特異的結合特性を有するβシートタンパク質の設計
【課題】新規の又は変化させた結合特性を有するγ−クリスタリン及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】新規の結合特性を有する突然変異誘発されたγ−クリスタリンであって,γ−クリスタリンの表面上に露出したアミノ酸が突然変異誘発されたものであり,そして;該アミノ酸がγ−クリスタリンの少なくとも1つのβシート中の2本〜4本のβ鎖中に位置しており;該βシート,該β鎖及び該アミノ酸が,γ−クリスタリンの表面に位置しており;突然変異誘発が,該突然変異誘発されたγ−クリスタリンが新規の結合特性を有するよう,挿入,削除,置換及びそれらの組み合わせより選ばれるものであり;但し,突然変異誘発前のγ−クリスタリンは,アミノ酸が突然変異誘発されるβシート構造表面において結合特性を有さず,突然変異誘発後は新規の結合特性を有するものである,突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【解決手段】新規の結合特性を有する突然変異誘発されたγ−クリスタリンであって,γ−クリスタリンの表面上に露出したアミノ酸が突然変異誘発されたものであり,そして;該アミノ酸がγ−クリスタリンの少なくとも1つのβシート中の2本〜4本のβ鎖中に位置しており;該βシート,該β鎖及び該アミノ酸が,γ−クリスタリンの表面に位置しており;突然変異誘発が,該突然変異誘発されたγ−クリスタリンが新規の結合特性を有するよう,挿入,削除,置換及びそれらの組み合わせより選ばれるものであり;但し,突然変異誘発前のγ−クリスタリンは,アミノ酸が突然変異誘発されるβシート構造表面において結合特性を有さず,突然変異誘発後は新規の結合特性を有するものである,突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の若しくは変化させた特異的結合特性を有する、又は新規の若しくは変化させた触媒活性を有する、又は新規の若しくは変化させた蛍光特性を有する、新規のβシートタンパク質に関し、更に、そのように変性させたタンパク質を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体及びそれらの誘導体は、ヒトや動物の治療、診断及びモニタリングという多くの分野で使用されている。天然に存在する抗体を利用することの問題の一つは、それらの製造にある。抗体は、依然として動物細胞培養系において産生されており、これは非常にコストの掛かる方法である。例えば融合タンパク質の製造や、迅速な血中クリアランスと良好な組織移行性を要求される治療への使用等、用途によっては、天然に存在する抗体分子のサイズは、また別の問題を提起する(Colcher et al., 1998)。scFvs(非特許文献1参照)、ミニ抗体(非特許文献2参照)又は二重特異性抗体(非特許文献3)等のような組換え抗体分子は、主として、抗体の抗原結合性ドメイン(VH及びVL)のみから構成されている。それらは、かなり小さなサイズであるため、完全な抗体に比べて組織移行性が改善されており、また他のタンパク質との融合の目的にも一層適している。しかしながら完全な抗体に比べ、組換え抗体フラグメントは、不安定であることが多く、親和性が低く、そして、形成しなければならないジスルフィド架橋のため、組換え型で製造することが困難である。組換え抗体フラグメントの安定化及び親和性改善のための方法は、取り分け、種々のリンカーペプチドのテスト及びジスルフィド架橋の導入を含む(非特許文献4,非特許文献5及び 非特許文献6参照)。
【0003】
リンカーペプチドの配列と長さとは、プロテアーゼに対する安定性と抗体フラグメントの特異性の双方に影響を及ぼし得る(非特許文献7参照)。可変ドメインの保存された枠領構造域中への追加のジスルフィド架橋の導入は、熱(非特許文献8)及び変性剤に対する安定性増大及び異種発現の収率増大をもたらし得る。しかしながら一般には、多くのscFvsは安定性が低く、37℃で早くも凝集する傾向がある。この不安定性はまた、新たな不安定化変異をもたらし得る通常のFv-フラグメントクローニングプライマーによっても引き起こされ得る。これらの抗体フラグメントは、細菌系において、主として細胞周辺腔内へと輸送されることによって産生され、そして酸化還元状態に関する最適化及び折りたたみヘルパーの同時発現がここでも可能である。
【0004】
【非特許文献1】Bird et al., (1988): Single-chain antigen-binding proteins. Science 242, 423-426.
【非特許文献2】Pack and Plueckthun, (1992):Biochemistry 31, 1579-1584.
【非特許文献3】Holliger and Winter,(1993): Curr. Opin. Biotech. 4, 446-449.
【非特許文献4】Glockshuber et al., (1990): Biochemistry 29, 1362-1367.
【非特許文献5】Cumber et al., (1992): J. of Immunology 149, 120-126.
【非特許文献6】Brinkmann et al., (1997): J. Mol. Biol. 268, 107-117.
【非特許文献7】Pantoliano et al., (1991): Biochemistry 30, 10117-10125.
【非特許文献8】Young et al., (1995): FEBS Lett. 377, 135-139.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規の又は変化させた結合特性を有する新規タンパク質、例えば抗体様タンパク質、であってしかも、完全な又は組換え抗体分子の上記欠点を示さないタンパク質を提供することである。
【0006】
本発明の更なる目的は、新規の又は変化させた酵素的若しくは触媒的特性を示すタンパク質を提供することである。
【0007】
本発明の別の一目的は、上記タンパク質を製造する方法を提供することである。
【0008】
上記の諸目的は、下記(1)に規定された特徴を有するタンパク質によって達成される。本発明のタンパク質を製造するための方法は、下記(21)のとおりである。本発明の好ましい具体例は、従属の項及び以下の詳細な説明のとおりである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)βシート構造を有するタンパク質であって、該タンパク質が新規の若しくは変化した特異的結合特性又は新規の若しくは変化した触媒活性又は新規の若しくは変化した蛍光特性を有するように、表面に露出した少なくとも1つのβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中の表面に露出したアミノ酸が特異的に突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(2)上記(1)のタンパク質であって、クリスタリン、スフェルリン、熱ショックタンパク質、コールドショックタンパク質、βヘリックスタンパク質、リポカリン、セルチン、フィブロネクチン又は転写因子よりなる群に含まれるか、又はGFP、NGF、テンダミスタット又はリゾチームであることを特徴とするタンパク質。
(3)上記(1)又は(2)のタンパク質であって、表面に露出した3本のβ鎖が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(4)先行(1)又は(2)のタンパク質であって、表面に露出した4本又はより多くのβ鎖が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(5)先行の何れかのタンパク質であって、少なくも2つのβシート中の少なくとも2本のβ鎖が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(6)先行の何れかのタンパク質であって、2つの逆平行βシート中の3本のβ鎖が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(7)先行の何れかのタンパク質であって、脊椎動物、げっ歯類、鳥類又は魚類のクリスタリンであることを特徴とするタンパク質。
(8)先行の何れかのタンパク質であって、α−、β−又はγ−クリスタリンであることを特徴とするタンパク質。
(9)先行の何れかのタンパク質であって、γ−II−クリスタリンであることを特徴とするタンパク質。
(10)上記の何れかのタンパク質であって、溶媒又は結合相手にとってアクセス可能なβシート領域の領域において、該タンパク質が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(11)先行の何れかのタンパク質であって、タンパク質のドメイン又はサブユニットのβシート構造において突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(12)先行の何れかのタンパク質であって、γ−II−クリスタリンのアミノ酸Lys 2、Thy4、Tyr6、Cys15、Glu17、Ser19、Arg36及びAsp38のうち1つ又はより多くの突然変異誘発によって得られたγ−II−クリスタリンであることを特徴とするタンパク質。
(13)先行の何れかのタンパク質であって、抗体様結合特性又は酵素(触媒)活性を有するように、該タンパク質が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(14)上記(12)又は(13)のタンパク質であって、エストラジオール又はその接合体であるBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネートに対する結合特異性を有するものであることを特徴とするタンパク質。
(15)先行の何れかのタンパク質であって、エストラジオール又はその接合体であるBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネートに対する結合特異性を有し且つ次のアミノ酸配列を有するものであるタンパク質:
Figs. 8及び10を参照。
(16)先行の何れかのタンパク質であって、他のタンパク質又は非タンパク質と組み合わさったものであることを特徴とするタンパク質。
(17)先行の何れかのタンパク質であって、改善された結合特性及び/又は改善された触媒活性及び/又は改善された蛍光特性を有することを特徴とするタンパク質。
(18)先行の何れかタンパク質をコードするDNA。
(19)上記(18)のDNAから導かれるRNA。
(20)上記(18)若しくは19のDNA若しくはRNA又はそれらの部分であってタンパク質の機能的領域をコードする部分を含んだ、原核又は真核のベクター又は細胞。
(21)先行の何れかのタンパク質を製造するための方法であって、
a.表面に露出したβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖をコードする領域において、βシート構造を有するタンパク質をコードするDNAに突然変異誘発を行なうステップと、
b.ステップ(a)で得られた突然変異体を適当な発現系で発現させるステップと、そして
c.所望の結合特性及び/又は所望の触媒活性を有する突然変異体を選択して単離するステップと、所望により
d.該βシート突然変異体タンパク質を発現させ単離するステップと
を含むことを特徴とする方法。
(22)上記(21)の方法であって、突然変異誘発が、βシート中の特定のアミノ酸位置の(部位特異的突然変異誘発)又はβシート中の不特定のアミノ酸位置の(ランダム突然変異誘発)突然変異誘発を含むものである方法。
(23)先行の何れかの方法であって、ステップb)の突然変異体が、原核細胞又は真核細胞中に、無細胞系においてリボソームとの複合体として、又は、植物若しくは動物細胞、酵母細胞若しくはファージ、ウイルス若しくは細菌の表面に、発現されることを特徴とする方法。
(24)先行の何れかの方法であって、所望の結合特性を有する突然変異体が、該突然変異体をそれらの結合相手と接触させ、そして所望の結合特性を有する突然変異体を単離することによって選択されるものであることを特徴とする方法。
(25)先行の何れかの方法であって、所望の触媒特性を有する突然変異体が、該突然変異体をそれらの基質と接触させ、そして所望の触媒活性を有する突然変異体を単離することによって選択されるものであることを特徴とする方法。
(27)診断及び治療、化粧品、バイオセパレーション及びバイオセンサー及び有害物質の削減における、先行の何れかのタンパク質の使用。
【発明の効果】
【0010】
βシートタンパク質の表面の変性は、そのタンパク質にそれまで存在しなかった新規の結合特性を生み出す。これらの結合特性は、βシート領域の突然変異によって生み出される。全く新しい結合特性を有するにも拘わらず、新規のβシートタンパク質は、構造及び安定性の点では、出発タンパク質に類似している。新規の結合性分子を設計するための出発タンパク質は、βシート構造を主として有するタンパク質、例えば、眼の水晶体の構造タンパク質の一つγ−クリスタリン等である。その結晶性構造に基づいて、出発タンパク質のβシート中の、表面上に露出していてそのため溶媒や潜在的結合相手に接近可能な領域及びアミノ酸が、例えばコンピュータ解析によって選択される。遺伝子工学の手法を用いて、出発タンパク質をコードする遺伝子中において、これらの領域又はアミノ酸位置に突然変異を誘発させる。こうして、種々のβシートタンパク質突然変異体をコードする種々の突然変異遺伝子(バンク又はライブラリー)が、DNAレベルで製造される。新規の、望ましい結合特性を有する変異体が、例えばファージディスプレー系(phage display system)等のような適当な選択系の助けを借りて単離される。ファージディスプレーでは、産生された全てのタンパク質突然変異体が、バクテリオファージの表面に露出される(ファージディスプレーライブラリー:phage display library)。これらの組換えファージが、所望の標的分子に対する結合に関して検討される。その表面上に標的分子に対する特異的結合特性を有するβシート突然変異体を露出しているファージが、反復スクリーニングによって濃縮され、単離される。結合性のβシート変異体をコードしている遺伝子がこのファージから得られ、例えばE. coli等のような適当な発現系中で発現される。
【0011】
上記の方法を用いると、驚くべきことに、何らの結合特性も有しないβシートタンパク質から、特異的結合性を有するタンパク質を製造することが可能である。そして、適当なスクリーニング方法を用いることによって、所望の特異性を有する突然変異体がこのライブラリーから単離される。出発タンパク質の性質に依存して、記載の系を用いて産生されたβシート変異体は、サイズ、安定性、及び異種、好ましくは細菌の系で機能的に活性な産物が得られるという点で、例えば抗体及び組換え抗体フラグメントに比して、有利である。この新規βシート変異体のこれら改善された特性は、例えば抗体、組換え抗体フラグメント又は触媒性抗体に取って代わることが可能であり、全く新たな利用分野を拓くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
例えば、上述のような抗体の問題点は、本発明により、それぞれ特異的な結合特性を有し且つ低いpH、変性剤及び高温、すなわち抗体が不安定化するような条件に対して高い安定性を有するタンパク質を設計することによって、解決することができる。しかしながら、βシート構造を有し且つ抗体様の結合特性を有するタンパク質を作り出すことは、本発明に可能な利用分野の一つに過ぎない。例えば、新規の触媒特性、例えば、耐性及び蛍光特性を有するβシートタンパク質を作り出すことによって、更なる可能な用途が開かれる。その蛍光特性を変えることのできるタンパク質の一例として、GFPが挙げられる。本来高度に安定であるこの小型のタンパク質は、設計のために特に適している。本発明により例として行なったそれらの表面の変性は、安定性を保持したまま、該タンパク質に新たな特異的結合特性を生じさせた。
【0013】
本発明によって例として選択された、可能性のあるクラスの安定なタンパク質は、クリスタリンである。水晶体の構造タンパク質であるクリスタリンは、通常細胞のターンオーバー(turnover)に付されることなく、従って並外れて安定であるという特性をも有している(Mandal et al., 1987, Rudolph et al., 1990)。γ−クリスタリンは、脊椎動物のクリスタリンの一クラスであるが、約22kDaの分子量を有するモノマータンパク質である。γ−クリスタリンの主たる構造的モチーフは、逆平行βシートである(Hazes and Hol, 1992, Richardson et al., 1992, Hemmingsen et al., 1994)。γ−クリスタリンは、2つの非常に類似した球状のドメインである、N末端ドメイン及びC末端ドメインからなっており、それらはV字形のリンカーペプチドによって互いに連結されている。γ−クリスタリンに特徴的な折りたたみパターン("グリークキー(greek-key)"モチーフ, Slingsby, 1985, Wistow and Piatigorsky, 1988)が、その相当な温度安定性及び対変性剤安定性の理由であるようである(Mandal et al., 1987)。子牛眼からのγ−II−クリスタリンは21kDaのタンパク質であり、そのサイズに比して異常に多数(7)のシステインを、生理的条件下に還元状態で有している。
【0014】
正しく折りたたまれた状態では、γ−II−クリスタリンは、結合性を全く有しない。このタンパク質の、選択された溶媒暴露領域(それはβシート構造モチーフよりなる)に加えた本発明による変更(突然変異誘発)は、驚くべきことに、このタンパク質の表面構造及び荷電パターンの変化をもたらし、その結果、新規な結合特性を生じさせた。この関係において、このタンパク質の構造の保持に余り関与しないアミノ酸位置に反応を起こさせた。小型のβシートタンパク質への突然変異誘発(Riddle et al., 1997)は、それらのタンパク質の多くが、配列中のかなりの変更にも拘わらず天然のままのβシート構造を正しくとることができることが示されている。
【0015】
改善された又は新しい結合特性を有する分子を単離する目的で特定のタンパク質領域に突然変異を誘発する試みは、組換え抗体フラグメントについて(Nissim et al., 1994, de Kruif etal., 1995)、確立された結合特性を有するタンパク質(受容体、阻害因子タンパク質、DNA結合タンパク質)、及びペプチドライブラリーについて(Cortese et al., 1995, Haaparanta and Huse 1995, McConell et al., 1996)について、既に存在する。抗体の場合、ループ領域として存在する抗原結合ドメインのみに突然変異が誘発されている。このことは、例えば、テンダミスタット(tendamistat)(McConell and Hoess, 1995)やチトクロムb562(Ku and Schultz, 1995)等、他の殆どのタンパク質の場合も同様である。ここでもやはり、ループ領域に突然変異が誘発されている。α−ヘリックス中への突然変異誘発の例としては、プロテインAのZドメイン(Nord et al., 1997)及びジンクフィンガードメインCP-1(Choo and Klug, 1995)が挙げられる。これまでの突然変異誘発は、単に結合の特異性を変えただけであり、また常に、既に確立された結合性を有するタンパク質から出発したものであった。結合性のないタンパク質が用いられたことはなく、またβシート構造モチーフが特異的に変えられたこともない。ここに記載の方法において始めて、結合性の全くないタンパク質の剛直なβシート領域において特異的な突然変異誘発が行なわれた。これは、予想外にも、抗体分子に比べうる、相当な安定性及び特異的結合特性を有するタンパク質をもたらした。
【0016】
全く新たな結合特性を有する突然変異させたβシートタンパク質を単離するために適した系は、ファージディスプレー系である。この系は、特異的な結合特性について広範にわたるタンパク質変種を非常に効率的にスクリーニングすることを可能にする(Smith, 1985)。それによれば、各タンパク質変種は、繊維状ファージの表面に提示され、固相に固定化された標的分子と相互作用することができる。標的分子に結合するタンパク質は、ファージを溶出することによって得ることができる。ファージDNAを単離した後、その特異的結合特性を有するタンパク質変種のDNA配列を決定することができる。ファージディスプレー系に加えて、例えば細菌表面ディスプレー(bacterial surface display)(Stahl and Uhlen, 1997)又はリボソームディスプレー(Hanes et al., 1997)等のような他の選択系を適用することも可能である。
【0017】
驚くべきことに、上記本発明を用いて、非結合性タンパク質から特異的結合特性を有するタンパク質が作り出されるよう、非常に安定なβシートタンパク質であるγ−II−クリスタリンを、βシートの表面の、標的を定めた、部位特異的突然変異誘発によって変更することが可能である。8個のアミノ酸位置をランダム化することにより、比較的剛直なタンパク質領域内の骨格分子に、こうして初めて、突然変異が誘発される。こうして、βシートタンパク質であるγ−II−クリスタリンから、特異的結合特性の点で「抗体様の」タンパク質種が製造される。γ−II−クリスタリンその他の小型のβシートタンパク質は、新規の結合特性を設計するための新規の骨格分子として、記載した方法によって一般的に使用することができる。それらの設計されたβシートタンパク質は、例えば、種々の用途において組換え抗体に取って代わることができる。それらの比較的小さなサイズ(20kDa)のために、それらは他の機能的タンパク質のための融合相手として適している(多機能性タンパク質の製造)。更なる可能性ある用途は、それらを遺伝子療法ベクターの細胞特異的ターゲティングのためのモジュールとして用いることのできる遺伝子治療におけるものであり、また細胞内免疫化におけるものである。更には、触媒特性を有するβシート突然変異体は、酵素利用分野において使用することができる。この新規な結合性タンパク質の安定性は、組換え抗体を用いては現在行なうことのできない更なる用途、例えば、ヒト及び動物における診断及び治療における用途、並びにバイオセンサー及びバイオセパレーション方法における用途を可能にする。更なる利用分野は、一般に薬剤及び化粧品産業並びに有害物質の分析及び除去である。
【0018】
以下に、本発明の幾つかの好ましい具体例を記述する。
【0019】
本発明による突然変異導入のために選択されるβシート構造を有するタンパク質は、全く結合性又は触媒ないし酵素活性又は蛍光特性を有しないものであるか、又は、それらの活性、蛍光特性又は結合特性が変化する、特に改善されるものであることが望ましい。
【0020】
βシート構造を有するタンパク質は知られている。βシートを有するタンパク質のクラスの一例は、クリスタリンであり、特にα−、β−及びγ−クリスタリンである。例えば、脊椎動物、げっ歯類、鳥類及び魚類等、あらゆる動物種からのクリスタリンを使用することが、原理的に可能である。βシート構造であって本発明により突然変異誘発をすることのできるタンパク質の更なる例は:スフェルリン(spherulins)、熱ショックタンパク質、コールドショックタンパク質(cold shock proteins)、βヘリックスタンパク質、リポカリン(lipocalins)、セルチン(certins)又は転写因子、フィブロネクチン、GFP、NGF、テンダミスタット(tendamistat)又はリゾチームである。例えば、これらのタンパク質例えば、βシート構造を有するクリスタリンの、個々のサブユニット又はドメインが、本発明によって突然変異誘発される。
【0021】
クリスタリンのうち、特にγ−クリスタリンに言及しなければならない。というのは、本発明によりその実施例の方法によって、例えば抗体分子と同等な新規の特異的結合特性又は新規の触媒活性を生ずるようにそのβシート構造を変性させる、即ち突然変異誘発できることを実証することとが可能だからである。γ−クリスタリンの一例は、γ−II−クリスタリンである。
【0022】
βヘリックスタンパク質の例は、取り分け、Jenkins J. et al., J. Struc. Biol. 1998, 122(1-2): 236-46, Pickersgill, R. et al., J. Biol. Chem. 1998, 273(38), 24600-4 及びRaetz C.R. et al., Science 1995, 270(5238), 997-1000に見出すことができる。
【0023】
βシート構造は、本質的にシート状であり殆ど完全に平らであることによって定義される。ポリペプチド鎖の連続的部分によって形成されるαヘリックスとは対照的に、βシートは、ポリペプチド鎖の種々の領域より構成されうる。このことは、一次構造中では比較的遠く離れている領域同士が、正に隣合って位置することを可能にする。β鎖は典型的には、5〜10アミノ酸の長さであり、殆ど完全に平らである。これらのβ鎖は、相互に非常に近くにあるため、ある鎖のC=O基と別の鎖のNH基との間に、相互に水素結合が形成される。βシートは、複数の鎖から構成されることができ、シート様の構造を有する。このシート様の平面の上方又は下方に交互に、C−α原子が位置する。アミノ酸側鎖がこのパターンに従い、こうして交互に上方又は下方に配向される。β鎖の方向に応じて、平行及び逆平行シートの区別が生じる。本発明によれば、何れも突然変異誘発でき、請求項に記載のタンパク質を製造するために使用することができる。
【0024】
βシート構造の突然変異誘発のためには、タンパク質中の、表面に近いβシート領域が選択される。入手し得るX線結晶構造に基づいて、表面に露出したアミノ酸を同定できる。結晶構造が入手できないならば、コンピュータ解析により、表面に露出しているβシート領域及び個々のアミノ酸の位置のアクセス可能性を、入手し得る一次構造に基づいて予測し、(www.embl-heidelberg.de/predictprotein/predictprotein.html)、又は3次元タンパク質構造を構築し(www.expasy.ch/swiss/SWISS-MODEL.html)それにより、表面に露出している可能性のあるアミノ酸についての情報を得るよう試みることができる。
【0025】
しかしながら、突然変異を誘発すべきアミノ酸位置の時間のかかる事前選択を省くことのできるβシート突然変異誘発もまた可能である。βシート構造をコードしているDNA領域をそれらのDNA環境から単離し、ランダムな突然変異誘発に付し、その後、それらのDNAを、それらを取り出した元のタンパク質をコードするDNA中に再度組み込む。これに続いて、所望の結合特性及び/又は触媒特性及び/又は蛍光特性を有する突然変異体を求めて、選択を行なう。
【0026】
本発明の別の一具体例においては、表面に近いβシート領域が、既に上記したように、選択され、そして突然変異誘発すべきアミノ酸位置がこれら選択された領域内に同定される。この方法で選択されたアミノ酸位置は、次いで、DNAレベルで、ターゲティングされ、即ち特定のアミノ酸をコードするコドンが、予め選択しておいた別の特定のアミノ酸をコードするコドンで置換されるか、又は、この交換がランダムな突然変異誘発の枠内で、置換すべきアミノ酸位置は定まっているが、新たな、まだ従って定まっていないアミノ酸をコードするコドンは定まっていない状態で、行なわれる。
【0027】
表面に露出しているアミノ酸には周囲の溶媒にとってアクセス可能である。もしタンパク質中のアミノ酸のアクセス可能性がモデルとしてのトリペプチドGly-X-Gly中のアミノ酸のアクセス可能性に比して8%を超えるなら、それらのアミノ酸は、表面に露出されたアミノ酸と呼ばれる。これらのタンパク質領域又は個々のアミノ酸位置はまた、本発明によって選択すべき潜在的結合相手に対して、好ましい結合部位でもある。結合相手は、例えば抗原又は基質又は基質遷移状態類似体であってよい。
【0028】
本発明によれば、表面に位置したβシート構造を示し溶媒又は結合相手にとってアクセス可能な実際上全てのタンパク質に、突然変異誘発が可能である。この目的に向けて、好ましいタンパク質は、主として特に安定な、即ち例えば変性に抵抗性の、又は十分に「小さい」タンパク質である。
【0029】
本発明において「突然変異誘発」は、βシート構造を有するポリペプチド鎖においてその表面に露出している1個又は2個以上のアミノ酸変更を意味する。これは、例えば、極性、電荷、溶解性、疎水性又は親水性の点で特別な性質を有するアミノ酸が異なった性質を有するアミノ酸により置換されるようなアミノ酸置換、即ち例えば、非極性の疎水性のアミノ酸が極性のアミノ酸により、負に荷電したアミノ酸が正に荷電したアミノ酸により置換されること等を含む。「突然変異誘発」の語はまた、1個又は2個以上のアミノ酸の挿入及び削除をも含む。一つの前提条件は、表面に露出された少なくとも1つのβシートの表面に露出された少なくとも2本β鎖内の露出されたアミノ酸を、該突然変異が含むということである。突然変異は、βシート中の又はβシートの選ばれた領域中の個々のアミノ酸位置に、好ましくは、特異的に導入される。突然変異誘発は、βシート構造の一領域に又は複数の領域に起こってよい。この変更は、βシート中で、隣接したアミノ酸を含んでもよく、また比較的離れたアミノ酸を含んでなるものでもよい。この変更はまた、種々のβシートシート、即ち1つより多くのβシート中のアミノ酸を含んでなるものでもよい。1個又は2個以上のアミノ酸の挿入、削除又は置換は、表面に露出した少なくとも1つのβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中に位置する。この点、もし表面に露出した少なくとも2本のβ鎖に突然変異が導入されるのであれば、表面に露出した1本のβ鎖中の1個又は2個以上のアミノ酸を置換、削除又は挿入することも可能であり、即ち、表面に露出した1本のβ鎖が複数の突然変異を有することもできる。更なる一具体例においては、各場合に、表面に露出した少なくとも2つのβシートの表面に露出した1本のβ鎖に突然変異が誘発される、即ち表面に露出された1つのβシートが、各場合において、表面に露出した少なくとも1本の突然変異誘発β鎖を有する。本発明の別の一具体例においては、表面に露出した突然変異誘発したβシートは、相互に逆平行に配列されており、好ましくは、少なくとも2つの逆平行に配置されたβシートである。
【0030】
本発明によれば、表面に露出された2又は3本のβ鎖に突然変異誘発するのが好ましい。本発明によれば、表面に露出された4本又はより多くのβ鎖に突然変異誘発することも可能である。更には、少なくとも2つのβシート中の少なくとも2つのβ鎖に突然変異誘発すること、好ましくは2つの逆平行βシート中の3本のβ鎖の突然変異誘発も可能である。
【0031】
本発明の一具体例においては、突然変異誘発は、アミノ酸コドンNNKを有するDNAオリゴヌクレオチドを寄せ集めることによって行なわれる。もちろん、他のコドン(トリプレット)を用いることも可能である。
【0032】
突然変異誘発は、βシート構造が保持されるようにして行なわれる。一般に、突然変異誘発は、該タンパク質の表面に露出された安定なβシート領域の外側において行なわれる。それは、部位特異的な及びランダムな突然変異誘発の双方を含む。一次構造中の比較的狭い領域(約3〜5個のアミノ酸)を含んでなる部位特異的突然変異誘発は、Stratagene(QuickChange)又はBio-Rad(Muta-Gene ファージミド・インビトロ突然変異誘発キット)から出されている商業的に入手可能なキットを用いて実施することができる(参照:米国特許5,789,166;米国特許4,873,192)。
【0033】
もしもより大きな領域に部位特異的突然変異誘発を起こそうとするならば、DNAカセットを調製する必要があり、そして、突然変異させた位置及び変異のない位置を含んだオリゴヌクレオチドを寄せ集めることによって、突然変異誘発を起こそうとする領域が得られる(Nord et al., 1997; McConell and Hoess, 1995)。ランダムな突然変異誘発は、突然変異誘発系中においてDNAを増殖させることによって又はPCR増幅によって(エラープローンPCR(error-prone-PCR))(例えば、Pannekoek et al., 1993)行なうことができる。この場合、エラー率を高めたポリメラーゼが使用される。導入される突然変異の程度を高める又は異なった突然変異を組み合わせる目的には、DNAシャフリング(shuffling)によりPCRフラグメントにおける突然変異を組み合わせることが可能である(Stemmer, 1994)。Kuchner及びArnoldによる総説(1997)は、酵素についてのこれら突然変異誘発の概論を提供している。選択したDNA領域内でそのようなランダムな突然変異誘発を行なうためには、突然変異誘発のために用いるDNAカセットを、ここでも構築しなければならない。
【0034】
突然変異誘発のステップで得られたDNA分子は、適当な発現系において発現される。その後に続く、所望の結合特性及び/又は所望の触媒ないし酵素活性を有する突然変異体の選択及び単離を容易にする発現系が好ましい。そのような発現ベクター及び発現系は、当業者に知られており、また既に上記に一層詳細に記述されている。もちろん、特異的な特性又は活性を有する突然変異体について本発明の選択を許容する、他の発現系を使用することも可能である。
【0035】
発現及び選択のためには、DNAレベルで産生された全ての突然変異体がファージミド中にクローンされそしてファージ表面に発現されるものであるファージディスプレー系を用いるのが好ましい。還元型システインを含んだタンパク質の場合には、本発明の特に好ましい具体例においては、突然変異体の露出及び選択を改善するために、GSHを添加することが可能である。
【0036】
本発明は、突然変異誘発したタンパク質、DNA分子、これから求められるRNA分子、及びそれらの、突然変異誘発したβシート構造を有し所望の結合相手と新たな若しくは変化した仕方で結合可能なタンパク質をコードする又は基質に対して新たな若しくは変化した触媒活性を有しうる、又は新たな若しくは変化した蛍光特性を有しうるタンパク質をコードする、機能的部分を含む。「機能的部分」の語は、本発明により突然変異誘発しそして所望の結合特性及び活性を有するか又は部分的にそれらを担う、βシート構造を有するタンパク質のサブユニット、ドメイン及びエピトープに関する。
【0037】
所望の結合特性及び/又は所望の触媒活性及び/又は蛍光特性を有する突然変異体は、それ自身既知の仕方で選択され単離される。新規の又は変化させた結合特性及び新規の又は変化させた触媒活性を有する突然変異体の選択方法及び単離方法の例としては次のものが挙げられる。
【0038】
所望の結合特性について選択する場合、変異タンパク質又はその機能的部分を、それらの結合相手と接触させる。適当な検出方法により、所望の結合特性を有する変異体を選択する。
【0039】
触媒活性について選択する場合、変異タンパク質又はその機能的部分を、基質と接触させ、次いで、適当な検出方法により、その所望の酵素活性について選択する。
触媒活性は、幾つかの方法で選択することができる。
【0040】
1.ファージディスプレー:
固相への遷移状態類似体の結合及び該類縁体についての突然変異体ライブラリーの選択。これらの物質は、基質の生成物への酵素的変換(基質−遷移状態−生成物)に際して典型的に形成される、基質の遷移状態の類似体である。このためには、しかしながら、基質の遷移状態が判明しなければならない。基質の結合についてスクリーニングを行なうことも可能である。
【0041】
2.ファージディスプレー不使用:
突然変異体の細菌発現系へのクローニング、及び個々のコロニーを形成させるための該組換え細菌の播種。突然変異タンパク質は、誘導物質(例えばIPTG)を栄養培地に添加することにより、細菌中で発現させることができる。栄養培地は、変換をスクリーニングするための基質を更に含有していなければならない。基質は、変換に際して、同定可能な、例えば着色した産物を形成するするものでなければならない。栄養培地中で基質の変換を行なう突然変異体を発現する細菌は、異なった色のものでなければならない。一例は、β−ガラクトシダーゼ活性及びX-Gal(青く染色)の変換についてのスクリーニングであろう(Zhang et al., 1997)。
【0042】
3.更なる検出方法が当業者に既知である:
発色変異体とは別に、例えば、新たな抵抗性を仲介する(栄養培地への抗生物質の添加)、又は、「正常」な細菌の増殖しない最少の栄養培地での増殖を可能にするタンパク質突然変異体を選択することも可能である。ここにおいて、新規のタンパク質突然変異体を有する細菌の、選択的増殖という利点を利用することが可能である(Crameri et al., 1997)。
【0043】
4.突然変異タンパク質の発現と分泌:
例えば細菌において、上清を得て、選択すべき所望の酵素活性について試験をすること(You and Arnold, 1996)。こうして本発明は、新規の結合特性又は新規の触媒特性を有するタンパク質を作り出すについての問題を、βシート構造を有するタンパク質をこの構造モチーフ中において突然変異誘発することにより、解決する。それらのタンパク質は、所望の若しくは変化させた、好ましくは改善した結合特性、又は所望の若しくは変化させた、好ましくは改善した酵素ないし触媒活性について、選択される。本発明の系は、何らの結合特性も何らの酵素特性も有しないβシートタンパク質を、該βシートにおける突然変異誘発後に結合特性又は触媒特性を獲得するように、変化させることを可能にする。
【0044】
本発明によれば、「結合特性」は、例えば、抗体との抗原の特異的親和性を意味する。本発明により突然変異誘発がなされた後は、βシートタンパク質はこうして抗体様の特性を有し、且つ、抗体の高い結合特異性という利点と、βシートタンパク質の有利な安定性とを併せ持つ。本発明により製造される抗体様の特性を持つβシートタンパク質は、触媒機能をも有していてよい。
【0045】
しかしながら、本発明による解決案は、新規の又は変化させた触媒活性を有する、βシート構造を有するタンパク質を作り出すことも可能にする。他のタンパク質の性質の変更、例えばGFPの蛍光特性を変化させることも可能であろう。
【0046】
本発明によれば、結合特性、触媒活性又は蛍光特性の変更は、これらの特性の低下と改善の双方を含むが、改善の方がより好ましい。
【0047】
本発明によれば、「新規の特異的特性を有するタンパク質」又は「新規の触媒活性を有するタンパク質」は、表面に露出した少なくとも1つのβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中において表面に露出したアミノ酸の特異的突然変異誘発にのために、元々は何らの特異的結合特性も触媒活性も有ないが今や特異的結合特性又は触媒活性又は両者の組み合わせを有するものであるタンパク質を意味する。しかしながら、これはまた、突然変異誘発前に既に特異的結合特性又は触媒活性を有しておりβシートにおける突然変異誘発後に、別の、追加の特異的結合特性及び/又は触媒活性を有するものであるタンパク質をも含む。特異的結合特性を有するタンパク質が触媒活性を獲得すること又はこの逆も、もちろん可能である。
【0048】
更に本発明は、既に特異的結合特性及び/又は酵素活性若しくは触媒活性及び/又は蛍光特性を有し、表面に露出した1つ又は2つ以上のβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中において表面に露出したアミノ酸の突然変異誘発後に、それらの特異的結合特性及び/又は触媒活性及び/又は蛍光特性の改善した、又はより一般的には変化した、タンパク質をも含む。
【0049】
この点、βシート構造に対してではなくタンパク質全体に対して向けられるものであり、表面に露出した少なくとも1つのβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中において表面に露出した標的アミノ酸、又はそのような表面に露出したアミノ酸に関連したアミノ酸に向けられたものでないランダムな突然変異誘発によってβシート構造に変更が加えられるものである先行技術のタンパク質及び方法とは、本発明の方法及びそれにより製造されるタンパク質は、異なっている。
【0050】
以下に例示する本発明の好ましい一具体例においては、突然変異誘発のための出発点として、βシート構造を有するタンパク質の一例としてのγ−クリスタリンが選ばれた。この目的のため、表面に露出した最初のアミノ酸位置は、構造研究を通して選択され、それ自身既知の突然変異誘発方法によって突然変異誘発された。得られた突然変異体は、適当な、同様に既知の発現系中で発現させた。選択は、γ−クリスタリンのβシートにおける表面に露出したアミノ酸が抗原BSA-エストラジオール−17−ヘミサクシネートに対する特異的結合特性を示した突然変異体に対して向けられた。所望の結合特性を有する複数の突然変異体が単離されたが、所望のアミノ酸置換を有していたのは一つだけであった。こうして、出発タンパク質であるγ−クリスタリンに基づいた抗体様の非イムノグロブリン分子が得られた。
【0051】
本発明の方法は、実に夥しい数の突然変異体を得ることを可能にする。たった8個のアミノ酸位置の突然変異誘発は、所望の結合特性及び触媒活性について分析することのできる2.6×1010種の異なったタンパク質種を形成することを可能にする。
【0052】
更に、本発明によれば、βシート構造を有するタンパク質の蛍光特性を、表面に露出したアミノ酸の突然変異誘発によって変化させることができることが示された。
【0053】
得られた突然変異遺伝子を適当な系中で増殖させてタンパク質を発現させることができる。適当な発現系は、原核細胞又は真核細胞系である。突然変異タンパク質をコードするDNAは、例えば適当なベクター、例えば適当な発現ベクターに組込まれ、形質転換、トランスフェクション又は感染により、宿主細胞に導入される。異種の突然変異DNAの発現を特異的に調節する制御配列に連結することは、もちろん有利である。
【0054】
使用することのできる宿主細胞は、高等真核細胞例えば哺乳類細胞、又は下等真核細胞例えば酵母細胞、又は原核細胞例えば細菌細胞である。可能な細菌宿主細胞の一例はE. coli又はB. subtilisである。本発明のDNAから誘導されるRNAを用いることによりタンパク質を製造するための無細胞翻訳系も、また可能である。適当なクローニング系及び発現系は、分子生物学、生物工学及び遺伝工学の種々の教科書に記述されている。例として、Sambrook et al., 1989及びAusubel et al., 1994が挙げられる。
【0055】
上に概略記述した本発明を、模範的具体例及び添付図面に基づいて、以下に一層詳細に記述する。それらの例は、本発明の可能な一形態として理解すべきものであり、本発明は、この特定の具体例に限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
ホルモンエストラジオールに対する特異的結合性のγ−クリスタリン突然変異体の製造
ホルモンエストラジオールに特異的に結合する牛γ−B−クリスタリン(gamma-II)の突然変異体を単離することに基づく、抗原結合特性を有する新規のβシートタンパク質の設計が示されている。表面に露出したβシートの選択されたアミノ酸位置の特異的変更は、βシート構造と特異的結合特性とを有する新規の安定なタンパク質を生み出した。突然変異誘発に適したβシート領域又はアミノ酸を選択した後、部位特異的突然変異誘発がDNAレベルで行なわれ、ファージミド中にβシート突然変異体ライブラリーが作られ、これは、発現及びこれに続く、ファージディスプレー系中での突然変異体の新規の結合特性について選択することを可能にする。選択された突然変異体は、その新規の特性について、出発タンパク質であるγ−II−クリスタリンと比較される。
【0057】
γ−クリスタリンにおける突然変異誘発に適した領域の選択
γ−II−クリスタリンのX線構造に基づいて(Wistow et al., 1983)、γ−II−クリスタリンのN末端ドメイン(Acc. M16894)が突然変異誘発用に選択された。連続的な表面セグメントを形成する全部で8個のアミノ酸がそこに同定された。選択されたアミノ酸は、βシートの一部であり、構造保持に実質的に貢献してはいないはずである。それらは、溶媒にとってアクセス可能な、従ってまた結合相手にとってもアクセス可能なアミノ酸である。それら8個のアミノ酸Lys 2, Thr 4, Tyr 6, Cys 15, Glu 17, Ser 19, Arg 36及びAsp 38は、このタンパク質の総表面積の約6.1%を構成している。
【0058】
突然変異させたγ−II−クリスタリン遺伝子のDNAプールの作成
これら8個のアミノ酸位置のランダム化が、部位特異的突然変異誘発によって行なわれた。これは、2.6×1010の異なったタンパク質種を製造することを可能にする。突然変異誘発すべき領域は、個々のオリゴヌクレオチドを組み合わせることによってDNAレベルで得られた。これに続いて、ファージディスプレー系における選択のために構築されたファージミドへ中へのクローニングが行なわれた。
【0059】
オリゴアセンブリング
突然変異誘発のために、8個のランダム化されたアミノ酸位置を有し且つ適当な制限切断部位をも有する、γ−クリスタリン突然変異体の5’領域を含んだ227塩基対が、固相上に集められた。全部で10種の個々のオリゴヌクレオチドがこの目的に使用され、それらのうち3種は、ランダム化されたアミノ酸位置を含んでいた(Fig.1)。プライマー合成の間、突然変異誘発すべき8個の位置においてヌクレオチド混合物NN(T/G)が用いられ、理論的に32種の異なったコドンを一つの位置にもたらした(cf. Nord et al., 1997)。ビオチン化したオリゴヌクレオチドが、このアセンブリングの開始時に、Dynalのストレプトアビジン化磁性ビーズ(MBs)(M-280)に取り付けられた。取り付け、ライゲーション及びポリマー化の幾つかのステップの後、固相上にアセンブルされたγ−クリスタリンの突然変異誘発領域のプールを、PCRで増幅することが可能であった(Fig. 2)。約250塩基対の長さのこのPCR産物は、5’に1個のSfi I切断部位と3’に1個のBst EII切断部位とを含んでいた。
アセンブリングのために用いたオリゴヌクレオチドは全て、100 pmol/μlの濃度に濃縮された。最初にプライマーGCLIE1B及びGCLIE2Pがアセンブルされた。このためには、36μlの洗浄及び結合緩衝液(WB緩衝液:1M NaCl,10mMトリス塩酸、pH7.5、1mM EDTA)が各場合において4μlのプライマーに添加され、そして混合物が70℃にて5分間インキュベートされた。これら2つのプライマーのアセンブリーの後、且つ更なる70℃5分間のインキュベーションの後、プライマー混合物は室温へと徐冷された。4μlのGCLIE1B/GCLIE2Pプライマーハイブリッドは、56μlのWB緩衝液と混合され、洗浄及び結合緩衝液で予め洗浄しておいたストレプトアビジン付加磁性ビーズ(MBs)300μlに添加された。室温にて15分間のインキュベーションの後、磁性ビーズをWB緩衝液及びTE緩衝液(10mMトリス塩酸、pH7.5、1mM EDTA)で洗浄した。プライマーリンカーフラグメントを、第1のプライマーハイブリッドに結合した磁性ビーズに加えた。該フラグメントは、次のようにして作成した。すなわち:4μlのプライマーGCLIB4P又はGCLI5Pを、GIBCO BRLの1×ライゲーション緩衝液(50mMトリス塩酸、pH7.6、10mM MgCl2、1mM ATP、1mM DTT、5%(w/v)ポリエチレングリコール8000)36μlと混合した。70℃で5分間インキュベーションの後、両方の混合物を合わせ、70℃で更に5分間インキュベートして室温にまで冷却した。12単位のT4 DNAリガーゼ(GIBCO BRL)及び8μlの1×ライゲーション緩衝液を添加した後、反応混合物を室温にて1時間インキュベートした。このGCLIE3P/GCLIB4P/GCLI5Pの架橋フラグメントの12μlを、54μlの1×ライゲーション緩衝液及び6単位のリガーゼと混合し、混合物を、第1のプライマーハイブリッドを含んだ洗浄済み磁性ビーズに添加し、室温にて1時間インキュベートした。ライゲーション反応の後、TE緩衝液で磁性ビーズを2回洗浄し、8μlのリガーゼを含んだ1×ライゲーション緩衝液64μl中に入れた。GCLIB4P/BCLI5Pのアセンブルと同様にして予めアセンブルしておいたプライマー混合物GCLI6P/GCLIB7Pの8μlを、次いで磁性ビーズに添加した。再び、ライゲーションを室温で1時間行なった。磁性ビーズをTE緩衝液で2回洗浄した後、第2の架橋フラグメントであるGCLIB8P/GCLIE9P/CGLIE10の12μlを添加し、混合物を1時間ライゲーションした。この第2の架橋フラグメントは、第1の架橋フラグメントと同様にして作成され、GCLIE9P及びGCLIE10が最初にアセンブルされ次いで、第2のステップにおいてGCLI8Pとライゲートされた。固定化したプライマーを有する磁性ビーズは、次いで、再度TE緩衝液で洗浄した。続くDNAポリメラーゼ及びリガーゼ反応が、第2の鎖中のギャップを埋めた。磁性ビーズを37℃にて30分間、次の緩衝剤混合物中でインキュベートした。すなわち、52.5μlの水、Boehringerの緩衝液L(100mMトリス塩酸、pH7.5、100mM MgCl2、10mMジチオエリスリトール)の6μl、0.5μlのdNTPs(各dNTP25mM)及び1μl(2単位)のクレノウフラグメント(Boehringer)。磁性ビーズをTE緩衝液で2回洗浄した後、ライゲーション反応を室温にて1時間行なった。100μlの混合物は、10単位のリガーゼを含有した。TE緩衝液による2回の洗浄ステップの後、40μlの0.1M NaOHで30秒間処理することによって、磁性ビーズに共有結合によらずに結合しているDNA鎖を除去し、磁性ビーズを60μlのTE緩衝液に再懸濁させた。ライブラリーの増幅のためのPCRは、この磁性ビーズを鋳型として行なわれる。PCR反応混合物(50μl)は、次のようにして調製される。すなわち:6μlの磁性ビーズ、Stratageneの10×PCR反応緩衝液(100mM KCl、100mM (NH4)2SO4、200mMトリス塩酸、pH8.75、20mM MgSO4、1%Triton X-100、1mg/ml BSA)の5μl、1μl(2.5単位)のPfu DNA ポリメラーゼ(Stratagene)、0.5μlのdNTPs(各dNTP25mM)、0.35μlのGCLIE1B、0.35μlのGCLIA11B及び36.8μlの水。PCRは、55℃1分のプライマーアニーリング、72℃1.5分のポリメラーゼ反応、95℃1分の変性の35サイクル、及び72℃5分の最終ポリメラーゼ反応で行った。
【0060】
ファージミドpGCKT8-3の作成
ファージミドpCANTAB 5E(Pharmacie BiotechのPRASキット)から開始して、γ−II−クリスタリン突然変異体バンドをクローニングするためのファージミド誘導体をこうして構築した。γ−II−クリスタリンの3’領域全体(C末端ドメイン)及び非突然変異誘発5’領域を、プラスミドpGII(Mayr et al., 1994)を鋳型とし、プライマーGCFORNOT及びGCBACKSfiBstを用いてPCRにより増幅した(Figs. 3, 4)。
【0061】
これらのプライマーにより導入された切断部位Sfi I(GCBACKSfiBst)及びNot I(GCFORNOT)は、PCR産物のファージミドpCANTAB 5Eへの挿入を可能にする。GCBACKSfiBstプライマーと共に、Bst EII切断部位が更にγ−クリスタリン遺伝子中に組み込まれ、これは突然変異したγ−クリスタリンDNAフラグメントのクローニングを可能にした。この切断部位の全く新たな導入は、γ−II−クリスタリンのアミノ酸配列を変更を生じさせない。配列決定の後、PCR産物を、Sfi I/Not Iフラグメントとして、Sfi I/Not Iで切断したファージミドpCANTAB 5E中にクローニングした。こうして構築されたファージミドpGCKT8-3は、γ−II−クリスタリンファージディスプレーライブラリーを作成するための出発点であった。
【0062】
γ−クリスタリン突然変異体ライブラリーの作成及び野生型γ−II−クリスタリンのクローニング
ファージミドpGCKT8-3を、Bst EII及びSfi I制限酵素で切断し、フォスファターゼ処理(USBの子エビフォスファターゼ)した。個々の切断の後、DNAをゲル電気泳動で分画し、切断されたベター画分を切り出し、アガロースゲルから電気溶出によって単離した。その後の何れの酵素処理の前にも、フェノール/クロロフォルム抽出及びグリコーゲンによるDNA沈殿を行なった。PCRにより増幅され且つγ−II−クリスタリンの突然変異誘発領域を含んだDNAフラグメントプールを、Sfi I及びBest EII制限酵素で切断した。調製したpGCKT8-3ファージミドへのPCR産物のライゲーションには、全部で440ngのファージミド及び110ngのPCR産物を用いた。ライゲーションは、20μlの混合物中、全部で44単位のT4 DNAリガーゼ(GIBCO BRL)を用いて、16℃にて終夜行なった。70℃20分でリガーゼを不活性化した後、ライゲーション反応物をドロップ透析(drop dialysis)により1時間脱塩した。各場合において、30μlのエレクトロコンピテントな(electrocompetent)E. coli TG 1細胞を、15μlの透析済みのライゲーション反応物で形質転換した。このエレクトロコンピテントな細胞は、PRAS-キットのマニュアルに記載のとおりにして作成し、形質転換した。形質転換細胞は、グルコース及びアンピシリン(100μg)含有SOBAGプレート(Pharmacia-BiotechのPRAS-キットマニュアルを参照)上につくり、30℃で終夜インキュベートした。作成したGCUC-1ライブラリーは、250000個のオリジナルクローンを含んでいた。それらのクローンを、1%グルコース及び20%グリセロールを含んだ2×YT培地(PRAS-キットマニュアルを参照)で洗浄し、小分けして−80℃で貯蔵した。ライブラリーの増幅係数は7×106であった。GCUC-1ライブラリーのうち組換えクローンの割合は97%。ランダムに選んだクローンの配列決定は、ランダム化したアミノ酸配置において、期待した変種のコドンが用いられていることが判明した。ウエスタンブロッティング分析によれば、ライブラリーにおける発現率は30〜60%であった。
【0063】
対照実験においては、γ−II−クリスタリンDNAは、プライマーGCFORNOT(5' GAGTCATTCTGCGGCCGCATAAAAATCCATCACCCGTCTTAAAGAACC 3')及びGCBACKSFI(5' CATGCCATGACTCGCGGCCCAGCCGGCCATGGGGAAGATCACTTTTTACGAGGAC 3')及び増幅鋳型としてのプラスミドpGII(Mayr et al., 1994)を用いて増幅した。Not I及びSfi I制限エンドヌクレアーゼによる切断の後、配列決定したPCR産物をSfi I/Not Iで同様に切断したファージミドpCANTAB 5E中にクローニングした。
【0064】
ファージディスプレーの設計及び新規の結合性タンパク質の選択
結合特性につきγ−クリスタリン突然変異体を選択するのには、Pharmacia-Biotechから商業的に入手可能なファージディスプレー系であるPRASを使用した。用いたpCANTAB 5E(野生型γ−II−クリスタリン)ファージミド及びpGCKT8-3(γ−クリスタリン突然変異体)ファージミド中において、γ−クリスタリンは、N末端でG3シグナルペプチドに、そしてC末端でE-tagに融合しており、これは該タンパク質の免疫学的検出を可能にする(Fig. 5)。用いた細菌株に依存して、E-tagの後のamberストップコドンが認識されて(E. coli HB 2151)、γ−クリスタリンはシグナルペプチドの切除された後細胞周辺に分泌されるか、又はオーバーリーディング(overreading)(E. coli TG 1)が起こりγ−クリスタリンが繊維状ファージM13のマイナーコート(minor coat)タンパク質との融合タンパク質として合成されて、シグナルペプチドの切除の後E. coli細胞の内側形質膜に係留される。ヘルパーファージを添加した後、γ−II−クリスタリン変種を表面に露出した組換えファージが形成できる。
【0065】
GCUC-1ライブラリーの及びγ−II−クリスタリン野生型ファージの、培養条件の最適化
PRASマニュアルに記載の培養条件の下では、何れの組換えファージにおいても、期待した融合タンパク質(γ−II−クリスタリン/タンパク質3)をウエスタンブロティング分析で検出することはできなかった。ファージ形成中の還元型グルタチオン(GSH)の添加のみが、細菌細胞の細胞周辺の酸化還元状態を変化させてファージのアセンブリングのためのより好ましい条件を提供した。γ−II−クリスタリンクローンを用いるときは、融合タンパク質を有する組換えファージの検出は、GSHの添加によってのみ可能であった。GSH濃度を上昇させると、γ−II−クリスタリンファージの比率も高まった。最適なGSH濃度は、8mMと判定された。GSH不存在下におけるファージ表面の乏しいγ−クリスタリン発現の理由の一つは、γ−クリスタリン中の還元型システイン(7)の高い比率である可能性がある。部分的に折りたたみの解かれたγ−クリスタリンが細胞周辺に入ったとき、そこを支配する酸化性の条件の下で、誤った折りたたみ及び、ジスルフィド架橋の形成による凝集が起こり得る。これはまたファージアセンブリングをも抑制するであろう。ファージディスプレー系において還元型システインを含んだタンパク質を用いるとき、一般にGSHを添加することによって組換えファージの形成を改善することが可能であろう。
【0066】
GCUC1ファージディスプレーライブラリーを用いた選択プロセス
GCUC-1ライブラリーをスクリーニングするためには、用いる全てのガラス器具は220℃で4時間滅菌し、プラステック材料はHelipurを用いて1時間滅菌した。GCUC-1ライブラリーのパンニングは、抗原としてBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネート(Sigma)を、固相としてマイクロタイタープレート(NUNCのMaxisorp)を、用いて行いた。3ラウンドのパンニングの間、洗浄ステップの厳格さを増加させた。最初の培養には、2%グルコース及びアンピシリン(100μg/ml)を含有する100mlの2×YT培地に、50μlのGCUC-1ライブラリーを播種した。細菌を37℃で、300rpmでOD600が0.4となるまで増殖させた。この細菌培養物の10mlに、800μlのM13KO7ヘルパーファージ(1×1011 pfu/ml、GIBCO BRL)を添加した。次いで、37℃にて30分間インキュベートし更に30分間緩やかに揺すりながら(50 rpm)インキュベートした。室温にて1500rpm(Sorvall SS 34 ローター)で20分間遠心して細菌ペレットを得、8mMのGSH、100μg/mlのアンピシリン及び50μg/mlのカナマイシンを含有する100mlの2×YT培地中に加えた。30℃にて300rpmの終夜培養により組換えファージを作成した。組換えファージを含有する上清は、10800gで各場合15分間2回遠心し、次いでろ過(ポアサイズ0.45μm)することにより得られた。上清に1/5のPEG/NaCl溶液を(20%PEG-8000、2.5M NaCl)を加え、氷上で1時間インキュベートしそして、4℃にて3300gで各場合30分間2回遠心することによりファージを濃縮した。得られたファージペレットを、4mlのPBS(pH7.2)に再懸濁させ、残存する細胞成分を遠心により除去した(10分、11600g、室温)。選択プロセス(パンニング)のためには、1mlの濃縮ファージを、1mlの6%濃度のBSA溶液(6%BSA含有PBS、pH7.2)と混合し、室温にて10分間インキュベートした。各場合において、このように処理されたファージのうち100μlを、次のようにして準備した抗原被覆マイクロタイタープレートのウェルに添加した。すなわち、NUNC-Maxisorpマイクロタイタープレートを抗原であるBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネートで被覆した。各場合において、100μlに抗原溶液(pH7.6のPBS中の100μg/ml)を、全部で10個のウェルに加えた。室温で終夜被覆したウェルを、PBS(pH7.6)で3回洗浄した。ウェルを3%濃度のBSA/PBS溶液(pH7.2)で室温にて2時間満たしておくことにより、遊離の結合部位を飽和させた。BSA処理ファージの添加に先立ち、ウェルをPBS溶液(pH7.2)で2回洗浄した。パンニングは、マイクロタイタープレートを穏やか(20rpm)に30分間揺すり、次いで揺すらずに室温にて90分間インキュベーションることにより行った。非特異的に結合したファージを、PBS(pH7.2/0.1%Tween-20)で10回洗浄し、次いでPBS(pH7.2)で10回洗浄することにより除去した。結合したファージを、それぞれウェルあたり100μlの100mMトリエチルアミン(直前調製)を添加し室温にて10分間インキュベートすることにより、溶出した。塩基により溶出したファージ(1ml)を、500μlの1Mトリス塩酸(pH7.4)を添加することにより中和した。これらのファージ750μlを、最少培地プレート上で培養したOD600が0.4−0.5であるTG-1細胞9mlに感染させるのに用いた。このためには、細菌をファージと37℃で30分間インキュベートした。特別に強固に結合しトリエチルアミン処理ではマイクロタイタープレートから除去されないファージを浪費しないですますことは、TG-1細胞の直接感染により可能であった。このためには、それぞれ100μlの培養TG-1細胞をウェルに添加した。37℃で30分間のインキュベーションの後、感染したTG-1細胞を除去し、溶出ファージで感染させた細胞と合わせた。感染した細菌を16×16cmのSOBAGプレート上につくり、30℃にて終夜インキュベートした。力価測定には、それぞれ1μlの濃縮し溶出したファージを用いた。得られた細菌クローンを12.5mlの2×YT、20%グリセロールでSOBAGプレートから洗い出した。第2、第3のパンニングは、次の変更を伴ったほか、最初のパンニングと同様にして行った。ファージの培養は、20μlの洗い出されたライブラリーを20mlの培地中で用いて反復した。ヘルパーファージによる感染には、2mlの細菌培養物を用いた(細菌/ファージ重量比率:1/20)。第2のパンニングではマイクロタイタープレートを、最初に15回PBS/Tween-20で洗浄し、次いで10回PBSで洗浄し、第3のパンニングでは、最初に20回PBS/Tween-20で洗浄し、次いで10回PBSで洗浄した。
【0067】
濃度及び特異的結合をチェックするためのELISA
抗原に特異的に結合するファージの濃度は、ポリクローナルファージELISAを用いて検出した。溶出ファージに加えて、出発ライブラリのファージGCUC-1及び野生型γ-II−クリスタリンのファージを、比較のためにアッセイした。NUNC-Maxisorpプレートを100μlのBSA-エストラジオール−17−ヘミサクシネート又はBSAで、2μg/mlのPBS(pH7.6)濃度で室温にて終夜被覆した。ウェルをPBS(pH7.6)で3回洗浄し、次いで3%乾燥乳粉末(Gluecksklee)/PBS(pH7.2)で37℃にて2時間ブロックし、PBS(pH7.6)で更に3回洗浄した。ファージ培養から単離した非濃縮組換えファージは、最初に室温にて1時間ブロックした(6%濃度の乾燥乳粉末(Marvel)/PBSとの1:1混合物)。ブロックしたファージの100μlをウェルに加えて37℃にて1時間インキュベートした。ウェルを、PBS/Tween-20及びPBSでそれぞれ3回洗浄し、次いで抗M13抗体-POD接合体(Pharmacia-Biotech, 1:5000希釈、3%Gluecksklee/PBS)と共に37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄の後、酵素結合抗体を100μlのImmuno-Pure-TMB基質(Pierce)を用いて検出した。100μlの2M硫酸を添加して呈色反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。3回のパンニングの後の、BSA-エストラジオール接合体に結合するファージの濃度の結果を、Fig. 6に示す。
【0068】
接合体への特異的結合性を有する個々のファージの単離及び特徴決定
第3回目のパンニングで得られた細菌クローンから80の個々のクローンを選択した。そられのクローンからファージを単離し、抗原結合性についてモノクローナルファージELISAで個々にアッセイした。個々の細菌クローンは、ポリプロピレンマイクロタイタープレート(NUNC)中で、穏やかに揺すりながら(100rpm)、2%グルコース及び100μg/mlアンピシリンを含んだ100μlの2×YT培地中で終夜培養した。これらの細菌培養物の2μlを、同じ培地で1:100に希釈し、100rpmで37℃にてOD600が0.4となるまで培養した。選択方法について記述したのと同様にしてファージを得た。ファージの培養には、TECANの深ウェルのポリプロピレンマイクロタイタープレートを使用した。ELISAには、遠心して得られたファージ上清(濃縮せず)200μlを、40μlの6×PBS/18%により室温にて1時間ブロックした。アッセイした80のクローンのうち30において、組換えファージはBSA-エストラジオール−17へ有意に結合し、平行してアッセイしたBSAには結合しないことが示された。野生型γ−II−クリスタリンを有するファージは、対照実験において、BSA-エストラジオール−17への結合性を全く示さなかった。14の選択された結合性ファージを、IRD800標識プライマーpCANR1LAB(5' CCATGATTACGCC-AAGCTTTGGAGCC 3')及びGCLISEQ(5' CTGAAAGTGCCGGTGTGTTGC 3')を用いて配列決定した。配列決定は、8つのランダム化されたアミノ酸位置にのみ突然変異を起こしたγ−クリスタリン変種(Mu 12A)がただ1例のみ存在することを明らかにした。多くのクローンは、リーディングフレームのシフトを示し、理論的には機能的なタンパク質をコードして入るが、予想したγ−クリスタリン領域に限定されない変異を有していた。これらの枠シフト突然変異体については、それ以上検討しなかった。
【0069】
βシート突然変異12Aの特徴決定
融合タンパク質であるMu 12A−マイナーコートタンパク質3の組換えファージ表面における発現、及びE. coli株HB 2151におけるMu 12Aの発現は、それぞれ抗G3P抗体及び抗E-Tag抗体(Pharmacia-Biotech)を用いて、ウエスタンブロッティング解析により検出された。ファージミドpGCKT8-3における突然変異体12Aの、及びγ−II−クリスタリン野生型のDNA配列決定は、Fig. 7に記載されている。そのDNA配列は、出発ファージミドpCANTAB 5E中に既に存在していたものであるSfi I切断部位に始まり、そして、pGCKT8-3の場合には、γ−II−クリスタリン遺伝子に新しく導入された、そしてγ−II−クリスタリン野生型遺伝子の場合には元の配列中に存在していた、Bst EII部位に終わる。Fig. 8は、それらから求められたアミノ酸配列を示す。アミノ酸位置36におけるコドンのランダム化は、当該部位のアミノ酸であるアルギニンを変更しない。突然変異体12Aのコンピュータモデリングは、これらのアミノ酸変更は、出発タンパク質と比べたとき、タンパク質構造に大きな変化を引き起こさないことを示している。しかしながら、正味の電荷はより陽性となる。
【0070】
pET-20b中における突然変異体12Aの発現
突然変異体12Aを詳細に特徴決定するため、DNAをプラスミドpET-20b(Novagen)に再クローニングした。このプラスミドは、E. coli株BL 21中における組換えDNAの高発現と、外来タンパク質の簡単な精製とを可能にする。これにおいては、遺伝子はシグナルペプチドなしでそしてC末端に6個のヒスチジン残基が融合した形で発現される。突然変異体12Aとγ−II−クリスタリン野生型のDNAをPCRで、適当なファージミドDNAとプライマー対、即ち突然変異体12AについてはGC 20bback12A/GC for 20b、野生型についてはGC 20bbackWT/GC for 20bを用いて、増幅した(Fig. 9)。PCRフラグメントを制限酵素Nde I及びBam HIで切断し、Nde I/Bam HIで切断したベクターpET 20bにクローニングした。Fig. 10は、pET-20b中で発現させた後の、突然変異体12A及びγ-II−クリスタリンそれぞれについての、理論的アミノ酸配列を示している。突然変異体12AのN末端の最初の10個のアミノ酸は、N末端タンパク質配列決定により確認された。
【0071】
pET-20b中での突然変異体及び野生型の培養及び精製
突然変異体の結合特性と安定性とを詳細に検討するため、突然変異体12Aタンパク質及び野生型タンパク質を大量に製造した。BL 21細胞を、プラスミドpET-20b/Mu 12Aで及びpET-20b/γ-II−クリスタリンで、それぞれ形質転換した。LB培地/100μgアンピシリンで、予備培養物を1:100に希釈し、培養物を200rpmで揺すりながら、37℃で、OD600が0.5となるまで、クローンを培養した。γ−クリスタリンの発現を、IPTG(最終濃度1mM)の添加によって誘導した。終夜30℃及び200rpmで培養を続けた。4℃、6000rpm(Sorvall GS3ローター)10分間の遠心により細菌細胞を収穫した。細胞ペレットを、150μlの200mM PMSF及び10μlのDNAse(Boehringer)を添加した30mlの2×PBSに懸濁させた。細胞をGaulinプレスを用いて800-1000 PSIGで2回破壊した。細胞懸濁液を4℃で20000rpm(Sorvall SS 34ローター)で1時間遠心し、可溶性タンパク質を含有する上清を得た。6個のヒスチジン残基に融合したγ−クリスタリンを、4℃にてアフィニティクロマトグラフィーにより精製した。8mlのNi-NTAを50mlの2×PBS/10mMイミダゾールで平衡化した。次いで、可溶性タンパク質を含有する上清を、平衡化したカラム材料と共に、バッチプロセスでローラーシェイカー上でゆっくりと終夜撹拌した。クロマトグラフィーカラムへの懸濁物の導入の後、2×PBS/10mMイミダゾール/300mM NaClで洗浄した。結合しているタンパク質を、2×PBS/250mMイミダゾールで溶出した。溶出タンパク質にDDT(最終濃度10mM)を添加した。次いで、4℃にて各8時間の透析ステップを2回、最初は100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0/1mM EDTA/1mM DTT)で、そして2回目は10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0/1mM EDTA)で行った。最終の遠心(Sorvall SS 34ローター中、4℃、30℃、20000rpm)で得られた上清は、精製タンパク質(Mu 12A又はγ−II−クリスタリン)を含有しており、それらを結合性研究及び安定性研究に用いた。
【0072】
突然変異体12AのBSA−エストラジオール−17−ヘミサクシネート接合体への特異的結合を、精製突然変異体12A-His-タグタンパク質の濃度を上昇させつつ、ELISAにより行なった。γ−II−クリスタリン野生型(同様にHig-タグ)の量の増大を、対照として用い、両精製タンパク質のBSAへの結合をアッセイした。この濃度依存性のELISAは、NUNC-Tmプレートを用いて行った。抗原であるBSA−エストラジオール−17−ヘミサクシネート接合体又はBSAによる被覆を、室温にて終夜行なった。被覆には、それぞれ、20μg/mlPBS(pH7.6)の濃度の抗原100μlを用いた。プレートを洗浄(2×PBS、pH7.6)しそしてブロック(3%Marvel/PBS、37℃にて2時間)した後、精製したMu 12又はγ−II−クリスタリンのタンパク質原液(濃度0.63mg/ml)1〜13μlを、全100μlとなるようにした反応液(PBS、3%Marvel、xμlのタンパク質)に加え、ウェル中で37℃にて2時間インキュベートした。使用した二次抗体は、1:3000に希釈したQiagenのテトラHis抗体及び1:2000に希釈した抗マウスPOD抗体(Sigma)である。これらの抗体は、3%濃度のMarvel/PBS溶液で希釈し、それぞれ100μlをウェルに加え、そして37℃にて1時間インキュベートした。基質の反応は、ポリクローナルファージELISAについて記載したのと同様にして行なった。Fig.11中のこのELISAの結果は、突然変異体12Aの濃度の増加と共にのみ吸光度の増加が測定されることを、明瞭に示している。γ−II−クリスタリンを用いては何らの増加も検出されなかった。同様に、BSAとの反応は全く観察されなかった。これらのことは、出発タンパク質との対比で、突然変異体12Aの特異的結合を示している。
【0073】
突然変異体12A及びγ−II−クリスタリンの安定性は、グアニジン変性によって検討した。この目的のためには、精製タンパク質を最終濃度20μg/mlの濃度で、グアニジニウムの濃度を増大させながら、20℃にて1日及び3日間インキュベートした。全部で15通りのグアニジニウム濃度は、1mM DTT/0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)中、範囲0〜5.5Mに調整した。1日及び3日の後、それぞれ、各混合物の300〜400nmの蛍光発光スペクトルを記録した。励起波長は280nmとした。Fig. 12は、グアニジニウム濃度の関数として測定した発光ピーク波長を示している。γ−II−クリスタリンの安定性は、1日後及び3日後の何れも、突然変異体12Aより高い。しかしながら、突然変異12Aの安定性は、抗体分子に比べると遥かに高い。
【0074】
突然変異体12Aの蛍光特性の変化
野生型タンパク質に対して突然変異体12Aの蛍光特性が変化したかを調べるために、蛍光スペクトルを記録した。この目的のために、100μg/mlの野生型タンパク質又は突然変異体12A(50mMリン酸ナトリウム、pH6.0中)を、光路長1cmのキュベット中で、280nmで励起し、蛍光を300〜400nmの範囲で測定した。励起及び発光ともに、スリット幅は5nmであった。
【0075】
野生型についてもまた突然変異体12Aについても共に、検出された蛍光シグナルは329nmにピークを有していた。しかしながら、突然変異12Aの蛍光強度は、シグナル強度が86%しかなく、γ−クリスタリン野生型(100%)に比べて明らかに低かった(Fig. 13Aを参照)。
突然変異12A及び野生型は、蛍光団(fluorophores)の総数については同一であった。しかしながら、突然変異体に生じている配列の変化(第8位におけるY→K、及び第15位におけるC→Y )は、蛍光シグナルに、ある変化を生じさせている。蛍光強度における差は、第8位及び第15位にそれぞれ位置するチロシン残基が異なった蛍光特性を有するという事実に起因する可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の方法によれば,何らの結合特性も有しないβシートタンパク質から、特異的結合性を有するタンパク質を製造することが可能である。そして、適当なスクリーニング方法を用いることによって、所望の特異性を有する突然変異体がこのライブラリーから単離される。出発タンパク質の性質に依存して、記載の系を用いて産生されたβシート変異体は、サイズ、安定性、及び異種、好ましくは細菌の系で機能的に活性な産物が得られるという点で、例えば抗体及び組換え抗体フラグメントに比して、有利である。この新規βシート変異体のこれら改善された特性は、例えば抗体、組換え抗体フラグメント又は触媒性抗体に取って代わることが可能であり、全く新たな利用分野を拓くことができる。
【0077】
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【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】Fig. 1 γ−クリスタリン突然変異体をアセンブルするためのオリゴヌクレオチド。
【図2】Fig. 3 オリゴヌクレオチドによるアセンブリングとそれに続くストレプトアビジン付加磁性ビーズ(MB)上でのPCRの概念図。Xで印をつけた位置は、ランダム化したアミノ酸位置を示す。
【図3】Fig. 2 γ−II−クリスタリンの非突然変異誘発領域の増幅の概念図。
【図4】Fig. 4 γ−II−クリスタリンの非突然変異誘発領域を増幅するためのオリゴヌクレオチド。
【図5】Fig. 5 pCANTAB 5E-γ−II−クリスタリン発現カセットの概念図。g3-SS:ファージタンパク質のG3のグナルペプチド配列; E-tag:免疫検出のための11個のアミノ酸; fd Gen 3:繊維状ファージM13のマイナーコート(minor coat)タンパク質3。
【図6】Fig. 6 第3回のパンニング法の後に濃縮されたファージを用いたポリクローナルファージELISA。マイクロタイタープレートは、BSA-β-エストラジオール−17−ヘミサクシネート接合体又は対照として単にBSAでコーティングした。並べて示されているのは、γ−II−クリスタリン野生型ファージ(GC-WT)の、出発ライブラリーからのファージ(GCUC-1)の、及びパンニング法の反復によって濃縮したファージ(E-17ファージ)の、特定の抗原への結合を示す。
【図7】Fig. 7 ファージミドpGCKT 8-3中のBSA-エストラジオール-17-ヘミサクシネート結合γ−II−クリスタリン突然変異体12A(Mu 12A)の、及び、pCANTAB 5E中のγ−II−クリスタリン野生型(WT)の、それぞれ部分DNA配列。導入された切断部位Sfi I(5')及びBst EII(3')は、イタリック体及び下線で示されている。ランダム化したアミノ酸の位置は太字で示されている。
【図8】Fig. 8 ファージミド中での発現とシグナルペプチドの除去後の、BSA-エストラジオール-17-ヘミサクシネート結合γ−II−クリスタリン突然変異体12A(Mu 12A)及びγ−II−クリスタリン野生型(WT)の、求められたアミノ酸配列。ランダム化したアミノ酸の位置は太字で、そして実際に置換されたアミノ酸は太字及び下線で示されている。Sfi I 切断部位を介してN末端に、及びC末端E-tag融合により付加的に導入されたアミノ酸は、イタリック体及び下線で示されている。
【図9】Fig. 9 Mu 12A及びγ−II−クリスタリンのベクターpET-20b中へのクローニングに用いたプライマーの配列。
【図10】Fig. 10 pET-20b中での発現後のBSA-エストラジオール-17-結合突然変異体12A及びγ−II−クリスタリンの、求められたタンパク質配列。ランダム化したアミノ酸位置は太字で、そして実際に置換されたアミノ酸は太字及び下線で示されている。6個のヒスチジンを含むクローニングで付加されたC末端アミノ酸は太字及び下線で示されている。
【図11】Fig. 11 BSA-エストラジオール-17-ヘミサクシネート接合体への、突然変異体12Aの濃度依存性の結合。突然変異体(12A)及びγ−II−クリスタリン(WT)の、接合体(BSA-エストラジオール−17)及び対照としてのBSAへの結合が解析された。
【図12】Fig. 12 変性剤グアニジンに対する突然変異体12Aの安定性。数値は、精製した突然変異体12A及びγ−II−クリスタリンタンパク質を種々の濃度のグアニジンと種々の時間にわたってインキュベートした後の発光のピーク波長を示す。
【図13】Fig. 13 50mMリン酸ナトリウム(pH6.5)中における、野生型のγ−クリスタリン及び突然変異体12Aの蛍光発光スペクトル。蛍光シグナル(Fig. 13A)は、励起波長280nmで測定された。タンパク質濃度は100μg/mlであった。
【図14】Fig. 13Bは、蛍光測定に用いたタンパク質サンプルの吸収スペクトルを示す。吸収は、光路長1cmのキュベット中において測定した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の若しくは変化させた特異的結合特性を有する、又は新規の若しくは変化させた触媒活性を有する、又は新規の若しくは変化させた蛍光特性を有する、新規のβシートタンパク質に関し、更に、そのように変性させたタンパク質を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体及びそれらの誘導体は、ヒトや動物の治療、診断及びモニタリングという多くの分野で使用されている。天然に存在する抗体を利用することの問題の一つは、それらの製造にある。抗体は、依然として動物細胞培養系において産生されており、これは非常にコストの掛かる方法である。例えば融合タンパク質の製造や、迅速な血中クリアランスと良好な組織移行性を要求される治療への使用等、用途によっては、天然に存在する抗体分子のサイズは、また別の問題を提起する(Colcher et al., 1998)。scFvs(非特許文献1参照)、ミニ抗体(非特許文献2参照)又は二重特異性抗体(非特許文献3)等のような組換え抗体分子は、主として、抗体の抗原結合性ドメイン(VH及びVL)のみから構成されている。それらは、かなり小さなサイズであるため、完全な抗体に比べて組織移行性が改善されており、また他のタンパク質との融合の目的にも一層適している。しかしながら完全な抗体に比べ、組換え抗体フラグメントは、不安定であることが多く、親和性が低く、そして、形成しなければならないジスルフィド架橋のため、組換え型で製造することが困難である。組換え抗体フラグメントの安定化及び親和性改善のための方法は、取り分け、種々のリンカーペプチドのテスト及びジスルフィド架橋の導入を含む(非特許文献4,非特許文献5及び 非特許文献6参照)。
【0003】
リンカーペプチドの配列と長さとは、プロテアーゼに対する安定性と抗体フラグメントの特異性の双方に影響を及ぼし得る(非特許文献7参照)。可変ドメインの保存された枠領構造域中への追加のジスルフィド架橋の導入は、熱(非特許文献8)及び変性剤に対する安定性増大及び異種発現の収率増大をもたらし得る。しかしながら一般には、多くのscFvsは安定性が低く、37℃で早くも凝集する傾向がある。この不安定性はまた、新たな不安定化変異をもたらし得る通常のFv-フラグメントクローニングプライマーによっても引き起こされ得る。これらの抗体フラグメントは、細菌系において、主として細胞周辺腔内へと輸送されることによって産生され、そして酸化還元状態に関する最適化及び折りたたみヘルパーの同時発現がここでも可能である。
【0004】
【非特許文献1】Bird et al., (1988): Single-chain antigen-binding proteins. Science 242, 423-426.
【非特許文献2】Pack and Plueckthun, (1992):Biochemistry 31, 1579-1584.
【非特許文献3】Holliger and Winter,(1993): Curr. Opin. Biotech. 4, 446-449.
【非特許文献4】Glockshuber et al., (1990): Biochemistry 29, 1362-1367.
【非特許文献5】Cumber et al., (1992): J. of Immunology 149, 120-126.
【非特許文献6】Brinkmann et al., (1997): J. Mol. Biol. 268, 107-117.
【非特許文献7】Pantoliano et al., (1991): Biochemistry 30, 10117-10125.
【非特許文献8】Young et al., (1995): FEBS Lett. 377, 135-139.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規の又は変化させた結合特性を有する新規タンパク質、例えば抗体様タンパク質、であってしかも、完全な又は組換え抗体分子の上記欠点を示さないタンパク質を提供することである。
【0006】
本発明の更なる目的は、新規の又は変化させた酵素的若しくは触媒的特性を示すタンパク質を提供することである。
【0007】
本発明の別の一目的は、上記タンパク質を製造する方法を提供することである。
【0008】
上記の諸目的は、下記(1)に規定された特徴を有するタンパク質によって達成される。本発明のタンパク質を製造するための方法は、下記(21)のとおりである。本発明の好ましい具体例は、従属の項及び以下の詳細な説明のとおりである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)βシート構造を有するタンパク質であって、該タンパク質が新規の若しくは変化した特異的結合特性又は新規の若しくは変化した触媒活性又は新規の若しくは変化した蛍光特性を有するように、表面に露出した少なくとも1つのβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中の表面に露出したアミノ酸が特異的に突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(2)上記(1)のタンパク質であって、クリスタリン、スフェルリン、熱ショックタンパク質、コールドショックタンパク質、βヘリックスタンパク質、リポカリン、セルチン、フィブロネクチン又は転写因子よりなる群に含まれるか、又はGFP、NGF、テンダミスタット又はリゾチームであることを特徴とするタンパク質。
(3)上記(1)又は(2)のタンパク質であって、表面に露出した3本のβ鎖が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(4)先行(1)又は(2)のタンパク質であって、表面に露出した4本又はより多くのβ鎖が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(5)先行の何れかのタンパク質であって、少なくも2つのβシート中の少なくとも2本のβ鎖が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(6)先行の何れかのタンパク質であって、2つの逆平行βシート中の3本のβ鎖が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(7)先行の何れかのタンパク質であって、脊椎動物、げっ歯類、鳥類又は魚類のクリスタリンであることを特徴とするタンパク質。
(8)先行の何れかのタンパク質であって、α−、β−又はγ−クリスタリンであることを特徴とするタンパク質。
(9)先行の何れかのタンパク質であって、γ−II−クリスタリンであることを特徴とするタンパク質。
(10)上記の何れかのタンパク質であって、溶媒又は結合相手にとってアクセス可能なβシート領域の領域において、該タンパク質が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(11)先行の何れかのタンパク質であって、タンパク質のドメイン又はサブユニットのβシート構造において突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(12)先行の何れかのタンパク質であって、γ−II−クリスタリンのアミノ酸Lys 2、Thy4、Tyr6、Cys15、Glu17、Ser19、Arg36及びAsp38のうち1つ又はより多くの突然変異誘発によって得られたγ−II−クリスタリンであることを特徴とするタンパク質。
(13)先行の何れかのタンパク質であって、抗体様結合特性又は酵素(触媒)活性を有するように、該タンパク質が突然変異誘発されたものであることを特徴とするタンパク質。
(14)上記(12)又は(13)のタンパク質であって、エストラジオール又はその接合体であるBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネートに対する結合特異性を有するものであることを特徴とするタンパク質。
(15)先行の何れかのタンパク質であって、エストラジオール又はその接合体であるBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネートに対する結合特異性を有し且つ次のアミノ酸配列を有するものであるタンパク質:
Figs. 8及び10を参照。
(16)先行の何れかのタンパク質であって、他のタンパク質又は非タンパク質と組み合わさったものであることを特徴とするタンパク質。
(17)先行の何れかのタンパク質であって、改善された結合特性及び/又は改善された触媒活性及び/又は改善された蛍光特性を有することを特徴とするタンパク質。
(18)先行の何れかタンパク質をコードするDNA。
(19)上記(18)のDNAから導かれるRNA。
(20)上記(18)若しくは19のDNA若しくはRNA又はそれらの部分であってタンパク質の機能的領域をコードする部分を含んだ、原核又は真核のベクター又は細胞。
(21)先行の何れかのタンパク質を製造するための方法であって、
a.表面に露出したβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖をコードする領域において、βシート構造を有するタンパク質をコードするDNAに突然変異誘発を行なうステップと、
b.ステップ(a)で得られた突然変異体を適当な発現系で発現させるステップと、そして
c.所望の結合特性及び/又は所望の触媒活性を有する突然変異体を選択して単離するステップと、所望により
d.該βシート突然変異体タンパク質を発現させ単離するステップと
を含むことを特徴とする方法。
(22)上記(21)の方法であって、突然変異誘発が、βシート中の特定のアミノ酸位置の(部位特異的突然変異誘発)又はβシート中の不特定のアミノ酸位置の(ランダム突然変異誘発)突然変異誘発を含むものである方法。
(23)先行の何れかの方法であって、ステップb)の突然変異体が、原核細胞又は真核細胞中に、無細胞系においてリボソームとの複合体として、又は、植物若しくは動物細胞、酵母細胞若しくはファージ、ウイルス若しくは細菌の表面に、発現されることを特徴とする方法。
(24)先行の何れかの方法であって、所望の結合特性を有する突然変異体が、該突然変異体をそれらの結合相手と接触させ、そして所望の結合特性を有する突然変異体を単離することによって選択されるものであることを特徴とする方法。
(25)先行の何れかの方法であって、所望の触媒特性を有する突然変異体が、該突然変異体をそれらの基質と接触させ、そして所望の触媒活性を有する突然変異体を単離することによって選択されるものであることを特徴とする方法。
(27)診断及び治療、化粧品、バイオセパレーション及びバイオセンサー及び有害物質の削減における、先行の何れかのタンパク質の使用。
【発明の効果】
【0010】
βシートタンパク質の表面の変性は、そのタンパク質にそれまで存在しなかった新規の結合特性を生み出す。これらの結合特性は、βシート領域の突然変異によって生み出される。全く新しい結合特性を有するにも拘わらず、新規のβシートタンパク質は、構造及び安定性の点では、出発タンパク質に類似している。新規の結合性分子を設計するための出発タンパク質は、βシート構造を主として有するタンパク質、例えば、眼の水晶体の構造タンパク質の一つγ−クリスタリン等である。その結晶性構造に基づいて、出発タンパク質のβシート中の、表面上に露出していてそのため溶媒や潜在的結合相手に接近可能な領域及びアミノ酸が、例えばコンピュータ解析によって選択される。遺伝子工学の手法を用いて、出発タンパク質をコードする遺伝子中において、これらの領域又はアミノ酸位置に突然変異を誘発させる。こうして、種々のβシートタンパク質突然変異体をコードする種々の突然変異遺伝子(バンク又はライブラリー)が、DNAレベルで製造される。新規の、望ましい結合特性を有する変異体が、例えばファージディスプレー系(phage display system)等のような適当な選択系の助けを借りて単離される。ファージディスプレーでは、産生された全てのタンパク質突然変異体が、バクテリオファージの表面に露出される(ファージディスプレーライブラリー:phage display library)。これらの組換えファージが、所望の標的分子に対する結合に関して検討される。その表面上に標的分子に対する特異的結合特性を有するβシート突然変異体を露出しているファージが、反復スクリーニングによって濃縮され、単離される。結合性のβシート変異体をコードしている遺伝子がこのファージから得られ、例えばE. coli等のような適当な発現系中で発現される。
【0011】
上記の方法を用いると、驚くべきことに、何らの結合特性も有しないβシートタンパク質から、特異的結合性を有するタンパク質を製造することが可能である。そして、適当なスクリーニング方法を用いることによって、所望の特異性を有する突然変異体がこのライブラリーから単離される。出発タンパク質の性質に依存して、記載の系を用いて産生されたβシート変異体は、サイズ、安定性、及び異種、好ましくは細菌の系で機能的に活性な産物が得られるという点で、例えば抗体及び組換え抗体フラグメントに比して、有利である。この新規βシート変異体のこれら改善された特性は、例えば抗体、組換え抗体フラグメント又は触媒性抗体に取って代わることが可能であり、全く新たな利用分野を拓くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
例えば、上述のような抗体の問題点は、本発明により、それぞれ特異的な結合特性を有し且つ低いpH、変性剤及び高温、すなわち抗体が不安定化するような条件に対して高い安定性を有するタンパク質を設計することによって、解決することができる。しかしながら、βシート構造を有し且つ抗体様の結合特性を有するタンパク質を作り出すことは、本発明に可能な利用分野の一つに過ぎない。例えば、新規の触媒特性、例えば、耐性及び蛍光特性を有するβシートタンパク質を作り出すことによって、更なる可能な用途が開かれる。その蛍光特性を変えることのできるタンパク質の一例として、GFPが挙げられる。本来高度に安定であるこの小型のタンパク質は、設計のために特に適している。本発明により例として行なったそれらの表面の変性は、安定性を保持したまま、該タンパク質に新たな特異的結合特性を生じさせた。
【0013】
本発明によって例として選択された、可能性のあるクラスの安定なタンパク質は、クリスタリンである。水晶体の構造タンパク質であるクリスタリンは、通常細胞のターンオーバー(turnover)に付されることなく、従って並外れて安定であるという特性をも有している(Mandal et al., 1987, Rudolph et al., 1990)。γ−クリスタリンは、脊椎動物のクリスタリンの一クラスであるが、約22kDaの分子量を有するモノマータンパク質である。γ−クリスタリンの主たる構造的モチーフは、逆平行βシートである(Hazes and Hol, 1992, Richardson et al., 1992, Hemmingsen et al., 1994)。γ−クリスタリンは、2つの非常に類似した球状のドメインである、N末端ドメイン及びC末端ドメインからなっており、それらはV字形のリンカーペプチドによって互いに連結されている。γ−クリスタリンに特徴的な折りたたみパターン("グリークキー(greek-key)"モチーフ, Slingsby, 1985, Wistow and Piatigorsky, 1988)が、その相当な温度安定性及び対変性剤安定性の理由であるようである(Mandal et al., 1987)。子牛眼からのγ−II−クリスタリンは21kDaのタンパク質であり、そのサイズに比して異常に多数(7)のシステインを、生理的条件下に還元状態で有している。
【0014】
正しく折りたたまれた状態では、γ−II−クリスタリンは、結合性を全く有しない。このタンパク質の、選択された溶媒暴露領域(それはβシート構造モチーフよりなる)に加えた本発明による変更(突然変異誘発)は、驚くべきことに、このタンパク質の表面構造及び荷電パターンの変化をもたらし、その結果、新規な結合特性を生じさせた。この関係において、このタンパク質の構造の保持に余り関与しないアミノ酸位置に反応を起こさせた。小型のβシートタンパク質への突然変異誘発(Riddle et al., 1997)は、それらのタンパク質の多くが、配列中のかなりの変更にも拘わらず天然のままのβシート構造を正しくとることができることが示されている。
【0015】
改善された又は新しい結合特性を有する分子を単離する目的で特定のタンパク質領域に突然変異を誘発する試みは、組換え抗体フラグメントについて(Nissim et al., 1994, de Kruif etal., 1995)、確立された結合特性を有するタンパク質(受容体、阻害因子タンパク質、DNA結合タンパク質)、及びペプチドライブラリーについて(Cortese et al., 1995, Haaparanta and Huse 1995, McConell et al., 1996)について、既に存在する。抗体の場合、ループ領域として存在する抗原結合ドメインのみに突然変異が誘発されている。このことは、例えば、テンダミスタット(tendamistat)(McConell and Hoess, 1995)やチトクロムb562(Ku and Schultz, 1995)等、他の殆どのタンパク質の場合も同様である。ここでもやはり、ループ領域に突然変異が誘発されている。α−ヘリックス中への突然変異誘発の例としては、プロテインAのZドメイン(Nord et al., 1997)及びジンクフィンガードメインCP-1(Choo and Klug, 1995)が挙げられる。これまでの突然変異誘発は、単に結合の特異性を変えただけであり、また常に、既に確立された結合性を有するタンパク質から出発したものであった。結合性のないタンパク質が用いられたことはなく、またβシート構造モチーフが特異的に変えられたこともない。ここに記載の方法において始めて、結合性の全くないタンパク質の剛直なβシート領域において特異的な突然変異誘発が行なわれた。これは、予想外にも、抗体分子に比べうる、相当な安定性及び特異的結合特性を有するタンパク質をもたらした。
【0016】
全く新たな結合特性を有する突然変異させたβシートタンパク質を単離するために適した系は、ファージディスプレー系である。この系は、特異的な結合特性について広範にわたるタンパク質変種を非常に効率的にスクリーニングすることを可能にする(Smith, 1985)。それによれば、各タンパク質変種は、繊維状ファージの表面に提示され、固相に固定化された標的分子と相互作用することができる。標的分子に結合するタンパク質は、ファージを溶出することによって得ることができる。ファージDNAを単離した後、その特異的結合特性を有するタンパク質変種のDNA配列を決定することができる。ファージディスプレー系に加えて、例えば細菌表面ディスプレー(bacterial surface display)(Stahl and Uhlen, 1997)又はリボソームディスプレー(Hanes et al., 1997)等のような他の選択系を適用することも可能である。
【0017】
驚くべきことに、上記本発明を用いて、非結合性タンパク質から特異的結合特性を有するタンパク質が作り出されるよう、非常に安定なβシートタンパク質であるγ−II−クリスタリンを、βシートの表面の、標的を定めた、部位特異的突然変異誘発によって変更することが可能である。8個のアミノ酸位置をランダム化することにより、比較的剛直なタンパク質領域内の骨格分子に、こうして初めて、突然変異が誘発される。こうして、βシートタンパク質であるγ−II−クリスタリンから、特異的結合特性の点で「抗体様の」タンパク質種が製造される。γ−II−クリスタリンその他の小型のβシートタンパク質は、新規の結合特性を設計するための新規の骨格分子として、記載した方法によって一般的に使用することができる。それらの設計されたβシートタンパク質は、例えば、種々の用途において組換え抗体に取って代わることができる。それらの比較的小さなサイズ(20kDa)のために、それらは他の機能的タンパク質のための融合相手として適している(多機能性タンパク質の製造)。更なる可能性ある用途は、それらを遺伝子療法ベクターの細胞特異的ターゲティングのためのモジュールとして用いることのできる遺伝子治療におけるものであり、また細胞内免疫化におけるものである。更には、触媒特性を有するβシート突然変異体は、酵素利用分野において使用することができる。この新規な結合性タンパク質の安定性は、組換え抗体を用いては現在行なうことのできない更なる用途、例えば、ヒト及び動物における診断及び治療における用途、並びにバイオセンサー及びバイオセパレーション方法における用途を可能にする。更なる利用分野は、一般に薬剤及び化粧品産業並びに有害物質の分析及び除去である。
【0018】
以下に、本発明の幾つかの好ましい具体例を記述する。
【0019】
本発明による突然変異導入のために選択されるβシート構造を有するタンパク質は、全く結合性又は触媒ないし酵素活性又は蛍光特性を有しないものであるか、又は、それらの活性、蛍光特性又は結合特性が変化する、特に改善されるものであることが望ましい。
【0020】
βシート構造を有するタンパク質は知られている。βシートを有するタンパク質のクラスの一例は、クリスタリンであり、特にα−、β−及びγ−クリスタリンである。例えば、脊椎動物、げっ歯類、鳥類及び魚類等、あらゆる動物種からのクリスタリンを使用することが、原理的に可能である。βシート構造であって本発明により突然変異誘発をすることのできるタンパク質の更なる例は:スフェルリン(spherulins)、熱ショックタンパク質、コールドショックタンパク質(cold shock proteins)、βヘリックスタンパク質、リポカリン(lipocalins)、セルチン(certins)又は転写因子、フィブロネクチン、GFP、NGF、テンダミスタット(tendamistat)又はリゾチームである。例えば、これらのタンパク質例えば、βシート構造を有するクリスタリンの、個々のサブユニット又はドメインが、本発明によって突然変異誘発される。
【0021】
クリスタリンのうち、特にγ−クリスタリンに言及しなければならない。というのは、本発明によりその実施例の方法によって、例えば抗体分子と同等な新規の特異的結合特性又は新規の触媒活性を生ずるようにそのβシート構造を変性させる、即ち突然変異誘発できることを実証することとが可能だからである。γ−クリスタリンの一例は、γ−II−クリスタリンである。
【0022】
βヘリックスタンパク質の例は、取り分け、Jenkins J. et al., J. Struc. Biol. 1998, 122(1-2): 236-46, Pickersgill, R. et al., J. Biol. Chem. 1998, 273(38), 24600-4 及びRaetz C.R. et al., Science 1995, 270(5238), 997-1000に見出すことができる。
【0023】
βシート構造は、本質的にシート状であり殆ど完全に平らであることによって定義される。ポリペプチド鎖の連続的部分によって形成されるαヘリックスとは対照的に、βシートは、ポリペプチド鎖の種々の領域より構成されうる。このことは、一次構造中では比較的遠く離れている領域同士が、正に隣合って位置することを可能にする。β鎖は典型的には、5〜10アミノ酸の長さであり、殆ど完全に平らである。これらのβ鎖は、相互に非常に近くにあるため、ある鎖のC=O基と別の鎖のNH基との間に、相互に水素結合が形成される。βシートは、複数の鎖から構成されることができ、シート様の構造を有する。このシート様の平面の上方又は下方に交互に、C−α原子が位置する。アミノ酸側鎖がこのパターンに従い、こうして交互に上方又は下方に配向される。β鎖の方向に応じて、平行及び逆平行シートの区別が生じる。本発明によれば、何れも突然変異誘発でき、請求項に記載のタンパク質を製造するために使用することができる。
【0024】
βシート構造の突然変異誘発のためには、タンパク質中の、表面に近いβシート領域が選択される。入手し得るX線結晶構造に基づいて、表面に露出したアミノ酸を同定できる。結晶構造が入手できないならば、コンピュータ解析により、表面に露出しているβシート領域及び個々のアミノ酸の位置のアクセス可能性を、入手し得る一次構造に基づいて予測し、(www.embl-heidelberg.de/predictprotein/predictprotein.html)、又は3次元タンパク質構造を構築し(www.expasy.ch/swiss/SWISS-MODEL.html)それにより、表面に露出している可能性のあるアミノ酸についての情報を得るよう試みることができる。
【0025】
しかしながら、突然変異を誘発すべきアミノ酸位置の時間のかかる事前選択を省くことのできるβシート突然変異誘発もまた可能である。βシート構造をコードしているDNA領域をそれらのDNA環境から単離し、ランダムな突然変異誘発に付し、その後、それらのDNAを、それらを取り出した元のタンパク質をコードするDNA中に再度組み込む。これに続いて、所望の結合特性及び/又は触媒特性及び/又は蛍光特性を有する突然変異体を求めて、選択を行なう。
【0026】
本発明の別の一具体例においては、表面に近いβシート領域が、既に上記したように、選択され、そして突然変異誘発すべきアミノ酸位置がこれら選択された領域内に同定される。この方法で選択されたアミノ酸位置は、次いで、DNAレベルで、ターゲティングされ、即ち特定のアミノ酸をコードするコドンが、予め選択しておいた別の特定のアミノ酸をコードするコドンで置換されるか、又は、この交換がランダムな突然変異誘発の枠内で、置換すべきアミノ酸位置は定まっているが、新たな、まだ従って定まっていないアミノ酸をコードするコドンは定まっていない状態で、行なわれる。
【0027】
表面に露出しているアミノ酸には周囲の溶媒にとってアクセス可能である。もしタンパク質中のアミノ酸のアクセス可能性がモデルとしてのトリペプチドGly-X-Gly中のアミノ酸のアクセス可能性に比して8%を超えるなら、それらのアミノ酸は、表面に露出されたアミノ酸と呼ばれる。これらのタンパク質領域又は個々のアミノ酸位置はまた、本発明によって選択すべき潜在的結合相手に対して、好ましい結合部位でもある。結合相手は、例えば抗原又は基質又は基質遷移状態類似体であってよい。
【0028】
本発明によれば、表面に位置したβシート構造を示し溶媒又は結合相手にとってアクセス可能な実際上全てのタンパク質に、突然変異誘発が可能である。この目的に向けて、好ましいタンパク質は、主として特に安定な、即ち例えば変性に抵抗性の、又は十分に「小さい」タンパク質である。
【0029】
本発明において「突然変異誘発」は、βシート構造を有するポリペプチド鎖においてその表面に露出している1個又は2個以上のアミノ酸変更を意味する。これは、例えば、極性、電荷、溶解性、疎水性又は親水性の点で特別な性質を有するアミノ酸が異なった性質を有するアミノ酸により置換されるようなアミノ酸置換、即ち例えば、非極性の疎水性のアミノ酸が極性のアミノ酸により、負に荷電したアミノ酸が正に荷電したアミノ酸により置換されること等を含む。「突然変異誘発」の語はまた、1個又は2個以上のアミノ酸の挿入及び削除をも含む。一つの前提条件は、表面に露出された少なくとも1つのβシートの表面に露出された少なくとも2本β鎖内の露出されたアミノ酸を、該突然変異が含むということである。突然変異は、βシート中の又はβシートの選ばれた領域中の個々のアミノ酸位置に、好ましくは、特異的に導入される。突然変異誘発は、βシート構造の一領域に又は複数の領域に起こってよい。この変更は、βシート中で、隣接したアミノ酸を含んでもよく、また比較的離れたアミノ酸を含んでなるものでもよい。この変更はまた、種々のβシートシート、即ち1つより多くのβシート中のアミノ酸を含んでなるものでもよい。1個又は2個以上のアミノ酸の挿入、削除又は置換は、表面に露出した少なくとも1つのβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中に位置する。この点、もし表面に露出した少なくとも2本のβ鎖に突然変異が導入されるのであれば、表面に露出した1本のβ鎖中の1個又は2個以上のアミノ酸を置換、削除又は挿入することも可能であり、即ち、表面に露出した1本のβ鎖が複数の突然変異を有することもできる。更なる一具体例においては、各場合に、表面に露出した少なくとも2つのβシートの表面に露出した1本のβ鎖に突然変異が誘発される、即ち表面に露出された1つのβシートが、各場合において、表面に露出した少なくとも1本の突然変異誘発β鎖を有する。本発明の別の一具体例においては、表面に露出した突然変異誘発したβシートは、相互に逆平行に配列されており、好ましくは、少なくとも2つの逆平行に配置されたβシートである。
【0030】
本発明によれば、表面に露出された2又は3本のβ鎖に突然変異誘発するのが好ましい。本発明によれば、表面に露出された4本又はより多くのβ鎖に突然変異誘発することも可能である。更には、少なくとも2つのβシート中の少なくとも2つのβ鎖に突然変異誘発すること、好ましくは2つの逆平行βシート中の3本のβ鎖の突然変異誘発も可能である。
【0031】
本発明の一具体例においては、突然変異誘発は、アミノ酸コドンNNKを有するDNAオリゴヌクレオチドを寄せ集めることによって行なわれる。もちろん、他のコドン(トリプレット)を用いることも可能である。
【0032】
突然変異誘発は、βシート構造が保持されるようにして行なわれる。一般に、突然変異誘発は、該タンパク質の表面に露出された安定なβシート領域の外側において行なわれる。それは、部位特異的な及びランダムな突然変異誘発の双方を含む。一次構造中の比較的狭い領域(約3〜5個のアミノ酸)を含んでなる部位特異的突然変異誘発は、Stratagene(QuickChange)又はBio-Rad(Muta-Gene ファージミド・インビトロ突然変異誘発キット)から出されている商業的に入手可能なキットを用いて実施することができる(参照:米国特許5,789,166;米国特許4,873,192)。
【0033】
もしもより大きな領域に部位特異的突然変異誘発を起こそうとするならば、DNAカセットを調製する必要があり、そして、突然変異させた位置及び変異のない位置を含んだオリゴヌクレオチドを寄せ集めることによって、突然変異誘発を起こそうとする領域が得られる(Nord et al., 1997; McConell and Hoess, 1995)。ランダムな突然変異誘発は、突然変異誘発系中においてDNAを増殖させることによって又はPCR増幅によって(エラープローンPCR(error-prone-PCR))(例えば、Pannekoek et al., 1993)行なうことができる。この場合、エラー率を高めたポリメラーゼが使用される。導入される突然変異の程度を高める又は異なった突然変異を組み合わせる目的には、DNAシャフリング(shuffling)によりPCRフラグメントにおける突然変異を組み合わせることが可能である(Stemmer, 1994)。Kuchner及びArnoldによる総説(1997)は、酵素についてのこれら突然変異誘発の概論を提供している。選択したDNA領域内でそのようなランダムな突然変異誘発を行なうためには、突然変異誘発のために用いるDNAカセットを、ここでも構築しなければならない。
【0034】
突然変異誘発のステップで得られたDNA分子は、適当な発現系において発現される。その後に続く、所望の結合特性及び/又は所望の触媒ないし酵素活性を有する突然変異体の選択及び単離を容易にする発現系が好ましい。そのような発現ベクター及び発現系は、当業者に知られており、また既に上記に一層詳細に記述されている。もちろん、特異的な特性又は活性を有する突然変異体について本発明の選択を許容する、他の発現系を使用することも可能である。
【0035】
発現及び選択のためには、DNAレベルで産生された全ての突然変異体がファージミド中にクローンされそしてファージ表面に発現されるものであるファージディスプレー系を用いるのが好ましい。還元型システインを含んだタンパク質の場合には、本発明の特に好ましい具体例においては、突然変異体の露出及び選択を改善するために、GSHを添加することが可能である。
【0036】
本発明は、突然変異誘発したタンパク質、DNA分子、これから求められるRNA分子、及びそれらの、突然変異誘発したβシート構造を有し所望の結合相手と新たな若しくは変化した仕方で結合可能なタンパク質をコードする又は基質に対して新たな若しくは変化した触媒活性を有しうる、又は新たな若しくは変化した蛍光特性を有しうるタンパク質をコードする、機能的部分を含む。「機能的部分」の語は、本発明により突然変異誘発しそして所望の結合特性及び活性を有するか又は部分的にそれらを担う、βシート構造を有するタンパク質のサブユニット、ドメイン及びエピトープに関する。
【0037】
所望の結合特性及び/又は所望の触媒活性及び/又は蛍光特性を有する突然変異体は、それ自身既知の仕方で選択され単離される。新規の又は変化させた結合特性及び新規の又は変化させた触媒活性を有する突然変異体の選択方法及び単離方法の例としては次のものが挙げられる。
【0038】
所望の結合特性について選択する場合、変異タンパク質又はその機能的部分を、それらの結合相手と接触させる。適当な検出方法により、所望の結合特性を有する変異体を選択する。
【0039】
触媒活性について選択する場合、変異タンパク質又はその機能的部分を、基質と接触させ、次いで、適当な検出方法により、その所望の酵素活性について選択する。
触媒活性は、幾つかの方法で選択することができる。
【0040】
1.ファージディスプレー:
固相への遷移状態類似体の結合及び該類縁体についての突然変異体ライブラリーの選択。これらの物質は、基質の生成物への酵素的変換(基質−遷移状態−生成物)に際して典型的に形成される、基質の遷移状態の類似体である。このためには、しかしながら、基質の遷移状態が判明しなければならない。基質の結合についてスクリーニングを行なうことも可能である。
【0041】
2.ファージディスプレー不使用:
突然変異体の細菌発現系へのクローニング、及び個々のコロニーを形成させるための該組換え細菌の播種。突然変異タンパク質は、誘導物質(例えばIPTG)を栄養培地に添加することにより、細菌中で発現させることができる。栄養培地は、変換をスクリーニングするための基質を更に含有していなければならない。基質は、変換に際して、同定可能な、例えば着色した産物を形成するするものでなければならない。栄養培地中で基質の変換を行なう突然変異体を発現する細菌は、異なった色のものでなければならない。一例は、β−ガラクトシダーゼ活性及びX-Gal(青く染色)の変換についてのスクリーニングであろう(Zhang et al., 1997)。
【0042】
3.更なる検出方法が当業者に既知である:
発色変異体とは別に、例えば、新たな抵抗性を仲介する(栄養培地への抗生物質の添加)、又は、「正常」な細菌の増殖しない最少の栄養培地での増殖を可能にするタンパク質突然変異体を選択することも可能である。ここにおいて、新規のタンパク質突然変異体を有する細菌の、選択的増殖という利点を利用することが可能である(Crameri et al., 1997)。
【0043】
4.突然変異タンパク質の発現と分泌:
例えば細菌において、上清を得て、選択すべき所望の酵素活性について試験をすること(You and Arnold, 1996)。こうして本発明は、新規の結合特性又は新規の触媒特性を有するタンパク質を作り出すについての問題を、βシート構造を有するタンパク質をこの構造モチーフ中において突然変異誘発することにより、解決する。それらのタンパク質は、所望の若しくは変化させた、好ましくは改善した結合特性、又は所望の若しくは変化させた、好ましくは改善した酵素ないし触媒活性について、選択される。本発明の系は、何らの結合特性も何らの酵素特性も有しないβシートタンパク質を、該βシートにおける突然変異誘発後に結合特性又は触媒特性を獲得するように、変化させることを可能にする。
【0044】
本発明によれば、「結合特性」は、例えば、抗体との抗原の特異的親和性を意味する。本発明により突然変異誘発がなされた後は、βシートタンパク質はこうして抗体様の特性を有し、且つ、抗体の高い結合特異性という利点と、βシートタンパク質の有利な安定性とを併せ持つ。本発明により製造される抗体様の特性を持つβシートタンパク質は、触媒機能をも有していてよい。
【0045】
しかしながら、本発明による解決案は、新規の又は変化させた触媒活性を有する、βシート構造を有するタンパク質を作り出すことも可能にする。他のタンパク質の性質の変更、例えばGFPの蛍光特性を変化させることも可能であろう。
【0046】
本発明によれば、結合特性、触媒活性又は蛍光特性の変更は、これらの特性の低下と改善の双方を含むが、改善の方がより好ましい。
【0047】
本発明によれば、「新規の特異的特性を有するタンパク質」又は「新規の触媒活性を有するタンパク質」は、表面に露出した少なくとも1つのβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中において表面に露出したアミノ酸の特異的突然変異誘発にのために、元々は何らの特異的結合特性も触媒活性も有ないが今や特異的結合特性又は触媒活性又は両者の組み合わせを有するものであるタンパク質を意味する。しかしながら、これはまた、突然変異誘発前に既に特異的結合特性又は触媒活性を有しておりβシートにおける突然変異誘発後に、別の、追加の特異的結合特性及び/又は触媒活性を有するものであるタンパク質をも含む。特異的結合特性を有するタンパク質が触媒活性を獲得すること又はこの逆も、もちろん可能である。
【0048】
更に本発明は、既に特異的結合特性及び/又は酵素活性若しくは触媒活性及び/又は蛍光特性を有し、表面に露出した1つ又は2つ以上のβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中において表面に露出したアミノ酸の突然変異誘発後に、それらの特異的結合特性及び/又は触媒活性及び/又は蛍光特性の改善した、又はより一般的には変化した、タンパク質をも含む。
【0049】
この点、βシート構造に対してではなくタンパク質全体に対して向けられるものであり、表面に露出した少なくとも1つのβシートの表面に露出した少なくとも2本のβ鎖中において表面に露出した標的アミノ酸、又はそのような表面に露出したアミノ酸に関連したアミノ酸に向けられたものでないランダムな突然変異誘発によってβシート構造に変更が加えられるものである先行技術のタンパク質及び方法とは、本発明の方法及びそれにより製造されるタンパク質は、異なっている。
【0050】
以下に例示する本発明の好ましい一具体例においては、突然変異誘発のための出発点として、βシート構造を有するタンパク質の一例としてのγ−クリスタリンが選ばれた。この目的のため、表面に露出した最初のアミノ酸位置は、構造研究を通して選択され、それ自身既知の突然変異誘発方法によって突然変異誘発された。得られた突然変異体は、適当な、同様に既知の発現系中で発現させた。選択は、γ−クリスタリンのβシートにおける表面に露出したアミノ酸が抗原BSA-エストラジオール−17−ヘミサクシネートに対する特異的結合特性を示した突然変異体に対して向けられた。所望の結合特性を有する複数の突然変異体が単離されたが、所望のアミノ酸置換を有していたのは一つだけであった。こうして、出発タンパク質であるγ−クリスタリンに基づいた抗体様の非イムノグロブリン分子が得られた。
【0051】
本発明の方法は、実に夥しい数の突然変異体を得ることを可能にする。たった8個のアミノ酸位置の突然変異誘発は、所望の結合特性及び触媒活性について分析することのできる2.6×1010種の異なったタンパク質種を形成することを可能にする。
【0052】
更に、本発明によれば、βシート構造を有するタンパク質の蛍光特性を、表面に露出したアミノ酸の突然変異誘発によって変化させることができることが示された。
【0053】
得られた突然変異遺伝子を適当な系中で増殖させてタンパク質を発現させることができる。適当な発現系は、原核細胞又は真核細胞系である。突然変異タンパク質をコードするDNAは、例えば適当なベクター、例えば適当な発現ベクターに組込まれ、形質転換、トランスフェクション又は感染により、宿主細胞に導入される。異種の突然変異DNAの発現を特異的に調節する制御配列に連結することは、もちろん有利である。
【0054】
使用することのできる宿主細胞は、高等真核細胞例えば哺乳類細胞、又は下等真核細胞例えば酵母細胞、又は原核細胞例えば細菌細胞である。可能な細菌宿主細胞の一例はE. coli又はB. subtilisである。本発明のDNAから誘導されるRNAを用いることによりタンパク質を製造するための無細胞翻訳系も、また可能である。適当なクローニング系及び発現系は、分子生物学、生物工学及び遺伝工学の種々の教科書に記述されている。例として、Sambrook et al., 1989及びAusubel et al., 1994が挙げられる。
【0055】
上に概略記述した本発明を、模範的具体例及び添付図面に基づいて、以下に一層詳細に記述する。それらの例は、本発明の可能な一形態として理解すべきものであり、本発明は、この特定の具体例に限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
ホルモンエストラジオールに対する特異的結合性のγ−クリスタリン突然変異体の製造
ホルモンエストラジオールに特異的に結合する牛γ−B−クリスタリン(gamma-II)の突然変異体を単離することに基づく、抗原結合特性を有する新規のβシートタンパク質の設計が示されている。表面に露出したβシートの選択されたアミノ酸位置の特異的変更は、βシート構造と特異的結合特性とを有する新規の安定なタンパク質を生み出した。突然変異誘発に適したβシート領域又はアミノ酸を選択した後、部位特異的突然変異誘発がDNAレベルで行なわれ、ファージミド中にβシート突然変異体ライブラリーが作られ、これは、発現及びこれに続く、ファージディスプレー系中での突然変異体の新規の結合特性について選択することを可能にする。選択された突然変異体は、その新規の特性について、出発タンパク質であるγ−II−クリスタリンと比較される。
【0057】
γ−クリスタリンにおける突然変異誘発に適した領域の選択
γ−II−クリスタリンのX線構造に基づいて(Wistow et al., 1983)、γ−II−クリスタリンのN末端ドメイン(Acc. M16894)が突然変異誘発用に選択された。連続的な表面セグメントを形成する全部で8個のアミノ酸がそこに同定された。選択されたアミノ酸は、βシートの一部であり、構造保持に実質的に貢献してはいないはずである。それらは、溶媒にとってアクセス可能な、従ってまた結合相手にとってもアクセス可能なアミノ酸である。それら8個のアミノ酸Lys 2, Thr 4, Tyr 6, Cys 15, Glu 17, Ser 19, Arg 36及びAsp 38は、このタンパク質の総表面積の約6.1%を構成している。
【0058】
突然変異させたγ−II−クリスタリン遺伝子のDNAプールの作成
これら8個のアミノ酸位置のランダム化が、部位特異的突然変異誘発によって行なわれた。これは、2.6×1010の異なったタンパク質種を製造することを可能にする。突然変異誘発すべき領域は、個々のオリゴヌクレオチドを組み合わせることによってDNAレベルで得られた。これに続いて、ファージディスプレー系における選択のために構築されたファージミドへ中へのクローニングが行なわれた。
【0059】
オリゴアセンブリング
突然変異誘発のために、8個のランダム化されたアミノ酸位置を有し且つ適当な制限切断部位をも有する、γ−クリスタリン突然変異体の5’領域を含んだ227塩基対が、固相上に集められた。全部で10種の個々のオリゴヌクレオチドがこの目的に使用され、それらのうち3種は、ランダム化されたアミノ酸位置を含んでいた(Fig.1)。プライマー合成の間、突然変異誘発すべき8個の位置においてヌクレオチド混合物NN(T/G)が用いられ、理論的に32種の異なったコドンを一つの位置にもたらした(cf. Nord et al., 1997)。ビオチン化したオリゴヌクレオチドが、このアセンブリングの開始時に、Dynalのストレプトアビジン化磁性ビーズ(MBs)(M-280)に取り付けられた。取り付け、ライゲーション及びポリマー化の幾つかのステップの後、固相上にアセンブルされたγ−クリスタリンの突然変異誘発領域のプールを、PCRで増幅することが可能であった(Fig. 2)。約250塩基対の長さのこのPCR産物は、5’に1個のSfi I切断部位と3’に1個のBst EII切断部位とを含んでいた。
アセンブリングのために用いたオリゴヌクレオチドは全て、100 pmol/μlの濃度に濃縮された。最初にプライマーGCLIE1B及びGCLIE2Pがアセンブルされた。このためには、36μlの洗浄及び結合緩衝液(WB緩衝液:1M NaCl,10mMトリス塩酸、pH7.5、1mM EDTA)が各場合において4μlのプライマーに添加され、そして混合物が70℃にて5分間インキュベートされた。これら2つのプライマーのアセンブリーの後、且つ更なる70℃5分間のインキュベーションの後、プライマー混合物は室温へと徐冷された。4μlのGCLIE1B/GCLIE2Pプライマーハイブリッドは、56μlのWB緩衝液と混合され、洗浄及び結合緩衝液で予め洗浄しておいたストレプトアビジン付加磁性ビーズ(MBs)300μlに添加された。室温にて15分間のインキュベーションの後、磁性ビーズをWB緩衝液及びTE緩衝液(10mMトリス塩酸、pH7.5、1mM EDTA)で洗浄した。プライマーリンカーフラグメントを、第1のプライマーハイブリッドに結合した磁性ビーズに加えた。該フラグメントは、次のようにして作成した。すなわち:4μlのプライマーGCLIB4P又はGCLI5Pを、GIBCO BRLの1×ライゲーション緩衝液(50mMトリス塩酸、pH7.6、10mM MgCl2、1mM ATP、1mM DTT、5%(w/v)ポリエチレングリコール8000)36μlと混合した。70℃で5分間インキュベーションの後、両方の混合物を合わせ、70℃で更に5分間インキュベートして室温にまで冷却した。12単位のT4 DNAリガーゼ(GIBCO BRL)及び8μlの1×ライゲーション緩衝液を添加した後、反応混合物を室温にて1時間インキュベートした。このGCLIE3P/GCLIB4P/GCLI5Pの架橋フラグメントの12μlを、54μlの1×ライゲーション緩衝液及び6単位のリガーゼと混合し、混合物を、第1のプライマーハイブリッドを含んだ洗浄済み磁性ビーズに添加し、室温にて1時間インキュベートした。ライゲーション反応の後、TE緩衝液で磁性ビーズを2回洗浄し、8μlのリガーゼを含んだ1×ライゲーション緩衝液64μl中に入れた。GCLIB4P/BCLI5Pのアセンブルと同様にして予めアセンブルしておいたプライマー混合物GCLI6P/GCLIB7Pの8μlを、次いで磁性ビーズに添加した。再び、ライゲーションを室温で1時間行なった。磁性ビーズをTE緩衝液で2回洗浄した後、第2の架橋フラグメントであるGCLIB8P/GCLIE9P/CGLIE10の12μlを添加し、混合物を1時間ライゲーションした。この第2の架橋フラグメントは、第1の架橋フラグメントと同様にして作成され、GCLIE9P及びGCLIE10が最初にアセンブルされ次いで、第2のステップにおいてGCLI8Pとライゲートされた。固定化したプライマーを有する磁性ビーズは、次いで、再度TE緩衝液で洗浄した。続くDNAポリメラーゼ及びリガーゼ反応が、第2の鎖中のギャップを埋めた。磁性ビーズを37℃にて30分間、次の緩衝剤混合物中でインキュベートした。すなわち、52.5μlの水、Boehringerの緩衝液L(100mMトリス塩酸、pH7.5、100mM MgCl2、10mMジチオエリスリトール)の6μl、0.5μlのdNTPs(各dNTP25mM)及び1μl(2単位)のクレノウフラグメント(Boehringer)。磁性ビーズをTE緩衝液で2回洗浄した後、ライゲーション反応を室温にて1時間行なった。100μlの混合物は、10単位のリガーゼを含有した。TE緩衝液による2回の洗浄ステップの後、40μlの0.1M NaOHで30秒間処理することによって、磁性ビーズに共有結合によらずに結合しているDNA鎖を除去し、磁性ビーズを60μlのTE緩衝液に再懸濁させた。ライブラリーの増幅のためのPCRは、この磁性ビーズを鋳型として行なわれる。PCR反応混合物(50μl)は、次のようにして調製される。すなわち:6μlの磁性ビーズ、Stratageneの10×PCR反応緩衝液(100mM KCl、100mM (NH4)2SO4、200mMトリス塩酸、pH8.75、20mM MgSO4、1%Triton X-100、1mg/ml BSA)の5μl、1μl(2.5単位)のPfu DNA ポリメラーゼ(Stratagene)、0.5μlのdNTPs(各dNTP25mM)、0.35μlのGCLIE1B、0.35μlのGCLIA11B及び36.8μlの水。PCRは、55℃1分のプライマーアニーリング、72℃1.5分のポリメラーゼ反応、95℃1分の変性の35サイクル、及び72℃5分の最終ポリメラーゼ反応で行った。
【0060】
ファージミドpGCKT8-3の作成
ファージミドpCANTAB 5E(Pharmacie BiotechのPRASキット)から開始して、γ−II−クリスタリン突然変異体バンドをクローニングするためのファージミド誘導体をこうして構築した。γ−II−クリスタリンの3’領域全体(C末端ドメイン)及び非突然変異誘発5’領域を、プラスミドpGII(Mayr et al., 1994)を鋳型とし、プライマーGCFORNOT及びGCBACKSfiBstを用いてPCRにより増幅した(Figs. 3, 4)。
【0061】
これらのプライマーにより導入された切断部位Sfi I(GCBACKSfiBst)及びNot I(GCFORNOT)は、PCR産物のファージミドpCANTAB 5Eへの挿入を可能にする。GCBACKSfiBstプライマーと共に、Bst EII切断部位が更にγ−クリスタリン遺伝子中に組み込まれ、これは突然変異したγ−クリスタリンDNAフラグメントのクローニングを可能にした。この切断部位の全く新たな導入は、γ−II−クリスタリンのアミノ酸配列を変更を生じさせない。配列決定の後、PCR産物を、Sfi I/Not Iフラグメントとして、Sfi I/Not Iで切断したファージミドpCANTAB 5E中にクローニングした。こうして構築されたファージミドpGCKT8-3は、γ−II−クリスタリンファージディスプレーライブラリーを作成するための出発点であった。
【0062】
γ−クリスタリン突然変異体ライブラリーの作成及び野生型γ−II−クリスタリンのクローニング
ファージミドpGCKT8-3を、Bst EII及びSfi I制限酵素で切断し、フォスファターゼ処理(USBの子エビフォスファターゼ)した。個々の切断の後、DNAをゲル電気泳動で分画し、切断されたベター画分を切り出し、アガロースゲルから電気溶出によって単離した。その後の何れの酵素処理の前にも、フェノール/クロロフォルム抽出及びグリコーゲンによるDNA沈殿を行なった。PCRにより増幅され且つγ−II−クリスタリンの突然変異誘発領域を含んだDNAフラグメントプールを、Sfi I及びBest EII制限酵素で切断した。調製したpGCKT8-3ファージミドへのPCR産物のライゲーションには、全部で440ngのファージミド及び110ngのPCR産物を用いた。ライゲーションは、20μlの混合物中、全部で44単位のT4 DNAリガーゼ(GIBCO BRL)を用いて、16℃にて終夜行なった。70℃20分でリガーゼを不活性化した後、ライゲーション反応物をドロップ透析(drop dialysis)により1時間脱塩した。各場合において、30μlのエレクトロコンピテントな(electrocompetent)E. coli TG 1細胞を、15μlの透析済みのライゲーション反応物で形質転換した。このエレクトロコンピテントな細胞は、PRAS-キットのマニュアルに記載のとおりにして作成し、形質転換した。形質転換細胞は、グルコース及びアンピシリン(100μg)含有SOBAGプレート(Pharmacia-BiotechのPRAS-キットマニュアルを参照)上につくり、30℃で終夜インキュベートした。作成したGCUC-1ライブラリーは、250000個のオリジナルクローンを含んでいた。それらのクローンを、1%グルコース及び20%グリセロールを含んだ2×YT培地(PRAS-キットマニュアルを参照)で洗浄し、小分けして−80℃で貯蔵した。ライブラリーの増幅係数は7×106であった。GCUC-1ライブラリーのうち組換えクローンの割合は97%。ランダムに選んだクローンの配列決定は、ランダム化したアミノ酸配置において、期待した変種のコドンが用いられていることが判明した。ウエスタンブロッティング分析によれば、ライブラリーにおける発現率は30〜60%であった。
【0063】
対照実験においては、γ−II−クリスタリンDNAは、プライマーGCFORNOT(5' GAGTCATTCTGCGGCCGCATAAAAATCCATCACCCGTCTTAAAGAACC 3')及びGCBACKSFI(5' CATGCCATGACTCGCGGCCCAGCCGGCCATGGGGAAGATCACTTTTTACGAGGAC 3')及び増幅鋳型としてのプラスミドpGII(Mayr et al., 1994)を用いて増幅した。Not I及びSfi I制限エンドヌクレアーゼによる切断の後、配列決定したPCR産物をSfi I/Not Iで同様に切断したファージミドpCANTAB 5E中にクローニングした。
【0064】
ファージディスプレーの設計及び新規の結合性タンパク質の選択
結合特性につきγ−クリスタリン突然変異体を選択するのには、Pharmacia-Biotechから商業的に入手可能なファージディスプレー系であるPRASを使用した。用いたpCANTAB 5E(野生型γ−II−クリスタリン)ファージミド及びpGCKT8-3(γ−クリスタリン突然変異体)ファージミド中において、γ−クリスタリンは、N末端でG3シグナルペプチドに、そしてC末端でE-tagに融合しており、これは該タンパク質の免疫学的検出を可能にする(Fig. 5)。用いた細菌株に依存して、E-tagの後のamberストップコドンが認識されて(E. coli HB 2151)、γ−クリスタリンはシグナルペプチドの切除された後細胞周辺に分泌されるか、又はオーバーリーディング(overreading)(E. coli TG 1)が起こりγ−クリスタリンが繊維状ファージM13のマイナーコート(minor coat)タンパク質との融合タンパク質として合成されて、シグナルペプチドの切除の後E. coli細胞の内側形質膜に係留される。ヘルパーファージを添加した後、γ−II−クリスタリン変種を表面に露出した組換えファージが形成できる。
【0065】
GCUC-1ライブラリーの及びγ−II−クリスタリン野生型ファージの、培養条件の最適化
PRASマニュアルに記載の培養条件の下では、何れの組換えファージにおいても、期待した融合タンパク質(γ−II−クリスタリン/タンパク質3)をウエスタンブロティング分析で検出することはできなかった。ファージ形成中の還元型グルタチオン(GSH)の添加のみが、細菌細胞の細胞周辺の酸化還元状態を変化させてファージのアセンブリングのためのより好ましい条件を提供した。γ−II−クリスタリンクローンを用いるときは、融合タンパク質を有する組換えファージの検出は、GSHの添加によってのみ可能であった。GSH濃度を上昇させると、γ−II−クリスタリンファージの比率も高まった。最適なGSH濃度は、8mMと判定された。GSH不存在下におけるファージ表面の乏しいγ−クリスタリン発現の理由の一つは、γ−クリスタリン中の還元型システイン(7)の高い比率である可能性がある。部分的に折りたたみの解かれたγ−クリスタリンが細胞周辺に入ったとき、そこを支配する酸化性の条件の下で、誤った折りたたみ及び、ジスルフィド架橋の形成による凝集が起こり得る。これはまたファージアセンブリングをも抑制するであろう。ファージディスプレー系において還元型システインを含んだタンパク質を用いるとき、一般にGSHを添加することによって組換えファージの形成を改善することが可能であろう。
【0066】
GCUC1ファージディスプレーライブラリーを用いた選択プロセス
GCUC-1ライブラリーをスクリーニングするためには、用いる全てのガラス器具は220℃で4時間滅菌し、プラステック材料はHelipurを用いて1時間滅菌した。GCUC-1ライブラリーのパンニングは、抗原としてBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネート(Sigma)を、固相としてマイクロタイタープレート(NUNCのMaxisorp)を、用いて行いた。3ラウンドのパンニングの間、洗浄ステップの厳格さを増加させた。最初の培養には、2%グルコース及びアンピシリン(100μg/ml)を含有する100mlの2×YT培地に、50μlのGCUC-1ライブラリーを播種した。細菌を37℃で、300rpmでOD600が0.4となるまで増殖させた。この細菌培養物の10mlに、800μlのM13KO7ヘルパーファージ(1×1011 pfu/ml、GIBCO BRL)を添加した。次いで、37℃にて30分間インキュベートし更に30分間緩やかに揺すりながら(50 rpm)インキュベートした。室温にて1500rpm(Sorvall SS 34 ローター)で20分間遠心して細菌ペレットを得、8mMのGSH、100μg/mlのアンピシリン及び50μg/mlのカナマイシンを含有する100mlの2×YT培地中に加えた。30℃にて300rpmの終夜培養により組換えファージを作成した。組換えファージを含有する上清は、10800gで各場合15分間2回遠心し、次いでろ過(ポアサイズ0.45μm)することにより得られた。上清に1/5のPEG/NaCl溶液を(20%PEG-8000、2.5M NaCl)を加え、氷上で1時間インキュベートしそして、4℃にて3300gで各場合30分間2回遠心することによりファージを濃縮した。得られたファージペレットを、4mlのPBS(pH7.2)に再懸濁させ、残存する細胞成分を遠心により除去した(10分、11600g、室温)。選択プロセス(パンニング)のためには、1mlの濃縮ファージを、1mlの6%濃度のBSA溶液(6%BSA含有PBS、pH7.2)と混合し、室温にて10分間インキュベートした。各場合において、このように処理されたファージのうち100μlを、次のようにして準備した抗原被覆マイクロタイタープレートのウェルに添加した。すなわち、NUNC-Maxisorpマイクロタイタープレートを抗原であるBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネートで被覆した。各場合において、100μlに抗原溶液(pH7.6のPBS中の100μg/ml)を、全部で10個のウェルに加えた。室温で終夜被覆したウェルを、PBS(pH7.6)で3回洗浄した。ウェルを3%濃度のBSA/PBS溶液(pH7.2)で室温にて2時間満たしておくことにより、遊離の結合部位を飽和させた。BSA処理ファージの添加に先立ち、ウェルをPBS溶液(pH7.2)で2回洗浄した。パンニングは、マイクロタイタープレートを穏やか(20rpm)に30分間揺すり、次いで揺すらずに室温にて90分間インキュベーションることにより行った。非特異的に結合したファージを、PBS(pH7.2/0.1%Tween-20)で10回洗浄し、次いでPBS(pH7.2)で10回洗浄することにより除去した。結合したファージを、それぞれウェルあたり100μlの100mMトリエチルアミン(直前調製)を添加し室温にて10分間インキュベートすることにより、溶出した。塩基により溶出したファージ(1ml)を、500μlの1Mトリス塩酸(pH7.4)を添加することにより中和した。これらのファージ750μlを、最少培地プレート上で培養したOD600が0.4−0.5であるTG-1細胞9mlに感染させるのに用いた。このためには、細菌をファージと37℃で30分間インキュベートした。特別に強固に結合しトリエチルアミン処理ではマイクロタイタープレートから除去されないファージを浪費しないですますことは、TG-1細胞の直接感染により可能であった。このためには、それぞれ100μlの培養TG-1細胞をウェルに添加した。37℃で30分間のインキュベーションの後、感染したTG-1細胞を除去し、溶出ファージで感染させた細胞と合わせた。感染した細菌を16×16cmのSOBAGプレート上につくり、30℃にて終夜インキュベートした。力価測定には、それぞれ1μlの濃縮し溶出したファージを用いた。得られた細菌クローンを12.5mlの2×YT、20%グリセロールでSOBAGプレートから洗い出した。第2、第3のパンニングは、次の変更を伴ったほか、最初のパンニングと同様にして行った。ファージの培養は、20μlの洗い出されたライブラリーを20mlの培地中で用いて反復した。ヘルパーファージによる感染には、2mlの細菌培養物を用いた(細菌/ファージ重量比率:1/20)。第2のパンニングではマイクロタイタープレートを、最初に15回PBS/Tween-20で洗浄し、次いで10回PBSで洗浄し、第3のパンニングでは、最初に20回PBS/Tween-20で洗浄し、次いで10回PBSで洗浄した。
【0067】
濃度及び特異的結合をチェックするためのELISA
抗原に特異的に結合するファージの濃度は、ポリクローナルファージELISAを用いて検出した。溶出ファージに加えて、出発ライブラリのファージGCUC-1及び野生型γ-II−クリスタリンのファージを、比較のためにアッセイした。NUNC-Maxisorpプレートを100μlのBSA-エストラジオール−17−ヘミサクシネート又はBSAで、2μg/mlのPBS(pH7.6)濃度で室温にて終夜被覆した。ウェルをPBS(pH7.6)で3回洗浄し、次いで3%乾燥乳粉末(Gluecksklee)/PBS(pH7.2)で37℃にて2時間ブロックし、PBS(pH7.6)で更に3回洗浄した。ファージ培養から単離した非濃縮組換えファージは、最初に室温にて1時間ブロックした(6%濃度の乾燥乳粉末(Marvel)/PBSとの1:1混合物)。ブロックしたファージの100μlをウェルに加えて37℃にて1時間インキュベートした。ウェルを、PBS/Tween-20及びPBSでそれぞれ3回洗浄し、次いで抗M13抗体-POD接合体(Pharmacia-Biotech, 1:5000希釈、3%Gluecksklee/PBS)と共に37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄の後、酵素結合抗体を100μlのImmuno-Pure-TMB基質(Pierce)を用いて検出した。100μlの2M硫酸を添加して呈色反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。3回のパンニングの後の、BSA-エストラジオール接合体に結合するファージの濃度の結果を、Fig. 6に示す。
【0068】
接合体への特異的結合性を有する個々のファージの単離及び特徴決定
第3回目のパンニングで得られた細菌クローンから80の個々のクローンを選択した。そられのクローンからファージを単離し、抗原結合性についてモノクローナルファージELISAで個々にアッセイした。個々の細菌クローンは、ポリプロピレンマイクロタイタープレート(NUNC)中で、穏やかに揺すりながら(100rpm)、2%グルコース及び100μg/mlアンピシリンを含んだ100μlの2×YT培地中で終夜培養した。これらの細菌培養物の2μlを、同じ培地で1:100に希釈し、100rpmで37℃にてOD600が0.4となるまで培養した。選択方法について記述したのと同様にしてファージを得た。ファージの培養には、TECANの深ウェルのポリプロピレンマイクロタイタープレートを使用した。ELISAには、遠心して得られたファージ上清(濃縮せず)200μlを、40μlの6×PBS/18%により室温にて1時間ブロックした。アッセイした80のクローンのうち30において、組換えファージはBSA-エストラジオール−17へ有意に結合し、平行してアッセイしたBSAには結合しないことが示された。野生型γ−II−クリスタリンを有するファージは、対照実験において、BSA-エストラジオール−17への結合性を全く示さなかった。14の選択された結合性ファージを、IRD800標識プライマーpCANR1LAB(5' CCATGATTACGCC-AAGCTTTGGAGCC 3')及びGCLISEQ(5' CTGAAAGTGCCGGTGTGTTGC 3')を用いて配列決定した。配列決定は、8つのランダム化されたアミノ酸位置にのみ突然変異を起こしたγ−クリスタリン変種(Mu 12A)がただ1例のみ存在することを明らかにした。多くのクローンは、リーディングフレームのシフトを示し、理論的には機能的なタンパク質をコードして入るが、予想したγ−クリスタリン領域に限定されない変異を有していた。これらの枠シフト突然変異体については、それ以上検討しなかった。
【0069】
βシート突然変異12Aの特徴決定
融合タンパク質であるMu 12A−マイナーコートタンパク質3の組換えファージ表面における発現、及びE. coli株HB 2151におけるMu 12Aの発現は、それぞれ抗G3P抗体及び抗E-Tag抗体(Pharmacia-Biotech)を用いて、ウエスタンブロッティング解析により検出された。ファージミドpGCKT8-3における突然変異体12Aの、及びγ−II−クリスタリン野生型のDNA配列決定は、Fig. 7に記載されている。そのDNA配列は、出発ファージミドpCANTAB 5E中に既に存在していたものであるSfi I切断部位に始まり、そして、pGCKT8-3の場合には、γ−II−クリスタリン遺伝子に新しく導入された、そしてγ−II−クリスタリン野生型遺伝子の場合には元の配列中に存在していた、Bst EII部位に終わる。Fig. 8は、それらから求められたアミノ酸配列を示す。アミノ酸位置36におけるコドンのランダム化は、当該部位のアミノ酸であるアルギニンを変更しない。突然変異体12Aのコンピュータモデリングは、これらのアミノ酸変更は、出発タンパク質と比べたとき、タンパク質構造に大きな変化を引き起こさないことを示している。しかしながら、正味の電荷はより陽性となる。
【0070】
pET-20b中における突然変異体12Aの発現
突然変異体12Aを詳細に特徴決定するため、DNAをプラスミドpET-20b(Novagen)に再クローニングした。このプラスミドは、E. coli株BL 21中における組換えDNAの高発現と、外来タンパク質の簡単な精製とを可能にする。これにおいては、遺伝子はシグナルペプチドなしでそしてC末端に6個のヒスチジン残基が融合した形で発現される。突然変異体12Aとγ−II−クリスタリン野生型のDNAをPCRで、適当なファージミドDNAとプライマー対、即ち突然変異体12AについてはGC 20bback12A/GC for 20b、野生型についてはGC 20bbackWT/GC for 20bを用いて、増幅した(Fig. 9)。PCRフラグメントを制限酵素Nde I及びBam HIで切断し、Nde I/Bam HIで切断したベクターpET 20bにクローニングした。Fig. 10は、pET-20b中で発現させた後の、突然変異体12A及びγ-II−クリスタリンそれぞれについての、理論的アミノ酸配列を示している。突然変異体12AのN末端の最初の10個のアミノ酸は、N末端タンパク質配列決定により確認された。
【0071】
pET-20b中での突然変異体及び野生型の培養及び精製
突然変異体の結合特性と安定性とを詳細に検討するため、突然変異体12Aタンパク質及び野生型タンパク質を大量に製造した。BL 21細胞を、プラスミドpET-20b/Mu 12Aで及びpET-20b/γ-II−クリスタリンで、それぞれ形質転換した。LB培地/100μgアンピシリンで、予備培養物を1:100に希釈し、培養物を200rpmで揺すりながら、37℃で、OD600が0.5となるまで、クローンを培養した。γ−クリスタリンの発現を、IPTG(最終濃度1mM)の添加によって誘導した。終夜30℃及び200rpmで培養を続けた。4℃、6000rpm(Sorvall GS3ローター)10分間の遠心により細菌細胞を収穫した。細胞ペレットを、150μlの200mM PMSF及び10μlのDNAse(Boehringer)を添加した30mlの2×PBSに懸濁させた。細胞をGaulinプレスを用いて800-1000 PSIGで2回破壊した。細胞懸濁液を4℃で20000rpm(Sorvall SS 34ローター)で1時間遠心し、可溶性タンパク質を含有する上清を得た。6個のヒスチジン残基に融合したγ−クリスタリンを、4℃にてアフィニティクロマトグラフィーにより精製した。8mlのNi-NTAを50mlの2×PBS/10mMイミダゾールで平衡化した。次いで、可溶性タンパク質を含有する上清を、平衡化したカラム材料と共に、バッチプロセスでローラーシェイカー上でゆっくりと終夜撹拌した。クロマトグラフィーカラムへの懸濁物の導入の後、2×PBS/10mMイミダゾール/300mM NaClで洗浄した。結合しているタンパク質を、2×PBS/250mMイミダゾールで溶出した。溶出タンパク質にDDT(最終濃度10mM)を添加した。次いで、4℃にて各8時間の透析ステップを2回、最初は100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0/1mM EDTA/1mM DTT)で、そして2回目は10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0/1mM EDTA)で行った。最終の遠心(Sorvall SS 34ローター中、4℃、30℃、20000rpm)で得られた上清は、精製タンパク質(Mu 12A又はγ−II−クリスタリン)を含有しており、それらを結合性研究及び安定性研究に用いた。
【0072】
突然変異体12AのBSA−エストラジオール−17−ヘミサクシネート接合体への特異的結合を、精製突然変異体12A-His-タグタンパク質の濃度を上昇させつつ、ELISAにより行なった。γ−II−クリスタリン野生型(同様にHig-タグ)の量の増大を、対照として用い、両精製タンパク質のBSAへの結合をアッセイした。この濃度依存性のELISAは、NUNC-Tmプレートを用いて行った。抗原であるBSA−エストラジオール−17−ヘミサクシネート接合体又はBSAによる被覆を、室温にて終夜行なった。被覆には、それぞれ、20μg/mlPBS(pH7.6)の濃度の抗原100μlを用いた。プレートを洗浄(2×PBS、pH7.6)しそしてブロック(3%Marvel/PBS、37℃にて2時間)した後、精製したMu 12又はγ−II−クリスタリンのタンパク質原液(濃度0.63mg/ml)1〜13μlを、全100μlとなるようにした反応液(PBS、3%Marvel、xμlのタンパク質)に加え、ウェル中で37℃にて2時間インキュベートした。使用した二次抗体は、1:3000に希釈したQiagenのテトラHis抗体及び1:2000に希釈した抗マウスPOD抗体(Sigma)である。これらの抗体は、3%濃度のMarvel/PBS溶液で希釈し、それぞれ100μlをウェルに加え、そして37℃にて1時間インキュベートした。基質の反応は、ポリクローナルファージELISAについて記載したのと同様にして行なった。Fig.11中のこのELISAの結果は、突然変異体12Aの濃度の増加と共にのみ吸光度の増加が測定されることを、明瞭に示している。γ−II−クリスタリンを用いては何らの増加も検出されなかった。同様に、BSAとの反応は全く観察されなかった。これらのことは、出発タンパク質との対比で、突然変異体12Aの特異的結合を示している。
【0073】
突然変異体12A及びγ−II−クリスタリンの安定性は、グアニジン変性によって検討した。この目的のためには、精製タンパク質を最終濃度20μg/mlの濃度で、グアニジニウムの濃度を増大させながら、20℃にて1日及び3日間インキュベートした。全部で15通りのグアニジニウム濃度は、1mM DTT/0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)中、範囲0〜5.5Mに調整した。1日及び3日の後、それぞれ、各混合物の300〜400nmの蛍光発光スペクトルを記録した。励起波長は280nmとした。Fig. 12は、グアニジニウム濃度の関数として測定した発光ピーク波長を示している。γ−II−クリスタリンの安定性は、1日後及び3日後の何れも、突然変異体12Aより高い。しかしながら、突然変異12Aの安定性は、抗体分子に比べると遥かに高い。
【0074】
突然変異体12Aの蛍光特性の変化
野生型タンパク質に対して突然変異体12Aの蛍光特性が変化したかを調べるために、蛍光スペクトルを記録した。この目的のために、100μg/mlの野生型タンパク質又は突然変異体12A(50mMリン酸ナトリウム、pH6.0中)を、光路長1cmのキュベット中で、280nmで励起し、蛍光を300〜400nmの範囲で測定した。励起及び発光ともに、スリット幅は5nmであった。
【0075】
野生型についてもまた突然変異体12Aについても共に、検出された蛍光シグナルは329nmにピークを有していた。しかしながら、突然変異12Aの蛍光強度は、シグナル強度が86%しかなく、γ−クリスタリン野生型(100%)に比べて明らかに低かった(Fig. 13Aを参照)。
突然変異12A及び野生型は、蛍光団(fluorophores)の総数については同一であった。しかしながら、突然変異体に生じている配列の変化(第8位におけるY→K、及び第15位におけるC→Y )は、蛍光シグナルに、ある変化を生じさせている。蛍光強度における差は、第8位及び第15位にそれぞれ位置するチロシン残基が異なった蛍光特性を有するという事実に起因する可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の方法によれば,何らの結合特性も有しないβシートタンパク質から、特異的結合性を有するタンパク質を製造することが可能である。そして、適当なスクリーニング方法を用いることによって、所望の特異性を有する突然変異体がこのライブラリーから単離される。出発タンパク質の性質に依存して、記載の系を用いて産生されたβシート変異体は、サイズ、安定性、及び異種、好ましくは細菌の系で機能的に活性な産物が得られるという点で、例えば抗体及び組換え抗体フラグメントに比して、有利である。この新規βシート変異体のこれら改善された特性は、例えば抗体、組換え抗体フラグメント又は触媒性抗体に取って代わることが可能であり、全く新たな利用分野を拓くことができる。
【0077】
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【0113】
You, L. and Arnold, F.H. (1996): Directed evolution of subtilisin E in Bacillus subtilis to enhance total activity in aqueous dimethylformamide. Protein Eng. 1, 77-83.
【0114】
Zhang, J.H., Dawas, G. and Stemmer, W-P. (1997): Directed evolution of a fucosidase from a galactosidase by DNA shuffling and screening. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94, 4504-4509.
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】Fig. 1 γ−クリスタリン突然変異体をアセンブルするためのオリゴヌクレオチド。
【図2】Fig. 3 オリゴヌクレオチドによるアセンブリングとそれに続くストレプトアビジン付加磁性ビーズ(MB)上でのPCRの概念図。Xで印をつけた位置は、ランダム化したアミノ酸位置を示す。
【図3】Fig. 2 γ−II−クリスタリンの非突然変異誘発領域の増幅の概念図。
【図4】Fig. 4 γ−II−クリスタリンの非突然変異誘発領域を増幅するためのオリゴヌクレオチド。
【図5】Fig. 5 pCANTAB 5E-γ−II−クリスタリン発現カセットの概念図。g3-SS:ファージタンパク質のG3のグナルペプチド配列; E-tag:免疫検出のための11個のアミノ酸; fd Gen 3:繊維状ファージM13のマイナーコート(minor coat)タンパク質3。
【図6】Fig. 6 第3回のパンニング法の後に濃縮されたファージを用いたポリクローナルファージELISA。マイクロタイタープレートは、BSA-β-エストラジオール−17−ヘミサクシネート接合体又は対照として単にBSAでコーティングした。並べて示されているのは、γ−II−クリスタリン野生型ファージ(GC-WT)の、出発ライブラリーからのファージ(GCUC-1)の、及びパンニング法の反復によって濃縮したファージ(E-17ファージ)の、特定の抗原への結合を示す。
【図7】Fig. 7 ファージミドpGCKT 8-3中のBSA-エストラジオール-17-ヘミサクシネート結合γ−II−クリスタリン突然変異体12A(Mu 12A)の、及び、pCANTAB 5E中のγ−II−クリスタリン野生型(WT)の、それぞれ部分DNA配列。導入された切断部位Sfi I(5')及びBst EII(3')は、イタリック体及び下線で示されている。ランダム化したアミノ酸の位置は太字で示されている。
【図8】Fig. 8 ファージミド中での発現とシグナルペプチドの除去後の、BSA-エストラジオール-17-ヘミサクシネート結合γ−II−クリスタリン突然変異体12A(Mu 12A)及びγ−II−クリスタリン野生型(WT)の、求められたアミノ酸配列。ランダム化したアミノ酸の位置は太字で、そして実際に置換されたアミノ酸は太字及び下線で示されている。Sfi I 切断部位を介してN末端に、及びC末端E-tag融合により付加的に導入されたアミノ酸は、イタリック体及び下線で示されている。
【図9】Fig. 9 Mu 12A及びγ−II−クリスタリンのベクターpET-20b中へのクローニングに用いたプライマーの配列。
【図10】Fig. 10 pET-20b中での発現後のBSA-エストラジオール-17-結合突然変異体12A及びγ−II−クリスタリンの、求められたタンパク質配列。ランダム化したアミノ酸位置は太字で、そして実際に置換されたアミノ酸は太字及び下線で示されている。6個のヒスチジンを含むクローニングで付加されたC末端アミノ酸は太字及び下線で示されている。
【図11】Fig. 11 BSA-エストラジオール-17-ヘミサクシネート接合体への、突然変異体12Aの濃度依存性の結合。突然変異体(12A)及びγ−II−クリスタリン(WT)の、接合体(BSA-エストラジオール−17)及び対照としてのBSAへの結合が解析された。
【図12】Fig. 12 変性剤グアニジンに対する突然変異体12Aの安定性。数値は、精製した突然変異体12A及びγ−II−クリスタリンタンパク質を種々の濃度のグアニジンと種々の時間にわたってインキュベートした後の発光のピーク波長を示す。
【図13】Fig. 13 50mMリン酸ナトリウム(pH6.5)中における、野生型のγ−クリスタリン及び突然変異体12Aの蛍光発光スペクトル。蛍光シグナル(Fig. 13A)は、励起波長280nmで測定された。タンパク質濃度は100μg/mlであった。
【図14】Fig. 13Bは、蛍光測定に用いたタンパク質サンプルの吸収スペクトルを示す。吸収は、光路長1cmのキュベット中において測定した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合相手に対する新規の結合特性を有する突然変異誘発されたγ−クリスタリンであって,γ−クリスタリンの表面上に露出したアミノ酸が突然変異誘発されたものであり,そして更に;
突然変異誘発された該アミノ酸が,γ−クリスタリンの少なくとも1つのβシート中の2本,3本又は4本のβ鎖中に位置しており;
該βシート,該β鎖及び該アミノ酸が,γ−クリスタリンの表面に位置しており;そして,
突然変異誘発が,該突然変異誘発されたγ−クリスタリンが結合相手に対する新規の結合特性を有するよう,挿入,削除,置換及びそれらの組み合わせよりなる群より選ばれるものであり;但し,
挿入,削除,置換又はそれらの組み合わせを受けていないγ−クリスタリンは,アミノ酸が突然変異誘発されるβシート構造の表面において結合特性を有しておらず,そしてβシート構造の表面において挿入,削除,置換,又はそれらの組み合わせを受けた後は結合相手に対する新規の結合特性を有するものである,
突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項2】
γ−クリスタリンの少なくとも2つのβシートの少なくとも2本のβ鎖中に位置しているアミノ酸が突然変異誘発されたものである,請求項1の突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項3】
γ−クリスタリンの2つの逆平行βシート中の3本のβ鎖に位置しているアミノ酸が突然変異誘発されたものである,請求項1又は2の突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項4】
γ−クリスタリンが脊椎動物のγ−クリスタリンである,請求項1ないし3の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項5】
γ−クリスタリンがγ−II−クリスタリンである,請求項1ないし4の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項6】
γ−クリスタリン内に位置するアミノ酸が,溶媒にとってアクセス可能なβシートの領域において,突然変異誘発されたものである,請求項1ないし5の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項7】
γ−クリスタリンのドメインのβシート構造及びγ−クリスタリンのサブユニットのβシート構造よりなる群より選ばれるγ−クリスタリンの領域においてアミノ酸が突然変異誘発されたものである,請求項1ないし6の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項8】
配列番号22の牛γ−II−クリスタリンのアミノ酸Lys 3、Thr 5、Tyr 7、Cys 16、Glu 18、Ser 20、Arg 37、及びAsp 39のうち少なくとも1つのアミノ酸において、突然変異誘発されたものである,請求項5の突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項9】
該新規な結合特性が,エストラジオール及びBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネートよりなる群より選ばれる化合物に対するものである,請求項1ないし8の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項10】
他のタンパク質又は非タンパク質と組み合わさったものであることを特徴とする,請求項1ないし9の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項11】
該脊椎動物が,牛,げっ歯類,鳥類及び魚類よりなる群より選ばれるものである,請求項1ないし10の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項12】
γ−クリスタリンのアミノ酸が,結合相手にとってアクセス可能なβシートの領域において突然変異誘発されたものである,請求項1ないし11の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項13】
該アミノ酸が,γ−クリスタリンのサブユニットのβシート構造において突然変異誘発されたものである,請求項1ないし12の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項14】
βシート構造を有し且つ結合相手に対する新規の結合特性を有する,突然変異誘発されたγ−クリスタリンであって,γ−クリスタリンの表面に露出したアミノ酸が突然変異誘発されたものであり,そして更に;
突然変異誘発された該アミノ酸が,βシート構造を有するγ−クリスタリンの少なくとも1つのβシート中の2本,3本又は4本のβ鎖中に位置しており;
該βシート,該β鎖及び該アミノ酸が,γ−クリスタリンの表面に位置しており;
突然変異誘発が,該突然変異誘発されたγ−クリスタリンが結合相手に対する新規の結合特性を有するよう,挿入,削除,置換及びそれらの組み合わせよりなる群より選ばれるものであり;但し,
挿入,削除,置換又はそれらの組み合わせを受けていないγ−クリスタリンは,アミノ酸が突然変異誘発されるβシート構造の表面において結合特性を有さず,そしてβシート構造の表面において挿入,削除,置換,又はそれらの組み合わせを受けた後は,該突然変異誘発されたγ−クリスタリンが,結合相手に対する新規の結合特性を有するものであり,そして
次の方法すなわち;
(a)γ−クリスタリンを選択するステップと;
(b)γ−クリスタリンの結合相手を選択するステップと;
(c)γ−クリスタリンの表面に露出したアミノ酸分子をコードするDNAに突然変異誘発を行うステップであって:
(i) 突然変異誘発されるアミノ酸が,γ−クリスタリンの少なくとも1つのβシート中の2本,3本又は4本のβ鎖中に位置しており;
(ii) 該βシート,該β鎖及び該アミノ酸が,γ−クリスタリンの表面に位置しており;そして,
(iii) 突然変異誘発が,挿入,削除,置換及びそれらの組み合わせよりなる群より選ばれるものである;
ステップと;
(d)突然変異誘発されたγ−クリスタリンを製造するために,ステップ(c)の突然変異誘発されたDNA分子を発現させるステップと;
(e)該突然変異誘発されたγ−クリスタリンをステップ(b)の該結合相手と接触させるステップと;そして
(f)ステップ(b)の該結合相手に対する新規の結合特性を有する突然変異誘発されたγ−クリスタリンを選択し単離するステップと;
を含む方法により製造されたものである,
突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項1】
結合相手に対する新規の結合特性を有する突然変異誘発されたγ−クリスタリンであって,γ−クリスタリンの表面上に露出したアミノ酸が突然変異誘発されたものであり,そして更に;
突然変異誘発された該アミノ酸が,γ−クリスタリンの少なくとも1つのβシート中の2本,3本又は4本のβ鎖中に位置しており;
該βシート,該β鎖及び該アミノ酸が,γ−クリスタリンの表面に位置しており;そして,
突然変異誘発が,該突然変異誘発されたγ−クリスタリンが結合相手に対する新規の結合特性を有するよう,挿入,削除,置換及びそれらの組み合わせよりなる群より選ばれるものであり;但し,
挿入,削除,置換又はそれらの組み合わせを受けていないγ−クリスタリンは,アミノ酸が突然変異誘発されるβシート構造の表面において結合特性を有しておらず,そしてβシート構造の表面において挿入,削除,置換,又はそれらの組み合わせを受けた後は結合相手に対する新規の結合特性を有するものである,
突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項2】
γ−クリスタリンの少なくとも2つのβシートの少なくとも2本のβ鎖中に位置しているアミノ酸が突然変異誘発されたものである,請求項1の突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項3】
γ−クリスタリンの2つの逆平行βシート中の3本のβ鎖に位置しているアミノ酸が突然変異誘発されたものである,請求項1又は2の突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項4】
γ−クリスタリンが脊椎動物のγ−クリスタリンである,請求項1ないし3の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項5】
γ−クリスタリンがγ−II−クリスタリンである,請求項1ないし4の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項6】
γ−クリスタリン内に位置するアミノ酸が,溶媒にとってアクセス可能なβシートの領域において,突然変異誘発されたものである,請求項1ないし5の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項7】
γ−クリスタリンのドメインのβシート構造及びγ−クリスタリンのサブユニットのβシート構造よりなる群より選ばれるγ−クリスタリンの領域においてアミノ酸が突然変異誘発されたものである,請求項1ないし6の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項8】
配列番号22の牛γ−II−クリスタリンのアミノ酸Lys 3、Thr 5、Tyr 7、Cys 16、Glu 18、Ser 20、Arg 37、及びAsp 39のうち少なくとも1つのアミノ酸において、突然変異誘発されたものである,請求項5の突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項9】
該新規な結合特性が,エストラジオール及びBSA−β−エストラジオール−17−ヘミサクシネートよりなる群より選ばれる化合物に対するものである,請求項1ないし8の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項10】
他のタンパク質又は非タンパク質と組み合わさったものであることを特徴とする,請求項1ないし9の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項11】
該脊椎動物が,牛,げっ歯類,鳥類及び魚類よりなる群より選ばれるものである,請求項1ないし10の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項12】
γ−クリスタリンのアミノ酸が,結合相手にとってアクセス可能なβシートの領域において突然変異誘発されたものである,請求項1ないし11の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項13】
該アミノ酸が,γ−クリスタリンのサブユニットのβシート構造において突然変異誘発されたものである,請求項1ないし12の何れかの突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【請求項14】
βシート構造を有し且つ結合相手に対する新規の結合特性を有する,突然変異誘発されたγ−クリスタリンであって,γ−クリスタリンの表面に露出したアミノ酸が突然変異誘発されたものであり,そして更に;
突然変異誘発された該アミノ酸が,βシート構造を有するγ−クリスタリンの少なくとも1つのβシート中の2本,3本又は4本のβ鎖中に位置しており;
該βシート,該β鎖及び該アミノ酸が,γ−クリスタリンの表面に位置しており;
突然変異誘発が,該突然変異誘発されたγ−クリスタリンが結合相手に対する新規の結合特性を有するよう,挿入,削除,置換及びそれらの組み合わせよりなる群より選ばれるものであり;但し,
挿入,削除,置換又はそれらの組み合わせを受けていないγ−クリスタリンは,アミノ酸が突然変異誘発されるβシート構造の表面において結合特性を有さず,そしてβシート構造の表面において挿入,削除,置換,又はそれらの組み合わせを受けた後は,該突然変異誘発されたγ−クリスタリンが,結合相手に対する新規の結合特性を有するものであり,そして
次の方法すなわち;
(a)γ−クリスタリンを選択するステップと;
(b)γ−クリスタリンの結合相手を選択するステップと;
(c)γ−クリスタリンの表面に露出したアミノ酸分子をコードするDNAに突然変異誘発を行うステップであって:
(i) 突然変異誘発されるアミノ酸が,γ−クリスタリンの少なくとも1つのβシート中の2本,3本又は4本のβ鎖中に位置しており;
(ii) 該βシート,該β鎖及び該アミノ酸が,γ−クリスタリンの表面に位置しており;そして,
(iii) 突然変異誘発が,挿入,削除,置換及びそれらの組み合わせよりなる群より選ばれるものである;
ステップと;
(d)突然変異誘発されたγ−クリスタリンを製造するために,ステップ(c)の突然変異誘発されたDNA分子を発現させるステップと;
(e)該突然変異誘発されたγ−クリスタリンをステップ(b)の該結合相手と接触させるステップと;そして
(f)ステップ(b)の該結合相手に対する新規の結合特性を有する突然変異誘発されたγ−クリスタリンを選択し単離するステップと;
を含む方法により製造されたものである,
突然変異誘発されたγ−クリスタリン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−19276(P2008−19276A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262796(P2007−262796)
【出願日】平成19年10月7日(2007.10.7)
【分割の表示】特願2001−509753(P2001−509753)の分割
【原出願日】平成12年7月13日(2000.7.13)
【出願人】(501139870)シル プロテインズ ゲーエムベーハー (7)
【氏名又は名称原語表記】Scil Proteins GmbH
【住所又は居所原語表記】Heinrich−Damerow−Str. 01, D−06120, Halle, Germany
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月7日(2007.10.7)
【分割の表示】特願2001−509753(P2001−509753)の分割
【原出願日】平成12年7月13日(2000.7.13)
【出願人】(501139870)シル プロテインズ ゲーエムベーハー (7)
【氏名又は名称原語表記】Scil Proteins GmbH
【住所又は居所原語表記】Heinrich−Damerow−Str. 01, D−06120, Halle, Germany
【Fターム(参考)】
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