片側スポット溶接装置
【課題】 小さい加圧力で、電極とワークとの間、あるいは、ワークとワークとの間の接触状態を良好にするとともに溶接電流密度を適正にすることにより、ワークの量産性を向上させる。
【解決手段】 ワーク15の溶接部位15Wに、ワーク15の一方向からのみ電極を当てて溶接する片側スポット溶接装置10において、溶接部位15Wに当ててワーク15に溶接電流を流す主電極21と、溶接部位15W及び/または溶接部位15W近傍に当ててワーク15に予備電流を流す予備電極22,23と、主電極21をワーク15に当てるときの主加圧力、予備電極22,23をワーク15に当てるときの予備加圧力、溶接電流及び予備電流を制御する制御装置82と、を備える。
【解決手段】 ワーク15の溶接部位15Wに、ワーク15の一方向からのみ電極を当てて溶接する片側スポット溶接装置10において、溶接部位15Wに当ててワーク15に溶接電流を流す主電極21と、溶接部位15W及び/または溶接部位15W近傍に当ててワーク15に予備電流を流す予備電極22,23と、主電極21をワーク15に当てるときの主加圧力、予備電極22,23をワーク15に当てるときの予備加圧力、溶接電流及び予備電流を制御する制御装置82と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片側スポット溶接装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスポット溶接装置として、ワークを一対の電極で挟んで通電するもの(例えば、特許文献1参照。)、あるいは、ワークの片側にのみ電極を当てて通電するもの(例えば、特許文献2参照。)が知られている。
【特許文献1】特開2003−236674公報
【特許文献2】特開昭57−193287号公報
【0003】
特許文献1の図1を以下の図9で説明する。なお、符号は振り直した。
図9は従来のスポット溶接装置の説明図であり、スポット溶接装置100は、溶接ガン101と、この溶接ガン101を制御する制御部102とからなり、溶接ガン101は、シリンダ103で昇降可能とした上部電極104と、アーム105に固定した下部電極106とを備える。
【0004】
特許文献2の第1図を以下の図10で説明する。なお、符号は振り直した。
図10は従来のスポット溶接装置による溶接要領を示す要部斜視図であり、第1の薄鋼板111の裏面に比較的剛性の高いバックアップ用鋼板110を当て、第1の薄鋼板111の表面に第2の薄鋼板112を重ね合せ、この第2の薄鋼板112の表面に一対の電極113,114を当て、これらの電極113,114に通電して両薄鋼板111,112をスポット溶接することを示す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9及び図10に示した溶接装置による溶接方法を以下に説明する。
図11(a),(b)は従来の溶接装置による溶接方法を示す断面図である。
(a)は図9に示した上部電極104と下部電極106とで鋼板107,108を挟んでスポット溶接した状態を示す。109はナゲットである。図中の矢印は溶接電流の流れを示す。
この溶接方法では、例えば、鋼板107,108が閉断面構造を形成する場合には、上部電極104及び下部電極106の一方を配置できない。
【0006】
(b)は図10に示した電極113と、電極116(アース電極であり、電極114に相当する。)とを薄鋼板111(薄鋼板112は省略)に当てて、薄鋼板111とバックアップ用鋼板110とをスポット溶接することを示す。溶接電流は図の矢印のように電極113,116間を流れる。なお、117はナゲット、118,118はバックアップ用鋼板110を支持する支持部である。
【0007】
スポット溶接時に電極113に大きな加圧力を作用させると、薄鋼板111及びバックアップ用鋼板110は大きく変形する。変形しないように加圧力を小さくすれば、薄鋼板111とバックアップ用鋼板110との間に生じる生産上の許容誤差によって生じる隙間を無くすことは難しい。
【0008】
また、溶接電流は電極113から薄鋼板111、バックアップ用鋼板110、電極116の順に流れるが、溶接に寄与しない分流が生じて溶接電流を一箇所に集中させることが難しい。
【0009】
このように、片側スポット溶接では、上記したワークを加圧する加圧力の設定が難しく、分流が生じることにより、ナゲット117が生成し難く、接合品質を向上できない。
以下に、ワークの加圧力、接触面積の影響を説明する。
【0010】
図12(a),(b)は従来の片側スポット溶接の加圧力、接触面積の影響を示す断面図である。なお、以下の説明では、ワークの平面度の生産上の許容誤差により生じるワーク間の隙間を考慮した。
(a)において、鋼板121と鋼板122とを、一方の鋼板121に電極123を当てて、スポット溶接する。(アース電極は省略する。)
【0011】
例えば、電極123による鋼板121,122の加圧力が小さい場合、鋼板121,122間の接触面積が小さくなる。従って、溶接電流は小さな接触面積の溶接部位に集中する、即ち、電流密度が過大となり、ナゲット124が生成された上に、更に、母材が局部的に過熱されて「散り125」として溶融飛散する。
【0012】
(b)において、電極123による鋼板121,122の加圧力が大きい場合、鋼板121,122間の接触面積が大きくなる(図中のRは鋼板121と鋼板122との接触範囲である。)。また、電極123と鋼板121との接触面積も大きくなる。従って、溶接電流は集中せず、電流密度が小さくなるため、ナゲットが生成されなくなる。
【0013】
以上に述べた電極123の加圧力は、電極123と鋼板121との接触状態にも影響する。特に加圧力が小さい場合は、電極123と鋼板121との間の接触抵抗が過度に大きくなる。
【0014】
本発明の目的は、片側スポット溶接装置を改良することで、小さい加圧力で、電極とワークとの間、あるいは、ワークとワークとの間の接触状態を良好にするとともに溶接電流密度を適正にすることにより、ワークの量産性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、ワークの溶接部位に、ワークの一方向からのみ電極を当てて溶接する片側スポット溶接装置において、溶接部位に当ててワークに溶接電流を流す主電極と、溶接部位及び/または溶接部位近傍に当ててワークに予備電流を流す予備電極と、主電極をワークに当てるときの主加圧力、予備電極をワークに当てるときの予備加圧力、溶接電流及び予備電流を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0016】
予備電極でワークに予備電流を流すと、ワークの温度が高くなってワークが軟化する。これにより、ワークの主電極を当てる部位が平坦になるとともに、ワーク間の隙間が無くなるから、電極とワークとの接触状態及びワーク間の接触状態が良好となり、溶接時の主電極の加圧力が小さくて済む。
【0017】
また、ワークに予備電流を流すことでワークの温度が高くなると、ワークの電気抵抗が大きくなる。この状態でワークの溶接部位に主電極を当てると、溶接部位の熱が主電極を介して逃げるため、溶接部位の温度が下がり、電気抵抗が小さくなる。従って、溶接時に、温度の高い溶接部位周囲に対して溶接部位に溶接電流が集中する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明では、溶接部位に当ててワークに溶接電流を流す主電極と、溶接部位及び/または溶接部位近傍に当ててワークに予備電流を流す予備電極と、主電極の主加圧力、予備電極の予備加圧力、溶接電流及び予備電流を制御する制御装置と、を備えるので、主電極とワークとの接触状態及びワーク間の接触状態を良好にすることができ、主電極によるワークの加圧力が小さくて済むため、ワークの変形を抑えつつ良好なスポット溶接を行うことができる。更に、予備通電によって上記の接触状態をワーク毎に常に一定に保つことができる。
【0019】
また、予備電極への通電によりワークを加熱した後に、主電極によるワークの加圧状態を保持することで、溶接部位周囲に対して溶接部位の温度を下げて、溶接部位への溶接電流を集中させることができ、分流を防止して溶接部位を効果的に発熱させることができて、ワークを迅速に溶接することができる。
以上より、片側スポット溶接によるワークの量産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る片側スポット溶接装置の説明図(一部断面図)であり、片側スポット溶接装置10(以下、単に「溶接装置10」と記す。)は、装置本体11と、この装置本体11の作動を制御する制御部12とからなる。
【0021】
装置本体11は、ワーク15(鋼板16及び鋼板17からなる)に溶接電流を流す主電極21と、この主電極21でスポット溶接する前にワーク15に予備電流を流す一対の予備電極22,23とを備えた部分であり、上部に設けた主シリンダ装置25と、この主シリンダ装置25の下部に取付けた溶接部26とからなる。なお、27,27はワーク15を支持するワーク支持部であり、ワーク15の溶接される部位、即ち溶接部位15W(一点鎖線の丸で囲んだ部分である)から離れた位置に設けたものである。
【0022】
主シリンダ装置25は、シリンダ部31と、このシリンダ部31に移動自在に挿入したピストン(不図示)と、このピストンに一端を取付けたロッド33とからなり、ロッド33の先端に溶接部26を取付けることにより、シリンダ部31内に作動油を供給、あるいは、シリンダ31外に作動油を排出することでロッド33を介して溶接部26を昇降させる。
【0023】
溶接部26は、シリンダ装置25に連結するとともに下部に予備電極22,23を一体に設けたベース部35と、このベース部35内に設けた副シリンダ装置36と、この副シリンダ装置36に取付けた主電極21と、予備電極22,23と、ワーク15をアース開閉スイッチ37Aを介してアースするためにワーク15に当てたアース電極37とからなる。
【0024】
ベース部35は、溶接電流、予備電流の電源38に接続した部分であり、副シリンダ装置36を構成するシリンダ39を設けたものである。
副シリンダ装置36は、上記のシリンダ39と、このシリンダ39に移動自在に挿入したピストン体41とからなり、シリンダ39内をピストン体41で上部油室39A(不図示)と下部油室39Bとに区画し、これらの上部油室39A及び下部油室39Bにそれぞれベース部35に設けた上部油路43及び下部油路44を連通させたものである。
主電極21は、ピストン体41の内側に断熱材46を介して取付けたものである。
【0025】
ここで、47はピストン体41を昇降自在に支持するためにロッド33に取付けたピストン体支持部、48はピストン体41とピストン体支持部47とを連結する連結ピン、51はベース部35と主電極21とを電気的に導通させる導電部材、52は連結ピン48の外面を覆う断熱材、53は主電極21とピストン体支持部47との間に設けた断熱材である。上記した断熱材46、52,53は、溶接時に主電極21に発生する熱がピストン体41、ピストン体支持部47及び連結ピン48に伝わらないようにする部材である。
【0026】
制御部12は、電源38からベース部35を介して主電極21又は予備電極22,23へ溶接電流又は予備電流を流すときにその電流値を設定する又は電流を停止する電流値設定手段62と、主電極21及び予備電極22,23によるワーク15の加圧力を設定する加圧力設定手段63と、モータ64で駆動するオイルポンプ66に接続した油圧配管67から主シリンダ装置25に接続した油圧配管68,71への作動油の供給を切り替える、あるいは、作動油の供給を停止するソレノイドバルブ72と、モータ73で駆動するオイルポンプ74に接続した油圧配管76から副シリンダ装置36側の上部油路43及び下部油路44にそれぞれ接続した油圧配管77,78への作動油の供給を切り替える、あるいは、作動油の供給を停止するソレノイドバルブ81と、アース電極37のアース又はアースの解除を切り換えるアース開閉スイッチ37Aと、電流値設定手段62による電流値、加圧力設定手段63による加圧力及び加圧時間、ソレノイドバルブ72,81による油路切り換え、アース開閉スイッチ37Aのオンオフ、主電極21及び予備電極22,23への通電時間を制御する制御装置82とからなる。
【0027】
ここで、84はソレノイドバルブ72,81から作動油を排出する配管、85は配管84から排出された作動油を溜める油タンクであり、この油タンク85はオイルポンプ66,74に接続する。87は主電極21及び予備電極22,23を流れる電流値を検出する電流値検出手段、88は主電極21及び予備電極22,23の加圧力を検出する加圧力検出手段であり、これらの電流値検出手段87及び加圧力検出手段88からの電流値信号及び加圧力信号に基づいて制御装置82は、電流値及び加圧力を制御する。
【0028】
ソレノイドバルブ72は、制御装置82からの制御信号により、オイルポンプ66から送られた作動油を、油圧配管67から、例えば、油圧配管68へ流すことでシリンダ部31に対してロッド33を下降させ主電極21及び予備電極22,23を共に下降させて予備電極22,23でワーク15を加圧する、あるいは、オイルポンプ66から送られた作動油を、油圧配管67から油圧配管71へ流すことでシリンダ部31に対してロッド33を上昇させ主電極21及び予備電極22,23を共に上昇させて予備電極22,23をワーク15から離す、あるいは、油圧配管67から油圧配管68及び圧配管71への作動油の流れを停止させる。
【0029】
ソレノイドバルブ81は、制御装置82からの制御信号により、オイルポンプ74から送られた作動油を、油圧配管76から、例えば、油圧配管77へ流すことでシリンダ39に対してピストン体41を下降させベース部35に対して主電極21を下降させてワーク15を加圧する、あるいは、オイルポンプ74から送られた作動油を、油圧配管76から油圧配管78へ流すことでシリンダ39に対してピストン体41を上昇させ主電極21を上昇させてワーク15から離す、あるいは、油圧配管76から油圧配管77及び油圧配管78への作動油の流れを停止させる。
【0030】
図2(a)〜(c)は本発明に係る溶接装置の作用を示す作用図である。
(a)は、予備電極22,23を下降させ、ワーク15を加圧する。そして、矢印Aで示すように予備電極22からワーク15を介して予備電極23に予備電流を流すことを示す。このとき、アース開閉スイッチ37Aはオフ状態にあり、ワーク15はアースされない。
【0031】
ワーク15に通電することで、ワーク15にジュール熱が発生し、ワーク15の温度が高くなる。これにより、ワーク15が軟化した状態で加圧されるため、鋼板16,17間の製造上の隙間が無くなり、鋼板16,17間の接触状態が向上する。また、ワーク15が高温になることでワーク15の電気抵抗が大きくなる。
【0032】
(b)は、ベース部35を上昇させるとともに、主電極21を下降させてワーク15を加圧し、ワーク15に通電することを示す。このとき、アース開閉スイッチ37Aはオン状態にあり、ワーク15はアースされる。
【0033】
まず、主電極21をワーク15に当てることで、高温状態にあるワーク15から主電極21に熱が逃げ、主電極21を当てたワーク15の溶接部位15Wは、温度が低下する。
この状態を所定時間保持して溶接部位の温度を十分に下げた後、主電極21からワーク15に溶接電流を矢印Bのように流すことで、温度の下がった溶接部位は、周囲の温度の高い部分よりも電気抵抗が小さくなるので、溶接電流が溶接部位に集中するため、溶接部位に効果的にナゲットが生成され、溶接が行われる。
【0034】
(c)は、主電極21による溶接が終了して、主電極21を上昇させ、ワーク15から離した状態を示す。
【0035】
図3(a)〜(c)は本発明に係る予備電極の作用を示す作用図である。
(a)はワーク15、詳しくは、鋼板16と鋼板17との間に製造上のばらつきで隙間90が生じた状態を示す。
【0036】
(b)において、ワーク15を予備電極22,23で加圧しながら予備電流を流すと、ワーク15は軟化するため、(c)のように、ワーク15から予備電極22,23を離ししたときには、鋼板16,17間の隙間は無くなり、鋼板16と鋼板17とは良好な接触状態となる。
【0037】
図4(a),(b)は本発明に係る主電極の作用を示す作用図である。
(a)は主電極21でワーク15を加圧する状態を示す。
(b)はワーク15を加圧したときに、矢印で示すように、ワーク15から主電極21の熱が逃げ、溶接しようとする溶接部位15Wに、周囲の高温部15Bに対して温度が低い低温部15A(クロスハッチングを施した部分である。)が出来たことを示す。
【0038】
この状態で、主電極21からワーク15、詳しくは、低温部15Aに溶接電流を流すことで、高温部15Wよりも電気抵抗が小さくなった低温部15Aに溶接電流が集中して流れ、(c)に示すように、鋼板16と鋼板17とが、好ましい状態、即ち、より小さな加圧力で、且つより小さな溶接電流値で溶接される。92はナゲットである。
【0039】
図5は本発明に係るスポット溶接時の電流値及び加圧力を示すグラフであり、縦軸は主電極及び予備電極の電流値(即ち、主電極の溶接電流値及び予備電極の予備電流値である)、予備電極の加圧力、主電極の加圧力を表し、横軸は時間を表す。
時刻t1において、予備電極でワークを加圧し始め、その加圧力がp1を越え、且つ時刻t2〜時刻t3の間で予備電極からワークに予備電流値としてi1を流し、ワークを加熱する。p2は予備電極加圧力の最大値である。
【0040】
時刻t4において、主電極でワークを加圧し始める。
時刻t5で、予備電極をワークから離し、予備電極によるワークの加圧を終了する。
上記の主電極でのワークの加圧力がp3を越え、且つ時刻t6〜t7の間で主電極からワークに溶接電流値としてi2(例えば、i2>i1)を流し、ワークを溶接する。p4は主電極加圧力の最大値である。
時刻t8で、主電極をワークから離し、主電極によるワークの加圧を終了する。
【0041】
上記の予備電極によるワークの加圧を終了する時刻t5と、主電極によるワークの加圧を開始する時刻t4とは、前後を入れ替えても差し支えない。即ち、予備電極によるワークの加圧を終了した後に、主電極によるワークの加圧を開始してもよい。
【0042】
主電極によるワークの加圧開始から溶接電流の通電開始までの時間T2は、予備電極による加圧開始から予備電流通電開始までの時間T1よりも長くしてある。これは、主電極をワークに押し付ける時間T2を比較的長く設定することで、予備通電した後に、高温になったワークの溶接しようとする溶接部位から主電極に熱を逃がして溶接部位の温度を十分に下げるためである。
【0043】
図6はワークの温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
ここで用いたデータは軟鋼のものである。
常温での抵抗率は約13μΩ/cmであるが、例えば、本発明に係る予備電極によりワークの温度を1200℃まで高めたとすると、ワークの抵抗率は135μΩ/cmまで大きくなる。この状態で、ワークに主電極を当てるとともに所定時間保持して、ワークの主電極を当てた部分(即ち、溶接しようとする部分である。)の温度が600℃まで下がったとすると、この部分の抵抗率は77μΩ/cmとなり、予備電極によって高温となった部分に対してほぼ半分の抵抗率となる。従って、主電極に溶接電流を流せば、周囲の抵抗率の高い部分よりも抵抗率の低い主電極を当てた部分に溶接電流が集中する、即ち、電流密度が高まるから、片側スポット溶接の課題である分流が解決でき、効率よくスポット溶接することができる。
【0044】
図7(a),(b)は本発明に係る予備電極による予備通電、予備加圧の効果を示すグラフである。グラフの縦軸は溶接後のワークの引張せん断強度、横軸は主電極による溶接時の電流値を表す。また、実線及び黒丸はワーク間に隙間がないもの(以下「隙間無し」と記す。)、破線及び黒四角はワーク間に隙間があるもの(以下、「隙間有り」と記す。)である。更に、グラフ中に横に引いた直線は引張せん断強度の基準値Sを表す。
【0045】
(a)の実施例(本実施形態)は予備通電を行うとともに予備加圧を行った場合を示す。
隙間無しと隙間有りとでは、隙間有りの方が、引張せん断強度の基準値Sを上回るのに大きな溶接電流値を必要とする。
【0046】
この隙間有りの線と基準線との交点の電流値をA1とする。また、溶接電流値を次第に大きくしたときに、溶接中の溶接部から散りが発生し始める電流値をA2とすると、電流値A1と電流値A2との間の範囲がスポット溶接の適正な範囲である。
【0047】
(b)の比較例は予備通電、予備加圧共に行わない場合を示す。
隙間有りと基準線との交点の電流値をA3とすると、電流値A3>電流値A1となり、ワークの引張せん断強度の基準値Sを上回るのに、(a)の場合よりも大きな溶接電流値を必要とする。
【0048】
また、溶接電流値を次第に大きくしたときに、溶接部から散りが発生し始める電流値をA4とすると、電流値A4<A2となり、(a)の場合よりも散りの発生する電流値は低い。これは、実施例の方が、比較例よりもワーク間の接触状態が良くなり、溶接時のワーク間の接触面積が小さ過ぎることがなくて散りの発生が抑えられたと考えられる。
【0049】
以上の(a),(b)より、予備通電及び予備加圧を共に行った場合の方が、予備通電、予備加圧共に行わない場合よりも、スポット溶接の適正範囲は広くなり、溶接の電流値の選択の幅が広がって、量産を行うのに好ましい。
【0050】
図8は本発明に係るスポット溶接の要領を示すフローチャートである。図中のSTXXはステップ番号を表す。
ST01…予備電極でワークを加圧する。
ST02…予備電極に予備電流を流し、ワークを加熱する。
ST03…予備電極をワークから離す。
【0051】
ST04…主電極でワークを加圧し、所定時間保持して、ワークの溶接部の温度を下げる。
ST05…主電極に溶接電流を流す。
ST06…主電極をワークから離す。
【0052】
以上の図1で説明したように、本発明は、ワーク15の溶接部位15Wに、ワーク15の一方向からのみ電極を当てて溶接する片側スポット溶接装置10において、溶接部位15Wに当ててワーク15に溶接電流を流す主電極21と、溶接部位15W及び/または溶接部位15W近傍に当ててワーク15に予備電流を流す予備電極22,23と、主電極21をワーク15に当てるときの主加圧力、予備電極22,23をワーク15に当てるときの予備加圧力、溶接電流及び予備電流を制御する制御装置82と、を備えることを特徴とする。
【0053】
溶接部位15W及び/または溶接部位15W近傍に当ててワーク15に予備電流を流す予備電極22,23によって溶接前にワーク15を加熱するので、主電極21とワーク15との接触状態及びワーク15間の接触状態を良好にすることができ、主電極21によるワーク15の加圧力が小さくて済むため、ワーク15の変形を抑えつつ良好なスポット溶接を行うことができる。更に、予備通電によって上記の接触状態をワーク15毎に常に一定に保つことができる。
【0054】
また、予備電極22,23への通電によりワーク15を加熱した後に、主電極21によるワーク15の加圧状態を保持することで、溶接部位15W周囲に対して溶接部位15Wの温度を下げて、溶接部位15Wへの溶接電流を集中させることができ、分流を防止して溶接部位15Wを効果的に発熱させることができて、ワーク15を迅速に溶接することができる。
以上より、片側スポット溶接によるワーク15の量産性を向上させることができる。
【0055】
尚、本実施形態では、図2(a)に示したように、予備電極22,23を溶接部位の周囲に当てたが、これに限らず、溶接部位の周囲、及び溶接部位に当ててもよい。
また、図1に示したように、予備電極22,23を主電極21の両側に設けたが、これに限らず、予備電極を、主電極21を囲む環状の電極とし、予備電極と主電極21との間に予備電流を流すことで、溶接前にワークを加熱するようにしてもよい。
更に、図1に示したように、アース電極37を鋼板17に接触させたが、これに限らず、アース電極37を鋼板16に接触させてもよい。
【0056】
また更に、図1に示したように、装置本体11の溶接部26を油圧式の主シリンダ装置25で駆動するようにしたが、溶接部26を空圧又はサーボモータで駆動するようにしてもよく、また、ベース部35に対して主電極21を油圧式の副シリンダ装置36で駆動するようにしたが、主電極21を空圧又はサーボモータで駆動するようにしてもよい。
更に、図5では、溶接電流値i1,i2の関係をi2>i1としたが、場合によっては、i2=i1又はi2<i1としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の片側スポット溶接装置は、例えば、ワークとして閉断面構造の部材を溶接するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る片側スポット溶接装置の説明図である。
【図2】本発明に係る溶接装置の作用を示す作用図である。
【図3】本発明に係る予備電極の作用を示す作用図である。
【図4】本発明に係る主電極の作用を示す作用図である。
【図5】本発明に係るスポット溶接時の電流値及び加圧力を示すグラフである。
【図6】ワークの温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係る予備電極による予備通電、予備加圧の効果を示すグラフである。
【図8】本発明に係るスポット溶接の要領を示すフローチャートである。
【図9】従来のスポット溶接装置の説明図である。
【図10】従来のスポット溶接装置による溶接要領を示す要部斜視図である。
【図11】従来の溶接装置による溶接方法を示す断面図である。
【図12】従来の片側スポット溶接の加圧力、接触面積の影響を示す断面図である。
【符号の説明】
【0059】
10…片側スポット溶接装置、15…ワーク、15W…溶接部位、21…主電極、22,23…予備電極、82…制御装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、片側スポット溶接装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスポット溶接装置として、ワークを一対の電極で挟んで通電するもの(例えば、特許文献1参照。)、あるいは、ワークの片側にのみ電極を当てて通電するもの(例えば、特許文献2参照。)が知られている。
【特許文献1】特開2003−236674公報
【特許文献2】特開昭57−193287号公報
【0003】
特許文献1の図1を以下の図9で説明する。なお、符号は振り直した。
図9は従来のスポット溶接装置の説明図であり、スポット溶接装置100は、溶接ガン101と、この溶接ガン101を制御する制御部102とからなり、溶接ガン101は、シリンダ103で昇降可能とした上部電極104と、アーム105に固定した下部電極106とを備える。
【0004】
特許文献2の第1図を以下の図10で説明する。なお、符号は振り直した。
図10は従来のスポット溶接装置による溶接要領を示す要部斜視図であり、第1の薄鋼板111の裏面に比較的剛性の高いバックアップ用鋼板110を当て、第1の薄鋼板111の表面に第2の薄鋼板112を重ね合せ、この第2の薄鋼板112の表面に一対の電極113,114を当て、これらの電極113,114に通電して両薄鋼板111,112をスポット溶接することを示す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9及び図10に示した溶接装置による溶接方法を以下に説明する。
図11(a),(b)は従来の溶接装置による溶接方法を示す断面図である。
(a)は図9に示した上部電極104と下部電極106とで鋼板107,108を挟んでスポット溶接した状態を示す。109はナゲットである。図中の矢印は溶接電流の流れを示す。
この溶接方法では、例えば、鋼板107,108が閉断面構造を形成する場合には、上部電極104及び下部電極106の一方を配置できない。
【0006】
(b)は図10に示した電極113と、電極116(アース電極であり、電極114に相当する。)とを薄鋼板111(薄鋼板112は省略)に当てて、薄鋼板111とバックアップ用鋼板110とをスポット溶接することを示す。溶接電流は図の矢印のように電極113,116間を流れる。なお、117はナゲット、118,118はバックアップ用鋼板110を支持する支持部である。
【0007】
スポット溶接時に電極113に大きな加圧力を作用させると、薄鋼板111及びバックアップ用鋼板110は大きく変形する。変形しないように加圧力を小さくすれば、薄鋼板111とバックアップ用鋼板110との間に生じる生産上の許容誤差によって生じる隙間を無くすことは難しい。
【0008】
また、溶接電流は電極113から薄鋼板111、バックアップ用鋼板110、電極116の順に流れるが、溶接に寄与しない分流が生じて溶接電流を一箇所に集中させることが難しい。
【0009】
このように、片側スポット溶接では、上記したワークを加圧する加圧力の設定が難しく、分流が生じることにより、ナゲット117が生成し難く、接合品質を向上できない。
以下に、ワークの加圧力、接触面積の影響を説明する。
【0010】
図12(a),(b)は従来の片側スポット溶接の加圧力、接触面積の影響を示す断面図である。なお、以下の説明では、ワークの平面度の生産上の許容誤差により生じるワーク間の隙間を考慮した。
(a)において、鋼板121と鋼板122とを、一方の鋼板121に電極123を当てて、スポット溶接する。(アース電極は省略する。)
【0011】
例えば、電極123による鋼板121,122の加圧力が小さい場合、鋼板121,122間の接触面積が小さくなる。従って、溶接電流は小さな接触面積の溶接部位に集中する、即ち、電流密度が過大となり、ナゲット124が生成された上に、更に、母材が局部的に過熱されて「散り125」として溶融飛散する。
【0012】
(b)において、電極123による鋼板121,122の加圧力が大きい場合、鋼板121,122間の接触面積が大きくなる(図中のRは鋼板121と鋼板122との接触範囲である。)。また、電極123と鋼板121との接触面積も大きくなる。従って、溶接電流は集中せず、電流密度が小さくなるため、ナゲットが生成されなくなる。
【0013】
以上に述べた電極123の加圧力は、電極123と鋼板121との接触状態にも影響する。特に加圧力が小さい場合は、電極123と鋼板121との間の接触抵抗が過度に大きくなる。
【0014】
本発明の目的は、片側スポット溶接装置を改良することで、小さい加圧力で、電極とワークとの間、あるいは、ワークとワークとの間の接触状態を良好にするとともに溶接電流密度を適正にすることにより、ワークの量産性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、ワークの溶接部位に、ワークの一方向からのみ電極を当てて溶接する片側スポット溶接装置において、溶接部位に当ててワークに溶接電流を流す主電極と、溶接部位及び/または溶接部位近傍に当ててワークに予備電流を流す予備電極と、主電極をワークに当てるときの主加圧力、予備電極をワークに当てるときの予備加圧力、溶接電流及び予備電流を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0016】
予備電極でワークに予備電流を流すと、ワークの温度が高くなってワークが軟化する。これにより、ワークの主電極を当てる部位が平坦になるとともに、ワーク間の隙間が無くなるから、電極とワークとの接触状態及びワーク間の接触状態が良好となり、溶接時の主電極の加圧力が小さくて済む。
【0017】
また、ワークに予備電流を流すことでワークの温度が高くなると、ワークの電気抵抗が大きくなる。この状態でワークの溶接部位に主電極を当てると、溶接部位の熱が主電極を介して逃げるため、溶接部位の温度が下がり、電気抵抗が小さくなる。従って、溶接時に、温度の高い溶接部位周囲に対して溶接部位に溶接電流が集中する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明では、溶接部位に当ててワークに溶接電流を流す主電極と、溶接部位及び/または溶接部位近傍に当ててワークに予備電流を流す予備電極と、主電極の主加圧力、予備電極の予備加圧力、溶接電流及び予備電流を制御する制御装置と、を備えるので、主電極とワークとの接触状態及びワーク間の接触状態を良好にすることができ、主電極によるワークの加圧力が小さくて済むため、ワークの変形を抑えつつ良好なスポット溶接を行うことができる。更に、予備通電によって上記の接触状態をワーク毎に常に一定に保つことができる。
【0019】
また、予備電極への通電によりワークを加熱した後に、主電極によるワークの加圧状態を保持することで、溶接部位周囲に対して溶接部位の温度を下げて、溶接部位への溶接電流を集中させることができ、分流を防止して溶接部位を効果的に発熱させることができて、ワークを迅速に溶接することができる。
以上より、片側スポット溶接によるワークの量産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る片側スポット溶接装置の説明図(一部断面図)であり、片側スポット溶接装置10(以下、単に「溶接装置10」と記す。)は、装置本体11と、この装置本体11の作動を制御する制御部12とからなる。
【0021】
装置本体11は、ワーク15(鋼板16及び鋼板17からなる)に溶接電流を流す主電極21と、この主電極21でスポット溶接する前にワーク15に予備電流を流す一対の予備電極22,23とを備えた部分であり、上部に設けた主シリンダ装置25と、この主シリンダ装置25の下部に取付けた溶接部26とからなる。なお、27,27はワーク15を支持するワーク支持部であり、ワーク15の溶接される部位、即ち溶接部位15W(一点鎖線の丸で囲んだ部分である)から離れた位置に設けたものである。
【0022】
主シリンダ装置25は、シリンダ部31と、このシリンダ部31に移動自在に挿入したピストン(不図示)と、このピストンに一端を取付けたロッド33とからなり、ロッド33の先端に溶接部26を取付けることにより、シリンダ部31内に作動油を供給、あるいは、シリンダ31外に作動油を排出することでロッド33を介して溶接部26を昇降させる。
【0023】
溶接部26は、シリンダ装置25に連結するとともに下部に予備電極22,23を一体に設けたベース部35と、このベース部35内に設けた副シリンダ装置36と、この副シリンダ装置36に取付けた主電極21と、予備電極22,23と、ワーク15をアース開閉スイッチ37Aを介してアースするためにワーク15に当てたアース電極37とからなる。
【0024】
ベース部35は、溶接電流、予備電流の電源38に接続した部分であり、副シリンダ装置36を構成するシリンダ39を設けたものである。
副シリンダ装置36は、上記のシリンダ39と、このシリンダ39に移動自在に挿入したピストン体41とからなり、シリンダ39内をピストン体41で上部油室39A(不図示)と下部油室39Bとに区画し、これらの上部油室39A及び下部油室39Bにそれぞれベース部35に設けた上部油路43及び下部油路44を連通させたものである。
主電極21は、ピストン体41の内側に断熱材46を介して取付けたものである。
【0025】
ここで、47はピストン体41を昇降自在に支持するためにロッド33に取付けたピストン体支持部、48はピストン体41とピストン体支持部47とを連結する連結ピン、51はベース部35と主電極21とを電気的に導通させる導電部材、52は連結ピン48の外面を覆う断熱材、53は主電極21とピストン体支持部47との間に設けた断熱材である。上記した断熱材46、52,53は、溶接時に主電極21に発生する熱がピストン体41、ピストン体支持部47及び連結ピン48に伝わらないようにする部材である。
【0026】
制御部12は、電源38からベース部35を介して主電極21又は予備電極22,23へ溶接電流又は予備電流を流すときにその電流値を設定する又は電流を停止する電流値設定手段62と、主電極21及び予備電極22,23によるワーク15の加圧力を設定する加圧力設定手段63と、モータ64で駆動するオイルポンプ66に接続した油圧配管67から主シリンダ装置25に接続した油圧配管68,71への作動油の供給を切り替える、あるいは、作動油の供給を停止するソレノイドバルブ72と、モータ73で駆動するオイルポンプ74に接続した油圧配管76から副シリンダ装置36側の上部油路43及び下部油路44にそれぞれ接続した油圧配管77,78への作動油の供給を切り替える、あるいは、作動油の供給を停止するソレノイドバルブ81と、アース電極37のアース又はアースの解除を切り換えるアース開閉スイッチ37Aと、電流値設定手段62による電流値、加圧力設定手段63による加圧力及び加圧時間、ソレノイドバルブ72,81による油路切り換え、アース開閉スイッチ37Aのオンオフ、主電極21及び予備電極22,23への通電時間を制御する制御装置82とからなる。
【0027】
ここで、84はソレノイドバルブ72,81から作動油を排出する配管、85は配管84から排出された作動油を溜める油タンクであり、この油タンク85はオイルポンプ66,74に接続する。87は主電極21及び予備電極22,23を流れる電流値を検出する電流値検出手段、88は主電極21及び予備電極22,23の加圧力を検出する加圧力検出手段であり、これらの電流値検出手段87及び加圧力検出手段88からの電流値信号及び加圧力信号に基づいて制御装置82は、電流値及び加圧力を制御する。
【0028】
ソレノイドバルブ72は、制御装置82からの制御信号により、オイルポンプ66から送られた作動油を、油圧配管67から、例えば、油圧配管68へ流すことでシリンダ部31に対してロッド33を下降させ主電極21及び予備電極22,23を共に下降させて予備電極22,23でワーク15を加圧する、あるいは、オイルポンプ66から送られた作動油を、油圧配管67から油圧配管71へ流すことでシリンダ部31に対してロッド33を上昇させ主電極21及び予備電極22,23を共に上昇させて予備電極22,23をワーク15から離す、あるいは、油圧配管67から油圧配管68及び圧配管71への作動油の流れを停止させる。
【0029】
ソレノイドバルブ81は、制御装置82からの制御信号により、オイルポンプ74から送られた作動油を、油圧配管76から、例えば、油圧配管77へ流すことでシリンダ39に対してピストン体41を下降させベース部35に対して主電極21を下降させてワーク15を加圧する、あるいは、オイルポンプ74から送られた作動油を、油圧配管76から油圧配管78へ流すことでシリンダ39に対してピストン体41を上昇させ主電極21を上昇させてワーク15から離す、あるいは、油圧配管76から油圧配管77及び油圧配管78への作動油の流れを停止させる。
【0030】
図2(a)〜(c)は本発明に係る溶接装置の作用を示す作用図である。
(a)は、予備電極22,23を下降させ、ワーク15を加圧する。そして、矢印Aで示すように予備電極22からワーク15を介して予備電極23に予備電流を流すことを示す。このとき、アース開閉スイッチ37Aはオフ状態にあり、ワーク15はアースされない。
【0031】
ワーク15に通電することで、ワーク15にジュール熱が発生し、ワーク15の温度が高くなる。これにより、ワーク15が軟化した状態で加圧されるため、鋼板16,17間の製造上の隙間が無くなり、鋼板16,17間の接触状態が向上する。また、ワーク15が高温になることでワーク15の電気抵抗が大きくなる。
【0032】
(b)は、ベース部35を上昇させるとともに、主電極21を下降させてワーク15を加圧し、ワーク15に通電することを示す。このとき、アース開閉スイッチ37Aはオン状態にあり、ワーク15はアースされる。
【0033】
まず、主電極21をワーク15に当てることで、高温状態にあるワーク15から主電極21に熱が逃げ、主電極21を当てたワーク15の溶接部位15Wは、温度が低下する。
この状態を所定時間保持して溶接部位の温度を十分に下げた後、主電極21からワーク15に溶接電流を矢印Bのように流すことで、温度の下がった溶接部位は、周囲の温度の高い部分よりも電気抵抗が小さくなるので、溶接電流が溶接部位に集中するため、溶接部位に効果的にナゲットが生成され、溶接が行われる。
【0034】
(c)は、主電極21による溶接が終了して、主電極21を上昇させ、ワーク15から離した状態を示す。
【0035】
図3(a)〜(c)は本発明に係る予備電極の作用を示す作用図である。
(a)はワーク15、詳しくは、鋼板16と鋼板17との間に製造上のばらつきで隙間90が生じた状態を示す。
【0036】
(b)において、ワーク15を予備電極22,23で加圧しながら予備電流を流すと、ワーク15は軟化するため、(c)のように、ワーク15から予備電極22,23を離ししたときには、鋼板16,17間の隙間は無くなり、鋼板16と鋼板17とは良好な接触状態となる。
【0037】
図4(a),(b)は本発明に係る主電極の作用を示す作用図である。
(a)は主電極21でワーク15を加圧する状態を示す。
(b)はワーク15を加圧したときに、矢印で示すように、ワーク15から主電極21の熱が逃げ、溶接しようとする溶接部位15Wに、周囲の高温部15Bに対して温度が低い低温部15A(クロスハッチングを施した部分である。)が出来たことを示す。
【0038】
この状態で、主電極21からワーク15、詳しくは、低温部15Aに溶接電流を流すことで、高温部15Wよりも電気抵抗が小さくなった低温部15Aに溶接電流が集中して流れ、(c)に示すように、鋼板16と鋼板17とが、好ましい状態、即ち、より小さな加圧力で、且つより小さな溶接電流値で溶接される。92はナゲットである。
【0039】
図5は本発明に係るスポット溶接時の電流値及び加圧力を示すグラフであり、縦軸は主電極及び予備電極の電流値(即ち、主電極の溶接電流値及び予備電極の予備電流値である)、予備電極の加圧力、主電極の加圧力を表し、横軸は時間を表す。
時刻t1において、予備電極でワークを加圧し始め、その加圧力がp1を越え、且つ時刻t2〜時刻t3の間で予備電極からワークに予備電流値としてi1を流し、ワークを加熱する。p2は予備電極加圧力の最大値である。
【0040】
時刻t4において、主電極でワークを加圧し始める。
時刻t5で、予備電極をワークから離し、予備電極によるワークの加圧を終了する。
上記の主電極でのワークの加圧力がp3を越え、且つ時刻t6〜t7の間で主電極からワークに溶接電流値としてi2(例えば、i2>i1)を流し、ワークを溶接する。p4は主電極加圧力の最大値である。
時刻t8で、主電極をワークから離し、主電極によるワークの加圧を終了する。
【0041】
上記の予備電極によるワークの加圧を終了する時刻t5と、主電極によるワークの加圧を開始する時刻t4とは、前後を入れ替えても差し支えない。即ち、予備電極によるワークの加圧を終了した後に、主電極によるワークの加圧を開始してもよい。
【0042】
主電極によるワークの加圧開始から溶接電流の通電開始までの時間T2は、予備電極による加圧開始から予備電流通電開始までの時間T1よりも長くしてある。これは、主電極をワークに押し付ける時間T2を比較的長く設定することで、予備通電した後に、高温になったワークの溶接しようとする溶接部位から主電極に熱を逃がして溶接部位の温度を十分に下げるためである。
【0043】
図6はワークの温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
ここで用いたデータは軟鋼のものである。
常温での抵抗率は約13μΩ/cmであるが、例えば、本発明に係る予備電極によりワークの温度を1200℃まで高めたとすると、ワークの抵抗率は135μΩ/cmまで大きくなる。この状態で、ワークに主電極を当てるとともに所定時間保持して、ワークの主電極を当てた部分(即ち、溶接しようとする部分である。)の温度が600℃まで下がったとすると、この部分の抵抗率は77μΩ/cmとなり、予備電極によって高温となった部分に対してほぼ半分の抵抗率となる。従って、主電極に溶接電流を流せば、周囲の抵抗率の高い部分よりも抵抗率の低い主電極を当てた部分に溶接電流が集中する、即ち、電流密度が高まるから、片側スポット溶接の課題である分流が解決でき、効率よくスポット溶接することができる。
【0044】
図7(a),(b)は本発明に係る予備電極による予備通電、予備加圧の効果を示すグラフである。グラフの縦軸は溶接後のワークの引張せん断強度、横軸は主電極による溶接時の電流値を表す。また、実線及び黒丸はワーク間に隙間がないもの(以下「隙間無し」と記す。)、破線及び黒四角はワーク間に隙間があるもの(以下、「隙間有り」と記す。)である。更に、グラフ中に横に引いた直線は引張せん断強度の基準値Sを表す。
【0045】
(a)の実施例(本実施形態)は予備通電を行うとともに予備加圧を行った場合を示す。
隙間無しと隙間有りとでは、隙間有りの方が、引張せん断強度の基準値Sを上回るのに大きな溶接電流値を必要とする。
【0046】
この隙間有りの線と基準線との交点の電流値をA1とする。また、溶接電流値を次第に大きくしたときに、溶接中の溶接部から散りが発生し始める電流値をA2とすると、電流値A1と電流値A2との間の範囲がスポット溶接の適正な範囲である。
【0047】
(b)の比較例は予備通電、予備加圧共に行わない場合を示す。
隙間有りと基準線との交点の電流値をA3とすると、電流値A3>電流値A1となり、ワークの引張せん断強度の基準値Sを上回るのに、(a)の場合よりも大きな溶接電流値を必要とする。
【0048】
また、溶接電流値を次第に大きくしたときに、溶接部から散りが発生し始める電流値をA4とすると、電流値A4<A2となり、(a)の場合よりも散りの発生する電流値は低い。これは、実施例の方が、比較例よりもワーク間の接触状態が良くなり、溶接時のワーク間の接触面積が小さ過ぎることがなくて散りの発生が抑えられたと考えられる。
【0049】
以上の(a),(b)より、予備通電及び予備加圧を共に行った場合の方が、予備通電、予備加圧共に行わない場合よりも、スポット溶接の適正範囲は広くなり、溶接の電流値の選択の幅が広がって、量産を行うのに好ましい。
【0050】
図8は本発明に係るスポット溶接の要領を示すフローチャートである。図中のSTXXはステップ番号を表す。
ST01…予備電極でワークを加圧する。
ST02…予備電極に予備電流を流し、ワークを加熱する。
ST03…予備電極をワークから離す。
【0051】
ST04…主電極でワークを加圧し、所定時間保持して、ワークの溶接部の温度を下げる。
ST05…主電極に溶接電流を流す。
ST06…主電極をワークから離す。
【0052】
以上の図1で説明したように、本発明は、ワーク15の溶接部位15Wに、ワーク15の一方向からのみ電極を当てて溶接する片側スポット溶接装置10において、溶接部位15Wに当ててワーク15に溶接電流を流す主電極21と、溶接部位15W及び/または溶接部位15W近傍に当ててワーク15に予備電流を流す予備電極22,23と、主電極21をワーク15に当てるときの主加圧力、予備電極22,23をワーク15に当てるときの予備加圧力、溶接電流及び予備電流を制御する制御装置82と、を備えることを特徴とする。
【0053】
溶接部位15W及び/または溶接部位15W近傍に当ててワーク15に予備電流を流す予備電極22,23によって溶接前にワーク15を加熱するので、主電極21とワーク15との接触状態及びワーク15間の接触状態を良好にすることができ、主電極21によるワーク15の加圧力が小さくて済むため、ワーク15の変形を抑えつつ良好なスポット溶接を行うことができる。更に、予備通電によって上記の接触状態をワーク15毎に常に一定に保つことができる。
【0054】
また、予備電極22,23への通電によりワーク15を加熱した後に、主電極21によるワーク15の加圧状態を保持することで、溶接部位15W周囲に対して溶接部位15Wの温度を下げて、溶接部位15Wへの溶接電流を集中させることができ、分流を防止して溶接部位15Wを効果的に発熱させることができて、ワーク15を迅速に溶接することができる。
以上より、片側スポット溶接によるワーク15の量産性を向上させることができる。
【0055】
尚、本実施形態では、図2(a)に示したように、予備電極22,23を溶接部位の周囲に当てたが、これに限らず、溶接部位の周囲、及び溶接部位に当ててもよい。
また、図1に示したように、予備電極22,23を主電極21の両側に設けたが、これに限らず、予備電極を、主電極21を囲む環状の電極とし、予備電極と主電極21との間に予備電流を流すことで、溶接前にワークを加熱するようにしてもよい。
更に、図1に示したように、アース電極37を鋼板17に接触させたが、これに限らず、アース電極37を鋼板16に接触させてもよい。
【0056】
また更に、図1に示したように、装置本体11の溶接部26を油圧式の主シリンダ装置25で駆動するようにしたが、溶接部26を空圧又はサーボモータで駆動するようにしてもよく、また、ベース部35に対して主電極21を油圧式の副シリンダ装置36で駆動するようにしたが、主電極21を空圧又はサーボモータで駆動するようにしてもよい。
更に、図5では、溶接電流値i1,i2の関係をi2>i1としたが、場合によっては、i2=i1又はi2<i1としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の片側スポット溶接装置は、例えば、ワークとして閉断面構造の部材を溶接するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る片側スポット溶接装置の説明図である。
【図2】本発明に係る溶接装置の作用を示す作用図である。
【図3】本発明に係る予備電極の作用を示す作用図である。
【図4】本発明に係る主電極の作用を示す作用図である。
【図5】本発明に係るスポット溶接時の電流値及び加圧力を示すグラフである。
【図6】ワークの温度と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図7】本発明に係る予備電極による予備通電、予備加圧の効果を示すグラフである。
【図8】本発明に係るスポット溶接の要領を示すフローチャートである。
【図9】従来のスポット溶接装置の説明図である。
【図10】従来のスポット溶接装置による溶接要領を示す要部斜視図である。
【図11】従来の溶接装置による溶接方法を示す断面図である。
【図12】従来の片側スポット溶接の加圧力、接触面積の影響を示す断面図である。
【符号の説明】
【0059】
10…片側スポット溶接装置、15…ワーク、15W…溶接部位、21…主電極、22,23…予備電極、82…制御装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの溶接部位に、前記ワークの一方向からのみ電極を当てて溶接する片側スポット溶接装置において、
前記溶接部位に当てて前記ワークに溶接電流を流す主電極と、
前記溶接部位及び/または前記溶接部位近傍に当てて前記ワークに予備電流を流す予備電極と、
前記主電極を前記ワークに当てるときの主加圧力、前記予備電極を前記ワークに当てるときの予備加圧力、前記溶接電流及び前記予備電流を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする片側スポット溶接装置。
【請求項1】
ワークの溶接部位に、前記ワークの一方向からのみ電極を当てて溶接する片側スポット溶接装置において、
前記溶接部位に当てて前記ワークに溶接電流を流す主電極と、
前記溶接部位及び/または前記溶接部位近傍に当てて前記ワークに予備電流を流す予備電極と、
前記主電極を前記ワークに当てるときの主加圧力、前記予備電極を前記ワークに当てるときの予備加圧力、前記溶接電流及び前記予備電流を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする片側スポット溶接装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−14968(P2007−14968A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196625(P2005−196625)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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