説明

物品処理槽の薬液浴の液面レベル制御方法

【課題】物品処理槽、例えば鋼帯酸洗ラインの酸洗槽内の液面レベルを、ライン運転の切替え等に即応して迅速に昇降変位させる液面制御方法及を提供する。
【解決手段】物品処理槽(1)内の薬液(3)の見掛けの容積量を増加させる増容部材(40)を、槽外の昇降駆動装置(50)に連結して槽内に配置する。ライン運転の切替えに際して昇降駆動装置(50)で増容部材(40)の浸漬深さを増減調節することにより、液浴の見掛けの液量を増減変化させて液浴の液面レベルを迅速に昇降変位させる。物品処理槽(1)に薬液貯留タンク(60)を連結して連通管を形成し、薬液貯留タンク(60)内に増容部材(40)を配置して昇降駆動する構成としてもよい。必要に応じ、物品処理槽(1)とサブタンク(30)との間で、管路(31)(33)を介して薬液を排出・返戻する給排液(物品処理槽1内の薬液量の増減調節)操作を、増容部材(40)の上記昇降動制御と連係して実施する場合もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品処理槽に貯えられた薬液浴の液面を迅速に所望レベルに昇降変位させる方法に係り、例えば鋼帯酸洗処理ラインにおけるライン運転の停止・運転の再開、その他の運転状態の変更・切替え等に際して処理槽内の薬液(酸液)の液面レベルを迅速に昇降変位させることにより、ライン運転の効率化、被処理物品の品質の安定化等に資するようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板の表面スケールを除去する酸洗処理は、酸液(塩酸溶液等)を貯えた処理槽(酸洗槽)に鋼帯を連続送給することにより行われる。図7に一般的な酸洗設備を示す。酸洗槽(1)は通常カスケード堰(2)で仕切られた複数の槽からなり、図の例では2つのカスケード堰(21)(22)で仕切られた3つの酸洗槽(11)(12)(13)で構成されている。カスケード堰(21)と(22)とは若干の段差を有し、カスケード堰(21)の高さはカスケード堰(22)のそれよりやや低い。鋼帯(W)は図の左側から送り込まれ、カスケード堰(21)(22)を跨ぐカテナリーを形成して酸洗槽(11)
(12) (13)内の薬液浴(酸液)(L)中を順次通過して槽外に送出される。酸洗槽
内の酸液(3)は使用により劣化していくので、出側の酸洗槽(13)において薬液(酸液)供給配管(4)から新酸液が補給される。新酸液の補給に伴なって槽内の酸液は、酸洗槽(13)からカスケード堰(22)をオーバーフローして酸洗槽(12)へ、ついでカスケード堰(21)をオーバーフローして酸洗槽(11)へと順次流下するカスケード流を形成する。酸洗槽(11)から溢れて廃液槽(5)に流れ込む酸液(廃酸)は廃液導出管(6)を介して廃酸処理装置に送られる。
【0003】
酸洗槽(11)(12)(13)のそれぞれには、槽内の酸液を排出する必要が生じた場合にその酸液を抜き取って一時的に貯留するサブタンク(30)が設けられている。例えば、ライン運転が停止される場合、鋼帯(W)が槽内の酸液浴(3)に浸漬されたまま放置されると、過酸洗の状態となり、変色、その他の不具合をきたすことになる。このためライン運転の停止に際しては、酸洗槽(1)とサブタンク(30)とを結ぶ薬液排出管路(31)のバルブ(32)を開きサブタンク(30)へ酸液を抜き取ることにより、図8のように酸洗槽(1)内の液面(L)を下降させて鋼帯(W)との接触を回避し、またライン運転の再開に際しては、サブタンク(30)内の酸液をポンプ(34)により、薬液返送管路(33)を介して酸洗槽(1)に返戻するようにしている。
【0004】
酸洗槽(1)内の薬液(酸液)量の増減調節・液面レベルの昇降制御は、上記ライン運転の停止・再開時のほかに、鋼帯のライン内通板速度や新酸液供給量の変更等に際して適宜実施される。このようなライン運転の切替え・変更に応じて酸液の給排液操作を円滑・効率的に行なうための工夫として、酸洗槽(1)とサブタンク(30)とを結ぶ管路構成の改良等の提案がなされている(特許文献1)。
またライン運転停止時の鋼帯と酸液の接触を回避する別法として、図9に示すように、酸洗槽(1)に槽内ガイドロール(浸漬ロール)(81)及び槽外ガイドロール(82)を配設し、浸漬ロール(81)に沿って鋼帯(W)を液中に通板させ、ライン運転を停止するときは、浸漬ロール(81)を昇降駆動装置(83)で上方にシフトさせると共に、ラインの上流側と下流側のブライドルロール(84)(84)で鋼帯張力(T)を制御することにより、図中鎖線で示すように鋼帯(W)を液面の上に退避させるようにした構造も知られている(特許文献2)。
【特許文献1】実公平2-041170号公報
【特許文献2】特開平9-256174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸洗槽内の酸液量をポンプ駆動で増減調節する従来の一般的な方法では、ポンプ能力等により、液面を所望のレベルまで昇降変位させるのに時間がかかり、ライン運転条件の変動・切替えに迅速に対応することができず、ライン生産性を阻害する要因となり、また被処理物品の品質を損なう要因ともなる。酸液中にガイドロールを浸漬配置しガイドロールの昇降駆動と鋼帯の張力制御とを同期して行なう方法(図9)は装置構成が著しく複雑であり、設備及びメンテナンスに多大のコスト負担を余儀なくされる。上記問題は、酸洗ラインのみならず、例えばアルカリ溶液に鋼帯を通板させて鋼帯表面の油脂類(圧延油,防錆油等)を除去する脱脂処理ライン、金属塩類を含む電解質溶液中に鋼帯を通板させて行なう電気めっきライン等においてもライン運転の停止・再開その他の運転条件の変更・切替え等に付随して不可避的に生起する問題である。
本発明は上記に鑑み、複雑な装置構成を必要とせず簡易な制御操作で迅速に液面を昇降変位させ、ライン運転条件の変更・切替え等に即応して所望の液面レベルを短時間で形成することができる液面レベル制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液面レベル制御方法に係る第1の発明(請求項1)は、
物品処理槽(1)内の薬液浴に浸漬されて該薬液浴の見掛けの容積量を増加させる増容部材(40)を、物品処理槽(1)内に昇降可能に配置し、増容部材(40)の薬液浴への浸漬深さを増減調節することにより、物品処理槽内の薬液浴の液面レベルを制御することを特徴としている。
【0007】
本発明の第2の液面レベル制御方法(請求項2)は、
物品処理槽(1)を薬液流通路で薬液貯留タンク(60)に連結して連通管を構成し、該薬液貯留タンク(60)内の薬液浴に浸漬されて該薬液浴の見掛けの容積量を増加させる増容部材(40)を、薬液貯留タンク(60)内に昇降可能に配置し、薬液貯留タンク(60)内の薬液浴に対する増容部材(40)の浸漬深さを増減調節することにより、物品処理槽(1)内の薬液浴の液面レベルを制御することを特徴としている。
【0008】
前記物品処理槽(1)には、槽内の薬液の一部ないし全量を抜取って一時的に貯留し又は槽内に返戻するためのサブタンク(30)が、薬液排出管路(31)及び薬液返送管路(33)を介して物品処理槽(1)に連結されている。本発明の第3の液面レベル制御方法(請求項3)は、物品処理槽(1)とサブタンク(30)との間の薬液の給排送により物品処理槽(1)内の薬液量を増加又は減少させる液量増減操作を、前記増容部材(40)の昇降駆動による浸漬深さの増減調節操作に連係して行うことを特徴としている。
【0009】
本発明は、鋼帯を被処理物品とする連続処理ラインに沿って配置された1もしくは複数の槽からなる鋼帯処理槽等、各種物品処理槽における薬液浴の液面レベル制御方法として適用される(請求項4,請求項5)。
【発明の効果】
【0010】
本発明における増容部材は物品処理槽内の薬液の液面レベル制御部材として機能する。増容部材の浸漬深さを変化させると、槽内の薬液が一定の液量に保持された状態において見掛けの容量が増減変化し、その増減変化は液面の高さ位置の変化としてあらわれる。
第1の発明によれば、物品処理槽内の薬液の貯留量が一定に保持された状態のもとで、すなわちポンプ等による薬液の給排送(槽内薬液量の増減調節操作)を実施することなく、増容部材を昇降移動(浸漬深さを増減調節)するという単純な操作で、物品処理槽内の薬液浴を所望の液面レベルに制御することができる。
【0011】
物品処理槽と薬液貯留タンクとで連通管構造を形成した第2の発明によれば、物品処理槽と薬液貯留タンクの薬液浴は常に同一の液面レベルに保たれるので、薬液貯留タンク内で増容部材の浸漬深さを増減調節することにより、これと連通する物品処理槽内の薬液浴を自動的に所望の液面レベルに制御することができる。
【0012】
また、物品処理設備のレイアウト等の関係で、増容部材(40)のサイズ設計や物品処理槽(1)への配置の形態等が制約される場合、増容部材(40)の昇降動作のみでは液面レベルを意図するとおりに制御することが困難となるが、このような場合には、第3の発明により、物品処理槽(1)とサブタンク(30)との間で薬液を給排送して物品処理槽(1)内の薬液量を増加し又は減少させる液量調節操作と、前記増容部材(40)の昇降駆動(浸漬深さの増減調節)操作とが連係して行われる。その連係操作により、後述のように、上記増容部材のサイズ設計や配置の制限に伴なう液面レベル制御効果の制約を解消し、液面レベルを意図したとおり制御することが可能となる。
【0013】
本発明における増容部材(40)の昇降動作は単純な直線運動として、シリンダ等の駆動手段により容易かつ迅速に行うことができる。物品処理槽(1)内の薬液浴の液面レベルは、増容部材(40)の昇降変位に伴なう浸漬深さの変化(および必要に応じて物品処理槽1とサブタンク30との間で行われる給排液の連係操作)により高低変化するので、ポンプによる給排液操作(薬液量の増減調節)のみに依存する従来法のような時間経過を必要とせず、物品処理ライン(例えば鋼帯連続酸洗ライン等)の運転条件の変動・切替え等に対応してすばやく所望の液面レベルを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明について図面を参照して詳しく説明する。
図1は、第1の発明による液面レベルの制御を、物品処理槽、例えば鋼帯酸洗処理ライン(図7)の酸洗槽(1)(11,12,13)において実施する例を示している。40は増容部材、50は昇降駆動装置、70は液浴(3)の液面レベルを検出する液面レベル検出計である。昇降駆動装置(50)は例えば油圧シリンダであり、そのピストンロッド(51)の進退位置はピストンロッド検出計(71)で検出される。増容部材(40)はピストンロッド(51)に連結部材(52)を介して連結されて酸洗槽(1)内に配置されている。図示の例では、酸洗槽(1)の液浴中を通過する被処理物品(鋼帯)(W)と増容部材(40)とが干渉しないように、増容部材(40)を2つ(40)(40)に分割し連結棒(44)で相互に連結して酸洗槽(1)の両側隅に配置している。増容部材(40)はピストンロッド(51)の進退駆動により昇降変位し、所望の高さ位置に停止するように駆動制御される。
【0015】
増容部材(40)を降下させ液浴(3)中に浸漬すると、増容部材(40)の浸漬容積と同じ容積だけ液浴(3)の見掛けの液量が増加し液面(L)が上昇する。液面レベルは物品処理槽(1)に取付けられた液面レベル検出計(70)により検出される。増容部材(40)を所定の深さまで浸漬し、図1に示すように鋼帯(W)が液浴中に埋没した状態を形成して鋼帯(W)を通板することにより所定の酸洗処理が遂行される。
図2は、増容部材(40)を昇降駆動装置(50)で上昇させ、液浴(3)の液面を低くした状態を示している。ライン運転の停止(通板停止)に際して増容部材(40)を上昇させれば、鋼帯(W)を速やかに液浴(3)の上に露出させることができ、過処理等の不具合の発生は未然に防止される。ライン運転の再開時には、増容部材(40)を所定の深さまで浸漬して、液面レベルをライン運転に必要な高さに復帰させる。
【0016】
図3及び図4は、第2の発明による液面レベルの制御を実施する例を示している。物品処理槽(1)は、前記図1,図2のそれと同様に、例えば酸洗処理ラインの酸洗槽である。この場合の酸洗槽(1)は薬液貯留タンク(60)が付設されており、物品処理槽(酸洗槽)(1)と薬液貯留タンク(60)とは、薬液流通路(61)で結ばれて連通管を構成している。従って物品処理槽(1)の液浴(3)と薬液貯留タンク(50)の液浴(3)の液面レベルは常に同一である。増容部材(40)は昇降駆動装置(50)に連結されて、薬液貯留タンク(60)内に配置されている。なお図では液面レベル検出計(70)を物品処理槽(1)に取付けているが、薬液貯留タンク(60)に取付けてもよい。
【0017】
図3において、薬液貯留タンク(連通管タンク)(60)内の増容部材(40)を下降させ液浴(3)に浸漬すると、該タンク(60)内の液面(L)の上昇と共に、物品処理槽(1)内の薬液浴の液面(L)がそれと同じ高さだけ上昇する。液面レベルの変位量は増容部材(40)の浸漬深さ(浸漬容積)と物品処理槽(1)及び薬液貯留タンク(50)の浴面積等に依存する。例えば、物品処理槽(1)及び薬液貯留タンク(50)のそれぞれの水平面積が高さ方向に一定である場合の液面レベルの変位量(ΔH)は、V50/(S+S60)[但し、V50:増容部材の浸漬容積,
S:物品処理槽の浴面積, S60:薬液貯留タンクの浴面積]であり、増容部材(40)の浸漬容積(V50)を減ずれば、ΔHの液面低下が生じる。
【0018】
薬液貯留タンク(60)の増容部材(40)を所定の深さまで浸漬して物品処理槽(1)の被処理物(鋼帯)(W)を、図3のように液浴(3)中に埋没させ、この状態で鋼帯(W)を通板(酸洗処理)する。ライン運転の停止(通板停止)等に際して、薬液貯留タンク(60)内の増容部材(40)を上昇させれば、図4に示すように物品処理槽(1)内の液面は鋼帯(W)より低い位置まで速やかに下降し、鋼帯の過処理等の不具合を回避することができる。ライン運転の再開に際しては、増容部材(40)を下方に駆動し所定の深さまで浸漬して物品処理槽(1)内の液面レベルを所要の高さに復帰させる。
【0019】
上記酸洗槽等の物品処理槽(1)には、従来の物品処理槽(図7)と同じようにサブタンク(30)が付設されている。サブタンク(30)は、薬液排出管路(31)と薬液返送管路(32)とを介して物品処理槽(1)に連結されており、物品処理槽(1)から薬液を抜取って一時的に貯留するのに使用される。例えばライン運転の停止(ライン点検・ライニング補修等)に際して、薬液排出管路(31)のバルブ(32)を開いて物品処理槽(1)内の薬液の一部ないし全量を抜取ってサブタンク(30)内に貯留し、運転再開に際して薬液返送管路(33)を介してポンプ(34)で物品処理槽(1)内に返送する。この物品処理槽(1)とサブタンク(30)との間における薬液の排出・返送の操作は、必要に応じて、物品処理槽(1)内の液面レベルを制御する増容部材(40)の昇降駆動操作と連係させて実施される(後述)。
【0020】
本発明の液面レベルの制御は、物品処理槽(1)又は薬液貯留タンク(60)に取付けられた液面レベル検出計(70)の検出信号及びピストンロッド(51)の進退位置を検出する検出計(71)の検出信号に基づいて昇降駆動装置(50)を自動制御することにより行われる。図5にその例を示す。液面レベル検出計(70)及びピストンロッド検出計(71)の検出信号は演算器(72)に入力され、また所定の液面レベル(定常運転時の液面レベル,運転停止時の液面レベル等)や増容部材(40)の浸漬深さ(又は浸漬容積)の変化量と液面レベル変化量との関係等が、設定器(73)により演算器(72)及びオートポジションコントローラ(74)に設定される。演算器(72)は液面レベル検出計(70)及びピストンロッド検出計(71)の検出信号を処理して演算値をオートポジションコントローラ(74)に出力する。昇降駆動装置(50)のピストンロッド(51)は、オートポジションコントローラ(74)からの制御信号による制御された進退運動を行う。増容部材(40)は制御されたピストンロッドの進退運動により昇降変位し、物品処理槽(1)の液面を所定のレベルに調節する。
【0021】
ところで、ライン設備のレイアウトの制約から増容部材(40)を配設する十分なスペースを確保できず、増容部材(40)を物品処理槽(1)に常時浸漬させたままの操業が困難な場合は、増容部材(40)による液面制御機能を十分に発揮させることができない。また、増容部材(40)のサイズは、水平断面積が大きいほど、液面レベルを変化させるのに必要な昇降距離が少なくて済み、かつ増容部材(40)の長さ(上下方向寸法)を十分大きくすれば、それだけ液面レベルの高低の変位(液面の最大高さと最小高さとの較差)を大きくすることができる。しかしスペースの制約で、増容部材(40)のサイズ(水平断面積や長さ寸法)が制限され、結果として増容部材(40)の昇降駆動のみでは、液面レベルの迅速な制御を意図したとおりに達成することが困難ないし不可能な場合がある。
【0022】
このように、実機設備における増容部材(40)の配置ないしサイズ設計が制約される場合には、物品処理槽(1)に付設されたサブタンク(30)による薬液の抜取り/返送の操作(物品処理槽1内の薬液量の増減調節)を増容部材(40)の昇降駆動操作と連係させて実施するとよい。その具体例として、例えばライン運転停止の状態(物品処理槽1内の薬液3をサブタンク30に抜取って液面レベルを低下させている状態)から運転を再開する場合において、まず増容部材(40)を下降させて液面を一定高さまで上昇させる。この液面上昇は、増容部材(40)の駆動により短時間で済ませることができる。この状態で液面の高さが不足していれば、不足する高さに見合う量の薬液(3)をサブタンク(30)からポンプ(34)で物品処理槽(1)に返送(補給)してライン運転に必要な液面レベルを確保し液面レベルを一定に保つ。
【0023】
他方ライン運転を停止するに際しては、その事前の操作として、まず薬液排出管路(31)のバルブ(32)を開いて物品処理槽(1)の薬液をサブタンク(30)に排出しながら、その排出量に見合うように増容部材(40)を徐々に下降させてライン運転に必要な所定の液面レベルを保持する。そしてライン運転の停止と同時に、増容部材(40)を速やかに上昇駆動させることにより、物品処理槽(1)内の液面レベルを、一気に所要の高さ位置(被処理物に非接触の状態となる液面高さ)まで下降させる。
上記のように、物品処理槽(1)とサブタンク(30)との間の給排液操作で物品処理槽(1)内の薬液量を増加し又は減少させる液量調節操作を、増容部材(40)の昇降動作と連係して実施することにより、物品処理槽(1)における増容部材(40)の配置や容積サイズが制限されている場合でも、ポンプ駆動(液抜き/返送操作)のみに依存している従来法に比べ効率良く短時間で物品処理槽(1)内の液面レベルを所望高さに制御することができる。
【0024】
上記の説明では、ライン運転を停止・再開する場合の液面レベルの制御を例に挙げたが、これは本発明による液面制御態様の一例に過ぎない。この他に例えば、ライン速度(鋼帯Wの液中通板速度)を一時的に減速し又はその後に増速(定常運転速度へ復帰)する場合、あるいは処理槽(1)に対する酸液供給配管(4)(図7)の酸液供給量が増減変更される場合、その他の運転条件の変動・切替えに際して、液面レベルをそのまま保持し又は変更・修正することが要求される場合において、増容部材(40)の昇降駆動(必要に応じてその昇降駆動と連係して実施されるサブタンク30による液抜き/返送操作)により迅速に所望の液面レベルを確保することができる。更には、処理槽(1)内の液面レベルが急激に上昇又は低下するような異常状態が生じた場合にも、同様にして液面レベルの急激な変化を吸収緩和し、すみやかに定常状態に回復させることができる。
【0025】
なお、増容部材(40)の形成材料、形状等について説明すると、増容部材(40)は、薬液との反応や損傷を容易に生じないことが、ライン操業の円滑な遂行・製品品質の安定確保のために重要である。その材種は、薬液の種類,使用条件に応じ、化学的安定性,耐熱性等を考慮して、各種金属,プラスチック,セラミックス等から適宜選択される。
例えば鋼帯酸洗ラインのように酸液と接触する使用環境に対しては、ポリエチレン,ポリエステル,エポキシ,ポリプロピレン,シリコーン樹脂等のプラスチック、またはこれに繊維(セラミックス繊維,カーボン繊維等)を配合した繊維強化型プラスチック(FRP)、フッ素ゴム,シリコンラバー等のゴム類、SiO-AlO系等のセラミックス、鉛等の金属などが挙げられる。また鋼帯脱脂処理ラインのようにアルカリ溶液と接触する使用環境に対しては、ポリエチレン,エポキシ,ポリアミド,ポリプロピレン,シリコーン樹脂等のプラスチック、またはこれに繊維(セラミックス繊維,カーボン繊維等)を配合したFRP、フッ素ゴム,シリコンラバー等のゴム類、SiO-AlO系等のセラミックス、鉛等の金属などが挙げられる。
【0026】
増容部材(40)の形状は、例えば円柱体や直方体等、昇降駆動による液面レベルの制御操作に都合の良い適宜の形状が与えられる。
増容部材(40)の重量ないし比重等は本質的に制限されないが、昇降駆動装置(50)の負荷の軽減、昇降運動の容易・円滑性等のために、例えば図6(a)に示すように、部材本体(41)の内部に空洞(41a)を形成して全体の重量ないし見掛け比重を調節した中空体、あるいは同図(b)のように部材本体(41)の内側に異種材料のブロック(41b)を埋め込んで全体の重量ないし見掛け比重を調節したもの等が適宜使用される。
また、増容部材(40)を形成する材料は、前記のように使用環境条件に応じて選択されるが、必ずしもその材料で部材全体を形成する必要はなく、例えば図6(a)(b)において鎖線で示すように、コーティング層(42)で部材本体(41)の全表面を被覆して薬液の接触から遮断する被覆保護構造とすることができ、この場合は、部材本体(41)の材種の制限が緩和され、コスト,製作面での負担を軽減することができる。
【0027】
本発明の好ましい実施態様の例を以下に示す。
[1]薬液を貯えた物品処理槽(1)内に、増容部材(40)を昇降可能に配置し、増容部材(40)を昇降駆動して物品処理槽(1)内の液浴に対する浸漬深さを増減調節することにより、物品処理槽内の液浴の見掛け容量を増減変化させて所望の液面レベルを得る(図1,図2)。
[2]薬液を貯えた物品処理槽(1)に、薬液流通路(61)を介して薬液貯留タンク(60)を連結することにより連通管を構成すると共に、薬液貯留タンク(60)に増容部材(40)を昇降可能に配置し、薬液貯留タンク(60)内の液浴に対する増容部材(40)の浸漬深さを増減調節することにより、物品処理槽(1)内の液浴の見掛け容量を増減変化させて所望の液面レベルを得る(図3,図4)。
【0028】
[3]物品処理槽(1)に貯えられた薬液の一部ないし全量を抜取って一時的に貯留するサブタンク(30)を、薬液排出管路(31)と薬液返送管路(33)とを介して物品処理槽(1)に連結しておき、物品処理槽(1)とサブタンク(30)との間で薬液を給排送することにより物品処理槽(1)内の薬液量を増量し又は減少させる液量増減操作を、前記増容部材(40)の昇降駆動(浸漬深さの増減調節)操作と連係させて行うことにより、物品処理槽(1)内の液浴の実容量及び見掛け容量を増減変化させて所望の液面レベルを得る(図1〜図4)。
【0029】
[4]物品処理槽(1)内の液浴に浸漬される増容部材(40)が、昇降駆動装置(50)に連結されて物品処理槽(1)内に配置されていると共に、物品処理槽(1)の液浴の液面を検出する液面レベル検出計(70)及び昇降駆動装置のピストンロッドの進退位置を検出するピストンロッド検出計(71)が設けられてい、上記液面レベル検出計(70)及びピストンロッド検出計(71)の検出信号に基づいて増容部材(40)の浸漬深さを昇降駆動装置(50)で増減調節することにより物品処理槽(1)内の液浴の見掛け容量を増減変化させるように構成された、上記1項に記載の液面制御を行う液面レベル制御装置(図1,図2)。
【0030】
[5]薬液を貯えた物品処理槽(1)と、該物品処理槽(1)に薬液流通路(61)を介して連結された薬液貯留槽(60)とからなる連通管構造を有し、増容部材(40)が昇降駆動装置(50)に連結されて薬液貯留タンク(60)内に配置されていると共に、物品処理槽(1)又は薬液貯留槽(60)内の液浴の液面レベルを検出する液面レベル検出計(70)及び昇降駆動装置(50)のピストンロッド進退位置を検出するピストンロッド検出計(71)が設けられてい、上記液面レベル検出計(70)及びピストンロッド検出計(71)の検出信号に基づいて前記薬液貯留槽(60)内の増容部材(40)の浸漬深さを昇降駆動装置(50)で増減調節することにより、物品処理槽(1)内の液浴の見掛け容量を増減変化させるように構成された、上記2項に記載の液面制御を行う液面レベル制御装置(図3,図4)。
【0031】
[6]物品処理槽(1)に、槽内の薬液の一部ないし全量を抜取って一時的に貯留するサブタンク(30)が、薬液排出管路(31)及び薬液返送管路(33)を介して連結されてい、物品処理槽(1)とサブタンク(30)との間の薬液の給排送操作により物品処理槽(1)内の薬液量を増加又は減少させる槽内液量増減操作を、前記増容部材(40)の昇降駆動操作による浸漬深さの増減調節操作と連係させて行うことにより、物品処理槽(1)内の薬液の実容量及び見掛け容量を増減変化させるように構成された、上記3項に記載の液面制御を行う液面レベル制御装置(図1〜図4)。
【0032】
[7]物品処理槽(1)が、鋼帯の移送ラインに沿って設置された1もしくは複数の槽からなる鋼帯表面処理槽である上記1項〜6項のいずれかに記載の液面レベル制御方法又は液面レベル制御装置。
[8]鋼板表面処理槽が、鋼板表面の酸化スケールを除去するための酸液を貯えた酸洗槽である上記7項の液面制御方法又は制御装置。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、物品処理槽内の薬液の液面レベルを、従来のポンプ駆動による給排液操作に比し、迅速・短時間に昇降変位させることができる。従って例えば、物品処理ラインの運転の停止・再開、その他の予定された運転条件の変更・切替えに即応した適切な液面レベルの制御が可能となり、また処理槽内の液面が急激に上昇又は低下するような異常状態が生じた場合にも、液面レベルの急激な変化を吸収緩和し、すみやかに定常状態に回復させ安定したライン操業を維持することができる。
【0034】
本発明による液面制御は増容部材の昇降調節、又はその昇降調節と連係する物品処理槽の薬液量の増減操作により行われるので、複雑な装置構成や煩瑣な制御系統を必要とせず実用性に富むものであり、例えば鋼帯の連続酸洗処理ラインやアルカリ脱脂処理ライン、あるいは連続電気めっきライン、その他の連続処理ラインにも容易に適用することができ、増容部材の昇降駆動による迅速な液面制御により、従来の緩慢な液面制御操作に付随する品質上の不具合(処理効果の過不足)を解消し、処理品質を安定化することができると共に、液面レベルの制御に要する待ち時間のロスが減少し、ラインの運転効率・生産性の向上等に貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による液面レベル制御の例を模式的に示す正面説明図である。
【図2】図1の液面制御における液面レベルの変化の例を示す正面説明図である。
【図3】本発明による液面レベル制御の例を模式的に示す正面説明図である。
【図4】図3の液面制御における液面レベルの変化の例を示す正面説明図である。
【図5】増容部材の昇降駆動制御の例を示す図である。
【図6】増容部材の構成例を示す断面説明図である。
【図7】従来の鋼帯酸洗処理ラインの一般的な構成を示す正面説明図である。
【図8】図7における処理槽の液面レベルを低下させた例示す正面説明図である。
【図9】従来の鋼帯酸洗処理ラインの他の構成例を示す正面説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1(11,12,13):物品処理槽(酸洗槽)
2(21,22):カスケード堰
3:薬液
4:薬液供給管
5:廃液(廃酸)槽
6:廃液導出管
30:サブタンク
31:薬液(酸液)排出管路
32:バルブ
33:薬液(酸液)返送管路
34:ポンプ
【0037】
40(40,40):増容部材
41:本体
41a:本体内の空洞
41b:本体内の異種材ブロック
42:コーティング層
44:連結棒
50:昇降駆動装置(シリンダ)
51:シリンダのピストンロッド
52:連結部材
【0038】
60:薬液貯留タンク(連通管タンク)
61:薬液流通路
70:薬液の液面検出計
71:ピストンロッド検出計
81,82:ガイドロール
83:ロール昇降駆動装置
84:ブライドルロール
L :薬液浴の液面
W :被処理物品(鋼板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を貯えた物品処理槽内の薬液浴に浸漬されて該薬液浴の見掛けの容積量を増加させる増容部材を、物品処理槽内に昇降可能に配置し、前記増容部材の薬液浴への浸漬深さを増減調節することにより、物品処理槽内の薬液浴の液面レベルを制御することを特徴とする液面レベル制御方法。
【請求項2】
薬液を貯えた物品処理槽を薬液流通路で薬液貯留タンクに連結して連通管を構成し、薬液貯留タンク内の薬液浴に浸漬されて該薬液浴の見掛けの容積量を増加させる増容部材を、薬液貯留タンク内に昇降可能に配置し、薬液貯留タンク内の薬液浴に対する前記増容部材の浸漬深さを増減調節することにより、物品処理槽内の薬液浴の液面レベルを制御することを特徴とする液面レベル制御方法。
【請求項3】
物品処理槽内の薬液を一時的に抜取って貯留するサブタンクが、薬液排出管路及び返送管路を介して物品処理槽に連結されてい、物品処理槽とサブタンクとの間の薬液の給排送により物品処理槽内の薬液量を増加又は減少させる液量増減操作を、前記増容部材の昇降駆動による浸漬深さの増減調節操作に連係して行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液面レベル制御方法。
【請求項4】
物品処理槽が、鋼帯の移送ラインに沿って設置された1もしくは複数の槽からなる鋼帯表面処理槽である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の液面レベル制御方法。
【請求項5】
鋼板表面処理槽が、薬液として鋼板表面の酸化スケールを除去するための酸液を貯えた酸洗槽である請求項4に記載の液面レベル制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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