説明

特定の信号要素のレベル提示方法および装置、その装置の使用方法、ならびに探索可能な標識体のシステム

【課題】山林などに埋め込まれた標識体の探索を極めて容易にする、標識体からの信号の特定の信号要素のレベルを提示する装置を提供する。
【解決手段】地盤に一部または全部が埋め込まれて設置された標識体3からの信号の特定の信号要素のレベルを提示する装置2は、標識体3に応答を求める信号を発信し、標識体3から応答信号を受信すると、この信号の特定の信号要素のレベルを継続的に測定して、その信号要素のレベルを提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に一部または全部が埋め込まれて設置された標示杭のような標識体からの信号の特定の信号要素のレベルを提示する装置に関する。ここで、前記特定の信号要素は、標識体からの信号を受信する位置の標識体に対する距離および受信する方向の標識体に対する向き、ならびにその標識体の埋設状態に依存するものである。
【背景技術】
【0002】
土地の境界などを標示する標識体、例えば標示杭は、山林を含む様々な土地において一部が埋め込まれて設置される。これらの標示杭は地籍調査における指標となり、杭を設置した位置は、山林を熟知する者のみが知っている場合が多い。しかし、このように熟知する者は高齢化しており、将来には杭の設置場所を知っている者がいなくなることも予想される。また、杭の設置箇所が地籍測量図に示されていても山林の場合は特に尺度が小さいため、杭の概ねの場所を特定できても、正確な場所は特定しにくい。さらに、杭の設置から地籍調査までの長期間に自然現象や災害などによって杭が草木や土砂などによって隠されたり埋もれたりしてしまうことがあり、杭を探し出すには膨大な時間と手間を要する。特に、標識杭の場合、作業員がたとえ足で踏んでも杭の存在に気付きにくいため、探し出すには極めて膨大な時間と手間を要する。
【0003】
これに対して、探索機が電波を放射して、これに応答した杭の送受信回路からの信号を受信することで、杭を探索する装置も存在する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−018947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された探索機は、送受信回路に記憶されている位置情報を受信して、これに基づいて杭を探索するものである。したがって、地震や地滑りなどによって、記憶された位置情報と実際の位置にずれが生じている場合、送受信回路に記憶されている位置情報は正確ではないため、杭を探し出す作業はやはり困難である。
【0006】
そこで、本発明は、標識体からの信号の特定の信号要素のレベルを提示する装置であって、山林などに埋め込まれた標識体の探索を極めて容易にする装置を提供することを目的とする。ここで、前記特定の信号要素は、標識体からの信号を受信する位置における標識体に対する距離および受信する方向の標識体に対する向き、ならびにその標識体の埋設状態に依存するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明にかかる、標識体からの信号の特定の信号要素のレベルを提示する方法および装置は、標識体に応答を求める信号を発信し、標識体から応答信号を受信すると、この信号の前記特定の信号要素のレベルを継続的に測定して、その信号要素のレベルを提示する。
【0008】
本発明によれば、標識体からの信号のうち、特定の信号要素のレベル、つまり標識体からの信号を受信する位置の標識体に対する距離および受信する方向の標識体に対する向き、ならびにその標識体の埋設状態に依存する要素のレベルを測定して提示するので、標識体を探索する者にとっては、このレベルを利用することで探索が極めて容易になる。具体的には、標識体の探索者が本方法を実施する装置または本レベル提示装置を手に持って、標識体が設置されている近傍において、まず回転して提示されるレベルが大きくなる方向を特定すれば、標識体からの信号受信方向に、本装置の向きを合致させることができる。そして、標識体の探索者が前方に歩いて提示されるレベルが大きくなるようにすれば、標識体に近づくことができ、標識体を見つけ出すことができる。一方、このように標識体の探索者が歩き回っても提示されるレベルが十分に大きくならず、標識体が見えなければ、標識体は土砂などに埋もれている可能性が高い。この場合、標識体の探索者は提示されるレベルが最大の位置において、その地表下を掘り起こして埋もれている標識体を見つけ出すことができる。
【0009】
前記標識体は、好ましくは、標示杭である。
【0010】
前記特定の信号要素は、好ましくは、電波の強度である。
【0011】
好ましい実施形態によれば、前記特定の信号要素のレベルの提示は、指定された標識体についてのみ行う。この構成によれば、複数の標識体が近傍に存在する場合に、探索対象の標識体を1つに絞ることができる。
【0012】
本発明にかかる、探索可能な標識体のシステムは、地盤に一部または全部が埋め込まれて設置された1つ以上の標識体と、1つ以上の標識体のうちの特定の標識体からの信号の特定の信号要素のレベルを提示するレベル提示装置とから構成され、前記レベル提示装置は、探索対象の標識体の指定を受け付け、指定された標識体の識別子を含む信号であって、この指定された標識体に応答を求める信号を発信し、前記1つ以上の標識体は、それぞれ、前記レベル提示装置からの信号を受信すると、信号に含まれる標識体の識別子がその標識体自体の識別子であるか否か判定して、一致する場合は応答信号を発信し、前記レベル提示装置は、標識体からの応答信号を受信すると、この信号の前記特定の信号要素のレベルを継続的に測定して、その信号要素のレベルを提示する。
【0013】
本発明によれば、指定された標識体のみがレベル提示装置に応答信号を発信するので、多数の標識体が提示装置近傍に存在する場合であっても、応答信号は1つのみである。したがって、提示装置が多数の標識体から応答信号を受信しないため、提示装置の負荷が過大にならずにすむ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態にかかる探索可能な標識体のシステムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明の一実施形態にかかる、探索可能な標識体のシステム1の概念を示す。本実施形態において、標識体は、標示杭、例えば境界杭(以下、単に「杭」とする。)である。システム1は、杭からの電波強度(特定の信号要素)レベルの提示装置2およびこの提示装置2と後述する通信が可能な1つ以上の杭3とから構成され、作業者Wが、杭電波強度レベル提示装置2を保持して、この提示内容に基づいて特定の杭3を探索することができる。ここで、「杭からの電波強度レベル」は、杭電波強度レベル提示装置2と杭の距離(杭からの信号を受信する位置における杭に対する距離)および杭電波強度レベル提示装置2のアンテナ方向の杭に対する向き(受信する方向の杭に対する向き)、ならびにその杭の埋設状態に依存する。提示装置2では、これら程度を表示、音および/または振動などによる出力によって提示するものである。
【0016】
まず、前提として、例えば、山林において土地の境界を標示するために、多数の杭3がそれぞれ所定の位置に埋め込まれている。この状態で年月が経過してから、その土地について地籍調査が行われる場合があり、杭3がそれぞれ探索される。この際、作業者つまり杭を探索する者Wは、提示装置2を携帯して、探索対象の杭3が設置されていると思われるエリアまたはその近傍に出向いて、後述するように、その対象の杭3を見つけるために探索を行う。
【0017】
次に、提示装置2および杭3の構成について説明する。
提示装置2は、人間の掌に納まるサイズ(図1では誇張している)の例えば直方体形状で中空の本体21を有し、その内側には基板からなるホスト側通信装置(提示装置用通信装置)22が取り付けられている。提示装置用通信装置22は、CPU(図示せず)、メモリ(図示せず)、および通信モジュール(図示せず)を搭載する。本体21の外側には、提示装置用通信装置22に接続された通信用アンテナ23が取り付けられている。この通信用アンテナ23には、アンテナ23が受信した信号の大きさを測定する電波レベル測定器23aが設けられている。
【0018】
提示装置用通信装置22の通信モジュールは、各杭3との通信に必要な機能を実行できるものであり、この通信モジュールによって処理されるデータは、通信アンテナ23を介して各杭3の後述する通信装置と送受信される。
【0019】
提示装置2は、また、作業者Wとのインタフェースとして、表示部24、テンキーのような入力キーからなる入力部25、スピーカ26、および本体21の内部に設けられたバイブレータユニット(図示せず)を有する。
【0020】
杭3は、地盤にほぼ垂直に打ち込まれるプラスティック杭であり、杭本体3aを有し、その頭部は防護用キャップ31によって覆われている。杭3の杭本体3aは、その内部空間において、基板からなる端末側通信装置(杭用通信装置)32が取り付けられている。杭用通信装置32も、提示装置用通信装置22と同様に、CPU(図示せず)、メモリ(図示せず)、および通信モジュール(図示せず)を搭載する。通信用のアンテナは、この通信モジュールに内蔵されている。
【0021】
次に、本システム1の運用、すなわち杭探索の作業について説明する。
探索対象の杭3が設置されていると思われるエリアまたはその近傍に出向いた作業者Wは、持参している地図と周囲の地形や目印などから、作業者自身の位置を把握する。そして持参した測量図や杭についての情報を記憶しているパーソナルコンピュータなどから、探索対象の杭3の位置を取得する。このように自己の位置と探索対象の杭の位置を取得できるが、これらの情報のみで杭を探索しようとしても、測量図の尺度は小さいため杭3の位置を厳密に特定するのは難しい。また、杭が土砂や草木に埋もれている場合は、探索が極めて困難である。しかし、作業者Wは、これら地図などの情報に基づいて探索対象の杭3にある程度近づくことができる。そこで、作業者Wは、このように探索対象の杭3にある程度近づいてから、探索対象の杭3のIDを手に持っている提示装置2の入力部25から入力する。このIDの入力を契機として提示装置2は、探索対象の杭3からの電波強度レベルの検知を開始する。
【0022】
まず、探索対象の杭3からの電波強度レベルの検知は、提示装置用通信装置22が、入力されたIDを保持するメッセージを通信モジュール(図示せず)および通信用アンテナ23を介して送信する。このように提示装置2から送出されたメッセージは、通信可能範囲内に存在する全ての杭3によって受信される。このメッセージを受信すると、各杭3ではメモリ(図示せず)に記憶されたその杭3自体のIDと受信したメッセージに保持されているIDとを比較する。ある杭3の杭用通信装置32が、比較結果が同一であると判断すれば、IDを保持するメッセージからなる所定の信号を、所定の時間間隔で所定期間送出する。
【0023】
探索対象とする杭IDを有するメッセージの信号が提示装置2の通信用アンテナ23に到達すると、提示装置用通信装置22では、電波レベル測定器23aが、アンテナ23によって受信された信号の大きさを測定する。この大きさは、図示しない処理部によって処理されて、電波の大きさを視覚的に(すなわち、数値ではなく図形によって)表示部24に表示する。電波レベル表示の他に、電波の大きさが所定の大きさよりも大きい場合にスピーカ26から音を発生させたり、バイブレータユニットによって提示装置2を振動させたりするようにしてもよい。電波の大きさは、提示装置2と探索対象の杭3との距離と、アンテナ23の探索対象の杭3に対する方向と、杭が設置されたままであるか、または土砂などに埋もれているかなどを示す杭の埋設状態とに関連するため、作業員Wは、電波の大きさを認識することで、自己の位置から探索対象の杭3までの距離、方向および杭の埋設状態を予測できる。特に、作業員Wが、その手に持っている提示装置2を別の方向に向けたり、前方や後方に歩いてみたりすれば、表示部24に視覚的に表示された電波の大きさが変化するので、杭に近づいていくことができる。
【0024】
具体的には、探索対象の杭のIDを入力して探索を開始した作業員Wは、まず提示装置2を水平か下側に向けて持って、つまりアンテナ23を水平方向または斜め下側方向に向けた状態で、作業員W自身が360度回転すればよい。このように回転する際に表示部24に表示される電波の大きさが最大になる向きをチェックすれば、その回転位置が、アンテナ23の方向が探索対象の杭3に向いている位置であると予測できる。このように向きを特定した作業員Wは、次に、アンテナ23の向きをそのままにして、前方に歩けば、探索対象の杭3に近づいていくことができる。そして、最終的に、作業員Wは杭3の設置場所まで導かれる。ただし、このように電波の大きさに基づいて歩いても杭3を見つけることができない場合、杭3は土などに埋もれていることが予測される。その場合、作業員Wはアンテナ23を下方に向けて歩き、電波の大きさが最大になった位置の地盤の下側に杭3が埋もれている可能性が高いため、作業員Wはその場所の土を掘り起こせばよい。なお、杭3が土に埋もれている場合、提示装置2のアンテナが受信する電波の大きさは土に埋もれていない場合に比べて、小さい。したがって、作業員Wが歩き回っても表示部24に表示される電波の大きさが通常期待されるレベルまで大きくならない場合も、作業員Wは、杭3が土に埋もれていると予測することができる。
【0025】
このように、作業員Wが提示装置2を動かすことで電波の大きさが大きくなれば探索対象の杭3に距離がより近づいて、アンテナ23の方向がその杭の方向により合致することになり、逆に電波の大きさが小さくなれば探索対象の杭3から遠ざかり、アンテナ23の方向がその杭とは離れた方向になったことになる。したがって、提示装置2の表示部24に視覚的に表示された電波の大きさがより大きくなるように、作業員Wが手に持っている提示装置2の向きを変えたり自身が移動したりすれば、探索対象の杭3に近づいていくことができる。
【0026】
なお、本実施形態における通信装置22,23は、その通信モジュールが、電波によるアンテナを介した無線通信用のものであり、杭のIDを送受信できるものであれば、特に限定されない。
【符号の説明】
【0027】
2 特定の信号要素のレベル提示装置
3 標示杭(標識体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に一部または全部が埋め込まれて設置された標識体からの信号の特定の信号要素のレベルを提示する方法であって、前記特定の信号要素は、標識体からの信号を受信する位置における標識体に対する距離および受信する方向の標識体に対する向き、ならびにその標識体の埋設状態に依存するものであり、
標識体に応答を求める信号を発信し、
標識体から応答信号を受信すると、この信号の前記特定の信号要素のレベルを継続的に測定して、その信号要素のレベルを提示する、特定の信号要素のレベル提示方法。
提示方法。
【請求項2】
請求項1において、前記標識体が標示杭である、特定の信号要素のレベル提示方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記特定の信号要素が、電波の強度である、特定の信号要素のレベル提示方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、前記特定の信号要素のレベルの提示は、指定された標識体についてのみ行う、特定の信号要素のレベル提示方法。
【請求項5】
地盤に一部または全部が埋め込まれて設置された標識体からの信号の特定の信号要素のレベルを提示する装置であって、前記特定の信号要素は、標識体からの信号を受信する位置における標識体に対する距離および受信する方向の標識体に対する向き、ならびにその標識体の埋設状態に依存するものであり、
標識体に応答を求める信号を発信する発信部と、
標識体からの応答信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信した信号の前記特定の信号要素のレベルを継続的に測定する測定部と、
前記測定部で測定した信号要素のレベルを提示する提示部とを備えた、特定の信号要素のレベル提示装置。
【請求項6】
請求項5において、前記標識体が標示杭である、特定の信号要素のレベル提示装置。
【請求項7】
請求項5または6において、前記特定の信号要素が、電波の強度である、特定の信号要素のレベル提示装置。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項において、前記特定の信号要素のレベルの提示は、指定された標識体についてのみ行う、特定の信号要素のレベル提示装置。
【請求項9】
標識体を探索するための、請求項5から8のいずれか一項に記載の特定の信号要素のレベル提示装置の使用方法。
【請求項10】
地盤に一部または全部が埋め込まれて設置された1つ以上の杭と、1つ以上の標識体のうちの特定の標識体からの信号の特定の信号要素のレベルを提示するレベル提示装置とから構成される、探索可能な標識体のシステムであって、前記特定の信号要素は、標識体からの信号を受信する位置の標識体に対する距離および受信する方向の標識体に対する向き、ならびにその標識体の埋設状態に依存するものであり、
前記レベル提示装置は、
探索対象の標識体の指定を受け付け、
指定された標識体の識別子を含む信号であって、この指定された標識体に応答を求める信号を発信し、
前記1つ以上の標識体は、それぞれ、
前記レベル提示装置からの信号を受信すると、信号に含まれる標識体の識別子がその標識体自体の識別子であるか否か判定して、一致する場合は応答信号を発信し、
前記レベル提示装置は、
標識体からの応答信号を受信すると、この信号の前記特定の信号要素のレベルを継続的に測定して、その信号要素のレベルを提示する、探索可能な標識体のシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−217063(P2010−217063A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65525(P2009−65525)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(591034017)株式会社リプロ (15)
【出願人】(509078654)株式会社テスコム (1)