説明

物干し器具

【課題】非常時に、単に物干し腕木に所定以上の応力を加えるだけで物干し腕木を下方に倒伏させて物干しを行っていた空間を物が置かれていない空間とすることが可能な物干し器具を提供すること。
【解決手段】取付部材1と、物干し時には取付部材から前方に延長する基部アーム部材2と、物干し竿支持部4が形成された物干しアーム部材3と、基部アーム部材の前端部に物干しアーム部材の後端部が軸支されるクラッチ付支軸部5とを具備し、クラッチ付支軸部は、物干し時には物干し竿および干し物の載置荷重に対して物干しアーム部材が前方に延長する位置に保持される係止機能を有すると共に物干しアーム部材に対して作用する載置荷重を超える応力に対しては物干しアーム部材が安定的に下方に回動する係止解放機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物干し器具、特に集合住宅での避難に有効な物干し器具に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の壁面等に取り付けられ、物干し時には前方に物干し腕木を延ばし、物干し腕木に物干し竿をかけて物干しをする物干し器具は従来周知である。しかしながら非常時に、干し物の処理はさておき、単に物干し腕木に大きい応力を加えるだけで物干し腕木を下方に倒伏させて物干しを行っていた空間を物が置かれていない空間にする必要性が生じることがある。例えば集合住宅で、避難のためにベランダの避難ハッチから避難梯子で直下のベランダに降りようとする場合、直下のベランダ上に物干し腕木が横に突設している場合には避難の邪魔になるので、避難梯子から避難者が直接的または間接的に物干し腕木に強い力を加えることにより、物干し腕木を安定的に倒伏させて避難空間を得たいような場合である。そしてそのような場合に使用するのに適した物干し器具は未だ開発されていない。尤も壁面等に取り付けられた基部に物干し腕木を軸着した物干し器具において、物干し腕木の角度を自在に調整し、設定した所定位置で固定することができる物干し器具は知られている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。しかしながらこれら公知の物干し器具では、設定した物干し腕木を下方に倒伏させる場合には、設定位置を変更するための所定の設定位置解除操作が必須である。このような操作なしに物干し腕木に単に過大な応力を加えて無理に物干し腕木を下方に倒伏させる場合には、角度設定を行う部品や関連部分に破壊を生じてしまう。これら公知の物干し器具では、前記したような非常時に物干し腕木を単純操作で安定的に下方へ倒伏させることは予想されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3845399号公報
【特許文献2】特開2002−224496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、非常時に、単に物干し腕木に所定以上の応力を加えるだけで物干し腕木を下方に倒伏させて物干しを行っていた空間を物が置かれていない空間とすることが可能な物干し器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明にかかる物干し器具は、支持面に固着される取付部材と、少なくとも物干し時には該取付部材から前方に延長するように該取付部材にその後端部が固定される基部アーム部材と、物干し竿支持部が形成された物干しアーム部材と、該基部アーム部材の前端部に該物干しアーム部材の後端部が軸支されるクラッチ付支軸部とを具備し、該クラッチ付支軸部は、物干し時には物干し竿および干し物の予想される載置荷重に対して該物干しアーム部材が前方に延長する位置に保持される係止機能を有すると共に該物干しアーム部材に対して作用する該載置荷重を超える応力に対しては該物干しアーム部材が該基部アーム部材に対して安定的に下方に回動する係止解放機能を有することを主な特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、次のような効果を奏する。
A.非常時に、単に物干しアーム部材に大きい下方向応力を加えるだけで、物干しアーム部材を下方に倒伏させて物干しを行っていた空間を物が置かれていない空間にすることができるから、例えば集合住宅で、避難のためにベランダの避難口から避難梯子で直下のベランダに降りようとする場合、避難ハッチ直下のベランダ上に物干し竿や物干しアーム部材が横に突設している場合にも、避難途中で直接的または間接的に物干しアーム部材を下方に所定以上の応力で押圧することによって下方に回動させ、安全な避難空間を得ることができる。
B.物干しアーム部材の下方への回動は、物干し器具の破壊をともなわない安定的な動作で行われるから、通常の物干し状態に容易に戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1に係る物干し器具を示す一部分解斜視図である。
【図2】同じく物干し状態の物干し器具を示す斜視図である。
【図3】同じく物干しアーム部材が下方に回動した状態の物干し器具を示す斜視図である。
【図4】同じく物干しアーム部材の収納状態から物干し状態に至る側面図である。
【図5】同じく支軸部の横断面図である。
【図6】同じく第一クラッチ板と第二クラッチ板とを示す斜視図である。
【図7】同じく当接した第一クラッチ板と第二クラッチ板とを示す拡大側面図である。
【図8】同じく避難時に物干しアーム部材が邪魔になる状態の設置側面図である。
【図9】同じく物干しアーム部材が倒伏された状態の設置側面図である。
【図10】実施例2に係る物干し器具を示す一部分解斜視図である。
【図11】同じく物干し状態の物干器具を示す奢侈図である。
【図12】同じく物干しアーム部材が下方に回動した状態の物干し器具を示す斜視図である。
【図13】同じく物干しアーム部材の下方に回動する段階を説明する説明用縦断面図であり、(イ)は物干しアーム部材が前方に延長している状態、(ロ)は係脱軸が係脱溝から抜け出す状態、(ハ)は物干しアーム部材が下方に回動した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る物干し器具は、支持面に固着される取付部材と、少なくとも物干し時には該取付部材から前方に延長するように該取付部材にその後端部が固定される基部アーム部材と、物干し竿支持部が形成された物干しアーム部材と、該基部アーム部材の前端部に該物干しアーム部材の後端部が軸支されるクラッチ付支軸部とを具備し、該クラッチ付支軸部は、物干し時には物干し竿および干し物の予想される載置荷重に対して該物干しアーム部材が前方に延長する位置に保持される係止機能を有すると共に該物干しアーム部材に対して作用する該載置荷重を超える応力に対しては該物干しアーム部材が該基部アーム部材に対して安定的に下方に回動する係止解放機能を有することを趣旨とする様々な実施形態が想定されるが、本発明を実施するための最良の形態を、以下実施例1および実施例2によって、添付図面を参照しながら具体的に説明する。
【実施例1】
【0009】
本発明の実施例1について添付図面を参照して説明する。
図1および図4に示されるように、主要部分が金属製である物干し器具は建造物の壁、柱等の外面のような支持面Wにその取付部材1を取り付けて使用される。次に本実施例1では、基部アーム部材2および物干しアーム部材3を、図4に示されるように支持面Wに沿って縦方向に収納した状態Xから上方に引き上げ、次いで取付部材1内に嵌合されている基部アーム部材2の後端部が取付部材1内部を中心として前方に回動する状態Yを経て、基部アーム部材2および物干しアーム部材3が前方に延長して基部アーム部材2の後端部が取付部材1に固定される状態Zに至る公知の収納機構が取付部材1と基部アーム部材2との間に設置されている態様が採用されている。しかしながら本発明ではかかる収納機構を有することは必須ではなく、取付部材1から直接基部アーム部材2が固定的に前方に延長する構造を採用してもよく、少なくとも基部アーム部材2の後端部が物干し時に取付部材1から前方に延長するように該取付部材1に固定される構造を有すればよい。
【0010】
物干しアーム部材3には物干し竿支持部4として横方向の通孔が穿設けられている。物干し竿支持部4は必ずしも通孔である必要はなく、上方から円弧状に切欠いて形成される態様も採用されてよい。そして物干しアーム部材3の後端部は基部アーム部材2の前端部にクラッチ付支軸部5によって支持されている。クラッチ付支軸部5には 第一クラッチ板6、第二クラッチ板8および支軸付ばね装置13が具備されている。第一クラッチ板6は物干しアーム部材3後端部に第一クラッチ板6の外周縁に沿う環形状に突設された第一保持板部7に螺子止めされて取り付けられ、また第二クラッチ板8は基部アーム部材2前端部に第二クラッチ板8の形状に沿って突設された第二保持板部9に横方向に螺子止めされて取り付けられている。基部アーム部材2、物干しアーム部材3、第一クラッチ板6および第二クラッチ板8相互の配置構成については後述する。第一クラッチ板6および第二クラッチ板8は、図6および図7に示されるようにそれぞれ円板状をなし、それぞれの接触面には円周方向に傾斜の急な急傾斜段差面10が円周に亘りそれぞれ直角に4箇所放射状に形成されると共にそれぞれの急傾斜段差面10の頂縁からは円周方向に隣接する次の急傾斜段差面10の底縁に接続する緩傾斜面11が形成され、それぞれの接触面は衝合時に点対称状とされている。また第一クラッチ板6には後述する支軸を通過させる中央円孔12が穿設されている。なお物干しアーム部材3が物干し時の前方に延長する位置から下方に回動する方向に向けて、第一クラッチ板6の急傾斜段差面10が第二クラッチ板8の急傾斜段差面10に当接するように第一クラッチ板6および第二クラッチ板8はそれぞれ形成されている。
【0011】
次に図1および図5に示されるように、支軸付ばね装置13は、皿ばね17および皿ばね17が嵌合されると共に支軸となる中央円筒ハブ14に円形のフランジ15が接続された皿ばね受け16によって構成されている。そして中央円筒ハブ14に嵌合した皿ばね17に隣接して相対的回転を許容する第一クラッチ板6が嵌合され、第一クラッチ板6の接触面に第一クラッチ板6と第二クラッチ板8の接触面が衝合される。第一クラッチ板6と第二クラッチ板8とは同軸とされ、基部アーム部材2における第二保持板部9の中央部から第二クラッチ板8の中央部を通じて中央円筒ハブ14の端面にむけて螺子止めを行うと、皿ばね受け16のフランジ15が皿ばね17を押圧し、皿ばね17と当接する第一クラッチ板6は第二クラッチ板8に対して圧接される。このようにして物干しアーム部材3の後端部は基部アーム部材2の前端部にクラッチ付支軸部5によって連結されることになる。なお物干し時に基部アーム部材2および物干しアーム部材3が共に前方に延長している場合に、第一クラッチ板6の急傾斜段差面10が第二クラッチ板8の急傾斜段差面10に当接するようにこれら部品が設定配置されることが必要である。
【0012】
物干し時には物干しアーム部材3に物干し竿および干し物の予想される範囲内の載置荷重が作用することになるが、その場合、物干しアーム部材3に固定した第一クラッチ板6の急傾斜段差面10と対面する基部アーム部材2に固定した第二クラッチ板8の急傾斜段差面10とが当接した状態で第一クラッチ板6と第二クラッチ板8とが皿ばね17により圧接されて係止状態が維持されるので、図2に示されるように、物干しアーム部材3は前方に延長する位置に保持される。そして物干し時の前方に延長している物干しアーム部材3自体、または物干しアーム部材3に支持される物干し竿に予想される載置荷重を超える下向きの応力が作用した場合には、基部アーム部材2に固定した第二クラッチ板8に対して物干しアーム部材3に固定した第一クラッチ板6に大きいトルクが生じ、皿ばね17の圧力に抗して第一クラッチ板6の急傾斜段差面10と第二クラッチ板8の急傾斜段差面10とが相互に摺動し、やがて両者の急傾斜段差面10,10の頂縁を乗り越えることにより第一クラッチ板6と第二クラッチ板8との係止が解放されて物干しアーム部材3が基部アーム部材2に対して安定的に下方に回動し図3に示される状態となる。前記した予想される載置荷重は、実験の結果物干し器具1基あたり15Kg程度とされ、この設定した載置荷重を満足するようにクラッチ付支軸部5の各部品が設計製作される。予想される載置荷重を超える下向きの応力は、人の体重を直接的あるいは間接的に加えることで容易に発生させることができる。
【0013】
この物干し器具は避難用に使用されるほか、非常時に物干しアーム部材3を安定的に下方に回動させることが必要な各種の用途に使用することができる。なお下方に回動した物干しアーム部材3に手動により逆方向回転力を与えると、物干しアーム部材3に固定される第一クラッチ板6の緩傾斜面11が基部アーム部材2に固定される第二クラッチ板8の緩傾斜面11を摺動しながら回動し、物干しアーム部材3を前方に延長している状態に戻すことができる。緩傾斜面11,11相互の摺動は小さい応力で可能であるから、物干しアーム部材3の前方に延長している状態への復帰は容易に行うことができる。図8および図9には本発明にかかる物干し器具の設置状況が示されている。図8において、集合住宅の上階のベランダVから下階のベランダVに避難しようとする場合に、上階のベランダVの避難ハッチHを開けて収納されている避難梯子Sを伸張させようとするが、避難梯子Sが下階における物干し器具Dの物干しアーム部材3または物干し竿Pに引っかかり避難路が邪魔される事態を生じることがある。このような場合にも、避難梯子Sの上部に体重を掛けることによって、図9に示されるように物干し器具Dの物干しアーム部材3または物干し竿Pに下方の大きい応力が加わって物干し器具Dの物干しアーム部材3は下方に回動し、下階のベランダVへの避難路を確保することができる。
【実施例2】
【0014】
次に本発明の実施例2について添付図面を参照して説明する。実施例2は図10乃至図13に示される。実施例2においても、物干し器具の主要部分は金属製であること、取付部材1によって建造物等に取り付けられること、基部アーム部材2および物干しアーム部材3を実施例1に関する図4に示されるように、縦方向に収納した状態Xから上方に引き上げ、次いで取付部材1内に嵌合されている基部アーム部材2の後端部が取付部材1内部を中心として前方に回動する状態Yを経て、基部アーム部材2および物干しアーム部材3が前方に延長して基部アーム部材2の後端部が取付部材1に固定される状態Zに至る公知の収納機構が取付部材1と基部アーム部材2との間に設置されている態様が採用されていることでは実施例1と同様である。また物干しアーム部材3には物干し竿支持部4として横方向の通孔が穿設されており、必要に応じて上方から円弧状に切欠いて形成される態様も採用されてよい点も実施例1と同様である。さらに実施例2においても物干しアーム部材3の後端部は基部アーム部材2の前端部にクラッチ付支軸部5によって支持されている点では、実施例1と同様であるが、実施例2ではクラッチ付支軸部5の一部に物干しアーム部材3の後端部や基部アーム部材2の前端部が含まれている。
【0015】
即ち図10乃至図12に示されるように、実施例2におけるクラッチ付支軸部5には、基部アーム部材2が前方に延長している状態において基部アーム部材2における前方上側に上下方向に延びる切欠部18と切欠部18から前方に向け外側に解放される開放口19とが連続して穿設された係脱溝20並びに係脱溝20の直下において上下方向に延びる溝孔21が穿孔された基部アーム部材2における前端部が含まれる。また物干しアーム部材3の後方において基部アーム部材2の前端部が遊挿される間隔を置いて対向延長する一対の後板部22,22を備えた物干しアーム部材3の後端部も含まれる。さらにクラッチ付支軸部5を構成する要素として、基部アーム部材2の前端部が一対の後板部22,22の間に遊挿された状態で基部アーム部材2の係脱溝20に係合すると共に物干しアーム部材3の一対の後板部22,22上部に止着した係脱軸ベアリング23aを含む係脱軸23と、基部アーム部材2の前端部が一対の後板部22,22の間に遊挿された状態で基部アーム部材2の溝孔21を貫通すると共に物干しアーム部材3の一対の後板部22,22において係脱軸23を中心として物干しアーム部材3の長さ方向に直交する係脱軸23の直下に止着した支軸ベアリング24aを含む支軸24と、基部アーム部材2の下部に配設した横向きの保持軸26に軸支され且つばね端の一方が基部アーム部材2の下端に当接すると共にばね端の他方が物干しアーム部材3の後板部22の下縁27に当接し物干しアーム部材3の後端部を上方に付勢するばね部材28とが含まれる。
【0016】
ばね部材28について詳細に説明すると、ばねの構造はダブルトーション形ねじりコイルばねであり、基部アーム部材2の下部に固着された倒コ字状の軸取付金具25における両側板部に止着した横向きの保持軸26に軸支され且つばね端の一方に相当する両端が基部アーム部材2の下部に相当する軸取付金具25の底板部に当接すると共にばね端の他方に相当する中央端は物干しアーム部材3の一対の後板部22,22の各下縁27に当接して物干しアーム部材3の後端部を上方に付勢している。また一対の後板部22,22の各下縁27からは物干しアーム部材3の前方に向けて数個の突起29を有する突円弧状縁30が連続形成されており、物干しアーム部材3が回動する場合にねじりコイルばね28の中央端が一対の後板部22,22の各下縁27を経て突円弧状縁30に当接しながら回動が進行するようにされている。
【0017】
図13には、実施例2において物干しアーム部材3の下方に回動する段階が示されている。物干し時には物干しアーム部材3に物干し竿および干し物の予想される範囲内の載置荷重が作用することになるが、その場合、図13(イ)に示されるように、ねじりコイルばね28が物干しアーム部材3の後端部を上方に付勢することにより物干しアーム部材3は下降せず、物干しアーム部材3における支軸24の支軸ベアリング24aは基部アーム部材2の溝孔21上方で係合状態が保持されると共に、物干しアーム部材3における係脱軸23の係脱軸ベアリング23aも基部アーム部材2の係脱溝20における切欠部18上方での係合状態が保持されることから、図11にも示されるように、物干しアーム部材3は前方に延長する位置に保持される。そして物干し時の前方に延長している物干しアーム部材3自体、または物干しアーム部材3に支持される物干し竿に予想される載置荷重を超える下向きの応力が作用した場合には、ねじりコイルばね28の付勢に抗して物干しアーム部材3は下降するので、図13(ロ)に示されるように、物干しアーム部材3における支軸24の支軸ベアリング24aは基部アーム部材2の溝孔21での係合状態を保持するが、物干しアーム部材3の係脱軸23の係脱軸ベアリング23aは基部アーム部材2の係脱溝20における切欠部18を経て回転力により開放口19から脱出し、支軸24を中心にして物干しアーム部材3は基部アーム部材2に対して安定的に回動し、図13(ハ)または図12に示されるように、物干しアーム部材3は基部アーム部材2に対して垂直に下がった状態となる。
【0018】
前記したように物干しアーム部材3が回動する場合に、ねじりコイルばね28の中央端が一対の後板部22,22の各下縁27を経て数個の突起29を有する突円弧状縁30に当接しながら回動するので、回動は緩やかに進行する。また前記した予想される載置荷重は、実験の結果物干し器具1基あたり15Kg程度とされ、この設定した載置荷重を満足するようにクラッチ付支軸部5の各部品が設計製作される。予想される載置荷重を超える下向きの応力は、人の体重を直接的あるいは間接的に加えることで容易に発生させることができる。実施例2では実施例1と比較して、予想される載置荷重について物干しアーム部材3の先端部に加えられる載置荷重と物干しアーム部材3の付け根部に加えられる載置荷重とが等しくなる特性を有する。なお予想される載置荷重を超える下向きの応力を除去した後に、下方に回動した物干しアーム部材3に手動により逆方向回転力を与えると、物干しアーム部材3は支軸24を中心に回転し、やがて係脱軸23の係脱軸ベアリング23aが基部アーム部材2の前縁に達する。基部アーム部材2の前縁には係脱溝20における開放口19に向けて下向きの傾斜縁31が設けられているので、逆方向回転を続けると係脱軸23の係脱軸ベアリング23aは傾斜縁31に誘導されて係脱溝20における切欠部18下方に達し、さらにねじりコイルばね28の付勢によって係脱溝20における切欠部18上方に戻ることにより物干しアーム部材3が前方に延長している状態への復帰させることができる。この物干し器具は実施例1と同様に避難用に使用されるほか、非常時に物干しアーム部材3を安定的に下方に回動させることが必要な各種の用途に使用することができる。集合住宅の上階のベランダから下階のベランダに避難しようとする場合の避難路の確保は、実施例1について図8及び図9を参照して説明した前記の記載と同様である。
【符号の説明】
【0019】
1 取付部材
2 基部アーム部材
3 物干しアーム部材
4 物干し竿支持部
5 クラッチ付支軸部
6 第一クラッチ板
7 第一保持板部
8 第二クラッチ板
9 第二保持板部
10 急傾斜段差面
11 緩傾斜面
12 中央円孔
13 支軸付ばね装置
14 中央円筒ハブ
15 フランジ
16 皿ばね受け
17 皿ばね
18 切欠部
19 開放口
20 係脱溝
21 溝孔
22 後板部
23 係脱軸
24 支軸
25 軸取付金具
26 保持軸
27 下縁
28 ばね部材
29 突起
30 突円弧状縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持面に固着される取付部材と、少なくとも物干し時には該取付部材から前方に延長するように該取付部材にその後端部が固定される基部アーム部材と、物干し竿支持部が形成された物干しアーム部材と、該基部アーム部材の前端部に該物干しアーム部材の後端部が軸支されるクラッチ付支軸部とを具備し、該クラッチ付支軸部は、物干し時には物干し竿および干し物の予想される載置荷重に対して該物干しアーム部材が前方に延長する位置に保持される係止機能を有すると共に該物干しアーム部材に対して作用する該載置荷重を超える応力に対しては該物干しアーム部材が該基部アーム部材に対して安定的に下方に回動する係止解放機能を有することを特徴とする物干し器具。
【請求項2】
該物干し竿支持部は、該物干しアーム部材に形成された横方向の通孔であることを特徴とする請求項1記載の物干し器具。
【請求項3】
該クラッチ付支軸部は、該物干しアーム部材後端部に固定される第一クラッチ板と、該第一クラッチ板と点対称状に対面し該基部アーム部材前端部に固定される第二クラッチ板と、該基部アーム部材に固定され且つ該第一クラッチ板の中央円孔を嵌合通過して該第一クラッチ板の相対的回転を許容する支軸が形成されると共に該第一クラッチ板を第二クラッチ板に対して背面から押圧するばねを備えた支軸付ばね装置とを具備し、該第一クラッチ板および該第二クラッチ板のそれぞれの接触面には円周方向に傾斜の急な急傾斜段差面が円周に亘りそれぞれ直角に4箇所放射状に形成されると共にそれぞれの該急傾斜段差面の頂縁からは円周方向に隣接する次の該急傾斜段差面の底縁に接続する緩傾斜面が形成され、物干し時に載置される物干し竿および干し物の予想される載置荷重が該物干しアーム部材に作用した場合には、該第一クラッチ板の該急傾斜段差面と対面する該第二クラッチ板の該急傾斜段差面とが当接した状態で該第一クラッチ板と該第二クラッチ板とが該ばね装置により圧接されて係止状態を維持することにより、該物干しアーム部材が前方に延長する位置に保持され、該物干しアーム部材に該載置荷重を超える応力が作用した場合には、該ばね装置の圧力に抗して該第一クラッチ板の急傾斜段差面と該第二クラッチ板の急傾斜段差面とが相互に摺動しやがて両者の頂縁を乗り越えることにより該第一クラッチ板と該第二クラッチ板との係止が解放されて該物干しアーム部材が該基部アーム部材に対して安定的に下方に回動することを特徴とする請求項1または請求項2記載の物干し器具。
【請求項4】
該第一クラッチ板は該物干しアーム部材後端部に該第一クラッチ板の外周縁に沿う環形状に突設された第一保持板部に螺子止めされ、該第二クラッチ板は該基部アーム部材前端部に該第二クラッチ板の形状に沿って突設された第二保持板部に横方向に螺子止めされていることを特徴とする請求項3記載の物干し器具。
【請求項5】
該支軸付ばね装置は、該支軸となる中央円筒ハブと円形のフランジが接続された皿ばね受けと該中央円筒ハブに嵌合された皿ばねとを具備し、該皿ばね受けは、該皿ばねを嵌合した該中央円筒ハブを該第一クラッチ板の該中央円孔を挿通させて該基部アーム部材にねじ止めすることにより固定され、該皿ばね受けの該フランジが該皿ばねの一側を押圧し、該皿ばねの他側と当接する該第一クラッチ板が該第二クラッチ板に対して圧接されることを特徴とする請求項3または請求項4記載の物干し器具。
【請求項6】
該クラッチ付き支軸部は、該基部アーム部材が前方に延長している状態において該基部アーム部材における前方上側に上下方向に延びる切欠部と該切欠部下端から前方に向け外側に解放される開放口とが連続して穿設された係脱溝並びに該係脱溝の直下において上下方向に延びる溝孔が穿孔された該基部アーム部材における該前端部と、該物干しアーム部材の後方において該基部アーム部材の該前端部が遊挿される間隔を置いて対向延長する一対の後部板を備えた該物干しアーム部材の後端部と、該基部アーム部材の該前端部が一対の該後板部に遊挿された状態で該基部アーム部材の該係脱溝に係合すると共に該物干しアーム部材の一対の該後板部上部に止着した係脱軸と、該基部アーム部材の該前端部が一対の該後板部の間に遊挿された状態で該基部アーム部材の該溝孔を貫通するとともに該物干しアーム部材の一対の該後板部において該係脱軸を中心として該物干しアーム部材の長さ方向に直交する該係脱軸の直下に止着した支軸と、該基部アーム部材の下部に保持されると共に該基部アーム部材の下部および該物干しアーム部材における該後部板下縁の間に介在され該物干しアーム部材の該後端部を上方に付勢するばね部材とよりなり、物干し時に載置される物干し竿および干し物の予想される載置荷重が該物干しアーム部材に作用した場合には、該ばね部材が該物干しアーム部材の後端部を上方に付勢することにより該物干しアーム部材は下降せず、該物干しアーム部材の該支軸は該基部アーム部材の該溝孔上方での係合状態が保持されると共に該物干しアーム部材の該係脱軸も該基部アーム部材の該係脱溝における該切欠部上方での係合状態が保持されることから、該物干しアーム部材が前方に延長する位置に維持され、該物干しアーム部材に該載置荷重を超える応力が作用した場合には、該ばね部材の付勢に抗して該物干しアーム部材は下降するので、該物干しアーム部材の該支軸は該基部アーム部材の該溝孔での係合状態を保持されるが、該物干しアーム部材の該係脱軸は該基部アーム部材の該係脱口における該切欠部下方を経て該開放口から脱出し、該支軸を中心にして該物干しアーム部材が該基部アーム部材に対して安定的に下方に回動することを特徴とする請求項1または請求項2記載の物干し器具。
【請求項7】
該ばね部材は、該基部アーム部材の下部に固着された倒コ字状の軸取付金具における両側板部に止着した該保持軸に軸支されるダブルトーション形のねじりコイルばねであり、ばね端の一方に相当する両端は該基部アーム部材の下端に相当する軸取付金具の底板部に当接すると共にばね端の他方に相当する中央端は該物干しアーム部材の一対の該後部板下縁に当接することを特徴とする請求項6記載の物干し器具。
【請求項8】
一対の該後板部の下縁から該物干しアーム部材の前方に向けて数個の突起を有する突円弧状縁が連続形成されており、該物干しアーム部材が回動する場合に該ねじりコイルばねの該中央端が該後板部の下縁を経て該突円弧状縁に当接しながら回動が進行することを特徴とする請求項7記載の物干し器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−167239(P2010−167239A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46028(P2009−46028)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000110479)ナカ工業株式会社 (125)
【出願人】(509003346)