説明

特に帆船用の、フェザリング・ブレードを有するピッチの調整可能なプロペラの緩衝器

本発明の一実施例によれば、非常に激しい衝撃があった時にのみ、いずいれにせよ衝撃吸収エラストマー挿入物が一定以上弾性的に変形した後に、到達しうる金属面の間に複数の停止装置が導入され、その変形はエラストマーの超弾性限界を超えた完全圧縮に比較して部分的なままである。プロペラの駆動軸に直接固定される第一円筒スリーブ(13)のフランジ(14)の各エラストマー環状挿入物(16)を収容する夫々の円形凹部(15)の底部には、エラストマー環状挿入物の中央孔の軸と同軸で、エラストマーの環状挿入物の中央孔及び対応する係合ピン(19)の直径より大なる直径を有する孔が形成され、第二円形スリーブの端部フランジの端面より延出するピンが、第一スリーブのフランジの夫々の円形凹部の底部に形成された孔を通って延びる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
帆船において、フェザリング・ブレード、即ち、アイドル状態の時に、帆走中に抗力を減少させるために、回転することにより自ら方向付けをすることのできるブレードを有するプロペラを使用することが広がっている。
他方、モータで駆動されるときに全体の効率を最大限にするには、プロペラはエンジン特性(毎分回転数の関数であるトルク及び効率特性)に加え、更に船体の流体力学、更には航行時に支配的な条件にあったものでなくてはならない。
【0002】
これ等の要件に対する効果的な解決は、所謂可変ピッチ・プロペラと言われるもの、即ち、一定の限度内で、(スクリュー)プロペラのピッチを特定の特性、及びまたは使用条件に合わせる為に、ブレードの方向を変更し得るプロペラによってもたらされる。
市販されているプロペラの中には、フェザリング・ブレードを有する可変ピッチ・プロペラとして知られる部類があり、特に帆船において補助エンジンと共に使用されている。
一般的にこれらのプロペラは、固定され、あるいは他の方法によって駆動軸に回転させられるピニオンハブよりなり、ピニオンハブはプロペラ・ブレードの柄の基部にある二個以上の遊星歯車と係合する。
【0003】
各ブレードは、その柄は外殻の孔に回転可能に保持されているのであるが、円錐形ピニオンハブ上を遊星歯車が動く際には、ブレードの中心または中立位置を中心に対向する二つの限定角度で基礎遊星歯車の軸を中心に回転することができ、その限定角度において、ブレードの二つの主面は、それに作用する水力により、略駆動軸と平行である。限定角度はプロペラのピッチを回転の二方向に決定する適当な停止装置により予め設定されている。
通常接線ねじによって部分を接合して形成された外殻は、外殻の壁に貫通する夫々の孔に回転可能に保持された複数のブレードのピニオンハブと遊星歯車を収容する。勿論外殻は、ピニオンハブにその軸を中心に遊星状に係合するブレードに引っ張られ、あるいはブレードを引っ張るのであるから、ブレードの方向の上記対向する限定角度内においてピニオンハブの軸を中心に自由に回転し得る。
【0004】
ピニオンハブの軸を中心に回転が許される円弧の停止位置は、互いに当接し、一方が外殻に、他方がピニオンハブと機械的に連結する扇形歯あるいは半径方向の歯との協働作用により予め設定されており、二つの部分の相互の回転方向における上記停止位置が決定される。
このような型のプロペラは米国特許第4,047,841号及び米国特許第4,140,434号に説明されている。
これらの周知のプロペラにおいて、プロペラを分解することによってのみピッチを変更でき、従ってピッチを変更する必要がある度に水からボートを引き上げる必要がある。
同一出願人によるイタリア特許第1,214,251号において、フェザリング・ブレード・プロペラが開示され、そのピッチはプロペラを分解することなく調整できる。
【0005】
この目的のため、ピニオンハブ体と異なる角度位置で係合し得、バネによって係合が保持されるスリーブが用いられる。
プロペラの頭端部の軸孔を通る上記スリーブの柄を、バネが作用する収縮力に抗して外方に引いてスリーブのピニオンハブとの係合を外し、次にそれをピニオンハブ上の異なる角度位置で再係合させ、よってピッチを変更する。
これに続く同一出願人によるイタリア特許第1,235,687号及び第1,235,831号において、この型の更に改良されたプロペラが開示され、それにより収縮バネが作用する力に反して外殻の一部を単に引っ張り、外殻の上記部分を外殻の固定部分から、外殻の二つの部分の間にある、歯を有する嵌めこみ式接合部を外すに十分な距離移動させ、特定角度回転させた後、解放して移動可能部分を外殻の固定部分と、所望の変更された角度位置において再び係合させ、ピッチを調整することが可能になった。
【0006】
上記の後者の二件の特許において開示されたプロペラの更なる利点は、抑制及び支持外殻によって回転可能になったブレードの改良された取り付け方法及び端停止装置の当接面の間の弾力を有する緩衝材を導入したことにより、プロペラを一方あるいは他方の方向への回転を開始するときの衝撃を弱めることによりもたらされた。
駆動軸からピニオンハブへ、そしてやがてプロペラの外殻ブレード組立へのトルク伝達の調整可能な内部運動機構を有するこれらの全てのプロペラにおいて、プロペラを回転開始させる時、特にドック入りまたは他の原因により回転方向を無数に反転(前方スラスト/後方スラスト)させることになる為、操作を繰り返すような時の可聴ショック音を防止あるいは減少させ、同時に、プロペラの内部トルク伝達機構の協働部分の金属停止面の磨耗及び変形を減少させるには、遊星状に取付けられたブレードの回転の自由度を決定する端停止装置の面が衝突することにより引き起こされる衝撃を緩和することが極めて重要である。
【0007】
モータ駆動中にブレードが浮遊物に当ることにより偶然起こる衝撃でさえも停止面に激しい影響を与え、衝撃音を倍増させ、遂には衝突に巻き込まれたブレードの縁に窪みができ、内部停止面の磨耗及び変形をもたらす。
プロペラの重要な部品が影響を受けるこれらの衝撃の緩和作用を推進すると言う目的のため、外殻−ブレード組立とピニオンハブ組立との相互回転の自由度の角度範囲を規定する停止装置の当接面の間に特別な挿入物を使用する以外に、応力の一部をこれらで負担するエラストマー製の追加の弾性要素を導入することにより、ひずみを比較的多数のエラストマー要素に広げ、その結果、これらの衝撃応力を弾力的に吸収する能力の経時劣化の度合いを減少させ、これら弾性衝撃吸収要素の寿命を延ばすことがなされた。
【0008】
周知の一実施方法によれば、これらの型のプロペラ用の典型的な緩衝装置は、ピニオンハブを意図的に二部に構成することにより一般的に実現されている。
フランジを有する第一円筒スリーブがプロペラの駆動軸に直接固定され、円筒スリーブのフランジにはフランジの円周に均等に配置された複数の円形凹部が形成されている。エラストマー製の環状挿入物が各円形凹部の内側に設けられている。
ピニオンハブの第二部分は、終端フランジを有する円筒スリーブにより構成され、これを第一スリーブの円筒部の上を摺動させる。
第二円筒スリーブは一端において、円錐形ピニオン歯を有する一方、その終端フランジの円周には均等に配置された複数のピンを有し、ピンは終端フランジの端面より延伸している。
【0009】
プロペラを組立てるには、第二円筒スリーブは既に駆動軸に固定されている第一円筒スリーブ上を摺動させて被せ、第一円筒スリーブのフランジの夫々の円形凹部に設けられたエラストマーの各環状挿入物がその中央穴に、第二円筒スリーブの終端フランジより延伸するピンの一つをその端で受ける。
このようにして、一方向の回転開始時に起きるプロペラの内部運動機構の互いに当接する停止面の間の衝撃と同様、プロペラの回転するブレードに起きる可能性のある予期せぬ衝撃も、ピニオンハブ組立と外殻―遊星状に取付けられたブレード組立との間の相互回転が可能な、ピッチ決定円弧の金属停止面の間の弾性挿入物に起こること同様に、夫々のピンによって(挟まれた)圧縮された多数のエラストマーの環状挿入物により一部吸収される。
このように応力は多数のエラストマーの弾性挿入物によって吸収され、エラストマーの伸縮性能の磨耗及び/または劣化の度合いを比例的に抑制する。
【0010】
勿論、遅らせることはできるにしろ、これらのエラストマーの弾性挿入物の衝撃吸収性能が経時劣化を除去することはできず、従ってこれらの要素を定期的に交換しなくてはならず、これは通常船体の保守及び清掃処理の間に行われる。
様々な理由から予定された保守作業時を超えてボートを長引いて使用してしまうと、プロペラは、エラストマーの弾性挿入物の交換を行う前に、しばしばこれらの挿入物が極めて劣化した状態で騒音を発して作動することがある。これはしばしば金属停止面の激しい変形を引き起こし、やがて費用のかかる修理及び/または消耗した部品の交換が必要になる。
これらのエラストマーの衝撃吸収弾性挿入物の寿命を更に延ばすと同時に、過度の劣化及び/または非常に激しい衝撃によるこれらの挿入物が略完全に破壊され、プロペラの耐え難い騒音を伴う作動と機能的に重要な金属停止面の変形の原因となることを防ぐ必要あるいは機会が存在する。
これらの必要性に対し、非常に簡単に実施できる、極めて効果的な解決法が発見された。
【0011】
極めて激しい衝撃が起きた時に、非常に大きな衝撃的応力に弾性挿入物が完全に耐えると言う状況を防ぐことにより、後者の寿命が二倍になるほどまで著しく伸ばすことができる。これはエラストマーの弾性挿入物の早すぎる劣化とその結果の破壊は専ら異常な圧縮応力、即ち、通常は比較的珍しい、あるいはまれであるべき極めて大きな度合いの衝撃によるものである、と言う事実に基づく。
これは金属面の間に、極めて激しい衝撃が起きた時、いずれにせよ、エラストマーの衝撃吸収弾性挿入物が一定程度弾性変形した後に、挿入物の変形はエラストマーの完全な圧縮(即ち素材の超弾性限界を超えたとき)よりも部分的であるにとどまるが、そういう時にのみ到達される複数の停止装置を導入することにより得られる。
複数存在することと、金属/金属停止装置の多数のエラストマー挿入物の弾性作用が同一ではないことによりタイミングが任意であることにより、金属停止装置の別個の当接の度合いがある程度任意であることを実際には決定しており、そのことは本発明による新規な緩衝装置の全体的な効果を更に高めるものである。
【0012】
プロペラの駆動軸に直接固定されるか、いずれにせよ駆動軸によって回転される第一円筒スリーブのフランジの各エラストマー環状挿入物を収容する前記円形凹部の底部を貫通して、エラストマー環状挿入物の中央孔の軸と同軸で、エラストマーの環状挿入物の中央孔及び対応する係合ピンの直径より大なる直径を有する孔を形成し、第二円形スリーブの端部フランジの端面より延出するピンは、各ピンが第一スリーブのフランジの夫々の円形凹部の底部を貫通して形成された孔を通って延びるようにすることにより、本発明の緩衝装置は実質的に実現される。
このようにして、機能的にはエラストマーの各リングと係合するのであるが、エラストマー環状挿入物が半径方向に一定限度以上押圧されると、ピンは第一チューブ状スリーブのフランジのエラストマー環状挿入物を収容する凹部の底部を貫通して意図的に形成された円筒状孔の壁に接触し、第一チューブ状スリーブの金属本体に(衝撃の結果としての)残りの衝撃力を与える。
【0013】
勿論、エラストマー環状挿入物を収容する夫々の凹部の底部を貫通して形成された孔の金属壁に最終的に作用するピンによる衝撃は、エラストマー挿入物の半径方向厚さを(部分的にではあるが)圧縮することにより起きる部分的消失のため、相対的に低下した激しさになる。
驚くべきことに、理想的なエラストマーリングには、そして第二スリーブの金属ピンの第一スリーブのフランジの金属で最終的に停止するようにしたことにより、エラストマーリングの半径方向厚さを約20%から50%押圧した後、プロペラの通常の使用においては、プロペラの緩衝エラストマーリング状挿入物の有効寿命は、従来技術に基づいて、異常に激しい衝撃の場合にエラストマー挿入物の完全(過剰な)圧縮を防ぐ金属/金属停止装置を導入されずに構成された同様のプロペラにおいて通常経験される有効寿命の二倍以上であるかもしれないことが分かった。
【0014】
同一部分には同一符号を付した図面を参照するに、図1は、本発明の向上した緩衝装置を具体化したフェザーリング・ブレードを有するピッチの調整可能なプロペラ部品の組織例を簡易に且部分的に示す。
この型のプロペラの全ての機能的構成要素の詳細な説明は一般に衆知であり、新規な向上された緩衝装置の特徴に専ら係る本書の目的を超えるものである。
しかしながら図1を参照することにより、この型のプロペラの特定の根本的特徴を簡単におさらいするのもよい。
【0015】
プロペラの駆動軸1はピニオンハブ2を回転させ、ピニオンハブは二個あるいはそれ以上の、プロペラの外殻6の穴によって保持される夫々のブレード5の柄4の基部にある遊星歯車3と噛合う。
外殻6は略二個以上の部分が接線ねじ7によって接合されて略構成され、ブレードと共に回転する。
ピニオンハブ2上のブレードの遊星歯車3が相対的に運動し得る角度範囲、即ち、水抵抗の影響のもとで外殻6の夫々の孔に回転可能に保持されたブレードが自己方向付けできる自由度の範囲、即ちボートが帆走中(駆動軸1はアイドリング)である時の中立または中央位置から、(スクリュー)プロペラの一定ピッチを決定する設定された停止位置は、実施例ではブレードの遊星歯車3と係合する円錐形ピニオン端部10を有する軸方向延長部9を介して駆動軸1と機械的に連結された、一例として示された半径方向歯8によって設定される。扇形歯あるいは半径方向歯8は、その端体11に形成され、端部がやがてプロペラの頭部12によって閉じられている外殻6に機械的に連結された歯8が挿入され円形扇部の凹部の停止面と協働する。
【0016】
ピニオンハブ2は、二個のフランジを有する円筒スリーブよりなり、夫々図2、3により詳細に示されている。
図示された実施例において、第一円筒スリーブ13はプロペラの駆動軸1の端部に直接固定され、そのフランジ14には現在7個の円形凹部15が有り、夫々にはエラストマーの環状挿入物16が収容される。軸方向投影図においてより見易いが、凹部は第一円筒スリーブ13の端部フランジ14の円周Cに均等に配置されている。
第二円筒スリーブ17はその一端においてピニオン歯2を有し、第一スリーブ13の円筒部上に被せられて、その周りを回転できるようになっている。
第二スリーブ17の端部フランジ18からは、駆動軸1に固定された第一円筒スリーブ13のフランジ14の夫々の円形凹部15に保持されたエラストマーの7個の挿入物16の中央孔を貫通して延びるように配置された7個のピン19が延びている。
【0017】
本発明によれば、各円形凹部15の底部にはピン19の直径及びエラストマーの環状挿入物16の中央孔の直径よりも大きな孔20がある。更に、ピン19の長さは、部品を組立てる際にピンがエラストマーの環状挿入物16の厚み全体を、また第一円筒スリーブ13のフランジ14の各円形凹部15の底部に形成された孔20を通って延びるようになっている。
本発明の向上された緩衝装置の構成要素の構造の詳細は、図1のプロペラのピニオンハブ2を構成するフランジを有する第一円筒スリーブ13とフランジを有する第二円筒スリーブ17の詳細な図2、3においてより理解できる。
【0018】
一般的に、エラストマーの環状挿入物16を収容する円形凹部の底部を貫通して形成された孔20の直径はピン19及びエラストマーの環状挿入物16の中央孔(通常同一)より数ミリメートル大きい。
好ましくは孔20とエラストマーの環状挿入物16の半径方向の厚さとの差は、パーセントで言えば、エラストマーの特徴によって20%から50%である。
より好ましくは、このような差はエラストマー環の半径方向の厚みの20−30%に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1は本発明による向上された緩衝装置を設けた、フェザリング・ブレードを有するピッチの調整可能なプロペラの一部横断面図、図2及び3は、夫々、協働してプロペラのピニオンハブを構成するフランジを有する第一及び第二円筒スリーブの図である。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェザリング・ブレードを有するピッチの調整可能なプロペラ用緩衝装置であって、各ブレードは、駆動軸により回転可能なピニオンハブと係合する遊星歯車を有し、ピニオンハブは駆動軸に固定された第一円筒スリーブと、前記第一スリーブの円筒部を摺動して覆い、前記ピニオンで終わる第二円筒スリーブとよりなり、第一円筒スリーブは、円周に均等に配置され、夫々エラストマーの一定型弾性挿入物が収容された複数の円形凹部を有するフランジを有し、第二円筒スリーブは、円周に均等に配置された複数のピンを有する端部フランジを有し、各ピンは夫々のエラストマーの環状挿入物と係合する緩衝装置において、
前記第一円筒スリーブのフランジの前記エラストマー環状挿入物を収容する前記円形凹部の底部を貫通して、前記エラストマー環状挿入物の中央孔の軸と同軸で、エラストマーの環状挿入物の中央孔及び対応する係合ピンの直径より大なる直径を有する孔が存在し、上記ピンは前記第一円筒スリーブのフランジの夫々の円形凹部の底部にある前記同軸孔を通って延びることを特徴とする緩衝装置。
【請求項2】
前記各円形凹部の底部を貫通する同軸孔の半径と、エラストマー環状挿入物の半径方向の厚さの差は、パーセントで言えば前記エラストマー環状挿入物の厚さの20%と50%の間である請求項1による緩衝装置。
【請求項3】
前記差は前記厚さの20%と30%の間である請求項2による緩衝装置。

【公表番号】特表2007−528313(P2007−528313A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512787(P2005−512787)
【出願日】平成15年12月30日(2003.12.30)
【国際出願番号】PCT/IT2003/000878
【国際公開番号】WO2005/063563
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(506224643)マリン プロペラ エス アール エル (1)