説明

爆発圧着クラッド材およびその製法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、爆発圧着方法および爆発圧着クラッド材の改良に関し、特に、異種金属で構成される接合界面における接合強度および衝撃特性を向上する爆発圧着の方法と、これらの改善された接合界面を有する爆発圧着クラッド材に関する。
【0002】
【従来の技術】爆発圧着法によって二枚の金属材料を接合する際、爆薬の爆発によって合せ材が適度に加速され、ある一定範囲内の角度で母材に衝突する必要がある。このため、従来より爆発圧着の方法は、接合しようとする合せ材と母材の間にあらかじめ間隙を設けておくことで、接合に適した合せ材の衝突速度と衝突角度を確保していた。
【0003】この間隙を設けておく工法には、大きく分けて平行法と有角度法の二通りがあり、一般的に二枚の金属材料の位置関係に応じて、合せ材と母材の間隙がほぼ均一な一定距離に保たれる工法を平行法と呼び、一方、合せ材と母材が接合前にあらかじめ相対的な角度を有する工法を有角度法と呼び分けている。従来より、爆発圧着法による金属材料の接合は、これら両者の工法も含めて、大気中で爆発圧着する方法が行われてきた。つまり、接合しようとする二枚の金属材料の間に設けられた間隙は、自ずから、空気で満たされた状態で行われていた。
【0004】したがって、爆薬の爆発によって飛翔している合せ材が、接合前の間隙に存在している空気層を圧縮しながら前方の開放空間に向かって排出していく必要があるが、特に接合面積が大きくなる場合、圧縮された空気層が排出されずに残留したり、断熱圧縮の影響で極めて高温度に到達することがあって、合せ材が順次均一に母材に衝突することを妨げるように作用するため、接合部に不圧着などの欠陥を生じたり、十分な接合力が得られないなどの問題を生じていた。
【0005】また、特に接合面積が大きくなる場合、あらかじめ設けておく間隙も大きくなるため、間隙を保持するために母材上に配置した合せ材支持材料の影響(保持しなければならない間隙が大きくなると、支持材料を大きくする必要がある。)や、間隙周辺の開放空間からの異物の混入などによる汚染の影響を受けて、爆発圧着による接合完了後において、接合部に不圧着などの欠陥を生じたり、所望の接合力が得られないなどの問題を生じていた。
【0006】このため、特に、特公昭44−26542「爆薬により金属部材を面結合する方法」では、接合前の間隙を空気に比較して音伝達速度の高い水素またはヘリウムガスで充填することで、爆発圧着時の板間に生じる空気の圧縮衝撃を緩和し、接合部の結合欠陥を少なくすることを提案している。また、U.S.P.3,608,180「COMPRESSED GAS STANDOFF FOR CLADDING」では、接合前の間隙を保持するために、合せ材および合せ材の上方に装填される爆薬の荷重を支えるために十分な圧力の空気または不活性ガスを充填することで、母材上に配置する支持材料を無くし、間隙保持のための簡便な方法と、大きな間隙が要求される場合の接合面の汚染防止法を提案している。
【0007】ところで、爆発圧着クラッド材の接合強度などの機械的な性質は、接合界面における両金属の圧着面積率によっておよそ支配されるが、接合界面に形成された波形模様の状態や介在する金属間化合物の面積率や組成によって決定的に支配される。
【0008】まず、接合界面に形成された波形模様の状態については、直線状の状態を呈する接合界面に比べて、規則正しい振幅を有する波形模様が存在する方が、そのジッパー効果により機械的強度を向上する。また、両金属の冶金的な結合力が同一であるならば、波形模様の存在は直線状の接合に比べて両金属の直接接合面積を増加するため、クラッド材の単位面積当たりの接合力を必然的に高める。
【0009】一方、接合界面に介在する金属間化合物の面積率や組成は、爆発圧着時に衝突点において生成したメタルジェットの生成量や組成に左右される。即ち、爆発圧着直後から、接合界面に存在するこれらの金属間化合物は、熱平衡によって析出した拡散相ではなく、そのほとんどが爆発圧着時に生成したメタルジェットが排出されずに接合界面に残留したものである。一般にこれらの金属間化合物は硬くて脆い性質を有するため、これらが界面に介在する場合、その面積率の増加にともなって、静的評価による接合強度や動的評価による衝撃特性および疲労特性を大幅に低下させる。したがって、これらの金属間化合物が接合界面に存在しないことが理想的であるが、生成したメタルジェットを完全に排出できない場合は、これらの金属間化合物が界面の波形模様に沿って局所的に点状に分散して存在することで、できるかぎり両金属の直接接合の面積率を高めることが望ましい。
【0010】前記接合界面における波形模様について、更に説明すると、一般的に、爆発圧着時に接合界面に形成される波形模様は、その波長と波高の大きさが、接合時の合せ材と母材が衝突する速度および衝突する角度に比例して大きくなり、波の形状、換言すれば、その波高と波長の比は合せ材と母材の相対的な密度の比で決定されることが知られている。
【0011】例えば、合せ材と母材の密度がほぼ等しいような場合、つまり、両者の密度比がほぼ1で与えられるようなクラッド材の場合、接合界面に形成される波形模様は正弦波に近い形状を呈する。この波形模様を相対的に大きくしたい場合は、衝突点での移動速度あるいは衝突角度を大きくすればよく、具体的には使用する爆薬の量を増加したり、または爆薬の爆発速度を大きくしたり、あるいは間隔を大きく設けることで達成される。
【0012】一方、両者の密度の違いが大きくなるにしたがって、波形は正弦波状からずれて傾き、波高/波長の比が小さくなる。波形の傾く理由は、衝突点において発生する前述のメタルジェットが、同種金属を対称衝突させた場合に中心線上前方に発生するが、異種金属の衝突においては衝突点で密度の異なる流体が衝突するためメタルジェットの発生方向に偏りを生じ、その方向が密度の大きい金属側に傾くからである。
【0013】このように波形が傾き始めると、つまり、メタルジェットの発生方向に偏りが生じ始めると、生成したメタルジェットの排出が悪くなり、その結果、接合境界に残留して接合後の界面に金属間化合物として介在する量が増大する。また、接合界面に断続的に出現していた波とともに形成される波頭部の巻き込み部は、その形状が波高/波長の比が小さくなると共に歪んで偏平になり、結果としてクラッド材全体の接合面積に占める巻き込み部の面積率が増大することになる。その結果、波の傾きが大きくなるにともなって、接合後の界面には接合性能を劣化させる原因となる金属間化合物が多く介在するようになる。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】このように、接合する合せ材と母材の異種金属間密度差が大きくなると、接合面に形成される波形がくずれ、接合界面に金属間化合物が多く介在することとなり、接合性能を劣化していた。しかし、前述のUSP 3,608,180にはこうした密度差のおおきな金属間での接合性能の劣化については全く取り上げておらず、問題点として認識すらされていない。事実、具体例としてあげているのはステンレス鋼と炭素銅との接合でこれは相対的密度比がほぼ1のものである。また、前記特公昭44−26542にも接合する金属種について具体的開示がなく、同様に前記の問題認識は示されていない。
【0015】本発明は、こうした実情の下に、合せ材と母材の異種金属間において大きな密度差がある場合の爆発圧着接合面の性能劣化を改善する爆発圧着クラッド方法を提供することを目的とし、また改善された接合性能を有する密度差の大きい爆発圧着クラッド材を提供することを目的とするものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】そこで、我々発明者は、密度差の大きな接合界面における接合強度や衝撃特性などの接合性能を向上させることを主目的に、鋭意検討した結果、従来より行われてきた爆発圧着の工法に関して、あらかじめ設けられた間隙に存在する気体が接合界面に形成される波形に対して影響を及ぼしているものと推測した。そしてさらにその気体が接合後のクラッド材に与える影響を調査し、いく通りかの異種金属材料の組み合わせに関して各種の検討を行った。その過程で、我々発明者は、接合界面における接合強度や衝撃特性などの接合性能を改善するために、あらかじめ設けられた間隙に存在する空気をほぼ大気圧と同等の圧力のアルゴンガスに置換した状態で爆発圧着を行うことにより、爆発圧着後に得られたクラッド材の接合界面における接合性能に著しい改善がみられることに注目した。そして、さらに検討を重ねて、この改善の効果は、合せ材または母材に用いる金属材料の密度の比が、どちらか一方の相対的に軽い金属材料の密度を他方の相対的に重い金属材料の密度で除した値が0.4から0.7の範囲において極めて著しく出現することを知見し、本発明を完成するに至った。
【0017】すなわち、本発明は、(1)合せ材と母材との間にあらかじめ一定の間隙を設けて行う爆発圧着クラッド材の製造方法において、合せ材と母材との接合面に用いる異種金属材料の密度のうち、どちらか一方の相対的に軽い金属材料の密度を他方の重い金属材料の密度で除した値が0.4から0.7の範囲にあり、かつ、あらかじめ設けておいた合せ材と母材との間隙に存在する空気のみをほぼ大気圧と同等の圧力のアルゴンガスに置換した状態で爆発圧着を行うことを特徴とする少なくとも2層からなる多層爆発圧着クラッド材の製造方法、(2)爆発圧着クラッド材であって、請求項1記載の製造方法により製造され得る、接合面の異種金属の密度のうち、どちらか一方の相対的に軽い金属材料の密度を他方の重い金属材料の密度で除した値が0.4から0.7の範囲にある該接合面を少なくとも有し、かつ該接合面に介在する金属間化合物を低減せしめ、その硬度を低下せしめた少なくとも2層からなる多層爆発圧着クラッド材を要旨とするものである。
【0018】本発明の爆発圧着法は、接合する合せ材を母材に用いる異種金属材料の前記相対密度比が0.4から0.7の範囲であること、及び合せ材と母材との間に介在する雰囲気がアルゴンであることが重要であり、他の条件はとくに制限されるものではない。
【0019】また、前記アルゴン雰囲気に関して、種々の検討結果から、間隙のアルゴンガス濃度とその結果として得られる効果がほぼ比例しており、さらに、間隙を密封する方法に起因してガス置換後の濃度の経時的変化の状態も異なっていることから、本発明の方法の特徴であるアルゴンガスに置換した状態は、好ましくはできる限り100%置換された状態であることが望ましいが、工業的見地から少なくとも70%程度の置換状態でも十分である。また、雰囲気圧力以上に加圧する必要は全くない。
【0020】本発明の方法は、単に合せ材と母材の2層からなるクラッド材に限らず、3層クラッド材、4層クラッド材およびそれ以上の多層クラッド材を製作する方法においても利用することができる。
【0021】また、少なくとも3層以上の多層クラッド材を製作するに際して、それぞれの接合界面を形成する材料を一回の爆発圧着で同時に接合することも可能であるが、母材に1層の合せ材を爆発圧着によって接合した後、さらに上層の合せ材を順次爆発圧着して接合する方法をとっても良い。
【0022】さらに、クラッド材の中間に使用する材料同志を先に爆発圧着して、これを最外層となる他の異種金属に接合したり、また、合せ材を母材として中間材を爆発圧着したあとに、このクラッド材を合せ材として母材に接合する順序としても構わない。
【0023】特に、本発明の方法は、異種金属の組み合わせに関して、合せ材または母材に用いる金属材料の密度の比が、どちらか一方の相対的に軽い金属材料の密度を他方の相対的に重い金属材料の密度で除した値が0.4から0.7の範囲において極めて有効であり、異種金属の組み合わせとして、とくにチタンまたはチタン合金と鋼、チタンまたはチタン合金とニッケルまたはニッケル合金、チタンまたはチタン合金と銅または銅合金、および、チタンまたはチタン合金とアルミまたはアルミ合金からなる爆発圧着クラッド材を製造する方法として有効である。なお、鋼としては、例えば室温以下の低温で使用される9%ニッケル鋼などの合金鋼や、さらに極低温で使用されるSUS304などのステンレス鋼を使用する方法も有効である。
【0024】これらの金属材料の組み合わせにおいては、相対的に密度の小さい材料が比較的に軽いことから合せ材として用いられる場合が多いが、逆に、相対的に密度の大きい材料が合せ材として使用される場合もある。また、これらの金属材料の組み合わせにおいて、すでに述べたように、単に合せ材と母材の2層からなるクラッド材に限らず、3層クラッド材、4層クラッド材およびそれ以上の多層クラッド材を製作する方法においても利用することができる。また、いずれの場合においても、これらの金属材料の組み合わせは、3層以上の多層クラッド材を構成する一部の材料組み合わせでしかない場合もある。なお、これらの金属材料の密度は表1で与えられる。また、これらの金属材料の相対的な密度の比は表2で与えられる。
【0025】
【表1】
金属材料の密度 金属材料 密度(g/cc)
アルミおよびアルミ合金 2.70 チタンおよびチタン合金 4.54 ニッケルおよびニッケル合金 8.90 銅および銅合金 8.96 鋼 7.87 オーステナイト系ステンレス鋼 7.8〜8.0 フェライト系ステンレス鋼 7.7〜7.8 マルテンサイト系ステンレス鋼 7.8〜8.0
【0026】
【表2】
金属材料の相対的な密度の比 異種金属材料の組み合わせ 密度の比 アルミ/チタン 0.5947 チタン/ニッケル 0.5101 チタン/銅 0.5067 チタン/鋼 0.5769 チタン/ステンレス鋼 0.5675〜0.5896
【0027】本発明は、また、すでに述べたように接合面の接合性能が改善された少なくとも2層からなる多層爆発圧着クラッド材自体も包含する。本発明の多層爆発圧着クラッド材は、前記本発明の爆発圧着法により得ることができるものであって、前記の相対密度比が0.4から0.7の範囲にある異種金属の接合面を少なくとも有するもので、しかもその接合面に介在する金属間化合物の生成量を低減せしめ、かつ該金属間化合物の硬度を低下せしめたクラッド材である。
【0028】従来法によるクラッド材では、異種金属の前記相対密度比が0.4から0.7の範囲にある異種金属接合界面は波形模様がくずれてその界面に硬質の金属間化合物が多く介在することにより、接合性能が劣ったものであったが、本発明のクラッド材は、それとは相違して光学顕微鏡で接合界面を横断面から観察した場合、接合界面には波形模様に沿って金属間化合物がほとんど存在しないか、界面に介在するとしても波形の先端側に形成される合金塊の巻き込み部分に限定されるような、非常に小さな塊として、界面に分散して存在する程度であり、かつ、その硬度も小さく、改善された接合性能を有し、とくに、接合界面の接合率の向上と、接合強度及び衝撃強度に優れている。
【0029】本発明の好ましいクラッド材は、少なくとも1層の金属材料がアルミまたはアルミ合金からなり、あるいは、チタンまたはチタン合金からなる。また、これらの金属層は、それぞれのクラッド材を構成する材料として1層に限定されることなく、少なくとも3層以上の多層クラッド材において重複して使用しても良い。より好ましい本発明のクラッド材は、接合面として少なくともアルミまたはアルミ合金とチタンまたはチタン合金、チタンまたはチタン合金とニッケルまたはニッケル合金、あるいはチタンまたはチタン合金と鋼の組み合わせを有する。
【0030】本発明のクラッド材は、上記のより好ましい態様において、接合界面における接合性能に関して、接合界面の接合率の向上と、接合強度および衝撃特性にとくに優れている。これは、接合界面において介在する金属間化合物の量が上記の態様においては少なく、かつその硬度もかなり低いことによる。例えば、アルミ(アルミ合金)とチタン(チタン合金)との接合界面に介在する金属間化合物ではその硬度は250HVを越えることはなく、好ましくは190HVを越えることはなく、より好ましくは160HVを越えることがない。又、チタン(チタン合金)とニッケル(ニッケル合金)との接合界面のそれの硬度は700HVを越えることはなく、好ましくは670HVを越えることはなく、より好ましくは640HVを越えることがない。更に、チタン(チタン合金)と鋼との接合界面のそれの硬度は710HVを越えることはなく、好ましくは640HVを越えることはなく、より好ましくは610HVを越えることがない。また、本発明の好ましいクラッド材においては波高/波長比が以下の範囲にあることが望ましい。
【0031】接合面がアルミ/チタンである場合には0.07〜0.18、より好ましくは0.09〜0.16、また、接合面がチタン/鋼である場合には0.10〜0.32、より好ましくは0.12〜0.30、更に接合面がチタン/ニッケルである場合には0.13〜0.32、より好ましくは0.15〜0.30である。これらの態様の中でもさらに好ましいクラッド材としては、異種金属の組み合わせが、純アルミ、チタン(チタン合金)、鋼の順の3層爆発圧着クラッド材、および、アルミ合金、チタン(チタン合金)、鋼の順の3層爆発圧着クラッド材がある。
【0032】さらに、異種金属の組み合わせが、アルミ合金、純アルミ、チタン(チタン合金)、鋼の順の4層爆発圧着クラッド材、および、純アルミ、チタン(チタン合金)、ニッケル(ニッケル合金)、鋼の順の4層爆発圧着クラッド材、および、純アルミ、チタン(チタン合金)、銅(銅合金)、鋼の順の4層爆発圧着クラッド材、および、異種金属の組み合わせが、アルミ合金、チタン(チタン合金)、ニッケル(ニッケル合金)、鋼の順の4層爆発圧着クラッド材、および、アルミ合金、チタン(チタン合金)、銅(銅合金)、鋼の順の4層爆発圧着クラッド材がある。さらに、異種金属の組み合わせが、アルミ合金、純アルミ、チタン(チタン合金)、ニッケル(ニッケル合金)、鋼の順の5層爆発圧着クラッド材、および、アルミ合金、純アルミ、チタン(チタン合金)、銅(銅合金)、鋼の順の5層爆発圧着クラッド材がある。
【0033】
【実施例】以下に、本発明の詳細を実施例を用いて説明する。
【0034】実施例1本発明の方法を用いて、つまり爆発圧着前の合せ材と母材の間隙をあらかじめアルゴンガス置換して行う爆発圧着法によりチタンクラッド鋼を製作し、従来の工法、つまり爆発圧着前の合せ材と母材の間隙が周辺の大気と同じ雰囲気で製作したチタンクラッド鋼との対比を行った。
【0035】チタンクラッド鋼の製作に際しては、合せ材に板厚6.9mmx幅2950mmx長さ3340mmの工業用純チタン板(JIS H4600 TP28H)を使用し、母材に板厚30mmx幅2900mmx長さ3290mmのボイラー及び圧力容器用炭素鋼板(JIS G3103 SB450)を使用して、爆発圧着法により2組のチタンクラッド鋼を製作した。爆発圧着条件は、爆発圧着前の合せ材と母材の間隙を大気のままで行う従来工法のものと、本発明に示すアルゴンガスに置換する操作を除いて、その他は同一条件で行った。
【0036】爆薬は、爆発速度を毎秒約2500mに調整した硝安を主成分とする粉状のものを使用した。爆薬装填量は、いずれも5Kg/m2/t(tは合せ材の実際の板厚)、すなわち単位面積当たり30Kg/m2とした。間隙は、起爆側の一辺に沿って6mmとし、起爆辺に対向する終爆側の一辺を8mmとした。起爆側から終爆側にかけての中間の間隙は、6mmから8mmの範囲で徐々に大きくするため、6mmから8mmの範囲の適当な大きさの支持物を挿入した。起爆は、合せ材の短辺側2950mmの中央点から、電気雷管によって行った。なお、本発明のアルゴンガスに置換する方法は、以下の要領で実施した。すなわち、従来工法と同様に、砂土台の上に母材を水平に静置した後、間隙を保持するための支持物を母材上に適当な間隔をあけて配置し、その上に合せ材を静かに搭載した。
【0037】本発明の方法は、この工程の終了後に、合せ材と母材の外周を、約30mm幅から50mm幅の気密性を有する粘着材付紙テープを用いてシールした。間隙の外周をシールするテープは、粘着材付のビニール製テープまたはアルミなどの金属製箔でも使用することができるが、経済性から市販の安価な粘着材付紙テープを用いた。また、一枚の薄いビニール製シートなどで母材裏面から合せ材の外周辺を包み込むようにして間隙を含む空間の気密性を確保することも可能であり、小寸法のクラッド鋼を製作する場合に推奨できる。
【0038】その後、従来工法と同様に、合せ材の上面側に外周辺に沿って高さ100mmの紙製の枠を設け、粘着材付紙テープで固定した。ついで、その中に適量の爆薬を装填し、爆薬の厚みを全面にわたって均一にならした。本発明の方法は、この工程の終了後に、テープなどで密閉した合せ材と母材の間の空間をアルゴンガスで置換した。すなわち、合せ材と母材の外周をシールした粘着材付紙テープの一部に適当な大きさの穴を開けておき、この穴に対向する反対側の紙テープの一部にアルゴンガスを注入するための穴を開けた。この際、アルゴンガスの注入穴の数は、複数個よりも一つの方が好ましい。一方、アルゴンガスの注入によって間隙の空気を排出するために設ける穴の数は、少なくとも一つあれば良い。
【0039】アルゴンガスは、市販のボンベに充填された純度99.9%のガスを使用し、間隙への注入流量はガス流量計で確認しながら毎分約20リットル程度とした。アルゴンガスの注入によって間隙から排出される空気に対しては、アルゴンガス検知器を用いてアルゴン濃度を測定した。
【0040】本発明の方法においては、間隙の空気がアルゴンガスに置換されるまで、すなわち、間隙からの空気を排出するために紙テープに設けておいた穴の外側で、アルゴンガス検知器によるアルゴンガス濃度が99%以上になるまで、およそ3分間を必要とした。さらに継続して7分間、アルゴンガスを注入し続けたが、排気穴位置での測定によるアルゴンガス濃度に変化は認められなかった。したがって、アルゴンガス検知器の検知能力範囲内でほぼ100%ガス置換していることを確認した。また、アルゴンガス置換のために紙テープに開けた穴は、置換終了直後に再び粘着材付紙テープによって密封した。
【0041】引き続き、装填した爆薬を電気雷管によって起爆することで、2組の爆発圧着チタンクラッド鋼を製作した。なお、爆発圧着前に間隙をアルゴンガスに置換した材料は、アルゴンガス置換終了後に約5分以内に爆発圧着を行った。爆発圧着によって得られたチタンクラッド鋼は、超音波探傷試験によって、本発明のものも従来法のものも、同様に完全接合していることを確認した。
【0042】実施例2実施例1に記載した本発明の方法によって製作したクラッド鋼と、比較のために従来の方法で製作したチタンクラッド鋼について、接合界面の接合強度を調査した。接合強度の調査に当たっては、JIS G0601「クラッド鋼の試験方法」に規定されている剪断試験を実施した。
【0043】剪断試験片は、起爆位置から約3150mm離れた終爆側から採取し、いづれのクラッド鋼も同じ位置となるようにした。また、機械加工仕上げ前の試験片用ブロック材に対して、一般的に接合界面の加工硬化を除去する目的で実施される軟化のための熱処理を540°C加熱3時間保持後炉冷却の条件で施工した。剪断試験の結果、得られた剪断強さは従来工法の場合、14.2Kgf/mm2〜20.5Kgf/mm2(試験数=5)の範囲にあり、平均値で18.1Kgf/mm2であったが、本発明の方法を用いた場合、24.3Kgf/mm2〜32.6Kgf/mm2(試験数=7)の範囲にあり、平均値で29.7Kgf/mm2と、従来の方法に比べて極めて大きな剪断強さを示した。剪断試験の結果を表3にまとめて示す。
【0044】従来の方法で製作したクラッド鋼の剪断試験結果は、接合強度が低いことのほかに、剪断試験片はほとんど接合境界で破断していた。一方、本発明の方法によって間隙をアルゴンガス置換したクラッド鋼は、接合強度が高く安定しているほかに、接合境界に近いチタン内部で破断していた。これより、本発明の方法で製作したクラッド鋼は、従来の方法で製作したクラッド鋼に比較した場合に、優れた接合強度を有することが実証された。
【0045】
【表3】


【0046】実施例3実施例1に記載した方法で製作した2種類のチタンクラッド鋼について、接合界面の波形および組織を観察し、両者の比較を行った。波形および組織を観察するための試験片は、起爆位置から約3200mm離れた終爆側から採取し、いづれのクラッド鋼も同じ位置で観察した。観察方向は爆発進行方向に平行、つまり、圧着の進行方向に平行に観察した。接合界面に生成した波形を観察した結果、間隙を空気中のままで爆発圧着したクラッド鋼の界面波形の大きさは、波長1860μm、波高420μmとかなり大きな波形を形成しており、かつ、介在する金属間化合物(合金塊)の量が多かった。一方、間隙をアルゴンガス置換後に爆発圧着したクラッド鋼の界面波形の大きさは、波長1330μm、波高210μmと比較的小さく、かつ、介在する合金塊の量が極めて少なかった。
【0047】これより、本発明の方法で製作したクラッド鋼は、従来の方法で製作したクラッド鋼に比較した場合、接合界面に介在する金属間化合物(合金塊)量が少ないことが実証された。接合界面に生成した波形の観察結果を本発明の方法で製作したクラッド鋼を図1に、従来の方法で製作したクラッド鋼を図2に、波形の大きさと合金塊の量を表4にまとめて示す。
【0048】
【表4】


【0049】実施例4実施例1に記載した方法で製作した2種類のチタンクラッド鋼について、接合界面部近傍の硬さ測定を行い、両者の比較を行った。硬さを測定するための試験片は、接合界面に生成した波形を観察するために採取した試験片を使用した。つまり、クラッド鋼製作時の起爆位置から約3200mm離れた終爆側から採取し、いづれのクラッド鋼も同じ位置で測定した。硬さの測定は、爆発進行方向に平行、つまり、圧着の進行方向に平行に観察した試験片の面に対して、接合界面に垂直に交差する線上を測定した。さらに、接合界面に介在する金属間化合物(合金塊)の硬さを測定した。測定は、マイクロビッカース硬さ計を使用し、ダイヤモンド圧子への負荷荷重を金属間化合物(合金塊)の測定時は200g、接合界面近傍の硬さ測定時は500gとし、荷重負荷時間は15秒とした。
【0050】接合界面部近傍の硬さを測定した結果、間隙を空気中のままで爆発圧着したクラッド鋼の界面硬さは、界面からチタン側へ0.1mmから1mmの範囲内ではHV190〜HV230程度の硬さを有しており、界面に近づく程硬度上昇を示した。また、界面から鋼側は、同じように0.1mmから1mmの範囲内でHV170〜HV290程度の硬さを有しており、界面に近づく程硬度上昇を示した。一方、間隙をアルゴンガス置換後に爆発圧着したクラッド鋼の界面硬さは、界面から同じ距離の測定範囲内で、チタン側でHV190〜HV230程度、鋼側でHV180〜HV280程度の硬さを有しており、かつ、界面に近づく程同じような硬度上昇を示したことから、従来の方法で製作したクラッド鋼に比べて、ほとんど変化がないことが判明した。
【0051】また、金属間化合物(合金塊)の硬さを測定した結果、間隙を空気中のままで爆発圧着したクラッッド鋼の合金塊硬さは、波形先端の巻き込み部の中でおよそHV466〜HV878程度、平均でHV704(n=32)であった。一方、間隙をアルゴンガス置換後に爆発圧着したクラッド鋼の金属間化合物(合金塊)硬さは、およそHV334〜HV610程度、平均でHV457(n=21)であり、従来の方法で製作したクラッド鋼に比べると全体でHV130〜HV268程度柔らかく、かつ、平均でHV247とかなり大きな硬度差が存在していることが判明した。さらにこれら金属間化合物(合金塊)の硬さは、爆着界面近傍の最高硬さ(例えば今回の測定では界面近傍の鋼側でHV290程度であった)に比べて、およそ3倍近い硬さを有していることが判明した。
【0052】これより、本発明の方法で製作したクラッド鋼は、従来の方法で製作したクラッド鋼に比較した場合、接合界面に介在する金属間化合物(合金塊)の硬さが小さいことが実証された。接合界面部近傍の硬さを測定した結果を、従来の方法で製作したクラッド鋼のものを図3に、本発明の方法で製作したクラッド鋼のものを図4に示す。また、合金塊に対して行った硬さ測定の結果を表5にまとめて示す。
【0053】
【表5】


【0054】実施例5実施例1に記載した方法で製作した2種類のチタンクラッド鋼について、ドリルを用いた穴明け加工を行い、穴明け加工時の切削抵抗を調査した。穴明け加工とは、専用の機械を使用して、チタンクラッド鋼のチタン側から板厚方向に貫通する穴を明ける加工のことである。通常、熱交換器に組み込まれている管板には、このような穴が多数あけられており、これらの穴に熱交換用のチューブが機械的に嵌合または溶接により接合されている。一般的に、クラッド鋼を熱交換器管板などに使用する場合、このような穴明け加工が施される。
【0055】そこで、切削抵抗は負荷最大電流値を測定し、その値の大小で評価した。穴明け加工条件として、切削機はMILLING MACHINE MAZAKV−800(YAMAZAKI SEIKO LTD製)を使用した。その他の条件を具体的に以下に示す。
【0056】使用ドリル名称:TAPER SHANK TWIST DRILL直径:25mm材質:SKH−9相当品(神戸製鋼所製 HSS)
ドリル運転条件回転数:210rpm送り速度:0.405mm/rev.(被切削物上昇速度と同一速度)
切削油:機械油
【0057】また、被切削物の切削抵抗は以下の装置または測定器を用いて測定した。全負荷抵抗(全負荷抵抗とは、ドリルの回転時に作用する負荷抵抗と、被切削物が上昇する時のドリル刃先に作用する押し込み抵抗の和)
測定器:YOKOGAWA ELECTRIC WORKS LTD製電流、電圧計 SPF CLASS0.5ドリル負荷抵抗(ドリルの回転時に作用する負荷抵抗)
測定器:HIOKI製 CLAMP TESTER 3101
【0058】切削抵抗の調査は、上記の条件の他に初期条件を統一するために、それぞれのチタンクラッド鋼の穴明けに使用するドリルを新品とし、かつ、第1孔から第24孔まで連続して穴明けを行った。切削抵抗の測定結果を図5に示す。図中の横軸は第1孔から第24孔までの連続する穴数を示し、縦軸は負荷最大電流を示す。
【0059】図5から明らかなように、ドリル負荷、全負荷とも管穴数が増すにしたがって増加しているが、本発明の方法によるクラッド鋼の切削抵抗が最も低い負荷電流抵抗を示した。この傾向は、管穴加工数が増すほど顕著になっていくことが推定される。なお、切削抵抗が増加および減少を繰り返しながら増加しているのは、切削時に生じるドリル構成刃先の影響を受けているものと推定される。
【0060】これより、本発明の方法で製作したクラッド鋼は、従来の方法で製作したクラッド鋼に比較した場合、穴明け加工における切削抵抗が小さく、熱交換器管板などに使用する場合の管穴加工性能に優れていることが実証された。
【0061】この調査結果は、本発明の方法で製作したクラッド鋼が従来の方法で製作したクラッド鋼に比較して、前記の実施例で示した接合界面部に介在する金属間化合物(合金塊)の量が少なく、かつ、硬度が小さいことに裏付けられている。
【0062】実施例6本発明の方法を用いて、つまり爆発圧着前の合せ材と母材の間隙をあらかじめアルゴンガス置換して行う爆発圧着法により、アルミ合金/チタン/ニッケル/ステンレス鋼の順に積層した4層クラッド鋼を製作し、従来の工法、つまり爆発圧着前の合せ材と母材の間隙が周辺の大気と同じ雰囲気で製作した同種材質のアルミ合金/チタン/ニッケル/ステンレス鋼からなる4層クラッド鋼との対比を行った。
【0063】アルミ合金/チタン/ニッケル/ステンレス4層クラッド鋼の製作に際しては、最上層の合せ材に板厚13mmx幅750mmx長さ2725mmのアルミニウム合金板(JIS H4000 A3003P−O)を使用し、中間材に板厚2mmx幅740mmx長さ2715mmの工業用純チタン板(JIS H4600 TP28C)と、板厚2mmx幅730mmx長さ2705mmの低炭素ニッケル板(JIS H4551 NLCP)を使用し、最下層の母材には、板厚20mmx幅700mmx長さ2675mmのステンレス鋼板(JIS 4303 SUS304L)を使用した。アルミ合金/チタン/ニッケル/ステンレス4層クラッド鋼は、本発明の方法を用いて44枚、従来の工法を用いて42枚をそれぞれ爆発圧着法により製作した。
【0064】4層クラッド鋼の製作手順は、まずステンレス鋼にニッケル板を爆発圧着により接合した。次に、このクラッド鋼のニッケル板の上にチタン板を接合した後、このチタン板の上にアルミニウム合金を爆発圧着により順次接合することで4層のクラッド鋼とした。爆発圧着条件は、爆発圧着前の合せ材と母材の間隙を大気のままで行う従来工法のものと、本発明に示すアルゴンガスに置換する操作を除いて、その他は同一条件で行った。なお、本発明の方法を用いてアルゴンガスに置換した間隙はアルミ合金/チタン界面およびチタン/ニッケル界面の2ヵ所とした。
【0065】クラッド鋼の製作に用いた爆薬の成分は実施例1とほぼ同一のものを使用し、爆薬の爆発速度を、合せ材がニッケル板の場合に毎秒約2800mに調整し、合せ材がチタン板の場合に毎秒約2500mに調整し、合せ材がアルミ合金板の場合に毎秒約2300mに調整して使用した。爆薬装填量は、それぞれの接合面に対して、アルミ合金/チタン界面の接合の場合に20Kg/m2、チタン/ニッケル界面の接合の場合に16Kg/m2、ニッケル/ステンレス鋼界面の接合の場合に20Kg/m2とした。
【0066】また、それぞれの接合界面にあらかじめ設けておく間隙の大きさは、アルミ合金/チタン界面の接合の場合に4〜6mm、チタン/ニッケル界面の接合の場合に3〜4mm、ニッケル/ステンレス鋼界面の接合の場合に3〜4mmとした。それぞれの間隙の大きさに数ミリの幅があるのは、起爆側を小さく、先端側を大きく保持するためで、例えばアルミ合金/チタン界面の接合の場合を例に取って説明すると、間隙は起爆側の一辺に沿って4mmとし、起爆辺に対向する終爆側の一辺を6mmとした。起爆側から終爆側にかけての中間の間隙は、4mmから6mmの範囲で徐々に大きくするため、側辺部に沿って4mmから6mmの範囲の適当な大きさの支持物を挿入した。このようにして製作したクラッド鋼に対して、まず、超音波探傷試験により接合状態を調査した。
【0067】超音波探傷試験は爆発圧着終了毎に実施し、それぞれ合せ材となるニッケル面、チタン面およびアルミ合金面側から全面にわたって探傷した。超音波探傷試験の結果、本発明の方法で製作したクラッド鋼は、各接合界面ともに全面にわたって完全接合しており、この点では従来法で製作したクラッド鋼と同等の接合状態を示した。
【0068】次に、爆発圧着界面の接合強さを調査する目的で衝撃試験を実施した。衝撃試験の方法は、JIS Z2242「金属材料衝撃試験方法」に規格化されているシャルピー衝撃試験機を用い、JIS Z2202「金属材料衝撃試験片」に規格化されている4号試験片(2mm−V型ノッチ付試験片)からシャルピー衝撃値を求めた。
【0069】試験片の採取位置は、本発明の方法によって製作したクラッド鋼と従来法で製作したクラッド鋼から得られる試験データが、直接比較できるようにいずれも同一位置とし、起爆辺から終爆辺に向かって600mmかつ端部から300mmの位置から採取した。また、試験片のVノッチは、終爆辺に向かう試験片の面に統一して機械加工し、したがって衝撃試験機のハンマが起爆辺から終爆辺に作用するように方向を統一した。試験温度は冷媒に液体窒素を使用して、−196℃で行った。なお、衝撃試験界面は、本発明の方法と従来法を比較するために、本発明の方法に従って爆発圧着前の間隙をアルゴンガス置換したアルミ合金/チタン界面とチタン/ニッケル界面の2種類の界面とした。試験片の数は、1枚の4層クラッド鋼からそれぞれの接合界面に対して1個を採取し、本発明の方法で製作したクラッド鋼から合計44個、従来の工法で製作したクラッド鋼から合計42個の試験を行った。衝撃試験によって得られたシャルピー衝撃値とそのヒストグラムを、それぞれアルミ合金/チタン界面について表6と図6に、チタン/ニッケル界面について表7と図7にまとめて示す。
【0070】アルミ合金/チタン界面に対するシャルピー衝撃試験の結果、本発明の方法で製作したクラッド鋼の衝撃値は2.50〜6.13Kgf−M/cm2を示し、平均で3.84Kgf−M/cm2の値を示した。これは、従来の方法で製作したクラッド鋼の衝撃値が2.00〜4.88Kgf−M/cm2で平均値が2.86Kgf−M/cm2であることから、本発明の方法で製作することによって、衝撃値の上限側で約26%、平均値で約34%増加することが判明した。
【0071】また、チタン/ニッケル界面に対するシャルピー衝撃試験の結果、本発明の方法で製作したクラッド鋼の衝撃値は4.00〜13.38Kgf−M/cm2を示し、平均で8.49Kgf−M/cm2の値を示した。これは、従来の方法で製作したクラッド鋼の衝撃値が2.00〜10.88Kgf−M/cm2で平均値が4.99Kgf−M/cm2であることから、本発明の方法で製作することによって、衝撃値の上限側で約23%、平均値で約70%増加することが判明した。
【0072】これより本発明の方法で製作したアルミ合金/チタン/ニッケル/ステンレス鋼4層クラッド鋼のアルミ合金/チタン接合界面およびチタン/ニッケル接合界面においては、従来の方法で製作した4層クラッド鋼と比較して、いずれの接合界面ともシャルピー衝撃値が高いことが判明した。したがって、本発明の方法を用いることで、シャルピー衝撃試験に代表される機械的な接合強度に優れたクラッド鋼が製作できることが実証された。
【0073】
【表6】


【0074】
【表7】


【0075】実施例7本発明の方法を用いてアルミ/チタンクラッド材を製作し、あらかじめ設けておく間隙を空気中のままで行う従来の工法で製作したアルミ/チタンクラッド材との対比を行った。
【0076】アルミ/チタンクラッド材の製作に際しては、合せ材に板厚5mm、幅240mm、長さ440mmのアルミ板(JIS H4000 A1050P)を使用し、母材に板厚9mm、幅200mm、長さ400mmのチタン板(JIS H4600 TP28H)を使用した。また、爆発圧着条件は、爆発圧着前の合せ材と母材の間隙を大気のままで行う従来工法のものと、本発明に示すアルゴンガスで置換する操作を除いてその他の条件を同一とし、それぞれ一枚づつ、両者を比較するために合計2枚のクラッド材を製作した。なお、ここで本発明の方法によるアルゴンガス置換の操作は、前述の実施例1と同様な方法で行った。
【0077】爆発圧着によって得られたクラッド材は、超音波探傷試験によって本発明のものも従来法のものも、クラッド材の端部外周辺に沿って数ミリの範囲で不圧着を生じている部分を除き、その他の領域は完全接合していることを確認した。
【0078】次に、製作した2種類のアルミ/チタンクラッド材に対して、接合界面に介在する金属間化合物(合金塊)の硬さ測定を行い、両者の比較を行った。硬さを測定するための試験片は、クラッド材のほぼ中央部から採取し、爆発進行方向に平行、つまり、圧着の進行方向に平行に観察した試験片の面から行った。測定は、マイクロビッカース硬さ計を使用し、ダイヤモンド圧子への負荷荷重を100g、荷重負荷時間は15秒とした。
【0079】合金塊の硬さを測定した結果、間隙を空気中のままで爆発圧着したクラッド材の合金塊硬さは、波形先端の巻き込み部の中でおよそHV176〜HV330程度、平均でHV243(n=13)であった。一方、間隙をアルゴンガス置換後に爆発圧着したクラッド材の合金塊硬さは、およそHV132〜HV156程度、平均でHV143(n=9)であり、従来の方法で製作したクラッド鋼に比べると全体でHV44〜HV174程度柔らかく、かつ、平均でHV100とかなり大きな硬度差が存在していることが判明した。合金塊に対して行った硬さ測定の結果を表8にまとめて示す。これにより、本発明の方法で製作したクラッド材は、従来の方法で製作したクラッド材に比較した場合、接合界面に介在する合金塊の硬さが小さいことが実証された。
【0080】
【表8】


【0081】実施例8本発明の方法を用いてチタン/ニッケルクラッド材を製作し、あらかじめ設けておく間隙を空気中のままで行う従来の工法で製作したチタン/ニッケルクラッド材との対比を行った。
【0082】チタン/ニッケルクラッド材の製作に際しては、合せ材に板厚2mm、幅240mm、長さ440mmのチタン板(JIS H4600 TP28C)を使用し、母材に板厚6mm、幅200mm、長さ400mmのニッケル板(JISH4551 NNCP)を使用した。また、爆発圧着条件は、爆発圧着前の合せ材と母材の間隙を大気のままで行う従来工法のものと、本発明に示すアルゴンガスで置換する操作を除いてその他の条件を同一とし、それぞれ一枚づつ、両者を比較するために合計2枚のクラッド材を製作した。なお、ここで本発明の方法によるアルゴンガス置換の操作は、前述の実施例1と同様な方法で行った。
【0083】製作した2種類のチタン/ニッケルクラッド材に対して、接合界面に介在する合金塊の硬さ測定を行い、両者の比較を行った。硬さの測定は、ダイヤモンド圧子への負荷荷重を200gで行った以外は、前述の実施例8と同様の手法で行った。
【0084】合金塊の硬さを測定した結果、間隙を空気中のままで爆発圧着したクラッド材の合金塊硬さは、波形先端の巻き込み部の中でおよそHV582〜HV799程度、平均でHV698(n=9)であった。一方、間隙をアルゴンガス置換後に爆発圧着したクラッド材の合金塊硬さは、およそHV346〜HV639程度、平均でHV478(n=14)であり、従来の方法で製作したクラッド材に比べると全体でHV160〜HV236程度柔らかく、かつ、平均でHV220とかなり大きな硬度差が存在していることが判明した。合金塊に対して行った硬さ測定の結果を表9にまとめて示す。これにより、本発明の方法で製作したクラッド材は、従来の方法で製作したクラッド材に比較した場合、接合界面に介在する合金塊の硬さが小さいことが実証された。
【0085】
【表9】


【0086】参考例1本発明のアルゴン雰囲気を用いる方法を相対的な密度比がほぼ1の合せ材と母材の組み合せに適用した場合について以下に説明する。
【0087】ステンレスクラッド鋼を製作し、あらかじめ設けておく間隙をアルゴン雰囲気で置換する方法と空気中のままで行う従来の工法で製作したステンレスクラッド鋼との対比を行った。ステンレスクラッド鋼の製作に際しては、合せ材に板厚20mm、幅1270mm、長さ6850mmのステンレス鋼板(JIS G4304 SUS304L)を使用し、母材に板厚100mm、幅および長さは合せ材と同一寸法の低炭素鋼板(JIS G3103 SB450相当品)を使用した。また、爆発圧着条件は、爆発圧着前の合せ材と母材の間隙を大気のままで行う従来工法のものと、本発明に示すアルゴンガスで置換する操作を除いてその他の条件を同一とし、それぞれ一枚づつ両者を比較するために合計2枚のクラッド鋼を製作した。なお、ここで本発明の方法によるアルゴンガス置換の操作は、前述の実施例1と同様な方法で行った。
【0088】爆発圧着によって得られたクラッド鋼は、超音波探傷試験によって本発明のものも従来法のものも、クラッド鋼の端部外周辺に沿って20mmから50mmの範囲で不圧着を生じている部分を除き、その他の領域は完全接合していることを確認した。
【0089】また、接合界面に生成した波形模様を光学顕微鏡によって観察した結果、接合の開始点からおよそ3000mm離れた位置において、波高約300μm 、波長約800μm 程度の正弦波状の波形が観察され、かつ、メタルジェットの残留に起因する金属間化合物が両者とも同様に存在しており、本発明によるアルゴンガス置換の効果は明瞭に観察されなかった。
【0090】さらに、両者とも波形観察とほぼ同じ位置から採取したクラッド鋼に対して、剪断試験による接合界面の強度を測定した結果、表8に示すように、本発明の方法で製作したクラッド鋼の剪断強度は44.5〜46.3kgf/mm2の範囲にあって平均値で45.5kgf/mm2の強度を有していたが、従来法で製作したクラッド鋼の剪断強度は43.9〜46.1kgf/mm2の範囲にあって平均値で45.3kgf/mm2の強度を示し、両者の接合強度に顕著な有意差が認められなかった。
【0091】
【表10】


【0092】そこで、さらにクラッド鋼の接合界面に対して垂直方向の引張強度を測定することで両者の界面強度を比較してみたところ、いずれの試験片も接合界面以外の母材鋼板から破断したため、両者の界面強度は母材強度以上に強固に接合しており、有意差のないことが判った。なお、引張試験片はダンベル型とし、接合界面が平行部の中央に位置するように平行部長さ20mm、平行部直径8mmに機械加工仕上げした、
【0093】参考例2本発明のアルゴン雰囲気を用いる方法を相対的な密度比が約0.26である合せ材と母材の組み合せに適用した場合について以下に説明する。アルミ合金板と銀板を爆発圧着したクラッド材を製作し、あらかじめ設けておく間隙をアルゴン雰囲気で置換する方法と空気中のままで行う従来の工法で製作したクラッド材と比較した。合せ材は板厚1mm、幅400mm、長さ550mmの純度99.99%の銀板を使用し、母材は板厚50mm、幅550mm、長さ700mmのアルミ合金板(JIS H4000,A5083P−O)を使用し、それぞれの方法で一枚づつ製作した。
【0094】爆発圧着のための条件は、間隙をアルゴンガス置換する操作を除いて、その他の条件を同一とした。具体的には、合せ材は母材面の中央に位置するように配置し、合せ材と母材の間隙を3mmとなるように強制的に保持した。爆薬は、爆発速度をおよそ2000m/sに調整した硝安系粉状のものを銀板の上面に12kg/m2となるように装填し、銀板の1コーナー部から電気雷管によって起爆した。このようにして製作したクラッド材に対して銀板表面側から超音波探傷試験を行った結果、いずれのクラッド材とも銀板の外周辺に沿って2〜4mmの範囲で非接合であったが、そのほかの領域は全面に渡って完全接合していることを確認した。
【0095】つぎに、これらのクラッド材を合せ材とし、板厚50mm、幅400mm、長さ550mmのステンレス鋼(JIS G4304,SUS304L)を母材とする、アルミ合金/銀/ステンレス鋼の順に構成される3層の爆発圧着クラッド鋼をそれぞれ製作した。ここで合せ材とするクラッド材は、銀板を爆発圧着した際に、変形と表面荒れを生じたため、平坦度を矯正し、かつ、銀表面を鏡面になるまで研磨して使用した。また、銀とステンレス鋼の間の爆発圧着による接合は大気中で行った。このようにして、製作した板厚(50+1+50)mm、幅400mm、長さ550mmの寸法のA5083+銀+SUS304Lからなる3層クラッド鋼に対して、アルミ合金と銀の接合界面を中心にアルゴンガス置換の効果を比較調査した。
【0096】まず、それぞれのクラッド鋼の中央付近における接合界面の状態を顕微鏡観察した結果、いずれも波高約30μm 、波長約300μm 程度の波形模様が観察されたが、両者とも波形が極端に傾いており、この傾きに伴ってメタルジェットの残留に起因する金属間化合物を大量に介在していた。したがって、両者に顕著な差が見られなかったことから、アルゴンガス置換による効果は認められなかった。さらに、それぞれほぼ同じ位置から採取した平行部直径6mm、平行部長さ80mmのダンベル型の試験片を用いて、接合界面に垂直方向の引張試験を行った結果、いずれもA5083内部で破断したことから、爆着に使用した素材強度以上の接合力を有しているため、アルゴンガス置換による有意差が認められなかった。また、それぞれ同様の位置からアルミ合金/銀接合界面に2mmVノッチを有するシャルピー衝撃試験片を採取して、両者の衝撃値を比較した結果、いずれも0.8〜1.0kgf−M/cm2の範囲内の衝撃値を示し、アルゴンガス置換による有意差が認められなかった。
【0097】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の多層爆発圧着クラッド材は、合せ材と母材との間で0.4〜0.7の大きな相対的な密度比があるにもかかわらず、その接合界面において介在する金属間化合物の生成量が低減しており、しかもその金属間化合物の硬度も低い。このため接合強度および衝撃特性に代表されるような接合界面における機械的性質に優れている。すなわち、JISおよびASTM規格などに規定されている剪断強さ試験を行った場合、その結果得られる剪断強度は高く、かつ、安定している。また、衝撃試験を行った場合、その結果得られる衝撃値は平均値で7割近く上昇する。さらに、クラッド鋼を2次加工して、外側表面にクラッド鋼の接合界面が露出するような部品を製作する場合、すなわち、部品の内外面において爆発圧着接合界面の横方向の断面が観察できるような構造となる場合(このような部品には構造用異材継手材や配管用異材継手材などがあるが)、接合界面に介在する金属間化合物(合金塊)がそれほど硬くないことから、接合界面部近傍を機械切断または製品加工する過程で接合界面に介在する合金塊を欠落させることなく仕上げることができる。また、同様に、クラッド鋼の接合界面部から合金塊が欠落することや、硬度や脆さに起因して生じる合金塊内部の亀裂伝播を抑制できるため、配管としての気密性能を高めることができる。また、本発明のクラッド材の製法は、相対的な密度比が0.4〜0.7の異種金属同志をアルゴン雰囲気下で爆発圧着させることによりその接合界面の組織を改善せしめ、上記したような優れた接合性能を有するクラッド材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法(間隙をアルゴンガス置換)で製作したチタンクラッド鋼の接合界面に生成した波形を100倍で観察した光学顕微鏡写真。
【図2】従来の方法(間隙は空気雰囲気)で製作したチタンクラッド鋼の接合界面に生成した波形を100倍で観察した光学顕微鏡写真。
【図3】実施例4において比較のために測定した、従来の方法(間隙が大気圧と同じ空気)で製作したチタンクラッド鋼の接合界面近傍のマイクロビッカース硬さ測定結果を示すグラフ。
【図4】実施例4において測定した、本発明の方法(間隙をアルゴンガスで置換)で製作したチタンクラッド鋼の接合界面近傍のマイクロビッカース硬さ測定結果を示すグラフ。
【図5】実施例5で測定した、チタンクラッド鋼の切削抵抗測定結果を示すグラフ。
【図6】実施例6で測定した、本発明の方法で製作したアルミ合金/チタン界面のシャルピー衝撃値測定結果を示すグラフ。
【図7】実施例6で測定した、本発明の方法で製作したチタン/ニッケル界面のシャルピー衝撃値測定結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】合せ材と母材との間にあらかじめ一定の間隔を設けて行う爆発圧着クラッド材の製造方法において、合せ材と母材との接合面に用いる異種金属材料の密度のうち、どちらか一方の相対的に軽い金属材料の密度を他方の重い金属材料の密度で除した値が0.4から0.7の範囲にあり、かつ、あらかじめ設けておいた合せ材と母材との間隙に存在する空気のみをほぼ大気圧と同等の圧力のアルゴンガスに置換した状態で爆発圧着を行うことを特徴とする少なくとも2層からなる多層爆発圧着クラッド材の製造方法。
【請求項2】 合せ材と母材との接合面の異種金属材料の組み合わせが、チタンまたはチタン合金と鋼、チタンまたはチタン合金とニッケルまたはニッケル合金、あるいは、チタンまたはチタン合金とアルミまたはアルミ合金である請求項1に記載の多層爆発圧着クラッド材の製造方法。
【請求項3】 多層爆発圧着クラッド材が接合面として、チタンまたはチタン合金と鋼、チタンまたはチタン合金とニッケルまたはニッケル合金、および/またはチタンまたはチタン合金とアルミまたはアルミ合金の組み合わせを少なくとも含む請求項1記載の多層爆発圧着クラッド材の製造方法。
【請求項4】 爆発圧着クラッド材であって、請求項1記載の製造方法により製造され得る、接合面の異種金属の密度のうち、どちらか一方の相対的に軽い金属材料の密度を他方の重い金属材料の密度で除した値が0.4から0.7の範囲にある該接合面を少なくとも有し、かつ該接合面に介在する金属間化合物を低減せしめ、その硬度を低下せしめた少なくとも2層からなる多層爆発圧着クラッド材。
【請求項5】 爆発圧着クラッド材であって、その接合面として界面に介在する金属間化合物の硬度が710HVを越えないチタンまたはチタン合金と鋼、同硬度が700HVを越えないチタンまたはチタン合金とニッケルまたはニッケル合金、および/または同硬度が250HVを越えないチタンまたはチタン合金とアルミまたはアルミ合金の組み合わせを少なくとも含むことを特徴とする少なくとも2層からなる多層爆発圧着クラッド材。
【請求項6】 アルミまたはアルミ合金−チタンまたはチタン合金−ニッケルまたはニッケル合金−鋼の4層からなる請求項4記載の多層爆発圧着クラッド材。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図5】
image rotate


【特許番号】特許第3323311号(P3323311)
【登録日】平成14年6月28日(2002.6.28)
【発行日】平成14年9月9日(2002.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−348901
【出願日】平成5年12月28日(1993.12.28)
【公開番号】特開平7−185840
【公開日】平成7年7月25日(1995.7.25)
【審査請求日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【参考文献】
【文献】特開 平7−75884(JP,A)