し水酸基(OH)が生成するが、前記水素ガス(H2)を燃料電池の燃料として利用する。ここで、水が陰極で還元される化学式は次の通りである。
H2O+2e→H2↑+2OH
【0012】
排水の電気分解による浄化では、陽極表面で塩化物イオン(Cl)が酸化されて塩素(Cl2)が生成し、この塩素(Cl2)が水(H2O)と反応することにより、次亜塩素酸(HOCl)と塩酸(HCl)とが生成する。これらの化学式は次の通りである。
2Cl→Cl+2e
Cl+
H2O→HOCl+ HCl
【0013】
そして、排水中の汚れ成分(有機化合物など)は、次亜塩素酸(HOCl)により酸化分解されていくことになり、これにより排水が浄化されていく。
従来の排水処理では、陰極側で発生する水素ガスを無為に空費していたが、このようにすると、空気中に放出して拡散していた水素ガスの有効利用を図ることが出来る。
【発明の効果】
【0014】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
一旦素通りした水素ガスを陰極表面の触媒に及ぼして繰り返しリユースすることができるので、従来よりも水素ガスの有効利用効率に優れる燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
(実施形態1)
この実施形態の燃料電池は、水素ガスを陰極表面で水素イオンに変化させる触媒を有し、前記陰極表面で水素イオンに変化せずに素通りした水素ガスをリターンし、前記水素ガスを閉鎖系の水素循環路で循環させながら前記触媒に及ぼすようにしている。
前記触媒として、例えば白金やルテニウム、イリジウムなどを使用することができる。
【0016】
燃料電池において水素ガスにより発電する機構は、水素ガスの電離反応と、隔膜を介した水素イオンの移動と、水素イオンから水の生成反応とを有する。
先ず、水素ガスの電離反応であるが、水素ガスが陰極表面の触媒により電離して水素イオンが生成し、電離した電子は外部回路により陽極へと移動する。化学式は次の通りである。
陰極表面:H2→2H++2e
すなわち、水素ガスが電離することにより電子(=電気)を外部に取り出すことができるから発電することが出来る。
【0017】
次に、隔膜を介した水素イオンの移動であるが、前記水素イオンは、陽イオン交換膜のスルホン酸基上を伝わって陰極側から陽極側に移動する。水素イオンは水素イオンの状態のままで、単に移動するだけであり、陽イオン交換膜では反応はしない。つまり、陰極側の水素イオン→隔膜を通過→陽極側へ移動 となる。
【0018】
そして、水素イオンから水が生成する反応であるが、陽極側に移動した水素イオンと酸素とが反応して、水(水蒸気)が生成する。すなわち、移動してきた水素イオンは、陽極で酸素と結合して水に変化することにより消費される。化学式は次の通りである。
陽極表面:1/2O2+2H++2e→H2O
【0019】
以上のように、水素の状態の変化の態様は次の通りである。水素ガス(H2)が水素イオン(H+)に変化し、陰極から陽極へ移動し、酸素と反応して水(H2O)が発生する。
ここで、水素ガスが水に変化することにより、水素ガス1モル当たり58kcal(242kJ)の熱量が発生する。この熱量を伝熱して温水として利用することができる。
【0020】
次に、この実施形態の燃料電池の使用状態を説明する。
この実施形態では、水素ガスを水素イオンに変化させる触媒を有する陰極表面で水素イオンに変化せずに素通りした水素ガスをリターンし、前記水素ガスを閉鎖系の水素循環路で循環させながら前記触媒に及ぼすようにしたので、一旦素通りした水素ガスを陰極表面の触媒に及ぼして繰り返しリユースすることができ、従来よりも水素ガスの有効利用効率に優れるという利点を有する。
【0021】
(実施形態2)
燃料電池複合システムを、排水を電気分解によって浄化する排水浄化機構を有し、前記排水を浄化する際に発生する水素ガスを前記燃料電池で利用するようにした。
【0022】
このようにしたので、排水の電気分解により発生する水素ガスを、燃料電池複合システムに利用することができる。すなわち、排水を電気分解すると、その陰極側で水(H2O)が還元されて水素ガス(H2)が発生し水酸基(OH)が生成するが、前記水素ガス(H2)を燃料電池の燃料として利用する。ここで、水が陰極で還元される化学式は次の通りである。
H2O+2e→H2↑+2OH
【0023】
排水の電気分解による浄化では、陽極表面で塩化物イオン(Cl)が酸化されて塩素(Cl2)が生成し、この塩素(Cl2)が水(H2O)と反応することにより、次亜塩素酸(HOCl)と塩酸(HCl)とが生成する。これらの化学式は次の通りである。
2Cl→Cl+2e
Cl+
H2O→HOCl+ HCl
【0024】
そして、排水中の汚れ成分(有機化合物など)は、次亜塩素酸(HOCl)により酸化分解されていくことになり、これにより排水が浄化されていく。
ところで、燃料電池の触媒(例えば白金)は、酸素などが混在すると表面に酸化皮膜が形成されて触媒機能が低下してしまう。したがって、水素ガスは出来るだけ純度が高いことが好ましい。一方、排水処理で生成する水素ガスには、酸素や窒素、二酸化炭素などが混入している可能性があり、これらの不純物を除去することが望ましい。
【0025】
そこで、排水浄化機構で生成した水素ガスを燃料電池へと導く流路か、又は燃料電池内の水素循環路に、ドライヤ、ゼオライト、カーボン(活性炭)などのような不純物(酸素、窒素、二酸化炭素など)の吸着手段を装備することが望ましい。
以上の通り、従来の排水処理では、陰極側で発生する水素ガスを無為に空費していたが、このようにすると、空気中に放出して拡散していた水素ガスの有効利用を図ることが出来るという利点を有する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
従来よりも水素ガスの有効利用効率に優れることによって、種々の燃料電池の用途に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを陰極表面で水素イオンに変化させる触媒を有し、前記陰極表面で水素イオンに変化せずに素通りした水素ガスをリターンし、前記水素ガスを閉鎖系の水素循環路で循環させながら前記触媒に及ぼすようにしたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
排水を電気分解によって浄化する排水浄化機構を有し、前記排水を浄化する際に発生する水素ガスを請求項1記載の燃料電池で利用するようにした燃料電池複合システム。