説明

片引戸の施錠装置

【課題】 簡単な構成で引戸を室内側から施錠した状態で、緊急時には室外側から簡単に引戸を取り外すことが可能な片引戸の施錠装置とする。
【解決手段】 略方形状の引戸枠1の巾方向室内側に中間縦材6が設けられ、中間縦材6と引戸枠1の一方の縦材2a間に控え壁7が形成されると共に、中間縦材6と他方の縦材2b間が開口部8とされ、引戸枠1の巾方向室外側の縦材2a、2b間を引戸本体9が鴨居溝4に上部を遊嵌され敷居をスライドする片引戸において、中間縦材6の開口部8の縦材2bとの対向面に、引戸本体9側に向けて垂直回動する係合部材10を設ける。係合部材10の先端部付近が入り込み寄りかかる受け12を引戸本体9の室内側に設ける。係合部材10が受け12に入り込み寄りかかった状態で引戸本体9が室外側から取り外し可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片引戸の施錠装置に関し、引戸を室内側から施錠した状態で、緊急時に室外側から簡単に引戸を取り外すことを可能としたものである。
【背景技術】
【0002】
従来の引戸は一般的に室内側から施錠するもので、簡単な構成のものとしては、図9に示されるように、頭部に環部を備えた木ネジ20、21を引戸22と引戸枠23との同じ高さ位置に取り付け、一方の、例えば引戸22側の木ネジ20の環部には係合腕24の一方端に設けた環部を離脱不能に連結し、他方の引戸枠23の木ネジ21の環部は水平状態となるように配し、係合腕24の他端に形成されているフック部25を他方の引戸枠23側の木ネジ21の環部の上方から掛けて施錠するようにした鍵が使用されている。
【0003】
しかし、この形式の鍵は室内側から施錠すると、室外側から引戸を取り外そうとするとフック部25が環部に引っ掛かっているため簡単に引戸が外れないので、高齢者等が使用する部屋、浴室、トイレ等に取り付けると、高齢者等が室内で発作等を起こして倒れたような場合には室外側から救出できない問題点を有している。
【0004】
そこで、室内側、室外側の何れの側からも解施錠の操作が可能となる引戸用簡易施錠装置が特開平9ー137659の公報に提案されている。
この装置は、建具側に建具側ベース、戸枠縦框側に戸枠側ベースを設け、建具側ベースと戸枠側ベースとの間には、建具の端面に沿ってスライド移動することにより、双方のベースの連結及び離脱を行う鉤駒を設け、この鉤駒には部屋の内側と外側からスライド操作して連結操作及び離脱操作させる操作片が併設されている。
そして、この操作片は建具の厚さ方向両側に突出しているので、一目で鍵の存在が目立ち、防犯上好ましいものではないと共に、建具の端面と戸枠縦框との間に隙間が生じ、密閉度が悪く、又鍵の構成も複雑なものとなる。
【特許文献1】特開平9ー137659
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記点より、本発明は簡単な構成で引戸を室内側から施錠した状態で、緊急時には室外側から簡単に引戸を取り外すことが可能な片引戸の施錠装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明片引戸の施錠装置は、略方形状の引戸枠の巾方向室内側又は室外側に中間縦材が設けられ、この中間縦材と引戸枠の一方の縦材間に控え壁が形成されると共に、中間縦材と他方の縦材間が開口部とされた建造物の前記引戸枠の両側の縦材間を引戸本体が鴨居溝に上部を遊嵌され敷居をスライドする片引戸において、前記引戸本体側又は建造物側の何れか一方の側に、他方の側に向けて垂直方向に回動する係合部材が設けられ、この係合部材の先端部付近が入り込み寄りかかる受けが他方の側に設けられ、前記係合部材が受けに入り込み寄りかかった状態で引戸本体が室外側から取り外し可能となっていることを特徴とするものである。
【0007】
このような構成とすることにより、引戸本体をスライドさせて開口部を閉鎖し、引戸本体側又は建造物側の何れか一方の側に設けた係合部材を回動して、係合部材の先端部付近を他方の側に設けた受けに入れ寄りかければ、室外側から引戸本体を開放方向へスライドさせようとしても係合部材は引戸本体のスライド方向へは動かないので、引戸本体は係合部材が引っ掛かり、室外側から開口部の開放方向への引戸本体のスライド移動は阻止され施錠状態となる。
【0008】
そして、緊急時には室外側から鴨居溝に遊嵌されている引戸本体の上部が鴨居溝の頂部に当たるように引戸本体を持ち上げれば、係合部材は受けに入り込み寄りかかっているだけであるため、係合部材は引戸本体と一緒に回動するから、引戸本体を持ち上げて引戸本体の下部を敷居溝から外し、引戸本体を室内側又は室外側へ動かせば係合部材は受けから離脱し、引戸本体を簡単に取り外すことが可能である。
又、室外側から引戸本体と中間縦材との隙間に薄い板状体を係合部材の下方へ差し込み、板状体を勢いよく上げれば、係合部材は受けに入り込み寄りかかっているだけであるため上方回動し、係合が簡単に解除できるから引戸本体はスライド移動が可能となる。
【0009】
次に、請求項2記載の本発明片引戸の施錠装置は、請求項1記載の片引戸の施錠装置において、係合部材は基端部側が取り付け面に回動可能に軸支されたアームであり、受けは孔又は凹部に形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
このような構成とすることにより、受けが孔の場合はアームの先端部付近が孔内に入り込み、アームの先端部付近が孔の下縁部に寄りかかり係合する。又、受けが凹部の場合はアームの先端部付近が凹部に入り込み寄りかかり係合する。
【0011】
次に、請求項3記載の本発明片引戸の施錠装置は、請求項2記載の片引戸の施錠装置において、孔又は凹部に係合部材の先端部付近が入り込んだ時に、係合部材の先端部付近の下面が寄りかかり当接する当接面が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
このような構成とすることにより、係合部材の先端部付近の下面が当接面に寄りかかるので安定した係合となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、室内側で係合部材を回動して係合部材の先端部付近を受けに入れ寄りかかれば、引戸本体をスライドさせようとすると係合部材は引戸本体のスライド方向へは動かないので、引戸本体は係合部材が引っ掛かり、室外側から開口部の開放方向への引戸本体のスライド移動は阻止されると共に、緊急時には引戸本体を上方に持ち上げれば、係合部材は受けに入り込み寄りかかっているだけであるため、引戸本体と一緒に回動するから引戸本体の下部は敷居溝から外れ、引戸本体を室内側又は室外側へ動かせば係合部材は受けから離脱し、簡単に取り外すことができるので、高齢者等が室内で施錠した状態で発作等を起こして倒れたような緊急時に、室外側から即座に救出できる効果を有する。
又、室外側から引戸本体と中間縦材との隙間に薄い板状体を係合部材の下方へ差し込み、板状体を勢いよく上げれば、係合部材は受けに入り込み寄りかかっているだけであるため上方に回動し、係合が簡単に解除できるから引戸本体はスライド移動が可能となる効果を有する。
【0014】
又、引戸本体の室外側には従来の両側から解施錠できる構成の錠と異なり、鍵の操作部等が現れないと共に、鍵孔もないので錠の破壊等、解錠にこだわった侵入者にとっては全く引戸の取り外しには気付かず、防犯上有効なものとなる。
【0015】
又、係合部材はアームで、受けは引戸本体の室内側に孔又は凹部が形成されているだけであるから、構成も簡単で故障の恐れもなく経済的である。
更に、孔又は凹部に形成されている受けに係合部材の先端部が入り込んだ時に、係合部材の先端部付近の下面が寄りかかり当接する当接面が形成されているため、安定した係合となり、確実な施錠効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は本発明片引戸の施錠装置の施錠状態を示す室内側の正面図、図2は同上の縦断側面図、図3は同上の横断平面図である。
【0017】
図中1は略方形状の引戸枠であり、左右の縦材2a、2bと上下の横材3a、3bから構成され、この引戸枠1の上部横材3aの室外側Aの下面に全長に亘って鴨居溝4が形成されると共に、引戸枠1の下部横材3bの室外側Aの上面に全長に亘って敷居溝5が形成されている。
【0018】
左右の縦材2a,2bの室内側Bの略中央部に中間縦材6が設けられている。この中間縦材6と一方の縦材2a間に控え壁7が形成されている。中間縦材6と他方の縦材2b間は出入口である開口部8に形成されている。
【0019】
9は、引戸枠1、中間縦材6、控え壁7、開口部8から構成された建造物の開口部8を閉鎖する引戸本体であり、この引戸本体9は引戸枠1の室外側Aに設けた鴨居溝4に上部が遊嵌され、下部が敷居溝5に嵌合し、室外側Aを左右方向にスライドする外引き方式のものである。
【0020】
中間縦材6の開口部8の縦材2bとの対向面に係合部材10が設けられている。この係合部材10は断面が方形の棒状体に形成されたアームであり、基端部が中間縦材6に引戸本体9側に向けて垂直方向に回動可能に適宜高さ位置に軸支11されている。
係合部材10の先端部付近は引戸本体9を閉めた時に、引戸本体9の室内側Bの板面に設けた受け12に係合する。
【0021】
受け12は係合部材10が上方から引戸本体9側へ傾倒した時に、係合部材10の先端部が上方傾斜した状態で係合する位置に形成されている。
受け12は引戸本体9の構成により異なるが、形成箇所が一枚板等のように内部空間が無い場合は、図4及び図5に示すように凹部13に形成され、内部空間がある場合は図6及び図7に示すように孔14に形成される。勿論、内部空間がある場合でも凹部としてもよい。
【0022】
受け12が凹部13の場合は、係合部材10の先端部付近が図4に示されるように、凹部13内に入り込み、係合部材10の下面が凹部13の下縁又は凹部内壁に寄りかかり係合する。
又、受け12が孔14の場合は、係合部材10の先端部付近が図6に示すように、孔14内に入り込み、係合部材10の下面が孔14の下縁に寄りかかり係合する。
【0023】
又、図5に示すものは、凹部13の係合部材10の寄りかかる箇所を傾斜面に形成した当接面13aとし、安定した係合としている。
同様に図7に示すものは、孔14の係合部材10の寄りかかる箇所に傾斜片を形成した当接面14aを形成し、安定した係合としている。
【0024】
係合部材10が受け12に入り込み寄りかかることにより施錠状態となり、引戸本体9を開放方向へスライドしようとしても係合部材10は引戸本体9のスライド方向へは動かないので、引戸本体9のスライド移動が不可能となる。
【0025】
引戸本体9を取り外す場合は、室外側Aから鴨居溝4に遊嵌されている引戸本体9の上部が鴨居溝4の頂部に当たるように引戸本体9を持ち上げれば、係合部材10は引戸本体9の受け12に入り込み寄りかかっているだけであるため、引戸本体9と一緒に上方回動するから、引戸本体9を持ち上げて引戸本体9の下部を敷居溝5から外し、そのまま引戸本体9を室外側Aに引けば係合部材10は受け12から離脱し、係合が解除されるから引戸本体9を簡単に取り外すことが可能である。
又、室外側Aから引戸本体9と中間縦材6との隙間に薄い板状体を係合部材10の下方へ差し込み、板状体を勢いよく上げれば、係合部材10は受け12に入り込み寄りかかっているだけであるため上方回動し、係合が簡単に解除できるから引戸本体9をスライド移動させることが可能である。
【0026】
次に、図8に示すものは、引戸本体9が室内側Bを左右方向にスライドする内引き方式のものであり、図1乃至図3に相当する箇所にはそれと同一符号を付してある。
この場合、係合部材10は引戸本体9側に設けられている。この係合部材10は基端部が引戸本体9の後退方向側の側部に軸支11され、建造物側の控え壁7に設けた受け12に向けて垂直方向に回動可能となっている。
【0027】
そして、引戸本体9を取り外す場合は、室外側Aから引戸本体9を持ち上げて引戸本体9の下部を敷居溝5から外すことは前同様であるが、敷居溝5から外した後はそのまま引戸本体9を室内側へ押せば、係合部材10は受け12から離脱し、引戸本体9を簡単に取り外すことが可能である。
又、薄い板状体を使用して引戸本体9と中間縦材6との隙間から係合部材10の係合を外し、引戸本体9がスライド移動可能となることは前同様である。
【0028】
以上、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、例えば係合部材10は受け12に入り込み寄りかかる形状であれば丸棒状でもよく、或いは棒状体に限定されるものではない。
又、敷居溝5に代え、敷居レールを設置し、引戸本体9の下面に敷居レールに嵌合する溝を全長に亘って設けることもできる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明片引戸の施錠装置の一実施の形態を示す室内側の正面図である。
【図2】図1の縦断側面図である。
【図3】図1の横断平面図である。
【図4】本発明片引戸の施錠装置の係合部材と受けの係合状態を示す部分拡大断面図である。
【図5】本発明片引戸の施錠装置の係合部材と受けの係合状態を示す部分拡大断面図である。
【図6】本発明片引戸の施錠装置の係合部材と受けの係合状態を示す部分拡大断面図である。
【図7】本発明片引戸の施錠装置の係合部材と受けの係合状態を示す部分拡大断面図である。
【図8】本発明片引戸の施錠装置の他の実施の形態を示す横断平面図である。
【図9】従来の片引戸の施錠装置の部分斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 引戸枠
2a、2b 縦材
3a,3b 横材
4 鴨居溝
5 敷居溝
6 中間縦材
7 控え壁
8 開口部
9 引戸本体
10 係合部材
11 軸支
12 受け
13 凹部
13a 当接面
14 孔
14a 当接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略方形状の引戸枠の巾方向室内側又は室外側に中間縦材が設けられ、この中間縦材と引戸枠の一方の縦材間に控え壁が形成されると共に、中間縦材と他方の縦材間が開口部とされた建造物の前記引戸枠の両側の縦材間を引戸本体が鴨居溝に上部を遊嵌され敷居をスライドする片引戸において、前記引戸本体側又は建造物側の何れか一方の側に、他方の側に向けて垂直方向に回動する係合部材が設けられ、この係合部材の先端部付近が入り込み寄りかかる受けが他方の側に設けられ、前記係合部材が受けに入り込み寄りかかった状態で引戸本体が室外側から取り外し可能となっていることを特徴とする片引戸の施錠装置。
【請求項2】
係合部材は基端部側が回動可能に取り付け面に軸支されたアームであり、受けは孔又は凹部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の片引戸の施錠装置。
【請求項3】
孔又は凹部に係合部材の先端部付近が入り込んだ時に、係合部材の先端部付近の下面が寄りかかり当接する当接面が形成されていることを特徴とする請求項2記載の片引戸の施錠装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−144239(P2006−144239A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331758(P2004−331758)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(503248983)