説明

物理的/物理化学的刺激により処理される非晶質細胞送達ビヒクル

欠損組織(特に軟骨)の修復のために、組織をインビトロで生成し、そしてインビボで使用するための組成物および方法が提供される。軟骨細胞または他の細胞は、100kDaより大きな分子量カットオフを有する半透膜で囲まれた空間の範囲内で、生分解性の非晶質キャリア中でインビトロ培養される。培養は、修復または交換が必要な組織のインビボ条件を模倣する物理的/物理化学的条件下で行われ得る。1つの実施形態において、本発明は、注射に適した、軟骨細胞およびその細胞外産物の非晶質調製物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、機能的組織工学の分野に関する。さらに詳細には、本発明はいくつかの態様において、損傷を受けた組織の交換または修復部位に用いるのに適した組織の再生に有用な、インビトロ培養法およびその産物に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
生体の損傷を受けた組織または病原部を回復させる、種々の方法がある。1つの方法は、損傷を受けた組織または病原部を、生体組織以外の物質(例えば、プラスチック、金属、および/またはセラミック)で置き換えて、この損傷を受けた組織または病原部を回復させるものである。別の方法は、損傷を受けた組織または病原部を、他の個体または他の動物に由来する器官、あるいは生体の別の部位に由来する器官(例えば、皮膚)と置き換えるものである。これらの方法は、非生体組織の物理的磨耗およびずれ、ならびに特定の目的のための生体組織の入手可能性または適合性を含めた、特定の欠点を有し得る。第3の方法は、インビトロで新たに生命維持に必要な組織を生成するものである。
【0003】
従って、生体の損傷を受けた組織または病原部を回復させる方法は、組織の損傷部を、細胞または組織をインビトロで培養することによって得られる組織で置き換えるものである。皮膚、軟骨、硬骨、血管、肝臓、および膵臓などの多くの組織に適用可能であるような方法が一般に可能であることが、最近報告された。生体由来の細胞または組織が患者の体外で培養され、そしてこの培養によって得られた細胞または組織が、損傷部の回復に適用される場合、組織は体内で再生され得る。さらに、回復に適用される組織が培養組織を受ける予定の個体に由来する場合、この組織を個体へ移植する際に、組織の免疫拒絶の懸念がない。
【0004】
屈曲可能に連結された硬骨の端部を覆う関節軟骨は、負荷をかけた関節における負荷分散の機能を担う。軟骨組織はこの機能のために、可逆的に、低い負荷または圧力条件下で水を吸い上げ、次いで、より高い負荷または圧力条件下で水を放出することが可能である。さらに、軟骨表面は、関節における摺動面としての役割を果たす。
【0005】
軟骨は血管化されておらず、そのインビボでの再生能は、特に成熟個体においては、再生されるべき軟骨片の容量がほんの少量でも上回ると、極めて限られる。しかし、関節軟骨はしばしば、自然に再生され得るよりも著しく大きな容量で、摩耗、老化、疾患、外傷性損傷または使い過ぎ損傷による変性を受ける。軟骨層のこの種の欠損は、罹患した関節を動かしたり負荷をかけたりすると痛みを伴い、炎症のようなさらなる合併症を引き起こし得、この合併症が軟骨層にさらなる損傷を与え得る。
【0006】
このような理由で、欠失したか損傷を受けた軟骨(特に関節軟骨)を交換するか修復するための努力が、かなり長い期間なされてきた。
【0007】
関節軟骨単独か、または関節軟骨およびその下の軟骨下骨組織に関与する欠損を修復する方法は、欠損部位を粉砕または穿孔して、可能な限り正確な形状の孔を形成する工程、体重負荷がより少ない部位(例えば、同じ関節)から同じ形状の軟骨盤または軟骨および硬骨を、穴をあけるかまたは打ち抜くことによって摘出する工程、ならびにこの円柱を、処置される欠損部位の穴に挿入する工程による。同様にして、複数の穴を有するより大きな欠損が修復される(骨軟骨柱移植術)。
【0008】
少なくとも部分的にはインビトロで軟骨を生成するために(すなわち、人工条件下で生命維持に必要な天然の細胞を用いて軟骨を生成するために)、多くの方法が開発されている。これらの方法において直面する問題は、軟骨細胞がこれらのインビトロの条件において比較的急速に線維芽細胞へと脱分化する傾向を有するという事実である。軟骨細胞は脱分化によって、とりわけ、軟骨組織の最も重要な成分の1つであるII型コラーゲンを産生する能力を失う。インビトロでの軟骨細胞の脱分化の問題を解決する試みとして、単層または3次元の足場での極めて高密度の細胞培養物中に軟骨細胞を固定することが含まれる。これらの条件下では、軟骨細胞は、実質的に脱分化することなく自己再生し、そしてこれらの軟骨細胞は、天然の軟骨の細胞外マトリックスに少なくとも類似した細胞外マトリックスを形成する。3次元の足場は、細胞を固定化するために用いられるだけでなく、移植後に機械的安定性を与えるためにも用いられる。これが必要な理由は、上記の方法で生成した軟骨組織がいずれも、低い機械的ひずみにさえ耐え得る安定性を有さなかったためである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
機能的組織工学の主要な目標は、損傷を受けた組織を修復または交換する新組織(細胞構築物)の開発である。整形外科用途については、移植物が体重負荷、関節荷重、および伸張に耐えなければならないので、剛性および堅さは、損傷を受けた組織の交換のために重要である。本発明は、3つの主要な構成要素である分解性キャリア、半透膜、およびバイオリアクター(とりわけ、培養中の細胞に静水流体圧を適用するもの)を用いてこれらの問題を解決する、新しい系に関する。
【0010】
本発明は特定の態様において、生分解性ヒドロゲルおよび組織前駆細胞を含む液体ヒドロゲルの細胞組成物を、少なくとも一部が半透膜で囲まれ、かつ、インビボで見られるような組織の物理的/物理化学的条件を模倣する物理的/物理化学的条件下で培養される細胞培養空間で生成することによって、被験体に用いるための新しい組織を生成するインビトロ方法を提供する。半透膜は、細胞、細胞によって合成された任意の高分子量の細胞外マトリックス、および生分解性ヒドロゲルキャリアの高分子量の分解生成物を、細胞培養空間内に保持するように選択される。本発明の特定の態様における特徴は、インビトロまたはインビボのいずれかで、前もって形成された足場または他の支柱構造体なしに、非晶質ヒドロゲルまたは他の生分解性キャリアを使用することであり、それによってインビトロ培養の産物が、この産物が導入され得る空間または容器によって規定された3次元形状をとるために変形可能である。このインビトロ細胞培養産物は、被験体に、例えばシリンジまたはカテーテルを用いて移植され得る。本発明の方法および組成物は、例えば軟骨組織を含む種々の組織の処置に有用である。
【0011】
特定の態様において本発明はまた、内因性の細胞外マトリックス(ECM)とともに軟骨形成細胞を含む注射用細胞/マトリックス組成物の生成および使用に関する方法および組成物も特徴とする。本発明のインビトロ培養法を用いて生成されるECMは、その生化学的特徴、組織学的特徴および/または生体力学的特徴において、天然に存在するECMを有利に厳密に模倣する。
【0012】
1つの態様において、本発明は、インビトロで細胞を培養する方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、以下の工程を包含する:インビトロ培養のために選択された細胞集団を、生分解性の非晶質キャリアと接触させる工程;この接触させた細胞集団を、細胞を収容するための細胞空間(この細胞空間は、100kDaよりも大きく1,000kDa未満の分子量カットオフを有する半透膜で少なくとも一部が囲まれている)に配置する工程;およびこの接触させた細胞集団に周期的に圧力をかける工程。
【0013】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞は、軟骨細胞および必要に応じてその前駆細胞を含む。
【0014】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞は、本質的に軟骨細胞からなる。
【0015】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、I型コラーゲンを含む。
【0016】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、デキストランビーズを含む。
【0017】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ヒアルロナン、およびその任意の組み合わせから選択されるヒドロゲルを含む。
【0018】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞を収容するための細胞空間は、細胞を収容するために少なくとも1つの閉鎖可能な開口部を備えた半透膜チューブからなる。
【0019】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞を収容するための細胞空間は、細胞を収容するために閉鎖可能な開口部を備えた半透膜の袋からなる。
【0020】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも200kDaの分子量カットオフを有する。
【0021】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも250kDaの分子量カットオフを有する。
【0022】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも500kDaの分子量カットオフを有する。
【0023】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも1,000kDaの分子量カットオフを有する。
【0024】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、正味の正電荷を有する半透膜である。
【0025】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、正味の正電荷を有する半透膜は、ポリ−L−リジンでコーティングされた半透膜である。
【0026】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、周期的に圧力をかける工程は、0.001〜1Hzで0.5〜3.5MPaの圧力をかける工程を含む。
【0027】
1つの態様において本発明は、生分解性の非晶質キャリアと接触してインビトロで増殖させた細胞集団を含む組成物を提供する。
【0028】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞は、軟骨細胞および必要に応じてその前駆細胞を含む。この場合の細胞/マトリックス組成物を、本発明の目的のための軟骨細胞/マトリックス組成物と呼ぶ。
【0029】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞は、本質的に軟骨細胞からなる。この場合の細胞/マトリックス組成物もまた、本発明の目的のための軟骨細胞/マトリックス組成物と呼ぶ。
【0030】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、I型コラーゲンを含む。
【0031】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、デキストランビーズを含む。
【0032】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ヒアルロナン、およびその任意の組み合わせから選択されるヒドロゲルを含む。
【0033】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞およびキャリアは、細胞を収容するための細胞空間(この細胞空間は、100kDaよりも大きく1,000kDa未満の分子量カットオフを有する半透膜で少なくとも一部が囲まれている)に含まれる。
【0034】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも200kDaの分子量カットオフを有する。
【0035】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも250kDaの分子量カットオフを有する。
【0036】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも500kDaの分子量カットオフを有する。
【0037】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、1,000kDaの分子量カットオフを有する。
【0038】
1つの態様において、本発明は、上記のインビトロでの細胞培養方法によって生成される細胞/マトリックス組成物を含む組成物を提供する。
【0039】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物は、軟骨細胞および必要に応じてその前駆細胞を含む。この場合の細胞/マトリックス組成物を、本発明の目的のための軟骨細胞/マトリックス組成物と呼ぶ。
【0040】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物の細胞は、本質的に軟骨細胞からなる。この場合の細胞/マトリックス組成物もまた、本発明の目的のための軟骨細胞/マトリックス組成物と呼ぶ。
【0041】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物は、I型コラーゲンを含む生分解性の非晶質キャリアを含む。
【0042】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物は、デキストランビーズを含む生分解性の非晶質キャリアを含む。
【0043】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物は、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ヒアルロナン、およびその任意の組み合わせから選択されるヒドロゲルを含む、生分解性の非晶質キャリアを含む。
【0044】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物は、細胞を収容するための細胞空間(この細胞空間は、100kDaよりも大きく1,000kDa未満の分子量カットオフを有する半透膜で少なくとも一部が囲まれている)に含まれる。
【0045】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも200kDaの分子量カットオフを有する。
【0046】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも250kDaの分子量カットオフを有する。
【0047】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも500kDaの分子量カットオフを有する。
【0048】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、半透膜は、1,000kDaの分子量カットオフを有する。
【0049】
1つの態様において、本発明は、損傷を受けた軟骨組織を処置する方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、本発明の軟骨細胞/マトリックス組成物の有効量を、損傷を受けた軟骨組織の部位に導入して、この損傷を受けた軟骨組織を処置する工程を包含する。
【0050】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、軟骨組織は、椎間板である。
【0051】
1つの態様において、本発明は、損傷を受けた関節軟骨表面を処置する方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、損傷を受けた関節軟骨表面を処置するために、本発明の軟骨細胞/マトリックス組成物の有効量を、損傷を受けた関節軟骨表面の部位を覆う軟骨の表層または表在性の移行帯と、この損傷を受けた関節軟骨表面の部位の下の軟骨または軟骨下骨とによって規定される空間に導入する工程を包含する。
【0052】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、この導入工程は、損傷を受けた関節軟骨表面を処置するために関節鏡検査の手順の一部として行われる。
【0053】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、損傷を受けた関節軟骨表面は、損傷を受けた膝の関節軟骨表面である。
【0054】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、損傷を受けた関節軟骨表面は、損傷を受けた腰の関節軟骨表面である。
【0055】
本発明のこの態様による1つの実施形態において、損傷を受けた関節軟骨表面は、肩関節、肘関節、手関節(手根間関節、手根中手関節、中手間関節、中手指節関節、指節間関節)、および顎関節から選択される関節の損傷を受けた関節軟骨表面である。
【0056】
1つの態様において、本発明は、被験体における変形性関節症を処置する方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、関節の変形性関節症を有する被験体において、この変形性関節症を処置するために、本発明の軟骨細胞/マトリックス組成物の有効量を、損傷を受けた関節軟骨表面の部位を覆う表面領域軟骨と、この関節の損傷を受けた関節軟骨表面の部位の下の軟骨下骨とによって規定される空間に導入する工程を包含する。
【0057】
本発明のこれらまたは他の態様および実施形態は、発明の詳細な説明に関連してより詳細に記載される。
【0058】
図面は、例示であるにすぎず、本明細書中に開示される発明の実施を可能にするための要件ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
(発明の詳細な説明)
本発明は、新しい組織(例えば、軟骨)を成長させる方法、およびそのための組成物、ならびに被験体における損傷を受けた組織を処置するために上記の新しい組織組成物を使用する方法を提供する。
【0060】
(1.定義)
他に規定しない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同様の意味を有する。
【0061】
本明細書中で使用される場合、インビトロ培養のために選択される細胞集団とは、その本来の環境から単離されてインビトロ培養に提供される生細胞の任意の適切な収集物をいう。細胞集団は、細胞型に関して本質的に均質であっても、または不均質であってもよい。例えば、1つの実施形態において、均質な細胞集団は、構築された細胞株、細胞のクローン、成熟幹細胞の供給源、または初代培養の増殖物に由来する細胞の代表試料を含み得る。1つの実施形態において、不均質な細胞集団は、2種以上の細胞型を含み得、かつ、1種以上の構築された細胞株、細胞のクローン、初代培養、およびその任意の組み合わせに由来する細胞の代表試料を含む任意の適切な供給源(1種または数種)に由来し得る。1つの実施形態において、細胞集団は、硝子(例えば、関節)軟骨の供給源から得られる細胞の収集物である。このような集団としては、軟骨細胞、線維芽細胞、皮膚線維芽細胞、および滑膜細胞が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、細胞集団は、本質的に軟骨細胞からなる。1つの実施形態において、細胞集団は、軟骨細胞の前駆細胞を含む。1つの実施形態において、細胞集団は、脱分化した軟骨細胞を示すものを含む。
【0062】
本明細書中で使用される場合、生分解性の非晶質キャリアとは、室温から生理的温度(すなわち、20〜38℃)ではそれ自体の所定の3次元形状が欠如している、任意の適切なヒドロゲルをいい、このヒドロゲルは、哺乳動物細胞のインビトロ培養に適した滅菌条件下で、2週間から約6週間の長期にわたって、かなりの程度まで分解する。このような条件としては、温度、pH、塩、および酵素または組織培養培地成分、補充物質、あるいは直接的かまたは間接的のいずれかでヒドロゲルに作用してその分子量を低下させ得る老廃物の存在が挙げられる。分解は、平均分子量に換算して評価され得る。従って例えば、半分分解されたキャリアとは、このキャリアの初期平均分子量の50%の平均分子量を有するキャリアをいうことができる。あるいは、および同様に、半分分解されたキャリアとは、初期平均分子量材料の開始量のわずか50%しか有さないキャリアをいうことができる。平均分子量を決定する方法としては、比濁分析、比重、クロマトグラフィー、浸透圧、光散乱、および電気泳動が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、分解の程度は、2週間目に少なくとも50%である。1つの実施形態において、分解の程度は、2週間目に少なくとも60%である。1つの実施形態において、分解の程度は、2週間目に少なくとも70%である。1つの実施形態において、分解の程度は、2週間目に少なくとも80%である。1つの実施形態において、分解の程度は、2週間目に少なくとも90%である。1つの実施形態において、分解の程度は、3週間目に少なくとも50%である。1つの実施形態において、分解の程度は、3週間目に少なくとも60%である。1つの実施形態において、分解の程度は、3週間目に少なくとも70%である。1つの実施形態において、分解の程度は、3週間目に少なくとも80%である。1つの実施形態において、分解の程度は、3週間目に少なくとも90%である。
【0063】
「ヒドロゲル」とは、有機ポリマー(天然または合成)が固化または凝固されて、水または他の溶液の分子を閉じ込めてゲルを形成する3次元開放格子構造を作り出す場合に、形成される物質をいう。凝固は、例えば、凝集、凝結、疎水性相互作用、または架橋結合によって起こり得る。
【0064】
1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは架橋されない。例えば、当該分野で公知のいくつかの方法において、特定のヒドロゲルは、混合され、次いで光重合されて、細胞をカプセル化し、3次元の足場を作り出す。例えば、Bryant SJ et al.(2003)J Biomed Mater Res 64A:70−9;Bryant SJ et al.(2002)J Biomed Mater Res 59:63−72を参照のこと。
【0065】
1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、I型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、デキストラン、ヒアルロナン、または他の炭水化物、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール(PEG)、他の生分解性合成ポリマー、およびその任意の組み合わせから選択されるヒドロゲルである。1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、I型コラーゲンを含む。1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、デキストランビーズを含む。生分解性の非晶質キャリアは、その初期平均分子量が、本発明の方法に用いられる半透膜の分子量カットオフよりも大きいように、一般に選択される。しかし、下記のように、生分解性の非晶質キャリアの初期平均分子量は、少なくとも1つの状況においては、本発明の方法に用いられる半透膜の分子量カットオフよりも小さいように選択され得る。
【0066】
本明細書中で使用される場合、細胞を収容するための細胞空間とは、その中に細胞集団および生分解性の非晶質キャリアが配置され、細胞については、インビトロ培養のために直ちに密閉される容器の内部をいう。1つの実施形態において、細胞を収容するための細胞空間は、本明細書中に記載されるような半透膜で作製されたチューブである。1つの実施形態において、細胞を収容するための細胞空間は、本明細書中に記載されるような半透膜で作製された袋である。これらの実施形態の各々において、細胞を収容するための細胞空間は、例えば、このチューブまたは袋の中に細胞をピペットで取ることによって細胞を収容するための閉鎖可能な開口部を備える。閉鎖可能な開口部は、当該分野で公知の任意の適切な方法(例えば、機械的固定、拘束、ヒートシールなどが挙げられる)で密封閉鎖され得る。
【0067】
本明細書中で使用される場合、半透膜とは、特定の分子または溶質を通過させるがその他を通過させない、任意の適切な多孔質壁材をいう。半透膜は、その表面上の細孔の空間分布に関して、均質であっても非均質であってもよい。半透膜は、その表面上の細孔の孔径分布に関して、均質であっても非均質であってもよい。1つの実施形態において、半透膜は、膜の表面上の空間分布および孔径のいずれに関しても、本質的に均質である。このような半透膜の例は、当該分野で周知であり、透析膜、フィルター膜などが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、膜は、チューブに成形される。1つの実施形態において、膜は、袋に成形される。
【0068】
溶質の透過性は、分子の形状、その水和度およびその電荷に依存する。これらの各々は、溶媒の性質、pHおよびイオン強度に影響され得る。一般に、分子サイズは、分子量に換算して便宜的に表され得る。十分に特徴付けられた分子量カットオフを有する半透膜は、当該分野で公知であり、市販されており、そしてこれらの半透膜としては、上記の透析膜、透析チュービング、およびフィルター膜が挙げられる。本発明で用いる膜材料は、一般に、組織培養での使用に適合し、例えば、再生セルロース、セルロースエステル、またはポリビニリデンジフルオリド(PVDF;Spectra/Por(登録商標),Spectrum Laboratories,Inc.,Rancho Dominguez,CA)で作製された半透膜が挙げられる。PVDF膜およびチュービングは、オートクレーブ可能であり、かつ、ヒートシール可能である。透析膜を用いる典型的な用途としては、塩、界面活性剤、洗浄剤および溶媒の除去;サンプル溶液の緩衝およびpH調整;タンパク質、ペプチドまたは抗体の濃縮;DNA電気泳動溶出;電気泳動、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)の前のタンパク質の調製;混入しているミクロ分子の除去;結合研究;ならびに組織培養抽出物の精製が挙げられる。
【0069】
半透膜は、規定された分子量カットオフを有する。市販の半透膜としては、100ダルトン(0.1kDa)〜1,000,000ダルトン(1000kDa)の範囲の基準分子量カットオフを有する半透膜が挙げられる。透析膜の孔径は、一般に、溶質の90%が膜によって保持される(透過が阻止される)分子量に換算して表される。1つの実施形態において、半透膜の孔径は、溶質の少なくとも90%が膜によって保持される(透過が阻止される)分子量に換算して表される。
【0070】
1つの実施形態において、半透膜は、電荷中性である。すなわち、半透膜自体は正味の電荷を本質的には有さない。このような膜は、溶質分子をその電荷とは無関係に、その分子サイズに基づいて通過させる。1つの実施形態において、半透膜は、正味の正電荷を有する。1つの実施形態において、半透膜は、正味の負電荷を有する。1つの実施形態において、正味電荷は、下層の電荷中性の膜に適用されるコーティングによって提供される。この電荷またはコーティングは、膜の両側または片側のみ(例えば、チューブの形状をした膜の内側)に存在し得る。例えば、1つの実施形態において、半透膜は正味の正電荷を有し、ポリ−L−リジンでコーティングされた半透膜である。正味の正電荷は、正に帯電した溶質(サイズのみによれば膜を通過したであろう溶質を含む)に反発するように作用する。
【0071】
本明細書中で使用される場合、生分解性の非晶質キャリアと接触してインビトロで増殖させた細胞集団とは、培養基(ここで、細胞が、本明細書中に記載されるように生分解性の非晶質キャリアと接触する)に入れた初期の細胞集団よりも多数の細胞集団を含む、インビトロ組織培養産物をいう。生分解性の非晶質キャリアは、半透膜によって細胞空間内に保持された非晶質キャリアの分解産物を含む。1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアと接触してインビトロで増殖させた細胞集団は、細胞によって産生され、そして半透膜によって細胞空間内に保持された、細胞外マトリックス材料をさらに含む。このような後者の産物は、本明細書中で使用される場合、本発明の方法に従って生成される細胞/マトリックス組成物と呼ぶ。この組織培養産物は、ゲルまたは粘稠液として硬質容器(例えば、シリンジまたは套管針)中に導入され、そしてこの硬質容器の開口部を通って押し出され得るように、一般に非晶質である。
【0072】
本明細書中で使用される場合、軟骨とは、軟骨細胞、および軟骨細胞によって産生される非晶質のゲル様マトリックス中に包埋される細胞外線維を含む、分化した、無血管性の形態の結合組織をいう。軟骨は、関節面と同様に、体重を支える長骨の形成のための基礎を提供する。主要な3つのタイプの軟骨は、硝子軟骨、弾性軟骨、および線維軟骨であり、なかでも、硝子軟骨が最も一般的である。硝子軟骨は、長骨の関節面に存在する他、成体の肋骨の腹側端、気管軟骨、および喉頭にも見出され得る。硝子軟骨は、組織学的には、ムコ多糖(例えば、コンドロイチン硫酸)およびコラーゲン(特に、II型コラーゲン)に富む主要な細胞外硝子マトリックスに囲まれ、その中にカプセル化された、単離した軟骨細胞として現れる。軟骨は、おそらくその無血管の性質のために、治癒能力が一般に制限されている。
【0073】
19種類を超えるコラーゲンの型が同定されており、なかでも、I型、II型、III型およびIV型は、最も良く特徴付けられている。最も豊富な形態であるI型コラーゲンは、皮膚、靭帯、腱、硬骨、および大動脈中に見出され、2つの同一のα1(I)鎖と1つのα1(II)鎖で構成されている。II型コラーゲンは、薄い原線維のアーケードを形成し、軟骨の乾燥重量のおよそ40〜50パーセントを占めており、3つの同一のα1(II)鎖で構成されている。III型コラーゲンは、主に大動脈のような大きな血管に見出され、そして皮膚、靭帯、および腱にはより少量見出され、3つの同一のα1(III)鎖で構成されている。非線維性IV型コラーゲンは、基底膜中に存在する。
【0074】
本明細書中で使用される場合、関節軟骨表面とは、可動結合の(可動の、滑膜で覆われた)関節の関節面を覆う硝子軟骨の層の任意の面をいう。関節面は、所定の関節の自然な可動域全体に関与する関節面の任意の部分を含む。
【0075】
本明細書中で使用される場合、損傷を受けた関節軟骨表面とは、なんらかの理由で物理的に欠損した任意の関節軟骨表面をいう。例えば、関節軟骨表面は、例えば外傷によって急性の損傷を受け得るか、あるいは、関節軟骨表面は、例えば反復衝撃負荷または圧力損傷、痛風および関節炎(例えば、変形性関節症)を含む任意の炎症プロセス、感染症、自己免疫疾患(例えば、慢性関節リウマチ)、無菌壊死、および鎌状赤血球貧血によって慢性的に損傷を受け得る。損傷は、正常な関節軟骨表面(例えば、対応する対側の関節に存在し得るような)と比較して、関節軟骨表面の非薄化または破壊となって現れ得る。正常な関節軟骨表面は、病気に罹患していないかまたは関与していない対応する任意の関節軟骨表面を参照して規定され得る。1つの実施形態において、損傷を受けた関節軟骨は、X線撮影法(例えば、平面X線による)、コンピュータ断層撮影(CT)画像診断、および磁気共鳴画像法(MRI)で可視化され得る。例えば、脛大腿骨空間または他の関節空間の狭小化のX線撮影像は、高頻度に、関節軟骨の非薄化を示すと考えられる。
【0076】
軟骨形成に対する静水圧の影響が報告されているが、例えば、軟骨盤 対 軟骨細胞(懸濁されたかまたは培養された)の使用、被圧 対 不圧モデル、および静圧 対 間欠(周期的)圧力の適用のような、複雑かつ一貫性のない方法論によって、データ解釈は困難になっている。軟骨および軟骨細胞に対する機械的刺激の影響は、Mow VC et al.(1999)Osteoarthritis Cartilage 7:41−58およびMizuno S et al.(1998)Mat Sci Eng C6:301−6によって概説されるように、被圧および不圧モデルの特注設計装置を用いて試験された。不圧モデルにおいて、軟骨の圧縮荷重により、組織の変形、ならびに静水圧、流体の浸出、および流動電位の変化が導入された。Maroudas A(1975)Biorheology 12:233−48;Comper WD et al.(1993)Biochem J289:543−7。このモデルはまた、細胞形態を顕著に変化させ得る。Guilak F et al.(1995)J Ortho Res 13:410−21;Guilak F(2000)Biorheology 37:27−44。
【0077】
インビトロでの実験は、軟骨代謝に対する生物物理的力の影響を評価するために、軟骨盤を頻繁に使用してきた。0〜3MPaで12時間の静的圧縮により、硫酸塩およびプロリンの取り込みの間の逆相関が明らかになった。Gray M et al.(1988)J Ortho Res 6:777−92。ウシ関節軟骨の切片への硫酸塩およびプロリンの取り込みに対する静水圧の影響は、圧力の大きさおよび持続期間に依存する。Hall A et al.(1991)J Ortho Res 9:1−10。生理的レベルの圧力(5〜10MPa)を20秒間または2時間かけると、その後のマトリックス合成が刺激され、一方、20MPaの圧力を2時間連続的にかけると、マトリックス合成が減少した(同書)。しかし、動的または間欠的な圧縮に対する生合成の応答は、荷重負荷の頻度および振幅に依存して、刺激されても阻害されてもよい。Sah RLY et al.(1989)J Orthop Res 7:619−36;Ostendorf RH et al.(1994)J Rheumatol 21:287−92;Palmoski MJ et al.(1984)Arthritis Rheum 27:675−81;Klein−Nulend J et al.(1987)J Biol Chem 262:15490−5;Torzilli PA et al.(1997)J Biomech 30:1−9;Buschmann MD et al.(1996)J Cell Sci 109:499−508;Mankin KP et al.(1998)J Pediatr Orthop 18:145−8。
【0078】
圧力誘起による損傷とそれに続く流動電位は、ECM合成の強力な刺激因子であり得る。Kim Y et al.(1994)Arch Biochem Biophys 311:1−12;Bachrach NM et al.(1998)J Biomech.31:445−51;Kim YJ et al.(1995)J Biomech 28:1055−66。しかし、関節軟骨の固体マトリックスは、12MPa以下の静水圧を受けた場合には圧縮され得ない。Bachrach NM et al.(1998)J Biomech.31:445−51。さらに、静水圧は、細胞体積に影響を及ぼさない。Bushmann et al.は、軟骨組織の変形が細胞形態の変化よりも強力な刺激であることを示唆した。Buschmann MD et al.(1995)J Cell Sci 108:1497−1508。静水圧が軟骨細胞に影響を及ぼす形質導入機構は不明瞭であるが、静水圧の影響の一部は、軟骨盤を用いて、および単離軟骨細胞の単層を用いて、インビトロで試験されてきた。
【0079】
培養軟骨細胞および軟骨盤に対する周期的な静水圧の影響は、Parkkinen et al.(1993)Arch.Biochem.Biophys.300:458−65によって比較された。硫酸塩の取り込みは、0.5Hz、0.25Hzまたは0.05Hzの繰返し荷重に1.5時間供した細胞培養において阻害されたが、0.5Hzの繰返し荷重に1.5時間供した軟骨盤においては刺激された。より長い荷重負荷(20時間)に供したウシ軟骨細胞培養物は、0.05Hzおよび0.25Hzで硫酸塩の取り込みの刺激を示したが、0.0167Hzでは阻害を示した(同書)。この研究者らは、細胞/マトリックス相互作用が、細胞機能に対する周期的な静水圧の作用に影響を及ぼすと結論付けた。
【0080】
さらに、代謝の刺激が、流体流動および/または細胞形態の変化に関連するという見解を支持するデータ(Guilak F et al.(1995)J Ortho Res 13:410−21;Kim Y et al.(1994)Arch Biochem Biophys 311:1−12;Bachrach NM et al.(1995)J Biomech 28:1561−9;Lammi MJ et al.(1994)Biochem J 304:723−30)、ならびに流動電位の変化に関連するという見解を支持するデータ(Kim YJ et al.(1995)J Biomech 28:1055−66)がある。静水圧(HP)は、チェンバー中の培地浴溶液を加圧することによって、この培地浴中に懸濁した単離軟骨細胞に間接的に適用された。Hall A et al.(1991)J Orthop Res 9:1−10。このモデルは蓄積された軟骨ECMを含まなかったにもかかわらず、各細胞とHPの間の相互作用は簡単に操作された。単離軟骨細胞を用いた研究により、プロテオグリカン合成およびアグリカンmRNA発現に対する圧力の二相効果も示された。Lammi MJ et al.(1994)Biochem J 304:723−30。500または1000ポンド/平方インチ(psi)に間欠的に曝露された(5秒間の加圧と15秒間の減圧を、1日4時間で5週間まで行った)3次元足場内のグリコサミノグリカン(GAG)蓄積は、加圧しない場合の蓄積よりも大きかった。Hall A et al.(1991)J Orthop Res 9:1−10。
【0081】
単離軟骨細胞を用いた研究により、プロテオグリカン合成およびアグリカンmRNA発現に対する影響が加圧方式に依存することも示された。Lammi MJ et al.(1994)Biochem J 304:723−30。GAG合成は、Smith et al.によれば(Smith et al.は、10MPaで4時間の定圧負荷が、高密度単層培養中の軟骨細胞によるII型コラーゲンおよびGAG合成を、mRNAレベルに影響を及ぼすことなく促進したと報告した)、転写および翻訳に直接依存しないのに対して、間欠的な加圧は、アグリカンmRNAレベルを31%増加させ、かつコラーゲンmRNAレベルを36%増加させた。Mueller SM et al.(1999)J Bone Min Res 14:2118−26。
【0082】
関節軟骨は、軟骨細胞と、2つの主要な巨大分子;すなわちコラーゲンおよびプロテオグリカン(これらの分子は、軟骨細胞によって合成されて、軟骨細胞の周りに堆積される)からなる。軟骨細胞はまた、関節軟骨を浸す関節液も合成する。健康な状態の関節軟骨は、関節でつながった骨端部間に平滑面を形成して、運動によって生じる摩擦を減少させる。この摩擦は、関節液によってさらに減少される。関節軟骨の構造的完全性は、特に腰、膝、肩、および肘の骨格関節の最適な機能の基盤である。骨格関節の機能障害は、運動性を劇的に減少させ、座位から立ち上がるかまたは階段を上り下りするような一般的な活動を損なう。
【0083】
関節軟骨の構造的完全性および適切な機能を維持するために、軟骨細胞は、絶えずコラーゲンおよびプロテオグリカン(摩擦を減少させる関節液と同様に、関節軟骨の主成分である)を合成する。巨大分子および関節液のこの恒常的な合成により、骨端部間の摩擦によって引き起こされる通常の摩耗のほとんどの修復機構が、関節軟骨に提供される。
【0084】
(2.インビトロ培養法)
1つの態様において本発明は、インビトロで細胞を培養する方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、インビトロ培養のために選択された細胞集団を、生分解性の非晶質キャリアと接触させる工程、この接触させた細胞集団を、細胞を収容するための細胞空間(この細胞空間は、100kDaよりも大きく1,000kDa未満の分子量カットオフを有する半透膜で少なくとも一部が囲まれている)に配置する工程、およびこの接触させた細胞集団に周期的に圧力をかける工程を包含する。この方法は、特にECMを産生する細胞に使用するために、既存のインビトロ培養法よりも優れたいくつかの利点を有する。これらの利点としては、ECM産生を増大させる能力、その生体力学的特性に関して天然の組織によりよく似た組織を産生する能力、高分子量ECM成分の選択的保持、および直接流体剪断応力からの細胞の保護が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
本発明に従うインビトロ培養の方法は、被験体に天然に存在する細胞/マトリックスの変性した部位(例えば、損傷を受けた軟骨組織の部位)を充填し、それによって修復する注射可能なペーストとして用いられ得る細胞/マトリックス構築物を調製するのに用いられ得る。
【0086】
組織細胞および/または組織前駆細胞は、ドナー(たとえば、患者自身の細胞)から、ドナー由来の細胞の培養物から、単離された幹細胞から、または樹立細胞培養株から、直接得られるかあるいは誘導され得る。種々の実施形態において、ドナーは、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、雌ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、またはヒトである。同じ種かまたは異なる種の、そして好ましくは同じ免疫学的プロフィールの細胞は、被験体または近親者(例えば、生物学上の親または同胞)のいずれかから、生検によって得ることができる。
【0087】
免疫反応を誘発し得る細胞(例えば、レシピエントと同じ種の免疫学的に異なるドナー由来の細胞)が使用される場合、レシピエントは必要に応じて、例えばコルチコステロイドおよびシクロスポリンのような他の免疫抑制剤のスケジュールを用いて免疫抑制され得る。しかし、自己細胞の使用により、このような免疫反応およびこのような免疫抑制療法の必要性は回避される。
【0088】
細胞は、ドナーから直接得られ、洗浄され、そして選択されたヒドロゲル中に懸濁された後に、細胞培養空間へ送達される。細胞は、細胞培養空間へ挿入する直前に、ヒドロゲルを添加されるかまたはヒドロゲルと混合され得る。あるいは、細胞および非晶質キャリアは、別々にかつ連続的に(1番目に細胞で2番目にキャリアが、またはその逆のいずれかで)細胞培養空間内に導入され得るが、ただし、細胞とキャリアの両方が一旦細胞培養空間内に入ると、これらは完全に混合され得る。さらに、細胞増殖は、適切な成長因子または他の組織培養成分(これは、選択された細胞型の増殖を特異的かもしくは非特異的に支持する)をインビトロ培養培地に添加することによって、増強され得る。
【0089】
生検によって得られた細胞は、必要に応じて採取され、培養され、次いで混入している望ましくない細胞を除去するために必要な場合には継代された後に、本発明のインビトロ培養法に用いられ得る。
【0090】
軟骨細胞は、供与部位または供給源からの無菌的切除後に単離され、次いで、添加物を含まないダルベッコ改変イーグル培地(DMEM,Gibco)中の0.2%のII型コラゲナーゼ(Gibco)および5%のウシ胎仔血清(Gibco)の溶液を用いて、37℃で最大17時間、回転式振盪機上で消化され得る。次いで、この溶液を、70mmナイロン細胞ストレーナーを通してろ過し、そして1000rpmで10分間遠心分離し得る。上清の吸引またはデカンテーションの後、このペレットを、1%のペニシリン・ストレプトマイシン(Gibco)および0.02%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA,Aldrich)を補充したリン酸緩衝化生理食塩水(PBS,Gibco)中に再懸濁した。次いで、この溶液をさらに2回遠心分離し、そしてPBS中に再懸濁した。軟骨細胞数および生存度は、トリパンブルー排除および血球計を用いて決定される。
【0091】
培養物中に配置される細胞数は、細胞の種類、所望の新生組織の体積、および培養時間に応じて変化し得る。典型的な用法において、培養物中に配置される細胞数は、細胞培養空間の容積によって決定される(すなわち、初期細胞密度または播種細胞密度として決定される)。例えば、培養物中に配置される細胞数は、典型的には約1×10〜1×10細胞/mlの範囲であり、そしてより典型的には約1×10〜1×10細胞/mlの範囲である。細胞が培養物中で成長および分裂すると、それに応じて全体の細胞密度も増加する。
【0092】
1つの実施形態において、細胞は、軟骨細胞および必要に応じてその前駆細胞を含む。例えば、適切な条件下では、線維芽細胞は軟骨細胞に分化させることができる;従って、線維芽細胞は軟骨細胞前駆細胞とみなされ得る。他の細胞は、間葉系幹細胞を含む軟骨細胞前駆細胞であり得る。
【0093】
1つの実施形態において、すべての細胞または本質的にすべての細胞が軟骨細胞である。存在する細胞の種類は、任意の適切な方法によって評価され得、この方法としては、例えば、組織学検査、細胞表面タンパク質分析、生化学的または他のECM特性決定、蛍光標示式細胞分取(FACS)、核転写分析、酵素結合免疫蛍光測定法(ELISA)、ウエスタンブロット法、免疫組織化学、電子顕微鏡検査法、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析、および当業者に公知の他の方法が挙げられる。
【0094】
生分解性の非晶質キャリアは、生体適合性であり、かつ、数週間から数ヶ月間の間に実質的から完全にまで生分解される、任意の適切な天然または合成材料である。1つの実施形態において、非晶質キャリアは、I型コラーゲンを、例えば、培地または他の生理学的に受容可能な流体中の0.3%のI型コラーゲン溶液(w/v)として含む。I型コラーゲンは、種々の形態で市販されている。I型コラーゲンは、本発明の方法に用いられる前に、溶媒交換を含む標準技術を用いて、望ましくない塩、保存料、または他の薬剤から単離され得る。このような技術としては、例えば、遠心分離、限外濾過、透析などが挙げられる。
【0095】
特定の実施形態において、生分解性の非晶質キャリアは、デキストランビーズであるか、またはデキストランビーズを含む。種々の実施形態において、生分解性の非晶質キャリアには、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ヒアルロナン、およびその任意の組み合わせから選択されるヒドロゲルが含まれる。これらの各々は、本明細書中に記載されるような特定の分子量カットオフの半透膜での使用に適切であるように、各々の分子量に基づいて選択され得る。より具体的には、生分解性の非晶質キャリアの初期分子量は、半透膜によって細胞培養空間内に実質的に保持されるように選択される。より大きな分子量型の生分解性の非晶質キャリアは膜を透過しないが、生分解性の非晶質キャリアのより低分子量の分解生成物は、生成されるとそのまま膜を透過し、それによって細胞培養空間を出て培地中に失われる。
【0096】
特定の実施形態において、細胞を収容するための細胞培養空間は、細胞およびキャリアを収容するための閉鎖可能な開口部を有する半透膜チューブまたは袋(例えば、透析チューブ)である。細胞およびキャリアが細胞培養空間内に導入された後、閉鎖可能な開口部が任意の適切な方法で閉じられることによって、得られた完全な構造体(すなわち、細胞およびキャリアを含む閉じられた半透膜チューブまたは袋)は、適切な培地中に浸漬され得るか、または適切な培地と接触して配置され得る。
【0097】
半透膜の分子量カットオフ(MWCO)サイズは、細胞、ECM、および生分解性の非晶質キャリアの高分子量成分を保持し、一方、キャリア、栄養分、老廃物、およびガスの低分子量分解生成物と培地との交換を可能にするように選択される。当然ながら、キャリア、栄養分、老廃物、およびガスの低分子量分解生成物は、一般に濃度勾配に従って低い方へ流れるので、例えば、キャリアの低分子量分解生成物が細胞培養空間から出る。理想的に、膜のMWCOサイズは、キャリアの初期分子量および生物分解速度の知見に基づいて選択される。例えば、比較的分解の速いキャリアは、高分子量キャリアの除去と高分子量ECMの同化の速度論が類似するように、比較的分解の遅いキャリアに用いられるよりも小さなMWCOを有する半透膜で用いられるべき場合がある。MWCOの選択は、過度の実験を行うことなく、下記の実施例に記載される技術を用いてなされ得る。
【0098】
従って1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも200kDaのMWCOを有する。1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも250kDaのMWCOを有する。1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも300kDaのMWCOを有する。1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも400kDaのMWCOを有する。1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも500kDaのMWCOを有する。1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも600kDaのMWCOを有する。1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも700kDaのMWCOを有する。1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも800kDaのMWCOを有する。1つの実施形態において、半透膜は、少なくとも900kDaのMWCOを有する。1つの実施形態において、半透膜は、1,000kDaのMWCOを有する。
【0099】
いくつかの実施形態において、半透膜は、正味の正電荷または負電荷を有するように処理され得、それによって、適切なサイズの同様に帯電した溶質および逆に帯電した溶質の、膜を横切る流動に影響を及ぼす。1つの実施形態において、半透膜は、正味の正電荷を有する。1つの実施形態において、半透膜は、カチオンまたはポリカチオン(例えばポリ−L−リシン)でコーティングされる。透析チュービングの場合、このようなコーティングは、膜をポリ−L−リシンの溶液中に単に浸すことによって、便利に達成され得る。
【0100】
静止状態では、アルブミンのような大分子は、プロテオグリカン凝集体から本質的に除外される。Ogston AG et al.(1973)Proc R Soc Lond A333:297−316。周期的な2.8MPaの荷重を関節軟骨盤に負荷すると、アルブミンの輸送が顕著に増強されたことが報告された。O’Hara BP et al.(1989)Ann Rheum Dis 49:536−9。一旦、軟骨細胞が細胞周囲ECMを蓄積すると、ECMは、可溶性因子が細胞表面レセプターに結合するのを阻止し得る。Ogston AG et al.(1973)Proc R Soc Lond A333:297−316。従って、細胞周囲マトリックスの蓄積によって培養物中のマイトジェンの利用可能性が経時的に低下し、静水圧によって必要な調節因子の輸送が補助され得ることが予想される。
【0101】
他の大分子と比較して、主要な軟骨ECM成分であるプロテオグリカンは、高い浸透圧を有する。プロテオグリカン凝集体(アグリカン)は、NaおよびCa2+のような遊離カチオンと相互作用する−COOおよび−SO3−の多数の固定アニオンを含む。蓄積するプロテオグリカンが多いほど、浸透圧も増加する。さらに、浸透圧の増加により、細胞周囲のプロテオグリカンの張力が増大する。浸透圧は、袋の内側と外側(潅流媒体相)の間の浸透圧物質(osmolite)の勾配により生じる。これらの浸透圧のバランスは、組織形態形成および組織形成に影響を及ぼすと予想される。
【0102】
半透膜を介して、培地中の浸透圧は、コンドロイチン硫酸および硫酸デキストラン(規定の分子量の)のような大量のECM成分の添加によって変化する。外部にかかった静水流体圧および内部で生じた浸透圧により、溶質の物質移動が変化する。静水圧と浸透圧の間のバランスにおいて、軟骨細胞周囲のECMの影響を考慮する必要がある。ヒト大腿骨頭の表面および石灰化領域のインサイチュ浸透圧は、それぞれ310〜370mOsmおよび370〜480mOsmである。天然軟骨のECM浸透圧は、標準培地のECM浸透圧よりも高い。培地中の浸透圧は、コンドロイチン硫酸またはデキストランの添加によって変化し得る。
【0103】
インビトロ培養の方法は、培養中の細胞集団への加圧を含む。典型的には、圧力は、膜を介して伝達可能な静水流体圧として、約0.5〜約5MPaのレベルで適用される。生理的レベルの圧力(5〜10MPaの間の範囲)もまた、本発明によって意図される。静置培養条件(すなわち、環境大気圧)下でのキャリア中の軟骨細胞の増殖はわずかであったが、キャリア中の軟骨細胞に静水圧を適用することにより、細胞増殖および細胞によるECM産生が改善される。1つの実施形態において、圧力は、0.001〜1Hzで0.5〜3.5MPaの静水流体圧として適用される。
【0104】
(3.培養デバイス)
本発明のインビトロ培養法を実施するのに有用な装置は、米国特許第6,432,713号(その内容全体が、参考として本明細書中に援用される)に開示される。手短に言うと、米国特許第6,432,713号に開示されるように、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、細胞または組織をその中に含む培養チャンバーを備え、かつ、培地を供給する、培養ユニット(培養回路ユニット)、該培養チャンバー内の細胞または組織に圧力を適用するための加圧手段(加圧装置)、および該培養ユニットに断続的または連続的に培地を供給するための培地供給手段(培地供給装置)を備えることを特徴とする。
【0105】
すなわち、培養ユニットは、培養チャンバー内で培養される細胞または組織を収容して、外気から隔離されている細胞または組織に必要な培地を供給する。この外気から隔離される細胞または組織は、細菌などによる汚染から保護されるため、優れた品質を有する組織に成長する。培地による液圧および流動によって生じる物理的刺激に加えて、加圧手段による所望の圧力が、細胞または組織に適用される。その結果、代謝機能、細胞分裂周期、濃度勾配または生体刺激の分散に影響を及ぼすので、培養が増強される。細胞または組織への培地の供給様式は、培地供給手段によって任意に設定され、培地が細胞または組織に断続的または連続的に供給され得るので、種々の物理的刺激によって培養が増強される。培地の供給様式は、常に新しい培地を供給するか、培地を繰り返し循環させることによって培地を供給するかの一方または両方を含む。培地の循環様式では、培地を節約できるだけでなく、一方向に培地を供給する場合、培地の濃度のばらつきを防止するという利点がある。
【0106】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、加圧手段または培地供給手段を制御するための制御手段をさらに提供することを特徴とする。すなわち、加圧手段または培地供給手段は任意に制御され得るが、フィードバック制御またはフィードフォワード制御およびプログラム制御などのような種々の制御が、コンピュータのような制御手段を用いて実行され得る。中断による人的収集制御(personal collection control)を加えることは言うまでもなく、この収集制御は除外されない。
【0107】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、加圧手段から細胞または組織に適用される圧力が、この細胞または組織に合わせて任意に設定され得ることを特徴とする。加圧様式(すなわち、圧力パターン)は、培養される細胞または組織に応じて設定されるので、効率的な培養が行われる。
【0108】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、加圧手段から細胞または組織に適用される圧力が、断続的に変動する圧力であるか、所定の時間ごとに繰り返される圧力であるか、または所定の時間ごとに増加もしくは減少する圧力であることを特徴とする。すなわち、圧力パターンはあらゆる様式が考えられるので、圧力パターンの様式を選択することによって、細胞または組織を効率的に培養し得る。
【0109】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、培養ユニットが培養装置本体から独立しており、かつ、培養装置本体から取り外されることを特徴とする。すなわち、培養細胞または組織を収容するための培養チャンバーを備える培養ユニットは、培養装置本体から独立しており、かつ、培養装置本体から取り外され得るので、細胞または組織は、外気から隔離された培養ユニットとともに移動され得、この動作中に細胞または組織が細菌によって汚染されることから保護され得る。
【0110】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、培養ユニットが、外気から隔離された密閉空間内に収容されていることを特徴とする。すなわち、この密閉空間は培養空間であり、外気から隔離されているので、所望のガスを供給することによって培養環境を設定し、細胞または組織を外気による汚染から保護することが可能である。
【0111】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、この培養装置が、窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガスを吸収可能なガス吸収手段をさらに備えることを特徴とする。すなわち、窒素ガス、酸素ガス、または炭酸ガスのいずれか1種あるいはこれらの組み合わせが密閉空間内に収容された培養ユニットに供給され得、かつ、この培養ユニット内にガス吸収手段が設けられることによって、ガスが細胞または組織に適用され、かつ、ガスを供給および制御することによって生物環境が模倣され得る。
【0112】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、密閉空間が窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガスで満たされていることを特徴とする。すなわち、窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガスが、密閉空間によって形成される培養空間内に満たされると、生体環境が模倣され得る。
【0113】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、培養ユニットに供給される培地を貯蔵するための培地タンクをさらに備えることを特徴とする。すなわち、培地供給源は、必要な培地を培養ユニットに供給するかまたは循環させるのに必要であり、培地タンクは供給源である。特に、培地タンクが外気から隔離された密閉空間内に設置されている場合、培養ユニット中に保持された培地が汚染されるのを防止することが可能である。
【0114】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、培養チャンバーが、外部からの圧力を受けるための圧力伝達フィルムを備えることを特徴とする。すなわち、圧力伝達フィルムを備えることによって、外気から隔離された状態で培養チャンバー内に収容された細胞または組織に加圧刺激を適用すること、および生体環境を模倣する刺激のような所望の加圧刺激を実現することが可能である。
【0115】
1つの実施形態において本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、培養チャンバーが圧力緩衝手段を備えることを特徴とする。すなわち、培養ユニットの一部が加圧される場合、圧力緩衝手段により圧力を調節することによって、生体環境に類似した物理的刺激を実現すること、および細胞または組織の培養を増強することが可能である。
【0116】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、この装置が圧力伝達フィルムによって培養チャンバーに固定される圧力チャンバーをさらに備えること、および、水圧、油圧または空気圧が培養チャンバー内の細胞または組織に作用できるようにすることで培養チャンバー内の細胞または組織に圧力が適用されることを特徴とする。すなわち、圧力生成手段として水圧、油圧、または空気圧のいずれかを用いることによって、所望の加圧刺激を実現すること、および高精度で生体環境を模倣することが可能である。
【0117】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、培地供給手段が、培養ユニット内に備えられた培地供給チャンバーと、この培地供給チャンバー内に取り込まれた培地を加圧してこの加圧培地を供給するための培地供給ユニットとを備えることを特徴とする。すなわち、培地供給手段は、培地を培養ユニットに供給および循環させるための手段であって、種々の型で構成され、例えば、培地チャンバーおよび培地供給チャンバー内に取り込まれた培地を加圧するための培地供給ユニットで構成される場合、所望の培地供給量を設定するために加圧量が制御され得る。
【0118】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、逃がし弁が培養物中に提供されることを特徴とし、培地の圧力が逃がし弁に任意に設定される所定の圧力を上回った場合、逃がし弁が開いて培地の圧力を低下させる。すなわち、細胞または組織に理想的な加圧刺激を適用するために、培養物に適用される圧力を緩衝することが重要である。1つの手段として圧力逃がし弁が用いられ、培地の圧力が逃がし弁に任意に設定される所定の圧力を上回った場合に、この弁が培地の圧力を低下させるために開く場合、培地を汚染することなく培地が理想的な圧力状態に制御される。
【0119】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、加熱手段または加湿手段が密閉空間内に備えられ、かつ、この密閉空間が所望の温度または湿度に維持および制御されることを特徴とする。すなわち、培養ユニットが収容される密閉空間の温度および湿度を制御することによって、生体環境に適合した培養空間を提供することが可能である。
【0120】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、培養ユニット内の培養チャンバー内に超音波などの音波を適用するための音発生ユニットを特徴とする。すなわち、生体は外部から音刺激を受けるので、音発生ユニットを一緒に用いることによって生体環境を音響的に模倣することが可能であり、かつ、高い信頼性で超音波をともに用いることによって培養チャンバー内で培養される細胞または組織を注入することが可能である。
【0121】
1つの実施形態において、本発明に従って細胞または組織を培養するための装置は、密閉空間に供給されるガスの濃度を制御するための制御手段をさらに備えることを特徴とする。すなわち、密閉空間に供給されるガスの濃度を制御手段によって制御することにより、生体環境を模倣して、細胞または組織の培養を増強させることが可能である。
【0122】
(4.組成物)
特定の態様において本発明は、本発明のインビトロ培養法によって生成される組成物を提供する。これらの組成物は一般に、インビトロで増殖させた細胞集団を含み、この細胞集団は、生分解性の非晶質キャリアと接触し、そして少なくとも一部が半透膜で囲まれた細胞空間内に含まれる。本発明の組成物は、本発明の臨床的方法に(例えば、被験体における損傷を受けた組織を処置するために)用いられ得る。
【0123】
1つの態様において、本発明は、生分解性の非晶質キャリアと接触してインビトロで増殖させた細胞集団を含む組成物を提供する。1つの実施形態において、細胞集団は、軟骨細胞および必要に応じてその前駆細胞を含む。1つの実施形態において、細胞は、本質的に軟骨細胞からなる。生分解性の非晶質キャリアとしては、本明細書中で先に記載したように、I型コラーゲン、デキストランビーズ、デキストラン、コンドロイチン硫酸、PEG、ヒアルロナン、またはその任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。前述のものに加えて、本発明のこれらの態様による生分解性の非晶質キャリアには、インビトロ培養のいずれかの時点で細胞集団と接触して配置される生分解性の非晶質キャリア材料から生じる、残りの高分子量材料が含まれる。代表的な実施形態において、本発明のこの態様に従う残りの生分解性の非晶質キャリアには、インビトロ培養の初めに細胞集団と接触して配置される生分解性の非晶質キャリア材料から生じる、残りの高分子量材料が含まれる。例えば、細胞集団は、数日間から数週間にわたって、典型的には1週間から6週間にわたって、より典型的には3〜6週間にわたって、そして最も典型的には3〜4週間にわたって培養物中に維持され得、この期間中に、生分解性の非晶質キャリアは、かなりの程度まで(100%ではないが最大約100%まで)分解され得る。1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアはI型コラーゲンである。
【0124】
1つの態様において、本発明は、本発明のインビトロ培養法によって産生される細胞/マトリックス組成物を提供する。本発明のこの態様による1つの実施形態において、軟骨細胞前駆細胞を含むかまたは含まない軟骨細胞集団は、記載のとおりに培養されて、残留した生分解性の非晶質キャリアとともに、インビトロで増殖させた軟骨細胞集団およびこの軟骨細胞によって産生される高分子量の細胞外マトリックス材料を生じ、ここで必要に応じて、これらの細胞、マトリックス材料、およびキャリアは、細胞を収容するための細胞空間内に含まれ、この細胞空間は、100kDaより大きな分子量カットオフを有する半透膜で全部または一部が囲まれる。種々の実施形態において、半透膜は、100kDaより大〜1,000kDa;200kDa〜1,000kDa;250kDa〜1,000kDa;500kDa〜1,000kDa;および1,000kDaから選択される分子量カットオフを有する。本発明のこの態様による生分解性の非晶質キャリアは上記のとおりであり、I型コラーゲン、デキストランビーズ、デキストラン、コンドロイチン硫酸、PEG、ヒアルロナン、およびその高分子量の分解生成物のいずれか1つまたはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、生分解性の非晶質キャリアはI型コラーゲンである。細胞集団は、数日間から数週間にわたって、典型的には1週間から6週間にわたって、より典型的には3〜6週間にわたって、そして最も典型的には3〜4週間にわたって培養物中に維持され得る。
【0125】
細胞/マトリックス生成物が半透膜で囲まれた細胞空間を含む場合、この半透膜は、本発明のインビトロ培養法によって生成された細胞およびこれらの細胞が産生した細胞マトリックスの輸送に好都合な包装形態を提供する。例えば、細胞空間が半透膜製のチューブの形態(例えば、透析チュービング)である場合、この細胞/マトリックス材料を含むチューブは、臨床的な使用のための部位へ一体として移送され得る。さらに、管状の半透膜内に含まれるこのような細胞/マトリックス材料は、例えば、チューブの端部を開くかまたは切り取り、封入された細胞/マトリックス材料をこの開口端からチューブの外に押し出すことによって(練り歯磨きを練り歯磨きのチューブから押し出すように)、チューブから容易に除去され得る。
【0126】
(5.臨床的方法)
本発明はまた、被験体における損傷を受けた軟骨組織を処置する方法も提供する。この方法としては、患者における損傷を受けた関節軟骨表面を処置する方法が挙げられる。概括的に言えば、この方法は、損傷を受けた軟骨組織の部位または損傷を受けた関節軟骨表面への本発明の細胞/マトリックス組成物の有効量を導入する工程を含み、この導入された細胞/マトリックス材料は、生命維持に必要であり、損傷を受けた組織に置き換わって生移植片として留まることにより、損傷を受けた組織を処置する。骨格構造がある組成物とは異なり、本発明の細胞/マトリックス組成物は、それ自体に固有の3次元形状がないので、充填されるべき組織欠損によって規定される形状に容易に合わせられる押し出し成形可能な生成物として、組織空間内に導入され得る。
【0127】
1つの態様において、本発明は、損傷を受けた軟骨組織を処置する方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、損傷を受けた軟骨組織を処置するために、損傷を受けた軟骨組織の部位へ本発明の軟骨細胞/マトリックス組成物の有効量を導入する工程を包含する。細胞/マトリックス組成物は、使用目的に適した任意の方法を用いて、この部位へ導入され得る。1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物は、損傷を受けた軟骨組織の部位へ、例えば、シリンジ、カニューレ、または套管針を用いて押し出される。1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物は、切開手法の一部としてこの部位へ導入され得る。1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物は、いわゆる低侵襲手技(例えば、関節鏡検査の手順)の一部として、この部位へ導入され得る。
【0128】
1つの実施形態において、この方法は、損傷を受けた椎間板を処置するための方法である。椎間板は、脊柱を形成する隣接した椎体間の半弾性のクッションとして機能する。椎間板は、総合すると、ヒトの脊柱の長さの4分の1を占める。各椎間板は、中心部、髄核、および周辺部(線維輪)からなる。若年成人の半流動体の髄核は、大量の水と少量の軟骨細胞を含むが、加齢に伴い、水分含量が減少して線維軟骨に置き換わる。線維輪は線維軟骨で構成されており、通常は内部髄核を保持して、この内部髄核が脱出するのを防止している。椎間板の損傷は一般によく起こることであり、急性および慢性の背部痛、坐骨神経痛、筋衰弱、下垂足、麻痺、対麻痺、膀胱性尿閉、および医学分野の当業者によく知られている他の症状に関連する。
【0129】
1つの態様において、本発明は、損傷を受けた関節軟骨表面を処置する方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、損傷を受けた関節軟骨表面を処置するために、本発明の軟骨細胞/マトリックス組成物の有効量を、損傷を受けた関節軟骨表面の部位を覆う表面領域軟骨と、この損傷を受けた関節軟骨表面の部位の下の軟骨または軟骨下骨とによって規定される空間に導入する工程を包含する。関節軟骨表面の欠損が生分解性ポリマー(例えば、フィブリン接着剤)で充填される場合、新生軟骨細胞の薄層がこの接着剤の表面全体に成長して広がることが、本発明に従って見出された。この表面領域軟骨の形成と同時に、フィブリン接着剤が分解され、その結果、経時的に接着剤が再吸収され、元の表面欠損の部位を覆う薄い表面領域軟骨だけが後に残る。以前に接着剤が占めていた空間は、本発明の方法による新しい軟骨の導入のための部位として機能し得る。本発明のインビトロ培養方法に従ってインビトロで増殖させた軟骨細胞は、表面領域軟骨の下に導入され得る。表面領域軟骨はインビトロで増殖させた軟骨細胞/マトリックス組成物を所定の位置に保持するのを補助する一方で、これらの細胞が周囲の軟骨の環境に組み込まれる。
【0130】
1つの実施形態において、軟骨細胞は、処置される被験体の組織に由来する。例えば、細胞は、損傷を受けた関節面の部位の前処理(この部位の壊死組織切除および欠損部位へのフィブリン接着剤の導入を含む)の際に、この部位から採取され得る。次いで、フィブリン接着剤がインサイチュで分解を受けている間に、被験体自身の細胞が上記のようにインビトロで増殖され、次いで、細胞/マトリックス組成物が適切に増殖または成熟すると、被験体に戻される。生命維持に必要な細胞/マトリックス組成物の導入後にもフィブリン接着剤の分解が継続すると予想されるので、細胞/マトリックス組成物の導入時でのフィブリン接着剤の分解の程度は、完全である必要はない。
【0131】
1つの実施形態において、軟骨細胞は、処置される被験体以外のドナーの組織に由来する。ドナーは、同種異系間であっても異種間であってもよい。例えば、細胞は、屍体または生体ドナーの関節軟骨表面から採取され得る。次いで、ドナーの細胞は上記のようにインビトロで増殖され、次いで、細胞/マトリックス組成物が適切に増殖または成熟すると、被験体に投与される。
【0132】
1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物を空間内に導入する工程は、損傷を受けた関節軟骨表面を処置するために関節鏡検査または低侵襲手技の手順の一部として行われる。1つの実施形態において、細胞/マトリックス組成物を導入する工程は、超音波または他の適切な画像ガイダンスの下で、閉鎖手法の一部として行われる。1つの実施形態において、閉鎖手法は、所望の部位への皮内注射を含み得る。
【0133】
今述べた方法は、被験体における多数の関節(膝、腰、肩、肘、手首/手(手根間、手根中手間、中手間、中手指節、指節間)、足首/足(足根間、足根中足間、中足間、中足指節、指節間)、および側頭下顎骨から選択される関節が挙げられるが、これらに限定されない)のいずれかを処置するのに用いられ得る。1つの実施形態において、損傷を受けた関節面は、損傷を受けた膝の関節面である。1つの実施形態において、損傷を受けた関節面は、損傷を受けた腰の関節面である。
【0134】
1つの態様において、本発明は、被験体における変形性関節症を処置する方法を提供する。本発明のこの態様による方法は、関節の変形性関節症を有する被験体において、この変形性関節症を処置するために、本発明の軟骨細胞/マトリックス組成物の有効量を、損傷を受けた関節軟骨表面の部位を覆う表面領域軟骨と、この関節の損傷を受けた関節軟骨表面の部位の下の軟骨下骨とによって規定される空間に導入する工程を包含する。1つの実施形態において、損傷を受けた関節面は、損傷を受けた膝の関節面である。1つの実施形態において、損傷を受けた関節面は、損傷を受けた腰の関節面である。
【0135】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これがさらなる限定であるとはいかなるようにも解釈されるべきではない。
【実施例】
【0136】
(実施例1)
(細胞または組織を培養するための装置)
本発明のインビトロ培養法に用いるのに適した静水圧/灌流培養系(バイオリアクター)を図1に示し、これは米国特許第6,432,713号(その内容全体が、参考として本明細書中に援用される)に記載される。生分解性の非晶質キャリア中における細胞の培養のための半透膜の袋の使用を示す概略図を図2に示す。細胞および生分解性の非晶質キャリアを含む半透膜の袋を培養チャンバー内に配置し、1〜6週間以上の培養期間の間、水平に保ち、かつ、37℃に維持する。
【0137】
(実施例2)
(インビトロでの静水圧適用後の半透膜の袋内の生分解性ポリマーを用いた分子マーカーの物質移動の評価)
静置培養条件ならびに種々の大きさおよび周期の流体圧で、非晶質の細胞キャリア中の分子マーカーの半透膜を介する物質移動を評価するために実験を行った。軟骨ECMは高い分子量を有し、半透膜の袋内に留まる。分解された細胞キャリア残屑(小分子)および代謝廃棄物は、媒体相中に浸出する。静置条件下では、栄養分はフィックの法則に従って袋に浸透し得る。さらに、バイオリアクターを用いて、静水流体圧、媒体流量を規定し、かつ酸素/二酸化炭素濃度を制御して、物質移動を操作する。物質移動のモデルとして分子量マーカーを用いて、一連の実験条件下での物質移動を評価する(表1):0.3%の中性化I型コラーゲン(Vitrogen,Cohesion)、PEG(Coseal,Baxter)、および補充されたヒアルロナン(Smith&Nephew)は、規定された分子量カットオフ(MWCO)サイズの半透膜の袋内に存在する可能性のある細胞キャリアとして評価される。分子量マーカーである少なくとも70kDa、250kDa、および500kDaの蛍光FITC−またはローダミン−デキストラン(Sigma)をキャリアに添加する。硫酸化GAG(S−GAG)は極めて負に帯電しているので、FITC−デキストラン(酸性pI)マーカーを用いて荷電分子を模倣する。マーカー/キャリアを半透性の袋(内径1mm、外径1.2mm、長さ10mm)の中に注入する。この袋をヒートシールし、そして静置条件下で(すなわち、周囲圧力で)、または静水圧をかけて、インキュベートする。これらの袋を、1時間、3時間、12時間、24時間、48時間、および74時間で収集する。次いで、サンプル(マーカー/キャリア材料)をこれらの袋から単離する。サンプルの蛍光強度および容量を測定する。あるいは、膜をポリ−L−リジンでコーティングして、膜の正電荷を増加させる。これにより、負に帯電した軟骨ECMの捕捉効率を変化させ得る。
【0138】
(表1 実験条件および評価方法)
【0139】
【表1】

各培養条件の分子量マーカーの速度論を計算して、各分子量の物質移動係数を求める。膜の電荷の変更は、比電荷の変更によって物質移動に影響を及ぼす。
【0140】
(実施例3)
(半透膜の袋の中の物質移動および非晶質の細胞キャリアの分解に対する静水流体圧の影響)
生分解性の非晶質ポリマー(ヒドロゲルまたはゾル/ゲル可逆性ポリマー)を、組織培養系を用いた規定の細胞培養条件で試験する。半透膜の袋を用いて、細胞構築物および軟骨細胞によって産生された大きな分子量の細胞外マトリックス産物を保持する。袋の性能を、0〜0.5Hzで0〜5MPaの範囲の静水流体圧(HFP)下で、100〜500kDaの分子量カットオフサイズに従って分析する。試験キャリアを袋に注入し、分解速度論に関して評価する。100〜500kDaの範囲の蛍光分子トレーサー(例えば、デキストラン−FITC)をマーカーとして使用する。蛍光強度を、蛍光励起および検出のために適切に選択された波長を用いて、蛍光測定器で測定する。予備研究によれば、デキストラン−FITCは500kDaでは天然の軟骨に浸透しないことが観察された(図3)。従って、500kDa未満の分子マーカーが、本実験で使用するのに適している。
【0141】
予備データにより、架橋したデキストランビーズ形状のポリマーが、通常の培養皿で10日間培養後に溶解することが示された。ヒト関節軟骨細胞はこれらのビーズの表面に接着しなかったものの、これらのビーズは細胞毒性を示さなかった。
【0142】
(実施例4)
(髄核細胞および軟骨細胞による半透性の袋の中での細胞増殖およびECM産生に対する静水流体圧の影響)
ウサギ髄核(NP)由来細胞および廃棄されたヒト椎間板(hIVD)組織を用いて、細胞実験を行う。2〜4週齢の屠殺されたばかりのウサギを、地元の食肉処理場(USDA認可)から購入する。NPおよび線維輪(AF)を腰部IVDから採取する。NP由来細胞およびAF由来細胞を別々に酵素的に単離する。単離したNP細胞およびAF細胞を通常の培養皿に播種して、細胞数を増加させる。全ての組織について表現型を維持するために、継代数を最小限にする。
【0143】
2〜3回の継代後に、細胞を半透膜(MWCOサイズ:100kDa、250kDa、または500kDa)でできた袋の中に播種し、米国特許第6,432,713号に記載の最先端技術の組織工学プロセッサ(図1)を用いて、規定された静水流体圧(HFP)の大きさ、灌流量、およびガス濃度の条件下でインキュベートする。これらの多様な条件を、軟骨細胞の表現型を最大限にするために試験する。予備データから、HFPの大きさ、サイクル周波数、および媒体流速は、生理学的関連範囲の0〜3MPa、0〜0.5Hz、および0.01〜1.0ml/分で変動する。媒体流速は、栄養分とガスの両方の物質移動の最適レベルに応じて変動する。培養の持続期間は、予備データを参照して2日〜21日に設定する。生化学的評価は、最適な時点および播種密度を決定するのに用いられる。
【0144】
廃棄されたヒト組織を、単離したウサギNP由来細胞およびAF由来細胞を用いて規定した最適培養条件で、同じ培養系を用いて試験する。有効なコントロールとして、細胞を、コラーゲンゲル/スポンジ構築物中へ、または少量のコラーゲンゲルとともに袋の中へ播種する。これらの方法は、HFPの処理によって軟骨形成を刺激する標準的な手順である。さらなる任意の評価のための品質保証を維持するために、細胞構築物を培養皿中で1週間インキュベートする。
【0145】
IVD再構築のための細胞の供給源は重要である。なぜなら、インタクトな自己NPを患者から採取することは困難なためである。患者の関節軟骨は、IVD再構築のための細胞供給源としての1つの選択肢である。
【0146】
予備データから、廃棄された脱出組織は線維性であり、細胞単離のために酵素消化を必要とすることが示された。ヒトIVD細胞を培養皿中に播種し、約1〜2週間インキュベートする。接着したIVD細胞を半透性の袋の中に播種し、ウサギIVD由来細胞を用いて規定された最適条件でインキュベートする。予備データから、外因性コラーゲンマトリックス(ゲル)が分解されたことが示された。単離細胞は、線維芽細胞または脱分化した軟骨細胞を含み得る。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)活性を、組織学的および生化学的に評価する。アスコルビン酸のような補充物質を、細胞外マトリックス(ECM)分解に対して保護するために必要に応じて添加する。ECM分解に対して保護するために可能な他の補充物質も試験する。
【0147】
軟骨マトリックスの産生および細胞充実度を、ELISAによって組織学的および生化学的に評価する。培養からのECM蓄積を、全S−GAGについて1,9−ジメチルメチレンブルー(DMB)アッセイによって測定する。II型コラーゲン、アグリカン、およびリンクタンパク質をウエスタンブロット法によって測定する。広範な分子的評価には、軟骨細胞の表現型を規定するためのアグリカンおよびII型コラーゲンのmRNA発現が含まれる。細胞数(DNA濃度)および細胞充実度を、ヘキスト蛍光色素および増殖細胞核抗原(PCNA)アッセイならびに蛍光細胞傷害アッセイで評価する。細胞を静水流体圧/灌流培養から収集し、塗抹した細胞を固定し、そしてPCNAに対するモノクローナル抗体で染色する。
【0148】
組織学。試料を0.1Mカコジル酸緩衝液(pH7.4)中の2%パラホルムアルデヒドで4℃にて24時間固定し、メタクリル酸グリコール(JB−4,Polysciences,Warrington,PA)またはパラフィンのいずれかの中に包埋した。JB−4包埋サンプル(20μm)の切片を、0.2%トルイジンブルーO(Fisher,Franklin,NJ)でpH4にて染色した。
【0149】
ELISA。マトリックス成分の生化学的測定のために、凍結スポンジを外科用ブレードで1mmの小片に刻んだ。8つの複製サンプルの各々を、1mlの4Mグアニジン塩酸塩、10mM EDTA(pH5.8)中で、プロテアーゼインヒビター(0.1Mのε−アミノヘキサン酸および0.005Mの塩酸ベンズアミジン)とともに4℃で48時間抽出した。3,000×gで5分間の遠心分離後、上清を3倍容量の無水エタノール中の1.3%酢酸カリウムで−20℃にて2時間沈殿させ、14,000×gで20分間遠心分離して沈殿を単離した。このエタノール沈殿を2回繰り返し、最終沈殿をプロテオグリカンの測定に用いた。スポンジ内のプロテオグリカンの蓄積を、抗硫酸ケラタン、抗コンドロイチン4−硫酸、および抗コンドロイチンモノクローナル抗体を用いたELISAで評価した。エタノール沈殿物を炭酸塩緩衝液(35mM NaHCO、18mM NaCO、pH9.8)中に溶解し、同様に再沈殿させた。免疫化学的分析のためにサンプルの希釈を行った。ウシ鼻軟骨由来のプロテオグリカンモノマー(ICN Biomedicals)を標準物質として用いた。各サンプルまたは標準物質の50μlのアリコートを96ウェルプレート上に4℃にて一晩コーティングし、リンスし、そして50μlの0.1Mトリス塩酸および0.03M酢酸ナトリウム(pH8.0)中の0.1単位/mlのプロテアーゼを含まないコンドロイチン分解酵素ABC(Seikagaku America,Falmouth,MA)で37℃にて1時間消化した。各ウェルを200μlのブロッキング溶液(BLOTTO,Pierce,Rockford,IL)で処理した。コンドロイチン分解酵素ABC消化で消化した後、コンドロイチンジ−4硫酸プロテオグリカンに対する抗体(Clone;2−B−6,Seikagaku America)をPBS(pH7.4)中で1:3000に希釈して用い、室温で2時間インキュベートした。二次抗体(ヤギ抗マウスIgG+IgM)−ビオチン結合体(Pierce)をPBS中で1:20,000に希釈して用い、1時間インキュベートした。増強のために、ホスファターゼ−ストレプトアビジン結合体(GIBCO/BRL Laboratory)をPBSで1:1000希釈して1時間添加した。工程間に、ウェルを0.05%のTween 20−PBSでリンスした。各ウェルを、22mM炭酸ナトリウム、28mM炭酸水素ナトリウム、および1mM MgClを含む緩衝液(pH9.8)中の4mg/mlのρ−ニトロフェニルホスフェート(GIBCO/BRL Laboratory)100μlとともに1時間インキュベートした。100μlの1N NaOHを添加することによって、各反応を停止した。405nmでの光学濃度を、マイクロタイタープレートリーダー(Bio−Rad,Cambridge,MA)を用いて測定した。
【0150】
ウエスタンブロット法。マトリックス成分の生化学的測定のために、サンプルを、ピストルホモジナイザーを用いて4℃で5秒間ホモジナイズした。ホモジネートを氷上に15分間置き、次いで4℃で5分間3,000rpmで遠心分離した。8つの複製サンプルの各々を、1mlの4Mグアニジン塩酸塩、10mM EDTA(pH5.8)中で、プロテアーゼインヒビター(0.1Mのε−アミノヘキサン酸および0.005Mの塩酸ベンズアミジン)とともに4℃で48時間抽出した。Mizuno S et al.(1996)Exp Cell Res 227:89−97。3,000×gで5分間の遠心分離後、上清を3倍容量の無水エタノール中の1.3%酢酸カリウムで−20℃にて2時間沈殿させ、14,000×gで20分間遠心分離して沈殿を単離した。このエタノール沈殿を2回繰り返し、最終沈殿をプロテオグリカンの測定に用いた。ゲル内のプロテオグリカンの蓄積を、抗コンドロイチン4−硫酸モノクローナル抗体を用いて評価した。
【0151】
各サンプルのアリコート(20μl)を、SDS−PAGEゲル(Invitrogen)を用いた電気泳動にかけた。150mVでの電気泳動後、各ゲルを、PVLA膜(Pharmacia)に25mVで45分間転写した。この膜を、5%の脱脂粉乳を含むTween−20 PBSで、室温にて一晩ブロッキングした。この膜を、一次抗体中、4℃にて一晩インキュベートした。この膜を、Tween 20−PBSで、5分間3回洗浄した。化学ルミネセンスによる検出のために、タンパク質ブロットを、タンパク質側を上にしてポリ塩化ビニリデンラップ上に配置し、このブロットに、製造業者の説明書に従って検出試薬を適用した(ECL plusウエスタンブロッティング検出システム,Amersham,Buckinghamshire,England)。放射線用フィルムのシート(Heyperfilm ECL,Amersham)をポリ塩化ビニリデンラップで包まれた膜の最上部に配置し、1分間露光させて現像した。
【0152】
コラーゲンゲル/スポンジを用いたブタ関節軟骨細胞からの予備データから、HFP適用後の静置培養条件は、HFP単独よりも、より多くのS−GAG蓄積を促進することが示された。HFPは、軟骨細胞特異的な代謝機能(例えば、高度に硫酸化されたコンドロイチン硫酸の産生)を刺激する可能性がある。一方、細胞構築物の細胞特性および材料特性も、増殖および新たに蓄積したECMの結果として考慮する必要がある。これらの生物学的変化(成長)は、構築物の材料特性(例えば、栄養分およびガスの透過性)に影響を及ぼす。静置培養条件は、ECMおよび包埋細胞の安定化を促進する。半透膜の袋は、細胞が播種される際に、細胞/キャリアと媒体相との間の隔壁の役割を果たす。従って、ECMの蓄積は、培養の開始時であっても生じる。結局のところ、増殖細胞(PCNA陽性細胞)の大部分は、構築物の表面上に見られた。半透膜の袋を用いると、細胞/構築基材と媒体流との間の境界がない。
【0153】
基材への細胞付着は、細胞増殖に必要な場合がある。この場合、線維性コラーゲンフラグメントを必要に応じて添加して、非晶質キャリアを補充する。基材への細胞接着が必須である場合、基材を、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)−ペプチド(Integra,CA)または別の接着分子で、必要に応じてコーティングする。
【0154】
増殖および軟骨形成の表現型は、軟骨に特異的なECMのマーカーを用いて設計される最適なHFPアルゴリズムで刺激される。
【0155】
(実施例5)
(事前に選択した大きさの静水圧での半透膜内の非晶質キャリア中の軟骨形成活性の評価および静水圧についてのアルゴリズムの決定)
本実施例は、事前に選択した大きさの静水圧での半透膜内の非晶質キャリア中の軟骨形成活性(細胞の生存、増殖、表現型)を調べ、静水圧についてのアルゴリズムを決定する。新たに合成されたECM(主に、軟骨細胞に特異的なプロテオグリカン、またはアグリカン)の分子量は、2〜3×10kDaである。II型コラーゲン線維の長さは500nmである。ECMは、半透膜の袋内に保持される。軟骨細胞は、新たに合成されたECM内に包埋され、そして袋(実施例2の規定されたカットオフサイズ)の中に効率的に保持されるキャリア材料が選択される。物理的刺激(静水流体圧およびその静置条件でのアルゴリズム;媒体流速)を操作することにより、細胞の活性(細胞の生存および増殖ならびに形質発現)を変化させる。最適な物理的刺激下では、軟骨細胞は、インビトロで新たに再生プロセスを開始する。本実施例は、前述の生物学的マーカーを用いて最適培養条件を規定する。
【0156】
予備的な組織学的知見から、膜内に密封されたコラーゲンゲルキャリア内での均一な細胞分布および激しいECM蓄積が示された。一連の物理的刺激およびアルゴリズム、ならびに定量的な評価方法を表1に示す。0.5Hzにて、一定の0、0.7、または3.5MPaで、あるいは周期的な0.7または3.5MPaで、静水圧をかける。袋培養物を、播種の1、3、7、および14日後に収集する。非晶質キャリアに加えて、新たに合成されたヒアルロナンが利用可能になるまでは、取り込まれたヒアルロナン(800〜1200kDa)がアグリカンの結合部位として存在することが有用である。組織学的および生化学的アッセイの方法(表1)は、本質的に以前に記載された通りである。
【0157】
予備データから、細胞増殖およびII型コラーゲン合成が、静水流体圧をかけることによって刺激されることが示された。静置培養期間(すなわち、周囲圧力)は、S−GAGの蓄積を支持する。標的アルゴリズムは、S−GAG蓄積のために静置培養様式を用い、そして増殖のために静水流体圧様式を用いる。
【0158】
(実施例6)
(半透膜の袋の中で培養され、物理的刺激を用いて操作される、注射可能な軟骨細胞/マトリックスの開発)
中心的な方法論は、非晶質細胞キャリア、すなわち0.3%コラーゲンゲル(Cohesion)、PEG系止血剤(COSEAL(商標),Baxter)、および1.2%アルギン酸カルシウムゲル(Inotech)を用いて試験した。ウシ関節軟骨細胞をキャリアと懸濁し、半透膜の袋(PVDF、内径1mm、外径1.2mm、MWCOサイズ:500kDa)の中に導入した。この袋の中の細胞/ゲルキャリアは、静圧(周囲圧力)で(0.7MPaにて0.1Hzで4時間の周期的な静水流体圧の後に20時間休止するか、または0.7MPaにて4時間の一定の静水圧の後に20時間休止して)1週間インキュベートした。培養中のウシ関節軟骨細胞は、S−GAGを産生し、コラーゲンゲルおよびアルギン酸ゲル中にマトリックスを蓄積した(図4)。
【0159】
細胞形態と形状の両方において、静的な静水圧条件、周期的な静水圧条件、および一定の静水圧条件の間で顕著な差が示された(図5)。静置培養条件下では、主に異染性のECMが蓄積したが、充填されたコラーゲンゲルは減少した。周期的な静水圧下では、線維様のECMが蓄積した。一定の静水圧下では、細胞は空隙様の形状(矢印)を有し、異染性のECMに囲まれて、放射状線維様に蓄積した。
【0160】
(実施例7)
(半透膜の袋の電荷変更)
実施例3の予備的結果から、天然の関節軟骨への分子トレーサーの浸潤が制限されることが示された。浸潤は、蛍光マーカーのpIおよび長期的な組織形態学に依存した。これらのデータは、細胞外マトリックス(ECM)の蓄積を制御することが可能であることを示す。軟骨細胞が高度に硫酸化されたECMを首尾良く産生する場合、このECMは袋内に蓄積する。電荷変更は、選択的な分子透過性を制御するのに用いられ得る。例えば、膜をポリ−L−リジンでコーティングして、正に帯電した表面を作製する。
【0161】
静水流体圧処理により、低分子量の分子は、周期的な静水流体圧下で袋の中に効率的に浸潤する。高分子量生成物(例えば、ECM)は、袋の内部に保持される。生分解性の非晶質ポリマーは、新たに合成されたECMに置き換えられる。
【0162】
(実施例8)
(半透膜の袋の中で培養され、物理的刺激を用いて操作された、注射可能な自己軟骨細胞/マトリックスを用いる外科処置)
この外科的アプローチは、注射可能な細胞/マトリックスを用い、全組織置換の代わりに自己回復プロセスおよびインビトロ細胞処理に依存する。この修復技術は、組織自体の表面再生能力(resurfacing ability)を用いて、損傷の部位に軟骨の表層を作製する。一旦、表層が移動細胞で形成されると、軟骨細胞(軟骨細胞自体のマトリックスを含む)を新しい表面の下に注射し、欠損を充填した。この外科的アプローチにより、より侵襲性の高い外科的方法の代わりに関節鏡検査を用いることが可能になる。実施例1〜7の方法を用いて開発された最適な培養方法に基づいて、物理的刺激によって処理された注射可能な細胞/マトリックスは、新たな軟骨の再生を促進する。インビトロで細胞/マトリックス構築物を形成するために、効率的なECM蓄積のために半透膜の袋を使用し、非晶質細胞キャリアを選択し、そして物理的刺激のアルゴリズムを規定することによる、一連のインビトロ培養方法論が開発されている(図6)。この手順は、以下の3つの工程を包含する:
1)軟骨細胞を単離し、損傷を受けた欠損を浄化し、この欠損をフィブリン接着剤で充填する。
2)単離細胞を増殖させ、実施例1のバイオリアクターを用いた培養において最適な物理的刺激にて半透膜の袋内で非晶質ゲルとともにインキュベートする。
3)新しい被覆である軟骨の表層または表在性の移行帯と軟骨下骨との間に細胞/マトリックスを注入する。
【0163】
(等価物)
以上に記載の明細書は、当業者が本発明を実施することができる程度に十分に記載されているとみなされる。本発明は、提示された実施例によって範囲を限定されるものではない。なぜなら実施例は、本発明の1つの態様の単一の例示であって、他の機能的に等価な実施形態が、本発明の範囲内にあることが意図されるからである。本明細書中に示しかつ記載したものに加えて、本発明の種々の改変が、前述の説明によって当業者には明らかとなり、かつ、添付の特許請求の範囲内にある。本発明の利点は、本発明の各実施形態に必ずしも含まれるわけではない。
【0164】
本明細書中で引用される全ての参考文献、特許および特許公報は、その全体が、本明細書中に参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】図1は、培地の持続灌流を行うかまたは行わずに、正の静水流体圧を培養スポンジに与えるために設計された静水圧/灌流培養システム(バイオリアクター)を示す画像である。この基本システムは、(1)ガス交換シリコンチュービングを備える培地リザーバー、(2)灌流ポンプ(単一ピストンのシリンダーポンプ)、(3)培養チャンバー、および(4)背圧制御モジュールを備える。細胞は半透膜の袋とともに、規定温度(例えば、37℃)で維持されたチャンバー中に懸濁される。静水流体圧の大きさ、灌流量、O/COガス濃度、および温度は、コンピュータを用いて設定および制御される。
【図2】図2は、生分解性の非晶質キャリア中で細胞を培養するための半透膜の袋の使用を示す概略図である。半透膜(例えば、透析チュービング)により、小分子(例えば、ガス、アミノ酸、イオン、タンパク質、および分解片)の流入および流出が選択的に可能になり、かつ、大分子(例えば、アグリカン、コラーゲン)の流出が阻止される。動的な静水流体圧および持続的な培地交換(灌流)により、拡散性の物質移動が促進され、かつ、直接の流体剪断応力が回避される。
【図3】図3は、表層から天然のウシ関節軟骨中への分子マーカー(デキストラン−FITC、500kDa)の制限された拡散を示す画像である。
【図4】図4は、6つの半透膜の袋を示す画像であり、これらの袋の各々は、皿の中に細胞/コラーゲンゲルキャリアを含む。
【図5】図5は、静的な一定の静水圧、および周期的な静水圧の培養条件のうちで記載された細胞形態および形状の両方に顕著な相違を示す、一連の6つの顕微鏡写真画像である。TB、トルイジンブルー。
【図6】図6は、半透膜の袋中で培養され、物理的刺激を用いて操作される、注射可能な軟骨細胞/マトリックスを用いた外科的処置の方法を図示する概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロで細胞を培養する方法であって、以下の工程:
インビトロ培養のために選択された細胞集団を、生分解性の非晶質キャリアと接触させる工程;
該接触させた細胞集団を、100kDaよりも大きく1,000kDa未満の分子量カットオフを有する半透膜で少なくとも一部が囲まれている、細胞を収容するための細胞空間に配置する工程;および
該接触させた細胞集団に周期的に圧力をかける工程
を包含する方法。
【請求項2】
前記細胞が、軟骨細胞および必要に応じてその前駆細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、本質的に軟骨細胞からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生分解性の非晶質キャリアが、I型コラーゲンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生分解性の非晶質キャリアが、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ヒアルロナン、およびその任意の組み合わせから選択されるヒドロゲルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞を収容するための細胞空間が、該細胞を収容するための少なくとも1つの閉鎖可能な開口部を含む半透膜チューブからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞を収容するための細胞空間が、該細胞を収容するための閉鎖可能な開口部を含む半透膜の袋からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記半透膜が、少なくとも200kDaの分子量カットオフを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記半透膜が、少なくとも250kDaの分子量カットオフを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記半透膜が、少なくとも500kDaの分子量カットオフを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記半透膜が、1,000kDaの分子量カットオフを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記半透膜が、正味の正電荷を有する半透膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記正味の正電荷を有する半透膜が、ポリ−L−リジンでコーティングされた半透膜である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記周期的に圧力をかける工程が、0.001〜1Hzで0.5〜3.5MPaの圧力をかける工程を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
生分解性の非晶質キャリアと接触してインビトロで増殖させた細胞集団を含む、組成物。
【請求項16】
前記細胞が、軟骨細胞および必要に応じてその前駆細胞を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記細胞が、本質的に軟骨細胞からなる、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記生分解性の非晶質キャリアが、I型コラーゲンを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記生分解性の非晶質キャリアが、デキストランビーズを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
前記生分解性の非晶質キャリアが、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ヒアルロナン、およびその任意の組み合わせから選択されるヒドロゲルを含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項21】
前記細胞およびキャリアが、該細胞を収容するための細胞空間に含まれ、該細胞空間が、100kDaよりも大きく1,000kDa未満の分子量カットオフを有する半透膜で少なくとも一部が囲まれている、請求項15に記載の組成物。
【請求項22】
前記半透膜が、少なくとも200kDaの分子量カットオフを有する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記半透膜が、少なくとも250kDaの分子量カットオフを有する、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
前記半透膜が、少なくとも500kDaの分子量カットオフを有する、請求項21に記載の組成物。
【請求項25】
前記半透膜が、1,000kDaの分子量カットオフを有する、請求項21に記載の組成物。
【請求項26】
請求項1に記載の方法に従って生成された細胞/マトリックス組成物を含む、組成物。
【請求項27】
前記細胞/マトリックス組成物が、軟骨細胞および必要に応じてその前駆細胞を含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記細胞/マトリックス組成物の細胞が、本質的に軟骨細胞からなる、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
前記細胞/マトリックス組成物が、I型コラーゲンを含む生分解性の非晶質キャリアを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
前記細胞/マトリックス組成物が、デキストランビーズを含む生分解性の非晶質キャリアを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項31】
前記細胞/マトリックス組成物が、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ヒアルロナン、およびその任意の組み合わせから選択されるヒドロゲルを含む生分解性の非晶質キャリアを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項32】
前記細胞/マトリックス組成物が、該細胞を収容するための細胞空間に含まれ、該細胞空間が、100kDaよりも大きく1,000kDa未満の分子量カットオフを有する半透膜で少なくとも一部が囲まれている、請求項26に記載の組成物。
【請求項33】
前記半透膜が、少なくとも200kDaの分子量カットオフを有する、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記半透膜が、少なくとも250kDaの分子量カットオフを有する、請求項32に記載の組成物。
【請求項35】
前記半透膜が、少なくとも500kDaの分子量カットオフを有する、請求項32に記載の組成物。
【請求項36】
前記半透膜が、1,000kDaの分子量カットオフを有する、請求項32に記載の組成物。
【請求項37】
損傷を受けた軟骨組織を処置する方法であって、
請求項28〜31のいずれか1項に記載の細胞/マトリックス組成物の有効量を、損傷を受けた軟骨組織の部位に導入して、該損傷を受けた軟骨組織を処置する工程
を包含する、方法。
【請求項38】
前記軟骨組織が、椎間板である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
損傷を受けた関節軟骨表面を処置する方法であって、
請求項28〜31のいずれか1項に記載の細胞/マトリックス組成物の有効量を、損傷を受けた関節軟骨表面の部位を覆う表面領域軟骨と、該損傷を受けた関節軟骨表面の部位の下の軟骨または軟骨下骨とによって規定される空間に導入し、該損傷を受けた関節軟骨表面を処置する工程
を包含する、方法。
【請求項40】
前記導入工程が、前記損傷を受けた関節軟骨表面を処置するために関節鏡検査の手順の一部として行われる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記損傷を受けた関節軟骨表面が、損傷を受けた膝の関節軟骨表面である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記損傷を受けた関節軟骨表面が、損傷を受けた腰の関節軟骨表面である、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記損傷を受けた関節軟骨表面が、肩関節、肘関節、手関節(手根間関節、手根中手関節、中手間関節、中手指節関節、指節間関節)、および顎関節から選択される関節の損傷を受けた関節軟骨表面である、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
被験体における変形性関節症を処置する方法であって、
関節の変形性関節症を有する被験体において、請求項28〜31のいずれか1項に記載の細胞/マトリックス組成物の有効量を、損傷を受けた関節軟骨表面の部位を覆う表面領域軟骨と、該関節の損傷を受けた関節軟骨表面の部位の下の軟骨下骨とによって規定される空間に導入し、該変形性関節症を処置する工程
を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−507982(P2008−507982A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523878(P2007−523878)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/027220
【国際公開番号】WO2006/015304
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【Fターム(参考)】