説明

物性に優れ、透過度及び表面エネルギーの高いポリエチレン微多孔膜

【課題】高容量、高寿命のリチウム二次電池に好適な二次電池分離膜に関する。
【解決手段】表面エネルギーが50dynes/cm以上、気透過度が2.0×10−5Darcy以上、穿孔強度が0.17N/m以上、気透過度と穿孔強度を乗じた値が0.34×10−5Darcy・N/m以上、加重平均気孔大きさが30nm以上、横方向/縦方向の収縮率が、105℃、10分間でそれぞれ5%以下、120℃、60分間でそれぞれ15%以下である。ポリエチレン微多孔膜は、原料を、押出機を利用して液−液相分離温度以上で熱力学的単一相を構成するように混合した後、押出機内部に相分離ゾーンを形成し、液−液相分離温度以下に調節して、相分離を十分誘導した後、ダイより成形し、表面エネルギーを高めるために、プラズマ処理が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン微多孔膜及びその製造方法に関する。より具体的には、高い機械的強度と多孔性、気孔大きさを有して、特に、表面エネルギーを向上し、電解液含浸性を高めることにより、高容量、高寿命のリチウム二次電池用セパレータに好適なポリエチレン微多孔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン微多孔膜(microporous film)は、その化学的安定性と優れた物性により、各種電池用隔離膜(battery separator)、分離用フィルタ及び微細濾過用分離膜(membrane)などに広く利用されている。
【0003】
ポリエチレンから微多孔膜を製造する方法は、三つの方法に大別される。第一は、ポリエチレンを薄い繊維(thin fiber)にして、不織布(non woven fabric)形態に微多孔膜を製造する方法であり、第二は、厚いポリエチレンフィルムを製造した後、低温で延伸し、ポリエチレンの結晶部分であるラメラ(lamella)の間に微細クラック(micro crack)を誘発させ、微細孔隙を形成させる乾式法であり、第三は、ポリエチレンを高温で希釈剤(diluent)と混練し単一相を形成して、冷却過程でポリエチレンと希釈剤を相分離させた後、希釈剤部分を抽出し、ポリエチレンに孔隙を形成する湿式法である。これらのうち、湿式法は、他の二つの方法に比べ、フィルム厚が薄くて均一であり、薄膜のフィルムを製造することができ、物性にも優れているため、リチウムイオン電池など、2次電池の隔離膜用に広く使用されている。
【0004】
湿式法による多孔性フィルムの製造方法は、フィルムを構成する高分子(樹脂)と混合された希釈剤がどのような過程を経て相分離され気孔を作るのかによって、固−液相分離法と液−液相分離法とに分類される。二つの方法共に、高分子と希釈剤を高温で混合し、単一相を作る段階までは同一であるが、固−液相分離の場合、冷却を経つつ高分子が結晶化され固となるまで、いかなる相分離も起こらない。即ち、高分子鎖が結晶化されつつ希釈剤を結晶の外に押し出すことにより相分離が生じるため、この時発生される分離相の大きさは、高分子結晶の大きさに比べ非常に小さい大きさとなり、分離された相の形、大きさなどの構造を多様に調節できないという短所がある。この場合、最近2次電池の製造会社で開発中の高容量2次電池において求められる高透過性を有する2次電池隔離膜への適用に限界が生じるようになる。また、機械的強度を高めるにも、高コストで、混合が難しく且つ加工負荷を大いに上昇させる超高分子量ポリエチレンを混合する方法など、根本的に高分子樹脂の分子量を高めるしか、他に方法はないと知られている。固−液相分離の代表的な組成としては、ポリオレフィン樹脂にパラフィンオイル(Paraffin oil)あるいは鉱油(Mineral oil)を混合することが広く知られており、米国特許第4,539,256号、米国特許第4,726,989号、米国特許第5,051,183号、米国特許第5,830,554号、米国特許第6,245,272号、米国特許第6,566,012号などに紹介されている。
【0005】
液−液相分離の場合、高分子が結晶化されて固に固まる前に、高分子が結晶化する温度以上で、液状態の高分子物質と液状態の希釈剤とがまず熱力学的な不安定性により相分離が発生するもので、相分離条件による相の形態変化、相分離の確認などに対しては学界でもよく定立されている。液−液相分離による微多孔膜の場合、固−液相分離による微多孔膜に比べ、基本的に気孔の大きさが2倍以上、1000倍程度まで大きくなり、高分子の種類と希釈剤の組み合せにより、液−液相分離の温度及び相の大きさを調節することができるだけではなく、熱力学的液−液相分離温度と実際相分離を進行させる温度との差、各段階における滞留時間によって、相の大きさを多様に調節できるという長所がある。
【0006】
米国特許第4,247,498号には、液−液相分離が可能な、多様な高分子と希釈剤の組み合せを紹介しており、このような液−液相分離された組成物から希釈剤を抽出させて、広範囲な厚さの製品を製造することができることを述べている。米国特許第4,867,887号には、液−液相分離されて製造された組成物を延伸、抽出、乾燥、熱固定して、配向された微多孔膜を製造する方法が開示されている。前記特許では、混合及び押出時まで液−液相分離以上の温度を維持し、熱力学的単一相形態として樹脂混合物を押出し、この樹脂溶融物が大気中に押出された後、キャスティングロールなどにより冷却される数秒間の比較的短い過程で液−液相分離を発生させるため、相分離に必要な時間を十分提供することができず、これにより相分離の効果が低下し、押出及び冷却過程で気孔の調節が難しいという短所があって、2次電池隔離膜としての必須物性である優れた機械的強度と透過度とを同時に得るには限界を持つようになる。特に、米国特許第4,867,887号では、請求項で、延伸温度について特に言及してはいないが、高密度ポリエチレンを使用した実施例の場合、延伸温度が高密度ポリエチレンの溶融温度より少なくとも20℃以下、最大60℃以下で低温延伸するとされているが、このような場合、強制的な低温延伸により高分子の破れる現象が発生し、結果的に透過性をよくすることができる。実施例で、延伸比を増加させたことにより、急激に透過性が増加されたことが、このような現象をよく裏付けるといえる。しかしながら、このような低温延伸は、押出及び冷却過程で気孔の構造が十分得られない方法と判断されて、低温延伸時、電池隔離膜用製品不良の最も主要な原因であるピンホール、あるいは非正常的に大きい孔が発生する確率が高くなるだけではなく、シート破断の危険性も高くなるという短所がある。
【0007】
上記の技術は、湿式法により製造されるポリオレフィン微多孔膜において、電池用セパレータに適用された時、優れた物性を具現すると同時に、イオンの透過度を高めるために、相分離メカニズムを調節して気孔率と気孔大きさを高められるように、物理的/形状学的に改善する方法である。しかしながら、通常的に使用されるセパレータは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの疎水性材質からなるため、一般に電池内におけるイオン移動の媒介である電解質とは相互間親和性がよくなく、電解液の注入時、電解液を過量に使用しなければならないという短所と、充/放電が繰り返されるため、電解質の漏液が発生し、電池の寿命が減少するという根本的な問題があると知られている。このような限界を克服するためには、ポリオレフィン微多孔膜の物理的/形状学的な改善の他に、セパレータの化学的改質を通じての電解液との親和性向上が並行されるべきである。
【0008】
米国特許第5578400号では、ポリオレフィン微多孔膜の表面に電子ビームなどを照射してラジカルを生成した後、これを極性のモノマー溶液に含浸させて、親水性成分のグラフティングされたセパレータとして提供し、リチウム二次電池における電解液に対する含浸性が改善されたことを提示した。これと同様に、大韓民国特許第2004−75199号では、ポリオレフィン微多孔膜の表面に電子ビームγ−線、プラズマなどを使用してラジカルを生成した後、これを極性のモノマー溶液に含浸させて、親水性成分をグラフティングしたリチウム二次電池用セパレータを提示し、表面エネルギーが上昇して、これを電池に適用した時、リチウム二次電池の容量と寿命が改善されることを提示している。そして、コジャンミョンら(Electrochimica Acta 50, 2004, 367〜370)は、ポリエチレンで製造されたセパレータにグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)をグラフト重合して表面改質することにより、電解液に対する含浸性が改善されることを確認し、このように製造されたセパレータを適用した時、リチウム二次電池の寿命特性が改善されることを報告した。しかしながら、前記の技術を通じて製造されるセパレータは、ラジカル生成時、セパレータの強度が大いに減少する短所と、長いグラフティング工程時間、グラフティング化の不均一による物性偏差などの短所を有している。
【0009】
米国特許第6322923号では、リチウムポリマー電池に対して、ゲル電解質に対するセパレータの界面接着性を向上させるために、ポリビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンの共重合溶液をポリオレフィン系セパレータの表面にコーティングして、再びこの上に可塑剤成分のゲル形成層をコーティングした。しかしながら、このようなセパレータは、多層の構造により気孔率が減って、迷路度(tortuosity)が増加し、セパレータのイオン透過度を低下させるという短所がある。
【0010】
日本特許第1995−245122号は、25dynes/cm程度の表面エネルギーを有する既存のポリオレフィンセパレータに、真空上でプラズマ処理をすることにより、表面エネルギーが35dynes/cm以上に上昇したポリオレフィン系セパレータを適用して、イオン伝導度が向上し、電池の充/放電特性及び寿命特性の改善されたリチウムポリマー電池を提供した。米国特許第6287730号では、既存のポリオレフィン系セパレータに界面活性剤をコーティングした後、エチレンビニルアルコール共重合(EVOH copolymer)をコーティングし、表面エネルギーが48dynes/cmまで上昇したセパレータを提示した。
【0011】
しかしながら、前記技術は、プラズマ処理やグラフティング反応などの化学的改質により、セパレータの追加的な性能向上を試みたが、付加的にイオン透過度の減少や機械的強度の低下などの短所を伴うようになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、上述のような従来の技術の問題点を解決するために鋭意研究した結果、ポリエチレンと希釈剤とを単一相として混合した後、押出機内で液−液相分離を十分行い、相分離状態における温度と滞留時間を幅広く調節することにより、所望の相分離程度と気孔の大きさを得て、高い透過性を有する微多孔膜を得ることができることを見出し、これにプラズマ処理を通じて表面エネルギーを高めると、電解液に対する含浸性がより向上し、電池性能と寿命向上により効果的なセパレータを提供することができることを見出した。また、前記液−液相分離において、同時に相分離が十分進行された場合、相分離されたポリエチレン相内に残存する希釈剤の含量がさらに減るため、後続工程における延伸時、ポリエチレンの溶融温度に近い高温で延伸が可能であって、延伸作業にさらに安定性を与え、高い含量で相分離されたポリエチレンに対する配向効果が増大し、同じ分子量でもさらに高い機械的強度を示すようになる。
【0013】
したがって、本発明の目的は、高容量2次電池用セパレータとして使用できる、機械的強度に優れて、高透過性と高い電解液含浸性を同時に有するポリエチレン微多孔膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するための本発明によるポリエチレン微多孔膜は、
(a)ポリエチレン(成分I)20〜55重量%と、前記成分Iと160〜280℃で液−液相分離される特性を有する希釈剤(成分II)80〜45重量%とを含有する混合物を、液−液相分離温度以上で溶融/混練/押出して、押出機内で熱力学的単一相にする段階と、
(b)前記単一相の溶融物を、液−液相分離温度範囲に調節されたゾーンに通過させて、液−液相分離を進行し、ダイより押出する段階と、
(c) 液−液相分離が進行されて押出された溶融物をシート状に成形する段階と、
(d)前記シートを、ロール方式またはテンター(Tenter)方式を含む逐次あるいは同時延伸方法により、横方向、縦方向にそれぞれ4倍以上、総延伸比が25〜50倍になるように延伸する段階と、
(e)延伸されたフィルムから成分IIを抽出して乾燥する段階と、
(f)乾燥されたフィルムの残留応力を除去し、フィルムの横方向/縦方向の収縮率が105℃、10分間でそれぞれ5%以下、120℃、60分間でそれぞれ15%以下となるように熱固定する段階と、
(g)熱固定されたフィルムを、大気圧下で、両面に対して同時にあるいは順次的に少なくとも1回以上のプラズマ放電を施して表面エネルギーを高める段階と、
から製造されることを特徴とするポリエチレン微多孔膜である。
【0015】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。
【0016】
上述のように、本発明によると、押出機内で相分離を十分にさせて、気孔の大きさを調節し、相分離されたポリエチレン相内部の希釈剤の含量を減少させて延伸加工性を高めると共に、延伸時、配向効果を極大化して高透過度を有しながらも、分子量増加による加工上の問題がなく、機械的強度に優れており、プラズマ処理により表面エネルギーが高まって、電解液に対する含浸性が向上されたリチウム二次電池用セパレータとして使用できるポリエチレン微多孔膜を提供する。
【0017】
このように製造されたポリエチレン微多孔膜は、表面エネルギーが50dynes/cm以上、気透過度(Darcy’s permeability constant)が2.0×10−5以上、穿孔強度(Puncture strength)が0.17N/m以上であり、前記気透過度と穿孔強度を乗じた値が0.34×10−5Darcy・N/m以上で、加重平均気孔大きさの値が30nm以上、フィルムの横方向/縦方向の収縮率が、105℃、10分間でそれぞれ5%以下、120℃、60分間でそれぞれ15%以下であることを特徴とする。
【0018】
さらに具体的には、前記本発明のポリエチレン微多孔膜は、表面エネルギーが50dynes/cm〜250dynes/cmであり、気透過度(Darcy’s permeability constant)が2.0×10−5〜2×10−4Darcy、穿孔強度(Puncture strength)が0.17〜1.2N/mであって、前記気透過度と穿孔強度を乗じた値が0.34×10−5〜2.4×10−5Darcy・N/mで、加重平均気孔大きさの値が30〜500nm、フィルムの横方向/縦方向の収縮率が、105℃、10分間でそれぞれ0.01〜5%、120℃、60分間でそれぞれ0.5〜15%であることを特徴とする。
【0019】
本発明におけるポリエチレン微多孔膜を製造する段階は、湿式工程で液−液相分離工程条件を最適化し、ポリエチレンの分子量と濃度を最適化して、気孔率が高く且つ気孔大きさが大きくて、機械的強度に優れたセパレータを製造する段階と、大気圧下でプラズマ処理を通じて前記セパレータの表面エネルギーを高める段階とからなる。
【0020】
まず、セパレータを製造する段階について説明する。
【0021】
ポリエチレンと温度によって部分的に相溶性がある低分子量有機物質(以下、希釈剤という)は、ポリエチレンが溶ける温度より高い高温でポリエチレンと熱力学的単一相(Single phase)を形成することができる。これらの熱力学的単一相をなしたポリエチレンと希釈剤溶液を徐々に冷却させると、ポリエチレンが結晶化され固化される前の冷却過程において、ポリエチレンと希釈剤の相分離が起こる。ポリエチレンと希釈剤共に液状態で相分離が起こるため、これを液−液相分離という。この際、相分離される各相は、ポリエチレンが大部分の含量を構成するポリエチレン多含有相(polyethylene rich phase)と、希釈剤に溶けている少量のポリエチレンと希釈剤とから形成された希釈剤多含有相(diluent rich phase)からなる。熱力学的に相分離された二つの相は、二つの相ともに移動性 (mobility)がある状態(あるいは温度)に存在するようになると、時間が経つにつれて、同じ相同士が固まるCoarsening作用により、相分離された相の大きさが大きくなる。この時、Coarsening作用により相分離された相が大きくなる程度は、液−液相分離状態における滞留時間と、液−液相分離状態が維持される温度によって変わる。即ち、滞留時間が長いほど(滞留時間の1/4二乗に比例する)、液−液相分離が発生する温度と液−液相分離が実際進行される温度との差が大きいほど、各相の大きさは大きくなる。各相の大きさの増加は、溶融物の温度がポリエチレン多含有相の結晶化温度以下に下がって、ポリエチレン多含有相が結晶化されると、止まるようになる。したがって、溶融物の液−液相分離を進行させて、これを完全に冷却しポリエチレン多含有相を固化させた後、希釈剤多含有相を有機溶剤で抽出すると、ポリエチレン多孔膜が形成される。
【0022】
したがって、微多孔膜の基本気孔構造は、相分離過程で決定される。即ち、相分離後形成された希釈剤多含有相の大きさ及び構造が、最終微多孔膜の孔隙の大きさ及び構造を決定付ける。したがって、組成物の熱力学的相分離温度、加工時相分離速度及び時間、相分離誘導温度などにより、気孔構造の調節が可能である。
【0023】
また、微多孔膜の基本物性は、相分離過程において、ポリエチレン多含有相内のポリエチレン濃度によって決定される。相分離が十分なされ、ポリエチレン多含有相のポリエチレン濃度が十分高くなると、冷却後延伸時、ポリエチレン鎖の流動性が低下され、強制配向効果が増大する結果をもたらし、延伸後、機械的強度の増加がさらに大きくなる。即ち、同一な分子量の樹脂を使用して希釈剤との相分離を十分発生させたと仮定すると、そうではない組成物に比べ、著しく優れた機械的強度を示すようになる。
【0024】
従来技術で通常的に使用されるポリオレフィン微多孔膜の素材としては、各種ポリエチレン(低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなど)とポリプロピレンなどがある。しかしながら、高密度ポリエチレンを除いたポリエチレンとポリプロピレンの場合は、ポリマーの構造規則性を低下させ、樹脂自の結晶部分のラメラ完成度を低下させて、厚さを薄くする。また、重合反応中、コモノマーが存在するようになると、コモノマーの反応性がエチレン対比、劣るため、低分子量の分子が多く生産される。従って、前記高密度ポリエチレンは、好ましくは、コモノマーの含量が2重量%以下であることが好ましい。前記コモノマーとしては、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1などのαオレフィンが使用できるが、より好ましくは、反応性が相対的に高いプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、または4−メチルペンテン−1が好ましい。
【0025】
ポリエチレンの重量平均分子量は、2×10以上4.5×10未満、好ましくは、3×10〜4×10である。重量平均分子量が2×10より低いと、最終物性に優れた微多孔膜が得られなく、4.5×10より高いと、押出過程において、粘度増加による押出機の負荷増加、希釈剤との大きい粘度差による混練性低下が発生し、押出されるシートの表面形状も粗くなる。これを解決する方法は、押出温度を高めるか、二軸コンパウンダーの二軸構造(screw configuration)を、剪断率(shear rate)が高くなるように作ることであるが、この場合、樹脂の劣化(deterioration)が発生し、物性が低下する。特に、超高分子量ポリエチレンを使用すると、上記の問題がさらに深刻になる。
【0026】
本発明で使用される希釈剤としては、ポリエチレン20〜55重量%と混合して100%をなす組成比において、160〜280℃で液−液相分離される特性を有するあらゆる液状化合物(organic liquid)が可能である。その例としては、ジブチルフタレート(dibutyl phthalate)、ジヘキシルフタレート(dihexyl phthalate)、ジオクチルフタレート(dioctyl phthalate)などのフタル酸エステル(phthalic acid ester)類、ジフェニルエーテル(diphenyl ether)、ベンジルエーテル(benzyl ether)などの芳香族エーテル類、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数10〜20個の脂肪酸類、パルミチン酸アルコール、ステアリン酸アルコール、オレイン酸アルコールなどの炭素数10〜20個の脂肪酸アルコール類、パルミチン酸モノ−、ジ−またはトリエステル、ステアリン酸モノ−、ジ−またはトリエステル、オレイン酸モノ−、ジ−またはトリエステル、リノール酸モノ−、ジ−、またはトリエステルなどの脂肪酸群の炭素元素数4〜26個の飽和及び不飽和脂肪酸あるいは不飽和脂肪酸の二重結合がエポキシで置換された一つまたは二つ以上の脂肪酸が、ヒドロキシ基が1〜8個で且つ炭素数が1〜10個のアルコールとエステル結合された脂肪酸エステル類が挙げられる。160〜280℃でポリエチレンと液−液相分離される条件を満たせば、上記物質の混合物も使用可能であり、特に、パラフィンオイル、鉱油、またはワックスを一つ以上混合して使用することも可能である。
【0027】
液−液相分離温度が160℃未満に下がると、液−液相分離を十分進行させるために、押出後端部の温度を160℃以下に十分下げなければならないが、この場合、ポリエチレンの融点に近い温度で押出を行わなければならないため、ポリエチレンが十分溶融されず、粘度が非常に高くなって、押出機に無理を与えるようになり、シートの表面も粗くなって、正常的な押出加工ができなくなる。逆に、液−液相分離温度が280℃以上に上がると、初期押出時熱力学的単一相を作るために、280℃以上の十分な温度で混練をしなければならないが、この場合、温度が高すぎて、組成物の酸化分解反応が急激に促進されるため、所望の物性を有する製品を生産できなくなる。
【0028】
本発明で使用されるポリエチレンと希釈剤の組成は、ポリエチレンが20〜55重量%であり、希釈剤が80〜45重量%であることが好ましい。前記ポリエチレンの含量が55重量%を超過すると(即ち、希釈剤が45重量%未満であると)、孔隙度が減少して孔隙大きさが小さくなり、孔隙間の相互連結(interconnection)が少なくて、透過度が大いに低下する。その反面、前記ポリエチレンの含量が20重量%未満であると(即ち、希釈剤が80重量%を超過すると)、ポリエチレンと希釈剤の混練性が低下し、ポリエチレンが希釈剤に熱力学的に混練されず、ゲル状に押出されて、延伸時、破断及び厚さ不均一などの問題を引き起こす可能性がある。
【0029】
前記組成物には、必要に応じて、酸化安定剤、UV安定剤、帯電防止剤などの、特定機能の向上のための一般添加剤をさらに添加することができる。
【0030】
前記組成物を、希釈剤とポリエチレンとの混練のためにデザインされた二軸コンパウンダー、混練機、あるいはバンバリーミキサーなどを利用して、組成物の液−液相分離より高い温度で溶融押出して、単一相の混合物を得る。このような単一相の溶融物を液−液相分離温度−10℃以下に維持される二軸コンパウンダー、混練機、あるいはバンバリーミキサーあるいはこのような装備内部の区間を30秒より長い滞留時間で通過させて、液−液相分離が前記加工機械内で発生・進行されるようにする。このように加工機械内部で相分離された溶融物をダイより押出させて冷却しながらシート状に成形する。ポリエチレンとオイルは、予めブレンディングされてコンパウンダーに投入されるか、分離された供給機(feeder)からそれぞれ投入される。加工機械内で相分離が発生・進行されるようにするための温度が液−液相分離温度−10℃より高くなるか、この相分離区間における滞留時間が30秒未満である場合、相分離が十分なされず、気孔の大きさが小さくなり、最終製品の透過度が低下して、ポリエチレン多含有相内部に相対的に多い希釈剤が共存するようになるため、延伸時、配向効果が低下し、機械的物性も高くならないようになる。
【0031】
溶融物からシート状の成形物を製造する方法としては、水冷、空冷式を利用した一般的なキャスティング(casting)あるいはカレンダリング(calendaring)方法のいずれも使用できる。
【0032】
次に、延伸過程は、ロール方式またはテンター方式(Tenter type)の逐次あるいは同時延伸により行うことができる。ここで、延伸比は、縦方向及び横方向にそれぞれ4倍以上であり、総延伸比は、25〜50倍であることが好ましい。一方向の延伸比が4倍未満である場合は、一方向の配向が十分ではなく、且つ縦方向及び横方向間の物性均衡が崩れ、引張強度及び穿孔強度などが低下する。また、総延伸比が25倍未満であると、未延伸が発生して、50倍を超過すると、延伸中、破断が発生する可能性が高く、最終フィルムの収縮率が増加する短所がある。延伸温度は、組成比別に異なるが、使用するポリエチレン自の溶融温度より3〜20℃低い温度で行うことが好ましい。3℃より高い温度で延伸すると、延伸機内部フィルムの強度が弱すぎて、延伸が均一になされず、20℃より低い温度で延伸する場合は、ピンホールなどの比較的大きい孔が発生するような製品不良の可能性が高くなり、作業時、シートの破断が頻繁に起こるようになる。
【0033】
延伸されたフィルムは、有機溶媒を使用して抽出及び乾燥する。本発明で使用可能な有機溶媒は、特に限定されず、樹脂押出に使用された希釈剤を抽出できる溶剤ならいかなる溶剤でも使用可能であるが、好ましくは、抽出効率が高く、乾燥が速いメチルエチルケトン、メチレンクロライド、ヘキサンなどが好ましい。抽出方法は、浸漬(immersion)方法、溶剤スプレー(Solvent spray)方法、超音波(ultrasonic)法などの一般的な溶媒抽出方法を独立的にあるいは組み合せて使用できる。抽出時、残留希釈剤の含量は、2重量%以下でなければならない。残留希釈剤が2重量%を超えると、物性が低下し且つフィルムの透過度が減少する。残留希釈剤の量(抽出率)は、抽出温度と抽出時間により大きく左右される。抽出温度は、希釈剤と溶剤の溶解度増加のために、高いことが好ましいが、溶剤の沸き(boiling)による安定性問題を考慮すると、40℃以下が好ましい。抽出温度が希釈剤の凝固点以下であると、抽出効率が大きく低下するため、必ず希釈剤の凝固点より高くなければならない。抽出時間は、生産されるフィルムの厚さによって異なるが、10〜30μm厚の一般的な微多孔膜を生産する場合、2〜4分が好ましい。
【0034】
乾燥されたフィルムは、最後に、残留応力を除去し最終フィルムの収縮率を減少させるために、熱固定過程を経る。熱固定は、フィルムを固定させて熱を加え、収縮しようとするフィルムを強制に固定し、残留応力を除去することである。熱固定温度は、高いほど収縮率を低めるに有利であるが、高すぎる場合は、フィルムが部分的に溶け、形成された微多孔が目詰まって透過度が低下する。好ましい熱固定温度は、フィルムの結晶部分の10〜30重量%が溶ける温度範囲で選択することが好ましい。前記熱固定温度が、前記フィルムの結晶部分の10重量%が溶ける温度より低い温度範囲から選択されると、フィルム内のポリエチレン分子の再配列(reorientation)が十分ではなくて、フィルムの残留応力の除去効果が得られなく、フィルムの結晶部分の30重量%が溶ける温度より高い温度範囲から選択されると、部分的溶融により微多孔が目詰まって、透過度が低下される。
【0035】
ここで、熱固定時間は、熱固定温度が高い場合は、相対的に短くして、熱固定温度が低い場合は、相対的に長くすることができる。好ましくは15秒〜2分程度である。
【0036】
次の段階として、液−液相分離工程により気孔率が高く且つ気孔大きさが大きいポリオレフィン微多孔膜の電解液に対する含浸性を改善するために、プラズマ処理を通じて表面エネルギーを高める段階について説明する。
【0037】
プラズマは、いわゆる‘第4の物質状態’と言われ、通常、気に高エネルギーを加えることにより到達できる状態であって、電気的に中性を帯びるイオン化された粒子−中性ガス原子、カチオンと電子−の集合で、その反応性が非常に高く、様々な産業分野でその技術が応用されている。その例として、半導体製造工程におけるプラズマエッチング、プラズマ化学気相蒸着(PECVD ; Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)、各種薄膜蒸着、硫酸化物と硝酸化物などの公害ガスの分解、オゾン発生装置、金属や高分子の表面処理、新物質合成などが挙げられる。
【0038】
このようなプラズマは、その温度によって、低温プラズマと高温プラズマとに分けられ、低温プラズマに代表されるグロー放電(Glow discharge)プラズマは、真空で電極の両端に数百ボルトの電圧を印加して、プラズマ内のカチオンが陰極と衝突して生じた二次電子が外部へ印加した電界により、プラズマに加速されて行きながら中性ガスをイオン化して、ここで生成された電子が再び中性ガスをイオン化させる過程が繰り返される電子なだれ(Avalanche)を起こし、電極両端間に電流が流れるようになる現象を意味する。高温プラズマに代表されるアーク放電(Arc discharge)は、グロー放電状態で電流の量を増やすと、10K以上の超高温プラズマを形成するが、これは主に、核融合装置の制作に活用される。
【0039】
前記プラズマ技術は、真空上で適用されるが、真空プラズマ工程は、高真空を維持しなければならないため、初期設備費及び維持費が高いという点と、基材の形状及び大きさに制約があるという点、連続工程の具現に制限があるという短所がある。これに反し、常圧プラズマ工程は、プラズマの温度が150℃以下で、基材の熱変形の恐れが少なく、大気圧下で別の真空装置無しで行うため、初期設備費と工程費用が低廉で、連続工程が容易で生産性を高めることができ、基材の形状と大きさの選択が多様であるという長所がある。
【0040】
常圧でプラズマを生成する方法としては、パルスコロナ放電(Pulsed corona discharge)と誘電バリア放電(dielectric barrier discharge)が一般に使用されており、コロナ放電は、高電圧パルス電源を利用して、処理対象にプラズマを生成させる方法であって、誘電バリア放電は、二つの電極の中、少なくとも一つは、誘電を使用して、このような電極に数十Hz〜数MHzの周波数を有した電源を印加してプラズマを生成させる方法である。
【0041】
本発明では、誘電バリア放電タイプの常圧プラズマを利用して、ポリエチレン微多孔膜の表面エネルギーを高めようとして、反応性ガスとしては、親水性官能基を生成するために酸素を使用して、キャリアガスとしては、窒素を使用して、低電圧でも、大気圧で広い面積に均一なプラズマを生成できるようにした。上述のガス種の他にも、反応性ガスとしては、硫黄酸化物ガスや水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素などを単独あるいは2種以上混合して使用可能であり、キャリアガスとしては、ヘリウム、アルゴン、ネオンなどの不活性気を単独あるいは2種以上混合して使用することもできて、上述の反応ガス及びキャリアガスの種によって本発明が限定されるものではない。
【0042】
前記プラズマ処理は、大気圧下で向かい合う一対以上の電極間にポリエチレン微多孔膜を置いて、キャリアガスと反応ガスを注入してプラズマを放電し、両面を同時に処理することもでき、または、二つ以上の電極が順次的に微多孔膜の一側面とその反対面に対してそれぞれプラズマを放電することもできる。上記の過程は、表面エネルギーを50dynes/cm以上に高めるために、少なくとも1回以上繰り返し可能であり、本発明における大気圧(あるいは常圧)とは、700〜780Torrの圧力範囲を意味する。より詳細に、本発明における表面エネルギーを有した微多孔膜を得るためには、プラズマが放電される電極と微多孔膜間の距離が0.1〜10mmであることが好ましく、プラズマと微多孔膜間の接触時間は、0.1秒以上であることが好ましい。プラズマが放電される電極と微多孔膜間の距離が短すぎると、電極の発熱により、微多孔膜の変形や変性が生じる恐れがあり、距離が長すぎるか、プラズマとの接触時間が短すぎると、処理効果が低下する恐れがあるからである。
【0043】
本発明のよるポリエチレン微多孔膜は、プラズマ処理前、40〜42dynes/cmの表面エネルギーを有して、プラズマ処理後の表面エネルギーは、50dynes/cm以上と表れ、リチウム二次電池用電解液に対する含浸性が、プラズマ処理しなかった微多孔膜に比べ、明らかに増加したことを確認することができた。
【0044】
上記内容から、本発明におけるポリエチレン微多孔膜は、
(a)ポリエチレン(成分I)20〜55重量%と、前記成分Iと160〜280℃で液−液相分離される特性を有する希釈剤(成分II)80〜45重量%とを含有する混合物を、液−液相分離温度以上で溶融/混練/押出して、押出機内で熱力学的単一相にする段階と、
(b)前記溶融物を、液−液相分離温度範囲に調節されたゾーンに通過させて、液−液相分離を進行し、ダイより押出する段階と、
(c) 液−液相分離が進行されて押出された溶融物をシート状に成形する段階と、
(d)前記シートを、ロール方式またはテンター(Tenter)方式を含む逐次あるいは同時延伸方法により、横方向、縦方向にそれぞれ4倍以上、総延伸比が25〜50倍になるように延伸する段階と、
(e)延伸されたフィルムから成分IIを抽出して乾燥する段階と、
(f)乾燥されたフィルムの残留応力を除去し、フィルムの横方向/縦方向の収縮率が105℃、10分間でそれぞれ5%以下、120℃、60分間でそれぞれ15%以下となるように熱固定する段階と、
(g)熱固定されたフィルムを、大気圧下で、両面に対して同時にあるいは順次的に少なくとも1回以上のプラズマ放電を施して表面エネルギーを高める段階と、
から製造されて、このように製造される本発明のポリエチレン微多孔膜は、次のような物性を有する。
【0045】
(1)穿孔強度が0.17N/μm以上である。
穿孔強度は、鋭い物質に対するフィルムの強度を示すもので、電池用隔離膜として使用される場合、穿孔強度が十分ではないと、電極の表面異常や、電池使用中に電極表面から発生するデンドライト(dendrite)によりフィルムが破れて、短絡(short)が生じえる。本発明による穿孔強度が0.17N/μmを超えるフィルムは、現在商業的に広く使用されている隔離膜フィルムのうち、最も薄い16μm厚のフィルムが使用される場合、破断点重量が272g以上で、全用途に安全に使用できる。
【0046】
(2)気透過度(Darcy’s permeability constant)が2.0×10−5Darcy以上である。
気透過度は、高ければ高いほどよく、2.0×10−5Darcy以上である場合、多孔膜としての効率が非常に高くなり、電池内のイオン透過度及び充放電特性がよくなる。本発明による気透過度が2.0×10−5Darcy以上のフィルムは、電池の高効率充放電など、充放電特性と低温特性、及び寿命に優れている。
【0047】
(3)気透過度と穿孔強度とを乗じた値が0.34×10−5以上である。
加工条件を調節する場合、気透過度が高くなると穿孔強度が低くなり、逆に、穿孔強度が高くなると、気透過度が低くなる現象が発生する。したがって、前記二つの値を乗じた数値が大きいほど、穿孔強度と気透過度とが共に高い、優れたセパレータと言える。本発明によるセパレータの穿孔強度と気透過度とを乗じた値は、0.34×10−5以上であるため、上記二つの特性に同時に優れている。
【0048】
(4)キャピラリーフロー法(Capillary Flow Porometry)により求められた気孔大きさに対する加重平均気孔が30nm以上である。
口径の大きい気孔が多く存在するほど、上記の値はさらに大きくなり、また、この値は、気透過度に比例する傾向がある。
【0049】
(5)フィルムの横方向/縦方向の収縮率が105℃、10分間でそれぞれ5%以下、120℃、60分間でそれぞれ15%以下である。
収縮率は、フィルムを、定められた温度下で一定時間放置した後測定するもので、収縮率が高いと、電池の充放電時に発生する熱による収縮可能性が高くなり、電池の安定性を損なうようになる。収縮率は、低ければ低いほどよく、本発明によるポリエチレン微多孔膜は、収縮率が、105℃、10分間でそれぞれ5%以下、120℃、60分間でそれぞれ15%以下であって、セパレータに適用時、電池の自己発熱により収縮され、電極が互いに当接し短絡が生じることを防ぎ、電池用セパレータとして安全に使用できる。
【0050】
(6)表面エネルギーが50dynes/cm以上である。
表面エネルギーが高いほど、リチウム二次電池用電解液に対する親和性が向上し、含浸速度及び含浸性が増加するようになり、電池性能の向上を期待することができる。特に、セパレータの電解液の含浸性が増加する場合、電池寿命が向上すると知られている。
【0051】
このような物性的特性の他にも、本発明のポリエチレン微多孔膜は、押出混練性及び延伸性に優れている。
【0052】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
(実施例)
ポリエチレンの分子量及び分子量分布の測定は、Polymer Laboratory社の高温GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定した。
【0054】
希釈剤の粘度は、Cannon社のCAV−4自動動粘度計(Automatic Viscometer)で測定した。
【0055】
ポリエチレンと希釈剤は、Φ=30mmの二軸押出機で混練された。二軸押出機の最初から最後のダイまでの区間は、全部して20個であって、最後のダイ部分を除いては、全て同じ長さで構成されている。スクリューは、最初から12個の区間にかけての長さだけ設けられており、スクリューの長さ/直径の比率は、47であった。14番目区間には、ギアポンプが設けられており、一定厚のシートが生産できるようになっている。押出機の全体(the total of extruder machine)の滞留時間(residence time)は、組成によって少しずつ差があるが、約6分間であって、特に、13番目区間と14番目区間との間に取り付けられている圧力計までの滞留時間が約3分であるため、その以降の14〜20番目区間を通過するにかかる時間も約3分と言える。14〜20番目のそれぞれの区間を通る時間が一定であると仮定すると、各区間当り約26秒がかかるとして計算した。液−液相分離を押出機内部で誘導するために、15番目区間から20番目区間までの温度を、組成物の液−液相分離温度と比較して変更しながら実験した。
【0056】
押出された溶融物は、T字形ダイより押出されて、キャスティングロールにより厚さ600〜1200μmのシートに成形されて、これらは延伸に使用された。
【0057】
シートの延伸は、テンタータイプの連続式延伸機で、延伸比、延伸温度を変更しながら、同時延伸により進行した。延伸速度は、2.0m/minに維持した。
【0058】
希釈剤の抽出は、メチレンクロライドを利用し、浸漬方式により行った。抽出機内の滞留時間は2分にして、フィルム内残留希釈剤が2%以下となるように加工した。
【0059】
熱固定は、希釈剤が抽出されたフィルムを空気中で乾燥した後、テンタータイプの連続式フレームにフィルムを固定して、熱風オーブン(Convection oven)で温度と時間を変更しながら行った。
【0060】
成形されたフィルムは、温度による結晶部分の溶ける現象を分析するために、DSC分析を行った。分析条件は、サンプル重量5mg、スキャン速度(scanning rate)10℃/minであった。
【0061】
*物性測定方法
(1)引張強度は、ASTM D882で測定した。
(2)穿孔強度は、直径0.5mmのピンが120mm/minの速度でフィルムを破断させる時の強度で測定した。
(3)気透過度は、孔隙測定機(porometer:PMI社のCFP-1500-AEL)で測定した。一般に、気透過度は、Gurley numberで表示されるが、Gurley numberは、フィルム厚の影響が補正されないため、フィルム自の孔隙構造による相対的透過度が分かり難い。これを解決するために、本発明では、Darcy’s透過度常数を使用した。Darcy’s透過度常数は、下記数学式1から得られて、本発明では、窒素を使用した。
[数学式1]
C=(8FTV)/(πD(P−1))
ここで、C=Darcy透過度常数
F=流速
T=サンプル厚
V=気の粘度(0.185 for N2)
D=サンプル直径
P=圧力
本発明では、100〜200psi領域で、Darcy’s透過度常数の平均値を使用した。
【0062】
(4)気孔大きさは、キャピラリーフロー法(Capillary Flow Porometry)により、孔隙測定機(porometer:PMI社のCFP-1500-AEL)で測定した。これは、ポリエチレン微多孔膜を、表面張力値が分かる特定液(galwick)に浸して、窒素ガスを0〜400psigに圧力を高めながら、特定圧力下で気孔を通じて通過する窒素ガスの量を測定し、それにより気孔の口径を推定する方法であって、下記の数学式2により計算される。
【0063】
[数学式2]
P=4γcosθ/d
ここで、p=気孔を通じての圧力変化
γ=液の表面張力
θ=液の接触角
d=気孔の直径
前記数学式2によって気孔大きさとその分布度が求められ、これらの値から、加重平均気孔大きさは、下記の数学式3のように表現される。
[数学式3]
加重平均気孔大きさ=(Σd×f)/(Σd×f)
ここで、d=i番目気孔の直径
=i番目気孔の分布率
参考に、Σf=1である。
【0064】
(5)収縮率は、ポリエチレン微多孔膜を105℃で10分間放置した後と、120℃で60分間放置した後の縦方向及び横方向の収縮を%として測定した。
【0065】
(6)表面エネルギーは、UV process supply社のdyne solutionをcotton applicatorに付けて、セパレータの表面に線を引いて、基材の濡れ性により線の連続性を確認して測定した。
【0066】
(7)ポリエチレン微多孔膜の電解液に対する含浸性は、次のような方法により測定した。
【0067】
まず、相対湿度50%にして常温に保管した後、10×10cm大きさに切断し、初期の重量(A)を測定して、電解液に1時間浸漬した後、ポリエチレン微多孔膜を取り出し、ティッシュペーパーで表面の電解液を十分除去し、重量(B)を測定して含浸量を測定した。含浸量は、少なくとも5個の試片に対する平均値を求めて、含浸量は、次の式から算出した。
%含浸量=((B−A)/A)×100
【0068】
前記含浸性の評価には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを1:1の重量比で混合した溶液に、1Mのリチウムヘキサフルオロフォスフェート(LiPF6)を溶解した電解液を使用した。
【0069】
(実施例1)
成分Iとして、重量平均分子量が2.1×10で、溶融温度が135℃である高密度ポリエチレンを使用して、成分IIとしてはジブチルフタレート(下記表の成分A)を使用した。成分Iと成分IIの含量は、それぞれ40重量%、60重量%であった。
【0070】
押出機の全体の20個区間の前半部の12個区間は、250℃に設定して、13番目及び14番目の2つの区間は、220℃に設定し、15番目から20番目までの区間の温度を、前記組成の液−液相分離温度以下の185℃に調節して、相分離を進行した。延伸温度は、127℃、延伸比は、縦方向/横方向に対してそれぞれ6倍として、メチレンクロライドを使用し、浸漬方式により成分IIを2分間抽出した後、120℃で15秒間熱固定を行った。その後、大気圧下で誘電バリア放電タイプの電極を利用して、キャリアガスとして窒素を1分当たり300ml、反応ガスとして酸素を1分当たり1mlを注入して、電力を3.6kW、電圧を12kVとしてプラズマを放電させ、ポリエチレン微多孔膜の両面を同時にプラズマと3秒間1回接触させた。前記プラズマ放電時の電極と微多孔膜間の距離は、3mmに固定した。
【0071】
プラズマ処理による微多孔膜気孔構造の変化有無を確認するために、電子走査顕微鏡(SEM)で観察した結果、図1と図2のように、気孔の構造が変わらないことを確認することができたが、これは、観察した全ての試料において同一な傾向を示した。
【0072】
図3と図4は、ポリエチレン微多孔膜のプラズマ処理前後のX線電子分光測定(XPS)結果であって、プラズマ処理により、親水性官能基であるカルボキシ、カルボニル基などが生成されたことが確認できる。
【0073】
前記実施例1を始めとし、実施例2〜5による微多孔膜に対する引張強度、穿孔強度、気透過度、加重平均気孔大きさ、収縮率、表面エネルギー、%含浸量に対する測定結果は、表1に示した。
【0074】
(実施例2)
成分Iとして、重量平均分子量が3.8×10で、溶融温度が132℃である高密度ポリエチレンを使用して、成分Iと成分IIの含量は、それぞれ20重量%、80重量%であった。
【0075】
延伸は、120℃で、延伸比49倍(縦方向×横方向=7×7)として行われた。熱固定は、結晶の溶ける程度を20重量%に合わせるために、118℃で18秒間行った。それ以外は、前記実施例1と同様に行った。
【0076】
(実施例3)
成分Iとして、重量平均分子量が3.8×10で、溶融温度が133℃である高密度ポリエチレンを使用して、成分Iと成分IIの含量は、それぞれ55重量%、45重量%であった。
【0077】
延伸は、130℃で、延伸比25倍(縦方向×横方向=5×5)として行われた。熱固定は、117℃で20秒間行った。それ以外は、前記実施例1と同様に行った。
【0078】
(実施例4)
成分Iとして、実施例2と同様な高密度ポリエチレンを使用して、成分IIとしては、ジブチルフタレートと、40℃動粘度が160cStのパラフィンオイルとを1:2に混合(下記表の成分B)して使用した。成分Iと成分IIの含量は、それぞれ40重量%、60重量%であった。
【0079】
スクリュー部分の押出温度を210℃に維持して、押出機14〜20番目区間の温度を150℃に維持して、液−液相分離を十分誘導した。延伸は、122℃で行われた。プラズマ処理時、キャリアガスとしてヘリウムを使用して、微多孔膜のプラズマ接触時間を2秒として、2回繰り返したことを除いては、実施例1と同様に行った。
【0080】
(実施例5)
成分Iとして、実施例2と同様な高密度ポリエチレンを使用して、成分IIとしては、オレイン酸トリグリセリドと、リノール酸トリグリセリドとを1:2に混合(下記表の成分C)して使用した。成分Iと成分IIの含量は、それぞれ40重量%、60重量%であった。
【0081】
スクリュー部分の押出温度を210℃に維持して、押出機14〜20番目区間の温度を160℃に維持して、液−液相分離を十分誘導した。延伸は、125℃で行われて、それ以外の条件は、実施例1と同様に行った。
【0082】
(比較例1)
成分Iとして、実施例2と同様な高密度ポリエチレンを使用して、成分IIとしては、ジブチルフタレート(下記表の成分A)を使用した。成分Iと成分IIの含量は、それぞれ40重量%、60重量%であった。押出機14〜20番目区間の温度を230℃に維持して押出した後、ダイより溶融物が出た後、相分離されるようにした。延伸は、118℃で行われて、延伸比は、縦方向/横方向に対してそれぞれ6倍として、メチレンクロライドを使用し、浸漬方式により成分IIを2分間抽出した後、120℃で15秒間熱固定を行って、プラズマ処理は施さなかった。
【0083】
前記比較例1を始めとし、比較例2〜5により製造された微多孔膜に対する引張強度、穿孔強度、気透過度、加重平均気孔大きさ、収縮率、表面エネルギー、%含浸量に対する測定結果は、表2、3に示した。
【0084】
(比較例2)
押出機14〜20番目区間の温度を、相分離温度以下である185℃に維持して、押出機内で十分相分離が起こるようにした後、延伸は118℃で行われて、プラズマ処理は施さなかった。それ以外は、比較例1と同様である。
【0085】
(比較例3)
成分Iとして、実施例4と同様な高密度ポリエチレンを使用して、成分IIとしては、ジブチルフタレート(下記表の成分A)を使用した。成分Iと成分IIの含量は、それぞれ40重量%、60重量%であった。
【0086】
延伸は、117℃で行われて、プラズマ処理時、電極と微多孔膜間の距離を20mmとしたことを除いては、実施例1と同様に行った。
【0087】
(比較例4)
成分Iとして、重量平均分子量が3.8×10である高密度ポリエチレンを使用して、成分Iと成分IIの含量がそれぞれ15重量%、85重量%で、延伸温度が115℃であることを除いては、実施例1と同様に行った。
【0088】
(比較例5)
成分Iとして、重量平均分子量が3.8×10である高密度ポリエチレンを使用して、成分Iと成分IIの含量がそれぞれ60重量%、40重量%で、延伸温度が128℃であることを除いては、実施例1と同様に行った。
【0089】
(比較例6)
成分Iとして、実施例4と同様な高密度ポリエチレンを使用して、成分IIとしては、40℃動粘度が120cStのパラフィンオイル(下記表の成分D)を使用した。成分Iと成分IIの含量は、それぞれ40重量%、60重量%であった。延伸及びプラズマ処理は、実施例1と同様に行った。
【0090】
上記実施例及び比較例の実験条件及びこれから得られた結果を、下記表1〜3にまとめて示した。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施例1で製造したプラズマ処理前の分離膜の表面写真である。
【図2】実施例1において、プラズマ処理後の分離膜の表面写真である。
【図3】実施例1において、プラズマ処理前後のXPSデータである。
【図4】実施例1において、プラズマ処理前後のXPSデータである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面エネルギーが50dyne/cm以上であり、気透過度(Darcy’s permeability constant)が2.0×10−5以上、穿孔強度(Puncture strength)が0.17N/m以上であって、前記気透過度と穿孔強度を乗じた値が0.34×10−5Darcy・N/m以上であり、加重平均気孔大きさが30nm以上、横方向/縦方向の収縮率が、105℃、10分間でそれぞれ5%以下、120℃、60分間でそれぞれ15%以下であることを特徴とするポリエチレン微多孔膜。
【請求項2】
(a)ポリエチレン(成分I)20〜55重量%と、前記成分Iと160〜280℃で液−液相分離される特性を有する希釈剤(成分II)80〜45重量%とを含有する混合物を、液−液相分離温度以上で溶融/混練/押出して、押出機内で熱力学的単一相にする段階と、
(b)前記溶融物を、液−液相分離温度範囲に調節されたゾーンに通過させて、液−液相分離を進行し、ダイより押出する段階と、
(c) 液−液相分離が進行されて押出された溶融物をシート状に成形する段階と、
(d)前記シートを、ロール方式またはテンター(Tenter)方式を含む逐次あるいは同時延伸方法により、横方向、縦方向にそれぞれ4倍以上、総延伸比が25〜50倍になるように延伸する段階と、
(e)延伸されたフィルムから成分IIを抽出して乾燥する段階と、
(f)乾燥されたフィルムの残留応力を除去し、フィルムの横方向/縦方向の収縮率が105℃、10分間でそれぞれ5%以下、120℃、60分間でそれぞれ15%以下となるように熱固定する段階と、
(g)熱固定されたフィルムを、大気圧下で、両面に対して同時にあるいは順次的に少なくとも1回以上のプラズマ放電を施して表面エネルギーを高める段階と、
から製造されるリチウム二次電池セパレータ用ポリエチレン微多孔膜。
【請求項3】
前記(g)段階において、プラズマを放電する電極とポリエチレン微多孔膜との距離が0.1〜10mm、プラズマと微多孔膜間の接触時間が0.5秒以上の条件下で製造されることを特徴とする、請求項2に記載のリチウム二次電池セパレータ用ポリエチレン微多孔膜。
【請求項4】
前記成分Iは、重量平均分子量が2×10〜4.5×10のポリエチレンであることを特徴とする、請求項2に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項5】
前記成分IIは、ジブチルフタレート(dibutyl phthalate)、ジヘキシルフタレート(dihexyl phthalate)、ジオクチルフタレート(dioctyl phthalate)などのフタル酸エステル(phthalic acid ester)類と、ジフェニルエーテル(diphenyl ether)、ベンジルエーテル(benzyl ether)などの芳香族エーテル類と、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数10〜20個の脂肪酸類と、パルミチン酸アルコール、ステアリン酸アルコール、オレイン酸アルコールなどの炭素数10〜20個の脂肪酸アルコール類と、パルミチン酸モノ−、ジ−またはトリエステル、ステアリン酸モノ−、ジ−またはトリエステル、オレイン酸モノ−、ジ−またはトリエステル、リノール酸モノ−、ジ−、またはトリエステルなどの脂肪酸群の炭素元素数4〜26個の飽和及び不飽和脂肪酸あるいは不飽和脂肪酸の二重結合がエポキシで置換された一つまたは二つ以上の脂肪酸が、ヒドロキシ基が1〜8個で且つ炭素数が1〜10個のアルコールとエステル結合された脂肪酸エステル類と、からなる群から選択される一つ以上の成分であることを特徴とする、請求項2に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項6】
前記成分IIは、パラフィンオイル、鉱油、またはワックスから選択される一つ以上の成分をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載のポリエチレン微多孔膜。
【請求項7】
液−液相分離状態において、押出温度は、液−液相分離温度−10℃以下で、液−液相分離状態の押出機内滞留時間が30秒以上であることを特徴とする、請求項2に記載のポリエチレン微多孔膜。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−120816(P2009−120816A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236985(P2008−236985)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(308007044)エスケー エナジー カンパニー リミテッド (53)
【Fターム(参考)】