説明

牧畜用飼料の生産方法及び生産装置

【課題】牛、鳥、豚、馬を含む家畜の育成時におけるビタミンA不足を解消することのできる牧畜用飼料の生産方法及び生産装置を提供する。
【解決手段】これは例えば牛の生育時に与える牧畜用飼料の生産装置1であって、牧草が有するビタミンA換算値よりも多くのビタミンA換算値を有する人参又は南瓜をカットする大量処理スライサー4と、カットした人参又は南瓜を乾燥させる温風乾燥機5と、乾燥させた人参又は南瓜を牧草に混合等して牛に与えることで、牛の育成時におけるビタミンA不足を解消することができる。その結果、成長を促進させ、肉質を改良することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牧畜用飼料の生産方法及び生産装置に関するものであって、特に牛、鳥、豚、馬を含む家畜の育成時に与える飼料の生産方法及び生産装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、牛はビタミンAを、青い牧草(ルーサンヘイ)等の飼料より摂取しているのであるが、牧草に含有されるβカロチン(牛の体内でビタミンAとして作用するものである。)は、産地により大きくばらついており、しかも、牧草を刈り倒してから、時間が経過するにつれて急激に減少していくことが知られている。このβカロチンの含有量が減少した牧草を使用した場合には、特に牛の育成時においては、ビタミンA不足となって、筋間浮腫の発生や盲目、歩行障害及び増体減少等を引き起こし、著しい経済的損失を被るおそれがあった。このために、牛の生後から12ヶ月までは飼料にビタミンAを混合して与え、13ヶ月から24ヶ月まではビタミンAを与えず、25ヶ月からは飼料用添加物(サプリメント)としてビタミンAを足していく、いわゆるビタミンA制御を採用することが多い(たとえば非特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、国内で生産される人参や南瓜の約60%は、商品として市場に出荷されているが、残りの約40%は、たとえば外観上の理由から利用されることなく、そのまま廃棄されているのが現状である。この人参や南瓜には牛の体内でビタミンAとして作用するβカロチンが多く含有されていることがわかっている(βカロチンは、牛の血中濃度で把握される)。したがって、廃棄人参等を使用すれば、ビタミンAを安価に入手できるわけであるが、廃棄人参等には水分が多く含まれており、また雑菌が混入していることが多いことから、そのままでは保存性が極めて悪く、これまで積極的に利用されていなかった。
【0004】
また、ビタミンAとして家畜の体内で作用するβカロチンは、光、熱等に対して非常に不安定で劣化しやすいため、前記育成時において牛が必要とするだけのビタミンAを含む飼料の生産方法や生産装置は確立されておらず、混合飼料や飼料用添加物として満足すべきものは開発されていない(たとえば特許文献1参照)。
【0005】
一方、βカロチンなどの劣化を少なくする方法として、特許文献2のように、略40℃以下の低温で真空乾燥や温風乾燥などを行うことも考えられるが、それらの場合には、水分を安定して一定以下にすることが困難であり、また乾燥温度が低温であるため、殺菌作用がほとんど期待できない。したがって、かかる略40℃以下の低温での真空乾燥や温風乾燥などは、製品の保存性の観点から、水分が多く含まれ、また雑菌が混入していることが多い廃棄人参等の処理には向かないものであると推察される。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、牛、鳥、豚、馬を含む家畜の育成時におけるビタミンA不足を解消することのできる牧畜用飼料の生産方法及び生産装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、牛、鳥、豚、馬を含む家畜の生育時に与える牧畜用飼料の生産方法であって、牧草が有するビタミンA換算値よりも多くのビタミンA換算値を有する人参又は南瓜を、その皮部分よりも薄くなるような厚さにカットするカット工程と、カットした人参又は南瓜を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参又は南瓜に含まれる水分をその目標値まで減少させたときにおいても、該人参又は南瓜に含まれるビタミンA換算値が前記牧草に含まれるビタミンA換算値よりも高くなっているような乾燥物となす乾燥工程とを備えたことを特徴とするものである。なお、ビタミンA換算値とは、一般には、動物性食品に含まれるビタミンAと、植物性食品から摂取されるβカロチン等が動物の体内でビタミンAとして作用する場合の換算値との合計を示すものであるが、ここでは、人参又は南瓜に含有されるβカロチンが家畜の体内でビタミンAとして作用する場合の換算値を意味するものとする。
【0008】
本発明によれば、牧草が有するビタミンA換算値よりも多くのビタミンA換算値を有する人参又は南瓜を、その皮部分よりも薄くなるような厚さにカットするカット工程と、カットした人参又は南瓜を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参又は南瓜に含まれる水分をその目標値まで減少させたときにおいても、該人参又は南瓜に含まれるビタミンA換算値が前記牧草に含まれるビタミンA換算値よりも高くなっているような乾燥物となす乾燥工程とを備えたので、例えば牛の生後から12ヶ月までは、かかる乾燥物を前記牧草に加えた混合飼料としてビタミン類を与えることで、牛の育成時におけるビタミン不足を解消することができる。その結果、成長を促進させ、肉質を改良することができる。なお、人参又は南瓜は、廃棄されるべきものを利用することで、原料コストを大幅に低減することができる。
【0009】
また、牛、鳥、豚、馬を含む家畜の成育時に与える牧畜用飼料の添加物であって、主成分が、前記乾燥物であることを特徴とするものである。
【0010】
これによれば、主成分が、前記乾燥物であるので、例えば牛の生後25ヶ月からは、かかる乾燥物を飼料用添加物(サプリメント)としてビタミン類を足していくことで、牛の育成時におけるビタミン不足を解消することができる。その結果、成長を促進させ、肉質を改良することができる。
【0011】
また、前記飼料生産方法では、牧草や人参又は南瓜が主原料となるので、水分比率が非常に高いため、乾燥工程が必須となっている。しかし、この乾燥工程で、直接火や湯に通すか、天日干しとしたのでは、発酵状態を良好に維持することができず、人参又は南瓜に含まれるβカロチン等の劣化が過大となる。そこで、前記乾燥工程では、人参又は南瓜を空気だけで乾燥させることが好ましい。
【0012】
これによれば、前記乾燥工程では、人参又は南瓜を空気だけで乾燥させたので、発酵状態を良好に維持して、人参や南瓜に含まれるβカロチン等の劣化を少なくすることができる。その結果、高ビタミンの混合飼料や飼料添加物を得ることができる。
【0013】
また、前記飼料生産方法では、牧草や人参又は南瓜が主原料となるので、水分比率が非常に高いため、乾燥工程が必須となっている。しかし、この乾燥工程で、乾燥用の空気の温度を低く設定したのでは、人参や南瓜の乾燥時間が長くなり、生産効率が低下するとともに、殺菌作用をほとんど期待できないことから、保存性が悪くなる。その一方、乾燥用の空気の温度を高く設定したのでは、人参や南瓜の焦げ付きを生じ、その歩留まりが低下する。そこで、前記乾燥工程における乾燥用の空気の温度を略200℃とすることが好ましい。
【0014】
これによれば、前記乾燥工程における乾燥用の空気の温度を略200℃としたので、人参や南瓜の乾燥時間を短縮化できるとともに、その殺菌を十分に行うことができる。また、人参や南瓜の乾燥時における焦げ付きをなくして、その歩留まりを高めることができる。その結果、飼料の生産コストを大幅に低減するとともに、その保存性をも大幅に向上させることができるようになる。
【0015】
また、前記乾燥工程では、カットした人参を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参に含まれる水分を12%まで減少させたときにおいても、該人参に含まれるビタミンA換算値が120,000IU/kgよりも高くなっているような乾燥物となすことが好ましい。これにより、牛の育成時の栄養を確保することができる。
【0016】
或いは、前記乾燥工程では、カットした人参を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参に含まれる水分を12%まで減少させたときにおいても、該人参に含まれるビタミンA換算値が120,000IU/kgよりも高くなっているとともに、該人参に含まれる粗蛋白質が16%よりも高くなっているような乾燥物となすことが好ましい。これにより、牛の育成時の栄養をさらに確保することができる。
【0017】
また、牛、鳥、豚、馬を含む家畜の生育時に与える牧畜用飼料の生産装置であって、牧草が有するビタミンA換算値よりも多くのビタミンA換算値を有する人参又は南瓜を、その皮部分よりも薄くなるような厚さにカットするカット手段と、カットした人参又は南瓜を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参又は南瓜に含まれる水分をその目標値まで減少させたときにおいても、該人参又は南瓜に含まれるビタミンA換算値が前記牧草に含まれるビタミンA換算値よりも高くなっているような乾燥物となす乾燥手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0018】
これによれば、牧草が有するビタミンA換算値よりも多くのビタミンA換算値を有する人参又は南瓜を、その皮部分よりも薄くなるような厚さにカットするカット手段と、カットした人参又は南瓜を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参又は南瓜に含まれる水分をその目標値まで減少させたときにおいても、該人参又は南瓜に含まれるビタミンA換算値が前記牧草に含まれるビタミンA換算値よりも高くなっているような乾燥物となす乾燥手段とを備えたので、例えば牛の生後から12ヶ月までは、乾燥させた人参又は南瓜と牧草との混合飼料としてビタミン類を与えるとともに、牛の生後25ヶ月からは、乾燥させた人参又は南瓜からなる飼料用添加物(サプリメント)としてビタミンAを足していくことで、牛の育成時におけるビタミンA不足を解消することができる。その結果、成長を促進させ、肉質を改良することができる。
【0019】
また、前記乾燥手段は、人参又は南瓜を空気だけで乾燥させるものであることが好ましい。
【0020】
これによれば、前記乾燥手段は、人参又は南瓜を空気だけで乾燥させるものであるので、発酵状態を良好に維持して、人参や南瓜に含まれるβカロチンの劣化を少なくして、ビタミンA換算値の減少を防止することができる。その結果、高ビタミンの混合飼料や飼料添加物を得ることができる。
【0021】
また、前記乾燥手段は、乾燥用の空気の温度を略200℃に制御可能であることが好ましい。
【0022】
これによれば、前記乾燥手段は、乾燥用の空気の温度を略200℃に制御可能であるので、人参や南瓜の乾燥時間を短縮化できるとともに、その殺菌を十分に行うことができる。また、人参や南瓜の乾燥時における焦げ付きをなくして、その歩留まりを高めることができる。その結果、飼料の生産コストを大幅に低減するとともに、その保存性をも大幅に向上させることができるようになる。
【0023】
また、前記乾燥手段は、カットした人参を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参に含まれる水分を12%まで減少させたときにおいても、該人参に含まれるビタミンA換算値が120,000IU/kgよりも高くなっているような乾燥物となすものであることが好ましい。これにより、牛の育成時の栄養を確保することができる。
【0024】
前記乾燥手段は、カットした人参を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参に含まれる水分を12%まで減少させたときにおいても、該人参に含まれるビタミンA換算値が120,000IU/kgよりも高くなっているとともに、該人参に含まれる粗蛋白質が16%よりも高くなっているような乾燥物となすものであることが好ましい。これにより、牛の育成時の栄養をさらに確保することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、牧草が有するビタミンA換算値よりも多くのビタミンA換算値を有する人参又は南瓜を、その皮部分よりも薄くなるような厚さにカットするカット工程と、カットした人参又は南瓜を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参又は南瓜に含まれる水分をその目標値まで減少させたときにおいても、該人参又は南瓜に含まれるビタミンA換算値が前記牧草に含まれるビタミンA換算値よりも高くなっているような乾燥物となす乾燥工程とを備えたので、例えば牛の生後から12ヶ月までは、かかる乾燥物を前記牧草に加えた混合飼料としてビタミン類を与えることで、牛の育成時におけるビタミン不足を解消することができる。その結果、成長を促進させ、肉質を改良することができる。なお、人参又は南瓜は、廃棄されるべきものを利用することで、原料コストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る飼料生産装置の全体構成を模式的に示す説明図である。
【図2】飼料生産装置の温風乾燥機を模式的に示す説明図である。
【図3】表1におけるテスト条件ごとの水分の比較結果を示す説明図である。
【図4】表1におけるテスト条件ごとの粗蛋白質の比較結果を示す説明図である。
【図5】表1におけるテスト条件ごとのビタミンA換算値の比較結果を示す説明図である。
【図6】ビタミンA制御の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述したように、国内で生産される人参や南瓜の60%は、商品として市場に出荷されているが、残りの40%は、たとえば外観上の理由から利用されることなく、そのまま廃棄されているのが現状である。この人参や南瓜には、牧草よりも多くのビタミンA換算値を有することがわかっている。しかしながら、ビタミンAとして家畜の体内で作用するβカロチンは光、熱等に対して非常に不安定で劣化しやすいため、これまで、育成時において家畜が必要とするだけのビタミンAを含む飼料の生産方法や生産装置は確立されておらず、混合飼料や飼料用添加物として満足すべきものは開発されていなかった。
【0028】
そうとすると、人参や南瓜が有するビタミンA換算値をできるだけ減少させない加工方法があれば、本来廃棄物となるような人参や南瓜を再利用することができる。そこで、本発明者は、飼料の原料としてかかる人参や南瓜に着目し、実際に人参や南瓜を用いて種々の加工条件下でのテストを行うといった地道な努力をこれまで続けていた。
【0029】
そして、かかる積年の努力の成果として得られた人参、南瓜などの成分分析結果を以下の表1及び図3〜図5に示すものである。ここで、表1中の1行目には、南瓜乾燥物、第1回人参皮乾燥物、第2回人参天日乾燥物、第2回人参機械乾燥物、人参粉末、牧草(ルーサンペレット)といったテスト対象物を、第2行目には、それらのテスト条件I,II,III,IV,V,IVをそれぞれ示している。また、第3行目以降には、水分、乾物、粗蛋白質、・・・、ビタミンA換算といった成分分析結果をそれぞれ示している。飼料の保存性の観点から、水分は12%以下を目標値とするのが好ましく、特に牛の育成時における栄養確保の観点から、粗蛋白質は16%以上、ビタミンA換算値は120,000IU/kg以上をそれぞれの目標値とするのが好ましい。なお、表1におけるNDFは飼料中の中性デタージェント繊維、NFCは非繊維性炭水化物、TDNは可消化養分総量である。
【0030】
【表1】

表1の第7列目(右端)では、テスト対象がルーサンペレットだけの場合を示している(テスト条件VI)。その成分分析結果は、水分が8.30%、乾物が91.70%、粗蛋白質が16.60%、粗脂肪が2.80%、粗繊維が23.60%、粗灰分が9.30%、可溶無窒素物が未分析、Caが1.59%、Pが0.21%、NDFが39.90%、NFCが23.10%、TDNが55.80%、ビタミンEが88.90mg/kg、βカロチンが52.70mg/kg、ビタミンA換算値が21,080IU/kgであった。この場合は、図3,図4に示すように、水分と粗蛋白質についてはそれぞれの目標値をクリアしているものの、図6に示すように、ビタミンA換算値は目標値に達していないことがわかる。
【0031】
表1の第3列は、テスト対象が第1回(人参皮乾燥物)であって、テスト条件が、人参の皮だけを機械乾燥させた場合である(テスト条件II)。成分分析結果は、水分が12.82%、乾物が87.18%、粗蛋白質が6.56%、粗脂肪が0.89%、粗繊維が8.53%、粗灰分が9.39%、可溶無窒素物が61.81%、Caが未分析、Pが未分析、NDFが未分析、NFCが未分析、TDNが47.34%、ビタミンEが47.0mg/kg、βカロチンが294.0mg/kg、ビタミンA換算値が117,600IU/kgであった。この場合に、図3に示すように、水分が多めになっているのは、人参の皮の収集方法によるものと考えられる(すなわち、野菜屑として収集された人参の皮は比較的厚く乾燥させにくい)。また、図4,図5に示すように、粗蛋白質は不足しているものの、ビタミンA換算値はほぼ目標値となっている。
【0032】
表1の第4列目は、テスト対象が第2回(人参天日乾燥物)であって、テスト条件が、人参を天日乾燥し、水分約45%まで乾燥させ、その後機械乾燥させた場合である(テスト条件III)。成分分析結果は、水分が16.92%、乾物が83.08%、粗蛋白質が5.85%、粗脂肪が1.25%、粗繊維が4.12%、粗灰分が6.48%、可溶無窒素物が64.26%、Caが未分析、Pが未分析、NDFが8.50%、NFCが78.99%、TDNが46.23%、ビタミンEが31.0mg/kg、βカロチンが275.0mg/kg、ビタミンA換算値が110,000IU/kgであった。この場合には、人参は長手方向で一定の間隔となるようにカットして比較的薄く乾燥させやすくなっている。にもかかわらず、図3に示すように、水分が多いのは、天日乾燥の効率の悪さによるものと考えられる。また、図4,図5に示すように、粗蛋白質、ビタミンA換算値はいずれも目標値に達していない。
【0033】
表1の第5列目は、テスト対象が第2回(人参機械乾燥物)であって、テスト条件が、上記4つめの列と同じ人参を機械のみにて乾燥させた場合である(テスト条件IV)。成分分析結果は、水分が9.07%、乾物が90.93%、粗蛋白質が18.40%、粗脂肪が5.98%、粗繊維が4.46%、粗灰分が6.86%、可溶無窒素物が58.77%、Caが未分析、Pが未分析、NDFが9.50%、NFCが76.20%、TDNが57.05%、ビタミンEが41.0mg/kg、βカロチンが405.0mg/kg、ビタミンA換算値が162,000IU/kgであった。この場合には、図3〜図5のハッチング部分で示すように、水分、粗蛋白質、ビタミンA換算値のいずれも目標値をクリアしている。
【0034】
表1の第6列目は、テスト対象が(人参粉末)であって、テスト条件が、人参を水から90℃まで温度を上げ約25分、その後機械乾燥させた場合である(テスト条件V)。成分分析結果は、水分が12.50%、乾物が87.50%、粗蛋白質が9.70%、粗脂肪が1.10%、粗繊維が7.10%、粗灰分が8.90%、可溶無窒素物が60.70%、Caが0.46%、Pが0.35%、NDFが14.20%、NFCが未分析、TDNが未分析、ビタミンEが未分析、βカロチンが245.0mg/kg、ビタミンA換算値が98,000IU/kgであった。この場合も、人参は長手方向で一定の間隔となるようにカットして比較的薄く乾燥させやすくなっている。にもかかわらず、図3に示すように、水分が多めになっているのは、湯に通したことによるものと考えられる。また、図4,図5に示すように、粗蛋白質、ビタミンA換算値はいずれも目標値に達していない。
【0035】
表1の第2列目は、テスト対象が(南瓜乾燥物)であって、テスト条件が、南瓜を天日に当てず室内で水分45%まで乾燥させ、その後機械乾燥させた場合である(テスト条件I)。成分分析結果は、水分が9.16%、乾物が90.84%、粗蛋白質が6.02%、粗脂肪が1.11%、粗繊維が5.79%、粗灰分が3.46%、可溶無窒素物が74.46%、Caが未分析、Pが未分析、NDFが未分析、NFCが未分析、TDNが53.26%、ビタミンEが129.0mg/kg、βカロチンが71.4mg/kg、ビタミンA換算値が28,560IU/kgであった。この場合は、図3に示すように、水分は目標値をクリアしているものの、図4,図5に示すように、粗蛋白質、ビタミンA換算値はいずれも目標値に達していない。
【0036】
すなわち、表1における牧草以外のすべてのテスト対象のビタミンA換算値が、ルーサンペレットのビタミンA換算値に比べて高くなっていることがわかった。その中でも、テスト対象が第2回(人参機械乾燥物)の場合には、ルーサンペレットの場合に比べて、ビタミンA換算値で略8倍もの栄養素が得られることがわかった(唯一、前記目標値をクリアしている)。これらのテスト結果を踏まえて、本発明者は、以下のような飼料生産装置1を開発した。図1は本発明の一実施形態に係る飼料生産装置1の全体構成を模式的に示す説明図、図2は温風乾燥機5の拡大図である。
【0037】
図1に示すように、この飼料生産装置1は、冷蔵保管庫2と、異物洗浄機3と、大量処理スライサー(カット手段に相当する。)4と、温風乾燥機(乾燥手段に相当する。)5と、粉砕機6と、混合機7と、金属探知機8と、計量包装機9と、製品検査部10とを備えており、各構成要素1,2,・・・間は、図示しない搬送コンベアで互いに連結されているものとする。なお、以下、複数存在する構成要素については、その代表的なものについて説明する。
【0038】
冷蔵保管庫2は、入荷した原料である人参を冷蔵保管するものである。異物洗浄機3は、冷蔵保管庫2で冷蔵保管しておいた人参を水で洗浄することで付着土等の異物を除去するものである。大量処理スライサー4は、異物洗浄機3で水洗浄した人参を、その皮部分よりも薄くなるような厚さにそろえて(長手方向で一定の間隔となるようにして)カットするものである。
【0039】
温風乾燥機5は、大量処理スライサー4でカットした人参を、温度制御された空気のみで乾燥させるものである。この温風乾燥機5は、詳しくは図2において、箱体51の右上にある入口511から左下にある出口512に向かって、メッシュ状かつ断面半円状の搬送路52がいわゆる「じぐざく」となるように配置されている、いわゆるコンベア方式を採用している。そして、前記カットされた人参が入口511から投入されると、搬送路52を通ってから、図示しないタイマーによる設定時間だけ繰り返しもとの入口511に戻り、その後に出口512から順次に出て行くようになっている。搬送路52を通る人参は、その端部の折り返し部で搬送路52外に落下することを防止するために、箱体51内の適所に邪魔板56が配置されている。
【0040】
箱体51外には、温風を発生させる加熱部53が配置されている。加熱部53は、電気ヒータ531と、ブロア532とからなっている。そして、ダクト59から吸い込んだ外気を、電気ヒータ531で加熱して温風となし、この温風を、ブロア532で圧送することにより、ダクト57を介して箱体51内に送り込むようになっている。この箱体51内に送り込まれた温風で搬送路52を通る人参を加熱し、その温風を、さらにダクト58を介して箱体51から加熱部53に戻すことにより循環させるようになっている。
【0041】
この循環中の温風を、箱体51内などの適宜箇所に配置したファン54で攪拌させるとともに、温度センサ55からの温度検出信号に基づいて、図示しないコントローラにて、加熱部53の電気ヒータ531とブロア532とともに、ファン54を温度制御することにより、箱体51内の温度を180℃〜220℃の範囲に保持可能となっている。かかる種々の工夫により、温風乾燥機5を乾燥効率に優れかつコンパクトな構成とすることができた。
【0042】
ここで、乾燥用の空気の温度を180℃以上としたのは、その温度より低くすると、人参の乾燥時間が長くなり、生産効率を低下させるとともに、さらに温度を低くすると、殺菌作用をほとんど期待できなくなり、製品の保存性が極端に悪くなるからである。また、乾燥用の空気の温度を220℃以下としたのは、その温度より高くすると、人参の乾燥時における焦げ付きが発生して、飼料の歩留まりを低下させるからである。したがって、乾燥用の空気の温度を略200℃に保持することで、人参の乾燥時間を短縮化して、生産効率を向上させることができるとともに、その殺菌を十分に行うことができる。また、人参や南瓜の乾燥時における焦げ付きをなくして、その歩留まりを高めることができる。その結果、飼料の生産コストを大幅に低減するとともに、その保存性を大幅に向上させることができた。
【0043】
粉砕機6は、温風乾燥機5で乾燥させた人参を粉砕するものである。ここでは、他の粉砕機6で、乾燥完成品である牧草を粉砕したものと配合調整するようになっている。混合機7は、人参を粉砕機6で粉砕したものと、乾燥完成品である牧草を他の粉砕機6で粉砕したものとを配合調整後に混合して、混合飼料とするものである。金属探知機8は、混合飼料中の金属を探知することにより、その混合飼料の安全性を確認するものである。計量包装機9は、金属探知機8で安全性を確認した混合飼料を計量して包装するものである。この計量包装機9で計量して包装された混合飼料は、製品検査部10で所定の製品検査がなされた上で、出荷されるようになっている。
【0044】
以下、本飼料生産装置1による動作を概略説明する。この動作を通じて本発明の飼料生産方法が具現化される。図1において、入荷原料である人参は、まず冷蔵保管庫2内で冷蔵した状態で所定期間だけ保管される。冷蔵保管庫2で冷蔵保管された人参は、異物洗浄機3で水洗浄されて異物が除去される。異物洗浄機3で異物を除去された人参は、大量処理スライサー4で厚さをそろえてカットされる(カット工程に相当する)。
【0045】
大量処理スライサー4でカットした人参は、温風乾燥機5で略200℃に温度制御された空気(温風)のみで乾燥される(乾燥工程に相当する)。温風乾燥機5で乾燥された人参が粉砕機6で粉砕され、他の粉砕機6で、乾燥完成品(牧草)を粉砕したものと配合調整される。
【0046】
この配合調整されたものが、さらに混合機7で混合されて、混合飼料とされる。そして、金属探知機8で混合飼料中の金属を探知することにより、その混合飼料の安全性が確認される。しかる後に、計量包装機9で、金属探知機8で安全性を確認した混合飼料が計量されて包装される。この計量包装機9で計量されて包装された混合飼料が、製品検査部10で所定の製品検査がなされた上で、出荷される。
【0047】
図6は、本混合飼料を用いて育成牛のビタミンA制御を行ったときの様子を示すものであり、横軸は牛の生後の月数(月齢)、縦軸はビタミンAの血中濃度(AV)を示している。本実施形態によれば、図6に示すように、育成牛の生後から12カ月までは、混合飼料を与え続けることで、血中濃度は1,000,000IU/kgとなり、その後23カ月までは混合飼料を与えないことで、血中濃度は50,000IU/kg近くまで落ちた。25カ月からは本飼料用添加物として与えることで、血中濃度は500,000IU/kg以上に回復させた。これにより、牛の育成時におけるビタミンA不足を解消することができた。その結果、成長を促進させ、肉質を改良することができた。人参は、廃棄されるべきものを利用することで、原料のコストを大幅に低減することができた。
【0048】
なお、上記実施形態では、原料として人参を使用しているが、南瓜を使用することとしてもよい。表1における(南瓜乾燥物)では、牧草(ルーサンペレット)に比べて、ビタミンA換算で若干多い栄養素が得られることがわかったからである。なお、南瓜についても、本来廃棄されるべきものを利用することで、原料コストを大幅に低減することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、最終製品は、人参を牧草に混合した混合飼料であるとしているが、人参又は南瓜の加工品を最終製品としてもよい。その場合には、最終製品をサプリメント(飼料用添加物)として牛に与えることができて便利である。
【0050】
また、上記実施形態では、温風乾燥機5は電気を用いて加熱をしているが、電気の代わりにLNGガス、プロパンガス、灯油、A重油などを用いて加熱することとしてもよい。本発明者の試算によると、LNGガスを用いて加熱することが、ハードウエアコスト、ランニングコストのいずれにおいても最も優れていることがわかった。また、温風乾燥機5はコンベア方式のものを使用しているが、ロータリキルン方式のものを使用してもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、家畜としての牛を例にとって説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、本発明は、鳥、豚、馬など、牛以外の家畜にも同様に適用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
1 飼料生産装置
2 冷凍保管庫
3 異物洗浄機
4 大量処理スライサー(カット手段に相当する。)
5 温風乾燥機(乾燥手段に相当する。)
6 粉砕機
7 混合機
8 金属探知機
9 計量包装機
10 製品検査部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【特許文献1】特開平6−197703号公報
【特許文献2】特開平2−109946号公報
【非特許文献】
【0054】
【非特許文献1】神辺ら著,「ビタミンAが黒毛和種去勢牛の肉質与える影響」栃木畜試研報第15号,1999.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛、鳥、豚、馬を含む家畜の生育時に与える牧畜用飼料の生産方法であって、
牧草が有するビタミンA換算値よりも多くのビタミンA換算値を有する人参又は南瓜を、その皮部分よりも薄くなるような厚さにカットするカット工程と、
カットした人参又は南瓜を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参又は南瓜に含まれる水分をその目標値まで減少させたときにおいても、該人参又は南瓜に含まれるビタミンA換算値が前記牧草に含まれるビタミンA換算値よりも高くなっているような乾燥物となす乾燥工程と
を備えたことを特徴とする牧畜用飼料の生産方法。
【請求項2】
前記乾燥工程では、カットした人参を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参に含まれる水分を12%まで減少させたときにおいても、該人参に含まれるビタミンA換算値が120,000IU/kgよりも高くなっているような乾燥物となすことを特徴とする請求項1記載の牧畜用飼料の生産方法。
【請求項3】
前記乾燥工程では、カットした人参を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参に含まれる水分を12%まで減少させたときにおいても、該人参に含まれるビタミンA換算値が120,000IU/kgよりも高くなっているとともに、該人参に含まれる粗蛋白質が16%よりも高くなっているような乾燥物となすことを特徴とする請求項1記載の牧畜用飼料の生産方法。
【請求項4】
牛、鳥、豚、馬を含む家畜の生育時に与える牧畜用飼料の生産装置であって、
牧草が有するビタミンA換算値よりも多くのビタミンA換算値を有する人参又は南瓜を、その皮部分よりも薄くなるような厚さにカットするカット手段と、
カットした人参又は南瓜を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参又は南瓜に含まれる水分をその目標値まで減少させたときにおいても、該人参又は南瓜に含まれるビタミンA換算値が前記牧草に含まれるビタミンA換算値よりも高くなっているような乾燥物となす乾燥手段と
を備えたことを特徴とする牧畜用飼料の生産装置。
【請求項5】
前記乾燥手段は、カットした人参を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参に含まれる水分を12%まで減少させたときにおいても、該人参に含まれるビタミンA換算値が120,000IU/kgよりも高くなっているような乾燥物となすように処理するものであることを特徴とする請求項4記載の牧畜用飼料の生産装置。
【請求項6】
前記乾燥手段は、カットした人参を、略200℃に制御された温風だけで乾燥させることにより、該人参に含まれる水分を12%まで減少させたときにおいても、該人参に含まれるビタミンA換算値が120,000IU/kgよりも高くなっているとともに、該人参に含まれる粗蛋白質が16%よりも高くなっているような乾燥物となすように処理するものであることを特徴とする請求項4記載の牧畜用飼料の生産装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−217735(P2011−217735A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57398(P2011−57398)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(510078551)
【Fターム(参考)】